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  • 特開-経口投与用エダラボン懸濁剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087011
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】経口投与用エダラボン懸濁剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4152 20060101AFI20230615BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20230615BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230615BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230615BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230615BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230615BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230615BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230615BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
A61K31/4152
A61P21/02
A61P25/28
A61K9/10
A61K47/36
A61K47/32
A61K47/38
A61K47/34
A61K47/26
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075654
(22)【出願日】2023-05-01
(62)【分割の表示】P 2020554977の分割
【原出願日】2019-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2018207646
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】羽山 哲生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】大村 朋幸
(72)【発明者】
【氏名】林 昂司
(72)【発明者】
【氏名】松田 宗智
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 忠
(57)【要約】
【課題】優れたバイオアベイラビリティを有する、経口投与用のエダラボン懸濁剤の提供。
【解決手段】エダラボン粒子、分散剤、増粘剤および水を含み、該増粘剤が、キサンタンガムおよび/またはトラガント末である、ヒト経口投与用エダラボン懸濁剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エダラボン粒子、分散剤、増粘剤および水を含み、該増粘剤が、キサンタンガムおよびトラガント末から選択される一種または二種である、ヒト経口投与用エダラボン懸濁剤。
【請求項2】
増粘剤がキサンタンガムである、請求項1記載の懸濁剤。
【請求項3】
増粘剤の配合量が0.1%(w/v)~1.2%(w/v)である、請求項1または2に記載の懸濁剤。
【請求項4】
分散剤が下記(i)~(ii):
(i)透過散乱光強度1%以上を示す、および
(ii)接触角80°以下を示す、
の少なくとも一つを満たす分散剤である、請求項1~3のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項5】
分散剤が、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒプロメロース、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリソルベートから選択される一種または二種以上である、請求項1~3のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項6】
分散剤が、ポリビニルアルコールおよびメチルセルロースから選択される一種または二種である、請求項5記載の懸濁剤。
【請求項7】
分散剤が、ポリビニルアルコールである、請求項5または6に記載の懸濁剤。
【請求項8】
ポリビニルアルコールが、ケン化度が86.5~89.0であり、かつ4%水溶液の20℃における動粘度が3mm2/s~55.7mm2/sである、請求項5~7のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項9】
分散剤の配合量が0.001%(w/v)~1.0%(w/v)である、請求項1~8のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項10】
エダラボン粒子の配合量が0.06%(w/v)~36%(w/v)である、請求項1~9のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項11】
さらに甘味剤、安定化剤およびpH調節剤から選択される1種以上の添加剤を含む、請求項1~10のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項12】
懸濁剤の粘度が、50mPa・s~1750mPa・sである請求項1~11のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項13】
懸濁剤の密度が、1g/mL~1.5g/mLである請求項1~12のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項14】
日本薬局方に従い溶出試験(試験液:第一液、パドル回転数:50rpm)を実施した際、試験開始30分後におけるエダラボンの溶出率が80%以上である請求項1~12のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項15】
(A)エダラボン粒子および増粘剤を含む固形組成物、および(B)分散剤溶液を含み、該増粘剤が、キサンタンガムおよびトラガント末から選択される一種または二種である、ヒト経口投与用エダラボン懸濁剤調製用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口投与用エダラボン懸濁剤、および、経口投与用エダラボン懸濁剤調製用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
エダラボンとは、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン(下式参照):
【化1】
であり、脳機能正常化剤の他、ALS(筋萎縮性側索硬化症)治療剤としての医薬用途が知られている(特許文献1および2)。
【0003】
運動ニューロン疾患の一つであるALSは、手の脱力、手指の運動障害および上肢の線維束攣縮などの初期症状から、筋萎縮・筋力低下、球麻痺や筋肉の線維束攣縮を経由し、呼吸不全に至る難病である。ALSは、発症部位により上肢型、球型、下肢型および混合型に分けられ、いずれの型でも症状の進行とともに全身の筋群が侵される。ALSの病因はまだ十分に解明されていないが、主な病因として、(1)自己免疫説(Caチャンネルに対する自己抗体の出現)、(2)興奮性アミノ酸過剰・中毒説(細胞外グルタミン酸の増加とグルタミン酸の運搬障害)、(3)酸化的ストレス障害説(Cu/Zn superoxide dismutase(SOD)遺伝子異常とフリーラジカルによる神経細胞障害)、(4)細胞骨格障害説(運動神経細胞へのneurofilamentの蓄積や封入体の出現)、(5)神経栄養因子の欠損などが仮説として提唱されている。
【0004】
現在、エダラボンはALS治療剤として使用されているが、ALS治療剤としてのエダラボンは、注射剤としてのみ提供されており、より患者や介護者の負担が少なく、QOL上好ましい経口投与製剤が望まれている。
しかしながら、直接血中に投与される注射剤と異なり、胃腸管からの吸収性、初回通過効果など種々の要因がバイオアベイラビリティに影響を与える経口投与用製剤において、注射剤と生物学的に同等な製剤を得るのは至難の業である。
経口投与用製剤としては、錠剤、カプセル剤などの固形製剤が一般的であるが、これらの製剤形態は直接服用する場合、嚥下能力の低下が予想されるALS患者には服薬が困難であり、これらの患者群に対しては、液剤、懸濁剤などの経口投与形態が望ましい。
非特許文献1~3には、エダラボンのCMC-Na懸濁液が記載されているが、これらを動物に投与したところ、いずれもバイオアベイラビリティが低かったことが記載されている。
特許文献3には、トラガントゴム水溶液を用いたエダラボン経口投与用液が記載されており、ラットにおいて十分な血中濃度が得られたことが記載されている。しかしながら、前記血中濃度は上記非特許文献1~3に記載のあるCMC-Na懸濁液の結果よりも低く、本文献記載製剤も注射剤に匹敵しうるバイオアベイラビリティを有するものではない。
