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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086517
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】部材の製造方法、及び溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/09 20060101AFI20230615BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
B23K9/09
B23K9/12 310Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201082
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】初鳥 貴広
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA04
4E082BA04
(57)【要約】
【課題】入熱を抑制しつつ、溶滴移行を良好に行うことを目的とする。
【解決手段】パルスアーク溶接の実行中、予め定められた速度Vで溶接ワイヤを溶接トーチの先端に向けて送給すると共に、溶接ワイヤに、予め定められた周期Tで相対的に電流値が高くなるハイレベル期間が発生する溶接電流を流す。溶接ワイヤにおける少なくとも先端を含む区間には、式1により示される間隔dを空けて設定される形成位置に、脆弱部が形成されている。(式1)d=V×T/N(Nは1以上の整数)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスアーク溶接による部材の製造方法であって、
前記パルスアーク溶接が行われているときに、予め定められた速度Vで溶接ワイヤを溶接トーチの先端に向けて送給することと、
前記パルスアーク溶接を行うため、前記溶接ワイヤに、予め定められた周期Tで相対的に電流値が高くなるハイレベル期間が発生する溶接電流を流すことと、を備え、
前記溶接ワイヤにおける少なくとも先端を含む区間には、以下の式1により示される間隔dを空けて設定される形成位置に、脆弱部が形成されている
部材の製造方法。
(式1)d=V×T/N(Nは1以上の整数)
【請求項2】
請求項1に記載の部材の製造方法であって、
N=1
である部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の部材の製造方法であって、
前記溶接トーチに送給されている前記溶接ワイヤにおける前記形成位置に、前記脆弱部を形成すること
をさらに備える部材の製造方法。
【請求項4】
パルスアーク溶接を行う溶接装置であって、
前記パルスアーク溶接が行われているときに、予め定められた速度Vで溶接ワイヤを溶接トーチの先端に向けて送給する送給部と、
前記パルスアーク溶接を行うため、前記溶接ワイヤに、予め定められた周期Tで相対的に電流値が高くなるハイレベル期間が発生する溶接電流を流す溶接制御部と、
前記溶接ワイヤにおける以下の式1により示される間隔dを空けて設定される形成位置に、脆弱部を形成する形成部と、
を備える溶接装置。
(式1)d=V×T/N(Nは1以上の整数)
【請求項5】
請求項4に記載の溶接装置であって、
N=1
である溶接装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の溶接装置であって、
前記形成部は、尖った部位を前記溶接ワイヤに当接させることで、前記脆弱部を形成する
溶接装置。
【請求項7】
請求項4から請求項6のうちのいずれか1項に記載の溶接装置であって、
前記形成部は、前記溶接ワイヤに対し接近及び離間するように変位する押圧部材により前記溶接ワイヤを押圧することで、前記脆弱部を形成する
溶接装置。
【請求項8】
請求項4から請求項6のうちのいずれか1項に記載の溶接装置であって、
