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特開2023-86693多孔率制御された微細構造化アーキテクチャを有する金属フィルタ及びその製造方法
<図1>
  • 特開-多孔率制御された微細構造化アーキテクチャを有する金属フィルタ及びその製造方法 図1
  • 特開-多孔率制御された微細構造化アーキテクチャを有する金属フィルタ及びその製造方法 図2
  • 特開-多孔率制御された微細構造化アーキテクチャを有する金属フィルタ及びその製造方法 図3
  • 特開-多孔率制御された微細構造化アーキテクチャを有する金属フィルタ及びその製造方法 図4
  • 特開-多孔率制御された微細構造化アーキテクチャを有する金属フィルタ及びその製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086693
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】多孔率制御された微細構造化アーキテクチャを有する金属フィルタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20230615BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20230615BHJP
   B01D 39/00 20060101ALI20230615BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
B01D39/20 A
A61L9/16 F
B01D39/00 B
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022194577
(22)【出願日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】FR2113277
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】510083027
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ エネルジィ アルタナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マスクロット,ヒッチャム
(72)【発明者】
【氏名】ハーチャー,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】シュスター,フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】ミショー,アレクサンドレ
【テーマコード(参考)】
4C180
4D019
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180AA16
4C180CC01
4C180DD09
4C180EA02X
4C180EA06X
4C180EA07X
4C180EA08X
4C180EA30X
4C180EA34X
4C180EA38X
4C180EA39X
4C180EA40X
4D019AA01
4D019AA03
4D019BA02
4D019BB06
4D019BC06
4D019BD01
4D019CB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】より長い保存可能期間を有する衛生マスクのためのフィルタを提供する。
【解決手段】直交軸(X、Y、Z)を有する三次元空間内に形成される微細構造化アーキテクチャ(2)を備える金属フィルタに関し、微細構造化アーキテクチャ(2)は、複数の長手方向接続ストランド(12)で形成される、即ち、長手方向軸方向(X)に沿って延伸する金属ネットワーク(10)と、接続ストランド(12)に沿って位置する複数の長手方向間隙(22)で形成される細孔ネットワーク(20)であって、各長手方向間隙は、前記細孔ネットワーク(20)の細孔(24)サブセット、即ち、細孔が長手方向軸(X)に沿って整列する細孔(24)サブセットに対応する細孔ネットワーク(20)と、を備え、長手方向間隙(22)は、それによって微細構造化アーキテクチャの異方性軸を形成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直交軸(X、Y、Z)を有する三次元空間内に形成される微細構造化アーキテクチャ(2)を備える金属フィルタ(1)であって、前記微細構造化アーキテクチャ(2)が、
