(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086781
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】自動走行システム及び自動走行方法
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
A01B69/00 303K
A01B69/00 303M
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023063839
(22)【出願日】2023-04-11
(62)【分割の表示】P 2019209452の分割
【原出願日】2019-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 優飛
(72)【発明者】
【氏名】西井 康人
(57)【要約】
【課題】作業車両の走行経路が旋回経路から直進経路に切り換わる場合に、その切り換え位置から作業車両を直線経路に従って精度よく自動走行させることを可能にする。
【解決手段】作業車両用の自動走行システムは、作業車両を目標経路に従って自動走行させる制御ユニット23、を有する。制御ユニット23は、作業車両が現在走行中の第1目標経路から、第1目標経路に連接され作業車両が次に走行する第2目標経路へと、作業車両に追従させる追従経路を切り換えるタイミングを、目標経路に基づいて変更する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両を目標経路に従って自動走行させる制御ユニット、を有し、
前記制御ユニットは、前記作業車両が現在走行中の第1目標経路から、前記第1目標経路に連接され前記作業車両が次に走行する第2目標経路へと、前記作業車両に追従させる追従経路を切り換えるタイミングを、前記目標経路に基づいて変更する自動走行システム。
【請求項2】
前記制御ユニットは、前記第1目標経路が直進経路で前記第2目標経路が旋回経路である場合と、前記第1目標経路が旋回経路で前記第2目標経路が直進経路である場合とで、前記追従経路を切り換えるタイミングを異ならせる請求項1に記載の自動走行システム。
【請求項3】
前記制御ユニットは、
前記第1目標経路が直進経路で前記第2目標経路が旋回経路である場合、前記作業車両が前記第1目標経路の終端に到達すると前記追従経路を前記第2目標経路に切り換え、
前記第1目標経路が旋回経路で前記第2目標経路が直進経路である場合、前記作業車両が前記第1目標経路の終端に到達する前に前記追従経路を前記第2目標経路に切り替える請求項2に記載の自動走行システム。
【請求項4】
作業車両が現在自動中の第1目標経路から、前記第1目標経路に連接され前記作業車両が次に走行する第2目標経路へと、前記作業車両に追従させる追従経路を切り換えるタイミングを、目標経路に基づいて変更する自動走行方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の自動走行を可能にする自動走行システム及び自動走行方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような作業車両用の自動走行システムとしては、作業車両の自動走行中に、作業車両の現在位置から進行方向側に所定距離を隔てた目標経路上又は目標経路の延長線上の位置に目標走行位置を設定し、この目標走行位置を追従するように作業車両を自動走行させることで、作業車両を目標経路に従って自動走行させるように構成されたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の作業車両用の自動走行システムにおいては、目標経路が複数種類の経路部に区画されており、作業車両の現在位置が現在の経路部から種類の異なる次の経路部に切り換わるまでの間は、目標走行位置が、現在の経路部上又は現在の経路部の延長線上の位置に設定されるように構成されている。
【0005】
つまり、特許文献1に記載の作業車両用の自動走行システムにおいては、作業車両の現在位置が作業車両を旋回走行させる旋回経路上であり、次の経路部が作業車両を直進走行させる直進経路である場合は、作業車両の現在位置が旋回経路から直進経路に切り換わるまでの間は、目標走行位置が、旋回経路上又は旋回経路の延長線上の位置に設定されることになり、作業車両は、旋回経路上又は旋回経路の延長線上の位置に設定された目標走行位置を追従することになる。
【0006】
そのため、作業車両が旋回経路の終端位置(直進経路の始端位置)に到達した段階においては、作業車両の操舵輪が旋回内側に大きく操舵された状態になっている。このような状態の作業車両を、直線経路上の位置に設定変更された目標走行位置に追従させるようにすると、作業車両は、直線経路の方位に対して旋回内側に偏って走行した後に直線経路上に戻ることになる。その結果、作業車両が直線経路の始端位置に到達してからしばらくの間は作業車両を直線経路に従って精度よく自動走行させることができなくなる。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、作業車両の走行経路が旋回経路から直進経路に切り換わる場合に、その切り換え位置から作業車両を直線経路に従って精度よく自動走行させることを可能にする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様に係る自動走行システムは、作業車両を目標経路に従って自動走行させる制御ユニット、を有する。前記制御ユニットは、前記作業車両が現在走行中の第1目標経路から、前記第1目標経路に連接され前記作業車両が次に走行する第2目標経路へと、前記作業車両に追従させる追従経路を切り換えるタイミングを、前記目標経路に基づいて変更する。
【0009】
一態様に係る自動走行方法は、作業車両が現在自動中の第1目標経路から、前記第1目標経路に連接され前記作業車両が次に走行する第2目標経路へと、前記作業車両に追従させる追従経路を切り換えるタイミングを、前記目標経路に基づいて変更する自動走行方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】作業車両用の自動走行システムの概略構成を示す図
【
図2】作業車両用の自動走行システムの概略構成を示すブロック図
【
図3】自動ステアリング制御部の概略構成を示すブロック図
【
図4】障害物検出ユニットなどの概略構成を示すブロック図
【
図6】作業車両が直進経路を自動走行しているときの方位角偏差の算出に関する説明図
【
図7】作業車両が旋回経路を自動走行しているときの方位角偏差の算出に関する説明図
【
図8】作業車両と目標走行位置とが直進経路上に位置する状態を示す説明図
【
図9】作業車両が直進経路上に位置して目標走行位置が直進経路の終端位置(旋回経路の始端位置)に到達した状態を示す説明図
【
図10】作業車両が直進経路上に位置して目標走行位置が直進経路の延長線上に位置する状態を示す説明図
【
図11】作業車両が直進経路の終端位置(旋回経路の始端位置)に到達して目標走行位置が旋回経路上の位置に設定変更された状態を示す説明図
【
図12】作業車両と目標走行位置とが旋回経路上に位置する状態を示す説明図
【
図13】作業車両が旋回経路上に位置して目標走行位置が旋回経路の終端位置(直進経路の始端位置)に到達した状態を示す説明図
【
図14】作業車両が旋回経路上に位置して目標走行位置が直進経路上に位置する状態を示す説明図
【
図15】作業車両が旋回経路の終端位置(直進経路の始端位置)に到達して目標走行位置が直進経路上に位置する状態を示す説明図
【
図16】目標走行位置が旋回経路の終端位置(直進経路の始端位置)に到達した段階において作業車両の直進経路に対する横方向偏差が逸脱許容幅を超えている状態を示す説明図
【
図17】作業車両の直進経路に対する横方向偏差が逸脱許容幅を超えていて目標走行位置が旋回経路の延長線上の位置に設定された状態を示す説明図
【
図18】作業車両の直進経路に対する横方向偏差が逸脱許容幅内になって目標走行位置が直進経路上の位置に設定変更された状態を示す説明図
【
図19】目標走行位置が旋回経路の終端位置(直進経路の始端位置)に到達した段階において作業車両の直進経路に対する目標角度偏差が逸脱許容角を超えている状態を示す説明図
【
図20】作業車両の直進経路に対する目標角度偏差が逸脱許容角を超えていて目標走行位置が旋回経路の延長線上の位置に設定された状態を示す説明図
【
図21】作業車両の直進経路に対する目標角度偏差が逸脱許容角内になって目標走行位置が直進経路上の位置に設定変更された状態を示す説明図
