(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086539
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】樹脂シート及び成形容器
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230615BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230615BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
B32B27/30 B
B32B27/00 H
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201123
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 敬司
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AD05
3E086AD06
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA29
3E086BB90
3E086CA01
3E086CA11
3E086CA29
3E086CA33
3E086DA08
4F100AA21A
4F100AK04A
4F100AK12A
4F100AK12B
4F100AK12C
4F100AK29A
4F100AK29B
4F100AK29C
4F100AK73A
4F100AK73B
4F100AK73C
4F100AN02A
4F100AN02B
4F100AN02C
4F100BA03
4F100DC13
4F100EH20
4F100GB16
4F100JC00A
4F100JK10
4F100JK17
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂を含有する樹脂シートにおいて、優れたノッチ折れ性及び優れた耐衝撃性を兼備する樹脂シートを提供することを課題とする。
【解決手段】ポリスチレン系樹脂と、植物由来ポリエチレン系樹脂と、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂を相溶化させるための相溶化剤とを含有する基材層を備え、ポリスチレン系樹脂はブタジエンゴムを含有しても含有しなくてもよく、ポリスチレン系樹脂がブタジエンゴムを含有する場合は、当該ブタジエンゴムのメジアン径が3.5μm以下であり、基材層中のブタジエンゴムの含有量が0質量%超3質量%以下である樹脂シート。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂と、植物由来ポリエチレン系樹脂と、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂を相溶化させるための相溶化剤とを含有する基材層を備え、
ポリスチレン系樹脂はブタジエンゴムを含有しても含有しなくてもよく、ポリスチレン系樹脂がブタジエンゴムを含有する場合は、当該ブタジエンゴムのメジアン径が3.5μm以下であり、基材層中のブタジエンゴムの含有量が0質量%超3質量%以下である樹脂シート。
【請求項2】
樹脂シート中の植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量が0.1質量%以上35質量%以下である請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
基材層中において、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂の合計100質量部に対して、植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量が10質量部以上30質量部以下である請求項1又は2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
基材層中の相溶化剤の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である請求項1~3の何れか一項に記載の樹脂シート。
【請求項5】
基材層中のポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂の合計含有量が90質量%以上である請求項1~4の何れか一項に記載の樹脂シート。
【請求項6】
基材層の一方の面に積層されたポリスチレン系樹脂を含有する表皮層と、基材層の表皮層を有する側の面とは反対側の面に積層されたポリスチレン系樹脂を含有する下皮層と、を更に備える請求項1~5の何れか一項に記載の樹脂シート。
【請求項7】
表皮層及び下皮層を構成するポリスチレン系樹脂はそれぞれメジアン径が4.5μm以下のブタジエンゴムを含有しており、表皮層中のブタジエンゴムの含有量が0質量%超8.0質量%以下であり、下皮層中のブタジエンゴムの含有量が0質量%超8.0質量%以下である請求項6に記載の樹脂シート。
【請求項8】
表皮層中のブタジエンゴムの含有量が5.0質量%以上7.5質量%以下であり、下皮層中のブタジエンゴムの含有量が5.0質量%以上7.5質量%以下である請求項7に記載の樹脂シート。
【請求項9】
表皮層及び下皮層の平均厚みは、樹脂シートの平均総厚みに対し、それぞれ0.1%以上15%以下である請求項7又は8に記載の樹脂シート。
【請求項10】
平均総厚みが200μm以上1300μm以下である請求項1~9の何れか一項に記載の樹脂シート。
【請求項11】
バイオマス度が0.1質量%以上40質量%以下である請求項1~10の何れか一項に記載の樹脂シート。
【請求項12】
JIS K7211-1:2006に準拠して測定されるデュポン衝撃強度が2.0J以上である請求項1~11の何れか一項に記載の樹脂シート。
【請求項13】
JIS P8115:2001に準拠し、長手方向がMD方向に平行な試験片を採取して耐折強さ試験方法を実施すると、破断するまでの往復折曲げ回数が平均で300回未満である請求項1~12の何れか一項に記載の樹脂シート。
【請求項14】
JIS P8115:2001に準拠し、長手方向がTD方向に平行な試験片を採取して耐折強さ試験方法を実施すると、破断するまでの往復折曲げ回数が平均で300回未満である請求項1~13の何れか一項に記載の樹脂シート。
【請求項15】
請求項1~14の何れか一項に記載の樹脂シートを備える成形容器。
【請求項16】
前記樹脂シートにはノッチが形成されている請求項15に記載の成形容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂を含有する樹脂シート及びそれを備える成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂を含有する樹脂シートは、成形加工性に優れるため、従来から食品容器、飲料容器、各種トレイを含む工業用容器等の各種包材用途に幅広く用いられている。特に、ブタジエンゴムにポリスチレンがグラフト共重合したハイインパクトポリスチレン(HIPS)は、耐衝撃性の優れた樹脂シートが得られることからその需要が伸びており、関連する技術開発も進展している。
【0003】
特開2015-199311号公報においては、ハイインパクトポリスチレン及びポリスチレンの混合物を主成分とする中芯層と、中芯層の両面に配置されたハイインパクトポリスチレンを主成分とする外層とからなる積層シートにおいて、全厚に対する中芯層の厚み、中芯層及び外層のポリブタジエン量を特定範囲に設定することにより、ノッチ折れ性、耐衝撃性及び成形性に優れる積層シートが得られることが記載されている。
【0004】
一方で、近年、環境への負荷を軽減する観点からバイオマスプラスチックの需要が高まっている。バイオマスプラスチックとしては、植物由来のポリエチレンが上市されており、二酸化炭素の排出量の削減に寄与することが期待されている。
【0005】
