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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008722
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】インソール
(51)【国際特許分類】
   A43B 7/06 20060101AFI20230112BHJP
   A43B 13/14 20060101ALI20230112BHJP
   A43B 17/00 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
A43B7/06
A43B13/14 B
A43B17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021131816
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】506354711
【氏名又は名称】大杉 勝
(72)【発明者】
【氏名】大杉 勝
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050BA02
4F050BA25
4F050BA51
4F050EA14
4F050HA56
4F050HA74
(57)【要約】
【課題】現在、靴内の換気を目的とした様々な形態のインソールが市販品としても特許文献においても存在するが、シンプルな構造と高効率の換気機能を兼ね備えたインソールが存在しない。本発明は、シンプルな構造で、且つ優れた換気機能を有するインソールの実現を目的としている。
【解決手段】本発明は、弾性機能を有する空気室を備えたインソールの踵部に吸気通路が形成されるように後部シートを設けただけのシンプルなものである。空気室の圧縮、膨張に連動して吸気通路の開放、閉鎖が適時に行われ、つま先部の蒸れや臭いのこもった箇所に新鮮な空気が効率良く逆流することなく送り込まれる構成としてある。人間工学に基づいて歩行周期を分析し、踵と足指付根の動作を利用することによって、特別なポンプや弁を備えることなく、シンプルな構成でありながら高効率の換気が行えるインソールを実現した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材(2)に周りを囲まれて形成された平板な袋状の空間(3)を有するインソールにおいて、空間(3)に排気通路(7)と空気室(6)を設け、前端部(15)から踵部(12)の前までの間が排気通路(7)を成し、踵部(12)から後端部(16)までの間が空気室(6)を成し、空気室(6)に沿って吸気通路(8)を形成するべく後部シート(4)を設け、後部シート(4)と空間(3)の周りを囲む部材(2)に挟まれた平板な袋状の隙間が吸気通路(8)を成し、吸気通路(8)の前方は空気室(6)に開口し後方は空間(3)の外部に開口し、排気通路(7)の前方は空間(3)の外部に開口し後方は空気室(6)に開口し、空気室(6)は踵の押圧力で圧縮して空気を排出し圧力解放で復元膨張して空気を吸入する弾性体で構成されたことを特徴とするインソール。
【請求項2】
空間(3)を形成する部材(2)は、シート状の材料で構成されたことを特徴とする請求項1に記載のインソール。
【請求項3】
空間(3)を形成する部材(2)は、既存の靴の部材で構成されたことを特徴とする請求項1に記載のインソール。
【請求項4】
空間(3)を形成する部材(2)は、弾性を有する材料で構成されたことを特徴とする請求項1に記載のインソール。
【請求項5】
空間(3)に、空気を含み通気性を有する弾性体(5)を内蔵したことを特徴とする請求項1に記載のインソール。
【請求項6】
弾性体(5)は、連続気泡のスポンジ状の材料であることを特徴とする請求項5に記載のインソール。
【請求項7】
弾性体(5)は、線状又は板状の弾性材を3次元的に屈曲、又は、絡み合わして構成されたことを特徴とする請求項5に記載のインソール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴用のインソールに関するもので、靴内の蒸れや臭いを除去するため靴内を効率良く換気する機能を有するインソールに関するものである。