懸濁液における低いバイオアベイラビリティを克服すべく、特許文献4には吸収性に優れたエダラボン溶液剤が記載されているが、本溶液剤は、エダラボンの水に対する溶解度の低さゆえに投与量が100mLにもなり、患者の服薬アドヒアランス上好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5-31523号公報
【特許文献2】特許第3758164号公報
【特許文献3】特開2004-91441号公報
【特許文献4】WO2018/134243号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES 103:730-742, 2014
【非特許文献2】International Journal of Pharmaceutics 515 (2016) 490-500
【非特許文献3】Drug Delivery, 24:1, 962-978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ALS患者や介護者の負担を軽減し、且つ、注射剤と同等のALS治療効果を奏しうる経口投与用エダラボン懸濁剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、分散剤を配合することで、エダラボン粒子を水中に均一に分散させ、かつその分散状態を維持し、たとえ保存後にエダラボン粒子が沈降した場合であっても、軽い振盪により速やかに再分散可能となるため、製剤的に優れた経口投与用エダラボン懸濁剤を調製しうることを見出した。さらに、前記非特許文献1~3の知見に基づくと、調製された経口投与用エダラボン懸濁剤は、これまでの動物実験の結果からはバイオアベイラビリティ上不利と考えられていた懸濁剤であるにもかかわらず、ヒトに投与した際に予想外に優れたバイオアベイラビリティを示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
課題を解決するための手段は以下の<1>~<23>に関するものであるが、決してこれらに限定はされない。
【0009】
<1> エダラボン粒子、分散剤および水を含むヒト経口投与用エダラボン懸濁剤。
<2> 分散剤が、透過散乱光強度1%以上を示す分散剤である<1>の懸濁剤。
<3> 分散剤が、接触角80°以下を示す分散剤である<1>の懸濁剤。
<4> 分散剤が、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒプロメロース、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリソルベートから選択される一種または二種である、<1>の懸濁剤。
<5> 分散剤が、ポリビニルアルコールおよびメチルセルロースから選択される一種または二種である、<4>の懸濁剤。
<6> 分散剤が、ポリビニルアルコールである、<4>または<5>の懸濁剤。
<7> ポリビニルアルコールが、ケン化度が86.5~89.0であり、かつ4%水溶液の20℃における動粘度が3mm/s~55.7mm/sである、<4>~<6>のいずれか1つの懸濁剤。
<8> 分散剤の配合量が0.001%(w/v)~1.0%(w/v)である、<1>~<7>のいずれか1つの懸濁剤。
【0010】
<9> さらに増粘剤を含む、<1>~<8>のいずれか1つの懸濁剤。
<10> 増粘剤がキサンタンガムおよびトラガント末から選択される一種または二種である、<9>の懸濁剤。
<11> 増粘剤がキサンタンガムである、<9>または<10>の懸濁剤。
<12> 増粘剤の配合量が0.1%(w/v)~1.2%(w/v)である、<9>~<11>のいずれか1つの懸濁剤。
<13> 懸濁剤中におけるエダラボン粒子のD50粒子径が、10μm~100μmであり、D90粒子径が50μm~300μmである<1>~<12>のいずれかの1つの懸濁剤。
<14> エダラボン粒子の配合量が0.06%(w/v)~36%(w/v)である、<1>~<13>のいずれか1つの懸濁剤。
<15> さらに甘味剤、安定化剤およびpH調節剤から選択される一種以上の添加剤を含む、<1>~<14>のいずれか1つの懸濁剤。
<16> 懸濁剤の粘度が、50mPa・s~1750mPa・sである<1>~<15>のいずれか1つの懸濁剤。
<17> 懸濁剤の密度が、1g/mL~1.5g/mLである<1>~<16>のいずれか1つの懸濁剤。
<18> 日本薬局方に従い溶出試験(試験液:第一液、パドル回転数:50rpm)を実施した際、試験開始30分後におけるエダラボンの溶出率が80%以上である<1>~<17>のいずれかに記載の懸濁剤。
<19> (A)エダラボン粒子を含む固形組成物、および、(B)分散剤溶液
を含むヒト経口投与用エダラボン懸濁剤調製用キット。
<20> エダラボンとして90~120mgをヒトに経口投与した際、血漿中エダラボンの平均Cmaxが500~2500ng/mL、平均AUC0-∞
が1000~2500h*ng/mLを示すヒト経口投与用エダラボン懸濁剤。
<21> エダラボン注射剤を対照製剤として、エダラボン90~120mgを含む懸濁剤をヒトに経口投与するクロスオーバー試験を実施した際、対照製剤に対するCmax幾何平均値の比の90%信頼区間下限値、および対照製剤に対するAUC0-∞幾何平均値の比の90%信頼区間下限値の何れもが0.8を超えるヒト経口投与用エダラボン懸濁剤。
<22> エダラボン注射剤を対照製剤として、エダラボン90~120mgを含む懸濁剤をヒトに経口投与するクロスオーバー試験を実施した際、対照製剤に対するCmax幾何平均値の比、対照製剤に対するAUC0-∞幾何平均値の比の何れもが0.8~1.25の間に入るヒト経口投与用エダラボン懸濁剤。
<23> 経口投与による一回あたりの製剤服用量が1~20mLであり、前記服用量中にエダラボンを50~210mg含有することを特徴とするALS治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ALS患者や介護者の負担を軽減し、且つ、注射剤と同等のALS治療効果を奏しうる経口投与用エダラボン懸濁剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本願発明の懸濁剤(実施例26)を経口投与、またはエダラボン注射剤を静脈注射した時の血漿中エダラボン未変化体のPKプロファイルを示す図である。図中、記号●は本発明懸濁剤、記号▲はエダラボン注射剤を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の経口投与用エダラボン懸濁剤、および、経口投与用エダラボン懸濁剤調製用キットについて詳細に説明する。なお、本明細書において引用された全ての刊行物は、参照として本明細書に組み込まれる。
さらに、本明細書において、「%(w/v)」は特に記載のない限り懸濁剤の体積に対する質量%を意味し、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0014】
本発明のヒト経口投与用懸濁剤は、エダラボン粒子、分散剤および水を含有する。これにより、本発明の懸濁剤は、ALS患者や介護者の負担を軽減し、且つ、注射剤と同等のALS治療効果を奏す。
【0015】
また、本発明の懸濁剤は、必要に応じて、さらに、増粘剤を含有してもよい。
これにより、嚥下障害を有する患者であっても誤嚥リスクなく飲み易くなると共にエダラボン粒子の分散状態をさらに長時間維持することが可能となる。さらに増粘剤を含有することにより、ヒトに投与した際に患者ごとの薬物血中濃度のばらつきが非常に小さくなり、より安定した薬効が期待できる。
【0016】
本発明におけるエダラボンは公知化合物であり、例えば特公平5-31523号などに記載された方法により当該業者が容易に合成できる。
【0017】
本発明の懸濁剤に含まれるエダラボン粒子は、エダラボンを含む固体粒子であり、エダラボンのみから構成されるものであってもよいし、他の成分を含むものであってもよく、エダラボンは結晶状態、非晶質状態何れであってもよい。
懸濁剤中のエダラボン粒子の粒子径は、特に限定されるものではないが、懸濁剤中における安定的な分散状態の維持、速やかな体内吸収、服用時のざらつき感のなさなどの面から、D50粒子径(体積基準の累積50%粒子径)が10μm~100μmの範囲内、かつD90粒子径(体積基準の累積90%粒子径)が50μm~300μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくはD50粒子径が20μm~80μmの範囲内、かつD90粒子径が100μm~250μmの範囲内である。なお、本発明において累積50%粒子径もしくは累積90%粒子径とは、それぞれ体積基準での粒子径である。
懸濁剤中におけるエダラボン粒子の粒度分布は、懸濁剤の一部を測定用の分散媒(エダラボン飽和水溶液)に分散させ、レーザー回折粒度分布装置(Sympatec/HELOS&CUVETTE)を用い、測定する。
【0018】
本発明の懸濁剤に配合されるエダラボン粒子の濃度(配合量)は、エダラボンの至適投与量やALS患者に提供される懸濁剤量(1回服用分、1日服用分、1週間服用分、10日間服用分など)により適宜調整することができるが、懸濁剤としての形態を保持することができる量が適当である。エダラボン粒子の濃度としては、エダラボン粒子がエダラボンのみから構成される場合には、分散媒(例えば、水)に対するエダラボンの飽和溶解度以上である2mg/mL以上であればよく、好ましくは0.06%(w/v)~36%(w/v)、より好ましくは0.5%(w/v)~36%(w/v)、または0.5%(w/v)~20%(w/v)、さらに好ましくは1%(w/v)~20%(w/v)、または1%(w/v)~10%(w/v)、最も好ましくは1%(w/v)~5%(w/v)である。
