(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023086971
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】加工用牡蠣及び加工用牡蠣の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/40 20160101AFI20230615BHJP
【FI】
A23L17/40 C
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074668
(22)【出願日】2023-04-28
(62)【分割の表示】P 2019046654の分割
【原出願日】2018-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】595143609
【氏名又は名称】卜部産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】卜部 悟
(72)【発明者】
【氏名】卜部 陽子
(72)【発明者】
【氏名】小久保 公博
(57)【要約】
【課題】 生牡蠣の剥身を加熱しヌメリを除去し作業性を向上させ、且つ加熱調理後においてもジューシーな食感を有する加工用の牡蠣原料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、生牡蠣の剥身を加熱する加熱工程を含み、前記加熱工程において、加熱時間は、300秒以内である、加工用牡蠣の製造方法が提供される
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生牡蠣の剥身を加熱する加熱工程を含み、前記加熱工程において、加熱時間は、300秒以内である、加工用牡蠣の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程において、牡蠣の中心温度が75℃未満である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程において、加熱方法が、蒸気又は熱湯による加熱である、請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
加熱後の牡蠣を冷凍する冷凍工程をさらに含む、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程後、且つ、前記冷凍工程前に、加熱後の牡蠣をディンプルトレイに入れる収納工程をさらに含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1項に記載の製造方法により得られる加工用牡蠣。
【請求項7】
請求項6に記載の前記加工用牡蠣を加工する牡蠣加工製品の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られる牡蠣加工製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工用牡蠣及び加工用牡蠣の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牡蠣フライ、牡蠣の天ぷら等の加工用、すなわち油ちょう等による加熱調理用に牡蠣原料の需要は高い。
【0003】
そのような牡蠣原料としては、生の牡蠣の剥身を洗浄後そのまま冷凍したもの、あるいは加熱後に冷凍したもの(特許文献1)等が製造されている。加熱後に冷凍する場合には、ノロウィルス対策を目的としており比較的しっかりと加熱するが、生の牡蠣の剥身をそのまま冷凍したものの方が、加熱したものに比べ加熱調理後の水分量が多い、すなわちジューシーであるため好まれることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生の牡蠣の剥身をそのまま冷凍したものについては、それぞれを独立した形で形良く冷凍するために仕切りがついたディンプルトレイ等の容器に収めた上で冷凍する必要がある場合がある。その作業工程において牡蠣表面のヌメリにより作業性が極めて悪いという問題がある。また、さらにはディンプルトレイ等の容器に収める作業のために多くの人手を要し、コストが嵩む。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、生牡蠣の剥身を加熱しヌメリを除去し作業性を向上させ、且つ加熱調理後においてもジューシーな食感を有する加工用の牡蠣原料の製造方法を提供するものである。また、上記方法において、さらに加熱によって丸い形状に変化させることによりディンプルトレイに収納する手間を省くことができる加工用の牡蠣原料の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、生牡蠣の剥身を加熱する加熱工程を含み、前記加熱工程において、加熱時間は、300秒以内である、加工用牡蠣の製造方法が提供される
