(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086951
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】N-メチル-2-ピロリドンの精製方法及び精製システム
(51)【国際特許分類】
C07D 207/267 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
C07D207/267
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074128
(22)【出願日】2023-04-28
(62)【分割の表示】P 2019101125の分割
【原出願日】2019-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】寺師 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 響介
(57)【要約】
【課題】減圧蒸発缶を用いてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と水とを含む混合液からNMPを分離して精製する際に、得られる精製NMPにおける着色を抑制する。
【解決手段】NMPを含む被処理液を減圧蒸発缶によって気化させてNMPを回収し精製する精製方法において、減圧蒸発缶での処理温度をx[℃]とし、減圧蒸発缶でのNMPの回収率をy[%]として、x≦100であるときにy≦99.95とし、100<x≦150であるときにy≦99.9とし、150<x≦160であるときにy≦99.5とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-メチル-2-ピロリドンを含む被処理液を減圧蒸発缶において連続処理により気化させてN-メチル-2ピロリドンを回収し精製N-メチル-2ピロリドンを得る精製方法であって、
前記減圧蒸発缶での処理温度をx[℃]とし、前記減圧蒸発缶でのN-メチル-2-ピロリドンの回収率をy[%]として、
80≦x≦100であるときに80≦y≦99.95を満たし、
100<x≦150であるときに80≦y≦99.9を満たし、
150<x≦160であるときに80≦y≦99.5を満たすように前記減圧蒸発缶を運転し、
前記被処理液のAPHA値よりも前記精製N-メチル-2ピロリドンのAPHA値を小さくする、精製方法。
【請求項2】
前記処理温度を150℃以下とする、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
前記処理温度が80℃以上であって、かつ、
80≦x<110であるときに
y≧0.00025000x3-0.090000x2+9.6250x-222.50
であるという条件をさらに満たすように前記減圧蒸発缶を運転する、請求項1または2に記載の精製方法。
【請求項4】
前記処理温度を80℃以上150℃以下として、かつ、
80≦x<90であるときにy≧99.5であり、
90≦x<100であるときにy≧97であり、
100≦x<110であるときにy≧90であるという条件をさらに満たすように前記減圧蒸発缶を運転する、請求項1または2に記載の精製方法。
【請求項5】
前記被処理液は、浸透気化膜を備える浸透気化装置に対してN-メチル-2-ピロリドンと水とを含む混合液を供給してN-メチル-2-ピロリドンとを水とを分離することにより前記浸透気化装置の濃縮側から得られる液である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の精製方法。
【請求項6】
N-メチル-2-ピロリドンを含む被処理液を精製して、前記被処理液のAPHA値よりも小さなAPHA値を有するN-メチル-2-ピロリドンを回収する精製システムであって、
前記被処理液が供給され連続処理により気相側からN-メチル-2-ピロリドンが取り出される減圧蒸発缶と、
前記減圧蒸発缶での処理温度を検出する温度検出手段と、
前記減圧蒸発缶におけるN-メチル-2-ピロリドンの回収率を決定するために用いられる流量センサと、
前記減圧蒸発缶の内部を昇温させる加熱手段と、
前記減圧蒸発缶におけるN-メチル-2-ピロリドンの前記回収率を変化させる回収率調整手段と、
前記温度検出手段で検出された前記処理温度、及び、前記流量センサでの測定値によって求められる前記回収率に基づいて、前記減圧蒸発缶での処理温度をx[℃]とし、前記減圧蒸発缶でのN-メチル-2-ピロリドンの回収率をy[%]として、
80≦x≦100であるときに80≦y≦99.95を満たし、
100<x≦150であるときに80≦y≦99.9を満たし、