【
図22】緊急停止回避制御における目標位置設定部の制御作動を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る作業車両用の自動走行システムを、作業車両の一例であるトラクタに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
尚、本発明に係る作業車両用の自動走行システムは、トラクタ以外に、例えば、乗用管理機、乗用草刈機、乗用田植機、コンバイン、除雪車、ホイールローダ、及び、運搬車、などの自動走行可能な乗用作業車両、並びに、無人耕耘機や無人草刈機などの無人作業車両に適用することができる。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に例示されたトラクタ1は、その後部に、リンク機構2を介して、作業装置の一例であるロータリ耕耘装置3が昇降可能かつローリング可能に連結されている。これにより、トラクタ1は、ロータリ耕耘仕様に構成されている。
【0014】
尚、トラクタ1の後部には、ロータリ耕耘装置3に代えて、例えば、プラウ、ディスクハロー、カルチベータ、サブソイラ、播種装置、散布装置、草刈装置、及び、収穫装置、などの作業装置を連結することができる。
【0015】
トラクタ1は、作業車両用の自動走行システムを使用することにより、作業地の一例である圃場A(
図5参照)などにおいて自動走行させることができる。
図1~2に示すように、作業車両用の自動走行システムには、トラクタ1に搭載された自動走行ユニット4、及び、自動走行ユニット4と無線通信可能に通信設定された無線通信機器の一例である携帯通信端末5、などが含まれている。携帯通信端末5には、自動走行に関する各種の情報表示や入力操作などを可能にするマルチタッチ式の表示デバイス50などが備えられている。
【0016】
尚、携帯通信端末5には、タブレット型のパーソナルコンピュータやスマートフォンなどを採用することができる。又、無線通信には、Wi-Fi(登録商標)などの無線LAN(Local Area Network)やBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信などを採用することができる。
【0017】
図1に示すように、トラクタ1には、走行装置として、駆動可能で操舵可能な左右の前輪10と、駆動可能な左右の後輪11とが備えられている。
図1~2に示すように、トラクタ1には、搭乗式の運転部12を形成するキャビン13、コモンレールシステムを有する電子制御式のディーゼルエンジン(以下、エンジンと称する)14、エンジン14などを覆うボンネット15、及び、エンジン14からの動力を変速する変速ユニット16、などが備えられている。尚、エンジン14には、電子ガバナを有する電子制御式のガソリンエンジンなどを採用してもよい。
【0018】
図2~3に示すように、トラクタ1には、左右の前輪10を操舵する全油圧式のパワーステアリングユニット(ステアリングユニットの一例)17、左右の後輪11を制動するブレーキユニット18、ロータリ耕耘装置3への伝動を断続する電子油圧制御式の作業クラッチユニット19、ロータリ耕耘装置3を昇降駆動する電子油圧制御式の昇降駆動ユニット20、ロータリ耕耘装置3のロール方向への駆動を可能にする電子油圧制御式のローリングユニット21、トラクタ1における各種の設定状態や各部の動作状態などを検出する各種のセンサやスイッチなどを含む車両状態検出機器22、及び、各種の制御部を有する車載制御ユニット23、などが備えられている。尚、パワーステアリングユニット17には、操舵用の電動モータを有する電動式を採用してもよい。
【0019】
図1に示すように、運転部12には、手動操舵用のステアリングホイール25、搭乗者用の座席26、及び、各種の情報表示や入力操作などを可能にする操作端末27が備えられている。図示は省略するが、運転部12には、アクセルレバーや変速レバーなどの操作レバー類、及び、アクセルペダルやクラッチペダルなどの操作ペダル類、などが備えられている。操作端末27には、マルチタッチ式の液晶モニタやISOBUS(イソバス)対応のバーチャルターミナルなどを採用することができる。
【0020】
図示は省略するが、変速ユニット16には、エンジン14からの動力を走行用に変速する走行伝動系と作業用に変速する作業伝動系とが備えられている。そして、走行伝動系による変速後の動力が、前輪駆動用の伝動軸、及び、前車軸ケースに内蔵された前輪用差動装置、などを介して左右の前輪10に伝えられる。又、作業伝動系による変速後の動力がロータリ耕耘装置3に伝えられる。変速ユニット16には、左右の後輪11を個別に制動する左右のブレーキが備えられている。
【0021】
走行伝動系には、エンジン14からの動力を変速する電子制御式の主変速装置、主変速装置からの動力を前進用と後進用とに切り換える電子油圧制御式の前後進切換装置、前後進切換装置からの前進用又は後進用の動力を高低2段に変速するギア式の副変速装置、前後進切換装置からの前進用又は後進用の動力を超低速段に変速するギア式のクリープ変速装置、副変速装置又はクリープ変速装置からの動力を左右の後輪11に分配する後輪用差動装置、後輪用差動装置からの動力を減速して左右の後輪11に伝える左右の減速装置、及び、副変速装置又はクリープ変速装置から左右の前輪10への伝動を切り換える電子油圧制御式の伝動切換装置、などが含まれている。
【0022】
作業伝動系には、エンジン14からの動力を断続する油圧式の作業クラッチ、作業クラッチを経由した動力を正転3段と逆転1段とに切り換える作業用変速装置、及び、作業用変速装置からの動力を作業用として出力するPTO軸、などが含まれている。PTO軸から取り出された動力は、外部伝動軸(図示省略)などを介してロータリ耕耘装置3に伝えられる。作業クラッチは、作業クラッチに対するオイルの流れを制御する電磁制御弁(図示省略)などとともに作業クラッチユニット19に含まれている。
【0023】
主変速装置には、静油圧式無段変速装置(HST:Hydro Static Transmission)よりも伝動効率が高い油圧機械式無段変速装置の一例であるI-HMT(Integrated Hydro-static Mechanical Transmission)が採用されている。
【0024】
尚、主変速装置には、I-HMTの代わりに、油圧機械式無段変速装置の一例であるHMT(Hydraulic Mechanical Transmission)、静油圧式無段変速装置、又は、ベルト式無段変速装置、などの無段変速装置を採用してもよい。又、無段変速装置の代わりに、複数の油圧式の変速クラッチ、及び、それらに対するオイルの流れを制御する複数の電磁式の変速バルブ、などを有する電子油圧制御式の有段変速装置を採用してもよい。
【0025】
伝動切換装置は、左右の前輪10への伝動状態を、左右の前輪10への伝動を遮断する伝動遮断状態と、左右の前輪10の周速が左右の後輪11の周速と同じになるように左右の前輪10に伝動する等速伝動状態と、左右の後輪11の周速に対して左右の前輪10の周速が約2倍になるように左右の前輪10に伝動する倍速伝動状態とに切り換える。これにより、このトラクタ1の駆動状態を、2輪駆動状態と4輪駆動状態と前輪倍速状態とに切り換えることができる。
【0026】
図示は省略するが、ブレーキユニット18には、前述した左右のブレーキ、運転部12に備えられた左右のブレーキペダルの踏み込み操作に連動して左右のブレーキを作動させるフットブレーキ系、運転部12に備えられたパーキングレバーの操作に連動して左右のブレーキを作動させるパーキングブレーキ系、及び、左右の前輪10の設定角度以上の操舵に連動して旋回内側のブレーキを作動させる旋回ブレーキ系、などが含まれている。
【0027】
車両状態検出機器22は、トラクタ1の各部に備えられた各種のセンサやスイッチなどの総称である。
図3に示すように、車両状態検出機器22には、前輪10の操舵角を検出する舵角センサ22Aが含まれている。図示は省略するが、車両状態検出機器22には、アクセルレバーの操作位置を検出するアクセルセンサ、変速レバーの操作位置を検出する変速センサ、前後進切り換え用のリバーサレバーの操作位置を検出するリバーサセンサ、エンジン14の出力回転数を検出する第1回転センサ、トラクタ1の車速を検出する車速センサ、ロータリ耕耘装置3の高さ位置を検出する高さセンサ、及び、PTO軸の回転数をロータリ耕耘装置3の駆動回転数として検出する第2回転センサ、などが含まれている。
【0028】
