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特開2023-86620マッピング方法及びインデンテーションマッピング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086620
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】マッピング方法及びインデンテーションマッピング装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/40 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
G01N3/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201284
(22)【出願日】2021-12-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「機械学習による探索材料の全自動ハイスループット力学特性評価技術」委託研究産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100213436
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 直俊
(72)【発明者】
【氏名】斎▲藤▼ 耕平
(72)【発明者】
【氏名】米津 明生
(72)【発明者】
【氏名】古谷 拓己
(57)【要約】
【課題】所定の特性を有する部位の特定についてハイスループットなマッピング方法及びインデンテーションマッピング装置を提供する。
【解決手段】マッピング方法は、試料表面における測定対象領域90を決定し、測定対象領域90を複数の領域に分割したセル領域91に分割する分割工程と、現在測定対象領域90を新たな測定対象領域90に更新し、且つ、セル領域91を、現在の領域よりも狭い領域91に更新する更新工程と、複数のセル領域91の中から探索点とするセル領域91を決定する位置決定工程と、探索点が決定された場合に当該探索点のセル領域91の情報を測定する測定工程と、測定対象領域90の更新条件を満たしているか否かを判定する領域更新判定工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料表面における測定対象領域を決定し、当該測定対象領域を複数の領域に分割したセル領域に分割する分割工程と、
現在の前記測定対象領域を新たな前記測定対象領域に更新し、且つ、前記セル領域を、現在の領域よりも狭い領域に更新する更新工程と、
複数の前記セル領域の中から探索点とする前記セル領域を決定する位置決定工程と、
前記探索点が決定された場合に当該探索点の前記セル領域の情報を測定する測定工程と、
前記測定対象領域の更新条件を満たしているか否かを判定する領域更新判定工程と、を含み、
前記位置決定工程は、前記測定工程で測定した測定結果を含むマッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い、獲得関数の値が最大となる位置に基づいて次回の前記探索点とする前記セル領域を決定し、
前記更新工程は、前記領域更新判定工程において更新条件を満たしていると判定された場合に実行され、
前記更新工程では、新たな前記測定対象領域として、現在の前記測定対象領域に含まれる領域であり、直前の前記ベイズ最適化において導かれた所定の特性に関する期待値が最大又は最小と予測される位置を含む前記セル領域を含み、現在の前記測定対象領域よりも狭い領域を設定するマッピング方法。
【請求項2】
前記領域更新判定工程では、直近の2回以上の前記位置決定工程で前記探索点と決定された前記セル領域同士が隣接する場合に、前記更新条件を満たしていると判定する請求項1に記載のマッピング方法。
【請求項3】
予め定めた3点以上の前記セル領域を、前記測定工程における、マッピング開始時の前記探索点として決定する初期位置決定工程を更に含む請求項1又は2に記載のマッピング方法。
【請求項4】
前記セル領域があらかじめ定めた大きさになったか否かを判定するセル更新判定工程を更に含み、
前記更新工程は、前記領域更新判定工程において更新条件を満たしていると判定され、且つ、前記セル更新判定工程において、前記セル領域があらかじめ定めた大きさになっていないと判定された場合、前記更新工程を行う請求項1から3の何れか一項に記載のマッピング方法。
【請求項5】
マッピングの終了条件を満たすか否かを判定する終了判定工程を更に含み、
前記終了判定工程は、前記領域更新判定工程において更新条件を満たしていると判定され、且つ、前記セル更新判定工程において前記セル領域があらかじめ定めた大きさになったと判定された場合に実行される請求項4に記載のマッピング方法。
【請求項6】
前記終了判定工程は、前記位置決定工程において行われた、直近の2回以上の前記ベイズ最適化のそれぞれにおいて導かれた、前記期待値が最大又は最小となる位置が隣接又は重複する場合、マッピングの終了条件を満たすと判定する請求項5に記載のマッピング方法。
【請求項7】
前記測定対象領域における、未探索の前記セル領域から一つ以上を選択し、当該選択されたセル領域の情報を測定する終了前測定工程を更に含み、
終了時位置決定工程は、前記終了判定工程でマッピングの終了条件を満たさないと判定された場合に実行される請求項6に記載のマッピング方法。
【請求項8】
前記測定工程は、前記情報として、試料表面に圧子を押し込んで前記圧子に作用する圧縮荷重及び前記圧子の押し込み深さを測定するインデンテーション試験を行うインデンテーション試験工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のマッピング方法。
【請求項9】
前記分割工程は、前記セル領域の間隔を、前記圧子の押し込み時において前記圧子が前記試料表面に接触する部分の幅よりも大きく分割する請求項8に記載のマッピング方法。
【請求項10】
前記位置決定工程は、前記獲得関数の値の値が最大となる位置を仮の探索点と決定し、前記セル領域のうち既に前記インデンテーション試験が行われた前記セル領域を除き、前記仮の探索点と最も距離が近い前記セル領域を次回の前記探索点として決定する請求項8又は9に記載のマッピング方法。
【請求項11】
前記マッピングデータに基づいてガウス過程による前記予測関数を取得し、当該予測関数の期待値をマッピング結果として出力する出力工程を更に含む請求項1から10のいずれか一項に記載のマッピング方法。
【請求項12】
前記位置決定工程は、
前記更新工程を行う前に取得された前記セル領域の測定結果と、前記更新工程を行った後に取得された前記セル領域の測定結果とを含む前記マッピングデータに基づいて次回の前記探索点を決定する請求項1から11のいずれか一項に記載のマッピング方法。
【請求項13】
前記位置決定工程は、
前記更新工程を行う前に取得されたものであって、前記更新工程を行った後の測定対象領域に含まれる前記セル領域の測定結果と、前記更新工程を行った後に取得された前記セル領域の測定結果とを含む前記マッピングデータに基づいて次回の前記探索点を決定する請求項1から11のいずれか一項に記載のマッピング方法。
【請求項14】
試料表面に押し込まれる圧子と、
前記圧子の押し込み位置としての探索点を決定する制御部と、
前記圧子に作用する圧縮荷重及び前記圧子の押し込み深さを測定する測定部と、
前記探索点及び前記測定部が測定した測定結果を含むマッピングデータを記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、
試料表面における測定対象領域を設定し、当該測定対象領域を複数の領域に分割したセル領域に分割する分割工程と、
現在の前記測定対象領域を新たな前記測定対象領域に更新し、且つ、前記セル領域を、現在の領域よりも狭い領域に更新する更新工程と、
複数の前記セル領域の中から探索点とする前記セル領域を決定する位置決定工程と、
前記測定対象領域の更新条件を満たしているか否かを判定する領域更新判定工程と、を実行し、
前記位置決定工程では、前記マッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い、所定の特性に関する獲得関数の値が最大となる位置に基づいて次回の前記探索点とする前記セル領域を決定し、
前記領域更新判定工程において更新条件を満たしていると判定された場合に前記更新工程を実行し、