【0019】
本発明の懸濁剤は、分散剤を含有する。これにより、本発明の懸濁剤は、エダラボン粒子が良好な分散状態を保ち、長期間保存後にエダラボン粒子が沈降した場合であっても、振盪(例えば、手動的または機械的な振盪)により速やかに再分散可能となる。再分散の挙動は、視認または分光学的手法(例えば、レーザー回折粒度分布装置の使用)により、確認することができる。
【0020】
分散剤としては、エダラボン粒子を二次凝集など形成させることなく良好に水中に分散し得るものであればよい。例えば、そのような分散剤としては、透過散乱光強度1%以上の分散剤があげられる。ここで1%以上とは、1%~100%の範囲である。
なお、透過散乱光強度X%以上の分散剤とは、0.1%(w/v)分散剤水溶液40mLとエダラボン840mgを混合して得られた液体の液面直下の透過散乱光強度(ΔT%)を測定した際、X%以上となる分散剤を意味する。例えば、透過散乱光強度1%以上の分散剤とは、0.1%(w/v)分散剤水溶液40mLとエダラボン(D50:37μm,D90:143μm)840mgを混合し、これを30分以上スターラー撹拌して得られた液体の液面直下の透過散乱光強度(ΔT%)を測定した際、1%以上となる分散剤を意味する。さらにここで透過散乱光強度とは、上記液体20mLを円筒形のサンプルボトル(内径25mm×外径27.5mm×高さ72mm)に充填し、TURBISCAN Tower(Formulaction製)にて(25℃)、サンプルボトルの高さ39~40mmにおける透過散乱光強度の測定を開始し、開始後10分後の値を意味する。
透過散乱光強度1%以上の分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート、メチルセルロース、ヒプロメロースが挙げられる。
【0021】
また、分散剤としては、接触角80°以下の分散剤も好適に使用することが可能である。ここで80°以下とは、0°~80°を意味する。接触角が80°以下の分散剤とは、0.1%(w/v)の分散剤を溶解させた飽和エダラボン水溶液の液滴をエダラボン錠に滴下した際、液滴接線とエダラボン錠表面とのなす角(接触角)が80°以下を示す分散剤を意味する。ここでエダラボン錠とは、エダラボン(D50:37μm,D90:143μm)120mgを、直径8mmの平杵で打錠圧800kgにて圧縮成型したものを指し、接触角の測定は接触角測定装置(協和界面科学製、CAX-150)にて、以下の条件で測定した場合を指す。
使用シリンジ:ガラス、1mL
針:23ゲージ
液量:1μL
測定時間:3.1秒後
接触角80°以下の分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート、ヒプロメロースなどがあげられる。
【0022】
好ましい分散剤の具体例としては、ポリビニルアルコール、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート、メチルセルロースおよびヒプロメロースからなる群より選択される一種または二種以上が挙げられ、特に好ましくは、ポリビニルアルコールおよびメチルセルロースからなる群より選択される一種または二種であり、もっとも好ましくは、ポリビニルアルコールである。
【0023】
ポリビニルアルコールとしては、ケン化度が86.5~89.0であり、4%水溶液の20℃での動粘度範囲が3mm/s~55.7mm/sであり、医薬品添加物として推奨されているものが好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、日本合成化学工業が販売しているゴーセノールEG-03P、EG-05P、EG-05PW、EG-18P、EG-22P、EG-30P、EG-30PW、EG-40P、EG-40PW、EG-48Pが挙げられる。
分散剤は、いずれかの種類を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
分散剤の配合量は、エダラボン粒子を分散させ、かつ製造性に悪影響を与えない範囲で選択すればよく、通常0.001%(w/v)~1.0%(w/v)、好ましくは0.005%(w/v)~0.5%(w/v)、最も好ましくは0.01%(w/v)~0.1%(w/v)である。
【0025】
本発明の懸濁剤は、エダラボン粒子の分散状態を長時間良好に維持すべく、増粘剤が配合されていてもよい。増粘剤を含有することで、嚥下障害を有する患者であっても誤嚥リスクなく飲み易くなる上、ヒトに投与した際に薬物血中濃度の患者毎のばらつきが非常に小さくなり、より安定した薬効を期待できるという効果を奏する。
増粘剤としては、製剤上既知の増粘剤が使用可能であり、具体的には、例えば、カルメロースナトリウム、デキストリン、トラガント末、キサンタンガムなどが挙げられ、エダラボンの保存安定性の面からトラガント末、キサンタンガムが好ましく、最も好ましくは、キサンタンガムである。
増粘剤は、いずれかの種類を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
増粘剤の配合量は、多いほど長時間分散状態を維持し得るが、多すぎると粘性が強く製造性が悪化し、また嚥下することが困難な製剤となる上、長期間保存後の粒子沈降時の再分散性も悪くなり好ましくない。増粘剤の配合量は、例えばキサンタンガムの場合、0.1%(w/v)~1.2%(w/v)であればよく、好ましくは0.2%(w/v)~1.0%(w/v)、最も好ましくは0.3%(w/v)~0.5%(w/v)である。
【0027】
増粘剤の配合により、懸濁剤に粘性を付与することができ、嚥下障害を有する患者であっても飲み易く、かつ誤嚥を防止することができるため好都合である。そのような懸濁剤の粘度は、1750mPa・sを超えない範囲内であればよく、好ましくは50mPa・s~1750mPa・sの範囲内、最も好ましくは150mPa・s~900mPa・sの範囲内である。
増粘剤の配合量は上記の記載に限らず、上記粘度になるよう適宜調整することができる。
また、増粘剤の配合により、患者に投与した際の患者毎のエダラボン血中濃度推移のばらつきを最小にすることができるという予想外の効果を奏するため、どの患者に対しても安定した薬効が期待できる。
【0028】
本発明の経口投与用懸濁剤には、経口投与用製剤としての味を整え、かつ懸濁剤の溶液の密度を増大させてエダラボン粒子の沈降を遅延させる目的で甘味剤を配合することができる。甘味剤の中でも糖類は、他の添加剤と比べて配合割合を高くすることができ、溶液の密度を大きくすることに寄与できる。また、糖類を溶解させることにより、溶液の密度を粒子のそれに近づけることが可能であり、粒子の沈降速度を抑制することにも寄与できる。
【0029】
懸濁剤の密度はエダラボン粒子のそれに近いことが望ましく、水の密度を超える範囲以上、好ましくは1g/mL~1.5g/mLの範囲内、最も好ましくは1.05g/mL~1.2g/mLの範囲内である。
甘味剤としては、例えば、糖類、人工甘味剤、非糖質系甘味剤などが挙げられ、糖類の具体例としては、例えば、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、スクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース、グルコース、グリセリンなどが挙げられ、人工甘味剤の具体例としては、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、サッカリンなどが挙げられ、非糖質系甘味剤の具体例としては、ソーマチン、ステビア抽出物などが挙げられる。これらのうち、ソルビトール、キシリトール、またはスクロースが好ましく、ソルビトール、またはスクロースがより好ましく、最も好ましくはソルビトールである。
【0030】
甘味剤は、いずれか1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
甘味剤の配合量は、服用者の嗜好と粒子の沈降抑制を鑑みて適宜調整することができるが、例えば、ソルビトールの配合量としては、5%(w/v)~70%(w/v)、好ましくは10%(w/v)~60%(w/v)、より好ましくは20%(w/v)~50%(w/v)である。
【0031】
本発明の懸濁剤における医薬成分エダラボンは、液中において溶存酸素により酸化を受け易い性質を有するため、公知の安定化剤を配合することが好ましい。そのような安定化剤としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩などの抗酸化剤、システイン類、メチオニン類、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、EDTAなどが挙げられる。特に好ましいのは、特公平7-121861号記載の安定化剤が挙げられる。すなわち亜硫酸塩、亜硫酸水素塩およびピロ亜硫酸塩の中から選ばれる1種以上の抗酸化剤およびシステイン類から選択される安定化剤である。
【0032】
亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、亜硫酸カリウム(KSO)、亜硫酸カルシウム(CaSO)、亜硫酸水素塩としては、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、亜硫酸水素カリウム(KHSO)、亜硫酸水素アンモニウム(NHHSO)、ピロ亜硫酸塩としては、ピロ亜硫酸ナトリウム(Na)、ピロ亜硫酸カリウム(K)などが挙げられる。また、システイン類としては、L-システイン、DL-システイン、N-アセチルシステイン、およびそれらの塩酸塩などが挙げられる。最も好ましくは、抗酸化剤として亜硫酸水素ナトリウム、システイン類としてL-システイン塩酸塩が挙げられる。
