IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中興化成工業株式会社の特許一覧

特開2023-87249自己融着テープ及び自己融着テープの製造方法
<>
  • 特開-自己融着テープ及び自己融着テープの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087249
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】自己融着テープ及び自己融着テープの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/10 20180101AFI20230616BHJP
   C09J 127/12 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
C09J7/10
C09J127/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201531
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000211156
【氏名又は名称】中興化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】菅澤 淳
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA06
4J004BA02
4J004FA05
4J040DC091
4J040KA35
4J040NA12
(57)【要約】
【課題】着色されており、且つ、自己融着性を有するふっ素樹脂製の自己融着テープ及びせその製造方法を提供すること。
【解決手段】ふっ素樹脂製の多孔質フィルムと、該多孔質フィルム上の着色剤とを含む自己融着テープが提供される。自己融着テープの表面におけるふっ素元素の存在割合は、50 at%以上である。また、自己融着テープの製造方法が提供される。当該製造方法は、ふっ素樹脂フィルム又はふっ素樹脂シートを得ることと、ふっ素樹脂フィルム又はふっ素樹脂シートに対し延伸処理を行うことでふっ素樹脂製の多孔質フィルムを得ることと、多孔質ふっ素樹脂フィルムに対し着色剤を用いて着色を行うことで着色多孔質フィルムを得ることと、着色多孔質フィルムに対し圧延処理を行うこととを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ふっ素樹脂製の多孔質フィルムと、
前記多孔質フィルム上の着色剤とを含み、
その表面におけるふっ素元素の存在割合は50 at%以上である、自己融着テープ。
【請求項2】
前記ふっ素樹脂は四フッ化エチレン樹脂を含む、請求項1に記載の自己融着テープ。
【請求項3】
ふっ素樹脂フィルム又はふっ素樹脂シートを得ることと、
前記ふっ素樹脂フィルム又は前記ふっ素樹脂シートに対し延伸処理を行うことでふっ素樹脂製の多孔質フィルムを得ることと、
前記多孔質フィルムに対し着色剤を用いて着色を行うことで着色多孔質フィルムを得ることと、
前記着色多孔質フィルムに対し圧延処理を行うことと
を含む、自己融着テープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己融着テープ及び自己融着テープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ふっ素樹脂は、耐熱性と非粘着性とを併せ持つという特性を有している。また、ふっ素樹脂の多孔質膜は、防水性と通気性とを両立することができる。シート状の材料やフィルム等の薄型のふっ素樹脂の製品や部材、並びに立体的な構造を有するふっ素樹脂の製品や部材など様々な用途において、ふっ素樹脂の性質は利用されている。例えば、ふっ素樹脂テープの用途として、電線を束ねるための絶縁テープとしての用途や配管の止水用シールテープとしての用途を挙げることができる。また、ふっ素樹脂製多孔質膜の用途の例として、防水通音膜を挙げることができる。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2009-43483号公報)には、四フッ化エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン;PTFE)の多孔質膜を用いた結束テープが記載されている。当該結束テープでは、PTFE多孔質膜自体が自己融着性を有し、粘着剤の層を有さない。特許文献1によれば、PTFEの非粘着性が高いことから使用可能な粘着剤の種類が限られており、そのため一般的なPTFE粘着テープでは粘着力は高いものの剥離性に乏しく、結束テープ用途に用いた場合には、ケーブルの仮止め目的での使用やテープの巻き直し作業が困難であるという欠点があった。そのような事情から、特許文献1では粘着剤を使用する代わりに多孔質膜に自己融着性を持たせている。
【0004】
