(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086683
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】ポリマー膜
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20230615BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C03C27/12 D
B32B27/30 102
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186321
(22)【出願日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】110146369
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】202111504245.4
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 子榮
【テーマコード(参考)】
4F100
4G061
【Fターム(参考)】
4F100AH02
4F100AK23
4F100AK23A
4F100AK23B
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA21A
4F100BA21B
4F100CA04
4F100CA04A
4F100CA04B
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4F100EJ42
4F100JA05
4F100JA05A
4F100JA05B
4F100JH01
4F100JK07
4F100JK07A
4F100JK07B
4F100YY00A
4F100YY00B
4G061AA04
4G061AA11
4G061BA01
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB19
4G061CD03
4G061CD18
4G061DA23
4G061DA29
4G061DA30
(57)【要約】
【課題】本発明はポリマー膜を得ることにある。
【解決手段】本発明はポリマー膜に関し、それはポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含み、ポリマー膜は少なくとも1つの第1層と第2層を含み、第1層と第2層の損失正接は異なっており、第1層と第2層の損失正接の比の値は1.30~3.12である。本発明が提供するポリマー膜は改善された遮音効果を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー膜であって、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含み、
前記ポリマー膜は少なくとも1つの第1層と第2層を含み、前記第1層と前記第2層の損失正接は異なっており、
前記第1層と前記第2層の損失正接の比の値は1.30~3.12である、ポリマー膜。
【請求項2】
前記第1層のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、可塑剤は50~90重量部である、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項3】
前記第1層のポリビニルアセタール樹脂の水酸基含有比率は16.0mol%より大きく30.6mol%より小さい、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項4】
前記第1層の前記ポリビニルアセタール樹脂の重合度は1750より大きく3850より小さい、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項5】
前記第1層のポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度は20mol%未満である、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項6】
前記第1層のガラス転移温度は-7℃~6℃である、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項7】
前記第1層の損失正接は0.70~1.38である、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項8】
前記第2層のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、可塑剤は30~60重量部である、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項9】
前記第2層のポリビニルアセタール樹脂の水酸基含有比率は25mol%~31mol%である、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項10】
前記第2層のガラス転移温度は25℃~35℃である、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項11】
