(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086543
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】剥離剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 101/08 20060101AFI20230615BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20230615BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20230615BHJP
C09D 5/20 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C09D101/08
C09D7/20
C09D7/65
C09D5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201127
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】513029633
【氏名又は名称】三協化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 智紀
(72)【発明者】
【氏名】中村 喜一郎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 洋平
(72)【発明者】
【氏名】荒川 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 裕賀
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA021
4J038CB002
4J038JA16
4J038NA27
4J038PB05
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】ベンジルアルコールを含有する水性剥離剤における火災及び健康障害のリスクを低減し、ベンジルアルコールを含有する水性剥離剤と同等以上の剥離性を発揮する剥離剤組成物を提供する。
【解決手段】成分(A):フェネチルアルコール及び/又はフェノキシエタノール、成分(B):水、及び成分(C):少なくとも1種のセルロース誘導体を含有する剥離剤組成物であって、該剥離剤組成物中における前記成分(C)の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、該剥離剤組成物中におけるベンジルアルコールの含有量が10質量%未満である、剥離剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):フェネチルアルコール及び/又はフェノキシエタノール、
成分(B):水、及び
成分(C):少なくとも1種のセルロース誘導体
を含有する剥離剤組成物であって、
該剥離剤組成物中における前記成分(C)の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、
該剥離剤組成物中におけるベンジルアルコールの含有量が10質量%未満である、剥離剤組成物。
【請求項2】
前記剥離剤組成物が乳化状態にある、請求項1に記載の剥離剤組成物。
【請求項3】
成分(D)として蒸発抑制剤を更に含有する、請求項1又は2に記載の剥離剤組成物。
【請求項4】
前記蒸発抑制剤が、水系ワックスエマルジョン、パラフィンワックス及び流動パラフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載の剥離剤組成物。
【請求項5】
前記剥離剤組成物中における前記蒸発抑制剤の含有量が0.1質量%以上10質量%以下である、請求項3又は4に記載の剥離剤組成物。
【請求項6】
前記セルロース誘導体が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1つに記載の剥離剤組成物。
【請求項7】
前記剥離剤組成物中における前記成分(A)の含有量が10質量%以上90質量%以下である、請求項1~6のいずれか1つに記載の剥離剤組成物。
【請求項8】
前記剥離剤組成物中における前記成分(B)の含有量が10質量%以上90質量%以下である、請求項1~7のいずれか1つに記載の剥離剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼構造物、車両、航空機、建築物等の旧塗膜を剥離除去するための剥離剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物、車両、航空機、建築物等の表面に形成された塗膜(旧塗膜)を塗り替える方法として、旧塗膜を剥離除去し、新しい塗料を塗装する方法が挙げられる。旧塗膜を剥離除去する方法としては、サンダー処理、ブラスト処理、高圧処理等の物理的方法、あるいは薬剤又は溶剤を使用した化学的方法等が挙げられる。