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  • 特開-エンジンの運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087161
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】エンジンの運転方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/08 20060101AFI20230616BHJP
   F02B 43/10 20060101ALI20230616BHJP
   F02D 23/02 20060101ALI20230616BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20230616BHJP
   F02M 25/10 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
F02D19/08 C
F02B43/10 Z
F02D23/02 K
F02D45/00 364
F02M25/10 B
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201386
(22)【出願日】2021-12-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】519375262
【氏名又は名称】株式会社HIT研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】原田 努
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅則
【テーマコード(参考)】
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AB09
3G092AB19
3G092AC10
3G092BA03
3G092BB01
3G092BB20
3G092HA11Z
3G092HB01Z
3G092HD04Z
3G384DA14
(57)【要約】
【課題】 シリンダ内でアンモニアガスと空気との混合が促進されるエンジンの運転方法を提供する。
【解決手段】
燃料ガスとともにシリンダ内に同時に供給された水素ガスは、アンモニアガスの着火とともに着火する。そして、水素ガスの火炎伝播速度(火炎面の相対移動速度)はアンモニアガスと比べて極めて速いため、水素ガスの火炎面の移動によってシリンダ内でアンモニアガスと空気との混合が助長され、アンモニアガスの完全燃焼が促進される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアガスを燃料として使用するエンジンの運転方法であって、前記エンジンはエンジン回転数を一定範囲に保持するためのガバナーと、アンモニアガス中への水素ガスの供給を調整する調整バルブとを備え、前記ガバナーからのエンジンにかかる負荷に対応する信号を制御装置に送り、この制御装置から前記調整バルブに、エンジンにかかる負荷に対応し且つ供給されるアンモニアガスに対する割合が爆発限界以下となる量の水素を供給する開度となる信号を送ることを特徴とするエンジンの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを燃料とするエンジンの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IMO(国際海事機関)は、2050年のCO総排出量を2008年比で半減させる目標を掲げている。
これに呼応し、燃料を重油から液化天然ガス(LNG)に切り替えた船舶が使用され始めている。しかしながら、液化天然ガス(LNG)を使用してもCOの排出量は重油と比べて25%程度しか削減できない。
そこで、燃焼してもCOを発生しないアンモニア(NH)を用いる提案がいくつかなされている。
【0003】
特許文献1には、エンジンの燃焼室を主燃焼室と副燃焼室に分け、アンモニアを分解して得られた窒素ガスと水素ガスを、分解ガスに含まれる水素の当量比が所定の下限値以上となるように調節した後に副燃焼室に供給し、燃料過剰条件下で点火して燃焼させ、未燃水素の混じる過濃燃焼ガスを噴出孔から噴流トーチ火炎として主燃焼室に噴出させ、噴流トーチ火炎による未燃水素の燃焼により主燃焼室に供給されたアンモニアと空気の予混合気体に点火して燃焼させる内容が開示されている。
【0004】
特許文献2には、船舶からの温室効果ガス排出規制に対応できるようにするため、燃焼反応時に窒素と水だけ生成されるアンモニアを燃料として用いるための、アンモニア貯蔵タンクから液体状態のアンモニアをメインエンジンに、気体状態のアンモニアをサブエンジンへ供給する回路が開示されている。
【0005】
特許文献3には、排気再循(EGR)装置として、EGRガスをアンモニア噴出部から噴出する液状アンモニアの気化熱により冷却した後、吸気路内の吸気へと環流し、コンプレッサにより加圧して燃焼室に掃気として供給する内容が記載されている。
【0006】
非特許文献1には、船舶用SCRシステムについての記載がなされている。具体的にはIMOによるNO排出規制が2016年には80%削減になること、また、SCRシステムの説明として、触媒の上流側に尿素水を吹き込み、この尿素水を排ガスの熱でアンモニアに分解し、更に触媒反応によってNOとアンモニアは無害な窒素と水に変換されるが、触媒で反応しきれないアンモニアや余剰アンモニア(アンモニアスリップ)は大気に放出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-161921号公報
【特許文献2】実用新案登録第3234399号公報
【特許文献3】特開2012-145007号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「海上技術安全研究所における船舶用SCRシステムに関する研究」海上技術安全研究所報告 第11巻 第2号 平成23年度基礎論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3には、温室効果ガス排出規制に対応するためアンモニア燃料を用いることは提案しているが、燃焼時に必ず発生するアンモニアスリップ(未燃アンモニア)についての対処について記載されていない。
【0010】
一方、非特許文献1ではアンモニアスリップが発生することは認めた上で、大気に放出するとしている。アンモニアは極めて刺激性の強い毒性ガスであり、そのまま大気に放出するのはエネルギー効率のみならず環境衛生上も好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため本発明に係るエンジンンの運転方法は、エンジンの回転数を一定範囲に収めるために設けたガバナーから制御装置にエンジンンの回転数に対応する信号を送り、この信号を受けた制御装置から燃料としてのアンモニアガス供給ラインに設けた調整バルブに対し、爆発限界以下の範囲で且つエンジンにかかる負荷に対応した量の水素ガスを供給する開度となる信号を送るようにした。
