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特開2023-86701べと病に対する抵抗性を有するレタス植物
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  • 特開-べと病に対する抵抗性を有するレタス植物 図1
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  • 特開-べと病に対する抵抗性を有するレタス植物 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086701
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】べと病に対する抵抗性を有するレタス植物
(51)【国際特許分類】
   A01H 5/00 20180101AFI20230615BHJP
   A01H 6/14 20180101ALI20230615BHJP
   A01H 5/12 20180101ALI20230615BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20230615BHJP
   A01H 5/06 20180101ALI20230615BHJP
   A01H 5/04 20180101ALI20230615BHJP
   A01H 5/02 20180101ALI20230615BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20230615BHJP
   A01H 1/02 20060101ALI20230615BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230615BHJP
   A01H 4/00 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
A01H5/00 A
A01H6/14 ZNA
A01H5/12
A01H5/10
A01H5/06
A01H5/04
A01H5/02
C12N15/11 Z
A01H1/02 Z
C12N5/10
A01H4/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022196249
(22)【出願日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】63/288,364
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500195035
【氏名又は名称】セミニス・ベジタブル・シーズ・インコーポレイテツド
【氏名又は名称原語表記】Seminis Vegetable Seeds,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ハーゲン,チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】モーガン,ロビン・エル
(72)【発明者】
【氏名】シュライヴ,フィリップ
【テーマコード(参考)】
2B030
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD04
2B030CA01
2B030CA05
2B030CA06
4B065AA88X
4B065AB01
4B065CA41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】Bremia lactucaeによって引き起こされるべと病に対する抵抗性を呈するレタス植物を提供するとともに、べと病抵抗性表現型を有する植物または生殖質を生産、同定または選抜する方法を提供する。
【解決手段】優良Lactuca sativa植物であって、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第1アレルと、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第2アレルとを含む組換え染色体セグメントを含み、前記第1アレルと前記第2アレルとが2番染色体上でシス配置にあり、前記第1アレルがアレル2.2を含み、前記第2アレルがアレル2.1またはDm3を含む、前記植物である。遺伝子移入座位を含む植物を検出するための新規多型マーカーを含む組成物をさらに提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
優良Lactuca sativa植物であって、
Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第1アレルと、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第2アレルとを含む組換え染色体セグメント
を含み、
前記第1アレルと前記第2アレルとが2番染色体上でシス配置にあり、
前記第1アレルがアレル2.2を含み、前記第2アレルがアレル2.1またはDm3を含む、
前記植物。
【請求項2】
a)前記組換え染色体セグメントが、マーカー座位M1(配列番号1)、マーカー座位M2(配列番号6)、マーカー座位M3(配列番号11)、マーカー座位M4(配列番号17)、マーカー座位M5(配列番号21)、マーカー座位M6(配列番号26)、マーカー座位M7(配列番号31)及びマーカー座位M8(配列番号36)からなる群から選択されるマーカー座位を前記2番染色体上に含む;
b)前記植物が前記組換え染色体セグメントについてホモ接合体である;または
c)前記組換え染色体セグメントを含む種子の代表試料がNCMA受託番号202110051もしくはNCMA受託番号202110049の下に寄託されている、
請求項1に記載の植物。
【請求項3】
前記組換え染色体セグメントが、
マーカー座位M3(配列番号11)と、
マーカー座位M2(配列番号6)、マーカー座位M5(配列番号21)、マーカー座位M6(配列番号26)及びマーカー座位M7(配列番号31)からなる群から選択されるマーカー座位と
を前記2番染色体上に含む、請求項2に記載の植物。
【請求項4】
請求項1に記載の植物の植物部分であって、前記組換え染色体セグメントを含む、前記植物部分。
【請求項5】
前記植物部分が、細胞、種子、根、茎、葉、結球、花または花粉である、請求項4に記載の植物部分。
【請求項6】
請求項1に記載の植物を産生する種子。
【請求項7】
第1Bremia lactucae抵抗性アレルと、第2Bremia lactucae抵抗性アレルとを含む組換えDNAセグメントであって、
前記第1アレルと前記第2アレルとがシス配置にあり、
前記第1アレルがアレル2.2を含み、前記第2アレルがアレル2.1またはDm3を含む、
前記組換えDNAセグメント。
【請求項8】
a)前記組換えDNAセグメントが、
マーカー座位M3(配列番号11)の配列と、
マーカー座位M2(配列番号6)、マーカー座位M5(配列番号21)及びマーカー座位M6(配列番号26)からなる群から選択される配列と
を含む;
b)前記組換えDNAセグメントが、植物、植物部分、植物細胞もしくは種子の中に含まれるものとしてさらに規定される;または
c)前記DNAセグメントを含む種子の代表試料がNCMA受託番号202110051もしくはNCMA受託番号202110049の下に寄託されている、
請求項7に記載の組換えDNAセグメント。
【請求項9】
優良Lactuca sativa植物であって、
Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第1アレルと、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第2アレルとを含む組換え染色体セグメント
を含み、
前記第1アレルと前記第2アレルとが4番染色体上でシス配置にあり、
前記第1アレルがアレル4.1を含み、前記第2アレルがアレル4.2またはアレル4.3を含む、
前記植物。
【請求項10】
a)前記組換え染色体セグメントが、マーカー座位M9(配列番号41)、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)、マーカー座位M12(配列番号56)、マーカー座位M13(配列番号61)、マーカー座位M14(配列番号66)、マーカー座位M15(配列番号71)、マーカー座位M16(配列番号76)及びマーカー座位M17(配列番号81)からなる群から選択されるマーカーを前記4番染色体上に含む;
b)前記植物が前記組換え染色体セグメントについてホモ接合体である;または
c)前記組換え染色体セグメントを含む種子の代表試料がNCMA受託番号202110050もしくはNCMA受託番号202110052の下に寄託されている、
請求項9に記載の植物。
【請求項11】
前記組換え染色体セグメントが、
マーカー座位M9(配列番号41)、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)、マーカー座位M16(配列番号76)及びマーカー座位M17(配列番号81)からなる群から選択されるマーカー座位、ならびに
マーカー座位M12(配列番号56)、マーカー座位M13(配列番号61,マーカー座位M14(配列番号66)及びマーカー座位M15(配列番号71)からなる群から選択されるマーカー座位
を前記4番染色体上に含む、請求項10に記載の植物。
【請求項12】
請求項9に記載の植物の植物部分であって、前記組換え染色体セグメントを含む、前記植物部分。
【請求項13】
前記植物部分が、細胞、種子、根、茎、葉、結球、花または花粉である、請求項12に記載の植物部分。
【請求項14】
請求項9に記載の植物を産生する種子。
【請求項15】
第1Bremia lactucae抵抗性アレルと、第2Bremia lactucae抵抗性アレルとを含む組換えDNAセグメントであって、
前記第1アレルと前記第2アレルとがシス配置にあり、
前記第1アレルがアレル4.1を含み、前記第2アレルがアレル4.2またはアレル4.3を含む、
前記組換えDNAセグメント。
【請求項16】
a)前記組換えDNAセグメントが、
マーカー座位M9(配列番号41)、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)、マーカー座位M16(配列番号76)及びマーカー座位M17(配列番号81)の配列と、
マーカー座位M12(配列番号56)、マーカー座位M13(配列番号61、マーカー座位M14(配列番号66)及びマーカー座位M15(配列番号71)からなる群から選択されるマーカー座位と
を含む;
b)前記組換えDNAセグメントが、植物、植物部分、植物細胞もしくは種子の中に含まれるものとしてさらに規定される;または
c)前記DNAセグメントを含む種子の代表試料がNCMA受託番号202110050もしくはNCMA受託番号202110052の下に寄託されている、
請求項15に記載の組換えDNAセグメント。
【請求項17】
Bremia lactucaeに対する幅広い抵抗性を有する優良Lactuca sativa植物を生産する方法であって、
組換え染色体セグメント中に第1Bremia lactucae抵抗性アレル及び第2Bremia lactucae抵抗性アレルを含む前記組換え染色体セグメントを、前記植物のゲノムにおいて
a)2番染色体上のマーカー座位M1(配列番号1)及びマーカー座位M4(配列番号17)、または
b)4番染色体上のマーカー座位M9(配列番号41)及びマーカー座位M17(配列番号81)
に隣接させて前記植物中に遺伝子移入することを含み、
前記植物に前記第1及び第2Bremia lactucae抵抗性アレルが、前記アレルのない植物に比べて相対的にBremia lactucaeに対する幅広い抵抗性を付与し、
前記遺伝子移入することがマーカー支援選抜を含む、
前記方法。
【請求項18】
前記遺伝子移入することが、
a)前記組換え染色体セグメントを含む植物を、それ自体、または異なる遺伝子型の第2Lactuca sativa植物と交配して1つ以上の後代植物を生産すること;及び
b)前記組換え染色体セグメントを含む後代植物を選抜すること
を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