150<x≦160であるときに80≦y≦99.5を満たすように運転される精製システム。
【請求項7】
前記処理温度が150℃以下であるように運転される請求項6に記載の精製システム。
【請求項8】
前記処理温度が80℃以上であり、かつ、
80≦x<110であるときに
y≧0.00025000x3-0.090000x2+9.6250x-222.50
であるという条件をさらに満たすように運転される請求項6または7に記載の精製システム。
【請求項9】
前記処理温度を80℃以上150℃以下とし、かつ、
80≦x<90であるときにy≧99.5であり、
90≦x<100であるときにy≧97であり、
100≦x<110であるときにy≧90であるという条件をさらに満たすように運転される請求項6または7に記載の精製システム。
【請求項10】
前記減圧蒸発缶の前段に、浸透気化膜を備えてN-メチル-2-ピロリドンと水とを含む混合液が供給される浸透気化装置をさらに備え、
前記浸透気化装置の濃縮室から排出される液体が前記被処理液として前記減圧蒸発缶に供給される、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の精製システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略すことがある)を精製する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
NMPは、リチウムイオン二次電池の電極、特に正極を製造する際に分散媒として広く用いられている。リチウムイオン二次電池の各電極すなわち正極や負極の主要な構成材料は、電極活物質、集電体及びバインダーである。バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を分散媒であるNMPに溶解させたものを使用するのが一般的である。電極は、電極活物質とバインダーとを混合したスラリーを集電体上に塗布し、空気中すなわち酸素の存在下で加熱によってNMPを蒸発させることによって製造される。NMPは水に対して高い溶解度を有するので、リチウムイオン二次電池の製造工程で使用されて気化したNMPは、例えば水スクラバーなどの回収装置によってNMP水溶液の形態で回収される。回収されたNMPは、水や不純物を除去することによって、再度、リチウムイオン二次電池の製造工程などで使用することができる。
【0003】
NMP水溶液からのNMPの回収は、有機溶剤と水との混合液から有機溶剤を分離して回収する方法の応用の一つである。有機溶剤と水との混合液から有機溶剤を分離して回収する方法として、浸透気化(Pervaporation:PV)法が知られている。浸透気化法を用いてNMP水溶液からNMPを回収する場合には、水分に対して親和性を有する分離膜(浸透気化膜)を使用し、NMP水溶液を分離膜の供給側に流し、分離膜の透過側では減圧にしたり不活性ガスを流すことで、分離膜における水とNMPとの透過速度差により分離を行うものである。水分を透過させるための分離膜としては、例えば、ゼオライト膜が使用される。分離膜によって水分のみが透過側に移動するとすれば、分離膜の供給側すなわち濃縮側にはNMPが残存することとなり、NMPを回収することができる。特許文献1には、NMPと水との混合液からNMPを分離することにより精製NMPを得るシステムとして、浸透気化装置を用いるとともに浸透気化装置の後段にイオン交換装置を設けたNMP精製システムが開示されている。
【0004】
浸透気化装置を用いて回収したNMPは、イオン性不純物や微粒子を含んでいることがあり、さらに精製する必要が生じることがある。そこで特許文献2は、浸透気化装置を用いて精製したNMPからイオン性不純物や微粒子を取り除いてさらに高純度のNMPを得るために、浸透気化装置の後段に減圧蒸発缶を設けることを開示している。減圧蒸発缶としては、例えば、液膜流下式、フラッシュ式あるいはカランドリア式などのものを用いることができる。減圧蒸発缶を用いたNMPの精製方法は、NMP水溶液から回収したNMPをさらに精製する場合以外にも適用可能であり、例えば、γ-ブチロラクトンとメチルアミンとの縮合反応によって生成したNMPからイオン性不純物などを除去する際にも適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-18747号公報
【特許文献2】特開2016-30233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
