(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008708
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】歪センサ付き金型
(51)【国際特許分類】
B21D 37/00 20060101AFI20230112BHJP
B21J 13/02 20060101ALN20230112BHJP
B21D 24/00 20060101ALN20230112BHJP
B21D 28/14 20060101ALN20230112BHJP
【FI】
B21D37/00 B
B21J13/02 Z
B21D24/00 H
B21D28/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021131475
(22)【出願日】2021-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】392017222
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 信彦
【テーマコード(参考)】
4E048
4E087
4E137
【Fターム(参考)】
4E048FA04
4E087AA10
4E087CA24
4E087EC17
4E087ED01
4E087EE02
4E087GA20
4E087GB01
4E137AA23
4E137BB01
4E137CA09
4E137EA01
4E137FA02
4E137FA12
(57)【要約】
【課題】 本発明は、簡単な歪センサを金型に装着して電気抵抗値を計測することにより歪値を計算し、金型が破損する前に歪値により金型寿命を予知できる歪みセンサ付き金型を提供することを課題とする。
【解決手段】 上記課題を解決するため本発明による歪センサ付き金型は、金属プレス成形に使用する金型の空洞部のほぼ全周にわたり、不導体層が帯状に形成され、前記不導体層上に前記不導体層より狭い幅で抵抗線素材層が形成され、さらに前記抵抗線素材層上に前記抵抗線素材層より広い幅で再度不導体層が形成されており、前記抵抗線素材層の両端部が歪測定手段に接続されていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属プレス成形に使用する金型の空洞部のほぼ全周にわたり、不導体層が帯状に形成され、前記不導体層上に前記不導体層より狭い幅で抵抗線素材層が形成され、さらに前記抵抗線素材層上に前記抵抗線素材層より広い幅で再度不導体層が形成されており、前記抵抗線素材層の両端部が歪測定手段に接続されていることを特徴とする歪センサ付き金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造・絞り・打抜き等のプレス成形に使用する金型の寿命を予知できる歪センサ付き金型に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を鍛造・絞り・打抜き等の加工により成形するための装置としてプレス機がある。これらのプレス機では、金属を成形するために金型を使用する。例えば鍛造装置において金型の精度チェックや再研磨等の金型工具メンテナンスサイクルは、加工現場に蓄積された経験から決定されており、一般的には加工ショット数でメンテナンス時期を管理することが多い。加工負荷の高い鍛造加工では、割れやチッピングなどの工具破損が発生することがある。破損のタイミングは数ショットから数十万ショットまで様々である。1つのダイセットに複数のプレス工程が含まれる順送金型において工具破損が発生し、そのまま加工が継続されてしまった場合、他の工程への影響が大きいため、工具破損を検知したら瞬時に加工を停止する必要がある。実際に工具がどれだけの耐久性を有するのか、破損までの寿命を予測することが困難であり、簡便な手法で寿命を予測或いは検知できる方法の開発が望まれている。
【0003】
例えば特許文献1においては、金型に対する攻撃的要素である機械的負荷を算出する機械的負荷演算手段と、金型に対する強度劣化要素である繰り返し加えられる高温による熱的劣化強度を算出する熱的劣化強度演算手段と、前記算出された機械的負荷と前記算出された熱的劣化強度の関数である摩耗量算出式を演算して予測摩耗量を算出する摩耗量演算手段を有することを特徴とする金型摩耗量予測装置が示されている。この装置では複雑な演算を行なうためコンピュータが必要となり、高価となるという問題点がある。
【0004】
また特許文献2には、寿命管理本体と、該本体に着脱可能に取り付けられ圧造成形機における圧造金型、ダイセット、圧造治工具等の圧造用部品の圧造数を表示する圧造数表示器とからなり、寿命管理本体は上記圧造用部品の名称とその予測命数とを明記した表示板と、圧造用部品の予測命数に対応して設けられる圧造数表示器の装着部と、圧造成形機の圧造動作時、その圧造動作検出信号を受信する受信回路とを備える一方、圧造数表示器は圧造数を表示する圧造数表示部と、寿命管理本体の装着部への取付手段と、圧造数表示器の寿命管理本体への装着により上記受信回路に接続され、受信回路への圧造動作検出信号の入力により上記表示部に自動的に圧造数を加算入力するカウント回路と、圧造数表示器を寿命管理本体から取り外し圧造金型、ダイセット、圧造治工具等の圧造用部品に着脱可能に取り付ける取付手段とを備えていることを特徴とする圧造用部品の寿命管理装置が開示されている。この装置では構造が複雑であるばかりか、基本的に圧造数のカウントにより金型寿命を管理するので、鍛造装置のように金型寿命が必ずしもショット数により予測できない場合は、使用が困難であるという問題点がある。
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-321032号公報
