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<図1>
  • 特開-慣性調整機能があるバランス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086663
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】慣性調整機能があるバランス
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
G04B17/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022132985
(22)【出願日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】21213656.8
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ジャンヌレ
(72)【発明者】
【氏名】エマニュエル・グラフ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ヴェラルド
(57)【要約】      (修正有)
【課題】容易かつ迅速に調整を行うことができる慣性調整機能があるバランスを提供する。
【解決手段】計時器用ムーブメントのためのバランス1に関し、バランス1には、バランス1の回転軸Aを定めるハブ2と、輪縁体3と、及び輪縁体3をハブ2に接続する4つのアーム4によって構成している高剛性部分があり、4つのアーム4には、慣性ブロック6、6'を受け適切な位置に把持するための4つの溝7があり、各溝7は、一方ではアーム4のうちの1つのアーム4によって、他方では弾性アーム5によって境界が定められ、弾性アーム5には、アーム4と一体的となっている第1の端5Bと、及びハブ2、アーム4及び輪縁体3に対して自由な遠位の第2の端5Aがある。慣性ブロック6、6'の各対は、調整パワーが異なることを確実にするように質量が異なり、第1の対の慣性ブロック6は、基本調整用であり、第2の対の慣性ブロック6'は、正確な調整用である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器用ムーブメントのためのバランス(1)であって、
前記バランス(1)には、前記バランス(1)の回転軸(A)を定めるハブ(2)と、
輪縁体(3)と、及び
前記輪縁体(3)を前記ハブ(2)に接続する4つのアーム(4)によって構成している高剛性部分があり、
前記4つのアーム(4)には、慣性ブロック(6、6')を受け適切な位置に把持するための4つの溝(7)があり、
各溝(7)は、一方では前記アーム(4)のうちの1つのアーム(4)によって、他方では弾性アーム(5)によって境界が定められ、
前記弾性アーム(5)には、前記アーム(4)と一体的となっている第1の端(5B)と、及び前記ハブ(2)、前記アーム(4)及び前記輪縁体(3)に対して自由な遠位の第2の端(5A)があり、
前記バランス(1)には、2対の慣性ブロック(6、6')があり、
前記慣性ブロック(6、6')の各対は、調整パワーが異なることを確実にするように質量が異なり、
前記第1の対の慣性ブロック(6)は、基本調整用であり、
前記第2の対の慣性ブロック(6')は、正確な調整用である
ことを特徴とするバランス(1)。
【請求項2】
各対の慣性ブロック(6、6')は、前記バランス(1)の回転軸(A)に対して反対側にある溝(7)内に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のバランス(1)。
【請求項3】
前記慣性ブロックの各対(6、6')は、異なる寸法構成を有し、
前記第1の対の慣性ブロック(6)は、前記第2の対の慣性ブロック(6')よりも大きい又はその逆である
ことを特徴とする請求項1に記載のバランス(1)。
【請求項4】
前記第1の対の慣性ブロック(6)は、前記第2の対の慣性ブロック(6')よりも重い又はその逆である
ことを特徴とする請求項1に記載のバランス(1)。
【請求項5】
前記慣性ブロックの対(6、6')は、異なる材料によって作られる
ことを特徴とする請求項1に記載のバランス(1)。
【請求項6】
前記第1の対の慣性ブロック(6)と前記第2の対の慣性ブロック(6')は、前記バランスの前記ハブとの半径方向の距離が異なるように配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のバランス(1)。
【請求項7】
前記第1の対の慣性ブロック(6)は、前記輪縁体(3)に近い第1の半径上に配置され、
前記第2の対の慣性ブロック(6')は、前記バランスの前記ハブ(2)に近い第2の半径上に配置される
ことを特徴とする請求項6に記載のバランス(1)。
【請求項8】
前記アーム(4)、前記輪縁体(10)及び前記ハブ(2)は、一体的な要素を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のバランス(1)。
【請求項9】
請求項1に記載のバランス(1)を備える