前記形成部は、前記周期Tに応じた周期で回転する回転部材を前記溶接ワイヤに当接させることで、前記脆弱部を形成する
溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、部材の製造方法、及び溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、周期的に矩形のパルスが生じる溶接電流を用いるパルスアーク溶接が知られている。パルスアーク溶接は、溶接電流の矩形のパルスにより電磁ピンチ力を発生させることで、スムーズな溶滴移行を実現可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-229631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パルスアーク溶接においては、スパッタやヒュームの発生を抑制するためには、パルスが発生する各周期において1つの溶滴移行が生じるようにする必要がある。そして、そのためには、1周期に複数のパルスを発生させたり、パルスによりハイレベルとなった溶接電流の電流値を高くしたり、ハイレベルとなっている期間を長くしたりする必要がある。しかし、これによりワークへの入熱が増加し、溶け落ち等の溶接不良が生じる恐れがある。
【0005】
本開示の一態様では、入熱を抑制しつつ、溶滴移行を良好に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、パルスアーク溶接による部材の製造方法である。該製造方法は、パルスアーク溶接が行われているときに、予め定められた速度Vで溶接ワイヤを溶接トーチの先端に向けて送給することと、パルスアーク溶接を行うため、溶接ワイヤに、予め定められた周期Tで相対的に電流値が高くなるハイレベル期間が発生する溶接電流を流すことと、を備える。溶接ワイヤにおける少なくとも先端を含む区間には、以下の式1により示される間隔dを空けて設定される形成位置に、脆弱部が形成されている。
【0007】
(式1)d=V×T/N(Nは1以上の整数)
上記構成によれば、溶滴移行の発生が見込まれる時期に、溶接ワイヤの先端の溶融部分に1又は複数の脆弱部が存在するよう促されるため、より小さい電磁ピンチ力により溶滴移行が発生し得る。このため、溶接電流の電流値を高くすること無く、周期Tにおいて1つの溶滴移行が発生するように促すことができる。したがって、ワークへの入熱を抑制しつつ、溶滴移行を良好に行うことができる。
【0008】
本開示の一態様では、N=1であってもよい。
上記構成によれば、溶接ワイヤにおける脆弱部の数を抑制できる。このため、溶接ワイヤの抵抗値の増加を抑制でき、その結果、消費電力を抑制できる。
【0009】
本開示の一態様は、溶接トーチに送給されている溶接ワイヤにおける形成位置に、脆弱部を形成することをさらに備えてもよい。
上記構成によれば、パルスアーク溶接の実行中に、該パルスアーク溶接の周期T及び溶接速度Vに対応する形成位置に脆弱部を形成できる。このため、脆弱部が形成された溶接ワイヤを事前に準備する必要が無く、様々な状況で行われるパルスアーク溶接において、ワークへの入熱を抑制しつつ、溶滴移行を良好に行うことができる。
【0010】
本開示の一態様は、パルスアーク溶接を行う溶接装置であり、送給部と、溶接制御部と、形成部と、を備える。送給部は、パルスアーク溶接が行われているときに、予め定められた速度Vで溶接ワイヤを溶接トーチの先端に向けて送給する。溶接制御部は、パルスアーク溶接を行うため、溶接ワイヤに、予め定められた周期Tで相対的に電流値が高くなるハイレベル期間が発生する溶接電流を流す。形成部は、溶接ワイヤにおける以下の式1により示される間隔dを空けて設定される形成位置に、脆弱部を形成する。
【0011】
(式1)d=V×T/N(Nは1以上の整数)
