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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086495
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】蓄電池リサイクル装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201051
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】515177088
【氏名又は名称】株式会社JERA
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000181767
【氏名又は名称】柴田科学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 亮一
(72)【発明者】
【氏名】森山 友広
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 勇太
(72)【発明者】
【氏名】多田 光志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓司
(72)【発明者】
【氏名】寺門 真吾
(72)【発明者】
【氏名】内田 和仁
(72)【発明者】
【氏名】邊見 勝
(72)【発明者】
【氏名】浪平 隆男
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031BB09
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】蓄電池の効率的な解体を実現すると共に、資源回収率を向上させる蓄電池リサイクル装置を提供する。
【解決手段】水を貯留可能な容器と前記容器内に設けられ篩状に形成された載置面と、水が貯留された前記容器中の水中において電気パルス放電を行う放電部と、を備え、前記放電部は、前記載置面に載置された蓄電池の電極部品の切断片に対して前記電気パルス放電を所定回数行い、前記切断片から異なる種別の素材を分離する蓄電池リサイクル装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を貯留可能な容器と
前記容器内に設けられ篩状に形成された載置面と、
水が貯留された前記容器中の水中において電気パルス放電を行う放電部と、を備え、
前記放電部は、前記載置面に載置された蓄電池の電極部品の切断片に対して前記電気パルス放電を所定回数行い、前記切断片から異なる種別の素材を分離する、
蓄電池リサイクル装置。
【請求項2】
前記放電部は、前記載置面上に前記切断片が複数の層に積層されて配置された状態において前記電気パルス放電の放電時に電気経路を形成する、
請求項1に記載の蓄電池リサイクル装置。
【請求項3】
前記放電部は、前記電気パルス放電に基づいて、前記水中に衝撃波を発生させ、前記切断片を変形及び破砕する、
請求項1または2に記載の蓄電池リサイクル装置。
【請求項4】
前記蓄電池は、リチウムイオン二次電池であり、
前記電極部品は、複数の素材により構成された正極部品であり、
前記正極部品は、薄膜状の正極アルミニウム材と前記正極アルミニウム材の表面に形成された正極活物質とにより構成されており、
前記放電部は、前記電気パルス放電に基づいて、前記正極アルミニウム材と前記正極活物質とを分離し、篩状に形成された前記載置面から下方に前記正極活物質を沈下させ、前記載置面に前記正極アルミニウム材を残置させる、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の蓄電池リサイクル装置。
【請求項5】
前記蓄電池は、ニッケル水素蓄電池であり、
前記放電部は、前記ニッケル水素蓄電池の正極部品及び負極部品の前記切断片に対して同時に前記電気パルス放電を行う、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の蓄電池リサイクル装置。
【請求項6】
