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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086473
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230615BHJP
   H02H 3/16 20060101ALI20230615BHJP
   H02H 7/122 20060101ALI20230615BHJP
   H02J 1/00 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02H3/16 A
H02H7/122
H02J1/00 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201007
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】白川 隆史
【テーマコード(参考)】
5G004
5G053
5G165
5H770
【Fターム(参考)】
5G004AA04
5G004AB02
5G004BA01
5G004DA01
5G004DA02
5G004DC06
5G004DC14
5G053AA06
5G053BA01
5G053DA03
5G053EB01
5G053FA01
5G165BB08
5G165EA02
5G165GA09
5G165LA02
5G165MA02
5G165NA02
5G165NA10
5G165PA02
5H770BA11
5H770CA04
5H770CA05
5H770CA06
5H770DA01
5H770DA10
5H770GA19
5H770HA02Z
5H770JA17W
5H770JA17Z
5H770JA18W
5H770KA01Z
5H770LA06W
5H770LA07W
5H770LA10W
5H770LB05
(57)【要約】
【課題】地絡検出機能の故障診断を合理的かつ網羅的に行う。
【解決手段】電力変換部(11)は直流電圧を出力可能である。直流スイッチ(S1)は、分散型の直流電源(41)と電力変換部(11)との間の配線に挿入される。地絡検出回路(13)は、直流スイッチ(S1)と電力変換部(11)との間の正相配線と逆相配線間に接続され、中点が接地されている分圧抵抗(Rp、Rn)を含む。模擬地絡回路(14)は、直流スイッチ(S1)と電力変換部(11)との間の正相配線または逆相配線を接地させることができる。主制御部(12a)は、直流スイッチ(S1)のオン/オフ、電力変換部(11)からの直流電圧出力、および正相配線または逆相配線の模擬地絡を制御する。機能診断部(12b)は、分圧抵抗(Rp、Rn)の中点と接地間に流れる電流の計測値をもとに、本電力変換装置1の運転前に地絡検出機能を診断する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を出力可能な電力変換部と、
分散型の直流電源と前記電力変換部との間の配線に挿入される直流スイッチと、
前記直流スイッチと前記電力変換部との間の正相配線と逆相配線間に接続され、中点が接地されている分圧抵抗を含む地絡検出回路と、
前記直流スイッチと前記電力変換部との間の前記正相配線または前記逆相配線を接地させるための模擬地絡回路と、
前記直流スイッチのオン/オフ、前記電力変換部からの直流電圧出力、および前記正相配線または前記逆相配線の模擬地絡を制御する主制御部と、
前記分圧抵抗の中点と接地間に流れる電流の計測値をもとに、本電力変換装置の運転前に地絡検出機能を診断する機能診断部と、を備える、
電力変換装置。
【請求項2】
前記直流スイッチと前記電力変換部との間の配線において、前記模擬地絡回路が前記地絡検出回路より前記直流スイッチ側に接続される、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記直流スイッチが前記主制御部によりオフされた状態で、前記機能診断部は、前記電力変換装置の運転前に前記地絡検出機能を診断する、
請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記主制御部は、前記電力変換部から直流電圧を出力させず、かつ前記模擬地絡回路を模擬地絡させず、
前記機能診断部は、前記電流の計測値が地絡検出の条件を満たす場合、異常ありと診断する、
請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記主制御部は、前記電力変換部から直流電圧を出力させ、かつ前記模擬地絡回路を模擬地絡させず、
前記機能診断部は、前記電流の計測値が地絡検出の条件を満たす場合、異常ありと診断する、
請求項3または4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記主制御部は、前記電力変換部から直流電圧を出力させ、かつ前記模擬地絡回路で前記正相配線または前記逆相配線を模擬地絡させ、
前記機能診断部は、前記電流の計測値の極性が、期待される極性と逆の場合、異常ありと診断する、
請求項3から5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記主制御部は、前記電力変換部から直流電圧を出力させ、かつ前記模擬地絡回路で前記正相配線または前記逆相配線を模擬地絡させ、
前記機能診断部は、前記電流の計測値が地絡未検出の条件を満たす場合、異常ありと診断する、
請求項3から6のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記主制御部は、前記電力変換部から直流電圧を出力させ、かつ前記模擬地絡回路で前記正相配線または前記逆相配線を模擬地絡させ、
前記機能診断部は、前記電流の計測値が地絡過検出の条件を満たす場合、異常ありと診断する、
請求項3から7のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記主制御部は、前記電力変換部から多段階の直流電圧を順番に出力させ、かつ前記模擬地絡回路で前記正相配線または前記逆相配線を模擬地絡させ、
前記機能診断部は、各直流電圧が印加された状態の前記電流の計測値が、設定された閾値範囲を外れている場合、異常ありと診断する、
請求項3から8のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記主制御部は、前記電力変換部から、低い直流電圧から順に出力させる、
