(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087066
(43)【公開日】2023-06-22
(54)【発明の名称】検出システムおよび演奏操作装置
(51)【国際特許分類】
G10H 1/34 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
G10H1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076190
(22)【出願日】2023-05-02
(62)【分割の表示】P 2021558255の分割
【原出願日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2019209681
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金原 彰範
(72)【発明者】
【氏名】石井 潤
(57)【要約】
【課題】可動部材の変位を検出するためのシステムにおいてEMCを実現する。
【解決手段】検出システム20は、信号レベルが不連続に経時変化する第1信号rを生成する制御装置21と、第1信号rに含まれる高周波数成分を低減することで、信号レベルが連続的に経時変化する第2信号Rを生成するΠ型フィルタ23と、第2信号Rを利用して複数の鍵の各々の位置に応じた出力信号を生成する信号処理部22とを具備し、信号処理部22は、複数の鍵の各々に設けられた被検出部と、複数の鍵の各々に対応する検出回路とを有し、検出回路は、複数の鍵のうち当該検出回路に対応する鍵の位置に応じた出力信号を第2信号Rから生成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏動作に応じて変位する複数の可動部材の各々の位置を検出する検出システムにおいて、
信号レベルが不連続に経時変化する第1信号を生成する制御部と、
前記第1信号に含まれる高周波数成分を低減することで、信号レベルが連続的に経時変化する第2信号を生成する信号変換部と、
前記第2信号を利用して前記複数の可動部材の各々の位置に応じた出力信号を生成する信号処理部とを具備し、
前記信号処理部は、
前記複数の可動部材の各々に設けられた被検出部と、
前記複数の可動部材の各々に対応する検出回路とを有し、
前記検出回路は、前記複数の可動部材のうち当該検出回路に対応する可動部材の位置に応じた前記出力信号を前記第2信号から生成する
検出システム。
【請求項2】
前記被検出部は、第1コイルと第1容量素子とを具備する第1共振回路を含む
請求項1の検出システム。
【請求項3】
前記検出回路は、前記第1コイルに対向する第2コイルと、第2容量素子とを具備する第2共振回路を含む
請求項1または請求項2の検出システム。
【請求項4】
演奏動作に応じて変位する複数の可動部材と、
信号レベルが不連続に経時変化する第1信号を生成する制御部と、
前記第1信号に含まれる高周波数成分を低減することで、信号レベルが連続的に経時変化する第2信号を生成する信号変換部と、
前記第2信号を利用して前記複数の可動部材の各々の位置に応じた出力信号を生成する信号処理部とを具備し、
前記複数の可動部材の各々に設けられた被検出部と、
前記複数の可動部材の各々に対応する検出回路とを有し、
前記検出回路は、前記複数の可動部材のうち当該検出回路に対応する可動部材の位置に応じた前記出力信号を前記第2信号から生成する
演奏操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、可動部材の移動を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ピアノ等の鍵盤楽器における複数の鍵の変位を検出する技術が従来から提案されている。例えば特許文献1では、鍵盤楽器のフレームに設置されたコイル(第1のコイル)と、各鍵に設置されたコイル(第2のコイル)とを利用して、各鍵の位置を検出する構成が開示されている。この構成では、押鍵により第2のコイルが第1のコイルに近づくと、第1のコイルに供給される周期信号が変化することによって、鍵盤が押鍵されていることを示す検出信号が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術においては、第1のコイルに供給される周期信号は、不連続に信号レベルが変化する矩形波信号であり高周波数成分を含む。この高周波数成分は、伝導ノイズまたは輻射ノイズとなって鍵盤楽器の周囲に位置する他の電子楽器に影響を及ぼし、EMC(Electromagnetic Compatibility;電磁両立性)が確保されないおそれがある。