a)前記後代植物がF~F後代植物である;あるいは
b)前記後代植物を選抜することが、
i)マーカー座位M1(配列番号1)、マーカー座位M2(配列番号6)、マーカー座位M3(配列番号11)、マーカー座位M4(配列番号17)、マーカー座位M5(配列番号21)、マーカー座位M6(配列番号26)、マーカー座位M7(配列番号31)もしくはマーカー座位M8(配列番号36);または
ii)マーカー座位M9(配列番号41)、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)、マーカー座位M12(配列番号56)、マーカー座位M13(配列番号61)、マーカー座位M14(配列番号66)、マーカー座位M15(配列番号71)、マーカー座位M16(配列番号76)もしくはマーカー座位M17(配列番号81)
を含む核酸を検出することを含む、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記遺伝子移入することが、
戻し交配すること、または
Bremia lactucaeに対する前記抵抗性について検査すること
をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
請求項17に記載の方法によって得られるLactuca sativa植物。
【請求項22】
Bremia lactucaeに対する抵抗性を呈するLactuca sativa植物を選抜する方法であって、
a)請求項1または請求項9に記載のLactuca sativa植物を、それ自体、または異なる遺伝子型の第2Lactuca sativa植物と交配して1つ以上の後代植物を生産すること;及び
b)前記組換え染色体セグメントを含む後代植物を選抜すること
を含む、前記方法。
【請求項23】
a)前記後代植物を選抜することが、前記組換え染色体セグメントと遺伝的に連鎖するマーカー座位を検出することを含む;
b)前記後代植物がF~F後代植物である;
c)前記後代植物を生産することが、戻し交配することを含む;あるいは
d)前記後代植物を選抜することが、
i)マーカー座位M1(配列番号1)、マーカー座位M2(配列番号6)、マーカー座位M3(配列番号11)、マーカー座位M4(配列番号17)、マーカー座位M5(配列番号21)、マーカー座位M6(配列番号26)、マーカー座位M7(配列番号31)もしくはマーカー座位M8(配列番号36);または
ii)マーカー座位M9(配列番号41)、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)、マーカー座位M12(配列番号56)、マーカー座位M13(配列番号61)、マーカー座位M14(配列番号66)、マーカー座位M15(配列番号71)、マーカー座位M16(配列番号76)もしくはマーカー座位M17(配列番号81)
を含む核酸を検出することを含む、
請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記後代植物を選抜することが、
前記植物のゲノムにおいて
a)2番染色体上のマーカー座位M1(配列番号1)及びマーカー座位M4(配列番号16)、もしくは
b)4番染色体上のマーカー座位M9(配列番号41)及びマーカー座位M17(配列番号81)
に隣接する染色体セグメントの中にある、またはそれと遺伝的に連鎖するマーカー座位を検出すること
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項5に記載の細胞。
【請求項26】
請求項13に記載の細胞。
【請求項27】
請求項5に記載の細胞を含む組織培養物。
【請求項28】
請求項13に記載の細胞を含む組織培養物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月10日に出願された米国仮出願第63/288,364号の利益を主張するものであり、参照によりこの開示の全体を本明細書に援用する。
【0002】
配列表の組込み
2022年11月17日に作成され、(MS-Windows(登録商標)で測って)88.3キロバイトであり、85個の配列を含む、「SEMB046US_ST26.xml」と名付けられたファイルを含有する配列表は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0003】
本発明は、Bremia lactucaeによって引き起こされるべと病に対する向上した抵抗性を呈するレタス植物を生産するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
宿主植物の抵抗性は、農業、特に食用作物生産の分野において重要な形質である。病虫害に対する抵抗性を付与する座位は様々なレタス種において同定されているが、これらの座位を栽培系統に導入する取組みは、座位と連鎖する特異的マーカーがないことによって妨げられてきた。植物育種におけるマーカー支援選抜(MAS)の利用は、関心対象の形質と連鎖する遺伝子マーカーに基づいて植物を選抜することを可能にした。しかしながら、たとえ形質に関連付く遺伝子の特徴が明らかにされているとしても、植物において望ましい形質を特定または追跡するための的確なマーカーが利用できないことがよくある。これらの困難さは、ポリジーン遺伝または量的遺伝、エピスタシス、及び所望の表現型の発現の根底にある遺伝的背景についての不完全な理解などの因子によってさらに複雑化する。
【発明の概要】
【0005】
一態様において、本発明は、優良Lactuca sativa植物であって、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第1アレルと、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第2アレルとを含む組換え染色体セグメントを含み、上記第1アレルと第2アレルとが2番染色体上でシス配置にあり、上記第1アレルがアレル2.2を含み、上記第2アレルがアレル2.1またはDm3を含む、当該植物を提供する。いくつかの実施形態では、組換え染色体セグメントは、マーカー座位M1(配列番号1)、マーカー座位M2(配列番号6)、マーカー座位M3(配列番号11)、マーカー座位M4(配列番号17)、マーカー座位M5(配列番号21)、マーカー座位M6(配列番号26)、マーカー座位M7(配列番号31)及びマーカー座位M8(配列番号36)からなる群から選択されるマーカー座位を2番染色体上に含む。他の実施形態では、上記組換え染色体セグメントは、マーカー座位M3(配列番号11)と、マーカー座位M2(配列番号6)、マーカー座位M5(配列番号21)、マーカー座位M6(配列番号26)及びマーカー座位M7(配列番号31)からなる群から選択されるマーカー座位とを2番染色体上に含む。いくつかの実施形態では、植物は上記組換え染色体セグメントについてホモ接合体である。他の実施形態では、上記組換え染色体セグメントを含む種子の代表試料はNCMA受託番号202110051またはNCMA受託番号202110049の下に寄託されている。
【0006】
加えて、本発明は、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第1アレルと、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第2アレルとを含む組換え染色体セグメントを含む優良Lactuca sativa植物の植物部分であって、上記第1アレルと第2アレルとが2番染色体上でシス配置にあり、上記第1アレルがアレル2.2を含み、上記第2アレルがアレル2.1またはDm3を含み、当該植物部分が組換え染色体セグメントを含む、当該植物部分を提供する。いくつかの実施形態では、植物部分は、細胞、種子、根、茎、葉、結球、花または花粉である。他の実施形態では、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第1アレルと、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第2アレルとを含む組換え染色体セグメントを含む優良Lactuca sativa植物の植物部分からの細胞を含む組織培養物であって、上記第1アレルと第2アレルとが2番染色体上でシス配置にあり、上記第1アレルがアレル2.2を含み、上記第2アレルがアレル2.1またはDm3を含み、細胞が組換え染色体セグメントを含む、当該組織培養物。
【0007】
本発明は、第1Bremia lactucae抵抗性アレルと、第2Bremia lactucae抵抗性アレルとを含む組換えDNAセグメントであって、上記第1アレルと第2アレルとがシス配置にあり、上記第1アレルがアレル2.2を含み、上記第2アレルがアレル2.1またはDm3を含む、当該組換えDNAセグメントを提供する。いくつかの実施形態では、上記組換えDNAセグメントは、マーカー座位M3(配列番号11)の配列と、マーカー座位M2(配列番号6)、マーカー座位M5(配列番号21)及びマーカー座位M6(配列番号26)からなる群から選択される配列とを含む。他の実施形態では、上記組換えDNAセグメントは、植物、植物部分、植物細胞または種子の中に含まれるものとしてさらに規定される。さらなる実施形態では、上記DNAセグメントを含む種子の代表試料はNCMA受託番号202110051またはNCMA受託番号202110049の下に寄託されている。
【0008】
別の態様では、本発明は、優良Lactuca sativa植物であって、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第1アレルと、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第2アレルとを含む組換え染色体セグメントを含み、上記第1アレルと上記第2アレルとが4番染色体上でシス配置にあり、上記第1アレルがアレル4.1を含み、上記第2アレルがアレル4.2またはアレル4.3を含む、当該植物を提供する。いくつかの実施形態では、上記組換え染色体セグメントは、マーカー座位M9(配列番号41)、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)、マーカー座位M12(配列番号56)、マーカー座位M13(配列番号61)、マーカー座位M14(配列番号66)、マーカー座位M15(配列番号71)、マーカー座位M16(配列番号76)及びマーカー座位M17(配列番号81)からなる群から選択されるマーカーを4番染色体上に含む。他の実施形態では、上記組換え染色体セグメントは、マーカー座位M9(配列番号41)、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)、マーカー座位M16(配列番号76)及びマーカー座位M17(配列番号81)からなる群から選択されるマーカー座位、ならびにマーカー座位M12(配列番号56)、マーカー座位M13(配列番号61,マーカー座位M14(配列番号66)及びマーカー座位M15(配列番号71)からなる群から選択されるマーカー座位を4番染色体上に含む。いくつかの実施形態では、植物は上記組換え染色体セグメントについてホモ接合体である。他の実施形態では、上記組換え染色体セグメントを含む種子の代表試料はNCMA受託番号202110050またはNCMA受託番号202110052の下に寄託されている。本発明のレタス植物を産生する種子も本明細書に提供される。
【0009】
加えて、本発明は、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第1アレルと、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第2アレルとを含む組換え染色体セグメントを含む優良Lactuca sativa植物の植物部分であって、上記第1アレルと第2アレルとが4番染色体上でシス配置にあり、上記第1アレルがアレル4.1を含み、上記第2アレルがアレル4.2またはアレル4.3を含み、植物部分が組換え染色体セグメントを含む、当該植物部分を提供する。いくつかの実施形態では、植物部分は、細胞、種子、根、茎、葉、結球、花または花粉である。他の実施形態では、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第1アレルと、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第2アレルとを含む組換え染色体セグメントを含む優良Lactuca sativa植物の植物部分からの細胞を含む組織培養物であって、上記第1アレルと第2アレルとが4番染色体上でシス配置にあり、上記第1アレルがアレル4.1を含み、上記第2アレルがアレル4.2またはアレル4.3を含み、細胞が組換え染色体セグメントを含む、当該組織培養物。
