(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086575
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】溶接用ナット
(51)【国際特許分類】
F16B 37/06 20060101AFI20230615BHJP
B23K 11/14 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
F16B37/06 C
B23K11/14 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201190
(22)【出願日】2021-12-10
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(74)【代理人】
【識別番号】100126170
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 義之
(72)【発明者】
【氏名】廣井 雄一
(57)【要約】
【課題】ボルト挿通孔の内周面のネジ溝へ悪影響を与えることなく鋼板等の被着体の表面へのプロジェクション溶接を容易に実施することができる上、安価かつ容易に製造することが可能なプロジェクション溶接用のナットを提供する。
【解決手段】溶接用ナット1は、ボルト挿通孔7を穿設してなる筒状のナット本体2の下端際の外周に、フランジ部5が一体的に設けられており、そのフランジ部5の下面に、突起体6,6・・が下方に突出するように設けられているとともに、ナット本体2の下端際の内部に、ボルト挿通孔7の内径より大きな内径を有する絶縁材料からなるスリーブ3が、ナット本体2の下端から突出するように設けられている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロジェクション溶接によって金属板上に溶接される溶接用のナットであって、
ボルト挿通孔を穿設してなる筒状のナット本体の下端際の外周に、フランジ部が一体的に設けられており、そのフランジ部の下面に、突起体が下方に突出するように設けられているとともに、ナット本体の下端際の内部に、前記ボルト挿通孔の内径より大きな内径を有する絶縁材料からなるスリーブが、ナット本体の下端から突出するように設けられていることを特徴とする溶接用ナット。
【請求項2】
前記スリーブが、インサート成形によってナット本体に一体的に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の溶接用ナット。
【請求項3】
前記スリーブの外周の上端縁際に、ナット本体からの脱落防止用の係合手段が形成されていることを特徴とする請求項1、または2に記載の溶接用ナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接によって鋼板等の被着体の表面に固着(溶接)される溶接用ナットに関するものであり、詳しくは、所謂、プロジェクション溶接を利用して被着体の表面に固着される溶接用のナットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の被着体の表面にナットを固着させる場合には、従来、アーク溶接やガス溶接等の方法によって鋼板等の表面にナットが溶接されていた。しかしながら、アーク溶接やガス溶接等の方法によって鋼板等の表面にナットを溶接する際には、スパッタが飛散してナットの内周面のネジ溝に固着してしまう、という不具合があった。それゆえ、アーク溶接やガス溶接等を代替する溶接方法として、下端面に突起体を設けたナットを用い、当該ナットの突起体と鋼板等との接触部分に電気を流し、通電時の抵抗熱を利用してナットの下端面の突起体を溶融させると同時に圧力を加えてナットと鋼板等とを溶着する方法(所謂、プロジェクション溶接)が広く採用されている。
【0003】
ところが、上記したプロジェクション溶接によってナットを鋼板に溶接する方法においては、鋼板のボルト挿通孔に対してナットを正確に位置決めすることが難しい、という不具合があった。それゆえ、特許文献1の如く、絶縁材料からなる位置決めピンをナットのネジ孔および鋼板のボルト挿通孔に挿通させた状態でプロジェクション溶接する方法や、特許文献2の如く、ナットの下端際に円筒状の案内ガイドを下向きに突出するように一体的に形成し、当該案内ガイドを鋼板のボルト挿通孔に挿通させた状態でプロジェクション溶接する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平1-165317号公報
【特許文献2】特開2006-283884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の如く、絶縁材料からなる位置決めピンをナットのボルト挿通孔および鋼板のボルト挿通孔に挿通させた状態でプロジェクション溶接する方法では、鋼板のボルト挿通孔に対してナットを正確に位置決めするためには、位置決めピンの外径をナットのボルト挿通孔に合致させる必要があるため、プロジェクション溶接後に位置決めピンを取り外しにくい、という不具合がある。一方、特許文献2の如く、ナットの下端際に一体的に形成された円筒状の案内ガイドを鋼板のボルト挿通孔に挿通させた状態でプロジェクション溶接する方法では、当該ナットと鋼板とを通電する際に、突起体のみならず案内ガイドにも電流が流れて案内ガイドが溶融してしまう虞がある。
【0006】