図2に示すように、車載制御ユニット23には、エンジン14に関する制御を行うエンジン制御部23A、トラクタ1の車速や前後進の切り換えなどの変速ユニット16に関する制御を行う変速ユニット制御部23B、ステアリングに関する制御を行うステアリング制御部23C、ロータリ耕耘装置3などの作業装置に関する制御を行う作業装置制御部23D、操作端末27などに対する表示や報知に関する制御を行う表示制御部23E、自動走行に関する制御を行う自動走行制御部23F、及び、圃場Aに応じて生成された自動走行用の目標経路P(
図5参照)などを記憶する不揮発性の車載記憶部23G、などが含まれている。各制御部23A~23Fは、マイクロコントローラなどが集積された電子制御ユニットや各種の制御プログラムなどによって構築されている。各制御部23A~23Fは、CAN(Controller Area Network)を介して相互通信可能に接続されている。
【0029】
尚、各制御部23A~23Fの相互通信には、CAN以外の通信規格や次世代通信規格である、例えば、車載EthernetやCAN-FD(CAN with FLexible Data rate)などを採用してもよい。
【0030】
エンジン制御部23Aは、アクセルセンサからの検出情報と第1回転センサからの検出情報とに基づいて、エンジン回転数をアクセルレバーの操作位置に応じた回転数に維持するエンジン回転数維持制御、などを実行する。
【0031】
変速ユニット制御部23Bは、変速センサの検出情報と車速センサの検出情報などに基づいて、トラクタ1の車速が変速レバーの操作位置に応じた速度に変更されるように主変速装置の作動を制御する車速制御、及び、リバーサセンサの検出情報に基づいて前後進切換装置の伝動状態を切り換える前後進切り換え制御、などを実行する。車速制御には、変速レバーが零速位置に操作された場合に、主変速装置を零速状態まで減速制御してトラクタ1の走行を停止させる減速停止処理が含まれている。
【0032】
図示は省略するが、変速ユニット制御部23Bは、トラクタ1における走行駆動モードの選択を可能にする第1選択スイッチの操作に基づいて、トラクタ1の走行駆動モードを、二輪駆動モードと四輪駆動モードと前輪増速モードと旋回ブレーキモードと前輪増速旋回ブレーキモードとに切り換える。第1選択スイッチは、運転部12に備えられ、車両状態検出機器22に含まれている。
【0033】
変速ユニット制御部23Bは、二輪駆動モードにおいては、伝動切換装置を伝動遮断状態に切り換えることで、トラクタ1を、左右の前輪10への伝動を遮断して左右の後輪11のみを駆動させた二輪駆動状態で走行させる。
【0034】
変速ユニット制御部23Bは、四輪駆動モードにおいては、伝動切換装置を等速駆動状態に切り換えることで、トラクタ1を、左右の前輪10に伝動して左右の前輪10と左右の後輪11とを等速駆動させた四輪駆動状態で走行させる。
【0035】
変速ユニット制御部23Bは、前輪増速モードにおいては、舵角センサ22Aの検出情報に基づいて、伝動切換装置を等速伝動状態と倍速伝動状態とに切り換える前輪変速制御を実行する。前輪変速制御には、前輪10の操舵角が設定角度以上に達したときに、トラクタ1が旋回を開始したと判定して、伝動切換装置を等速伝動状態から倍速伝動状態に切り換える前輪増速処理と、前輪10の操舵角が設定角度未満に至ったときに、トラクタ1が旋回を終了したと判定して、伝動切換装置を倍速伝動状態から等速伝動状態に切り換える前輪減速処理とが含まれている。これにより、前輪増速モードにおいては、トラクタ1の旋回走行時にトラクタ1を前輪増速状態で走行させることができ、トラクタ1の旋回半径を小さくすることができる。
【0036】
変速ユニット制御部23Bは、旋回ブレーキモードにおいては、舵角センサ22Aの検出情報に基づいて、ブレーキユニット18の作動を制御して左右のブレーキを制動解除状態と旋回内側制動状態とに切り換える旋回ブレーキ制御を実行する。旋回ブレーキ制御には、前輪10の操舵角が設定角度以上に達したときに、トラクタ1が旋回を開始したと判定するとともに、そのときの操舵角の増減方向から前輪10の操舵方向を判定して、旋回内側のブレーキを制動解除状態から制動状態に切り換える旋回内側制動処理と、前輪10の操舵角が設定角度未満に至ったときに、トラクタ1が旋回を終了したと判定して、制動状態(旋回内側)のブレーキを制動解除状態に切り換える制動解除処理とが含まれている。これにより、旋回ブレーキモードにおいては、トラクタ1の旋回走行時にトラクタ1を旋回内側制動状態で走行させることができ、トラクタ1の旋回半径を小さくすることができる。
【0037】
変速ユニット制御部23Bは、前輪増速旋回ブレーキモードにおいては、舵角センサ22Aの検出情報に基づいて、前述した前輪変速制御と旋回ブレーキ制御とを実行する。これにより、前輪増速旋回ブレーキモードにおいては、トラクタ1の旋回走行時にトラクタ1を前輪増速旋回内側制動状態で走行させることができ、トラクタ1の旋回半径を更に小さくすることができる。
【0038】
図示は省略するが、作業装置制御部23Dは、運転部12に備えられたPTOスイッチの操作などに基づいて作業クラッチユニット19の作動を制御する作業クラッチ制御、運転部12に備えられた昇降スイッチの操作や高さ設定ダイヤルの設定値などに基づいて昇降駆動ユニット20の作動を制御する昇降制御、及び、運転部12に備えられたロール角設定ダイヤルの設定値などに基づいてローリングユニット21の作動を制御するローリング制御、などを実行する。PTOスイッチ、昇降スイッチ、高さ設定ダイヤル、及び、ロール角設定ダイヤルは、車両状態検出機器22に含まれている。
【0039】
図2~3に示すように、トラクタ1には、現在位置や現在方位などを測定する測位ユニット42が備えられている。
図2に示すように、測位ユニット42には、衛星測位システムの一例であるGNSS(Global Navigation Satellite System)を利用してトラクタ1の現在位置と現在方位とを測定する衛星航法装置43、及び、3軸のジャイロスコープ及び3方向の加速度センサなどを有してトラクタ1の姿勢や方位などを測定する慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)44、などが含まれている。GNSSを利用した測位方法には、DGNSS(Differential GNSS:相対測位方式)やRTK-GNSS(Real Time Kinematic GNSS:干渉測位方式)などがある。本実施形態においては、移動体の測位に適したRTK-GNSSが採用されている。そのため、
図1に示すように、圃場周辺の既知位置には、RTK-GNSSによる測位を可能にする基地局6が設置されている。
【0040】
図1~2に示すように、トラクタ1と基地局6とのそれぞれには、測位衛星7(
図1参照)から送信された電波を受信するGNSSアンテナ45,60、及び、トラクタ1と基地局6との間における測位情報を含む各情報の無線通信を可能にする通信モジュール46,61、などが備えられている。これにより、測位ユニット42の衛星航法装置43は、トラクタ1のGNSSアンテナ45が測位衛星7からの電波を受信して得た測位情報と、基地局6のGNSSアンテナ60が測位衛星7からの電波を受信して得た測位情報とに基づいて、トラクタ1の現在位置及び現在方位を高い精度で測定することができる。又、測位ユニット42は、衛星航法装置43と慣性計測装置44とを有することにより、トラクタ1の現在位置、現在方位、姿勢角(ヨー角、ロール角、ピッチ角)を高精度に測定することができる。
【0041】
このトラクタ1において、測位ユニット42の慣性計測装置44、GNSSアンテナ45、及び、通信モジュール46は、
図1に示すアンテナユニット47に含まれている。アンテナユニット47は、キャビン13の前面側における上部の左右中央箇所に配置されている。
【0042】
図5~7に示すように、測位ユニット42にて測定されるトラクタ1の現在位置pv(測位基準位置)は、トラクタ1におけるGNSSアンテナ45の設置位置に設定されている。GNSSアンテナ45は、キャビン13における前面側の上部においてトラクタ1の左右中心上に設置されている。
尚、測位ユニット42にて測定されるトラクタ1の現在位置pvは、GNSSアンテナ45の設置位置に代えて、トラクタ1における後輪車軸中心位置に設定されていてもよい。この場合、トラクタ1の現在位置pvは、測位ユニット42の測位情報、及び、トラクタ1におけるGNSSアンテナ45の取り付け位置と後輪車軸中心位置との位置関係を含む車体情報から求めることができる。
【0043】