-複数の長手方向接続ストランド(12)で形成される、即ち、長手方向軸(X)方向に沿って延伸する金属ネットワーク(10)と、
-接続ストランド(12)に沿って位置する複数の長手方向間隙(22)で形成される細孔ネットワーク(20)であって、各長手方向間隙が、前記細孔ネットワーク(20)の細孔(24)サブセット、即ち、前記細孔が前記長手方向軸(X)に沿って整列する前記細孔(24)サブセットに対応する、細孔ネットワーク(20)と、を備え、
前記長手方向間隙(22)が、それによって前記微細構造化アーキテクチャの異方性軸を形成する、金属フィルタ(1)。
【請求項2】
前記細孔(24)が同じ大きさである、請求項1に記載の金属フィルタ(1)。
【請求項3】
前記多孔率が10%~70%である、請求項1又は2のいずれか一項に記載の金属フィルタ(1)。
【請求項4】
前記接続ストランド(12)が、10μm~500μmの幅を有し、前記長手方向間隙(22)が、1μm~100μmの幅を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の金属フィルタ(1)。
【請求項5】
前記長手方向軸(X)に沿って形成される250μm~300mmの厚さ(e)を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の金属フィルタ(1)。
【請求項6】
前記金属ネットワーク(10)が、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、銅、パラジウム、チタン、タングステン、銀若しくは白金から選択される金属、又はステンレス鋼、金属合金若しくは金属酸化物などの材料の合金で作られている、請求項1から5のいずれか一項に記載の金属フィルタ(1)。
【請求項7】
前記微細構造化アーキテクチャ(2)を形成する2つの対向する主面(3,4)を更に備え、前記長手方向面(3,4)がそれぞれ薄い殺ウイルス層又は殺菌層で覆われている、請求項1から6のいずれか一項に記載の金属フィルタ(1)。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の金属フィルタ(1)と、前記金属フィルタの微細構造化アーキテクチャ(2)を取り囲むゼロ多孔率の周縁部(32)とを備える、機能部品(30)。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の金属フィルタ(1)の付加製造方法(100)であって、
前記付加製造方法(100)が、
所定の材料又は複数材料の所定の合金の金属粉末の少なくとも1つの層を支持体上に堆積させ、前記金属粉末層が1μm~200μmの厚さを有する工程(110)と、
前記工程(110)で堆積させた前記金属粉末を形成する前記所定の材料又は前記複数材料の所定の合金の溶融温度よりも高い温度で、前記粉末の金属結晶粒の局所的レーザ溶融を実行し、直交軸(X、Y、Z)を有する三次元空間内に形成される微細構造化アーキテクチャ(2)の所定のパターン(M)を作成するようにコンピュータプログラムを実行する工程(120)と、を含み、
前記微細構造化アーキテクチャ(2)が、
-複数の長手方向接続ストランド(12)で形成される、即ち、長手方向軸方向(軸X)に沿って延伸する金属ネットワーク(10)と、
-接続ストランドに沿った複数の長手方向間隙(22)で形成される細孔ネットワーク(20)であって、各長手方向間隙(22)が、前記細孔ネットワーク(20)の細孔(24)サブセット、即ち、前記細孔が前記長手方向軸(X)に沿って整列する細孔サブセットに対応する細孔ネットワーク(20)と、を備え、
前記長手方向間隙(22)が、それによって前記微細構造化アーキテクチャの異方性軸を形成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属フィルタ(1)の付加製造方法(100)。
【請求項10】
前記支持体が、厳密に、周囲温度より高く、250℃以下の温度まで加熱される、請求項9に記載の方法(100)。
【請求項11】
前記支持体(S)が、180℃~220℃、好適には190℃~210℃の温度に加熱される、請求項9又は10のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項12】