減圧蒸発缶を用いてNMPを蒸発(気化)させることにより、NMPに含まれるイオン不純物や微粒子を除去してNMPを精製する方法は、高純度の精製NMPを得るための有効な方法である。しかしながら本発明者らの検討によれば、減圧蒸発缶でのNMPの蒸発条件が不適切であると、得られた精製NMPが着色していたり、缶底に残留する液体における過酸化物濃度が高まったりすることがある。NMPは本来は常温で無色あるいは淡黄色の透明な液体であるが、酸化したり微量な不純物を含んでいると黄色に着色することが知られている。そのため、NMPの品質管理のための指標の1つとして、色度(着色の度合い)が用いられることがある。本来は無色であるNMPが黄色に着色するので、色度としてはAPHA値(すなわちハーゼン色数)を用いることができる。一例として、NMP試薬の規格の一つとして、APHA値が50以下であることを規定するものがある。また、リチウムイオン二次電池の製造に用いられるNMPには厳しい品質管理がなされており、NMPがある程度以上着色しているときは、NMP中の不純物が電極に残留することが懸念されている。リチウムイオン二次電池の製造に用いられるNMPでは、例えばAPHA値が20以下であることが求められる。
【0007】
本発明の目的は、減圧蒸発缶を用いてNMPと水とを含む混合液からNMPを分離して精製する精製方法及びシステムであって、得られる精製NMPにおける着色を抑制することができる精製方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、減圧蒸発缶の気相側から得られるNMPの着色の度合いが減圧蒸発缶におけるNMPの回収率と処理温度とによってどのように変化するかを調べ、着色が抑制されるような減圧蒸発缶の動作条件を見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明の精製方法は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を含む被処理液を減圧蒸発缶によって連続処理により気化させてNMPを回収し精製NMPを得る精製方法であって、減圧蒸発缶での処理温度をx[℃]とし、減圧蒸発缶でのNMPの回収率をy[%]として、80≦x≦100であるときに80≦y≦99.95を満たし、100<x≦150であるときに80≦y≦99.9を満たし、150<x≦160であるときに80≦y≦99.5を満たすように減圧蒸発缶を運転し、被処理液のAPHA値よりも精製NMPのAPHA値を小さくする。
【0009】
本発明の精製システムは、NMPを含む被処理液を精製して、被処理液のAPHA値よりも小さなAPHA値を有するNMPを回収する精製システムであって、被処理液が供給され連続処理により気相側からNMPが取り出される減圧蒸発缶と、減圧蒸発缶での処理温度を検出する温度検出手段と、減圧蒸発缶におけるNMPの回収率を決定するために用いられる流量センサと、減圧蒸発缶の内部を昇温させる加熱手段と、減圧蒸発缶におけるNMPの回収率を変化させる回収率調整手段と、温度検出手段で検出された処理温度、及び、流量センサでの測定値によって求められる回収率に基づいて、減圧蒸発缶での処理温度をx[℃]とし、減圧蒸発缶でのNMPの回収率をy[%]として、80≦x≦100であるときに80≦y≦99.95を満たし、100<x≦150であるときに80≦y≦99.9を満たし、150<x≦160であるときに80≦y≦99.5を満たすように運転される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、浸透気化装置を用いてNMPと水とを含む混合液からNMPを分離して精製する際に、得られる精製NMPにおける着色を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】精製システムの構成の別の例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の一形態の精製システムの構成を示す図である。
【
図4】本発明の別の実施形態の精製システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の精製方法が適用される精製システムの構成の一例を示している。この精製システムは、NMPに含まれるイオン性不純物や微粒子を除去してNMPを精製するシステムであり、主な構成要素として、精製対象のNMPを被処理液として蓄えるタンク15と減圧蒸発缶50とを備えている。タンク15内のNMPを減圧蒸発缶50に供給する配管16が設けられ、配管16にはNMPを減圧蒸発缶50に圧送するポンプ17が設けられている。減圧蒸発缶50では、例えば液膜流下式のものであれば、蒸発対象の液体を塔頂側から流し、減圧蒸発缶50内で気化した成分をそのまま減圧蒸発缶50の外部に抜き出している。