(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087232
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】防寒用衣類
(51)【国際特許分類】
A41D 13/05 20060101AFI20230616BHJP
A41D 13/005 20060101ALI20230616BHJP
A41D 1/06 20060101ALI20230616BHJP
A41D 1/085 20180101ALI20230616BHJP
【FI】
A41D13/05 143
A41D13/005 101
A41D1/06 L
A41D1/06 501A
A41D1/06 502E
A41D1/085
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201505
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】594011637
【氏名又は名称】株式会社トランサポート
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】端 雅彦
【テーマコード(参考)】
3B011
【Fターム(参考)】
3B011AA05
3B011AA12
3B011AB11
3B011AC13
(57)【要約】
【課題】大腿部の効果的な保温状態を維持できる防寒用衣類を提供すること。
【解決手段】カバー体10は、左右の大腿部を個別に被覆可能な筒状の第1部位E11、E21と、第1部位E11、E21の上方に該第1部位E11、E21と一体に設けられる第2部位E12、E22と、を有し、スラックスBの表面に対するカバー体10の下方への移動を規制する滑止部材30(規制手段)を備え、第2部位E12、E22はスラックスBの表面に装着されたときに股関節Kの外側方位置及びその近傍に配置される特定部20A、20Bを少なくとも有し、滑止部材30は、カバー体10のうち特定部20A、20Bの下方への移動を規制する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着されたボトムス表面を覆うように装着されるカバー体を有する大腿部用の防寒用衣類であって、
前記カバー体は、
各大腿部における膝から股下までの部位を個別に被覆可能な筒状の第1部位と、
前記第1部位の上方に該第1部位と一体に設けられる第2部位と、
を有し、
ボトムス表面に対する前記カバー体の下方への移動を規制する規制手段を備え、
前記第2部位は、ボトムス表面に装着されたときに股関節の外側方位置または該股関節の外側方近傍位置に配置される特定部を少なくとも有し、
前記規制手段は、前記カバー体のうち前記特定部の下方への移動を規制する、
ことを特徴とする防寒用衣類。
【請求項2】
前記規制手段は、前記カバー体がボトムス表面に装着されたときに該ボトムス表面に当接して前記特定部の下方への移動を規制する滑止部材であることを特徴とする請求項1に記載の防寒用衣類。
【請求項3】
前記カバー体は、該カバー体を周方向に締め付け可能な締付手段を備え、
前記締付手段による締め付けにより前記特定部がボトムス表面に押し付けられることを特徴とする請求項1または2に記載の防寒用衣類。
【請求項4】
前記カバー体は、該カバー体がボトムス表面に装着されたときに、上端縁の一部が脚の付け根に沿うように傾斜して配置されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の防寒用衣類。
【請求項5】
前記締付手段は、前記カバー体の上端縁に沿って設けられることを特徴とする請求項4に記載の防寒用衣類。
【請求項6】
前記特定部は、該特定部以外の部分よりも伸縮性が低い生地で形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の防寒用衣類。
【請求項7】
前記規制部材は、弾性変形可能な弾性部材にて構成され、ボトムス表面側に向けて突出する複数の突起部を有することを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の防寒用衣類。
【請求項8】
前記カバー体は、周方向の一端部の表面側に他端部を重ね合わせて貼着することにより直径を調整可能であり、前記特定部は、前記一端部と前記他端部とのうち少なくとも一方に設けられることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の防寒用衣類。
【請求項9】
前記規制手段は、係止部と被係止部との間に配置された対象物を挟持可能なクリップを含み、前記係止部を前記ボトムスのポケット内に挿入する一方で前記被係止部を該ポケット外に配置し、前記係止部と前記被係止部との間にポケットの表地と前記対象物としての前記特定部とを配置して挟持することで、前記特定部の下方への移動を規制することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の防寒用衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用する衣類に対して補助的に防寒機能を付加する防寒用衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
着用する衣類に対して補助的に防寒機能を発揮するべく用いられるものとして、一般に手袋やマフラー、足元の防寒にはボトムスの下で肌に直接着用するレギンスなどが一般的である。レギンスは臀部から大腿部、下腿部にかけて身体に密着するようになっており、薄手ながら防寒機能の効果が高いという特徴がある。一方で、レギンスはボトムスの下に一体に着用するため、手袋やマフラーなどと異なり着用者を取り巻く気温環境によって適宜着脱を行うことは困難である。
【0003】
その他の下半身用の防寒用衣類としては所謂レッグウォーマーが知られている。例えば特許文献1に開示されるレッグウォーマーは、繊維素材を筒状に編み込んで形成され、伸縮性が高い構造となっており、着用者を取り巻く気温環境によって適宜ボトムスの上から着用と脱衣が可能となっている。レッグウォーマーは足首から膝下までの下腿部に着用するものであり、最も太さのある脹脛(ふくらはぎ)から膝に向けて細くなる部分に上端側の開口部が位置することで、十分に窄まった開口部が脹脛を超えないために、レッグウォーマー自体が下方にずり落ちにくくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3204170号公報(第9頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に体表側に位置する血管として特に太い大腿動脈が通る大腿部を冷やさないようにすることが、防寒機能の効率を高める上で重要といわれている。大腿部の保温を行うために、特許文献1のような伸縮性のあるレッグウォーマーを大腿部まで引き上げて用いることもできるが、大腿部は付け根側から膝側に向けて漸次細くなる形状であるため、特に屈伸運動などの動きによってレッグウォーマーの上端側が徐々に下方にずり落ちてしまう。そのため、大腿部でのレッグウォーマーの上下位置が定まらず、大腿部の効果的な保温状態を維持できない虞があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、大腿部の効果的な保温状態を維持できる防寒用衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の防寒用衣類は、
