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特開2023-86827スチレン系樹脂組成物、発泡シートおよび食品容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086827
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物、発泡シートおよび食品容器
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/08 20060101AFI20230615BHJP
   C08K 5/03 20060101ALI20230615BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C08L25/08
C08K5/03
C08F290/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067440
(22)【出願日】2023-04-17
(62)【分割の表示】P 2018237788の分割
【原出願日】2018-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】中川 優
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、成形加工性とリサイクル性のバランスに優れ、かつ臭気の少ないスチレン系樹脂組成物、発泡シートおよび食品容器を提供することである。
【解決手段】本発明のスチレン系樹脂組成物は、200℃、49N荷重の条件で測定したメルトマスフローレイト(MFR)が2.0g/10分超10g/10分以下であり、スチレンダイマーとトリマーの合計含有量が100~3000μg/gであり、190℃で測定した溶融張力値(MT)が40~80gfであることを特徴とする。また、本発明の発泡シートは、上記のスチレン系樹脂組成物を含む。さらに、本発明の食品容器は、上記の発泡シートを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系化合物を有するモノビニル化合物と、分子内に共役ビニル基を少なくとも2つ有する共役ジビニル化合物及び/又は1つ以上の枝分かれ構造を有する多分岐ビニル化合物とのラジカル共重合体を含有し、かつ前記モノビニル化合物中の前記スチレン系化合物の含有量は、前記モノビニル化合物の含有量のうち70モル%以上であり、
前記スチレン系化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン又はブロモスチレンであり、
前記モノビニル化合物は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、無水マレイン酸、マレイミド、又は核置換マレイミドであり、
前記多分岐ビニル化合物を有する場合は以下の(a)および(b)を満たし、
(a)前記多分岐ビニル化合物の含有量は、前記モノビニル化合物の総量1モルに対して2.0×10-6~4.0×10-4モルである、
(b)前記多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、850~100000である、
前記共役ジビニル化合物を有する場合は以下の(c)および(d)を満たす、
(c)前記共役ジビニル化合物の含有量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して、2.0×10-6~4.0×10-4モルである、
(d)前記共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、850~100000である、
200℃、49N荷重の条件で測定したメルトマスフローレイト(MFR)が2.0g/10分超10g/10分以下であり、
スチレンダイマーとトリマーの合計含有量が100~3000μg/gであり、
190℃で測定した溶融張力値(MT)が40~80gfであることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスチレン系樹脂組成物、発泡シートおよび食品容器に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は透明性、成形加工性等に優れるため、家電、事務機製品、雑貨、住宅設備等の成形材料や食品包装材料に多く利用されている。近年、製品の薄肉化、軽量化、形状の多様化が要求されており、成形加工性などに優れるスチレン系樹脂が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-227459号公報
【特許文献2】特開2016-113580号公報
【特許文献3】特開2017-122160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなスチレン系樹脂においては、成形加工性に加え、製造コストの削減や環境への配慮の観点から、成形過程で発生した端材や使用し終えた成形品をより容易にリサイクルでき、且つ、リサイクル後の樹脂の物性が低下しないような、リサイクル性が求められている。また、スチレン系樹脂が上記のように食品包装材料に使用された場合に内容物への臭気が移行するのを十分に低減するため、および、ポリスチレン系樹脂を成形する際に生じ得る臭気を抑えて作業環境を改善するために、低臭気性が求められている。
【0005】
そして、従来の技術としては、特許文献1において、分岐構造を有する溶剤可溶性多官能ビニル共重合体とビニル系モノマーを重合させた高分子量体を含む発泡用スチレン系樹脂組成物を用いることで、強度と二次成形性に優れ、且つリサイクル材を配合した場合でも物性の低下が少ない発泡シートを提供する技術が開示されている。
また、特許文献2には、発泡用スチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレイト、スチレンダイマーとトリマーの合計量、ピーク分子量、Z平均分子量、分子量100万~150万における分岐比、低分子量飽和炭化水素の含有量を特定の範囲にすることで、臭気が少なく、強度と二次成形性、耐ドローダウン性のバランスに優れる発泡用スチレン系樹脂組成物を提供する技術が開示されている。
さらに、特許文献3には、スチレン系樹脂のメルトマスフローレイト、スチレンダイマーとトリマーの合計量、190℃で測定した溶融張力値を特定の範囲とすることで、スチレン系樹脂発泡シートの臭気が少なく、耐ドローダウン性と深絞り成形性のバランスに優れるスチレン系樹脂を提供する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のスチレン系樹脂組成物では、臭気については十分ではなく、更なる改良の余地があることが分かった。また、特許文献2、3に記載のスチレン系樹脂では、リサイクル性については十分ではなく、更なる改良の余地があることが分かった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、成形加工性とリサイクル性のバランスに優れ、かつ臭気の少ないスチレン系樹脂組成物、発泡シートおよび食品容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を進めた結果、メルトマスフローレイト(MFR)、スチレンダイマーとトリマーの合計含有量、溶融張力値(MT)を所定の範囲にすることにより、成形加工性とリサイクル性のバランスに優れ、かつ臭気の少ないスチレン系樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
〔1〕200℃、49N荷重の条件で測定したメルトマスフローレイト(MFR)が2.0g/10分超10g/10分以下であり、
スチレンダイマーとトリマーの合計含有量が100~3000μg/gであり、
190℃で測定した溶融張力値(MT)が40~80gfであることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。
〔2〕分子量100万以上の成分の含有量が、スチレン系樹脂組成物100質量%中に7質量%以上である、上記〔1〕のスチレン系樹脂組成物。
〔3〕分子量200万以上の成分の含有量が、スチレン系樹脂組成物100質量%中に2質量%以上である、上記〔1〕または〔2〕のスチレン系樹脂組成物。
〔4〕数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が、3.0~7.0である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかのスチレン系樹脂組成物。
〔5〕重量平均分子量(Mw)に対するz平均分子量(Mz)の比(Mz/Mw)が、1.8~6.0である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかのスチレン系樹脂組成物。
〔6〕最大立上り比が1.1~4.0である、上記〔1〕~〔5〕のいずれかのスチレン系樹脂組成物。
〔7〕分岐度が0.60~0.95である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかのスチレン系樹脂組成物。
〔8〕ゲル化度が1.10~1.60である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかのスチレン系樹脂組成物。
〔9〕上記〔1〕~〔8〕のいずれかのスチレン系樹脂組成物を含む、発泡シート。
〔10〕上記〔9〕のスチレン系樹脂発泡シートを含む、食品容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形加工性とリサイクル性のバランスに優れ、かつ臭気の少ないスチレン系樹脂組成物、発泡シートおよび食品容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0012】
《スチレン系樹脂組成物》
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、200℃、49N荷重で測定したメルトマスフローレイト(MFR)が2.0g/10分超10g/10分以下であり、スチレンダイマーとトリマーの合計含有量が100~3000μg/gであり、190℃で測定した溶融張力値(MT)が40~80gfである。これにより、ポリスチレン系樹脂組成物の成形加工性とリサイクル性を優れたバランスにし、かつ、臭気を少なくすることができる。
【0013】
<メルトマスフローレイト>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、200℃、49N荷重の条件にて測定したメルトマスフローレート(MFR)が、2.0g/10分超10g/10分以下であり、好ましくは2.5g/10分超10g/10分以下であり、更に好ましくは2.5g/10分超8.0g/10分以下であり、更により好ましくは2.5g/10分超6.0g/10分以下であり、特に好ましくは2.5g/10分超5.0g/10分以下である。当該MFRが2.0g/10分超になることにより、スチレン系樹脂組成物が比較的流動しやすく、スチレン系樹脂組成物をリサイクルする際において、スチレン系樹脂組成物の成形体(スチレン系樹脂組成物を用いた製品や製造過程で発生する端材等)を溶融させるとき、過剰に熱に晒されることを抑制することができる。その結果、リサイクルする際の樹脂の劣化を低減することができるので、リサイクル性を向上させることができる。また、当該MFRが10g/10分以下になることにより、スチレン系樹脂の成形体の強度を保つことができる。
なお本開示で、メルトマスフローレイトは、ISO1133に準拠して、200℃、荷重49Nにて測定される値である。
【0014】