請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記電力変換装置が自立運転モードにおいて、前記電力変換部が安定電源に接続されていない場合、
前記直流電圧を出力する診断項目を省略する、
請求項1から10のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地絡検出機能を備えた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池(PV)、燃料電池(FC)、定置蓄電池(SB)、車載蓄電池(EV)などの直流電源と、電力変換装置(パワーコンディショナ)を用いた分散電源システムが普及してきている。電力変換装置は、これらの直流電源から供給される直流電力を、200V/100Vの交流電力に変換し、宅内負荷や系統へ供給する。また、電力変換装置は、系統から供給される200V/100Vの交流電力を直流電力に変換し、定置蓄電池(SB)、車載蓄電池(EV)などの電力を貯蔵可能な直流電源に供給することもできる。
【0003】
このような分散電源システムでは、系統接続ルールを遵守し、使用者の電気安全保護の措置を講じることが必要である。中でも使用者の感電保護の観点から、直流電源と電力変換装置が分離設置されることにより生じる直流電路で発生する直流地絡(以下、本明細書では単に地絡という)の検出・保護に関する規定が、電力変換装置に係る国内外の法規でなされている。直流電源と電力変換装置間の直流電路の例として、接触防護措置が取られた配線、ケーブル施設などが挙げられる。
【0004】
上記の法規を遵守するため、運転中の地絡発生を検出して、直流電路へのエネルギ供給を解放停止する地絡検出機能がほぼすべての分散型電源システムに搭載されている。さらに運転前に、直流電路の対地に対する絶縁状態を診断する絶縁診断を行っているものもある。
【0005】
しかしながら、地絡検出機能は地絡検出機能自体が正しく動作している、つまり故障していない前提で成り立っている。地絡検出機能自体が故障している場合、地絡検出機能で感電などの事故を未然に防止できない可能性がある。
【0006】
特許文献1は、零相電流計測方式を用いた直流地絡検出と、その検出回路自体の異常(断線など)を検出する方法を開示している。特許文献1では、零相交流器に、地絡とは異なる弱電流を断線検知信号として印加し、その計測値から検出回路の健全性を検証している。なお、特許文献1に開示された診断方法は、運転中の常時監視に関するものであり、運転前に検出回路の診断を行うものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-131063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
直流電源の中には電力量の入出力制御が困難なものがある。また、直流電源の短絡容量が大きい場合、地絡時に直流電源から大電流が流れる恐れがある。運転中(直流電源を直流電路に接続後)に地絡検出とその機能診断を実施するより、直流電源の直流電路への接続前に機能診断を実施したほうが安全性の観点から望ましい。
【0009】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、地絡検出機能の故障診断を合理的かつ網羅的に行うことができる電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の電力変換装置は、直流電圧を出力可能な電力変換部と、分散型の直流電源と前記電力変換部との間の配線に挿入される直流スイッチと、前記直流スイッチと前記電力変換部との間の正相配線と逆相配線間に接続され、中点が接地されている分圧抵抗を含む地絡検出回路と、前記直流スイッチと前記電力変換部との間の前記正相配線または前記逆相配線を接地させるための模擬地絡回路と、前記直流スイッチのオン/オフ、前記電力変換部からの直流電圧出力、および前記正相配線または前記逆相配線の模擬地絡を制御する主制御部と、前記分圧抵抗の中点と接地間に流れる電流の計測値をもとに、本電力変換装置の運転前に地絡検出機能を診断する機能診断部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、電力変換装置に搭載された地絡検出機能の故障診断を合理的かつ網羅的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る電力変換装置を説明するための図である。
図2】実施の形態の変形例に係る電力変換装置を説明するための図である。
図3図3(a)-(b)は、地絡発生時の電流ループを模式的に示す図である。
図4】地絡電流の閾値の設定方法を示す図である。
図5図5(a)-(d)は、地絡検出回路が模擬地絡回路より直流リレー側に接続された場合の電流ループを模式的に示す図である。
図6図6(a)-(b)は、模擬地絡回路が地絡検出回路より直流リレー側に接続された場合の電流ループを模式的に示す図である。
図7】実施の形態に係る電力変換装置の地絡検出機能の診断処理の流れを示すフローチャートである(その1)。
図8】実施の形態に係る電力変換装置の地絡検出機能の診断処理の流れを示すフローチャートである(その2)。
図9図9(a)-(b)は、地絡検出用の閾値1と、地絡過検出用の閾値2の設定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、実施の形態に係る電力変換装置1を説明するための図である。実施の形態に係る電力変換装置1は、電動車4と、宅内の商用電力系統(以下、単に系統という)2の受電点または負荷3とを連携するためのV2H機器である。電力変換装置1と電動車4は、直流の充電ケーブル5で接続される。充電ケーブル5の先端にはガンコネクタが取り付けられており、ユーザがガンコネクタを電動車4のインレットに差し込むことにより、電力変換装置1と電動車4が接続される。
【0014】
電動車4は、蓄電池41とコンタクタリレーS2を含む。蓄電池41には、複数のセルが直列接続された電池パック、または複数のセルが並列接続されて構成される並列セルブロックが複数、直列接続された電池パックを使用することができる。セルには、リチウムイオン電池セル、ニッケル水素電池セルなどを用いることができる。コンタクタリレーS2は、電力変換装置1との連携時にオン状態に制御される。CHAdeMOでは、電動車4と電力変換装置1とのハンドシェイクにより、絶縁診断が正常と判定された後、コンタクタリレーS2がターンオンされる。
【0015】