【0005】
以上の事情に鑑み、本開示のひとつの態様は、鍵等の可動部材の変位を検出するためのシステムにおいてEMCを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係る検出システムは、演奏動作に応じて変位する複数の可動部材の各々の位置を検出する検出システムにおいて、信号レベルが不連続に経時変化する第1信号を生成する制御部と、前記第1信号を信号レベルが連続的に経時変化する第2信号に変換する信号変換部と、前記第2信号を利用して前記複数の可動部材の各々の位置に応じた出力信号を生成する信号処理部とを具備する。
【0007】
本開示のひとつの態様に係る演奏操作装置は、演奏動作に応じて変位する複数の可動部材と、信号レベルが不連続に経時変化する第1信号を生成する制御部と、前記第1信号を信号レベルが連続的に経時変化する第2信号に変換する信号変換部と、前記第2信号を利用して前記複数の可動部材の各々の位置に応じた出力信号を生成する信号処理部とを具備する。
【0008】
本開示のひとつの態様に係る電子鍵盤楽器は、演奏動作に応じて変位する複数の鍵と、信号レベルが不連続に経時変化する第1信号を生成する制御部と、前記第1信号を信号レベルが連続的に経時変化する第2信号に変換する信号変換部と、前記第2信号を利用して前記複数の鍵の各々の位置に応じた出力信号を生成する信号処理部と、前記信号処理部が生成する出力信号に応じて音響信号を生成する音源回路とを具備する。
【0009】
本開示のひとつの態様に係る検出方法は、演奏動作に応じて変位する複数の可動部材の各々の位置を検出する検出方法において、信号レベルが不連続に経時変化する第1信号を生成し、前記第1信号を信号レベルが連続的に経時変化する第2信号に変換し、前記第2信号を利用して前記複数の可動部材の各々の位置に応じた出力信号を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態における鍵盤楽器の構成を例示するブロック図である。
【
図2】鍵盤楽器の構成を例示するブロック図である。
【
図6】制御装置が選択信号を供給するタイミングを示すタイミングチャートである。
【
図7】変形例における検出システムの回路図である。
【
図8】鍵盤楽器の打弦機構に上記検出システムを適用した構成の模式図である。
【
図9】鍵盤楽器のペダル機構に上記検出システムを適用した構成の模式図である。
【
図10】変形例における検出システムの部分的な構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A:実施形態
図1は、本開示の実施形態に係る鍵盤楽器100の構成例を示すブロック図である。鍵盤楽器100は、
図1に示すように、鍵盤10と検出システム20と音源回路30と放音装置40とを有する電子鍵盤楽器である。
【0012】
鍵盤10は、複数の白鍵と複数の黒鍵とを含む複数の鍵12で構成される。複数の鍵12の各々は、利用者による演奏動作に応じて変位する可動部材である。演奏動作は、利用者が楽器を演奏する動作であり、例えば各鍵12を操作する動作(すなわち演奏操作)を包含する。
【0013】
図2は、鍵盤10の1個の鍵12に着目して鍵盤楽器100の具体的な構成を例示するブロック図である。鍵盤10の各鍵12は、支点部(バランスピン)13を支点として支持部材14に支持される。支持部材14は、鍵盤楽器100の各要素を支持する構造体(フレーム)である。各鍵12の端部121は、利用者による押鍵および離鍵により鉛直方向に変位する。
【0014】