特開2020-193274号公報には、ポリスチレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂を混合した樹脂組成物において、ポリエチレン系樹脂が植物由来ポリエチレンを含むことが記載されている。当該公報には、ポリスチレンとポリエチレンは相溶性が悪く、これらの樹脂を混合した樹脂組成物をシート状に押出して成形すると、形状が不安定、割れやすい、剛性が低くなる等の問題が生じることが記載されており、ポリスチレンとポリエチレンの相溶性を改善すべく、相溶化剤を添加することが記載されている。当該公報には、ポリスチレン系樹脂が耐衝撃性ポリスチレン及び汎用ポリスチレンを含有することで、シート成形性に優れ、良好な強度を備えたポリスチレン系樹脂組成物を得ることが記載されている。そして、特許文献2には、当該ポリスチレン系樹脂組成物を成形することで得られた樹脂シートは、曲げ抗力及びフィルムインパクトが良好であったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-199311号公報
【特許文献2】特開2020-193274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の積層シートは、ノッチ折れ性及び耐衝撃性に優れていることが記載されているものの、特許文献1に記載されている大部分の実施例においては耐衝撃性が十分とは言えないし、環境への配慮も不十分である。また、特許文献2に記載の樹脂組成物は、植物由来ポリエチレン系樹脂を含有しており環境性能に優れている。しかしながら、特許文献2はポリスチレン系樹脂組成物の強度向上を目的としており、特許文献2に記載のポリスチレン系樹脂組成物においてノッチ折れ性を向上することは特許文献2の目的から逸脱すると考えられる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、一実施形態において、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂を含有する樹脂シートにおいて、優れたノッチ折れ性及び優れた耐衝撃性を兼備する樹脂シートを提供することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、そのような樹脂シートを備える成形容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討したところ、樹脂シートは単層で構成される場合と多層で構成される場合があるが、何れの場合であっても、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂を含有する樹脂層においては、従来耐衝撃性を高めるために含有していたブタジエンゴムは不要であり、ブタジエンゴムを含有する場合であっても、微細なブタジエンゴムを少量含有するのに止めるべきであることを見出した。本発明は当該知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
【0010】
[1]
ポリスチレン系樹脂と、植物由来ポリエチレン系樹脂と、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂を相溶化させるための相溶化剤とを含有する基材層を備え、
ポリスチレン系樹脂はブタジエンゴムを含有しても含有しなくてもよく、ポリスチレン系樹脂がブタジエンゴムを含有する場合は、当該ブタジエンゴムのメジアン径が3.5μm以下であり、基材層中のブタジエンゴムの含有量が0質量%超3質量%以下である樹脂シート。
[2]
樹脂シート中の植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量が0.1質量%以上35質量%以下である[1]に記載の樹脂シート。
[3]
基材層中において、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂の合計100質量部に対して、植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量が10質量部以上30質量部以下である[1]又は[2]に記載の樹脂シート。
[4]
基材層中の相溶化剤の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である[1]~[3]の何れか一項に記載の樹脂シート。
[5]
基材層中のポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂の合計含有量が90質量%以上である[1]~[4]の何れか一項に記載の樹脂シート。
[6]
基材層の一方の面に積層されたポリスチレン系樹脂を含有する表皮層と、基材層の表皮層を有する側の面とは反対側の面に積層されたポリスチレン系樹脂を含有する下皮層と、を更に備える[1]~[5]の何れか一項に記載の樹脂シート。
[7]
表皮層及び下皮層を構成するポリスチレン系樹脂はそれぞれメジアン径が4.5μm以下のブタジエンゴムを含有しており、表皮層中のブタジエンゴムの含有量が0質量%超8質量%以下であり、下皮層中のブタジエンゴムの含有量が0質量%超8質量%以下である[6]に記載の樹脂シート。
[8]
表皮層中のブタジエンゴムの含有量が5.0質量%以上7.5質量%以下であり、下皮層中のブタジエンゴムの含有量が5.0質量%以上7.5質量%以下である[7]に記載の樹脂シート。
[9]
表皮層及び下皮層の平均厚みは、樹脂シートの平均総厚みに対し、それぞれ0.1%以上15%以下である[7]又は[8]に記載の樹脂シート。
[10]
平均総厚みが200μm以上1300μm以下である[1]~[9]の何れか一項に記載の樹脂シート。
[11]
バイオマス度が0.1質量%以上40質量%以下である[1]~[10]の何れか一項に記載の樹脂シート。
[12]
JIS K7211-1:2006に準拠して測定されるデュポン衝撃強度が2.0J以上である[1]~[11]の何れか一項に記載の樹脂シート。
[13]
JIS P8115:2001に準拠し、長手方向がMD方向に平行な試験片を採取して耐折強さ試験方法を実施すると、破断するまでの往復折曲げ回数が平均で300回未満である[1]~[12]の何れか一項に記載の樹脂シート。
[14]
JIS P8115:2001に準拠し、長手方向がTD方向に平行な試験片を採取して耐折強さ試験方法を実施すると、破断するまでの往復折曲げ回数が平均で300回未満である[1]~[13]の何れか一項に記載の樹脂シート。
[15]
[1]~[14]の何れか一項に記載の樹脂シートを備える成形容器。
[16]
前記樹脂シートにはノッチが形成されている[15]に記載の成形容器。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態に係る樹脂シートは、植物由来ポリエチレン系樹脂を含有することから環境に優しい樹脂シートであると共に、優れたノッチ折れ性及び優れた耐衝撃性を兼備する。従って、当該樹脂シートを用いることで環境性能と実用性を兼ね備えた各種の成形品、例えば、飲料、食品、化粧品、家電製品及びその他の日用品のパックやトレイ等の成形容器を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る樹脂シートの積層構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の別の一実施形態に係る樹脂シートの積層構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る樹脂シートは一実施形態において、ポリスチレン系樹脂と、植物由来ポリエチレン系樹脂と、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂を相溶化させるための相溶化剤とを含有する基材層を備える。樹脂シートは基材層のみの単層構造としてもよいが、樹脂シートを成形容器に成形する際の蓋材とのヒートシール性確保、樹脂シートの外観調節、及び/又は製造コスト低減等の理由により、基材層の一方の面に積層されたポリスチレン系樹脂を含有する表皮層と、基材層の表皮層を有する側の面とは反対側の面に積層されたポリスチレン系樹脂を含有する下皮層とを更に備えることで多層構造とすることが好ましい。
【0014】
図1には、本発明の一実施形態に係る樹脂シート10の断面構造が模式的に示されている。樹脂シート10は、紙面の上から下に向かって、表皮層11/基材層12/下皮層13がこの順に積層された積層構造を備える。本実施形態において、表皮層11と基材層12は接着層を介することなく直接接合されており、基材層12と下皮層13は接着層を介することなく直接接合されている。
【0015】
以下、基材層12、表皮層11、下皮層13の順に各層を説明した上で、樹脂シート10自体とそれから成形される成形容器としての食品包装容器について例示的に説明する。
【0016】
<基材層12>
基材層は一実施形態において、ポリスチレン系樹脂と、植物由来ポリエチレン系樹脂と、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂を相溶化させるための相溶化剤とを含有する。