電力変換装置1は、電力変換部11、制御部12、地絡検出回路13、模擬地絡回路14および直流リレーS1を含む。電力変換部11は、DC/DCコンバータとインバータの組み合わせ、またはインバータ単体で構成される。電力変換部11は、系統2から供給される交流電圧を直流電圧に変換して、充電ケーブル5を介して、電動車4に搭載された蓄電池41に供給することができる。また、電力変換部11は、電動車4に搭載された蓄電池41から供給される直流電圧を交流電圧に変換して、系統2または負荷3に供給することもできる。
【0016】
直流リレーS1は電力変換装置1において、蓄電池41と電力変換部11との間の正相配線と逆相配線にそれぞれ挿入される。なお、リレーの代わりに、半導体スイッチなどの他の種類のスイッチを使用してもよい。以下に登場するリレーについても同様である。
【0017】
地絡検出回路13は、直流リレーS1と電力変換部11との間の正相配線と逆相配線間に分圧抵抗を含む。分圧抵抗はP相分圧抵抗RpとN相分圧抵抗Rnで構成され、P相分圧抵抗RpとN相分圧抵抗Rnの中点が接地される。地絡検出回路13はさらに電流センサ13aを含む。電流センサ13aは、P相分圧抵抗RpとN相分圧抵抗Rnの中点と接地間に流れる電流を計測する。電流センサ13aは例えば、シャント抵抗と差動アンプで構成することができる。
【0018】
模擬地絡回路14は、直流リレーS1と電力変換部11との間の正相配線または逆相配線を接地させるための回路であり、P相地絡リレーSgp、P相模擬地絡抵抗Rgp、N相地絡リレーSgn、N相模擬地絡抵抗Rgnを含む。正相配線と接地の間に、P相地絡リレーSgpとP相模擬地絡抵抗Rgpが直列に接続され、逆相配線と接地の間に、N相地絡リレーSgnとN相模擬地絡抵抗Rgnが直列に接続される。
【0019】
制御部12は、電力変換装置1全体を統括的に制御する。本実施の形態では、制御部12は、主制御部12aおよび機能診断部12bを含む。制御部12の機能は、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働、またはハードウェア資源のみにより実現できる。ハードウェア資源としてアナログ素子、マイクロコントローラ、DSP、ROM、RAM、ASIC、FPGA、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源として、ファームウェアなどのプログラムを利用できる。
【0020】
主制御部12aは、直流リレーS1のオン/オフ、電力変換部11からの直流電圧出力、正相配線または逆相配線の模擬地絡を制御する。主制御部12aは、正相配線を模擬地絡させる場合はP相地絡リレーSgpをオン状態に制御し、逆相配線を模擬地絡させる場合はN相地絡リレーSgnをオン状態に制御する。機能診断部12bは、電流センサ13aで計測された電流値をもとに、電力変換装置1の運転前に地絡検出機能を診断する。
【0021】
図2は、実施の形態の変形例に係る電力変換装置1を説明するための図である。変形例に係る電力変換装置1は、図1に示した電力変換装置1と模擬地絡回路14の構成が異なる。変形例に係る模擬地絡回路14は、C接点リレーSc、地絡リレーSg、模擬地絡抵抗Rgを含む。主制御部12aは、地絡リレーSgがオン状態で、C接点リレーScを制御することにより、正相配線または逆相配線を選択的に模擬地絡させることができる。
【0022】
地絡検出方法には様々な方法があるが、本実施の形態では、抵抗分圧中点接地方式を使用する。抵抗分圧中点接地方式は、正相配線または逆相配線の地絡時に接地(地面)を介した電流ループにおける地絡電流を計測し、閾値以上であれば地絡発生と判断する方法である。
【0023】
図3(a)-(b)は、地絡発生時の電流ループを模式的に示す図である。図3(a)は逆相配線の地絡時の電流ループを示し、図3(b)は正相配線の地絡時の電流ループを示す。この電流ループは、直流電路のケーブル破損部分や電路回路部品の絶縁破壊で、筐体から直接もしくは人などの導電体を介して接地することで形成される電流経路を示している。回路方程式を解くことで地絡物に流れる地絡電流Iを導出できる。地絡電流Iは、主回路の電圧V、分圧抵抗R0、地絡物の絶縁抵抗R1との関係で求まる。下記(式1)は逆相配線の地絡時の地絡電流Iの導出式であり、下記(式2)は正相配線の地絡時の地絡電流Iの導出式である。
【0024】
I=V/(2R1+R0) ・・・(式1)
I=-V/(2R1+R0) ・・・(式2)
【0025】
地絡電流Iの閾値を設定することは、地絡検出用の絶縁抵抗の閾値を設定しているのと等価である。各国の法規では、人体導通の危険電流または絶縁抵抗から地絡電流の制限値を規定している。特に、電力変換装置1と直流電源(本実施の形態では、電動車4に搭載された蓄電池41)が別筐体で、それぞれ別の場所に設置される場合において、両者を結ぶ電路の地絡による接触感電事故を防止することを想定して、制限値が要件化されている。両者を結ぶ電路の地絡として、配線または筐体の絶縁性能劣化、外力破壊などが挙げられる。
【0026】
つまり、感電危険性のある絶縁抵抗値が規定されれば、地絡と判定すべき地絡電流Iの閾値が決まる。各国の規定では、電圧で正規化された絶縁抵抗値(Ω/V)が用いられ、例えば100Ω/Vなどに規定されている。
【0027】
図4は、地絡電流Iの閾値の設定方法を示す図である。地絡検出用の閾値として、電圧で正規化された絶縁抵抗値(Ω/V)が使用される場合、正相と逆相間の電圧が大きいほど、地絡検出用の閾値を大きな値に設定する必要がある。機能診断部12bには、予め導出された閾値テーブルや閾値関数が登録される。
【0028】
なお、上記(式1)、(式2)に関係する電圧計測精度、電流計測精度、抵抗ばらつきなどは、部品ばらつきの影響を受けるため、裕度を持った閾値を設定することが望ましい。その場合、部品ばらつきによる地絡未検出を防止することができる。また、ローパスフィルタ回路やマイコン処理で地絡検出の連続性評価などを行うことで、短期的なノイズの影響を排除したロバストな地絡検出が可能となる。
【0029】
上記図3(a)-(b)や上記(式1)、(式2)から分かるように、正相の電路の地絡(以下、P地絡という)か逆相の電路の地絡(以下、N地絡という)かによって地絡電流Iの方向が変わる。本実施の形態では、N地絡時の地絡電流Iを正、P地絡時の地絡電流Iを負とする。なお、一般的な絶縁診断や運転中の地絡検出では、地絡電流の計測値および閾値に絶対値を使用することがほとんどである。絶対値を使用した超過判定処理のみで、地絡発生の有無を判定できるためである。
【0030】