前記放電部は、前記電気パルス放電に基づいて、前記切断片から正極部品を構成するニッケル素材と、負極部品を構成する鉄素材と、前記正極部品と前記負極部品との間に設けられたセパレータとを分離する、
請求項5に記載の蓄電池リサイクル装置。
【請求項7】
前記放電部は、所定電圧のパルス電圧に基づいて発生する電気パルスを前記切断片と前記容器内の前記水との固液比に応じて設定された所定回数において前記水中に放電する、
請求項1から6のうちいずれか1項に記載の蓄電池リサイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みの蓄電池から素材を取り出すための蓄電池リサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や自動車用の電源として蓄電池の需要が増大している。それに伴い、使用済みとなった廃蓄電池の回収量も増加している。自動車は、将来的に電動化されることが見込まれており、それに伴い電動車用の使用済み蓄電池も大量に発生すると予測される。蓄電池には、資源として再利用可能な金属類、その他の物質が含まれており、蓄電池を効率よくリサイクルする技術が求められている。従来、蓄電池のリサイクル方法は、解体後の電池を専ら焼却処理し、残留物を製錬し、抽出された有価金属を回収するものであった。例えば、特許文献1には、例えば、蓄電池を焙焼し、生成された焙焼物を処理することにより有価金属を回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-091940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術によれば、蓄電池を焙焼する際に、プラスチック等の資源が燃焼して資源が十分に回収できないことに加えて、燃料の燃焼に基づいて多くのCOが発生するという課題がある。
【0005】
本発明は、蓄電池の効率的な解体を実現すると共に、資源回収率を向上させる蓄電池リサイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、水を貯留可能な容器と前記容器内に設けられ篩状に形成された載置面と、水が貯留された前記容器中の水中において電気パルス放電を行う放電部と、を備え、前記放電部は、前記載置面に載置された蓄電池の電極部品の切断片に対して前記電気パルス放電を所定回数行い、前記切断片から異なる種別の素材を分離する蓄電池リサイクル装置である。
【0007】
本発明によれば、電極部品の切断片を電気パルス放電による処理を行うことにより、従来の焙焼方法に比して回収される素材の種類が増加すると共に、COの排出量を低減することができる。
【0008】
また、本発明前記放電部は、前記載置面上に前記切断片が複数の層に積層されて配置された状態において前記電気パルス放電の放電時に電気経路を形成してもよい。
【0009】
本発明によれば、切断片に電気パルスの電気経路が形成されることにより、電気的な作用を利用して切断片から素材を分離することができる。
【0010】
また、本発明の一態様は、前記放電部は、前記電気パルス放電に基づいて、前記水中に衝撃波を発生させ、前記切断片を変形及び破砕してもよい。
【0011】
本発明によれば、電気パルスだけでなく、水中に衝撃波を発生させることにより、切断片を変形及び破砕し、切断片を素材ごとに分離し易くすることができる。
【0012】
また、本発明の前記蓄電池は、リチウムイオン二次電池であり、前記電極部品は、複数の素材により構成された正極部品であり、前記正極部品は、薄膜状の正極アルミニウム材と前記正極アルミニウム材の表面に形成された正極活物質とにより構成されており、前記放電部は、前記電気パルス放電に基づいて、前記正極アルミニウム材と前記正極活物質とを分離し、篩状に形成された前記載置面から下方に前記正極活物質を沈下させ、前記載置面に前記正極アルミニウム材を残置させてもよい。
【0013】
本発明によれば、電気パルスの放電に基づいてリチウムイオン二次電池の切断片を素材ごとに分別することができる。
【0014】
また、本発明の前記蓄電池は、ニッケル水素蓄電池であり、前記放電部は、前記ニッケル水素蓄電池の正極部品及び負極部品の前記切断片に対して同時に前記電気パルス放電を行ってもよい。