新たな前記測定対象領域として、現在の前記測定対象領域に含まれる領域であって、直前の前記ベイズ最適化において導かれた期待値が最大又は最小と予測される位置を含む前記セル領域を含み、現在の前記測定対象領域よりも狭い領域を設定するインデンテーションマッピング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッピング方法及びインデンテーションマッピング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ある物理量を1つ以上のパラメータからなるパラメータ空間上の各点座標の条件で測定し、その物理量のパラメータ空間上での分布を得るマッピング測定を行うマッピング方法及び測定装置が記載されている。このマッピング方法及び測定装置では、マッピング測定の途中に、コンピュータを利用して、それまでに測定した点の座標と物理量とを解析してその物理量の分布を近似する応答曲面を取得した後、その応答曲面の近似精度がより高まるように以降に測定する点の座標を決めて測定を行なう。応答曲面の取得には、多項式近似、Radial Basis Function法、スプライン補間、ガウス過程回帰、Kriging法、ロジスティック回帰を用いることができる。
【0003】
特許文献2には、解析装置などが記載されている。解析装置は、複数のパラメータを用いて対象の事象を解析する解析モデルによって解析された解析結果を取得する取得部と、ベイズ最適化手法により、取得部により取得された解析結果に基づいて、対象の事象が解析モデルによって解析されたときの複数のパラメータの組み合わせを評価し、評価した複数のパラメータの組み合わせごとの評価結果に基づいて、複数のパラメータの組み合わせの中から、解析モデルのパラメータの組み合わせを決定する最適化処理部と、を備える。
【0004】
特許文献3には、製品に要求される要求項目を満たすように、製品を構成する構成要素の設計値を求める製品設計装置及び製品設計方法が記載されている。例えばこの製品設計装置は複数の要求項目を満たすように、複数の構成要素における複数の設計値を、要求項目を目的変数とし構成要素を説明変数とする多点探索のベイズ最適化を用いることによって求める設計処理部と、設計処理部で求めた複数の設計値を出力する出力部とを備えている。
【0005】
特許文献2、3に記載されるように、いわゆる最適化の手法としてベイズ最適化が知られている(特許文献2、3参照)。ベイズ最適化では、その最適化の過程において逐次、ガウス過程回帰によって応答曲面を求める。特許文献1に記載されるように、ガウス過程回帰も、分布の近似方法として知られたものである。
【0006】
特許文献4には、アンテナから放射される電界又は磁界の受信強度分布を測定する際の測定位置を制御する測定位置制御装置及び方法が記載されている。この測定位置制御装置及び方法では、測定される磁界の最大値付近、最小値付近又は極部分においては直前の測定位置と次の測定位置との走査間隔を小さく、それ以外の場所では直前の測定位置と次の測定位置との走査間隔を大きくするようにされている。最大値などの付近であるか否かは、既に取得した複数の測定値に基づき最小二乗法等を用いて近似曲線を予測し、この近似曲線に基づいて判断する。この測定位置制御装置及び方法では、電界分布または磁界分布の測定時間を自動的に短縮することが可能とされている。
【0007】
コンビナトリアル法は、2元系、3元系などの多元系の材料をあらゆる組成で混合し、評価した後で、所望の特性を有するものに関して組成を同定する手法である。コンビナトリアル法では、一度に多くの組成を試すことができるため、何度も組成を変えて実験を繰り返す労力を省くことができる。コンビナトリアル法では、例えば多元系の材料の組成を連続的に変えて薄膜状や層状の試料に形成し、この試料の各部の特性を評価して所望の特性を有する部分を探し出す。
【0008】
特許文献5にはコンビナトリアル法の一例が記載されている。特許文献4では、様々な化合物又は材料の組合せの物理的及び化学的性質を予測が往々にして極めて難しいことが指摘されている。特許文献5に記載されたコンビナトリアル法では、単一試料において金属、非金属、金属酸化物又は合金からなる3層以上の拡散多元体であって異種金属、非金属、金属酸化物又は合金の界面部位に複数の相互拡散領域を含む拡散多元体を形成し、拡散多元体の特性を相互拡散領域付近における組成の関数として評価する。
【0009】
素材の物理的性質、特に力学特性ないし機械的特性を評価する場合に、ナノインデンテーション法による試験(以下、インデンテーション試験と記載する場合がある)を行う場合がある。特許文献6に例示されるように、ナノインデンテーション法は圧子に荷重を加えて試料に押し込むことで試料の微小領域の力学特性ないし機械的特性(以下では単に力学特性と記載する)を評価する材料試験法である。ナノインデンテーション法は、局所的な力学特性の値が必要とされる膜などの材料を直接的に評価できる試験方法である。
【0010】
非特許文献1には、ベイズ最適化において、獲得関数の未定パラメータを容易かつ適切に設定するため、評価点の勾配を用いて適応的にGP-UCBの獲得関数の未定パラメータを選択する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2018-138873号公報
【特許文献2】特開2019-215750号公報
【特許文献3】特開2020-052737号公報
【特許文献4】特開2006-003229号公報
【特許文献5】特開2004-347592号公報
【特許文献6】特開2012-047625号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】評価点勾配に基づく獲得関数のハイパーパラメータの適応的選択、人工知能学会全国大会論文集、第33回(2019)、長谷部ら、[令和3年11月08日検索]、インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2019/0/JSAI2019_4I3J201/_pdf/-char/ja>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
コンビナトリアル法では、面内で複数の材料組成を傾斜させ、一つの試料で多くの組成ないし材料種(以下、単に材料種と記載する)の特性を評価することを目的としてコンビナトリアル薄膜が利用される場合がある。コンビナトリアル薄膜を利用して所望の力学特性を有する材料種を探索したい場合には、コンビナトリアル薄膜の表面の各所に対してインデンテーション試験を行い、コンビナトリアル薄膜全体の力学特性をマッピングする場合がある。以下では、膜状や板状の材料(以下、単に膜等と記載する場合がある)の表面の各所に対してインデンテーション試験を行い、膜等の全体の力学特性をマッピングすることを、インデンテーションマッピングと記載する場合がある。
【0014】
このインデンテーションマッピングのようなマッピングに際しては、いわゆる全数試験(インデンテーションマッピングの例では、コンビナトリアル薄膜の全面を均等割りしてインデンテーション試験の対象とするような場合)とすると、マッピングに要する試験時間や試験回数などの手間が大きくなるという問題がある。特に、所定の特性を有する部位(いわゆる、最適解)を特定したい場合には、マッピングに要する試験時間や試験回数を削減したいというニーズがある。そこで、ハイスループットなマッピング方法の提供が望まれる。
【0015】
しかしながら、特許文献4のように、予測した近似曲線に基づいて直前の測定位置と次の測定位置との走査間隔を変更するような方法では、ある程度のスループットの向上は見込めるにしても、十分なスループットの向上は望めない。また、特許文献4のような方法は、所定の特性を有する部位を少ない試験時間、少ない試験回数で特定するという目的には適さない。そこで、マッピング方法において、所定の特性を有する部位の特定につき、更なるハイスループット化が望まれる。
【0016】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、所定の特性を有する部位の特定についてハイスループットなマッピング方法及びインデンテーションマッピング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するための本発明に係るマッピング方法は、
試料表面における測定対象領域を決定し、当該測定対象領域を複数の領域に分割したセル領域に分割する分割工程と、
現在の前記測定対象領域を新たな前記測定対象領域に更新し、且つ、前記セル領域を、現在の領域よりも狭い領域に更新する更新工程と、
複数の前記セル領域の中から探索点とする前記セル領域を決定する位置決定工程と、