前記局所的レーザ溶融工程(120)時のレーザビームの体積エネルギー密度が、前記金属粉末から非多孔質ブロックを形成するのに必要な前記レーザビームの体積エネルギー密度の値の30%~90%に相当する、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項13】
前記堆積工程(110)及び前記局所的レーザ溶融工程(120)が、連続的に数回繰り返される、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細構造化アーキテクチャを有する金属フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
アーキテクチャは、アーキテクチャを形成する主要素が少なくとも二次元空間においてマイクロメートルの寸法、即ち、1000μm未満の寸法を有する限り、微細構造化されていると言われる。
【0003】
このような金属フィルタは、通常、流体、液体又は気体をろ過するために使用されるが、流体の少なくとも一部を循環させるのに十分な透過性を有する。
【0004】
本発明はまた、微細構造化アーキテクチャを有する金属フィルタを製造するための方法に関する。
【0005】
本発明は、流体のろ過を必要とするシステムに適用される。例えば、本発明は、衛生フィルタ又は衛生マスクなどの衛生ろ過システムに使用することができる。例として、本発明はガス拡散板にも使用することができる。本発明は、大気汚染制御システム又は放射性廃棄物ろ過システムにも使用することができる。
【0006】
COVID-19の蔓延以来、外科用及びFFP1/FFP2マスクは、世界中の何十億もの人々にとって日常的な消費財になっている。これらのマスクは本質的に一時的で再使用不可能であるため、現在、潜在的に汚染廃棄物の大きな発生源となっている。手術用マスクの洗浄は、使用中に水分が付着すると有効性が失われるため、保健機関によって推奨されていない。更に、たとえマスクの洗浄を考慮に入れたとしても、例えば、パリ市の廃水の分析によって示されるように、他の環境上の欠点がある。この分析により、この廃水中に微量のCOVID-19が存在することが明らかになった。したがって、問題は、数百万の手術用マスクを洗浄することの環境影響を管理することに移行することになる。
【0007】
これらの問題に対処するための1つの可能な選択肢は、より長い保存可能期間を有する衛生マスクを使用することである。
【0008】
この点について、粉末焼結によって製造された金属フィルタは既に知られている。しかしながら、焼結方法の複雑さとは別に、非常に高価でもある。更に、このようにして得られた金属フィルタは、限られた形状でしか製造することができず、不均一な多孔性を有する。この不均一な多孔性により、低圧力損失、即ち、流体がフィルタを通過する速度の制限を低く抑えること、と同時に効率的なろ過を実現することが難しくなっている。小粒子の最大ろ過、即ち、100nm以上の粒子を99%以上ろ過するグレード0.1ろ過を考えると、圧力損失は大きい。したがって、妥協点を見つけなければならない。
【0009】
3D印刷によって製造された微細構造化アーキテクチャを有する均一多孔性フィルタも提案されている(図1)。しかしながら、このようなフィルタは、ろ過効率が上がったときの圧力損失の問題に完全には対処できていない。実際、圧力損失とろ過効率との間の妥協点を見出すことはずっと容易であるが、圧力損失は依然として大きい。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、前述の欠点を克服することを可能にし、この目的のために、直交軸X、Y、Zを有する三次元空間内に形成される微細構造化アーキテクチャを備える金属フィルタを提案しており、微細構造化アーキテクチャは、
-複数の長手方向接続ストランドで形成される、即ち、長手方向軸方向(軸X)に沿って延伸する金属ネットワークと、
-接続ストランドに沿って位置する複数の長手方向間隙で形成される細孔ネットワークであって、各長手方向間隙は、細孔ネットワークの細孔サブセット、即ち、細孔が長手方向軸Xに沿って整列する細孔サブセットに対応する細孔ネットワークと、
を備え、長手方向間隙は、それによって微細構造化アーキテクチャの異方性軸を形成する。
【0011】
したがって、実際には、細孔は、細孔ネットワーク内で、微細構造化アーキテクチャの異方性が、他の2つの方向Y、Zを基準にして、長手方向軸方向Xにおいて実現されるように分布する。
【0012】