前記第2層の損失正接は0.37~0.94である、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項12】
3層構造であり、前記3層構造のうち、上下の2層は前記第2層であり、中間に前記第1層が挟まれている、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項13】
ISO 16940の機械インピーダンス法に基づき20℃において得られる制振減衰係数は0.25より大きい、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項14】
合わせガラス用の中間膜とされ、その厚みは0.5~2mmである、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項15】
厚みは0.8mmであり、且つ前記第2層/第1層/第2層の厚みは0.335mm/0.13mm/0.335mmである、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項16】
前記ポリビニルアセタールは、ポリビニルブチラールである、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主にポリマー膜に関し、特に合わせガラスの中間膜に適用されるポリマー膜に関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは一種の安全ガラスのことをいい、割れてもつながったままでいることができるものである。合わせガラスは、2層以上のガラスの間に膜が含まれており、その膜は一般的にポリビニルブチラール樹脂(PVB)又はエチレン酢酸ビニル(EVA)材料が採用されて製造される。ガラスが割れたとしても、膜がガラス層の接着を維持させることができ、且つその高い強度によりガラスの破片が大きく鋭利になるのを防ぐことができる。衝撃力がガラスを貫通しきるほどではない場合には、特有の「蜘蛛の巣」状のクラック形態が生じる。
【0003】
上述の安全特性以外にも、合わせガラスは遮音にも適用される。同じ厚みの単板ガラスと比べ、合わせガラスはより優れた音波減衰効果を有する。この用途では、合わせガラス中の膜に多層構造を有するPVB膜を採用することにより、膜の遮音効果を改善することができる。
【0004】
具体的に、上述の膜のガラス転移温度(glass transition temperature,Tg)は、膜の遮音効果を直接左右し得ると考えられている。ガラス転移温度とは、物質がガラス状態(材料が流動性の低い状態にあることをいう)と高弾性状態(材料が流動性の高い柔軟な状態にあることをいう)との間で可逆的に変化する温度をいう。通常の場合、本分野の当業者は、膜のガラス転移温度が低いほど、その膜は流動性が高く柔軟な状態に偏るようになり、良好な遮音効果を具備すると判断する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の概要は、本発明を簡潔に要約し、読者に本発明への基本的な理解を得させることを目的としている。発明の概要は、本発明を完全に記述するものではなく、本発明の実施例の重要又は主要構成要素の指摘や本発明の範囲の画定を意図するものでもない。
【0006】
本発明者は、従来技術においてガラス転移温度を膜の遮音効果の主な判断基準として信頼されていることには実は疑問があり、膜のガラス転移温度が低いほど必然的に良好な遮音効果を具備するようになるわけではないことに気づいた。
【0007】
本発明者は、膜が多層構造により設けられる場合には、異なる層どうしの材質の違いが音を透過過程中に効果的に制振せしめることによって遮音の効果が達成され、特に異なる層どうしのダンピング特性の違い及びその遮音効果、並びに構造全体の均一性が関係すると考えている。具体的に、上述の膜の粘弾性(viscoelasticity)は、遮音効果を左右する重要なパラメータであると考えられている。いわゆる粘弾性とは、粘性と弾性を合わせたものや、粘性流体と弾性流体の流動性を合わせたものをいう。多層構造中の粘弾性質の差をコントロールし、音が透過過程で媒質の干渉を受けるようにして、音波を材料の分子運動の貯蔵エネルギーや消費エネルギーに変換することにより、音量を低減する効果が達成される。多層膜の中間層と保護層の損失正接(tanδ)に適度な差が存在するとき、音が透過過程中で材料に一層効果的に利用され、これにより遮音効果の向上が達成される。
【0008】
また、膜は一般に可塑剤を含むが、本発明者は、膜の可塑剤の相容性の良し悪しがおそらく膜の遮音効果や成膜性と関係していることに気づいた。例えば、樹脂が可塑剤をさらに吸収できなくなると、多層膜どうしの粘弾の差が有効に区分されず、音が透過過程中で材料に効果的に吸収されなくなり、これにより遮音効果が弱くなってしまう。また、樹脂が可塑剤をさらに吸収できなくなることで可塑剤の滲出をさらに招き、これにより膜の成膜性が悪くなってしまう。さらに、本発明者は、中間層と保護層との間の損失正接の差が大きすぎる場合、つまり両者の損失正接の比の値が大きすぎるか又は小さすぎる場合、或いは膜の水酸基含量が低すぎる場合、膜の可塑剤の相容性が低下する可能性があると考えている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これに鑑み、本発明の1つの態様としてポリマー膜を提供するが、それはポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含み、ポリマー膜は少なくとも1つの第1層と第2層を含み、第1層と第2層の損失正接(tanδ)は異なっており、第1層と第2層の損失正接の比の値は1.30~3.12である。