検出システム20は、各鍵12の位置を検出する。すなわち、検出システム20は、利用者による演奏動作(各鍵12に対する演奏操作)を検出する。検出システム20は、複数の鍵12の各々について、鉛直方向における端部121の位置Zを検出する。位置Zは、鍵12に荷重が作用しない解放状態における端部121の位置を基準とした当該端部121の変位量で表現される。
【0015】
図3は、検出システム20の電気的な構成例を示す回路図である。検出システム20は、
図3に示すように、制御装置21と信号処理部22とΠ型フィルタ23と整流器24とを有する。
【0016】
制御装置21は、鍵盤楽器100の各要素を制御する単数または複数のプロセッサで構成される。例えば、制御装置21は、CPU(Central Processing Unit)、SPU(Sound Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の1種類以上のプロセッサで構成される。
【0017】
制御装置21は、
図2に示すように、バスを介して記憶装置32および音源回路34に接続され、これらと共にコンピュータシステムを構成する。本実施形態では、制御装置21が、記憶装置32に記憶されたプログラムを実行することによって音源回路34の機能を実現してもよい。制御装置21は、「制御部」の一例である。
【0018】
記憶装置32は、制御装置21が実行するプログラムと制御装置21が使用するデータとを記憶する単数または複数のメモリである。記憶装置32は、例えば磁気記録媒体または半導体記録媒体等の公知の記録媒体で構成される。記憶装置32は、複数種の記録媒体の組合せにより構成されてもよい。また、記憶装置32は、鍵盤楽器100に着脱可能な可搬型の記憶媒体、または鍵盤楽器100と通信可能な外部記憶媒体(例えばオンラインストレージなど)であってもよい。
【0019】
制御装置21は、第1信号rをΠ型フィルタ23に出力する。第1信号rは、信号レベルが不連続に変動する電圧信号である。例えば、第1信号rは、ハイレベルとローレベルとの一方から他方に周期的に信号レベルが変化する矩形波信号である。第1信号rは、信号レベルが2値的に変化するデジタル信号とも表現される。
【0020】
Π型フィルタ23は、第1信号rを第2信号Rに変換するローパスフィルタである。Π型フィルタ23は、「信号変換部」の一例である。Π型フィルタ23は、
図3に示すように、複数のアナログデマルチプレクサ221と制御装置21とを接続する配線Lに設けられる。Π型フィルタ23により生成された第2信号Rは、配線Lに供給される。配線Lに供給された第2信号Rは、複数のアナログデマルチプレクサ221に並列に供給される。
【0021】
配線Lは、複数の鍵12にわたり(すなわち鍵盤10の一端から他端まで)延在する。従って、第1信号rが配線Lに供給された場合、配線Lから放射される電磁波による電磁ノイズが顕在化する。そこで、本実施形態のΠ型フィルタ23は、制御装置21から取得した第1信号rのうち遮断周波数より低い周波数成分を維持したまま、当該遮断周波数よりも高い周波数成分を低減させる。具体的には、第2信号Rは、信号レベルが連続的に変化するアナログ信号である。例えば、第2信号Rは、正弦波またはこれに類似する波形の電流信号または電圧信号である。以上のように高周波数成分が低減された第2信号Rが配線Lに供給される結果、高周波数成分が配線Lからノイズとして放射されることが抑制される。従って、配線Lから放射されたノイズが周囲の電子機器に影響を及ぼすことが抑制され、EMC(電磁両立性)が向上する。
【0022】
信号処理部22は、
図3に示すように、複数(M個)のアナログデマルチプレクサ221と複数(M個)のアナログマルチプレクサ222とを有する(Mは2以上の自然数)。本実施形態では、複数のアナログデマルチプレクサ221の各々に対して複数(N個)の共振回路60が接続される(Nは2以上の自然数)。例えば、鍵盤10が88個の鍵12を含む構成においては、8個(M=8)のアナログデマルチプレクサ221の各々に対して、11個(N=11)の共振回路60が接続される。
【0023】