被着されたボトムス表面を覆うように装着されるカバー体を有する大腿部用の防寒用衣類であって、
前記カバー体は、
各大腿部における膝から股下までの部位を個別に被覆可能な筒状の第1部位と、
前記第1部位の上方に該第1部位と一体に設けられる第2部位と、
を有し、
ボトムス表面に対する前記カバー体の下方への移動を規制する規制手段を備え、
前記第2部位は、ボトムス表面に装着されたときに股関節の外側方位置または該股関節の外側方近傍位置に配置される特定部を少なくとも有し、
前記規制手段は、前記カバー体のうち前記特定部の下方への移動を規制する、
ことを特徴としている。
この特徴によれば、歩行の際に股関節の屈曲と伸展とが繰り返されると、ボトムスの前面や後面は引っ張られたり縮んで皺になったりしやすいが、ボトムスにおける股関節の外側方は、ボトムスの前面や後面に比べて引っ張られたり縮んで皺になったりしにくい。つまり、ボトムスの表面において大腿部の回動中心となる股関節の外側方位置は、股関節が屈曲や伸展するときに皮膚に対し擦り動きにくく、特定部との相対移動が生じにくい部分であるため、特定部の下方への移動を股関節の外側方位置にて規制手段により規制することで、カバー体のずり落ちを好適に防止することができる。
【0008】
前記規制手段は、前記カバー体がボトムス表面に装着されたときに該ボトムス表面に当接して前記特定部の下方への移動を規制する滑止部材であることを特徴としている。
この特徴によれば、ボトムスに対し滑止部材を当接するだけで特定部の下方への移動を規制することができる。また、滑止部材をポケットの開口下端近傍に配置することで、特定部をボトムスにおける股関節の外側方位置に容易に配置することができる。
【0009】
前記カバー体は、該カバー体を周方向に締め付け可能な締付手段を備え、
前記締付手段による締め付けにより前記特定部がボトムス表面に押し付けられることを特徴としている。
この特徴によれば、締付手段による締め付けにより特定部がボトムス表面に押し付けられ規制力が増大されるため、カバー体がずり落ちにくくなる。また、特定部を含む周方向に延びる領域以外は規制手段により規制されたり締付手段により締め付けられたりすることなく、カバー体とボトムスとの相対移動が許容されるため、カバー体における特定部以外の部分がボトムスにより引っ張られてずり落ちることが防止される。また、股関節の動きがカバー体により妨げられることがない。
【0010】
前記カバー体は、該カバー体がボトムス表面に装着されたときに、上端縁の一部が脚の付け根に沿うように傾斜して配置されることを特徴としている。
この特徴によれば、股関節の屈曲時にカバー体が折り曲げられるなどの影響が生じない範囲でボトムス表面を広く覆うことができる。
【0011】
前記締付手段は、前記カバー体の上端縁に沿って設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、カバー体が周方向に締め付けられるだけでなく、特定部の反対側となる大腿部の内側面側が上方に引っ張られるので、カバー体がよりずり落ちにくくなる。
【0012】
前記特定部は、該特定部以外の部分よりも伸縮性が低い生地で形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、特定部に下方への強い力が加わった場合に、生地が伸びて規制位置がずれてしまうことを防止できる。
【0013】
前記規制部材は、弾性変形可能な弾性部材にて構成され、ボトムス表面側に向けて突出する複数の突起部を有することを特徴としている。
この特徴によれば、ボトムス表面が皺になって波打ったりしていても、各突起部が生地に応じた形状に変形することで接触しやすくなるので、規制力を高めることができる。
【0014】
前記カバー体は、周方向の一端部の表面側に他端部を重ね合わせて貼着することにより直径を調整可能であり、前記特定部は、前記一端部と前記他端部とのうち少なくとも一方に設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、カバー体の生地が重なって一体化されることで強度が高まる部分に特定部が設けられることで、特定部に負荷がかかることで該特定部が変形したり破損したりすることが防止される。
【0015】
前記規制手段は、係止部と被係止部との間に配置された対象物を挟持可能なクリップを含み、前記係止部を前記ボトムスのポケット内に挿入する一方で前記被係止部を該ポケット外に配置し、前記係止部と前記被係止部との間にポケットの表地と前記対象物としての前記特定部とを配置して挟持することで、前記特定部の下方への移動を規制することを特徴としている。
この特徴によれば、ポケットを利用することで、クリップの係止部をボトムスの生地裏側に配置することができ、これによりボトムスの生地と特定部とを挟持することができるため、ボトムスの生地を傷つけることなく特定部の下方への移動を規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の防寒用衣類を装着した使用者を示す斜視図である。
【
図2】(a)は防寒用衣類を表地側から視た展開図、(b)は裏地側から視た展開図である。
【
図3】(a)は
図2のA-A断面図、(b)は
図2(b)のB-B断面図である。
【
図4】防寒用衣類の装着方法を説明するための斜視図である。
【
図5】(a)は防寒用衣類を装着した使用者の大腿部を示す右側面図、(b)は正面図、(c)は背面図である。
【
図6】防寒用衣類を装着した使用者の大腿部を示す右側面図である。
【
図8】(a)は
図6のD-D断面図、(b)は使用者の大腿部を示す正面図である。
【
図9】(a)(b)(c)は股関節の屈曲、(d)(e)は股関節の伸展を示す図である。
【
図10】(a)は股関節の内転、(b)は外転、(c)は内旋、(d)は外旋を示す図である。
【
図11】(a)~(c)はスラックスに対しカバー体がずり落ちる要因の一例を説明するための図である。
【
図12】防寒用衣類の使用状態の一例を示す図である。
【
図13】本発明の変形例1としての防寒用衣類を装着した使用者の大腿部を示す右側面図である
【
図14】(a)はポケットの周辺を示す断面図、(b)はクリップの他の使用例を示すポケット周辺の断面図である。
【
図15】(a)は本発明の変形例2としての防寒用衣類を装着した使用者の大腿部を示す右側面図、(b)は背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る防寒用衣類を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0018】
実施例に係る防寒用衣類について、
