(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086856
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】免疫賦活活性を有するオリゴヌクレオチド含有複合体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07H 21/04 20060101AFI20230615BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230615BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230615BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230615BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230615BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20230615BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230615BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230615BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230615BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20230615BHJP
A61K 39/155 20060101ALI20230615BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20230615BHJP
A61K 31/7125 20060101ALI20230615BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230615BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230615BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20230615BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C07H21/04 Z CSP
A61P31/04
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
A61P33/00
A61P35/00
A61P37/04
A61P37/08
A61K39/145
A61K39/155
A61K39/39
A61K31/7125
A61K31/713
A61K48/00
A61K47/61
C12N15/11 Z ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071978
(22)【出願日】2023-04-26
(62)【分割の表示】P 2021120059の分割
【原出願日】2014-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2013196206
(32)【優先日】2013-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(71)【出願人】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(72)【発明者】
【氏名】石井 健
(72)【発明者】
【氏名】小檜山 康司
(72)【発明者】
【氏名】青枝 大貴
(72)【発明者】
【氏名】武下 文彦
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 裕司
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 貴子
(72)【発明者】
【氏名】小泉 誠
(57)【要約】
【課題】従前のCpG-SPG複合体よりも強力な活性を有する免疫賦活剤を提供すること。
【解決手段】ヒト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチド及びその3’側に配置されたポリ
デオキシアデニル酸を含むオリゴヌクレオチドと、β-1,3-グルカンとを含む複合体を
含有する医薬組成物であって、
(1)ウイルス感染症、癌、アレルギー疾患、細胞内寄生性原虫又は細菌感染症の予防又は治療、あるいは
(2)免疫賦活化
のための、医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチド及びポリデオキシアデニル酸を含む、オリゴデオキシヌクレオチドであって、ポリデオキシアデニル酸が、ヒト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチドの3’側に配置されている、オリゴデオキシヌクレオチド。
【請求項2】
ヒト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチドが、10ヌクレオチド以上の長さであり、且つ式:
【化1】
(式中、中央のCpGモチーフはメチル化されておらず、WはA又はTであり、N
1、N
2、N
3、N
4、N
5及びN
6はいかなるヌクレオチドであってもよい);
で表されるヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載のオリゴデオキシヌクレオチド。
【請求項3】
ヒト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチドが、配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなる、請求項1又は2に記載のオリゴデオキシヌクレオチド。
【請求項4】
オリゴデオキシヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の一部又は全てがホスホロチオエート結合により置換されている、請求項1~3のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド。
【請求項5】
オリゴデオキシヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の全てがホスホロチオエート結合により置換されている、請求項4のオリゴデオキシヌクレオチド。
【請求項6】
ポリデオキシアデニル酸の長さが、20~60ヌクレオチド長である、請求項1~5のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド及びβ-1, 3-グルカンを含有する複合体。
【請求項8】
β-1, 3-グルカンが、レンチナン、シゾフィラン、スクレログルカン、カードラン、パーキマン、グリホラン、又はラミナランである、請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
β-1, 3-グルカンがレンチナン、シゾフィラン、又はスクレログルカンである、請求項8に記載の複合体。
【請求項10】
下記(i)に記載のオリゴデオキシヌクレオチド、及び(ii)に記載のβ-1, 3-グル
カンからなる複合体。
(i)配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるオリゴデオキシヌクレオチドの3’側に20~60ヌクレオチド長のポリデオキシアデニル酸が結合し、かつリン酸ジエステル結合の全てがホスホロチオエート結合で置換されているオリゴデオキシヌクレオチド
(ii)レンチナン又はシゾフィラン
【請求項11】
三重螺旋構造状のものである、請求項7~10のいずれかに記載の複合体。
【請求項12】
B細胞を活性化してIL-6を産生させる活性、及び樹状細胞を活性化してIFN-αを産生さ
せる活性を有する、請求項7~11のいずれかに記載の複合体。
【請求項13】
請求項1~6のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは請求項7~12のいずれかに記載の複合体を含む、医薬組成物。
【請求項14】
ウイルス感染症、癌、アレルギー疾患、細胞内寄生性原虫又は細菌感染症の予防又は治療のための、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
ウイルス感染症の予防又は治療のための、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
ウイルス感染症がRSウイルス、又はインフルエンザウイルス感染症である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項7~12のいずれかに記載の複合体を含む、I型及び/又はII型インターフェロ
ン産生誘導剤。
【請求項18】
請求項1~6のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは請求項7~12のいずれかに記載の複合体を含む、免疫賦活剤。
【請求項19】
ワクチンアジュバントである、請求項18の免疫賦活剤。
【請求項20】
[1]~[6]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは請求項7~12のいずれかに記載の複合体を含む、ウイルス感染症、癌、アレルギー疾患、細胞内寄生性原虫又は細菌感染症の予防又は治療剤。
【請求項21】
ウイルス感染症がRSウイルス、又はインフルエンザウイルス感染症である請求項20に記載の予防又は治療剤。
【請求項22】
医薬組成物の製造のための、請求項1~6のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは請求項7~12のいずれかに記載の複合体の使用。
【請求項23】
医薬組成物が、ウイルス感染症、癌、アレルギー疾患、細胞内寄生性原虫又は細菌感染症の予防又は治療のための医薬組成物である、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
ウイルス感染症がRSウイルス、又はインフルエンザウイルス感染症である、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
請求項1~6のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは請求項7~12のいずれかに記載の複合体の薬理的有効量を温血動物に投与することを含む、当該温血動物における疾患の治療もしくは予防のための方法。
【請求項26】
疾患が、ウイルス感染症、癌、アレルギー疾患、細胞内寄生性原虫又は細菌感染症である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ウイルス感染症が、RSウイルス、又はインフルエンザウイルス感染症である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
温血動物が、ヒトである、請求項25~27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
請求項1~6のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは請求項7~12のいずれかに記載の複合体の薬理的有効量を温血動物に投与することを含む、当該温血動物における防御免疫反応を誘導する方法。
【請求項30】
ウイルス感染症、癌、アレルギー疾患、細胞内寄生性原虫又は細菌感染症の治療又は予防において使用するための、請求項1~6のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは請求項7~12のいずれかに記載の複合体。
【請求項31】
ウイルス感染症が、RSウイルス、又はインフルエンザウイルス感染症である、請求項30に記載のオリゴデオキシヌクレオチド又は複合体。
【請求項32】
(a)請求項1~6のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは請求項7~1
2のいずれかに記載の複合体、及び
(b) 抗原
を含む、医薬組成物。
【請求項33】
該抗原に対する免疫反応を誘導するための、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
抗原が病原体由来の抗原である、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
病原体の感染症の予防又は治療用である、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
病原体がウイルスである、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
ウイルスが、RSウイルス又はインフルエンザウイルスである、請求項36に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫賦活活性を有するオリゴヌクレオチド含有複合体及びその用途に関する。詳細には、本発明は、免疫賦活活性を有するCpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)及びβ-グルカンを含有する複合体及びその医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
CpGオリゴヌクレオチド(CpG ODN)は、免疫賦活性のCpGモチーフを含有する、短い(
約20塩基対)、一本鎖の合成DNA断片であって、Toll様受容体9(TLR9)の強力なアゴニ
ストであり、樹状細胞(DCs)及びB細胞を活性化して、I型インターフェロン(IFNs)
及び炎症性サイトカインを産生させ(非特許文献1、2)、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)反応を含む、Th1型の液性及び細胞性免疫反応のアジュバントとして作用する(非特許文
献3、4)。そこで、CpG ODNは、感染症、癌、喘息及び花粉症に対して可能性のある免
疫療法剤とみなされてきた(非特許文献2、5)。
【0003】
骨格配列及び免疫賦活特性がそれぞれ異なる、少なくとも4つの型のCpG ODNがある(非特許文献6)。D型(A型とも呼ばれる)CpG ODNは、典型的には、ホスホジエステル(PO
)骨格及びホスホロチオエート(PS)ポリGテイルと共に1つの回文構造のCpGモチーフを
含み、形質細胞様DCs(pDCs)を活性化して大量のIFN-αを産生させるが、pDC成熟化やB
細胞活性化を誘導できない(非特許文献7、8)。他の3つの型のODNは、PS骨格からな
る。K型(B型とも呼ばれる)CpG ODNは、典型的には、非回文構造の、複数のCpGモチーフを含有し、B細胞を強力に活性化してIL-6を産生させ、pDCsを活性化して成熟化させるが
、ほとんどIFN-αを産生しない(非特許文献8、9)。近年、開発されたC型及びP型のCpG ODNはそれぞれ1つ及び2つの回文構造CpG配列を含有しており、双方ともK型の様にB細
胞を活性化させ、D型の様にpDCsを活性化させることができるが、P型CpG ODNと比較して
、C型CpG ODNは、IFN-α産生をより弱く誘導する(非特許文献10-12)。特許文献1に、多数の優れたK型 CpG ODNが記載されている。
【0004】
D型及びP型CpG ODNは、G-tetradsと呼ばれる平行4本鎖構造を形成するフーグスティー
ン塩基対、及びシス回文構造部位とトランス回文構造部位との間のワトソン-クリック塩基対、という高次構造をそれぞれ形成することが示されており、これらはpDCsによる強力なIFN-α産生に必要である(非特許文献12-14)。このような高次構造は初期エンドソームへの局在化やTLR9を介する情報伝達に必要であるようだが、これらは産物の多型性及び沈殿の影響を受け、その結果その臨床応用を妨げている(非特許文献15)。従って、K型及びC型CpG ODNのみが、ヒト用の免疫療法剤及びワクチンアジュバントとして一般
的に利用可能である(非特許文献16及び17)。K型CpG ODNは、ヒト臨床試験において、感染症及び癌を標的とするワクチンの免疫原性を高めるが(非特許文献6、16)、最適なアジュバント効果のためには、抗原とK型CpG ODNとの間の化学的及び物理的連結が必要である。これらの結果は、4つの型(K、D、P、及びC)のCpG ODNには長所及び短所が
あることを示しており、アグリゲーションすることなく、B細胞及びpDCsの両方を活性化
する「オール・イン・ワン」CpG ODNの開発が期待されている。
【0005】
スエヒロタケ(Schizophyllum commune)由来の可溶性β-1,3-グルカンであるシゾフィラン(SPG)は、子宮頸癌患者における放射線療法の賦活薬として日本においてここ3
0年に亘り認可されている医薬である(非特許文献18)。同様に、シイタケ由来の可溶性β-1,3-グルカンであるレンチナン(LNT)は、1985年に承認された医薬であり、手術不能および再発胃癌患者に対しフルオロピリミジン系薬剤との併用で使用されている(非特許文献19、20)。β-1,3-グルカンは、ポリデオキシアデニル酸(dA)と三
重螺旋構造の複合体を形成することが示されている(非特許文献21)。
【0006】
特許文献2~4には、シゾフィランを含むβ-1,3-グルカンと核酸(遺伝子)との水
溶性複合体の遺伝子キャリアとしての使用が開示されている。これらの文献には、該複合体を形成することにより、遺伝子のアンチセンス作用及び核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)への耐性作用が高められることが記載されている。
【0007】
特許文献5には、β-1,3-結合を有する多糖類をキャリアー(トランスフェクション
剤)として用いることにより、CpG配列を含み、リン酸ジエステル結合をホスホロチオエ
ート結合又はホスホロジチオエート結合に置換した免疫刺激性オリゴヌクレオチドの作用が高められることが開示されている。
【0008】
特許文献6には、免疫刺激性オリゴヌクレオチドと、長鎖のβ-1,6-グルコシド結合
側鎖を有するβ-1,3-グルカンとからなることを特徴とする免疫刺激性複合体が記載さ
れている。
【0009】
本発明者らは、以前、SPGと複合体化した、5’末端にリン酸ジエステル結合を有する
ポリ(dA)を連結させたマウス及びヒト化したCpG ODNが、サイトカイン産生を増強し、インフルエンザワクチンアジュバントやTh2細胞関連疾患の予防または治療剤として作用す
ることを示した(非特許文献22、23、特許文献7)。K型及びD型のそれぞれのCpGの5’末端にポリ(dA)を付加し、SPGと複合体を形成すると、それぞれK型及びD型の特性を
維持しつつ、その活性が増強された。しかしながら、より効果的で、費用効率が高い、前臨床及び臨床開発へ向けて、CpG-SPG複合体の高収率を達成することが困難であった。近
年、CpG ODNにホスホロチオエート結合を有するポリ(dA)を連結すると、複合体形成がほとんど100%にまで上昇することが示された(非特許文献24)。しかしながら、最適なヒト化CpG配列を同定し、4つの型のCpG ODNの「オール・イン・ワン」活性を得るための因子を最適化するための綿密な試験はなされていない。
【0010】
特許文献8には、抗原/CpGオリゴヌクレオチド/β-1,3-グルカン系の三元複合体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US 8,030,285 B2
【特許文献2】WO 01/034207 A1
【特許文献3】WO 02/072152 A1
【特許文献4】特開2004-107272号公報
【特許文献5】WO 2004/100965 A1
【特許文献6】特開2007-70307号公報
【特許文献7】特開2008-100919号公報
【特許文献8】特開2010-174107号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Hemmi, H., et al. A Toll-like receptor recognizes bacterial DNA. Nature 408, 740-745 (2000).
【非特許文献2】Krieg, A.M. Therapeutic potential of Toll-like receptor 9 activation. Nature reviews. Drug discovery 5, 471-484 (2006).
【非特許文献3】Brazolot Millan, C.L., Weeratna, R., Krieg, A.M., Siegrist, C.A. & Davis, H.L. CpG DNA can induce strong Th1 humoral and cell-mediated immune responses against hepatitis B surface antigen in young mice. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 95, 15553-15558 (1998).