【0015】
本発明によれば、電気パルスの放電に基づいてニッケル水素蓄電池の切断片に電気パルス放電に基づく処理を行うことができる。
【0016】
また、本発明の前記放電部は、前記電気パルス放電に基づいて、前記切断片から正極部品を構成するニッケル素材と、負極部品を構成する鉄素材と、前記蓄電池の筐体と、前記正極部品と前記負極部品との間に設けられたセパレータとを分離してもよい。
【0017】
本発明によれば、電気パルスの放電に基づいてニッケル水素蓄電池の切断片を素材ごとに分別することができる。
【0018】
また、本発明の前記放電部は、所定電圧のパルス電圧に基づいて発生する電気パルスを前記切断片と前記容器内の前記水との固液比に応じて前記切断片に作用する破砕の度合いに応じて設定された所定回数において前記水中に放電してもよい。
【0019】
本発明によれば、素材の回収を行うと共に素材を過剰に破砕しない所定回数を予め設定することにより素材の回収効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、蓄電池の効率的な解体を実現すると共に、資源回収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】蓄電池リサイクル装置の構成を概略的に示す図である。
図2】分離装置の構成を概略的に示す図である。
図3】電極部品の構成を示す図である。
図4】正極部品の構成を示す図である。
図5】負極部品の構成を示す図である。
図6】セパレータの構成を示す図である。
図7】正極部品の切断片を示す図である。
図8】負極部品の切断片を示す図である。
図9】水流分解装置の構成を概略的に示す図である。
図10】蓄電池リサイクル方法の各工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る蓄電池リサイクル装置ついて説明する。
【0023】
リサイクルの処理対象は、例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素蓄電池などの使用済みの蓄電池である。以下、蓄電池リサイクル装置について説明する。
【0024】
図1に示されるように、蓄電池リサイクル装置1は、電力を発生する電源装置2と、蓄電池を構成する部品を素材ごとに分離する分離装置10とを備える。電源装置2は、例えば、マイクロ秒やナノ秒の短時間に瞬間的な高電圧(例えば、60kV)の大電力を出力する。電源装置2は、自体を電磁的にシールドするファラデーケージ8に覆われている。電源装置2は、例えば、コンデンサを有し所定の電荷を蓄電し、瞬間的に放電する。電源装置2は、パルス電圧を出力する出力端子3を介して分離装置10に電気的に接続されている。電源装置2は、大地側と自体とを電気的に接続する電気接地Eに接続されている。電源装置2は、電気接地Eに接続された接地端子4を介して分離装置10に電気的に接続されている。
【0025】
図2に示されるように、分離装置10は、収容空間が形成された容器20と、容器20内に電気パルス放電を行う放電部11とを備える。放電部11は、水が貯留された容器20中の水中において電気パルス放電を行う。放電部11は高電流を気中放電させずに、安全確実に容器20側へ電気を通す絶縁被膜導電物である。放電部11は、入力端子12を介して電気パルスを放電する電源装置2と電気的に接続されている。入力端子12は、作用電極13に電気的に接続されている。入力端子12と作用電極13との間には、絶縁性を有する蓋部14が設けられている。蓋部14は、例えば樹脂材料により形成されている。蓋部14の下面側には、作用電極13を支持する支持部15が設けられている。
【0026】
支持部15は、下方に突出するコーン状に形成されている。支持部15は、絶縁材料(例えば、ポリカーボネート)により形成されている。支持部15は、利用する電源の強さによってはポリエチレン、ABS、塩化ビニル(硬質)等により形成されていてもよい。支持部15は、入力端子12から入力されたパルス電力の電荷を作用電極13から放電させる。電源装置2の蓄電部の静電容量は、例えば、1.6μFである。支持部15と作用電極13との間には、作用電極13の下方に配置された後述の載置面22との間の距離を調整する金属製のワッシャ16が挟まれている。作用電極13と載置面22との間の距離は、例えば、3cmである。
