(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087170
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/08 20060101AFI20230616BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20230616BHJP
F16M 5/00 20060101ALI20230616BHJP
F16M 7/00 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
F16F15/08 M
F16F15/04 H
F16M5/00 D
F16M7/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201400
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000201869
【氏名又は名称】倉敷化工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 慶太
(72)【発明者】
【氏名】山元 大地
(72)【発明者】
【氏名】加茂 寿章
(72)【発明者】
【氏名】吉川 星高
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BA21
3J048BB04
3J048CB05
3J048DA07
3J048EA30
(57)【要約】
【課題】変位制限部により、バネ特性に影響を与えないようにしつつ、防振装置の耐久性及び変位制限力を高くする。
【解決手段】車体及び排気管間に取り付けられる、ハンガーラバーHRであって、車体に取り付けられる第1取付部1aが設けられた第1基部1と、第1基部1から縦方向に離れて設けられ、排気管に取り付けられる第2取付部2aが設けられた第2基部2と、第1基部1及び第2基部2を互いに連結する一対の連結部3,4と、第1取付部1a及び第2取付部2aを囲み、支持体及び被支持体に取り付けられた両取付部1a,2aが互いに離れる方向に変位できる範囲を制限する、環状の変位制限部5とを備える。変位制限部5が配置された領域は、一対の連結部3,4よりも横方向内側であり、変位制限部5と一対の連結部3,4との間には、それぞれ第1空間SP1が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体及び被支持体間に取り付けられる、弾性又は粘弾性を有する防振装置であって、
前記支持体に取り付けられる第1取付部が設けられた第1基部と、
前記第1取付部から縦方向に離れて設けられ、前記被支持体に取り付けられる第2取付部が設けられた第2基部と、
前記第1基部及び前記第2基部を互いに連結する一対の連結部であって、
前記第1取付部及び前記第2取付部の横方向位置よりも横方向一方側に設けられた第1連結部と、
前記第1連結部から横方向他方側に離れて設けられ、前記第1取付部及び前記第2取付部の横方向位置よりも横方向他方側に設けられた第2連結部と
を含む一対の連結部と、
前記第1取付部及び前記第2取付部を囲み、前記支持体及び前記被支持体に取り付けられた両取付部が互いに離れる方向に変位できる範囲を制限する、環状の変位制限部と
を備え、
前記変位制限部が配置された領域は、前記一対の連結部よりも横方向内側であり、
前記変位制限部と前記第1連結部との間、及び前記変位制限部と前記第2連結部との間には、それぞれ第1空間が設けられている、
防振装置。
【請求項2】
請求項1記載の防振装置において、
前記変位制限部の内周側には、第2空間が設けられている、防振装置。
【請求項3】
請求項2記載の防振装置において、
前記防振装置は、横方向の一方側と他方側とが、互いに対称に形成されており、
前記一対の連結部は、
前記第1基部に接続され、縦方向において前記第2基部側にいくに従い横方向中央部から遠ざかって延びる第1部と、
前記第1部の前記第2基部側に接続され、縦方向において前記第2基部側にいくに従い横方向中央部に近づいて延び、前記第2基部に接続された第2部と
を含み、
前記変位制限部は、
前記第1取付部の周囲から前記第2取付部側に延び、縦方向において前記第2取付部側にいくに従い横方向中央部から遠ざかって延びる第1制限部と、
前記第1制限部の前記第2取付部側に接続され、縦方向において前記第2取付部にいくに従い横方向中央部に近づき、前記第2取付部の周囲まで延びる第2制限部と
を含み、