図1~
図10を参照して説明する。
図1は、本発明の防寒用衣類を装着した使用者を示す斜視図である。
図2は、(a)は防寒用衣類を表地側から視た展開図、(b)は裏地側から視た展開図である。
図3は、(a)は
図2のA-A断面図、(b)は
図2(b)のB-B断面図である。
図4は、防寒用衣類の装着方法を説明するための斜視図である。
図5は、(a)は防寒用衣類を装着した使用者の大腿部を示す右側面図、(b)は正面図、(c)は背面図である。
図6は、防寒用衣類を装着した使用者の大腿部を示す右側面図である。
図7は、
図6のC-C断面図である。
図8は、(a)は
図6のD-D断面図、(b)は使用者の大腿部を示す正面図である。
図9は、(a)(b)(c)は股関節の屈曲、(d)(e)は股関節の伸展を示す図である。
図10は、(a)は股関節の内転、(b)は外転、(c)は内旋、(d)は外旋を示す図である。
図11は、(a)~(c)はスラックスに対しカバー体がずり落ちる要因の一例を説明するための図である。
図12は、防寒用衣類の使用状態の一例を示す図である。尚、本実施例では、本発明について、使用者の前後左右方向を基準として説明することとし、使用者からみて正面側を正面、背面側を背面、右脚側を「右側」、左脚側を「左側」として説明する。
【0019】
(防寒用衣類の構成)
図1に示されるように、防寒用衣類1R、1Lは、使用者Pが着用しているボトムス(例えば、スラックスBなど)の右脚の大腿部と左脚の大腿部各々に巻き付けるようにして装着することが可能な大腿部用の防寒用衣類である。本実施例では、例えば、ゴルフやウォーキングなど種々のスポーツにて使用される保温性の高い比較的厚手の繊維が用いられ、利用者の脚に密着するような、いわゆるスキニータイプの防寒用のスラックスBに装着する防寒用衣類について説明する。尚、本実施例では、ボトムスの一例としてスラックスBを適用した形態を例示するが、スラックス以外の種々のボトムス、例えば、スポーツ以外のアウトドアや現場作業などにて使用されるボトムス等も適用可能である。つまり、本発明の防寒用衣類は、スポーツシーンだけでなくスポーツシーン以外の種々のシーンにおいて使用可能である。
【0020】
図1~
図4に示されるように、防寒用衣類1R、1Lは、使用者Pが着用したスラックスBの表面における大腿部に相当する領域を被覆可能な筒状を成し、1枚の布状に展開可能なカバー体10から主に構成されている。尚、左右の防寒用衣類1R、1Lは互いに左右対称形状であるため、以下においては右足用の防寒用衣類1Rについて説明し、共通の構成については共通の符号を付すことで左足用の防寒用衣類1Lの詳細な説明は省略する。
【0021】
図2~
図4に示されるように、カバー体10は、スラックスBの表面に装着されたときに大腿部の前面側(環状面の前側)に配置される前部10Aと、大腿部の後面側(環状面の後側)に配置される後部10Bとを有し、これら前部10Aと後部10Bの一辺を縫い合わせることにより一体化されて1枚のシート状に形成されている。また、前部10Aと後部10Bとは、それぞれ表地11Aと裏地11Bとを重ね合わせて各縁辺部や所定部位を縫い合わせることにより1枚のシート状に形成されている。
【0022】
尚、カバー体10は、前部10Aと後部10Bとを縫い合わせることにより一体化されて1枚のシート状に形成されていたが、前部10Aと後部10Bとが予め1枚の生地により形成されていてもよい。また、前部10Aと後部10Bは、各々表地11Aと裏地11Bからなる2重構造とされているが、3枚以上の生地または1枚の生地にて構成されていてもよい。また、本実施例では、表地11Aや裏地11Bは、伸縮性を有するポリエステル系の生地からなるが、生地の材質はポリエステル系に限定されるものではなく、ポリウレタン、ナイロン、アクリル、コットン(綿)、毛などからなる種々の生地を用いてもよい。また、保温性、防風性、防雨性などの機能を備える生地であることが好ましい。尚、カバー体10は必ずしも全体が伸縮性を有していなくてもよく、一部が伸縮性を有していないものや、全体が伸縮性を有していないものであってもよい。
【0023】
前部10Aは、カバー体10がスラックスBの表面に装着されたときに、使用者Pの脚の付け根の前側(鼠径部)に沿うように配置される上辺12Aと、使用者Pの脚の付け根の外側に配置される上辺12A’と、膝上にて左右方向に配置される下辺12Bと、大腿部の外側面(右側面)にて上下方向に配置される外辺12Cと、大腿部の内側面にて上下方向に配置される内辺12Dと、を有する。上辺12Aは、下辺12Bに対し外方に向けて離れるように傾斜し、上辺12A’は、略山型をなし下辺12Bに対し傾斜している。外辺12Cは、下辺12Bに対し略直交する直線からなり、長手方向の略中央位置には切欠部12Eが形成されている。内辺12Dは、外辺12Cに対し下方に向けて近づくように傾斜している。
【0024】
このように前部10Aは、下辺12Bに平行であって上辺12Aと内辺12Dとの角部ADを通過する直線TA、下辺12B、外辺12Cの一部及び内辺12Dにより囲まれる第1部位E11と、上辺12A、12A’、直線TA及び外辺12Cの一部により囲まれる第2部位E12と、を有している。
【0025】
後部10Bは、カバー体10がスラックスBの表面に装着されたときに、使用者Pの脚の付け根の後ろ側(臀部の下部)に沿うように配置される上辺13Aと、使用者Pの脚の付け根の外側に配置される上辺13A’と、膝裏上に左右方向に配置される下辺13Bと、大腿部の外側面(右側面)にて上下方向に配置される外辺13Cと、大腿部の内側面にて上下方向に配置される内辺13Dと、を有する。上辺13Aは、下辺13Bに対し外方に向けて離れるように傾斜し、上辺13A’は、略山型をなし下辺13Bに対し傾斜している。外辺13Cは、下辺13Bに対し略直交する直線からなり、長手方向の略中央位置には切欠部13Eが形成されている。内辺13Dは、外辺13Cに対し下方に向けて近づくように傾斜しており、前部10Aの内辺12Dと縫い合わされている。
【0026】
このように後部10Bは、下辺13Bに平行であって上辺13Aと内辺13Dとの角部ADを通過する直線TB、下辺13B、外辺13Cの一部及び内辺13Dにより囲まれる第1部位E21と、上辺13A、13A’、直線TA及び外辺13Cの一部により囲まれる第2部位E22と、を有している。
【0027】
第1部位E11、E21は、右脚の大腿部に装着されたときに筒状となって膝から股下付近までの部位を被覆する。また、第2部位E12、E22は、右脚の大腿部に装着されたときに股下より上方の部位に配置され、前部10Aの第2部位E12は第1部位E11の上方に該第1部位E11と一体に設けられ、後部10Bの第2部位E22は第1部位E21の上方に該第1部位E21と一体に設けられる。尚、本実施例では、前部10Aと後部10Bとは外形状が異なるが、前部10Aと後部10Bとは、内辺12D、13Dを基準とする線対称形状とされていてもよい。
【0028】