【0033】
上記抗酸化剤およびシステイン類の添加量は抗酸化剤については、0.001%(w/v)~0.5%(w/v)、特に0.01%(w/v)~0.2%(w/v)が好ましく、またシステイン類については0.005%(w/v)~0.5%(w/v)、特に0.01%(w/v)~0.2%(w/v)が好ましい。
【0034】
さらにエダラボンの酸化は、pH2.5以下、およびpH6.0以上で加速されることが知られているため、本発明の懸濁剤には、pH調節剤が配合されていることが好ましい。pH調節剤は、懸濁剤のpHを、2.5~6.0の範囲、好ましくは3.0~4.5範囲に調節する量で使用することができる。そして、所望のpHに調節するために、塩基または酸のいずれかを用いることができる。pHを低下させる必要がある場合には、酸性pH調節剤(例えば、塩酸、リン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸などが挙げられ、好ましくはリン酸)が使用できる。pHを上昇させる必要がある場合には、塩基性pH調節剤(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム)が使用できる。
【0035】
本発明の懸濁剤においては、必要に応じ、香料、保存剤、消泡剤などの薬学的に許容される製剤添加物をさらに配合することも可能である。
香料としては、柑橘系フレーバー(オレンジ、レモン、グレープフルーツなど)、ピーチ、グレープ、バニラ、ソーダ、ベリー系フレーバー(ストロベリー、クランベリー、ブルーベリーなど)などの各種フレーバーが挙げられ、香料の好ましい配合量として、例えば、0.05%(w/v)~0.2%(w/v)が挙げられる。
消泡剤としては、シメチコンエマルジョン、脂肪酸エステル、ポリソルベート類、エタノールなどがあげられ、消泡剤の配合量として、例えば0.01%(w/v)~0.05%(w/v)が挙げられる。
【0036】
保存剤としては、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、安息香酸、ソルビン酸、安息香酸ナトリウム、ベンジルアルコール、フェニルエタノールなどがあげられ、保存剤の配合量として、例えば、0.01%(w/v)~0.5%(w/v)が挙げられる。しかしながら本発明の懸濁剤は意外にも、保存剤がなくとも菌の繁殖は認められないため、保存剤の配合は不要である。
【0037】
本発明の経口投与懸濁剤に用いる液状媒体(分散媒)は、水が好ましく、薬学的に許容される有機溶媒を含んでいてもよい。そのような有機溶媒としては、例えば、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、エタノールなどが挙げられる。
【0038】
本発明の懸濁剤における好ましい組成の組合せの実施態様を以下に例示するが、これに限定されるものではない。
(1)エダラボン粒子、ポリビニルアルコール(分散剤)、キサンタンガム(増粘剤)、ソルビトール(甘味剤)、亜硫酸水素ナトリウム(安定化剤)、L-システイン塩酸塩(安定化剤)、リン酸(pH調節剤)、水酸化ナトリウム(pH調節剤)、シメチコンエマルジョン(消泡剤)および水。
(2)エダラボン粒子、ポリビニルアルコール(分散剤)、トラガント末(増粘剤)、ソルビトール(甘味剤)、亜硫酸水素ナトリウム(安定化剤)、L-システイン塩酸塩(安定化剤)、リン酸(pH調節剤)、水酸化ナトリウム(pH調節剤)、シメチコンエマルジョン(消泡剤)および水。
(3)エダラボン粒子、ショ糖脂肪酸エステル(分散剤)、キサンタンガム(増粘剤)、スクロース(甘味剤)、亜硫酸水素ナトリウム(安定化剤)、L-システイン塩酸塩(安定化剤)、酢酸(pH調節剤)、水酸化ナトリウム(pH調節剤)、シメチコンエマルジョン(消泡剤)および水。
(4)エダラボン粒子、ポリビニルアルコール(分散剤)、キサンタンガム(増粘剤)、ソルビトール(甘味剤)、亜硫酸水素ナトリウム(安定化剤)、リン酸(pH調節剤)、水酸化ナトリウム(pH調節剤)、シメチコンエマルジョン(消泡剤)および水。
(5)エダラボン粒子、ポリビニルアルコール(分散剤)、キサンタンガム(増粘剤)、ソルビトール(甘味剤)、亜硫酸水素ナトリウム(安定化剤)、L-システイン塩酸塩(安定化剤)、リン酸(pH調節剤)、水酸化ナトリウム(pH調節剤)、シメチコンエマルジョン(消泡剤)、香料および水。
【0039】
本発明の懸濁剤は、エダラボン粒子が良好な分散状態を長時間持続するため、全液から一定量を分取して投与する場合でも、常に薬物含量の均一性が確保できる。また、たとえ長期間保存後にエダラボン粒子が沈降した場合であっても、振盪により速やかに再分散可能であり、そのような長期間保存中にエダラボンの化学的安定性が損なわれることもなく、防腐剤を配合しなくとも菌繁殖がない、などの特徴を有する。
【0040】
さらに本発明の製剤は、増粘剤をさらに配合することで、適度な粘性が付与されていることから嚥下障害を有する患者にも服用し易く誤嚥リスクも少なくなる上、ヒトに投与した際の患者毎の薬物血中濃度のバラつきが小さくなり、安定した薬効を期待できる、という効果も奏する。
【0041】
本発明の懸濁剤は、優れたバイオアベイラビリティを示すため、現在臨床の場においてALS治療剤として使用されているエダラボン注射剤、例えば日本販売名「ラジカット」(登録商標)を投与(エダラボンとして60mgを1時間かけて静脈注射)した場合と同等の薬物血中濃度推移が、経口投与量としては非常に少ないエダラボン投与量、具体的には90~120mg、より具体的には100~110mg、最も具体的には105mgで達成可能である。
【0042】
詳しくは、本発明の懸濁剤について、エダラボン注射剤を対照としてヒトでクロスオーバー試験を実施した場合、対照製剤に対するCmax幾何平均値の比の90%信頼区間下限値、および対照製剤に対するAUC0-∞幾何平均値の比の90%信頼区間下限値が何れも0.8を超え得る。なお前記において、本発明の懸濁剤のエダラボンとしての経口投与量は90~120mg、好ましくは100~110mg、最も好ましくは105mgであり、対照製剤のエダラボン注射剤は、エダラボンとして60mgを一時間かけて静脈注射される。また上記試験において本発明の懸濁剤は、対照製剤に対するCmax幾何平均値の比の90%信頼区間の下限値が0.8を超えた上で、対照製剤に対するAUC0-∞幾何平均値の比の90%信頼区間が0.8~1.25の範囲内に入り得る。
また上記試験において本発明の懸濁剤は、対照製剤に対するCmax幾何平均値の比の90%信頼区間が0.8~2.0の範囲内に入り、対照製剤に対するAUC0-∞幾何平均値の比の90%信頼区間が0.8~1.25の範囲内に入り得る。
また上記において本発明の懸濁剤は、対照製剤に対するCmax幾何平均値の比の90%信頼区間が0.8~1.5の範囲内に入り、対照製剤に対するAUC0-∞幾何平均値の比の90%信頼区間が0.8~1.25の範囲内に入り得る。
また上記において本発明の懸濁剤は、対照製剤に対するCmax幾何平均値の比、および対照製剤に対するAUC0-∞幾何平均値の比が、何れも0.8~1.25の範囲内に入り得る。
【0043】
本発明の懸濁剤(例えばエダラボンとして90~120mg、より具体的には100~110mg、さらに具体的には105mg)をヒトに経口投与した場合、平均Cmaxは500~2500ng/mLの範囲内、平均AUC0-∞は1000~2500h*ng/mLの範囲内となる。前記においてより詳細には、平均Cmaxは1000~2000ng/mLの範囲内、平均AUC0-∞は1500~2000h*ng/mLの範囲内となる。なお、前記平均Cmaxおよび平均AUC0-∞は、算術平均値、幾何平均値の何れであってもよい。
【0044】
上記エダラボン注射剤と同等な懸濁剤として、例えば、下記組成の懸濁剤が挙げられるが、これに限定されない。
エダラボン粒子:2.1%(w/v)
ポリビニルアルコール(分散剤):0.1%(w/v)
キサンタンガム(増粘剤):0.3%(w/v)
ソルビトール(甘味剤):40%(w/v)
亜硫酸水素ナトリウム(安定化剤):0.1%(w/v)
L-システイン塩酸塩(安定化剤):0.05%(w/v)
水酸化ナトリウム(pH調節剤):適量
リン酸(pH調節剤):適量
シメチコンエマルジョン(消泡剤):0.05%(w/v)
分散媒:水
上記懸濁剤5mL(エダラボンとして105mg)を経口投与することにより、上記エダラボン注射剤(エダラボンとして60mg)を60分かけて静脈注射した場合と同等の血漿中濃度推移となる。
【0045】
本発明の経口投与懸濁剤は、上記で示したエダラボン粒子、分散剤および必要に応じその他成分(増粘剤、甘味剤など)並びに水を混合して調製することができる。
使用するエダラボン粒子は、D50粒子径(体積基準の累積50%粒子径)が2μm~50μm、かつD90粒子径(体積基準の累積90%粒子径)が100μm~250μmが好ましい。前記粒子径のエダラボン粒子を調製するためには、例えばエダラボン粒子がエダラボンのみから構成される場合、特公平5-31523号などに記載の方法により得られたエダラボン原末を公知の粉砕機、例えば、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、ボールミルなどを用いることにより、所望の粒子径のエダラボン粒子を調製可能である。エダラボン粒子の粒子径の測定は、レーザー回折粒度分布装置(Sympatec/HELOS&CUVETTE)を用い、乾式方法で測定できる。