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行ったところ、生牡蠣の剥身を短時間加熱することで、ヌメリを除去し作業性を向上させ、且つ加熱調理後においてもジューシーな食感を有する加工用の牡蠣原料が得られることを見出し、本発明の完成に至った。また、加熱によって丸い形状に変化させることによりディンプルトレイに収納する手間を省くことができることも見出した。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記加熱工程において、牡蠣の中心温度が75℃未満である。
好ましくは、前記加熱工程において、加熱方法が、蒸気又は熱湯による加熱である。
好ましくは、加熱後の牡蠣を冷凍する冷凍工程をさらに含む。
好ましくは、前記加熱工程後、且つ、前記冷凍工程前に、加熱後の牡蠣をディンプルトレイ入れる収納工程をさらに含む。
好ましくは、前記加工用牡蠣の製造方法により得られる加工用牡蠣。
好ましくは、前記加工用牡蠣を加工する牡蠣加工製品の製造方法。
好ましくは、前記牡蠣加工製品の製造方法により得られる牡蠣加工製品。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0011】
1.加工用牡蠣の製造方法
本発明の一実施形態に係る加工用牡蠣の製造方法は、生牡蠣の剥身を加熱する加熱工程を含む。なお、ここで「加工用牡蠣」の「加工」とは、後述の牡蠣加工製品の製造を含む種々の加工を意味し、調理(特に、加熱調理)を施す行為も含むものである。
【0012】
1-1.加熱工程
加熱方法は、特に制限されないが、蒸気又は熱湯による加熱が好ましい。加熱時に、ヌメリが洗い流されやすいためである。
【0013】
一実施形態においては、生牡蠣の剥身を蒸気により加熱する方法は、特に限定されないが、公知の方法を用いることができる。例えば、高温高圧の乾燥蒸気で蒸して得る方法や100℃以上の温度かつ1kgf/cm2G以下の圧力の、好ましくは100℃以上105℃以下の温度かつ0kgf/cm2G以上0.5kgf/cm2G以下の圧力の蒸気(湿り蒸気)を用いて牡蠣の剥身を蒸すことが挙げられる。牡蠣の剥身は、蒸し釜等によりバッチ処理的に加熱してもよく、メッシュ(網)ベルトにより搬送し上部及び/又は下部から蒸気を吹き付けることにより連続的に加熱してもよい。また、牡蠣に対して牡蠣1kgあたり蒸気量0.1kg/h以上で減圧蒸気を噴射することにより効率的に加熱することが可能である。なお、湿り蒸気は、ボイラーにおいて発生させられた高圧蒸気を用いてスチームチェンジャー中で水を沸騰させることによって得ることができる。このとき、減圧される前の高圧蒸気の温度及び圧力は、特に限定されるものではないが、例えば、100℃以上の温度かつ3kgf/cm2G以上の圧力であることが好ましい。通常の食品工場に設置されている業務用のボイラーから供給される高圧蒸気の温度及び圧力が100℃以上の温度かつ3kgf/cm2G以上であることが多く、このような高圧蒸気を用いれば、スチームチェンジャー中で100℃以上の温度かつ1kgf/cm2G以下の圧力の減圧蒸気を効率よくかつ大量に発生させることが可能だからである。
【0014】
一実施形態においては、生牡蠣の剥身を熱湯により加熱する方法は、特に限定されないが、公知の方法を用いることができる。例えば、牡蠣の剥身は、茹で釜等によりバッチ処理的に加熱してもよく、メッシュ(網)ベルトにより搬送し上部及び/又は下部から熱湯を掛けることにより連続的に加熱してもよい。ここで熱湯は、水温が50~100℃であることが好ましく、80~100℃であることがより好ましく、95~100℃であることがさらに好ましい。
【0015】
加熱工程における加熱時間は、300秒以内である。加熱時間をこの範囲に設定することで、ヌメリがとれ、また牡蠣を丸くすることができる場合がある。さらに、得られた加工用牡蠣を原料として加熱調理を行った場合にもジューシーさが損なわれにくい。
【0016】