前記探索点が決定された場合に当該探索点の前記セル領域の情報を測定する測定工程と、
前記測定対象領域の更新条件を満たしているか否かを判定する領域更新判定工程と、を含み、
前記位置決定工程は、前記測定工程で測定した測定結果を含むマッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い、獲得関数の値が最大となる位置に基づいて次回の前記探索点とする前記セル領域を決定し、
前記更新工程は、前記領域更新判定工程において更新条件を満たしていると判定された場合に実行され、
前記更新工程では、新たな前記測定対象領域として、現在の前記測定対象領域に含まれる領域であり、直前の前記ベイズ最適化において導かれた所定の特性に関する期待値が最大又は最小と予測される位置を含む前記セル領域を含み、現在の前記測定対象領域よりも狭い領域を設定する。
【0018】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
前記領域更新判定工程では、直近の2回以上の前記位置決定工程で前記探索点と決定された前記セル領域同士が隣接する場合に、前記更新条件を満たしていると判定してもよい。
【0019】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
予め定めた3点以上 の前記セル領域を、前記測定工程における、マッピング開始時の前記探索点として決定する初期位置決定工程を更に含んでもよい。
【0020】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
前記セル領域があらかじめ定めた大きさになったか否かを判定するセル更新判定工程を更に含み、
前記更新工程は、前記領域更新判定工程において更新条件を満たしていると判定され、且つ、前記セル更新判定工程において、前記セル領域があらかじめ定めた大きさになっていないと判定された場合、前記更新工程を行ってもよい。
【0021】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
マッピングの終了条件を満たすか否かを判定する終了判定工程を更に含み、
前記終了判定工程は、前記領域更新判定工程において更新条件を満たしていると判定され、且つ、前記セル更新判定工程において前記セル領域があらかじめ定めた大きさになったと判定された場合に実行されてもよい。
【0022】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
前記終了判定工程は、前記位置決定工程において行われた、直近の2回以上の前記ベイズ最適化のそれぞれにおいて導かれた、前記期待値が最大又は最小と予測された位置が隣接又は重複する場合、マッピングの終了条件を満たすと判定してもよい。
【0023】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
前記測定対象領域における、未探索の前記セル領域から一つ以上を選択し、当該選択されたセル領域の情報を測定する終了前測定工程を更に含み、
終了時位置決定工程は、前記終了判定工程でマッピングの終了条件を満たさないと判定された場合に実行してもよい。
【0024】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
前記測定工程は、前記情報として、試料表面に圧子を押し込んで前記圧子に作用する圧縮荷重及び前記圧子の押し込み深さを測定するインデンテーション試験を行うインデンテーション試験工程を含んでもよい。
【0025】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
前記分割工程は、前記セル領域の間隔を、前記圧子の押し込み時において前記圧子が前記試料表面に接触する部分の幅よりも大きく分割してもよい。
【0026】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
前記位置決定工程は、前記獲得関数の値の値が最大となる位置を仮の探索点と決定し、前記セル領域のうち既に前記インデンテーション試験が行われた前記セル領域を除き、前記仮の探索点と最も距離が近い前記セル領域を次回の前記探索点として決定してもよい。
【0027】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
前記マッピングデータに基づいてガウス過程による前記予測関数を取得し、当該予測関数の期待値をマッピング結果として出力する出力工程を更に含んでもよい。
【0028】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
前記位置決定工程は、
前記更新工程を行う前に取得された前記セル領域の測定結果と、前記更新工程を行った後に取得された前記セル領域の測定結果とを含む前記マッピングデータに基づいて次回の前記探索点を決定してもよい。
【0029】
本発明に係るマッピング方法では、更に、
前記位置決定工程は、
前記更新工程を行う前に取得されたものであって、前記更新工程を行った後の測定対象領域に含まれる前記セル領域の測定結果と、前記更新工程を行った後に取得された前記セル領域の測定結果とを含む前記マッピングデータに基づいて次回の前記探索点を決定してもよい。
【0030】
上記目的を達成するための本発明に係るインデンテーションマッピング装置は、
試料表面に押し込まれる圧子と、
前記圧子の押し込み位置としての探索点を決定する制御部と、
前記圧子に作用する圧縮荷重及び前記圧子の押し込み深さを測定する測定部と、
前記探索点及び前記測定部が測定した測定結果を含むマッピングデータを記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、
試料表面における測定対象領域を設定し、当該測定対象領域を複数の領域に分割したセル領域に分割する分割工程と、
現在の前記測定対象領域を新たな前記測定対象領域に更新し、且つ、前記セル領域を、現在の領域よりも狭い領域に更新する更新工程と、
複数の前記セル領域の中から探索点とする前記セル領域を決定する位置決定工程と、
前記測定対象領域の更新条件を満たしているか否かを判定する領域更新判定工程と、を実行し、
前記位置決定工程では、前記マッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い、所定の特性に関する獲得関数の値が最大となる位置に基づいて次回の前記探索点とする前記セル領域を決定し、
前記領域更新判定工程において更新条件を満たしていると判定された場合に前記更新工程を実行し、
新たな前記測定対象領域として、現在の前記測定対象領域に含まれる領域であって、直前の前記ベイズ最適化において導かれた期待値が最大又は最小と予測される位置を含む前記セル領域を含み、現在の前記測定対象領域よりも狭い領域を設定する。
【発明の効果】
【0031】
所定の特性を有する部位の特定についてハイスループットなマッピング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】マッピング装置の構成の説明図である。
図2】マッピング装置の機能ブロック図である。
図3】インデンテーション試験の手順の説明図である。
図4】インデンテーション試験の手順の説明図である。
図5】インデンテーション試験の手順の説明図である。
図6】プロファイルの一例を示す図である。
図7】試料の表面のセル領域へ分割する態様及び探索点についての説明図である。
図8】圧子と隣接するセル領域の間隔との関係を説明する図である。
図9】測定対象領域の更新について説明する図である。
図10】測定対象領域の更新及びセルの更新について説明する図である。
図11】測定対象領域の更新及びセルの更新について説明する図である。
図12】マッピングのフロー図である。
図13】ステップS2のフロー図である。
図14】ステップS7のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図面に基づいて、本発明の実施形態に係るマッピング方法及びインデンテーションマッピング装置について説明する。
【0034】
(概要の説明)
以下では、マッピング方法の一例として、インデンテーションマッピングを例示して説明する。
【0035】
本実施形態に係るマッピング方法は、
試料表面における測定対象領域を決定し、当該測定対象領域を複数の領域に分割したセル領域に分割する分割工程と、現在の測定対象領域を新たな測定対象領域に更新し、且つ、セル領域を、現在の領域よりも狭い領域に更新する更新工程と、複数のセル領域の中から探索点とするセル領域を決定する位置決定工程と、探索点が決定された場合に当該探索点のセル領域の情報を測定する測定工程と、測定対象領域の更新条件を満たしているか否かを判定する領域更新判定工程と、を含む。