メルトマスフローレート(MFR)を上記の範囲にするためには、例えば、スチレン系樹脂組成物の分子量分布を広くする(Mw/Mnを3.0~7.0とする)方法や、流動パラフィン等の可塑剤をスチレン系樹脂組成物100質量%に対して0.01~10.0質量%添加する方法、スチレン系樹脂組成物のガラス転移温度を低下させる方法が挙げられる。また重合工程の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類、添加量、及び、添加場所、連鎖移動剤の種類、添加量、及び、添加場所、並びに、重合時に使用する溶媒の種類及び量によって調整することができる。
【0015】
<スチレンダイマーとトリマーの合計含有量>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、スチレンダイマーとトリマーの合計含有量が100~3000μg/gであり、好ましくは200~2800μg/gであり、更に好ましくは300~2500μg/gであり、更により好ましくは500~2000μg/gである。スチレンダイマーとトリマーの合計含有量が3000μg/g以下であることにより、スチレン系樹脂組成物が食品包装材料に使用された場合であっても内容物への臭気が移行するのを十分に低減することができ、また、ポリスチレン系樹脂組成物を成形する際に生じ得る臭気を抑えて作業環境を改善することができる。また、スチレン系ダイマーとトリマーの合計含有量が100μg/g以上であることにより、流動性や、リサイクル性を向上することができる。
【0016】
ここで、スチレンのダイマーとは、2,4-ジフェニル-1-ブテン、1,3-ジフェニルプロパン、1,2-ジフェニルシクロブタンが挙げられ、スチレンのトリマーとは2,4,6-トリフェニル-1-ヘキセン、1,3,5-トリフェニルシクロヘキサン、1-フェニルー4-(1”‐フェニルエチル)テトラリンが挙げられる。また、スチレンダイマーとトリマーの合計含有量とは、これら化合物の含有量の合計である。
【0017】
スチレンダイマー及びトリマーは、スチレン系樹脂を製造する重合工程において副生成するものと脱揮工程等において熱分解に起因して生成することが知られている。重合工程において副生成するものは、熱開始ラジカルによって生じることから、重合開始剤を多量に用いて、低温度で重合することによりダイマーおよびトリマーの生成を抑制することができる。また、脱揮工程の熱分解を抑制するためには、脱揮工程の熱履歴を小さくするか、後述するヒンダードフェノール系酸化防止剤を重合工程、若しくは脱揮工程で添加することによりダイマーおよびトリマーの生成を抑制することができる。
なお本開示で、スチレンダイマー及びトリマーの合計含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)を使用して測定される値である。
【0018】
<溶融張力値(MT)>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、190℃で測定した溶融張力値(MT)が40~80gfであり、好ましくは40~70gfであり、更に好ましくは40~60gfである。溶融張力値が80gf以下になることにより、スチレン系樹脂組成物より得られる発泡シートの二次成形加工性、耐ドローダウン性を向上させることができ、溶融張力値が40gf以上になることにより、二次成形加工性を向上させることができる。
【0019】
溶融張力値(MT)が上記の範囲になるように制御する方法は、分子量100万以上の成分の含有量をスチレン系樹脂組成物100質量%中7.0質量%以上にする方法、分子量200万以上の成分の含有量をスチレン系樹脂組成物100質量%中2.0質量%以上にする方法、z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)を1.8~6.0にする方法が挙げられる。溶融張力値(MT)が上記の範囲になるように、重合工程の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、重合時に使用する溶媒の種類及び量、連鎖移動剤の種類及び量、並びに、添加剤の種類及び量を適宜調整することで制御できる。
他の方法としては、例えば、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物を添加する方法、あるいは共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物とを同時に添加する方法がある。例えば、モノビニル化合物に、任意選択的に共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物を添加してラジカル共重合することによりスチレン系樹脂組成物を得る場合、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して、ビニル基1つにつき好ましくは4.0×10-6~8.0×10-4モルである(すなわち、ビニル基を2つ有する共役ジビニル化合物の場合は、好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4である)。共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は850~100000であることが好ましい。また、スチレン系樹脂組成物の重合工程において、溶媒の量を0~20%と少なくし、反応温度を80~140℃にする方法がある。また、例えば、2つの反応器において、それぞれ低分子量成分を重合する条件と高分子量成分を重合する条件で重合を行い、2つの重合溶液を合流させる方法、あるいは合流後にさらに重合を行う方法がある。低分子量成分を重合する条件としては、例えば、反応器内の滞留時間を短くする方法、溶媒の量を増加させ、重合温度を高くする方法、連鎖移動剤を使用する方法、開始剤の添加量を増加する方法等がある。高分子量成分を重合する条件としては、例えば、溶媒の量を少なくし、重合温度を低くする方法や、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物あるいは多分岐ビニル化合物あるいはその両方を、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル添加する方法がある。またアニオン重合やカチオン重合などを用いて分子量を制御したスチレン系樹脂組成物を溶液中に添加、もしくは押出機で混練する方法などがある。
【0020】
<ピークトップ分子量(Mtop)>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したピークトップ分子量(Mtop)が8万~30万であることが好ましく、9万~25万であることが更に好ましく、10万~20万であることが特に好ましい。Mtopが8万未満では成形品、例えば発泡シートの強度が低下する。また、Mtopが30万を超える場合には流動性が低下するために成形伸びが悪化し、例えばスチレン系樹脂発泡シートの深絞り成形が困難となる。スチレン系樹脂組成物のMtopは、重合工程の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、連鎖移動剤の種類及び添加量、並びに、重合時に使用する溶媒の種類及び量によって調整することができる。
【0021】
<分子量100万以上の成分の含有量>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、分子量100万以上の成分の含有量が、スチレン系樹脂組成物100質量%中に7.0質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは7.5~12.0質量%であり、特に好ましくは8.0~10.0質量%である。
分子量100万以上の成分の含有量が7質量%以上になることにより成形加工性を向上することができる。また、当該含有量が12.0質量%以下になることにより外観を向上することができる。
スチレン系樹脂組成物の分子量割合は、重合工程の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、重合時に使用する溶媒の種類及び量、並びに、連鎖移動剤の種類及び量によって調整することができる。また、例えば、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物を添加する方法、あるいは共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物とを同時に添加する方法がある。例えば、モノビニル化合物に、任意選択的に共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物を添加してラジカル共重合することによりスチレン系樹脂組成物を得る場合、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して、ビニル基1つにつき好ましくは4.0×10-6~8.0×10-4モルである(すなわち、ビニル基を2つ有する共役ジビニル化合物の場合は、好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4である)。共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は850~100000であることが好ましい。また、スチレン系樹脂の製造において、溶媒の量を0~20%と少なくし、反応温度を80~140℃にする方法がある。またアニオン重合やカチオン重合などを用いて分子量を制御したスチレン系樹脂組成物を溶液中に添加、もしくは押出機で混練する方法などがある。
【0022】
<分子量200万以上の成分の含有量>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、分子量200万以上の成分の割合が、スチレン系樹脂組成物100質量%中に2質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは2.3~5.0質量%であり、特に好ましくは2.5~4.0質量%である。
分子量200万以上の成分の含有量が2質量%以上になることにより成形加工性を向上することができる。また、当該含有量が5.0質量%以下になることにより外観の良好な製品を成形することができる。
スチレン系樹脂組成物の分子量割合は、重合工程の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、重合時に使用する溶媒の種類及び量、並びに、連鎖移動剤の種類及び量によって調整することができる。また、例えば、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物を添加する方法、あるいは共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物とを同時に添加する方法がある。例えば、モノビニル化合物に、任意選択的に共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物を添加してラジカル共重合することによりスチレン系樹脂組成物を得る場合、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して、ビニル基1つにつき好ましくは4.0×10-6~8.0×10-4モルである(すなわち、ビニル基を2つ有する共役ジビニル化合物の場合は、好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4である)。共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は850~100000であることが好ましい。また、スチレン系樹脂の製造において、溶媒の量を0~20%と少なくし、反応温度を80~140℃にする方法がある。またアニオン重合やカチオン重合などを用いて分子量を制御したスチレン系樹脂組成物を溶液中に添加、もしくは押出機で混練する方法などがある。
【0023】