各アナログデマルチプレクサ221は、複数の共振回路60の各々に第2信号Rを分配する分配器である。具体的には、各アナログデマルチプレクサ221は、N個の共振回路60の各々に対して第2信号Rを時分割で供給する。
図6は、制御装置21がアナログデマルチプレクサ221およびアナログマルチプレクサ222に供給する選択信号S1,S2を示すタイミングチャートである。
【0024】
選択信号S1は、M個のアナログデマルチプレクサ221のうちの何れかと、M個のアナログマルチプレクサ222のうちの何れかとを順番に指定する信号である。制御装置21は、第m番目(m=1~M)のアナログデマルチプレクサ221と、第m番目のアナログマルチプレクサ222とを並行に選択する。選択信号S2は、各アナログデマルチプレクサ221に対応するN個の共振回路60の何れかを順番に選択する信号である。
【0025】
制御装置21は、選択信号S1をM個のアナログデマルチプレクサ221に順次出力することによって、各アナログデマルチプレクサ221を選択期間U毎に順番に選択する。選択期間Uとは、第m番目のアナログデマルチプレクサ221と、第m番目のアナログマルチプレクサ222とが制御装置21により選択されている期間である。
【0026】
アナログデマルチプレクサ221は、制御装置21により選択されている選択期間U内において、選択信号S2に基づきN個の共振回路60の各々に対して時分割で第2信号Rを供給する。アナログマルチプレクサ222は、制御装置21による選択されている選択期間U内において、選択信号S2に基づきN個の共振回路60の各々から時分割で出力信号dを受信する。すなわち、第m番目のアナログデマルチプレクサ221がN個の共振回路60のうち第n番目(n=1~N)の共振回路60に第2信号Rを出力する動作と、第m番目のアナログマルチプレクサ222が第n番目の共振回路60から出力信号dを受信する動作とが並行に実行される。なお、第2信号Rの周期は、アナログデマルチプレクサ221が1個の共振回路60を選択する期間の時間長よりも充分に短い。
【0027】
信号処理部22は、
図2に示すように、被検出部50と共振回路60とを有する。被検出部50および共振回路60は、鍵12毎に設置される。
【0028】
図2に例示される通り、被検出部50は、鍵12に設置される。具体的には、被検出部50は、鍵12の底面122(以下「設置面」という)に設置される。被検出部50は、第1コイル51を有する。
【0029】
図4は、被検出部50の電気的な構成例を示す回路図である。被検出部50は、第1コイル51と容量素子52とを含む共振回路を構成する。第1コイル51の両端は、容量素子52の両端と相互に接続される。被検出部50の共振周波数と共振回路60の共振周波数は典型的には互いに共通するが、被検出部50の共振周波数と共振回路60の共振周波数とは鍵12毎またはオクターブ毎に異なっていてもよい。
【0030】
図2の共振回路60は、複数の鍵12が配列する方向に沿って支持部材14に複数設置される。各共振回路60は、第2コイル61を有する。共振回路60は、「検出回路」の一例である。
【0031】
第1コイル51および第2コイル61は、鉛直方向に間隔をあけて相互に対向する。被検出部50と共振回路60との間の距離(第1コイル51と第2コイル61との間の距離)は、鍵12における端部121の位置Zに応じて変化する。
【0032】
図5は、共振回路60の電気的な構成例を示す回路図である。共振回路60は、入力端子T1と出力端子T2と第2コイル61と容量素子62と容量素子63とを有する。第2コイル61は、入力端子T1と出力端子T2との間に接続される。容量素子62は、入力端子T1と接地線との間に接続される。容量素子63は、出力端子T2と接地線との間に接続される。
【0033】
第2信号Rは、
図5に示すように、共振回路60の入力端子T1に供給される。第2信号Rおよび第1信号rの周波数は、共振回路60および被検出部50の共振周波数と略同等である。第2信号Rに応じた電流が第2コイル61に供給されることで第2コイル61に磁界が発生する。第2コイル61に発生した磁界による電磁誘導で第1コイル51には誘導電流が発生する。従って、第2コイル61の磁界の変化を相殺する方向の磁界が第1コイル51に発生する。なお、第1信号rおよび第2信号Rの周波数を、共振回路60および被検出部の共振周波数と相違させてもよい。