加熱時間は、好ましくは120秒以内であり、より好ましくは90秒以内であり、さらに好ましくは60秒以内である。加熱時間をこのような範囲にすることで、得られた加工用牡蠣を原料として加熱調理を行った場合にもジューシーさが損なわれにくく、さらに効率的な生産が可能となる。また、加熱時間は、好ましくは30秒以上であり、より好ましくは50秒以上である。加熱時間をこのような範囲にすることで、牡蠣が丸い形状に変化しディンプルトレイに収納する手間を省くことができる。加熱により牡蠣が丸く変形する現象については認識されていたものの、長く加熱し温度を上げる必要があると考えられていたが、本発明においてはこのような比較的短時間の加熱によっても丸い形状に変化させることが可能であることが見出された。短時間の加熱によりヌメリの除去及び丸い形状への変化が可能であることで、歩留まりも優れるという効果も得ることができる。なお、加熱時間は、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120秒のうち任意の2つの値の範囲内であってもよい。
【0017】
加熱工程における牡蠣の中心温度は、好ましくは75℃未満である。牡蠣の中心温度をこのような範囲にすることで、得られた加工用牡蠣を原料として加熱調理を行った場合にもジューシーさが損なわれにくい。中心温度は、より好ましくは65℃未満であり、さらに好ましくは60℃未満である。また、中心温度は、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは40℃以上である。なお、中心温度は、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、74℃のうち任意の2つの値の範囲内であってもよい。なお、ノロウィルス対策等を考慮すると、後の加熱調理工程においては牡蠣の中心温度について安全基準を満たすように留意する必要がある。
【0018】
加熱工程後に、冷却工程を設けることができる。冷却工程により、余熱によるさらなる加熱を抑えることができ、また後述の冷凍工程を行う場合にも余熱を除去しておくことにより効率的な冷凍が可能となる。冷却は、冷却水をためたタンク内に牡蠣を投入し引き上げる方法、冷却水をためたタンク内を牡蠣を通過させる方法、冷却水を牡蠣へ噴射する方法等が挙げられる。タンク内の冷却水は、別で用意したた冷却水を連続的に流し込み且つ排出することにより温度を一定に保つことが好ましい。なお、冷却水は、純水に限られるものではなく、その温度は約0℃~20℃が好ましく、0℃~10℃がより好ましい。
【0019】
1-2.冷凍工程
一実施形態において、加工用牡蠣の製造方法は、加熱後の牡蠣を冷凍する冷凍工程をさらに含むことが好ましい。冷凍工程は、特に限定されないが、公知の方法を用いることができる。例えば、-20℃以下の冷気を暴露して加熱後の牡蠣を冷凍する。また、冷気の温度は、特に限定しないが、例えば-30℃以下、-40℃以下であってもよい。なぜなら、加熱後の牡蠣に対して暴露される冷気の温度が低いほど牡蠣を短時間で効率よく冷凍することができるからである。
【0020】
1-3.収納工程
一実施形態において、加工用牡蠣の製造方法は、加熱工程後、且つ、冷凍工程前に、加熱後の牡蠣をディンプルトレイに入れる収納工程をさらに含むことが好ましい。加熱工程により牡蠣が丸くなった場合にはディンプルトレイに入れる必要はないが、ごく短時間の加熱によりヌメリのみを除去した場合にはディンプルトレイに入れて形を整える必要がある。収納工程において、収納方法と特に制限されないが、手作業により行ってもよく、機械的に行ってもよい。一方で、ディンプルトレイに収納した場合には、ディンプルトレイ側(下側)から冷気が接触せず、メッシュベルトやスチールベルト上に牡蠣をむき出しで置いた場合に比べ冷却効率が低いことがある。特に、熱伝導率の比較的低いプラスチック製のディンプルトレイを使用した場合に顕著である。
【0021】
2.牡蠣加工製品の製造方法
本発明の一実施形態として、上記製造方法により得られた加工用牡蠣を加工する牡蠣加工製品の製造方法及び牡蠣加工製品が提供される。
【0022】
牡蠣加工製品の製造方法の一実施形態は、牡蠣フライ及び牡蠣の天ぷら等など用の牡蠣加工製品の製造方法が挙げられる。
例えば、牡蠣フライは、加工用牡蠣(未冷凍のもの、又は冷凍後解凍したもの等)に、打ち粉、バッター液、パン粉を順に付着させ衣としたものである。この状態でも牡蠣加工製品といえるし、これを冷凍したもの、または油ちょう等の加熱したもの、冷凍後加熱したもの、加熱後冷凍したもの等も牡蠣加工製品といえる。