【非特許文献4】Chu, R.S., Targoni, O.S., Krieg, A.M., Lehmann, P.V. & Harding, C.V. CpG oligodeoxynucleotides act as adjuvants that switch on T helper 1 (Th1) immunity. The Journal of experimental medicine 186, 1623-1631 (1997).
【非特許文献5】Klinman, D.M. Immunotherapeutic uses of CpG oligodeoxynucleotides. Nature reviews. Immunology 4, 249-258 (2004).
【非特許文献6】Vollmer, J. & Krieg, A.M. Immunotherapeutic applications of CpG oligodeoxynucleotide TLR9 agonists. Advanced drug delivery reviews 61, 195-204 (2009).
【非特許文献7】Krug, A., et al. Identification of CpG oligonucleotide sequences with high induction of IFN-alpha/beta in plasmacytoid dendritic cells. European journal of immunology 31, 2154-2163 (2001).
【非特許文献8】Verthelyi, D., Ishii, K.J., Gursel, M., Takeshita, F. & Klinman, D.M. Human peripheral blood cells differentially recognize and respond to two distinct CPG motifs. Journal of immunology 166, 2372-2377 (2001).
【非特許文献9】Hartmann, G. & Krieg, A.M. Mechanism and function of a newly identified CpG DNA motif in human primary B cells. Journal of immunology 164, 944-953 (2000).
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【非特許文献19】Oba, K.; Kobayashi, M.; Matsui, T.; Kodera, Y.; Sakamoto, J.Individual patient based meta-analysis of lentinan for unresectable/recurrent gastric cancer. Anticancer Res., 2009, 29, 2739-2746.
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【非特許文献23】Koyama, S., et al. Plasmacytoid dendritic cells delineate immunogenicity of influenza vaccine subtypes. Science translational medicine 2, 25ra24 (2010).
【非特許文献24】Minari, J., et al. Enhanced cytokine secretion from primary macrophages due to Dectin-1 mediated uptake of CpG DNA/beta-1,3-glucan complex. Bioconjugate chemistry 22, 9-15 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、従前のCpG-SPG複合体よりも強力な活性を有する免
疫賦活剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討を行ったところ、3’末端にポリ(dA)テイルを有するK型CpG ODNであるK3(配列番号2)及びSPGを含む新規の複合体、即ちK3-SPGを同定した。これは、完全に可溶化することのできる、高次ナノ粒子を形成した。同様に、本発明者らは前記K
型CpG ODN及びレンチナン(LNT)を含む新規の複合体K3-LNTの作製にも成功した。K3-SPG, K3-LNTはD型CpG ODN配列を有していないにも係わらず、K型CpG ODNに特有の免疫賦活活性(例えば、B細胞(好ましくは、ヒトB細胞)を活性化してIL-6を産生させる活性)と、D
型CpG ODNに特有の免疫賦活活性(例えば、形質細胞様樹状細胞を活性化してIFN-αを産
生させる活性)とを併せ持っていた。更に、K3-LNT、及びK3-SPGは強力なワクチンアジュバント活性を有しており、抗原とともに免疫接種すると、該抗原特異的な液性免疫及び細胞性免疫の両方を誘導し、実際、RSVウイルス又はインフルエンザウイルスに対し非常に
強い感染防御効果を示した。これらの知見に基づいて更に検討を進め、本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明は以下に示すとおりである。
[1]ヒト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチド及びポリデオキシアデニル酸を含む、オリゴデオキシヌクレオチドであって、ポリデオキシアデニル酸が、ヒト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチドの3’側に配置されている、オリゴデオキシヌクレオチド。
[2]ヒト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチドが、10ヌクレオチド以上の長さであり、且つ式:
【0016】
【0017】
(式中、中央のCpGモチーフはメチル化されておらず、WはA又はTであり、N1、N2、N3、N4
、N5及びN6はいかなるヌクレオチドであってもよい)
で表されるヌクレオチド配列を含む、[1]に記載のオリゴデオキシヌクレオチド。
[3]ヒト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチドが、配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなる、[1]又は[2]に記載のオリゴデオキシヌクレオチド。
[4]オリゴデオキシヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の一部又は全てがホスホロチオエート結合で置換されている、[1]~[3]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド。
[5]オリゴデオキシヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の全てがホスホロチオエート結合により置換されている、[4]に記載のオリゴデオキシヌクレオチド。
[6]ポリデオキシアデニル酸の長さが、20~60ヌクレオチド長である、[1]~[5]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド。
[7][1]~[6]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド及びβ-1, 3-グルカンを含有する複合体。
[8]β-1, 3-グルカンがレンチナン、シゾフィラン、スクレログルカン、カードラン、パーキマン、グリホラン、又はラミナランである[7]に記載の複合体。
[9]β-1, 3-グルカンがレンチナン、シゾフィラン又はスクレログルカンである[8]に記載の複合体。
[10]下記(i)に記載のオリゴデオキシヌクレオチド、及び(ii)に記載のβ-1, 3
-グルカンからなる複合体。
(i)配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるオリゴデオキシヌクレオチドの3’側に20~60ヌクレオチド長のポリデオキシアデニル酸が結合し、かつリン酸ジエステル結合の全てがホスホロチオエート結合により置換されているオリゴデオキシヌクレオチド
(ii)レンチナン又はシゾフィラン
[11]三重螺旋構造状のものである、[7]~[10]のいずれかに記載の複合体。
[12]B細胞を活性化してIL-6を産生させる活性、及び樹状細胞を活性化してIFN-αを
産生させる活性を有する、[7]~[11]のいずれかに記載の複合体。
[13][1]~[6]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは[7]~[12]のいずれかに記載の複合体を含む、医薬組成物。
[14]ウイルス感染症、癌、アレルギー疾患、細胞内寄生性原虫又は細菌感染症の予防又は治療のための、[13]に記載の医薬組成物。
[15]ウイルス感染症の予防又は治療のための、[14]に記載の医薬組成物。
[16]ウイルス感染症がRSウイルス又はインフルエンザウイルス感染症である[15]に記載の医薬組成物。
[17][7]~[12]のいずれかに記載の複合体を含む、I型及び/又はII型インタ
ーフェロン産生誘導剤。
[18][1]~[6]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは[7]~[12]のいずれかに記載の複合体を含む、免疫賦活剤。
[19]ワクチンアジュバントである、[18]の免疫賦活剤。
[20][1]~[6]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは[7]~[12]のいずれかに記載の複合体を含む、ウイルス感染症、癌、アレルギー疾患、細胞内寄生性原虫又は細菌感染症の予防又は治療剤。
[21]ウイルス感染症がRSウイルス又はインフルエンザウイルス感染症である[20]に記載の予防又は治療剤。
[22]医薬組成物の製造のための、[1]~[6]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは[7]~[12]のいずれかに記載の複合体の使用。
[23]医薬組成物が、ウイルス感染症、癌、アレルギー疾患、細胞内寄生性原虫又は細菌感染症の予防又は治療のための医薬組成物である、[22]に記載の使用。
[24]ウイルス感染症がRSウイルス又はインフルエンザウイルス感染症である、[23]に記載の使用。
[25][1]~[6]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは[7]
~[12]のいずれかに記載の複合体の薬理的有効量を温血動物に投与することを含む、当該温血動物における疾患の治療もしくは予防のための方法。
[26]疾患が、ウイルス感染症、癌、アレルギー疾患、細胞内寄生性原虫又は細菌感染症である、[25]に記載の方法。
[27]ウイルス感染症がRSウイルス又はインフルエンザウイルス感染症である、[26]に記載の方法。
[28]温血動物がヒトである、[25]~[27]のいずれかに記載の方法。
[29][1]~[6]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは[7]~[12]のいずれかに記載の複合体の薬理的有効量を温血動物に投与することを含む、当該温血動物における防御免疫反応を誘導する方法。
[30]ウイルス感染症、癌、アレルギー疾患、細胞内寄生性原虫又は細菌感染症の治療又は予防において使用するための、[1]~[6]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは[7]~[12]のいずれかに記載の複合体。
[31]ウイルス感染症がRSウイルス又はインフルエンザウイルス感染症である、[30]に記載のオリゴデオキシヌクレオチド又は複合体。
[32](a)[1]~[6]のいずれかに記載のオリゴデオキシヌクレオチド、或いは[
7]~[12]のいずれかに記載の複合体、及び
(b) 抗原
を含む、医薬組成物。
[33]該抗原に対する免疫反応を誘導するための、[32]に記載の組成物。
[34]抗原が病原体由来の抗原である、[33]に記載の組成物。
[35]病原体の感染症の予防又は治療用である、[34]に記載の組成物。
[36]病原体がウイルスである、[35]に記載の組成物。
[37]ウイルスがRSウイルス又はインフルエンザウイルスである、[36]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、優れた免疫賦活活性を有するオリゴデオキシヌクレオチドやこれを含む複合体が提供される。特に、本発明の複合体は、K型CpG ODNに特有の免疫賦活活性と、D
型CpG ODNに特有の免疫賦活活性とを併せ持つ。更に、本発明の複合体は強力なワクチン
アジュバント活性を有しており、本発明の複合体を抗原とともに免疫接種すると、該抗原特異的な液性免疫及び細胞性免疫の両方を刺激し、非常に強い感染防御効果を示す。従って、本発明の複合体は、免疫賦活剤やワクチンアジュバントとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】CpG ODNとLNT又はSPGの複合体化の方法を示す。
【
図2】PBMCsのpan-IFN-α産生を示す。
【
図3】K3、K3-dA40又はK3-SPGで刺激した際にヒトPBMCsから産生されるサイトカインプロファイルを示す。
【
図5】動的光散乱により解析した、K3-SPG、SPG及びD35の粒子サイズを示す。
【
図6】K3、K3-SPG 又はD35刺激により誘導された、PBMCsのpan-IFN-α、IFN-α2、及びIFN-γ産生を示す。
【
図7】K3、K3-dA40、K3-SPG、CpG21798(P型CpG ODN)、CpG21889(P)、CpG2395(C)又はM362(C)刺激(0.74、2.2、6.6又は20 μg/ml)により誘導された、ヒトPBMCsのpan-IFN-α及びIL-6産生を示す。
【
図8】K3-SPGのK型CpG ODN含有エンドソームへの共局在を示す。スケールバーは10μmを示す。この結果は、少なくとも2回の独立した試験における代表的なものである。
【
図9】K3-SPGのD型CpG ODN含有エンドソームへの共局在を示す。スケールバーは10μmを示す。
【
図10】OVA単独、OVA+K3、又はOVA+K3-SPGにより免疫したマウスの抗原特異的血清抗体価を示す。*p < 0.05 (Mann-Whitney U test)。
【
図11】OVA単独、OVA+K3、又はOVA+K3-SPGにより免疫したマウスの脾細胞の、抗原での再刺激により誘導されたIFNγ産生を示す。
【
図12】OVA単独、OVA+K3、又はOVA+K3-SPGでの免疫により誘導されたOVA特異的CD8T細胞の割合を示す。*p < 0.05 (Mann-Whitney U test)。
【
図13】OVA単独、OVA+K3、OVA+K3-dA40又はOVA+K3-SPGでの免疫により誘導された、インビボOVA特異的CTL活性を示す。*p < 0.05 (Mann-Whitney U test)。
【
図14】K3-SPGのペプチドワクチンアジュバント効果を示す。
【
図15】K3-SPGの用量依存的アジュバント効果を示す。
【
図16】OVA単独、OVA+K3、又はOVA+K3-SPGにより免疫したマウスの抗原特異的血清抗体価を示す。免疫接種時のOVA用量を各グラフの上に示す。*p < 0.05 (Mann-Whitney U test)。
【