前部10Aの裏面における外辺12C側には、複数の面ファスナ部14Aが下辺12Bに対し略平行に取付けられ、また、後部10Bの表面における外辺13C側には、複数の面ファスナ部14Bが下辺13Bに対し略平行に取付けられている。面ファスナ部14A、14Bのうち一方は、一面に複数のフック状の起毛を有する帯状に形成されたいわゆる雄の面ファスナ部とされ、他方は、一面に複数のループ状の起毛を有する、いわゆる雌の面ファスナ部とされているため、後部10Bの外辺13C側の表面に前部10Aの外辺12Cを重ね合わせ、面ファスナ部14Bに面ファスナ部14Aを係止させることで、前部10Aと後部10Bとにより筒状のカバー体10が構成される。また、面ファスナ部14Bに対する面ファスナ部14Aの長手方向の係止位置を変えることでカバー体10の直径を変更可能であるため、大腿部の太さに合わせてカバー体10を装着することができる。
【0029】
前部10A及び後部10Bの裏面の上部には、伸縮性を有する帯状のゴム材15が上辺12A、13Aに沿うように配置されている。ゴム材15は、ゴム材の収縮力により前部10A及び後部10Bの上辺12A、13A付近が長手方向に縮む一方で、ゴム材が伸張することで前部10A及び後部10Bの上辺12A、13A付近が長手方向に伸びるように、長手方向の両端及び内辺12D、13D付近にて前部10A及び後部10Bに取付けられている。
【0030】
また、ゴム材15の裏面(スラックスBとの当接面)には、アクリル系合成ゴム材等からなり、ゴム材15の伸縮に応じて伸縮可能な上下2条の滑止部16A、16Bが長手方向に向けて延設されている。尚、
図3(a)に示されるように、滑止部16A、16Bは、ゴム材15の裏面から突出するように縦断面略凸状に形成されている。
【0031】
第2部位E12における外辺12Cと内辺12Dとの中間位置より外辺12C側の領域には、非伸縮性を有するシート状の芯地17A(
図2において網点で示す領域)が表地11Aと裏地11Bとの間に設けられている。また、第2部位E22における外辺13Cと内辺13Dとの中間位置より外辺13C側の領域には、非伸縮性を有するシート状の芯地17B(
図2において網点で示す領域)が表地11Aと裏地11Bとの間に設けられている。
【0032】
これら第2部位E12において芯地17Aが配置される部分と、第2部位E22において芯地17Bが配置される部分とは、カバー体10をスラックスBの大腿部に装着したときに股関節Kの外側方位置に配置される特定部20A、20Bとされている(
図6参照)。
【0033】
また、後部10Bの裏地11Bにおける特定部20Bの上部に対応する位置には、滑止部材30が取付けられている。
図3(b)に示されるように、滑止部材30は、弾性変形可能なアクリル系合成ゴム材等からなり、裏地11B側から見て、湾曲凸部が上辺13A’側を向く円弧状に形成され、裏地11Bに固着されるベース部30Aと、ベース部30Aの裏面(スラックスBとの当接面)に複数突設された略円錐形状の突起部30Bと、から構成されており、カバー体10がスラックスBに装着されたときに、複数の突起部30BがスラックスBの生地の表面に当接した状態で押し付けられることにより、特定部20Bの下方への移動が規制されるようになっている(
図7参照)。
【0034】
図2に戻って、前部10Aの表地11Aにおける第1部位E11の上部には、表地11Aの一部を開閉可能な線ファスナ部18が、下辺12Bに対し傾斜するように設けられており、線ファスナ部18を開放することで、
図3(a)に示されるように、表地11Aと裏地11Bとの間に形成された空間S内に手を挿入して温めることができるようになっている(
図12参照)。尚、本実施例では、線ファスナ部18から表地11Aと裏地11Bとの間の空間全域に手を挿入可能に形成されていたが、表地11Aと裏地11Bとの間に、表地11A及び裏地11Bとは別個の保温性や断熱性が高い生地を袋状に設け、該袋状の空間内のみ手を挿入可能としてもよい。
【0035】
このように、大腿部における膝から股下までの部位を被覆可能な筒状の第1部位E11、E21及び該第1部位E11、E21の上方に一体に設けられる第2部位E12、22からなるカバー体10と、スラックスBの表面に対するカバー体10の特定部20A、20Bの下方への移動を規制する規制手段としての滑止部材30と、を備える防寒用衣類1L、1Rは、使用者Pの左右の脚の大腿部に個別に取付け、取外しできるようになっている。
【0036】
(防寒用衣類の装着態様)
詳しくは、
図4に示されるように、カバー体10を1枚のシート状に展開した状態で使用者Pの股下に挿入して前後方向に向けて配置した後、内辺12D、13Dを基準として折り曲げるようにして、右脚の大腿部の前面側に前部10Aを配置し、大腿部の後面側に後部10Bを配置する。次いで、後部10Bの特定部20Bに設けられた滑止部材30を、スラックスBの外側面(右側面)における股関節Kの右側方近傍位置(例えば、スラックスBの右ポケットの開口BPの下端近傍位置)に配置されるように、カバー体10の周方向(大腿骨を中心軸とする円周方向)の位置を微調整し、滑止部材30をスラックスBの外側面(右側面)に押し当てる。そして、前部10Aの外辺12C側の端部(カバー体10の一端部)を周方向に引っ張りながら、後部10Bの外辺13C側の端部(カバー体10の他端部)の表側に重ねて、面ファスナ部14Bに面ファスナ部14Aを係止させる。これにより、スラックスBや靴を脱いだりすることなく、使用者Pの右脚の大腿部にカバー体10が巻き付けられる。また、左脚の大腿部には防寒用衣類1Lを右脚と同じように巻き付ければよい。
【0037】
図5に示されるように、防寒用衣類1R、1Lは、使用者Pの左右の大腿部に個別に装着された状態において、大腿部の前面側に前部10Aが、後面側に後部10Bが配置される。下辺12B、13Bから直線TA、TBまでの第1部位E11、E21は膝上から股下までの間に配置され、直線TA、TBから上辺12A、12A’、13A、13A’までの第2部位E12、E22(特定部20A、20B)は、股下(角部AD)より上方位置に配置される。
【0038】
また、
図5(b)に示されるように、内辺12D、13Dから外辺12C、13Cに向けて上方に傾斜する前部10Aの上辺12Aは、脚の付け根(鼠径部)の前側に沿うように配置される。詳しくは、大腿骨Dの上部にある大腿骨頭と呼ばれる球状の部分が骨盤の寛骨臼と呼ばれる凹部に嵌り込んでなる股関節Kの前方位置を通過するように配置される。
図5(c)に示されるように、内辺12D、13Dから外辺12C、13Cに向けて上方に傾斜する後部10Bの上辺13Aは、臀部の下部に沿うように配置される。
【0039】
また、前部10Aの下辺12Bは膝上部に配置され、後部10Bの下辺13Bは膝裏上部に配置される。外辺12C、13Cは、スラックスBの脇線WLに沿うように上下方向に配置され、内辺12D、13Dは、スラックスBの股下線MLに沿うように上下方向に配置される。
【0040】
図5(a)、
図6、
図7及び
図8(a)に示されるように、前部10Aの特定部20A及び後部10Bの特定部20Bは、スラックスBの外側面(右側面)における股関節Kの外側方位置に配置される。詳しくは、特定部20A、20Bは、スラックスBの外側面(右側面)において股関節Kに対応する領域(