所与の間隙の細孔は、他の間隙の細孔と略平行であることが一般的であり、全ての間隙について同様である。したがって、細孔ネットワーク内の間隙は、互いに略平行である。したがって、多孔性は微細構造化アーキテクチャ内で制御される。したがって、本発明による金属フィルタは、高いろ過効率を有しながら、低い圧力損失を可能にする。
【0013】
一緒に又は別々に取り込んでもよい本発明の異なる特徴によれば、以下の通りである。
-細孔のサイズは同じである、
-多孔率は10%~70%の間である、
-接続ストランドは10μm~500μmの幅を有し、長手方向間隙は1μm~100μmの幅を有する、
-金属フィルタは、長手方向軸に沿って形成される250μm~300mmの厚さを有する、
-金属ネットワークは、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、銅、パラジウム、チタン、タングステン、銀若しくは白金から選択される金属、又はステンレス鋼、金属合金若しくは金属酸化物などの材料の合金で作られる、
-金属フィルタは、微細構造化アーキテクチャの境界を定める2つの対向する主面を更に備え、長手方向面は、それぞれ薄い殺ウイルス層又は殺バクテリア層で覆われる。
【0014】
本発明はまた、本発明による金属フィルタと、金属フィルタの微細構造化アーキテクチャを取り囲む多孔率ゼロの周縁部とを含む機能部品に関する。
【0015】
本発明は更に、上記のような金属フィルタの付加製造方法に関し、付加製造方法は、
-所定の材料又は複数材料の合金の金属粉末層を支持体上に堆積させ、金属粉末層は、1μm~200μmの厚さを有する工程と、
-金属粉末層を堆積させる工程で堆積させた金属粉末を形成する材料又は複数材料の合金の溶融温度より高い温度で、粉末の金属結晶粒の局所的レーザ溶融を実行し、直交軸X、Y、Zを有する三次元空間内に形成される微細構造化アーキテクチャの所定のパターンを作成するようにコンピュータプログラムを実行させる工程と
を含み、微細構造化アーキテクチャは、
-複数の長手方向接続ストランドで形成される、即ち、長手方向軸方向(軸X)に沿って延伸する金属ネットワークと、
-接続ストランドに沿った複数の長手方向間隙で形成される細孔ネットワークであって、各長手方向間隙は、細孔ネットワークの細孔サブセット、
即ち、細孔が長手方向軸Xに沿って整列する細孔サブセットに対応する細孔ネットワークと
を備え、長手方向間隙は、それによって微細構造化アーキテクチャの異方性軸を形成する。
【0016】
本発明による方法は、単独で又は組み合わせて取られる以下の工程のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
-支持体を、厳密に周囲温度より高く、250℃以下の温度に加熱する。
-支持体を、180℃~220℃、好適には190℃~210℃の温度に加熱する。
-局所的レーザ溶融工程時のレーザビームの体積エネルギー密度は、金属粉末から非多孔質ブロックを形成するのに必要なレーザビームの体積エネルギー密度の値の30%~90%に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の他の目的及び特徴は、添付の図面を参照してなされる以下の説明においてより明確になるであろう。
図1】本発明の例示的な実施形態による金属フィルタの概略全体斜視図である。
図2】本発明の一実施形態による金属フィルタの微細構造化アーキテクチャを示す、方向ベクトルX及びYの平面に沿った金属フィルタの概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態による金属フィルタの微細構造化アーキテクチャを示す、方向ベクトルY及びZの平面に沿った金属フィルタの概略断面図である。
図4】従来技術による微細構造化アーキテクチャの画像である。
図5】本発明による微細構造化アーキテクチャの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照すると、本発明は、直交軸X、Y及びZを有する三次元空間に形成される微細構造化アーキテクチャを含む金属フィルタ1に関する。
【0019】
金属フィルタ1は、液体又は気体の流体Fのろ過を可能にする。例えば、金属フィルタを衛生マスクとして使用する場合、流体は個人が吐き出して吸入する空気である。したがって、この空気は液滴で帯電する可能性がある。金属フィルタ1は、任意の形状とすることができ、図1に示すように平行六面体とすることができるが、角柱又は多面体でもあり得る。形状は、必要に応じて適合させることができる。
【0020】