【0002】
本発明においてインソールとは、インナーソールを含む。つまり、靴底に組み込む「中底」とも言われる「インソール」と、靴内に後入れ、又は、取り外しが可能な「中敷」とも言われる「インナーソール」を含む。
【背景技術】
【0003】
現在、靴内の蒸れや臭いを除去する目的で、換気機能を備えたインソールや呼吸するインソールと称して様々な形態のインソールが市販されている。また、特許文献においても同様の目的のインソールや該インソールを組み込んだ靴のアイデアが数多く存在する。現在普及している市販品においては、換気効果が特段顕著なものは見当たらないが、構成はシンプルなものが多く、一方、特許文献においては、換気効果が期待できそうなものがあるが、構成が複雑なものが多い、と言う傾向がうかがえる。
【0004】
市販品において、構成が複雑で、換気機能が優れていると言うものが見当たらないが、その理由として、コストが影響しているように見受けられる。一方、特許文献においては、コストを度外視して、換気機能を追求するあまり構成が複雑になったと見受けられる。いずれにしても、シンプルな構成と高効率の換気を兼ね備えたインソールが存在しないのが現状である。
【0005】
下記の先行技術文献は、本発明と関連するインソール単体と該インソールが組み込まれた靴の特許文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭53-056534号公報
【特許文献2】特開昭55-138402号公報
【特許文献3】実全昭56-158906号公報
【特許文献4】実全昭58-084710号公報
【特許文献5】実全昭58-187307号公報
【特許文献6】特開平03-126401号公報
【特許文献7】特開2004-141606号公報
【特許文献8】実登3183852号公報
【特許文献9】実登3200163号公報
【特許文献10】特許5043247号公報
【特許文献11】特開2004-290653号公報
【特許文献12】実登3045819号公報
【特許文献13】実開平04-023402号公報
【特許文献14】特開平10-243804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
靴を使用するようになった現代人にとって靴内の蒸れや臭いは永年の課題であるが、未だに、シンプルな構成と高効率の換気機能を兼ね備えたインソールが存在しない。このような現状に鑑み、本発明はシンプルな構成で高効率の換気機能を有するインソールを実現することを目的とした。以下に、解決しようとする課題を詳細を述べる。
【0008】
特許文献の中にも、特許文献2、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7のようなシンプルな構成のものもあるが、換気機能において、次に述べる問題を抱えている。その他の特許文献はいずれも構成が複雑という課題を抱えている。
【0009】
特許文献2、特許文献5はインソール内へ空気を吸入する時は問題ないが、しかし、排出する時に問題がある。つまり、これらの文献では、空気は前方のつま先部へ送られて排出されるものと想定されているが、これらの構成では、吸入口はインソールに単に開口しているだけで、逆流防止の手段が講じられていないから、踵がインソールを押圧した時、大量の空気が後方の吸入口へ逆流して排出されてしまうので、希望するつま先部の排出口へは少量しか送られず、換気効果が疑問である。
【0010】
特許文献4、特許文献6、特許文献7は、排気する時、インソールに開けられた吸気口に踵を押し付けて塞ぐという逆流阻止手段が講じられているが、排気時即ち圧縮時は、内圧は非常に高くなるので、空気漏れによる逆流を阻止するためには吸気口を気密状態で塞ぐ必要がある。特に、急激な圧縮時には内圧は極めて高まるので、吸気口を漏れなく塞ぐためには高い気密性が求められる。これらの文献のものは、踵により吸気口を気密状態で塞ぐためには、薄手の靴下を使用するか又は素足であることが求められ、毛糸などの厚手の靴下では気密性が劣り換気効率の低下を招くおそれがある。また、一般にインソールは、足裏のべたつき感を防ぐため上面は吸湿性や通気性のある厚手のシートやメッシュなどで覆われる場合が多いので、吸気口の周辺には微細な隙間が存在するから、此処でも気密性が劣り換気効率低下のおそれがある。また、一般に靴の内部は埃や砂塵で汚れがちな箇所であるから、上方に向けて吸気口が開口していれば、埃や砂塵がインソール内に侵入し易いという懸念がある。本発明は、以上述べた課題を全て解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