【0017】
基材層を構成するポリスチレン系樹脂にはブタジエンゴムを含有しても含有しなくてもよい。ブタジエンゴムは従来、耐衝撃性を高めるためにポリスチレン系樹脂中に含有されていたが、ポリエチレン系樹脂が同様の効果を奏するため、含有されていなくても優れた耐衝撃性を得ることが可能である。但し、製造コストの面から、ブタジエンゴムを含有するポリスチレン系樹脂を含有させて、植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量を減らすという実施態様が望ましい場合もある。ポリスチレン系樹脂がブタジエンゴムを含有する場合、所望の耐衝撃性及びノッチ折れ性を両立させる上では、微細なブタジエンゴムを少量含有することが有利である。
【0018】
ブタジエンゴムを含有しないポリスチレン系樹脂としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレン及びクロロスチレン等のスチレン系モノマーの単独重合体、並びに、これらスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体といったポリスチレン系樹脂が挙げられる。市場では汎用ポリスチレン(GPPS樹脂)として入手可能である。スチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体としては、例えばポリスチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)が挙げられる。ポリスチレン系樹脂は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
ブタジエンゴムを含有するポリスチレン系樹脂を製造する方法としては、限定的ではないが、ポリブタジエンの存在下にスチレン系モノマーを重合する方法が挙げられる。当該方法により、ポリスチレン系樹脂中に、ポリスチレン系モノマーがグラフト重合した複数のブタジエンゴム粒子が分散した構造を有するグラフト重合体を直接得ることが可能である。スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレン等が挙げられる。
【0020】
ブタジエンゴムを含有するポリスチレン系樹脂は市販されている。例えばハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)、ポリスチレン-アクリロニトリルグラフト重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。ハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)は、ゴム質重合体(代表的にポリブタジエン)の存在下にスチレンモノマーを重合させることによって得られ、スチレン重合体を連続相(海)とし、スチレンモノマーの一部がグラフト重合したゴム質重合体を分散相(島)とした海島構造を有する。ABS樹脂は、ゴム質重合体(代表的にポリブタジエン)の存在下にスチレンモノマーとアクリロニトリルモノマーを重合させることによって得られ、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)を連続相(海)とし、スチレンモノマー及びアクリロニトリルモノマーの一部がグラフト重合したゴム質重合体を分散相(島)とした海島構造を有する。
【0021】
ブタジエンゴムを含有するポリスチレン系樹脂を基材層中に使用する場合は、汎用ポリスチレン(GPPS樹脂)とハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)の混合物を用いることで、ゴム分含有量を調整することができる。GPPS樹脂の混合比率は所望のゴム分含有量に従って調整すればよい。また、HIPS樹脂におけるゴム粒子のメジアン径の調整は、重合缶内回転翼の速度等によるせん断力の制御、重合時間の制御、添加剤による重合制御等によって行うことが可能である。
【0022】
基材層中のブタジエンゴムのメジアン径(「ゴムメジアン径」ともいう。)は3.5μm以下であることが好ましく、3.4μm以下であることがより好ましい。ゴムメジアン径に下限は設定されないが、ブタジエンゴムを含有することの利点を有意に得るという観点からは、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。当該ゴムメジアン径を好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上とすることで、適度な耐衝撃性を得ることができ、樹脂シートを成形することで得られる成形容器等の成形品を落下させた際に成形品の破損を発生し難くすることができる。また、ゴムメジアン径を好ましくは3.5μm以下、より好ましくは3.4μm以下とすることで、亀裂が伝播され易くなるため、樹脂シートを容器等の成形品に成形し、ノッチを形成したときのノッチ折れ性が向上する。本明細書において、上記のゴムメジアン径は、レーザー回折・散乱粒度分布計により測定される体積基準の粒度分布に基づくメジアン径(D50)を指す。
【0023】
また、ブタジエンゴムを含有するポリスチレン系樹脂を基材層中に使用する場合、基材層中のブタジエンゴムの含有量は0質量%超3質量%以下であることが好ましい。ブタジエンゴムを含有することの利点が有意に得られるという観点からは、基材層中のブタジエンゴムの含有量の下限は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。但し、ポリエチレン系樹脂を含有する樹脂シート中では、ブタジエンゴムの含有量が3質量%を超えると、耐衝撃性が急激に悪化しやすい。このことから、基材層中のブタジエンゴムの含有量の上限は、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。
【0024】
植物由来ポリエチレン系樹脂とは、植物由来エチレンを含むモノマーを重合することで製造される樹脂を意味する。植物由来ポリエチレン系樹脂の原料モノマーは、植物由来エチレンを100質量%含むものではなくてもよいが、環境性能を高めるという観点からは、バイオマス度が60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更により好ましい。植物由来ポリエチレン系樹脂のバイオマス度はASTM D6866-20に準拠したバイオベース濃度試験により測定される全炭素含有量(TO)に対するバイオベースの炭素含有量の割合を指す。
【0025】
植物由来ポリエチレン系樹脂としては、例えば、エチレンの単独重合体、並びに、エチレンと他のα-オレフィンとの共重合体といったポリエチレン系樹脂であって、エチレンとして植物由来エチレンを少なくとも部分的に使用するポリエチレン系樹脂が挙げられる。α-オレフィンとしては、限定的ではないが、ブテン、ヘキセン及びオクテンから選択される一種以上であることが好ましい。植物由来ポリエチレン系樹脂は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
植物由来ポリエチレン系樹脂の分岐及び密度の観点からの種別としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の何れを使用することも可能であり、これらは、一種又は二種以上をブレンドして用いることができるが、樹脂シートのデュポン衝撃強度向上の理由により、少なくともLLDPEを含有するのが好ましい。
【0027】
本明細書において、高密度ポリエチレン(HDPE)とは、密度が0.942g/cm3以上0.970g/cm3以下のポリエチレンを指す。
本明細書において、中密度ポリエチレン(MDPE)とは、密度が0.925g/cm3以上0.942g/cm3未満のポリエチレンを指す。
本明細書において、低密度ポリエチレン(LDPE)とは、密度が0.910g/cm3以上0.925g/cm3未満のポリエチレンを指す。低密度ポリエチレン(LDPE)の中でも、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は、エチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとのランダム共重合体であり、引張り、耐引裂き、耐衝撃強度、シール強度、耐ストレスクラッキング性等の点において優れている。上記樹脂の使い分けは、用途等に依存する。
【0028】