図17】OVA単独、OVA+K3、又はOVA+K3-SPGにより免疫したマウスの脾細胞の、抗原での再刺激により誘導されたIFNγ産生を示す。免疫接種時のOVA用量を各グラフの上に示す。
【
図18】空(vector)、Dectin-1、又はDectin-2トランスフェクタントへのSPGの結合を示す。
【
図19】空(vector)、Dectin-1、又はDectin-2トランスフェクタントへのK3又はK3-SPGの結合を示す。
【
図20】C57BL/6Jマウス又はDectin-1欠損マウス脾細胞の、Zymosan Depleted刺激誘導TNF-α産生を示す。
【
図21】C57BL/6Jマウス又はDectin-1欠損マウス脾細胞の、SPG刺激誘導TNF-α産生を示す。
【
図22】C57BL/6Jマウス又はDectin-1欠損マウス脾細胞の、CpG ODN刺激誘導IFN-α産生に対するZymosan Depletedの効果を示す。*p < 0.05 (t-test)。
【
図23】C57BL/6Jマウス脾細胞の、CpG ODN刺激誘導IFN-α産生に対するSPGの効果を示す。
【
図24】K3-SPGにより誘導されるサイトカイン産生がTLR9に依存することを示す。a) FL-DCsのIFN-α産生、b) 脾細胞のIL-6及びIL-12 p40産生、c) FL-DCsのIFN-α産生、d) 脾細胞のIL-6及びIL-12 p40産生。
【
図25】OVA+K3-SPGで免疫したTlr9+/+又はTlr9-/-マウスの抗原特異的血清抗体価を示す。*p < 0.05 (Mann-Whitney U test)。
【
図26】OVA+K3-SPGで免疫したTlr9+/+又はTlr9-/-マウスの脾細胞の、抗原での再刺激により誘導されたIFN-γ産生を示す。*p < 0.05 (Mann-Whitney U test)。
【
図27】Tlr9+/+又はTlr9-/-マウスをOVA+K3-SPGで免疫することにより誘導されたOVA特異的CD8T細胞の割合を示す。*p < 0.05 (Mann-Whitney U test)。
【
図28】K3-SPGのアジュバント効果がDectin-1に依存しないことを示す。a) 血清中の抗原特異的抗体力価。b) 抗原再刺激による脾細胞のIFN-γ産生。c) インビボにて誘導される抗原特異的CD8T細胞の割合。
【
図29】OVA+K3-SPGで免疫したDectin-1+/-又はDectin-1-/-マウスの抗原特異的血清抗体価を示す。
【
図30】OVA+K3-SPGで免疫したDectin-1+/-又はDectin-1-/-マウスの脾細胞の、抗原での再刺激により誘導されたIFN-γ産生を示す。
【
図31】Dectin-1+/-又はDectin-1-/-マウスをOVA+K3-SPGで免疫することにより誘導されたOVA特異的CD8T細胞の割合を示す。*p < 0.05 (Mann-Whitney U test)。
【
図32】Alexa 488-K3-SPG投与1時間後の、iLNs表面上へのK3-SPGの局在を示す。
【
図33】DQ-OVA投与1時間後の、iLNs中の、OVA、MARCO
+細胞、及びSiglec-1
+細胞の局在を示す。
【
図34】
図33におけるOVAのMARCO
+細胞又はSiglec-1
+細胞との共局在をVolocityで解析した結果を示す。*p < 0.05 (t-test)。
【
図35】Alexa 488-K3又はAlexa 488-K3-SPG投与1時間後のiLNs中の、K3、K3-SPG、及びMARCO
+細胞の局在を示す。
【
図36】
図35におけるK3又はK3-SPGのMARCO
+細胞との共局在をVolocityで解析した結果を示す。*p < 0.05 (t-test)。
【
図37】クロドロネートリポソームによる枯渇化試験のプロトコール(上パネル)、血清中抗原特異的抗体力価(左下)、及び抗原刺激サイトカイン産生を示す。*p <0.05 (t-test)。
【
図38】K3又はK3-SPGを投与したC57BL/6J又はTlr9-/- マウスの各種DCsにおけるCD40発現を示す。
【
図39】SV、WIV又はSV+K3-SPGで免疫したマウスにおける血清中抗原特異的抗体力価を示す。
【
図40】SV、WIV又はSV+K3-SPGで免疫感作後に、インフルエンザウイルス A/P/R8(H1N1)で負荷した際の、体重の経時変化(左)及び生存率カーブ(右)を示す。
【
図41】SV+ K3又はSV+K3-SPGで免疫感作したカニクイザル血清中の抗原特異的血清抗体力価の経時変化を示す。*p < 0.05 (t-test)。
【
図42】SV+ K3又はSV+K3-SPGで免疫感作したカニクイザル血清中の抗原特異的血清抗体力価を示す(110週目)。
【
図43】K3とK3-SPGとの間のワクチンアジュバント効果の比較。
【
図44】K3、K3-LNT又はK3-SPGによるpan-IFN-a産生とIL-6産生を示す。
【
図45】K3、K3-LNT又はK3-SPG添加RSV Fサブユニットワクチンを接種したマウスにおける、血清中RSV F抗原特異的IgG抗体価を示す。
【
図46】K3又はK3-LNT又はK3-SPG添加RSV Fサブユニットワクチンを接種したマウスにおける、RSV F抗原刺激により特異的に誘導されるサイトカイン産生を示す。
【
図47】K3又はK3-LNT又はK3-SPG添加RSV Fサブユニットワクチンを接種したコットンラットにおける、RSV感染防御効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.オリゴデオキシヌクレオチド
本発明は、K型CpGオリゴデオキシヌクレオチド及びポリデオキシアデニル酸(dA)を含む、オリゴデオキシヌクレオチド(以下、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドと称する。)を提供するものである。
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドにはリン酸ジエステル結合が修飾(例えば、一部又は全てのリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合により置換)されているものを含む。
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは薬学的に許容可能な塩を含む。
なお、本明細書においてオリゴデオキシヌクレオチドとODNは同義である。また、「ヒ
ト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)」と、「ヒト化K型CpGオリゴデオキ
シヌクレオチド(CpG ODN)残基」とは末尾の用語「残基」の有無に関わらず同義であり、
交換可能に用いられる。更に、ポリデオキシアデニル酸とポリデオキシアデノシン酸(残基)は同義である。用語「残基」は、より大きな分子量の化合物の部分構造を意味するが、本明細書中、「ヒト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)」が、独立した
分子を意味するか、より大きな分子量の化合物の部分構造を意味するかは、当業者であれば、文脈から容易に理解可能である。「ポリデオキシアデニル酸」等、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドに含まれる他の部分構造に関する用語についても、同様である。
【0021】
CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)は、免疫賦活性の非メチル化CpGモチーフ
を含有する一本鎖DNAであり、TLR9のアゴニストである。CpG ODNには、骨格配列及び免疫賦活特性がそれぞれ異なる、K型(B型とも呼ばれる)、D型(A型とも呼ばれる)、C型及
びP型の4つの型がある(Advanced drug delivery reviews 61, 195-204 (2009))。本発
明のオリゴデオキシヌクレオチドは、これらのうちK型CpG ODNを含む。
【0022】
K型CpG ODNは、典型的には非回文構造の、複数の非メチル化CpGモチーフを含有し、B細胞を活性化してIL-6を産生させるが、形質細胞様樹状細胞(pDCs)のIFN-α産生をほとんど誘導しないという構造的及び機能的特性を有するCpG ODNである。非メチル化CpGモチーフとは少なくとも1つのシトシン(C)-グアニン(G)配列を含む短いヌクレオチド配列であって、該シトシン-グアニン配列におけるシトシンの5位がメチル化されていないものを差す。なお、以下の説明において、CpGとは、特にことわらなり限り非メチル化CpGを意味する。従って、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、K型CpG ODNを含むことにより、K型CpG ODNに特有の免疫賦活活性(例えば、B細胞(好ましくは、ヒトB細胞)を活性化してIL-6を産生させる活性)を有する。当該技術分野において多数のヒト化K型CpG ODNが知られている(Journal of immunology 166, 2372-2377 (2001);Journal of immunology 164, 944-953 (2000);US 8, 030, 285 B2)。
【0023】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドに含まれるK型CpG ODNは、好ましくはヒト化されている。「ヒト化」とは、ヒトTLR9に対するアゴニスト活性を有することを意味する。従って、ヒト化K型CpG ODNを含む本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、ヒトに対してK
型CpG ODNに特有の免疫賦活活性(例えば、ヒトB細胞を活性化してIL-6を産生させる活性)を有する。
【0024】
本発明において好適に用いられるK型CpG ODNは、10ヌクレオチド以上の長さであり、且つ式:
【0025】
【0026】
(式中、中央のCpGモチーフはメチル化されておらず、WはA又はTであり、N1、N2、N3、N4、N5及びN6はいかなるヌクレオチドであってもよい)
で表されるヌクレオチド配列を含む。
【0027】
一態様において、本発明のK型CpG ODNは10ヌクレオチド以上の長さであり、上記式のヌクレオチド配列を含む。但し、上記式中、中央の4塩基のCpGモチーフ(TCpGW)は10ヌクレオチド中に含まれていれば良く、必ずしも上記式中、N3及びN4の間に位置する必要はない。また、上記式中、N1、N2、N3、N4、N5及びN6はいかなるヌクレオチドであっても良く、N1及びN2、N2及びN3、N3及びN4、N4及びN5、並びにN5及びN6の少なくともいずれか一つ(好ましくは一つ)の組み合わせは2塩基のCpGモチーフであっても良い。前記4塩基のCpGモチーフがN3及びN4の間に位置しない場合、上記式中、中央の4塩基(4~7番目の塩基)中の連続するいずれかの2塩基がCpGモチーフであり、他の2つの塩基はいかなるヌ
クレオチドであっても良い。
【0028】
本発明においてより好適に用いられるK型CpG ODNは1つまたは複数のCpGモチーフを含
む非回文構造を含有する。更に好適に用いられるK型CpG ODNは1つまたは複数のCpGモチ
ーフを含む非回文構造からなる。
【0029】
ヒト化K型CpG ODNは、一般的に、TCGA又はTCGTからなる4塩基のCpGモチーフを特徴と
する。また、多くのケースにおいて、一つのヒト化K型CpG ODN中にこの4塩基のCpGモチ
ーフが2又は3個含まれる。従って、好ましい態様において、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドに含まれるK型CpG ODNは、少なくとも1個、より好ましくは2以上、更に好ましくは2又は3個、TCGA又はTCGTからなる4塩基のCpGモチーフを含む。該K型CpG ODNが
2又は3個の4塩基のCpGモチーフを有する場合、これらの4塩基のCpGモチーフは同一であっても異なっていてもよい。ただし、ヒトTLR9に対するアゴニスト活性を有する限り、特に限定されない。
【0030】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドに含まれるK型CpG ODNは、より好ましくは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列を含む。
【0031】
K型CpG ODNの長さは、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドが免疫賦活活性(例えば、B細胞(好ましくは、ヒトB細胞)を活性化してIL-6を産生させる活性)を有する限り、特に限定されないが、好ましくは100ヌクレオチド長以下(例えば、10-75ヌクレオチド長)である。K型CpG ODNの長さは、より好ましくは50ヌクレオチド長以下(例えば、10-40ヌ
クレオチド長)である。K型CpG ODNの長さは、更に好ましくは30ヌクレオチド長以下(例えば、10-25ヌクレオチド長)である。K型CpG ODNの長さは、最も好ましくは、12-25ヌクレオチド長である。
【0032】
ポリデオキシアデニル酸(dA)の長さは、β-1,3-グルカン(好ましくは、レンチナ
ン、又はシゾフィラン)鎖とともに三重螺旋構造を形成するのに十分な長さであれば特に限定されるものではないが、安定な三重螺旋構造を形成する観点からは、通常20ヌクレオチド長以上、好ましくは40ヌクレオチド長以上、より好ましくは60ヌクレオチド長以上である。ポリdAは、長ければ長いほどβ-1,3-グルカンと安定な三重螺旋構造を形成する
ので、理論的には上限はないが、長すぎると、オリゴデオキシヌクレオチドの合成時の長さにバラつきが生じる原因となるので、通常、100ヌクレオチド長以下、好ましくは80以
下である。一方、前記安定な三重螺旋構造の形成に加え、単位量のβ-1,3-グルカンあ
たりに結合する本発明のオリゴデオキシヌクレオチド量を増大させ、且つオリゴデオキシヌクレオチドの合成時の長さのばらつきの回避、複合化効率の観点からは、ポリdAの長さは、好ましくは、20~60ヌクレオチド長(具体的には、20, 21, 22, 23, 24, 25, 26, 27, 28, 29, 30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45, 46, 47, 48, 49, 50, 51, 52, 53, 54, 55, 56, 57, 58, 59又は60ヌクレオチド長 )、より好
ましくは、30~50ヌクレオチド長(30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45, 46, 47, 48, 49, 50ヌクレオチド長)、最も好ましくは、30~45ヌクレオチド長(30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45ヌクレオチド長)である。特に、30ヌクレオチド長以上の場合、良好な複合化効率を示す。本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、ポリdAを含むことにより、2本のシゾフィラン鎖とと
もに三重螺旋構造を形成する活性を有する。なお、ポリデオキシアデニル酸を「ポリ(dA)」又は「poly(dA)」と表記することもある。
【0033】
1分子の本発明のオリゴデオキシヌクレオチドには、複数個のK型CpG ODN及び/又はポリdAが含まれていてもよいが、好ましくは、K型CpG ODN及ポリdAが1つずつ含まれ、最も好ましくは、K型CpG ODN及ポリdAが1つずつからなる。