前記第1空間の縦方向に沿った長さL1を、前記第2空間の縦方向に沿った長さL2で割った比L1/L2は、1.2以上1.5以下である、防振装置。
【請求項4】
請求項3記載の防振装置において、
前記第1空間の縦方向に沿った長さL1を、前記第2空間の縦方向に沿った長さL2で引いた差L1-L2は、5.6mm以上9.2mm以下である、防振装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載の防振装置において、
前記変位制限部は、前記第1制限部及び前記第2制限部から構成され、
前記一対の連結部の各々の長さL3を、前記変位制限部の半周の長さL0で割った比L3/L0は、0.4以上0.6以下である、防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、略円板状ゴム弾性部材の中央部に、横長空間部と該横長空間部の両端に設けた縦長空間部とからなるH字形空間部を有し、該H字形空間部の前記横長空間部の両側に取付孔(取付部)を有してなる自動車用排気管防振支持具(防振装置)が開示されている。略円板状ゴム弾性部材の全周縁部には繊維コード(変位制限部)を埋設してなるベルト状ゴム弾性拘束部材が埋設されている。また、特許文献2~4にも、特許文献1と同様に、変位制限部がゴム弾性部材の全周縁部に埋設された防振装置が開示されている。
【0003】
さらに、特許文献5~7には、変位制限部がゴム弾性部材の外周側に配置された防振装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭63-13056号公報
【特許文献2】米国特許第6264164号明細書
【特許文献3】特開2010-229888号公報
【特許文献4】米国特許第4893778号明細書
【特許文献5】米国特許第7575216号明細書
【特許文献6】特開2009-108946号公報
【特許文献7】独国特許発明第102008021206号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、防振装置は支持体及び被支持体に取り付けられ、支持体及び被支持体の振動を吸収するとともに、それらの変位を制限することが求められる。例えば、車体(支持体)と車体の下方に位置する排気菅(被支持体)との間に配置され、排気菅を車体から吊り下げて支持するための防振装置の場合、排気管の重量が大きくなるに従い、防振装置には、排気菅が車体から離れる変位を制限するためのより大きな力(以下、「変位制限力」という)が求められる。
【0006】
しかし、特許文献1~4のもののように、変位制限部が防振装置の全周縁部に埋設されている構成では、変位制限部とゴム弾性部材との境界部などを中心に、亀裂が発生しやすく耐久性が十分に得られない場合があることが分かった。さらに、このような構成では、変位制限部が防振装置のバネ特性に影響し、防振装置が所望のバネ特性とならない場合があることが分かった。
【0007】
また、特許文献5~7のもののように、変位制限部が防振装置の周端部の外周側に配置されている構成では変位制限部によって支持体と被支持体との変位を制限する変位制限力が十分に得られないことが分かった。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、変位制限部により、バネ特性に影響を与えないようにしつつ、防振装置の耐久性及び変位制限力を高くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、弾性又は粘弾性を有する支持体及び被支持体間に取り付けられる防振装置であって、前記支持体に取り付けられる第1取付部が設けられた第1基部と、前記第1取付部から縦方向に離れて設けられ、前記被支持体に取り付けられる第2取付部が設けられた第2基部と、前記第1基部及び前記第2基部を互いに連結する一対の連結部であって、前記第1取付部及び前記第2取付部の横方向位置よりも横方向一方側に設けられた第1連結部と、前記第1連結部から横方向他方側に離れて設けられ、前記第1取付部及び前記第2取付部の横方向位置よりも横方向他方側に設けられた第2連結部とを含む一対の連結部と、前記第1取付部及び前記第2取付部を囲み、前記支持体及び前記被支持体に取り付けられた両取付部が互いに離れる方向に変位できる範囲を制限する、環状の変位制限部とを備え、前記変位制限部が配置された領域は、前記一対の連結部よりも横方向内側であり、前記変位制限部と前記第1連結部との間、及び前記変位制限部と前記第2連結部との間には、それぞれ第1空間が設けられている。
【0010】
