(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086630
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】電気的性能試験機
(51)【国際特許分類】
G01R 31/16 20060101AFI20230615BHJP
G01R 31/12 20200101ALI20230615BHJP
【FI】
G01R31/16
G01R31/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201302
(22)【出願日】2021-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】501180160
【氏名又は名称】株式会社安田精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134669
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道彰
(72)【発明者】
【氏名】古川 広治
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA01
2G015BA01
2G015BA03
2G015CA06
(57)【要約】
【課題】 電極を試験片の測定箇所に当てて測定電圧を印加し、試験片の電気的性質を測定し、サージ発生時の影響を低減できる電気的性能試験機を提供する。
【解決手段】 印加電圧制御部120と電圧印加電極130と対極140を備えた構成において、電圧印加電極130が試験片200の測定箇所に対するプローブとなる端子片131と、端子片131に対する接続片132とを備え、試験片200の測定箇所に対する端子片131の3次元的な移動を制御する3次元移動機構150と、電圧印加電極130において端子片131と接続片132が通電する接触状態と、端子片131と接続片132の離隔状態とを機械的に切り換える機械的切換機構160を備える。機械的切換機構160は接続片132を自重により端子片131に落下させてオン状態とし、接続片132を空圧により端子片131から離隔させてオフ状態に切り換える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加電圧制御部と電圧を印加する電圧印加電極と、前記電圧印加電極からの電圧を受ける対極を備え、前記電圧印加電極を試験片の測定箇所に当てて測定電圧を印加し、前記試験片の電気的性質を測定する電気的性能試験機であって、
前記電圧印加電極が、前記試験片の前記測定箇所に対するプローブとなる端子片と、前記端子片に対する接続片とを備え、
前記試験片の前記測定箇所に対する前記端子片の3次元的な移動を制御する3次元移動機構と、
前記電圧印加電極において前記端子片と前記接続片が通電する接触状態と、前記端子片と前記接続片が通電していない離隔状態とを機械的に切り換える機械的切換機構を備えたものであることを特徴とする試験片の電気的性能試験機。
【請求項2】
前記対極の配置が、前記試験片を挟んで前記電圧印加電極と対向し合う配置と、前記試験片の沿面で前記電圧印加電極と同一表面にある配置のいずれかを切り換えることができることを特徴とする請求項1に記載の試験片の電気的性能試験機。
【請求項3】
前記機械的切換機構として、前記接続片が重力により下降移動を可能とする重力落下構造を備え、
前記離隔状態から前記接触状態への遷移が、前記接続片が自重によって下降移動して前記端子片に接触することにより、前記端子片と前記接続片が前記接触状態となるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の試験片の電気的性能試験機。
【請求項4】
前記重力落下構造において前記接続片にかかる前記重力が、前記接続片の自重であることを特徴とする請求項3に記載の試験片の電気的性能試験機。
【請求項5】
前記重力落下構造において前記接続片にかかる前記重力が、前記接続片の自重と、前記接続片に荷重した交換可能な錘体の重力との合計であることを特徴とする請求項3に記載の試験片の電気的性能試験機。
【請求項6】
前記機械的切換機構として、前記接続片を空圧により上昇移動を可能とする空圧移動構造を備え、
前記接触状態から前記離隔状態への遷移が、前記接続片が前記空圧移動構造によって空圧で上昇移動して前記端子片から離隔することにより前記接続片を介した通電が遮断されて前記離隔状態に遷移するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の試験片の電気的性能試験機。
【請求項7】