図2に示すように、携帯通信端末5には、マイクロコントローラなどが集積された電子制御ユニットや各種の制御プログラムなどを有する端末制御ユニット51などが備えられている。端末制御ユニット51には、表示デバイス50などに対する表示や報知に関する制御を行う表示制御部51A、トラクタ1の自動走行を可能にする目標経路Pを生成する目標経路生成部51B、及び、目標経路生成部51Bが生成した目標経路Pなどを記憶する不揮発性の端末記憶部51C、などが含まれている。端末記憶部51Cには、目標経路Pの生成に使用する各種の情報として、トラクタ1の旋回半径やロータリ耕耘装置3の作業幅などを含む車体情報、及び、前述した測位情報から得られる圃場情報、などが記憶されている。圃場情報には、圃場Aの形状や大きさなどを特定する上において、トラクタ1を圃場Aの外周縁に沿って走行させたときにGNSSを利用して取得した圃場Aにおける複数の形状特定地点(形状特定座標)となる4つの角部地点Cp1~Cp4(
図5参照)、それらの角部地点Cp1~Cp4を繋いで圃場Aの形状や大きさなどを特定する矩形状の形状特定線SL(
図5参照)、及び、特定された圃場Aの形状や大きさ、などが含まれている。
【0044】
図2に示すように、トラクタ1及び携帯通信端末5には、車載制御ユニット23と端末制御ユニット51との間における測位情報などを含む各情報の無線通信を可能にする通信モジュール48,52が備えられている。トラクタ1の通信モジュール48は、携帯通信端末5との無線通信にWi-Fiが採用される場合には、通信情報をCANとWi-Fiとの双方向に変換する変換器として機能する。端末制御ユニット51は、車載制御ユニット23との無線通信にてトラクタ1の現在位置や現在方位などを含むトラクタ1に関する各種の情報を取得することができる。これにより、携帯通信端末5の表示デバイス50にて、目標経路Pに対するトラクタ1の現在位置や現在方位などを含む各種の情報を表示させることができる。
【0045】
目標経路生成部51Bは、車体情報に含まれたトラクタ1の旋回半径やロータリ耕耘装置3の作業幅、及び、圃場情報に含まれた圃場Aの形状や大きさ、などに基づいて目標経路Pを生成する。
【0046】
例えば、
図5に示すように、矩形状の圃場Aにおいて、自動走行の開始位置paと終了位置pbとが設定され、トラクタ1の作業走行方向が圃場Aの短辺に沿う方向に設定されている場合は、目標経路生成部51Bは、先ず、圃場Aを、前述した4つの角部地点Cp1~Cp4と矩形状の形状特定線SLとに基づいて、圃場Aの外周縁に隣接するマージン領域A1と、マージン領域A1の内側に位置する作業可能領域A2とに区分けする。
【0047】
次に、目標経路生成部51Bは、トラクタ1の旋回半径やロータリ耕耘装置3の作業幅などに基づいて、作業可能領域A2を、作業可能領域A2における各長辺側の端部に設定される一対の方向転換領域A2aと、一対の方向転換領域A2aの間に設定される往復走行領域A2bとに区分けする。その後、目標経路生成部51Bは、往復走行領域A2bに、圃場Aの長辺に沿う方向に作業幅に応じた所定間隔を置いて並列に配置される複数の直線経路P1を生成する。又、目標経路生成部51Bは、各方向転換領域A2aに、複数の直線経路P1をトラクタ1の走行順に接続する複数の方向転換経路P2を生成する。
【0048】
そして、目標経路生成部51Bは、各直線経路P1の始端位置p1から一定距離を隔てた位置に、トラクタ1の到達に伴ってロータリ耕耘装置3を非作業状態から作業状態に切り換えて、トラクタ1の作業走行を開始させる作業走行開始位置p2を設定する。又、各直線経路P1の終端位置(方向転換経路P2の始端位置)p3を、トラクタ1の到達に伴ってロータリ耕耘装置3を作業状態から非作業状態に切り換えて、トラクタ1の作業走行を終了させる作業走行終了位置に設定する。
【0049】
これにより、目標経路生成部51Bは、
図5に示す圃場Aに設定された自動走行の開始位置paから終了位置pbにわたってトラクタ1を自動走行させることが可能な目標経路Pを生成することができる。
【0050】
図5に示す圃場Aにおいて、マージン領域A1は、トラクタ1が作業可能領域A2の端部を自動走行するときに、ロータリ耕耘装置3などが圃場Aに隣接する畦や柵などの他物に接触するのを防止するために、圃場Aの外周縁と作業可能領域A2との間に確保された領域である。目標経路Pにおいて、各直線経路P1の始端位置p1から作業走行開始位置p2にわたる第1経路部分P1a、及び、各方向転換経路P2は、ロータリ耕耘装置3が非作業状態に切り換えられたトラクタ1を自動走行させる非作業経路である。各直線経路P1の作業走行開始位置p2から作業走行終了位置p3にわたる第2経路部分P1bは、ロータリ耕耘装置3が作業状態に切り換えられたトラクタ1を自動走行させる作業経路である。
【0051】
各方向転換経路P2には、トラクタ1の旋回半径とロータリ耕耘装置3の作業幅との関係などに応じて、トラクタ1をU字状に方向転換走行させるU字旋回経路、及び、スイッチバックを利用しトラクタ1をフィッシュテール状に方向転換走行させるスイッチバック式旋回経路、などを採用することができる。本実施形態においては、
図5、
図8~15に示すように、方向転換経路P2としてU字旋回経路が採用された場合を例示している。そのため、方向転換経路P2は旋回経路として機能する。
【0052】
尚、
図5に示す目標経路Pはあくまでも一例であり、目標経路生成部51Bは、トラクタ1の機種や作業装置の種類などに応じて異なる車体情報、及び、圃場Aに応じて異なる圃場Aの形状や大きさなどの圃場情報、などに基づいて、それらに適した種々の目標経路Pを生成することができる。
【0053】
目標経路Pは、車体情報や圃場情報などに関連付けされた状態で端末記憶部51Cに記憶されており、携帯通信端末5の表示デバイス50にて表示することができる。目標経路Pには、前述した自動走行の開始位置paや終了位置pb、作業走行開始位置p2、及び、作業走行終了位置p3、などとともに、各直線経路P1や各方向転換経路P2などにおいて設定されたトラクタ1の進行方向や目標車速などの自動走行に関する各種の情報が含まれている。
【0054】
端末制御ユニット51は、車載制御ユニット23からの送信要求指令に応じて、端末記憶部51Cに記憶されている圃場情報や目標経路Pなどを車載制御ユニット23に送信する。車載制御ユニット23は、受信した圃場情報や目標経路Pなどを車載記憶部23Gに記憶する。目標経路Pの送信に関しては、例えば、端末制御ユニット51が、トラクタ1が自動走行を開始する前の段階において、目標経路Pの全てを端末記憶部51Cから車載制御ユニット23に一挙に送信するようにしてもよい。又、端末制御ユニット51が、目標経路Pを所定距離ごとの複数の分割経路情報に分割して、トラクタ1が自動走行を開始する前の段階からトラクタ1の走行距離が所定距離に達するごとに、トラクタ1の走行順位に応じた所定数の分割経路情報を端末記憶部51Cから車載制御ユニット23に逐次送信するようにしてもよい。
【0055】
自動走行制御部23Fには、車両状態検出機器22に含まれた各種のセンサやスイッチなどからの検出情報が入力されている。これにより、自動走行制御部23Fは、トラクタ1における各種の設定状態や各部の動作状態などを監視することができる。
【0056】
自動走行制御部23Fは、搭乗者や管理者などのユーザにより、トラクタ1の自動走行を可能にするための各種の手動設定操作が行われて、トラクタ1の走行モードが手動走行モードから自動走行モードに切り換えられた状態において、携帯通信端末5の表示デバイス50が操作されて自動走行の開始が指示された場合に、測位ユニット42にてトラクタ1の現在位置や現在方位などを取得しながら目標経路Pに従ってトラクタ1を自動走行させる自動走行制御を開始する。
【0057】
自動走行制御部23Fは、自動走行制御の実行中に、例えば、ユーザにより携帯通信端末5の表示デバイス50が操作されて自動走行の終了が指示された場合や、運転部12に搭乗しているユーザにてステアリングホイール25やアクセルペダルなどの手動操作具が操作された場合は、自動走行制御を終了するとともに走行モードを自動走行モードから手動走行モードに切り換える。
【0058】
自動走行制御部23Fによる自動走行制御には、エンジン14に関する自動走行用の制御指令をエンジン制御部23Aに送信するエンジン用自動制御処理、トラクタ1の車速や前後進の切り換えなどに関する自動走行用の制御指令を変速ユニット制御部23Bに送信する車速用自動制御処理、ステアリングに関する自動走行用の制御指令をステアリング制御部23Cに送信するステアリング用自動制御処理、及び、ロータリ耕耘装置3などの作業装置に関する自動走行用の制御指令を作業装置制御部23Dに送信する作業用自動制御処理、などが含まれている。