ことを特徴とする計時器用ムーブメント。
【請求項10】
請求項9に記載の計時器用ムーブメントを備える
ことを特徴とする計時器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慣性を調整する手段を備える、慣性調整機能があるバランスに関する。
【0002】
本発明は、さらに、このようなシステムを備える計時器用ムーブメント、及びこのようなムーブメントを備える計時器に関する。
【背景技術】
【0003】
周部に配置された調整ねじを用いて慣性モーメントを調整することができるバランスが知られている。この種のデバイスとしては、特に、機械式発振器におけるものが知られており、その発振器の基本振動数が、バランスの慣性モーメントによって調整される。一般的には、このようなバランスには、輪縁体、アーム、及びバランスの輪縁体又はアームに固定されたねじ又は慣性ブロックの特定の構成があり、これらの位置を調整することによって、バランスの慣性モーメントを変えることができる。これらのねじ又は慣性ブロックは、それらの位置を調整することを可能にするスパナやドライバーを用いて位置が決められる。
【0004】
例えば、スイス特許CH264669によって、頭部のない調整ねじを備えるバランスであって、この調整ねじがバランスの輪縁体の外側からねじ込まれてバランスの厚み内に埋め込まれるものが知られている。このバランスは、ねじを備えるバランスであって、ねじの頭部が輪縁体の周部のまわりにて又は輪縁体にある空洞の中にて突き出ているように配置されているもの、を置き換えることができることを目的としている。
【0005】
また、欧州特許EP1837719B1によって、バランスの内部の方へと半径方向に向いているスタッドを備えるバランスの輪縁体も知られており、これらのスタッドにおいてはそれぞれ、ねじ穴が横断するようになっており、このねじ穴は、バランスの内部からねじ込まれる慣性ブロックを受ける。この構成においては、慣性ブロックの把持が容易ではなく、調整中にバランスの輪縁体に傷がついてしまうリスクがある。
【0006】
また、このような調整ねじを備えるバランスには、ムーブメントの動作中に確立された調整を確実にすることが難しく1つ又は複数のねじが部分的又は完全に緩んでしまうことがあるという別の課題もあり、このことは、バランスの正しい動作と規則性に悪影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に、本発明は、このような既知の技術の様々な課題を解決することを目的とする。
【0008】
特に、本発明は、容易かつ迅速に調整を行うことができる慣性調整機能があるバランスを提供することを目的の1つとする。
【0009】
本発明は、少なくとも1つの特定の実施形態において、実装が単純であり製造が低コストであるような慣性調整機能があるバランスを提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的及び以下において明らかになる他の目的が、計時器用ムーブメントのためのバランスによって、本発明にしたがって達成される。前記バランスには、前記バランスの回転軸を定めるハブと、輪縁体と、及び前記輪縁体を前記ハブに接続する4つのアームによって構成している高剛性部分があり、前記4つのアームには、慣性ブロックを受け適切な位置に把持するための4つの溝があり、各溝は、一方では前記アームのうちの1つのアームによって、他方では弾性アームによって境界が定められ、前記弾性アームには、前記アームと一体的となっている第1の端と、及び前記ハブ、前記アーム及び前記輪縁体の区画に対して自由な遠位の第2の端がある。
【0011】
本発明によると、前記バランスには、2対の慣性ブロックがあり、前記慣性ブロックの各対は、調整パワーが異なることを確実にするように質量が異なり、前記第1の対の慣性ブロックは、基本調整用であり、前記第2の対の慣性ブロックは、正確な調整用である。
【0012】
本発明の他の有利な変異形態には、以下の特徴がある。
- 前記慣性ブロックの各対は、異なる寸法構成を有し、前記第1の対の慣性ブロックは、前記第2の対の慣性ブロックよりも大きい又はその逆である。
- 前記第1の対の慣性ブロックは、前記第2の対の慣性ブロックよりも重い又はその逆である。
- 前記慣性ブロックの対は、異なる材料によって作られる。
- 前記第1の対の慣性ブロックと前記第2の対の慣性ブロックは、前記バランスの前記ハブとの半径方向の距離が異なるように配置される。
- 前記第1の対の慣性ブロックは、前記輪縁体に近い第1の半径上に配置され、
前記第2の対の慣性ブロックは、前記バランスの前記ハブに近い第2の半径上に配置される。
- 前記アーム、前記輪縁体及び前記ハブは、一体的な要素を形成する。
【0013】
本発明は、さらに、本発明に係るバランスを備える計時器用ムーブメントに関する。
【0014】
本発明は、さらに、本発明に係る計時器用ムーブメントを備える計時器に関する。
【0015】