この第1の発明によると、環状の変位制限部は、第1取付部及び第2取付部を囲むので、変位制限部の周方向にかかる張力によって、両取付部が互いに離れるように変位する範囲を制限できる。ここで、変位制限部の全周の長さが短いほど、また、変位制限部の延びる方向(周方向)が、両取付部が互いに離れる方向に沿っているほど、変位制限部の周方向にかかる張力によって両取付部が互いに離れる変位を制限しやすい。第1の発明では、変位制限部が配置された領域は、一対の連結部よりも横方向内側であるので、変位制限部が一対の連結部よりも横方向外側に配置されている構成や一対の連結部に埋設されている構成に比べて変位制限部の全周の長さを短くしやすい。また、変位制限部と第1連結部との間、及び変位制限部と第2連結部との間には、それぞれ第1空間が設けられているので、変位制限部が配置されている領域は横方向に狭くなり、変位制限部の延びる方向を、両取付部が互いに離れる方向である縦方向に沿わせやすくなる。その結果、変位制限部の周方向にかかる張力によって、両取付部が互いに離れるように変位する範囲を制限しやすくなり、変位制限力が高くなる。
【0011】
さらに、第1の発明によると、変位制限部と両連結部との間に第1空間が設けられている分、変位制限部が防振装置に亀裂を発生させにくく、しかも、変位規制部が防振装置のバネ特性に影響を与えにくくなる。以上より、変位制限部により、バネ特性に影響を与えないようにしつつ、防振装置の耐久性及び変位制限力を高くできる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記変位制限部の内周側には、第2空間が設けられている。
【0013】
この第2の発明によると、変位制限部の内周側には、第2空間が設けられているので、第2空間の大きさや形状を変えて防振装置全体のバネ特性を調整しやすく、防振装置のバネ特性の設定自由度がさらに高くなる。
【0014】
第3の発明は、第2の発明において、前記防振装置は、横方向の一方側と他方側とが、互いに対称に形成されており、前記一対の連結部は、前記第1基部に接続され、縦方向において前記第2基部側にいくに従い横方向中央部から遠ざかって延びる第1部と、前記第1部の前記第2基部側に接続され、縦方向において前記第2基部側にいくに従い横方向中央部に近づいて延び、前記第2基部に接続された第2部とを含み、前記変位制限部は、前記第1取付部の周囲から前記第2取付部側に延び、縦方向において前記第2取付部側にいくに従い横方向中央部から遠ざかって延びる第1制限部と、前記第1制限部の前記第2取付部側に接続され、縦方向において前記第2取付部にいくに従い横方向中央部に近づき、前記第2取付部の周囲まで延びる第2制限部とを含み、前記第1空間の縦方向に沿った長さL1を、前記第2空間の縦方向に沿った長さL2で割った比L1/L2は、1.2以上1.5以下である。
【0015】
第4の発明は、第3の発明において、前記第1空間の縦方向に沿った長さL1を、前記第2空間の縦方向に沿った長さL2で引いた差L1-L2は、5.6mm以上9.2mm以下である。この第3又は第4の発明のようにL1及びL2の長さを前記のように設定することで、防振装置の耐久性を高めるとともに、防振装置全体が所望のバネ特性となるように構成できる。
【0016】
第5の発明は、第3又は第4の発明において、前記変位制限部は、前記第1制限部及び前記第2制限部から構成され、前記一対の連結部の各々の長さL3を、前記変位制限部の半周の長さL0で割った比L3/L0は、0.4以上0.6以下である。なお、この長さL3とは、一対の連結部の各々が延びる方向に沿った長さである。
【0017】
この第5の発明のように、一対の連結部の各々の長さL3を、変位制限部の半周の長さL0で割った比L3/L0が、0.4以上0.6以下とすることにより、防振装置の耐久性を高めるとともに、防振装置全体が所望のバネ特性となるように構成できる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によると、変位制限部により、バネ特性に影響を与えないようにしつつ、防振装置の耐久性及び変位制限力を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係るハンガーラバーを示す平面図である。
【
図2】実施形態の第1変形例に係る、
図1相当図である。
【
図3】実施形態の第2変形例に係る、
図1相当図である。
【
図4】実施形態の第3変形例に係る、
図1相当図である。
【
図5】実施形態の第4変形例に係る、
図1相当図である。
【