【0036】
位置決定工程は、測定工程で測定した測定結果を含むマッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い、獲得関数の値が最大となる位置のセル領域を次回の探索点を決定する。
【0037】
更新工程は、領域更新判定工程において更新条件を満たしていると判定された場合に実行される。更新工程では、新たな測定対象領域として、現在の測定対象領域に含まれる領域であり、直前のベイズ最適化において導かれた所定の特性に関する予測関数の期待値(以下、単に期待値と記載する場合がある)が最大又は最小と予測される位置を含むセル領域を含み、現在の測定対象領域よりも狭い領域を設定する。
【0038】
本実施形態に係るマッピング方法では、所定の特性を有する部位の特定についてハイスループット化を実現することができる。
【0039】
図1に示すように、本実施形態に係るインデンテーションマッピング装置100(以下、マッピング装置100と記載する)は、本実施形態に係るマッピング方法を用いたインデンテーションマッピング方法を実現するものである。
【0040】
マッピング装置100は、試料9の表面に押し込まれる圧子2と、試料9の表面における圧子2の押し込み位置としての探索点を決定する制御部10と、圧子2に作用する圧縮荷重及び圧子2の押し込み深さを測定する測定部11と、探索点及び測定部11が測定した測定結果を含むマッピングデータを記憶する記憶部19と、を備えている。
【0041】
制御部10は、マッピング装置100において本実施形態に係るマッピング方法を実現すべく、少なくとも上述の分割工程、更新工程、位置決定工程及び領域更新判定工程を実行する。また、制御部10は、測定部11に測定工程を実行させる。
【0042】
ステージ3には、板状の試験片である試料9が載置される。
【0043】
(詳細説明)
本実施形態において、インデンテーション法とは、図1に示すように、圧子2に荷重を加えて試料9の所定の探索点に押し込むことで試料9の微小領域の力学特性ないし機械的特性(以下、単に力学特性等と記載する)を評価する材料試験法である。以下では、インデンテーション法による材料試験を、単にインデンテーション試験と記載する。本実施形態において、インデンテーションマッピングとは、試料9の表面のインデンテーション試験を行い、この結果に基づいて試料9の表面全体の力学特性等をマップ状に取得することをいう。
【0044】
(試料)
試料9は、力学特性の評価対象となる試験片である。試料9は、例えば平板状ないし薄膜状に形成される。試料9の一例は、コンビナトリアル薄膜である。
【0045】
(マッピング装置)
マッピング装置100は、一例として、台座4、台座4に支持された支柱5、台座4に支持されたステージ3、支柱5に支持された圧子支持部21、圧子支持部21に支持され、先端をステージ3に対向させて垂下する圧子2、及び、パーソナルコンピュータなどの制御装置1を備えている。
【0046】
圧子2は、ステージ3に載置された試料9に対してインデンテーション試験を行うためのチップ状の部材である。圧子2は、上述のごとく、試料9の表面の所定の探索点に押し込まれる。インデンテーション試験については後述する。
【0047】
圧子2は、一例として、一端に向けて窄む錐状に形成される。以下では、圧子2の窄む側を、単に先端と記載する。圧子2の先端は角張った(例えば尖った)形状であってもよいし、丸みを帯びた(例えば下に凸の曲面状)の形状であってもよい。圧子2の形状は、インデンテーション試験の目的に応じて任意に設定してよい。圧子2は、先端側をステージ3に対向させて、後述する圧子支持部21に装着される。すなわち、圧子2の先端とは、圧子支持部21に装着された状態における下端のことである。
【0048】
圧子支持部21は、圧子2を取り付け、圧子2を昇降させるための取付座である。圧子支持部21は、例えば厚みのある板状に形成される。圧子支持部21は、下面側に圧子2を固定する。圧子支持部21は、一端を後述する昇降装置51に支持されている。圧子支持部21は、昇降装置51により昇降駆動される。
【0049】
ステージ3は、試料9を載置するための支持座である。ステージ3の上面には平面状に形成された領域が形成されており、試料9は、板面をステージ3の上面に沿わせて載置可能とされている。ステージ3は、例えば上面全体が平面状かつ水平に形成される。ステージ3は、後述するスライド機構41により、水平方向に移動可能とされている。本実施形態では、スライド機構41上にステージ3が載置されている。
【0050】
台座4は、マッピング装置100の座部である。台座4は、上面部にスライド機構41を有する。スライド機構41は、例えば、それぞれ交差(一例として直交)する一対のスクリュと、それぞれのスクリュを回転駆動させる一対のモータとを備えてよい。スライド機構41は、モータによりそれぞれのスクリュを任意に回転させてステージ3をそれぞれのスクリュの軸方向において進退させることで、ステージ3の水平方向の移動を実現する。
【0051】
支柱5は、圧子2を昇降可能に支持する支持部材である。本実施形態では、支柱5は、下端部を台座4に支持されている。支柱5は、油圧シリンダなどの昇降機構52と位置センサ53と荷重センサ54とを有する昇降装置51を備え(図2参照)、昇降装置51に接続された圧子支持部21を上下方向(本実施形態では鉛直方向と同じ)に昇降させることにより、圧子2を昇降させる。
【0052】
図2には、マッピング装置100の機能ブロック図を示している。図2に示すように、位置センサ53は、圧子2(図1参照)の押し込み深さを検出するセンサである。位置センサ53は、例えば圧子支持部21(図1参照)の高さ位置を検出することにより、圧子2の押し込み深さを検出してよい。位置センサ53としては、例えば光学式のセンサを用いてよい。
【0053】
荷重センサ54は、圧子2(図1参照)に作用する圧縮荷重を検出するセンサである。荷重センサ54は、例えば昇降機構52が圧子支持部21(図1参照)を下方に押し付ける力を検出することで、圧子2に作用する圧縮荷重を検出してよい。荷重センサ54としては、例えば圧電素子を備えた圧力センサを用いてよい。
【0054】
制御装置1は、制御部10と測定部11と記憶部19とを備える。制御装置1は、スライド機構41及び昇降装置51と通信して、これらの動作を制御し、且つ、これらから情報を取得する。制御装置1としては、CPUやMPUなどのプロセッサ及びメモリ装置を有するパーソナルコンピュータやPLCなどを用いてよい。
【0055】
記憶部19は、ハードディスクやフラッシュメモリなどの記憶媒体である。本実施形態において記憶部19には、マッピング方法を実現するプログラムとして、分割工程、更新工程、位置決定工程、測定工程、領域更新判定工程、初期位置決定工程、セル更新判定工程、終了判定工程、終了前測定工程及び出力工程を実行するプログラムが記憶されている。これら各工程については後述する。また、本実施形態において記憶部19には、後述するマッピングデータが記憶可能とされている。
【0056】
測定部11は、測定工程として、圧子2(図1参照)に作用する圧縮荷重及び圧子の押し込み深さを測定するインデンテーション試験を行うインデンテーション試験工程を実行する機能部である。測定部11は、記憶部19に記憶されたマッピング方法を実現するプログラムの実行によりその機能を実現されてよい。
【0057】
測定部11は、インデンテーション試験において、昇降装置51と通信し、その位置センサ53と荷重センサ54とから、圧子2に作用する圧縮荷重及び圧子2の押し込み深さを測定する。本実施形態においては、一例として、測定部11は、圧子2の押し込み深さの変化及びこれに伴う圧子2に作用する圧縮荷重の変化を測定する。以下では、インデンテーション試験における圧子2の押し込み深さの変化及びこれに伴う圧子2に作用する圧縮荷重の変化を、単にプロファイルと記載する場合がある。また、インデンテーション試験において圧子2の押し込み深さの変化及びこれに伴う圧子2に作用する圧縮荷重の変化を測定することを、単にプロファイルの測定と記載する場合がある。プロファイルの測定についての詳細は後述する。
【0058】
測定部11は、プロファイルを測定すると、測定結果をマッピングデータとして記憶部19に記憶する。以下の説明では、測定部11は、プロファイルを測定すると、その測定結果をマッピングデータとして記憶部19に必ず記憶する場合を仮定して説明し、各説明における記憶部19への記憶に関する説明は適宜省略する。
【0059】