近年では粉塵飛散及び下地損傷等の問題、火災及び健康障害等のリスク、並びに環境配慮の観点から、水系の塗布型塗膜剥離剤(水性剥離剤)が利用されてきている。例えば、特許文献1には、火災、健康障害等のリスクを低減し、溶剤系剥離剤と同等以上の剥離性を発揮することができる水系の塗布型塗膜剥離組成物を提供することを目的として、pHが5~9の範囲にあり、水、ベンジルアルコール及び少なくとも1種のセルロース誘導体を含む塗膜剥離組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ベンジルアルコールを含有する水性剥離剤は、優れた剥離性を有するが、剥離剤による火災及び中毒事案の発生が指摘されている。厚生労働省労働基準局安全衛生部による通知「剥離剤を使用した塗料の剥離作業における労働災害防止について」(令和2年8月17日付け基安化発0817第1号、令和2年10月19日付け基安化発1019第1号により一部改正)によれば、橋梁工事において、ベンジルアルコール含有の剥離剤により塗膜の除去作業を行っていたところ、火災の発生や吸入による重大な中毒事案の発生が報告されている。原因物質であるベンジルアルコールは、水系又はアルコール系剥離剤に使用されている化学物質である。ベンジルアルコールは規制対象とはなっていないが強い有害性があることから、排気装置を設ける等の作業者のばく露濃度を低減させるための措置を講じたうえで、更に作業者には、送気マスク、保護眼鏡並びに不浸透性の保護衣、保護手袋及び保護長靴を使用させることが要求されている。そのため、ベンジルアルコール含有剥離剤の取扱いに関しては、作業者の健康障害の回避措置が必要である一方、作業者の負担増大及び作業効率の悪化が大きな課題となっている。
【0005】
特許文献1では、剥離組成物が水を含有することで火災リスクが減少できることを提案している。しかしながら、現実は、上述のとおり、ベンジルアルコールを含有する水性剥離剤の使用により火災及び中毒事案が発生している。
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、ベンジルアルコールを含有する水性剥離剤における火災及び健康障害のリスクを低減し、ベンジルアルコールを含有する水性剥離剤と同等以上の剥離性を発揮する剥離剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる実情に鑑み鋭意検討した結果、剥離剤組成物においてベンジルアルコールに代えてフェネチルアルコール及び/又はフェノキシエタノールを使用すると共に、少なくとも1種のセルロース誘導体を所定量使用することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に関する。
<1>
成分(A):フェネチルアルコール及び/又はフェノキシエタノール、
成分(B):水、及び
成分(C):少なくとも1種のセルロース誘導体
を含有する剥離剤組成物であって、
該剥離剤組成物中における前記成分(C)の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、
該剥離剤組成物中におけるベンジルアルコールの含有量が10質量%未満である、剥離剤組成物。
<2>
前記剥離剤組成物が乳化状態にある、上記<1>に記載の剥離剤組成物。
<3>
成分(D)として蒸発抑制剤を更に含有する、上記<1>又は<2>に記載の剥離剤組成物。
<4>
前記蒸発抑制剤が、水系ワックスエマルジョン、パラフィンワックス及び流動パラフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記<3>に記載の剥離剤組成物。
<5>
前記剥離剤組成物中における前記蒸発抑制剤の含有量が0.1質量%以上10質量%以下である、上記<3>又は<4>に記載の剥離剤組成物。
<6>
前記セルロース誘導体が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の剥離剤組成物。
<7>
前記剥離剤組成物中における前記成分(A)の含有量が10質量%以上90質量%以下である、上記<1>~<6>のいずれか1つに記載の剥離剤組成物。
<8>
前記剥離剤組成物中における前記成分(B)の含有量が10質量%以上90質量%以下である、上記<1>~<7>のいずれか1つに記載の剥離剤組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の剥離剤組成物は、ベンジルアルコールを含有する水性剥離剤における火災及び健康障害のリスクを低減し、ベンジルアルコールを含有する水性剥離剤と同等以上の剥離性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。本明細書において、「XX~YY」の記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
【0011】
本発明の剥離剤組成物は、
成分(A):フェネチルアルコール及び/又はフェノキシエタノール、
成分(B):水、及び
成分(C):少なくとも1種のセルロース誘導体
を含有する剥離剤組成物であって、