【0034】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、ポリdAがK型CpG ODNの3’側に配置されてい
ることを特徴とする。この配置により、本発明の複合体(詳細は下に述べる)が、K型CpG
ODNに特有の免疫賦活活性に加えて、D型CpG ODNに特有の免疫賦活活性を有することとなる。
【0035】
K型CpG ODNとポリdAとは、直接共有結合により連結されていてもよいし、スペーサー配列を介して連結されていてもよい。スペーサー配列とは、2つの近接した構成要素の間に挿入される1以上のヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を意味する。スペーサー配列の長さは、本発明の複合体が、免疫賦活活性(好ましくはB細胞を活性化してIL-6を産生さ
せる活性、及び樹状細胞を活性化してIFN-αを産生させる活性)を有する限り、特に限定
されないが、通常1~10ヌクレオチド長、好ましくは1~5ヌクレオチド長、より好ましくは1~3ヌクレオチド長である。最も好ましくは、K型CpG ODNとポリdAとが、直接共有結合により連結される。
【0036】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、K型CpG ODN、ポリdA及び任意的なスペーサー配列に加え、その5’末端及び/又は3’末端に付加的なヌクレオチド配列を有していてもよい。該付加的なヌクレオチド配列の長さは、本発明の複合体が免疫賦活活性(好ましくはB細胞を活性化してIL-6を産生させる活性、及び樹状細胞を活性化してIFN-αを産生さ
せる活性)を有する限り、特に限定されないが、通常1~10ヌクレオチド長、好ましくは1~5ヌクレオチド長、より好ましくは1~3ヌクレオチド長である。
【0037】
好ましい態様において、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、このような5’末端
及び/又は3’末端の付加的なヌクレオチド配列を含まない。即ち、本発明のオリゴデオ
キシヌクレオチドは、好ましくは、K型CpG ODN、ポリdA及び任意的なスペーサー配列からなり、更に好ましくは、K型CpG ODN及びポリdAからなる。
【0038】
最も好ましい態様において、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、K型CpG ODN(具
体的には、例えば、配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるオリゴデオキシヌクレオチド)及びポリdAからなり、K型CpG ODNが該オリゴデオキシヌクレオチドの5’末端に、ポリdAが3’末端に、それぞれ位置する。具体的には、配列番号1で表されるヌクレオ
チド配列からなるオリゴデオキシヌクレオチドの3’末端に20~60ヌクレオチド長(より
好ましくは、30~50ヌクレオチド長(30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45, 46, 47, 48, 49, 50ヌクレオチド長)、最も好ましくは、30~45ヌクレオチド長(30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45ヌクレオチド長))のポリdAが結合したオリゴデオキシヌクレオチドであり、例えば、配列番号2、又は9~12で表されるヌクレオチド配列からなるオリゴデオキシヌクレオチドである。
【0039】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドの全長は、通常30~200ヌクレオチド長、好まし
くは35~100ヌクレオチド長、より好ましくは40~80ヌクレオチド長(具体的には、40, 41, 42, 43, 44, 45, 46, 47, 48, 49, 50, 51, 52, 53, 54, 55, 56, 57, 58, 59, 60, 61, 62, 63, 64, 65, 66, 67, 68, 69, 70, 71, 72, 73, 74, 75, 76, 77, 78, 79 又は80ヌクレオチド長)、より好ましくは、50~70ヌクレオチド長(具体的には、50, 51, 52, 53, 54, 55, 56, 57, 58, 59 , 60, 61, 62, 63, 64, 65, 66, 67, 68, 69, 70ヌクレオ
チド長)、最も好ましくは、50~65ヌクレオチド長(具体的には、50, 51, 52, 53, 54, 55, 56, 57, 58, 59, 60, 61, 62, 63, 64, 65ヌクレオチド長)である。
【0040】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、インビボにおける分解(例、エクソ又はエンドヌクレアーゼによる分解)に対して抵抗性となるように適切に修飾されていてもよい。好ましくは、該改変はホスホロチオエート修飾又はホスホロジチオエート修飾を含む。即ち、本発明のオリゴデオキシヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合の一部又は全てが、ホスホロチオエート結合又はホスホロジチオエート結合により置換されている。
【0041】
好ましくは、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、リン酸ジエステル結合の修飾を含み、より好ましくは、リン酸ジエステル結合の修飾は、ホスホロチオエート結合(即ち、WO 95/26204に記載されているように、非架橋酸素原子のうちの1つが、硫黄原子に置
換される)である。即ち、本発明のオリゴデオキシヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合の一部又は全てが、ホスホロチオエート結合により置換されている。
【0042】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、好ましくは、K型CpG ODNにおいて、ホスホロ
チオエート結合、または、ホスホロジチオエート結合による修飾を含み、より好ましくは、該K型CpG ODNのリン酸ジエステル結合の全てが、ホスホロチオエート結合に置換される。また、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、好ましくは、ポリdAにおいて、ホスホロチオエート結合、または、ホスホロジチオエート結合を含み、より好ましくは、該ポリdAのリン酸ジエステル結合の全てが、ホスホロチオエート結合に置換される。更に好ましくは、本発明のヒト化K型CpGオリゴデオキシヌクレオチド及びポリデオキシアデニル酸を含むオリゴデオキシヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の全てが、ホスホロチオエート結合に置換される。最も好ましくは、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、ヒト化K
型CpGオリゴデオキシヌクレオチド(例、配列番号1)の3’末端に20~60ヌクレオチド長(より好ましくは、30~50ヌクレオチド長(30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45, 46, 47, 48, 49, 50ヌクレオチド長)、最も好ましくは、30~45ヌクレオチド長(30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45ヌクレオチド長))のポリdAが結合したオリゴデオキシヌクレオチドであって、当該オリゴデオキシヌクレオチドに含まれる全てのリン酸ジエステル結合が、ホスホロチオエート結合に置換されている。ホスホロチオエート結合により、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドにおいて、分解に対する抵抗性のみならず、免疫賦活活性(例えば、B細胞を活性
化させてIL-6を産生させる活性)の増強、及びCpG-β-1,3-グルカン複合体の高収率が期
待されるからである。なお、本明細書におけるホスホロチオエート結合はホスホロチオエート骨格と、リン酸ジエステル結合はリン酸骨格と同義である。
【0043】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドには、上記オリゴデオキシヌクレオチドのあらゆる薬学的に許容可能な塩類、エステル、またはそのようなエステルの塩類を含む。
【0044】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドの薬学的に許容可能な塩類としては、好適にはナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩;アンモニウム塩のような無機塩、t-オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N-メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N-ベンジル-フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機塩等のアミン塩;弗化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のようなハロゲン原子化水素酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のような低級アルカンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩のようなアリ-ルスルホン酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、フマ-ル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、蓚酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩;及び、グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩を挙げることができる
【0045】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、1本鎖、2本鎖、3本鎖のいずれの形態でもよいが、好ましくは1本鎖である。
【0046】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、好ましくは単離されている。「単離」とは、目的とする成分以外の因子を除去する操作がなされ、天然に存在する状態を脱していることを意味する。「単離されたオリゴデオキシヌクレオチド」の純度(評価対象物の総重量に占める目的とするオリゴデオキシヌクレオチド重量の百分率)は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは99%以上である。
【0047】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、優れた免疫賦活活性(例えば、B細胞(好ま
しくは、ヒトB細胞)を活性化してIL-6を産生させる活性)を有するので、免疫賦活剤等
として有用である。更に、本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、2本のβ-1,3-グルカン(好ましくは、レンチナン、シゾフィラン、又はスクレログルカン)とともに三重螺旋構造を形成する性質を有するので、下記の本発明の複合体の調製に有用である。
【0048】
2.複合体
本発明は、上記本発明のオリゴデオキシヌクレオチド及びβ-1,3-グルカンを含有す
る複合体(以下、本発明の複合体と称する。)を提供するものである。
【0049】
上述の本発明のオリゴデオキシヌクレオチドは、K型CpG ODNを含むので、それ単独では、K型CpG ODNに特有の免疫賦活活性(例えば、B細胞(好ましくは、ヒトB細胞)を活性化してIL-6を産生させる活性)を発揮し、D型CpG ODNに特有の免疫賦活活性(例えば、形質細胞様樹状細胞を活性化してIFN-αを産生させる活性)に乏しい。しかしながら、驚くべきことに、β-1,3-グルカン(好ましくは、レンチナン、又はシゾフィラン)と複合体
を形成することにより、D型CpG ODNの配列を要することなく、D型CpG ODNに特有の免疫賦活活性(例えば、形質細胞様樹状細胞を活性化してIFN-αを産生させる活性)を獲得する。即ち、本発明の複合体は、K型CpG ODNに特有の免疫賦活活性(例えば、B細胞(好まし
くは、ヒトB細胞)を活性化してIL-6を産生させる活性)と、D型CpG ODNに特有の免疫賦
活活性(例えば、形質細胞様樹状細胞(好ましくはヒト形質細胞様樹状細胞)を活性化してIFN-αを産生させる活性)の両方を有する。
【0050】
本発明で用いられるβ-1,3-グルカンとしては、レンチナン、シゾフィラン、スクレ
ログルカン、カードラン、パーキマン、グリホラン、ラミナラン等を挙げることが出来る。β-1,3-グルカンは、好ましくは、レンチナン、シゾフィランまたはスクレログルカ
ンのように、1,6-グルコピラノシド分枝を多く含有する(側鎖率33~40%)β-1,3-グルカンであり、より好ましくはレンチナン、又はシゾフィランであり、最も好ま
しくはレンチナンである。
【0051】
レンチナン(LNT)は、シイタケ由来の公知のβ-1,3-1,6-グルカンであり、分子式
は(C6H10O5)n、分子量は約30~70万である。水、メタノール、エタノール(95)、又はアセトンにはほとんど溶けないが、極性有機溶媒であるDMSOや水酸化ナトリウム水溶液に溶解する。
レンチナンは活性化マクロファージ、キラーT細胞、ナチュラルキラー細胞及び抗体依
存性マクロファージ仲介性細胞障害作用(ADMC)活性の増強作用を有する(Hamuro, J., et
al.:Immunology, 39, 551-559, 1980、Hamuro, J., et al.:Int. J. Immunopharmacol., 2, 171, 1980、 Herlyn, D., et al.:Gann, 76, 37-42, 1985)。動物実験において
は同系腫瘍及び自家腫瘍に対して化学療法剤との併用投与により腫瘍増殖抑制作用ならびに延命効果が認められている。また、レンチナンの単独投与によっても腫瘍増殖抑制作用ならびに延命効果が認められている。臨床試験においては手術不能又は再発胃癌患者に対して、テガフール経口投与との併用により生存期間の延長が認められ(医薬品インタビューフォーム「レンチナン静注用1mg「味の素」」)、本邦で承認されている。レンチナン
の単独投与による効果は現在のところ確認されていない。
【0052】
シゾフィラン(SPG)は、スエヒロタケ由来の公知の可溶性β-グルカンである。SPGは、β-(1→3)-D-グルカンの主鎖と、各3個のグルコース当り1個のβ-(1→6)-D
-グルコシル側鎖からなる(Tabata, K., Ito, W., Kojima, T., Kawabata, S. and Misaki A.,「Carbohydr. Res.」, 1981, 89, 1, p.121-135)。SPGは婦人科癌に対する免疫増強法の筋肉内注射製剤臨床薬として20年以上の使用実績があり(清水, 陳, 荷見, 増淵,「Biotherapy」, 1990, 4, p.1390長谷川,「Oncology and Chemotherapy」, 1992, 8, p
.225)、生体内での安全性が確認されている(Theresa, M. McIntire and David, A. Brant,「J. Am. Chem. Soc.」, 1998, 120, p.6909)。