上記構成によれば、溶滴移行の発生が見込まれる時期に、溶接ワイヤの先端の溶融部分に1又は複数の脆弱部が存在するよう促されるため、より小さい電磁ピンチ力により溶滴移行が発生し得る。このため、溶接電流の電流値を高くすること無く、周期Tにおいて1つの溶滴移行が発生するように促すことができる。したがって、ワークへの入熱を抑制しつつ、溶滴移行を良好に行うことができる。
【0012】
本開示の一態様では、N=1であってもよい。
上記構成によれば、溶接ワイヤにおける脆弱部の数を抑制できる。このため、溶接ワイヤの抵抗値の増加を抑制でき、その結果、消費電力を抑制できる。
【0013】
本開示の一態様では、形成部は、尖った部位を溶接ワイヤに当接させることで、脆弱部を形成してもよい。
上記構成によれば、脆弱部を良好に形成できる。
【0014】
本開示の一態様では、形成部は、溶接ワイヤに対し接近及び離間するように変位する押圧部材により溶接ワイヤを押圧することで、脆弱部を形成してもよい。
上記構成によれば、脆弱部を良好に形成できる。
【0015】
本開示の一態様では、形成部は、周期Tに応じた周期で回転する回転部材を溶接ワイヤに当接させることで、脆弱部を形成してもよい。
上記構成によれば、脆弱部を良好に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】溶接装置の説明図である。
図2】溶接ワイヤの説明図である。
図3】形成部の説明図である。
図4】形成部の説明図である。
図5】形成部の説明図である。
図6】部材の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本開示の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0018】
[1.溶接装置]
本実施形態の溶接装置1は、パルスアーク溶接を行うよう構成されており、溶接トーチ10と、ケーブル14と、送給装置15(換言すれば、送給部)と、スプール16と、溶接制御部17と、形成部2とを備える(図1参照)。
【0019】
送給装置15は、送給ローラ及び加圧ローラを備え、これらのローラを回転させることで、スプール16に巻き付けられている溶接ワイヤ3を、溶接トーチ10の先端に向けて送給する。
【0020】
ケーブル14は、内部に溶接ワイヤ3の通路が形成されており、一端が溶接トーチ10に接続されていると共に、他端が送給装置15に接続されている。送給装置15により送給される溶接ワイヤ3は、ケーブル14の内部の通路を通過して溶接トーチ10に到達する。
【0021】
[2.溶接トーチ]
溶接トーチ10は、トーチホルダ11と、トーチボディ12と、ノズル13とを備える(図1参照)。
【0022】
ノズル13は、溶接トーチ10の先端に位置し、ワーク4における溶接箇所に向けてシールドガスを放出する。また、ノズル13の内部には図示しないチップが配置されており、チップからは、送給される溶接ワイヤ3の先端が突出する。そして、チップから突出する溶接ワイヤ3を介して、ワーク4における溶接箇所に対しアークが放出される。この時、溶接ワイヤ3の先端部分が溶融し、溶滴移行が生じる。
【0023】
トーチボディ12は、トーチホルダ11から突出するように設けられ、トーチボディ12の先端にはノズル13が設けられる。また、トーチボディ12の内部には、溶接ワイヤ3をチップに送給するための通路と、シールドガスをノズル13に供給するための流路とが設けられる。
【0024】
トーチホルダ11は、ノズル13から放出されるシールドガスを供給するための供給口が設けられる。また、トーチホルダ11の内部には、溶接ワイヤ3をチップに送給するための通路が設けられる。
【0025】
[3.溶接制御部]
溶接制御部17は、溶接装置1でのパルスアーク溶接を制御する部位である(図1参照)。溶接制御部17は、ワーク4の溶接箇所に対しアークを放出するため、溶接電流18を溶接ワイヤ3に出力する。溶接電流18では、溶滴移行を発生させるため、周期Tで単一の矩形のパルスが生じる。
【0026】
