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特開2023-86828スチレン系フィルム、成形品、スチレン系フィルムの製造方法
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  • 特開-スチレン系フィルム、成形品、スチレン系フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086828
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】スチレン系フィルム、成形品、スチレン系フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/08 20060101AFI20230615BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C08L25/08
C08F290/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067442
(22)【出願日】2023-04-17
(62)【分割の表示】P 2018237790の分割
【原出願日】2018-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】中川 優
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、成形条件幅が広く、成形性に優れ、且つ、外観に優れたスチレン系フィルムを提供することにある。
【解決手段】本発明のスチレン系フィルムは、マトリックス相(A)にゴム状弾性体粒子(B)を分散粒子として含有するスチレン系樹脂組成物(I)を含有し、前記マトリックス相(A)は、分岐度が0.70~0.94であり、ゲル化度が1.00~1.25であり、多角度光散乱検出器(MALS)を用いて測定した絶対分子量100万~500万の成分の含有量が5.0~15.0%であり、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が3.0~5.0であるスチレン系樹脂組成物(II)であり、前記スチレン系樹脂組成物(I)は、前記ゴム状弾性体粒子(B)を0.1~2.5質量%含有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス相(A)にゴム状弾性体粒子(B)を分散粒子として含有するスチレン系樹脂組成物(I)を含有するスチレン系フィルムであって、
前記マトリックス相(A)は
スチレン系化合物を有するモノビニル化合物と、分子内に共役ビニル基を少なくとも2つ有する共役ジビニル化合物及び/又は1つ以上の枝分かれ構造を有する多分岐ビニル化合物とのラジカル共重合体を含有し、かつ前記モノビニル化合物中の前記スチレン系化合物の含有量は、前記モノビニル化合物の含有量のうち70モル%以上であり、
前記スチレン系化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン又はブロモスチレンであり、
前記モノビニル化合物は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、無水マレイン酸、マレイミド、又は核置換マレイミドであり、
前記多分岐ビニル化合物を有する場合は以下の(a)および(b)を満たし、
(a)前記多分岐ビニル化合物の含有量は、前記モノビニル化合物の総量1モルに対して2.0×10-6~4.0×10-4モルである、
(b)前記多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、850~100000である、
前記共役ジビニル化合物を有する場合は以下の(c)および(d)を満たす、
(c)前記共役ジビニル化合物の含有量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して、2.0×10-6~4.0×10-4モルである、
(d)前記共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、850~100000である、
分岐度が0.70~0.94であり、
ゲル化度が1.00~1.25であり、
多角度光散乱検出器(MALS)を用いて測定した絶対分子量100万~500万の成分の含有量が5.0~15.0%であり、
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が3.0~5.0である、スチレン系樹脂組成物(II)であり、
前記スチレン系樹脂組成物(I)は、前記ゴム状弾性体粒子(B)を当該スチレン系樹脂組成物(I)100質量%に対して0.1~2.5質量%含有することを特徴とする、スチレン系フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系フィルム、その成形品、およびスチレン系フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂組成物を含むフィルムは、透明性および印刷性に優れるために食品包装や封筒窓材の用途で広く利用されている。近年、例えば食品包装容器の多様化、形状の複雑化が進んでおり、当該フィルムを用いた用途においてより一層優れた成形性が求められている。
そして、フィルムの成形性の向上を試みた技術としては、例えば特許文献1には、高分岐型超高分子量共重合体と線状重合体とを含むスチレン系樹脂組成物が開示されており、当該スチレン系樹脂組成物によれば、強度が高く、成膜時の成形性や延伸性、および二次成形時の強度や深絞り性に優れたフィルムを得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-100431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、一分子内に複数の二重結合を有する溶剤可溶性多官能ビニル共重合体を用いて高分岐型超高分子量共重合体を導入しているため、ゲル状物質の低減については十分ではなく、フィルムの成膜時の成形性や外観に更なる改良の余地があることが分かった。
【0005】
そこで、本発明は、成形条件幅が広く、成形性に優れ、且つ、外観に優れたスチレン系フィルム、および、外観に優れた成形品、および、成形条件幅が広く、成形性に優れ、且つ、外観に優れたスチレン系フィルムを得るためのスチレン系フィルムの製造方法、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を進めた結果、原料として用いるスチレン系樹脂組成物(II)の分岐度、ゲル化度、多角度光散乱検出器(MALS)を用いて測定した絶対分子量100万~500万の成分の含有量、及びゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)を適切な範囲に制御することにより、成形条件幅が広く、成形性に優れ、且つ、外観に優れたスチレン系フィルムを実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記に示すとおりである。
〔1〕マトリックス相(A)にゴム状弾性体粒子(B)を分散粒子として含有するスチレン系樹脂組成物(I)を含有するスチレン系フィルムであって、
前記マトリックス相(A)は、
分岐度が0.70~0.94であり、
ゲル化度が1.00~1.25であり、
多角度光散乱検出器(MALS)を用いて測定した絶対分子量100万~500万の成分の含有量が5.0~15.0%であり、
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が3.0~5.0である、スチレン系樹脂組成物(II)であり、
前記スチレン系樹脂組成物(I)は、前記ゴム状弾性体粒子(B)を当該スチレン系樹脂組成物(I)100質量%に対して0.1~2.5質量%含有することを特徴とする、スチレン系フィルム。
〔2〕前記スチレン系樹脂組成物(II)の最大立ち上がり比が1.2~5.0である、上記〔1〕のスチレン系フィルム。
〔3〕前記スチレン系樹脂組成物(II)中のスチレンの二量体及び三量体の合計残存量が前記スチレン系樹脂組成物(II)100質量%に対して0.01~0.30質量%である、上記〔1〕又は〔2〕のスチレン系フィルム。
〔4〕GPCを用いて測定したピークトップ分子量(Mtop)が10万~18万である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかのスチレン系フィルム。
〔5〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかのスチレン系フィルムを有することを特徴とする、成形品。
〔6〕前記スチレン系樹脂組成物(II)と、ゴム状弾性体粒子を含むスチレン系樹脂を溶融混練して押出成形する工程を含む、上記〔1〕~〔4〕のいずれかのスチレン系フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形条件幅が広く、成形性に優れ、且つ、外観に優れたスチレン系フィルム、および、外観に優れた成形品、および、成形条件幅が広く、成形性に優れ、且つ、外観に優れたスチレン系フィルムを得るためのスチレン系フィルムの製造方法、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物(II)について、横軸にヘンキーひずみを、縦軸に伸長粘度をプロットした両対数グラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0011】
1.スチレン系フィルム
本実施形態のスチレン系フィルムは、本実施形態のスチレン系樹脂組成物(I)を含むもの、好適には本実施形態のスチレン系樹脂組成物(I)からなるものである。
本実施形態のスチレン系フィルムの用途は特に限定されるものではないが、スチレン系樹脂本来の剛性、光学特性に優れるという特徴に加え、成形加工性に優れ、高い延伸倍率のフィルムが得られるという観点から、複雑な形状の食品包装材として好適に用いることができる。すなわち、レタス等の生鮮葉菜類の包装用フィルム;封筒、窓貼用、展示パネル用、花包装用、ケーキ包装用、ラベル用フィルム、玩具、装飾品等はもとより、特に果物容器、弁当類、トレイ、ドンブリ、カップ、蓋財、絵付成形品等を構成する印刷を施したラミネート用フィルムとして好適に使用でき、ゲル状物質による欠陥が少なく、特に発泡ポリスチレンシートと積層成形することにより深絞り成形性に優れる積層シートが得られる。
本実施形態のスチレン系フィルムの膜厚は、好ましくは15~250μm、より好ましくは20~100μmである。
【0012】
<スチレン系樹脂組成物(I)>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物(I)は、マトリックス相(A)にゴム状弾性体粒子(B)を分散粒子として含有する。また、マトリックス相(A)は、分岐度が0.70~0.94であり、ゲル化度が1.00~1.25であり、多角度光散乱検出器(MALS)を用いて測定した絶対分子量100万~500万の成分の含有量が5.0~15.0%であり、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が3.0~5.0であるスチレン系樹脂組成物(II)である。
【0013】
スチレン系樹脂組成物(I)は、典型的には、
(1)ゴム状弾性体の存在下、スチレン系樹脂組成物(II)中のスチレン系樹脂(a)を構成する単量体を重合して得ることができる他、
(2)i)スチレン系樹脂(a)を構成する単量体を重合して得られたスチレン系樹脂(a)と、ii)ゴム状弾性体粒子を含む、スチレン系樹脂(HIPS樹脂)、MBS樹脂等のゴム強化芳香族ビニル系樹脂やSBS等の芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーのうち、少なくとも1種とを、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー等の公知の混練機を用いて溶融混練する方法等で得ることができる。
【0014】
<マトリックス相(A)>
本実施形態のスチレン系フィルムに含まれるスチレン系樹脂組成物(I)のマトリックス相(A)はスチレン系樹脂組成物(II)を含有する。
【0015】
<スチレン系樹脂組成物(II)>
スチレン系樹脂組成物(II)は、分岐度が0.70~0.94であり、ゲル化度が1.00~1.25であり、多角度光散乱検出器(MALS)を用いて測定した絶対分子量100万~500万の成分の含有量が5.0~15.0%であり、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が3.0~5.0である。