抵抗分圧中点接地方式では、意図的に地絡電流ループを形成させることができる。例えば、蓄電池41の電圧Vが400Vのとき、分圧抵抗R0を40kΩなどの高抵抗に設計する。分圧抵抗R0と地絡物の絶縁抵抗R1が直列の関係になることで、地絡電流Iが危険範囲を下回るように設計される。
【0031】
ここで、地絡検出と絶縁診断の違いについて説明する。地絡検出は、運転(直流電源からの電力取り出し、または直流電源への電力貯蔵)中に、生じる地絡を検出することである。地絡を検出した場合、電力変換を緊急停止するか直流電源を解列して、直流電路への電力供給を停止させる。
【0032】
絶縁診断は、運転開始前に、直流電源を解列した状態で直流電路に直流電圧を印加して、地絡検出を行うことである。直流電路に地絡または短絡が発生していなければ、解放電圧となり短絡電流や地絡電流は流れない。短絡電流や地絡電流が検出された場合は以降の運転に移行させない。地絡電流の検出には上記の地絡検出回路を使用する。地絡検出との違いは、運転前に直流電路の絶縁性を診断することにある。そのため、絶縁試験では電力変換装置1側から診断電圧を印加する。運転前に直流電圧を印加して絶縁診断を実施することで、運転開始後に、電力の制御が困難または短絡容量が大きい直流電源から、大きな地絡電流が流れることを事前に回避できる。
【0033】
日本では、PV/SB/EVなどすべての直流電源に地絡検出が要求されている。2021年現在、絶縁診断はEVのみに要求されている。欧州の中には、PV/SB/EVなどすべての直流電源に絶縁診断を要求する国もある。
【0034】
絶縁診断・地絡検出は、地絡検出回路が正しく動作していることが前提である。地絡検出回路が故障している場合、地絡発生のまま運転し続ける可能性があり、安全性が担保できない。地絡は、機器の絶縁破壊、電路への人などの導電体が接触して発生するものであり、感電事故につながる危険な事象である。
【0035】
そのため、絶縁診断・地絡検出の前に地絡検出回路の自己診断が要求される。地絡検出回路の故障には、センサ故障、センサへの電源経路の故障、分圧高抵抗の短絡などが含まれる。この地絡検出回路の自己診断は日本では、まだ一般的な分散電源に対しては要求されていない。欧州の中には、PV/SB/EVなどすべての直流電源に地絡検出回路の自己診断を要求する国もある。絶縁診断前の実施を要求する場合と、運転中の常時監視でよい場合がある。
【0036】
図1図2に示した本実施の形態に係る電力変換装置1において、模擬地絡回路14は、直流リレーS1と電力変換部11との間の配線の地絡検出回路13より直流リレーS1側に接続されることが望ましい。
【0037】
図5(a)-(d)は、地絡検出回路13が模擬地絡回路14より直流リレーS1側に接続された場合の電流ループを模式的に示す図である。図5(a)は、主回路(主に直流電路)が正常な場合において、P相地絡リレーSgpをオン状態に制御して、正相配線を擬似地絡させた状態である。電流センサ13aでは、絶対値で閾値以上の負方向の電流が計測され、期待されるP地絡が検出される。これにより、正常と診断される。図5(b)は、主回路が正常な場合において、N相地絡リレーSgnをオン状態に制御して、逆相配線を擬似地絡させた状態である。電流センサ13aでは、絶対値で閾値以上の正方向の電流が計測され、期待されるN地絡が検出される。これにより、正常と診断される。
【0038】
図5(c)は、正相配線が断線した状態で、P相地絡リレーSgpをオン状態に制御して、正相配線を擬似地絡させた状態である。電流センサ13aでは、絶対値で閾値以上の負方向の電流が計測され、期待されるP地絡が検出される。これにより、正常と診断される。しかしながら、実際には正相配線に断線が発生しており誤診断である。図5(d)は、正相配線が断線した状態で、N相地絡リレーSgnをオン状態に制御して、正相配線を擬似地絡させた状態である。電流センサ13aでは電流が計測されず、地絡未検出となる。これにより、異常と診断される。
【0039】
図6(a)-(b)は、模擬地絡回路14が地絡検出回路13より直流リレーS1側に接続された場合の電流ループを模式的に示す図である。図6(a)は、正相配線が断線した状態で、P相地絡リレーSgpをオン状態に制御して、正相配線を擬似地絡させた状態である。電流センサ13aでは電流が計測されず、地絡未検出となる。これにより、と診断される。図6(b)は、正相配線が断線した状態で、N相地絡リレーSgnをオン状態に制御して、正相配線を擬似地絡させた状態である。電流センサ13aでは絶対値で閾値以上の正方向の電流が計測され、期待されるN地絡が検出される。これにより、正常と診断される。
【0040】
図6(a)に示すように、主回路のオープン故障を、故障相と同相の模擬地絡未検出を特定することにより診断可能となる。図6(b)に示すように、故障相と逆相の模擬地絡では故障を検知できない。故障相と同相の模擬地絡で主回路の故障を検知できるため、分かりやすい。また、故障相に電流が流れない状態で安全に検知することができる。
【0041】
本実施の形態に係る地絡検出機能の診断処理は、電力変換部11から電動車4内のコンタクタリレーS2までの実運用部の電路を含めた運転前の絶縁診断を実施するよりも前に、実施される。運転前の地絡検出機能の診断処理では、直流リレーS1をオフ状態にして、電力変換部11と直流リレーS1間の電路の地絡検出に関する地絡検出機能に絞り込んだ診断処理を行う。これにより、実運用部の電路に起因する不具合と、地絡検出機能に起因する不具合を切り分けることができる。地絡検出機能に起因する不具合が検出された場合、絶縁試験へ移行させずに異常終了させることで、地絡検出機能の異常状態での、不安全事象となりうる電路への電圧印加を回避することができる。
【0042】
本実施の形態では、地絡検出用の電流センサ13aを直流リレーS1の内側に設けているため、運転中の動作シーケンス内において、直流リレーS1のターンオフ時に、直流電源側(本実施の形態では、電動車4側)の機能動作による地絡と判別しにくくなる事態を回避することができる。例えば、コンタクタリレーS2のターンオン時における、X、Yコンデンサの過渡充電の不均衡による地絡電流発生などと、判別することが容易になる。
【0043】
図7は、実施の形態に係る電力変換装置1の地絡検出機能の診断処理の流れを示すフローチャートである(その1)。図8は、実施の形態に係る電力変換装置1の地絡検出機能の診断処理の流れを示すフローチャートである(その2)。地絡検出機能の診断処理は、主制御部12aが直流リレーS1をオフ状態に制御した状態で、電力変換装置1の運転前に実施される。これにより、機能診断範囲が、直流リレーS1より内側の電力変換部11までの範囲に絞り込まれる。直流リレーS1より外側のユーザや施工者の関与が大きい実運用部分(充電ケーブル5など)は診断範囲から外れる。当該診断処理では、直流リレーS1より外側の実運用部分からの影響は排除される。