また、溶接制御部17は、ユーザからの指示に応じて、溶接電流18における周期Tを設定する。この他にも、溶接制御部17は、ユーザからの指示に応じて、溶接電流18におけるハイレベル期間Th、ローレベル期間Tl、ハイレベル電流値Ih、及びローレベル電流値Ilを設定しても良い。なお、ハイレベル期間Thとは、パルスにより電流値が高くなる期間であり、ローレベル期間Tlとは、パルスが発生せず、電流値が低い値に維持される期間である。また、ハイレベル電流値Ihとは、パルス発生時の電流値であり、ローレベル電流値Ilとは、ローレベル期間Tlにおける電流値である。
【0027】
なお、溶接制御部17は、例えば、溶接電流18において、周期Tにて複数の矩形のパルスを発生させることで、溶滴移行を発生させても良い。具体的には、溶接制御部17は、周期Tで交互に到来するハイレベル期間Th及びローレベル期間Tlを設けても良い。そして、溶接制御部17は、ハイレベル期間Thに複数のパルスを発生させ、ローレベル期間Tlに電流値を低い値に維持しても良い。
【0028】
この他にも、溶接制御部17は、例えば、溶接電流18において、矩形以外の波形のパルスを発生させることで、溶滴移行を発生させても良い。この場合においても、溶接制御部17は、上記と同様のハイレベル期間Th及びローレベル期間Tlを設けても良い。そして、溶接制御部17は、ハイレベル期間Thに矩形以外の波形のパルスを発生させ、ローレベル期間Tlに電流値を低い値に維持しても良い。
【0029】
また、溶接制御部17は、パルスアーク溶接の実行中、送給装置15を制御し、送給速度Vで溶接ワイヤ3を溶接トーチ10の先端に向けて移動させる。
[4.溶接ワイヤ]
溶接ワイヤ3における先端3Aを含む区間には、脆弱部31が形成されている(図2)。脆弱部31とは、溶接ワイヤ3における他の部分よりも脆弱な部分である。
【0030】
上記区間には、溶接ワイヤ3の伸長方向に沿って間隔dを空けて形成位置30が設定される。そして、脆弱部31は、溶接ワイヤ3における形成位置30を含む部分に形成される。なお、dは、以下の式1により定められる。
【0031】
(式1)d=V×T
これにより、パルスアーク溶接の際、溶接ワイヤ3の先端3Aを含む溶融部分では、脆弱部31よりも先端3A側の部分が溶滴として溶融池に落下し易くなる。
【0032】
本実施形態では、一例として、溶接ワイヤ3の外周面に凹部を設けることで、脆弱部31が形成される。つまり、溶接ワイヤ3における脆弱部31が形成された部分は、他の部分によりも細くなっている。しかし、これに限らず、例えば、溶接ワイヤ3における形成位置30を含む部分に切り込みや穴を形成し、該部分に損傷を与えることで、脆弱部31を形成しても良い。
【0033】
[5.形成部]
形成部2は、溶接装置1でのパルスアーク溶接の実行中、溶接トーチ10に送給される溶接ワイヤ3の形成位置30に脆弱部31を形成する(図1、2参照)。形成部2は、溶接装置1における溶接ワイヤ3の送給経路のいずれかの位置に設けられ、該位置を通過する溶接ワイヤ3に脆弱部31を形成する。
【0034】
具体的には、例えば、形成部2は、溶接ワイヤ3の送給経路における送給装置15とスプール16との間に設けられても良い。より詳しくは、形成部2は、例えば、溶接ワイヤ3が送給装置15の内部に進入する入口に対し、スプール16側に隣接する位置1Aに設けられていても良い。
【0035】
また、例えば、形成部2は、溶接ワイヤ3の送給経路における送給装置15と溶接トーチ10との間に設けられても良い。より詳しくは、形成部2は、例えば、送給装置15における溶接ワイヤ3の出口に対し、溶接トーチ10側に隣接する位置1Bに設けられていても良い。
【0036】
また、例えば、形成部2は、溶接トーチ10の内部に設けられていても良い。より詳しくは、形成部2は、トーチホルダ11の内部の位置1Cに設けられていても良い。
この他にも、形成部2は、例えば、送給装置15の内部に設けられていても良い。
【0037】
なお、上述した式1が示すように、溶接ワイヤ3における形成位置30の間隔dは、送給速度V及び周期Tにより定められ、送給速度V及び周期Tは溶接作業毎に適宜変更され得る。つまり、溶接作業毎に、溶接ワイヤ3における形成位置30が変化する可能性がある。