前記機械的切換機構として、前記端子片と前記接続片を空圧により上昇移動を可能とする空圧移動構造を備え、
前記接触状態から前記離隔状態への遷移が、前記端子片が前記空圧移動構造によって空圧で上昇移動して前記試験片から離隔することにより前記接続片を介した通電が遮断されて前記離隔状態に遷移するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の試験片の電気的性能試験機。
【請求項8】
前記端子片が、前記接続片の移動空間と、前記移動空間の上方を閉鎖するフランジと、前記フランジにおいて前記接続片の移動軸を貫通させる孔部を備え、
前記接続片が 前記端子片の移動空間内を移動する移動体と、前記移動体を移動させる前記移動軸を備え、
前記接続片が前記端子片から離隔する前記離隔状態になった場合に、前記移動体が前記フランジに当接してそれ以上上方へ移動できないように制限された構造であることを特徴とする請求項6または7に記載の試験片の電気的性能試験機。
【請求項9】
前記端子片の前記フランジの下面が水平面であり、前記孔部が垂直な壁面であり、
前記接続片の前記移動体の上面が水平面であり、前記移動軸の壁面が垂直な壁面であることを特徴とする請求項8に記載の試験片の電気的性能試験機。
【請求項10】
前記端子片における前記移動空間に空気媒体が充満しているものであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の試験片の電気的性能試験機
【請求項11】
前記端子片における前記移動空間に液体媒体が充満しているものであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の試験片の電気的性能試験機
【請求項12】
前記試験片の前記電気的性質として測定するものが、前記試験片の前記測定箇所において絶縁が破壊される電圧を測定する絶縁破壊電圧であることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の試験片の電気的性能試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極を試験片の測定箇所に当てて測定電圧を印加し、試験片の電気的性質を測定する電気的性能試験機に関する。電気的性質としては、例えば、試験片の測定箇所において絶縁が破壊される電圧を測定する絶縁破壊電圧などがある。
【背景技術】
【0002】
様々な製品の部材について電気的性質について検査が求められる場合がある。例えば、部材の絶縁性能については一般的な耐電圧特性試験が日本工業規格(JISC2110:2016等)に定められており、広く利用されている。
日本工業規格には、耐電圧特性試験の試験手順が定められており、例えば、試験電圧の昇圧方式も定められている。試験電圧の昇圧方式としては、短時間(急速昇圧)試験、20秒段階昇圧試験、低速昇圧試験、60秒段階昇圧試験、超低速昇圧試験などの昇圧方式が定められている。
ここで、部材の耐電圧特性試験の測定箇所は1か所のみならず隣接する複数個所とされる場合もあり、複数の部材について測定してそれらの結果を用いて統計学的に性能評価する場合もあり得る。
耐電圧特性試験機の測定において、人手の介入を少なくし可能な限り自動化することが好ましい。
【0003】
従来の耐電圧特性試験機としては特許文献1のものが知られている。
図5に示すように、特許文献1には、絶縁材を挟み込む二つの電極と、この電極を押えるばねとを有し、この二つの電極間に電圧を印加することで耐電圧特性性を試験する方法及び試験装置が開示されている。
【0004】
また、従来の耐電圧特性試験機としては特許文献2のものが知られている。
図6に示すように、特許文献2には、絶縁シートWを可動電極3と固定電極4とで挟んで局所的に押圧し、可動電極3と固定電極4との間に絶縁シートWの薄厚部dを形成し、可動電極3と固定電極4との間に電圧を印加して絶縁シートWの耐電圧特性を評価するものが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000-009789号公報
【特許文献2】特開2021-032684号公報
【非特許文献1】JISC2110:2016
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1の耐電圧特性試験機は、試験電圧が印加される両電極間をばねの弾性力で閉じることで絶縁材を挾み込んで固定する方式を採用している。試験する部材は圧縮ばねの力のみで各電極に固定されているため人手による交換作業は比較的容易である。