【0012】
前記水素ガスの供給源は、水素ボンベ、水素吸蔵合金ボンベ或いは水の電気分解装置など任意である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アンモニアガスエンジンの完全燃焼を助長し、排ガス中に含まれるアンモニアスリップを大幅に削減することができ、結果として温暖化対策に有効なエンジンンの運転方法を提供できる。
【0014】
エンジンの回転数を水素ガスの添加量に適用するには、ガバナーではなくエンジンの回転数を直接測定することも考えられる。しかしながら、ガバナーは、エンジンにかかる負荷に応じて供給するガス燃料の量をコントロールしてエンジンの回転数を一定範囲に収めるものであり、同じ回転数でもエンジンに供給されるガス燃料の量は同じではない。この意味で、ガバナーの代わりに、エンジン出力計を使用する事も可能である。
【0015】
即ち、エンジンにかかる負荷が大きいときに同じ回転数を維持するには、より多くの燃料を供給する必要がある。そして、排気ガス中の未燃分の量は供給された燃料の量に比例するため、エンジンンの回転数を直接測定し、これに基づいて水素ガスの添加量を決めるのは、ガバナーからの信号に基づいて制御するよりも正確性に欠ける。
したがって、本願発明による運転方法は実際の運転に則した方法と言える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る運転方法の全体構成を示す図
図2】排ガス中の未燃焼成分を検出して制御するシステムの構成図
図3】未燃焼成分の自動解消アルゴリズム
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
ガスエンジン1と液体アンモニア貯蔵タンク2との間には、アンモニアガスを供給する供給ライン3が設けられている。
【0018】
ガスエンジン1にはガバナー4が付設され、このガバナー4によってエンジンの駆動軸にかかる負荷を検出し、エンジンの負荷に応じた信号が制御装置5に送られる。
【0019】
制御装置5はエンジンの駆動軸にかかる負荷に応じた信号を供給ライン3に設けたバルブ6に送り、エンジン1に供給されるアンモニアガスの量を調整する。例えば、エンジンの駆動軸にかかる負荷が大きくなった場合には供給するアンモニアガスを多くしてエンジンの回転数を一定範囲に保つ。同様に、駆動軸にかかる負荷が小さくなった場合には供給するアンモニアガスを少なくする。
【0020】
また、バルブ6よりも下流側の供給ライン3には水素ガス源7からの水素を燃料ガスに添加するためのバルブ8を設けている。このバルブ8にも前記制御装置5からの開度を調整する信号が送られる。
【0021】
前記バルブ8を介して燃料ガスに添加される水素ガスの量は、燃料ガスの容量に対して爆発限界値未満でエンジンにかかる負荷に対応した量とする。爆発限界値未満としたのは、本発明では水素ガスは燃料として機能するのではなく燃焼空間を攪拌する手段として機能するためである
【0022】
前記バルブ6を設ける箇所は供給ライン3に限らず、例えば、エンジンのシリンダの周囲に水素ガスの噴射弁を設け、この噴射弁に供給する水素の量を調整する位置にバルブを設けてもよい。
【0023】
以上において、ガスエンジンのシリンダ内に供給されたアンモニアガスは、着火装置により着火燃焼し体積を急激に膨張することでピストンを押し下げクランクを介して駆動軸を回転せしめる。
【0024】
この時、燃料ガスとともにシリンダ内に同時に供給された水素ガスは、アンモニアガスの着火とともに着火する。そして、水素ガスの火炎伝播速度(火炎面の相対移動速度)は他のガスと比べて極めて速いため、水素ガスの火炎面の移動によってシリンダ内で燃料ガスと空気との混合が助長され、燃料ガスの完全燃焼が促進される。
【0025】
図3及び図4は別実施例を示すものであり、この実施例では排ガス中のアンモニアスリップをセンサで検出し、検出した未燃アンモニア(アンモニアスリップ)の量に基づいて水素供給量を調整する。
【0026】
以下に、別実施例の内容を説明する。
この実施例では、必要最小限の水素量で、アンモニアガスエンジンにおける不完全燃焼を解決する自動制御方法を示す。水素の爆発限界は空気量に対する割合で決まる。即ち、単位時間にエンジンに取り込まれる空気量と同じ時間で投入される水素量の比が爆発限界値以下でアンモニアガスを完全燃焼させる最小の水素量となるよう自動制御するものである。
【0027】
このシステムの構成は、エンジンの排ガス中の未燃ガス(アンモニアスリップ)を測定する検出器と、この検出器の値に基づき効果のある最小水素量を求める制御器、および、制御器からの指令に基づき水素ガスをエンジンンに送る供給装置からなる。
【0028】
制御の内容は、先ず。制御の開始にあたり、エンジンの運転条件に合わせ水素の投入量(Qh)を決め、供給装置を始動する。エンジンの運転条件が安定した状態で、排ガス中の燃料の未燃分の有無を確認し、未燃分が零であれば、水素投入量を一定量(ΔQh)減ずる。その結果、未燃分(Qm)零が続けば、水素投入量低減を維持し、未燃分が発生したとき、その時の水素量(Qh)に未燃分量に比例する水素量(KQm)を加えて供給する。この制御を、エンジン運転中、継続して行う。
【符号の説明】
【0029】
1…ガスエンジン、2…液体アンモニアタンク、3…アンモニア供給ライン、4…ガバナー、5…制御装置、6…バルブ、7…水素ガス源、8…バルブ。


図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-03-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアガスを燃料として使用するエンジンの運転方法であって、前記エンジンはエンジン回転数を一定範囲に保持するためのガバナーと、アンモニアガス中への水素ガスの供給を調整する調整バルブとを備え、制御開始時は前記ガバナーからのエンジンにかかる負荷に対応する信号を制御装置に送り、この制御装置から前記調整バルブに、エンジンにかかる負荷に対応し且つ供給されるアンモニアガスに対する割合が爆発限界以下となる量の水素を供給する開度となる信号を送り、エンジンの運転状態が安定した後は、排ガス中の未燃アンモニアの有無を検出し、未燃分が零であれば水素投入量を減じ、未燃分が発生していれば未燃分に比例した量の水素を投入することを特徴とするエンジンの運転方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
図2及び図3は別実施例を示すものであり、この実施例では排ガス中のアンモニアスリップをセンサで検出し、検出した未燃アンモニア(アンモニアスリップ)の量に基づいて水素供給量を調整する。