【0010】
本発明の実施例によれば、第1層のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、可塑剤は50~90重量部である。
【0011】
本発明の実施例によれば、第1層のポリビニルアセタール樹脂の水酸基含有比率は16.0mol%より大きく30.6mol%より小さい。
【0012】
本発明の実施例によれば、第1層のポリビニルアセタール樹脂の重合度は1750より大きく3850より小さい。
【0013】
本発明の実施例によれば、第1層のポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度は20mol%より小さい。
【0014】
本発明の実施例によれば、第1層のガラス転移温度(Tg)は-7~6℃である。
【0015】
本発明の実施例によれば、第1層の損失正接は0.70~1.38である。
【0016】
本発明の実施例によれば、第2層のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、可塑剤は30~60重量部である。
【0017】
本発明の実施例によれば、第2層のポリビニルアセタール樹脂の水酸基含有比率は25mol%~31mol%である。
【0018】
本発明の実施例によれば、第2層のガラス転移温度(Tg)は25~35℃である。
【0019】
本発明の実施例によれば、第2層の損失正接は0.37~0.94である。
【0020】
本発明の実施例によれば、ポリマー膜は3層構造であり、3層構造のうち、上下の2層は第2層であり、中間に第1層が挟まれている。
【0021】
本発明の実施例によれば、ポリマー膜は、ISO 16940のMIM機械インピーダンス法(Measurement of Mechanical Impedance)に基づき20℃において得られる制振減衰係数が0.25より大きい。
【0022】
本発明の実施例によれば、ポリマー膜は合わせガラス用の中間膜とされ、厚みは0.5~2mmである。
【0023】
本発明の実施例によれば、ポリマー膜の厚みは0.8mmであり、且つ第2層/第1層/第2層の厚みは0.335mm/0.13mm/0.335mmである。
【0024】
本発明の実施例によれば、ポリビニルアセタールは、ポリビニルブチラール(Polyvinyl Butyral,PVB)である。
【発明の効果】
【0025】
本発明が提供するポリマー膜の特長は次の通りである。上述の特徴の画定に基づくポリマー膜は、良好な遮音効果を獲得することができるほか、好ましい幾つかの実施例によれば、理想的な構造と成膜特性を同時に具備することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明の上述及び他の目的、特徴、優位点並びに実施例をより明解にするため、図面について以下の通り説明する。
【0027】
【
図1】本発明の異なる実施例に基づくポリマー膜の積層断面図である。
【
図2】本発明の異なる実施例に基づくポリマー膜の積層断面図である。
【
図3】本発明の異なる実施例に基づくポリマー膜の積層断面図である。
【
図4】本発明の実施例に基づくポリマー膜の製造フローチャートである。
【0028】
なお、図における各種特徴や構成要素の比率については実際の比率ではなく、本発明に関する具体的な特徴や構成要素を最適な方式で示すため、慣例の作業方式を基にした作図方式により描いている。また、別々の図において、同一又は類似の構成要素符合は、類似の構成要素や部材を指している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明をより詳細且つ不備なく叙述するため、以下に本発明の実施形態及び具体的な実施例について説明した記述を提出するが、それらは本発明を実施又は応用する具体的な実施例の唯一の形態ではない。本明細書及び添付する特許請求の範囲において、別途文脈に記載がない限り、「1つ」及び「当該」という用語は複数であると解釈し得る。また、本明細書及び添付する特許請求の範囲において、別途に記載がない限り、「ある物の上に設置される」とは、直接又は間接的にある物の表面と貼り付けられるか、その他の形態で接触すると見なすことができ、表面の画定は明細書の内容の前後/段落の含意及び本明細書が属する分野における通常の知識により判断されるものとする。
【0030】
本発明を画定する数値の範囲やパラメータはいずれもおおよその数値ではあるが、具体的な実施例における関連数値は可能な限り精確に示している。しかしながら、如何なる数値であれ、個別の試験方法に起因する標準偏差を含むことは本質的に不可避である。これにおいて、「約」は一般的に、実際の数値が特定の数値又は範囲の±10%、5%、1%又は0.5%以内であることを指す。或いは、「約」という用語は、本発明が属する分野の当業者によって考慮・判断される場合、実際の数値が平均値の許容可能な標準誤差内にあることを意味する。従って、反対の説明がない限り、本明細書及び添付する特許請求の範囲が開示する数値のパラメータはいずれも近似値であり、必要に応じて変化すると見なし得る。少なくとも、それらの数値のパラメータは、指し示される有効な桁数と通常の桁上げ法方法を適用することによって得た数値であると解釈されるべきである。