【0059】
自動走行制御部23Fは、エンジン用自動制御処理においては、目標経路Pに含まれた設定回転数などに基づいてエンジン回転数の変更を指示するエンジン回転数変更指令、などをエンジン制御部23Aに送信する。エンジン制御部23Aは、自動走行制御部23Fから送信されたエンジン14に関する各種の制御指令に応じてエンジン回転数を自動で変更するエンジン回転数変更制御、などを実行する。
【0060】
自動走行制御部23Fは、車速用自動制御処理においては、目標経路Pに含まれた目標車速に基づいて主変速装置の変速操作を指示する変速操作指令、及び、目標経路Pに含まれたトラクタ1の進行方向などに基づいて前後進切換装置の前後進切り換え操作を指示する前後進切り換え指令、などを変速ユニット制御部23Bに送信する。変速ユニット制御部23Bは、自動走行制御部23Fから送信された主変速装置や前後進切換装置などに関する各種の制御指令に応じて、主変速装置の作動を自動で制御する自動車速制御、及び、前後進切換装置の作動を自動で制御する自動前後進切り換え制御、などを実行する。自動車速制御には、例えば、目標経路Pに含まれた目標車速が零速である場合に、主変速装置を零速状態まで減速制御してトラクタ1の走行を停止させる自動減速停止処理などが含まれている。
【0061】
自動走行制御部23Fは、ステアリング用自動制御処理においては、左右の前輪10の操舵を指示する操舵指令、などをステアリング制御部23Cに送信する。ステアリング制御部23Cは、自動走行制御部23Fから送信された操舵指令に応じて、パワーステアリングユニット17の作動を制御して左右の前輪10を操舵する自動ステアリング制御、及び、左右の前輪10が設定角度以上に操舵された場合に、ブレーキユニット18を作動させて旋回内側のブレーキを作動させる自動旋回ブレーキ制御、などを実行する。
【0062】
自動走行制御部23Fは、作業用自動制御処理においては、目標経路Pに含まれた各作業走行開始位置p2へのトラクタ1の到達に基づいてロータリ耕耘装置3の作業状態への切り換えを指示する作業開始指令、及び、目標経路Pに含まれた各作業走行終了位置へのトラクタ1の到達に基づいてロータリ耕耘装置3の非作業状態への切り換えを指示する作業終了指令、などを作業装置制御部23Dに送信する。作業装置制御部23Dは、自動走行制御部23Fから送信されたロータリ耕耘装置3に関する各種の制御指令に応じて、作業クラッチユニット19及び昇降駆動ユニット20の作動を制御して、ロータリ耕耘装置3を駆動させて作業高さまで下降させる自動作業開始制御、及び、ロータリ耕耘装置3を非作業高さまで上昇させて駆動停止させる自動作業終了制御、などを実行する。これにより、目標経路Pに従って自動走行するトラクタ1の走行状態を、ロータリ耕耘装置3の作業状態(ロータリ耕耘装置3が駆動されて作業高さまで下降した状態)でトラクタ1が自動走行する作業走行状態と、ロータリ耕耘装置3の非作業状態(ロータリ耕耘装置3が非作業高さまで上昇して駆動停止された状態)でトラクタ1が自動走行する非作業走行状態とに切り換えることができる。
【0063】
つまり、前述した自動走行ユニット4には、パワーステアリングユニット17、ブレーキユニット18、作業クラッチユニット19、昇降駆動ユニット20、ローリングユニット21、車両状態検出機器22、車載制御ユニット23、測位ユニット42、及び、通信モジュール46,48、などが含まれている。そして、これらが適正に作動することにより、トラクタ1を目標経路Pに従って精度良く自動走行させることができるとともに、ロータリ耕耘装置3による耕耘作業を適正に行うことができる。
【0064】
図2、
図4に示すように、トラクタ1には、トラクタ1の周辺状況を取得する周辺状況取得システム8が備えられている。
図4に示すように、周辺状況取得システム8には、トラクタ1の周囲を撮像して画像情報を取得する撮像ユニット80、及び、トラクタ1の周囲に存在する障害物を検出する障害物検出ユニット85が含まれている。障害物検出ユニット85が検出する障害物には、圃場Aにて作業する作業者などの人物や他の作業車両、及び、圃場Aに既存の電柱や樹木などが含まれている。
【0065】
図1、
図4に示すように、撮像ユニット80には、キャビン13から前方の所定範囲が撮像範囲に設定された前カメラ81と、キャビン13から後方の所定範囲が撮像範囲に設定された後カメラ82と、前後の各カメラ81,82からの画像情報を処理する画像処理装置83(
図4参照)とが含まれている。画像処理装置83は、マイクロコントローラなどが集積された電子制御ユニットや各種の制御プログラムなどによって構築されている。画像処理装置83は、車載制御ユニット23などにCANを介して相互通信可能に接続されている。
【0066】
画像処理装置83は、前後の各カメラ81,82から順次送信される画像情報に対して、各カメラ81,82の撮像範囲に対応したトラクタ1の前側画像と後側画像とを生成する画像生成処理などを行う。そして、生成した各画像を、車載制御ユニット23の表示制御部23Eに送信する画像送信処理を行う。表示制御部23Eは、画像処理装置83からの各画像を、CANを介して操作端末27に送信するとともに、通信モジュール48,52を介して携帯通信端末5の表示制御部5Aに送信する。
【0067】
これにより、画像処理装置83が生成したトラクタ1の前側画像と後側画像とを、トラクタ1の操作端末27や携帯通信端末5の表示デバイス50などにおいて表示することができる。そして、この表示により、ユーザは、トラクタ1の前方側と後方側の状況を容易に把握することができる。
【0068】
図1、
図4に示すように、障害物検出ユニット85には、トラクタ1の前方側が障害物の検出範囲に設定された前障害物センサ86と、トラクタ1の後方側が障害物の検出範囲に設定された後障害物センサ87と、トラクタ1の左右両横側が障害物の検出範囲に設定された横障害物センサ88とが含まれている。前障害物センサ86及び後障害物センサ87には、障害物の検出にパルス状の近赤外レーザ光を使用するライダーセンサが採用されている。横障害物センサ88には、障害物の検出に超音波を使用するソナーが採用されている。
【0069】
図4に示すように、前障害物センサ86及び後障害物センサ87は、近赤外レーザ光を使用して測定範囲に存在する各測距点(測定対象物)までの距離を測定する測定部86A,87A、及び、測定部86A,87Aの測定情報に基づいて距離画像の生成などを行う制御部86B,87Bを有している。横障害物センサ88は、超音波の送受信を行う右超音波センサ88Aと左超音波センサ88B、及び、各超音波センサ88A,88Bでの超音波の送受信に基づいて測定範囲に存在する測定対象物までの距離を測定する単一の制御部88Cを有している。
【0070】
各障害物センサ86~88の制御部86B,87B,88Cは、マイクロコントローラなどが集積された電子制御ユニットや各種の制御プログラムなどによって構築されている。各制御部86B,87B,88Cは、車載制御ユニット23などにCANを介して相互通信可能に接続されている。
【0071】
自動走行制御部23Fは、測位ユニット42の測位情報、及び、車載制御ユニット23に送信された各障害物センサ86~88の検出情報、などに基づいて、トラクタ1の走行を制御して障害物との衝突を回避する衝突回避制御を実行する。自動走行制御部23Fは、衝突回避制御においては、各障害物センサ86~88の検出情報などに応じた各衝突回避用の走行制御の実行を変速ユニット制御部23Bに指示することで、トラクタ1の走行を制御して障害物との衝突を回避する。
【0072】
前述した自動走行制御部23Fのステアリング用自動制御処理について詳述すると、
図3、
図6~7に示すように、自動走行制御部23Fには、自動走行中にトラクタ1の現在位置pvから進行方向側に所定距離L1を隔てた目標経路P上などの所定位置に目標走行位置ptを設定する目標位置設定部23Faと、目標経路Pとトラクタ1の現在位置pvとに基づいて、目標経路Pに対して直交する横方向でのトラクタ1の偏差(以下、横方向偏差と称する)Dp1,Dp2を算出する横方向偏差算出部23Fbと、トラクタ1の現在位置pvから目標走行位置ptにわたる目標方位ラインLtを生成する目標方位ライン生成部23Fcと、トラクタ1の現在方位θvと目標方位ラインLtとがなす角度(トラクタ1の現在方位角と目標方位ラインLtの方位角との差)を方位角偏差θaとして算出する方位角偏差算出部23Fdと、方位角偏差θaに基づいて左右の前輪10の目標操舵角を算出する操舵角算出部23Feとが含まれている。
【0073】