図6】第1取付部及び第2取付部間の距離(横軸)を変化させた際の荷重(縦軸)を示すグラフ(ヒステリシス曲線)である。
【
図7】荷重30Nにおける、振動周波数(横軸)に対する動バネ定数(左側の縦軸)及び損失係数(右側の縦軸)を示すグラフである。
【
図8】荷重80Nにおける、振動周波数(横軸)に対する動バネ定数(左側の縦軸)及び損失係数(右側の縦軸)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図しない。
【0021】
ハンガーラバーHR(防振装置)は、車体(支持体)及び排気管(被支持体)間に取り付けられ、排気菅を車体に対して支持し、排気菅及び車体間で振動を吸収するためのものである。なお、以下では、「上」、「下」、「左」及び「右」は、
図1と関連付けてハンガーラバーHRにおける相対的な位置を表すためのものであり、上下方向を「縦方向」、左右方向を「横方向」という。また、「表」とは、
図1において手前側、「裏」とは、
図1において奥側を意味する。
【0022】
―ハンガーラバーの構成―
ハンガーラバーHRは、弾性体から構成され、
図1に示すように、略円形状に形成されている。ハンガーラバーHRは、横方向中央部を基準として、左側(横方向一方側)と右側(横方向他方側)とが、互いに対称に形成されており、縦方向中央部を基準として、上側と下側とが、互いに対称に形成されている。
【0023】
なお、ハンガーラバーHRの直径は、例えば約60~70mm程度であり、ハンガーラバーHRの表裏方向厚さは、例えば約25~35mm程度である。ハンガーラバーHRを構成する弾性体は、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM、AEM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)等のゴム成分又はこれらの混合物であるゴム成分を含有する組成物から形成されている。
【0024】
ハンガーラバーHRは、車体に取り付けられる第1取付部1aが設けられた第1基部1と、第1取付部1aから下方に離れて設けられ、排気菅に取り付けられる第2取付部2aが設けられた第2基部2とを備える。第1基部1は、ハンガーラバーHRの上側外周面を含む、ハンガーラバーHR上部を構成している。第2基部2は、ハンガーラバーHRの下側外周面を含む、ハンガーラバーHR下部を構成している。
【0025】
第1取付部1a及び第2取付部2aは、車体側軸部(図示しない)及び排気管側軸部(図示しない)が、それぞれ挿通され、車体及び排気管に取り付けられるように、表裏方向に貫通する孔hによって構成されている。第1取付部1aを構成する孔hの上側の内周面には、孔hと連続する複数の間隙部sが周方向に並んで形成されている。同様に、第2取付部2aを構成する孔hの下側の内周面には、孔hと連続する複数の間隙部sが周方向に並んで形成されている。複数の間隙部sによって、各孔hの内周面は軟らかくなり、車体側軸部及び排気管側軸部を各孔hに挿通しやすく構成されている。
【0026】
ハンガーラバーHRは、第1基部1の左右方向中央部から、第2基部2に向かって突出した矩形状の第1ストッパ1bと、第2基部2の左右方向中央部から、第1基部1に向かって突出した略矩形状の第2ストッパ2bとを備える。なお、
図1において、各基部1,2と各ストッパ1b,2bとの境界は、一点鎖線により示す。
【0027】
第1ストッパ1bの左側面及び右側面は、縦方向に沿っており、第1基部1との接続部において横方向外側に向かって略円弧状に湾曲して形成されている。第2ストッパ2bの左側面及び右側面は、縦方向に沿っており、第2基部2との接続部において横方向外側に向かって略円弧状に湾曲して形成されている。
【0028】
第1ストッパ1b及び第2ストッパ2bは、ハンガーラバーHRが変形して第1基部1及び第2基部が互いに近づく際に、第1ストッパ1bの下端面と第2ストッパ2bの上端面とが互いに接してストッパとして機能し、これによって、第1取付部1a及び第2取付部2aを互いに近づきすぎるのを抑制する。このため、第1ストッパ1bの下端面及び第2ストッパ2bの上端面は、互いに全面で接しやすいように略平行に対面している。
【0029】
ハンガーラバーHRは、第1基部1及び第2基部2を互いに連結する一対の連結部3,4を備える。一対の連結部3,4は、横方向に互いに間隔を空けて設けられた第1連結部3及び第2連結部4から構成されている。第1連結部3及び第2連結部4は、いずれも、第1基部1及び第2基部2と一体に形成されている。なお、
図1において、各基部1,2と各連結部3,4との境界は、二点鎖線により示す。