制御部10は、マッピング方法における、上述の分割工程、更新工程、位置決定工程、測定工程及び領域更新判定工程を実行する機能部である。制御部10は、上述の分割工程等に加えて、更に、後述する、初期位置決定工程、セル更新判定工程、終了判定工程、終了前測定工程及び出力工程を実行する。制御部10が実行する各工程についての詳細は後述する。制御部10は、記憶部19に記憶されたマッピング方法を実現するプログラムの実行によりこれらの工程を実行する機能を実現されてよい。
【0060】
制御部10は、インデンテーション試験工程の実行に際し、昇降装置51及びスライド機構41を制御して、測定部11(図1参照)によるインデンテーション試験を実現可能とする。
【0061】
(インデンテーション試験)
インデンテーション試験について詳述する。図3から図5には、インデンテーション試験の手順を示している。本実施形態におけるインデンテーション試験とは、圧子2に荷重を加えて試料9の表面における所定の位置(本実施形態では、探索点として決定されたセル領域91)に押し込むことで試料9の微小領域の力学特性等を評価する試験である。なお、セル領域91は、試料9の表面の一部を区画した領域である。セル領域91については後述する。
【0062】
インデンテーション試験では、まず、ステージ3上に試料9を載置する(図3参照)。
【0063】
そして、制御部10(図1参照)が決定した探索点としてのセル領域91に圧子を押し込む(図4参照)。圧子2の押し込みは、圧子2に作用する圧縮荷重(以下、単に荷重と記載する)が所定値になるまで、又は、圧子2が所定の押し込み深さ(あらかじめ定めた押し込み深さ)に押し込まれるまで行う。図4では、圧子2が深さhまで押し込まれている状態を例示している。
【0064】
圧子2に作用する荷重が所定値になると、又は、圧子2が所定の押し込み深さに押し込まれると、圧子2を引き戻す(図5参照)。圧子2を押し込んで引き戻すと、圧子2が押し込まれていた試料9の表面部分には圧痕Pが形成されている場合がある。
【0065】
図6には、インデンテーション試験における、試料9の表面への圧子2の押し込みと引き戻しに伴う圧子2に作用する荷重の変化、すなわち、プロファイルの一例を示している。図3から図5に示すような圧子2の押し込みから引き戻しの過程においては、図6に示すように、圧子2の押し込み深さの変化に伴って圧子2に作用する圧縮荷重が変化していく。図6では、所定の押し込み深さを20μmとしている場合を示している。圧子2が20μmの押し込み深さまで押し込まれるにしたがって、圧子2に作用する荷重は増大していく。圧子2が20μm(図4で深さh=20μmの場合)まで押し込まれた時点では、圧子2に20(N)の荷重が加わっている。圧子2が20μmまで押し込まれた後、圧子2を引き戻す(図5参照)と、圧子2に作用する荷重が減少していく。図6の例では、圧子2の押し込み深さを19μmまで引き戻した時点で圧子2に作用する荷重がゼロになっている。これは、塑性変形により試料9の表面に圧痕Pが形成されているためである(図5参照)。
【0066】
(インデンテーションマッピング)
インデンテーションマッピングについて説明する。本実施形態におけるインデンテーションマッピングとは、試料9の表面における、異なる複数の位置にてインデンテーション試験を行い、試料9の表面の一部のプロファイルを所定個数取得し、これらプロファイルに基づいて、試料9の表面全体の力学特性等をマップ状に取得することをいう。
【0067】
インデンテーションマッピングを行うにあたり、制御部10は、図7に示すように、試料9の表面に測定対象領域90(測定対象領域の一例)を定め、測定対象領域90を、間隔dで複数のセル領域91に分割する。
【0068】
制御部10による測定対象領域90のセル領域91への仮想的な分割は、一例として以下のように行われる。制御部10は、まず、試料9の表面の中央部分に、測定対象領域90を設定する。測定対象領域90は、一例として正方形の領域として設定してよい。以下では、測定対象領域90が正方形の領域である場合を仮定して説明する。
【0069】
次に、測定対象領域90をx方向及びy方向において、格子状にn等分する(ただし、nは2以上の整数)。これにより、n個のセル領域91が設定される。x方向において隣接するセル領域91,91の間隔d1とy方向において隣接するセル領域91,91の間隔d2とは等しくなる。各セル領域91には、必要に応じて位置を示す座標(xi,yi)を割り当ててよい。なお、iは、1以上n以下の整数である。なお、本実施形態において、隣接するセル領域91,91の中心間の座標上の距離は1である。
【0070】
図8に示すように、隣接するセル領域91,91の間隔dは、圧子2の押し込み時において圧子2が試料9の表面に接触する部分の最大の幅rよりも大きくするとよい。幅rは、圧子2の形状と、圧子2の押し込みの深さhとに基づいて算出してよい。これにより、既にインデンテーション試験を実施したセル領域91であるセル領域91aに隣接する別のセル領域91b(次のインデンテーション試験を行う対象となり得るセル領域91)にインデンテーション試験を行う場合において、セル領域91aの圧痕Pの影響を受けずにインデンテーション試験を行える。なお、圧痕Pの影響を受ける、とは、あるセル領域91bに対してインデンテーション試験を行うにあたり、既にインデンテーション試験を実施したセル領域91aの圧痕Pの領域と重複する領域及びそのごく近傍の領域に圧子2が押し込まれ、あるセル領域91bのインデンテーション試験の結果に影響がでることをいう。間隔dは、例えば幅rの少なくとも3倍以上、好ましくは5倍以上確保するとよい。これにより、圧痕Pの外側近傍にも既に行われたインデンテーション試験の影響が残存している場合があるが、この影響を回避することができる。
【0071】
インデンテーションマッピングは、それぞれのセル領域91の中心に対し、インデンテーション試験を行ってプロファイルを取得し、取得したプロファイルをマッピングデータとして記憶部19に記憶することによって行う。
【0072】
制御部10は、後述する所定の手順で測定対象領域90内のセル領域91の中から探索点とするセル領域91を一つ決定し、測定部11、昇降装置51及びスライド機構41を制御してこの探索点に対してインデンテーション試験を行い、測定部11にプロファイルを取得させ、取得したプロファイルをマッピングデータとして記憶部19に記憶する測定サイクルを所定回数くり返す。これにより、マッピング結果の精度が向上する。マッピング結果の精度向上については後述する。以下では、制御部10による探索点の決定、インデンテーション試験、測定部11によるプロファイルの取得及びマッピングデータとして記憶部19に記憶するサイクルを、単に測定サイクルと記載する場合がある。
【0073】
ここで、全てのセル領域91のプロファイルを取得してインデンテーションマッピングを行うこともできるが、このような全数試験を行うと、マッピングに要する試験時間や試験回数などの手間が大きくなる。そこで、マッピング装置100の制御部10は、全てのセル領域91のプロファイルを取得してインデンテーションマッピングを行うのではなく、一部のセル領域91のプロファイルを取得して、これらプロファイルに基づいてガウス過程による回帰計算(ガウス過程回帰、Gaussian Process Regression)を行いマッピング結果を作成して出力する。
【0074】
すなわち制御部10は、マッピング結果の出力として、取得したセル領域91のプロファイルに基づいてガウス過程による予測関数(以下では、単に予測関数と記載する場合がある)を取得(算出)し、この予測関数の期待値をマッピング結果として出力する(出力工程の一例)。制御部10は、マッピング結果の出力として、この予測関数を記憶部19に記憶してよい。
【0075】
マッピング結果の精度向上について詳述する。上述のごとく、制御部10は、予測関数の精度を高めるために、ベイズ最適化を行い次回の探索点を決定する位置決定工程を含む測定サイクルを繰り返す。
【0076】
本実施形態におけるベイズ最適化では、所定の特性に関するガウス過程回帰による予測関数の取得と、これまでの最適値(現時点で所定の特性について最もよくなると予測された測定対象領域90中の座標)よりも良くなる可能性の度合いを表す獲得関数(acquisition function)の作成と、獲得関数の値が最大となる測定対象領域90中の座標(位置の一例)、すなわち、仮の探索点の決定とを行う。
【0077】
予測関数の取得には、既に取得されたマッピングデータを用いる。制御部10による予測関数の取得には、インデンテーションマッピングの目的や試料9(図1参照)の特性に応じて種々のカーネルを利用できる。