【0031】
本発明はポリマー膜を提供するが、それはポリビニルアセタール樹脂と可塑剤を含む。具体的に、本明細書に記載のポリビニルアセタール樹脂とは、ポリビニルアルコールとアルデヒドとが縮合されて成る樹脂組成物をいう。上述のポリビニルアルコールはポリビニルエステルを鹸化することにより得ることができ、ポリビニルアルコールの鹸化度は通常、70mole%~99.9mole%の範囲内であり、例えば、70mole%、75mole%、80mole%、85mole%、90mole%、95mole%、99mole%又は99.9mole%である。上述のアルデヒドには通常は炭素数1~10のアルデヒドを使用することができ、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘキサアルデヒド、n-オクタアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド及びベンズアルデヒドなどであり、好適には、アルデヒドはプロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-ヘキサアルデヒド又はn-バレルアルデヒドであり、より好適には、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド又はイソブチルアルデヒドである。本発明の実施例によれば、ポリビニルアセタールは、ポリビニルブチラール(Polyvinyl Butyral,PVB)である。
【0032】
また、可塑剤は通常、ポリビニルアセタール樹脂と併用されて、材料の粘弾性質に影響する。具体的には、可塑剤は非限定的に、一塩基酸エステル、多塩基酸エステル、有機リン酸及び有機亜リン酸からなる群から選択される。可塑剤はより具体的には、トリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノアート)(triethylene glycol bis(2-ethylhexanoate),3GO)、テトラエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノアート)、トリエチレングリコールビス(2-エチルブタノエート)、テトラエチレングリコールビス(2-エチルブタノエート)、トリエチレングリコールジヘプタノエート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、アジピン酸ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]、ポリアジペート、プロピレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリプロピレングリコールジベンゾエート、ポリプロピレングリコールジベンゾエート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジベンゾエート、イソデシルベンゾエート、2-エチルヘキシルベンゾエート、フタル酸ジイソノニル、ジブトキシエチルテレフタレート、ひまし油、リシノール酸メチル、大豆油、及びエポキシ化大豆油からなる群から選択される。
【0033】
続いて、上述のポリマー膜は少なくとも1つの第1層と第2層を含み、第1層と第2層の損失正接は異なっている。本明細書に記載の損失正接とは、tanδ値(又はロスファクター、ダンピングファクター、損失角正接と呼ばれる)をいい、材料の粘弾性質中のダンピング特性を表現するのに用いられ、また、材料の損失弾性率(loss modulus,G’’)と貯蔵弾性率(storage modulus,G’)の比と対等である。さらに、損失正接値の温度に対するピーク値はガラス転移点(glass transition temperature,Tg)となる。通常の場合、損失正接値は材料の粘性の大きさと正の相関関係にある。ガラス転移温度が低いほど材料が軟らかいことがおおよそ推測できる。
【0034】
少なくとも1つの好ましい実施例によれば、上述のポリマー膜の第1層と第2層の損失正接の比の値は1.30~3.12であり、例えば、1.30、1.32、1.46、1.49、1.62、1.75、1.78、1.83、1.87、1.92、1.97、2.31、2.41、3.00又は3.12である。本発明が提供するポリマー膜中、第1層の損失正接は0.70~1.38であり、例えば、0.70、0.89、0.94、0.96、0.99、1.17、1.18、1.20、1.21、1.24、1.26、1.28、1.31又は1.38である。一方、第2層の損失正接は0.37~0.94であり、例えば、0.37、0.42、0.46、0.52、0.54、0.61、0.63、0.65、0.67、0.78又は0.94である。
【0035】