<分子量分布>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が3.0~7.0であることが好ましく、4.0~6.5であることが更に好ましく、4.7~6.0であることが特に好ましい。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が3.0より小さい場合、流動性が低下し、成形加工性が低下することや、成形条件幅が狭くなることがある。Mw/Mnが7.0より大きい場合、極端に低分子量成分が多くなり、成形品の強度が低下することがある。
スチレン系樹脂のMw/Mnを3.0~7.0とするためには、例えば、重合時の反応温度を反応溶液が通過する順に高くする方法、連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の種類を多官能(2、3、4官能)とする方法、モノビニル化合物と共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物とをラジカル共重合させて樹脂を製造する場合に、共役ジビニル化合物あるいは多分岐ビニル化合物あるいはその両方を、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル添加する方法がある。また、例えば、2つの反応器において、それぞれ低分子量成分を重合する条件と高分子量成分を重合する条件で重合を行い、2つの重合溶液を合流させる方法、あるいは合流後にさらに重合を行う方法がある。低分子量成分を重合する条件としては、例えば、反応器内の滞留時間を短くする方法、溶媒の量を増加させ、重合温度を高くする方法、連鎖移動剤を使用する方法等がある。高分子量成分を重合する条件としては、例えば、溶媒の量を少なくし、重合温度を低くする方法や、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物または多分岐ビニル化合物あるいはその両方を、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル添加する方法がある。またアニオン重合やカチオン重合などを用いて分子量を制御したスチレン系樹脂組成物を溶液中に添加、もしくは押出機で混練する方法などがある。
【0024】
また、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、重量平均分子量(Mw)に対するz平均分子量(Mz)の比(Mz/Mw)が1.8~6.0であることが好ましく、2.0~5.5であることが更に好ましく、2.5~5.0であることが特に好ましい。z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が1.8以上になることにより成形加工性を向上することができ、(Mz/Mw)が6.0以下になることにより流動性を向上することができる。
スチレン系樹脂組成物のMz/Mwとするためには、例えば、重合時の反応温度を反応溶液が通過する順に高くする方法、連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の種類を多官能(2、3、4官能)とする方法、モノビニル化合物と共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物とをラジカル共重合させて樹脂を製造する場合に、共役ジビニル化合物または多分岐ビニル化合物あるいはその両方を、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル添加する方法がある。また、例えば、2つの反応器において、それぞれ低分子量成分を重合する条件と高分子量成分を重合する条件で重合を行い、2つの重合溶液を合流させる方法、あるいは合流後にさらに重合を行う方法がある。低分子量成分を重合する条件としては、例えば、反応器内の滞留時間を短くする方法、溶媒の量を増加させ、重合温度を高くする方法、連鎖移動剤を使用する方法等がある。高分子量成分を重合する条件としては、例えば、溶媒の量を少なくし、重合温度を低くする方法や、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物または多分岐ビニル化合物あるいはその両方を、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル添加する方法がある。またアニオン重合やカチオン重合などを用いて分子量を制御したスチレン系樹脂組成物を溶液中に添加、もしくは押出機で混練する方法などがある。
【0025】
スチレン系樹脂組成物の数平均分子量(Mn)は、5.0万~20.0万であることが好ましく、5.5万~15.0万であることが更に好ましく、6.0万~10.0万であることが特に好ましい。
【0026】
<最大立上り比>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、最大立上り比が1.1~4.0であることが好ましく、より好ましくは1.2~3.0であり、さらに好ましくは1.1~2.5である。
なお、本願明細書において、「最大立上り比」とは、(最大立上りひずみの非線形領域の伸長粘度/最大立上りひずみの線形領域の伸長粘度)を意味し、「最大立上りひずみ」とは、伸長粘度が最大となる時のヘンキーひずみを意味する。最大立上り比は、最大立上りひずみにおけるひずみ硬化の度合いを表す指標となる。最大立上り比が大きいほど、ひずみ硬化度合いが大きく、成形加工性に優れる。
したがって、最大立上り比が1.1以上であると、高ひずみ時、つまり樹脂が成形加工時に薄く伸ばされた際に伸長粘度が高くなるため、成形品の肉厚が均一になることや、成形時に破れにくくなる傾向がある。最大立上り比が4.0以下であると、成形時の伸長粘度が高くなり過ぎないため、生産性と成形加工性のバランスの観点から好ましい。
【0027】
〈分岐度〉
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の分岐度は0.60~0.95であることが好ましく、より好ましくは0.62~0.92、さらに好ましくは0.65~0.90、よりさらに好ましくは0.65~0.85である。分岐度が0.60よりも小さい場合、分岐が多くなり過ぎ、分岐鎖一本あたりの分子量が小さくなるため、絡み点の数が少なくなり、高ひずみ時に絡み合いがほどけ、十分な成形加工性が得られないことがある。分岐度が0.95よりも大きい場合、分岐が少なく、十分なポリマー鎖同士の絡み合い効果が得られないことがある。
分岐度を0.60~0.95とするためには、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物を添加する方法、あるいは共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物とを同時に添加する方法がある。例えば、モノビニル化合物に、任意選択的に共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物を添加してラジカル共重合することによりスチレン系樹脂組成物を得る場合、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して、ビニル基1つにつき好ましくは4.0×10-6~8.0×10-4モルである(すなわち、ビニル基を2つ有する共役ジビニル化合物の場合は、好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4である)。共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は850~100000であることが好ましい。
なお本開示で、分岐度は、後述の[実施例]の項で説明する手順で算出される値である。
【0028】
〈ゲル化度〉
本実施形態のスチレン系樹脂組成物のゲル化度は1.10~1.60であることが好ましく、より好ましくは1.12~1.55、さらに好ましくは1.15~1.50、よりさらに好ましくは1.18~1.45である。ゲル化度を1.10~1.60の範囲にすることにより、分子量が増加するにつれて分岐が増加することを抑制できるため、スチレン系樹脂組成物中のゲル状物質を低下させることが出来る。また、反応器等の生産設備に長期滞留した際に、生成するゲル状物質の量を低下することが出来るため、生産性が向上させることが可能である。
ゲル化度を1.10~1.60とするためには、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物を添加する方法、あるいは共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物とを同時に添加する方法がある。例えば、モノビニル化合物に、任意選択的に共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物を添加してラジカル共重合することによりスチレン系樹脂組成物を得る場合、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して、ビニル基1つにつき好ましくは4.0×10-6~8.0×10-4モルである(すなわち、ビニル基を2つ有する共役ジビニル化合物の場合は、好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4である)。共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は850~100000であることが好ましい。
なお本開示で、ゲル化度は、後述の[実施例]の項で説明する手順で算出される値である。
【0029】
<スチレン系樹脂>
<スチレン系樹脂の原料および製造方法>
本実施形態のスチレン系樹脂は、特に限定されないが例えば、モノビニル化合物と、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物とをラジカル共重合することによって得ることができる(スチレン系樹脂を分岐状とすることができる)。
以下、一例として、モノビニル化合物と、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物とをラジカル共重合することによるスチレン系樹脂の製造方法について、詳細に説明する。
【0030】
<モノビニル化合物>
本実施形態におけるモノビニル化合物は、スチレン系化合物(単量体)のみからなっていても、スチレン系化合物とともにスチレン系化合物と共重合可能な他のモノビニル基を有する化合物からなっていてもよい。モノビニル化合物としては、スチレン系化合物の他、スチレン系化合物と共重合可能であれば特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリロニトリル等のビニル系化合物、並びにジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、無水マレイン酸、マレイミド、及び核置換マレイミドなどが挙げられる。また、スチレン系化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
スチレン系化合物の含有量としては、モノビニル化合物の含有量のうち50モル%以上が好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0031】
<共役ジビニル化合物>
本実施形態における共役ジビニル化合物は、数平均分子量(Mn)が850~100000であり、かつ、分子内に共役ビニル基を少なくとも2つ有する化合物であることが好ましい。
また、本実施形態における共役ジビニル化合物は、網目状ではなく、鎖状であることが好ましく、主鎖には側鎖を有していても有していなくてもよい。鎖状であることにより、分子鎖をよりリニアな形状にすることができ、それにより、絡み合い効果を向上させやすい傾向があるためである。なお側鎖は、例えば炭素数6以下が好ましく、炭素数4以下がより好ましい。