ところで、四フッ化エチレン樹脂などのふっ素樹脂は白色である。白色に起因してふっ素樹脂製の部材を使用した製品や場所によってはその外観が損なわれる場合がある。そのことから、意匠性を高めるために着色が施されたシールテープや多孔質フィルムが報告されている。
【0005】
例えば、特許文献2(特開2004-263849号公報)には、配管の仕上がり色に適した色を持つ配管用シールテープが記載されている。この配管用シールテープは、特に材質の言及はないがシールテープの色が白色などの特定の色に限られていたことから配管の外観を損なう等の欠点を解決するものである。
【0006】
特許文献3(特開平7-289865号公報)には、着色された延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜からなる防水・通気性フィルターが記載されている。特許文献3によれば、延伸により多孔質化したPTFEは真白色であるという外観的特徴を有していることで、色彩面では意匠的自由度が無いだけでなく、真白色の外観が使用者の好奇心を呼び、白色フィルターが筆記用具等の鋭利な先端部で突かれて防水性を消失するなどの事故が生じていた。具体例として、特許文献3では黒色の形態電話機のベントフィルターとしてグレーに着色した延伸多孔質PTFE膜を用い、赤色の形態電話機のベントフィルターとしてピンクに着色した延伸多孔質PTFE膜を用いることで、視覚的違和感の低減を達成している。
【0007】
特許文献4(特開2011-52180号公報)には、黒色に染色され、無彩色明度が低いPTFE黒色多孔質膜と、それを用いた通気膜および通気部材が記載されている。特許文献4によれば、特許文献3と同様に好奇心を刺激されたユーザーによる突き刺しによって生じる損傷を避けるために着色を行っても、高温雰囲気への暴露や太陽光などの光の照射によって退色が起こり得る。特許文献4に係るPTFE黒色多孔質膜では、明度を低くするべく多量の染料が使用されているため、表面付近の染料が光や熱によって退色してもその下で退色せずに残る染料の絶対量が多いため、全体としての退色が抑えられている。
【0008】
特許文献5(特開平8-27304号公報)には、表面が着色剤と撥水剤により被覆されたふっ素樹脂多孔質体が記載されている。このふっ素樹脂多孔質体は、着色されながらも通気性と撥水性とを兼ね備えており、例えば、様々な色の電話機や移動体通信機において、機器本体と同色の通気孔の閉鎖材として使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-43483号公報
【特許文献2】特願2004-263849号公報
【特許文献3】特開平7-289865号公報
【特許文献4】特開2011-52180号公報
【特許文献5】特開平8-27304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
着色されており、且つ、自己融着性を有するふっ素樹脂製の自己融着テープ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態によれば、ふっ素樹脂製の多孔質フィルムと、該多孔質フィルム上の着色剤とを含む自己融着テープが提供される。自己融着テープの表面におけるふっ素元素の存在割合は、50 at%以上である。
【0012】
本発明の他の実施形態によれば、自己融着テープの製造方法が提供される。当該製造方法は、ふっ素樹脂フィルム又はふっ素樹脂シートを得ることと、ふっ素樹脂製の多孔質フィルムを得ることと、着色多孔質フィルムを得ることと、着色多孔質フィルムに対し圧延処理を行うこととを含む。多孔質フィルムは、ふっ素樹脂フィルム又はふっ素樹脂シートに対し延伸処理を行うことで得られる。着色多孔質フィルムは、多孔質ふっ素樹脂フィルムに対し着色剤を用いて着色を行うことで得られる。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、ふっ素樹脂の特性を有するとともに、着色されていることにより意匠性に優れ、且つ、自己融着性を有することにより捲回作業性に優れた自己融着テープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る自己融着テープの一例の態様を概略的に表す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
四フッ化エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン;PTFE)等のふっ素樹脂から成る多孔質テープは、通常は白色である。そのため製品によっては、ふっ素樹脂製多孔質テープの使用は意匠性を損なうことになる。加えて、ふっ素樹脂製多孔質テープの使用場所によっては、ユーザーの好奇心を刺激し得る。そのため、ユーザーによる突刺しによって、テープ膜や部品の破損が生じる可能性が高い。
【0016】