図6において点線で示される円形の領域)だけでなく、股関節Kの周辺領域(例えば、股関節Kを示す円形領域から前後及び下方の直線TA、TBに向けて拡がる領域)に配置される。言い換えると、カバー体10は、スラックスBの表面に装着されたときに、股関節Kの右側方位置及び該股関節Kの右側方近傍位置に配置される特定部20A、20Bを有している。
【0041】
尚、特定部は、例えば、スラックスBの外側面(右側面)において、股関節Kを中心とする半径約5cmの円の範囲に配置される部分であることが好ましく、必ずしも芯地17A、17Bと対応していなくてもよい。また、スラックスB(大腿部)の外側面(右側面)とは、例えば、
図8(a)に示されるように、大腿部を前後左右に4分割したときに、前端と右端の中間位置から後端と右端の中間位置までの間の約90度の範囲であればよい。
【0042】
そして、特定部20Bの上部に配置された滑止部材30は、スラックスBの外側面(右側面)において股関節Kに対応する位置に配置される。詳しくは、
図7に示されるように、大腿部の外側面は、股関節Kに対応する位置が最も右側方に突出しており、股関節Kより上方は、上方に向けて左側に傾斜する上向きの傾斜面とされ、股関節Kより下方は、下方に向けて左側に傾斜する下向きの傾斜面となっている。よって、滑止部材30は、スラックスBの外側面(右側面)において股関節Kに対応する位置、つまり、上向きの傾斜面に配置されることで下方に滑りにくくなる。
【0043】
また、
図7及び
図8に示されるように、カバー体10は、前部10A及び後部10Bの生地が伸縮性を有するため、スラックスBの表面に装着されるときに生地を若干伸張させた状態で面ファスナ部14Bに面ファスナ部14Aを係止することで、大腿部を緩く締め付けるように装着される。また、カバー体10の上辺12A、13A近傍位置に、伸縮性を有するゴム材15が上辺12A、13Aに沿って周方向に設けられていることで、ゴム材15を伸張させた状態で装着したときに、ゴム材15の収縮力により、カバー体10の上辺12A、13A近傍部の直径が小さくなるように周方向に締め付けられるようになっている(
図8(a)参照)。
【0044】
また、ゴム材15の収縮力により、カバー体10の上辺12A、13A近傍部(第2部位E12、E22)の直径が小さくなるように周方向に締め付けられることで、カバー体10の上部に設けられた特定部20A、20BがスラックスBの表面に向けて押し付けられる。さらに、これら特定部20A、20Bは非伸縮性の芯地17A、17Bにて構成されていることで、生地が伸びることによりスラックスBの表面への押し付け力が弱まることが回避される。このように滑止部材30がスラックスBの表面に向けて強く押し付けられることで、スラックスBの表面に対するカバー体10の特定部20A、20Bの下方への移動を規制する規制力(摩擦力)が好適に高まるため、カバー体10がずり落ちにくくなる。
【0045】
また、
図8(b)に示されるように、ゴム材15は、カバー体10の上辺12A、13Aに沿って脚の付け根の内側から外側に向けて上方に傾斜するように設けられることで、ゴム材15の収縮力によりカバー体10の上部の直径が小さくなるように周方向へ締め付けられたときに、カバー体10における上辺12Aの傾斜下位側(股下付近)を上向きに引っ張り上げる力が働くため、よりずり落ちにくくなる。
【0046】
尚、特に図示はしないが、面ファスナ部14Bから面ファスナ部14Aを取外して係止状態を解除することで、使用者Pの右脚の大腿部からカバー体10を容易に取外すことができる。このようにカバー体10は、周りの気温や使用者Pの体温等に合わせて、スラックスBや靴等を脱いだりすることなく、ジャンパーなどと同じようなアウターとして装着したり取外されるように使用することができる。
【0047】
(股関節の動作に伴うスラックスやカバー体の動き)
次に、股関節Kの動作に伴うスラックスBやカバー体10の動きについて、
図9及び
図10に基づいて説明する。尚、
図10において黒色三角は、特定部20A、20Bの滑止部材30の配置位置を示している。
【0048】
まず、股関節Kは、大腿骨Dの先端にあるボールの形をした大腿骨骨頭と、骨盤側で骨頭の受け皿になる深いお椀の形をした臼蓋との組み合わせでできた、いわゆる球(きゅう)関節であり、動き方には、屈曲・伸展、内転・外転、内旋・外旋などがあり、これらはそれぞれ対をなす動きをする。
【0049】
「屈曲」は、関節の角度が小さくなるような運動(
図9(a)、(b)参照)、「伸展」は関節の角度を大きくするような運動であり(
図9(c)参照)、膝を曲げた状態が屈曲、伸ばした状態が伸展である。また、「内転」は体の正中面に近づける運動(
図10(a)参照)、「外転」は体の正中面から遠ざける運動であり(
図10(b)参照)、大腿骨の長軸を軸にしてコマのように回転させる動きが回旋であり、「内旋」は正中面に近づける動き(内側に回転させる動き、
図10(c)参照)、「外旋」は正中面から遠ざけるような動きである(外側に回転させる動き、
図10(d)参照)。
【0050】
人の身体が動くには、関節、骨が動く必要があり、筋肉は骨と骨に付着しているので、筋肉が伸び縮みすることで関節が動いて身体を動かすことができる。例えば、大腿四頭筋は、脚の付け根の股関節K、大腿骨から膝の骨および脛の骨に付着しているので、大腿四頭筋が縮むと曲がっている膝は伸びる動きが起こり、反対に、大腿四頭筋が伸びると膝を曲げる動きが起こる。また、筋肉の伸縮により皮膚も動く。よって、スラックスBの生地は、股関節Kの動きに応じて筋肉や皮膚が動くことで、所定方向に引っ張られたり縮んで皺になったりするように皮膚に対し擦り動く(相対移動する)。
【0051】
例えば、
図9(a)、(b)に実線矢印で示されるように、屈曲時においては、スラックスBの前面側の生地は付け根に近づくように縮んで皺になり、後面側の生地は付け根から離れるように引っ張られる。また、
図9(c)に示されるように、大腿部の前面側の大腿四頭筋K1は伸張し、後面側のハムストリングK2は収縮する。一方、
図9(d)に示されるように、伸展時においては、スラックスBの前面側の生地は付け根から離れるように引っ張られ、後面側の生地は付け根に近づくように縮んで皺になる。また、
図9(e)に示されるように、大腿部の前面側の大腿四頭筋K1は収縮し、後面側のハムストリングK2は伸張する。
図10(a)に示されるように、内転時においては、スラックスBの前外側の生地は付け根から離れるように引っ張られ、前内側の生地は付け根に近づくように縮んで皺になる。一方、
図10(b)に示されるように、外転時においては、スラックスBの前外側の生地は付け根に近づくように縮んで皺になり、前内側の生地は付け根から離れるように引っ張られる。
図10(c)に示されるように、内旋時においては、スラックスBの前外側の生地は内側に向けて引っ張られ、
図10(d)に示されるように、外旋時においては、スラックスBの前内側の生地は外側に向けて引っ張られる。
【0052】
これら屈曲・伸展、内転・外転、内旋・外旋のうち、屈曲・伸展については、内転・外転、内旋・外旋に比べて動作角度が大きいため、股関節Kの屈曲または伸展に伴い、スラックスBの前面や後面の生地が付け根に対し離れたり近づいたりする移動量は、内転・外転、内旋・外旋のときよりも大きくなる。