使用するエダラボン粒子の粒子径を変化させることにより、得られた製剤からのエダラボンの溶出速度を変化させることも可能である。具体的には、粒子径を小さくするほど、溶出が早くなる。例えば、エダラボン粒子が上記方法により得られたエダラボン原末の粉砕物である場合、D50粒子径を10μm~50μmの範囲内、かつD90粒子径を50μm~200μmの範囲内、好ましくはD50粒子径を20μm~40μmの範囲内、かつD90粒子径を70μm~150μm以下とすることにより、日本薬局方に従い溶出試験(試験液:第一液、第二液、0.05mol/L酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)など、パドル回転数:50rpm~75rpm)を実施した際、試験開始30分後のエダラボン溶出率が80%以上の製剤が得られるため、速やかな薬効を期待できる。
【0046】
本発明の懸濁剤は、各成分を配合した後、撹拌、振とう、超音波照射などの公知の混合方法を用いて均質な懸濁液を調製することができる。
好適な調製方法としては、例えば、分散剤を溶解させた水(分散剤溶液)にエダラボン粒子を均一に分散(懸濁)させる方法が挙げられる。この場合、分散剤溶液にエダラボン粒子を投入、エダラボン粒子に分散剤溶液を添加の何れも含まれる。
増粘剤、甘味剤などのその他の成分は、エダラボン粒子を分散させる前に予め分散剤溶液に添加しておいてもよく、エラダボン粒子を分散させる際に同時に添加してもよく、さらにはエダラボン粒子を分散した後に添加してもよい。また、これら成分の添加タイミングは成分ごとに異なっていてもよい。
【0047】
本発明の経口投与用懸濁剤は、エダラボン粒子を懸濁した状態で提供されることが投与時の操作が少なく好ましいが、エダラボン粒子と水を分離した用時調製用キットとして提供されてもよい。そのような形態としては、(A)エダラボン粒子を含む固形組成物、および(B)分散剤溶液を含むエダラボン懸濁剤調製用キットが挙げられる。用時調製用キットは、調製済みの懸濁剤に比べて、より長期間の保存安定性を望むことができる。
【0048】
(A)エダラボン粒子を含む固形組成物は、エダラボン粒子のみであってもよいし、他の成分との混合物であってもよい。エダラボン粒子は、前記懸濁剤調製に使用するものを使用しうる。さらに、エダラボン粒子を含む固形組成物は、既知の手法により造粒され、細粒、顆粒化されていてもよいし、圧縮成形され錠剤化されていてもよい。
(B)分散剤溶液にも、本発明で使用される分散剤のみならず、増粘剤、甘味剤など他の成分が添加されていてもよい。医療従事者が(A)および(B)を混合し、振盪することで本発明の懸濁剤が得られる。
【0049】
さらに、本発明の経口投与懸濁剤が水を添加するのみで用事調製できるような固形組成物、すなわちエダラボン粒子および分散剤を含む固形組成物の形態で提供されてもよい。当然ながら本固形組成物中には、増粘剤、甘味剤など本発明の懸濁剤で使用される他の成分が含まれていてもよく、さらに、本固形組成物は、既知の手法により造粒され、細粒、顆粒化されていてもよいし、圧縮成形され錠剤化されていてもよい。
本形態についても、医療従事者がエダラボン粒子および分散剤を含む固形組成物と水を混合し、振盪することで本発明の懸濁剤が得られる。
【0050】
本発明の懸濁剤は、WO2005/75434に記載され、かつ現在臨床の場においてエダラボン注射剤を用いたALS治療に使用されている間欠投与方法、すなわち投与期間、休薬期間を1単位としてこれを2回以上繰り返す投与方法によって投与される。投薬期間および休薬期間を2回以上繰り返すと、その最後は必ず休薬期間となるが、最後の休薬期間を設けることは必須ではない。すなわち、例えば投薬期間および休薬期間を2回繰り返す場合、「投薬期間、休薬期間、投薬期間、休薬期間」となるが、最後の休薬期間を設けない、「投薬期間、休薬期間、投薬期間」であってもよい。
【0051】
なお、休薬期間とは7日間以上連続して薬物投与を行わない期間のことであり、好ましくは14日間である。
投薬期間は、14日間、または14日間中の10日とすることができる。14日間中の10日とは、連続する14日間のうちの任意の10日という意味であり、この投薬される10日は、連続する10日間でもよいし、1日~4日間の投薬しない1回以上の期間で分断されている連続ではない10日間でもよい。投薬期間は、患者の状態を観察しながら好ましい期間を選択することができる。
より具体的には、14日間の初回投薬期間後に14日間の初回休薬期間を設け、その後、14日間中10日間の投薬期間および14日間の休薬期間を繰り返す方法があげられ、14日間中10日間の投薬期間および14日間の休薬期間を繰り返す回数は1回以上であれば特に限定されない。
【0052】
間欠投与の投薬期間における1日あたりの投与量は、患者の年齢や状態例えば、疾患の重篤度)などの条件に応じて適宜選択可能であり、一般的には成人に対して、エダラボンの投与量として60mg~400mg、好ましくは60mg~300mg、より好ましくは90mg~210mg、とりわけ好ましくは、90mg、100mg、105mg、180mg、200mgまたは210mgであり、さらに好ましくは、105mgまたは210mgであり、最も好ましくは105mgである。
【0053】
あるいは、本発明の懸濁剤は、投与期間中、毎日あるいはほぼ毎日繰り返し患者に投与されてもよい。1日あたりの投与量は、患者の年齢や状態例えば、疾患の重篤度)などの条件に応じて適宜選択可能であり、一般的には成人に対して、エダラボンの投与量として60mg~400mg、好ましくは60mg~300mg、より好ましくは90mg~210mg、とりわけ好ましくは、90mg、100mg、105mg、180mg、200mgまたは210mgであり、さらに好ましくは、105mgまたは210mgであり、最も好ましくは105mgである。
毎日投与、間欠投与の何れにおいても、1日あたりの投与回数に制限はなく、患者の状態を観察しながら好ましい回数を選択することができる。しかし、患者の負担などを考慮して、3回、2回および1回が好ましく、1回がより好ましい。
また、本発明の懸濁剤であれば、高含量のエダラボンを含有しうるため、上記投与量のエダラボンを少ない製剤服用量とすることができ、嚥下障害を有するALS患者にとって好都合である。例えば本発明の懸濁剤であれば、経口投与による一回あたりの製剤服用量が1~20mLであり、前記服用量中にエダラボンを50~210mg含有するALS治療剤の調製が可能である。
【0054】
さらに本発明の懸濁剤は、ALS以外にも、酸化ストレスの関与が報告されている疾患、例えばパーキンソン病、脊髄小脳変性症などの運動機能障害を伴う神経変性疾患、筋ジストロフィー等の筋疾患、アルツハイマー病などの認知機能障害を呈する脳内神経変性疾患、脳梗塞などの血管障害、多発性硬化症、全身性強皮症などの全身性炎症疾患、口内炎などの局所性炎症疾患にも使用しうる。
【実施例0055】
次に、実施例および試験例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0056】
実施例1
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)200mgを水200mLに溶解し、0.1%(w/v)ポリビニルアルコール水溶液を調製した。エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)100mgを前記ポリビニルアルコール水溶液10mLに分散させ、経口投与用エダラボン懸濁剤を得た。
【0057】
実施例2
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)200mgを水200mLに溶解し、得られたポリビニルアルコール水溶液にさらにキサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)1000mgを溶解させ、0.1%(w/v)ポリビニルアルコール/0.5%(w/v)キサンタンガム水溶液を調製した。エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)100mgを前記ポリビニルアルコール/キサンタンガム水溶液10mLに分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0058】
実施例3
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)200mgを水200mlに溶解し、得られたポリビニルアルコール水溶液にさらにトラガント末(鈴粉末薬品)1000mgを溶解させ、0.1%(w/v)ポリビニルアルコール/0.5%(w/v)トラガント末水溶液を調製した。エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)100mgを前記ポリビニルアルコール/トラガント末水溶液10mLに分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0059】
実施例4
メチルセルロース(信越化学、SM-25)200mgを水200mLに溶解し、0.1%(w/v)メチルセルロース水溶液を調製した。エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)100mgを前記メチルセルロース水溶液10mLに分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0060】