しかし、測定箇所が1か所に限定され、隣接する他の箇所を測定するためには、人手で挟持する箇所を変えなければならない。つまり、特許文献1の技術によれば、測定箇所に狙って両電極を人手で載置してばねの弾性力で部材を挟持する必要があった。この作業は人手で行わざるを得ず、自動化には適していない。
ここで、大きな問題がある。特許文献1の耐電圧特性試験機では、試験片の取り外しは手で行わざるを得ず、測定電圧の印加のオンオフ切り換えは電気的制御となっている。しかし、サージという状態は試験片の絶縁破壊により通電してしまい耐電圧特性試験機の電気回路すべてに過負荷が掛かってしまう。つまり、従来の耐電圧特性試験機において試験片の絶縁破壊によりサージが発生すると過負荷のサージの影響が試験機内部の電気制御回路などにも発生してしまい、何度もサージの影響を受けるとサージ電圧の影響で故障したり劣化したりするおそれがあり得る。
【0007】
次に、上記した特許文献2の耐電圧特性試験機は、絶縁シートWを可動電極3と固定電極4とで挟んで局所的に押圧し、可動電極3と固定電極4との間に絶縁シートWの薄厚部dを形成し、可動電極3と固定電極4との間に電圧を印加して絶縁シートWの耐電圧特性を評価するものである。試験する部材は昇降部10のばねの力で挟持されて、可動電極3と固定電極4に挟まれている。可動電極3は尖端部32aを持っており、昇降部10はガイド柱11に対して昇降プレート5が昇降可能な構造となっており、部材を挟み込む際には可動電極3の尖端部32aを部材に突き刺すことで固定している。
しかし、測定箇所を複数として、隣接する他の箇所を測定するためには、昇降部10が昇降プレート5をガイド柱11に沿うように昇降しなければならず、測定箇所を変更することは時間が掛かり、隣接する他の箇所を測定することには向いていない。
つまり、特許文献2の技術によれば、測定箇所を変更することは容易ではなく、結局人手を介さざるを得ず、自動化には適していない。つまり、昇降プレート5をガイド柱11に沿うように昇降させる昇降部10による動きでは昇降動作が遅く、試験片に絶縁破壊が起こってサージが発生した際に速やかに可動電極3を部材から離隔させることができない。これは大きな問題である。特許文献2の耐電圧特性試験機も、測定電圧の印加のオンオフ切り換えは電気的制御となっており、サージ発生により試験片の絶縁破壊により通電してしまい耐電圧特性試験機の電気回路に過負荷が掛かってしまい、何度もサージの影響を受けるとサージ電圧の影響で故障したり劣化したりするおそれがあり得る。
【0008】
発明者古川広治は、このような従来の問題点に鑑み、測定処理の自動化に適した耐電圧特性試験機について考察し、発明するに至った。特に、サージ発生の影響を低減するため、電気的なスイッチングではなく、機械的な切り換え制御によって、測定部材に対して電極を当接させる際には穏やかに接近・接触させ、かつ、測定部材から電極の当接を解除する際には電極を速やかに離隔させることができる方法について考察し、本発明にかかる耐電圧特性試験機を発明するに至った。
また、発明者古川広治は、発明した電極に関するものは、耐電圧特性試験機のみならず、電極をプローブとして用いる電気的性能試験機として幅広く採用できることも見い出した。
【0009】
本発明は、電極を試験片の測定箇所に当てて測定電圧を印加し、試験片の電気的性質を測定し、サージ発生時の影響を低減できる電気的性能試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の電気的性能試験機は、印加電圧制御部と電圧を印加する電圧印加電極と、前記電圧印加電極からの電圧を受ける対極を備え、前記電圧印加電極を試験片の測定箇所に当てて測定電圧を印加し、前記試験片の電気的性質を測定する電気的性能試験機であって、前記電圧印加電極が前記試験片の前記測定箇所に対するプローブとなる端子片と、前記端子片に対する接続片とを備え、前記試験片の前記測定箇所に対する前記端子片の3次元的な移動を制御する3次元移動機構と、前記電圧印加電極において前記端子片と前記接続片が通電する接触状態と、前記端子片と前記接続片が通電していない離隔状態とを機械的に切り換える機械的切換機構を備えたものであることを特徴とする試験片の電気的性能試験機である。
【0011】
上記構成により、試験片の電気的性質を測定することができ、機械的切換機構により接触状態および離隔状態を制御し、接触片と端子片を介した試験片への通電を確保したり遮断したりすることができる。