環境性能、耐衝撃性及びノッチ折れ性をバランスよく向上させる上では、基材層中において、ポリスチレン系樹脂(ブタジエンゴムを含有している場合は、ブタジエンゴムもポリスチレン系樹脂に含める。以下同様。)及び植物由来ポリエチレン系樹脂の合計100質量部に対して、植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量は5質量部以上50質量部以下であることが好ましく、10質量部以上40質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上30質量部以下であることが更により好ましい。
【0029】
先述した基材層中のブタジエンゴムの含有量の好適な範囲は、基材層中の植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量によっても変動し得る。
基材層中において、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂の合計100質量部に対する植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量が25質量部以上の場合には、基材層中のブタジエンゴムの含有量は0質量%以上1質量%以下が好ましく、0質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。
基材層中において、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂の合計100質量部に対する植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量が25質量部未満の場合、とりわけ20質量部以下の場合には、基材層中のブタジエンゴムの含有量は1質量%超3質量%以下が好ましく、1.5質量%以上2.5質量%以下がより好ましい。
【0030】
樹脂シート中の植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量は、環境性能及び製造コストとのバランスを考慮すると、0.1質量%以上35質量%以下であることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上25質量%以下であることが更により好ましい。
【0031】
基材層が、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂を相溶化させるための相溶化剤を含有することで、耐衝撃性を向上させることができる。相溶化剤としては、限定的ではないが、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-エチレンブロック共重合体(SEBC)、及びスチレン-ブタジエン共重合体(SBC)に代表されるスチレン系エラストマーを用いることができる。基材層中の相溶化剤の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上4質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上3質量%以下であることが更により好ましい。
【0032】
樹脂シートやその成形品に対しレーザー照射等による印字加工を行う場合、基材層は白色顔料を1phr以上5phr以下含有することが好ましい。更には、基材層が含有する白色顔料が1.5phr以上4phr以下であることがより好ましい。ここで使用される単位phrは、基材層における全樹脂成分の100質量部当たりの白色顔料の質量部を指す。白色顔料が基材層中に1phr以上含有されることで隠蔽性が得られ、樹脂シート及びその成形品へ印字加工を行う際に、印字発色を良くすることができ、更には遮光性が得られ、成形品外部からの光照射による内容物の変色や変質を抑制することができる。
また、基材層中の白色顔料を5phr以下とすることで、白色顔料の凝集が抑制でき、樹脂シート及びその成形品の凝集物等による外観不良を抑制することができる。コスト面を考慮すると、白色顔料は少ない方が好ましい。
【0033】
前記白色顔料としては、酸化チタン(チタン白)、亜鉛華(亜鉛白)、リトポン、鉛白等があり、中でも酸化チタンが好適である。前記白色顔料は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
基材層には、本発明の効果を阻害しない範囲であるならば、その他の樹脂が混在してもよいし、樹脂成分以外の各種添加成分を加えることも許容される。斯かる添加成分としては、上述した白色顔料の他、他の顔料、染料等の着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカ等の粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属等との塩化合物やポリアルキレングリコール等の帯電防止剤及び紫外線吸収剤、抗菌剤のような添加剤が挙げられる。また、本発明の一実施形態に係る樹脂シート及び成形容器の製造工程で発生したスクラップ樹脂を混合することもできる。
【0035】
一般的には、基材層中のポリスチレン系樹脂(ブタジエンゴムを含有している場合は、ブタジエンゴムもポリスチレン系樹脂に含める。)及び植物由来ポリエチレン系樹脂の合計含有量は90質量%以上であり、典型的には93質量%以上であり、例えば90質量%以上98質量%以下である。
【0036】
基材層の厚みは、好ましくは160~1200μmであり、より好ましくは180~1000μmである。基材層の厚みを160μm以上とすることは、樹脂シートを成形することで得られる成形品の強度を確保できる点で有利である。基材層の厚みを1200μm以下とすることは、樹脂シートとその熱成形容器等の成形品のコストを抑制することができる点で有利である。
【0037】
<表皮層11>
表皮層は基材層の一方の面に積層されている。表皮層は基材層を保護する役割を果たし、樹脂シートを成形容器に成形する際の蓋材とのヒートシール性確保、樹脂シートの外観調節、及び/又は製造コスト低減等の理由により、設けることが好ましい。一実施形態において、表皮層はポリスチレン系樹脂を含有する。表皮層が基材層と同様にポリスチレン系樹脂を含有することは、樹脂シートの耐衝撃性を高めたり、基材層との十分な層間接着力を得たりする点で有利である。好ましい実施形態においては、樹脂シートの耐衝撃性の向上効果を高めるために、表皮層はブタジエンゴムを含有するポリスチレン系樹脂を含有する。
【0038】
ブタジエンゴムを含有するポリスチレン系樹脂の例としては、基材層の説明で述べたグラフト重合体、すなわち、ポリブタジエンの存在下にスチレン系モノマーを重合して得られるグラフト重合体、例えばハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)、ポリスチレン-アクリロニトリルグラフト重合体(ABS樹脂)等を使用できる。ポリスチレン系樹脂は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、基材層と同様に、表皮層には、ブタジエンゴムを含有しないポリスチレン系樹脂を適宜配合してもよい。中でも、汎用ポリスチレン(GPPS樹脂)とハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)の混合物を表皮層に用いることが、樹脂シートを成形することで得られる成形容器等の剛性と熱成形性から好ましい。HIPS樹脂とGPPS樹脂の混合比率は所望のゴム分含有量に従って調整すればよい。
【0039】
表皮層中のブタジエンゴムのメジアン径(「ゴムメジアン径」ともいう。)は4.5μm以下であることが好ましく、4.2μm以下であることがより好ましい。ゴムメジアン径に下限は設定されないが、表皮層がブタジエンゴムを含有することの利点を有意に得るという観点からは、1μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましい。当該ゴムメジアン径を好ましくは1μm以上、より好ましくは4μm以上とすることで、適度な耐衝撃性を得ることができ、樹脂シートを成形することで得られる成形容器等の成形品を落下させた際に成形品の破損を発生し難くすることができる。また、当該ゴムメジアン径を好ましくは4.5μm以下、より好ましくは4.2μm以下とすることで、亀裂が伝播され易くなるため、樹脂シートを容器等の成形品に成形し、ノッチを形成したときのノッチ折れ性が向上する。本明細書において、上記のゴムメジアン径は、レーザー回折・散乱粒度分布計により測定される体積基準の粒度分布に基づくメジアン径(D50)を指す。