該剥離剤組成物中における前記成分(C)の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、
該剥離剤組成物中におけるベンジルアルコールの含有量が10質量%未満である、剥離剤組成物である。
【0012】
<フェネチルアルコール及び/又はフェノキシエタノール(成分(A))>
本発明の剥離剤組成物は、フェネチルアルコール及び/又はフェノキシエタノールを含有する。「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)」によれば、ベンジルアルコールは、急性毒性(吸入:蒸気)に関して「区分3」に分類されており、「吸入すると有毒」と判断されている。一方、フェネチルアルコール及びフェノキシエタノールは、化粧品配合剤としても知られており、GHS分類では分類対象外である。また、フェネチルアルコールの特定標的臓器毒性(単回ばく露)の臓器(中枢神経、賢臓)の障害は、ベンジルアルコールに比べて一段階低い分類となっている。したがって、フェネチルアルコール及びフェノキシエタノールは、ベンジルアルコールと比べて健康障害に対する危険性及びリスクは低い。ベンジルアルコールに代えてフェネチルアルコール及び/又はフェノキシエタノールを使用することで、ベンジルアルコールを含有する水性剥離剤における火災及び健康障害のリスクを低減することができる。
【0013】
フェネチルアルコール及びフェノキシエタノールは併用してもよい。併用する場合のフェネチルアルコールとフェノキシエタノールとの比率は特に制限は無い。
【0014】
剥離剤組成物中におけるフェネチルアルコール及びフェノキシエタノール(成分(A))の合計含有量は、剥離性の観点から、剥離剤組成物全量に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、火災及び健康障害リスクの低減の観点から、剥離剤組成物全量に対して、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0015】
健康障害のリスクを低減する観点からは、フェネチルアルコールよりもフェノキシエタノールの方が好ましい。健康障害のリスクを更に低減する観点からは、剥離剤組成物中におけるフェネチルアルコールの含有量は、剥離剤組成物全量に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0016】
<ベンジルアルコール>
本発明の剥離剤組成物は、剥離剤組成物中におけるベンジルアルコールの含有量が10質量%未満である。そのため、ベンジルアルコールに起因する火災及び健康障害のリスクを低減することができる。このような観点から、本発明の剥離剤組成物中におけるベンジルアルコールの含有量は、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.5質量%未満である。本発明の剥離剤組成物は、実質的にベンジルアルコールを含まないことがより好ましく、ベンジルアルコールを全く含まないことが更に好ましい。ここで、「実質的に」とは、本発明の効果を奏する範囲であれば含んでもよいという意味である。
【0017】
<水(成分(B))>
本発明の剥離剤組成物は、水を含有する。水系の剥離剤組成物であることで、溶剤系の剥離剤組成物で生じうる火災及び健康障害のリスクを低減することができる。
【0018】
剥離剤組成物中における水(成分(B))の含有量は、火災及び健康障害リスクの低減の観点から、剥離剤組成物全量に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、剥離性の観点及び水の蒸発による組成変化のリスクの観点から、剥離剤組成物全量に対して、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0019】
水(成分(B))に対するフェネチルアルコール及びフェノキシエタノール(成分(A))の合計量の質量比(A/B)は、好ましくは10/90~90/10、より好ましくは20/80~80/20、更に好ましくは30/70~75/25、更に好ましくは40/60~70/30である。
【0020】
<セルロース誘導体(成分(C))>
本発明の剥離剤組成物は、少なくとも1種のセルロース誘導体を含有する。本発明の剥離剤組成物がセルロース誘導体を含有することにより乳化作用を奏し、水とフェネチルアルコール及び/又はフェノキシエタノールとを乳化して水の蒸発揮散を抑制でき、ひいては火災及び健康障害のリスクを低減することができる。また、本発明の剥離剤組成物において、セルロース誘導体は増粘剤として作用する。本発明の剥離剤組成物が増粘剤としてセルロース誘導体を含有することにより、本発明の剥離剤組成物は乳化作用を奏するとともに所定の粘度を有し、その結果、剥離剤組成物を塗布しやすくなるとともに、塗布後の垂れを防止することができる。
【0021】
セルロース誘導体としては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びカルボキシアルキルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びカルボキシアルキルセルロースにおけるアルキル基の炭素数は、被膜を形成する観点から、好ましくは1~8、より好ましくは1~4、更に好ましくは1~3である。