本発明の電気的性能試験機において機械的切換機構を備えていることには大きなメリットがある。従来技術において電気的なスイッチングでオンオフ切り換えを行うものもあるが、サージという状態は試験片の絶縁破壊により通電してしまい電気回路すべてに過負荷が掛かってしまう。つまり、従来の電気的性能試験機において試験片の絶縁破壊によりサージが発生すると過負荷のサージの影響が従来の電気的性能試験機内部の電気制御回路などにも発生してしまい、何度もサージの影響を受けると従来の電気的性能試験機全体もサージ電圧の影響で故障したり劣化したりするおそれがあり得る。一方、本発明の電気的性能試験機では、機械的なスイッチングでオンオフ切り換えを行うものであり、サージ発生時にも素早く機械的にオンオフ切り換えができ、本発明の電気的性能試験機本体にはサージによる過負荷の影響が発生しにくくなるというメリットがある。
【0012】
なお、本発明の電気的性能試験機において、前記対極の配置としては、前記試験片を挟んで前記電圧印加電極と対向し合う配置(試験片の垂直方向の電気的性質測定モード)と、前記試験片の沿面で前記電圧印加電極と同一表面にある配置(試験片の沿面方向の電気的性質測定モード)のいずれかを切り換えることができるものとすれば、電気的性能試験機において、試験片の垂直方向の電気的性能試験(絶縁破壊試験など)、試験片の沿面方向の絶縁破壊試験(電気的性能試験など)の両方に対応する試験機となる。
【0013】
次に、上記構成の本発明の電気的性能試験機において、前記機械的切換機構を工夫して、測定部材に対して電極を当接させる際には穏やかに接近・接触させ、かつ、測定部材から電極の当接を解除する際には電極を速やかに離隔させることができる構造を盛り込むことができる。
【0014】
まず、測定部材に対して電極を当接させる際の前記機械的切換機構の工夫として、前記接続片が重力により下降移動を可能とする重力落下構造を備え、前記離隔状態から前記接触状態への遷移が、前記接続片が自重によって下降移動して前記端子片に接触することにより、前記端子片と前記接続片が前記接触状態となるものとすることができる。
上記構成によれば、測定部材に対して電極を当接させる際には穏やかに接近・接触させることができる。
なお、前記重力落下構造において前記接続片にかかる前記重力が、前記接続片の自重であるものとすることもできる。
さらに、前記重力落下構造において前記接続片にかかる前記重力が、前記接続片の自重と、前記接続片に荷重した交換可能な錘体の重力との合計であるものとすることもできる。
【0015】
次に、測定部材から電極を速やかに離隔させる前記機械的切換機構の第1の工夫として、接続片を空圧により上昇移動を可能とする空圧移動構造を備えた構造がある。
前記接触状態から前記離隔状態への遷移が、前記接続片が前記空圧移動構造によって空圧で上昇移動して前記端子片から離隔することにより前記接続片を介した通電が遮断されて前記離隔状態に遷移することができる。
また、測定部材から電極を速やかに離隔させる前記機械的切換機構の第2の工夫として、前記端子片と前記接続片を空圧により上昇移動を可能とする空圧移動構造を備えた構造がある。
前記接触状態から前記離隔状態への遷移が、前記端子片が前記空圧移動構造によって空圧で上昇移動して前記試験片から離隔することにより前記接続片を介した通電が遮断されて前記離隔状態に遷移することができる。
【0016】
上記のように、機械的切換機構を工夫して、測定部材に対して電極を当接させる際には穏やかに接触させ、かつ、測定部材から電極の当接を解除する際には電極を速やかに離隔させることができる構造を盛り込むことにより、機械的切換処理が素早くかつ速やかにできるようになる。従来のように柱に対してギヤなどを介してサーボモータなどを介して昇降する機構であれば素早く切り換えることができないところ、上記構成よれば前記接触状態から前記離隔状態への遷移、前記離隔状態から前記接触状態への遷移が素早く速やかに行うことができ、サージ発生の影響などを低減することができる。
【0017】
ここで、機械的切換機構として前記接触状態から前記離隔状態への遷移について空圧を利用する場合、急速に上昇する接続片が端子片から抜け出てしまわないように配慮する必要がある。そこで、端子片が、接続片の移動空間と、移動空間の上方を閉鎖するフランジと、フランジにおいて接続片の移動軸を貫通させる孔部を備えたものとし、接続片は端子片の移動空間内を移動する移動体と、移動体を移動させる移動軸を備えた構成とするとともに、接続片が端子片から離隔する離隔状態になった場合に、移動体の上面がフランジに当接してそれ以上上方へ移動できないように制限された構造とすることが好ましい。
上記構成より、空圧で急速に接続片を上方へ移動させても端子片から抜け出ることはない。
【0018】
ここで、端子片のフランジの下面が水平面であり、孔部が垂直な壁面であり、接続片の移動体の上面が水平面であり、移動軸の壁面が垂直な壁面であることが好ましい。このように両者の当接面がすべて水平面か垂直面となり、両者の相対的移動が垂直方向に制限され、斜め方向に移動することはなく、移動途中や移動結果として斜めに引っ掛かるような不具合が発生しにくくなる。