【特許文献2】実用新案登録3137672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の問題点に鑑みて、簡単な歪センサを金型に装着して電気抵抗値を計測することにより歪を計算し、金型が破損する前に歪値により金型寿命を予知できる歪みセンサ付き金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明による歪センサ付き金型は、金属プレス成形に使用する金型の空洞部のほぼ全周にわたり、不導体層が帯状に形成され、前記不導体層上に前記不導体層より狭い幅で抵抗線素材層が形成され、さらに前記抵抗線素材層上に前記抵抗線素材層より広い幅で再度不導体層が形成されており、前記抵抗線素材層の両端部が歪測定手段に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明による歪センサ付き金型では、金型の空洞部周囲に金型本体とは絶縁された抵抗線素材層を形成し、この抵抗線素材層の抵抗値を測定することにより、金型が破損する前に歪値が変化し、金型の破損を予知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例0009】
以下、実施例に基づいて本発明の好適な実施態様について説明する。
図1に本発明による鍛造加工用金型の実施例の模式断面図を示した。(a)は加工前、(b)は加工時の模式図である。(a)においては、バッキングプレート30の上にダイプレート11が配置され、ダイプレート11の中央部には鍛造加工の形状にくり抜かれた空洞部12を有するダイ(金型)10がはめ込まれている。このダイ10の側面周囲にほぼ1周にわたりセンサ部20を形成してある。空洞部12内の底部には、カウンタ31が配置され、被加工部材40はカウンタ31の上に置かれる。空洞部12上方にはパンチ1が配置される。(b)は、パンチ1が下降した際の状況を示している。パンチ1がダイ10の空洞部12内に下降することにより、パンチ1とダイ10との間に形成されたクリアランスに沿って被加工部材40が成形される。パンチ1は下死点まで下降した後、再び上昇する。その際、カウンタ31も遅れて上昇し、成形した被加工部材40を空洞部12から排出する。
【0010】
歪センサ部20を備えたダイ10の側面断面図を
図2に示した。不導体層22により周囲を囲まれた抵抗線素材層21からなる歪センサ部20がダイ10の側面に形成されている。
図1及び
図2には示してないが、抵抗線素材層21はダイ10の側面ほぼ1周にわたって形成されており、抵抗線素材層21の両端部から導線を引き出して電気抵抗測定手段に接続されている。ダイ10は一般的に超硬合金やハイス鋼で製作されることが多く、これらは導体であるため、抵抗線素材層21は工具本体と絶縁するために不導体層22を設けてある。
【0011】
鍛造加工中にはダイ10が弾性領域内で大きな応力を受ける。最終的にダイ10は破損することがあるが、その前にダイ内部での歪が大きくなる。ダイが破損する際の歪値があらかじめわかっていれば、ダイの破損を予知することが可能となる。従って、ダイ10に歪センサ部20を取付け電気抵抗値を測定してその値から歪値を計算し、最大許容歪値と比較することにより、ダイの破損を事前に予知することができる。ダイの歪値の変化を知ることができれば、予防保全によりダイの破壊を防止することにも役立てることができる。歪値の計算は抵抗線素材の種類や温度などから既知の手段により計算することができ、最大許容歪値は、ダイの種類及び実験等により事前に決定することが可能である。
【0012】
上記実施例に用いたダイプレート11とダイ10の斜視図を
図3に示した。ここに示した歪センサ部20の形成方法について説明する。
図4にその過程を示した。▲1▼ダイ10の側面周囲に、研削などにより溝を形成する。溝の幅は2mm程度とし、溝の壁面は45度程度の斜面とする。▲2▼溶射により溝内に、まず不導体層を形成し、続いて抵抗線素材層を形成する。それぞれの層の厚さは50~100μmとする。▲3▼研削により、溝の表面より少し下がった部分まで抵抗線素材層と不導体層を除去する。▲4▼再び溶射により、溝内に不導体層を形成する。▲5▼最後に、研削などにより溝の表面を工具本体の表面と同一となるよう不導体層の一部を除去する。不導体層としては、アルミナなどのセラミクスなどが使用できる。抵抗線素材層としては、コンスタンタン、ニクロム、マンガニンなどが使用可能であり、溶射以外の方法として、スパッタやコールドスプレーなど既知の方法が利用できる。また、上記実施例ではセンサ部を金型側面に配置したが、空洞部の周囲であればその位置は問わない。
【0013】
図5は、絞り加工用の金型に本発明による金型寿命センサを適用した実施例を示す。基本的な部品の構成は
図1の鍛造加工の場合と同じであるが、絞り加工の場合カウンタ31が加工前にダイ10表面と同一面に配置される。被加工部材40はダイ10の表面上に置かれる。この加工では、パンチ1が下降し被加工部材40の表面に接触した後は、成形される被加工部材40を支える形でカウンタ31も下降する。パンチ1とダイ10との間に形成されたクリアランスに沿って被加工部材40が成形される点は、鍛造加工と同様である。
【0014】
図6は、打抜き加工用の金型に本発明による金型寿命センサを適用した実施例を示す。基本的な部品の構成は
図5に示した絞り加工の場合と同じであり、被加工部材40はダイ10の表面上に置かれる。異なる点は、ダイ10から連続するバッキングプレート30にも空洞部12が設けられており、カウンタ31が存在しないことである。パンチ1が下降しダイ10の空洞部12に侵入する際に、被加工部材40を切り取りそのまま空洞部12内に押し込む。パンチ1が上昇した後、被加工部材40は搬送され新たな表面がダイ10の上に置かれる。この動作の繰り返しにより、連続的な打抜きが行なわれる。
以上述べたように、本発明による歪センサ付き金型では、金型側面周囲にほぼ1周にわたり金型本体とは絶縁された歪みセンサ部を形成し、この歪みセンサ部の電気抵抗値を測定して歪値を計算し、金型が破損する前に歪値が変化することによって、金型の破損を予知することができる。歪みセンサ部は導線引き出しのため両端部は若干の距離が必要となる。