【0053】
また、例えば、使用者Pがゴルフ場にてラウンドする場合、素振りやショットの際に股関節Kの内転・外転、内旋・外旋などの動作も行われるが、基本的には、歩きに伴う屈曲・伸展動作が行われる頻度の方が高い。また、アンジュレーションがきつい場合や、ショットがフェアウェイから外れて斜面を上り下りすることがある場合には、屈曲したり伸展したりする角度がより大きくなるため、スラックスBの前面や後面の生地が皮膚に対し擦り動いて、脚の付け根に対し離れたり近づいたりする移動量がより大きくなる(
図9(a)~(e)参照)。
【0054】
図9に示されるように、股関節Kが屈曲や伸展する場合、大腿部は股関節Kにおいて環状面に対し平行な左右方向を向く軸周りに前後に動くことで、スラックスBの生地の前面や後面は、屈曲・伸展に応じて脚の付け根に近づいたり離れたりするので、皮膚の表面に対し擦り動く量が大きいのに対し、スラックスBの生地の外側面や内側面は、屈曲・伸展に応じて脚の付け根で折れたり伸びたりしないので、皮膚の表面に対し擦り動く量が小さい。特に、スラックスBの外側面において股関節Kに対応する位置(股関節Kの真横)は回動中心に近いため、皮膚の表面に対し擦り動く量が極めて小さい。
【0055】
(カバー体のずり落ちの要因)
ここで、スラックスBに対しカバー体10がずり落ちる要因の一例について、
図11を用いて説明する。尚、
図11はカバー体のずり落ちの要因を説明するための概念図であるため、大腿部の動きの詳細などは省略する。
【0056】
図11(a)に示されるように、例えば、大腿部の所定部S1(例えば、大腿部の前面における所定部など)に対応する位置にスラックスBの所定部S2が配置されている状態で、このスラックスBの表面における所定部S2に対応する位置にカバー体10の滑止部材30が配置されると、この滑止部材30の摩擦力が、カバー体10の重さにより該カバー体10に作用する下向きの力より上回ることで、スラックスBの表面に対するカバー体10の下方への移動が規制される。
【0057】
そして、
図11(b)に示されるように、例えば、股関節Kが第1動作(例えば、屈曲)により、スラックスBが大腿部の皮膚に対して上方に引っ張られたとき、カバー体10には自重による下向きの力が作用しているとともに、大腿部の筋肉が収縮変形するなどの影響により滑止部材30がスラックスBの表面に押し付けられる力(摩擦力)が小さくなることで、大腿部及びカバー体10に対しスラックスBのみが相対的に擦り動いて上昇し、スラックスBの所定部S2が大腿部の所定部S1より上方に移動する。つまり、所定部S2と所定部S3とが上下に離れてしまう。
【0058】
その後、
図11(c)に示されるように、股関節Kが第1動作とは逆の第2動作(例えば、伸展)して、スラックスBを上方へ引っ張る力が解除されると、スラックスB及びカバー体10の双方には自重による下向きの力が作用することで、スラックスBは、所定部S2が大腿部の所定部S1に対応する位置まで下降するとともに、カバー体10も自重により下降するため、カバー体10の所定部S3も大腿部の所定部S1よりも下方位置まで下降する。このような要因により、スラックスBに装着したカバー体10のずり落ちが発生する。
【0059】
また、特に図示しないが、例えば、
図11(b)に示されるように、股関節Kが第1動作(例えば、屈曲)により、スラックスBが大腿部の皮膚に対して上方に引っ張られたとき、カバー体10には自重による下向きの力が作用しているものの、滑止部材30による摩擦力によりスラックスBと一緒にカバー体10も上昇することもあるが、
図11(c)に示されるようにスラックスBを上方へ引っ張る力が解除されて、スラックスBの所定部S2が元の所定部S1に対応する位置まで戻ったときに、カバー体10の自重が摩擦力を上回り、所定部S3が所定部S1、S2より下方にずり落ちてしまうことがある。そして、このような上下動を繰り返すうちにスラックスBに対するカバー体10の相対位置も少しずつ下方にずれていく。
【0060】
つまり、スラックスBの前面や後面の部分は、股関節Kの屈曲や伸展により生地が引っ張られたり縮んで皺になるなど皮膚の表面に対し擦り動く量が大きいとともに、筋肉が伸張したり収縮したり変形が生じやすい部分であることで、スラックスBとカバー体10との相対移動が生じやすいため、カバー体10の下方への移動を規制することが困難である。
【0061】
これに対し、スラックスBの外側面(右側面)において股関節Kに対応する部分(股関節Kの真横)は、股関節Kの屈曲・伸展に応じて脚の付け根で折れたり伸びたりしないので、スラックスBの前面や後面に比べて、皮膚の表面に対し擦り動く量が小さいとともに、筋肉が伸張したり収縮したり変形が生じにくい部分である。つまり、スラックスBの外側面における股関節Kに対応する部分では、股関節Kの屈曲・伸展に応じてカバー体10とスラックスBの表面との相対移動が生じにくく、また、筋肉の収縮による滑止部材30の押し付け力の低下が生じにくいため、カバー体10の特定部20Bの下方への移動を滑止部材30により好適に規制することができる。
【0062】
(作用・効果)
以上説明したように、本発明の実施例としてのカバー体10は、左右の大腿部を個別に被覆可能な筒状の第1部位E11、E21と、第1部位E11、E21の上方に該第1部位E11、E21と一体に設けられる第2部位E12、E22と、を有し、スラックスBの表面に対するカバー体10の下方への移動を規制する滑止部材30(規制手段)を備え、第2部位E12、E22はスラックスBの表面に装着されたときに股関節Kの外側方位置及びその近傍に配置される特定部20A、20Bを少なくとも有し、滑止部材30は、カバー体10のうち特定部20A、20Bの下方への移動を規制する。
【0063】
このように、歩行の際に股関節Kの屈曲と伸展とが繰り返されると、スラックスBの前面や後面は引っ張られたり縮んで皺になったりしやすいが、スラックスBにおける股関節Kの外側方は、スラックスBの前面や後面に比べて引っ張られたり縮んで皺になったりしにくい。つまり、スラックスBの外側面において大腿部の回動中心となる股関節Kの外側方位置は、股関節Kが屈曲や伸展するときにスラックスBが皮膚に対し擦り動きにくく、特定部20A、20Bとの相対移動が生じにくい部分であるため、股関節Kの外側方位置にて特定部20A、20Bの下方への移動を滑止部材30により規制することで、カバー体10のずり落ちを好適に防止することができ、これにより大腿部の効果的な保温状態を維持することが可能となる。
【0064】
また、規制手段は、カバー体10がスラックスB表面に装着されたときに該スラックスB表面に当接して特定部20A、20Bの下方への移動を規制する滑止部材30である。このようにすることで、スラックスBの外側面に滑止部材30を直接押し付けるだけで特定部20A、20Bの下方への移動を規制することができる。
【0065】