また、例えば、牡蠣の天ぷらは、加工用牡蠣(未冷凍のもの、又は冷凍後解凍したもの等)に、打ち粉、バッター液、必要な場合には天かすを順に付着させ衣としたものである。この状態でも牡蠣加工製品といえるし、これを冷凍したもの、または油ちょう等の加熱したもの、冷凍後加熱したもの、加熱後冷凍したもの等も牡蠣加工製品といえる。
また、様々な用途に用いることができる、加工用牡蠣に打ち粉のみを施した物も有用である。
また、本発明の実施形態にかかる加工用牡蠣の加工、もしくは調理(特に、加熱調理)例としては、天ぷら、フライ以外に鍋、パスタ、炊き込みご飯等が挙げられる。
【実施例0023】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明する。また、これらはいずれも例示的なものであって、本発明の内容を限定するものではない。
【0024】
<蒸気による加熱例>
牡蠣の剥身を洗浄し、洗浄された牡蠣の剥身(中心温度10℃以下)を、蒸機の内部を通るメッシュ(網)ベルト上に載せた。ボイラーから発生した130℃、3~6kgf/cm2Gの高圧蒸気をスチームチェンジャーに通して100℃、0~1kgf/cm2Gにした減圧蒸気を用いて、牡蠣の剥身1kgあたり蒸気量0.4kg/hになるように蒸機に供給して牡蠣の剥身を表1の実験例1~8に示す時間加熱した。
続いて、冷却水に投入し冷却を行った。
その後、冷却後の牡蠣をスチールベルトによって冷凍機に投入して-30℃の冷気を噴霧し11分かけて冷凍した。
【0025】
<熱湯による加熱>
牡蠣の剥身を洗浄し、洗浄された牡蠣の剥身(中心温度10℃以下)を、沸騰した約100℃の熱湯へ投入し、牡蠣の剥身を表1の実験例1~8に示す時間加熱した。
その後、加熱後牡蠣をスチールベルトによって冷凍機に投入して-30℃の冷気を噴霧し11分かけて冷凍した。
【0026】
[中心温度の測定]
牡蠣の中心温度の測定は、牡蠣を半分に切り、断面の中心を非接触型の温度計で測定することにより行った。加熱による中心温度の測定は各加熱時間の経過直後に測定することで、その中心温度とした。
【0027】
【0028】
表1に示すように短時間の加熱によってヌメリがとれて、作業性が向上した。また、このヌメリは生臭さの原因になるが、ヌメリが取れたことにより生臭さを低減することに成功した。また、30秒以上加熱した場合には、牡蠣が丸く変形したため、冷凍前にディンプルトレイに入れて形を整える必要もなくなった。なお、「見た目」の項目において「丸△」とは、丸く変形したものの、50秒以上加熱した場合ほど丸く変形しなかったことを表している。
【0029】
<牡蠣加工製品の製造例>
冷凍された牡蠣に温水(30℃)をかけて冷凍蒸し牡蠣のグレースを取り除いた。その後ペーパータオルで冷凍牡蠣の表面の水分を取り除いた。打ち粉として小麦粉を用いて、牡蠣の外側を覆い、その後、さらにバッター液をつけたあと、天かすを用いて、牡蠣全体を覆い、天ぷら用衣付き牡蠣を作成した。
冷凍された牡蠣として、生牡蠣を冷凍したもの、及び上記実験例5による加熱された牡蠣を冷凍したもの、また実験例5と同じ条件で加熱時間を6分に延長したものを、それぞれ実験例17、実験例18、及び実験例19に用いた。
そして、天ぷら用衣付き牡蠣を170℃の油で4分間油ちょうした結果を表2に示す。なお、食感、臭み、ジューシーさについては十分なトレーニングを積んだ複数の官能パネラーが試食した結果である。
【0030】
【0031】
表2に示すように、加熱した牡蠣を用いた場合には、生牡蠣を用いた場合に比べ、臭みが低減されていた。また、ジューシーさに関しては、6分加熱した場合には、生牡蠣を用いた場合に比べジューシーさが劣っていたのに対し、表1の実験例5による60秒加熱された牡蠣を用いた場合でも、生牡蠣を用いた場合に比べジューシーさがほとんど損なわれていなかった。
【0032】
<生産効率>
同じ作業時間内に、加熱工程から冷凍工程の前準備(必要な場合にはディンプルトレイに詰める作業を含む)までに必要な人員に対して、冷凍工程へと送り込める牡蠣の量を比較することにより、生牡蠣をディンプルトレイに詰めて冷凍する場合(作業性実験1)と、牡蠣を本発明により加熱する(表1の実験例5)ことによりディンプルトレイに詰めることなく冷凍する場合(作業性実験2)との作業性を比較した。
【0033】
【0034】
表3に示すように、作業性実験1に比べ作業性実験2の方が5倍の処理能力を発揮しており、本発明により作業性が大幅に向上していることがわかる。