実施例5
メチルセルロース(信越化学、SM-25)200mgを水200mLに溶解し、得られたメチルセルロース水溶液にさらにキサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)1000mgを溶解させ、0.1%(w/v)メチルセルロース/0.5%(w/v)キサンタンガム水溶液を調製した。エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)100mgを前記メチルセルロース/キサンタンガム水溶液10mLに分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0061】
実施例6
メチルセルロース(信越化学、SM-25)200mgを水200mLに溶解し、得られたメチルセルロース水溶液にさらにトラガント末(鈴粉末薬品)1000mgを溶解させ、0.1%(w/v)メチルセルロース/0.5%(w/v)トラガント末水溶液を調製した。エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)100mgを前記メチルセルロース/トラガント末水溶液10mLに分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0062】
実施例7
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)200mgを水200mLに溶解し、得られたポリビニルアルコール水溶液にさらにカルメロースナトリウム(ダイセルファインケム、CMCダイセル1150)1600mgを溶解させ、0.1%(w/v)ポリビニルアルコール/0.5%(w/v)カルメロースナトリウム水溶液を調製した。エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)100mgを前記ポリビニルアルコール/カルメロースナトリウム水溶液10mLに分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0063】
実施例8
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)200mgを水200mLに溶解し、得られたポリビニルアルコール水溶液にさらにデキストリン(日澱化学、赤玉3号)160gを溶解させ、0.1%(w/v)ポリビニルアルコール/0.5%(w/v)デキストリン水溶液を調製した。エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)100mgを前記ポリビニルアルコール/デキストリン水溶液10mLに分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0064】
実施例9
メチルセルロース(信越化学、SM-25)200mgを水200mLに溶解し、得られたメチルセルロース水溶液にさらにカルメロースナトリウム(ダイセルファインケム、CMCダイセル1150)1600mgを溶解させ、0.1%(w/v)メチルセルロース/0.5%(w/v)カルメロースナトリウム水溶液を調製した。エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)100mgを前記メチルセルロース/カルメロースナトリウム水溶液10mLに分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0065】
実施例10
メチルセルロース(信越化学、SM-25)200mgを水200mLに溶解し、得られたメチルセルロース水溶液にさらにデキストリン(日澱化学、赤玉3号)160gを溶解させ、0.1%(w/v)メチルセルロース/0.5%(w/v)デキストリン水溶液を調製した。エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)100mgを前記メチルセルロース/デキストリン水溶液10mLに分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0066】
実施例11
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)40mg、シメチコンエマルジョン(Basildon、PD30S)20mgならびにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)800mgを体積が40mLになるように水に溶解・分散させ、経口投与用エダラボン懸濁剤を得た。
【0067】
実施例12
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)40mg、シメチコンエマルジョン(Basildon、PD30S)20mg、キサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)80mgならびにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)800mgを体積が40mLになるように水に溶解・分散させ、経口投与用エダラボン懸濁剤を得た。
【0068】
実施例13
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)40mg、シメチコンエマルジョン(Basildon、PD30S)20mg、キサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)120mgならびにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)800mgを体積が40mLになるように水に溶解・分散させ、経口投与用エダラボン懸濁剤を得た。
【0069】
実施例14
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)40mg、シメチコンエマルジョン(Basildon、PD30S)20mg、キサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)200mgならびにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)800mgを体積が40mLになるように水に溶解・分散させ、経口投与用エダラボン懸濁剤を得た。
【0070】
実施例15
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)40mg、シメチコンエマルジョン(Basildon、PD30S)20mg、D-ソルビトール4g、キサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)40mgならびにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)800mgを体積が40mLになるように水に溶解・分散させ、経口投与用エダラボン懸濁剤を得た。
【0071】
実施例16
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)40mg、シメチコンエマルジョン(Basildon、PD30S)20mg、D-ソルビトール4g、キサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)120mgならびにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)800mgを体積が40mLになるように水に溶解・分散させ、経口投与用エダラボン懸濁剤を得た。
【0072】
実施例17
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)40mg、シメチコンエマルジョン(Basildon、PD30S)20mg、D-ソルビトール4g、キサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)200mgならびにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)800mgを体積が40mLになるように水に溶解・分散させ、経口投与用エダラボン懸濁剤を得た。
【0073】
実施例18
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)40mg、亜硫酸水素ナトリウム40mg、L-システイン塩酸塩水和物20mg、シメチコンエマルジョン(Basildon、PD30S)20mg、D-ソルビトール4g、キサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)120mgならびにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)800mgを体積が40mLになるように水に溶解・分散させ、得られた懸濁液に水酸化ナトリウム、リン酸を適量添加してpHを4.20に調整し、エダラボン懸濁剤を得た。
【0074】
実施例19