【0040】
また、ブタジエンゴムを含有するポリスチレン系樹脂を表皮層中に使用する場合、表皮層中のブタジエンゴムの含有量は0質量%超8.0質量%以下であることが好ましい。ブタジエンゴムを含有することの利点が有意に得られるという観点からは、表皮層中のブタジエンゴムの含有量の下限は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上であり、更により好ましくは5.0質量%以上である。また、ノッチ折れ性と容器の耐衝撃強度を両立させる観点から、表皮層中のブタジエンゴムの含有量の上限は、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下である。
【0041】
表皮層においても、基材層と同様に、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の樹脂が混在してもよいし、樹脂成分以外の各種添加成分を加えることも許容される。斯かる添加成分としては、異なる成分を相溶させる相溶化剤、顔料、染料等の着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカ等の粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属等との塩化合物やポリアルキレングリコール等の帯電防止剤及び紫外線吸収剤、抗菌剤のような添加剤が挙げられる。表皮層は、樹脂シートの外観を向上させるため、スクラップ樹脂を含有しないことが望ましい。
【0042】
一般的には、表皮層におけるポリスチレン系樹脂(ブタジエンゴムを含有する場合は、ブタジエンゴムもポリスチレン系樹脂に含める。)の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。好ましい実施形態においては、表皮層におけるHIPS樹脂及びGPPS樹脂の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0043】
表皮層の平均厚みは、樹脂シートの平均総厚みに対し、0.1%以上15%以下であることが好ましく、3%以上13%以下であることがより好ましく、5%以上10%以下であることが更により好ましい。表皮層の平均厚みを、樹脂シートの平均総厚みに対し、好ましくは0.1%以上、より好ましくは3%以上、更により好ましくは5%以上とすることで、表皮層を設けることによる利点を有意に発揮することができる。また、表皮層の平均厚みを、樹脂シートの平均総厚みに対し、好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下、更により好ましくは10%以下とすることで、樹脂シート全体中に占める植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量が多くなる為、バイオマスプラスチック材料をより多く含み環境に優しいという利点が得られる。
【0044】
<下皮層13>
下皮層は基材層の表皮層を有する側の面とは反対側の面に積層されている。下皮層は表皮層と同様に基材層を保護する役割を果たし、樹脂シートを成形容器に成形する際の蓋材とのヒートシール性確保、樹脂シートの外観調節、及び/又は製造コスト低減等の理由により、設けることが好ましい。一実施形態において、下皮層はポリスチレン系樹脂を含有する。下皮層が基材層と同様にポリスチレン系樹脂を含有することは、樹脂シートの耐衝撃性を高めたり、基材層との十分な層間接着力を得たりする点で有利である。好ましい実施形態においては、樹脂シートの耐衝撃性の向上効果を高めるために、下皮層はブタジエンゴムを含有するポリスチレン系樹脂を含有する。また、下皮層は、基材層を挟んで表皮層と対称に設けてもよい。これにより、樹脂シートは厚み方向に対称な積層構造を有することになるので、樹脂シートを他の物品に貼り付ける場合にその表裏を気にすることなく使用でき、取り扱い易さが向上する。
【0045】
ブタジエンゴムを含有するポリスチレン系樹脂の例としては、基材層の説明で述べたグラフト重合体、すなわち、ポリブタジエンの存在下にスチレン系モノマーを重合して得られるグラフト重合体、例えばハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)、ポリスチレン-アクリロニトリルグラフト重合体(ABS樹脂)等を使用できる。ポリスチレン系樹脂は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、基材層と同様に、下皮層には、ブタジエンゴムを含有しないポリスチレン系樹脂を適宜配合してもよい。中でも、汎用ポリスチレン(GPPS樹脂)とハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)の混合物を下皮層に用いることが、樹脂シートを成形することで得られる成形容器等の剛性と熱成形性から好ましい。HIPS樹脂とGPPS樹脂の混合比率は所望のゴム分含有量に従って調整すればよい。
【0046】
下皮層中のブタジエンゴムのメジアン径(「ゴムメジアン径」ともいう。)は4.5μm以下であることが好ましく、4.2μm以下であることがより好ましい。ゴムメジアン径に下限は設定されないが、下皮層がブタジエンゴムを含有することの利点を有意に得るという観点からは、1μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましい。当該ゴムメジアン径を好ましくは1μm以上、より好ましくは4μm以上とすることで、適度な耐衝撃性を得ることができ、樹脂シートを成形することで得られる成形容器等の成形品を落下させた際に成形品の破損を発生し難くすることができる。また、当該ゴムメジアン径を好ましくは4.5μm以下、より好ましくは4.2μm以下とすることで、亀裂が伝播され易くなるため、樹脂シートを容器等の成形品に成形し、ノッチを形成したときのノッチ折れ性が向上する。本明細書において、上記のゴムメジアン径は、レーザー回折・散乱粒度分布計により測定される体積基準の粒度分布に基づくメジアン径(D50)を指す。
【0047】
また、ブタジエンゴムを含有するポリスチレン系樹脂を下皮層中に使用する場合、下皮層中のブタジエンゴムの含有量は0質量%超8.0質量%以下であることが好ましい。ブタジエンゴムを含有することの利点が有意に得られるという観点からは、下皮層中のブタジエンゴムの含有量の下限は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上であり、更により好ましくは5.0質量%以上である。また、ノッチ折れ性と容器の耐衝撃強度を両立させる観点から、下皮層中のブタジエンゴムの含有量の上限は、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下である。
【0048】
下皮層においても、基材層と同様に、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の樹脂が混在してもよいし、樹脂成分以外の各種添加成分を加えることも許容される。斯かる添加成分としては、異なる成分を相溶させる相溶化剤、顔料、染料等の着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカ等の粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属等との塩化合物やポリアルキレングリコール等の帯電防止剤及び紫外線吸収剤、抗菌剤のような添加剤が挙げられる。下皮層は、樹脂シートの外観を向上させるため、スクラップ樹脂を含有しないことが望ましい。
【0049】
一般的には、下皮層におけるポリスチレン系樹脂(ブタジエンゴムを含有する場合は、ブタジエンゴムもポリスチレン系樹脂に含める。)の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。好ましい実施形態においては、下皮層におけるHIPS及びGPPSの合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0050】
下皮層の平均厚みは、樹脂シートの平均総厚みに対し、0.1%以上15%以下であることが好ましく、3%以上13%以下であることがより好ましく、5%以上10%以下であることが更により好ましい。下皮層の平均厚みを、樹脂シートの平均総厚みに対し、好ましくは0.1%以上、より好ましくは3%以上、更により好ましくは5%以上とすることで、樹脂シートの耐衝撃性の向上効果を有意に発揮することができる。また、下皮層の平均厚みを、樹脂シートの平均総厚みに対し、好ましくは15%以下、より好ましくは13%以下、更により好ましくは10%以下とすることで、樹脂シート全体中に含有する植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量が多くなる為、バイオマスプラスチック材料をより多く含み環境に優しいという利点が得られる。一実施形態において、下皮層の平均厚みは、表皮層の平均厚みと一致させることができる。