【0016】
本実施形態では、スチレン系樹脂組成物(II)の分岐度、ゲル化度、MALSを用いて測定した絶対分子量100万~500万の成分の含有量、及びGPCを用いて測定したMw/Mnを、上記のように適切な範囲に制御することにより、成形加工性に優れ、成形条件幅が広く、かつゲル状物質の少ないスチレン系樹脂組成物(II)を提供することができ、それゆえに、成形条件幅が広く、成形性に優れ、且つ、外観に優れたスチレン系フィルムを得ることができる。
理論に限定されないが、本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)は、分岐度、MALSを用いて測定した絶対分子量100万~500万の成分の含有量、及びGPCを用いて測定したMw/Mnを適切な範囲に制御することによって、押出時の成形性が向上し、成形条件幅が広くなり、かつ、ゲル化度を適切な範囲に制御することによって、ゲル化が抑制されることを可能にすると考えられる。
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)の分岐度、ゲル化度、MALSを用いて測定した絶対分子量100万~500万の成分の含有量、及びGPCを用いて測定したMw/Mnは、例えば、モノビニル化合物をラジカル重合してスチレン系樹脂組成物を得る場合、任意選択的に含まれていてもよい共役ジビニル化合物の含有量、重合反応温度、重合反応器内での滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、重合時に使用する溶媒の種類及び量等によって制御することができる。
【0017】
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)は、例えば、スチレン系樹脂(a)と、任意選択的に添加剤等とを含むことができる。
【0018】
<スチレン系樹脂組成物(II)の分子量>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)の数平均分子量(Mn)は、5.0万~20万であることが好ましく、より好ましくは6.0万~18万、さらに好ましくは7.0万~15万である。
また、本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)の重量平均分子量(Mw)は、20万~50万であることが好ましく、より好ましくは22万~48万、さらに好ましくは24万~45万である。
また、本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)のZ平均分子量(Mz)は、60万~200万が好ましく、より好ましくは70万~180万、さらにより好ましくは80万~160万である。
【0019】
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)は、3.0~5.0であり、好ましくは3.2~4.8、より好ましくは3.5~4.7、さらに好ましくは3.7~4.6である。Mw/Mnが3.0より小さい場合、流動性が低下し、成形加工性が低下することや、成形条件幅が狭くなることがある。Mw/Mnが5.0より大きい場合、極端に低分子量成分が多くなり、成形品の強度が低下することがある。
Mw/Mnを3.0~5.0とするためには、例えば、スチレン系樹脂(a)の重合時の反応温度を反応溶液が通過する順に高くする方法、連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の種類を多官能(2、3、4官能)とする方法、モノビニル化合物と共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物とをラジカル共重合させて樹脂を製造する場合に、共役ジビニル化合物あるいは多分岐ビニル化合物あるいはその両方を、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル添加する方法がある。また、例えば、2つの反応器において、それぞれ低分子量成分を重合する条件と高分子量成分を重合する条件で重合を行い、2つの重合溶液を合流させる方法、あるいは合流後にさらに重合を行う方法がある。低分子量成分を重合する条件としては、例えば、反応器内の滞留時間を短くする方法、溶媒の量を増加させ、重合温度を高くする方法、連鎖移動剤を使用する方法等がある。高分子量成分を重合する条件としては、例えば、溶媒の量を少なくし、重合温度を低くする方法や、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物あるいは多分岐ビニル化合物あるいはその両方を、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル添加する方法がある。
【0020】
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)のピークトップ分子量(Mtop)は10万~18万であることが好ましく、より好ましくは11万~18万、さらに好ましくは11万~17万、最も好ましくは12万~16万である。Mtopが10万より小さい場合、極端に低分子量成分が多くなり、成形品の強度が低下する虞がある。Mtopが18万よりも大きい場合、流動性が低下し、成形条件幅が狭くなる虞がある。
Mtopを10万~18万の範囲にするためには、例えば、連鎖移動剤を使用する方法、あるいは、複数の反応器を直列につなぎ製造する場合では、重合時の反応温度を反応溶液が通過する順に高くする方法や、後段の反応器に連鎖移動剤と重合開始剤を添加する方法がある。また、例えば、2つの反応器において、それぞれ低分子量成分を重合する条件と高分子量成分を重合する条件で重合を行い、2つの重合溶液を合流させる方法、あるいは合流後にさらに重合を行う方法がある。低分子量成分を重合する条件としては、例えば、反応器内の滞留時間を短くする方法、溶媒の量を増加させ、重合温度を高くする方法、連鎖移動剤を使用する方法等がある。高分子量成分を重合する条件としては、例えば、溶媒の量を少なくし、重合温度を低くする方法や、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物あるいは多分岐ビニル化合物あるいはその両方を、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル添加する方法がある。
【0021】
スチレン系樹脂組成物(II)のMw/Mnを3.0~5.0にすることにより、より成形加工性と流動性に優れたスチレン系樹脂組成物(II)が得られ、また併せて、Mtopを10万~18万の範囲にすることにより、より一層、成形加工性と流動性に優れたスチレン系樹脂組成物(II)が得られる。
なお本開示で、スチレン系樹脂組成物(II)の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、ピークトップ分子量(Mtop)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を使用して測定される値である。なお、フィルムから各測定用試料を得るには、スチレン系フィルム1gを精秤し、メチルエチルケトン/メタノール混合溶剤媒(混合重量質量比90/10)20mLを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機にて10℃以下、20000rpmで60分間遠心分離する。遠心分離後の上澄み液を、メタノール中に再沈殿させた後、濾別してマトリックス相を回収し、これを乾燥することで、測定試料を得ることができる。
【0022】
<絶対分子量100万~500万の成分の含有量>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)の絶対分子量100万~500万の成分の含有量は5.0~15.0%であり、好ましくは7.0~15.0%、より好ましくは9.0~15.0%、さらに好ましくは10.0~14.5%、最も好ましくは12.0~14.0%である。絶対分子量100万~500万の成分の含有量を5.0~15.0%の範囲にすることにより、成形加工性に優れ、ゲル状物質の少ないスチレン系樹脂組成物(II)が得られる。
絶対分子量100万~500万の成分の含有量を5.0~15.0%とするためには、例えば、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物を添加する方法、あるいは共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物とを同時に添加する方法がある。例えば、モノビニル化合物に、任意選択的に共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物を添加してラジカル共重合することによりスチレン系樹脂組成物(II)を得る場合、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して、ビニル基1つにつき好ましくは4.0×10-6~8.0×10-4モルである(すなわち、ビニル基を2つ有する共役ジビニル化合物の場合は、好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4である)。共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は850~100000であることが好ましい。また、スチレン系樹脂(a)の製造において、溶媒の量を0~20%と少なくし、反応温度を80~140℃にする方法がある。
なお本開示で、スチレン系樹脂組成物(II)の絶対分子量100万~500万の成分の含有量は、多角度光散乱検出器(MALS)を使用して算出される値である。
【0023】
<分岐度>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)の分岐度は0.70~0.94であり、好ましくは0.72~0.93、より好ましくは0.75~0.92、さらに好ましくは0.79~0.90である。分岐度が0.70よりも小さい場合、分岐が多くなり過ぎ、分岐鎖一本あたりの分子量が小さくなるため、絡み点の数が少なくなり、高ひずみ時に絡み合いがほどけ、十分な成形加工性が得られないことがある。分岐度が0.94よりも大きい場合、分岐が少なく、十分なポリマー鎖同士の絡み合い効果が得られないことがある。
分岐度を0.70~0.94とするためには、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物を添加する方法、あるいは共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物とを同時に添加する方法がある。例えば、モノビニル化合物に、任意選択的に共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物を添加してラジカル共重合することによりスチレン系樹脂組成物(II)を得る場合、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して、ビニル基1つにつき好ましくは4.0×10-6~8.0×10-4モルである(すなわち、ビニル基を2つ有する共役ジビニル化合物の場合は、好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4である)。共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は850~100000であることが好ましい。
なお本開示で、分岐度は、後述の[実施例]の項で説明する手順で算出される値である。
【0024】
<ゲル化度>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)のゲル化度は1.00~1.25であり、好ましくは1.01~1.15、より好ましくは1.01~1.12、さらに好ましくは1.01~1.10である。ゲル化度を1.00~1.25の範囲にすることにより、分子量が増加するにつれて分岐が増加することを抑制できるため、スチレン系樹脂組成物(II)中のゲル状物質を低下し、それゆえにフィルムの外観を向上させることができる。また、反応器等の生産設備に長期滞留した際に、生成するゲル状物質の量を低下することができるため、生産性が向上させることが可能である。