また、本発明の幾つかの実施態様によれば、第1層のガラス転移温度は-7~6℃であり、好適には、ガラス転移温度は-6.99~5.26℃である。本発明の他の幾つかの実施態様によれば、第2層のガラス転移温度は25~35℃であり、好適には、第2層のガラス転移温度は26.63~33.19℃である。
【0036】
本発明が提供するポリマー膜中、第1層が含むポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、可塑剤は50~90重量部である。具体的に、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、可塑剤は60~90重量部であり、好適には、可塑剤は60~70重量部であり、例えば、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69又は70重量部である。本発明の幾つかの実施例によれば、第2層のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して、可塑剤は30~60重量部であり、好適には、可塑剤は37~43重量部であり、例えば、37、38、39、40、41、42又は43重量部である。
【0037】
如何なる特定の理論にも限定されるものではないが、ポリビニルアセタール樹脂の水酸基含有比率は、可塑剤の相容性と関係すると考えられている。本明細書に記載のポリビニルアセタール樹脂の水酸基含有比率とは、水酸基と結合したエチレン量を主鎖のエチレンの総量で割って求めたモル分率を百分率で表したものである。本発明が提供するポリマー膜中、第1層が含むポリビニルアセタール樹脂の水酸基含有比率は15.0mol%より大きく30.6mol%よりも小さい。好適には、水酸基含有比率は16.0mol%より大きく30.6mol%よりも小さい。より好適には、水酸基含有比率は16.4mol%~30.0mol%の間であり、例えば、16.4、19.2、22.6、23.3、23.8、24.7、25.0、25.1、25.7、29.3又は30.0mol%である。本発明の幾つかの実施態様によれば、第2層が含むポリビニルアセタール樹脂の水酸基含有比率は25mol%~31mol%の間である。好適には、水酸基含有比率は27.4mol%~30.8mol%の間であり、例えば、27.4、27.5、27.6、27.7、27.9、28.1、28.3、28.4、29.6又は30.8mol%である。
【0038】
本明細書に記載のポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度とは、アセタール基と結合したエチレン量を主鎖のエチレンの総量で割って求めたモル分率を百分率で表したものである。
【0039】
本明細書に記載のポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度とは、主鎖のエチレンの総量から水酸基と結合したエチレン量及びアセタール基と結合したエチレン量を引いて得た値を主鎖のエチレンの総量で割って求めたモル分率を百分率で表したものである。本発明が提供するポリマー膜中、第1層のポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度は20mol%未満である。好適には、アセチル化度は8.0~11.8mol%であり、例えば、8.0、8.2、8.5、9.2、9.6、10.1、10.2、10.5、11.5、11.8mol%である。
【0040】
上述の水酸基含有比率、アセタール化度及びアセチル化度は、JIS K6728の「ポリビニルブチラール試験方法」に基づき測定した結果を算出したものである。
【0041】
本発明が提供するポリマー膜中、第1層が含むポリビニルアセタール樹脂の仮比重は0.220~0.280であり、好適には0.248~0.258である。上述の仮比重は、JIS K6720に基づき測定したものである。
【0042】
本明細書に記載の重合度は、ポリマーの分子サイズを評価する指標である。繰り返し単位の数、即ち、ポリマーの高分子鎖が含む繰り返し単位の数の平均値を基準とする。本発明が提供するポリマー膜中、第1層が含むポリビニルアセタール樹脂の重合度は1600以上且つ3850未満であり、好適には、重合度は1750より大きく3850より小さい。より好適には、重合度は2000~3700であり、例えば、2000、2200、2400、2600、2800、3000、3200、3400、3500、3600又は3700である。
【0043】
本明細書に記載の損失係数(loss factor)は、具体的には制振減衰係数をいう。その数値の大きさは遮音効果と正の相関関係にあると考えられている。本発明が提供するポリマー膜は、ISO 16940のMIM機械インピーダンス法に基づき20℃において測定して得られる制振減衰係数が0.25より大きい。
【0044】
図1~
図3は、本発明の異なる実施例に基づくポリマー膜が呈する積層断面図である。異なる実施例のポリマー膜どうしは構造上の違いを有する。
図1は本発明の実施例に基づくポリマー膜100Aの積層断面図である。