【0030】
第1連結部3は、第1取付部1a及び第2取付部2aの横方向位置よりも左側に設けられている。第2連結部4は、第1連結部3から右側に離れて設けられ、第1取付部1a及び第2取付部2aの横方向位置よりも右側に設けられている。
【0031】
これらの一対の連結部3,4は、いずれも、上半分である第1部3a,4a及び下半分である第2部3b,4bから構成されている。第1連結部3の第1部3aは、第1基部1の左側の端部に接続され、縦方向において第2基部2側にいくに従い横方向中央部から遠ざかって延びている。第1連結部3の第2部3bは、第1部3aの下部に接続され、縦方向において第2基部2側にいくに従い横方向中央部に近づいて延び、第2基部2の左側の端部に接続されている。このようにして、第1連結部3は、第1基部1の左側の端部から、ハンガーラバーHRの左側の外周面に沿う円弧状に湾曲して延び、第2基部2の左側の端部に接続されている。
【0032】
第2連結部4の第1部4a及び第2部4bは、第1連結部3の第1部3a及び第2部3bを左右反転させた、同様の構成である。すなわち、第2連結部4は、第1基部1の右側の端部から、ハンガーラバーHRの右側の外周面に沿う円弧状に湾曲して延び、第2基部2の右側の端部に接続されている。
【0033】
ハンガーラバーHRは、第1取付部1a及び第2取付部2aを囲む環状の変位制限部5を備える(
図1の破線を参照)。変位制限部5は、支持体及び被支持体に取り付けられた両取付部1a,2aが互いに離れる方向に変位できる範囲を制限する。変位制限部5は、例えばアラミド繊維、ポリエステル繊維(テトロン(登録商標)等)、アクリル繊維、ケブラー(登録商標)繊維、レーヨン等により構成された、周方向に延びる複数の糸を重ねることにより、表裏方向に25mm程度の幅のある構成とされている。なお、変位制限部5は、1本の糸を複数回巻いて、幅を持たせてもよい。
【0034】
変位制限部5は、第1連結部3及び第2連結部4が外周側に位置するように配置されている。変位制限部5が配置された領域は、一対の連結部3,4よりも横方向内側、すなわち第1連結部3よりも右側であり且つ第2連結部4よりも左側である。
【0035】
変位制限部5は、
図1に示すように、縦方向の長さが、横方向の長さよりも長く、第1取付部1aの上側に位置する部位及び第2取付部2aの下側に位置する部位を互いに向かい合う頂点とするような略ひし形状に形成されている。変位制限部5は、上半分を構成する第1制限部5aと、下半分を構成する第2制限部5bとから構成されている。
【0036】
第1制限部5aは、その上部が第1基部1に埋設され、周方向が第1取付部1a上側略半分の周囲に沿うように配置されている。第1制限部5aは、第1取付部1aの左右方向中央部の上側から左下方向及び右下方向にそれぞれ延びている。第1制限部5aは、第1取付部1aの周囲から第2取付部2a側に延び、縦方向において第2取付部2a側にいくに従い横方向中央部から遠ざかって延びている。
【0037】
第2制限部5bは、第1制限部5aの第2取付部2a側に接続され、縦方向において第2取付部2aにいくに従い横方向中央部に近づき、第2取付部2aの周囲まで延びている。第2制限部5bは、その下部が第2基部2に埋設され、周方向が第2取付部2a下側略半分の周囲に沿うように配置されている。
【0038】
変位制限部5は、
図1に示すように、第1基部1及び第2基部2と連続する薄肉部tに埋設されている。薄肉部tは、変位制限部5に沿って形成されている。薄肉部tは、第1基部1との接続部において、内周側の側面(後述する第2空間SP2を囲む側面)が、第1基部1及び第1ストッパ1bの側面と略円弧状に連続している。薄肉部tは、第2基部2との接続部において、内周側の側面が、第2基部2及び第2ストッパ2bの側面と略円弧状に連続している。なお、変位制限部5は薄肉部tに埋設されておらず露出していてもよく、ハンガーラバーHRには薄肉部tが設けられていなくてもよい。
【0039】
変位制限部5の左側部位と第1連結部3との間には、第1空間SP1が設けられている。変位制限部5の右側部位と第2連結部4との間にも、同様に第1空間SP1が設けられている。左側の第1空間SP1は、第1連結部3の右側の側面と、変位制限部5の左側部位が埋設された薄肉部tの左側の側面とに囲まれている。右側の第1空間SP1は、第2連結部4の左側の側面と、変位制限部5の右側部位が埋設された薄肉部tの右側の側面とに囲まれている。左右両方の第1空間SP1,SP1は、それぞれ、第1連結部3及び第2連結部4に沿って略円弧状に延びている。
【0040】