【0034】
第1コイル51に発生する磁界は、第1コイル51と第2コイル61との距離に応じて変化する。従って、第1コイル51と第2コイル61との距離に応じた振幅δの出力信号dが共振回路60の出力端子T2から出力される。すなわち、出力信号dは、第2信号Rと同じ周期で信号レベルが変動する周期信号である。
【0035】
アナログマルチプレクサ222は、複数の共振回路60のうち第2信号Rを取得する共振回路60を選択するセレクタである。アナログマルチプレクサ222は、制御装置21により選択されている選択期間U内において、選択信号S2に基づき各共振回路60から時分割で出力信号dを取得する。以上の説明から理解される通り、
図3の信号処理部22は、複数の鍵12の各々について、当該鍵12に対応する第1コイル51と第2コイル61との間の距離に応じた信号レベルの出力信号dを生成する。
【0036】
整流器24は、制御装置21と、複数のアナログマルチプレクサ222とに接続される。整流器24は、アナログマルチプレクサ222から時分割で出力された出力信号dを、振幅δに対応する電圧値の直流電圧に変換し、変換後の直流電圧を制御装置21に出力する。整流器24は、例えば、ダイオードで構成される。なお、整流器24が出力信号dを整流する方法は特に限定されず、例えば半波整流や全波整流などその方法は問わない。
【0037】
制御装置21は、整流器24から取得した直流電圧をアナログからデジタルに変換し、変換後の信号を解析することによって各鍵の位置Zを特定する。制御装置21は、鍵12の位置Zに応じた楽音の発音を音源回路34に対して指示する。
【0038】
音源回路34は、検出システム20による検出の結果に応じた音響信号Vを生成する。音響信号Vは、利用者が操作した鍵12に対応する音高の楽音を表す信号である。具体的には、音源回路34は、制御装置21から指示された楽音を表す音響信号Vを生成する。すなわち、音源回路34は、各鍵の位置Zの時間的な変化応じた音響信号Vを生成する。例えば位置Zの変化の速度に応じて音響信号Vの音量が制御される。
【0039】
放音装置40は、音響信号Vが表す音響を放音する。放音装置40は、音源回路34から音響信号Vを取得することによって、利用者による演奏動作(各鍵12の押鍵または離鍵)に応じた楽音を放音する。例えばスピーカまたはヘッドホンが放音装置40として利用される。
【0040】
以上に説明したとおり、本実施形態においては、信号レベルが不連続に経時変化する第1信号rが、Π型フィルタ23によって、信号レベルが連続的に経時変化する第2信号Rに変換される。すなわち、第1信号rの高周波数成分がΠ型フィルタ23により低減されることによって第2信号Rが生成される。これにより、高周波数成分がノイズとなって周囲の電子機器に影響を及ぼすことが抑制され、EMC(電磁両立性)が向上する。
【0041】
また、本実施形態においては、アナログデマルチプレクサ221が複数の共振回路60の各々に第2信号Rを分配するので、複数の共振回路60に対して第2信号Rを並列に供給する構成よりも制御装置21の処理負荷が抑えられる。
【0042】
さらに、本実施形態においては、第1信号rを第2信号Rに変換するフィルタとしてΠ型フィルタ23が利用されるので、検出システム20の製造コストが抑えられ、当該システムを構成する際の容易性および汎用性が向上する。
【0043】
B:変形例
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく種々の変更を加え得る。前述の態様に付与され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0044】
(1)前述の形態においては、アナログデマルチプレクサ221とアナログマルチプレクサ222とが個別の回路として設置された構成を例示したが、アナログデマルチプレクサ221とアナログマルチプレクサ222とを一体的に構成してもよい。以下、検出システム20の具体的な態様を以下に例示する。
【0045】