【0022】
セルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
【0023】
セルロース誘導体の粘度は、20℃における2質量%水溶液の粘度値として、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは150mPa・s以上、更に好ましくは200mPa・s以上であり、そして、好ましくは15000mPa・s以下、より好ましくは10000mPa・s以下、更に好ましくは6000mPa・s以下である。
【0024】
セルロース誘導体の具体例としては、メチルセルロース(信越化学工業株式会社製「メトローズ(登録商標)」SM-4000、SM-8000)、エチルセルロース(ダウ・ケミカル社製「ETHOCEL(登録商標)」STD-200)、ヒドロキシエチルセルロース(アシュランド・ジャパン株式会社製「NATROSOL(登録商標)」250HHR、250HR)、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製「NISSO HPC」VH、H、M)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業株式会社製「メトローズ(登録商標)」60SH-4000、60SH-10000、65SH-4000、65SH-15000、90SH-15000)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(信越化学工業株式会社製「メトローズ(登録商標)」SEB-4000)、カルボキシメチルセルロース(日本製紙株式会社製「サンローズ(登録商標)」)等が挙げられる。
【0025】
剥離剤組成物中におけるセルロース誘導体(成分(C))の合計含有量は、塗着性及び乳化安定性の観点並びに火災及び健康障害リスクの低減の観点から、剥離剤組成物全量に対して、0.1質量%以上10質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上4質量%以下である。
【0026】
水(成分(B))並びにフェネチルアルコール及びフェノキシエタノール(成分(A))の合計量に対するセルロース誘導体(成分(C))の質量比(C/(A+B))は、好ましくは0.1/100~10/100、より好ましくは0.3/100~5/100、更に好ましくは0.5/100~4/100である。
【0027】
本発明の剥離剤組成物中における成分(A)、(B)及び(C)の合計含有量は、塗着性及び乳化安定性の観点並びに火災及び健康障害リスクの低減の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0028】
<その他成分>
本発明の剥離剤組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、上記以外の成分を更に含有してもよい。
【0029】
<蒸発抑制剤(成分(D))>
本発明の剥離剤組成物は、蒸発抑制剤を含有してもよく、含有することが好ましい。
本発明者らは、水性剥離剤組成物の調製時及び塗布直後には着火リスクが低いものの、時間経過とともに水が蒸発することで、一定時間経過後に剥離剤組成物が可燃物に変性し、着火燃焼しうることを見出した。本発明の剥離剤組成物が蒸発抑制剤を含有することで、塗布後継続的に水の蒸発を抑制することができ、塗膜剥離作業工程中の火災リスクを大幅に低減することができる。
【0030】
蒸発抑制剤としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトール、水系ワックスエマルジョン、パラフィンワックス、流動パラフィン、マイクロクリスタリン、みつろうの中から、1種類以上が選ばれる。これらの蒸発抑制剤のうち、水系ワックスエマルジョン、パラフィンワックス及び流動パラフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0031】
蒸発抑制剤の具体例としては、水系ワックスエマルジョン(ビックケミー・ジャパン株式会社製「AQUACER」497、530、531、539、541)、ワックスエマルジョン(丸芳化学株式会社製「MYW-135E」、「HT-P135」)、ワックスエマルジョン(日本精鑞株式会社製「EMUSTAR-0136」)、パラフィンワックス(日本精鑞株式会社製「MAW-9088」)、流動パラフィン(ビックケミー・ジャパン株式会社製「BYK-S 782」)等が挙げられる。
【0032】
剥離剤組成物中における蒸発抑制剤(成分(D))の合計含有量は、水の蒸発をより抑制して塗膜剥離作業工程中の火災リスクを大幅に低減する観点から、剥離剤組成物全量に対して、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.4質量%以上8質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。