変位制限部5の内周側には、第2空間SP2が設けられている。第2空間SP2は、左右両側の薄肉部t,t各々の内周側の側面と、第1基部1及び第2基部各々の内周面と、第1ストッパ1b及び第2ストッパ2b各々の左右両側面と、両ストッパ1b,2bが互いに向かい合う端面とに囲まれている。すなわち、前記の、両基部1,2、両ストッパ1b,2b及び薄肉部tの各側面及び端面の形状により、第2空間SP2の形状が特定される。
【0041】
―パラメータL0~L3の設定―
変位制限部5の半周の長さをL0、第1空間SP1の縦方向に沿った長さをL1、第2空間SP2の縦方向に沿った長さをL2及び一対の連結部3,4の各々の周方向に沿った長さをL3とすると、これらのパラメータL0~L3は、ハンガーラバーHRの耐久性を高めるという観点、及びハンガーラバーHRを所望のバネ特性にするという観点から、以下のように設定することが好ましい。
【0042】
ハンガーラバーHRは、各取付部1a,2aが互いに離れる変位をともなう振動によって、各取付部1a,2a(孔h)と第2空間SP2との間の部位の変形によって、この部位で亀裂が発生しやすい場合がある。これは、例えば、長さL2に対して長さL1を大きくすることによって、又は長さL0に対して長さL3を大きくすることによって抑えられる。そのような観点から、差L1-L2を5.6mm以上の大きさにするという条件、比L1/L2を1.2以上にする条件及び比L3/L0を0.4以上にするという条件の少なくとも1つを満たすことが好ましく、これら3つの条件をすべて満たすことがより好ましい。なお、比L3/L0については、同様の観点から、0.5以上にすることがさらにより好ましい。
【0043】
また、ハンガーラバーHRは、両取付部1a,2aが互いに離れる変位に対して軟らかくなりすぎないようにしたいが、これは、例えば、長さL2に対して長さL1を大きくしすぎないことによって、又は長さL0に対して長さL3を大きくしすぎないことによって可能となる。そのような観点から、差L1-L2を9.2mm以下の大きさにするという条件、比L1/L2を1.5以下にする条件及び比L3/L0を0.6以下にするという条件の少なくとも1つを満たすことが好ましく、これら3つの条件をすべて満たすことがより好ましい。
【0044】
―作用・効果―
本実施形態によると、環状の変位制限部5は、第1取付部1a及び第2取付部2aを囲むので、変位制限部5の周方向にかかる張力によって、両取付部1a,2aが互いに離れるように変位する範囲を効果的に制限できる。ここで、変位制限部5の全周の長さが短いほど、また、変位制限部5の延びる方向(周方向)が、両取付部1a,2aが互いに離れる方向に沿っているほど、変位制限部5の周方向にかかる張力によって両取付部1a,2aが互いに離れる変位を制限しやすい。本実施形態では、変位制限部5が配置された領域は、一対の連結部3,4よりも横方向内側であるので、変位制限部5が一対の連結部3,4よりも横方向外側に配置されている構成や一対の連結部3,4に埋設されている構成に比べて、変位制限部5の全周の長さを短くしやすい。また、変位制限部5と第1連結部3との間、及び変位制限部5と第2連結部4との間には、それぞれ第1空間SP1が設けられているので、変位制限部5が配置されている領域は横方向に狭くなり、変位制限部5の周方向を、両取付部1a,2aが互いに離れる方向である縦方向に沿わせやすくなる。その結果、変位制限部5の周方向にかかる張力によって、両取付部1a,2aが互いに離れるように変位する範囲を制限しやすくなり、変位制限力が高くなる。
【0045】
さらに、本実施形態によると、変位制限部5と両連結部3,4との間に第1空間SP1が設けられている分、変位制限部5がハンガーラバーHRに亀裂を発生させにくく、しかも、変位規制部5がハンガーラバーHRのバネ特性に影響を与えにくくなる。以上より、変位制限部5により、バネ特性に影響を与えないようにしつつ、ハンガーラバーHRの耐久性及び変位制限力を高くできる。
【0046】