【0078】
仮の探索点とする獲得関数の値が最大となる座標の決定は、たとえば次式により、GP-UCBアルゴリズムを用いて行ってよい。
【0079】
【数1】
【0080】
ここで、xtは、獲得関数の値が最大となる座標(仮の探索点)であり、整数の座標とは限らない。μt-1は期待値であり、暫定最適解(所定の特性について最大値又は最小値)に近い場所で値が大きくなる。また、σt-1は標準偏差であり、プロファイルの取得が手薄な場所で値が大きくなる。また、βtは探索と活用のトレードオフを決めるパラメータであり、2以上6以下の値を設定することが好ましい。
【0081】
そして、制御部10は、仮の探索点を含む又は仮の探索点に隣接するセル領域91(以下、隣接セルと記載する)から、既にインデンテーション試験を行ったセル領域91を除き、残りの隣接セルの中から、仮の探索点と最も距離が近いセル領域91を選択し、このセル領域91を、次回の探索点として決定する。換言すれば、制御部10は、原則、仮の探索点を含むセル領域91を次回の探索点として決定するが、この仮の探索点を含むセル領域91が既にプロファイルを取得済み(インデンテーション試験済み)であれば、この仮の探索点に最も近い、インデンテーション試験が行われていないセル領域91を次回の探索点として決定する。
【0082】
ここで、測定対象領域90を、当初から細分化してセル領域91を定め、細分化したセル領域91について順次プロファイルを取得してインデンテーションマッピングを行うこともできるが、当初から細分化してセル領域91を定めると、マッピングに要する試験時間や試験回数などの手間が大きくなる。また、所定の特性を有する部位から離れた位置に対してインデンテーション試験を繰り返しても、所定の特性を有する部位の特定にはつながらず、マッピングに要する試験時間や試験回数などの手間が大きくなる。そこで、制御部10は、当初に定めた測定対象領域90に対して測定サイクルを繰り返すのではなく、また、当初から細分化してセル領域91を定めてインデンテーションマッピングを行うのではなく、大雑把なマッピングを行って所定の特性を有する部位が存在するであろう領域にあたりを付けて、順次、測定対象領域90を絞り込んでいく操作を行う。
【0083】
まず、図9に示すように、制御部10は、試料9の表面に、測定対象領域90A(例えば、最初の測定対象領域90)を定める。そして、測定対象領域90Aを比較的大きな面積のセル領域91Aに分割する。なお、図9では、測定対象領域90Aに示した格子の各交点がセル領域91Aの中心を表している。また、図9では、複数のセル領域91Aのうちの一部のセル領域91Aを、破線で示している。
【0084】
次に、測定対象領域90Aについてある程度の測定サイクルを繰り返してマッピングを行い、所定の特性を有する部位が存在するであろう領域(以下、候補領域と称する)にあたりを付ける。図9では、候補領域を一点鎖線で囲って示している。そして、制御部10は、その候補領域を含む領域であって、測定対象領域90Aよりも狭い領域を、新たな測定対象領域90B(図9図10参照)として定めることにより、現在の測定対象領域90を新たな測定対象領域90に更新(縮小)する。なお、測定対象領域90Bは当然、測定対象領域90Aに含まれる領域である。以下では、現在の測定対象領域90を新たな測定対象領域90に更新することを、単に、測定対象領域の更新と称する。図9図10では、白抜きの丸記号で、既にプロファイルが取得されたセル領域91、すなわち、これまでに探索点として決定されてインデンテーション試験が行われたセル領域91(以下、探索済みセルと記載する場合がある)の中心位置を示している。本実施形態では、例えば、直近の探索済みセルが隣接(例えば、直近3回の探索済みセルが三つ隣接)している領域を候補領域として選択し、この候補領域を新たな測定対象領域90(測定対象領域90B)としている場合を示している。測定対象領域90Bは、例えば測定対象領域90Aの3分の1から5分の1の面積としてよい。候補領域は、同じ面積の候補領域を選択する場合、少なくとも直近の位置決定工程におけるガウス過程回帰において導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置を含み、且つ、できるだけ多数の探索済みセルを含む領域を選択するとよい。すなわち、候補領域は、現時点で最適又は最良と予測できる領域を含む領域を選択する。このようにすると、マッピングのスループットが向上する場合がある。
【0085】
更に、制御部10は、図10に示すように、測定対象領域90Bを、セル領域91Aよりも小さい面積のセル領域91Bに分割する。すなわち、セル領域91(セル領域91A)を現在の領域よりも狭い領域のセル領域91(セル領域91B)に更新(縮小)する。セル領域91Bは、例えばセル領域91Aの整数分の1の面積としてよく、図10では4分の1の場合を示している。以下では、セル領域91を現在の領域よりも狭い領域のセル領域91に更新することを、単に、セルの更新と称する。なお、図10では、測定対象領域90Bに示した細線の格子の各交点がセル領域91Bの中心を表している。また、測定対象領域90Bに示した細線の格子の各交点が、セル領域91Aであった領域の中心を示している。また、複数のセル領域91Aであった領域のうちの一部のセル領域91Aを二点鎖線で示している。また、複数のセル領域91Bのうちの一部を破線で示している。セルの更新を行う場合は、更新前のセル領域91の中心が、更新後のセル領域91の中心と重複させるとよい。
【0086】
測定対象領域の更新及びセルの更新は、2回以上繰り返してもよい。図11には、測定対象領域90Aを、これに含まれ、且つ、これよりも小さい領域の測定対象領域90Bに更新し、更に測定対象領域90Bを、これに含まれ、且つ、これよりも小さい領域の測定対象領域90Cに更新する場合を示している。測定対象領域90Cのセル領域91であるセル領域91Cは、セル領域91Bよりも狭い。上述のごとく、セル領域91Bはセル領域91Aよりも狭い。
【0087】
なお、図11では、セル領域91A,91B,91Cの一部のみを説明のために抜粋して示している。また、図11では、セル領域91Aの中心を黒で塗りつぶした四角形記号で、セル領域91Bの中心を黒で塗りつぶした三角形記号で、セル領域91Cの中心を黒で塗りつぶした丸記号で示している。ここで、セル領域91Bの中心且つセル領域91Aの中心であるもの又はセル領域91Cの中心且つセル領域91Aの中心であるものは、セル領域91Aの中心として示している。また、セル領域91Cの中心且つセル領域91Bの中心であるものは、セル領域91Bの中心として示している。
【0088】
なお、セルの更新は、図8に示すように、更新後のセル領域91,91の間隔dが、圧子2が試料9の表面に接触する部分の最大の幅rよりも大きくなる関係を維持して行う。
【0089】
セルの更新について、更新後のセル領域91,91の間隔dが、圧子2が試料9の表面に接触する部分の最大の幅rよりも大きくなる関係を維持して行えるようにするためには、予めセルの更新の終点を定めておくとよい。
【0090】
セルの更新の終点として、例えば、セルの更新を行った場合の最小のセル領域91の大きさ又はセルの更新を行った場合の最小のセル領域91の大きさの範囲(あらかじめ定めた大きさの一例、以下、最小のセル領域91の大きさ及び最小のセル領域91の大きさの範囲を包括して単に最小セルサイズと称する)をあらかじめ定めておくとよい。そして、測定対象領域の更新及びセルの更新は、更新後のセル領域91が最小セルサイズになるまで許容すればよい。すなわち、現在のセル領域91が最小セルサイズを超えている場合に更新を許容し、現在のセル領域91が最小セルサイズである場合は不可とするとよい。図11では、測定対象領域90A中に示した細線の格子の各交点が、セルの更新を行った場合における、測定対象領域90Aを最小のセル領域91に分割した場合の領域91Xの中心を示している。図11に示した例では、領域91Xはセル領域91Cと同じ大きさであり、測定対象領域90C及びセル領域91Cは、これ以上の測定対象領域の更新及びセルの更新を行えない。
【0091】
(インデンテーションマッピングの流れ)
以下では、図1図2及び図7を適宜参照しつつ、図12から図14に示すフローチャートに基づいて、マッピング装置100が実現するマッピング方法における、インデンテーションマッピングの一連の流れの一例を説明する。
【0092】
図12に示すように、インデンテーションマッピングが開始されると、ステップS1として、制御部10は、図7図11に示すように、試料9表面における測定対象領域90を設定し、当該測定対象領域90を複数の領域に分割したセル領域91に分割する分割工程を実行し、ステップS2へ移行する。