【0033】
成分(D)を含む場合、水(成分(B))並びにフェネチルアルコール及びフェノキシエタノール(成分(A))の合計量に対する蒸発抑制剤(成分(D))の質量比(D/(A+B))は、好ましくは0.1/100~10/100、より好ましくは0.4/100~8/100、更に好ましくは0.5/100~5/100である。
【0034】
成分(D)を含む場合、水(成分(B))に対する蒸発抑制剤(成分(D))の質量比(D/B)は、好ましくは0.001~1、より好ましくは0.005~0.5、更に好ましくは0.01~0.1である。
【0035】
成分(D)を含む場合、本発明の剥離剤組成物中における成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計含有量は、塗着性及び乳化安定性の観点並びに火災及び健康障害リスクの低減の観点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは97質量%以上である。
【0036】
<無機増粘剤>
本発明の剥離剤組成物は、無機増粘剤を含有してもよい。
無機増粘剤としては、ベントナイト、ヒュームドシリカ等から選択でき、具体的には、ベントナイト(クニミネ工業株式会社製「クニビス」110、127)、4級アンモニウム塩変性ベントナイト(株式会社ホージュン製「エスベン」NZ、NTO)、ヒュームドシリカ(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)」130、200、380、R812、R974、R976)等が挙げられる。
剥離剤組成物中における無機増粘剤の合計含有量は、塗着性を向上させる観点から、剥離剤組成物全量に対して、好ましくは0.02質量%以上4質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上3質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上2質量%以下である。
【0037】
<pH>
本発明の剥離剤組成物は、pHが5以上9以下の範囲にあることが好ましい。pHが5以上9以下の中性近傍であれば、皮膚腐食性及び刺激性が低く、作業者の健康障害リスクを低減できる。また、剥離対象塗膜の支持母体が腐食するリスクも低い。
【0038】
<乳化状態>
本発明の剥離剤組成物は、好ましくは乳化状態にある。すなわち、水と、フェネチルアルコール及び/又はフェノキシエタノールとを乳化し、かつ、セルロース誘導体を相溶して均一に分散していることで、相分離による水の蒸発揮散を抑制でき、ひいては火災及び健康障害のリスクを低減することができる。
【0039】
<不燃性>
本発明の剥離剤組成物は、水系であり、しかも乳化状態にあることで水の蒸発揮散を抑制できるため、不燃性である。具体的には実施例で評価されているとおり、剥離剤組成物1kg/m2に対して、常温で48時間静置後に種火を10秒間近付けても着火しない。
【実施例0040】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。
【0041】
実施例にて使用した化合物は以下のとおりである。
<成分(A):フェネチルアルコール、フェノキシエタノール>
フェネチルアルコール:シグマアルドリッチジャパン合同会社製
フェノキシエタノール:シグマアルドリッチジャパン合同会社製
【0042】
<成分(A’):ベンジルアルコール>
ベンジルアルコール:シグマアルドリッチジャパン合同会社製
【0043】
<成分(C):セルロース誘導体>
HPMC1:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、「メトローズ60SH-4000」、信越化学工業株式会社製
HPMC2:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、「メトローズ60SH-10000」、信越化学工業株式会社製
HPC:ヒドロキシプロピルセルロース、「NISSO HPC VH」、日本曹達株式会社製
MC:メチルセルロース、「メトローズSM-8000」、信越化学工業株式会社製
EC:エチルセルロース、「ETHOCEL STD-200」、ダウ・ケミカル社製
HEC:ヒドロキシエチルセルロース、「Natrosol 250HHR」、アシュランド・ジャパン株式会社製
【0044】
<成分(D):蒸発抑制剤>
MYW-135E:パラフィンワックス系エマルション、「MYW-135E」、丸芳化学株式会社製
EMUSTAR-0136:パラフィンワックス系エマルション、「EMUSTAR-0136」、日本精鑞株式会社製
AQUACER 497:パラフィンワックス系エマルション、「AQUACER 497」、ビックケミー・ジャパン株式会社製
BYK-S 782:流動パラフィン、「BYK-S 782」、ビックケミー・ジャパン株式会社製
【0045】
実施例1~20、比較例1~9
200mLビーカーに、表に示す組成(質量比)で各試料を投入し、撹拌機で均一になるまで充分な時間撹拌し、剥離剤組成物を調製した。得られた剥離剤組成物について、以下の評価を行った。