意匠性を高めるために着色する方法としては原材料を着色するか成形後に着色する事が考えられる。しかし、前者ではテープ製造に用いる装置や作業場所の汚染が懸念される。また、テープとしての用途に必要な柔軟性を付与するための延伸処理による多孔質化を行うと、着色剤の分布(色素の密集の度合い)がまばらになって色が薄まる。後者については、自己融着性、つまりテープが自身に対し付着する性質が低下する。自己融着性が低いと、テープのラップ部が滑り得るため、基材への巻回作業の効率が低下したり製品使用時の巻き崩れが生じる可能性が高くなったりする。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。また、図面を参照しながら説明する部分があるが、当該図面は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる箇所がある。これらは、以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0018】
<自己融着テープ>
実施形態に係る自己融着テープは、ふっ素樹脂製の多孔質フィルムと、該多孔質フィルム上の着色剤とを含む。テープ表面におけるふっ素元素の存在割合は、50 at%以上である。
【0019】
係る自己融着テープは、着色剤により着色されており、ふっ素樹脂材料自身に由来する白色以外の色で彩られることができる。例えば、黒色や濃色等といった暗色背景に紛れやすい色で着色されたテープを使用することで、ユーザーの目に気づかれにくくすることができる。また、意匠性を鑑みてテープの使用場所に合わせて色を選択することができる。
【0020】
係る自己融着テープは、このように着色されながらも、自己融着性を示すことができる。自己融着テープが含むふっ素樹脂の多孔質フィルム上には着色剤が在るものの、フィルム表面の全体が着色剤で覆われてはいない。自己融着テープの主面の表面にてふっ素樹脂製多孔質フィルムが部分的に露出しており、具体的にはテープの主面の表面においてふっ素原子の存在割合が50 at%以上になっている。テープ表面にふっ素樹脂が露出していることで、ふっ素樹脂が有する自己融着性が発揮される。
【0021】
ふっ素樹脂の構成分子には、長鎖の分子が含まれている。ふっ素樹脂からなる部材の表面同士を押し付け合うと、それぞれの表面に存在する長鎖分子が絡み合う。このようにして、ふっ素樹脂では自己融着性が発現する。なお、ふっ素樹脂を焼成すると構成分子の配列が揃ってしまい長鎖分子同士が絡まなくなるため、自己融着性が損なわれる。そのため、多孔質テープには未焼成のふっ素樹脂を用いることが望ましい。
【0022】
多孔質フィルムがふっ素樹脂で構成されていることから、自己融着テープは耐熱性や防水性などといったふっ素樹脂の特性を有することができる。ふっ素樹脂としては、四フッ化エチレン樹脂(ポリテトラフルオロエチレン;PTFE)が好ましい。
【0023】
係る自己融着テープの用途としては、例えば、電線を束ねるための絶縁テープ及び配管の止水用シールテープ等、様々な用途を挙げることができる。自己融着テープの使用方法は、これらの例に限られない。
【0024】
着色剤としては、例えば、染料、顔料、無機物、金属、及び有機物を含む着色材料を用いることができる。着色剤は、溶媒として有機溶剤を含むことが望ましい。なお、着色剤には、ふっ素元素を含まない材料を用いる。
【0025】
自己融着テープのヨコ方向(Transverse Direction;TD)への幅は、例えば、10mm以上200mm以下であり得る。TD方向への幅が10mm以上50mm以下であることが好ましく、10mm以上25mm以下であることがより好ましい。この範囲内の幅を有する自己融着テープは、取り扱い性が良好である。なお、ここでいうヨコ方向(TD)は、例えば、テープロール等の捲回された形態の自己融着テープの巻出し方向に平行なタテ方向(Machine Direction;MD)に対し垂直な方向を指す。典型的な例では、ヨコ方向(TD)は、帯形状の自己融着テープの短辺方向をいう。
【0026】
自己融着テープの厚さは10μm以上260μm以下であることが望ましい。厚さがこの範囲内にあると、テープ巻き出しの容易性や対象へのテープの巻き付け等といったテープとしての取り扱いが良好になる。
【0027】
次に、図面を参照しながら実施形態に係る自己融着テープの具体例を説明する。図1に、実施形態に係る自己融着テープの一例を概略的に示す。
【0028】
図1は、実施形態に係る自己融着テープの一例の態様を概略的に表す斜視図である。図示するテープロール10は、自己融着テープ1と巻芯2とを含む。
【0029】
自己融着テープ1は、その長辺がテープロール10の巻出し方向100に沿う帯形状を有する。自己融着テープ1は、ふっ素樹脂製の多孔質フィルムが着色剤により着色されたものである。着色剤は、多孔質フィルムの外表面および孔内に存在する。図1自体は白黒の図面であるため自己融着テープ1を白く表しているが、実際の自己融着テープは、例えば黒色や灰色に着色されており白くない。自己融着テープの色は黒色や灰色に限られない。
【0030】