安息香酸40mg、プロピルパラベン2mg、ブチルパラベン2mgをエタノール40mgに溶解し防腐剤溶液を調製した。ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)40mg、亜硫酸水素ナトリウム40mg、L-システイン塩酸塩水和物20mg、シメチコンエマルジョン(Basildon、PD30S)20mg、D-ソルビトール4g、キサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)120mgならびにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)800mgを体積が40mLになるように水に溶解・分散させ、その後、前期防腐剤溶液を添加した。得られた懸濁液に水酸化ナトリウム、リン酸を適量添加してpHを4.20に調整し、エダラボン懸濁剤を得た。
【0075】
実施例20
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)200mgを精製水200mLに溶解させ、0.1%(w/v)ポリビニルアルコール溶液を得た。前記ポリビニルアルコール溶液10mLにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)120mgを分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0076】
実施例21
実施例20で得た0.1%(w/v)ポリビニルアルコール溶液10mLにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)300mgを分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0077】
実施例22
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)200mg、キサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)1000mgを精製水200mLに溶解させ、0.1%(w/v)ポリビニルアルコール・0.5%(w/v)キサンタンガム溶液を得た。前記ポリビニルアルコール・キサンタンガム溶液10mLにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)300mgを分散させ、エダラボン懸濁剤を得た。
【0078】
実施例23
実施例19において、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)に替えて、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:19μm,D90:73μm)を用い、エダラボン懸濁剤を得た。
【0079】
実施例24
実施例19において、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)に替えて、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:32μm,D90:110μm)を用い、エダラボン懸濁剤を得た。
【0080】
実施例25
実施例19において、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)に替えて、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:44μm、D90:204μm)を用い、エダラボン懸濁剤を得た。
【0081】
実施例26
ポリビニルアルコール(日本合成化学、EG-05P)40mg、亜硫酸水素ナトリウム40mg、L-システイン塩酸塩水和物20mg、シメチコンエマルジョン(Basildon、PD30S)20mg、D-ソルビトール16g、キサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)120mgならびにエダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)840mgを体積が40mLになるように水に溶解・分散させ、得られた懸濁液に水酸化ナトリウム、リン酸を適量添加してpHを4.20に調整し、エダラボン懸濁剤を得た。
【0082】
実施例27
実施例26において、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)に替えて、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:17μm,D90:64μm)用い、エダラボン懸濁剤を得た。
【0083】
実施例28
実施例26において、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)に替えて、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:21μm,D90:79μm)用い、エダラボン懸濁剤を得た。
【0084】
実施例29
実施例26において、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)に替えて、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:31μm,D90:124μm)用い、エダラボン懸濁剤を得た。
【0085】
実施例30
実施例26において、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)に替えて、エダラボン粒子(エダラボン末、D50:46μm,D90:185μm)用い、エダラボン懸濁剤を得た。
【0086】
実施例31
実施例26において、キサンタンガム(三晶、KELTROL-CG)120mgに替えて、トラガント末(鈴粉末薬品)200mgを用い、エダラボン懸濁剤を得た。
【0087】
試験例1(分散剤の選択)
固体粒子を液中に分散し得る機能をもった物質として一般的に知られる下記表記載の製剤添加剤の0.1%(w/v)水溶液を室温にて調製した。
エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)3600mgに、上記各添加剤水溶液50mLを添加し、スターラーにて撹拌した。結果を以下の表に示す。
【表1】

上記表の結果により、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ショ糖脂肪酸エステル、ヒプロメロースのみがエダラボン粒子を好適に水中に分散し得ることがわかった。
【0088】
試験例2(透過散乱光強度試験)
固体粒子を液中に分散し得る機能をもった物質として一般的に知られる下記表記載の製剤添加剤の0.1%(w/v)水溶液を室温にて調製した。
エダラボン粒子(エダラボン末、D50:37μm,D90:143μm)840mgに、上記各添加剤水溶液40mLを添加してスターラーにて30分以上撹拌し、エダラボン粒子の分散状態を確認した。
さらに、上記で得られた分散液20mLをサンプルボトル(内径25mm×外径27.5mm×高さ72mm)に充填し、TURBISCAN Tower(Formulaction製)にて、サンプルボトル高さ39~40mmの透過散乱光強度ΔT%の測定を開始し(25℃設定)、測定開始後10分後の値を各添加剤の透過散乱光強度ΔT%とした。各添加剤の透過散乱光強度ΔT%と各添加剤溶液中のエダラボン粒子の分散状態を以下の表に示す。
【表2】

上記表の結果より、エダラボン粒子を好適に分散しうる分散剤は、1%以上の透過散乱光強度ΔT%を有していることがわかる。
【0089】
試験例3(接触角試験)
エダラボン原薬(D50:37μm,D90:143μm)120mgを単発打錠機(コンパクションアナライザー)で圧縮成型し(杵:直径8mm平杵、打錠圧:800kgf)、接触角測定用エダラボン錠を得た。
固体粒子を液中に分散し得る機能をもった物質として一般的に知られる下記表記載の製剤添加剤を0.1%(w/v)溶解させた飽和エダラボン水溶液を室温にて調製し、接触角測定装置(協和界面科学、CAX-150)にて上記で製造したエダラボン錠に対する接触角を測定した。結果を以下の表に示した。
使用シリンジ:ガラス、1mL
針:23ゲージ
液量:1μL
測定時間:3.1秒後
【表3】

上記結果および試験例1もしくは2の結果から、添加剤0.1%(w/v)を含む飽和エダラボン水溶液のエダラボン錠に対する接触角が80°以下を示す物質であれば、好適にエダラボンを水中に分散しうることがわかる。
【0090】
試験例4(安定性)
実施例1~10にて調製したエダラボン懸濁剤各5mLをガラス瓶に入れ密栓し、60℃下にて4週間保存した。4週間後、日本薬局方エダラボン注射液に記載されている純度試験 類縁物質(i)に従い、各懸濁剤中のエダラボン類縁物質量を測定した。結果を以下の表に示す。
【表4】

上記結果より、実施例1~10の何れにおいても、エダラボン類縁物質の生成は少量であったが、とりわけ増粘剤としてキサンタンガムもしくはトラガント末を使用した実施例1~6の懸濁剤において類縁物質の生成が少なかったことがわかる。
【0091】
試験例5(含量均一性試験)
実施例11~14で得たエダラボン懸濁剤(40mL)それぞれから、シリンジを用いて懸濁剤5mLずつ計7回抜き取り、抜き取った懸濁剤5mL中のエダラボン含有量を測定した。その結果を以下に示す(表中の値は、本来5mL中に含まれるエダラボン量100mgに対する相対値(%)である)。
【表5】

何れの懸濁剤においても含量均一性が確保されているが、とりわけ増粘剤を含む実施例12~14の懸濁剤の方がより好ましい含量均一性を示した。
【0092】
試験例6(再分散性試験)
実施例15~17で得られた懸濁剤を遠心分離機にかけ、4000gの重力を6.6時間加え、強制的にエダラボン粒子を沈降させた。遠心終了後、各懸濁剤を手で軽く振盪したところ、実施例15、16の懸濁剤は10秒以内、実施例17の製剤は40秒以内でエダラボン粒子が再分散された。なお、前記重力条件は、3年間保存した場合と等価である。