どのような幾何学的形状が選択されたとしても、以下では、流体Fが金属フィルタ1の厚さeの方向に移動するものと考えることにする。金属フィルタの厚さeは、金属フィルタの最小寸法に相当する。したがって、この場合、それは金属フィルタ1の第1の主面3と第2の主面4との間の距離である。したがって、図1に示す例では、厚さeは長手方向軸方向に形成され、この軸(軸X)は主面3、4に直交する。したがって、流体Fが金属フィルタ1の厚さeの方向に移動するとき、これは、流体Fが最初に金属フィルタの第1の主面3を通過し、次に金属フィルタ1に入り、最後に金属フィルタの第2の主面4をこの順序で通過することを意味する。これは、金属フィルタ1の外側又は内側の流体Fの実際の軌道又は運動力学を定義するものではなく、全体的な運動のみを定義することに留意されたい。
【0021】
金属フィルタ1は、微細構造化アーキテクチャ2を備える。アーキテクチャ2は、アーキテクチャを形成する主要素が少なくとも二次元空間においてマイクロメートルの寸法、即ち、1000μm未満の寸法を有する限り、微細構造化されていると言われる。微細構造化アーキテクチャの主な要素を以下に説明する。まず、微細構造化アーキテクチャ2は、第1の主面3から第2の主面4まで延在することに留意されたい。金属フィルタは、微細構造化アーキテクチャ2を取り囲む周縁部32を備える機能部を組み込んでもよいことも指摘され得る。言い換えれば、機能部は、周縁部によって囲まれた金属フィルタ1を備える。周縁部32は、多孔率がゼロ(即ち、0に等しい)である、即ち、非多孔質である。これにより、金属フィルタ1全体の機械的強度が向上し、機能部品の製造方法への統合が容易になる。
【0022】
図2を参照すると、微細構造化アーキテクチャ2は、長手方向軸方向(軸X)に延びる複数の接続ストランド12によって形成される金属ネットワーク10を備える。図2に示す微細構造化アーキテクチャ2の断面は、金属フィルタ1の主面3、4に直交している。この平面は、方向ベクトル
及び
の、先に導入された空間X、Y、Zの部分空間である。これは、例えば、図1の斜視図において破線で区切られた面Eに対応する。図2の断面はまた、図3の破線Eによって示されている(紙面に垂直である)。各接続ストランド12は、フィラメント状の外観及び非線形の輪郭を有する細長い構造である。以下でより詳細に説明するように、接続ストランド12は、金属粉末の結晶粒の局所的なレーザ溶融によって形成される。接続ストランド12は、少なくとも2つの空間方向においてマイクロメートルのサイズであり、これは、実際には、その長さに対して直角な断面平面においてマイクロメートルの直径を有する実質的にディスク状であることを意味する。
【0023】
好適には、金属ネットワーク10は、金属ストランド12の凝集を確実にする材料ブリッジ14を備えることができる。材料ブリッジ14は、金属ネットワーク10が一体的なアセンブリを形成することを可能にする。
【0024】
微細構造化アーキテクチャ2はまた、接続ストランド12を形成する細孔24のネットワーク20を含む。細孔24は、従来技術において与えられる通常の意味を有し、多孔質材料内に残された空隙に相当する。図2は、微細構造化アーキテクチャ2の概略図である。したがって、図示されているものとは逆に、以下に説明するように、その分布及びサイズが制御されていても、細孔24は、互いに異なる形状を有していてもよい。実際、細孔24は、金属粉末の結晶粒の局所的な溶融にも起因しているが、それは間接的な結果である。
【0025】
細孔24のネットワーク20は、細孔24サブセットに対応する複数の長手方向(軸X)間隙22を含む。より具体的には、これらは、接続ストランド12に沿って位置する細孔24サブセットである。なお、各長手方向間隙22は、並んで位置するが互いに直接接触していない接続ストランド12の間に位置する細孔24サブセットに対応する。個々に捕らえた各細孔24はマイクロメートルの寸法を有するが、長手方向間隙22は他の寸法よりも著しく大きい寸法を有し、これにより細孔は細長い形状を有することになる。
【0026】
本発明によれば、長手方向間隙22は全て同じ方向Xに沿って配向しているが、他の方向Y、Zではそうではないため、微細構造化アーキテクチャの異方性がもたらされる。なお、長手方向間隙22は、この長手方向に沿って互いに平行である。この異方性は、方向ベクトル
及び
の平面における細孔の分布を示す図2に概略的に示されている。以下、長手方向軸Xを異方性軸と呼ぶことがある。
【0027】