【0093】
ステップS2では、制御部10は、複数のセル領域91の中から探索点とするセル領域91を決定する位置決定工程を実行する。ステップS2では、図13に示すように、記憶部19にマッピングデータが存在しなければ(ステップ21、No)、複数のセル領域91うち、予め定められた3点以上(例えば、5点)のセル領域91を、初期の探索点として決定する初期位置決定工程を実行し(ステップ22)、ステップS2を終了する。なお、初期の探索点は、試料9についてある程度予想される分布の複雑さに応じて点数を増減するとよい。例えば、マッピング結果が多峰性を持った分布となることが予想される場合は、初期の探索点を多めに設定(例えば、5点又は6点)するとよい。これにより、全体最適解ではなく局所最適解を導いてしまうことを回避し、マッピングの精度を高めることができる。
【0094】
記憶部19にマッピングデータが存在していれば(ステップ21、Yes)、そのマッピングデータに基づいてベイズ最適化を行い、獲得関数の値が最大となる座標に基づいて次回の探索点とするセル領域91を決定し、ステップS2を終了する。
【0095】
図7の図示を例に説明すると、セル領域91としての3個のセルQ,Q,Qのプロファイルのみがマッピングデータとして記憶部19に記憶されており、このマッピングデータに基づいてベイズ最適化による獲得関数の値が最大となる座標として仮の探索点qが決定された場合、制御部10は、次回の探索点として、仮の探索点qを含むセル領域91としてのセルQを決定する。セルQからQm-1のプロファイルがマッピングデータとして記憶部19に記憶されている場合、このマッピングデータに基づいてベイズ最適化による獲得関数の値が最大となる座標として仮の探索点qが決定された場合、制御部10は、次回の探索点として、既にインデンテーション試験を行ったセルQを除き、残りの隣接するセルの中から、仮の探索点qと最も距離が近いセル領域91であるセルQを選択し、このセルQを、次回の探索点として決定する(ただし、mは4以上の整数)。なお、仮の探索点qmとセル領域91との距離とは、仮の探索点qmとセル領域91の中心との直線距離である。すなわち、ガウス過程回帰による予測関数は測定対象領域90内に対応する区間において連続性を有する関数であるから、獲得関数が最大となる座標は必ずしも各セル領域の中心と一致するとは限らなので、制御部10は、既にインデンテーション試験を行ったセル領域91を除く隣接セルの中から最も獲得関数の値が最大となる座標に距離が近いセル領域91を選択し、このセル領域91を、次回の探索点として決定するのである。
【0096】
なお、ステップ21では、後述するステップS6を行う前に取得されたセル領域91の測定結果と、ステップS6を行った後に取得されたセル領域91の測定結果とを含むマッピングデータに基づいて次回の探索点を決定してよい。この場合、ステップS6を行う前に取得されたものであって、ステップS6を行った後の測定対象領域90に含まれるセル領域91の測定結果と、ステップS6を行った後に取得されたセル領域91の測定結果とを含むマッピングデータに基づいて次回の探索点を決定してもよい。このようにすることで、マッピングのスループットが向上する場合がある。
【0097】
ステップS2を終了すると、ステップS3へ移行する。
【0098】
ステップS3では、探索点として決定されたセル領域91のインデンテーション試験を行い(インデンテーション試験工程の一例)、プロファイルの測定結果をマッピングデータとして記憶部19に記憶する測定工程を実行し、ステップ4へ移行する。
【0099】
ステップS4では、制御部10は、測定対象領域90の更新条件を満たしているか否かを判定する領域更新判定工程を実行する。領域更新判定工程では、直近の2回以上(例えば現在、前回、及び前々回の3回)の位置決定工程(ステップS2)におけるガウス過程回帰のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置を含むセル領域91同士が隣接又は重複している場合に更新条件を満たしていると判定し(ステップS4、Yes)、ステップS5へ移行する。ステップS4では、直近の2回以上の位置決定工程(ステップS2)で期待値が最大又は最小と予測された位置を含むセル領域91同士が隣接していなければ、更新条件を満たしていないと判定してステップS2へ戻る(ステップS4、No)。
【0100】
ここで、あるセル領域91が、他のセル領域91と隣接する、とは、他のセル領域91が、あるセル領域91を囲う、周囲8個のセルの何れかである場合のことを言う。また、直近の2回以上のガウス過程回帰のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置を含むセル領域91が重複する場合とは、直近の2回以上のベイズ最適化のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置が、いずれも同じセル領域91の領域内であることを言う。
【0101】
ステップS4では、現在の測定対象領域90に対してステップS2が所定回数(例えば、10回)以上実行済みであることを、測定対象領域90の更新条件を満たしていると判定する前提条件としてもよい。このようにすることで、マッピングの精度が向上する場合がある。
【0102】
ステップS5では、制御部10は、セル領域91が最小セルサイズになったか否かを判定するセル更新判定工程を実行する。セル領域91が最小セルサイズになっていなければ、すなわち、セル領域91が最小セルサイズの大きさを超える場合は(ステップS5、No)ステップS6へ移行する。セル領域91が最小セルサイズになっていれば(ステップS5、YES)ステップS7へ移行する。
【0103】
ステップS6では、制御部10は、現在の測定対象領域90を新たな測定対象領域90に更新し、且つ、セル領域91を、現在の領域よりも狭いセル領域91に更新して、ステップS2へ戻る。
【0104】
ステップS7では、制御部10は、マッピングの終了条件を満たすか否かを判定する終了判定工程を実行する。マッピングの終了条件を満たすと判定した場合(ステップS7、YES)、制御部10は、マッピングを終了する。マッピングの終了条件を満たさないと判定した場合(ステップS7、NO)、ステップS8へ移行する。
【0105】
本実施形態においてステップ7におけるマッピングの終了条件の一例は、ステップ2(位置決定工程)において行われた、直近の2回以上(例えば、直近の3回)のガウス過程回帰のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置を含むセル領域91が重複する場合とすることができる。すなわち、制御部10は、ステップ2(位置決定工程)において行われた、直近の2回以上(例えば、直近の3回)のベイズ最適化のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置を含むセル領域91が重複する場合に、マッピングの終了条件を満たすと判定してよい。
【0106】
また、ステップS7では、後述するステップS8が少なくとも一回実行されたか否かを、マッピングの終了条件の前提としてもよい。この場合も、更に、ステップ2(位置決定工程)において行われた、直近の2回以上のベイズ最適化のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置を含むセル領域91が重複することをマッピングの終了条件とすることができる。
【0107】
すなわち、図14に示すように、ステップS7では、まず、ステップS8が少なくとも一回実行されたか否かを判定し(ステップS71)、ステップS8が一回も実行されていなければ(ステップS71、NO)、マッピングの終了条件を満たさないと判定(ステップS72)してステップS7を終了し、ステップS8へ移行する(図12参照)。
【0108】
ステップS8が少なくとも一回実行されていれば(ステップS71、YES)、ステップS73に移行する。
【0109】
ステップS73では、ステップ2(位置決定工程)において行われた、直近の3回のガウス仮定回帰のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置を含むセル領域91が重複するか否かを判定する。重複する場合は(ステップS73、Yes)、マッピングの終了条件を満たすと判定(ステップS74)してステップS7を終了してマッピングを終了する(図12参照)。重複しない場合は(ステップS73、No)、ステップS72へ移行する。
【0110】