ここで、端子片における接続片の移動空間に気体媒体(例えば空気)が充満しているものとすることもでき、また、液体媒体が充満しているものとすることもできる。
試験片の電気的性質を測定する環境として、気中や液中で行う場合もあり得るところ、接続片の移動空間に適した気体や液体を導入した状態でも稼働することができる。また、液体が充満している場合、液体媒体がダンパーとしての役割を果たし、接続片の端子片に対する相対移動速度を調整することも可能となる。
【0019】
本発明の電気的性能試験機の適用例としては、試験片の測定箇所において絶縁が破壊される電圧(絶縁破壊電圧)を測定する絶縁破壊測定装置がある。
また、例えば、試験片の測定箇所において電気抵抗を測定する電気抵抗測定装置、試験片の測定箇所において通電状態を判定するテスター装置などプローブを用いる測定装置として幅広く適用できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる電気的性能試験機によれば、簡単な構造によって、機械的切換機構により接続片と端子片の構造を備えた電極を介して試験片の測定箇所に当てて測定電圧を印加し、試験片の電気的性質を測定することができる。機械的切換機構により素早く速やかに接続片と端子片の接触状態および離隔状態を制御し、接触片と端子片の構造を備えた電極の機械的制御により試験片への通電を確保したり遮断したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施例1に係る電気的性能試験機100の構成を簡単に示した構成図である。
【
図2】端子片131と接続片132の各部位を大きく示した図である。
【
図3】測定を気体中で行う場合の端子片131と接続片132の機械的切換制御を示す図である。
【
図4】測定を液体中で行う場合の端子片131と接続片132の機械的切換制御を示す図である。
【
図5】従来技術における特開2000-009789号公報に開示された電気的性能試験機の構成例を示した図である。
【
図6】従来技術における特開2021-032684号公報に開示された電気的性能試験機の構成例を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の電気的性能試験機の実施例を説明する。
なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明の範囲は以下の実施例に示した具体的な用途、形状、個数などには限定されないことは言うまでもない。
以下、JISと略記した場合は、現行JIS2110:2016や今後JIS2110が改訂された場合にはその後継規格を意味する。また、実施例において記載されていない数値や条件は現行JIS2110:2016や今後JIS2110が改訂された場合にはそれに記載される数値や条件とする。
【実施例0023】
電気的性能試験機100が用いる試験片200は、JISに規定された条件や数値に見合うものとする。ここでは、規定サイズの矩形状のものとする。
実施例1に係る電気的性能試験機100の構成を説明する。
図1は、本実施例1に係る電気的性能試験機100の構成を簡単に示した構成図である。
図1(a)は、垂直方向の電気的性質測定モードを示している。
図1(b)は、沿面方向の電気的性質測定モードを示している。
本実施例1に係る電気的性能試験機100は、垂直方向の電気的性質測定モードのみしか測定できない装置構成や、沿面方向の電気的性質測定モードのみしか測定できない装置構成や、垂直方向の電気的性質測定モードと沿面方向の電気的性質測定モードのいずれかに切り換えることができる装置構成も可能である。
【0024】
実施例1にかかる電気的性能試験機100は、
図1に示すように、試験片台110、印加電圧制御部120、電圧印加電極130、対極140、3次元移動機構150、機械的切換機構160を備えた構成となっている。
なお、電気的性能試験機100のその他の構造の図示は省略するが電気的性能試験機として必要な構成要素は備えているものとする。
【0025】
試験片台110は、試験片を1つまたは複数個並べて載置する台である。ここでは、各々の試験片200の測定面210を所定方向、例えば上下方向に向けて並べて載置する。
なお、試験片台110にはクランプ器具が設けられていても良い。クランプ器具により試験片台110に載置された試験片200を一時固定することができる。
【0026】
印加電圧制御部120は、電圧印加電極130に対して印加電圧を供給するものである。なお、印加電圧制御部120には、商用電源から電圧を得て、昇圧または降圧して電気的性質の各種試験に必要な電圧に変換することができるものとする。