ゲル化度を1.00~1.25とするためには、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物を添加する方法、あるいは共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物とを同時に添加する方法がある。例えば、モノビニル化合物に、任意選択的に共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物を添加してラジカル共重合することによりスチレン系樹脂組成物(II)を得る場合、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して、ビニル基1つにつき好ましくは4.0×10-6~8.0×10-4モルである(すなわち、ビニル基を2つ有する共役ジビニル化合物の場合は、好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4である)。共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は850~100000であることが好ましい。
なお本開示で、ゲル化度は、後述の[実施例]の項で説明する手順で算出される値である。
【0025】
<メルトマスフローレート(MFR)>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)のメルトマスフローレート(MFR)は、0.5~5.0g/10分が好ましい。より好ましくは0.6~4.0g/10分、さらに好ましくは0.7~3.5g/10分、とりわけ好ましくは0.8~3.0g/10分である。メルトマスフローレートを0.5~5.0g/10分の範囲にすることにより、成形加工性と流動性に優れたスチレン系樹脂組成物(II)が得られる。
MFRを0.5~5.0g/10分とするためには、例えば、スチレン系樹脂組成物(II)のMw/Mnを3.0~5.0とし、かつMwを25万~50万とする方法や、流動パラフィン等の可塑剤をスチレン系樹脂組成物(II)100質量%に対して0.01~10.0質量%添加する方法がある。
なお本開示で、メルトマスフローレートは、ISO1133に準拠して、200℃、荷重49Nにて測定される値である。
【0026】
<最大立ち上がり比>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)の最大立ち上がり比は、好ましくは1.2~5.0、より好ましくは1.3~4.8、さらに好ましくは1.4~4.6である。本願明細書において、「最大立ち上がり比」とは、(最大立ち上がりひずみの非線形領域の伸長粘度/最大立ち上がりひずみの線形領域の伸長粘度)を意味し、「最大立ち上がりひずみ」とは、伸長粘度が最大となる時のヘンキーひずみを意味する。最大立ち上がり比は、最大立ち上がりひずみにおけるひずみ硬化の度合いを表す指標となる。最大立ち上がり比が大きいほど、ひずみ硬化度合いが大きく、成形加工性に優れる。最大立ち上がり比が1.2未満であると、十分な深絞り成形性が得られなかったり、成形条件幅が狭くなる傾向がある。最大立ち上がり比が5.0より大きいと、成形時の伸長粘度が低くなり過ぎるため、生産性の観点から好ましくない。
最大立ち上がり比を1.2~5.0にするためには、例えば、分岐度を0.70~0.94、絶対分子量100万~500万の成分の含有量を5.0~15.0%とする方法がある。
なお本開示で、最大立ち上がり比は、後述の[実施例]の項で説明する手順で算出される値である。
【0027】
<スチレン二量体及び三量体の合計残存量>
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物(II)を、スチレン系単量体をラジカル重合反応することにより製造した場合、スチレン系樹脂組成物(II)中のスチレンの二量体及び三量体の合計残存量は、好ましくはスチレン系樹脂組成物(II)100質量%に対して0.01~0.30質量%であり、より好ましくは0.01~0.25質量%、さらに好ましくは0.02~0.20質量%である。スチレンの二量体及び三量体の合計残存量が0.01~0.30質量%であることにより、成形時の目ヤニが少なくなり、良好な外観のフィルムの歩留まりが向上すること、あるいはフィルムの臭気が少なくなることを可能にする。
スチレンの二量体及び三量体の合計残存量をスチレン系樹脂組成物(II)100質量%に対して0.01~0.30質量%とするためには、例えば、重合時に生成する量を減らすために、反応温度を80~140℃と低くする方法や、重合開始剤を100~2000質量ppm添加し、多くの開始剤ラジカルを発生させる方法がある。また、熱や溶融樹脂のせん断により発生する量を減らすために、未反応モノマーや溶媒を真空脱揮する際の真空度を50kPa以下と低くする方法や、後述する熱分解抑制剤を100~3000質量ppm添加する方法がある。
なお本開示で、スチレン二量体及び三量体の合計残存量は、ガスクロマトグラフィー(GC)を使用して測定される値である。
【0028】
<ゴム状弾性体粒子(B)>
本実施形態のスチレン系フィルムに含まれるスチレン系樹脂組成物(I)のゴム状弾性体粒子(B)は、ゴム状弾性体の内側にスチレン系樹脂を内包し、且つ、外側にスチレン系単量体がグラフト重合したものである。
【0029】
ゴム状弾性体粒子(B)の含有量は、スチレン系樹脂組成物(I)の質量に対して0.1~2.5質量%であり、好ましくは0.1~1.3質量%、更に好ましくは0.1~0.6質量%である。0.1質量%未満では延伸の安定性や滑り性が不十分となり、フィルムの成形性低下の原因となる場合があり、好ましくない。また、2.5質量%を超えると、フィルムの透明性、光沢、強度が低下する場合があり、好ましくない。
なお本開示で、スチレン系樹脂組成物(I)に対するゴム状弾性体粒子の含有量は、後述の[実施例]の項で説明する手順で算出される値である。
【0030】
ゴム状弾性体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等を使用できるが、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状弾性体は1種以上用いることができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを用いることもできる。
とりわけスチレン-ブタジエン共重合体のブロック共重合体に関しては、重合過程に際して使用することも、また重合後のスチレン系樹脂組成物(II)に対して追加添加することも可能である。追加添加する場合の添加量は、スチレン系樹脂組成物(II)100質量部に対して、1~10質量部の範囲であることが好ましい。このスチレン-ブタジエン共重合体のブロック共重合体は、市販されており、旭化成(株)より入手可能な「タフプレン」が挙げられる。
【0031】
<スチレン系樹脂組成物(I)のメルトマスフローレート(MFR)>
本実施形態におけるスチレン系フィルムに含まれるスチレン系樹脂組成物(I)のメルトマスフローレート(MFR)は、特に限定されないが、好ましくは0.5~5.0g/10分であり、より好ましくは0.6~4.0g/10分であり、更に好ましくは0.7~3.5g/10分であり、とりわけ好ましくは0.8~3.5g/10分である。スチレン系共重合体のメルトマスフローレートを0.5~5.0g/10分の範囲にすることにより、成形加工性と流動性とに非常に優れたスチレン系フィルムが得られる傾向にある。
なお本開示で、MFRは、JIS K 7210に従って200℃及び49Nで測定される値である。
【0032】
<スチレン系樹脂組成物(I)の製造方法>
本実施形態のスチレン系フィルムに含まれるスチレン系樹脂組成物(I)の製造方法は、
(1)ゴム状弾性体の存在下、スチレン系樹脂組成物(II)中のスチレン系樹脂(a)を構成する単量体を重合して得ることができる他、
(2)i)スチレン系樹脂(a)を構成する単量体を重合することによって得られたスチレン系樹脂(a)と、ii)ゴム状弾性体粒子を含む、スチレン系樹脂(HIPS樹脂)、MBS樹脂等のゴム強化芳香族ビニル系樹脂やSBS等の芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーのうち、少なくとも1種とを、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー等の公知の混練機を用いて溶融混練する方法等が挙げられる。
【0033】
〈製造方法(1)〉
上記(1)の方法としては、例えば、ゴム状弾性体の存在下で、スチレン系化合物を含むモノビニル化合物と、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物とをラジカル共重合することによって製造する方法が挙げられる(スチレン系樹脂(a)は分岐状の構造を有することができる)。この方法では、原料溶液は、スチレン系化合物を含むモノビニル化合物と、ゴム状弾性体と、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物とを含む。本実施形態のスチレン系フィルムに含まれるスチレン系樹脂組成物(I)の構成要素となる共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物は、モノビニル化合物類、重合溶媒等に溶解した状態で、必要に応じて上記の反応器の途中から添加することもできる。
【0034】
また、重合反応の制御の観点から、必要に応じて、重合溶媒、有機過酸化物等の重合開始剤や連鎖移動剤を使用することができる。
重合溶媒は、連続塊状重合や連続溶液重合において重合速度や分子量等を調整するために用いる。重合溶媒として、特に制限はないが、芳香族炭化水素類、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。更に、重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の溶剤、例えば、脂肪族炭化水素類等を芳香族炭化水素類に混合することができる。これらの溶剤は、単量体に対して、25質量%を超えない範囲で使用するのが好ましい。溶剤が25質量%を超えると、重合速度が著しく低下し、且つ、得られる樹脂の衝撃強度の低下が大きくなる。また、溶剤の回収のために、多量のエネルギーを要するので経済性も劣ってくる。溶剤は、重合が進み、比較的高粘度になってから添加してもよいし、あるいは重合前から添加しておいてもよいが、重合前に5~20質量%の割合で添加しておく方が、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0035】
特に共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量を多くしたい場合には、ゲル化を抑制する観点から重合溶媒を使用することが好ましい。これにより、先に示した共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量を増量することができ、ゲルが生じにくい。
【0036】
特に共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量を多くしたい場合には、ゲル化を抑制する観点から重合溶媒を使用することが好ましい。これにより、先に示した共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量を増量することができ、ゲルが生じにくい。
【0037】
重合開始剤として、特に制限はないが、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン(PHC)、n-ブチル-4,4ービス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド(PBD)、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。
重合開始剤は、スチレン系単量体に対して0.005~0.08質量%添加することが好ましい。
【0038】
連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンリニアダイマー(αMSD)、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、1-フェニルー2-フルオレン、ジベンテン、クロロホルム等のメルカプタン類、テルペン類、ハロゲン化合物、テレピノーレン等のテレピン類等を挙げることができる。
この連鎖移動剤の使用量は、特に制限はないが、一般的には単量体に対して、0.005~0.3質量%程度添加することが好ましい。