通常、サイズがぴったり合った靴であっても、歩行中や走行中に踵と靴底の間に空間が生じる。靴の種類、例えばランニングシューズ、ビジネスシューズ、レインシューズとでは大きさは異なるが空間は必ず生じる。この空間が最大となる時期はつま先が離地する時期で、大人では通常厚さは10mm程度となる。空間が最小となる時期は足裏全体が接地した時期で、この時空間は無くなる。歩行中や走行中はこの空間の大きさはたえず変化しており、本発明はこの空間の大きさの変化を利用して換気を行うインソールである。
【0012】
本発明は、踵の押圧力で圧縮する時は空気を排出し、圧力解放で復元膨張する時は空気を吸入する弾性体で構成されたインソールである。空気を排出する時は、排出口が開き吸入口が閉じ、排出口からのみ排出し、空気を吸入する時は、吸入口が開き排出口が閉じ、吸入口からのみ吸入し、逆流することなく空気が流れる仕組みに構成してある。排出口は先端部付近に、吸入口は後端部付近に設けてあるから、後方の外気に近い新鮮な空気が、つま先部の蒸れや臭いのこもった箇所に、効率良く送り込まれるようにしてある。以上は本発明の基本的な構想を述べたが、具体的な構成を図に基づいて以下に説明する。
【0013】
本発明に係るインソール1は図1図6に示すように、部材2に周りを囲まれて形成された平板な袋状の空間3を有し、図5に示すように、この空間3に排気通路7と空気室6を設けてある。前端部15から踵部12の前までの間が排気通路7となっており、踵部12から後端部16までの間が空気室6となっている。空気室6に沿って吸気通路8が形成されるように後部シート4を設けてある。後部シート4を設けることにより、後部シート4と部材2に挟まれた平板な袋状の隙間が形成され、この隙間が吸気通路8となる。吸気通路8の前方は空気室6に開口しており、後方は空間3の外部に開口している。排気通路7の前方は空間3の外部に開口しており、後方は空気室6に開口している。空気室6は踵の押圧力で圧縮して空気を排出し、圧力解放で復元膨張して空気を吸入する弾性体で構成されている。後部シート4と吸気通路8は、空気室6の上側、又は下側、又は上下両方の側に設けることができ、また、空間3の内部にでも、外部にでも設けることができる。本発明は、以上の構成を特徴とするインソール1である。
【0014】
インソール1の平板な袋状の空間3を形成する周りの部材2を、弾性機能を有する部材とすることができる。これにより、インソール1の内部の空間3を中空にすることができる。
【0015】
また、インソール1の空間3に空気を含み通気性を有する弾性体5を内蔵した構成とすることができる。弾性体5として連続気泡のスポンジやウレタンフォームとすることができ、排気通路7と空気室6を一体とすることができる。スポンジ材に替えて、綿状やフエルト状の材料や、線状又は板状の弾性材を3次元的に屈曲して構成したものや、管状の弾性材を単数又は複数で構成したものを弾性体5とすることもできる。
【0016】
本発明のインソール1の空間3を形成する手段として、シート状の部材2が空間3の周りを囲んで形成する方法があるが、この方法に限らず、靴に組み込んで靴の他の既存のパーツ、例えば、他の既存のインソールやミッドソールやアウターソールの間に挟まれた空間を利用することもできる。つまり、本発明の構成要素の一つである平板な袋状の空間3は、どのような手段によって形成されてもよい。
【0017】
本発明の明細書と図面においては、空間3がシート状の部材2で包まれて形成された形態で、空気室6と排気通路7を一体とした弾性体5を空間3に内蔵した形態で、後部シート4と吸気通路8を空気室6の上側に設けた形態で、後部シート4と吸気通路8を空間3の内部に設けた形態で記述しているが、本発明の技術的範囲を限定するものではない。以下に記述の寸法数値も同様である。
【0018】