【0093】
試験例7(保存効力試験)
実施例18~19で得られた懸濁剤を用いて、日本薬局方に従い保存効力試験を実施した。実施例18の懸濁剤は保存剤を配合していないのにも関わらず、保存剤を配合した実施例19の懸濁剤と同等の保存効力作用を示した。
【表6】
【0094】
試験例8
実施例20、21、22で得たエダラボン懸濁剤(10mL)を、それぞれ絶食状態の健康成人男性6人ずつに経口投与した。投与前、投与0.25、0.5、1、1.5、2、4、6、8、12,24、36、48時間後に採血を行い、血漿中におけるエダラボン未変化体濃度を測定した。得られたPKプロファイルを以下の表に示す。
【表7】


実施例20(エダラボン120mg)のCmax、AUC0-24hは、Amyotroph Lateral Scler Frontotemporal Degener.2017;18(suppl 1):80-87.に記載されたエダラボン注射剤(60mg)のCmax(1049ng/mL)、AUC0-24h(1374h*ng/mL)を大きく上回り、本発明の懸濁剤が経口投与用製剤として優れたバイオアベイラビリティを有していることがわかる。
さらに、実施例21と22のPKプロファイルの比較から、増粘剤を添加することにより、被験者間のエダラボン血漿中濃度のばらつきが小さくなる、すなわち安定した薬効が期待できることがわかる。
【0095】
試験例9(1)(溶出試験)
実施例19、23、24、25にて調製した懸濁剤を、日本薬局方溶出試験法第二法(パドル法)に従い溶出試験を行った。
・溶出液:日本薬局方溶出試験第1液(pH1.2)もしくは第2液(pH6.8)、900ml
・測定方法:波長240nmにおける吸光度
・パドル回転数:50rpm
・サンプル数:n=3
試験開始30分後のエダラボンの溶出率および実施例19の製剤を標準製剤とした際の他の実施例との溶出挙動の類似性を後発医薬品の生物学的同等性ガイドラインに従い,15,30,45分を溶出率比較時点としたF2関数の計算結果を以下の表に示す。エダラボン懸濁剤を調製する際に使用したエダラボンの粒子径が小さいほど溶出が早く、エダラボン粒子の粒子径を変化させることにより、溶出速度を制御できることがわかる。一方で、F2関数の値から、第一液(pH1.2)においては、実施例23~25の製剤は実施例19の製剤と生物学的に同等の溶出挙動を示し、第二液(pH6.8)においては、実施例23、24の製剤が実施例19の製剤と生物学的に同等の溶出挙動を示した。
【0096】
【表8】


*F2関数値50以上が標準製剤と同等
【0097】
試験例9(2)(溶出試験)
実施例27~30にて調製した懸濁剤を、日本薬局方溶出試験法第二法(パドル法)に従い溶出試験を行った。
・溶出液:0.05mol/L酢酸・酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)、900ml・測定方法:波長240nmにおける吸光度
・パドル回転数:50rpm
・サンプル数:n=3
試験開始30分後のエダラボンの溶出率および実施例29の製剤を標準製剤とした際の他の実施例との溶出挙動の類似性を後発医薬品の生物学的同等性ガイドラインに従い,15,30,45分を溶出率比較時点としたF2関数の計算結果を以下の表に示す。エダラボン懸濁剤を調製する際に使用したエダラボンの粒子径が小さいほど溶出が早く、エダラボン粒子の粒子径を変化させることにより、溶出速度を制御できることがわかる。一方で、F2関数の値から、実施例27、28、30の製剤は実施例29の製剤と生物学的に同等の溶出挙動を示すことわかる。
【0098】
【表9】

*F2関数値50以上が標準製剤と同等
【0099】
試験例10(生物学的同等性試験)
実施例26で得られた懸濁剤について、エダラボン注射剤を対象薬として、日本人健康被験者42人にて、非盲検、単回投与、無作為クロスオーバー試験を実施した。
実施例26のエダラボン懸濁剤の投与は、懸濁剤の入ったガラス瓶を軽く振った後、経口投与用シリンジにて5mL(エダラボンとして105mg)を抜き取り、これを絶食状態の被験者に経口投与することにより行った。
エダラボン注射剤の投与は、エダラボン注射剤(ラジカット注)200mL(エダラボンとして60mg)を1時間かけて絶食状態の被験者に静脈注射することにより行った。
実施例26記載懸濁剤投与時、エダラボン注射剤投与時の血漿中エダラボン未変化体のPKプロファイルを以下の表および図1に示す。
【表10】

さらに、実施例26製剤のエダラボン注射剤に対する生物学的同等性評価結果を以下の表に示す。
【表11】

エダラボン注射剤投与時に対する実施例26製剤投与時のCmaxもしくはAUC0-∞の幾何平均値の比は、Cmax、AUC0-∞何れも0.8~1.25の範囲内であった。その幾何平均値の比の90%信頼区間は、AUC0-∞については0.8~1.25の範囲内であり、Cmaxについては、下限値が0.8~1.25の範囲内であったが、上限値が前記範囲を超える結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のエダラボン懸濁剤は、特に、ALS治療剤として有用であるから、本発明は産業上の利用可能性を有する。
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-05-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エダラボン粒子、分散剤、増粘剤および水を含み、該増粘剤が、キサンタンガムおよびトラガント末から選択される一種または二種である、ヒト経口投与用エダラボン懸濁剤。
【請求項2】
増粘剤がキサンタンガムである、請求項1記載の懸濁剤。
【請求項3】
増粘剤の配合量が0.1%(w/v)~1.2%(w/v)である、請求項1または2に記載の懸濁剤。
【請求項4】
分散剤が下記(i)~(ii):
(i)透過散乱光強度1%以上を示す、および
(ii)接触角80°以下を示す、
の少なくとも一つを満たす分散剤である、請求項1~3のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項5】
分散剤が、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒプロメロース、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリソルベートから選択される一種または二種以上である、請求項1~3のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項6】
分散剤が、ポリビニルアルコールおよびメチルセルロースから選択される一種または二種である、請求項5記載の懸濁剤。
【請求項7】
分散剤が、ポリビニルアルコールである、請求項5または6に記載の懸濁剤。
【請求項8】
ポリビニルアルコールが、ケン化度が86.5~89.0であり、かつ4%水溶液の20℃における動粘度が3mm/s~55.7mm/sである、請求項5~7のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項9】
分散剤の配合量が0.001%(w/v)~1.0%(w/v)である、請求項1~8のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項10】
エダラボン粒子の配合量が0.06%(w/v)~36%(w/v)である、請求項1~9のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項11】
さらに甘味剤、安定化剤およびpH調節剤から選択される1種以上の添加剤を含む、請求項1~10のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項12】
懸濁剤の粘度が、50mPa・s~1750mPa・sである請求項1~11のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項13】
懸濁剤の密度が、1g/mL~1.5g/mLである請求項1~12のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項14】
日本薬局方に従い溶出試験(試験液:第一液、パドル回転数:50rpm)を実施した際、試験開始30分後におけるエダラボンの溶出率が80%以上である請求項1~13のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項15】
ガラス瓶に入れ密栓し、60℃下にて4週間保存した後、日本薬局方エダラボン注射液の純度試験 類縁物質(i)に従い、懸濁剤中のエダラボン類縁物質量を測定した場合、類縁物質量が3%以下である、請求項1~14のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項16】
ヒトに経口投与した場合、Cmax値およびAUC 0-24h 値の少なくとも一方の変動係数(=(標準偏差(SD)/平均値)×100)が20%以下である、エダラボン血漿中濃度のばらつきが小さい請求項1~15のいずれかに記載の懸濁剤。
【請求項17】
(A)エダラボン粒子および増粘剤を含む固形組成物、および(B)分散剤溶液を含み、該増粘剤が、キサンタンガムおよびトラガント末から選択される一種または二種である、ヒト経口投与用エダラボン懸濁剤調製用キット。