【0038】
このため、形成部2は、溶接ワイヤ3の送給経路における溶接トーチ10の先端により近い位置に設けるのが好適である。こうすることにより、溶接作業の終了時に残存する、該溶接作業に対応して脆弱部30が形成された溶接ワイヤ3の区間をより短くでき、溶接ワイヤ3をより有効に利用できる。
【0039】
[6.形成部の具体例1]
形成部2は、2つの押圧部材21と、各押圧部材21に対応して設けられた2つの駆動機構20とを備えていても良い(図3参照)。
【0040】
2つの押圧部材21は、溶接ワイヤ3の伸長方向に略直交する第1方向2Aに沿って並び、溶接ワイヤ3を挟んで対面する。また、各押圧部材21は、溶接ワイヤ3の外周面に当接する当接部22を備える。
【0041】
駆動機構20は、図示しないモータ等を備え、溶接ワイヤ3の外周面に対する接近及び離間を繰り返すように、押圧部材21を第1方向2Aに変位させる。ここで、押圧部材21が溶接ワイヤ3に最も接近する位置を、近接位置21Aとし、押圧部材21が溶接ワイヤ3から最も離間する位置を、離間位置21Bとする。
【0042】
押圧部材21が近接位置21Aに到達することで、押圧部材21の当接部22が溶接ワイヤ3の外周面に当接し、該外周面を押圧する。これにより、溶接ワイヤ3の外周面に凹部が形成され、該凹部が脆弱部31となる。なお、駆動機構20は、周期Tにて押圧部材21が近接位置21Aに到達するように押圧部材21を変位させる。これにより、溶接ワイヤ3の形成位置30に脆弱部31が形成される。
【0043】
また、当接部22は、例えば、尖った部位として構成されても良い。具体的には、例えば、当接部22は、溶接ワイヤ3の伸長方向に略直交する向きに配置された刃として形成されていても良い。また、例えば、当接部22は、棒状であると共に、先端に向かうに従い細くなる形状を有していても良い。無論、これに限らず、当接部22は、例えば、丸みを帯びた形状や、溶接ワイヤ3の伸長方向に沿って平面状に広がる形状を有していても良い。
【0044】
[7.形成部の具体例2]
形成部2は、2つの第1回転部材23と、各第1回転部材23を、溶接ワイヤ3の伸長方向に沿って伸びる回転軸23Aを中心に回転させる図示しない駆動機構とを備えていても良い(図4参照)。なお、各第1回転部材23の回転方向は、適宜定められ得る。
【0045】
2つの第1回転部材23は、第1方向2Aに沿って並び、溶接ワイヤ3を挟んで対面する。また、各第1回転部材23は、一例として4個の突出部24を備える。各突出部24は、回転軸23Aから径方向に突出すると共に、回転軸23Aを中心とする周方向に等間隔を空けて配置される。また、各突出部24は、回転軸23Aに略直交する向きに広がる扁平な部位であり、各突出部24の先端には当接部24Aが設けられている。
【0046】
そして、駆動機構は、図示しないモータ等を備え、周期Tの4倍の周期で各第1回転部材23を1回転させる。これにより、4つの突出部24の各当接部24Aは、周期Tで溶接ワイヤ3に当接し、溶接ワイヤ3の形成位置30に脆弱部31を形成する。
【0047】
また、上述した押圧部材21の当接部22と同様、各突出部24の当接部24Aは、尖った部位であっても良いし、刃であっても良い。無論、これに限らず、各当接部24Aは、例えば、丸みを帯びた形状を有していても良い。
【0048】
また、各第1回転部材23は、様々な向きに配置され得る。具体的には、例えば、各第1回転部材23は、回転軸23Aが、第1方向2A及び溶接ワイヤ3の伸長方向と略直交する方向に伸びるように配置されていても良い。
【0049】
また、各第1回転部材23における突出部24の数(以後、X)は、4以外であっても良い。このような場合であっても、周方向に等間隔を空けて突出部24を配置し、周期TのX倍の周期で各第1回転部材23を1回転させることで、溶接ワイヤ3の形成位置30に脆弱部31を形成できる。
【0050】
[8.形成部の具体例3]