【0039】
より具体的な製造方法の一例としては、ゴム状重合体を溶解したスチレン系化合物を含むモノビニル化合物と、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物と、必要に応じて、重合溶媒、重合触媒、連鎖移動剤等を添加混合し、直列及び/又は並列に配列された1個以上の反応器と未反応単量体等を除去する揮発分除去工程を備えた設備に連続的に単量体類を送入し、段階的に重合を進行させる所謂、連続塊状重合法が好適に用いられる。反応器の様式としては、完全混合型、層流型、重合を進行させながら一部の重合液を抜き出すループ型の反応器等が例示される。これら反応器の配列の順序に特に制限は無いが、層流型反応器が好適に用いられる。
脱揮工程は、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができ、一般的には加熱器付きの真空脱揮槽や脱揮押出機等が用いられる。脱揮装置の配列としては、例えば、加熱器付きの真空脱揮槽を1段のみ使用したもの、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は、加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したものが挙げられるが、揮発分を極力低減するためには、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は、加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したものが好ましい。
【0040】
脱揮工程の条件は特に制限されず、例えば、モノビニル化合物の重合を塊状重合で行なう場合は、最終的に未反応のモノビニル化合物が、スチレン系樹脂中に好ましくは50質量%、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進めることができる。脱揮処理により、未反応物(モノビニル化合物)及び/又は溶剤等の揮発分を除去することができる。
【0041】
脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度である。脱揮処理の圧力は、好ましくは0.1~50kPa、より好ましくは0.13~13kPa、更に好ましくは0.13~7kPa、特に好ましくは0.13~1.3kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して脱揮する方法や、揮発成分を除去するよう設計された押出機等を通して脱揮することが望ましい。
【0042】
スチレン系樹脂組成物(I)中のスチレン系樹脂(a)の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。なおスチレン系樹脂(a)の含有量の上限値は、例えばゴム状弾性体(B)の含有量や、その他の添加量の含有量によって変化し得る。
【0043】
〈モノビニル化合物〉
本実施形態におけるモノビニル化合物は、スチレン系化合物(単量体)のみからなっていても、スチレン系化合物とともにスチレン系化合物と共重合可能な他のモノビニル基を有する化合物からなっていてもよい。モノビニル化合物としては、スチレン系化合物の他、スチレン系化合物と共重合可能であれば特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリロニトリル等のビニル系化合物、並びにジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、無水マレイン酸、マレイミド、及び核置換マレイミドなどが挙げられる。また、スチレン系化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
スチレン系化合物の含有量としては、モノビニル化合物の含有量のうち50モル%以上が好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0044】
〈共役ジビニル化合物〉
本実施形態における共役ジビニル化合物は、数平均分子量(Mn)が850~100000であり、かつ、分子内に共役ビニル基を少なくとも2つ有する化合物であることが好ましい。
また、本実施形態における共役ジビニル化合物は、網目状ではなく、鎖状であることが好ましく、主鎖には側鎖を有していても有していなくてもよい。鎖状であることにより、分子鎖をよりリニアな形状にすることができ、それにより、絡み合い効果を向上させやすい傾向があるためである。なお側鎖は、例えば炭素数6以下が好ましく、炭素数4以下がより好ましい。
さらに、共役ジビニル化合物中の共役ビニル基は、分子内の任意に位置させることができるが、少なくとも2つの共役ビニル基のうちの2つの共役ビニル基は、分子中の異なる末端に位置していることが好ましい。また、共役ジビニル化合物が鎖状の場合には、当該2つの共役ビニル基は、主鎖の異なる末端に位置していることがより好ましい(すなわち、主鎖の両末端が共役ジビニル基になっていることがより好ましい)。共役ビニル基が末端に位置していることにより重合反応性を高めることができる。
さらに、共役ジビニル化合物が鎖状であり、かつ、3つ以上の共役ビニル基を有する場合には、3つ以上の共役ビニル基のうち2つの共役ビニル基が末端に位置することが好ましく、当該3つ以上の共役ビニル基全てが末端に位置することがより好ましい。
なお、共役ジビニル化合物における共役ビニル基の数が多い場合には、分岐点が増え、反応器や原料を回収する工程においてゲル化が起こりやすくなる可能性が生じ、スチレン系樹脂(a)の透明性の悪化や、反応器や成形機の洗浄が必要になり生産性が低下することがある。これらの観点から、共役ジビニル化合物が有する共役ビニル基の数は、5つ以下であることが好ましく、4つ以下であることがより好ましく、3つ以下であることがさらに好ましい。また、同様な観点から、共役ジビニル化合物の共役ビニル基は2つであることが特に好ましい。
ここで、本明細書において、分子について「末端」とは、分子の最も端となる位置(原子)のみならず、分子の最も端となる位置に近接した位置を含むものとし、当該近接した位置とは、具体的に、分子の伸び切り鎖長の約20%に相当する端部を意味する。そして、共役ジビニル化合物中の共役ビニル基は、モノビニル化合物との反応性の向上及びゲル化の抑制の観点から、共役ジビニル化合物分子の伸び切り鎖長の15%に相当する端部に位置することがより好ましく、10%に相当する端部に位置することがさらに好ましく、5%に相当する端部に位置することが一層好ましい。
【0045】
本実施形態において共役ビニル基とは、モノビニル化合物と共重合可能なオレフィン性二重結合と、当該オレフィン性二重結合と共役系を形成する構造(限定されないが例えばカルボニル基、アリール基等)とを有する基である。共役ビニル基としては、特に限定されないが、例えば、アクリロイル基、ビニル基で置換されたアリール基が挙げられ、また、共役ジビニル化合物中の共役ビニル基を有する構造としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ビニル、マレイン酸、フマル酸等が付加した構造も挙げられる。なお、少なくとも2つの共役ビニル基は、相互に同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
本実施形態の共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、850~100000であることが好ましく、より好ましくは1000~80000、さらに好ましくは1200~80000、さらにより好ましくは1500~60000、特に好ましくは1500~30000である。数平均分子量(Mn)が850未満の場合は、共役ジビニル化合物の共役ビニル基間の距離が短いため、共役ジビニル化合物に結合したポリマー鎖間の距離が短くなり、十分な絡み合い効果が得られず、成形加工性に劣ることがある。分子量が100000を超える場合は、共役ジビニル化合物の共役ビニル基間の距離が長くなり、末端にある共役ビニル基の反応性が低下し(共役ジビニル化合物の分子量が大きいので末端の共役ビニル基が反応しにくくなる)、高分子量成分の生成量が低下することがある。
なお本開示で、共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を意味する。
【0047】
本実施形態の共役ジビニル化合物の主鎖構造としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン等のポリオレフィンやポリスチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
【0048】
具体的な共役ジビニル化合物としては、(水添)ポリブタジエン末端(メタ)アクリレート(「(水添)」は、水素添加された又は水素添加されていない化合物を指す。以下同様である。)、ポリエチレングリコール末端(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール末端(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールA末端(メタ)アクリレート、及びエトキシ化ビスフェノールF末端(メタ)アクリレート等の末端ジ(メタ)アクリレート化合物、並びに(水添)ポリブタジエン末端ウレタンアクリレート、ポリエチレングリコール末端ウレタンアクリレート、ポリプロピレングリコール末端ウレタンアクリレート、エトキシ化ビスフェノールA末端ウレタンアクリレート、及びエトキシ化ビスフェノールF末端ウレタンアクリレート等の末端ウレタンアクリレート化合物等が挙げられる。例えば、ポリプロピレングリコール末端(メタ)アクリレートの場合は、数平均分子量(Mn)が850~100000となるように繰返し単位のプロピレングリコールの結合数が決められる。共役ジビニル化合物は、スチレン系樹脂との相溶性の観点から、(水添)ポリブタジエン末端(メタ)アクリレート、ポリスチレン末端(メタ)アクリレート、ポリフェニレンエーテル末端ジビニルであることが好ましい。なお、化合物名中の「末端」や「両末端」は、最も端の両方に共役ビニル基が位置することを意味する。
【0049】
〈共役ジビニル化合物の含有量〉
本実施形態のスチレン系樹脂(a)における共役ジビニル化合物の含有量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル、より好ましくは5.0×10-6~3.5×10-4モル、さらに好ましくは1.5×10-5~3.0×10-4モル、さらにより好ましくは2.0×10-5~2.5×10-4モルである。含有量が2.0×10-6モル未満の場合は、高分子同士の十分な絡み合いが生じにくく、ひずみ硬化が発現しない、あるいはひずみ硬化の度合いが小さいために、成形品の肉厚が不均一であったり、成形時に成形品が破けることが有り、成形加工性が劣ることがある。一方、含有量が4.0×10-4モルを超える場合は、ゲル状物質の発生が多く、成形品の外観等が不良となることがある。
なお本開示で、モノビニル化合物の総量1モルに対する共役ジビニル化合物の含有量は、H-NMR及び13C-NMRを使用して測定される値である。
【0050】
〈多分岐ビニル化合物〉
本実施形態における多分岐ビニル化合物において、多分岐とは、1つ以上の枝分かれ構造を有することを意味し、より具体的には、星型分岐構造、ポン-ポン型分岐構造、グラフト分岐構造、H型分岐構造を有することを意味する。
多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、850~100000であることが好ましく、より好ましくは1000~80000、さらに好ましくは1200~80000、さらにより好ましくは1500~60000、特に好ましくは1500~30000である。数平均分子量(Mn)が850未満の場合は、ビニル基間の距離が短いため、共役ジビニル化合物に結合したポリマー鎖間の距離が短くなり、十分な絡み合い効果が得られず、成形加工性に劣ることがある。分子量が100000を超える場合は、ビニル基間の距離が長くなり、ビニル基の反応性が低下し(多分岐ビニル化合物の分子量が大きいので末端のビニル基が反応しにくくなる)、高分子量成分の生成量が低下することがある。
なお本開示で、多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を使用して測定される値である。
【0051】