さらに、共役ジビニル化合物中の共役ビニル基は、分子内の任意に位置させることができるが、少なくとも2つの共役ビニル基のうちの2つの共役ビニル基は、分子中の異なる末端に位置していることが好ましい。また、共役ジビニル化合物が鎖状の場合には、当該2つの共役ビニル基は、主鎖の異なる末端に位置していることがより好ましい(すなわち、主鎖の両末端が共役ジビニル基になっていることがより好ましい)。共役ビニル基が末端に位置していることにより重合反応性を高めることができる。
さらに、共役ジビニル化合物が鎖状であり、かつ、3つ以上の共役ビニル基を有する場合には、3つ以上の共役ビニル基のうち2つの共役ビニル基が末端に位置することが好ましく、当該3つ以上の共役ビニル基全てが末端に位置することがより好ましい。
なお、共役ジビニル化合物における共役ビニル基の数が多い場合には、分岐点が増え、反応器や原料を回収する工程においてゲル化が起こりやすくなる可能性が生じ、スチレン系樹脂の透明性の悪化や、反応器や成形機の洗浄が必要になり生産性が低下することがある。これらの観点から、共役ジビニル化合物が有する共役ビニル基の数は、5つ以下であることが好ましく、4つ以下であることがより好ましく、3つ以下であることがさらに好ましい。また、同様な観点から、共役ジビニル化合物の共役ビニル基は2つであることが特に好ましい。
ここで、本明細書において、分子について「末端」とは、分子の最も端となる位置(原子)のみならず、分子の最も端となる位置に近接した位置を含むものとし、当該近接した位置とは、具体的に、分子の伸び切り鎖長の約20%に相当する端部を意味する。そして、共役ジビニル化合物中の共役ビニル基は、モノビニル化合物との反応性の向上及びゲル化の抑制の観点から、共役ジビニル化合物分子の伸び切り鎖長の15%に相当する端部に位置することがより好ましく、10%に相当する端部に位置することがさらに好ましく、5%に相当する端部に位置することが一層好ましい。
【0032】
本実施形態において共役ビニル基とは、モノビニル化合物と共重合可能なオレフィン性二重結合と、当該オレフィン性二重結合と共役系を形成する構造(限定されないが例えばカルボニル基、アリール基等)とを有する基である。共役ビニル基としては、特に限定されないが、例えば、アクリロイル基、ビニル基で置換されたアリール基が挙げられ、また、共役ジビニル化合物中の共役ビニル基を有する構造としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ビニル、マレイン酸、フマル酸等が付加した構造も挙げられる。なお、少なくとも2つの共役ビニル基は、相互に同じであっても異なっていてもよい。
【0033】
本実施形態の共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、850~100000であることが好ましく、より好ましくは1000~80000、さらに好ましくは1200~80000、さらにより好ましくは1500~60000、特に好ましくは1500~30000である。数平均分子量(Mn)が850未満の場合は、共役ジビニル化合物の共役ビニル基間の距離が短いため、共役ジビニル化合物に結合したポリマー鎖間の距離が短くなり、十分な絡み合い効果が得られず、成形加工性に劣ることがある。分子量が100000を超える場合は、共役ジビニル化合物の共役ビニル基間の距離が長くなり、末端にある共役ビニル基の反応性が低下し(共役ジビニル化合物の分子量が大きいので末端の共役ビニル基が反応しにくくなる)、高分子量成分の生成量が低下することがある。
なお本開示で、共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を意味する。
【0034】
本実施形態の共役ジビニル化合物の主鎖構造としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン等のポリオレフィンやポリスチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
【0035】
具体的な共役ジビニル化合物としては、(水添)ポリブタジエン末端(メタ)アクリレート(「(水添)」は、水素添加された又は水素添加されていない化合物を指す。以下同様である。)、ポリエチレングリコール末端(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール末端(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールA末端(メタ)アクリレート、及びエトキシ化ビスフェノールF末端(メタ)アクリレート等の末端ジ(メタ)アクリレート化合物、並びに(水添)ポリブタジエン末端ウレタンアクリレート、ポリエチレングリコール末端ウレタンアクリレート、ポリプロピレングリコール末端ウレタンアクリレート、エトキシ化ビスフェノールA末端ウレタンアクリレート、及びエトキシ化ビスフェノールF末端ウレタンアクリレート等の末端ウレタンアクリレート化合物等が挙げられる。例えば、ポリプロピレングリコール末端(メタ)アクリレートの場合は、数平均分子量(Mn)が850~100000となるように繰返し単位のプロピレングリコールの結合数が決められる。共役ジビニル化合物は、スチレン系樹脂との相溶性の観点から、(水添)ポリブタジエン末端(メタ)アクリレート、ポリスチレン末端(メタ)アクリレート、ポリフェニレンエーテル末端ジビニルであることが好ましい。なお、化合物名中の「末端」や「両末端」は、最も端の両方に共役ビニル基が位置することを意味する。
【0036】
<共役ジビニル化合物の含有量>
本実施形態のスチレン系樹脂における共役ジビニル化合物の含有量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル、より好ましくは5.0×10-6~3.5×10-4モル、さらに好ましくは1.5×10-5~3.0×10-4モル、さらにより好ましくは2.0×10-5~2.5×10-4モルである。含有量が2.0×10-6モル未満の場合は、高分子同士の十分な絡み合いが生じにくく、ひずみ硬化が発現しない、あるいはひずみ硬化の度合いが小さいために、成形品の肉厚が不均一であったり、成形時に成形品が破けることが有り、成形加工性が劣ることがある。一方、含有量が4.0×10-4モルを超える場合は、ゲル状物質の発生が多く、成形品の外観等が不良となることがある。
なお本開示で、モノビニル化合物の総量1モルに対する共役ジビニル化合物の含有量は、H-NMR及び13C-NMRを使用して測定される値である。
【0037】
<多分岐ビニル化合物>
本実施形態における多分岐ビニル化合物において、多分岐とは、1つ以上の枝分かれ構造を有することを意味し、より具体的には、星型分岐構造、ポン-ポン型分岐構造、グラフト分岐構造、H型分岐構造を有することを意味する。
多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、850~100000であることが好ましく、より好ましくは1000~80000、さらに好ましくは1200~80000、さらにより好ましくは1500~60000、特に好ましくは1500~30000である。数平均分子量(Mn)が850未満の場合は、ビニル基間の距離が短いため、共役ジビニル化合物に結合したポリマー鎖間の距離が短くなり、十分な絡み合い効果が得られず、成形加工性に劣ることがある。分子量が100000を超える場合は、ビニル基間の距離が長くなり、ビニル基の反応性が低下し(多分岐ビニル化合物の分子量が大きいので末端のビニル基が反応しにくくなる)、高分子量成分の生成量が低下することがある。
なお本開示で、多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用して測定される値である。
【0038】
多分岐ビニル化合物は、例えば、特開2016-113580や、特開2016-113598に記載の方法で合成することができる。例えば、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン等のジビニル芳香族化合物類や、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートに代表される脂肪族、脂環式(メタ)アクリレート類等と、スチレン、エチルビニルベンゼン等のモノビニル化合物と、2-フェノキシエチルメタクリレート等の末端変性剤とをカチオン重合させて多分岐ビニル化合物を合成する方法がある。また、多分岐構造を有し、複数のヒドロキシル基を有する多価アルコールやポリエステルポリオールに、ビニル基、例えば、イソプロペニル基等の重合性二重結合をエステル化、あるいは付加する方法等が挙げられる。ここで、多分岐構造を有し、複数のヒドロキシル基を有する多価アルコールとしては、2~100個のヒドロキシル基を有し、炭素数70~3000のアルコールであることが好ましい。
【0039】
<多分岐ビニル化合物の含有量>
本実施形態のスチレン系樹脂における多分岐ビニル化合物の含有量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル、より好ましくは5.0×10-6~3.5×10-4モル、さらに好ましくは1.5×10-5~3.0×10-4モル、さらにより好ましくは2.0×10-5~2.5×10-4モルである。含有量が2.0×10-6モル未満の場合は、高分子同士の十分な絡み合いが生じにくく、ひずみ硬化が発現しない、あるいはひずみ硬化の度合いが小さいために、成形品の肉厚が不均一であったり、成形時に成形品が破けることが有り、成形加工性が劣ることがある。一方、含有量が4.0×10-4モルを超える場合は、ゲル状物質の発生が多く、成形品の外観等が不良となることがある。
【0040】
<重合工程>
本実施形態のスチレン系樹脂の重合方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法等、公知のスチレン重合方法が挙げられる。これらの重合方法は、バッチ重合法であっても連続重合法であってもよく、生産性の点から連続重合法であることが好ましい。連続塊状重合法としては、例えば、モノビニル化合物、共役ビニル基を有する共役ジビニル化合物、必要に応じて溶剤、重合触媒、及び連鎖移動剤等を添加及び混合して、単量体類を含む原料溶液を調製する。直列及び/又は並列に配列された1個以上の反応器と、未反応単量体等の揮発性成分を除去する脱揮工程のための脱揮装置とを備えた設備に、上記原料溶液を連続的に送入し、段階的に重合を進行させる方法が挙げられる。
【0041】
反応器としては、例えば、完全混合型反応器、層流型反応器、重合を進行させながら一部の重合液を抜き出すループ型反応器等が挙げられる。これら反応器の配列の順序に、特に制限は無い。
【0042】
本実施形態のスチレン系樹脂を重合する際には、重合反応の制御の観点から、必要に応じて重合溶媒を使用することができる。重合溶媒は、一般的に連続塊状重合や連続溶液重合において重合速度や分子量等を調整するために用いられる。重合溶媒としては、特に制限はないが、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、及びキシレン等のアルキルベンゼン類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、並びにヘキサン及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。重合溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、ゲル化の制御、生産性の向上、分子量の増大等の観点から、通常、重合反応器内の組成として1~50質量%であることが好ましく、3~40質量%であることがより好ましい。
【0043】