また、本実施形態によると、一対の連結部3,4は、第1基部1から縦方向において第2基部2側にいくに従い横方向中央部から遠ざかって延びる第1部3a,4aと、第1部3a,4aから縦方向において第2基部2側にいくに従い横方向中央部に近づいて延びる第2部3b,4bとを含むので、横方向に広がり又は縮むように変形し、支持体及び被支持体の振動を吸収できる。そして、変位制限部5は、第1取付部1aの周囲から第2取付部2a側にいくに従い横方向中央部から遠ざかって延びる第1制限部5aと、第1制限部5aに続き第2取付部2aにいくに従い横方向中央部に近づいて第2制限部5bとを含むので、一対の連結部3,4の前記変形にともなって、横方向に広がり又は縮むように変形できる。両取付部1a,2aが、互いの距離が所定距離よりも小さい比較的小さな振幅で振動している間は、変位制限部5がそのように変形可能となっていることにより、変位制限部5の周方向にかかる張力が小さいので、両取付部1a,2aが互いに離れる変位を制限せず、一対の連結部3,4が振動吸収するという効果に影響しない。その一方で、両取付部1a,2aが所定距離よりも大きくなると、第1制限部5a及び第2制限部5bの延びる方向(周方向)が縦方向に近くなり(縦方向からの傾き角度が小さくなり)、変位制限部5の周方向にかかる張力が大きくなり、両取付部1a,2aが互いに離れる変位を制限する。したがって、変位制限部5は、ハンガーラバーHRが振動吸収する効果を阻害しないように、両取付部1a,2aが互いに離れる変位を制限しやすくなる。
【0047】
また、本実施形態によると、変位制限部5が、第1連結部3及び第2連結部4からそれぞれ第1空間SP1を置いて設けられているので、変位制限部5が第1連結部3及び第2連結部4から独立して機能を発揮しやすい。すなわち、第1連結部3及び第2連結部4が所望のバネ特性となるように構成しやすい。また、第1空間SP1の大きさや形状を変えてハンガーラバーHR全体のバネ特性を調整しやすく、ハンガーラバーHRのバネ特性の設定自由度が高くなる。
【0048】
また、本実施形態によると、変位制限部5の内周側には、第2空間SP2が設けられているので、第2空間SP2の大きさや形状を変えてハンガーラバーHR全体のバネ特性を調整しやすく、ハンガーラバーHRのバネ特性の設定自由度がさらに高くなる。
【0049】
また、本実施形態によると、各パラメータL0~L3を設定して、ハンガーラバーHRの耐久性を高めるとともに、ハンガーラバーHR全体が所望のバネ特性となるように構成できる。
【0050】
(実施形態の変形例)
以下、実施形態の変形例に係るハンガーラバーHRを説明する。なお、前記実施形態と共通する構成については、説明を省略する。
【0051】
実施形態の第1変形例に係るハンガーラバーHRを
図2に示す。本変形例に係るハンガーラバーHRは、前記実施形態のものよりも、縦長に形成されている。第1基部1の上端部及び第2基部2の下端部は、横方向に平行な平坦面となっている。
【0052】
実施形態の第2変形例に係るハンガーラバーHRを
図3に示す。本変形例に係るハンガーラバーHRは、縦長の略楕円形状に形成されている。一対の連結部3,4は、縦方向に略直線状に延びていている。変位制限部5は、一対の連結部3,4の横方向内側で、縦方向に略直線状に延びている。ハンガーラバーHRには、ストッパ1b,2bが設けられておらず、各取付部1a,2aの孔hの内周面には間隙部sが形成されていない。
【0053】
実施形態の第3変形例に係るハンガーラバーHRを
図4に示す。第1基部1の上側外周面及び第2基部2の下側外周面は、いずれも略円弧状に形成されている。第1連結部3の外周面は、その接線方向が、第1基部1との接続部で、第1基部1の外周面の接線方向と一致せず、第1連結部3と第1基部との接続部の外周面には、なだらかな窪み6aが形成されている。第1連結部3と第2基部2との接続部、第2連結部4と第1基部1との接続部及び第2連結部4と第2基部2との接続部においても、各外周面に、同様の窪み6b,6c,6dが形成されている。第1ストッパ1bは、下側にいくに従い、横方向外側に広く形成されている。第2ストッパ2bは、上側にいくに従い、横方向外側に広く形成されている。
【0054】
実施形態の第4変形例に係るハンガーラバーHRを
図5に示す。本変形例に係るハンガーラバーHRは、縦長に形成されている。第1基部1の上側外周面及び第2基部2の下側外周面は、いずれも略円弧状に形成されている。変位制限部5は、縦方向中央部において、横方向外側に膨らむように湾曲した、膨出部を有している。
【0055】
(その他の実施形態)
ハンガーラバーHRは、左右対称でなくてもよく、上下対称でなくてもよい。
【0056】
ハンガーラバーHRを構成する弾性体は、ゴム製に限られない。また、ハンガーラバーHRは、粘弾性体により構成されていてもよい。
【0057】
ハンガーラバーHRには、第2空間SP2が設けられていなくてもよく、第1基部1及び第2基部2が互いに間隔を空けず連続していてもよい。
【0058】