これにより、自動走行制御部23Fは、ステアリング用自動制御処理において、目標方位ラインLtに対するトラクタ1の現在方位θvの方位角偏差θaを算出することができ、方位角偏差θaに応じた左右の前輪10の目標操舵角を算出することができる。そして、自動走行制御部23Fは、算出した目標操舵角を操舵指令としてステアリング制御部23Cに送信する。ステアリング制御部23Cは、自動走行制御部23Fから送信された目標操舵角と舵角センサ22Aの検出情報とに基づいて、パワーステアリングユニット17の作動を制御して左右の前輪10を操舵する。
【0074】
その結果、トラクタ1を、トラクタ1の現在位置pvから進行方向側に所定距離L1を隔てた目標経路P上などの所定位置に設定された目標走行位置ptに追従させることができ、トラクタ1を、目標経路Pに従って自動走行させることができる。
【0075】
つまり、このトラクタ1においては、ステアリング制御部23C、自動走行制御部23Fの横方向偏差算出部23Fbと目標方位ライン生成部23Fcと方位角偏差算出部23Fdと操舵角算出部23Fe、及び、車載記憶部23Gが、測位ユニット42の測位情報と目標走行位置ptとに基づいて、トラクタ1が所定距離L1を隔てた目標走行位置ptを追従するようにパワーステアリングユニット17の作動を制御する自動ステアリング制御部23Hとして機能する。
【0076】
以下、
図8~16の説明図に基づいて、目標位置設定部23Fa及び自動ステアリング制御部23Hの制御作動について詳述する。
【0077】
トラクタ1が自動走行の開始位置paに位置して自動走行制御による自動走行が開始されると、目標位置設定部23Faは、
図8に示すように、トラクタ1の現在位置pvから進行方向側に所定距離L1を隔てた直線経路P1上の位置に目標走行位置ptを設定する。すると、自動ステアリング制御部23Hは、トラクタ1が直線経路P1上に設定された目標走行位置ptを追従するようにパワーステアリングユニット17の作動を制御する。
【0078】
目標位置設定部23Faは、目標走行位置ptを直線経路P1上の位置に設定している間は、目標走行位置ptが直線経路P1の終端位置(方向転換経路P2の始端位置)p3に到達したか否かを判定する。そして、目標位置設定部23Faは、目標走行位置ptが直線経路P1の終端位置p3に到達したと判定した場合に、目標走行位置ptを、
図8~9に示す直線経路P1上の位置から
図10に示す直線経路P1の延長線Lp1上の位置に設定変更する。すると、自動ステアリング制御部23Hは、トラクタ1が直線経路P1の延長線Lp1上に設定された目標走行位置ptを追従するようにパワーステアリングユニット17の作動を制御する。
【0079】
これにより、目標走行位置ptが直線経路P1の終端位置p3に到達するのに伴って、目標走行位置ptを直線経路P1上の位置から方向転換経路P2上の位置に設定変更する場合に比較して、トラクタ1が直線経路P1の終端位置p3に到達するまでの間、トラクタ1を直線経路P1に従って精度よく自動走行させることができる。
【0080】
ちなみに、目標走行位置ptが直線経路P1の終端位置p3に到達するのに伴って、目標走行位置ptが直線経路P1上の位置から方向転換経路P2上の位置に設定変更された場合は、トラクタ1が、直線経路P1の終端位置p3から所定距離L1を隔てた直線経路P1の途中位置に位置する段階から、方向転換経路P2上の位置に設定された目標走行位置ptを追従して方向転換を開始することになる。その結果、直線経路P1の終端側においてはトラクタ1を直線経路P1に従って精度よく自動走行させることができなくなる。
【0081】
目標位置設定部23Faは、目標走行位置ptを直線経路P1の延長線Lp1上の位置に設定している間は、トラクタ1が直線経路P1の終端位置p3に到達したか否かを判定する。そして、目標位置設定部23Faは、トラクタ1が直線経路P1の終端位置p3に到達したと判定した場合に、目標走行位置ptを、
図10に示す直線経路P1の延長線Lp1上の位置から
図11~12に示す方向転換経路P2上の位置に設定変更する。すると、自動ステアリング制御部23Hは、トラクタ1が方向転換経路P2上に設定された目標走行位置ptを追従するようにパワーステアリングユニット17の作動を制御する。
【0082】
これにより、トラクタ1を、その直線経路P1の終端位置(方向転換経路P2の始端位置)p3への到達に伴って方向転換経路P2に従って自動走行させることができる。
【0083】
目標位置設定部23Faは、目標走行位置ptを方向転換経路P2上の位置に設定している間は、目標走行位置ptが方向転換経路P2の終端位置(直進経路P1の始端位置)p1に到達したか否かを判定する。そして、目標位置設定部23Faは、目標走行位置ptが方向転換経路P2の終端位置p1に到達したと判定した場合に、目標走行位置ptを、
図11~13に示す方向転換経路P2上の位置から
図13~15に示す直線経路P1上の位置に設定変更する。すると、自動ステアリング制御部23Hは、トラクタ1が直線経路P1上に設定された目標走行位置ptを追従するようにパワーステアリングユニット17の作動を制御する。
これにより、トラクタ1が、方向転換経路P2の終端位置(直線経路P1の始端位置)p1から手前側に所定距離L1を隔てた方向転換経路P2上の位置に位置する段階から、トラクタ1を、直線経路P1上の位置に設定された目標走行位置ptに追従させることができる。
【0084】
従って、トラクタ1が直線経路P1の始端位置p1に到達したときのトラクタ1の方位を直線経路P1の方位に合わせ易くなり、その結果、トラクタ1が直線経路P1の始端位置p1に到達した段階からトラクタ1を直線経路P1に従って精度よく自動走行させることができる。
【0085】
ちなみに、目標走行位置ptが方向転換経路P2の終端位置p1に到達するのに伴って、目標走行位置ptが方向転換経路P2上の位置から方向転換経路P2の延長線Lp2上の位置に設定変更され、トラクタ1が、方向転換経路P2の終端位置p1に到達するのに伴って、目標走行位置ptが方向転換経路P2の延長線Lp2上の位置から直線経路P1上の位置に設定変更されるようにすると、目標走行位置ptが方向転換経路P2の終端位置p1に到達してからトラクタ1が方向転換経路P2の終端位置p1に到達するまでの間は、トラクタ1が、方向転換経路P2の延長線Lp2上の位置に設定された目標走行位置ptを追従することになる。そのため、トラクタ1が方向転換経路P2の終端位置p1に到達した段階においては、左右の前輪10が旋回内側に大きく操舵された状態になっている。このような状態のトラクタ1を、直線経路P1上の位置に設定変更された目標走行位置ptに追従させるようにすると、トラクタ1は、直線経路P1の方位に対して旋回内側に偏って走行した後に直線経路P1上に戻ることになる。その結果、トラクタ1が直線経路P1の始端位置p1に到達してからしばらくの間はトラクタ1を直線経路P1に従って精度よく自動走行させることができなくなる。
【0086】
図6~7、
図16~18に示すように、横方向偏差算出部23Fbは、目標走行位置ptが目標経路Pの直進経路P1上又は直進経路P1の延長線Lp1上の位置に設定されている場合は、直進経路P1をトラクタ1の逸脱判定対象経路とし、直進経路P1に対するトラクタ1の横方向偏差Dp1を算出する(
図6、
図16~18参照)。横方向偏差算出部23Fbは、目標走行位置ptが目標経路Pの方向転換経路P2上の位置に設定されている場合は、方向転換経路P2をトラクタ1の逸脱判定対象経路とし、方向転換経路P2に対するトラクタ1の横方向偏差Dp2を算出する(
図7、
図16~18参照)。
【0087】
尚、方向転換経路P2に対するトラクタ1の横方向偏差Dp2は、方向転換経路P2の旋回中心とトラクタ1の現在位置pvとを通る直線Ls(
図7、
図16~18参照)上での方向転換経路P2に対するトラクタ1の偏差であり、方向転換経路P2の旋回中心からトラクタ1の現在位置pvまでの距離と方向転換経路P2の旋回半径との差である。
【0088】
図3、
図19~21に示すように、自動走行制御部23Fには、目標経路Pとトラクタ1の現在位置pv及び現在方位θvとに基づいて、トラクタ1の現在位置pvにおいて目標経路Pの方位とトラクタ1の現在方位θvとがなす角度(目標経路Pの方位角とトラクタ1の現在方位角との差)を、目標経路Pに対するトラクタ1の目標角度偏差θp1,θp2として算出する目標角度偏差算出部23Ffが含まれている。目標角度偏差算出部23Ffは、目標走行位置ptが目標経路Pの直進経路P1上に設定されている場合は、直進経路P1をトラクタ1の逸脱判定対象経路とし、トラクタ1の現在位置pvにおいて直進経路P1の方位とトラクタ1の現在方位θvとがなす角度を、直進経路P1に対するトラクタ1の目標角度偏差θp1として算出する。目標角度偏差算出部23Ffは、目標走行位置ptが目標経路Pの方向転換経路P2上に設定されている場合は、方向転換経路P2をトラクタ1の逸脱判定対象経路とし、トラクタ1の現在位置pvにおいて方向転換経路P2の方位とトラクタ1の現在方位θvとがなす角度を、方向転換経路P2に対するトラクタ1の目標角度偏差θp2として算出する。