印加電圧制御部120が制御する印加電圧および印加時間(昇圧方式)としては、JIS規格に沿ったものであり、その規格に沿った昇圧方式で電圧印加電極130に対して測定電圧を供給するものとする。例えば、JIS規格にあるように、短時間(急速昇圧)試験、20秒段階昇圧試験、低速昇圧試験、60秒段階昇圧試験、超低速昇圧試験などの昇圧方式に沿って、各々の測定における所定の印加電圧を供給できるものとする。
【0027】
本実施例1に係る電気的性能試験機100は、電極として、電圧印加電極130と対極140を備えている。
電圧印加電極130は、印加電圧制御部120からの電圧を印加する電極端子である。端子片131と、端子片131に対する接続片132を備えている。
この端子片131と接続片132は機械的に相対的移動が可能となっており、両者の通電のオンオフを機械的に切り換えることができる。つまり、端子片131と接続片132が接触し合って通電する接触状態と、端子片131と接続片132が通電していない離隔状態とを機械的に切り換える機械的切換機構160を備えたものとなっている。
【0028】
この電圧印加電極130の機械的切換機構については詳しく説明する。
図2は、端子片131と接続片132の各部位を大きく示した図である。
図2(a)は接触底面1315を備えているパターンである。
図2(b)は接触底面1315がなく底面孔1316を備えているパターンである。
【0029】
まず、接触底面1315を備えているパターンを説明する。
図2(a)に示すように、端子片131は、接続片の移動空間1311と、移動空間1311の上方を閉鎖するフランジ1312と、接続片の移動軸を貫通させる孔部1313と、壁面1314と、接触底面1315を備えている。接続片132は、端子片131の移動空間1311内を移動する移動体1321と、移動軸1322と通電線1323を備えている。
【0030】
端子片131と接続片132の各部位の素材の導電性について述べる。
端子片131については、フランジ1312、孔部1313、壁面1314は非導電性で大きな絶縁耐性を持つ素材で構成されていることが好ましく、接触底面1315は全体が導電性の大きな金属素材(例えば銅製)であることが好ましい。また、接続片132については、移動体1321、移動軸1322とも導電性の大きな金属素材(例えば銅製)であることが好ましい。なお、移動軸1322については、全体が導電性素材であっても良く、通電線1323の延長として通電する電気線が内部に移動体1321まで通っていれば外郭素材は非導電性素材であっても良い。
【0031】
また、端子片131と接続片132の形状としては、限定されないが、例えば、
図2に示すように、端子片131のフランジ1312の下面が水平面であり、孔部1313は垂直な壁面であることが好ましい。また、接続片132の移動体1321の上面が水平面であり、移動軸1322の壁面が垂直な壁面であることが好ましい。
このような形状であれば、接続片132が端子片131に対して相対的に垂直方向に移動するようガイドされており、斜め移動などで壁面などに当接して引っ掛かるという不具合が発生しにくくなる。
【0032】
次に、接触底面1315がなく底面孔1316を備えているパターンを説明する。
図2(b)に示すように、端子片131は、移動空間1311とフランジ1312と孔部1313と壁面1314と底面孔1316を備えている。接続片132は、端子片131の移動空間1311内を移動する移動体1321と、移動軸1322と通電線1323を備えている。
この
図2(b)のパターンであれば、試験片200の測定箇所に載置された端子片131には底面がなく、接続片132の移動体1321が直接試験片200の測定箇所に接触することとなり、測定電圧が通電線1323、移動軸1322、移動体1321を介して試験片200の測定箇所に測定電圧が印加されることとなる。
【0033】
次に対極140を説明する。
対極140は、電圧印加電極130からの電圧を受ける端子である。
この対極140の配置には少なくとも2パターンある。
図1(a)は、垂直方向の電気的性質測定モードを示している。垂直方向の電気的性質測定モードは、対極140の配置が試験片200を挟んで電圧印加電極130と対向し合う配置となっているパターンである。
垂直方向の電気的性質測定モードでは、試験片200を挟んで垂直方向に電圧印加電極130と対極140が並んでおり、電圧印加電極130からの電圧が垂直方向に試験片200に印加され対極140に受けられることにより、試験片200の垂直方向の電気的性質を測定することができる。例えば、試験片200の垂直方向の絶縁破壊電圧を測定することにより絶縁層としての絶縁耐性を試験することができる。
【0034】
図1(b)は、沿面方向の電気的性質測定モードを示している。沿面方向の電気的性質測定モードは、対極140の配置が試験片200の表面に沿って電圧印加電極130と同一表面上にある配置となっているパターンである。