また、本実施形態のスチレン系樹脂を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、有機過酸化物等の重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させることができる。重合開始剤としては、特に制限はないが、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、及びn-ブチル-4,4ービス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、及びジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、及びイソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、並びにt-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。重合開始剤は、モノビニル化合物に対して0.005~0.08質量%使用することが好ましい。連鎖移動剤としては、特に制限はないが、例えば、α-メチルスチレンダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、及びn-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。連鎖移動剤は、モノビニル化合物に対して0.01~0.50質量%使用することが好ましい。
【0044】
また、本実施形態のスチレン系樹脂は、多官能の重合開始剤と単官能の重合開始剤を併用して重合することが好ましい。また、この場合において、単官能の重合開始剤は、モノビニル化合物の重合率が40%を超えた反応器に添加し、及び/又は、連鎖移動剤と同時に添加することがより好ましい。
【0045】
<脱揮工程>
脱揮装置としては、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができ、一般的には加熱器付きの真空脱揮槽や脱揮押出機等が用いられる。脱揮装置の配列としては、例えば、加熱器付きの真空脱揮槽を1段のみ使用したもの、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、及び加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したもの等が挙げられる。揮発成分を極力低減するためには、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したものが好ましい。
【0046】
脱揮工程の条件は特に制限されず、例えば、モノビニル化合物の重合を塊状重合で行なう場合は、最終的に未反応のモノビニル化合物が、スチレン系樹脂中に好ましくは50質量%、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進めることができる。脱揮処理により、未反応物(モノビニル化合物)及び/又は溶剤等の揮発分を除去することができる。
【0047】
脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度である。脱揮処理の圧力は、好ましくは0.1~50kPa、より好ましくは0.13~13kPa、更に好ましくは0.13~7kPa、特に好ましくは0.13~1.3kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して脱揮する方法や、揮発成分を除去するよう設計された押出機等を通して脱揮することが望ましい。
【0048】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、例えば、スチレン系樹脂と、後述の任意選択的に添加剤等とを含む。スチレン系樹脂組成物中のスチレン系樹脂の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0049】
<添加剤等>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、任意選択的に添加剤等を含んでいてもよく、例えば、必要に応じて、ゴム質を含有する成分としてHIPS樹脂、MBS樹脂等のゴム強化芳香族ビニル系樹脂やSBS等の芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーを1~50質量%程度含有していてもよい。また、スチレン系樹脂組成物は、未反応モノマーの回収工程における高分子の熱分解を抑制するために、例えば2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-フェニルペンチル)エチル]-4,6-ジ-t-フェニルペンチルアクリレートのような加工安定剤が含まれていてもよい。また、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-フェニルペンチル)エチル]-4,6-ジ-t-フェニルペンチルアクリレート等の熱劣化防止剤、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸及びその塩や、エチレンビスステアリルアミド等の滑剤、流動パラフィン等の可塑剤、酸化防止剤等を本実施形態の目的を損なわない範囲で組み合わせて含有させてもよい。その他、スチレン系樹脂の分野で慣用されている添加剤、例えば難燃剤、着色剤等を、本実施形態の目的を損なわない範囲で組み合わせて、スチレン系樹脂組成物に含有させてもよい。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン等の難燃剤、酸化チタン、カーボンブラック等の着色剤等が挙げられる。またスチレン系樹脂をペレットとする場合には、当該ペレットの外部潤滑剤として、エチレンビスステアリルアミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等をペレットにまぶして使用してもよい。
【0050】
酸化防止剤は、一般的に、熱成形時又は光暴露により生成したハイドロパーオキシラジカル等の過酸化物ラジカルを安定化するか、又は生成したハイドロパーオキサイド等の過酸化物を分解することができる成分である。酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、過酸化物分解剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、ラジカル連鎖禁止剤として、過酸化物分解剤は、系中に生成した過酸化物をさらに安定なアルコール類に分解して自動酸化を防止することができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されないが、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スタイレネイテドフェノール、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、アルキレイテッドビスフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、及び3,9-ビス[2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニロキシ〕-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキシスピロ〔5・5〕ウンデカン等が挙げられる。過酸化物分解剤としては、以下に限定されないが、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、及びトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等の有機リン系過酸化物分解剤、並びにジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオネート、及び2-メルカプトベンズイミダゾール等の有機イオウ系過酸化物分解剤が挙げられる。酸化防止剤の添加量は、スチレン系樹脂組成物中のスチレン系樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上1質量部以下が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上0.5質量部以下である。
【0051】
難燃剤としては、以下に限定されないが、難燃性やスチレン系樹脂との相溶性等の観点から、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、臭素化SBSブロックポリマー、及び2,2-ビス(4’(2”,3”-ジブロモアルコキシ)-3’,5’-ジブロモフェニル)-プロパン等の臭素系難燃剤、並びに臭素化ビスフェノール系難燃剤が挙げられる。
【0052】
臭素化ビスフェノール系難燃剤としては、以下に限定されないが、例えば、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS-ビス(2,3-ジブロモ-2メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールF、テトラブロモビスフェノールF-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールF-ビス(2,3-ジブロモ-2メチルプロピルエーテル)テトラブロモビスフェノールA-ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAポリカーボネートオリゴマー、及びテトラブロモビスフェノールAオリゴマーのエポキシ基付加物等が挙げられる。臭素化ビスフェノ-ル系難燃剤の中でも、特に、テトラブロモビスフェノ-ルAビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、及びテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2メチルプロピルエーテル)は、ポリスチレン系樹脂との混練時において分解しにくく、難燃効果も高く発現し易い傾向にあるため好ましい。テトラブロモビスフェノ-ルA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)とテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2メチルプロピルエーテル)とを併用すると、難燃性と熱安定性に優れる傾向にあるためより好ましい。
【0053】
臭素系難燃剤を用いる際には、臭素化イソシアヌレート系難燃剤を難燃助剤として併用することが好ましい。臭素化イソシアヌレート系難燃剤としては、以下に限定されないが、例えば、モノ(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、ジ(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、及びトリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、モノ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、ジ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、トリス(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート等が挙げられる。臭素化イソシアヌレートの中でも、特に、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートは極めて高い難燃効果が発現するため、好ましい。
【0054】
臭素系難燃剤の含有量としては、スチレン系樹脂組成物中のスチレン系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上9質量部以下、更に好ましくは2質量部以上8質量部以下である。0.1質量部以上である場合は難燃性を十分に確保できる傾向にあり、10質量部以下である場合は発泡シートを製造する際の成形加工性を充分に良好なものとできる傾向にある。