【0089】
尚、方向転換経路P2に対する目標角度偏差θp2を算出する場合の方向転換経路P2の方位は、方向転換経路P2の旋回中心とトラクタ1の現在位置pvとを通る直線Ls(
図19~20参照)に対して直行する方向である。
【0090】
図3に示すように、自動走行制御部23Fには、トラクタ1が目標経路Pから逸脱した場合にトラクタ1を緊急停止させる緊急停止部23Fgが含まれている。緊急停止部23Fgは、目標走行位置ptが目標経路Pの直進経路P1上又は直進経路P1の延長線Lp1上の位置に設定されている場合は、横方向偏差算出部23Fbにて算出された直進経路P1に対するトラクタ1の横方向偏差Dp1が、直進経路P1に対して設定された逸脱許容幅Wp1(
図16~18参照)を超えたか否かを判定する。そして、直進経路P1に対するトラクタ1の横方向偏差Dp1が逸脱許容幅Wp1を超えた場合(
図16参照)に、変速ユニット制御部23Bなどにトラクタ1の緊急停止を指示してトラクタ1を緊急停止させる。
【0091】
緊急停止部23Fgは、目標走行位置ptが目標経路Pの方向転換経路P2上の位置に設定されている場合は、横方向偏差算出部23Fbにて算出された方向転換経路P2に対するトラクタ1の横方向偏差Dp2が、方向転換経路P2に対して設定された逸脱許容幅Wp2(
図16~18参照)を超えたか否かを判定する。そして、方向転換経路P2に対するトラクタ1の横方向偏差Dp2が逸脱許容幅Wp2を超えた場合に、変速ユニット制御部23Bなどにトラクタ1の緊急停止を指示してトラクタ1を緊急停止させる。
【0092】
緊急停止部23Fgは、目標走行位置ptが目標経路Pの直進経路P1上又は直進経路P1の延長線Lp1上の位置に設定されている場合は、目標角度偏差算出部23Ffにて算出された直進経路P1に対するトラクタ1の目標角度偏差θp1が、直進経路P1に対して設定された逸脱許容角θd1(
図19~21参照)を超えたか否かを判定する。そして、直進経路P1に対するトラクタ1の目標角度偏差θp1が逸脱許容角θd1を超えた場合(
図19参照)に、変速ユニット制御部23Bなどにトラクタ1の緊急停止を指示してトラクタ1を緊急停止させる。
【0093】
緊急停止部23Fgは、目標走行位置ptが目標経路Pの方向転換経路P2上の位置に設定されている場合は、目標角度偏差算出部23Ffにて算出された方向転換経路P2に対するトラクタ1の目標角度偏差θp2が、方向転換経路P2に対して設定された逸脱許容角θd2(
図19~20参照)を超えたか否かを判定する。そして、方向転換経路P2に対するトラクタ1の目標角度偏差θp2が逸脱許容角θd2を超えた場合に、変速ユニット制御部23Bなどにトラクタ1の緊急停止を指示してトラクタ1を緊急停止させる。
【0094】
つまり、このトラクタ1においては、トラクタ1の現在位置pvが目標経路Pの逸脱許容幅Wp1,Wp2から外れた場合や、トラクタ1の現在方位θvが目標経路Pに対する逸脱許容角θd1,θd2から外れた場合には、緊急停止部23Fgの制御作動によってトラクタ1を速やかに緊急停止させることができる。
【0095】
ところで、前述した目標位置設定部23Faの制御作動について詳述すると、目標走行位置ptが方向転換経路P2の終端位置p1に到達した段階においては、
図16に示すように、直進経路P1に対するトラクタ1の横方向偏差Dp1が逸脱許容幅Wp1を超えている場合や、
図19に示すように、直進経路P1に対するトラクタ1の目標角度偏差θp1が逸脱許容角θd1を超えている場合がある。このような場合において、単に、目標位置設定部23Faが、目標走行位置ptが方向転換経路P2の終端位置p1に到達したと判定した場合に、目標走行位置ptを方向転換経路P2上の位置から直線経路P1上の位置に設定変更すると、緊急停止部23Fgの制御作動によってトラクタ1が不必要に緊急停止される不都合を招くことになる。
【0096】
そこで、目標位置設定部23Faは、前述した制御作動において目標走行位置ptが方向転換経路P2の終端位置p1に到達したと判定した場合に、緊急停止部23Fgの制御作動によるトラクタ1の不必要な緊急停止を回避する緊急停止回避制御を実行するように構成されている。
【0097】
以下、
図16~21の説明図、及び、
図22のフローチャートに基づいて、緊急停止回避制御における目標位置設定部23Faの制御作動について説明する。
【0098】
目標位置設定部23Faは、目標走行位置ptが方向転換経路P2の終端位置p1に到達したと判定した場合に、前述した直進経路P1に対するトラクタ1の横方向偏差Dp1が、直進経路P1に対する逸脱許容幅Wp1を超えているか否かを判定する第1判定処理を行う(ステップ#1)。
【0099】
目標位置設定部23Faは、第1判定処理において、直進経路P1に対するトラクタ1の横方向偏差Dp1が逸脱許容幅Wp1を超えていない場合は、前述した直進経路P1に対するトラクタ1の目標角度偏差θp1が、直進経路P1に対する逸脱許容角θd1を超えたか否かを判定する第2判定処理を行う(ステップ#2)。
【0100】
目標位置設定部23Faは、第2判定処理において、直進経路P1に対するトラクタ1の目標角度偏差θp1が逸脱許容角θd1を超えていない場合は、目標走行位置ptを方向転換経路P2上の位置から直進経路P1上の位置に設定変更する第1設定変更処理を行い(ステップ#3)、その後、緊急停止回避制御を終了する。
【0101】
これにより、トラクタ1の走行状態を、方向転換経路P2に従って旋回する旋回走行状態から、直進経路P1に従って直進する直進走行状態に切り換えることができる。
【0102】
目標位置設定部23Faは、第1判定処理において直進経路P1に対する横方向偏差Dp1が逸脱許容幅Wp1を超えている場合(
図16参照)、又は、第2判定処理において直進経路P1に対するトラクタ1の目標角度偏差θp1が逸脱許容角θd1を超えている場合(
図19参照)は、第1設定変更処理の実行を禁止する第1設定変更禁止処理を行うとともに、目標走行位置ptを方向転換経路P2上の位置から方向転換経路P2の延長線Lp2上の位置に設定変更する第2設定変更処理を行う(ステップ#4~5、
図17、
図20参照)。
【0103】
これにより、目標走行位置ptが方向転換経路P2の終端位置p1に到達しても、直進経路P1に対するトラクタ1の横方向偏差Dp1が逸脱許容幅Wp1を超えている場合、又は、直進経路P1に対するトラクタ1の目標角度偏差θp1が逸脱許容角θd1を超えている場合には、目標走行位置ptが方向転換経路P2上の位置から直進経路P1上の位置に設定変更されないことから、この設定変更が行われることに起因して、緊急停止部23Fgの制御作動でトラクタ1が不必要に緊急停止される不都合の発生を回避することができる。
【0104】
又、トラクタ1の走行状態が、方向転換経路P2に従って旋回する旋回走行状態に維持されることにより、トラクタ1を直進経路P1に近づけることができ、直進経路P1に対するトラクタ1の横方向偏差Dp1を小さくすることができる。
【0105】
目標位置設定部23Faは、第2設定変更処理を行った後はステップ#1の第1判定処理に戻る。
尚、直進経路P1に対する逸脱許容幅Wp1は方向転換経路P2に対する逸脱許容幅Wp2と同じ長さに設定されている。又、直進経路P1に対する逸脱許容角θd1は方向転換経路P2に対する逸脱許容角θd2と同じ角度に設定されている。
【0106】
これにより、トラクタ1が方向転換経路P2に従って自動走行している間、方向転換経路P2に対するトラクタ1の横方向偏差Dp2が逸脱許容幅Wp2以内に維持され、かつ、方向転換経路P2に対するトラクタ1の逸脱許容角θd1が逸脱許容角θd2以内に維持されている状態であれば、トラクタ1が方向転換経路P2の終端位置p1に到達するまでの間において、直進経路P1に対するトラクタ1の横方向偏差Dp1が逸脱許容幅Wp1以内になり、かつ、直進経路P1に対するトラクタ1の目標角度偏差θp1が逸脱許容角θd1以内になる。
【0107】