また、本発明に係る防振装置は、車体及び排気菅に取り付けられるハンガーラバーHRに限られない。防振装置は、少なくとも一方が振動する支持体及び被支持体に取り付けられ、これらの振動を吸収し、変位制限できればよい。例えば、振動が多く発生する、電車内、駅等において、広告用ボードを吊るすために用いてもよく、このほか、住宅での吊り防振のために用いてもよい。
【実施例0059】
図1に示すような、全体が略円形状のハンガーラバーを製造し、静バネ特性評価試験、動バネ特性評価試験及び耐久性評価試験を行った。
【0060】
[実施例1]
実施例1では、縦71mm×横61mm×厚さ28mmの略円形のハンガーラバーを、ビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)をゴム成分とする組成物を用いて製造した。変位制限部は、アラミド製の糸を巻いて、幅25mmとし、
図1に示すように、第1基部及び第2基部に埋設させて配置した。変位制限部の半周長さL0を70.2mm、第1空間の縦方向に沿った長さL1を27.9mm、第2空間の縦方向に沿った長さL2を22.3mm、各連結部の長さL3を31.8mmとした。その他の構成は、
図1に示すとおりである。
【0061】
[比較例1]
比較例1では、変位制限部を設けないことを除き、実施例1と同様にハンガーラバーを製造した。
【0062】
―静バネ特性評価試験―
製造した実施例1及び比較例1のハンガーラバーを、第1取付部及び第2取付部が互いに離れる方向及び互いに近づく方向に一定速度で変位させるように負荷をかけた。
図6に、以上のように変化させた負荷(縦軸)及び変位(横軸)を示す。なお、
図6のグラフの原点は、ハンガーラバーに負荷をかけていない自然な状態、プラスの変位は両取付部同士が互いに離れる変位及びマイナスの変位は両取付部同士が互いに近づく変位に相当する。
【0063】
図6から分かるように、実施例1のハンガーラバーでは、変位がプラス方向に所定値となるまで負荷は変位にほぼ比例するが、変位が当該所定値よりも大きくなると、急激に負荷が大きくなった。これは、変位制限部によって、第1取付部及び第2取付部が離れる変位が制限されていることを示しており、変位制限部が有効に機能していることを示している。
【0064】
これに対して、比較例1のハンガーラバーでは、実施例1とは異なり変位制限部が設けられていないため、変位が前記所定値を超えても、負荷が変位にほぼ比例して大きくなった。
【0065】
また、実施例1のハンガーラバーは、変位が前記所定値以下のときは、負荷の大きさが比較例1のものと同程度であることがわかる。このことから、変位規制部が静バネ特性に影響を大きな与えていないといえる。
【0066】
なお、実施例1及び比較例1のいずれにおいても、変位がマイナス方向に所定値となったときにマイナス方向の負荷(両取付部を互いに近づけるために必要な負荷)が急激に大きくなっている。これは、第1ストッパの下端面及び第2ストッパの上端面が互いに接してストッパとして機能したことに起因する。
【0067】
―動バネ特性評価試験―
第1取付部及び第2取付部が互いに離れる方向に30Nの負荷をかけて変位させ、この状態から、ハンガーラバーを、第1取付部及び第2取付部が互いに離れる方向及び近づく方向に、加振振幅±0.2mm及び周波数0~150Hzで変位を繰り返すように振動させ、静動比(貯蔵バネ定数/30N負荷時の接線バネ定数)及び損失係数(tanδ)を測定した。測定結果を
図7に示す。また、第1取付部及び第2取付部が互いに離れる方向に80Nの負荷をかけて変位させて、同様の条件で振動させて測定した測定結果を、
図8に示す。
【0068】
図7及び
図8から分かるように、実施例1のハンガーラバーの静動比は、0~150Hzの範囲で周波数が変化しても比較例1とほぼ同等の推移を示す。このことは、変位制限部の存在による動特性への影響が有効に抑えられていることを示す。
【0069】
[実施例2~5]
実施例2~5では、各パラメータL0~L3を、表1に示すように変更したことを除き、実施例1と同様にハンガーラバーを製造した。
【0070】
【0071】
―耐久性評価試験―
実施例2~5のハンガーラバーを、互いに同じ条件で、ハンガーラバーのゴム部分に亀裂が発生するまで振動させた。亀裂が発生するまでの振動回数が多い順からA、B、C、Dと評価した。すなわち、Aが最も耐久性が高く、Dが最も耐久性が低い。表1から分かるように、特に、実施例2(L1/L2=1.40、L1-L2=8.9mm、L3/L0=0.513)の耐久性が高い。
【0072】
以上より、各パラメータL0~L3を適切に設定することにより、変位制限部がバネ特性に影響を与えないようにしつつ、防振装置の耐久性及び変位制限力を高くすることができることがわかる。