【0055】
上記流動パラフィンは、例えば、食品衛生法、食品、添加物等の規格基準で定められた流動パラフィンから選択することができる。この種の流動パラフィンの具体例としては、以下に限定されないが、エクソンモービル社から市販されているクリストールN52、クリストールN62、クリストールN72、クリストールN82、クリストールN122、クリストールN172、クリストールN262、クリストールN352、プライモールN542等が挙げられる。また、(株)松村石油研究所から市販されているモレスコホワイトP-40、モレスコホワイトP-55、モレスコホワイトP-60、モレスコホワイトP-70、モレスコホワイトP-80、モレスコホワイトP-85、モレスコホワイトP-100、モレスコホワイトP-120、モレスコホワイトP-150、モレスコホワイトP-200、モレスコホワイトP-230、モレスコホワイトP-260、モレスコホワイトP-300、モレスコホワイトP-35 0、モレスコホワイトP-350P等が挙げられる。さらに、三光化学工業(株)から市販されている流動パラフィン40-S、60-S、70-S、80-S、90-S、100-S、120-S、150-S、260-S、350-S等が挙げられる。さらにまたCK Witco Corporationから市販されているホワイトミネラルオイルが挙げられる。
【0056】
上記流動パラフィンの分子量は通常、動粘度で規定される。本実施形態における流動パラフィンとしては、例えば、試験方法JIS K2283で規定される40℃の動粘度が0.1~60mm/秒の範囲のものを用いることができ、1~40mm/秒のものが好ましい。また、流動パラフィンの好ましい重量平均分子量は、150~500の範囲であり、より好ましくは180~450の範囲であり、さらに好ましくは200~350の範囲である。重量平均分子量は、例えばガスクロマトグラフィーを用い、流動パラフィンの各分子量成分の重量平均値をとることで求められる。この粘度範囲あるいはこの分子量範囲の流動パラフィンを用いる場合、より高粘度あるいはより高分子量の流動パラフィンに比較して、得られるスチレン系樹脂組成物を大きく可塑化し、スチレン系樹脂組成物の成形加工性、例えば成形品の表面光沢を大きく向上させる傾向にある。なお、粘度0.1mm/秒以上あるいは重量平均分子量150以上の流動パラフィンを用いることは、得られるスチレン系樹脂組成物の成形加工時に、金型汚染や成形品表面へのブリードを効果的に抑制する傾向があるため、好ましい。
【0057】
上記スチレン系樹脂組成物における流動パラフィンの含有量は、スチレン系樹脂100質量部に対して、好ましくは3.0質量部未満であり、より好ましくは1.0質量部未満であり、さらに好ましくは0.5質量部未満である。流動パラフィンの含有量が5.0質量部未満であることにより、二次成形加工性と成形品の強度及び耐熱性のバランスに優れた成形品を得ることができる。
【0058】
また、本実施形態においては、熱劣化防止剤を、スチレン系樹脂組成物の重合工程あるいは脱揮工程において、また重合工程後、脱揮工程前において添加することが好ましい。特に、重合工程の終了後(好ましくは直後)であって脱揮工程の前に熱劣化防止剤を添加することが好ましい。熱劣化防止剤を添加することにより、熱分解によって発生したラジカルを安定化させ、熱分解量を低減することができる。
【0059】
熱劣化防止剤としては、例えば、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(商品名:スミライザーGM、住友化学社製)、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-フェニルペンチル)エチル]-4,6-ジ-t-フェニルペンチルアクリレート(商品名:スミライザーGS、住友化学社製)、2,4-ビス(オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール(商品名:イルガノックス1520L)といったフェノール系熱劣化防止剤やオクタデシル-3-(3,5-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール等のヒンダートフェノール系酸化防止剤、トリス(2,4-ジ-ターシャリーブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工熱安定剤等を挙げることができる。これらの熱劣化防止剤は、それぞれ単独、あるいは2種以上を組み合わせて適宜用いてもよい。
【0060】
熱劣化防止剤の含有量は、最終反応器出口のスチレン系樹脂組成物中のスチレン系樹脂100質量部に対して好ましくは0.01~0.5質量部、より好ましくは0.02~0.3質量部、さらに好ましくは0.03~0.2質量部である。
熱劣化防止剤の含有量が0.01質量部以上であると、脱揮工程でのモノビニル化合物の単量体、及びその二量体や三量体の生成をより効果的に抑制することができる。一方、熱劣化防止剤の含有量を0.5質量部より多くしても、含有量に見合うだけの効果が得られない。
【0061】
《スチレン系樹脂組成物の製造方法》
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、例えば、上述のモノビニル化合物と共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物とを上述の製造方法でラジカル重合して得られるスチレン系樹脂と、上述の添加剤等とを単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー等の公知の混練機を用いて溶融混練する方法等で得ることができる。なお、上述のスチレン系樹脂の製造工程において、上述の添加剤等を適宜添加することにより、本実施形態のスチレン系樹脂組成物を製造してもよい。
【0062】
《発泡シート》
本実施形態の発泡シートは、上記の本実施形態のスチレン系樹脂組成物を含み、厚みを0.5~5.0mmとすることができる。また、本実施形態の発泡シートは、見かけ密度が50~300g/L、坪量が80~300g/mであることが好ましい。
本実施形態の発泡シートは、シート上にフィルムをラミネートしてもよい。フィルムの種類としては、一般のポリスチレンに使用されるものを使用することができる。
本実施形態の発泡シートは、成形加工性とリサイクル性のバランスに優れ、かつ臭気が少ない。
【0063】
本実施形態の発泡シートに含まれる発泡剤及び発泡核剤については、通常用いられる物質を使用することができる。発泡剤としては、特に限定されないが、例えば、ブタン、ペンタン、フロン、及び水等が挙げられ、ブタンが好適である。発泡核剤としては、特に限定されないが例えば、タルク、炭酸カルシウム、クレー等の無機物粉末が挙げられ、タルクが好適である。
【0064】
〈発泡シート中のスチレン単量体の残存量〉
本実施形態の発泡シート中のスチレン単量体の残存量は、発泡シート100質量%に対して好ましくは10~500質量ppmであり、より好ましくは20~300質量ppm、さらに好ましくは30~200質量ppmである。スチレン単量体の残存量が10~500質量ppmであることにより、発泡シートの臭気を低減することができる。
なお本開示で、スチレン単量体の残存量は、ガスクロマトグラフィー(GC)を使用して測定される値である。
【0065】
《発泡シートの製造方法》
本実施形態の発泡シートの製造方法は、通常知られている方法を用いて行うことができる。例えば、特に限定されないが、押出機で本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物、発泡剤、及び発泡核剤を溶融混練して押し出す方法が挙げられ、より詳細には以下のとおりである。
まず、サーキュラーダイに接続された押出機で本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物を溶融混練し、当該溶融混練物を上記サーキュラーダイの前方に設けられた円環状の開口から上記溶融混練物を発泡状態で押出して、円筒状の発泡体を形成する。次いで、上記発泡体を上記サーキュラーダイの上記開口よりも径大な冷却マンドレルの外周面に摺接させて周方向に延伸しつつ冷却し、これを押し出し方向に沿って連続的に切断して展開するような通常知られている方法を用いることができる。
【0066】
《非発泡シート》
本実施形態において、非発泡シートは、上記の本実施形態のスチレン系樹脂組成物を含み、シート厚みを1μm以上5mm以下とすることができる。
本実施形態において、非発泡シートは、シート上にフィルムまたはシートと多層化してもよい。多層化する樹脂の種類としては、一般のポリスチレンに使用されるものを使用することができる。
本実施形態の非発泡シートは、成形加工性とリサイクル性のバランスに優れ、かつ臭気が少ない。
【0067】
《非発泡シートの製造方法》
本実施形態において、非発泡シートの製造方法は、通常知られている方法を用いて行う古語ができる。上記スチレン系樹脂組成物を、従来公知の任意の成形加工方法、以下に限定されないが、例えば、インフレーション成形、押出成形で溶融混練した後、ダイスより押し出すことや圧縮成形によって製造する方法が挙げられる。本実施形態において、上記スチレン系共重合体を含む押出シートを製造する際の条件は特に限定されないが、樹脂温度を150~250℃の範囲で製造することが好ましい。
【0068】
《成形品》
本実施形態における成形品は、本実施形態の発泡シートや非発泡シートの二次成形品とすることができる。本実施形態の発泡シートや非発泡シートを、例えば、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、両面真空成形、プレス成形等の従来公知の方法で二次成形することにより成形品を得ることができる。非発泡シートより得られる成形品としては、例えば、トレー、コップ、丼容器、納豆容器等の二次成形品が挙げられ、発泡シートより得られる成形品としては、例えば弁当の蓋材又は惣菜等を入れる容器等の二次成形品が挙げられる。
本実施形態の二次成形品の例としては、本実施形態の発泡シートを成形素材として、真空成形機により、横方向を押出方向として、縦5.5~21cm、横6.5~36cm、深さ1.1~3.4cmの食品用トレー容器が挙げられる。真空成型の温度条件としては、特に限定されないが、通常、120~150℃が好ましい。
【0069】
成形方法としては、射出成形、押出成形、真空成形、圧空成形、押出発泡成形、カレンダー成形、ブロー成形等を好適に使用でき、各種成形品を従来よりも広い用途で得ることができる。
【実施例0070】
以下、実施例及び比較例により本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
《測定及び評価方法》
測定及び評価方法は、以下のとおりである。
【0072】
(1)スチレン1モルに対する共役ジビニル化合物の含有モル数の測定
スチレン系樹脂組成物における、スチレン1モルに対する共役ジビニル化合物の含有モル数は、H-NMR及び13C-NMRを使用して測定した。測定装置としては、日本電子(株)社製のJEOL-ECA500を使用した。溶媒としてクロロホルム-d1を使用し、テトラメチルシランの共鳴線を内部標準として使用した。
【0073】
(2)分子量の測定
スチレン系樹脂組成物の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、Mw/Mn、ピークトップ分子量(Mtop)、所定の分子量成分の含有量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
装置:東ソー製HLC―8220
分別カラム:東ソー製TSK gel Super HZM-H(内径4.6mm)を直列に2本接続
ガードカラム:東ソー製TSK guard column Super HZ-H
測定溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