なお、ステップS7では、少なくとも一回のステップS6が実行済みであり、且つ、現在の測定対象領域90に対してステップS2が所定回数(例えば、6回)以上実行済みであることを、マッピングの終了条件を満たすと判定することができる前提条件としてもよい。このようにすれば、マッピングの精度が向上する場合がある。
【0111】
また、ステップS7では、ステップ2(位置決定工程)において行われた、直近の2回以上(例えば、直近の3回)のベイズ最適化のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置を含むセル領域91が重複する場合に、マッピングの終了条件を満たすと判定するのみならず、終了判定工程(ステップS7)が既に3回実行された場合、すなわち、終了前測定工程(ステップS8)が既に3回実行された場合に、マッピングの終了条件を満たすと制御部10が判断することとしてもよい。このようにすると、マッピングにあたり、いたずらに測定サイクルを増やすことを回避することができる。
【0112】
ステップS8では、現在の測定対象領域90における、未探索のセル領域91から一つ以上(例えば、3つ)を選択し、選択されたセル領域91のインデンテーション試験を行い、プロファイルの測定結果をマッピングデータとして記憶部19に記憶する終了前測定工程を実行し、ステップ2へ移行する。
【0113】
なお、ステップS8で選択するセル領域91は、直前のステップ2において探索点とされたセル領域91の近傍のセル領域91から選択するようにするとよい。この際、探索済みセルは、ステップS8で選択するセル領域91からは除外する。直前のステップ2において探索点とされたセル領域91の近傍のセル領域91とは、例えば、直前のステップ2において探索点とされたセル領域91を囲う、周囲24個(内側の8個と外側の16個)のセル領域91の何れかとしてよい。このようにすることで、マッピングの精度が向上する場合がある。
【0114】
以上説明したようなマッピング方法を用いれば、従来法(全数試験)に比べて、所定の特性を有する部位の特定のために必要な測定サイクル数を大きく削減できる(例えば、100分の1にまで削減)。また、ベイズ最適化を用いたマッピング法であって、測定対象領域の更新及びセルの更新を行わないマッピング方法に比べても、所定の特性を有する部位の特定のために必要な測定サイクル数をおよそ半分にまで削減することができる。すなわち、測定対象領域の更新(縮小)は、分散に重み付けた獲得関数の隈なく探索するという性能を活かしつつ、探索が進行するにつれて期待値の高い箇所への重点的な探索を可能とし、マッピングの精度向上を実現する。また、セルの更新(セル領域の縮小)は、当初は大まかに分布を推定して探索の収束を早めつつ(大雑把なマッピングを行ってあたりを付けて)、その後に所定の特性を有する部位が存在するであろう領域についての精度の高い探索を可能とし、マッピングの精度向上を実現する。これらにより、マッピングの精度を高めつつ、ハイスループット化を実現できるのである。
【0115】
以上のようにして、ハイスループットなインデンテーションマッピング装置及びマッピング方法を提供することができる。
【0116】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、マッピング装置100が、試料9の表面への圧子2の押し込みと引き戻しに伴う圧子2に作用する荷重の変化であるプロファイルを取得するにあたり、
圧子2が所定の押し込み深さに押し込まれる場合を例示して説明した。しかし、プロファイルの取得は、圧子2に作用する荷重が所定の大きさになるまで押し込まれる場合においても行える。
【0117】
(2)上記実施形態では、測定対象領域90が正方形の領域である場合を仮定して説明したが、測定対象領域90は矩形状であってもよい。なお、測定対象領域90は矩形状である場合であっても、x方向において隣接するセル領域91,91の間隔d1とy方向において隣接するセル領域91,91の間隔d2とはできるだけ等しくなるように測定対象領域90を格子状に分割することが好ましい。
【0118】
(3)上記実施形態では、x方向において隣接するセル領域91,91の間隔d1とy方向において隣接するセル領域91,91の間隔d2とは等しくなる場合を説明した。しかし、間隔1dと間隔d2とはある程度等しければよく、同じ間隔であることは必須ではない。例えば間隔d1と間隔d2との間隔の違いは、プラスマイナス30%程度の相違は十分に許容される。間隔d1と間隔d2とは、圧痕Pの影響を避けられるように設定すればよい。また、マッピング結果の精度が低くならない程度に広く設定してよい。マッピング結果の精度をできるだけ高めたければ狭く設定すればよい。
【0119】
(4)上記実施形態において説明した、ステップS7における、マッピング終了条件は、上記実施形態での例示に限られず、マッピングの目的や、マッピングに求める精度に応じて適宜変更してよい。同様に、ステップS4における更新条件や、ステップS5における最小セルサイズの設定も、マッピングの目的や、マッピングに求める精度に応じて適宜変更してよい。
【0120】
例えば、上記実施形態では、領域更新判定工程において、現在、前回、及び前々回の3回の位置決定工程におけるガウス過程回帰のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置を含むセル領域91同士が隣接又は重複している場合に、更新条件を満たしていると判定する場合を説明したが、更新条件を満たしていると判定する条件はこれに限られない。例えば、ガウス過程回帰のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置について、現在と前回との当該位置間の座標上の距離が√2以内、且つ、前回と前前回との当該位置間の座標上の距離が√2以内である場合に、更新条件を満たしていると判定するように、条件を定めてもよい。すなわち、領域更新判定工程における更新条件は、座標上の位置関係に基づいて定めてもよいし、セル領域91同士の位置関係に基づいて定めてもかまわない。
【0121】
また、上記実施形態では、終了判定工程におけるマッピングの終了条件の一例として、位置決定工程において行われた、直近の2回以上のガウス仮定回帰のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置を含むセル領域91が重複する場合とすることができることを説明したが、マッピングの終了条件はこれに限られない。例えば、直近の2回以上のガウス仮定回帰のそれぞれにおいて導かれた、期待値が最大又は最小と予測された位置間の座標上の距離が√2以内である場合をマッピングの終了条件とすることもできる。すなわち、終了判定工程におけるマッピングの終了条件は、座標上の位置関係に基づいて定めてもよいし、セル領域91同士の位置関係に基づいて定めてもかまわない。
【0122】
(5)上記実施形態では、制御部10は、仮の探索点を含む又は仮の探索点に隣接するセル領域91である隣接セルから、既にインデンテーション試験を行ったセル領域91を除き、残りの隣接セルの中から、仮の探索点と最も距離が近いセル領域91を選択し、このセル領域91を、次回の探索点として決定する場合を説明した。しかし、少なくとも一度終了前測定工程が実行された後における位置決定工程においては、制御部10は、単に仮の探索点を含むセル領域91を、次回の探索点として決定し、仮に、この仮の探索点を含むセル領域91が、既にインデンテーション試験を行ったセル領域91と重複する場合は、測定工程を省略することとしてもよい。
【0123】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、マッピング方法及びインデンテーションマッピング装置に適用できる。
【符号の説明】
【0125】
1 :制御装置
2 :圧子
3 :ステージ
4 :台座
5 :支柱
9 :試料
10 :制御部
11 :測定部
19 :記憶部
21 :圧子支持部
41 :スライド機構
51 :昇降装置
52 :昇降機構
53 :位置センサ
54 :荷重センサ
90 :測定対象領域
91 :セル領域
91A :セル領域
91B :セル領域
91C :セル領域
91C :セル領域
91X :領域
91a :セル領域
91b :セル領域
100 :マッピング装置(インデンテーションマッピング装置)
K :定数
P :圧痕
:セル
:セル
:セル
:セル
:セル
m-1 :セル
h :深さ
d :間隔
d1 :間隔
d2 :間隔
q4 :仮の探索点
qm :仮の探索点
r :幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14