【0010】
本発明は、第1Bremia lactucae抵抗性アレルと、第2Bremia lactucae抵抗性アレルとを含む組換えDNAセグメントであって、上記第1アレルと第2アレルとがシス配置にあり、上記第1アレルがアレル4.1を含み、上記第2アレルがアレル4.2またはアレル4.3を含む、当該組換えDNAセグメントを提供する。いくつかの実施形態では、上記組換えDNAセグメントは、マーカー座位M9(配列番号41)、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)、マーカー座位M16(配列番号76)及びマーカー座位M17(配列番号81)の配列と、マーカー座位M12(配列番号56)、マーカー座位M13(配列番号61、マーカー座位M14(配列番号66)及びマーカー座位M15(配列番号71)からなる群から選択されるマーカー座位とを含む。他の実施形態では、上記組換えDNAセグメントは、植物、植物部分、植物細胞または種子の中に含まれるものとしてさらに規定される。さらなる実施形態では、上記染色体セグメントを含む種子の代表試料はNCMA受託番号202110050またはNCMA受託番号202110052の下に寄託されている。
【0011】
別の態様では、本発明は、Bremia lactucaeに対する幅広い抵抗性を有する優良Lactuca sativa植物を生産する方法であって、組換え染色体セグメント中に第1Bremia lactucae抵抗性アレル及び第2Bremia lactucae抵抗性アレルを含む組換え染色体セグメントを、上記植物のゲノムにおいて(a)2番染色体上のマーカー座位M1(配列番号1)及びマーカー座位M4(配列番号17)、または(b)4番染色体上のマーカー座位M9(配列番号41)及びマーカー座位M17(配列番号81)に隣接させて上記植物中に遺伝子移入することを含み、上記植物に上記第1及び第2Bremia lactucae抵抗性アレルが、上記アレルのない植物に比べて相対的にBremia lactucaeに対する幅広い抵抗性を付与し、上記遺伝子移入することがマーカー支援選抜を含む、当該方法を提供する。いくつかの実施形態では、上記遺伝子移入することは、a)上記組換え染色体セグメントを含む植物を、それ自体、または異なる遺伝子型の第2Lactuca sativa植物と交配して1つ以上の後代植物を生産すること;及びb)上記組換え染色体セグメントを含む後代植物を選抜することを含む。他の実施形態では、後代植物を選抜することは、(a)マーカー座位M1(配列番号1)、マーカー座位M2(配列番号6)、マーカー座位M3(配列番号11)、マーカー座位M4(配列番号17)、マーカー座位M5(配列番号21)、マーカー座位M6(配列番号26)、マーカー座位M7(配列番号31)もしくはマーカー座位M8(配列番号36);または(b)マーカー座位M9(配列番号41)、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)、マーカー座位M12(配列番号56)、マーカー座位M13(配列番号61)、マーカー座位M14(配列番号66)、マーカー座位M15(配列番号71)、マーカー座位M16(配列番号76)もしくはマーカー座位M17(配列番号81)を含む核酸を検出することを含む。さらなる実施形態では、後代植物はF~F後代植物である。いくつかの実施形態では、上記遺伝子移入することは、戻し交配すること、またはBremia lactucaeに対する上記抵抗性について検査することをさらに含む。本発明は、本明細書に提供される方法によって得られるレタス植物をさらに提供する。
【0012】
本発明は、Bremia lactucaeに対する抵抗性を呈するLactuca sativa植物を選抜する方法であって、a)Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第1アレルと、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第2アレルとを含む組換え染色体セグメントを含み、上記第1アレルと第2アレルとが2番染色体上でシス配置にあり、上記第1アレルがアレル2.2を含み、上記第2アレルがアレル2.1もしくはDm3を含む、優良Lactuca sativa植物、またはBremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第1アレルと、Bremia lactucaeに対する抵抗性を付与する第2アレルとを含む組換え染色体セグメントを含み、上記第1アレルと第2アレルとが4番染色体上でシス配置にあり、上記第1アレルがアレル4.1を含み、上記第2アレルがアレル4.2もしくはアレル4.3を含む、優良Lactuca sativa植物を、それ自体、または異なる遺伝子型の第2Lactuca sativa植物と交配して1つ以上の後代植物を生産すること;及びb)上記組換え染色体セグメントを含む後代植物を選抜することを含む、当該方法を提供する。いくつかの実施形態では、上記後代植物を選抜することは、上記組換え染色体セグメントと遺伝的に連鎖するマーカー座位を検出する。他の実施形態では、上記後代植物を選抜することは、上記植物のゲノムにおいて(a)2番染色体上のマーカー座位M1(配列番号1)及びマーカー座位M4(配列番号16)、もしくは(b)4番染色体上のマーカー座位M9(配列番号41)及びマーカー座位M17(配列番号81)に隣接する染色体セグメントの中にある、またはそれと遺伝的に連鎖するマーカー座位を検出することを含む。いくつかの実施形態では、後代を選抜することは、(a)マーカー座位M1(配列番号1)、マーカー座位M2(配列番号6)、マーカー座位M3(配列番号11)、マーカー座位M4(配列番号17)、マーカー座位M5(配列番号21)、マーカー座位M6(配列番号26)、マーカー座位M7(配列番号31)もしくはマーカー座位M8(配列番号36);または(b)マーカー座位M9(配列番号41)、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)、マーカー座位M12(配列番号56)、マーカー座位M13(配列番号61)、マーカー座位M14(配列番号66)、マーカー座位M15(配列番号71)、マーカー座位M16(配列番号76)もしくはマーカー座位M17(配列番号81)を含む核酸を検出することを含む。他の実施形態では、上記後代植物を生産することは、戻し交配することを含む。さらなる実施形態では、上記後代植物はF~F後代植物である。本発明は、本明細書に提供される方法によって生産されるレタス植物をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】2番染色体上の遺伝子クラスターのB.lactucae抵抗性アレルについてのファインマッピング結果の概要を示す。黒色のバーは、その特定のアレルのB.lactucae抵抗性にどのゲノム範囲が関連付いているかを示す。
図2】4番染色体上の遺伝子クラスターのB.lactucae抵抗性アレルについてのファインマッピング結果の概要を示す。暗い灰色のバーは、その特定のアレルのB.lactucae抵抗性にどのゲノム範囲が関連付いているかを示す。
図3】2番染色体上(左のグラフ)及び4番染色体上(右のグラフ)でシスで連鎖する4つの事象の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
レタス(L.sativa)は、世界的規模で生産及び消費されている重要な野菜作物である。レタス作物の品質に影響する最も重要な病害は、卵菌Bremia lactucaeによって引き起こされるべと病である。レタスにおけるB.lactucae感染を防除するために、育種者は、殺菌剤の使用と、B.lactucaeに対する遺伝学的抵抗性を有するレタス品種とを組み合わせる方策を採用するのが典型的である。しかしながら、殺菌剤使用は費用がかかり、多用は、殺菌剤に対する感受性をもはや有さないB.lactucae種属の発達を招きかねない。加えて、殺菌剤使用に対するますます制約的になってきた規制は、農薬使用軽減に対する消費者からの圧力と相まって、レタス栽培者によるB.lactucae防除手段の選択肢を制限している。これらの因子は、栽培者が彼らの栽培するレタス品種の遺伝学的抵抗性にますます頼ることにつながった。しかしながら、病原体進化は、レタス作物を守るために典型的に利用されている抵抗性遺伝子の有効性を低下させた。現在までに36種の異なるB.lactucae種属が同定されているが、新たな種属が毎年発見されている。これらの種属は、評価され、公的にInternational Bremia Evaluation Board(IBEB)によって命名される。商業的に重要なすべての既知のB.lactucae種属に対する抵抗性を有するレタス品種を開発することはレタス育種者にとって優先事項であり、新しいレタス品種の育種者にとって、B.lactucae種属B1~B16及び他の付加的な重要に対して抵抗性であるレタス品種を開発することは望ましいことである。
【0015】
B.lactucae感染に対する抵抗性を付与する50種を上回る遺伝子がL.sativa及びその野生型近縁種L.serriola及びL.salignaにおいて同定されている。育種者は、L.serriola及びL.salignaがL.sativaに密接に関係しているという事実ゆえに、抵抗性レタス品種の生産においてL.serriola及びL.salignaからの遺伝子を利用することができている。いくつかのB.lactucae抵抗性遺伝子は、野生型近縁種L.virosaにおいても同定されているが、L.virosaからL.sativaへの遺伝子の遺伝子移入は、いつまでも残る稔性障壁ゆえに、難題である。L.serriolaからの既知の抵抗性遺伝子は、レタスゲノム中の2つの遺伝子クラスターにマッピングされ得る。片方のクラスターは2番染色体上に位置する一方、毛片方のクラスターは4番染色体上に位置する。育種者は選択対象の抵抗性遺伝子を複数個有しているようであるが、そのような遺伝子クラスター内の遺伝子の場所、及び遺伝子間の近さは、利用可能な抵抗性遺伝子を並べる能力を大幅に制限してきた。
【0016】
新たなB.lactucae単離物が商業的に重要であると判定された後、レタス育種者は、新たな単離物に対する抵抗性を付与する抵抗性遺伝子を特定し、この付加的な抵抗性座位を、以前に知られているすべての単離物に対する抵抗性を付与する座位と一緒に、該当レタス品種に組み込まなければならない。新たなB.lactucae単離物に対する抵抗性を付与する遺伝子を特定するために用いられる1つの方法は、野生型レタス寄託物のスクリーニングによるものである。この方法は多数の抵抗性アレルの同定をもたらしたが、それは予測が不可能である。新たなB.lactucae単離物に対する抵抗性を付与する遺伝子を特定するもう1つの方法は、既知の抵抗性遺伝子を評価して、既知の遺伝子が新たな単離物(複数可)の1つ以上に対する抵抗性を付与するか否かを判定することである。新たな単離物(複数可)に対する抵抗性の供給源が特定された後、抵抗性座位は、新しいレタス品種を開発する育種プログラムに使用するための該当レタス生殖質に組み込まれなければならない。既知の遺伝子が新たな単離物に対する抵抗性を付与する場合、育種プログラムに抵抗性座位を組み込むことは育種者にとって簡単なことである。他方、抵抗性を付与するために新しい抵抗性アレルが必要とされる場合、新しいアレルを、他のB.lactucae種属に対する抵抗性を付与する他の座位を既に含んでいる可能性が高い品種に一体化させなければならない。そのような新しいアレルは、結果として得られる植物または品種がすべての既知の商業的に重要なB.lactucae種属または単離物に対する抵抗性を発揮することを確実なものにすべく、他の任意の重要な座位と一緒に遺伝子移入されなければならない。代替方策として、B.lactucaeに対する幅広い抵抗性、具体的には、すべての既知の商業的に重要なB.lactucae種属に対する抵抗性を付与する抵抗性アレルを開発する試みがなされてきた。しかしながら、現在までのところ、幅広い抵抗性を有するアレルの特定または使用に成功したことはない。1つのレタス品種において複数のB.lactucae抵抗性遺伝子が組み合わされたことはあったが、これらの遺伝子の組合せは、すべての既知の商業的に重要なB.lactucae種属に対する抵抗性を提供する幅広い抵抗性または抵抗性プロファイルをもたらさなかった。B.lactucaeに対する幅広い抵抗性を付与する新しい抵抗性アレルを、同じ遺伝子クラスター内に存在する既存の抵抗性遺伝子から開発することは、抵抗性遺伝子及び上記遺伝子のための遺伝子マーカーに関するさらなる情報がなければ不可能に近い。