その結果、緊急停止部23Fgの制御作動でトラクタ1が不必要に緊急停止される不都合を招くことなく、目標走行位置ptを方向転換経路P2上の位置から直進経路P1上の位置に設定変更することができ、トラクタ1の走行状態を、方向転換経路P2に従って旋回する旋回走行状態から、直進経路P1に従って直進する直進走行状態に切り換えることができる。
【0108】
〔別実施形態〕
本発明の別実施形態について説明する。
なお、以下に説明する各別実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の別実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0109】
(1)作業車両1の構成は種々の変更が可能である。
例えば、作業車両1は、走行装置として、左右の前輪10と、左右の後輪11に代わる左右のクローラとを有するセミクローラ仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両1は、走行装置として、左右の前輪10及び左右の後輪11に代えて左右のクローラを有するフルクローラ仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両1は、左右の後輪11が操舵輪として機能する後輪ステアリング仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両1は、エンジン14の代わりに電動モータを有する電動仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両1は、エンジン14と電動モータとを有するハイブリッド仕様に構成されていてもよい。
【0110】
(2)ステアリングユニット17は、走行装置の一例である左右のクローラの差動を可能にする変速装置などであってもよい。
【0111】
(3)自動ステアリング制御部23Hは、方位角偏差算出部23Fdが算出する方位角偏差θaに基づいて、走行装置の一例である左右の各クローラの目標駆動速度を算出する駆動速度算出部を有する構成であってもよい。
【0112】
(4)緊急停止部23Fgは、目標走行位置ptが設定された目標経路Pの逸脱判定対象経路(直進経路P1又は旋回経路P2)に対する作業車両1の横方向偏差Dp1,Dp2が逸脱許容幅Wp1,Wp2を超えた場合のみに作業車両1を緊急停止させる構成であってもよい。
【0113】
(5)緊急停止部23Fgは、目標走行位置ptが設定された目標経路Pの逸脱判定対象経路(直進経路P1又は旋回経路P2)に対する作業車両1の目標角度偏差θp1,θp2が逸脱許容角θd1,θd2を超えた場合のみに作業車両1を緊急停止させる構成であってもよい。
【0114】
<発明の付記>
本発明の第1特徴構成は、作業車両用の自動走行システムにおいて、
作業車両に備えられた走行装置を操作するステアリングユニットと、
前記作業車両の現在位置及び現在方位を測定する測位ユニットと、
前記測位ユニットの測位情報に基づいて前記作業車両を事前に設定された目標経路に従って自動走行させる制御ユニットと、を有し、
前記目標経路には、旋回経路と、前記旋回経路に連接される直進経路とが含まれており、
前記制御ユニットには、
自動走行中に前記現在位置から進行方向側に所定距離を隔てた所定位置に目標走行位置を設定する目標位置設定部と、
前記測位ユニットの測位情報と前記目標走行位置とに基づいて、前記作業車両が前記目標走行位置を追従するように前記ステアリングユニットの作動を制御する自動ステアリング制御部と、が含まれており、
前記目標位置設定部は、前記目標走行位置が前記直進経路に連接された前記旋回経路の終端位置に到達したか否かを判定し、前記目標走行位置が前記旋回経路の終端位置に到達したと判定した場合に、前記目標走行位置を、前記旋回経路上の位置から前記直進経路上の位置に設定変更する点にある。
【0115】
本構成によれば、目標位置設定部が、目標走行位置が旋回経路の終端位置に到達したと判定して、目標走行位置を、旋回経路上の位置から直線経路上の位置に設定変更すると、自動ステアリング制御部が、作業車両が直線経路上に設定された目標走行位置を追従するようにステアリングユニットの作動を制御する。
【0116】
これにより、作業車両が、旋回経路の終端位置(直線経路の始端位置)から手前側に所定距離を隔てた旋回経路上の位置に位置する段階から、作業車両を、直線経路上の位置に設定された目標走行位置に追従させることができる。
【0117】
従って、作業車両が直線経路の始端位置に到達したときの作業車両の方位を直線経路の方位に合わせ易くなり、その結果、作業車両が直線経路の始端位置に到達した段階から作業車両を直線経路に従って精度よく自動走行させることができる。
【0118】
本発明の第2特徴構成は、
前記自動ステアリング制御部には、
前記目標経路と前記現在位置とに基づいて、前記目標走行位置が設定された前記目標経路の逸脱判定対象経路に対して直交する横方向での前記作業車両の偏差を算出する横方向偏差算出部と、
前記横方向の偏差が前記逸脱判定対象経路に対する逸脱許容幅を超えた場合に前記作業車両を緊急停止させる緊急停止部と、が含まれており、
前記目標位置設定部は、前記目標走行位置が前記旋回経路の終端位置に到達したと判定した場合に、前記横方向の偏差が、前記旋回経路の終端位置に連接された前記直進経路に対する前記逸脱許容幅を超えているか否かを判定し、当該逸脱許容幅を超えている場合は、前記目標走行位置の前記旋回経路上の位置から前記直進経路上の位置への設定変更を禁止する点にある。
【0119】
本構成によれば、目標走行位置が旋回経路の終端位置(直線経路の始端位置)に到達した段階において、作業車両の直進経路に対する横方向の偏差が逸脱許容幅を超えているにもかかわらず、目標位置設定部が、目標走行位置を旋回経路上の位置から直線経路上の位置に設定変更することに起因して、緊急停止部によって作業車両が不必要に緊急停止される不都合の発生を回避することができる。
【0120】
その結果、作業車両の自動走行で作業を行う場合において、作業車両が目標経路の逸脱許容幅から外れたときの作業車両の緊急停止を可能にしながら、作業車両の不必要な緊急停止による作業効率の低下を回避することができる。
【0121】
本発明の第3特徴構成は、
前記自動ステアリング制御部には、
前記目標経路と前記現在位置と前記現在方位とに基づいて、前記目標走行位置が設定された前記目標経路における逸脱判定対象経路の方位と前記現在方位とがなす角度を目標角度偏差として算出する目標角度偏差算出部と、
前記目標角度偏差が前記逸脱判定対象経路に対する逸脱許容角を超えた場合に前記作業車両を緊急停止させる緊急停止部と、が含まれており、
前記目標位置設定部は、前記目標走行位置が前記旋回経路の終端位置に到達したと判定した場合に、前記目標角度偏差が、前記旋回経路の終端位置に連接された前記直進経路に対する前記逸脱許容角を超えているか否かを判定し、当該逸脱許容角を超えている場合は、前記目標走行位置の前記旋回経路上の位置から前記直進経路上の位置への設定変更を禁止する点にある。
【0122】
本構成によれば、目標走行位置が旋回経路の終端位置(直線経路の始端位置)に到達した段階において、作業車両の直進経路に対する目標角度偏差が逸脱許容角を超えているにもかかわらず、目標位置設定部が、目標走行位置を旋回経路上の位置から直線経路上の位置に設定変更することに起因して、緊急停止部によって作業車両が不必要に緊急停止される不都合の発生を回避することができる。
【0123】
その結果、作業車両の自動走行で作業を行う場合において、作業車両の方位が目標経路の逸脱許容角から外れたときの作業車両の緊急停止を可能にしながら、作業車両の不必要な緊急停止による作業効率の低下を回避することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 作業車両
10 走行装置(前輪)
11 走行装置(後輪)
17 ステアリングユニット
23 制御ユニット
23Fa 目標位置設定部
23Fb 横方向偏差算出部
23Ff 目標角度偏差算出部
23Fg 緊急停止部
23H 自動ステアリング制御部
42 測位ユニット
Dp1 横方向の偏差(直進経路)
Dp2 横方向の偏差(旋回経路)
L1 所定距離
P 目標経路
P1 直進経路(逸脱判定対象経路)
P2 旋回経路(逸脱判定対象経路)
p1 旋回経路の終端位置(直進経路の始端位置)
pt 目標走行位置
pv 作業車両の現在位置
Wp1 逸脱許容幅(直進経路)
Wp2 逸脱許容幅(旋回経路)
θd1 逸脱許容角(直進経路)
θd2 逸脱許容角(旋回経路)
θp1 目標角度偏差(直進経路)
θp2 目標角度偏差(旋回経路)
θv 作業車両の現在方位