【0051】
<樹脂シート10>
樹脂シートの平均総厚みは、樹脂シートが単層構造であるか多層構造であるかによらず、200μm以上1300μm以下であることが好ましく、300μm以上1200μm以下であることがより好ましく、500μm以上900μm以下であることが更により好ましい。樹脂シートの平均総厚みを好ましくは200μm以上、より好ましくは300μm以上、更により好ましくは500μm以上とすることで、樹脂シートを成形することで得られる成形品の強度を確保することができる。例えば、熱成形で得られる容器の側面、もしくは底面の十分な厚みが得られ十分な容器の強度を得ることができる。樹脂シートの厚みを1300μm以下、より好ましくは1200μm以下、更により好ましくは900μm以下とすることで、樹脂シート及びその熱成形容器等の成形品のコストを抑制することができる。
【0052】
樹脂シートは、バイオマス度が0.1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、5質量%以上35質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上30質量%以下であることが更により好ましい。樹脂シートのバイオマス度が好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更により好ましくは10質量%以上であることで、樹脂シートの環境性能を高めることができる。但し、製造コストと性能の兼ね合いからは、樹脂シートのバイオマス度は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下であり、更により好ましくは30質量%以下である。樹脂シートのバイオマス度はASTM D6866-20に準拠したバイオベース濃度試験により測定される全炭素含有量(TO)に対するバイオベースの炭素含有量の割合を指す。
【0053】
樹脂シートは、JIS K7211-1:2006に準拠して測定されるデュポン衝撃強度が2.0J以上であることが好ましく、より好ましくは2.5J以上、更により好ましくは2.9J以上である。これにより、樹脂シートを成形容器に成形したときに十分な耐衝撃性が得られ、落下させた際に破損しにくいという利点が得られる。デュポン衝撃強度の上限値には特に制限はないが、例えば4.0J以下とすることができ、典型的には3.5J以下とすることができる。従って、樹脂シートは一実施形態において、JIS K7211-1:2006に準拠して測定されるデュポン衝撃強度が2.0~4.0Jである。ここで、デュポン衝撃強度は、落下荷重300g、測定環境23℃×50%R.H.下でデュポン衝撃試験を行ったときの50%破壊エネルギーE50(J)を指す。
【0054】
樹脂シートは、JIS P8115:2001に準拠し、長手方向がMD方向に平行な試験片を採取して耐折強さ試験方法を実施すると、破断するまでの往復折曲げ回数が平均で300回未満であることが好ましく、200回未満であることがより好ましく、100回未満であることが更により好ましく、50回未満であることが更に好ましく、10回未満であることが最も好ましい。
【0055】
樹脂シートは、JIS P8115:2001に準拠し、長手方向がTD方向に平行な試験片を採取して耐折強さ試験方法を実施すると、破断するまでの往復折曲げ回数が平均で300回未満であることが好ましく、200回未満であることがより好ましく、100回未満であることが更により好ましく、50回未満であることが更に好ましく、10回未満であることが最も好ましい。
【0056】
本発明の実施形態に係る樹脂シートは、一軸延伸した場合に、樹脂シートから長手方向がMD方向に平行な試験片を採取して上記耐折強さ試験方法を実施したときの耐折強さ(以下、「MD方向の耐折強さ」ともいう。)が、樹脂シートから長手方向がTD方向に平行な試験片を採取して上記耐折強さ試験方法を実施したときの耐折強さ(以下、「TD方向の耐折強さ」ともいう。)に比べて大きくなる傾向にある。TD方向及びMD方向の耐折強さの差を低減するためには、二軸延伸することが好ましい。
【0057】
樹脂シートの層構成は、
図1に示す積層構成に限定されるものではない。例えば、各層は、二層以上の構成としてもよい。また、樹脂シートや成形容器等の成形品を製造する工程で発生するスクラップと称される部位を廃棄することなく、細かく粉砕して戻す層、若しくは熱溶融後にリペレット化した再生材を樹脂シート構成中に戻す層を新たに設けてもよい。
【0058】
図2には、本発明の別の一実施形態に係る樹脂シート20の断面構造が模式的に示されている。樹脂シート20は、紙面の上から下に向かって、表皮層11/接着層14a/酸素バリア層15/接着層14b/基材層12/下皮層13がこの順に積層された積層構造を備える。本実施形態において、酸素バリア層15は表皮層11及び基材層12に接着層14a、14bを介して積層されている一方で、基材層12と下皮層13は直接積層されている。
【0059】
表皮層11、基材層12及び下皮層13については
図1に示す実施形態に関連して詳述した通りであるので説明を省略する。
【0060】
<接着層14a、14b>
本実施形態の接着層14a、14bは接着剤を含有する。接着剤としては、限定的ではないが、異種の樹脂層を積層するという観点から、ポリオレフィン系接着剤が好ましい。ポリオレフィン系接着剤は、変性ポリオレフィン系重合体を含有することが好ましく、その代表例としては、エチレン、プロピレン及びブテン-1等の炭素数2~8程度のオレフィンの単独重合体を変性したもの、それらのオレフィンと他のオレフィン(例:エチレン、プロピレン、ブテン-1、3-メチルブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1及びデセン-1等の炭素数2~20程度のオレフィン)及び/又はビニル化合物(例:酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル及びポリスチレン等)との共重合体を変性したもの、並びに、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体等のポリオレフィン系ゴムを変性したものが挙げられる。変性の方法としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸、または、その酸ハライド、アミド、イミド、無水物、エステル等の誘導体、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸グリシジル等を用いてグラフト反応条件下で酸変性する方法が挙げられる。接着剤は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
変性ポリオレフィン系重合体として、中でも、不飽和ジカルボン酸またはその無水物、特にマレイン酸またはその無水物で変性したエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、エチレン-プロピレン共重合体ゴムまたはエチレン-ブテン-1共重合体ゴムから選択される一種又は二種以上を使用することが好適である。
【0062】
接着層14a、14bの厚みはそれぞれ、好ましくは2~30μm、より好ましくは5~20μmである。接着層14a、14bの厚みを2μm以上とすることで、多層樹脂シートでの十分な層間の接着強度を得ることができ、その厚みを30μm以下とすることで、成形後に施される容器等の打抜き加工時に発生するヒゲバリと呼ばれる外観不良の問題を抑制することができる。
【0063】
接着層14a、14bには、本発明の効果を阻害しない範囲であるならば、接着剤以外の各種の添加成分を加えることも許容される。斯かる添加成分としては、顔料、染料等の着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカ等の粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属等との塩化合物やポリアルキレングリコール等の帯電防止剤及び紫外線吸収剤、抗菌剤のような添加剤が挙げられる。しかしながら、一般的には、接着層14a、14bにおける接着剤の含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。好ましい実施形態においては、接着層14a、14bにおける変性ポリオレフィン系重合体の含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0064】