【0044】
主制御部12aは、電力変換部11から試験用の直流電圧(以下、試験電圧という)を主回路(直流電路)に印加せず、かつ模擬地絡回路14を模擬地絡させない(S10)。機能診断部12bは、初期診断として、電流センサ13aの計測値が地絡検出の条件を満たすか否か判定する(S11)。機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が負(P地絡検出方向)であってその絶対値が閾値1以上、または電流センサ13aの計測値が正(N地絡検出方向)であってその絶対値が閾値1以上である場合、P地絡またはN地絡検出と判定し、それ以外の場合、地絡未検出と判定する。正常な状態であれば地絡電流が流れないため、期待される判定結果は、地絡未検出である。P地絡またはN地絡検出の場合(S11のY)、機能診断部12bは、異常ありと診断する(S32)。
【0045】
無電圧で地絡のない状態で地絡検出と誤判定される場合、電流センサ13aから制御部12までの計測系の故障と推定される。例えば、クランプ回路のダイオードショートなどによる、計測値の測定レンジの上限または下限への張り付きなどが考えられる。この故障は、クリティカルな故障であり、電圧を印加しない安全な状態で最初に行うことが望ましい。無電圧の状態で地絡検出機能が異常と判定された場合、以降の電圧印加を伴う機能診断に進むことを回避でき、安全性が高い。
【0046】
なお、P相配線とN相配線間に、以前の動作による容量成分(コンデンサの残留電荷など)が残存している可能性を排除するため、P相配線とN相配線間に放電回路を接続して、P相配線とN相配線間の電荷を除去してから、初期診断を実施してもよい。
【0047】
ステップS11の初期診断において、地絡未検出の場合(S11のN)、絶縁診断に移行する。初期診断において弱電系(計測系)の異常が検出されなかったことで、主回路の故障診断を主目的とした絶縁診断に移行できる。絶縁診断では、主制御部12aは、電力変換部11から試験電圧1を主回路に印加する(S12)。試験電圧1は例えば、50-450Vの範囲内の定電圧に設定される。初期診断では、主制御部12aは、P相地絡リレーSgpおよびN相地絡リレーSgnをオフ状態に維持し、模擬地絡回路14を模擬地絡させない。
【0048】
機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が地絡検出の条件を満たすか否か判定する(S13)。正常な状態であれば地絡電流が流れないため、期待される判定結果は、地絡未検出である。機能診断部12bは、P地絡またはN地絡検出の条件を満たしている(S13のY)、異常ありと診断する(S32)。無電圧で地絡のない状態で地絡検出と誤判定される場合、主回路部品の絶縁破壊や外力による物理的な接触、P相地絡リレーSgpまたはN相地絡リレーSgnの溶着などが考えられる。
【0049】
この絶縁診断は、模擬地絡を伴う故障診断より先に実施する。これは、模擬地絡させずに検出可能な、危険性が低く複雑でない故障を先に、診断する趣旨である。模擬地絡させずに故障を検出できた場合、模擬地絡を伴う後工程に進むことを回避することができ、模擬地絡を伴う診断動作での不安全事象を回避できる。例えば、正相の電路が絶縁破壊している状態で、逆相の電路を模擬地絡させると、正相と逆相間の電路が短絡し、不安全事象となる。この不安全事象は短絡要素にもかかわらず、P相分圧抵抗RpとN相分圧抵抗Rnにより正相と逆相間の電圧がバランス方向に動くため、地絡電流が閾値1以上になりにくく、地絡検出と判定されにくいという問題もある。
【0050】
ステップS13の絶縁診断において、地絡未検出の場合(S13のN)、模擬地絡を伴う詳細診断に移行する。詳細診断として、まず地絡電流が流れる方向を診断する。主制御部12aは、電力変換部11からの試験電圧1の出力を維持したまま、P相地絡リレーSgpをターンオンして、正相配線を地絡させる(S14)。
【0051】
機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値がN地絡検出の条件を満たすか否か判定する(S15)。正常な状態であれば、P相模擬地絡抵抗Rgpを介した地絡電流が流れるため、期待される判定結果は、P地絡検出である。機能診断部12bは、N地絡検出の条件を満たす場合(S15のY)、異常ありと診断する(S32)。具体的には、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が正(N地絡検出方向)であってその絶対値が閾値1以上である場合、N地絡検出と判定する。この場合、主回路、地絡検出回路13、模擬地絡回路14の複数箇所で故障が同時発生している可能性が考えられる。ステップS15において故障が検出された場合、電力変換部11からの試験電圧1の印加を停止し、診断処理を終了する。
【0052】
ステップS15において、N地絡検出と判定されなかった場合(S15のN)、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値がP地絡検出の条件を満たすか否か判定する(S16)。機能診断部12bは、期待されるP地絡検出の条件を満たしていない場合(S16のN)、異常ありと診断する(S32)。具体的には、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が負(P地絡検出方向)であってその絶対値が閾値1以上でない場合、P地絡未検出と判定する。機能診断部12bは、ステップS15でN地絡未検出と判定しているため、全体として地絡未検出と判定する。この場合、N相分圧抵抗Rnの断線、電流センサ13aに使用されるシャント抵抗の断線などの故障が考えられる。ステップS16において故障が検出された場合、電力変換部11からの試験電圧1の印加を停止し、診断処理を終了する。
【0053】
ステップS16において、P地絡検出と判定された場合(S16のY)、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値がP地絡過検出の条件を満たすか否か判定する(S17)。具体的には、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が負(P地絡検出方向)であってその絶対値が閾値2以上か否か判定する。機能診断部12bは、計測値が負(P地絡検出方向)であってその絶対値が閾値2以上の場合、P地絡過検出と判定する。P地絡過検出用の閾値2は、P地絡検出用の閾値1より絶対値が大きな値に設定される。機能診断部12bは、P地絡過検出の条件を満たしている場合(S17のY)、異常ありと診断する(S32)。