図1を参照されたい。ポリマー膜100Aは3層構造であり、その上下層はどちらも第2層102であり、第2層102の間は第1層101である。本発明の幾つかの実施例によれば、ポリマー膜100Aは合わせガラスの中間膜であり、2つのガラス板の間に設置し得る。そのうち、第1層101は中間層とされ、第2層102は保護層とされる。一方、厚みについては、ポリマー膜100Aの厚みは0.5~2mmであり、例えば、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9又は2.0mmであり、好適には、ポリマー膜100Aの厚みは0.8mmである。そのうち、第1層101の厚みは0.11~0.15mmであり、好適には0.13mmであり、第2層102の厚みは0.320~0.350mmであり、好適には0.335mmである。
【0045】
図2は、本発明の実施例に基づくポリマー膜100Bの積層断面図であり、それは上述の実施例のポリマー膜100Aと類似しているが、異なる点として、本実施例が提供するポリマー膜100Bは2層構造であり、第1層101と第2層102が積層されて成るものである。
【0046】
図3は、本発明の実施例に基づくポリマー膜100Cの積層断面図であり、それは上述のポリマー膜100Aと類似しているが、異なる点として、本実施例が提供するポリマー膜100Cは第1層101を増設しており、上方/下方の第2層102のうち任意の一方に貼り合わされる。上述の実施例以外にも、本分野の当業者は、本発明の理念から逸脱しないという条件において、必要に応じ、ポリマー膜100Cに第1層101や第2層102を交互にして増設し、例えば4層構造、5層構造、6層構造又は6層以上の構造などにすることも可能である。
【0047】
図4は本発明の実施例に基づくポリマー膜の製造フローチャートである。
図4を参照されたい。本発明が提供するポリマー膜の製造工程は、工程S100~S106を少なくとも含む。具体的に、工程S100では、第1PVB樹脂と可塑剤を混練して第1樹脂組成物を形成するが、ここで、混練時の操作温度と回転数については慣用の方法や必要に応じて調整することができ、本案は細かな条件について限定しない。工程S102では、第2PVB樹脂と可塑剤を混練して第2樹脂組成物を形成するが、ここで、混練時の操作温度と回転数については慣用の方法や必要に応じて調整することができ、本案は細かな条件について限定しない。工程S104では、第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物をそれぞれ第1層及び第2層に調製するが、ここで、調製方法については、例えば押出成形や熱プレス成形など、慣用の薄膜調製方法を用いて実施することができる。工程S106では、第1層と第2層を結合してポリマー膜を形成するが、ここで、調製方法については、押出成形や熱プレス成形など、慣用の薄膜調製方法を用いることができる。
【0048】
上記工程により調製されて成るポリマー膜を測定対象膜とし、以下の様々な特性測定を行うことができる。
【0049】
粘弾性質の測定
【0050】
本明細書で粘弾性質の測定に用いた方法には、少なくとも以下の工程が含まれる。先ず、測定対象膜を直径8mmの円形にカットし、測定対象膜を恒温恒湿器に24時間放置し、その温度と相対湿度はそれぞれ23℃と55%を維持するようにコントロールした。次に、測定対象膜を回転レオメータ(Discovery Hybrid Rheometer II,DHR)(TA Instrument製)に入れ、振とう法により粘弾性質の分析を行った。分析条件は以下の通りである。測定温度は100℃から-10℃まで下げ、且つその降温速度は3℃/minとし、振とう数は1Hzに設定し、測定対象膜を1%のひずみに維持し、治具圧力は1Nに設定した。上述の方法により、分析結果から測定対象膜の損失正接とガラス転移温度を得た。
【0051】
膜中間層の滲出状態の測定
【0052】
膜中間層の滲出状態は、多層膜(少なくとも3層で中間層を定義できるもの)構造の完全性及び可塑剤の相容性の指標を示すものであり、多層膜の遮音効果を左右する要素の1つともされ得るものである。測定対象膜の判定後、膜中間層に滲出状態があった場合には、その可塑剤は相容性が低く、後に調製される膜に均一性の面で問題があることが推測できる。具体的に、本明細書で用いる膜中間層の滲出状態の測定方法は、少なくとも以下の工程を含む。先ず、測定対象膜を4cmの円形にカットした後、恒温恒湿器に48時間放置し、温度と相対湿度はそれぞれ23℃と55%を維持するようにコントロールし、次に、測定対象膜上に8Nの垂直抗力を10秒間継続して加えた後、すぐさま肉眼で中間層に滲出状態があるかどうかを観察するというものである。
【0053】
膜成形状態の測定
【0054】
膜成形状態は、多層膜(少なくとも3層で中間層を定義できるもの)構造の完全性及び可塑剤の相容性の指標を示すものであり、多層膜の遮音効果を左右する要素の1つともされ得るものである。膜を熱プレスした後に可塑剤が中間層から滲出して成形できない状態があった場合、その可塑剤は相容性が低いと推測できる。本明細書で用いる膜成形状態の測定方法は、本発明が提供するポリマー膜を熱プレス成型方法により提供し、すぐさま肉眼で吸収できなかった可塑剤がその中間層から滲出していないかどうかを観察するというものである。
【0055】
損失係数の測定
【0056】