また、塔底に溜まった液体を塔頂側に循環させるとともに、塔底液の一部を外部に排出する。図では、説明が複雑になることを避けるため、塔底から塔頂に液体を循環させるための経路などは示していない。また、減圧蒸発缶50内を減圧するための真空ポンプや配管なども示していない。減圧蒸発缶50は、熱媒として蒸気が供給されることによって、所定の処理温度に維持されるようになっている。減圧蒸発缶50から気化成分を抜き出すための配管61が減圧蒸発缶50に接続し、配管61には気化成分を凝縮させるための冷却器62が設けられている。冷却器62には冷媒として冷却水が供給されている。塔底に溜まった液体の一部を抜き出すために、減圧蒸発缶50の底部には配管63が接続し、配管63には弁64が設けられている。
【0013】
配管16を介して減圧蒸発缶50に供給されたNMPは、減圧蒸発缶50内で気化する。NMPに含まれるイオン性不純物などは気化しないので、減圧蒸発缶50の塔底部に蓄積することになる。気化したNMPは、配管61に導かれ、冷却器62によって凝縮して、液体状態の精製NMPとして外部に排出される。減圧蒸発缶50の塔底部に溜まる液体はNMPを主とするものであるが、この液体にはイオン性不純物などの不純物や微粒子が徐々に蓄積する。そこで、定期的に弁64を開放し、減圧蒸発缶50の塔底部に溜まっている液体の一部を配管63を介して外部に排出する。定期的に弁64を開放する代わりに、弁64の開度を調節して一定流量で液体を外部に排出するようにしてもよい。配管16を介して減圧蒸発缶50に供給されるNMPの量Vから、配管63を介して排出されるNMPの量Dを差し引いたものが、配管61を介して精製NMPとして回収されるNMPの量となる。したがって減圧蒸発缶50での回収率は、
回収率=(V-D)/V
として定義される。本実施形態の場合、NMPの量に対してイオン性不純物や微粒素子の量ははるかに小さいから、減圧蒸発缶50に供給される被処理液の量をVとし、減圧蒸発缶50の液相側(すなわち塔底部)から排出される液の量をDとして用いることが可能である。
【0014】
図1に示す精製システムにおいて、減圧蒸発缶50に供給されるNMPは、例えば、NMPと水との混合液を浸透気化装置によって処理して得たNMPであってもよい。
図2は、減圧蒸発缶50の前段に浸透気化装置30が設けられた精製システムを示している。
図2に示す精製システムは、
図1に示す精製システムからタンク15、配管16及びポンプ17を取り除き、その代わり、タンク10や浸透気化装置30などを設けたものである。タンク10は、水とNMPとを含む混合液を蓄えるものである。浸透気化装置30は、浸透気化膜31を備えており、浸透気化装置30の内部は浸透気化膜31によって隔てられている。浸透気化膜31の一方の側が濃縮側すなわち濃縮室32であり、他方の側が透過側すなわち透過室33である。
【0015】
図2に示す精製システムにおいては、タンク10内の混合液(水/NMP)を浸透気化装置30に供給するためにタンク10と浸透気化装置30の濃縮室32とを接続する配管11が設けられている。配管11には、混合液を圧送するポンプ21と、混合液中の気体成分、特に酸素を除去する膜脱気装置(MD)22と、混合液を所定の処理温度まで昇温する熱交換器23とが、タンク10の側からこの順で設けられている。熱交換器23には、混合液を昇温するための熱源として蒸気が供給されている。膜脱気装置22は脱気膜を備えている。脱気膜を構成するための膜素材やポッティング材としては、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられる。しかしながらNMPは一部の有機材料を溶解させる性質があるので、本実施形態では、ポリオレフィン、PTFE及びPFAによって脱気膜を構成することが好ましい。脱気膜の機械的構造としては、水での運用を想定した多孔性の膜と、表面張力がより小さな液体での運用を想定した非多孔性の膜とがあるが、ここではNMPを多量に含む混合液を処理するので、非多孔性の膜を用いることが好ましい。膜脱気装置22は必ずしも設けなくてもよいが、NMPの酸化によって着色成分が発生することが知られているので、混合液に溶存する酸素を除去するために膜脱気装置22を設けることが好ましい。
【0016】