<酸素バリア層15>
本実施形態の酸素バリア層15は酸素バリア性を多層樹脂シートに付与するために酸素バリア性樹脂を含有する。酸素バリア性樹脂としては、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリビニルアルコール、及びポリ塩化ビニリデン等が代表的なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。酸素バリア性樹脂は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。その中でも、押出成形性の面でエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0065】
エチレン-ビニルアルコール共重合体は、通常、エチレン-酢酸ビニル共重合体を鹸化して得られるものであり、酸素バリア性及び押出成形性を具備させるために、エチレン含有量が10~65モル%、好ましくは20~50モル%で、鹸化度が90モル%以上、好ましくは95モル%以上のものが好ましい。
【0066】
また、ポリアミドとしては、カプロラクタム、ラウロラクタム等のラクタムの重合体、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重合体、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-又は1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p-アミノシクロヘキシルメタン)等の脂環式ジアミン、m-又はp-キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等のジアミン単位と、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等のジカルボン酸単位との重縮合体、並びにこれらの共重合体等が挙げられる。
【0067】
ポリアミドとして、具体的には、ナイロン6、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン611、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロンMXD6、ナイロン6/66、ナイロン6/610、ナイロン6/6T、ナイロン6I/6T等があり、中でもナイロン6、ナイロンMXD6が好適である。
【0068】
酸素バリア層15には、本発明の効果を阻害しない範囲であるならば、上述した酸素バリア性樹脂以外の樹脂を配合してもよいし、樹脂成分以外の各種の添加成分を加えることも許容される。斯かる添加成分としては、顔料、染料等の着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカ等の粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属等との塩化合物やポリアルキレングリコール等の帯電防止剤及び紫外線吸収剤、抗菌剤のような添加剤が挙げられる。しかしながら、一般的には、酸素バリア層15における酸素バリア性樹脂の含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。好ましい実施形態においては、酸素バリア層15におけるエチレン-ビニルアルコール共重合体の含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0069】
酸素バリア層15の厚みは、好ましくは1~50μm、より好ましくは5~30μmである。酸素バリア層15の厚みを1μm以上とすることは、多層樹脂シートの酸素バリア性を高める観点で有利である。また、酸素バリア層15の厚みを50μm以下とすることで、多層樹脂シートを容器等に成形する時に酸素バリア層15が熱延伸され易く、より平滑な成形品の厚みを確保でき、より良い外観のある成形品を得ることができる。
【0070】
<樹脂シートの製法>
本発明に係る樹脂シートの製造方法は、特に限定されず、一般的な樹脂シートの成形方法を用いることができる。例えば一つ又は複数の押出成形機を利用して一種類又は複数種類の樹脂を溶融状態で接着積層する溶融押出成形法又は溶融共押出成形法により製造可能である。多層樹脂シートを得る場合、具体的には、3台又はそれ以上の単軸若しくは二軸押出機を用いて各層の原料を溶融押出し、セレクタープラグを付帯したフィードブロックとTダイによって多層樹脂シートを得る方法や、マルチマニホールドダイを使用して多層樹脂シートを得る方法が挙げられる。
【0071】
<成形容器>
本発明に係る樹脂シートは熱成形可能である。従って、本発明の一実施形態によれば、樹脂シートを備える成形品が提供される。成形品の種類には特に制限はないが、例えば、飲料、食品(調味料を含む)、化粧品、家電製品及びその他の日用品のパック、カップ及びトレイ等の成形容器が挙げられる。樹脂シートは一実施形態において、成形容器の一部又は全部を構成することができる。成形容器の中でも、食品の包装容器が好適な実施形態として挙げられる。食品の包装容器の中には、複数の容器体を連結する連結部を備え、連結部にそれぞれの容器体を分離するために切れ込み(以下、「ノッチ」という。)が形成されているものがある。また、包装容器内部に包装された食品を包装容器外部へ排出するために、蓋体にノッチが形成されている分配包装体と呼ばれるものもある。分配包装体は、調味料や飲料等の食品の他、化粧品や薬品等の液状、ペースト状、顆粒状、もしくは粉状を呈した内容物を、指でつまんで折り曲げ操作することにより簡単に抽出できる小型の食品包装容器である。
【0072】
本発明の一実施形態に係る成形容器を構成する樹脂シートは、ノッチを有していてもよい。ノッチは、単層樹脂シートの場合は基材層の何れの表面から形成してもよく、多層樹脂シートの場合は表皮層及び下皮層の何れの側から形成してもよい。
【0073】
多層樹脂シートを成形容器の材料として使用する場合、表皮層11及び下皮層13の何れの層を外面側にしてもよいが、
図2に示す実施形態のように酸素バリア層15を設けた場合は、成形容器の外面側に表皮層11が位置し、成形容器の内面側に下皮層13が位置するように成形容器の一部又は全部を構成することが好ましい。また、分配包装体は、表面の中央部に「ハーフカット部」と呼ばれるノッチを設けた折り曲げ線及び内容物の抽出を容易にするための突起を有する硬質材の蓋体と、その蓋体の裏面に周縁部を固着され折り曲げ線の両側にポケット部を形成する可撓性部材の容器体とを備えるのが一般的である。例示的には、本発明に係る樹脂シートを分配包装体の蓋体に成形することができる。多層樹脂シートを分配包装体の蓋体の材料として使用する場合、蓋体の裏面側(食品に接触する側)に表皮層11が位置し、蓋体の表面側に下皮層13が位置するように分配包装体を製造することが好ましい。
【0074】
樹脂シートの熱成形方法としては、一般的な真空成形及び圧空成形に加え、これらの応用として、樹脂シートの片面にプラグを接触させて熱成形を行うプラグアシスト法、また、樹脂シートの両面に一対をなす雄雌型を接触させて熱成形を行う、いわゆるマッチモールド成形と称される方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、熱成形前に樹脂シートを加熱軟化させる方法として非接触加熱である赤外線ヒーター等による輻射加熱等、公知のシート加熱方法を適応することができる。
【0075】
一実施形態において、樹脂シートは、熱成形工程と、内容物を充填する工程と、蓋材としてのカバーフィルムをヒートシールした後、包装容器を打ち抜いて製品化とする工程とを一貫で行う、所謂フォーム・フィル・シール(FFS)包装に好適に利用可能である。
【実施例0076】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例等の内容に何ら限定されるものではない。
【0077】
<1.樹脂シートの作製>
実施例、比較例で用いた原料は以下の通りである。
・HIPS樹脂(スチレンとブタジエンゴムとのグラフト重合により製造された樹脂):商品名「H850N」(東洋スチレン株式会社)、ゴムメジアン径:4.2μm、ブタジエンゴム含有量:9.0質量%