【0027】
放電部11は、載置面22に載置された蓄電池の電極部品の切断片に対して電気パルス放電を所定回数行い、切断片から異なる種別の素材を分離する。放電部11は、後述のように載置面22上に切断片が複数の層に積層されて配置された状態において電気パルス放電の放電時に電気経路を形成する。放電部11は、後述のように電気パルスを放電することにより、水中に衝撃波を発生させ、切断片を変形及び破砕する。
【0028】
放電部11の下方には、容器20が配置されている。容器20は、金属素材(例えば、ステンレス鋼素材)により形成されている。容器20内には、水を貯留可能な収容空間21が形成されている。収容空間21内は、電気パルス放電を行う際に水で満たされる。収容空間21内には、切断片Bを載置する載置面22が設けられている。切断片Bは、解体された蓄電池の部品を切断したものである。載置面22は、例えば、篩状の板状に形成されている。載置面22は、例えば、金属素材(例えば、ステンレス鋼素材)により無数の貫通孔が形成されたパンチングメタルにより形成されている。貫通孔の径は例えば3mmである。載置面22には、複数の材料により構成された切断片Bが載置される。
【0029】
図3から図6に示されるようにリチウムイオン二次電池の電極部品Dは、帯状の正極部品D1及び負極部品D2が巻回されて筐体内に収容されている。正極部品D1と負極部品D2との間には、絶縁性のセパレータD3が設けられている。電極部品は、例えば、リチウムイオン二次電池の筐体を切断して取り出される。電極部品は、筐体から切り離される。電極部品は、展開され帯状の正極部品D1と帯状の負極部品D2とセパレータD3に分解される。
【0030】
正極部品は、複数の素材により構成されている。正極部品は、薄膜状の正極アルミニウム材と、正極アルミニウム材の表面及び裏面に形成された正極活物質とにより構成されている。正極活物質は、例えば、三元系のニッケルコバルトマンガン酸リチウムである。正極活物質は、他の物質により形成されていてもよい。負極部品は、正極部品と同様に複数の素材により構成されている。負極部品は、負極銅箔材と負極銅箔材の表面及び裏面に形成された負極活物質と負極活物質の表面に設けられた薄膜状のセパレータとにより構成されている。負極活物質は、カーボンである。セパレータは、例えば、ポリオレフィン製の微多孔膜である。負極部品は、裁断装置(不図示)に基づいて所定寸法の切断片に裁断される。負極部品の切断片は、電解液を可溶とするエタノール等の洗浄用の溶媒により洗浄され、残留する電解液が除去される。洗浄用の溶媒は、エタノールの他にジメチルカーボネート、アセトン、メタノール、超臨界溶媒、液体CO2等、電解液を可溶とするものであれば他のものが用いられてもよい。洗浄用の溶媒は、回収され化学的処理により溶解した電解液の成分が回収される。溶媒も再利用される。
【0031】
正極部品の切断片は、洗浄装置50により洗浄される。洗浄装置50は、例えば、回転軸の周方向に沿った面に複数の孔が形成されたパンチングメタルにより形成されたドラム51と、ドラム51を回転可能に支持する台座52と、台座52とドラム51との間に設けられ洗浄液Wを収容する容器53と、ドラム51を回転駆動する駆動部54とを備える。容器53内には、洗浄液Wとして電解液を可溶なエタノール等の溶媒が収容されている。ドラム51の周方向に沿った側面の一部は、洗浄液Wの液面より下方に浸かっている。
【0032】
ドラム51の内部には、正極部品の切断片Bが配置される。駆動部54がドラム51を回転駆動した場合、切断片Bは、ドラム51の内の下方において洗浄液W中でドラム51の内壁の移動に応じてかき混ぜられ、表面に付着した電解液が除去される。洗浄後の正極部品の切断片は、回収される。洗浄液中には、電解液が含まれており化学的に処理され電解液中の成分が回収される。洗浄中に正極部品から分離した正極活物質の一部は、容器53の底部に溜まるので、適宜回収される。正極部品は、蓄電池リサイクル装置1により、素材ごとに分離される。負極部品の切断片B1も洗浄装置50により洗浄される。
【0033】