本発明の主要な部分である後部シート4と空気室6と吸気通路8の付近をさらに詳しく述べる。図4は踵部12の拡大側面図で、図6は踵部12の拡大断面図で、これらの図が示すように、吸気通路8から空気室6へ至る開口部には、どこにも接合されない縁辺が生成される。この縁辺を本発明では自由縁辺14と呼ぶ。詳細は後述するが、空気室6が圧縮され排気する時、この自由縁辺14が逆止弁的機能を果たすことで、より一層の逆流阻止効果が発揮される。
【発明の効果】
【0019】
上述の構成とした本発明は、従来の一般的な通常のインソールの踵部分に後部シート4を設けただけの極めてシンプルな構成でありながら、歩行周期を分析し人間工学に基づいて、足指付根と踵の動作を利用することにより、インソールの各部分が弁や送気ポンプの機能を果たすよう構成してある。これにより、空気を逆流させることなく効率良く、後部の新鮮な外気を靴内のつま先部の蒸れや臭いのこもった箇所へ送り込むことができるインソールを実現した。以下に、歩行周期における各部分の作用とそれに伴う効果を詳細に説明する。
【0020】
歩行周期とは、踵接地から次に同足の踵接地の直前までを1周期と定義されている。歩行周期における専門用語は、従来方式と、ランチョ・ロス・アミーゴ方式で異なるところもあるが、本明細書では従来方式の用語を使用する。歩行周期を表す図12のように、歩行周期は立脚期と遊脚期に分けられており、さらに、立脚期は、踵接地・足底接地・立脚中期・踵離地・つま先離地の5段階に分けられ、遊脚期は、加速期・遊脚中期・減速期の3段階に分けられている。歩行周期のいずれの段階が、本発明のインソールの排気行程と吸気行程に関係するかを図12に表している。
【0021】
図12に示すように、本発明のインソールの排気と吸気が行われるのは立脚期であり、立脚期の前半、即ち、踵接地・足底接地・立脚中期の段階において排気行程が行われ、立脚期の後半、即ち、立脚中期・踵離地・つま先離地の段階において吸気行程が行われる。次に、排気と吸気の様子を図6図9に基づいて述べる。
【0022】
図6は、遊脚期における空気室付近の断面図で、押圧力が解除され空気室は膨張しきって吸気行程が完了し、次の排気行程の開始前の状態である。
【0023】
図7は、立脚期前半の排気中で、踵が接地し押圧力がかかり空気室は圧縮中である。吸気通路は、空気室に沿って備わっているから、空気室が押圧され圧縮される時には必ず同時に連動して吸気通路も押圧され閉鎖される。この時は足指付根が浮き上がっているから空気は前方の排気口からのみ排出される。この時、吸気口を閉鎖する方法は、前述の特許文献4、特許文献6、特許文献7のようなインソールの上部に開いた吸気口を踵が直接接触して塞ぐ方法でなく、本発明では踵が間接的に部材又はシートを介して吸気通路を押圧して塞ぐ方法であるから、使用する靴下の種類やインソールのカバーの種類を選ばず、あらゆる条件下で気密性が確保できる。
【0024】
図8は、立脚中期で、インソール全体に全体重がかかり空気は抜けきり排気行程が完了し、空気室は扁平な形状で次の吸気行程に移行する前の段階である。
【0025】
図9は、立脚期後半の吸気中で、踵が浮き上がり押圧力が解除され空気室は復元膨張中である。吸気通路は空気室の押圧解除に連動して開放され、空気は吸気口から吸入される。この時の吸気通路は隙間状態であるが、押圧して塞がない限り空気は通って流れるので、空気は吸入される。この時は必ず足指付根が接地しているので排気通路は塞がっており、空気は後方の吸気口からのみ吸入される。吸気口は靴内に開口しているが、靴内の後方であるから外気に近い箇所であり、湿気や臭いは前方のつま先部に比べ遥かに微量である。
【0026】
次に、歩行周期の各段階における足指付根と踵の動作と、それに伴う各部の作用と空気の流れの状況を、図10図11に基づき排気行程と吸気行程に分けて述べる。
【0027】
まず、図10の排気行程について述べる。図10(a)~(d)は遊脚期から立脚中期までの立脚期前半の空気室圧縮時で、排気行程の各段階を時系列で表している。
【0028】
図10(a)は、足裏全体が地面から浮き上がった遊脚期で、空気室は押圧力から解放され膨張しきって空気を満杯に含んだ排気行程前の時期である。
【0029】