当然ながら、分離して考えられる各長手方向間隙22の方向は、その長手方向間隙22を形成する細孔24の中心を通る長手方向軸に平行な線に対応する。したがって、長手方向間隙22の方向は、それを形成する細孔24サブセットの配置に必然的に依存する。しかしながら、長手方向間隙22の細孔24は、必ずしも完全な整列に従うとは限らないことに留意されたい。これは、例えば、図2の右側の点線に示されている長手方向間隙22について示されている。したがって、長手方向間隙22の方向は、中点(x、y)を通過する長手方向軸Xによって定義される方向の直線に対応し、その縦座標yは、細孔24の中心の縦座標の中央値である。
【0028】
この異方性により、多孔率制御された微細構造化アーキテクチャ2を得ることができ、多孔率は、上記で定義したように、長手方向間隙22内の細孔24の分布制御によって制御される。流体Fが金属フィルタ1を通過するとき、流体Fは、長手方向間隙22の存在によって促進される流れを有しながら、微細構造化アーキテクチャ2の微細構造によって拘束される。したがって、本発明では、低圧力損失でありながら高いろ過効率を得ることができる。したがって、微細構造化アーキテクチャ内の流体Fの循環が改善される。
【0029】
好適には、細孔ネットワーク20の細孔24は、実質的に同じサイズを有する。したがって、細孔24の分布に加えて、微細構造化アーキテクチャ2の多孔性もまた、細孔の均一なサイズに起因して制御することができる。長手方向間隙22が長手方向軸方向(軸X)に沿って微細構造化アーキテクチャの異方性を規定する限りにおいて、そして細孔24が微細構造化アーキテクチャ2において全て同じサイズである場合、想定される用途に応じて、細孔24のサイズのみを変化させることによって、ろ過効率と同時に圧力損失を非常に正確に制御することができることは容易に理解されよう。しかしながら、細孔24はマイクロメートルのサイズであることに留意されたい。
【0030】
図3は、金属フィルタ1の主面3、4に平行な平面における微細構造化アーキテクチャ2を示す。この平面は、方向ベクトル
及び
の、先に導入された空間X、Y、Zの部分空間である。この図で良く分かるように、図3のいずれの場合にも1つの細孔24のみが示されている各間隙22は、概して、2つずつ並んで位置する4つの接続ストランド12によって取り囲まれている。同じことが、各接続ストランド12にも当てはまり、例によっては、概して4つの長手方向間隙22によって取り囲まれている。しかしながら、図3に示すような細孔24の分布は必須ではなく、以下を条件として他の分布も考えられ得る。
【0031】
細孔ネットワーク内では、細孔24は、他の2つの方向Y、Zを基準にして長手方向軸方向Xに異方性が得られるように分布している。細孔24の分布は、長手方向間隙22を通る流体Fの移動を有利にし、したがって、他の方向に関して流体Fの移動を容易にするように構成されている。
【0032】
好ましくは、微細構造化アーキテクチャ2の多孔性(又は多孔率)は、10%~70%である。これにより、主面3、4間の圧力損失は約100パスカルで、透過性は11~200l.m-2.s-1を得ることができる。前述の多孔率の範囲は、本明細書の前文に記載されているものなどの衛生ろ過マスクに特に適している。しかしながら、多孔率が高いほど圧力損失は小さくなり、逆もまた同様である。本発明の範囲内で他の用途も想定され得る。
【0033】
好ましくは、接続ストランド12は10μm~500μmの幅を有し、一方、長手方向間隙22は1μm~100μmの幅を有する。添付の図では、長手方向軸に直交する軸Yに沿って幅を取っている。これは、接続ストランド12及び長手方向間隙22の最大寸法を意味するものではない。このようなパラメータにより、所望のろ過タイプに適したアーキテクチャ2の微細構造を得ることができる。
【0034】
特に好適には、金属フィルタ1の厚さe、即ち、金属フィルタ1の最小寸法は、異方性軸Xに沿って延在する。金属フィルタ1がこの構成を有する場合、流体Fは、金属フィルタの最小寸法でもある好ましい方向に移動する。したがって、微細構造化アーキテクチャ2内の摩擦が少なくなり、その結果、微細構造内の流体Fの運動力学は、主に長手方向間隙22の異方性分布及び細孔24のサイズによって導かれる。流体Fが金属フィルタ1を通過するときに流体Fが受ける圧力損失及びろ過効率は更に制御される。
【0035】
金属フィルタ1の厚さeは、250μm~300mmであることが好ましい。実際には、それは本質的に検討される用途に依存する。衛生ろ過マスクの場合、例えば、400μm~2mmの厚さが選択される。本発明による金属フィルタ1が、空気の処理装置又は汚染制御装置に一般的に使用される高い処理効率を有するエアフィルタなどの機能部品の製造に使用される場合、その厚さははるかに大きくなる可能性がある。