【0017】
本発明は、複数のB.lactucae抵抗性座位をシス配置で2番染色体遺伝子クラスターに含む新規抵抗性アレルを有する優良L.sativa植物、及び複数のB.lactucae抵抗性座位をシス配置で4番染色体遺伝子クラスターに含む新規抵抗性アレルを有する優良L.sativa植物を提供することによって、当技術分野における重大な進歩を示す。各新規アレルは、レタス品種に遺伝子移入されてB.lactucaeに対する幅広い抵抗性をそのような品種の植物に付与し得る。そのような植物は、B.lactucae抵抗性レタス品種の植物と呼称され得る。そのようなB.lactucae抵抗性レタス植物、系統及び品種がさらに提供される。また、B.lactucae抵抗性に寄与する量的形質座位(QTL)と連鎖する分子マーカーも本明細書に開示される。本明細書に記載のそのようなマーカー及び方法を用いることによって、当業者は、レタス植物が呈するB.lactucae抵抗性のレベルを向上させること、及び向上したレベルでB.lactucae抵抗性を呈する植物を同定することができる。
【0018】
従来、2番染色体か4番染色体かのどちらかに帰属されるすべてのB.lactucae抵抗性座位は各クラスター内の座位に対して対立性であると考えられていた。抵抗性座位が既知の遺伝子クラスターの1つに分類された後に座位のさらなるファインマッピングが探究されることはなかった、というのも、座位は当該遺伝子クラスターに帰属される他の座位と対立性であるとみなされたからである。しかしながら、抵抗性座位が対立性ではなく実際には異なる種属のB.lactucaeに対する抵抗性パターンを有する異なる遺伝子であること、及び3つの抵抗性遺伝子がシス配置で同じ遺伝子クラスターに配置されて新規B.lactucae抵抗性アレルを生む可能性があることが示された(WO2013124310A1)。しかしながら、WO2013124310に記載されているアレルは、B.lactucae種属の小集団に対する抵抗性を付与するにすぎなかった。WO2013124310が、遺伝子クラスターにおいてB.lactucae抵抗性座位が対立性であるという考えを一掃したとはいえ、B.lactucaeに対する幅広い抵抗性を付与するアレルを組換えによって得ることは、遺伝子クラスターの各々に包含されるゲノム領域の狭さゆえに、いまだに困難であり続けている。遺伝子を組み合わせて、B.lactucaeに対する幅広い抵抗性を付与するアレルを生成するプロセスは、巧まずして1つ以上のB.lactucae種属または単離物に対する抵抗性を失う可能性も保有しており、これは、結果として得られた品種に重要な抵抗性遺伝子が存在していないことによる。加えて、異なるアレルが、染色体上で同じ位置に位置している異なる抵抗性プロファイルを有する抵抗性遺伝子を含んでおり、単一染色体上での組合せを制限している場合もある。
【0019】
本発明は、一実施形態において、レタス植物に遺伝子移入されてB.lactucaeに対する幅広い抵抗性を付与し得る2番染色体上の新規アレル、及びその生産方法を提供するという点において顕著な進歩を示す。別の実施形態では、本発明は、レタス植物に遺伝子移入されてB.lactucaeに対する幅広い抵抗性付与し得る4番染色体上の新規アレル、及びその生産方法を提供する。驚くべきことに、遺伝子クラスターの各々の中で複数の遺伝子が染色体上でシス配置に再構成されて新規抵抗性アレルまたは相引事象を生み得ること、及びアレルがすべての既知の商業的に重要なB.lactucae種属に対する抵抗性を提供することが見出された。新しい品種の開発中にアレルが的確に遺伝子移入及び追跡されることを可能にする、新しいアレルのための新規マーカーを、本明細書に提供する。新規B.lactucae抵抗性アレルは、任意の所望の優良レタス品種に遺伝子移入され得る。
【0020】
本発明は、新規B.lactucae抵抗性アレルを含む2番染色体上の組換え染色体セグメント、及びそのような組換え染色体セグメントを含むレタス植物を提供する。驚くべきことに、このB.lactucae抵抗性アレルは、すべての既知の商業的に重要なB.lactucae種属に対する抵抗性を提供する。さらには、抵抗性を含むそのような植物を生産する方法を提供する。いくつかの実施形態では、新規B.lactucae抵抗性アレルは、2番染色体上のマーカー座位M1(配列番号1)及びマーカー座位M4(配列番号16)に隣接する組換え染色体セグメントの中に位置するものとして定義される。他の実施形態では、そのようなセグメントは、マーカー座位M2(配列番号6)及びマーカー座位M3(配列番号11)のうちの1つ以上を含み得る。マーカー座位M1は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の3,178,102bpにおいてCからTへのSNP変化を含み、マーカー座位M4は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の21,382,669bpにおいてCからTへのSNP変化を含み、マーカー座位M2は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の4,751,330bpにおいてAからTへのSNP変化を含み、マーカー座位M3は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の12,617,612bpにおいてCからTへのSNP変化を含む。レタスの公開ゲノムは、例えば、lgr.genomecenter.ucdavis.eduにおいて入手可能であり、当業者であれば、本明細書で初めて提供されたマーカー配列を公開ゲノムの任意のバージョン(または、より後のバージョン)において見つける方法を理解するであろう。
【0021】
他の実施形態では、新規B.lactucae抵抗性アレルは、2番染色体上のマーカー座位M5(配列番号21)及びマーカー座位M8(配列番号36)に隣接する組換え染色体セグメントの中に位置するものとして定義される。他の実施形態では、そのようなセグメントは、マーカー座位M3(配列番号11)、マーカー座位M6(配列番号26)及びマーカー座位M7(配列番号31)のうちの1つ以上を含み得る。マーカー座位M5は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の6,880,789bpにおいてAからTへのSNP変化を含み、マーカー座位M8は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の12,620,486bpにおいてTからCへのSNP変化を含み、マーカー座位M3は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の12,617,612bpにおいてCからTへのSNP変化を含み、マーカー座位M6は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の8,595,550bpにおいてAからGへのSNP変化を含み、マーカー座位M7は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の9,015,255bpにおいてCからTへのSNP変化を含む。レタスの公開ゲノムは、例えば、lgr.genomecenter.ucdavis.eduにおいて入手可能であり、当業者であれば、本明細書で初めて提供されたマーカー配列を公開ゲノムの任意のバージョン(または、より後のバージョン)において見つける方法を理解するであろう。
【0022】
本発明は、新規B.lactucae抵抗性アレルを含む4番染色体上の組換え染色体セグメント、及びそのような組換え染色体セグメントを含むレタス植物を提供する。驚くべきことに、このB.lactucae抵抗性アレルは、すべての既知の商業的に重要なB.lactucae種属に対する抵抗性をもたらす。抵抗性を含むそのような植物を生産する方法がさらに提供される。いくつかの実施形態では、新規B.lactucae抵抗性アレルは、4番染色体上のマーカー座位M9(配列番号41)及びマーカー座位M13(配列番号61)に隣接する組換え染色体セグメントの中に位置するものとして定義される。他の実施形態では、そのようなセグメントは、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)及びマーカー座位M12(配列番号56)のうちの1つ以上を含み得る。マーカー座位M9は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の279,265,815bpにおいてAからTへのSNP変化を含み、マーカー座位M13は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の299,871,312bpにおいてCからTへのSNP変化を含み、マーカー座位M10は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の284,924,768bpにおいてAからTへのSNP変化を含み、マーカー座位M11は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の285,707,267bpにおいてCからTへのSNP変化を含み、マーカー座位M12は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の287,073,248bpにおいてGからAへのSNP変化を含む。レタスの公開ゲノムは、例えば、lgr.genomecenter.ucdavis.eduにおいて入手可能であり、当業者であれば、本明細書で初めて提供されたマーカー配列を公開ゲノムの任意のバージョン(または、より後のバージョン)において見つける方法を理解するであろう。
【0023】
他の実施形態では、新規B.lactucae抵抗性アレルは、4番染色体上のマーカー座位M14(配列番号66)及びマーカー座位M17(配列番号81)に隣接する組換え染色体セグメントの中に位置するものとして定義される。他の実施形態では、そのようなセグメントは、マーカー座位M15(配列番号71)及びマーカー座位M16(配列番号76)のうちの1つ以上を含み得る。マーカー座位M14は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の272,188,909bpにおいてTからCへのSNP変化を含み、マーカー座位M17は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の286,940,580bpにおいてCからTへのSNP変化を含み、マーカー座位M15は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の284,076,880bpにおいてAからGへのSNP変化を含み、マーカー座位M16は、公開L.sativa基準ゲノムLsat_Salinas_v8の285,706,267bpにおいてTからCへのSNP変化を含む。レタスの公開ゲノムは、例えば、lgr.genomecenter.ucdavis.eduにおいて入手可能であり、当業者であれば、本明細書で初めて提供されたマーカー配列を公開ゲノムの任意のバージョン(または、より後のバージョン)において見つける方法を理解するであろう。
【0024】