図10(b)は、踵部が接地した瞬間で、押圧で空気室が圧縮し始めた時期である。吸気通路は空気室に沿って押圧される位置に設けてあるから、この時、空気室の押圧に連動して吸気通路も押圧され塞がれる。この時、排気通路の足指付根部は浮き上がって開放しているので、排気口からのみ排気が始まる。
【0030】
図10(c)は、空気室の圧縮が継続している時期である。この時、吸気通路は踵の押圧で塞がれており、同時に、吸気通路の空気室へ至る開口部の自由縁辺14が、あたかも逆止弁のような機能を果たすことも相まって、吸気通路は高い気密状態で閉鎖され、空気室が急激に圧縮されても吸気口への逆流は完全に阻止され、空気は漏れなくつま先部の排気口へ送られる。
【0031】
この図10(b)と(c)の時期をさらに詳しく観察すると、空気室の圧縮は、踵の押圧力によるもので膨張とは異なるところがある。つまり、膨張は弾性体の自然復元によるものに対し、圧縮は踵の強制加圧によるもので、大きく異なるところは速度である。つまり、膨張に比べて圧縮は急激に行われる。急激な圧縮は内圧が極めて高まるので漏れを阻止するには高い気密性が求められる。図7において、踵の押圧だけで吸気通路を塞いでも、漏れが生じるおそれがあるが、内圧が高まれば高まるほど自由縁辺14は対向の側面に押し付けられるから気密性が高まる。この急激な圧縮時に逆止弁的機能を果たし、逆流阻止効果を発揮するのが自由縁辺14である。
【0032】
上記の図10(b)と(c)の時期に、もし仮に、後部シート4が無かったならば、どのようになるか仮定し考察してみる。図6において、後部シート4が無ければ吸気通路8も無くなり、空気室は直接外部に開口するだけとなるから、空気室が圧縮された時、吸気口は閉鎖される手段が無いので、吸気口から大量の空気が逆流し排出されてしまう。即ち、吸気口は空気室の圧縮、膨張に伴って空気が出入りする単なる開口部に過ぎなくなる。後部シート4は吸気通路8を形成し、図7に示すように、圧縮時には吸気通路8は閉鎖すると共に、自由縁辺14が逆止弁的機能を果たし、逆流阻止に極めて重要な役割を担っているのである。つまり、後部シート4を空気室に沿った位置に設けることにより、空気室の圧縮、膨張に連動して、閉鎖、開放が適時に行われるよう吸気通路8が形成され、閉鎖時に自由縁辺14が逆止弁的機能を果たすよう配設した本構成は、本発明の最も重要な構成要素の一つである。
【0033】
図10(d)は、足裏全体が地面に接地した立脚中期の状態で、全体重がかかりインソール全体が扁平な形状になって、排気行程が完了した時点である。
【0034】
次に、図11の吸気行程について述べる。図11(a)~(d)は立脚中期から遊脚期までの立脚期後半の空気室膨張時で、吸気行程の各段階を時系列で表している。
【0035】
図11(a)は、足裏全体が地面に接している立脚中期で、インソールは体重で圧縮され空気室は扁平な形状で空気を全く含んでいない吸気行程前の時期である。
【0036】
図11(b)は、踵部が離地した直後で、空気室は圧力解除で復元膨張を始めた時期で、吸気通路も圧力解除に連動して開放される。この時、排気通路の足指付根部は接地して塞がっており排気口は閉鎖されているから、吸気口からのみ吸気が始まる。
【0037】
図11(c)は、さらに踵部が浮き上がって膨張が継続している時期で、この時もまだ、排気通路の足指付根部は接地し閉鎖しており、吸気通路は開放しているから吸気口からのみの吸気が継続している。
【0038】
図11(d)は、足裏全体が地面から浮き上がった遊脚期で、空気室は空気を満杯に含み吸気行程が完了した時期である。この時期を詳細に観察すれば、この直前に足指付根部が離地し排気通路の圧縮箇所が僅か膨らんで排気口からつま先部の湿気や臭いを含んだ空気を微量であるが吸い込むことになるが、しかし、この時点では空気室の膨張は終了しているから、吸い込む空気の量は足指付根部の排気通路の箇所だけの量で、この箇所の厚さは薄くなっているので極微量であるから全く問題ない。
【0039】
以上のように、排気行程、吸気行程の各時点における本発明のインソールの各部分の作用を詳細に観察することで、靴内の吸気、排気がいかに効果的に行われているかを検証することができた。
【0040】