【0053】
本明細書において「複合体」とは、複数の分子が、静電結合、ファンデルワールス結合、水素結合、疎水性相互作用などの非共有結合又は共有結合を介して会合することにより得られる産物を意味する。
【0054】
本発明の複合体は、好ましくは、三重螺旋構造状である。好ましい態様において、当該三重螺旋構造を形成する3本の鎖のうち、2本はβ-1,3-グルカン鎖であり、1本は、
上記本発明のオリゴデオキシヌクレオチド中のポリデオキシアデニル酸の鎖である。なお、当該複合体は一部に、三重螺旋構造を形成していない部分を含んでいても良い。
【0055】
本発明の複合体における、オリゴデオキシヌクレオチドとβ-1,3-グルカンの組成比
は、オリゴデオキシヌクレオチド中のポリデオキシアデニル酸の鎖長、及びβ-1,3-グ
ルカンの長さ等に応じて、変化しうる。例えば、β-1,3-グルカン鎖と、ポリデオキシ
アデニル酸の鎖の長さが同等の場合には、2本のβ-1,3-グルカン鎖と、1本の本発明
のオリゴデオキシヌクレオチドが会合し、三重螺旋構造を形成し得る。一般的には、β-1,3-グルカン鎖に対して、ポリデオキシアデニル酸の鎖長は短いので、2本のβ-1,3-グルカン鎖に対して、複数の本発明のオリゴデオキシヌクレオチドがポリデオキシアデニル酸を介して会合し、三重螺旋構造を形成し得る(
図1参照)。
【0056】
本発明の複合体は、ヒト化K型CpG ODN及びβ-1,3-グルカン(例、レンチナン、シゾ
フィラン、スクレログルカン、カードラン、パーキマン、グリホラン、ラミナラン)を含有する複合体であり、好ましくは、ヒト化K型CpG ODN及びβ-1,3-グルカン(例、レン
チナン、シゾフィラン、スクレログルカン)からなる複合体である。より好ましくは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるオリゴデオキシヌクレオチドの3’側に20
~60ヌクレオチド長(具体的には、20, 21, 22, 23, 24, 25, 26, 27, 28, 29, 30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45, 46, 47, 48, 49, 50, 51, 52, 53, 54, 55, 56, 57, 58, 59又は60ヌクレオチド長)のポリデオキシアデニル酸が結合し、かつリン酸ジエステル結合の全てがホスホロチオエート結合に置換されたオリゴデオキシヌクレオチド、及びβ-1,3-グルカン(例、レンチナン、シゾフィラン)からな
る複合体(例、K3-dA20~60-LNT、K3-dA20~60-SPG)であり、更に好ましくは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるオリゴデオキシヌクレオチドの3’側に30~50ヌ
クレオチド長(具体的には、30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45, 46, 47, 48, 49, 50ヌクレオチド長)のポリデオキシアデニル酸が結合し、かつリン酸ジエステル結合の全てがホスホロチオエート結合に置換されたオリゴデオキシヌクレオチド、及びβ-1,3-グルカン(例、レンチナン、シゾフィラン)からなる複合体
(例、K3-dA30~50-LNT、K3-dA30~50-SPG)であり、最も好ましくは、配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるオリゴデオキシヌクレオチドの3’側に30~45ヌクレオチ
ド長(具体的には、30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45ヌクレオチド長)のポリデオキシアデニル酸が結合し、かつリン酸ジエステル結合の全てがホスホロチオエート結合に置換されたオリゴデオキシヌクレオチド、及びβ-1,3-グ
ルカン(例、レンチナン、シゾフィラン)からなる複合体(K3-dA30~45-LNT、K3-dA30~45-SPG)である。
【0057】
本発明の複合体の調製方法に関しては、非特許文献21~24や、特開2008-100919号公報
に記載された条件と同様に行うことができる。すなわち、本来は、天然で三重螺旋構造として存在するβ-1,3-グルカンを非プロトン性有機極性溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO),アセトニトリル,アセトン等)またはアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム、水酸
化カリウム、アンモニア、水酸化カルシウム等)に溶解して一本鎖に解く。このようにし
て得られた一本鎖のβ-1,3-グルカンの溶液と本発明のオリゴデオキシヌクレオチドの
溶液(水溶液、中性付近のpHの緩衝水溶液、又は酸性の緩衝水溶液、好ましくは、水溶液又は中性付近のpHの緩衝水溶液)とを混合し、必要に応じて再度pHを中性付近に調整後、適当時間保持する、例えば、5℃で一夜保持する。その結果、2本のβ-1,3-グルカン鎖と該オリゴデオキシヌクレオチド中のポリdA鎖が三重螺旋構造を形成することにより、本発明の複合体が形成される。生成した複合体に対して、サイズ排除クロマトグラフィーによる精製、限外濾過、透析等を行うことにより、複合体未形成のオリゴデオキシヌクレオチドを除くことができる。また、生成した複合体に対して、陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製を行うことにより、複合体未形成のβ-1,3-グルカンを除くことができ
る。上記の方法により、複合体を適宜精製することができる。
【0058】
本発明の複合体の形成は、例えばCD(円偏光二色性)スペクトルによるコンフォメーション変化、サイズ排除クロマトグラフィーによるUV吸収シフト、ゲル電気泳動、マイクロチップ電気泳動、キャピラリー電気泳動を測定することにより確認することができるが、これに限らない。
【0059】
本発明のオリゴデオキシヌクレオチドとβ-1,3-グルカンとの混合比は、ポリdA鎖の
長さ等を考慮して適宜設定することができるが、通常モル比(SPG/ODN)が0.02~2.0、好ましくは0.1~0.5である。更なる態様において、モル比(β-1,3-グルカン(LNT等)/ODN)が例えば0.005~1.0、好ましくは0.020~0.25である。
【0060】
本発明の複合体の調製方法についてCpG-ODNとLNT複合体を例に説明する。LNTを0.0
5~2N、好ましくは0.1~1.5Nのアルカリ水溶液(例えば、0.25N水酸化ナトリウム水溶液)に溶解させ、1℃~40℃で10時間~4日間放置し(例えば、室温で一晩放置する)、一本鎖のLNT水溶液(例えば、50mg/mlのLNT水溶液)を調製する。前記LNT水溶液と別途調製したCpG水溶液(例えば、100μMの CpG水溶液)をモル比(LNT/ODN)0.005~1.0で混合し、続いて、前記LNT水溶液に酸性の緩衝水溶液(例えば、NaH2PO4)を加えて中和し、1~40℃で6時間~4日間(例えば、4℃で一晩)維持することで複合化を完了させる。なお、前記複合化のためにLNT水溶液を最後に加え混合しても良い。複合体の形成は、例
えば、サイズ排除クロマトグラフィーを用い、CpG ODNの高分子量側へのシフトを240~280nm(例えば、260nm)における吸収をモニタリングすることによって確認することができる。
【0061】
一態様において、本発明の複合体は、竿状の粒子の形態を呈する。粒子径は、材料として用いるβ-1,3-グルカン(例、シゾフィラン)が天然で三重螺旋構造を呈することに
より形成する粒子の径と同等であり、通常平均粒子径が10-100 nm、好ましくは20-50 nm
である。該粒子径は、複合体を水に溶解し、Malvern Instruments Zeta Sizerを用いて80℃の条件で動的光散乱法により計測することができる。
【0062】
本発明の複合体は、好ましくは単離されている。「単離された複合体」の純度(評価対象物の総重量に占める目的とする複合体重量の百分率)は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは99%以上である。
【0063】
本発明の複合体は、優れた免疫賦活活性を有し、特に、K型CpG ODNに特有の免疫賦活活性(例えば、B細胞(好ましくは、ヒトB細胞)を活性化してIL-6を産生させる活性)と、D型CpG ODNに特有の免疫賦活活性(例えば、形質細胞様樹状細胞(好ましくはヒト形質細胞様樹状細胞)を活性化してIFN-αを産生させる活性)の両方を有するので、免疫賦活剤等として有用である。例えば、K型CpG ODN(例えば、配列番号2、11、12)とLNTを
含む複合体(K3-LNT)及びK型CpG ODN(例えば、配列番号2)とSPGを含む複合体(K3-SPG)は、炎症応答誘導能(pan-IFN-a、IL-6等)、ウイルス接種個体における血清中抗原特
異的IgG抗体価(Total IgG, IgG2c等)の増強作用、ウイルス接種個体における抗原特異
的サイトカイン産生能(IFN-γ,IL2等)、ウイルスに対する感染防御効果を有する。K3-LNTについてはウイルス接種個体においてTh2型サイトカイン(IL-13等)の産生増強能も有する。従って、新規ワクチンアジュバント候補として有用である。
【0064】
3.医薬組成物
本発明は、上記本発明のオリゴデオキシヌクレオチド又は上記本発明の複合体を含む、医薬組成物を提供するものである。本発明の医薬組成物は、上記本発明のオリゴデオキシヌクレオチド又は上記本発明の複合体を常套手段に従って製剤化することにより得ることができる。本発明の医薬組成物は、本発明のオリゴデオキシヌクレオチド又は複合体と薬理学的に許容され得る担体を含む。また、本医薬組成物は抗原を更に含んでいても良い。このような医薬組成物は、経口又は非経口投与に適する剤形として提供される。
【0065】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含しても良い。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明のオリゴデオキシヌクレオチド又は複合体を通常注射剤に用いられる無菌の水性溶媒に溶解又は懸濁することによって調製できる。注射用の水性溶媒としては、例えば、蒸留水;生理的食塩水;リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液等の緩衝液等が使用できる。このような水性溶媒のpHは5~10が挙げられ、好ましくは6~8である。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。
【0066】
また、本発明のオリゴデオキシヌクレオチド又は複合体の懸濁液を、真空乾燥、凍結乾燥等の処理に付すことにより、本発明のオリゴデオキシヌクレオチド又は複合体の粉末製剤を調製することもできる。本発明のオリゴデオキシヌクレオチド又は複合体を粉末状態で保存し、使用時に該粉末を注射用の水性溶媒で分散することにより、使用に供することができる。
【0067】
医薬組成物中の本発明のオリゴデオキシヌクレオチド又は複合体の含有量は、通常、医薬組成物全体の約0.1~100重量%、好ましくは約1~99重量%、さらに好ましくは約10~90
重量%程度である。
【0068】
本発明の医薬組成物は、有効成分として、本発明のオリゴデオキシヌクレオチド又は複合体を単独で含有していてもよく、本発明のオリゴデオキシヌクレオチド又は複合体を他の有効成分と組み合わせて含有していてもよい。
【0069】
4.医薬用途
本発明のオリゴデオキシヌクレオチド及び複合体は、優れた免疫賦活活性を有するので、本発明のオリゴデオキシヌクレオチド、複合体及び医薬組成物は、免疫賦活剤として用いることができる。本発明のオリゴデオキシヌクレオチド、複合体又は医薬組成物を哺乳動物(ヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類等)に投与することにより、該哺乳動物における免疫反応を惹起することができる。特に、本発明の複合体は、D型CpG ODNの活性特性を有し、末梢血単核球を刺激して、I型インターフェロン(Pan-IFN-α、IFN-α2等)及
びII型インターフェロン(IFN-γ)の両方を大量に産生させるので、I型インターフェロ
ン産生誘導剤、II型インターフェロン産生誘導剤、I型及びII型インターフェロン産生誘
導剤として有用である。I型及びII型インターフェロンの両方の産生を誘導することから
、本発明の複合体及びこれを含有する医薬組成物は、I型及びII型インターフェロンのい
ずれか一方又は両方が有効な疾患の予防又は治療に有用である。I型インターフェロンが
有効な疾患としては、ウイルス感染症(例えば、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルス等)、癌等を挙げるこ
とが出来る。II型インターフェロンが有効な疾患としては、アレルギー疾患、細胞内寄生性の原虫(リーシュマニア等)や細菌(リステリア、結核菌等)等の感染症等を挙げることが出来る。RSウイルスやインフルエンザウイルスを含む急性ウイルス感染症に対しては、I型インターフェロン及びII型インターフェロン共に、ウイルス排除に関する免疫応答
を高めるので、本発明の複合体及びこれを含有する医薬組成物は、急性ウイルス感染症に対する有効性が期待できる。
【0070】
また、本発明のオリゴデオキシヌクレオチド及び複合体、特に、本発明の複合体は、強力なワクチンアジュバント活性を有し、本発明のオリゴデオキシヌクレオチド及び複合体を、抗原と共に、哺乳動物へ投与すると、該抗原に対する免疫反応を強力に誘導することが出来る。したがって、本発明は、(a) 本発明のオリゴデオキシヌクレオチド、又は本発明の複合体、及び(b) 抗原を含む、当該抗原に対する免疫反応を誘導するための組成物をも提供するものである。特に、本発明の複合体は、抗原に対する液性免疫反応(抗原特異的抗体産生)と細胞性免疫反応(抗原特異的CTL誘導)の両方を強力に誘導する。従って
、本発明のオリゴデオキシヌクレオチド、複合体、及び医薬組成物、特に本発明の複合体及びこれを含有する医薬組成物は、ワクチンアジュバントとして有用である。
本明細書において、アジュバントとは免疫応答を促す補助剤のことであり、抗原とともに生体に投与されたとき、その抗原に対する免疫応答を非特異的に増強させる物質を意味する。
【0071】
抗原としては、投与対象の哺乳動物(ヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類等)にとって抗原性を有しており、抗体又は細胞傷害性Tリンパ球(CTL, CD8+T細胞)が抗原として
認識し得る限り、特に限定されるものではなく、抗原となるあらゆる物質(タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、糖質、ならびに前記物質の修飾体(例えば、一つ又は複数のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加等(以下、変異等)を導入した修飾体など)を用いることができる。抗原としては、原虫、真菌、細菌、ウイルスなどの病原体由来の抗原、癌、または特定の疾患に関係する抗原も用いられ得る。
【0072】
本明細書において、「抗原Aが、病原体Xに由来する」とは、抗原Aが、当該病原体Xに構成因子として含まれることを意味する。例えば、抗原Aがポリペプチドである場合、その
ポリペプチドのアミノ酸配列が、病原体Xのゲノムにコードされたタンパク質のアミノ酸
配列中に存在することを意味する。
【0073】