負極部品においては、銅箔と活物質との結合力が正極部品に比して弱い。そのため、洗浄時にドラム51を回転すると、負極部品の切断片B1は、振動や接触を繰り返し、銅箔と負極用活物質であるカーボンとが分離する。負極用活物質は、ドラム51の孔からドラム51外に排出され、容器53の底に溜まる。洗浄装置50により、負極部品の切断片B1から銅箔とカーボンが回収される。洗浄液中には、電解液が含まれており化学的に処理され電解液中の成分が回収される。
【0034】
図7に示されるように、正極部品D1は、所定寸法に裁断され多数の切断片Bが生成される。切断片Bは、水が貯留された容器20内に設けられた載置面22に載置される。図8に示されるように、負極部品D2は、所定寸法に裁断され多数の切断片B1が生成される。負極部品D2の切断片B1は、正極部品の切断片Bとは異なる処理方法により処理される。
【0035】
図2に戻り、正極部品の切断片Bは、載置面22上に複数の層状に積層されて配置される。蓋部14により容器20の上部の開口が閉塞される。蓋部14で容器20を覆った後、容器20中の水中において電気パルス放電を所定回数行い、切断片から異なる種類の素材を分離する。水は例えば3Lである。
【0036】
作用電極13の先端から放電された電気パルスは、水中、切断片B、載置面22を伝搬し、出力端子3、接地端子4を介して電気接地Eを介して大地に放電される。容器内20内において、作用電極13と容器20と両電極間に絶縁性媒体(水、空気)の絶縁破壊強度を超えた電圧が瞬間的に印加された場合、容器20内の絶縁性の媒体に瞬間的な放電(電気パルス)が発生する。
【0037】
このとき、導体により形成された切断片Bは、電気的な経路となる。切断片Bに瞬間的に電気が通過する際に、高電流が流れることによって異素材が分解される。
【0038】
また、容器20内に電気パルスが放電された場合、容器20内の水中には、電気パルスに基づいて気泡が瞬間的に成長し、水中に衝撃波が伝搬する。水中には無数の気泡が存在することから、容器20内には、無数の衝撃波が生じる。水中に伝搬した衝撃波は、電気パルスの影響により変化した切断片Bに直接に作用し、或いは、容器20の内壁に反射して間接的に作用する。また、切断片Bには、衝撃波同士の合成波や衝撃波の入射波と反射波が合成された融合波面が作用する場合もある。
【0039】
切断片Bは、電気パルスの電気的な作用及び水中の衝撃波の影響により、複数の素材の異相界面が延性亀裂や脆性亀裂の発生起点となり、変形や破砕が進行して状態が変化し、切断片Bを構成する素材が分離する。分離後の各素材の破砕片は、電気パルス放電の電圧や回数に基づいて大きさが調整される。
【0040】
電気パルス放電は、例えば、電圧60kVのパルス電圧に基づいて、所定の固液比において発生する電気パルスを切断片に作用する破砕の度合いに応じて所定回数において水中に放電する。固液比は、切断片の質量と水の質量との比である。パルス電圧は、固液比、処理対象の種類に応じて適宜調整される。パルス電圧は、予め行った実験等に基づいて設定されている。所定回数は電気パルスに基づいて切断片に作用する破砕の度合いを確認するために予め行った実験等に基づいて設定されている。所定回数は、過剰に切断片が破砕されず、且つ、再利用先の要求に応じて切断片の破砕により生じる破砕片の大きさに調整するため、適宜設定される。所定回数は、例えば、固液比1%以上、60kVの電気パルスの放電の条件において10から40回であり、好ましくは20回である。
【0041】
電気パルス放電の放電時に、複数の層に積層された切断片の層間に電気経路が形成される。切断片にパルス電流が通過することにより正極活物質が均一に剥離される。また、電気パルス水中を伝搬する際に発生する衝撃波が切断片に作用し、切断片を正極アルミニウム材と正極活物質とに分離すると共に、各素材を切断片に比して細かい小片に破砕、変形する。
【0042】
放電部11は、切断片に対する電気パルス放電に基づいて、正極アルミニウム材と正極活物質とを分離する。放電部11は、電気パルス放電に基づいて、分離及び破砕された正極アルミニウム材と正極活物質のうち、篩状に形成された載置面22に形成された無数の貫通孔を通じて下方に正極活物質を沈下させ、載置面22に正極アルミニウム材を残置させる。切断片から分離された正極アルミニウム材と正極活物質は、選別して回収される。容器20内の水も回収され、切断片に残留して水中に溶出した電解液の成分が化学的処理され、回収される。負極部品については、セパレータ、負極銅箔材、負極活物質の剥離は容易であることから、後述の洗浄装置を用いて分離が行われる。