このようにして本発明は、従来の通常の一般的なインソールの踵部分に後部シート4を設けただけの極めてシンプルな構成でありながら、足指付根と踵の動作のタイミングを利用することにより特別な弁やポンプなどを設けなくても吸排気通路の開閉を適時に行うことができ、空気を逆流させることなく効率良く換気できるインソールを実現した。使用する靴下の種類やインソールのカバーの種類を選ばず、あらゆる条件下で優れた換気効果を発揮し、埃や砂塵の侵入防止対策も講じた理想的なインソールで、特に、先行特許文献の多くが課題として抱えていた排気時の逆流阻止という難題を、シンプルな構成で解決した。
【0041】
さらに、本インソールに備わる弾性体によるクッション性が衝撃吸収機能を果たし、足裏負担軽減効果を奏し、快適な使用感が味わえることも大きなメリットである。インソールにおいては、換気や衝撃吸収の機能面の重要性もさることながら、使い心地や使用感も重要な要素である。
【0042】
また、ランニング中にマメができる原因の一つに靴内の高温多湿が挙げられている。つまり、靴内の通気性が悪いと足が蒸れて皮膚が柔らかくなり、湿気により摩擦係数が大きくなり、高温により炎症を加速させてマメができ易くなると言われている。本インソールをランニングシューズに使用することにより、靴内の高温多湿を除去し、放熱と乾燥が促進され、マメができ難くなる。
【0043】
本発明は、シンプルさを徹底追求した結果生れたもので、従来のインソールや靴に元々備わっている部材や構成がそのまま使え、大幅な設計変更なしで実現可能で、あらゆる靴の種類、大きさ、形状に適応する自由度が高い。シンプルであるから重量増大、パーツの増加、製造工数増加などの懸念なく多種多様なシューズに組み込み易く、シンプルであるが故に安価であるから、中敷としての単体でも、靴に組み込んでも従来品と比べて、さほどコストアップにならないという利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の実施形態の概略斜視図
図2】本発明の実施形態の概略平面図
図3】本発明の実施形態の概略側面図
図4】本発明の実施形態の踵部の概略拡大側面図
図5図2のA-A線断面図
図6図5の空気室近辺の拡大断面図
図7図6における踵による圧縮時の空気室近辺の拡大断面図
図8図6における踵による圧縮完了時の空気室近辺の拡大断面図
図9図6における踵の圧力解放で膨張時の空気室近辺の拡大断面図
図10】本発明の実施形態の使用時で排気行程を時系列で示す説明図
図11】本発明の実施形態の使用時で吸気行程を時系列で示す説明図
図12】歩行周期における本発明の排気行程と吸気行程の関連を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明のインソール1の実施形態は図1図3に示すように、足裏形を成した平板な袋状の空間3の周りを部材2が囲んだ構成である。図5に示すように、この空間3に排気通路7と空気室6が一体となった連続気泡のウレタンフォームを弾性体5として内蔵してある。前端部15から踵部12の前まで、つまり、略前半部分が排気通路7となっており、厚さは略3mmとしてある。踵部12から後端部16まで、つまり、略後半部分が空気室6となっており、厚さは略12mmとしてある。図4図6に示すように、空気室6に沿って上部に、吸気通路8が形成されるように後部シート4を設けてある。後部シート4を設けることにより、インソール1の周りを囲む部材2と後部シート4の間に隙間が形成され、この隙間が平板な袋状を成した吸気通路8となる。
【0046】
図5に示すように、排気通路7の前方はインソール1の外部に開口して排気口9となっており、後方は空気室6とつながっている。吸気通路8の前方は下部の空気室6に開口し、後方はインソール1の外部に開口して吸気口10となっている。吸気口10は後端部16付近の外気に近い箇所に設けているから、ここから新鮮な空気が吸入され、排気口9は前端部15付近の湿気や臭いのこもった箇所に設けているから、ここに新鮮な空気が排出される。排気口9も吸気口10も埃や砂塵の侵入を防ぐためインソール1の側方に向けて開口している。図1に示すように、インソール1の上面の足指の間に相当する位置に数箇所スリット状切れ目13を設けてあり、ここからも排気されるようにして足指間の乾燥が促進されるようにしてある。スリット状にしてあるのは、埃や砂塵の侵入を防ぐためである。
【0047】