本明細書で用いる損失係数の測定方法は、ISO 16940のMIM機械インピーダンス法(Measurement of Mechanical Impedance)を参考にして行った。具体的に、その方法には少なくとも以下の工程が含まれる。先ず、測定対象膜を長さ300mm、幅25mm、厚さ2.3mmの清潔で透明な2枚のフロートガラスの間に挟み、予備圧着してから本圧着して、合わせガラスを得た。ここで、予備圧着条件は、熱プレス機を用いて150℃下で3分間の予備圧着とし、本圧着条件は、135℃、圧力13barの条件下で120分間の圧着とした。続いて、合わせガラスの調製完了後の14日目に、それを恒温恒湿器に2時間放置し、温度と相対湿度はそれぞれ23℃と55%を維持するようにコントロールした。さらに、合わせガラスの中央を振とう機(vibration shaker)に固定し、それぞれ20℃の環境温度下で振とうを行った。さらに、インピーダンスヘッド(impedance head)で振とうの力と振動数を測定して、分析システムにより実験データを損失係数に変換した。なお、上述の損失係数は、ハーフパワー法(half-power method)に基づき計算した第1振動モードである。通常の場合、値が高いほど遮音効果が高いことを表すと考えられる。例えば、20℃における損失係数の数値が0.25より大きい場合、良好な遮音効果を有することを表している。
【0057】
実施例1~15
【0058】
本発明は、上述の内容に基づき実施例1~15のポリマー膜を提供する。各実施例は異なるパラメータで調製することにより異なる特性を生じるように調整し、さらにポリマー膜(又は中間膜と呼ぶ)の膜成形状態、膜中間層の滲出状態及び損失係数の特性について分析を行った。中間膜の膜成形状態については、可塑剤の滲出状態がない場合は、中間膜が成膜できていると判定し、「O」と標示した。可塑剤の滲出状態がある場合は、中間膜が成膜できていないと判定し、「X」と標示した。
【0059】
なお、実施例1~15はいずれも3層構造を採用しており、本発明が提供する第2層は上下に設けられた保護層であり、本発明が提供する第1層は中間層とした。
【0060】
実施例1~15のポリマー膜の調製方法について以下に簡単に説明する。
【0061】
先ず、混練機で100重量部の第1PVB樹脂と60~90重量部の可塑剤(トリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノアート))を十分に混練し、中間層用樹脂組成物を得た。また混練機で100重量部の第2PVB樹脂と37~43重量部の可塑剤(トリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノアート))を十分に混練し、保護層用樹脂組成物を得た。
【0062】
次に、熱プレス機を用いて150℃下で保護層用樹脂組成物と中間層樹脂組成物をそれぞれ熱プレスして保護層(厚さ:0.335mm)と中間層(厚さ:0.13mm)にした。
【0063】
最後に、中間層を2つの保護層の間に置いて3層構造を形成し、熱プレス機を用いて先に100℃下で1分間予備圧着してから、150℃まで昇温したうえで3分間熱プレスして、3層構造を有する中間膜(厚さ0.8mm)を得た。
【0064】
実施例1~15の詳細なパラメータの画定及び特性分析結果は表1に示す通りである。
【0065】
【0066】
表1に示す通り、実施例1~15の中間層と保護層の損失正接の比の値は1.30~3.12の間であり、これらの実施例で調製された膜はいずれも良好な損失係数を有していた。さらに、実施例1~12は、中間層のPVB樹脂の水酸基含有比率が16.0mol%より大きく30.6mol%より小さい場合には、中間層の滲出や膜成形の失敗という状態が発生せず、可塑剤の相容性が高いことを示していた。
【0067】
比較例1~5
【0068】
実施例1~15と類似する調製方法により比較例1~5のポリマー膜を提供した。異なる点は下記表に示す通りである。さらに、中間膜の膜成形状態、膜中間層の滲出状態及び損失係数の特性について分析を行った。分析と評価の方法は実施例1~15と同じである。
【0069】
なお、比較例1~5はいずれも3層構造を採用しており、上下にそれぞれ保護層が設けられ、保護層の間に中間層が設けられている。比較例1~5の詳細なパラメータの画定及び特性分析結果は表2に示す通りである。
【0070】
【0071】
表2に示す通り、比較例1~5の中間層と保護層の損失正接の比の値はいずれも1.30未満であり、これら比較例のポリマー膜の損失係数はどれも低く、遮音効果は好ましくなかった。
【0072】
要約すると、本発明が提供するポリマー膜は特に合わせガラスの中間膜に適用され、ポリマー膜の第1層と第2層の損失正接(tanδ)の比の値が1.30~3.12の間である場合、その中間膜によって製造される合わせガラスは良好な遮音効果を有する。さらに、水酸基含有比率が16.0mol%より大きく30.6mol%より小さい場合、膜に良好な成膜性質を具備させることができる。
【0073】
以上で本発明について詳細に説明したが、上述は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明の実施範囲を限定するものではない。本発明の特許請求の範囲に基づく同等変化や修飾はいずれも本発明の特許請求の範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0074】
100A~100C ポリマー膜
101 第1層
102 第2層
S100~S106 工程