巻芯2は、例えば、円筒形状を有し得る。巻芯2としては、例えば、紙製の巻芯等、テープロール用に汎用されている巻芯を用いることができる。巻芯2の形状は図示するものに限られず、例えばリール形状であり得る。自己融着テープ1は、巻芯2の円筒外周に巻き付けられている。
【0031】
<製造方法>
上記実施形態に係る自己融着テープを製造する方法の例を詳細に説明する。
【0032】
実施形態に係る自己融着テープの製造方法は、ふっ素樹脂フィルム又はふっ素樹脂シートを得ることと、ふっ素樹脂製の多孔質フィルムを得ることと、着色多孔質フィルムを得ることと、着色多孔質フィルムに対し圧延処理を行うこととを含む。ふっ素樹脂製の多孔質フィルムは、ふっ素樹脂フィルム又はふっ素樹脂シートに対し延伸処理を行うことで得られる。着色多孔質フィルムは、多孔質フィルムに対し着色剤を用いて着色を行うことで得られる。
【0033】
つまり、係る製造方法の概要は、次のとおりである。先ず、ふっ素樹脂のフィルム又はシートを得る。ふっ素樹脂フィルム又はふっ素樹脂シートに対し延伸処理を行うことで、多孔質化されたふっ素樹脂フィルムを得る。得られた多孔質フィルムに対し着色剤を用いて着色を行う。着色後、圧延処理を行う。圧延処理を行った後、必要に応じてフィルムを裁断することでテープ寸法を調整する。
【0034】
ふっ素樹脂フィルムやふっ素樹脂シートは、例えば、押出成形法により得ることができる。例えば、PTFE原料粉末と押出助剤とを含んだ混和物、又は混和物を圧縮した予備成形品(ビレット)をシート状に押出成形することで、PTFEのフィルムやシートを得ることができる。
【0035】
原料粉末には、例えば、PTFEのファインパウダーを用いることができる。ファインパウダーは、微細なPTFE粒子から成り、乳化重合で得られた水性分散液を凝析・乾燥して得られるものである。
【0036】
得られたフィルム又はシートに対し延伸処理を行うことで、多孔質化されたふっ素樹脂フィルムを得る。ふっ素樹脂フィルムを延伸して多孔質化することで、柔軟なフィルムを得ることができる。また、多孔質フィルムでは着色剤がはじかれず、着色することができる。延伸には、例えば、一軸延伸を行う。例えば、加熱ロールを用いた延伸処理や、加熱雰囲気における延伸処理を実施することができる。ふっ素樹脂の融点未満で加熱することで、フィルム強度を向上させることができる。加熱温度が高すぎると自己融着性が低下するおそれがあるため、300℃未満で加熱することが望ましい。また、押出助剤を用いた場合は、加熱しながら延伸することで押出助剤を乾燥させることができる。或いは、延伸処理に先駆けて押出助剤を乾燥させてもよい。典型的な押出助剤は100℃~300℃程度で揮発する。自己融着性が損なわれるため、ふっ素樹脂に対する焼成は行わない。
【0037】
得られた多孔質フィルムに対し着色剤を用いて着色を行い、着色多孔質フィルムを得る。多孔質フィルムの表面に着色剤を塗布する。着色剤を塗布する方法としては、例えば、ディップ法やスパッタ法などを挙げることができる。多孔質フィルムが有する孔の一部に着色剤が入り込むことで、フィルムに色を付けることができる。
【0038】
着色後、圧延処理を行う。圧延処理は、例えば、着色した多孔質フィルムを一対のロールプレスの間を通すことで実施できる。処理は、加熱しながら行ってもよい。加熱温度は、ふっ素樹脂の融点温度以下とする。
【0039】
圧延処理を行うことにより、着色剤により覆われていた多孔質フィルムの一部を露出させる。多孔質フィルムの表面を覆っていた着色剤の一部は、圧延によって多孔質フィルムの孔に押し込まれ得る。また、多孔質フィルムが平面方向に伸びるため、フィルム表面上の着色剤はその分布が広がるように分散する。圧延処理により表面におけるふっ素元素の存在割合が50 at%以上になるように多孔質フィルムを露出させることで、着色剤に覆われていた状態では損なわれていた自己融着性が回復した着色多孔質フィルムが得られる。圧延処理は、ふっ素元素の表面での存在割合が50 at%以上になる条件で行い、着色剤の量等に応じて適宜調整する。
【0040】
圧延処理後の着色多孔質フィルムをロールに巻き取ることで、テープ巻回体の前駆体であるログロールを得ることができる。ログロールの状態から、巻き出した際のテープ幅が所望の幅となるようにフィルム裁断を行うことで、自己融着テープのロール体が得られる。フィルム裁断は、例えば、ログロールに対し押切加工を実施したり、スリット加工を実施したりすることで、実施できる。
【0041】
以上のとおり、着色されつつも自己融着性を示す、PTFE製の自己融着テープを製造することができる。
【0042】
<測定方法>
自己融着テープに関する各種の測定方法を以下に説明する。具体的には、テープの構成材料の測定方法、元素分析によるテープ表面のフッ素樹脂の存在割合の測定方法、及び自己融着性を有しているか否か確認する方法を説明する。
【0043】
(テープ材料の測定)
テープを構成する樹脂材料は、次のようにして確認できる。
【0044】