本発明の目的は、上記従来の溶接用のナットおよび当該ナットを利用した溶接方法における問題点を解消し、ボルト挿通孔の内周面のネジ溝へ悪影響を与えることなく鋼板等の被着体の表面へのプロジェクション溶接を容易に実施することができる上、安価かつ容易に製造することが可能なプロジェクション溶接用のナットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、プロジェクション溶接によって金属板上に溶接される溶接用のナットであって、ボルト挿通孔を穿設してなる筒状のナット本体の下端際の外周に、フランジ部が一体的に設けられており、そのフランジ部の下面に、突起体が下方に突出するように設けられているとともに、ナット本体の下端際の内部に、前記ボルト挿通孔の内径より大きな内径を有する絶縁材料からなるスリーブが、ナット本体の下端から突出するように設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記スリーブが、インサート成形によってナット本体に一体的に形成されたものであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載された発明は、請求項1、または2に記載された発明において、前記スリーブの外周の上端縁際に、ナット本体からの脱落防止用の係合手段が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の溶接用ナットは、プロジェクション溶接する際に、ナット本体の下面から突出するように設けられたスリーブを、鋼板等の被着体に穿設されたボルト挿通孔に嵌め込むことによって、溶接すべき位置に正確に位置決めすることができる上、ナット本体に設けられたスリーブによって、溶融した突起体がナット本体のボルト挿通孔へ入り込む事態を効果的に防止することができる。
【0011】
請求項2に記載の溶接用ナットは、スリーブがインサート成形によってナット本体に一体的に形成されたものであるため、安価かつ容易に製造することができる。
【0012】
請求項3に記載の溶接用ナットは、スリーブの外周の上端縁際に、ナット本体からの脱落防止用の係合部が形成されているため、スリーブが不用意にナット本体から脱離してしまう事態を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】溶接用ナットの鉛直断面図(
図1におけるA-A線断面図)である。
【
図5】溶接用ナットの使用状態を示す説明図(鉛直断面図)である(aは鋼板に溶接する前の状態を示したものであり、bは鋼板に溶接した後の状態を示したものである)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る溶接用ナットの一実施形態について、図面に基いて詳細に説明する。
<溶接用ナットの構造>
図1~
図4は、被着体である鋼板に溶接するための溶接用ナットを示したものであり、溶接用ナット1は、ナット本体2とスリーブ3とによって構成されている。ナット本体2は、金属(ステンレス)によって一体的に形成されており、略六角柱状に形成された係合部4の基端(下端)に、円形のフランジ部5が外向き(水平面内における中心からの放射方向)に突出するように形成されている。そして、そのフランジ部5の下面(裏面)の外周縁際には、所定の高さ(約2.0mm)を有する6個の略円錐台状の突起体6,6・・が、等間隔に(軸中心から等角度おきに)?設されている。
【0015】
また、略六角柱状の係合部4の中心には、図示しないボルトと螺合させるためのボルト挿通孔7が穿設されており、その内周面には、ネジ溝8が螺刻されている。なお、当該ネジ溝8は、約10mmの内径を有している。さらに、ナット本体2のボルト挿通孔7の下端際には、ボルト挿通孔7よりも大径の(すなわち、ネジ溝8の刻設部分よりも内径が約4.0mm大きい)嵌合孔9が形成されており、当該嵌合孔9の上端際には、下側の部分よりも大径になるように嵌合凹部10が形成されている。そして、その嵌合孔9に、スリーブ3が嵌合された状態になっている。
【0016】
スリーブ3は、絶縁材料である耐熱性の合成樹脂(ポリイミド)によって、厚さ約1.5mmで内径が約11mmの扁平な円筒状に形成されている。そして、上端際の外周には、下側の部分よりも大径になるように、帯状の嵌合突起11が形成されている。当該スリーブ3は、ナット本体2を成形する際に、所謂、インサート成形法(すなわち、予めスリーブ3をセットした金型のキャビティ内に金属を流し込んで、スリーブ3が組み込まれたナット本体を成形する方法)を利用することによって、ナット本体2に一体的に組み付けられている。
【0017】
そして、上記の如くナット本体2に組み込まれたスリーブ3は、上端際に形成された嵌合突起11がナット本体2の嵌合孔9の上端際の嵌合凹部10に嵌まり込んだ状態になっているため、ナット本体2から容易に取り外すことができないようになっている。また、スリーブ3の内径は、ボルト挿通孔7の内径(ネジ溝8の刻設部分の内径)よりもわずかに(約1.0mm)大きくなっている。さらに、スリーブ3の下部は、ナット本体2のフランジ部5の下面に?設された各突起体6,6・・よりもわずかに(2.0mm程度、すなわち、溶接する鋼板の厚みの1/2程度)下方に突出した状態になっている。
【0018】
<溶接用ナットの使用方法および作用>
図5は、上記の如く構成された溶接用ナット1の使用方法を示したものである。溶接用ナット1を被着体である鋼板に溶接する場合には、
図5(a)の如く、鋼板Pに穿設されたボルト挿通孔Bにスリーブ3の下端際の部分を嵌合させる(挿入する)。そのように、スリーブ3の下端際の部分を鋼板Pのボルト挿通孔Bに嵌合させることによって、溶接用ナット1を溶接すべき位置に正確に位置決めすることができる。