また、スラックスBのポケットで開口BPが縦長タイプのものについては、開口BPの直下付近が股関節Kの外側方位置に相当するので、滑止部材30を目印にして、ポケットの開口BP下端近傍に配置することで、特定部20A、20BをスラックスBの外側面における股関節Kに対応する位置に容易に配置することができる。また、カバー体10を常に適正な装着位置に配置することができる。
【0066】
また、特定部20A、20Bと滑止部材30は、スラックスBの前面や後面に配置すると股関節Kの屈曲や伸展の際に邪魔になり、内側面に配置する場合は他方の大腿部が邪魔になるが、スラックスBの外側面における股関節Kの外側方位置に配置されることで、大腿部の前面や後面や内面側に配置する場合に比べて邪魔になることがない。
【0067】
また、
図8(a)に示されるように、大腿部の前面や後面や内側面は、湾曲面にて構成されるのに対し、大腿部の外側面は、他の面に比べると曲率がやや小さく、フラットな面に近いため、湾曲面に滑止部材30を当接させる場合に比べて、しっかりフィットさせることができる。
【0068】
また、カバー体10は、該カバー体10を周方向に締め付け可能なゴム材15(締付手段)を備え、ゴム材15による締め付けにより特定部20A、20BがスラックスB表面に押し付けられる。このようにすることで、ゴム材15の締め付け力により特定部20A、20BがスラックスBの表面に押し付けられ規制力が増大されるため、カバー体10がずり落ちにくくなる。また、ゴム材15による締め付けにより、カバー体10の上辺部がスラックスBの周囲に締め付けられるとともに、滑止部16A、16Bによる摩擦力によって、スラックスBの表面に対しカバー体10が相対移動しにくくなる。
【0069】
また、本実施例のカバー体10は、カバー体10の上部に設けられた滑止部材30による規制力だけでなく、カバー体10の上辺12A、13Aに沿って設けられたゴム材15による締め付け力により、特定部20A、20Bを含む第2部位E12、E22のスラックスBに対する下方への移動が規制されている一方で、カバー体10の上部以外の部位(例えば、第1部位E11、E21)は、基本的には前部10A及び後部10Bの生地の伸縮性により緩く締め付けるように巻き付けられるだけで、比較的、スラックスBがカバー体10に対し相対移動可能なフリーな状態で装着される。
【0070】
このように、特定部20A、20Bを含む周方向に延びる領域以外(例えば、第2部位E12、E22以外の第1部位E11、E21)は、規制手段により規制されたり、締付手段により締め付けられたりすることなく、カバー体10と大腿部の皮膚との間でのスラックスBとの相対移動が許容されるため、カバー体10における特定部20A、20Bを含む第2部位E12、E22以外の部分(例えば、第1部位E11、E21など)がスラックスBにより強く引っ張られて特定部20A、20Bが擦り動いてしまうことが防止される。
【0071】
また、スラックスBがカバー体10により強く押さえつけられ、大腿部の皮膚に対する相対移動が阻害されてしまうことがないので、股関節Kの動きがカバー体10により妨げられることがない。そして、スラックスBがカバー体10により押さえつけられるのは、特定部20A、20Bを含む周方向に延びる上辺近傍のみであり、脚の付け根に近い部分であるため、動きの邪魔になりにくい。
【0072】
また、カバー体10は、該カバー体10がスラックスB表面に装着されたときに、上端縁の一部である上辺12Aが脚の付け根の前側(鼠径部)に沿うように配置される。このようにすることで、股関節Kの屈曲時にカバー体10が折り曲げられるなどの影響が生じない範囲でスラックスB表面を広く覆うことができる。
【0073】
また、締付手段は、カバー体10の上辺12A、13Aに沿って外方に向けて上側に傾斜するように設けられることで、カバー体10の上部が周方向に締め付けられるだけでなく、特定部20A、20Bの反対側となる大腿部の内側面側が上方に引っ張られるので、カバー体10がよりずり落ちにくくなる。
【0074】
また、特定部20A、20Bは、該特定部20A、20B以外の部分(例えば、第1部位E11、E21など)よりも伸縮性が低い生地で形成されていることで、特定部20A、20Bに下方への強い力が加わった場合に、生地が伸びて規制位置がずれてしまうことを防止できる。
【0075】
また、滑止部材30は、弾性変形可能な弾性部材にて構成され、スラックスB表面側に向けて突出する複数の突起部30Bを有することで、スラックスB表面が皺になって波打ったりしていても、押し付けられたときに、各突起部30Bが生地に応じた形状に変形することで接触しやすくなるので、規制力を高めることができる。
【0076】
また、カバー体10は、周方向の一端部(例えば、後部10Bの外辺13C側)の表面側に他端部(例えば、前部10Aの外辺12C側)を重ね合わせて貼着することにより直径を調整可能であり、特定部20A、20Bは、前記一端部と前記他端部とのうち少なくとも一方(例えば、後部10Bの外辺13C側)に設けられる。このように、カバー体10の生地が重なって一体化されることで強度が高まる部分に特定部20A、20Bが設けられることで、特定部20A、20Bに負荷がかかることで該特定部20A、20Bが変形したり破損することが防止される。
【0077】
また、
図12に示されるように、カバー体10は、線ファスナ部18を開放することで、表地11Aと裏地11Bとの間に形成された空間S内に手を挿入して温めることができるようになっている。例えば、ゴルフにおいては、右利きのプレイヤーは左手にグローブを装着することが多いが、右手にグローブを装着することは少ない。よって、乗用カートに乗車して移動するときは風を切って走るので寒くなるが、線ファスナ部18に右手を挿入することで右手を温めることができる。
【0078】
(変形例1)
次に、本発明の変形例1について、
図13、
図14に基づいて説明する。
図13は、本発明の変形例1としての防寒用衣類を装着した使用者の大腿部を示す右側面図である。
図14は、(a)はポケットの周辺を示す断面図、(b)はクリップの他の使用例を示すポケット周辺の断面図である。
【0079】
前記実施例では、カバー体のうち特定部20A、20Bの下方への移動を規制する規制手段の一例として、アクリル系合成ゴム材からなる滑止部材30を適用した形態を例示したが、形状や材質は実施例に記載のものに限定されるものではなく、例えば、形状は円弧形状でなくてもよく、直線状でもよいし、矩形状であってもよく、種々に変更可能である。また、滑止部材30は1個でなく、特定部20A、20Bに上下・左右方向に複数設けられていてもよいし、特定部20A、20B以外にも設けられていてもよい。尚、複数の突起部30Bは必ずしも有していなくてもよい。
【0080】
また、規制手段は、ゴム材からなる滑止部材30のように、ボトムスの表面に対し摩擦力により下方への移動を規制する形態を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、粘着性を有するアクリル系の合成樹脂材など粘着力により下方への移動を規制する粘着部材(例えば、両面テープなど)でもよいし、ボトムス及びカバー体双方の生地を挟持することで係止可能なクリップや磁石、凸部と凹部とを有し、ボトムス及びカバー体双方の生地の一部を凸部により凹部に押し込むことで係止可能な留め具、安全ピンなど、カバー体をボトムスに係止することで下方への移動を規制するものでもよい。