特定の実施形態では、本発明は、a)本明細書に提供されるレタス植物を、それ自体、または異なる遺伝子型の第2レタス植物と交配して1つ以上の後代植物を生産すること;及びb)B.lactucae抵抗性アレルを含む後代植物を選抜することを含む、B.lactucaeに対する抵抗性を呈するレタス植物を生産または選抜する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、マーカー座位M2(配列番号6)、マーカー座位M3(配列番号11)、マーカー座位M5(配列番号21)、マーカー座位M6(配列番号26)、マーカー座位M7(配列番号31)、マーカー座位M10(配列番号46)、マーカー座位M11(配列番号51)、マーカー座位M12(配列番号56)、マーカー座位M15(配列番号71)またはマーカー座位M16(配列番号76)を含む核酸を検出することによって後代植物を選抜することを含む。
【0025】
遺伝学的に多様な植物系統は、交配するのが難しくなり得るため、従来の育種方法を用いてB.lactucae抵抗性座位及び/またはアレルを栽培系統に遺伝子移入することは、後代スクリーニングのための法外に大きな分離集団を必要として結果が不確実となる可能性がある。したがって、抵抗性B.lactucaeを付与する座位を優良栽培品種に効果的に遺伝子移入するためにはマーカー支援選抜(MAS)が必要不可欠である。本発明は、B.lactucae抵抗性に関連する遺伝子型を検出するための、改良及び検証されたマーカーを提供することによって、表現型を観察するために植物の大きな集団を成熟期まで栽培する必要がない効果的なMASを初めて可能にする。
【0026】
I.べと病に対する抵抗性に関連するレタスのゲノム領域、座位及び多型
本発明は、レタスにおけるべと病に対する抵抗性に関連する1つ以上の座位の新規な遺伝子移入を、植物育種中に遺伝子移入を追跡するための多型核酸及び連鎖マーカーと併せて提供する。
【0027】
B.lactucae抵抗性を呈するLactuca sativa寄託物は当技術分野で知られており、本発明の特定の実施形態に従って使用され得る。L.serriola、L.virosa、及びL.salignaを含めた他の種類のレタスを使用することも可能であり得る。Lactuca sativa寄託物CGN05813、及びLactuca saligna寄託物CGN05271は、遺伝資源センター(オランダ、ワーヘニンゲン)から入手できるものであるが、これらもB.lactucaeに対する抵抗性を呈する。様々なB.lactucae種属に対する抵抗性を呈するL.serriola系統の寄託物は、例えば、Lebeda et al.,Eur J Plant Pathol,138:597-640,2014に示されている。他のB.lactucae抵抗性供給源も、記載がなされ、当技術分野で知られている(例えば、Simko et al.,Phytopathology 105(9):1220-1228,2015、Van Hese et al.,Eur J.Plant Pathology 144:431-441,2016、及びParra et al.,Euphytica 210:309-326,2016を参照されたい)。Lactuca寄託物は、フランス及びポルトガルを含めた多くの場所において収集され、オランダ遺伝資源センター(CGN)及び米国国立植物生殖質システム(NPGS)を含めた複数の生殖質バンクにおいて見つかり得る。
【0028】
II.べと病に対する抵抗性に関連するゲノム領域の遺伝子移入
マーカー支援遺伝子移入は、1つ以上のマーカーによって定義される染色体領域を第1遺伝的背景から第2遺伝的背景へと移入することを伴う。遺伝子移入ゲノム領域を含有する、交配の子孫は、第1遺伝的背景からの所望の遺伝子移入ゲノム領域に特徴的なマーカーの組合せ、ならびに第2遺伝的背景に特徴的な連鎖及び非連鎖マーカーの両方によって同定され得る。
【0029】
本発明は、べと病抵抗性植物から栽培系統への本明細書に開示されるゲノム領域の1つ以上の遺伝子移入を同定及び追跡するための、新規な的確なマーカーを提供する。本発明はさらに、植物育種中に本明細書に開示される新規な遺伝子移入を同定及び追跡するための、表1及び表2に示されるマーカーを含めたマーカーを提供する。
【0030】
本発明のゲノム範囲のいずれかの中にある、またはそれに連鎖するマーカーは、所望の遺伝的背景への病虫害抵抗性に関連するゲノム領域の遺伝子移入を含めた様々な育種の取組みにおいて有用となり得る。例えば、本明細書に記載の病虫害抵抗性に関連するマーカーの40cM、20cM、15cM、10cM、5cM、2cMまたは1cM以内のマーカーが、病虫害抵抗性表現型に関連するゲノム領域のマーカー支援遺伝子移入のために使用され得る。
【0031】
所望の表現型に関連する1つ以上の遺伝子移入領域を含んでおり、残りのゲノム配列の10%、25%、50%、75%、90%または99%が反復親生殖質に特徴的なマーカーを保有しているレタス植物も、提供される。本明細書に提供され、病虫害抵抗性表現型に関連しているゲノム領域及びマーカーに、密に連鎖しているかまたは隣接している領域を含む遺伝子移入領域を含むレタス植物も、提供される。
【0032】
III.べと病に対して抵抗性であるレタス品種の開発
大抵の育種目的のために、商業的育種者は、「栽培用」、「栽培型」または「優良」生殖質を使って仕事をしている。この生殖質は、園芸成績について評価された場合に成績が概して良好であるため、育種がより簡単である。栽培用レタスの複数の種類が開発されており、それにはL.sativaが含まれるが、これは農学的に優良であり、商業的栽培に適したものである。レタス栽培品種群としては、Cos、Cutting、Stalk(またはAsparagus)、Butterhead、Crisphead(またはIcebergもしくはCabbage)、Latin及びOilseed群(De Vries,Gen.Resources and Crop Evol.44:165-174,1997)が挙げられるが、これらに限定されない。しかしながら、栽培用生殖質がもたらす成績上の利点は、アレル多様性の欠如によって相殺される可能性がある。育種者は、遺伝学的に多様な供給源によって育種を行うよりも栽培用材料を使って仕事をした方が速く進むため、概してこの妥協点を受け入れている。
【0033】
対照的に、栽培用生殖質を非栽培用生殖質と交配する場合、育種者は、非栽培型からの新規アレルを手に入れることができる。しかしながら、この手法は、多様な系統間での交配に関連する稔性の問題、及び非栽培親からの好ましくないリンケージドラッグゆえに、大きな難点を示す。レタス植物においては、非栽培型、例えばL.serriolaは、病害抵抗性に関連するアレルを提供し得る。しかしながら、これらの非栽培型は園芸品質に劣る可能性がある。
【0034】
遺伝的に連鎖する有害座位、または低い遺伝率に関する問題を回避しながら、非栽培系統から優良栽培系統に望ましい抵抗性遺伝子を遺伝子移入するプロセスは、長く、しばしば困難なプロセスである。野生型近縁種に由来する座位を配置する際、所望の形質をもたらすが悪影響がない最小限または切断型の遺伝子移入を導入することが望ましい場合がしばしばある。遺伝子移入を助けるためには、表現型スクリーニングよりも、信頼できるマーカーアッセイの方が好ましい。主要な属性のための遺伝学を単純化して病虫害抵抗性などの量的形質の遺伝獲得に注力することを可能にすることで、成功が推し進められる。さらには、MASのための的確なマーカーが利用できることによって、非栽培系統からのゲノム領域を遺伝子移入するプロセスが大幅に容易になり得る。
【0035】
したがって、当業者であれば、本発明によって提供される座位、多型及びマーカーが、本明細書で特定されるゲノム領域のいずれかを任意の遺伝的背景の中へと追跡及び導入することを可能にすることを理解するであろう。加えて、本明細書に開示される病虫害抵抗性に関連するゲノム領域は、1つの遺伝子型から別の遺伝子型へと遺伝子移入され得、MASを用いて追跡され得る。かくして、本発明者らによる病虫害抵抗性に関連する的確なマーカーの発見は、有益な表現型を有するレタス植物の開発を容易にするであろう。例えば、病虫害抵抗性に関連する所望のゲノム領域を含む植物を選抜するために本発明のマーカーを使用して種子の表現型が判定され得る。さらには、MASは、所望の遺伝子移入についてホモ接合体またはヘテロ接合体である植物の同定を可能にする。
【0036】
種間交配も、抑制された組換え、及び稔性または繁殖力が低い植物を招き得る。例えば、抑制された組換えは、トマト線虫抵抗性遺伝子Mi、オオムギのMla及びMlg遺伝子、コムギのYr17及びLr20遺伝子、ブドウの木のRun1遺伝子、ならびに落花生のRma遺伝子において観察されている。減数分裂期組換えは、遺伝的背景にわたって好ましい座位を移入すること、有害ゲノム断片を除去すること、及び遺伝的に強固に連鎖する形質を強化することを可能にするので、古典的な育種に必要不可欠である。それゆえ、抑制された組換えは、所望の遺伝子組合せに到達すべく後代スクリーニングのための分離集団を拡大することを育種者に強いる。
【0037】
大集団の表現型評価は、あらゆる環境において、時間が掛かり、大量の資源を要し、再現性がない。マーカー支援選抜は、実現可能な選択肢を提供する。固有の多型、例えばSNPを検出するために考案された分子アッセイは用途が広い。しかしながら、それは、1回のアッセイにおいてレタス種内及び間で座位を区別することができない場合がある。染色体の構造再構成、例えば欠失は、ハイブリダイゼーション、及び人工標識が付いたオリゴヌクレオチドの伸長を害する。複製事象の場合、1回の反応において複数のコピーが区別なく増幅される。それゆえ、的確で予測性が高いマーカーの開発及び検証は、MAS育種プログラムの成功に必要不可欠である。
【0038】
IV.マーカー支援育種及び遺伝子工学技術
本発明の実施において使用され得る遺伝子マーカーとしては、制限酵素断片長多型(RFLP)、増幅断片長多型(AFLP)、単純反復配列(SSR)、単純配列長多型(SSLP)、一塩基多型(SNP)、挿入/欠失多型(Indel)、縦列反復配列多型(VNTR)及び任意増幅断片多型DNA(RAPD)、アイソザイム、ならびに当業者に知られている他のマーカーが挙げられるが、これらに限定されない。作物植物におけるマーカー発見及び開発は、マーカー支援育種活動への応用のための最初の枠組みを提供する(米国特許公開第2005/0204780、2005/0216545、2005/0218305及び2006/00504538)。得られる「遺伝子マップ」は、特性評価された座位(多型核酸マーカー、または座位が同定され得る他の任意の座位)の互いに対する相対位置を表している。
【0039】
たったの1塩基の変化しか含んでいない多型は、複数の方法で検査され得る。例えば、検出は、一本鎖配座多型(Orita et al.(1989)Genomics,8(2),271-278)、変性勾配ゲル電気泳動(Myers(1985) EP 0273085)または切断断片長多型(Life Technologies,Inc.,Gaithersburg,MD)を含めた電気泳動技術によって行われ得るが、DNAシーケンシングが幅広く利用できることによって、単純に増幅産物を直接配列決定することがより簡単になることがよくある。一旦多型配列差異が分かれば、後代試験のための高速アッセイを設計することができるが、これには、特異的座位のPCR増幅(PASA、Sommer et al.(1992)Biotechniques 12(1),82-87)または複数の特異的座位のPCR増幅(PAMSA、Dutton and Sommer(1991)Biotechniques,11(6),700-7002)のいくつかの改変版を伴うことが典型的である。
【0040】
多型マーカーは、系統または品種の同一性の度合いを決定するために植物を検査するための有用なツールとしての役割を果たす(米国特許第6,207,367号)。これらのマーカーは、表現型との関連を判定するための基準を形成し、遺伝獲得を促すために使用され得る。本発明の方法の特定の実施形態では、多型核酸は、レタス植物において病虫害抵抗性に関連する遺伝子型を検出すること、病虫害抵抗性に関連する遺伝子型を有するレタス植物を同定すること、及び病虫害抵抗性に関連する遺伝子型を有するレタス植物を選抜することのために使用され得る。本発明の方法の特定の実施形態では、多型核酸は、病虫害抵抗性に関連する遺伝子移入座位をゲノム中に含むレタス植物を生産するために使用され得る。本発明の特定の実施形態では、多型核酸は、病虫害抵抗性に関連する1つまたは複数の座位を含む後代レタス植物を育種するために使用され得る。
【0041】