浸透気化装置30の浸透気化膜31としては、水に対して親和性を有する膜、例えばゼオライト膜が用いられる。混合液を浸透気化装置30の濃縮室32に供給すると、混合液中の水分は浸透気化膜14を透過して透過室33に移行し、その際に気化して水蒸気となる。一方、NMPは浸透気化膜30をほとんど透過することができず濃縮室33に留まることになり、濃縮室33におけるNMP濃度は上昇する。濃縮室33には配管41が接続しており、濃縮室33において脱水されて濃度が上昇したNMPは、水分が除去されたNMPとして、配管41を介して外部に排出される。NMPの沸点は1気圧において202℃であり、浸透気化装置30での処理温度は、通常、160℃以下であるので、NMPは液体の形態で配管41から排出される。一方、透過室33には、透過水を排出するための配管42が接続しており、配管42には水蒸気を凝縮させるための冷却器43も設けられている。冷却器43には冷媒として冷却水が供給されている。浸透気化膜31を透過して透過室33に至った水分すなわち透過水は、配管42に導かれ、冷却器43を経ることによって凝縮し、液体の水として外部に排出される。浸透気化装置30の濃縮室32の容積を濃縮室32に供給される混合液の流量で除算したものが、浸透気化装置30における混合液の滞留時間と定義される。
【0017】
浸透気化装置30の濃縮室32から配管41を介して排出されるNMPは、脱水はされているがイオン性不純物などを含んでいる可能性がある。そこで
図2に示した精製システムでは、
図1に示した精製システムでの配管16の代わりに配管41の出口を減圧蒸発缶50に接続し、浸透気化装置30で得たNMPに含まれるイオン性不純物などを減圧蒸発缶50によって除去し、精製されたNMPを得るようにしている。
【0018】
本発明に基づくNMPの精製方法は、減圧蒸発缶を用いてNMPを精製するときに、減圧蒸発缶の気相側から得られる精製NMPの着色を抑制することを目的とするものである。そこで本発明者らは、
図1及び
図2に示した各精製システムにおける減圧蒸発缶50の動作条件について検討し、減圧蒸発缶50から配管61を介して回収されるNMPの着色の度合いが抑制される条件を見出した。また、NMPの減圧蒸発を行った場合、過酸化物が缶底残留液に蓄積してこの残留液中の過酸化物濃度が増大すると、爆発などのおそれが生ずる。減圧蒸発缶50によりNMPの精製を行った場合には、供給される液における過酸化物濃度よりも減圧蒸発缶50の缶底残留液中の過酸化物濃度の方が減少していることが望まれる。以下、本発明者らが行った実験の結果を説明することにより、本発明に基づくNMPの精製方法について説明する。
【0019】
図1に示す精製システムを組み立てた。減圧蒸発缶50から配管61を介して取り出され冷却器62によって凝縮した液体の色度と、減圧蒸発缶50から配管63を介して排出される液体すなわち缶底残留液における過酸化物濃度とが、減圧蒸発缶50における処理温度x[℃]とNMPの回収率y[%]とによってどのように変化するかを調べた。色度の指標としてはAPHA値を用いた。被処理液として減圧蒸発缶50に供給されるNMPのAPHA値は50であり、過酸化物濃度は10mg当量/Lであった。色度についての結果を表1に示し、過酸化物濃度の結果を表2に示す。表1及び表2において、「-」で示されるセルは、当該セルに対応する処理温度及び滞留時間の条件では測定を行っていないことを示している。表2において、過酸化物濃度の値の単位はmg当量/Lである。
【0020】
【0021】
【0022】
表1から、回収率がyが99.5%以下であれば、APHA値は2以下であり、ほぼ着色のないNMPが得られることが分かる。回収率yが99.95%を超えると、処理温度が100℃以下程度であれば着色はほぼ見られないが、処理温度が100℃を超えるときは処理温度が高いほど着色が著しくなる。表1からAPHA値が5以下であるような条件を探索すると、処理温度x[℃]及び回収率y[%]に対し、
x≦100であるときにy≦99.95とし、
100<x≦150であるときにy≦99.9とし、
150<x≦160であるときにy≦99.5とする処理条件が得られる。この処理条件を処理条件A1とする。
【0023】
処理温度すなわち減圧蒸発缶90の動作温度が高いとその分、エネルギー消費も大きくなるから、実用的には、表1において太線で囲まれたセルで表される処理条件、すなわち処理条件A1に対してさらに処理温度が150℃以下であるという処理条件を考えることができる。これを処理条件A2とする。
図1または
図2に示す精製システムを用いてNMPを精製するときに、得られる精製NMPにおける着色の度合いをAPHA値で5以下とするのであれば、減圧蒸発缶50での処理条件として処理条件A1または処理条件A2を選び、選んだ処理条件によって減圧蒸発缶50を運転すればよいことになる。
【0024】