沿面方向の電気的性質測定モードでは、試験片200の同一表面上に並行して電圧印加電極130と対極140が並んでおり、電圧印加電極130からの電圧が試験片200の表面方向(沿面方向)に電圧が印加され対極140に受けられることにより、試験片200の表面(沿面方向)の電気的性質を測定することができる。例えば、試験片200の沿面方向の絶縁破壊電圧を測定することにより表面方向の絶縁耐性を試験することができる。
【0035】
次に、
図2に示した電圧印加電極130に対する測定箇所への移動およびオンオフの機械的スイッチング制御を行う構成として、機械的移動構造150と機械的切換機構160について説明する。
【0036】
機械的移動構造150は、試験片200の測定箇所に対する電圧印加電極130の端子片131の3次元的な移動を制御する機構である。つまり、プローブとして電圧印加電極130の端子片131を上下移動させ、試験片200に端子片131を当接させたり、試験片200から端子片131を離隔させたりすることができる。また、プローブとして電圧印加電極130の端子片131を水平移動させ、試験片200に端子片131を所定ピッチで移動させることができる。もちろん、電圧印加電極130の端子片131の上下移動と水平移動を組み合わせて3次元的に移動を制御することができるものが好ましい。
【0037】
次に、機械的切換機構160は、電圧印加電極130において端子片131と接続片132が通電する接触状態(オン状態)と、端子片131と接続片132が通電していない離隔状態(オフ状態)とを機械的に切り替える機構(機械的スイッチング制御機構)である。
機械的切換機構160の制御によって、電圧印加電極130は、端子片131と接続片132のいずれかまたは両方が相対的に移動可能となっている。機械的に端子片131と接続片132が接触し合った状態(接触状態)と、端子片131と接続片132が離隔した状態(離隔状態)を切り換えることができるものとなっている。ここでは、この端子片131と接続片132の接触状態と離隔状態の機械的な切り換え制御を機械的切換制御と呼ぶ。
【0038】
本発明の電気的性能試験機100において機械的切換機構160を備えていることには大きなメリットがある。従来の電気的性能試験機は電気的なスイッチングでオンオフ切り換えを行うものが多いが、サージという状態は試験片200の絶縁破壊により通電してしまい電気回路すべてに過負荷が掛かってしまう。つまり、従来の電気的性能試験機において試験片200の絶縁破壊によりサージが発生すると過負荷のサージの影響が従来の電気的性能試験機内部の電気制御回路などにも発生してしまい、何度もサージの影響を受けると従来の電気的性能試験機では装置全体がサージ電圧の影響で故障したり劣化したりするおそれがあり得る。一方、本発明の電気的性能試験機100では、機械的切換機構160による機械的なスイッチングでオンオフ切り換えを行うものであり、サージ発生時にも素早く機械的にオンオフ切り換えができ、本発明の電気的性能試験機本体にはサージによる過負荷の影響が発生しにくくなるというメリットがある。
【0039】
図3および
図4は、電圧印加電極130の機械的切換機構を断面構造にて示した図である。
図3は、測定を気体中で行う場合の端子片131と接続片132の機械的切換制御を示す図である。端子片131には気体媒体が充填されている。
図4は、測定を液体中で行う場合の端子片131と接続片132の機械的切換制御を示す図である。端子片131には液体媒体が充填されている。
なお、電圧印加電極130には、
図2(a)に示す接触底面1315があるパターンのほか、
図2(b)に示すように接触底面1315がなく底面孔1316が設けられているパターンもあるが、
図3および
図4は代表的に
図2(a)のパターンのものを例に図示している。
図2(b)のパターンのものも同様に考えれば良い。
【0040】
まず、機械的切換機構160によるオン動作を説明する。
機械的切換機構160によるオン動作は、電圧印加電極130の端子片131と接続片132が離隔した離隔状態(遮断状態)から、端子片131と接続片132が接触した接触状態(通電状態)に物理的に切り換える動作である。
図3(a)および
図4(a)は、機械的切換機構160によるオン動作を示している。上方に維持されていた接続片132が端子片131の底面に到達することで通電する仕組みとなっている。
ここでは、機械的切換機構160によるオン動作時の駆動方法は、接続片132の自重を利用した落下移動とする。
図3(a)および
図4(a)において、先立って機械的移動構造150により端子片131が試験片200の測定箇所に当接しているものとする。