・HIPS樹脂(スチレンとブタジエンゴムとのグラフト重合により製造された樹脂):商品名「E640N」(東洋スチレン株式会社)、ゴムメジアン径:3.4μm、ブタジエンゴム含有量:6.2質量%
・HIPS樹脂(スチレンとブタジエンゴムとのグラフト重合により製造された樹脂):商品名「H309」(東洋スチレン株式会社)、ゴムメジアン径:4.5μm、ブタジエンゴム含有量:4.3質量%
・HIPS樹脂(スチレンとブタジエンゴムとのグラフト重合により製造された樹脂):商品名「GH-8300」(DIC株式会社)、ゴムメジアン径:3.8μm、ブタジエンゴム含有量:5.7質量%
・GPPS樹脂(スチレンモノマーの単独重合により製造された樹脂):商品名「HRM23」(東洋スチレン株式会社)
・植物由来エチレンを用いて製造された直鎖状低密度ポリエチレン(グリーンLLDPE):商品名「SLH218」(Braskem社)、ASTM D6866に基づくバイオマス度:84質量%以上、密度:0.916g/cm3
・相溶化剤(水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)):商品名「タフテック(登録商標)H1043」(旭化成株式会社)
・白色顔料マスターバッチ:商品名「ET3627」(日弘ビックス株式会社)、マスターバッチ中の酸化チタン濃度:50質量%
【0078】
(実施例1~7、比較例1、6~8)
φ65mm単軸押出機(基材層用)、φ40mm単軸押出機(表皮層用)、φ40mm単軸押出機(下皮層用)を使用して、試験番号に応じた表1及び表2に記載の各層の各原料をフィードブロック法により溶融共押出成形し、冷却ロールで冷却固化後、引き取り機で搬送して巻き取り機でロール状に巻き取った。これにより、表1及び表2に記載の層構成を有し、流れ方向(MD方向)30m、幅方向(TD方向)800mmの多層樹脂シートを得た。
【0079】
(実施例8、比較例2~5)
φ65mm単軸押出機を使用して、試験番号に応じた表1及び表2に記載の基材層の各原料をTダイ法により溶融押出成形し、冷却ロールで冷却固化後、引き取り機で搬送して巻き取り機でロール状に巻き取った。これにより、流れ方向(MD方向)30m、幅方向(TD方向)800mmの単層樹脂シートを得た。
【0080】
<2.特性評価>
得られた実施例及び比較例に係る樹脂シートの各種評価を以下の方法で行った。結果を表1及び表2に示す。
(A)各層の厚み
樹脂シートの流れ方向(MD)に対し垂直方向である幅方向(TD)全体にわたる均等間隔位置5点で試験片を切り出し、試験片を片刃ナイフを用いて断面出しを行い、電子顕微鏡を用いて各層厚みを測定した。
各層厚み値は、樹脂シートの上記5点における各層厚みの平均値とした。
測定機器:電子顕微鏡KH7700(Hirox社)
(B)表皮層、基材層及び下皮層におけるゴムメジアン径
樹脂シートから任意の位置で試験片を切り出し、試験片から片刃ナイフで分析対象の層を削り出した。次いで、溶剤(N,N-ジメチルホルムアミド)でゴム粒子以外を溶解してゴム粒子を分離した後、レーザー回折・散乱粒度分布計(堀場製作所製、型式:LA-920)を用いて、各層におけるゴム粒子のメジアン径(D50)の測定をそれぞれ実施した。
(C)表皮層、基材層及び下皮層におけるゴム粒子の含有量(ゴム分含有量)
熱分解ガスクロマトグラフ法にて測定を実施した。樹脂シートから任意の位置で試験片を切り出し、試験片から片刃ナイフで分析対象の層を削り出した。次いで、熱分解ガスクロマトグラフ(ガスクロマトグラフ/島津製作所社製:型式GC-2010plus、熱分解装置/日本分析工業社製:型式JCI-22)にて一定高温に加熱した環境下に置き、各層を熱分解させ、発生したブタジエンモノマーとスチレンモノマーのガスピーク面積を求め、ゴム分含有量が判っている他樹脂の検量線をベースとして各層におけるゴム分含有量をそれぞれ算出した。
(D)バイオマス度
上記の「グリーンLLDPE」以外はバイオマスを使用していないため、樹脂シート全体のバイオマス度を、「グリーンLLDPE」のバイオマス度及び樹脂シートの組成から計算により求めた。
(E)耐折強さ
樹脂シートから任意の位置で試験片(15mm×110mm)を切り出し、試験片の長手方向両端をチャックしてMIT試験機にてJIS P8115:2001に準拠した耐折強さ試験方法を実施した。試験片は、長手方向をMDとした試験片(表中、「MD」と標記。)と、長手方向をTDとした試験片(表中、「TD」と標記。)の二種類用意し、それぞれについて試験を実施した。
MIT試験機:株式会社東洋精機製作所製型式MIT-D
測定条件:荷重(500g)を掛けた状態で毎分175±10回の速度で試験片に対して垂直線の左右へ135±2℃の角度に試験片を折り曲げる往復折曲げを実施し、試験片が破断するまでの往復折曲げ回数(耐折回数)を測定した。試験はそれぞれ5枚の試験片に対して行い、平均値を求めた。なお、ここでは熱成形前の樹脂シートについての耐折強さを評価したが、熱成形前の樹脂シートの耐折強さは樹脂シートを備えた熱成形品の折れやすさと同じ傾向にあることが分かっている。
耐折強さは下記四水準で評価を行った。
1) ◎:屈曲回数が50回未満
2) 〇:屈曲回数が50回以上300回未満
3) △:屈曲回数が300回以上1000回以下
4) ×:屈曲回数が1000回を超える
(F)デュポン衝撃強度
樹脂シートから縦100mm×横500mmの試験片を作成し、JIS K7211-1:2006に従い、この試験片についてデュポン衝撃試験機(安田精機製作所社製型式No.517)を用いて50%破壊エネルギーE50(J)を測定した。おもりは多層樹脂シートの場合は下皮層、単層樹脂シートの場合は基材層に衝突させ、落下荷重300g、測定環境23℃×50%R.H.下で行った。
結果は下記四水準で評価を行った。
1) ◎:E50が3.0Jを超える
2) 〇:E50が2.0J以上3.0J以下
3) △:E50が1.0J以上2.0J未満
4) ×:E50が1.0J未満
【0081】
【0082】
【0083】
<3.考察>
比較例1、6、7、8の多層樹脂シートは植物由来ポリエチレン系樹脂を含有しており、環境性能には優れている。しかしながら、比較例1の多層樹脂シートは、基材層中のブタジエンゴムのメジアン径が大き過ぎた、更には基材層中に相溶化剤が含まれていなかったために、衝撃強度が低かった。比較例6、7の多層樹脂シートは基材層が相溶化剤を含有していたが、基材層中のブタジエンゴムのメジアン径が大き過ぎた結果、衝撃強度は高かったが、耐折回数が多くなった(すなわち、ノッチ折れ性が悪かった)。比較例8の多層樹脂シートは、基材層が相溶化剤を含有していたが、基材層中のブタジエンゴムの含有量が過多であった結果、衝撃強度は高かったが、耐折回数が多くなった(すなわち、ノッチ折れ性が悪かった)。
一方、実施例1~7の多層樹脂シートは、相溶化剤を含有し、基材層中のブタジエンゴムの含有量及びメジアン径が適切であったことから、植物由来ポリエチレン系樹脂を含有することで優れた環境性能を有しながら、耐折回数が少なく(すなわち、ノッチ折れ性が良好)、衝撃強度も高かった。
【0084】
比較例2~5の単層樹脂シートは植物由来ポリエチレン系樹脂を含有しており、環境性能には優れている。しかしながら、比較例2、5の単層樹脂シートは、基材層中のブタジエンゴムのメジアン径が大き過ぎ、更には基材層中に相溶加剤が含まれていなかったために、衝撃強度が低かった。比較例3、4の単層樹脂シートは、基材層が相溶化剤を含有していたが、基材層中のブタジエンゴムの含有量が多く、更には基材層中のブタジエンゴムのメジアン径が大き過ぎた。その結果、衝撃強度は高かったが、耐折回数が多くなった(すなわち、ノッチ折れ性が悪かった)。
一方、実施例8の単層樹脂シートは、相溶化剤を含有し、基材層中のブタジエンゴムの含有量及びメジアン径が適切であった。このことから、実施例8の単層樹脂シートは、優れた環境性能を有しながら、耐折回数が少なく(すなわち、ノッチ折れ性が良好)、衝撃強度も高かった。
【0085】
実施例2と実施例4を比較すると、相溶化剤の含有量が少ない実施例2の方が耐折回数は少ない傾向にあることが分かる。このことは、実施例6と実施例7を比較することでも理解できる。
【0086】
実施例1と実施例6を比較すると、基材層中において、ポリスチレン系樹脂及び植物由来ポリエチレン系樹脂の合計100質量部に対して、植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量が10質量部以上30質量部以下である実施例1の方が耐折回数が少なく(すなわち、ノッチ折れ性が良好)、衝撃強度も高かった。