多分岐ビニル化合物は、例えば、特開2016-113580や、特開2016-113598に記載の方法で合成することができる。例えば、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン等のジビニル芳香族化合物類や、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートに代表される脂肪族、脂環式(メタ)アクリレート類等と、スチレン、エチルビニルベンゼン等のモノビニル化合物と、2-フェノキシエチルメタクリレート等の末端変性剤とをカチオン重合させて多分岐ビニル化合物を合成する方法がある。また、多分岐構造を有し、複数のヒドロキシル基を有する多価アルコールやポリエステルポリオールに、ビニル基、例えば、イソプロペニル基等の重合性二重結合をエステル化、あるいは付加する方法等が挙げられる。ここで、多分岐構造を有し、複数のヒドロキシル基を有する多価アルコールとしては、2~100個のヒドロキシル基を有し、炭素数70~3000のアルコールであることが好ましい。
【0052】
〈多分岐ビニル化合物の含有量〉
本実施形態のスチレン系樹脂(a)における多分岐ビニル化合物の含有量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4モル、より好ましくは5.0×10-6~3.5×10-4モル、さらに好ましくは1.5×10-5~3.0×10-4モル、さらにより好ましくは2.0×10-5~2.5×10-4モルである。含有量が2.0×10-6モル未満の場合は、高分子同士の十分な絡み合いが生じにくく、ひずみ硬化が発現しない、あるいはひずみ硬化の度合いが小さいために、成形品の肉厚が不均一であったり、成形時に成形品が破けることが有り、成形加工性が劣ることがある。一方、含有量が4.0×10-4モルを超える場合は、ゲル状物質の発生が多く、成形品の外観等が不良となることがある。
【0053】
〈添加剤等〉
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、任意選択的に添加剤等を含んでいてもよく、未反応モノマーの回収工程における高分子の熱分解を抑制するために、例えば2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-フェニルペンチル)エチル]-4,6-ジ-t-フェニルペンチルアクリレートのような加工安定剤が含まれていてもよい。また、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-フェニルペンチル)エチル]-4,6-ジ-t-フェニルペンチルアクリレート等の熱劣化防止剤、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸及びその塩や、エチレンビスステアリルアミド等の滑剤、流動パラフィン等の可塑剤、酸化防止剤等を本実施形態の目的を損なわない範囲で組み合わせて含有させてもよい。その他、スチレン系樹脂の分野で慣用されている添加剤、例えば難燃剤、着色剤等を、本実施形態の目的を損なわない範囲で組み合わせて、スチレン系樹脂組成物に含有させてもよい。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン等の難燃剤、酸化チタン、カーボンブラック等の着色剤等が挙げられる。またスチレン系樹脂をペレットとする場合には、当該ペレットの外部潤滑剤として、エチレンビスステアリルアミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等をペレットにまぶして使用してもよい。
【0054】
酸化防止剤は、一般的に、熱成形時又は光暴露により生成したハイドロパーオキシラジカル等の過酸化物ラジカルを安定化するか、又は生成したハイドロパーオキサイド等の過酸化物を分解することができる成分である。酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、過酸化物分解剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、ラジカル連鎖禁止剤として、過酸化物分解剤は、系中に生成した過酸化物をさらに安定なアルコール類に分解して自動酸化を防止することができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されないが、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スタイレネイテドフェノール、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、アルキレイテッドビスフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、及び3,9-ビス[2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニロキシ〕-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキシスピロ〔5・5〕ウンデカン等が挙げられる。過酸化物分解剤としては、以下に限定されないが、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、及びトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等の有機リン系過酸化物分解剤、並びにジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオネート、及び2-メルカプトベンズイミダゾール等の有機イオウ系過酸化物分解剤が挙げられる。酸化防止剤の添加量は、スチレン系樹脂組成物(II)中のスチレン系樹脂(a)100質量部に対して、0.01質量部以上1質量部以下が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上0.5質量部以下である。
【0055】
難燃剤としては、以下に限定されないが、難燃性やスチレン系樹脂との相溶性等の観点から、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、臭素化SBSブロックポリマー、及び2,2-ビス(4’(2”,3”-ジブロモアルコキシ)-3’,5’-ジブロモフェニル)-プロパン等の臭素系難燃剤、並びに臭素化ビスフェノール系難燃剤が挙げられる。
【0056】
臭素化ビスフェノール系難燃剤としては、以下に限定されないが、例えば、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS-ビス(2,3-ジブロモ-2メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールF、テトラブロモビスフェノールF-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールF-ビス(2,3-ジブロモ-2メチルプロピルエーテル)テトラブロモビスフェノールA-ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAポリカーボネートオリゴマー、及びテトラブロモビスフェノールAオリゴマーのエポキシ基付加物等が挙げられる。臭素化ビスフェノ-ル系難燃剤の中でも、特に、テトラブロモビスフェノ-ルAビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、及びテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2メチルプロピルエーテル)は、ポリスチレン系樹脂との混練時において分解しにくく、難燃効果も高く発現し易い傾向にあるため好ましい。テトラブロモビスフェノ-ルA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)とテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2メチルプロピルエーテル)とを併用すると、難燃性と熱安定性に優れる傾向にあるためより好ましい。
【0057】
臭素系難燃剤を用いる際には、臭素化イソシアヌレート系難燃剤を難燃助剤として併用することが好ましい。臭素化イソシアヌレート系難燃剤としては、以下に限定されないが、例えば、モノ(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、ジ(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、及びトリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、モノ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、ジ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、トリス(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート等が挙げられる。臭素化イソシアヌレートの中でも、特に、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートは極めて高い難燃効果が発現するため、好ましい。
【0058】
臭素系難燃剤の含有量としては、スチレン系樹脂組成物(II)中のスチレン系樹脂(a)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上9質量部以下、更に好ましくは2質量部以上8質量部以下である。0.1質量部以上である場合は難燃性を十分に確保できる傾向にあり、10質量部以下である場合は成形性を充分に良好なものとできる傾向にある。
【0059】
上記流動パラフィンは、例えば、食品衛生法、食品、添加物等の規格基準で定められた流動パラフィンから選択することができる。この種の流動パラフィンの具体例としては、以下に限定されないが、エクソンモービル社から市販されているクリストールN52、クリストールN62、クリストールN72、クリストールN82、クリストールN122、クリストールN172、クリストールN262、クリストールN352、プライモールN542等が挙げられる。また、(株)松村石油研究所から市販されているモレスコホワイトP-40、モレスコホワイトP-55、モレスコホワイトP-60、モレスコホワイトP-70、モレスコホワイトP-80、モレスコホワイトP-85、モレスコホワイトP-100、モレスコホワイトP-120、モレスコホワイトP-150、モレスコホワイトP-200、モレスコホワイトP-230、モレスコホワイトP-260、モレスコホワイトP-300、モレスコホワイトP-35 0、モレスコホワイトP-350P等が挙げられる。さらに、三光化学工業(株)から市販されている流動パラフィン40-S、60-S、70-S、80-S、90-S、100-S、120-S、150-S、260-S、350-S等が挙げられる。さらにまたCK Witco Corporationから市販されているホワイトミネラルオイルが挙げられる。
【0060】
上記流動パラフィンの分子量は通常、動粘度で規定される。本実施形態における流動パラフィンとしては、例えば、試験方法JIS K2283で規定される40℃の動粘度が0.1~60mm/秒の範囲のものを用いることができ、1~40mm/秒のものが好ましい。また、流動パラフィンの好ましい重量平均分子量は、150~500の範囲であり、より好ましくは180~450の範囲であり、さらに好ましくは200~350の範囲である。重量平均分子量は、例えばガスクロマトグラフィーを用い、流動パラフィンの各分子量成分の重量平均値をとることで求められる。この粘度範囲あるいはこの分子量範囲の流動パラフィンを用いる場合、より高粘度あるいはより高分子量の流動パラフィンに比較して、得られるスチレン系樹脂組成物を大きく可塑化し、スチレン系樹脂組成物の成形性、例えば成形品の表面光沢を大きく向上させる傾向にある。なお、粘度0.1mm/秒以上あるいは重量平均分子量150以上の流動パラフィンを用いることは、得られるスチレン系樹脂組成物の成形加工時に、金型汚染や成形品表面へのブリードを効果的に抑制する傾向があるため、好ましい。
【0061】
上記スチレン系樹脂組成物(II)における流動パラフィンの含有量は、スチレン系樹脂(a)100質量部に対して、好ましくは3.0質量部未満であり、より好ましくは1.0質量部未満であり、さらに好ましくは0.5質量部未満である。流動パラフィンの含有量が5.0質量部未満であることにより、二次成形性と成形品の強度及び耐熱性のバランスに優れた成形品を得ることができる。