次に、減圧蒸発缶50から排出される缶底残留液に含まれる過酸化物濃度を低減するための処理条件について説明する。表2から明らかになるように、減圧蒸発缶50での処理温度が120℃以上であれば過酸化物濃度は1mg当量/L未満である。しかしながら、処理温度が120℃未満であるときは、処理温度x[℃]が低いほど、また、NMPの回収率y[%]が小さいほど、得られるNMPにおける過酸化物の濃度は高くなる。減圧蒸発缶50内への過酸化物の蓄積を避ける観点からすれば、減圧蒸発缶50によって減圧蒸発を行ったときに、減圧蒸発缶50内に残留する過酸化物濃度が半減するかそれ以下になることが好ましい。表2の結果は、減圧蒸発缶50に供給される被処理液での過酸化物が10mg当量/Lである場合のものであるから、過酸化物濃度が半減すなわち表2において過酸化物濃度が5mg当量/L以下となる条件を求めることとする。すると表2において「*」で示されるセルを通るように閾値となる処理条件を定めればよいことになるから、多項式近似を適用すると、処理温度が80℃以上であることを前提として、
80≦x<110であるときに
y≧0.00025000x3-0.090000x2+9.6250x-222.50とし、
110≦xであるときにy≧80
とする処理条件を得る。これを処理条件B1とする。
【0025】
後述するように本発明に基づく精製システムでは、精製NMPに求められる色度や減圧蒸発缶50内に残留する過酸化物濃度に基づく処理条件を満たすように減圧蒸発缶50を運転するが、その際、多項式演算を行って運転の制御を行うことは計算負荷が高まるおそれがある。また、減圧蒸発缶50でのエネルギー消費も考慮し、表2において太線で囲まれたセルで表される処理条件、すなわち、処理温度が80℃以上150℃以下であることを前提として、
80≦x<90であるときにy≧99.5とし、
90≦x<100であるときにy≧97とし、
100≦x<110であるときにy≧90とし、
110≦xであるときにy≧80とする処理条件を考えることができる。この処理条件を処理条件B2とする。処理条件B2は、概ね処理条件B1に内包される処理条件である。
【0026】
図1または
図2に示す精製システムを用いNMPと水との混合液からNMPを分離して精製する場合において、得られるNMPにおける着色を抑制しつつ減圧蒸発缶50内に残留する過酸化物濃度を低減しようとするときは、処理条件A1,A2のいずれかを選択した上で、処理条件B1,B2の一方を選択し、選択した処理条件を満たすように減圧蒸発缶50を運転する。減圧蒸発缶50の缶底残留液の過酸化物濃度に関し、減圧蒸発缶90に供給される被処理液での過酸化物濃度よりも低減さえしていればよい、というのであれば、被処理液での過酸化物濃度が10mg当量/Lであるので、表2に基づいて、処理条件B1,B2の代わりに、処理温度が80℃以上であることを前提として、
80≦x<90であるときにy≧99.5とし、
90≦x<100であるときにy≧95とし、
100≦xであるときにy≧80とする処理条件を用いることも可能である。この処理条件を処理条件B3とする。
【0027】
図3は、本発明の実施の一形態の精製システムを示している。この精製システムは、上述した本発明に基づく精製方法の実施に適したものであり、
図1に示す精製システムに、流量センサ81,82,86、温度センサ83及び圧力センサ85を付加したものである。
図3では、
図1及び
図2とは異なり、減圧蒸発缶50内を減圧にするための真空ポンプ(VP)65も明示されている。真空ポンプ65は、気液分離器66を介して冷却器62の出口側に接続している。
図3に示す精製システムにおいて、ポンプ17は、精製対象のNMPすなわち被処理液を減圧蒸発缶50に供給する機能を有する。一方、減圧蒸発缶50の底部に接続した配管63には弁64が設けられているが、この弁64を制御することによって、減圧蒸発缶50の塔底に溜まった液体のうちのどれだけを外部に排出できるかを変えることができる。上述したように、減圧蒸発缶50におけるNMPの回収率は、減圧蒸発缶50に供給される被処理液の量と減圧蒸発缶50の塔底から外部に排出される液体の量とによって決まるから、ポンプ17及び弁64の少なくとも一方を制御することより、回収率を変化させ調整することができる。
【0028】
温度センサ83は減圧蒸発缶50に取り付けられて、減圧蒸発缶50での処理温度を測定する。流量センサ81は、配管16に設けられてポンプ17から減圧蒸発缶50に供給される被処理液の流量を測定する。流量センサ82は配管63に設けられて、減圧蒸発缶50の底部から外部に排出される液体の量を測定する。この構成によれば、流量センサ81,82の測定値から減圧蒸発缶50におけるNMPの回収率を算出できる。しかしながら、実際には減圧蒸発缶50の底部から配管63からの液体の排出はバッチ処理で行われることがあり、流量センサ81,82の測定値だけから回収率を算出した場合には誤差が大きくなるおそれがある。そこで本実施形態では、配管61に対しても流量センサ86を設け、配管61を介して排出される精製NMPの流量も測定し、回収率を正確に求めることができるようにしている。