示差走査熱量計(DSC)を用い、融点を測定することで樹脂材料がふっ素樹脂であることを確認することが可能である。
【0045】
(元素分析)
多孔質テープの表面におけるふっ素元素の存在割合をエネルギー分散型X線分光法(EDX)による元素分析を行うことで、多孔質テープ表面に露出しているふっ素樹脂の割合を求めることができる。
【0046】
(自己融着性の確認)
多孔質テープが自己融着性を有するか否かは、次のとおり確認することができる。
【0047】
テープの試験片を2枚準備する。テープ試験片としては、例えば、各々の寸法が10cm×1cm程度のテープを準備する。準備した2枚の試験片を重ね、重ねた部分の端部5cmにプレスを施す。この際、プレス圧は0.2MPaとする。プレス後、上に重ねた試験片を引き上げる。上の試験片を引き上げた際に下の試験片も共に引き上げられた場合は、自己融着性が有るものと判断する。下の試験片が引き上げられない場合は2枚の試験片が互いにくっつかなかったものとし、自己融着性無しと判断する。
【0048】
[実施例]
<製造>
(比較例1)
次のとおりPTFE製の多孔質テープを製造した。PTFEのファインパウダーを原料に用い、押出成形によりPTFEシートを得た。得られたPTFEシートに対し一軸延伸を行って多孔質化処理を施すことで、多孔質PTFEシートを得た。得られた多孔質PTFEシートを帯形状に裁断し、多孔質テープを得た。
【0049】
(比較例2)
次のとおりPTFE製の着色多孔質テープを製造した。比較例1と同様の手順でPTFEシートの一軸延伸までを行った。得られた多孔質PTFEシートに対し、ディップ法による着色を行ってから帯形状に裁断することで、着色多孔質テープを得た。着色剤としては、エコビュートインク黒(アルマーク社製)を50重量%の濃度でエタノールに溶解して得られた着色塗料溶液を用いた。
【0050】
(実施例1)
次のとおりPTFE製の着色多孔質テープを製造した。比較例2と同様の手順で多孔質PTFEシートの着色までを行い、圧延処理を実施してから帯形状に裁断することで、着色多孔質テープを得た。圧延処理は、圧延後のテープ表面における元素分析により求められる元素存在比率が下記表1に示す値になる条件で行った。
【0051】
(実施例2)
元素存在比率が下記表1に示す値になるよう圧延処理の条件を変更したこと以外は、実施例1と同様の手順でPTFE製の着色多孔質テープを製造した。具体的には、実施例1よりも圧延後の厚みを薄くして圧延を行った。
【0052】
(実施例3)
次のとおりPTFE製の着色多孔質テープを製造した。着色剤の濃度を30重量%に変更した以外は比較例2と同様の手順で多孔質PTFEシートの着色までを行い、圧延処理を実施してから帯形状に裁断することで、着色多孔質テープを得た。圧延処理は、実施例2と同様の条件で実施した。
【0053】
<評価>
得られた各多孔質テープを、先に説明した方法により元素分析に供した。また、先に説明した方法により、各多孔質テープが自己融着性を有するか否か評価した。
【0054】
下記表1に、比較例1及び2、並びに比較例1-3におけるテープについての製造条件、外観的な色、元素分析の結果、及び自己融着性の有無をまとめる。製造条件としては、着色剤を使用して着色を行ったか否か、及び着色後の圧延の有無を示す。テープ色としては、目視で確認できる色を示す。元素分析の結果としては、テープ表面におけるふっ素(F)、炭素(C)、及び酸素(O)のそれぞれの存在比率を示す。自己融着性については、上記方法で自己融着性が有ると判断したか、それとも無いと判断したかを示す。
【0055】
【表1】
【0056】
比較例1で製造したテープは、自己融着性を示したものの、着色していないためPTFEファインパウダー原料由来の白色を有しており、意匠性に欠けていた。比較例2で製造したテープは、黒色を有していたものの、自己融着性を示さず、作業性に難があった。実施例1-3で製造したテープは、何れも黒色または灰色を有しつつ自己融着性も示しており、意匠性に優れると同時に作業性に優れていた。
【0057】
比較例2と実施例1-3との比較から、テープ表面のふっ素元素の存在割合が50 at.%未満になると融着性が損なわれ、テープ表面が部分的に着色剤で覆われていてもふっ素元素の存在割合が50 at.%以上であれば自己融着性を示せることがわかる。
【0058】
以上説明した1以上の実施形態および実施例に係る自己融着テープは、ふっ素樹脂製の多孔質フィルムと、着色剤とを含む。着色剤は、多孔質フィルムの孔内壁面や主面の上など、多孔質フィルム上に存在する。自己融着テープの表面において、ふっ素元素が50 at%以上の存在割合で存在する。係る自己融着テープは、ふっ素樹脂の特性を有するとともに、着色されていることにより意匠性に優れ、且つ、自己融着性を有することにより捲回作業性に優れている。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0060】
1…自己融着テープ、2…巻芯、10…テープロール、100…巻出し方向。
図1