【0054】
正相配線を模擬地絡させた状態でP地絡検出できた場合でも、回路故障事象が含まれている場合がある。例えば、P相分圧抵抗RpまたはN相分圧抵抗Rnの故障が考えられる。通常、P相分圧抵抗RpおよびN相分圧抵抗Rnはそれぞれ、複数の抵抗を直列接続して使用される。これにより、回路定数のばらつきを小さくでき、正相と逆相間の短絡故障対策にもなる。
【0055】
模擬地絡させた正相と同相のP相分圧抵抗Rpを構成する1つの抵抗がショート故障すると、電流センサ13aで計測される地絡電流は本来の地絡電流よりその絶対値は小さくなる(上記図3(b)参照)。つまり、P相分圧抵抗Rpのショート故障時は、P地絡未検出と判定されるか、上述した部品ばらつきを考慮した裕度に対応する閾値範囲に入りP地絡検出と判定されるか、のいずれかになる。判定結果が複数パターンに分かれるため、同相の分圧抵抗のショート故障診断を正確に行うことができない。
【0056】
反対に、正相と逆相のN相分圧抵抗Rnを構成する1つの抵抗がショート故障すると、電流センサ13aで計測される地絡電流は、本来の地絡電流よりその絶対値は大きくなる(上記図3(b)参照)。これは、N相分圧抵抗Rnにショート故障が発生している場合、正相配線を模擬地絡させた状態ではP地絡過検出と判定されることを意味する。
【0057】
図9(a)-(b)は、地絡検出用の閾値1と、地絡過検出用の閾値2の設定方法を示す図である。地絡過検出用の閾値2は、本来の地絡検出用の閾値1より絶対値で大きい値に設定される。地絡過検出用の閾値2は、部品ばらつきの影響を加味した地絡電流の期待上限値となり、地絡検出用の閾値1は地絡電流の期待下限値となる。
【0058】
正相配線が模擬地絡された状態において、電流センサ13aの計測値が負(P地絡検出方向)であってその絶対値が閾値2以上の場合、機能診断部12bは、逆相のN相分圧抵抗Rnのショート故障と判定する。反対に、逆相配線が模擬地絡された状態において、電流センサ13aの計測値が正(N地絡検出方向)であってその絶対値が閾値2以上の場合、機能診断部12bは、逆相のP相分圧抵抗Rpのショート故障と判定する。
【0059】
なお、地絡過検出用の閾値2を絶対値で超えた地絡電流が計測されたときに回路異常と判定する処理は、本実施の形態に係る地絡検出機能の診断時のみに実行し、当該地絡検出機能の診断以降に実施する絶縁試験、運転中の地絡検出時には実行しない。地絡過検出用の閾値2は、模擬地絡回路14の設計段階で地絡時の絶縁抵抗が既知であることを前提に設定されている。実際の地絡時の絶縁抵抗が想定より低かった場合、回路故障がなくても、地絡電流が地絡過検出用の閾値2(期待上限値)を絶対値で超える可能性がある。その場合、誤診断となる。
【0060】
ステップS17において、P地絡過検出と判定されなかった場合(S17のN)、主制御部12aは、電力変換部11から試験電圧2を主回路に印加する(S18)。試験電圧1および試験電圧2は、電力変換装置1の動作電圧範囲の上下限などに設定される。例えば、試験電圧1が50V、試験電圧2が450Vに設定されてもよい。
【0061】
機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が、P地絡時の期待される閾値範囲内であるか否か判定する(S19)。具体的には、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が負(P地絡検出方向)であってその絶対値が閾値1と閾値2の範囲内であるか否か判定する。図9(b)に示すように、地絡時の期待される閾値範囲は、試験電圧の値に応じて変化する。
【0062】
機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が、P地絡時の期待される閾値範囲外である場合(S19のN)、異常ありと診断する(S32)。この場合、電流センサ13aに使用されるシャント抵抗の回路定数のドリフト異常や、複数の異常の同時発生などが考えられる。ステップS18において故障が検出された場合、電力変換部11からの試験電圧2の印加を停止し、診断処理を終了する。
【0063】
模擬地絡時に多段階の試験電圧を印加することにより、ある試験電圧では正常な挙動を示す異常(例えば、シャント抵抗の回路定数のドリフト異常)も検出することができる。その際、低い電圧の試験電圧を先に印加することで、故障時の安全性を考慮した診断が可能である。高い電圧の試験電圧の印加は電路の耐圧試験を兼ねている。低い電圧の試験電圧を先に印加して、地絡検出機能の異常診断を先に行うほうが安全性が高い。なお、高い電圧の試験電圧を先に印加することを排除するものではない。また、3種類以上の試験電圧を印加してもよい。その場合、より高精度に異常を検出できる。
【0064】
機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が、P地絡時の期待される閾値範囲内である場合(S19のY)、正相の地絡検出機能を正常と判定する(S20)。
【0065】
次に逆相の地絡検出機能の診断に移行する。主制御部12aは、電力変換部11からの試験電圧2の出力を停止させ、P相地絡リレーSgpをターンオフする(S21)。その後、主制御部12aは、N相地絡リレーSgnをターンオンして、逆相配線を地絡させる(S22)。主制御部12aは、電力変換部11から試験電圧1を主回路に印加する(S23)。
【0066】
機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値がP地絡検出の条件を満たすか否か判定する(S24)。正常な状態であれば、N相模擬地絡抵抗Rgnを介した地絡電流が流れるため、期待される判定結果は、N地絡検出である。機能診断部12bは、P地絡検出の条件を満たした場合(S24のY)、異常ありと診断する(S32)。具体的には、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が負(P地絡検出方向)であってその絶対値が閾値1以上の場合、P地絡検出と判定する。この場合、主回路、地絡検出回路13、模擬地絡回路14の複数箇所で故障が同時発生している可能性が考えられる。ステップS24において故障が検出された場合、電力変換部11からの試験電圧1の印加を停止し、診断処理を終了する。