【0036】
金属ネットワーク10は、純粋な形態の金属、又は、金属若しくは金属酸化物の合金の形態の金属で作られ、金属は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、コバルト、鉄、銅、パラジウム、チタン、タングステン、銀及び白金から選択される。これらの金属は、周囲温度で固体であるだけでなく、レーザ溶融による微細構造化のための良好な候補でもある。更に、これらは良好な機械的特性を有し、薄膜堆積に適している。
【0037】
この点において、金属フィルタ1は、金属フィルタ1の主面3、4を覆う殺ウイルス性又は殺菌性の薄層を更に備えてもよい。想定される堆積技術に応じて、この薄層は、主面3、4から特定の細孔深さにわたって延在することができる。この殺ウイルス性又は殺菌性の薄層は、細菌及びウイルスなどの感染性微生物のバリア層である。例えば、このような薄層は、純金属、チタン、銅、亜鉛、ニッケル又は銀などの金属又は金属酸化物の合金で作られてもよい。
【0038】
このように、又は追加の薄層によって、他の実用的な機能を金属フィルタ1に追加して、その特性を高めてもよい。例えば、本薄層により、微細構造化アーキテクチャ2が主面3、4の一方において親水性であり、主面3、4の他方において疎水性であることが可能になり得る。これは、特に、このような金属フィルタを備えた機能部品の湿度を制御することが可能になり得る。
【0039】
本発明はまた、前述の金属フィルタ1の付加製造方法に関する。
【0040】
本発明による付加製造方法の第1の工程110は、所定の材料又は複数材料の合金の金属粉末の少なくとも1つの層を支持体上に堆積させることからなる。金属粉末の各層の厚さは、1μm~200μmであり得る。好適には、粉末の各層の厚さは、1μm~150μm、1μm~120μm、又は更により正確には10μm~120μmである。通常、約30μm、50μm又は100μmの厚さの層を使用することができる。
【0041】
支持体を、厳密に、周囲温度を超え、250℃以下の温度に加熱することができる。好適には、支持体は、より正確には180℃~220℃、更により効果的には190℃~210℃の温度に加熱することができる。これは、基材に対する接着性を高め、このように形成される層を構造的に安定化させる。したがって、完成品は壊れにくい。
【0042】
本発明による付加製造方法の第2の工程は、所定の材料又は所定の材料の合金の溶融温度よりも高い温度で、粉末の金属結晶粒の局所的なレーザ溶融を実行して、工程110の間に堆積した金属粉末を形成することにある。これらの条件下で実行されるレーザ溶融は、レーザビームの作用下で局所的にエネルギーを供給することができ、これにより粉末の結晶粒を局所的に溶融させることができる。
【0043】
この局所的な、したがって選択的な溶融は、予め確立されたコンピュータデータベースから微細構造化アーキテクチャ2の所定のパターンMを作成するコンピュータプログラムによって実行される。
【0044】
図5は、本発明による微細構造化アーキテクチャ2の画像である。全て所定の方向に互いに平行である長手方向間隙22の異方性を見ることができる。これに対して、図4に示すような従来技術による方法によって得られた微細構造化アーキテクチャでは、細孔は等方的分布に従って分布している。
【0045】
適切な寸法の接続ストランド12を形成するために、工程110及び120を数回繰り返すことが必要な場合がある。
【0046】
各レーザ溶融工程において、レーザビームによって採用される経路は、変位ベクトルがオフセット値によって対で空間的にオフセットされている変位ベクトルを含み、金属フィルタ1内の細孔の細孔率は、所定のレーザビーム出力及び層厚に対して、オフセット値を適合させることによって調整され、細孔率は、オフセット値が増加するにつれて増加する。オフセット値HDは、製造される金属フィルタ1に影響を与える。
【0047】
この点において、レーザ溶融工程時の各パスにおけるレーザビームの体積エネルギー密度は、微細構造化アーキテクチャ2のレベルで、金属粉末から非多孔質ブロックを得るために必要なレーザビームの体積エネルギー密度値の30%~90%である。この体積エネルギー密度を適合させるために、例えば、他のパラメータ、HD、V、及びeに影響を与えて、レーザ出力を設定することができる。これらのパラメータを定義する以下の数式(F1)を参照することができる。
【0048】