図7は、変形例における検出システム20の電気的な構成例を示す回路図である。検出システム20は、複数(M個)の入出力部223を具備する。M個の入出力部223の各々は、アナログデマルチプレクサ221とアナログマルチプレクサ222とが一体的に構成された電子回路である。各入出力部223は、N個の共振回路60の各々に第2信号Rを時分割で供給し、N個の共振回路60の各々から出力信号dを時分割で取得する。なお、
図7においては、上述した態様と同様の構成については同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0046】
(2)前述の形態においては、鍵盤楽器100の鍵12の変位を検出する構成を例示したが、検出システム20により変位が検出される可動部材は鍵12に限定されない。可動部材の具体的な態様を以下に例示する。
【0047】
[態様A]
図8は、鍵盤楽器100の打弦機構91に検出システム20を適用した構成の模式図である。打弦機構91は、自然楽器のピアノと同様に、鍵盤10の各鍵12の変位に連動して弦(図示略)を打撃するアクション機構である。具体的には、打弦機構91は、回動により打弦可能なハンマ911と、鍵12の変位に連動してハンマ911を回動させる伝達機構912(例えばウィペン,ジャック,レペティションレバー等)とを、鍵12毎に具備する。以上の構成において、検出システム20は、ハンマ911の変位を検出する。具体的には、被検出部50がハンマ911(例えばハンマシャンク)に設置される。例えば、被検出部50を構成する配線基板54が、磁性体である固定部材71によりハンマ911に固定される。他方、共振回路60は支持部材913に設置される。支持部材913は、例えば打弦機構91を支持する構造体である。なお、本開示では、打弦機構91におけるハンマ911以外の部材に被検出部50を設置してもよい。
【0048】
[態様B]
図9は、鍵盤楽器100のペダル機構92に検出システム20を適用した構成の模式図である。ペダル機構92は、利用者が足で操作するペダル921と、ペダル921を支持する支持部材922と、鉛直方向の上方にペダル921を付勢する弾性体923とを具備する。以上の構成において、検出システム20はペダル921の変位を検出する。具体的には、被検出部50がペダル921の底面に設置される。すなわち、被検出部50を構成する配線基板54が、磁性体である固定部材71によりペダル921に固定される。他方、共振回路60は、被検出部50に対向するように支持部材922に設置される。なお、本開示では、ペダル機構92が利用される楽器は鍵盤楽器100に限定されない。例えば打楽器等の任意の楽器にも同様の構成のペダル機構92が利用される。
【0049】
以上の例示から理解される通り、検出システム20による検出の対象は、演奏動作に応じて変位する可動部材として包括的に表現される。可動部材は、利用者が直接的に操作する鍵12またはペダル921等の演奏操作子のほか、演奏操作子に対する操作に連動して変位するハンマ911等の構造体を含む。ただし、本開示における可動部材は、演奏動作に応じて変位する部材に限定されない。すなわち、可動部材は、変位を発生させる契機に関わらず、変位可能な部材として包括的に表現される。
【0050】
(3)前述の形態においては、鍵盤楽器100が音源回路34を具備する構成を例示したが、例えば鍵盤楽器100が打弦機構91等の発音機構を具備する構成においては、音源回路34を省略してもよい。検出システム20は、鍵盤楽器100の演奏内容を記録するために利用される。
【0051】
以上の説明から理解される通り、本開示は、音源回路34または発音機構に対して演奏動作に応じた操作信号を出力することで楽音を制御する装置(演奏操作装置)としても特定される。前述の各形態の例示のように音源回路34または発音機構を具備する楽器(鍵盤楽器100)のほか、音源回路34または発音機構を具備しない機器(例えばMIDIコントローラまたは前述のペダル機構92)が、演奏操作装置(instrument playing apparatus)の概念には包含される。すなわち、本開示における演奏操作装置は、演奏者(操作者)が演奏のために操作する装置として包括的に表現される。