遺伝子マーカーは、「優性」または「共優性」マーカーを含み得る。「共優性」マーカーは、2つ以上の(1つの二倍体個体につき2つの)座位の存在を明らかにする。「優性」マーカーは、たった1つの座位の存在を明らかにする。マーカーは、二倍体座位における両方の座位の存在、または三倍体もしくは四倍体座位における複数の座位の存在が容易に検出でき、それらが環境の変動とは無関係である、つまりそれらの遺伝率が1となるように、共優性で遺伝するものであることが好ましい。マーカー遺伝子型は、典型的には、二倍体生物の各座位に2つのマーカー座位を含む。各座位のマーカー対立性構成は、ホモ接合型かヘテロ接合型かのどちらかであり得る。ホモ接合性は、ある座位において両方の座位が同じヌクレオチド配列によって特徴付けられている状態である。ヘテロ接合性は、ある座位において2つの座位が異なっている状態を指す。
【0042】
遺伝子多型の有無を判定するための、核酸に基づく分析(すなわち、遺伝子型決定)は、育種プログラムにおいて同定、選抜、遺伝子移入などのために用いられ得る。遺伝子多型の分析のための多様な遺伝子マーカーが利用可能であり、当業者に知られている。分析は、レタス植物における病虫害抵抗性と連鎖または関連している遺伝子マーカーを含むかまたはそれと連鎖する遺伝子、遺伝子の一部、QTL、座位もしくはゲノム領域を選抜するために用いられ得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、核酸分析方法は、限定はされないが、PCRに基づく検出方法(例えばTaqManアッセイ)、マイクロアレイ法、質量分析に基づく方法、及び/または全ゲノムシーケンシングを含めた核酸シーケンシング法を含む。特定の実施形態では、DNA、RNAまたはcDNAの試料における多型部位の検出は、核酸増幅法を用いることによって容易になり得る。そのような方法は、多型部位にまたがる、またはその部位とそれに対する遠位もしくは近位のどちらかに位置する配列とを含むポリヌクレオチドの濃度を、特異的に増大させる。そのような増幅分子は、ゲル電気泳動、蛍光検出法または他の手段によって容易に検出され得る。
【0044】
そのような増幅を成し遂げる1つの方法は、多型を画定する近位配列に二本鎖形態でハイブリダイズすることができるプライマー対を使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を採用している(Mullis et al.(1986)Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.51:263-273、欧州特許第50,424号、欧州特許第84,796号、欧州特許第258,017号、欧州特許第237,362号、欧州特許第201,184号、米国特許第4,683,202号、米国特許第4,582,788号、及び米国特許第4,683,194号)。質量分析に基づいてDNAを型判定する方法を使用することもできる。そのような方法は、米国特許第6,613,509号及び第6,503,710号、ならびにその中に見つかる参考文献に開示されている。
【0045】
DNA配列中の多型は、当技術分野でよく知られている様々な有効な方法によって検出または型判定され得、当該方法には、限定はしないが米国特許第5,468,613号、第5,217,863号、第5,210,015号、第5,876,930号、第6,030,787号、第6,004,744号、第6,013,431号、第5,595,890号、第5,762,876号、第5,945,283号、第5,468,613号、第6,090,558号、第5,800,944号、第5,616,464号、第7,312,039号、第7,238,476号、第7,297,485号、第7,282,355号、第7,270,981号及び第7,250,252号に開示されているものが含まれ、参照によりこれらすべての全体を本明細書に援用する。しかしながら、本発明の組成物及び方法を任意の多型の型判定方法と一緒に用いてゲノムDNA試料の多型を検出してもよい。使用されるこれらのゲノムDNA試料としては、植物から直接単離されたゲノムDNA、クローニングされたゲノムDNA、または増幅されたゲノムDNAが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
例えば、DNA配列中の多型は、米国特許第5,468,613号及び第5,217,863号に開示されるような座位特異的オリゴヌクレオチド(ASO)プローブに対するハイブリダイゼーションによって検出され得る。米国特許第5,468,613号は、ヌクレオチド変異を含有する配列を増幅し、膜上に配置し、標識付けされた配列特異的ヌクレオチドプローブで処理するプロセスによって、核酸配列における単一または複数のヌクレオチド変異が核酸において検出され得る、座位特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションを開示している。
【0047】
標的核酸配列は、プローブライゲーション法、例えば、関心対象の配列を増幅してプローブにハイブリダイズさせた後にライゲーションを行ってプローブの標識付き部分を検出する米国特許第5,800,944号に開示されているような方法によっても検出され得る。
【0048】
マイクロアレイを多型検出のために用いることもでき、この場合、標的配列に1つの点での違いがあれば部分的なプローブハイブリダイゼーションがもたらされるように、重複しつつ単一の配列に相当しているようなオリゴヌクレオチドプローブセットを集合させる(Borevitz et al.,Genome Res.13:513-523(2003)、Cui et al.,Bioinformatics 21:3852-3858(2005)。どの1つのマイクロアレイ上にも、遺伝子及び/または非コード領域を表し得る複数の標的配列が存在し、各標的配列が単一のプローブによってではなく一連の重複するオリゴヌクレオチドによって示されていることが、予測される。このプラットフォームは、複数の多型の高処理量スクリーニングを提供する。マイクロアレイに基づく方法による標的配列の型判定は、米国特許第6,799,122号、第6,913,879号及び第6,996,476号に記載されている。
【0049】
SNP及びIndelを検出するための他の方法としては、一塩基伸長(SBE)法が挙げられる。SBE法の例としては、米国特許第6,004,744号、第6,013,431号、第5,595,890号、第5,762,876号及び第5,945,283号に開示されているものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
多型を検出するための別の方法では、SNP及びIndelは、米国特許第5,210,015号、第5,876,930号及び第6,030,787号に開示されている方法であってオリゴヌクレオチドプローブをプローブの5’及び3’末端に連結された5’蛍光レポーター色素及び3’消光剤色素を有するものとする当該方法によって、検出され得る。プローブがそのままである場合、レポーター色素の近傍に消光剤色素があることによってレポーター色素の蛍光は例えばフェルスター型エネルギー移動によって抑制される。PCRの間、順方向及び逆方向プライマーが、多型に隣接する標的DNAの特定の配列にハイブリダイズする一方、ハイブリダイゼーションプローブは増幅PCR産物中の多型含有配列にハイブリダイズする。次のPCRサイクルにおいて、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼはプローブを切断し、レポーター色素を消光剤色素から分離してレポーターの蛍光の増大をもたらす。
【0051】
別の実施形態では、関心対象の1つまたは複数の座位は、核酸シーケンシング技術を用いて直接配列決定され得る。核酸シーケンシングの方法は当技術分野で知られており、これには、454 Life Sciences(Branford,CT)、Agencourt Bioscience(Beverly,MA)、Applied Biosystems(Foster City,CA)、LI-COR Biosciences(Lincoln,NE)、NimbleGen Systems(Madison,WI)、Illumina(San Diego,CA)、及びVisiGen Biotechnologies(Houston,TX)によって提供されている技術が含まれる。そのような核酸シーケンシング技術は、平行ビーズアレイ、ライゲーションによる配列決定、キャピラリー電気泳動、電子マイクロチップ、「バイオチップ」、マイクロアレイ、平行マイクロチップ及び単分子アレイなどの方式を含む。
【0052】
様々な遺伝子工学技術が開発されており、植物に形質を導入するために当業者によって用いられ得る。特許請求される本発明の特定の態様において、形質は、品種またはその祖先のゲノムへの単一の遺伝子座または導入遺伝子の改変または導入によって、レタス植物に導入される。植物のゲノムDNAへの遺伝子及びポリヌクレオチドの修飾、欠失または挿入を行う遺伝子工学の方法は当技術分野でよく知られている。
【0053】
本発明の具体的な実施形態では、植物ゲノムの部位特異的な修飾によって改良レタス系統が作出され得る。遺伝子工学の方法としては、例えば、亜鉛フィンガーヌクレアーゼなどの配列特異的ヌクレアーゼ(例えば、米国特許出願公開第2011/0203012号を参照されたい)、操作型または天然メガヌクレアーゼ、TALE-エンドヌクレアーゼ(例えば、米国特許第8,586,363号及び第9,181,535号を参照されたい);及びRNA依存性エンドヌクレアーゼ、例えばCRISPR/Casシステムのもの(例えば、米国特許第8,697,359号及び第8,771,945号、ならびに米国特許出願公開第2014/0068797号を参照されたい)を利用することが挙げられる。したがって、本発明の一実施形態は、ヌクレアーゼまたは任意の関連タンパク質を利用してゲノム修飾を行うことに関する。このヌクレアーゼは、鋳型化ゲノム編集のためのドナー鋳型DNAの中に異種的に提供されることもあり得、または別個の分子もしくはベクターとして提供されることもあり得る。組換えDNA構築物は、修飾すべき植物ゲノムの中にヌクレアーゼを導くための1つ以上のガイドRNAをコードする配列も含み得る。単一の遺伝子座を改変または導入するさらなる方法としては、例えば、一本鎖オリゴヌクレオチドを利用して植物ゲノムに塩基対修飾を導入することが挙げられる(例えば、Sauer et al.,Plant Physiol,170(4):1917-1928,2016を参照されたい)。
【0054】
単一遺伝子座の部位特異的な改変または導入のための方法は当技術分野でよく知られており、これには、上記のような配列特異的ヌクレアーゼ、またはゲノムDNAを切断して遺伝子座に二本鎖切断(DSB)または切れ目を作り出すタンパク質とガイドRNAとの複合体を利用するものが含まれる。当技術分野でよく理解されているように、ヌクレアーゼ酵素によって導入されたDSBまたは切れ目を修復するプロセスの間にドナー鋳型、導入遺伝子または発現カセットポリヌクレオチドがDSBまたは切れ目の部位においてゲノムに組み込まれ得る。組み込まれるDNAにおける相同性アームの存在は、相同組換えまたは非相同末端結合(NHEJ)によって修復プロセスの間の挿入配列の植物ゲノム中への取込み及び指向を促進し得る。
【0055】
本発明の別の実施形態では、選択された導入遺伝子を本発明の植物に挿入するために、あるいは戻し交配によって導入され得る導入遺伝子を調製するために、遺伝形質転換が用いられ得る。当業者によく知られており、多くの作物種に適用できる、植物の形質転換方法としては、電気穿孔、微粒子銃、Agrobacterium媒介形質転換、及びプロトプラストによる直接DNA取込みが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
電気穿孔によって形質転換を成し遂げるためには、細胞の懸濁培養物などの脆い組織か胚形成的なカルスかのどちらかを採用してもよいし、あるいは未熟胚または他の組織化した組織を直接形質転換してもよい。この技術では、選択した細胞の細胞壁を、ペクチン分解酵素(ペクトリアーゼ)への曝露によって部分的に分解するかまたは制御された方法で組織を機械的に傷付けることを行うであろう。
【0057】