空気室6は、踵の押圧力で圧縮する時は空気を排出し、圧力解放で復元膨張する時は空気を吸入する弾性体5で構成されている。空気を吸入する時、吸気通路8は隙間状態となっているが、押圧して塞がない限り空気は通って流れて吸入される。より一層空気を通り易くするために、吸気通路8に薄いウレタンフォームを内蔵して隙間を広くしてもよく、吸気通路8を形成する部材に弾性機能を持たせて隙間を広くしてもよい。また、上記では排気通路7の厚さを略3mmとしているが、排気通路7の厚さは必ずしも必要ではなく、単なる隙間であっても押圧して閉鎖しない限り空気は通って流れるから、吸気通路8のような隙間でもよい。この場合、弾性体5の全体を空気室6とすることができる。
【0048】
以上述べたインソール1の形態は、靴に後入れ又は取り外し可能ないわゆる「中敷」としても、或いは、靴に組み込まれるいわゆる「中底」とすることもできる。靴に組み込んだ「中底」とする場合は、インソール1の空間3を形成するのに必ずしも周りをシート状の部材2で囲んで包む必要はなく、靴の各パーツがインソール1の空間3を形成することができる。例えば、既存のソールを底面にして、側面を靴のアッパーが囲んで、上面のみをシート材で覆って空間3を形成することができる。また、既存のインソールやミッドソールやアウターソールの間に挟まれて、側面をアッパーが囲んで空間3を形成することができる。つまり、平板な袋状の空間3は如何なる手段によって形成されてもよい。靴に組み込んだ「中底」とした場合は、吸気口10を靴の外部に開口することができ、より一層新鮮な外気を吸入することができる。
【0049】
また、インソール1の空間3に弾性体5を内蔵して、排気通路7と空気室6を一体とすることができ、採用する弾性体5の素材の硬度、反発係数、厚さ寸法を様々に設定することで、多様な使い心地や感触が得られ、多彩なバリエーション豊かな足裏の衝撃吸収機能と換気機能を兼ね備えたインソール1を実現することができる。
【0050】
上記の排気通路7の厚さ3mmと空気室6の厚さ12mmは、一般的なビジネスシューズやジョギングシューズでの使用を想定しているが、これらの厚さを変えることにより、多種多様な靴に対応した最適なインソール1を実現することができる。例えば、長靴やレインシューズ等では靴内の空間に余裕があり、また、これらの靴は蒸れ易いので、空気室6は可能な限り厚く20mm程度とするのが望ましい。一方、フィットするランニングシューズや他のスポーツシューズ等では、空気室6はあまり厚くできないが運動量の多さ、つまり、圧縮回数の多さで換気能力は維持できると考えられる。
【0051】
また、本発明のインソール1の構成要素の一つである平板な袋状の空間3は、踵の加圧で収縮し、圧力解放で復元膨張する弾性機能を具備していればよいから、必ずしもこの空間3に弾性体5を内蔵する必要はなく、この空間3を形成する周りの部材2に弾性機能を持たせることにより、この空間3を中空にすることができる。内部を中空にすることで空気容量が増大し換気効率の向上が図れる。靴内という限られたスペースで、換気効率向上につながる空気容量増大は大きなメリットである。例えば、空気室を中空として、空気室の厚さを12mmとした場合、空気容量はおおよそ40ccとなる。
【実施例0052】
本発明のインソール1を「中敷」いわゆる「インナーソール」とした実施例を、図1の斜視図、図2の平面図、図3の側面図、図5の断面図に示している。各部分の配設や構成は前述の段落番号[0045][0046][0047]に詳述しているので省略する。中敷とした場合、足裏形を成した平板な袋状の空間3を形成する部材2は、合成樹脂、天然または合成ゴム、シリコンゴム、プラスチック、皮革、布など、柔軟性が有り、通気性が少なく、吸湿性が有るシート状の材料が適当である。
【符号の説明】
【0053】
1 本発明のインソール
2 空間の周りを囲む部材
3 平板な袋状の空間
4 後部シート
5 弾性体
6 空気室
7 排気通路(排出通路)
8 吸気通路(吸入通路)
9 排気口(排出口)
10 吸気口(吸入口)
11 足指付根部
12 踵部
13 スリット状切れ目
14 自由縁辺
15 前端部
16 後端部
図1
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