【0052】
(4)前述の形態においては、複数のアナログデマルチプレクサ221の各々を択一的に選択したが、複数のアナログデマルチプレクサ221のうち2以上のアナログデマルチプレクサ221を並列に選択してもよい。
【0053】
図10は、変形例における検出システム20の部分的な構成図である。複数のアナログデマルチプレクサ221のうち奇数番目の各アナログデマルチプレクサ221には制御装置21から選択信号S1aが供給される。他方、複数のアナログデマルチプレクサ221のうち偶数番目の各アナログデマルチプレクサ221には選択信号S1bが供給される。選択信号S1aおよび選択信号S1bは、選択期間U毎にハイレベルおよびローレベルの一方から他方に変化する信号である。選択信号S1aと選択信号S1bとは相互に逆相の信号である。例えば選択信号S1aのレベルを反転回路70により反転することで選択信号S1bが生成される。
【0054】
選択信号S1aがハイレベルに設定される選択期間Uにおいては奇数番目の複数(M/2個)のアナログデマルチプレクサ221が並列に選択される。他方、選択信号S1bがハイレベルに設定される選択期間Uにおいては偶数番目の複数(M/2個)のアナログデマルチプレクサ221が並列に選択される。選択された各アナログデマルチプレクサ221が複数の共振回路60に第2信号Rを時分割で分配する動作は前述の形態と同様である。
【0055】
以上の説明においては複数のアナログデマルチプレクサ221に関する構成および動作を例示したが、複数のアナログマルチプレクサ222についても同様の構成および動作が採用される。具体的には、奇数番目の各アナログマルチプレクサ222に選択信号S1aが供給され、偶数番目の各アナログデマルチプレクサ221に選択信号S1bが供給される。
【0056】
(5)前述の形態において、Π型フィルタ23は、制御装置21から出力された第1信号rの高周波数成分を減衰させる。しかし、第1信号rの高周波数成分を減衰させるための構成はΠ型フィルタ23に限定されず、任意の構成のローパスフィルタが第1信号rを第2信号Rに変換するための信号変換部として利用されてもよい。第1信号rの処理に適用されるローパスフィルタとしては、多次ローパスフィルタまたはアクティブフィルタ等が例示され、例えばn型フィルタやT型フィルタ等が採用される。
【0057】
(6)前述の形態において、制御装置21から出力された信号は、配線Lを介して信号処理部22に出力される。制御装置21が信号処理部22に向かって信号を出力する際の伝送方式は任意である。例えば、相互に逆相の2系統の信号を伝送する差動伝送方式が採用されてもよい。差動伝送方式は、例えば、LVDS(Low voltage differential signaling)などである。
【0058】
(7)前述の形態において、制御装置21は、第1信号rを出力する。しかし、第1信号rの信号源は、制御装置21でなくてもよい。信号源が正弦波またはこれに類似する波形の第2信号Rを出力するものであれば、Π型フィルタ23は必要に応じて省略されてもよい。
【0059】
(8)前述の形態においては、鍵12の変位を検出する構成を例示した。しかし、本開示は、ペダルなどの他の可動部材の変位を検出する技術に適用されてもよく、本開示の用途は特に限定されない。
【0060】
(9)前述の形態においては、第2コイル61と被検出部50との距離が演奏動作に応じて変化する構成を例示したが、以上の構成に代えて、第2コイル61と被検出部50とが相互に対向する面積(以下「対向面積」という)が演奏動作に応じて変化する構成も想定される。すなわち、本開示においては、第2コイル61と被検出部50との距離または対向面積が演奏動作に応じて変化すればよい。
【0061】
C:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0062】