【0081】
ここで、規制手段としてクリップを用いる場合について説明する。
図13及び
図14(a)に示されるように、規制手段は、係止部51と被係止部52とで対象物を挟持可能なクリップ50でもよい。具体的には、クリップ50は、係止部51をスラックスBの開口BPからポケットに挿入する一方で、被係止部52を該ポケット外に配置し、係止部51と被係止部52との間にポケットの表地と対象物としての特定部20A、20Bとを配置して挟持することで、特定部20A、20Bの下方への移動を規制する。このようにポケットを利用することで、クリップ50の係止部51を、スラックスBの生地裏側に配置することができ、これによりスラックスBの生地と特定部20A、20Bとを挟持することができるため、安全ピンのようにスラックスBの生地に針を通すなどしてスラックスBの生地を傷つけることなく、特定部20A、20Bを係止して下方への移動を規制することができる。
特に
図14(a)(b)に示されるように、クリップ50は、スラックスBの生地と特定部20A、20Bとを挟持する係止部51及び被係止部52は、略円形をなす面から構成されていることで、カバー体10の下方への移動を規制する際に生地にかかる負荷が安全ピンよりも分散されるため、スラックスBや特定部20A、20Bの生地が傷つきにくい。
【0082】
また、ポケットの開口BPの下端から係止部51を下方に向けて挿入してクリップ50を配置することで、係止部51や被係止部52をスラックスBの外側面における股関節Kの外側方位置に配置することができるため、使用者Pが股関節Kの側方位置を把握しにくくても、特定部20A、20Bを好適な位置に配置することができる。尚、クリップ50は、係止部51と被係止部52とにより対象物を挟持可能に構成されていればよく、例えば、挟持力をバネ部材(図示略)により生じさせるものでもよいし、係止部51と被係止部52とを挟持状態に保持することが可能な保持部材(図示略)を有しているものでもよい。
【0083】
また、
図14(a)に示されるように、クリップ50は、スラックスBの生地とカバー体10の生地とを挟持するように設けられていたが、例えば、
図14(b)に示されるように、係止部51と被係止部52とでスラックスBの生地を挟持し、カバー体10は、被係止部52に面ファスナ部や接着剤等を介して固着されていてもよい。このようにカバー体10に一体にクリップ50を設けておくことで、クリップ50の紛失等を防止することができる。
【0084】
また、クリップ50に替えて、磁石と該磁石が吸着可能な鉄材等の磁性体とを用いてもよい。この場合、例えば、磁性体をポケット内に挿入するとともに、スラックスBの生地とカバー体10の生地とを挟持するように磁石を配置し、該磁石の磁力により、スラックスBの生地とカバー体10の生地とが相対移動困難に挟持されるようにしてもよい。
【0085】
また、規制手段として、安全ピンを除く滑止部材30、クリップ50、磁石、粘着部材、留め具などについては、カバー体10が所定以上の外力により引っ張られたときに、スラックスBに対する下方への移動の規制(係止)状態が解除されるようになっているため、カバー体10に無理に引っ張られてスラックスBが破損することが防止される。
【0086】
(変形例2)
次に、本発明の変形例2について、
図15に基づいて説明する。
図15は、(a)は本発明の変形例2としての防寒用衣類を装着した使用者の大腿部を示す右側面図、(b)は背面図である。
【0087】
前記実施例では、カバー体10の第2部位E12、E22は、第1部位E11、E21の上方において、スラックスBの外側面に配置される特定部20A、20B以外の領域(例えば、スラックスBの前面や後面に該当する領域)にも設けられていたが、
図15(a)、(b)に示されるように、スラックスBの外側面に配置される特定部20A、20Bに対応する第2部位E12A、E22Aのみ、第1部位E11、E21から上方に突出するように設けられていてもよい。
【0088】
また、前記実施例では、
図4に示されるように、後部10Bの外辺13C側の表面に前部10Aの外辺12Cを重ね合わせ、面ファスナ部14Bに面ファスナ部14Aを係止させることで、前部10Aと後部10Bとにより筒状のカバー体10が構成される形態を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、前部10Aの一端部(外辺12C)と後部10Bの他端部(外辺13C)とが、オープン式の線ファスナ部60により開閉可能とされていてもよい。
【0089】
また、面ファスナ部14A、14Bと線ファスナ部60の双方を設け、後部10Bの外辺13C側の表面に前部10Aの外辺12Cを重ね合わせ、面ファスナ部14Bに面ファスナ部14Aを係止させることで、使用者Pの大腿部の太さに合わせて直径のサイズ調整を可能としつつ、サイズ調整した後は、面ファスナ部14Bと面ファスナ部14Aとの係止状態を解除せずに、オープン式の線ファスナ部60を開放することでシート状に展開したり、オープン式の線ファスナ部60を閉鎖することで筒状に構成したりすることができるため、着脱操作が容易になる。尚、カバー体10には、面ファスナ部14A、14Bと線ファスナ部60とのうち少なくとも一方のみが設けられていればよい。
【0090】
また、前記実施例では、特定部20A、20Bがカバー体10の上辺12A’、13A’近傍位置に設けられた形態を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特定部20A、20Bは、スラックスBの表面に装着されたときに少なくとも該スラックスBの外側面における股関節Kの外側方位置に配置されるように設けられていれば、カバー体10の上部における周方向の一部にのみ設けられていてもよいし、上辺12A、13Aに沿うように周方向に向けて延設されていてもよい。また、特定部20A、20Bは必ずしもカバー体10の上部に設けられていなくてもよく、第2部位E12、E22の上下方向の略中央位置などに設けられていてもよい。
【0091】
また、前記実施例では、カバー体10を周方向に締め付け可能な締付手段の一例として伸縮可能なゴム材15が適用された形態を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、特に図示しないが、カバー体10の上辺近傍の第1位置に一端が取付けられたベルト部材と、カバー体10の上辺近傍の第2位置に設けられたリング部材(例えば、Dカンなど)と、から構成され、ベルト部材の他端をリング部材に通して折返した後、一端に設けた面ファスナ部に係止することで締め付け可能な締付手段など、種々の締付手段も適用可能である。また、締付手段は、カバー体10の上辺近傍だけでなく、下辺近傍などにも設けられていてもよい。
【0092】
また、前記実施例のゴム材15は、装着時にスラックスBの表面に当接する滑止部16A、16Bが設けられていたため、裏地11Bに取付けられていたが、滑止部16A、16Bを設けない場合、表地11Aと裏地11Bとの間に埋設されてもよい。