【0062】
また、本実施形態においては、熱劣化防止剤を、スチレン系樹脂(a)の重合工程あるいは脱揮工程において、また重合工程後、脱揮工程前において添加することが好ましい。特に、重合工程の終了後(好ましくは直後)であって脱揮工程の前に熱劣化防止剤を添加することが好ましい。熱劣化防止剤を添加することにより、熱分解によって発生したラジカルを安定化させ、熱分解量を低減することができる。
【0063】
熱劣化防止剤としては、例えば、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(商品名:スミライザーGM、住友化学社製)、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-フェニルペンチル)エチル]-4,6-ジ-t-フェニルペンチルアクリレート(商品名:スミライザーGS、住友化学社製)、2,4-ビス(オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール(商品名:イルガノックス1520L)といったフェノール系熱劣化防止剤やオクタデシル-3-(3,5-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール等のヒンダートフェノール系酸化防止剤、トリス(2,4-ジ-ターシャリーブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工熱安定剤等を挙げることができる。これらの熱劣化防止剤は、それぞれ単独、あるいは2種以上を組み合わせて適宜用いてもよい。
【0064】
熱劣化防止剤の含有量は、最終反応器出口のスチレン系樹脂組成物中のスチレン系樹脂(a)100質量部に対して好ましくは0.01~0.5質量部、より好ましくは0.02~0.3質量部、さらに好ましくは0.03~0.2質量部である。
熱劣化防止剤の含有量が0.01質量部以上であると、脱揮工程でのモノビニル化合物の単量体、及びその二量体や三量体の生成をより効果的に抑制することができる。一方、熱劣化防止剤の含有量を0.5質量部より多くしても、含有量に見合うだけの効果が得られない。
【0065】
本実施形態において、上述の添加剤等は、例えば、上述の製造方法で得られるスチレン系樹脂(a)に、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー等の公知の混練機を用いて溶融混練することができる。また、上述のスチレン系樹脂(a)の製造工程において、上述の添加剤等を適宜添加することもできる。
【0066】
〈製造方法(2)〉
上記(2)の方法における、スチレン系樹脂(a)の製造方法としては、例えば、モノビニル化合物と、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物とをラジカル共重合することによって製造する方法が挙げられる(スチレン系樹脂(a)は分岐状の構造を有することができる)。具体的な製造方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法等、公知のスチレン重合方法が挙げられる。これらの重合法は、バッチ重合法であっても連続重合法であってもよく、生産性の点から連続重合法であることが好ましい。連続塊状重合法としては、例えば、モノビニル化合物、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物、必要に応じて溶剤、重合触媒、並びに連鎖移動剤等を添加及び混合して、単量体類を含む原料溶液を調製する。直列及び/又は並列に配列された1個以上の反応器と、未反応単量体等の揮発性成分を除去する脱揮工程のための脱揮装置とを備えた設備に、上記原料溶液を連続的に送入し、段階的に重合を進行させる方法が挙げられる。
【0067】
反応器としては、例えば、完全混合型反応器、層流型反応器、重合を進行させながら一部の重合液を抜き出すループ型反応器等が挙げられる。これら反応器の配列の順序に、特に制限は無い。
【0068】
(2)の方法におけるスチレン系樹脂(a)の製造方法としては、重合反応において、ゴム状弾性体が存在しない以外、上述の(1)の方法で説明した方法、各種化合物(添加可能な添加剤等も含む)、反応条件や脱揮条件(温度、圧力、各種化合物の含有量等)を用いることができる。
【0069】
次に、上記(2)の方法におけるゴム状弾性体粒子を含むスチレン系樹脂(HIPS)等の製造方法の例について説明する。ゴム状弾性体粒子を含むスチレン系樹脂等は特に限定されず任意の方法で製造することができる。典型的な態様において、ゴム状弾性体粒子を含むスチレン系樹脂は、スチレン系単量体を、ゴム状重合体の存在下で重合させて、スチレン系重合体中にゴム状重合体が分散している海島構造を形成することを含む方法によって製造できる。
スチレン系樹脂を構成するスチレン系単量体としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン、クロロスチレン、及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。
スチレン系単量体の重合方法に関しては、特に制約はなく、スチレン系単量体にゴムを溶かした溶液を用いて、通常の塊状重合、溶液重合、懸濁重合等を行うことができる。
また、溶融時の流動性の調整のために、溶媒や連鎖移動剤を適宜選択して使用することが好ましい。
溶媒としては、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等を使用できる。溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、重合原料液の全量100質量%基準で、0~50質量%の範囲の使用が好ましい。
連鎖移動剤としては、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー等が用いられ、α-メチルスチレンダイマーが好ましい。連鎖移動剤の使用量は、重合原料液の全量100質量%基準で、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.03~1質量%、更に好ましくは0.05~0.2質量%の範囲である。
重合反応温度は、好ましくは80~200℃、より好ましくは90~180℃の範囲である。反応温度が80℃以上であれば生産性が良好で工業的に適当であり、一方、200℃以下であれば低分子量重合体が多量に生成することを回避でき好ましい。スチレン系重合体の目標分子量が重合温度のみで調整できない場合は、開始剤量、溶媒量、連鎖移動剤量等で制御すればよい。反応時間は、一般に0.5~20時間、好ましくは2~10時間である。反応時間が0.5時間以上であれば反応が良好に進行し、一方、20時間以下であれば生産性が良好で工業的に適当である。
【0070】
本実施形態においては、フェノール系熱劣化防止剤を、上記の重合工程あるいは脱揮工程において、また重合工程後、脱揮工程前において添加することが好ましい。重合工程の終了後(好ましくは直後)であって脱揮工程の前にフェノール系熱劣化防止剤を添加することがより好ましい。
フェノール系熱劣化防止剤としては、例えば、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(商品名:スミライザーGM、住友化学社製)、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-フェニルペンチル)エチル]-4,6-ジ-t-フェニルペンチルアクリレート(商品名:スミライザーGS、住友化学社製)を挙げることができる。
添加量は、最終反応器出口のスチレン系樹脂に対して0.01~0.5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.02~0.3質量%、更に好ましくは0.03~0.2質量%である。
フェノール系熱劣化防止剤の添加量が0.01~0.5質量%であると、脱揮工程でのモノビニル化合物、及びその二量体や三量体の生成をより効果的に抑制することができる。
【0071】
(脱揮工程)
脱揮装置としては、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができ、一般的には加熱器付きの真空脱揮槽や脱揮押出機等が用いられる。脱揮装置の配列としては、例えば、加熱器付きの真空脱揮槽を1段のみ使用したもの、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、及び加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したもの等が挙げられる。揮発成分を極力低減するためには、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したものが好ましい。
脱揮工程の条件は、特に制限されず、例えば、スチレン系樹脂の重合を塊状重合で行なう場合は、最終的に未反応のモノビニル化合物が、スチレン系樹脂中に好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進めることができる。脱揮処理により、未反応物(モノビニル化合物)及び/又は溶剤等の揮発分を除去することができる。
脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度である。脱揮処理の圧力は、好ましくは0.1~50kPa、より好ましくは0.13~13kPa、更に好ましくは0.13~7kPa、特に好ましくは0.13~1.3kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して脱揮する方法や、揮発成分を除去するよう設計された押出機等を通して脱揮することが望ましい。
【0072】
上記(2)の方法については、この様にして製造したスチレン系樹脂(a)とゴム状弾性体粒子を含むスチレン系樹脂(HIPS樹脂)等とを、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー等の公知の混練機を用いて溶融混練することによって、フィルム用スチレン系樹脂組成物のペレットを得ることができる。また、この際、上述の添加剤等を添加することもできる。
【0073】
<スチレン系フィルムの製造方法>
上記フィルム用スチレン系樹脂組成物を従来公知の任意の成型加工方法、例えば、インフレーション成形、押出成形でフィルム、シート等容易に成形加工するか、又は上記フィルム用スチレン系樹脂組成物を一旦シート状に成形し、このシートを再加熱して縦方向及び横方向に2軸延伸することによって、本実施形態のスチレン系フィルムが得られる。本実施形態において、上記スチレン系フィルムを製造する際の条件は、特に限定されないが、例えば、インフレーション加工機を用いて、160~230℃に予熱した押出機に上記のフィルム用スチレン系樹脂組成物を通し、円形のダイスからチューブ状に押し出した溶融樹脂を垂直方向に引取りながら空気圧で膨らませ、巻き取ることで、ダイ口径より大きな径を持つ円筒状のフィルムを連続製造することができる。フィルムの厚さ及び延伸度は、スクリュー回転数、引取速度、及び空気圧によって調節する。インフレーション加工した後のフィルムを100~150℃で更に延伸をかけて2軸廷伸フィルムとすることもできる。
【0074】
2.積層シート
本実施形態におけるスチレン系フィルムは、前述のとおり、ゲル状物質による欠陥が少なく外観に優れ、特に発泡ポリスチレンシートと積層成形することにより深絞り成形性に優れる積層シートが得られる。
本実施形態におけるスチレン系フィルムを発泡ポリスチレンシートと積層成形する方法としては、成形ダイスから押出された溶融又はビカット軟化温度以上の発泡ポリスチレンシートに直ちにフィルムを圧着させる押出しラミネート法、フィルムと発泡ポリスチレンシートを熱ロールで圧着する熱ラミネート法、接着剤をコーティングしたフィルムと発泡ポリスチレンシートを熱圧着ロールにより圧着するドライラミネート法、フィルムと発泡ポリスチレンシートとの間にHIPS樹脂を押出し、挟み込むようにロールで圧着するサンドラミ法等の一般的な方法が挙げられる。
【実施例0075】
以下、実施例及び比較例により本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
《測定及び評価方法》
測定及び評価方法は、以下のとおりである。
【0077】
(1)スチレン1モルに対する共役ジビニル化合物の含有モル数の測定