【0019】
そして、上記の如く、溶接用ナット1を被着体上で正確に位置決めした後に、プロジェクション溶接を実行する。すなわち、正負の電極を、それぞれ、ナット本体2の外周、および、鋼板Pの表面あるいは裏側に接地させた状態で、溶接用ナット1に対して鋼板Pの方向への(すなわち、鉛直下向きの)圧力を加えながら、所定の電圧を加えて通電する。そのように通電を行うと、電流が、ナット本体2のフランジ部5の下面の突起体6,6・・を介して鋼板Pに伝わる。そして、その際に、電気抵抗により発熱することによって突起体6,6・・が溶融するため、ナット本体2が鋼板Pに固着される(すなわち、ポイント溶接される)。
【0020】
上記の如く、プロジェクション溶接が行われる際には、溶融した突起体6,6・・が、ナット本体2のフランジ部3の下面でレベリングされて、ナット本体2は、広い面積で鋼板Pに固着される。また、突起体6,6・・が溶融する際に、溶融した金属が偏って中心方向へ多く流れる事態が生じた場合でも、スリーブ3によって堰き止められるため、ボルト挿通孔B内に入り込む事態が生じない。
【0021】
図5(b)は、溶接用ナット1が鋼板Pに溶接された状態を示したものである。溶接用ナット1が溶接された鋼板Pのボルト挿通孔Bにおいては、スリーブ3が内側に位置しており、ボルト(図示せず)の先端をナット本体2のボルト挿通孔7へ案内するガイドとしても機能するようになっている。
【0022】
<溶接用ナットの効果>
溶接用ナット1は、上記の如く、ボルト挿通孔7を穿設してなる筒状のナット本体2の下端際の外周に、フランジ部5が一体的に設けられており、そのフランジ部5の下面に、突起体6,6・・が下方に突出するように設けられているとともに、ナット本体2の下端際の内部に、ボルト挿通孔7の内径より大きな内径を有する絶縁材料からなるスリーブ3が、ナット本体2の下端から突出するように設けられている。したがって、溶接用ナット1によれば、プロジェクション溶接する際に、スリーブ3を、鋼板Pに穿設されたボルト挿通孔Bに嵌め込むことによって、溶接すべき位置に正確に位置決めすることができる上、スリーブ3によって、溶融した突起体6,6・・がナット本体2のボルト挿通孔7へ入り込む事態を効果的に防止することができる。
【0023】
また、溶接用ナット1は、スリーブ3がインサート成形によってナット本体2に一体的に形成されたものであるため、安価かつ容易に製造することができる。
【0024】
さらに、溶接用ナット1は、スリーブ3の外周の上端縁際に、ナット本体2からの脱落防止用の嵌合突起(係合手段)11が形成されているため、スリーブ3が不用意にナット本体2から脱離してしまう事態を効果的に防止することができる。
【0025】
<溶接用ナットの変更例>
本発明に係る溶接用ナットは、上記した実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、ナット本体、スリーブの材質、形状、構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。たとえば、本発明に係る溶接用ナットは、上記実施形態の如く、フランジ部の裏面に、6個の突起体を形成したものに限定されず、5個以下あるいは7個以上の突起体を形成したものでも良い。また、突起体は、上記実施形態の如く、略円錐台状のものに限定されず、先の尖った円錐状のもの、角柱状のもの、角錐状のものや、角錐台状のもの等に変更することも可能である。
【0026】
また、本発明に係る溶接用ナットは、上記実施形態の如く、スリーブがポリイミド(PI)からなるものに限定されず、スリーブがポリイミド以外のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の耐熱性の合成樹脂からなるものや、スリーブがセラミックスからなるもの等でも良い。
【0027】
さらに、本発明に係る溶接用ナットは、上記実施形態の如く、ナット本体の下端際にフランジ部を設けて当該フランジ部の下面(裏面)に突起体を形成したものに限定されず、フランジが形成されていない角柱状の係合部の下面に突起体を形成したもの等でも良い。
【0028】
加えて、本発明に係る溶接用ナットは、上記実施形態の如く、ナット本体の下端(突起体の先端)からのスリーブの突出量が2.0mm程度であるものに限定されず、溶接する鋼板等の被着体の厚みに応じて突出量を適宜変更することができる。また、本発明に係る溶接用ナットは、上記実施形態の如く、スリーブの内径がボルト挿通孔の内径(ネジ溝の螺刻部分の内径)よりも1.0mm程度大きいものに限定されず、スリーブの内径とボルト挿通孔の内径との差を必要に応じて適宜変更することができる。なお、スリーブの内径とボルト挿通孔の内径との差を2.0mm未満に調整することによって、締着されるボルトと鋼板のボルト挿通孔との間に不必要な空洞部が形成されて錆発生の原因となる事態を効果的に防止することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る溶接用ナットは、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、鋼板等の被着体に溶接してボルトと締着させる締着部材として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
1・・溶接用ナット
2・・ナット本体
3・・スリーブ
5・・フランジ部
6・・突起体
7・・ボルト挿通孔
8・・ネジ溝
9・・嵌合溝
10・・嵌合凹部
11・・嵌合突起(係合手段)
P・・鋼板(被着体)
B・・ボルト挿通孔