【0043】
上記蓄電池リサイクル方法によれば、正極活物質を95%の回収率により回収可能である。蓄電池リサイクル方法によれば、正極のみを電気パルス放電による処理をすることで、不純物である銅、カーボンを低減することができる。カーボンは、正極活物質を湿式精錬してコバルト、ニッケルを回収する場合における濾過工程の忌避物質であり、少ないほど良い。銅も同様の忌避物質であり、0.5%未満が望ましい。アルミニウムは後段の湿式精錬(コバルト、ニッケル回収)における忌避金属であり、2%未満が望ましい。リチウムイオン電池の従来の焙焼回収物には数%以上のアルミニウムの混入が一般的である。
【0044】
蓄電池リサイクル装置1によれば、回収した正極活物質に含まれる不純物は、カーボン、銅、プラスチックについては0%であり、アルミニウムは、0.4%である。蓄電池リサイクル装置1によれば、電気パルス分解を正極部材の分離処理に用いることにより、従来の焙焼法に比してCOの排出量を低減することができる。蓄電池リサイクル装置1によれば、処理時間についても従来に比して大幅に短縮することができる。蓄電池リサイクル装置1の処理時間は、1分であり、大量の廃電池のリサイクル処理に適用することができる。
【0045】
[第2実施形態]
電気パルス放電を用いた蓄電池リサイクル装置1は、ニッケル水素蓄電池のリサイクルに適用してもよい。以下の説明では、上記実施形態と同一の構成については同一の名称及び符号を用い、重複する説明については適宜省略する。
【0046】
処理対象のニッケル水素蓄電池は、円形、矩形の外形を有し、内部の電極部品においては積層構造や巻回構造のものがある。電極部品が巻回構造のものには、単一のセルのものがある。電極部品が積層構造のものには、複数のセルがユニット化されたものがある。自動車に用いられる、ニッケル水素蓄電池は、例えば、ユニット化された積層型の蓄電池である。今後、ユニット化された積層型のニッケル水素二次電池は、大量に使用済みとなる可能性がある。以下、ユニット化された積層型のニッケル水素二次電池の解体について説明する。
【0047】
先ず処理対象のニッケル水素蓄電池は、例えば、残留する電力を放電可能な放電装置を用いて放電される。次に、ニッケル水素蓄電池は、装置を用いた電池本体の解体が可能である場合には、解体装置を用いて解体される。解体装置により解体された各構成部品には、ニッケル水素蓄電池の筐体、電極部品が含まれている。電極部品には、正極部品、負極部品、正極部品と負極部品との間に設けられたセパレータが含まれている。
【0048】
例えば、電極部品が積層構造を有する電極部品は、シート状の正極部品、セパレータ、負極部品の層が筐体内に複数の層に積層されて収容されている。このため、解体装置により、各バッテリセルの電極部品は、積層された状態の所定寸法の矩形の切断片に打ち抜かれる。打ち抜かれた切断片からは、例えば、鉄製の筐体のフレームが分別される。分別は、人力により行われてもよいし、ロボット等の装置により自動的に行われてもよい。解体装置による解体時には、解体装置を洗浄する際の洗浄液側に電解液が回収される。
【0049】
筐体のフレームが分別された電極部品の切断片は、正極部品、負極部品、セパレータが含まれている。電極部品の切断片は、電気パルスを用いた分離装置10に投入される。分離装置10には、水が充填される。電極部品の切断片は、分離装置10により電気パルス放電を用いて分解処理される。
【0050】
放電部11は、電気パルス放電に基づいて、切断片から正極部品を構成するニッケル素材と、負極部品を構成する鉄素材と、正極部品と負極部品との間に設けられたセパレータとを分離すると同時に、正極部品を構成するニッケル素材に付着した正極活物質、負極部品を構成する鉄素材に付着した負極得活物質とを分離する。放電部は、電圧60kVのパルス電圧に基づいて所定の固液比において発生する電気パルスを切断片に作用する破砕の度合いに応じて設定された所定回数において水中に放電する。