【0046】
1.増粘性
水及びアルコールの混合物に対してセルロース誘導体を添加した前後における増粘の有無を目視観察し、以下の基準に従って評価した。なお、比較例4~9では、セルロース誘導体を添加していないため増粘性を評価していない(表中「-」と記載)。
○:増粘する
×:増粘しない
【0047】
2.粘度
BM型粘度計(東京計器株式会社製)及びNo.4ローターを用いて、回転速度6rpm、温度25℃の条件で、剥離剤組成物の粘度を測定した。
【0048】
3.乳化安定性
剥離剤組成物の容器保管時における乳化状態を、常温で24時間静置後に目視観察し、以下の基準に従って評価した。
○:液は乳白色であり、均一な乳化状態を維持している
△:液は乳白色部分があるが一部分離しており、乳化状態を一部維持している
×:液は透明であり、分離しており、乳化していない
【0049】
4.pH
剥離剤組成物のpHについて、pH試験紙を用いて目視で測定した。
【0050】
5.塗着性
約75°に立てかけたSUS板に剥離剤組成物を塗布し、塗着の有無を目視観察し、以下の基準に従って評価した。
○:塗着する
△:塗着するが、垂れやすい
×:塗着しない
【0051】
6.乾燥性
SUS板に剥離剤組成物を塗布し、常温で24時間静置後における剥離剤組成物の乾燥状態を目視観察し、以下の基準に従って評価した。
○:液は乳白色のままであり、乾燥しない
△:やや乾燥するが、液は乳白色部分が一部残存している
×:乾燥して水が蒸発し、液は透明化している
【0052】
7.耐着火性(0hr)
小皿に取った直後の剥離剤組成物1kg/m2に対して、種火を10秒間近付けて着火の有無を目視観察し、以下の基準に従って評価した。
○:着火しない
×:着火する
【0053】
8.耐着火性(24hr、48hr)
小皿に取った剥離剤組成物1kg/m2に対して、常温で24時間又は48時間静置後に、種火を10秒間近付けて着火の有無を目視観察し、以下の基準に従って評価した。48時間静置後に着火しなければ合格である。
○:着火しない
×:着火する
【0054】
9.剥離性
フタル酸塗膜(下塗:錆止め、中塗:フタル酸、上塗:フタル酸)に剥離剤組成物を1kg/m2塗布し、常温で24時間静置後、塗膜の剥離性を目視観察し、以下の基準に従って評価した。なお、比較例4~9では、撹拌を止めると二層分離してしまったため、組成物としての剥離性評価が困難であり、剥離性を評価していない(表中「-」と記載)。
○:剥離する
△:一部剥離する
×:剥離しない
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
ベンジルアルコールを使用した比較例1~3は、24時間静置後には水の蒸発が認められた。水の含有量が少ない比較例1及び2では、水の蒸発による影響が早く、24hr以降では着火があった。水の含有量が多い比較例3では、24hrでは水が蒸発しても耐着火性が良好であったが48hr以降では着火があった。
比較例4~9は、乳化せず水と有機溶剤とが二層分離しており、24時間静置後には水が蒸発した。また、耐着火性が0hrでは良好であったが24hr以降では着火があった。これは、比較例4~9では、小皿に取った剥離剤組成物が二相分離して水層が外表面側に位置しており、小皿に取った直後(0hr)では着火しなかったが、その後に水が蒸発したために24hr以降は着火したと考えられる。
これらの比較例に比べて実施例はいずれも、乳化安定性が良好でかつ耐着火性が良好であり、水の蒸発を抑制し、火災及び健康障害のリスクを低減できる。
【0059】
参考例1~4
急性毒性(吸入:蒸気)及び特定標的臓器毒性(単回ばく露)の健康障害リスクが、ベンジルアルコールに比べて、フェノキシエタノール及びフェネチルアルコールは低いことは、本明細書にて述べたとおりである。更に、急性毒性(経口)について評価する。
表2に示した組成物に関して、「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)」に規定された下記式(加算式)にしたがって、各組成物の急性毒性(経口)を算出した。なお、各成分の急性毒性推定値ATEiは、厚生労働省のウェブサイト「職場のあんぜんサイト」及びシグマアルドリッチジャパン合同会社の安全データシート(SDS)から50%致死量(LD50)の値を参照した。組成物の急性毒性推定値(ATEmix)の数値が高いほど毒性が低く健康障害リスクが低いことを示す。
【0060】
【0061】
【0062】
表2の結果から、ベンジルアルコールに比べてフェノキシエタノール及びフェネチルアルコールの方が、急性毒性(経口)が低く、健康障害リスクが低いことが分かる。
本発明の剥離剤組成物は、耐着火性が良好であり、火災リスクが低い。また、乳化安定性が良好であり、水の蒸発を抑制し、火災及び健康障害のリスクを低減できる。そして、ベンジルアルコールを含有する水性剥離剤と同等以上の剥離性を発揮することができる。さらに、本発明の剥離剤組成物が所定量の蒸発抑制剤を含有する場合には、水の蒸発をより抑制することができ、火災及び健康障害のリスクを大幅に低減できる。