スチレン系樹脂組成物(II)における、スチレン1モルに対する共役ジビニル化合物の含有モル数は、H-NMR及び13C-NMRを使用して測定した。測定装置としては、日本電子(株)社製のJEOL-ECA500を使用した。溶媒としてクロロホルム-d1を使用し、テトラメチルシランの共鳴線を内部標準として使用した。
【0078】
(2)分子量の測定
スチレン系樹脂組成物(II)の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、Mw/Mn、ピークトップ分子量(Mtop)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
装置:東ソー製HLC-8220
分別カラム:東ソー製TSK gel Super HZM-H(内径4.6mm)を直列に2本接続
ガードカラム:東ソー製TSK guard column Super HZ-H
測定溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
試料濃度:測定試料5mgを10mLの溶媒に溶解し、0.45μmのフィルターでろ過を行った。
注入量:10μL
測定温度:40℃
流速:0.35mL/分
検出器:紫外吸光検出器(東ソー製UV-8020、波長254nm)
検量線の作成には東ソー製のTSK標準ポリスチレン11種類(F-850、F-450、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000)を用いた。1次直線の近似式を用いて検量線を作成した。
【0079】
(3)絶対分子量の測定
スチレン系樹脂組成物(II)の絶対分子量は、多角度光散乱検出器(MALS)を用いて、以下の条件で測定した(以下、「MALS法」と称する場合がある。)。
装置:Malvern社製GPCmax
分別カラム:Shodex製KF806‐Lを直列に2本接続
ガードカラム:Shodex製GPC KFG-4A
測定溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
試料濃度:測定試料10mgを10mLの溶媒に溶解し、0.45μmのフィルターでろ過を行った。
注入量:100μL
測定温度:40℃
流速:1.00mL/分
検出器:示差屈折計(Malvern社製 TDA305)
MALS検出器:Malvern社製Viscotek SEC-MALS 20
MALS検出角度:12°、20°、28°、36°、44°52°、60°、68°、76°、84°、90°、100°、108°、116°、124°、132°、140°、148°、156°、164°
MALS検出器温度:40℃
標準試料としてPS105Kを使用し、解析ソフトOmniSEC5.1を用いてBerryプロットの一次式を使用し解析を行った。
得られた分子量とdW/dlogMの割合から、分子量100万~500万の成分の含有量(%)を計算した。
【0080】
(4)分岐度、ゲル化度の測定
スチレン系樹脂組成物(II)の分岐度、ゲル化度は、上述のMALS法で測定を行い、算出した。横軸をlog Molecular weight、縦軸をlog radius of gyrationとしたグラフを作成した。このグラフに、直鎖ポリスチレン(NBS706)について、log Molecular weightの値が5.0~6.0の範囲で線形の近似直線を作成し、これを、分岐構造を持たない直鎖ポリスチレンの基準値とした。
ここで、log Molecular weightの値が6.0、6.5の時のlog radius of gyrationの値をそれぞれ<Rg6.0>、<Rg6.5>と定義し、NBS706の<Rg6.0>、<Rg6.5>をそれぞれ<Rg6.0>NBS、<Rg6.5>NBSと定義する。なお、<Rg6.5>NBSは、近似直線の外挿値から計算することができる。
分岐度は、分岐度=<Rg6.5>/<Rg6.5>NBSと定義する。この分岐度は、絶対分子量106.5=316万において、直鎖ポリスチレンであるNBS706に対して回転半径がどの程度小さくなっているかを意味しており、分岐度が小さいほど、対象のポリマーが分岐していることを表している。
また、ゲル化度は、ゲル化度=(<Rg6.0>/<Rg6.0>NBS)/(<Rg6.5>/<Rg6.5>NBS)と定義する。このゲル化度は、絶対分子量106.0から106.5にかけての、ポリマーの回転半径の変化の割合を表す。すなわち、分子量が大きくなるにつれて分岐がどの程度多くなっているかを意味しており、ゲル化度が大きいほど、分子量が大きくなるにつれて分岐が多くなっていることを表している。
【0081】
(5)メルトマスフローレート(MFR)の測定
スチレン系樹脂組成物(I)、(II)のメルトマスフローレート(g/10分)は、ISO1133に準拠して、200℃、49Nの荷重条件にて測定した。
【0082】
(6)最大立ち上がり比の測定
スチレン系樹脂組成物(II)の最大立ち上がり比の測定は、以下の粘弾性測定に基づいて行った。
装置名:粘弾性測定装置 ARES-G2(TA Instruments社製)
測定システム:ARES-EVFオプション
試験片寸法:長さ20mm、厚さ0.7mm、幅10mm
伸長ひずみ速度:0.01/秒
温度:150℃
測定雰囲気:窒素気流中
予熱時間:2分
予備伸長ひずみ速度:0.03/秒、
予備伸長長さ:0.295mm
予備伸長後緩和時間:2分
粘弾性測定は、試験片をローラーに取り付け、温度が測定温度で安定した後、上記の予熱時間、静置し、予熱を行った。予熱終了後、上記の条件で予備伸長を行った。予備伸長後、2分間静置し、予備伸長で生じた応力を緩和させ、測定した。
【0083】
上記の粘弾性測定で得られた結果から、横軸にヘンキーひずみを、縦軸に伸長粘度をプロットした両対数グラフを作成し、ヘンキーひずみが0.2~0.5の範囲を線形領域として累乗近似の線形領域直線を作成した(例えば、図1の破線)。ひずみ硬化が起こると、この線形領域を外挿した近似曲線の伸長粘度よりも、実際の伸長粘度が大きくなる。
最大立ち上がり比は、上記の粘弾性測定において伸長粘度が最大となる時のヘンキーひずみを最大立ち上がりひずみとして、(最大立ち上がりひずみにおける非線形領域の伸長粘度/最大立ち上がりひずみにおける線形領域を外挿した近似直線の伸長粘度)で算出した。
図1に、実施例及び比較例で得られたスチレン系共重合体について、横軸をヘンキーひずみとし縦軸を伸長粘度としてプロットした両対数グラフを示す。
【0084】
(7)スチレンの二量体及び三量体の合計残存量の測定
スチレン系樹脂組成物(II)中における、スチレンの二量体及び三量体の合計残存量(質量ppm)を、下記の条件や手順で、測定した。
・試料調製:スチレン系樹脂組成物(II)1.0gをメチルエチルケトン10mLに溶解後、更に標準物質(トリフェニルメタン)入りのメタノール3mLを加えポリマー成分を再沈させ、上澄み液を採取し、測定液とした。
・測定条件
機器:Agilent社製 6850 シリーズ GCシステム
検出器:FID
カラム:HP-1(100%ジメチルポリシロキサン)30m、膜厚0.25μm、0.32mmφ
注入量:1μL(スプリットレス)
カラム温度:40℃で1分保持→20℃/分で320℃まで昇温→320℃で10分保持
注入口温度:250℃
検出器温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム
【0085】
(8)スチレン系フィルム中のゴム状弾性体粒子の含有量
各実施例及び比較例のスチレン系樹脂組成物(II)とHIPSとを、表1記載の混合割合で、東芝機械(株)製二軸押出機(TEM26SS-12-2V)を用いて200℃、150rpmで混練し、スチレン系樹脂組成物(I)を得た。
次に、得られた組成物(I)を、ナカタニ機械製20mm押出機の先端にリング状の2重円筒を取り付け、2重円筒から出てくる樹脂をインフレーションして冷却し、引取機で巻取り、各例の厚さ25μmのインフレーションフィルムを得た。
沈澱管に組成物(I)1gを精秤し(この質量をW1とする)、トルエン20ミリLを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機((株)日立製作所製himac、CR-20(ローター:R20A2))にて10℃以下、20000rpmで60分間遠心分離した。沈澱管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除いた。引き続き、160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケータ内で室温まで冷却後、トルエン不溶分の質量を精秤した(この質量をW2とする)。
下記式により、トルエン不溶分の含有量を求めた。
トルエン不溶分の含有量(質量%)=((W2)/(W1))×100
【0086】
(9)フィルムのゲル状物質評価
上記(8)の方法で作製したスチレン系フィルムから縦100mm×横100mmの大きさに試験片を20枚切出し、短径と長径の平均が2mm以上のゲル状物質を目視で測定した。判定はゲル状物質が含まれていた試験片の数が0~2個を「◎」、3~10個を「○」、11個以上の場合を「×」とした。
【0087】
(10)スチレン系フィルムの厚み均一性の評価
上記(8)の方法で作製したスチレン系フィルムの中心から、一辺10cmの正方形を切り出し、流れ方向の中心部から1cm内側の位置から流れ方向と垂直に2cm間隔で5箇所の厚みを測定し、平均の厚みを算出した。この平均の厚みを±20%超える測定点が、全測定点の20%以上であった場合を×、10~20%であった場合を○、10%未満であった場合を◎とした。
【0088】
(11)スチレン系フィルムと発泡ポリスチレンシートとの積層シートの深絞り成形性の評価
ポリスチレン(PSジャパン株式会社製、G0002)100質量部に対して、発泡核剤としてタルク(平均粒径1.3μm)を0.15質量部、発泡剤として液化ブタンを4質量部添加して、直径150mmのサーキュラーダイを備えた押出発泡機を用いて押出し発泡成形した。押出発泡機の樹脂溶融ゾーンの温度は200~230℃、ロータリークーラー温度は130~170℃、ダイス温度は145℃に調整した。押出発泡直後の発泡体を冷却マンドレルで冷却し、円周上の1点でカッターにより切断することにより、シート厚み1.7mm、幅1000mm、発泡倍率12倍の押出発泡シートを得た。
次に、各実施例及び比較例のスチレン系フィルムと上記押出発泡シートとを片面熱ラミネートし、積層シートを作成した。積層加工条件を下記に示す。熱圧着ローラー(ロール表面温度173℃の加熱ロール、直径400mm、ロール巾1.3m、ロール速度10m/分)、フィルムテンション350N。
その後、創研製のシート容器成型機を用いて、このシート成型機の固定枠で上記積層シートを挟み、ヒータの平均温度を200℃、シート温度119℃で、径8cmで絞り比1.0のコップ状の容器を20個プラグアシストにより成形した。この成形体の側面に引裂き等が生じていないかを目視で確認し、引裂き等が起こらず成形可能であった個数を深絞り成形性の指標とした。
【0089】
(12)フィルムの最大成形可能加熱時間の測定
上記(11)の深絞り成形時に加熱する時間を10秒から1秒ずつ伸ばしていき、その他の条件を変えずに真空成形を行い、成形体を10個ずつ成形した。(9)と同様に目視で確認し、成形可能であった成形体の数が7個以下になるまで加熱時間を伸ばしていった。8個以上成形可能であった最大の加熱時間をフィルムの最大成形可能加熱時間(秒)と定義し、測定した。
【0090】
《材料》
実施例及び比較例においては、以下の材料を用いた。
【0091】
〈スチレン系樹脂〉
〈モノビニル化合物〉
スチレン:スチレンモノマー[旭化成社製]
【0092】
〈共役ジビニル化合物〉
〈共役ジビニル化合物1〉
共役ジビニル化合物1は、下記の方法に基づいて製造した。
撹拌機、温度計及び還流冷却管を取り付けた容量5Lの反応容器内に、ポリブタジエン両末端アルコール(Mn:1900)2742g、アクリル酸メチル379g、n-ヘキサン380g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.8194g、及び4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル0.5533gを仕込んだ。得られた混合物を塩化カルシウム管内に通しながら、その混合物に空気を吹き込み、80~85℃で還流脱水を行った。この混合物に含まれている水分をカールフィッシャー法により測定し、その含水量が200ppm以下であることを確認した。その後、エステル交換触媒として、テトラn-ブチルチタネート1.3685gを上記混合物に添加し、生成したメタノールをその共沸溶媒であるn-ヘキサンの還流下で反応系外に留去しながら、攪拌下で80~85℃の反応温度で10時間反応させた。