本開示のひとつの態様(態様1)に係る検出システムは、演奏動作に応じて変位する複数の可動部材の各々の位置を検出する検出システムにおいて、信号レベルが不連続に経時変化する第1信号を生成する制御部と、前記第1信号を信号レベルが連続的に経時変化する第2信号に変換する信号変換部と、前記第2信号を利用して前記複数の可動部材の各々の位置に応じた出力信号を生成する信号処理部と、を具備する。以上の構成によれば、信号レベルが不連続に経時変化する第1信号が、信号変換部によって、信号レベルが連続的に経時変化する第2信号に変換される。すなわち、第1信号の高周波数成分が信号変換部により低減されることによって第2信号が生成される。これにより、高周波数成分がノイズとなって周囲の電子機器に影響を及ぼすことが抑制され、EMC(電磁両立性)が向上する。
【0063】
態様1の具体例(態様2)において、前記信号処理部は、前記複数の可動部材の各々に設けられた被検出部と、前記第2信号から前記出力信号を生成する複数の検出回路と、を有する。
【0064】
態様2の具体例(態様3)において、前記検出回路は、前記被検出部に対向するコイルを有し、前記信号処理部は、前記被検出部と前記コイルとの間の距離に応じて、前記第2信号を変化させる。以上の態様によれば、可動部材とコイルとの間の距離に応じて、第2信号が変化する。すなわち、可動部材の変位量に応じて第2信号が変化するので、鍵盤の押鍵の有無が検出される。
【0065】
態様2または態様3の具体例(態様4)において、前記信号処理部は、前記複数の検出回路の各々に前記第2信号を分配する分配器をさらに有する。以上の態様では、第2信号が複数の検出回路の各々に分配されるので、複数の検出回路に対して第2信号を並列に供給する構成よりも制御部の処理負荷が抑えられる。
【0066】
態様4の具体例(態様5)において、前記分配器は、アナログデマルチプレクサである。
【0067】
態様2から態様5の何れかの具体例(態様6)において、前記信号処理部は、前記複数の検出回路のうち、前記出力信号を取得する検出回路を選択するセレクタをさらに有する。
【0068】
態様6の具体例(態様7)において、前記セレクタは、アナログマルチプレクサである。
【0069】
態様7の具体例(態様8)において、前記信号変換部は、Π型フィルタである。この態様によれば、信号変換部としてΠ型フィルタが採用されることによって、検出システムの設計コストが抑えられ、当該システムを構成する際の容易性および汎用性が向上する。
【0070】
態様1から態様8の何れかの具体例(態様9)において、前記第1信号は矩形波信号であり、前記第2信号は正弦波またはこれに類似する波形の信号である。
【0071】
本開示のひとつの態様(態様10)に係る演奏操作装置は、演奏動作に応じて変位する複数の可動部材と、信号レベルが不連続に経時変化する第1信号を生成する制御部と、前記第1信号を信号レベルが連続的に経時変化する第2信号に変換する信号変換部と、前記第2信号を利用して前記複数の可動部材の各々の位置に応じた出力信号を生成する信号処理部とを具備する。
【0072】
本開示のひとつの態様(態様11)に係る電子鍵盤楽器は、演奏動作に応じて変位する複数の鍵と、信号レベルが不連続に経時変化する第1信号を生成する制御部と、前記第1信号を信号レベルが連続的に経時変化する第2信号に変換する信号変換部と、前記第2信号を利用して前記複数の鍵の各々の位置に応じた出力信号を生成する信号処理部と、前記信号処理部が生成する出力信号に応じて音響信号を生成する音源回路とを具備する。
【0073】
本開示のひとつの態様(態様12)に係る検出方法は、演奏動作に応じて変位する複数の可動部材の各々の位置を検出する検出方法において、信号レベルが不連続に経時変化する第1信号を生成し、前記第1信号を信号レベルが連続的に経時変化する第2信号に変換し、前記第2信号を利用して前記複数の可動部材の各々の位置に応じた出力信号を生成する。
【符号の説明】
【0074】
100…鍵盤楽器(演奏操作装置)、10…鍵盤、12…鍵、20…検出システム、21…制御装置、22…信号処理部、23…Π型フィルタ、24…整流器、32…記憶装置、34…音源回路、40…放音装置、50…被検出部、51…第1コイル、52…容量素子、60…共振回路、61…第2コイル、62,63…容量素子、71…固定部材、91…打弦機構、92…ペダル機構、911…ハンマ、912…伝達機構、913…支持部材、921…ペダル、922…支持部材、923…弾性体。