形成部2は、2つの第2回転部材25と、各第2回転部材25を、溶接ワイヤ3の伸長方向及び第1方向2Aに略直交する回転軸25Aを中心に回転させる図示しない駆動機構とを備えていても良い(図5参照)。なお、各第2回転部材25の回転方向は、適宜定められ得る。
【0051】
2つの第2回転部材25は、第1方向2Aに沿って並び、溶接ワイヤ3を挟んで対面する。また、各第2回転部材25は、柱状の部位であり、伸長方向に直交する断面の中心に回転軸25Aが位置し、一例として7個の突出部26を備える。各突出部26は、回転軸25Aを中心とする周方向に等間隔を空けて配置される。また、各突出部26は、回転軸25Aから径方向に突出しており、その先端には当接部26Aが設けられている。
【0052】
そして、駆動機構は、図示しないモータ等を備え、周期Tの7倍の周期で各第2回転部材25を1回転させる。これにより、7つの突出部26の各当接部26Aが、周期Tで溶接ワイヤ3に当接し、溶接ワイヤ3の形成位置30に脆弱部31を形成する。
【0053】
また、上述した押圧部材21の当接部22や第1回転部材23の当接部24Aと同様、各突出部26の当接部26Aは、尖った部位であっても良いし、刃であっても良い。無論、これに限らず、各当接部26Aは、例えば、丸みを帯びた形状を有していても良い。
【0054】
また、各第2回転部材25は、様々な向きに配置され得る。具体的には、例えば、各第2回転部材25は、回転軸25Aが、溶接ワイヤ3の伸長方向に沿って伸びるように配置されていても良い。
【0055】
また、各第2回転部材25における突出部26の数(以後、Y)は、7以外であっても良い。このような場合であっても、周方向に等間隔を空けて突出部26を配置し、周期TのY倍の周期で各第2回転部材25を1回転させることで、溶接ワイヤ3の形成位置30に脆弱部31を形成できる。
【0056】
[9.部材の製造方法]
次に、溶接装置1がパルスアーク溶接によりワーク4を接合することによる部材の製造方法について、図6のフローチャートを用いて説明する。
【0057】
S100では、溶接装置1の溶接制御部17は、ユーザからパルスアーク溶接の設定の入力を受け付ける。具体的には、溶接制御部17は、ユーザからの指示に従い、溶接電流18における周期T、及び溶接ワイヤ3の送給速度Vを設定する。この他にも、溶接制御部17は、ユーザからの指示に従い、例えば、上述したハイレベル期間Th、ローレベル期間Tl、ハイレベル電流値Ih、及びローレベル電流値Il等を設定しても良い。また、溶接制御部17は、設定された周期Tや、ハイレベル期間Thや、ハイレベル電流値Ihや、ローレベル電流値Il等に基づき、溶接ワイヤ3の送給速度Vを設定しても良い。
【0058】
一例として、溶接ワイヤ3の径が1.2mmであり、溶接電流18の電流値が50~200Aである場合には、送給速度Vは10~150mm/sec、周期Tは5~20mmの値に設定され得る。
【0059】
S105では、溶接制御部17は、溶接ワイヤ3における形成位置30に脆弱部31が形成されるよう、周期T及び送給速度Vに基づき形成部2における駆動機構の動作を設定し、S110に移行する。
【0060】
S110では、溶接制御部17は、S100での設定値に従い溶接電流18を生成し、溶接ワイヤ3に出力することで、パルスアーク溶接を開始する。また、溶接制御部17は、形成部2の動作を開始させ、溶接ワイヤ3の脆弱部31の形成を開始する。溶接制御部17は、パルスアーク溶接の開始後、ユーザから該パルスアーク溶接の終了指示を受け付けるまでは、S100にてなされた設定に従いパルスアーク溶接を行う。
【0061】
なお、溶接装置1は、形成部2を作動させることなく、事前に脆弱部31が形成された溶接ワイヤ3を用いてパルスアーク溶接を行っても良い。すなわち、所定の周期T及び送給速度Vに対応する脆弱部31が形成された溶接ワイヤ3を、溶接装置1にセットしても良い。そして、溶接制御部17は、該周期Tでパルスが発生する溶接電流18を出力すると共に、該送給速度Vで溶接ワイヤ3を送給することで、パルスアーク溶接を行っても良い。