次に、反応容器内の温度を75~80℃に調整し、使用したアクリル酸メチル及びn-ヘキサンの95%以上が留出するまで減圧度70~2kPaで濃縮し、過剰のアクリル酸メチルとn-ヘキサンを回収した。得られたポリブタジエン両末端ジアクリレート2070gに、トルエン2000g、アセトン200g、イオン交換水20g、及びエステル交換触媒としてハイドロタルサイト(組成式MgAl(OH)16CO・4HO)〔協和化学工業(株)製、商品名:キョーワード500PL〕20gを添加し、75~80℃で2時間処理した。次に、反応容器内の温度を75~80℃に調整し、減圧度90~35kPaで濃縮することにより、トルエンとアセトンと水の混合留出液400gを回収し、得られた濃縮液を空気加圧下で濾過して触媒及び吸着剤を分離し、さらに温度60~80℃及び減圧度30~0.8kPaで溶媒を脱気し、共役ジビニル化合物1を得た。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、共役ジビニル化合物1のポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率を測定したところ99.3%であった。またGPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は1900であった。
【0093】
共役ジビニル化合物2:ポリブタジエンジアクリレート[巴工業社製:CN307] Mn:3800
共役ジビニル化合物3:ポリブタジエン末端アクリレート[大阪有機化学工業社製:BAC‐45] Mn:4800
共役ジビニル化合物4:ウレタンアクリレートオリゴマー[巴工業社製:CN9014NS] Mn:8000
【0094】
〈共役ジビニル化合物5〉
共役ジビニル化合物5は、下記の方法に基づいて製造した。
ポリブタジエン両末端アルコールの分子量をMn:25000に変更した以外は共役ジビニル化合物1の場合と同様の条件にて製造した共役ジビニル化合物5は、ポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率が99.5%であった。また、GPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は26000であった。
【0095】
〈共役ジビニル化合物6〉
共役ジビニル化合物6は、下記の方法に基づいて製造した。
ポリブタジエン両末端アルコールの分子量をMn:57000に変更した以外は共役ジビニル化合物1の場合と同様の条件にて製造した共役ジビニル化合物6は、ポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率が99.2%であった。またGPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は58000であった。
【0096】
共役ジビニル化合物7:芳香族ウレタンアクリレート[巴工業社製:CN9782] Mn:5200
共役ジビニル化合物8:1,3-ブチレンジオールジメタクリレート[和光純薬工業株式会社製] 分子量:226
共役ジビニル化合物9:NKエステル A-GLY-20E[新中村化学工業株式会社製] 分子量:1295、共役ジビニル化合物9の1分子中の平均の共役ビニルの数は3である。
共役ジビニル化合物10:ジビニルベンゼン[和光純薬工業社製] 分子量:130
【0097】
〈多分岐ビニル化合物〉
〈多分岐ビニル化合物1〉
ジビニルベンゼン3.1モル(399.4g)、エチルビニルベンゼン0.7モル(95.1g)、スチレン0.3モル(31.6g)、2-フェノキシエチルメタクリレート2.3モル(463.5g)、トルエン974.3gを3.0Lの反応器内に投入し、50℃で42.6gの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を添加し、6.5時間反応させた。重合反応を炭酸水素ナトリウム溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、多分岐ビニル化合物1を372.5g得た。
この多分岐ビニル化合物1の重量平均分子量(Mw)は8000で、ジビニル化合物由来のビニル基を含有する構造単位(a1)のモル分率は0.44、末端の2-フェノキシエチルメタクリレート由来の二重結合(a2)は0.03、両者を合わせた合計のモル分率(a3)は0.47であった。また、重量平均分子量(Mw)8000における重合体の慣性半径は6.3nmであった。本重合体の慣性半径の、二重結合のモル分率に対する比は13.4であり、かつ、直鎖型の重量平均分子量(Mw)8000における慣性半径が15nmであることと比較すると、本合成例における多分岐ビニル化合物1は、分岐構造をとっていることがわかる。
【0098】
〈多分岐ビニル化合物2〉
攪拌機、温度計、滴下ロート及びコンデンサーを備えた2リットルフラスコに、室温下、特開2016-113598号公報に開示されているエトキシ化ペンタエリスリトール(エチレンオキシド付加ペンタエリスリトール)50.5g、BFジエチルエーテル溶液(50%)1gを加え、110℃に加熱した。これに3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)オキセタン450gを、反応による発熱を制御しつつ、25分間でゆっくり加えた。発熱が収まったところで、反応混合物をさらに120℃で3時間撹拌し、その後、室温に冷却した。得られた多分岐ポリエーテルポリオールの重量平均分子量は3,000、水酸基価は530であった。
攪拌機、温度計、コンデンサーを備えたディーンスタークデカンター及び気体導入管を備えた反応器に、上記で得られた多分岐ポリエーテルポリオール50g、メタクリル酸13.8g、トルエン150g、ヒドロキノン0.06g、パラトルエンスルホン酸1gを加え、混合溶液中に3mL/分の速度で7%酸素含有窒素(v/v)を吹き込みながら、常圧下で撹拌し、加熱した。デカンターへの留出液量が1時間あたり30gになるように加熱量を調節し、脱水量が2.9gに到達するまで加熱を続けた。反応終了後、一度冷却し、無水酢酸36g、スルファミン酸5.7gを加え、60℃で10時間撹拌した。その後、残っている酢酸及びヒドロキノンを除去する為に5%水酸化ナトリウム水溶液50gで4回洗浄し、さらに1%硫酸水溶液50gで1回、水50gで2回洗浄した。得られた有機層にメトキノン0.02gを加え、減圧下、7%酸素含有窒素(v/v)を導入しながら溶媒を留去し、イソプロペニル基及びアセチル基を有する多分岐ビニル化合物2を60g得た。得られた多分岐ビニル化合物2の重量平均分子量は3,900であり、多分岐ポリエーテルポリオールへのイソプロペニル基及びアセチル基導入率は、ヒドロキシル基全体に対してそれぞれ30モル%及び62モル%であった。
【0099】
<ゴム状弾性体>
HIPS1:PSジャパン株式会社製 H8672
【0100】
〈添加剤〉
熱劣化防止剤1:2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-フェニルペンチル)エチル]-4,6-ジ-t-フェニルペンチルアクリレート[住友化学株式会社製:スミライザーGS]
熱劣化防止剤2:6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフィン[住友化学株式会社製:スミライザーGP]
【0101】
〈その他〉
重合開始剤1:2,2-ビス(4,4-ジ-ターシャリー-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン[日油株式会社製:パーテトラA]
重合開始剤2:1,1-ジ-(ターシャリー-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン[日油株式会社製:パーヘキサC]
連鎖移動剤1:α-メチルスチレンダイマー[日本油脂社製:ノフマーMSD]
発泡核剤:タルク(松村産業株式会社製、製品名「ハイフィラー#12」
発泡剤:イソブタン:三井化学社製
【0102】
<実施例1>
スチレン単量体80質量部、エチルベンゼン20質量部、上述の製造方法で得られた共役ジビニル化合物1を0.031質量部(スチレン1モルに対して2.1×10-5モル)、重合開始剤1を0.025質量部添加して、第1反応器に供給する原料溶液を調整した。調製した原料溶液を、102℃の温度に保持した内容積5.4Lの完全混合型第1反応器に、0.6L/時で連続的に供給した。
次に、スチレン単量体80質量部、エチルベンゼン20質量部、連鎖移動剤1を0.35質量部、重合開始剤2を0.023質量部添加して、第2反応器に供給する原料溶液を調整した。調製した原料溶液を、原料溶液が通過する順番に、3ゾーンの温度を122、127、115℃の温度に保持した内容積1.5Lのプラグフロー型第2反応器に、0.17L/時で連続的に供給した。
ついで、第1反応器と第2反応器からの重合溶液を合流させ、原料溶液が通過する順番に、4ゾーンの温度を126、139、140、140℃の温度に保持した、内容積3Lのプラグフロー型第3反応器に供給した。第3反応器のゾーン1において、重合開始剤2を0.03質量部添加した。また第3反応器のゾーン3において、熱劣化防止剤1を0.1質量部、熱劣化防止剤2を0.05質量部添加した。
ついで、第3反応器からの重合溶液を240℃の温度に加熱された真空脱気槽に供給し、未反応単量体や溶媒等の揮発性成分を取り除き、72時間の連続運転後にスチレン系樹脂組成物を得た。
実施例1の製造条件と分析結果を表1に示す。
次に、上記のスチレン系樹脂組成物とHIPS1との質量比を表1記載の混合割合とし、東芝機械(株)製二軸押出機(TEM26SS-12-2V)を用いて、200℃、150rpmで混練し、スチレン系樹脂組成物のペレットを得た。得られた組成物を、ナカタニ機械製20mm押出機の先端にリング状の2重円筒を取り付け、2重円筒から出てくる樹脂をインフレーションして冷却し引取機で巻取り、厚さ25μmのスチレン系フィルムを得た。
更に、上記(11)記載の条件で、押出発泡シートを該スチレン系フィルムと片面熱ラミネートし、評価用の積層シートを作成した。
実施例1の諸物性及び諸評価の結果を表1に示す。
【0103】
<実施例2~13>
実施例2~13は、表1に示すように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして行い、スチレン系樹脂組成物を得た。
実施例2~13の測定及び評価結果を表1にまとめる。
なお、実施例4のスチレン系樹脂組成物は、図1に示すように、ARES-EVFの測定においてひずみ硬化が発現したことがわかる。
【0104】
<比較例1~6>
比較例1~6は、表1に示すように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして行い、スチレン系樹脂組成物を得た。
比較例1~6の測定及び評価結果を表1にまとめる。
【0105】
表1から明らかなように、Mw/Mnが2.8と小さく、分岐度が0.95と大きい比較例1及び分岐度が0.95と大きい比較例2では、ARES-EVFの測定による最大立ち上がり比がいずれも1.00となり、ひずみ硬化が発現しなかった。また、ゲル化度がそれぞれ1.56、1.29、1.34と高い比較例3、5、6は、フィルムのゲル状物質が多く外観がよくなかった。また、分岐度が0.97と高い比較例4は、最大成形可能加熱時間が短く、成形条件幅が狭かった。
【0106】
これに対し、分岐度が0.70~0.94であり、ゲル化度が1.00~1.25であり、多角度光散乱検出器(MALS)を用いて測定した絶対分子量100万~500万の成分の含有量が5.0~15.0%であり、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が3.0~5.0である、実施例1~13のスチレン系樹脂組成物は、フィルム上のゲル状物質も少なく外観に優れること、適切な特性を有し、成形加工性に優れ、成形条件幅も広いことがわかる。
【0107】
【表1】
【0108】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本実施形態のスチレン系フィルムは、成形条件幅が広く、成形性に優れ、且つ、外観に優れており、発泡ポリスチレンシートと積層成形することにより深絞り成形性に優れた積層シートを得ることができる。従って、本実施形態のスチレン系フィルムは、例えば、食品包装分野のスチレン系樹脂シート基材としての発泡ポリスチレンシート等とのラミネート用途に特に好適に用いることができる。
図1