【0067】
ステップS24において、P地絡検出と判定されなかった場合(S24のN)、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値がN地絡検出の条件を満たすか否か判定する(S25)。機能診断部12bは、期待されるN地絡検出の条件を満たしていない場合(S25のN)、異常ありと診断する(S32)。具体的には、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が正(N地絡検出方向)であってその絶対値が閾値1以上でない場合、N地絡未検出と判定する。機能診断部12bは、ステップS24でP地絡未検出と判定しているため、全体として地絡未検出と判定する。この場合、P相分圧抵抗Rpの断線、電流センサ13aに使用されるシャント抵抗の断線などの故障が考えられる。ステップS25において故障が検出された場合、電力変換部11からの試験電圧1の印加を停止し、診断処理を終了する。
【0068】
ステップS25において、N地絡検出と判定された場合(S25のY)、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値がN地絡過検出の条件を満たすか否か判定する(S26)。具体的には、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が正(N地絡検出方向)であってその絶対値が閾値2以上か否か判定する。機能診断部12bは、計測値が正(N地絡検出方向)であってその絶対値が閾値2以上の場合、N地絡過検出と判定する。N地絡過検出用の閾値2は、N地絡検出用の閾値1より絶対値が大きな値に設定される。機能診断部12bは、N地絡過検出の条件を満たしている場合(S26のY)、異常ありと診断する(S32)。この場合、上述した逆相のP相分圧抵抗Rpのショート故障と診断することができる。
【0069】
ステップS26において、N地絡過検出と判定されなかった場合(S26のN)、主制御部12aは、電力変換部11から試験電圧2を主回路に印加する(S27)。機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が、N地絡時の期待される閾値範囲内であるか否か判定する(S28)。具体的には、機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が、正(N地絡検出方向)であってその絶対値が閾値1と閾値2の範囲内であるか否か判定する。
【0070】
機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が、N地絡時の期待される閾値範囲外である場合(S28のN)、異常ありと診断する(S32)。この場合、電流センサS32に使用されるシャント抵抗の回路定数のドリフト異常や、複数の異常の同時発生などが考えられる。ステップS28において故障が検出された場合、電力変換部11からの試験電圧2の印加を停止し、診断処理を終了する。
【0071】
機能診断部12bは、電流センサ13aの計測値が、N地絡時の期待される閾値範囲内である場合(S28のY)、逆相の地絡検出機能を正常と判定する(S29)。主制御部12aは、電力変換部11からの試験電圧2の出力を停止させ、N相地絡リレーSgnをターンオフする(S30)。機能診断部12bは、地絡検出機能全体を正常と判定する(S31)。なお、直流リレーS1より内側の主回路の絶縁も正常と判定される。
【0072】
なお、図7図8のフローチャートに示した複数の診断項目のすべてを必ずしも実施する必要はなく、それら複数の診断項目の少なくとも2つ以上を実施すればよい。それぞれの診断項目で検出できる異常内容にはオーバーラップするものもあり、具体的な回路設計方式に合わせ、2つ以上の診断項目を組み合わせて使用すればよい。
【0073】
上述した地絡検出機能の診断処理は、電力変換装置1の運転動作前に最初に実施されるものである。その際、電力変換部11からの定電圧出力に使用する電源、および制御部12と計測系の電源は、制御電源(24Vなど)または主回路電源(350Vなど)から賄われる。主回路電源には、系統電源、または他の直流電源に接続されたDC/DCコンバータ(図示せず)からの電源が含まれる。
【0074】
系統連系運転モードでは、系統2から制御電源および主回路電源を確保できるため、安定した動作が可能である。そのため、上述した複数の診断項目のすべてを実施して、精度の高い診断を行えばよい。
【0075】
一方、系統2と切り離された自立運転モードでは、太陽電池のような変動電源に接続されている、定置蓄電池のような安定電源に接続されているなど、様々な状態がある。なお、車載蓄電池の場合、運転前に直流リレーS1、コンタクタリレーS2をオフした状態で、地絡検出機能の診断を行うため、車載蓄電池を電源として使用できない。自立運転モードでは、外部の小容量電池などを電源として起動する必要がある。
【0076】
電力変換部11に他の電源が並列されている場合であって、その電源が安定電源で、かつ大きな容量を得られる条件で起動する場合は、系統連系運転モードと同様の診断項目を実施して、精度の高い診断を行えばよい。一方、電源が変動電源の場合、または大きな容量を得られない条件で起動する場合は、主回路へ電圧を印加しない無電圧で実施可能な診断項目のみを実施することが望ましい。これにより、起動電源への負荷を軽減しつつ、地絡検出機能の診断を実施でき、自立運転モードでも安全性に配慮しつつ運転を開始することができる。
【0077】
以上説明したように本実施の形態によれば、電力変換装置1の地絡検出機能の故障診断を合理的かつ網羅的に行うことができる。電流センサ13aに接続される専用のテスト線、各センサ部品の断線を検知するための専用の回路(例えば、対象部品の通電監視回路など)を設ける必要がなく、回路面積およびコストの増加を抑えることができる。本実施の形態によれば、実運用で使用する地絡検出回路13を利用して、地絡検出機能の故障診断ができるため合理的である。
【0078】
また、本実施の形態によれば、地絡検出機能の多くの故障モードを網羅的に判定することができる。例えば、電流センサ13aの異常、電流センサ13aへ電源を供給する電源線の断線、P相分圧抵抗Rpの異常、N相分圧抵抗Rnの異常、接地線の断線、直流リレーS1より内側の主回路部分の絶縁破壊など、多くの故障モードを判定することができる。