形質転換用DNAセグメントを植物細胞に送達する効率的な方法は、微粒子銃である。この方法では、粒子を核酸で被覆し、推進力によって細胞内に送達する。例示的な粒子としては、タングステン、白金及び好ましくは金からなるものが挙げられる。撃込みのためには、懸濁液中の細胞をフィルターまたは固体培養培地で濾過する。あるいは、未熟胚または他の標的細胞を固体培養培地上に並べてもよい。撃つべき細胞は、微粒子銃停止板から適切な距離を置いた下流に配置される。
【0058】
加速によってDNAを植物細胞内に送達する方法の例示的な実施形態は、Biolistics粒子送達システムであるが、これは、DNAで被覆された粒子または細胞を篩、例えばステンレス鋼製またはNytex篩に通して、標的細胞で被覆された表面上へと推進するために用いられ得るものである。篩は粒子を、大きな塊となってレシピエント細胞に送達されないように分散させる。微粒子銃技術は広く適用可能であり、これを用いて事実上いかなる植物種も形質転換され得る。
【0059】
Agrobacterium媒介移入は、遺伝子座を植物細胞に導入するための別の広く適用可能なシステムである。当該技術の利点は、DNAが全植物組織に導入され得、それによって、プロトプラストから完全な植物を再生させる必要性が回避され得ることである。現代のAgrobacterium形質転換ベクターは、AgrobacteriumだけでなくE.coliにおいても複製することができるので、簡便に操作することができる(Klee et al.,Nat.Biotechnol.,3(7):637-642,1985)。しかも、Agrobacterium媒介遺伝子移入のためのベクターにおける近年の技術的進歩はベクターにおける遺伝子及び制限部位の並びを改善して、様々なポリペプチドコード遺伝子を発現できるベクターの構築を容易にした。記載されているベクターは、挿入されたポリペプチドコード遺伝子の直接発現のためのプロモーターとポリアデニル化部位とに隣接する好都合な多リンカー領域を有する。加えて、病害性及び非病害性Ti遺伝子を両方とも含有するAgrobacteriumが形質転換のために使用され得る。
【0060】
Agrobacterium媒介形質転換が効率的となる植物系統において、それは遺伝子座移入の容易かつ明確な性質ゆえに最適な方法である。DNAを植物細胞に導入するための、Agrobacterium媒介植物組込みベクターの使用は、当技術分野でよく知られている(Fraley et al.,Nat.Biotechnol.,3:629-635,1985、米国特許第5,563,055号)。
【0061】
植物プロトプラストの形質転換も、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレングリコール処理、電気穿孔、及びこれらの処理の組合せに基づく方法を用いて、成し遂げられ得る(例えば、Potrykus et al.,Mol.Gen.Genet.,199:183-188,1985、Omirulleh et al.,Plant Mol.Biol.,21(3):415-428,1993、Fromm et al.,Nature,312:791-793,1986、Uchimiya et al.,Mol.Gen.Genet.,204:204,1986、Marcotte et al.,Nature,335:454,1988を参照されたい)。植物の形質転換及び外来遺伝要素の発現は、Choi et al.(Plant Cell Rep.,13:344-348,1994)、及びEllul et al.(Theor.Appl.Genet.,107:462-469,2003)の中で例示されている。
【0062】
V.定義
以下の定義は、本発明をよりよく画定するため及び本発明の実施時に当業者を手引きするために提供される。特に記されていない限り、用語は従来の用法に準じて関連分野の当業者に理解されるべきである。
【0063】
本明細書で使用される場合、「植物」という用語は、植物細胞、植物プロトプラスト、レタス植物が再生し得る組織培養物の植物細胞、植物カルス、植物中、または植物の部分、例えば、花粉、花、種子、葉、茎もしくはその任意の一部の中に完全な状態で存在する植物集塊及び植物細胞、あるいは植物部分の非再生可能部分、例えば細胞を含むものを含む。この文脈で使用される場合、植物部分の「非再生可能」部分は、完全植物を形成するように誘導され得ない、または有性及び/または無性生殖ができる完全植物を形成するように誘導され得ない部分である。非限定的な特定の実施形態では、植物またはその部分の非再生可能部分は、種子、葉、花、茎、根もしくは細胞、またはその任意の一部である。
【0064】
本明細書で使用される場合、「集団」という用語は、共通の親に由来する植物の遺伝的に異種な収集物を意味する。
【0065】
本明細書で使用される場合、「品種」及び「栽培品種」という用語は、遺伝学的系図及び成績によって同種内の他の品種から識別され得る類似植物の群を意味する。
【0066】
本明細書で使用される場合、「アレル」は、染色体上の所与の座位にあるゲノム配列の2つ以上の代替形態のうちの1つを指す。
【0067】
「量的形質座位」(QTL)は、少なくとも表現型の発現性に影響を与える第1座位をコードする染色体位置である。
【0068】
本明細書で使用される場合、「マーカー」は、生物同士を区別するために使用され得る検出可能な特徴を意味する。そのような特徴の例としては、遺伝子マーカー、生化学マーカー、代謝産物、形態学的特徴及び農学的特徴が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
本明細書で使用される場合、「表現型」という用語は、遺伝子発現によって影響を受け得る細胞または生物の検出可能な特徴を意味する。
【0070】
本明細書で使用される場合、「遺伝子型」という用語は、植物の特有のアレル構成を意味する。
【0071】
本明細書で使用される場合、「優良」または「栽培用」品種は、優れた農業成績のための育種及び選抜の結果として得られた任意の品種を意味する。「優良植物」は、優良品種に属する植物を指す。多数の優良品種が利用可能であり、レタス育種の分野の当業者に知られている。「優良集団」は、レタスなどの所与の作物種の農学的に優れた遺伝子型に関する最高水準を代表して使用され得る優良個体または品種を集めたものである。同様に、「優良生殖質」または優良系統の生殖質は、農学的に優れた生殖質である。
【0072】
本明細書で使用される場合、「遺伝子移入された」という用語は、遺伝子座に関して使用される場合、新しい遺伝的背景に例えば戻し交配によって導入された遺伝子座を指す。遺伝子座の遺伝子移入は、植物育種法及び/または分子遺伝学的方法によって成し遂げられ得る。そのような分子遺伝学的方法としては、相同組換え、非相同組換え、部位特異的組換えをもたらす様々な植物形質転換技術及び/または方法、及び/または座位置換もしくは座位変換をもたらすゲノム修飾が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
本明細書で使用される場合、染色体セグメントの文脈において「組換え」または「組換えされた」という用語は、例えば減数分裂中の相同染色体間の組換え事象の結果として、天然にはみられない配置で1つ以上の遺伝子座を含む組換えDNA配列を指す。
【0074】
本明細書で使用される場合、「連鎖している」という用語は、核酸マーカー及び/またはゲノム領域の文脈で使用される場合、マーカー及び/またはゲノム領域が、減数分裂時にそれらが一緒に分離されがちになるような同じ連鎖群または染色体の上に位置していることを意味する。
【0075】
本明細書で使用される場合、「耐性座位」は、病害または病虫害に対する耐性または抵抗性に関連する座位を意味する。例えば、本発明による耐性座位は、一実施形態では、べと病に対する耐性または罹病性を制御する。
【0076】
本明細書で使用される場合、植物における「耐性」または「改善された耐性」は、病害条件下または病虫害侵入下で例えば収量を維持することによって良好な成績を示す植物の能力を指す。耐性は、病害条件下または病虫害侵入下で植物生長力表現型を維持する植物の能力を指すこともある。耐性は、「耐性」植物が、類似する病害条件下または類似する病虫害圧下で栽培された異なる(耐性がより低い)植物(例えば異なる植物品種)と比較して成績をより良好に維持できることを示す相対的な用語である。当業者であれば、病害または病虫害条件に対する植物耐性が実に様々であり、ある一定範囲内のより高い耐性またはより低い耐性の表現型を表し得ることを認識するであろう。しかしながら、単純な観察によって当業者は、病害または病虫害条件下での異なる植物、植物品種または植物科の相対耐性を大まかに見極めることができ、さらには、「耐性」の表現型の段階的移行も認識するであろう。
【0077】
本明細書で使用される場合、病害または病虫害条件に対する植物における「抵抗性」または「改善された抵抗性」は、植物が非抵抗性またはより低い抵抗性の植物に比べて病害または病虫害負荷をより大きく軽減できることを示すものである。抵抗性は、「抵抗性」植物が、類似する病害条件または病虫害圧の下で栽培された異なる(抵抗性がより低い)植物(例えば異なる植物品種)と比較して病害負荷または病虫害負荷をより大きく軽減できることを示す相対的な用語である。当業者であれば、病害条件または病虫害侵入に対する植物抵抗性が実に様々であり、ある一定範囲内のより高い抵抗性またはより低い抵抗性の表現型を表し得ることを認識するであろう。しかしながら、単純な観察によって当業者は、病害条件または病虫害圧の下での異なる植物、植物品種または植物科の相対抵抗性を大まかに見極めることができ、さらには、「抵抗性」の表現型の段階的移行も認識するであろう。
【0078】
本明細書で使用される場合、「抵抗性アレル」は、病虫害侵入に対する耐性または抵抗性に関連する核酸配列を意味する。
【0079】
「配列同一性」及び「配列類似性」は、大局的または局所的アライメントアルゴリズムを使用する2つのヌクレオチド配列のアライメントによって判定され得る。その後、配列は、それらが例えばプログラムGAPもしくはBESTFITによって最適に整列されたとき、またはEmbossプログラム「Needle」(既定パラメータを使用する)が少なくともある一定の最低限の百分率の配列同一性を共有しているときに、「実質的に同一である」または「本質的に類似する」と呼称され得る。これらのプログラムは、Needleman及びWunschの大局的アライメントアルゴリズムを使用して2つの配列をそれらの全長にわたって、一致の数を最大限にするとともにギャップの数を最小限に抑えながら整列させる。一般的には、ギャップ生成ペナルティ=10及びギャップ伸長ペナルティ=0.5とする既定パラメータが(ヌクレオチド及びタンパク質アライメントの両方について)使用される。ヌクレオチドについては、使用される既定のスコア行列はDNAFULL(Henikoff &Henikoff,PNAS 89:10915-10919;1992)である。配列同一性百分率のための配列アライメント及びスコアは、例えば、コンピュータプログラム、例えば、ワールドワイドウェブ上でebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needleの下で利用できるEMBOSSを使用して決定され得る。あるいは、配列類似性または同一性は、データベース、例えばFASTA、BLASTなどに対して検索することによって決定され得るが、配列同一性を比較するためにはヒットを読み出して2つ1組で整列させなければならない。2つの核酸配列は、配列同一性百分率が少なくとも85%、90%、95%、98%、99%であるかまたはそれよりも高い(例えば、(既定パラメータを使用して、つまり、ギャップ生成ペナルティ=10、ギャップ伸長ペナルティ=0.5とし、核酸のためにスコア行列DNAFULLを使用して、Emboss「needle」によって決定したときに)少なくとも99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9である)場合、「実質的な配列同一性」を有する。時としてマーカーは、特にプローブによって認識されない領域において、変動を呈することがある。
【0080】