病原体由来の抗原としては、病原体そのもの又はその一部、不活化又は弱毒化した病原体そのもの又はその一部、あるいはそれらの変異等を導入した修飾体等が挙げられる。
【0074】
抗原として病原体由来の抗原を用いると、当該抗原に対する免疫反応が惹起され、該抗原を含む病原体を免疫学的に生体外へ排除する仕組みが構築される。従って、(a) 本発明のオリゴデオキシヌクレオチド、又は本発明の複合体、及び(b) 病原体由来の抗原を含む、当該抗原に対する免疫反応を誘導するための組成物は、当該病原体の予防又は治療のために有用である。
【0075】
本発明の複合体は、抗原に対する液性免疫反応(抗原特異的抗体産生)とともに、細胞性免疫反応(抗原特異的CTL誘導)の両方を強力に誘導する。従って、細胞傷害性Tリンパ球により認識されることが知られている細胞内感染性の病原体(ウイルス、原虫、真菌、細菌等)由来の抗原や、癌化した細胞に関連した抗原(例えば、腫瘍抗原)等が抗原として好適に用いられる。
【0076】
細胞内感染性ウイルスとしては、特に限定されないが、RSウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、A型肝炎ウイルス(HAV
)、B型肝炎ウイルス(HBV)、エボラウイルス、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、ポリオウイルス、日本脳炎ウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、狂犬病ウイルス、黄熱ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、パルボウイルス、コロナウイルス、ジステンパーウイルス、成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヘルペスウイルス、パピローマウイルス等が挙げられる。細胞内感染性バクテリアとしては、マイコプラズマ等が挙げられる。細胞内感染性原虫としては、マラリア原虫、住血吸虫等が挙げられる。細胞内感染性病原体は好ましくはウイルス(具体的には、RSウイルス、又はインフルエンザウイルス等)である。
【0077】
癌化した細胞に関連した抗原としては、癌化した細胞において特異的に発現する蛋白質、糖鎖、ペプチド、ならびに前記物質の変異体(欠失、置換、及び/又は付加)又はその修飾体などが挙げられる。
【0078】
本発明の複合体は、I型及びII型インターフェロンの両方を強力に誘導するので、一態
様において、ウイルスとして、I型インターフェロン及びII型インターフェロンの両方が
有効な急性ウイルス感染症を引き起こすウイルス(例、RSウイルス、インフルエンザウイルス)が選択される。
【0079】
例えば、(a) 本発明のオリゴデオキシヌクレオチド、又は本発明の複合体、及び(b) 病原体や癌由来の抗原を含む、当該抗原に対する免疫反応を誘導するための組成物を、当該病原体感染症や癌の患者、当該病原体感染症や癌に罹患する可能性のあるヒトに投与することにより、該投与を受けた対象中の細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を抗原特異的に活性化させ、該抗原特異的な抗体産生を誘導し、即ち、温血動物(好ましくは、ヒト)の防御免疫反応を誘導することにより、該感染症や癌を予防・治療することが出来る。即ち、該組成物は、上記感染症、癌等の疾患の予防又は治療のためのワクチンとして有用である。
【0080】
また、本発明の複合体は、抗原に対する液性免疫反応(抗原特異的抗体産生)と細胞性免疫反応(抗原特異的CTL誘導)の両方を強力に誘導することができるので、抗原として
、病原体や癌細胞の表面抗原と内部抗原のいずれを用いることも可能であり、表面抗原と内部抗原とを混合して用いることも、また望ましい。
【0081】
(a) 本発明のオリゴデオキシヌクレオチド、又は本発明の複合体、及び(b)抗原を含む
、当該抗原に対する免疫反応を誘導するための組成物は、上記本発明の医薬組成物に準じて調製することができる。
【0082】
本明細書中で挙げられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【実施例0083】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0084】
[方法]
動物及び試薬
Tlr9欠損マウス及びDectin-1欠損マウスの作成については、以前に記載した(Koyama, S., et al., Science translational medicine 2, 25ra24 (2010); Saijo, S., et al., Nature immunology 8, 39-46 (2007))。C57BL/6Jマウスは、日本クレアから購入した。
全ての動物実験は、医薬基盤研究所及び大阪大学動物施設の機関ガイドラインに従って実
施した。以下のCpG ODNsは、(株)ジーンデザインで合成された(下線はホスホロチオエート結合を示す)。
【0085】
【0086】
特に、上記K3-dA40(配列番号2)に加え、K3-dA35(配列番号12)、K3-dA30(配列
番号11)、K3-dA25(配列番号10)及び、K3-dA20(配列番号9)の合成(表2)について記載する。
【0087】
【0088】
(上記配列中のsは、ヌクレオシド間のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合
に置換されていることを示す。)
【0089】
本オリゴデオキシヌクレオチドは、常法である固相ホスホロアミダイト法(Nucleic Acids in Chemistry and Biology, 3. Chemical synthesis (1990) ed. G. Michael Blackburn and Michael J. Gait. Oxford University Press)を用いて合成した。
【0090】
表3に表2記載のCpG ODNの分子量、及び、以下の条件で逆相HPLCで分析した場合の保
持時間を示す(カラム:Waters, X-Bridge C18 2.5μm, 4.6 x 75 mm、A溶液:100 mM ヘ
キサフルオロイソプロパノール、8 mM トリエチルアミン、B溶液:メタノール、B%:5%→30%(20 min, linear gradient);60℃;1 ml/min;260 nm)。
【0091】
【0092】
オブアルブミン(OVA)は、生化学工業(株)から購入した。DQ-OVA、Alexa488-OVA、CFSE、及びLipofectamine 2000はInvitrogenから購入した。Hoechst33258、ザイモザン及
びカードランは、SIGMAから購入した。Zymosan-DepletedはInvivogenから購入した。クロドロネートリポソームはFormuMaxから購入した。インフルエンザスプリットプロダクトワクチン、ホルマリン不活化全ウイルス(WIV)、及び精製インフルエンザウイルス(H1N1
)は、以前に記載したように調製した(Koyama, S., et al., Science translational medicine 2, 25ra24 (2010))。
【0093】
CpG ODNとSPGとの複合体化(
図1)
7.22 mgのK3-dA40を水(3.7mL)に溶解した。SPG(三井製糖) 15 mgを0.25 N NaOH (1 mL)に溶解した。1 mLの330 mM NaH
2PO
4をDNA溶液に加え、次にSPG溶液をDNA/NaH
2PO
4溶液
に加え、4℃にて一晩維持することにより複合体化を完了した。モル比(MSPG/MDNA)は、0.27に固定した。複合体の形成は、マイクロチップ電気泳動装置(SHIMADZU:MultiNA)
によって確認した。
【0094】
CpG ODNとLNTとの複合体化(
図1)
レンチナン(LNT:味の素株式会社、ロット番号:2D8X1)を50mg/mlとなるように、0.25N NaOHに溶解し、室温で一晩放置した。各種CpG ODN(表2,3)は100mMとなるように
、注射用水に溶解した。LNT水溶液と各種CpG水溶液(K3-dA20(配列番号9)、K3-dA25(配列番号10)、K3-dA30(配列番号11)、K3-dA35(配列番号12)、K3-dA40(配列
番号2))を表4に示す比率で混合し、続いて、添加したLNTと同体積の330 mM NaH
2PO
4
を加え、4℃にて一晩維持することにより複合体化を完了した。複合体の形成は、サイズ
排除クロマトグラフィーを用い、CpG ODNの高分子量側へのシフトを、260nmにおける吸収をモニタリングすることによって確認した(System:Agilent 1100series、Column:Asahipak GF7M-HQ (Shodex) 2本連結、Flow rate:0.8mL/min、Buffer: 10mM EDTA PBS, pH7.4、Temperature:40℃)。
【0095】
【0096】
ヒトPBMCsの調製及び刺激(
図2、3、6、7)
PBMCsは、3人の健康な成人男性ボランティア(30~40 歳)から得た。ヒトPBMCsを用
いる全ての試験は、医薬基盤研究所の施設内治験審査委員会により認可された。Ficollを用いてPBMCsを調製後、1 x 10
7 個/mlの濃度で播いた。PBMCsを、コンプリートRPMI(10%
FCS、ペニシリン、及びストレプトマイシンが添加されたRPMI 1640)中で維持した。PBMCsを、K3 (0.24、0.74、2.2、6.6、20 μg/mL) 、K3-dA40、K3-SPG (K3-dA40の複合体)、dA40-K3、SPG-K3(dA40-K3の複合体)、D35、CpG21798、CpG21889、CpG2395、又はM362で24時間刺激した。上清をpan-IFN-α (Mabtech)、IL-6 (R&D)、及びMilliplex (Millipore)用のELISAに付した。
【0097】
電子顕微鏡解析(
図4)
染色する前に、試料をホルムバール-カーボンコートグリップ上に滴下した。陰性染色のため、2% 酢酸ウラニウム(pH 4.0)の液滴をグリップ上に載せ、風乾させた。グリップ
を電子顕微鏡(Hitachi H-7650)上で40,000倍の拡大率にて観察した。
【0098】
動的光散乱(
図5)
水溶液中の平均ナノ粒子サイズを、80℃にて、Malvern Instruments Zeta Sizer上で動的光散乱法を用いて測定した。
【0099】
脾細胞及び樹状細胞培養 (
図8、9)
6週齢C57BL/6Jマウス、Tlr9欠損マウス、及びDectin-1欠損マウスから、マウス脾臓を
採取した。脾細胞を懸濁後、ACK溶解緩衝液で赤血球(RBCs)を溶解し、細胞をコンプリー
トRPMI中で維持した。細胞を1 x 10
7cells/mLの濃度で播いた。マウス骨髄由来細胞を、
ヒトFlt3L (Peprotech) (100 ng/mL)と共に7日間培養することにより、骨髄由来DCsを
作成した。細胞を1 x 10
7cells/mLの濃度で播いた。マウスM-CSF (Peprotech) (20 ng/mL)と共に7日間培養することによりBMDMsを作成した。これらの細胞は、コンプリートRPMI中で維持した。
【0100】
細胞内分布(
図8、9)
BMDMsを5 x 10
7 cells/mLで播き、Alexa 488-K3 (1 μM) 及びAlexa 647-K3-SPG (1 μM)、又はAlexa 488-D35 (1 μM) 及びAlexa 647-K3-SPG (1 μM)により3時間刺激した。細胞をHoechst33258で30分染色することにより核を可視化し、次に細胞を固定し、蛍光顕微鏡を用いて解析した。
【0101】
免疫接種
6週齢のC57BL/6Jマウス、Tlr9欠損マウス、及びDectin-1欠損マウスの尾の付け根に、
OVA (0.1、1、10、又は100 μg);
OVA (0.37、1.1、3.3、又は10 μg)及びK3(538 pmol);
OVA (0.37、1.1、3.3、又は10 μg)及びK3-dA40 (538 pmol);又は
OVA (0.37、1.1、3.3、又は10 μg)及びK3-SPG (538 pmol)
を、0日目及び10日目に投与した。他の試験においては、6週齢のC57BL/6Jマウスの尾の付け根に、
スプリットワクチン(0.1 μg)単独;
スプリットワクチン及びK3 (538 pmol);又は
スプリットワクチン及びK3-SPG (538 pmol)
を、0日目及び10日目に投与した。17日目に採血し、抗原特異的血清抗体力価をELISAにより測定した(
図10、15a、16、25、28a、29、43a)。17日目にマウス脾臓を採取し、脾細
胞を上述の方法で調製した。細胞を
OVA257-264 (OVA257):SIINFEKL (10 μg/mL);
OVA323-339 (OVA323):ISQAVHAAHAEINEAGR (10 μg/mL);
全OVAタンパク質 (OVA) (10 μg/mL);
NP260-283 (NP260):ARSALILRGSVAHKSCLPACVYGP (10 μg/mL);又は
スプリットワクチン (10 μg/mL)
により24又は48時間再刺激した。上清を、マウスIFN-γのためのELISAに付した(
図11、15b、17、26、28b、30、43b)。テトラマーアッセイのため、脾細胞をH-2Kb OVAテトラマ
ー (MBL)、抗CD8α (KT15)、抗TCRβ(H57-597)、抗CD62L (MEL-14)、及び抗CD44 (IM7)抗体、並びに7-AADで染色した。OVAテトラマー
+ CD44
+CD8α
+ TCRβ
+細胞数をFACSにより測定した(
図12、15c、27、28c、31)。
【0102】
インビトロCTLアッセイ(
図13)
6週齢のC57BL/6Jマウスの尾の付け根に、
OVA (100 μg);
OVA及びK3 (3.3 μg);
OVA及びK3-dA40 (3.3 μg);又は
OVA及びK3-SPG (3.3 μg)
を、0日目に投与した。免疫接種後7日目に、ナイーブC57BL/6J脾細胞を、異なる濃度のCFSE(5又は0.5 μM)により、10分間、37℃にて標識した。染色した高濃度の細胞をOVA257
(10 μg/mL)で90分間、37℃にてパルスした。培地で2回洗浄後、標識した細胞を混合し
、静脈内投与により免疫したマウスへ移入した。移入から24時間後、脾細胞を採取し、CFSEで標識した細胞の割合をFACSにて測定した。
【0103】
ペプチド免疫接種
C57BL/6Jマウスを、
OVA257 (10 μg);
OVA257及びK3 (10 μg);
OVA257及びK3-dA40 (10 μg);又は
OVA257及びK3-SPG (10 μg)
で免疫した。免疫から7日後に、脾細胞を調製し、H-2Kb OVAテトラマー、抗CD8α、抗TCRβ、抗CD62L、及び抗CD44抗体で染色した。OVAテトラマー
+ CD44
+ CD8α
+ TCRβ
+細胞数をFACSにより解析した(
図14左)。調製した脾細胞をインビトロにてOVA257 (10 μg/mL)及びGolgi Plugにより4時間、再刺激した。細胞を抗IFN-γ、抗CD8α、及び抗CD3e抗体
で染色し、IFN-γ
+ CD8α
+ CD3e
+細胞数をFACSにて測定した(
図14右)。
【0104】
トランスフェクション及びDectin-1結合アッセイ(
図18、19)
HEK293を、Lipofectamine 2000を用いて、空、Dectin-1、又はDectin-2発現プラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクション後48時間で、細胞を、FITC-SPG (0.5 μM)、Alexa 488-labeled K3-dA40 (0.5 μM)、又はAlexa 488-labeled K3-SPG (0.5 μM)