【0079】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0080】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0081】
[項目1]
直流電圧を出力可能な電力変換部(11)と、
分散型の直流電源(41)と前記電力変換部(11)との間の配線に挿入される直流スイッチ(S1)と、
前記直流スイッチ(S1)と前記電力変換部(11)との間の正相配線と逆相配線間に接続され、中点が接地されている分圧抵抗(Rp、Rn)を含む地絡検出回路(13)と、
前記直流スイッチ(S1)と前記電力変換部(11)との間の前記正相配線または前記逆相配線を接地させるための模擬地絡回路(14)と、
前記直流スイッチ(S1)のオン/オフ、前記電力変換部(11)からの直流電圧出力、および前記正相配線または前記逆相配線の模擬地絡を制御する主制御部(12a)と、
前記分圧抵抗(Rp、Rn)の中点と接地間に流れる電流の計測値をもとに、本電力変換装置(1)の運転前に地絡検出機能を診断する機能診断部(12b)と、を備える、
電力変換装置(1)。
これによれば、地絡検出機能の故障により、運転中に地絡を検出できないことに起因する事故を未然に防止することができる。
[項目2]
前記直流スイッチ(S1)と前記電力変換部(11)との間の配線において、前記模擬地絡回路(14)が前記地絡検出回路(13)より前記直流スイッチ(S1)側に接続される、
項目1に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、主回路のオープン故障を、同相の模擬地絡未検出で、特定することができる。
[項目3]
前記直流スイッチ(S1)が前記主制御部(12a)によりオフされた状態で、前記機能診断部(12b)は、前記電力変換装置(1)の運転前に前記地絡検出機能を診断する、
項目1または2に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、地絡検出機能の診断範囲を、直流スイッチ(S1)より電力変換部(11)側に絞り込むことができる。
[項目4]
前記主制御部(12a)は、前記電力変換部(11)から直流電圧を出力させず、かつ前記模擬地絡回路(14)を模擬地絡させず、
前記機能診断部(12b)は、前記電流の計測値が地絡検出の条件を満たす場合、異常ありと診断する、
項目3に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、地絡検出機能のクリティカルな故障を検出することができる。
[項目5]
前記主制御部(12a)は、前記電力変換部(11)から直流電圧を出力させ、かつ前記模擬地絡回路(14)を模擬地絡させず、
前記機能診断部(12b)は、前記電流の計測値が地絡検出の条件を満たす場合、異常ありと診断する、
項目3または4に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、直流スイッチ(S1)より電力変換部(11)側の主回路の絶縁状態を診断することができる。
[項目6]
前記主制御部(12a)は、前記電力変換部(11)から直流電圧を出力させ、かつ前記模擬地絡回路(14)で前記正相配線または前記逆相配線を模擬地絡させ、
前記機能診断部(12b)は、前記電流の計測値の極性が、期待される極性と逆の場合、異常ありと診断する、
項目3から5のいずれか1項に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、故障検出の精度を高めることができる。また、故障箇所が特定しやすくなる。
[項目7]
前記主制御部(12a)は、前記電力変換部(11)から直流電圧を出力させ、かつ前記模擬地絡回路(14)で前記正相配線または前記逆相配線を模擬地絡させ、
前記機能診断部(12b)は、前記電流の計測値が地絡未検出の条件を満たす場合、異常ありと診断する、
項目3から6のいずれか1項に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、典型的な地絡検出機能の異常を検出することができる。
[項目8]
前記主制御部(12a)は、前記電力変換部(11)から直流電圧を出力させ、かつ前記模擬地絡回路(14)で前記正相配線または前記逆相配線を模擬地絡させ、
前記機能診断部(12b)は、前記電流の計測値が地絡過検出の条件を満たす場合、異常ありと診断する、
項目3から7のいずれか1項に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、模擬地絡させた相と逆相の分圧抵抗のショート故障を検出することができる。
[項目9]
前記主制御部(12a)は、前記電力変換部(11)から多段階の直流電圧を順番に出力させ、かつ前記模擬地絡回路(14)で前記正相配線または前記逆相配線を模擬地絡させ、
前記機能診断部(12b)は、各直流電圧が印加された状態の前記電流の計測値が、設定された閾値範囲を外れている場合、異常ありと診断する、
項目3から8のいずれか1項に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、シャント抵抗のドリフトを検出することができる。
[項目10]
前記主制御部(12a)は、前記電力変換部(11)から、低い直流電圧から順に出力させる、
項目9に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、安全性の高い診断を行うことができる。
[項目11]
前記電力変換装置(1)が自立運転モードにおいて、前記電力変換部(11)が安定電源に接続されていない場合、
前記直流電圧を出力する診断項目を省略する、
項目1から10のいずれか1項に記載の電力変換装置(1)。
これによれば、自立運転モードにおいて、起動する電源に負荷をかけずに、運転前の地絡検出機能の診断を行うことができる。
【符号の説明】
【0082】
1 電力変換装置、 11 電力変換部、 12 制御部、 12a 主制御部、 12b 機能診断部、 13 地絡検出回路、 13a 電流センサ、 14 模擬地絡回路、 2 系統、 3 負荷、 4 電動車、 41 蓄電池、 5 充電ケーブル、 S1 直流リレー、 S2 コンタクタリレー、 Sgp P相地絡リレー、 Sgn N相地絡リレー、 Sc C接点リレー、 Rp P相分圧抵抗、 Rn N相分圧抵抗、 Rgp P相模擬地絡抵抗、 Rgn N相模擬地絡抵抗。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9