「約」という用語は、値を決定するために採用されている装置または方法による誤差の標準偏差が値に含まれることを示すために使用される。特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢のみを意味すること、または選択肢が相互に排他的であることが明確に示されていない限り、「及び/または」を意味するために使用され、但し、本開示は、選択肢のみ及び「及び/または」を意味する定義を支持する。特許請求の範囲において「含んでいる」などの開放形式の用語と一緒に使用されている場合、「a」及び「an」という単語は、具体的に記されていない限り、「1つ以上の」を意味する。「含む(comprise)」、「有する(have)」及び「含む(include)」という用語は、開放型の連結動詞である。これらの動詞の1つ以上についての任意の形態または時制、例えば、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「有する(has)」、「有している(having)」、「含む(includes)」及び「含んでいる(including)」も、開放型である。例えば、1つ以上の工程を「含む(comprises)」、「有する(has)」または「含む(includes)」任意の方法は、当該1つ以上の工程のみを有することに限定されず、他の列挙されていない工程も含意する。同様に、1つ以上の形質を「含む(comprises)」、「有する(has)」または「含む(includes)」任意の植物は、当該1つ以上の形質のみを有することに限定されず、他の列挙されていない形質も含意する。
【0081】
VI.寄託情報
レタス系統BAG-LZ20-0001、レタス系統ZZL-LZ19-0002、レタス系統ZZL-LZ20-0002及びレタス系統ZZL-LZ21-0001の各々の少なくとも625個の種子の寄託がなされた。寄託は、Provasoli-Guillard National Center for Marine Algae and Microbiota(NCMA),60 Bigelow Drive,East Boothbay,Maine,04544,USAに対してなされた。寄託物にはそれぞれ、NCMA受託番号202110051、202110049、202110050及び202110052が割り振られ、寄託日は2021年10月15日であった。寄託物については、出願の係属中に、それに対する権利を有する者が請求によって入手することができるであろう。寄託物はブダペスト条約の下に受託されており、公的な寄託機関であるNCMA寄託機関において最後の請求から30年または5年の期間か、予測される特許存続期間かのどちらか長い方にわたって維持されることになり、その期間中に生存能力がなくなる場合には取り替えられることになる。出願人は、この特許、または植物品種保護法(7 U.S.C.2321及び以下の項目)を含めた他の任意の形式の品種保護の下に認められたいかなる被侵害権利も放棄しない。
【実施例0082】
実施例1.レタスにおけるべと病抵抗性の試験
べと病に対する抵抗性を判定するための病原性試験は、異なるB.lactucae種属に対する抵抗性を画定するInternational Bremia Evaluation Board(IBEB)によって提供される鑑別用レタス品種セットを使用して行われ得る。罹病性対照として一般的に使用されるレタス品種は、品種「Green Towers」であるが、他の任意の罹病性品種を病原性試験の対照として使用してもよい。試験に使用される抵抗性対照は、使用されているB.lactucae単離物によって決まるが、鑑別用セットは大抵、1つのべと病単離物につき複数の抵抗性品種選択肢を提示する。IBEBは新たな取組みとして、B.lactucae単離物の検証済み試料だけでなく鑑別用セットの品種の検証済み種子も入手できる窓口を提供している。
【0083】
病原性試験は、1品種につき15~30個の植物を評価するのが理想的である。実験は、土壌で、または植物栽培培地、例えば0.5倍のホーグランド溶液を含有する人工基質において栽培された植物を使用して実施され得る。15℃の温度で12時間の照光で植物を発芽及び生長させるのが理想的である。約7日後、子葉が完全に開いた時に植物にB.lactucae分生子を接種材料懸濁液の噴霧によって接種する。接種材料懸濁液は、接種後約7~10日目である胞子形成B.lactucae感染を含有する葉を無菌水で洗浄し、篩に通して残存植物部分を除去し、無菌水で1×10分生子/mlの終濃度に希釈することによって製造される。
【0084】
接種後に植物を、湿度が非常に高く(およそ100%)、15℃で12~16時間の照光の環境の中で維持する。接種後7~10日目に最初の胞子形成が視認できるはずである。実験中の最初の読取りは接種後10日目に行われなければならない。2回目の読取りは、接種後14日目に実施されなければならない。1~9の評定尺度を用いて、実験中に観察された抵抗性のレベルが評定され得るが、1の評点は無感染を表し、9の評点は高度の胞子形成を表す。中間の評点は以下のとおりである:2は観察可能な壊死のみを表し、3は観察可能な壊死と軽度の胞子形成を表し、7は中等度の胞子形成を表す。類似する評定尺度はIBEBによって開発されており、そこからの入手が可能である。罹病性対照が胞子形成しており他の対照評点が予想通りである場合に、実験は成功とみなされる。
【0085】
実施例2.抵抗性座位のファインマッピング
L.sativa2番染色体上のB.lactucae抵抗性遺伝子クラスターは、染色体の先頭に存在する9cMの領域にわたっている一方、L.sativa4番染色体上のB.lactucae抵抗性遺伝子クラスターは、染色体の末端にある6.5cMの領域にわたっている。これらの遺伝子クラスターは、個々の遺伝子が密接に連鎖しすぎていて遺伝子クラスター内で異なる供給源からのアレルを組み合わせることが極めて難しいため、育種者によって対立性であるものとして扱われる。遺伝子クラスター内での組換えは稀に起こっているが、得られる組換えゲノムセグメントは不完全な抵抗性プロファイルをもたらすことが示された(WO2013/124210)。これに鑑みて、抵抗性座位が既知の遺伝子クラスターの1つに分類された時点でマッピングの取組みを止めるのが典型的である、というのも抵抗性座位は当該遺伝子クラスター内の他の座位と対立性であるとみなされるからである。
【0086】
同じ遺伝子クラスター内に位置する抵抗製剤を予測的に組み合わせるために、ハプロタイプ解析手法を採用して各遺伝子クラスター内の異なる抵抗性座位をファインマッピングした。この手法では、抵抗性アレルの有無にかかわらず関連系統の識別特徴を基準、例えば抵抗性ドナーと比較した。各系統において、抵抗性範囲の中のゲノム配列を小さなゲノム範囲に分解し、各範囲についてハプロタイプを決定した。次いで、これらのハプロタイプを比較して、抵抗性アレルが位置するゲノム領域を決定した。この方法によって、2番染色体上の座位についてはアレルのほとんどが遺伝子クラスター内の重複領域にマッピングされることが分かった。しかしながら、抵抗性アレル2.2は、極めて近くにはあるがDm3遺伝子とは完全に重複していないことが分かり、他方、アレル2.1は遺伝子距離が0~0.5cMであり、2つの座位の間での組換えの可能性がありそうにないことが分かった(図1)。4番染色体上の遺伝子クラスターの状況は同様であることが分かり、ほとんどの抵抗性アレルがゲノムクラスター内で重複領域を占有していることが分かった(図2)。アレル4.1及びアレル4.2だけは、当該2つのアレルの間のマッピング遺伝子距離が0.1cMであるので組換えが起こりそうにないものの、完全には重複領域にマッピングされていなかった。
【0087】
実施例3.B.lactucaeに対する幅広い抵抗性を付与する新規アレルの開発
2番染色体上でアレル2.1とアレル2.2とをシス連鎖で組み合わせること、及び2番染色体上でアレル2.2とDm3遺伝子とをシス連鎖で組み合わせることで、新規B.lactucae相引事象が組換えによって生み出された。
【0088】
レタス系統BAG-LZ20-0001は、2番染色体上で抵抗性アレル2.1とアレル2.2とをシス配置で組み合わせる新規B.lactucae相引事象を含む。マーカー座位M2(配列番号6)は、アレル2.1を追跡するために開発されたものであり、マーカー座位M3(配列番号11)は、アレル2.2を追跡するために開発されたものである。アレル2.1とアレル2.2とのこの新規相引事象は、2番染色体上のマーカー座位M1(配列番号1)とM4(配列番号16)との間に位置する。マーカー座位M2及びM3は、2番染色体上のBAG-LZ20-0001由来の抵抗性アレルを選抜するために使用され得る(図3)。相引事象を含むこの新しい抵抗性アレルを、すべての市販の関連B.lactucae単離物に対して試験した。2つの個々のアレルの各々の完全な抵抗性プロファイルが保存されていたこと、及び相引事象が抵抗性プロファイルを組み合わせたことが分かった。系統BAG-LZ20-0001からの新規B.lactucae抵抗性アレルは、欧州B.lactucae種属Bl:16~Bl:36、及び米国B.lactucae種属CA:5~CA:9に対する抵抗性を付与する。
【0089】
レタス系統ZZL-LZ19-0002は、2番染色体で抵抗性遺伝子Dm3とアレル2.2とをシス配置で組み合わせる新規B.lactucae抵抗性アレルを含む。マーカー座位M3(配列番号11)は、アレル2.2を追跡するために開発されたものであり、マーカー座位M5(配列番号21)、M6(配列番号26)及びM7(配列番号31)は、Dm3遺伝子を追跡するために開発されたものである。Dm3遺伝子とアレル2.2とのこの新規相引事象は、2番染色体上のマーカー座位M5(配列番号21)とM8(配列番号36)との間に位置する(図3)。相引事象を含むこの新しい抵抗性アレルを、すべての市販の関連B.lactucae単離物に対して試験した。2つの個々のアレルの各々の完全な抵抗性プロファイルが保存されていたこと、及び相引事象が抵抗性プロファイルを組み合わせたことが分かった。系統ZZL-LZ19-0002からの新規B.lactucae抵抗性アレルは、欧州B.lactucae種属Bl:16~Bl:31、及びBl:33~Bl:36、ならびに米国B.lactucae種属CA:5~CA:9に対する抵抗性を付与する。系統ZZL-LZ19-0002も、この系統の植物に欧州B.lactucae単離物Bl:32に対する抵抗性を付与するB.lactucae抵抗性アレルを4番染色体上に含む。2番染色体上の個々の抵抗性アレル及び新規相引事象を追跡するために使用され得るマーカーを以下の表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
4番染色体上でアレル4.1とアレル4.2とをシス連鎖で組み合わせること、及び4番染色体上でアレル4.1とアレル4.3とをシス連鎖で組み合わせることで、新規B.lactucae組換え事象も組換えによって生み出された。
【0092】
レタス系統ZZL-LZ20-0002は、4番染色体上で抵抗性アレル4.1と抵抗性アレル4.2とをシス配置で組み合わせる新規B.lactucae相引事象を含む。アレル4.1とアレル4.2とのこの新規相引事象は、4番染色体上のマーカー座位M9(配列番号41)とM13(配列番号61)との間に位置する。加えて、マーカー座位M10(配列番号46)、M12(配列番号56)及びM13(配列番号61)は、4番染色体上の相引事象を含有する新規抵抗性アレルを選抜するために使用され得る(図3)。系統ZZL-LZ20-0002からの新規B.lactucae抵抗性アレルは、欧州B.lactucae種属Bl:16~Bl:36、及び米国B.lactucae種属CA:5~CA:9に対する抵抗性を付与する。
【0093】
レタス系統ZZL-LZ21-0001は、4番染色体上で抵抗性アレル4.3と抵抗性アレル4.1とをシス配置で組み合わせる新規B.lactucae抵抗性アレルを含む。アレル4.3とアレル4.1とのこの新規相引事象は、4番染色体上のマーカー座位M14(配列番号61)とM17(配列番号81)との間に位置する。加えて、マーカー座位M15(配列番号71)及びM16(配列番号76)は、4番染色体上の相引事象を含有する新規抵抗性アレルを選抜するために使用され得る(図3)。系統ZZL-LZ21-0001からの新規B.lactucae抵抗性アレルは、欧州B.lactucae種属Bl:16~Bl:36、及び米国B.lactucae種属CA:6~CA:9に対する抵抗性を付与する。4番染色体上に相引事象を含む新規アレルを追跡するために使用され得るマーカーを以下の表2に示す。
【0094】
【表2】
図1
図2
図3
【配列表】
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【外国語明細書】