左側の図に見るように、試験片200の測定箇所に当接している端子片131の移動空間1311の中で接続片132の移動体1321が上方に位置し、導電性素材の接触底面1315からは離隔しており、電気的には遮断状態にある。
この状態から接続片132の自由運動状態におけば、自重により下方へ移動して行き、接続片132が自由落下してゆく。その結果、
図3(a)では、左側の図から中央の図を介して右側の図に見るように、移動体1321が導電性素材の接触底面1315に接触する位置まで落下する。
【0041】
図3(a)は気体中での自由落下であり、比較的速やかに移動するが、接続片132は重量物ではないので、接触底面1315に激しく衝突するようなことはない。
図4(a)は液体中での自由落下であり、移動空間1311内の液体が一種のダンパーとして働き、比較的穏やかに移動する。接続片132は重量物ではないので、移動体1321が接触底面1315にゆっくりと着座する。なお、このダンパーの応力に逆らって移動する移動速度を制御するため、交換可能な錘体(図示せず)を取り付けることも可能である。錘体(図示せず)を接続片132に荷重することにより、接続片132の落下速度を調整することができる。
【0042】
移動体1321が導電性素材の接触底面1315に接触することにより、印加電圧制御部120から印加された測定電圧が、通電線1323、移動軸1322から移動体1321に印加され、さらに、導電性素材の接触底面1315を介して試験片200の測定箇所に印加される。
【0043】
次に、機械的切換機構160によるオフ動作を説明する。
機械的切換機構160によるオン動作は、電圧印加電極130の端子片131と接続片132が離隔した離隔状態(遮断状態)から、端子片131と接続片132が接触した接触状態(通電状態)に物理的に切り換える動作である。
図3(b)および
図4(b)は、機械的切換機構160によるオフ動作を示している。下方に接触していた接続片132の移動体1321が、導電性素材の接触底面1315から上方へ離脱することで通電が遮断される仕組みとなっている。
【0044】
ここでは、機械的切換機構160によるオフ動作時の駆動方法は、接続片132に空圧を負圧として印加して吸引移動する方法とする。
左側の図に見るように、接続片132の移動体1321が端子片131の導電性素材の接触底面1315に接触しており、電気的には通電状態にある。
この状態から接続片132に対して負圧となる空圧が上方から印加されると、負圧により上方へ素早く移動し、接続片132が上方へ吸引される。その結果、
図3(b)では、左側の図から中央の図を介して右側の図に見るように、移動体1321がフランジ1312の内面まで急激に吸引されて移動する。なお、フランジ1312に穿設されている孔部1313の内径よりも移動体1321の外径の方が大きく抜け出ないものとなっている。つまり、負圧の空圧で上方に急激に移動しても移動体1321がフランジ1312の内面に当接して移動が制限され、電圧印加電極130が分離してしまうようなことはない。
図3(b)は気体中での移動であり、急速に移動する。
図4(a)は液体中での移動であり、移動空間1311内の液体が一種のダンパーとして働くが、比較的急速に移動する。
【0045】
移動体1321が接触底面1315から離隔することにより、印加電圧制御部120から印加された測定電圧が、通電線1323、移動軸1322から移動体1321まで通電しているが、導電性素材の接触底面1315からは離隔するので試験片200の測定箇所への通電が高速に遮断される。
このように、電圧印加電極130において、機械的切換機構160によりオン動作、オフ動作が物理的に切り換えられる。
【0046】
ここで、形状的な特徴として、接続片132の移動体1321の上面が水平面、移動体1321の下面も水平面であり、端子片131のフランジ1312の下面も水平面とすれば、
図3(b)の右図や
図4(b)の右図のように、空圧で急激に接続片132が上昇して接続片132の移動体1321の上面が端子片131のフランジ1312の下面に衝突しても、端子片131の孔部1313を中心としてその周囲で均等に移動体1321の上面と端子片131のフランジ1312の下面との当接が発生するため、機械的切換機構160によるオフ動作の結果として、接続片132の移動体1321の水平状態および移動軸1322の垂直状態が保たれたデフォルト状態に強制的に復帰することとなり、次に、機械的切換機構160によるオン動作が開始する際には、自重で落下する際には、接続片132が垂直状態で落下してゆく。
【0047】
以上、本発明の電気的性能試験機の構成例における好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。