単純な例として与えられる本発明の特定の実施形態についての以下の説明及び添付の図面を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係るバランスの透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
計時器用ムーブメントのためのバランス1は、バランスの振動数を調整することを可能にする慣性を調整するデバイスを備え、このバランス1には、バランス1の回転軸Aを定めるハブ2と、環状の輪縁体3と、及び輪縁体3をハブ2に接続する4つのアーム4とによって構成している高剛性部分がある。この4つのアーム4には、慣性ブロック6、6'を受けて適切な位置に把持するための4つの溝7が形成されている。
【0018】
各溝7は、一方では前記アーム4のうちの1つのアーム4によって、他方では弾性アーム5によって、境界が定められ、この弾性アーム5には、アーム4と一体的となっている第1の端5Bと、ハブ2、アーム4及び輪縁体3の区画に対して回転する自由な遠位の第2の端5Aがある。
【0019】
図示しているように、バランス1には、4つのアームがあり、これらの4つのアームの交差点にはハブ4が形成され、このハブ4には、バランスのアーバーを受けるように意図されたオリフィス40がある。
【0020】
溝7は、アーム4の高剛性部分によって、また、慣性ブロックが溝7内に挿入されているときにアーム4の方へと継続的に戻ろうとする弾性アーム5によって、境界が定められる。
【0021】
本発明によると、バランスには、2対の慣性ブロック6、6'があり、慣性ブロックの対はそれぞれ、調整パワーが異なることを確実にするために異なる寸法構成を有し、第1の対の慣性ブロック6は、基本的な調整のためであり、慣性ブロック6の第2の対6'は、正確な調整のためである。
【0022】
各対の慣性ブロック6、6'は、バランスにおける質量の平衡分布のために、バランスの回転軸Aに対して反対側の溝7内に配置され、又は軸Aに対して軸対称に配置される。
【0023】
慣性ブロック6、6'を区別し、それらを正しく配置するために、第1の対の慣性ブロック6は第2の対の慣性ブロック6'よりも大きい又はその逆である。
【0024】
本発明の一実施形態において、第1の対の慣性ブロック6及び第2の対の慣性ブロック6'は、バランスのハブとの半径方向の距離が異なるように配置される。
【0025】
例えば、第1の対の慣性ブロック6は、輪縁体3に近い第1の半径方向の距離上に配置され、第2の対の慣性ブロック6'は、バランスのハブ2の近くの第2の半径方向の距離上に配置され、正確な調整のために、この第2の対の慣性ブロック6'は、バランスのハブ2に近い。
【0026】
同様に、第1の対の慣性ブロック6は第2の対の慣性ブロック6'よりも重い又はその逆である。このために、慣性ブロック6、6'を作るために様々な材料を用いることができる。例えば、慣性ブロック6が、金、又は18K 3N金のような金合金によって作られ、慣性ブロック6'が、チタン、又はグレード5チタンのようなチタン合金によって作られる。
【0027】
慣性ブロック6、6'には、ディスクの形の頭部61があり、そして、随意的に、円筒状の足部62がある。
【0028】
好ましいことに、溝7は、慣性ブロック6、6'の頭部61又は足部62の形状に対して相補的な形状である。この実施形態は、慣性ブロック6、6'がバランス1に取り付けられた後にバランス1の厚みを抑えることができるために、特に有利である。
【0029】
慣性ブロック6、6'を溝7内に取り付ける際に、慣性ブロック6、6'は、溝7内にて把持されて、弾性アーム5の弾性の影響下で、適切な位置に摩擦によって保持される。
【0030】
調整機能付き慣性ブロック6、6'には、その慣性ブロック6、6'の角位置を調整するための溝63があり、この調整は、溝63と連係して慣性ブロック6、6'の回転軸のまわりのトルクを伝達する工具を用いて行う。図1に示している実施形態において、各慣性ブロック6、6'には、頭部61を形成するディスクに、起伏がある部分64がある。
【0031】
当然、当業者であれば、バランス1の慣性を調整することができるように、バランス1を適応させて他のタイプの慣性ブロック6、6'を取り付ける方法がわかる。
【0032】
したがって、このような構成によって、容易であり迅速なバランスの調整が可能になり、まず、大きいかつ/又は重い慣性ブロックによって基本的な調整を行い、次に小さいかつ/又は軽い慣性ブロックがその調整を精密にすることが可能になる。
【0033】
本発明は、さらに、本発明に係るバランスを備える計時器用ムーブメント及び計時器に関する。
【0034】
前記の本発明の様々な態様のおかげで、製造が容易であり低コストである慣性ブロックの位置を調整するためのコンパクトなバランスを得ることができた。
【0035】
当然、本発明は、図示している例に限定されず、当業者であれば明らかな様々な変異形態や改変が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 バランス
2 ハブ
3 輪縁体
4 アーム
5 弾性アーム
5A 第2の端
5B 第1の端
6 第1の対の慣性ブロック
6' 第2の対の慣性ブロック
7 溝
10 輪縁体
A 回転軸
図1
【外国語明細書】