【0062】
また、パルスアーク溶接の実行中、溶接制御部17は、溶接の状態やユーザからの指示に応じて、溶接電流18の電流値や、周期Tや、溶接ワイヤ3の送給速度Vを変更しても良い。この場合、溶接制御部17は、これらの値の変更に応じて溶接ワイヤ3における形成位置30の間隔dを更新し、更新後の間隔dに基づき溶接ワイヤ3に脆弱部31を形成する。
【0063】
[10.効果]
(1)上記実施形態の部材の製造方法、及び溶接装置1によれば、溶滴移行の発生が見込まれる時期に、溶接ワイヤ3の先端の溶融部分に脆弱部31が存在するよう促されるため、より小さい電磁ピンチ力により溶滴移行が発生し得る。このため、周期Tに複数のパルスを発生させたり、溶接電流18のハイレベル期間Thを長くしたり、ハイレベル期間Thにおける溶接電流18の電流値Ihを高くしたりしなくても、周期Tにおいて1つの溶滴移行が発生するように促すことができる。したがって、ワーク4への入熱を抑制しつつ、溶滴移行を良好に行うことができる。
【0064】
また、単一のパルスが発生する溶接電流18を用いたパルスアーク溶接により、スパッタやヒュームを抑制できる。また、単一のパルスが発生する溶接電流18におけるハイレベル期間Thやハイレベル電流Ihを、低減できる。
【0065】
(2)また、脆弱部31の形成位置30の間隔dは、送給速度Vと周期Tとの乗算値となっているため、溶接ワイヤ3に形成される脆弱部31の数を抑制できる。これにより、溶接ワイヤ3の抵抗値の増加を抑制でき、その結果、消費電力を抑制できる。
【0066】
(3)また、パルスアーク溶接の実行中に、溶接トーチ10に送給されている溶接ワイヤ3における該パルスアーク溶接の周期T及び溶接速度Vに対応する形成位置30に、脆弱部31が形成される。このため、脆弱部31が形成された溶接ワイヤ3を事前に準備する必要が無く、様々な状況で行われるパルスアーク溶接において、ワーク4への入熱を抑制しつつ、溶滴移行を良好に行うことができる。
【0067】
(4)また、形成部2では、押圧部材21と、第1及び回転部材23、25とにおける当接部22、24A、26Aは、尖った部位として構成されている。このため、脆弱部31を良好に形成できる。
【0068】
(5)また、形成部2における押圧部材21は、溶接ワイヤ3に対し接近及び離間することで、脆弱部31を形成する。また、第1及び回転部材23、25は、回転することで脆弱部31を形成する。このため、脆弱部31を良好に形成できる。
【0069】
[6.他の実施形態]
(1)上記実施形態において、形成位置30の間隔dは、以下の式2により設定されても良い。
【0070】
(式2)d=V×T/N(Nは2以上の整数)
このような場合であっても、溶滴移行の発生が見込まれる時期に、溶接ワイヤ3の先端の溶融部分に複数の脆弱部31が存在するよう促されるため、より小さい電磁ピンチ力により溶滴移行が発生し得る。このため、ワークへの入熱を抑制しつつ、溶滴移行を良好に行うことができる。
【0071】
(2)上記実施形態においては、形成部2は、溶接装置1の一部として構成されているが、これに限らず、形成部2を単独の装置として構成しても良い。そして、パルスアーク溶接を行う溶接装置と共に形成部2を用い、該溶接装置にてパルスアーク溶接が行われている際に、溶接ワイヤ3に脆弱部31を形成しても良い。また、パルスアーク溶接が行われていない時に、形成部2により、予め定められた周期T及び送給速度Vに対応する脆弱部31を溶接ワイヤ3に形成しても良い。
【0072】
(3)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…溶接装置、10…溶接トーチ、15…送給装置、17…溶接制御部、18…パルス電流、2…形成部、21…押圧部材、22…当接部、23…第1回転部材、24A…当接部、25…第2回転部材、26A…当接部、3…溶接ワイヤ、30…形成位置、31…脆弱部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6