コンピュータプログラムは、データベースの助けを借りて、以下の中から選択されたパラメータのうち少なくとも1つに従って、工程110の間に堆積された金属粉末に対してレーザビームの変位を制御する。
-レーザビームと先に堆積された金属材料粉末との間の相対軌跡、
-レーザビームと先に堆積された金属材料粉末との間の相対速度に対応する変位速度「V」、
-レーザビームの出力「P」、
-レーザビームの体積エネルギー密度「E」
【0049】
レーザビームの体積エネルギー密度Eは、J/mmで表され、以下の数式(F1)によって定義される。
ここで、Pはレーザビーム出力でありワット(W)で表され、Vはレーザビームの変位速度でありmm/sで表され、HDはレーザビームの2つの隣接する印加ベクトル間のオフセット値でありmmで表され、eは層厚でありmmで表され、Eはレーザビームの体積エネルギー密度である。
【0050】
予め確立された、コンピュータで制御された軌道に従って連続層を堆積させ、次いでそれをレーザで溶融する三次元付加製造ソリューションは、「SLM」技術として知られており、これは「選択的レーザ溶融(Selective Laser Melting)」の略であり、「局所的レーザ溶融(Localised Laser Melting)」と表現することもできる。
【0051】
SLM付加製造法では、操作は中性ガス環境(一般にアルゴン)中で行われ、金属粉末の薄層が金属基板上に広げられる。次いで、レーザビームで粉末を溶融し、部品の形状に合わせて選択的に下層に付着させるために必要なエネルギーを粉末に供給する。これらの動作を繰り返すことにより、三次元の複雑な幾何学的形状を有する金属部品の製造が可能になる。これを行うためには、部品を所望の製造層の厚さのスライスにカットして部品の「コンピュータ支援制御」タイプのファイルを準備し、二次元の設計図面一式を作成する必要がある。更に、保持支持体を作成し、粉末上でレーザビームの軌道を定義できる一連のパラメータを割り当てる必要がある。これらの全ての作業の結果として、ファイルが出来上がり、このファイルが伝達されて製造機械が駆動される。
【0052】
「SLS」として知られる技術など、材料の付加製造の他の方法を想定することができるが、「SLS」は「選択的レーザ焼結(Selective Laser Sintering)」の略で、「局所的なレーザ焼結(localised laser sintering)」とも表現することができる。他の技術もある。
【0053】
最後に、本発明の範囲内で、機能性が必要な場合には、レーザ溶融工程120と金属粉末層を堆積させる工程110との間に置かれる薄層を堆積させる工程を設けることが可能である。このようにして形成される連続層を機能化するために、本方法の他の修正を行ってもよい。
本発明による方法の実際の実施
【0054】
特定の実施例によれば、本方法は以下の工程を含む。
-工程110の間、50μmに等しい厚さの金属粉末が支持体上に堆積される。
-工程120は、レーザビーム出力が275Wで実行され、オフセット値HDは0.1mm又は0.12mmに固定され、レーザビームの変位速度の下限閾値は(粉末床に対して)1500~6000mm/sである。
【0055】
この実施例の範囲では、変位速度の下限閾値を超えた場合、変位速度が大きくなるにつれて微細構造化アーキテクチャ内の多孔率が増加することを実証することができた。
【0056】
したがって、レーザビームの体積エネルギー密度を適合させることによって、微細構造化アーキテクチャ2内の細孔の多孔率も調整できることを示すこともできた。実際、体積エネルギー密度の上限閾値未満では、体積エネルギー密度が減少するにつれて多孔率が増加する。
【0057】
これに関して、特定の実施例によれば、本方法は以下の工程を含む。
-工程110では、50μmに等しい厚さを有する金属粉末が支持体上に堆積される。
-工程120は、レーザビーム出力が275Wで実行され、レーザビームのエネルギー密度の上限閾値は、7J/mm~80J/mmの範囲、より具体的にはこの例では(特に、オフセット値HDとして0.1mm又は0.12mmに応じて)7J/mm~30J/mmの範囲で変化し得る。
【0058】
SLMSolutions(登録商標)が販売する316Lステンレス鋼粉末を使用して試験を行った。これらが、図4及び図5に示す結果である。金属材料はまた、アルミニウム又はアルミニウム合金であってもよく、これは、消毒温度で光及び熱的に安定であるという利点を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】