試料濃度:測定試料5mgを10mLの溶媒に溶解し、0.45μmのフィルターでろ過を行った。
注入量:10μL
測定温度:40℃
流速:0.35mL/分
検出器:紫外吸光検出器(東ソー製UV-8020、波長254nm)
検量線の作成には東ソー製のTSK標準ポリスチレン11種類(F-850、F-450、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000)を用いた。1次直線の近似式を用いて検量線を作成した。
【0074】
(3)分岐度、ゲル化度の測定
スチレン系樹脂組成物の分岐度、ゲル化度の測定を行うに当たり、スチレン系樹脂組成物の絶対分子量を測定した。絶対分子量は、多角度光散乱検出器(MALS)を用いて、以下の条件で測定した(以下、「MALS法」と称する場合がある。)。
装置:Malvern社製GPCmax
分別カラム:Shodex製KF806‐Lを直列に2本接続
ガードカラム:Shodex製GPC KFG-4A
測定溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
試料濃度:測定試料10mgを10mLの溶媒に溶解し、0.45μmのフィルターでろ過を行った。
注入量:100μL
測定温度:40℃
流速:1.00mL/分
検出器:示差屈折計(Malvern社製 TDA305)
MALS検出器:Malvern社製Viscotek SEC-MALS 20
MALS検出角度:12°、20°、28°、36°、44°52°、60°、68°、76°、84°、90°、100°、108°、116°、124°、132°、140°、148°、156°、164°
MALS検出器温度:40℃
標準試料としてPS105Kを使用し、解析ソフトOmniSEC5.1を用いてBerryプロットの一次式を使用し解析を行った。
【0075】
次いで、スチレン系樹脂組成物の分岐度、ゲル化度を、上述のMALS法で行った測定に基づき算出した。横軸をlog Molecular weight、縦軸をlog radius of gyrationとしたグラフを作成した。このグラフに、直鎖ポリスチレン(PS245K)について、log Molecular weightの値が5.0~6.0の範囲で線形の近似直線を作成し、これを、分岐構造を持たない直鎖ポリスチレンの基準値とした。
ここで、log Molecular weightの値が6.0、6.5の時のlog radius of gyrationの値をそれぞれ<Rg6.0>、<Rg6.5>と定義し、PS245Kの<Rg6.0>、<Rg6.5>をそれぞれ<Rg6.0>245、<Rg6.5>245と定義する。なお、<Rg6.5>245は、近似直線の外挿値から計算することができる。
分岐度は、分岐度=<Rg6.5>/<Rg6.5>245と定義する。この分岐度は、絶対分子量106.5=316万において、直鎖ポリスチレンであるPS245Kに対して回転半径がどの程度小さくなっているかを意味しており、分岐度が小さいほど、対象のポリマーが分岐していることを表している。
また、ゲル化度は、ゲル化度=(<Rg6.0>/<Rg6.0>245)/(<Rg6.5>/<Rg6.5>245)と定義する。このゲル化度は、絶対分子量106.0から106.5にかけての、ポリマーの回転半径の変化の割合を表す。すなわち、分子量が大きくなるにつれて分岐がどの程度多くなっているかを意味しており、ゲル化度が大きいほど、分子量が大きくなるにつれて分岐が多くなっていることを表している。
【0076】
(4)メルトマスフローレート(MFR)の測定
スチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレート(g/10分)は、ISO1133に準拠して、200℃、49Nの荷重条件にて測定した。
【0077】
(5)ビカット軟化温度
JIS K7206に準拠して、スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度(℃)を測定した。荷重は49N、昇温速度は50℃/hとした。
【0078】
(6)最大立ち上がり比の測定
スチレン系樹脂組成物の最大立ち上がり比の測定は、以下の粘弾性測定に基づいて行った。
装置名:粘弾性測定装置 ARES-G2(TA Instruments社製)
測定システム:ARES-EVFオプション
試験片寸法:長さ20mm、厚さ0.7mm、幅10mm
伸長ひずみ速度:0.01/秒
温度:150℃
測定雰囲気:窒素気流中
予熱時間:2分
予備伸長ひずみ速度:0.03/秒
予備伸長長さ:0.295mm
予備伸長後緩和時間:2分
粘弾性測定は、試験片をローラーに取り付け、温度が測定温度で安定した後、上記の予熱時間、静置し、予熱を行った。予熱終了後、上記の条件で予備伸長を行った。予備伸長後、2分間静置し、予備伸長で生じた応力を緩和させ、測定した。
【0079】
上記の粘弾性測定で得られた結果から、横軸にヘンキーひずみを、縦軸に伸長粘度をプロットした両対数グラフを作成し、ヘンキーひずみが0.2~0.5の範囲を線形領域として累乗近似の線形領域直線を作成した。ひずみ硬化が起こると、この線形領域を外挿した近似曲線の伸長粘度よりも、実際の伸長粘度が大きくなる。
最大立ち上がり比は、上記の粘弾性測定において伸長粘度が最大となる時のヘンキーひずみを最大立ち上がりひずみとして、(最大立ち上がりひずみにおける非線形領域の伸長粘度/最大立ち上がりひずみにおける線形領域を外挿した近似直線の伸長粘度)で算出した。
【0080】
(7)溶融張力
スチレン系樹脂組成物の溶融張力(g)は、以下の条件で測定を行った。
装置名:キャピラリーレオメーター RH10 (マルバーン製)
測定温度:190℃
押出速度:20mm/分
引取速度:3.1m/分
乾燥条件:測定前にスチレン系樹脂組成物を80℃で3時間乾燥させた。
シリンダー径:15mm
キャピラリーダイ長さ:L=16mm
キャピラリーダイ径:D=1mm(L/D=16)
上記測定条件にて、荷重が安定した範囲を平均化して溶融張力値とした。引取中にストランドが切れる場合や、荷重の変動係数が10%を超える場合は測定不可とした。
【0081】
(8)スチレンダイマーとトリマーの合計含有量の測定
スチレン系樹脂組成物中における、スチレンダイマーとトリマーの合計残存量(質量ppm)を、下記の条件や手順で、測定した。
・試料調製:スチレン系樹脂組成物1.0gをメチルエチルケトン10mLに溶解後、更に標準物質(トリフェニルメタン)入りのメタノール3mLを加えポリマー成分を再沈殿させ、上澄み液を採取し、測定液とした。
・測定条件
機器:Agilent社製 6850 シリーズ GCシステム
検出器:FID
カラム:HP-1(100%ジメチルポリシロキサン)30m、膜厚0.25μm、0.32mmφ
注入量:1μL(スプリットレス)
カラム温度:40℃で1分保持→20℃/分で320℃まで昇温→320℃で10分保持
注入口温度:250℃
検出器温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム
【0082】
(9)シートの深絞り成形性の評価
30mmφシート押出機(創研株式会社製)を用いてスチレン系樹脂組成物を押し出し、厚さ0.5mmのシートを作成した。得られたシートから縦250mm×横250mmの大きさに試験片を20枚切出し、創研製のシート容器成型機を用いて、このシート成型機の固定枠でシートを挟み、ヒータの平均温度を220℃、雰囲気温度を110℃に設定し、20秒間加熱した。次いで、径10cm深さ10cmの丼容器の金型(温度40℃)に固定枠ごとスライドさせて真空成形を行い、深絞りされた成形体を30個成形した。この成形体の側面に引裂きが生じていないかを目視で確認し、引裂きが起こらず成形可能であった成形体の個数を成形加工性の指標とした。
【0083】
(10)シートの最大成形可能加熱時間の測定
上記(9)の深絞り成形時に加熱する時間を20秒から1秒ずつ伸ばしていき、その他の条件を変えずに真空成形を行い、成形体を10個ずつ成形した。(9)と同様に目視で確認し、成形可能であった成形体の数が7個以下になるまで加熱時間を伸ばしていった。8個以上成形可能であった最大の加熱時間をシートの最大成形可能加熱時間(秒)と定義し、測定した。
【0084】
(11)発泡シート中のスチレン単量体の残存量の測定
発泡シート中のスチレン単量体の残存量(質量ppm)は、以下の測定条件で、ガスクロマトグラフィー法で測定した。発泡シート1gをジメチルフォルアミド25mLに溶解し、測定試料を調整した。
測定条件
検出方法 :FID
機器 :島津製製作所 GC14B
カラム :CHROMAPACK CP WAX 52CB
100m、膜厚2μm、0.52mmφ
カラム温度 :110℃で10分間保持し、15℃/分で130℃まで昇温し、130℃で2分間保持した。
注入口温度 :150℃
検出器温度 :150℃
キャリアガス :ヘリウム
【0085】
(12)発泡シートの深絞り成形性の評価
発泡シートを23±3℃、相対湿度50±5%にて20日間にわたって放置した。その後、創研製のシート容器成型機を用いて、このシート成型機の固定枠で発泡シートを挟み、ヒータの平均温度を200℃、雰囲気温度を130℃に設定し、15秒間加熱した。次いで、径10cmで深さ3cm又は6cmの深さが異なるコップ状の金型(温度40℃)に固定枠ごとスライドさせて真空成形を行い、成形体を100個ずつ成形した。この成形体の側面に引裂きが生じていないかを目視で確認し、引裂きが起こらず成形可能であった成形体の個数を深絞り成形性の指標とした。
【0086】
(13)発泡シートの最大成形可能加熱時間の測定
上記(12)の深絞り成形時に、加熱する時間を15秒から1秒ずつ伸ばしていき、その他の条件を変えずに真空成形を行い、成形体を10個ずつ成形した。(12)と同様に目視で確認し、成形体の成形が可能であった発泡シートの数が7個以下になるまで加熱時間を伸ばしていった。8個以上の成形体の成形が可能であった最大の加熱時間を発泡シートの最大成形可能加熱時間(秒)と定義し、測定した。
【0087】
(14)リサイクル性
スチレン系樹脂組成物を、2軸押出機(ナカタニ機械株式会社製:AS20-2)を使用し、スクリュー内3ゾーン温度を樹脂が通過する順に180、200、220℃に制御し押出を3回実施した。押出前のスチレン系樹脂組成物と、3回押出した後のスチレン系樹脂組成物の分子量を上記のGPCにて測定した。測定して得られた分子量について、3回押出後のスチレン系樹脂組成物中の分子量5万以下の成分の割合の、押出前のスチレン系樹脂組成物中の分子量が5万以下の成分の割合に対する比(「3回押出後の分子量5万以下成分の割合」/「押出前の分子量5万以下の割合」(%))をリサイクル性の指標とした。
【0088】
(15)臭気
上記(8)の方法で製造した容器(寸法:径10cm、深さ10cm)について、アルミホイルにて蓋をして、80℃で30分加熱後、蓋を空けた時の臭いを嗅ぐことで、臭気の評価をおこなった。3回実施し、1回も臭気のないものを◎、1~2回臭気のあるものを○、3回とも臭気のあるものを×とした。
【0089】
《材料》
実施例及び比較例においては、以下の材料を用いた。
【0090】
〈スチレン系樹脂〉
〈モノビニル化合物〉
・スチレンモノマー[旭化成社製]
・ブチルアクリレート[富士フィルム和光純薬社製]
【0091】
〈共役ジビニル化合物〉
〈共役ジビニル化合物1〉
ポリブタジエン末端アクリレート[大阪有機化学工業社製:BAC‐45] Mn:4800
【0092】
〈共役ジビニル化合物2〉
ウレタンアクリレートオリゴマー[巴工業社製:CN9014NS] Mn:8000
【0093】
〈共役ジビニル化合物3〉
共役ジビニル化合物3は、下記の方法に基づいて製造した。