【0029】
上述したように減圧蒸発缶50は、熱媒として蒸気が供給されており、蒸気の熱エネルギーによって昇温する。減圧蒸発缶50内の圧力を変化させることにより減圧蒸発缶50内でのNMPの沸点も変化し、処理温度も変化する。したがって、減圧蒸発缶50内の圧力を測定する圧力センサ85を設け、圧力センサ85による圧力測定値が変化するように真空ポンプ65を動作させれば、処理温度を変化させることができることになる。熱媒である蒸気の供給量を変えれば、蒸発量すなわち精製NMPの発生量を変化させることができる。このことは、熱媒である蒸気の供給量と減圧蒸発缶50の底部から配管63を介して排出される液体の量とを変化させることによっても、あるいは、減圧蒸発缶50に供給される被処理液の流量と熱媒である蒸気の供給量とを変化させることによっても、回収率を変化させることができることを意味する。
【0030】
本実施形態の精製システムは、流量センサ81,82,86のうちの少なくとも2つから算出される回収率と、温度センサ83で測定される処理温度とに基づいて、上記の処理条件A1,A2のうちの指定された処理条件を満たすように運転される。温度センサ83での測定値の代わりに、圧力センサ85で求めた圧力からNMPの温度-蒸気圧特性に基づいて求められる温度値を用いてもよい。すなわち、温度センサ83及び圧力センサ85は、いずれも、減圧蒸発缶50での処理温度を検出する温度検出手段として機能する。指定された処理条件を満たすようにポンプ17による供給流量と、弁64を介する排出量と、真空ポンプ65によって発生させる真空度と、熱媒である蒸気の供給量とをあらかじめて定めておけば、当該指定された処理条件を満たすようこの精製システムを運転することができる。さらに精製システムは、減圧蒸発缶50の缶内残留液における過酸化物濃度の低減が必要な場合には、さらに、処理条件B1~B3のうちの指定されたものをも満たすように運転される。なおこの精製システムではNMPの回収率を管理するが、その管理方法としては、供給される被処理液の積算流量を流量センサ81によって求めるとともに、弁64を開閉するバッチ排出によってもよいし、あるいは、被処理液の積算流量を求めるとともに、弁64の開度を制御して連続的に減圧蒸発缶50から液体を抜き出すものであってもよい。バッチ排出の場合、減圧蒸発缶50において液面制御を行っていれば排出量は一定であるので、液面制御を行っていれば流量センサ82を設けなくてよい。
【0031】
図4は、本発明の別の実施形態の精製システムを示している。
図4に示す精製システムは、精製システムにおける動作環境の変動が大きく、予め定めた値によってポンプ17や真空ポンプ65を動作させ弁64を操作し熱媒である蒸気を供給することによっては、指定された処理条件からの逸脱が考えられる場合に適したものである。
図4に示す精製システムは、
図3に示す制御システムに対し、制御装置80及び調整弁84を付加し、弁64も調整弁としたものものである。制御装置80には、流量センサ81,82,86、温度センサ83及び圧力センサ85の各センサからの測定値が入力する。処理温度と回収率の制御を行うために必要なければ、これらのセンサ81~83,85,86のうちのいくつかは設けなくてもよい。ポンプ17及び弁64の少なくとも一方は制御装置80によって制御可能であるように構成されている。減圧蒸発缶50内の圧力を変化させて処理温度を変化させることができるように、真空ポンプ65も制御装置80によって制御可能であるように構成されている。調整弁84は、減圧蒸発缶50に蒸気を供給する配管に設けられており、制御装置80によって制御されるように構成されている。
【0032】
制御装置80は、流量センサ81,82,86のうちの少なくとも2つの測定値に基づいてNMPの回収率を算出し、温度センサ83での測定値すなわち処理温度(あるいは圧力センサ85での測定値から求められる処理温度)と回収率とに基づいて、上記の処理条件A1,A2のうちの指定された処理条件を満たすように、ポンプ17、弁64、真空ポンプ65及び調整弁84の少なくとも1つを制御する。さらに制御装置80は、缶内残留液における過酸化物濃度の低減が必要な場合には、さらに、処理条件B1~B3のうちの指定されたものをも満たすように、ポンプ17、弁64、真空ポンプ65及び調整弁84の少なくとも1つを制御する。
【符号の説明】
【0033】
10,15 タンク
17,21 ポンプ
22 膜脱気装置
23 熱交換器
30 浸透気化装置
31 浸透気化膜
43,62 冷却器
50 減圧蒸発缶
64 弁
65 真空ポンプ
66 気液分離器
80 制御装置
81,82,86 流量センサ
83 温度センサ
84 調整弁
85 圧力センサ