で、37℃にて、60分間処理した。処理後、細胞を集め、SPG又はCpG ODN陽性細胞をFACSにより解析した。
【0105】
免疫細胞の刺激(
図20、21、22、23、24)
C57BL/6Jマウス、Tlr9欠損マウス、又はDectin-1欠損マウスからの脾細胞及びFL-DCsをK3-SPG (0.014、0.03、0.04、0.08、0.12、0.25、0.37、0.74、1.1、2.2、3.3、6.7、10
、又は20 μg/mL)、ザイモザン (3.7、11.1、33.3、又は100 μg/mL)、カードラン、Zymosan-Depleted、又は SPGで24時間刺激した。他の試験においては、C57BL/6Jマウス又はDectin-1欠損マウスからの脾細胞を、D35 (1 μM)の存在下又は非存在下で、Zymosan-Depleted (100、33.3、又は11.1 μg/mL)又はSPG (100、33.3、又は11.1 μg/mL)で、24時間刺激した。上清をIFN-α(PBL)、IL-6 (R&D)、IL-12 p40 (R&D)、IL-12 p70 (R&D)、及びBioplex (BIO-RAD)のためのELISAに付した。
【0106】
免疫組織化学(
図32)
C57BL/6Jマウスの付け根に、
DQ-OVA (10 μg);
Alexa 488-K3-SPG (10 μg);
Alexa 647-K3-SPG (10 μg);又は
DQ-OVA及びAlexa647-K3-SPG (10 μg)
を投与した。iLNsを採取後、クリオスタットを用いて凍結切片を調製した。凍結切片を4%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、抗Siglec-1 (MOMA-1)、抗MARCO(ED31)、抗CD3e (145-2C11)、又は抗CD11c (N418)抗体とインキュベートした。画像化の結果をImageJによ
り解析した。
【0107】
二光子顕微鏡(
図33、35)
C57BL/6Jマウス、Tlr9欠損マウス、又はDectin-1欠損マウスの尾の付け根に、DQ-OVA (10 μg)、Alexa 488-K3 (10 μg)、又はAlexa 488-K3-SPG (10 μg)を投与した。iLN採取の30分前に、マウスの尾の付け根にPE-抗MARCO抗体、又はPE-抗Siglec-1抗体を投与した
。抗原及びアジュバントの投与後1時間に、iLNsを採取し、二光子顕微鏡(Olympus)による画像解析に付した。ピアソン相関を、Volocity共局在解析を用いて計算した。
【0108】
抗原及びアジュバント投与後の生体内分布(
図34、36)
C57BL/6Jマウスの尾の付け根に、
Alexa 647-K3 (538 pmol)、
Alexa 647-K3-SPG (538 pmol)、
Alexa 488-OVA (10 μg)、
Alexa 488-OVA及びK3 (10 μg)、
Alexa 488-OVA及びK3-SPG (10 μg),
DQ-OVA (10 μg)、
DQ-OVA及びAlexa 647-K3 (538 pmol)、又は
DQ-OVA及びAlexa 647-K3-SPG (538 pmol)
を投与した。投与の24時間後に、iLNsを採取した。単一細胞懸濁液を調製するため、iLNsをコラゲナーゼD (1 mg/mL)及びDNase I (0.1 mg/mL)と37℃にて30分間インキュベートした。調製した細胞を抗B220 (RA3-6B2)、抗CD8α (56-6.7)、及び抗CD11c抗体とインキュ
ベートし、異なるDC集団を分離した。OVA及びCpG ODNsの細胞内取込みをFACSにより解析
した。
【0109】
クロドロネートリポソーム注入(
図37)
免疫接種の5日又は2日前のいずれかに、6週齢のC57BL/6Jマウスの尾の付け根に、クロ
ドロネートリポソームを投与した。0日目に、OVA及びK3-SPGにより、マウスを尾根部にて免疫した。8日目に血液及び脾臓を採取し、血清抗体力価及びT細胞反応をELISAにより測
定した。
【0110】
生体内におけるDC活性化の検討(
図38)
C57BL/6Jマウス又はTlr9欠損マウスの尾の付け根に、K3 (10 μg)又はK3-SPG (10 μg)を投与した。投与から24時間後に、iLNsを上述の方法で調製した。細胞を抗CD11c、抗mPDCA-1 (JF05-1C2.4.1)、抗CD8α、及び抗CD40 (3/23) 抗体とインキュベートし、FACSにて解析した。
【0111】
インフルエンザウイルスに対する感染防御応答の検討
6週齢のC57BL/6Jマウスに、
スプリットワクチン(0.1 μg);
スプリットワクチン及びK3-SPG (10 μg);又は
WIV(0.2 μg)
を、0日目及び14日目に投与した。免疫接種から2週間後に、血清抗体力価をELISAにより
測定し(
図39)、マウスに2.3 x 10
3 pfu (10 LD
50)のインフルエンザウイルス A/PR/8/34を鼻腔内へ接種した。接種後20日間に亘り、マウスの体重及び死亡率をモニターした(
図40)。
【0112】
カニクイザルのワクチンモデル(
図41、42)
カニクイザルの皮下へ、
インフルエンザスプリットワクチン(5 μg)及びK3 (5 nmol);又は
スプリットワクチン及びK3-SPG (5 nmol)
を、0日目及び14日目に投与した。血液試料を、-2、2、4、6、8及び110週目に採取し、血清抗体力価をELISAにより測定した。
【0113】
統計学的解析
群間の統計学的有意性(P < 0.05)は、Student’s t-test又はMann-Whitney U testを用いて決定した。
【0114】
[結果]
1)K3-SPGの竿状ナノサイズ粒子は、K型及びD型CpG ODNの2つの特性を獲得する。
図1に示すように、CpG ODNとSPGとの間のよりよい複合体化効率には、変性-復元手順
を通して、5’末端又は3’末端においてポリdA40のPS骨格の追加的配列を要する(Shimada, N., et al., Bioconjugate chemistry 18, 1280-1286 (2007); Minari, J., et al., Bioconjugate chemistry 22, 9-15 (2011))。ヒト化CpG ODNによる複合体形成の最適
化の過程で、本発明者らは、CpG ODNの5’末端及び3’末端の免疫賦活性への影響を調
べた。複合体化効率は同等であるにもかかわらず、SPGと複合体化した5’-K3-dA40-3’は、ヒト末梢血単核球(PBMCs)を活性化し、多量のIFN-αを産生させたが、5’-dA40-K3-3’では、そうではなかった(
図2、
図3)。K3、K3-dA40及びdA40-K3は、ヒトPBMCsを活性化
してIL-6のような他のサイトカインを産生させることができるが、IFN-αは産生させることが出来なかった(
図2、
図3)。これらの結果は、新規のTLR9アゴニストとしては、3’-CpGよりも、5’-CpGの方がより望ましいことを示す。
【0115】
K3-SPGの定性及び定量を、走査型電子顕微鏡(SEM)及び動的光散乱(DLS)により実施した。K3-SPGは、竿様の構造を有し、以前の報告(Bae, A.H., et al., Carbohydrate research 339, 251-258 (2004))において見られたものと一致した(
図4)。それは、30 nmの平均径を有する可溶性の単量体ナノ粒子のように認められ、SPG自体と同等であり、D型CpG ODN (D35)よりも小さかった(
図5)(Klein, D.C. et al., Ultramicroscopy 110, 689-693 (2010); Costa, L.T., et al., Biochemical and biophysical research communications 313, 1065-1072 (2004))。
【0116】
K3-SPGがナノ粒子を形成することを考慮し、K3-SPGの免疫賦活活性を、C、D及びP型CpG
ODNと比較した。K3-SPGで刺激されたPBMCsは大量のIFN-α及びIFN-γを産生したが、D35(
図6)、P型及びC型 CpG ODN(
図7)により誘導されるそれよりも、かなり低い濃度での刺激においてIFN-αを産生した。これらのIFNsはD型特異的なサイトカインであることが知られているので(Krug, A., et al., European journal of immunology 31, 2154-2163 (2001); Verthelyi, D. et al., Journal of immunology 166, 2372-2377 (2001); Gursel, M. et al., Journal of leukocyte biology 71, 813-820 (2002))、これらの結果は、K3-SPGが、K型の特性を損なうことなく、D型CpG ODNの特性を獲得したことを示唆する。K型及びD型CpG ODNの二重機能を理解するため、本発明者らは、骨髄由来マクロファージにおけるK3-SPGの細胞内局在を解析した。K3-SPGは、C型CpG ODNのように(Guiducci, C.,
et al., The Journal of experimental medicine 203, 1999-2008 (2006))、K型CpG ODNを含有するエンドソームのみならず、D型CpG ODNを含有するエンドソームとも共局在したことから(
図8、
図9)、K3-SPGが、K型及びD型CpG ODNにより、エンドソーム媒介自然免疫
シグナル系を伝達した可能性が示唆された。これらの結果は、K3-SPGが、ナノサイズ化した、高次で、且つ完全に可溶化した粒子を形成し、この「オール・イン・ワン」K3-SPGが、他の型のCpG ODN及び従来知られているCpG-SPG複合体よりも強力な活性を示し、これらとは異なる特性を示すことが強く示唆された。
【0117】
2)K3-SPGは、抱合することなくタンパク質抗原に対する強力なCTL反応を誘導する、卓
越したワクチンアジュバントである。
本発明者らは、マウス免疫化モデルにおける、K3、K3-dA40、及びK3-SPGのアジュバン
ト効果を比較した。野生型マウスを、OVA単独で、或いは各K3由来アジュバントと共にOVAで免疫すると、K3-SPGが、K3により誘導されるものよりも、有意に高い液性免疫反応(
図10)、及びより強力なT細胞反応(
図11)を誘導した。注目すべきは、K3-SPGによって、より
多数のOVA特異的CD8T細胞が誘導されることが、テトラマーアッセイにより明らかになっ
た(
図12)。共有結合を何らすることなく共投与したタンパク質抗原に対するきわめて強力なインビボCTL活性も認められた(
図13)。このK3-SPGによる強力なCTL誘導は、ペプチドワクチン接種によっても再現され(
図14)、用量依存的であった(
図15)。K3-SPGの抗原節約活性は極めて強く、同等の抗体及びCD4T細胞反応は100倍量のOVA抗原を用いることに
より達成された(
図16、17)。これらの結果は、K3-SPGが、K3単独よりも、卓越したアジュバントであることを明確に示す。
【0118】
3)SPGは可溶性のDectin-1リガンドであるが、Dectin-1アゴニストではない。
Dectin-1は、ザイモザンのようなβグルカンの受容体であることが示されているので(Herre, J., et al., Blood 104, 4038-4045 (2004))、SPG及びK3-SPGの細胞取込、及び
それに引き続くSPG及びK3-SPGによる活性化におけるDectin-1の役割について調べた。フ
ローサイトメトリーを用いて、Dectin-1を発現するHEK293細胞において、ODNの存在に係
わらず、インビトロにおけるSPG又はK3-SPGの取り込みが上昇したが、Dectin-2やコント
ロールベクターでは上昇しないことを見出した(
図18、19)。最近、可溶型のβ-グルカンはDectin-1シグナリングを活性化しないことが報告された(Goodridge, H.S., et al., Nature 472, 471-475 (2011))。更に、Dectin-1シグナリングは、サイトカインシグナル
抑制因子1(SOCS1)誘導を介して、TLR9媒介サイトカイン産生を抑制する(Eberle, M.E. & Dalpke, A.H., Journal of immunology 188, 5644-5654 (2012))。そこで、SPGのアゴニスト活性を調べた。脾臓細胞をZymosan-Depletedで刺激すると、用量依存的及びDectin-1依存的なTNF-α及び他のサイトカインの産生が認められたが(
図20)、SPG刺激では認め
られなかった(
図21)。ザイモザンおよびカードランによるサイトカイン産生は、Dectin-1非依存的であった。Zymosan-Depletedは、CpG ODNにより誘導されたIFN-αを阻害したが
、この阻害はDectin-1欠損により軽減された(
図22)。対照的に、SPGはCpG ODNにより誘導されたIFN-αを阻害しなかった(
図23)。これらの結果は、SPGはDectin-1のリガンドであ
るがアゴニストではないこと;従ってSPGはTLR9媒介IFN-α産生を妨げないことを示す。
【0119】
4)K3-SPGのアジュバント効果はTLR9に依存し、Dectin-1に部分的に依存する。
K3-SPGは、CpG ODNとβ-グルカンの複合体であるので、TLR9(Hemmi, H., et al., Nature 408, 740-745 (2000))及びDectin-1(Saijo, S., et al., Nature immunology 8, 39-46 (2007))の役割を、受容体ノックアウトマウスを用いて調べた。Tlr9欠損マウス及びDectin-1欠損マウスからの脾細胞及びFlt3リガンド誘導骨髄由来DCs (FL-DCs)をK3-SPGで刺激すると、サイトカイン産生は完全にTLR9依存的であったが、Dectin-1については、そうではなかった(
図24)。インビトロの結果と一致して、K3-SPG及びOVAによるTlr9欠損
マウスの免疫の結果、液性反応及びT細胞反応が減弱した(
図25-27)。OVA 及び10μgのK3-SPG でマウスを免疫すると、Dectin-1欠損マウスは、野生型マウスと同等の免疫反応を示
した(
図28)。Dectin-1欠損マウスをOVA及び1μgのK3-SPGで免疫すると、抗体産生及びT細胞からのサイトカイン産生については有意な変化は認められないが(
図29、
図30)、テトラマーアッセイにおいて減弱したCD8 T細胞反応を示した(
図31)。これらの結果は、K3-SPG
のアジュバント効果はTLR9シグナリングに依存することを示唆する。SPG及びK3-SPGはDectin-1シグナリングを刺激しないが、K3-SPGの効果は、インビボにおいて、なお部分的にDectin-1に依存する。
【0120】
5)流入領域リンパ節におけるMARCO
+マクロファージは、抗原と共にK3-SPGを優先的に捕捉するが、Siglec-1
+マクロファージは捕捉しない。
K3-SPGは、単純な抗原混合物の免疫接種を通じて、インビボにおいて強力なアジュバント効果をもたらすので、抗原及びK3-SPGの両方を捕捉する細胞が、アジュバント効果の媒介において重要な役割を果たすと仮定した。蛍光標識OVA及びK3-SPGのインビボ分布を調
べるため、蛍光顕微鏡及び二光子顕微鏡を用いた。尾の付け根に注入後1時間以内に、抗原及びアジュバントは流入領域リンパ節(iLNs)に到達した(