撹拌機、温度計及び還流冷却管を取り付けた容量10Lの反応容器内に、ポリブタジエン両末端アルコール(Mn:26000)37522g、アクリル酸メチル379g、n-ヘキサン380g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.8194g、及び4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル0.5533gを仕込んだ。得られた混合物を塩化カルシウム管内に通しながら、その混合物に空気を吹き込み、80~85℃で還流脱水を行った。この混合物に含まれている水分をカールフィッシャー法により測定し、その含水量が200ppm以下であることを確認した。その後、エステル交換触媒として、テトラn-ブチルチタネート1.3685gを上記混合物に添加し、生成したメタノールをその共沸溶媒であるn-ヘキサンの還流下で反応系外に留去しながら、攪拌下で80~85℃の反応温度で10時間反応させた。
次に、反応容器内の温度を75~80℃に調整し、使用したアクリル酸メチル及びn-ヘキサンの95%以上が留出するまで減圧度70~2kPaで濃縮し、過剰のアクリル酸メチルとn-ヘキサンを回収した。得られたポリブタジエン両末端ジアクリレート2070gに、トルエン2000g、アセトン200g、イオン交換水20g、及びエステル交換触媒としてハイドロタルサイト(組成式MgAl(OH)16CO・4HO)〔協和化学工業(株)製、商品名:キョーワード500PL〕20gを添加し、75~80℃で2時間処理した。次に、反応容器内の温度を75~80℃に調整し、減圧度90~35kPaで濃縮することにより、トルエンとアセトンと水の混合留出液400gを回収し、得られた濃縮液を空気加圧下で濾過して触媒及び吸着剤を分離し、さらに温度60~80℃及び減圧度30~0.8kPaで溶媒を脱気し、共役ジビニル化合物3を得た。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、共役ジビニル化合物3のポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率を測定したところ99.0%であった。またGPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は26000であった。
【0094】
〈共役ジビニル化合物4〉
共役ジビニル化合物4は、下記の方法に基づいて製造した。
ポリブタジエン両末端アルコールの分子量をMn:58000に変更した以外は共役ジビニル化合物3の場合と同様の条件にて製造した共役ジビニル化合物4は、ポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率が98.5%であった。また、GPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は58000であった。
【0095】
〈多分岐ビニル化合物〉
〈多分岐ビニル化合物1〉
ジビニルベンゼン3.1モル(399.4g)、エチルビニルベンゼン0.7モル(95.1g)、スチレン0.3モル(31.6g)、2-フェノキシエチルメタクリレート2.3モル(463.5g)、トルエン974.3gを3.0Lの反応器内に投入し、50℃で42.6gの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加し、6.5時間反応させた。重合反応を炭酸水素ナトリウム溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、多分岐ビニル化合物1を372.5g得た。
この多分岐ビニル化合物1の重量平均分子量(Mw)は8000で、ジビニル化合物由来のビニル基を含有する構造単位(a1)のモル分率は0.44、末端の2-フェノキシエチルメタクリレート由来の二重結合(a2)は0.03、両者を合わせた合計のモル分率(a3)は0.47であった。また、重量平均分子量(Mw)8000における重合体の慣性半径は6.3nmであった。本重合体の慣性半径の、二重結合のモル分率に対する比は13.4であり、かつ、直鎖型の重量平均分子量(Mw)8000における慣性半径が15nmであることと比較すると、本合成例における多分岐ビニル化合物1は、分岐構造をとっていることがわかる。
【0096】
〈多分岐ビニル化合物2〉
攪拌機、温度計、滴下ロート及びコンデンサーを備えた2リットルフラスコに、室温下、特開2016-113598号公報に開示されているエトキシ化ペンタエリスリトール(エチレンオキシド付加ペンタエリスリトール)50.5g、BFジエチルエーテル溶液(50%)1gを加え、110℃に加熱した。これに3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)オキセタン450gを、反応による発熱を制御しつつ、25分間でゆっくり加えた。発熱が収まったところで、反応混合物をさらに120℃で3時間撹拌し、その後、室温に冷却した。得られた多分岐ポリエーテルポリオールの重量平均分子量は3,000、水酸基価は530であった。
攪拌機、温度計、コンデンサーを備えたディーンスタークデカンター及び気体導入管を備えた反応器に、上記で得られた多分岐ポリエーテルポリオール50g、メタクリル酸13.8g、トルエン150g、ヒドロキノン0.06g、パラトルエンスルホン酸1gを加え、混合溶液中に3mL/分の速度で7%酸素含有窒素(v/v)を吹き込みながら、常圧下で撹拌し、加熱した。デカンターへの留出液量が1時間あたり30gになるように加熱量を調節し、脱水量が2.9gに到達するまで加熱を続けた。反応終了後、一度冷却し、無水酢酸36g、スルファミン酸5.7gを加え、60℃で10時間撹拌した。その後、残っている酢酸及びヒドロキノンを除去する為に5%水酸化ナトリウム水溶液50gで4回洗浄し、さらに1%硫酸水溶液50gで1回、水50gで2回洗浄した。得られた有機層にメトキノン0.02gを加え、減圧下、7%酸素含有窒素(v/v)を導入しながら溶媒を留去し、イソプロペニル基及びアセチル基を有する多分岐ビニル化合物2を60g得た。得られた多分岐ビニル化合物2の重量平均分子量は3,900であり、多分岐ポリエーテルポリオールへのイソプロペニル基及びアセチル基導入率は、ヒドロキシル基全体に対してそれぞれ30モル%及び62モル%であった。
【0097】
〈添加剤〉
・熱劣化防止剤1:
2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-フェニルペンチル)エチル]-4,6-ジ-t-フェニルペンチルアクリレート[住友化学株式会社製:スミライザーGS]
・熱劣化防止剤2:
オクタデシル-3-(3,5-ジ-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[BASFジャパン株式会社製:Irganox 1076]
・熱劣化防止剤3:
トリス(2,4-ジ-ターシャリー-ブチルフェニル)フォスファイト[BASFジャパン株式会社製:Irgafos 168]
【0098】
〈その他〉
・重合開始剤1:
2,2-ビス(4,4-ジ-ターシャリー-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン[日油株式会社製:パーテトラA]
・重合開始剤2:
1,1-ジ-(ターシャリー-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン[日油株式会社製:パーヘキサC]
・重合開始剤3:
t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート[日油株式会社製:パーブチルI]
・重合開始剤4:
t-ブチルパーオキシベンゾエート[日油株式会社製:パーブチルZ]
・連鎖移動剤1:
α-メチルスチレンダイマー[日本油脂社製:ノフマーMSD]
・連鎖移動剤2:
1-ドデカンチオール[富士フィルム和光純薬株式会社製]
【0099】
<実施例1>
スチレン単量体82質量部、ブチルアクリレート単量体2質量部、エチルベンゼン16質量部、上述の共役ジビニル化合物1を0.14質量部(スチレン1モルに対して3.6×10-5モル)、重合開始剤1を0.038質量部添加して、第1反応器に供給する原料溶液を調整した。調製した原料溶液を、100℃の温度に保持した内容積5.4Lの完全混合型第1反応器に、0.73L/時で連続的に供給した。
次に、スチレン単量体66質量部、ブチルアクリレート単量体2質量部、エチルベンゼン32質量部、連鎖移動剤1を0.5質量部、重合開始剤2を0.05質量部添加して、第2反応器に供給する原料溶液を調整した。調製した原料溶液を、原料溶液が通過する順番に、3ゾーンの温度を115℃、120℃、110℃の温度に保持した内容積1.5Lのプラグフロー型第2反応器に、0.2L/時で連続的に供給した。
ついで、第1反応器と第2反応器からの重合溶液を合流させ、原料溶液が通過する順番に、4ゾーンの温度を120℃、127℃、133℃、133℃の温度に保持した、内容積3Lのプラグフロー型第3反応器に供給した。第3反応器のゾーン1において、重合開始剤2を0.027質量部、連鎖移動剤2を0.05質量部、及び熱劣化防止剤3を0.07質量部、添加した。また第3反応器のゾーン3において、熱劣化防止剤1を0.1質量部、熱劣化防止剤2を0.07質量部添加した。(本実施例においては、第3反応器のゾーン1から重合開始剤、および連鎖移動剤を添加し、第3反応器のゾーン3から熱劣化防止剤を添加した。)
ついで、第3反応器からの重合溶液を240℃の温度に加熱された真空脱気槽に供給し、未反応単量体や溶媒等の揮発性成分を取り除き、72時間の連続運転後に、評価用のスチレン系樹脂組成物を得た。
さらに、上記のスチレン系樹脂組成物100質量部に対して、発泡核剤としてタルク(平均粒径1.3μm)を0.15質量部、発泡剤として液化ブタンを4質量部添加して発泡シート原料を得た。直径150mmのサーキュラーダイを備えた押出発泡機を用い、上記発泡シート原料を押し出し、発泡成形した。押出発泡機の樹脂溶融ゾーンの温度は200~230℃、ロータリークーラー温度は130~170℃、ダイス温度は135~155℃に調整した。押出発泡直後の発泡体を冷却マンドレルで冷却し、円周上の1点でカッターにより切断することにより、厚み1.4mm、幅1000mmの発泡シートを得た。
実施例1の製造条件と分析結果を表1に示す。
【0100】
<実施例2~18>
実施例2~18は、表1に示すように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして行い、スチレン系樹脂組成物を得た。実施例2~18の測定及び評価結果を表1にまとめる。
【0101】
<比較例1~5>
比較例1~5は、表1に示すように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして行い、スチレン系樹脂組成物を得た。比較例1~5の測定及び評価結果を表1にまとめる。
【0102】
【表1】
【0103】
表1から明らかなように、200℃、49N荷重の条件で測定したメルトマスフローレイト(MFR)が、1.8、1.4、1.4g/10分と小さい比較例1、2、4では、リサイクル性が低かった。また、スチレンダイマーとトリマーの合計含有量が3000ppmを超えている比較例3では、臭気性が低かった。さらに、溶融張力値(MT)が36.6gf、27gfである比較例2、5では、シートおよび発泡シートの深絞り成形性が低く、成形加工性が低かった。また、溶融張力値(MT)が83gfである比較例4では、発泡シートの深絞り成形性が低く、成形加工性が低かった。
【0104】
これに対し、200℃、49N荷重の条件で測定したメルトマスフローレイト(MFR)が2.0g/10分超10g/10分以下であり、スチレンダイマーとトリマーの合計含有量が100~3000μg/gであり、190℃で測定した溶融張力値(MT)が40~80gfである、実施例1~18のスチレン系樹脂組成物は、成形加工性とリサイクル性のバランスに優れ、かつ臭気の少ないものであることがわかる。
【0105】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によるスチレン系樹脂組成物は、成形加工性とリサイクル性のバランスに優れ、かつ臭気の少ないため、例えば家電、事務機製品、雑貨、住宅設備等の成形材料や食品包装材料等として広く利用することができる。