【0051】
分解処理された電極部品は、一般的な磁力分離を用いて選別される。電極部品は、切断片から正極部品を構成するニッケル素材が回収される。電極部品は、切断片から負極部品を構成する鉄素材が回収される。切断片からは、蓄電池の筐体のプラスチック部品が回収される。切断片からは、正極部品と負極部品との間に設けられたセパレータが回収される。
【0052】
蓄電池リサイクル装置1によれば、ニッケル水素蓄電池の正極部品及び負極部品を同時に電気パルス放電による分解処理に基づいて素材を回収し、焙焼を用いた従来手法に比してCOの発生を低減することができる。第2実施形態に係る蓄電池リサイクル方法によれば、従来手法に比して作業時間を大幅に低減することができる。
【0053】
[変形例]
例えば、蓄電池リサイクル装置1は、リチウムイオン二次電池の負極部品に対して電気パルス放電による分解処理を行ってもよい。蓄電池リサイクル装置1は、解体装置Nにより解体されたリチウムイオン二次電池の負極部品と正極部品の切断片と混合した状態で電気パルス放電による分解処理を行ってもよい。但し、正極部品と負極部品とを混合して電気パルス分解の処理を行って、正極活物質を回収する場合、正極部品を単独で処理した場合に比して負極活物質のカーボン及び銅の混入率が高まる。従って、この方法で、電気パルス放電による切断片の分解を行う場合、回収された正極活物質の利用形態は、カーボン及び銅の混入が許容される場合に限る。
【0054】
放電部11は、切断片に対する電気パルス放電による分解処理を行い、正極アルミニウム材、正極活物質、負極銅箔材、負極活物質を分離及び破砕し、正極活物質と負極活物質を篩状に形成された載置面22に形成された無数の貫通孔を通じて下方に沈下させ、載置面22には、正極アルミニウム材と負極銅箔材を残置させる。切断片から分離された複数の素材は、種類ごとに選別して回収される。容器20内の水も回収され、切断片に残留して水中に溶出した電解液の成分が化学的処理され、回収される。
【0055】
変形例に係る蓄電池リサイクル装置に基づく電気パルス放電による分解処理によれば、正極部品及び負極部品の切断片を同時に電気パルス放電による分解処理を行うため、処理にかかる時間が短縮される。
【0056】
図10には、上記実施形態を含む蓄電池リサイクル方法の工程が示されている。蓄電池は、放電装置を用いて放電される(ステップS100)。蓄電池は解体装置に設置され、打ち抜きにより切断され構成部品に解体される(ステップS102)。構成部品のうち、電極部品は、裁断され切断片が生成される(ステップS104)。切断片は、洗浄され電解液が除去される(ステップS106)。切断片は、分離装置10に投入され、電気パルス放電による分解処理が行われ素材ごとに分離される(ステップS108)。分離された各素材は、選別され個別に回収される(ステップS110)。
【0057】
巻回された電極部品は、展開されて、帯状の正極部品に分別されると共に、負極部品及びセパレータに分別される。正極部品は、裁断装置(不図示)に基づいて所定寸法の切断片に裁断される。正極部品の切断片は、エタノール溶液により洗浄され、残留する電解液が除去される。正極部品は、蓄電池リサイクル装置1により、素材ごとに分離される。電気パルス放電を行った容器内20内に収容された水は回収され、水中に溶解した電解液の成分は、電気透析に基づいて抽出される(ステップS112)。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、蓄電池リサイクル方法の電気パルス放電による分解処理は、リチウムイオン二次電池及びニッケル水素蓄電池だけでなく、他の蓄電池に適用してもよい。また蓄電池リサイクル方法は、蓄電池だけでなく、一次電池のリサイクルに適用してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 蓄電池リサイクル装置
11 放電部
20 容器
22 載置面
60kV 電圧
B 切断片
B1 切断片
D1 正極部品
D2 負極部品
D3 セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10