図32、33、35)。24時間後、いくらかのK3-SPGがCD3e
+ T細胞領域に移動し、DQ-OVAと共局在した。K3-SPG及びDQ-OVA
の両方を含有する、iLNのT細胞領域におけるこれらの細胞は、CD11c
+DCsであった。
【0121】
興味深いことに、蛍光シグナルの大部分はiLNの表面上に留まったままであった(
図32)
。このことから、LN表面上に分布することが知られている2つの型のマクロファージである、Siglec-1 (CD169又はMOMA-1とも呼ばれる)
+マクロファージ(嚢下洞マクロファージ
としても知られる)及びMARCO
+ マクロファージ(Martinez-Pomares, L. & Gordon, S., Trends in immunology 33, 66-70 (2012))に焦点をあてることにした。通常の蛍光顕微
鏡を用いた組織学的解析では、全iLN表面を適切に見ることが出来なかった;更に、これ
らのマクロファージはフローサイトメトリー解析により単離することが困難であった(Aoshi, T., et al., European journal of immunology 39, 417-425 (2009); Gray, E.E. &
Cyster, J.G., Journal of innate immunity 4, 424-436 (2012))。そこで、二光子顕
微鏡イメージング解析を用いて抗原及びK3-SPGの分布をエクソビボで明らかにした。抗MARCO抗体及び抗Siglec-1抗体の投与後、特異的マクロファージが可視化された。投与後1
時間にてiLN表面を二光子顕微鏡でモニターすると、OVA及びK3-SPGがMARCO
+マクロファージと共局在していたが、Siglec-1
+マクロファージとはしていなかった(
図33、35)。以前
の報告において、免疫複合体及び不活化インフルエンザウイルスがSiglec-1
+マクロファ
ージにより捕捉され、液性免疫反応を誘導することが示唆されている(Gonzalez, S.F., et al., Nature immunology 11, 427-434 (2010); Suzuki, K. et al., The Journal of experimental medicine 206, 1485-1493 (2009))。Volocityの共局在解析による確認の
結果、分布パターンはMARCO
+マクロファージのそれと完全に一致しており、Siglec-1
+マ
クロファージとは共局在しなかった(
図34、36)。対照的に、K3は、K3-SPGと比較すると、MARCO
+領域とSiglec-1
+領域の間に拡散的に分布していた(
図35、36)。また、Tlr9欠損マ
ウス及びDectin-1欠損マウスの両方とも、K3-SPGと同等の局在を示した。K3-SPGのアジュバント効果に対するこれらのマクロファージの貢献を調べるため、尾の付け根にクロドロネートリポソームを注入した後のマクロファージ及びDCsの異なる回復カイネティクスを
試験した。注入後、2日目までにマクロファージは完全に枯渇した。これらの細胞は、少なくとも1週間では回復しなかったが、DCsは、以前報告されているように(Aoshi, T., et al., Immunity 29, 476-486 (2008))、5日目までにほとんど回復した。マクロファ
ージ及びDCsの両方を枯渇させたところ、免疫反応は有意に抑制された(
図37; Clo -d2)
。マクロファージのみを枯渇させ、DCsを枯渇させなかった場合、免疫反応は、非処置マウスと同等であった(
図37; Clo-d5)。このことは、注入後LNsにおいて、OVA及びK3-SPGの両方ともMARCO
+マクロファージにより主に捕捉され、そのマクロファージが適応免疫反応を誘導したことを示唆する。言い換えると、K3-SPGのアジュバント効果はDC集団に大きく依存した。
【0122】
6)K3-SPGは、インビボにおいて、抗原を有するDC集団を標的化し、強力に活性化する。
本発明者らの知見は、ナノ微粒子K3-SPGの大部分は、注入後にiLNsにおけるMARCO
+マクロファージにより取り込まれるが、アジュバント効果はDCsによりコントロールされるこ
とを示唆する。そこで、iLNsにおけるDC集団による抗原及びアジュバントの取込に焦点をあてた。投与後24時間において、DC集団による抗原及びアジュバントの取込をフローサイトメトリーにより解析した。3つのDCサブセット(pDCs、CD8α
+ DCs、CD8α
- DCs)におけるCpG陽性の頻度はK3-SPG注入後に、K3のときよりも有意に増加した。対照的に、OVA陽性DCの頻度は、K3注入後とK3-SPG注入後とで同等であった。抗原及びアジュバントの両方とも陽性のDCsに焦点をあてると、K3-SPGにおいてK3よりもかなりの増加が認められた。注入後24時間において、iLNs におけるpDCs及びCD8α陽性DCsの双方とも、K3-SPGに
より強力に活性化されたが、K3によってはされず、これは全体的にTLR9に依存した(
図38)。これらの結果から、pDCs及びCD8α
+ DCsが、成熟化のための非微粒子K3ではなく、優先的にナノ微粒子K3-SPGを捕捉し、アジュバント効果を発揮することが示された。
【0123】
7)K3-SPGは、マウス及び非ヒト霊長類モデルにおけるインフルエンザワクチンの強力なアジュバントである。
K3-SPGのアジュバント効果を、マウス及び非ヒト霊長類において、より臨床的に関連するインフルエンザワクチン接種モデルを用いて調べた。マウスをエーテル処理ヘムアグルチニン抗原濃縮ビリオン不含スプリットワクチン(SV)及び表示したアジュバントで免疫接種し、抗体反応及びT細胞反応を比較すると、K3-SPGは、K3よりも優れたアジュバント
効果を示した(
図43)。より重要なことに、SVとK3-SPGによる免疫接種により、ビルトインアジュバントとしてウイルスRNAを含有する(Koyama, S., et al., Science translational medicine 2, 25ra24 (2010))、全(ビリオン)不活化ワクチン(WIV)(0.2 μg/マウス)を用いたワクチン接種と比較しても、100倍大きな抗体反応が生じた(
図39)。SV
(0.1 μg/マウス)及びK3-SPGで免疫接種したマウスは、WIVで免疫化したマウスよりも体重の減少が少なかった(
図40)。驚くべきことに、WIVワクチン接種マウスでは僅か10%
のみ生存をもたらす用量において、K3-SPGは、致死的なPR8ウイルス負荷に対して100
%防御をもたらした(
図40)。これらの結果は、マウスモデルにおいて、K3-SPGがタンパク質又はタンパク質ベースのワクチンの強力なアジュバントとして機能するとの考えを強力に支持した。この知見を、カニクイザルを用いた非ヒト霊長類モデルに拡張することとした。0日目及び14日目に、各群3匹のカニクイザルをK3又はK3-SPGと共にSVで免疫接種した。血清抗体力価を8週間に亘ってモニターした。SV及びK3-SPGにより、免疫接種の2週間後に有意に高い抗体力価が誘導され、この力価は少なくとも更に6週間に亘って高いままであった(
図41)。免疫接種から2年(110週)後において、K3-SPG群は、K3群よりも
高い抗体力価を示した(
図42及び43)。まとめると、これらの結果から、K3-SPGが非ヒト霊長類モデルにおいても卓越したワクチンアジュバントであることが示唆された。
【0124】
8)ヒトPBMCsを用いたK3-LNT及びK3-SPG複合体の炎症応答誘導能の検討
ヒトPBMCs(Lonza社、Cat# CC-2702、Lot# 0000396517)を用いて、K3(K3-dA30, K3-dA35, K3-dA40)単独、K3-LNT複合体(K3-dA30-LNT, K3-dA35-LNT, K3-dA40-LNT)及びK3-SPG複合体(K3-dA40-LNT)のpan-IFN-a(hIFNa)とIL-6(hIL-6)の産生誘導能を評価し
た。
結果を
図44に示す。低用量の刺激において、pan-IFN-aとIL-6産生は、K3とSPGとの複合体であるK3-SPG、およびK3とLNTとの複合体であるK3-LNTにおいて、K3単独に比べて高
いことが認められた。また、dA tail長(dA30, dA35, dA40)が異なるK3-LNTによって誘
導される炎症性サイトカイン産生能は、ほぼ同等である可能性が示唆された。更に、K3-SPGとK3-LNTの炎症性サイトカイン産生能を比較すると、K3-SPGに比べて、K3-LNTによるpan-IFN-a産生誘導能が高い可能性が示唆された。一方、IL-6産生量においては、K3-SPGとK3-LNTは同等であることが認められた。
【0125】
9)K3-LNT及びK3-SPG複合体添加RSV Fサブユニットワクチンを接種したマウスにおける
、血清中RSV F抗原特異的IgG抗体価
7週齢のC57BL/6マウスの尾根部に、一匹あたりRSV F抗原0.5 μgと各種アジュバント(K3単独(K3-dA30, K3-dA35, K3-dA40)、K3-LNT複合体(K3-dA30-LNT, K3-dA35-LNT, K3-dA40-LNT)及びK3-SPG複合体(K3-dA40-SPG)、リン酸アラム)10 μgを2週間隔で2回免
疫した。最終免疫から1週後に末梢血の回収と血清の調製を行い、評価試料とした。血清
中のRSV Fワクチン抗原に結合する抗体価は、ELISA法を用いて測定した。
図45に示されるとおり、RSV F抗原特異的なTotal IgG誘導は、RSV F抗原単独接種群(F)に比べて、アジュバント添加によって増強されており、K3単独(F+K3-dA30, F+K3-dA35, F+K3-dA40)
、K3-LNT(F+K3-dA30-LNT, F+K3-dA35-LNT, F+K3-dA40-LNT)及びK3-SPG複合体(F+K3-dA40-SPG)とリン酸アラム(F+Alum)のアジュバント効果は同等である可能性が示唆された。Th2型アジュバントであるリン酸アラム(F+Alum)を接種したマウス群では、IgG1サブク
ラス誘導能がRSV F抗原単独接種群に比べて高いことが認められた。一方、IgG2cサブクラス抗体において、K3単独(F+K3-dA30, F+K3-dA35, F+K3-dA40)、K3-LNT(F+K3-dA30-LNT, F+K3-dA35-LNT, F+K3-dA40-LNT)、K3-SPG(F+K3-dA40-SPG)を接種した免疫群では、
リン酸アラム(F+Alum)に比べて高い結果が示されており、K3-LNT複合体はK3-SPGと同様のTh1型アジュバントである可能性が示唆された。
【0126】
10)K3-LNT及びK3-SPG複合体添加RSV Fサブユニットワクチンを接種したマウスにおけ
る、RSV F抗原特異的サイトカイン産生能
7週齢のC57BL/6マウスの尾根部に、一匹あたりRSV F抗原0.5 μgと各種アジュバント(K3単独(K3-dA30, K3-dA35, K3-dA40)、K3-LNT(K3-dA30-LNT, K3-dA35-LNT, K3-dA40-LNT)及びK3-SPG複合体(K3-dA40-SPG)、リン酸アラム)10 μgを2週間隔で2回免疫した
。最終免疫から1週後に脾臓を回収し、脾臓細胞を調製した。96 well培養プレートに播種した脾臓細胞を、RSV F抗原のMHC class I拘束性エピトープペプチド、MHC class II拘束性エピトープペプチド、ワクチン抗原タンパク質それぞれで刺激し、24時間もしくは48時間、培養した。RSV F抗原特異的サイトカイン産生能は、培養上清を試料とし、サイトカ
インELISA法を用いて評価した。本検討では、Th1型サイトカインであるIFN-g、活性化T細胞から産生されるIL-2、Th2型サイトカインであるIL-13の3種のサイトカインについて評
価した。
その結果、
図46に示されるとおり、RSV F抗原特異的なIFN-g産生誘導とIL-2産生誘導の増強効果は、K3-LNT(F+K3-dA30-LNT, F+K3-dA35-LNT, F+K3-dA40-LNT)とK3-SPG(F+K3-dA40-SPG)で同等である可能性が示唆された。Th2型アジュバントであるリン酸アラム
アジュバント接種群(F+Alum)では、IFN-g産生はいずれの刺激においても検出限界以下
であった。一方、IL-13産生増強効果は、Th2型アジュバントであるリン酸アラム接種群で高く認められ、Th1型アジュバントであるK3-SPG接種群では低い結果となった。興味深い
ことに、K3-LNT接種群(F+K3-dA30-LNT, F+K3-dA 35-LNT, F+K3-dA 40-LNT)においては
、同じTh1型アジュバントであるK3-SPG接種群(F+K3-dA40-SPG)に比べ、高いIL-13産生
増強効果を示した。このことから、K3-LNT複合体は、K3-SPGが有する高いTh1応答増強効
果に加え、Th2応答増強能も有することが示唆された。
【0127】
11)K3-LNT及びK3-SPG添加RSV Fサブユニットワクチンを接種したコットンラットにお
ける、RSV感染防御効果
6~7週齢のコットンラットの尾根部に、一匹あたりRSV F抗原1 μgと各種アジュバント(K3-LNT(K3-dA35-LNT, K3-dA40-LNT)及びK3-SPG複合体(K3-dA40-SPG)、リン酸アラ
ム)10 μgを2週間隔で2回免疫した。最終免疫から2週後に、RSV血清型A(Long株)をコッ
トンラットに経鼻接種を用いて攻撃感染させ、その3日後に肺内ウイルス量を計測した。Synagis(palivizumab)投与群は、Synagis 2.5 mg /kgを攻撃感染一日前に筋肉内投与し
、上記と同様に感染防御能の評価を行った。中和抗体価は、攻撃感染直前に麻酔下でラット頚静脈から採血し、得られた血清を用いて検討を行った。
図47の左に肺内ウイルス量の結果を、右に中和抗体価の結果を示す。肺内ウイルス量の結果から、PBS-投与群では約10
5pfu/lungのウイルス量が認められるのに対し、リン酸
アラム添加RSV Fワクチンを投与した群(F+Alum)では、平均値で約100倍もの低いウイルス量に抑えられていた。一方、K3-SPG添加ワクチン投与群(F+K3-dA40-SPG)においても
、感染防御誘導能が認められた。最も良好な感染防御効果を示したのは、K3-LNT添加ワクチン群(F+K3-dA35-LNT, F+K3-dA40-LNT)であり、リン酸アラムやK3-SPGに比べて、高い感染防御能に寄与する新規ワクチンアジュバント候補である可能性が示唆された。
中和抗体誘導能においては、リン酸アラム添加ワクチン投与群(F+Alum)において、シナジスと同等の血中中和活性が認められた。一方、K3-SPG添加ワクチン投与群(F+K3-dA40-SPG)においては、4匹中3匹で中和抗体がほとんど誘導されていないことから、K3-SPG
が寄与する感染防御効果は中和抗体非依存的な機作によるものと考察された。また、K3-LNT投与群(F+K3-dA35-LNT, F+K3-dA40-LNT)においては、K3-SPGに比べて、高い中和抗体が認められていることから、K3-LNTアジュバントはK3-SPGと異なる特性、例えばTh2応答
増強能、を有している可能性が示唆された。
本発明により、優れた免疫賦活活性を有するオリゴデオキシヌクレオチドやこれを含む複合体が提供される。特に、本発明の複合体は、K型CpG ODNに特有の免疫賦活活性と、D
型CpG ODNに特有の免疫賦活活性とを併せ持つ。更に、K3-SPG及びK3-LNTは強力なワクチ
ンアジュバント活性を有しており、K3-SPG又はK3-LNTを抗原とともに免疫接種すると、該抗原特異的な液性免疫及び細胞性免疫の両方を刺激する。従って、本発明の複合体は、免疫賦活剤やワクチンアジュバントとして医薬分野において有用である。