(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087259
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】電線アセンブリ
(51)【国際特許分類】
H02G 15/04 20060101AFI20230616BHJP
H02G 1/14 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
H02G15/04
H02G1/14 050
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201547
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】良知 宏伸
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一雄
(72)【発明者】
【氏名】前田 悠作
【テーマコード(参考)】
5G355
5G375
【Fターム(参考)】
5G355BA08
5G355CA23
5G375BA08
5G375BA26
5G375BB46
5G375DA02
(57)【要約】
【課題】樹脂モールド部材と樹脂被覆との間の止水性能が良好な電線アセンブリを提供する。
【解決手段】導体と樹脂被覆とを有する電線と、前記電線の端部において前記導体に接続された端末部材と、前記端末部材から前記樹脂被覆にわたる領域を覆う樹脂モールド部材と、を備え、Y1の値が30以上である、電線アセンブリ。Y1=1.26×X1-5.02×10
3×X2+1.55×10
3×X4-2.36×10
-1×X5+93。X1は前記樹脂モールド部材と前記樹脂被覆の接着仕事であり、単位はmJ/m
2である。X2は前記樹脂モールド部材の歪と前記樹脂被覆の歪との差であり、単位は無単位である。X4は前記樹脂モールド部材の線膨張係数と前記樹脂被覆の線膨張係数との差であり、単位は1/℃である。X5は前記樹脂被覆の弾性率であり、単位はMPaである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と樹脂被覆とを有する電線と、
前記電線の端部において前記導体に接続された端末部材と、
前記端末部材から前記樹脂被覆にわたる領域を覆う樹脂モールド部材と、を備え、
以下の式(A)で求められるY1の値が30以上である、
電線アセンブリ。
Y1=1.26×X1-5.02×103×X2+1.55×103×X4-2.36×10-1×X5+93…式(A)
ここで、
X1は前記樹脂モールド部材と前記樹脂被覆の接着仕事であり、単位はmJ/m2、
X2は前記樹脂モールド部材の歪と前記樹脂被覆の歪との差であり、単位は無単位、
X4は前記樹脂モールド部材の線膨張係数と前記樹脂被覆の線膨張係数との差であり、単位は1/℃、
X5は前記樹脂被覆の弾性率であり、単位はMPaである。
【請求項2】
導体と樹脂被覆とを有する電線と、
前記電線の端部において前記導体に接続された端末部材と、
前記端末部材から前記樹脂被覆にわたる領域を覆う樹脂モールド部材と、を備え、
以下の式(B)で求められるY2の値が30以上である、
電線アセンブリ。
Y2=-3.59×103×X2+4.99×10×X3-1.20×105×X4-2.65×10-1×X5+139…式(B)
ここで、
X2は前記樹脂モールド部材の歪と前記樹脂被覆の歪との差であり、単位は無単位、
X3は前記樹脂モールド部材と前記樹脂被覆とのせん断接着強さであり、単位はMPa、
X4は前記樹脂モールド部材の線膨張係数と前記樹脂被覆の線膨張係数との差であり、単位は1/℃、
X5は前記樹脂被覆の弾性率であり、単位はMPaである。
【請求項3】
前記樹脂モールド部材は、前記端末部材全体を覆っている、請求項1又は請求項2に記載の電線アセンブリ。
【請求項4】
前記樹脂モールド部材の主成分は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、又はポリブチレンテレフタレート樹脂である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電線アセンブリ。
【請求項5】
前記樹脂被覆の主成分は、ポリエステル、又はポリウレタンである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電線アセンブリ。
【請求項6】
前記端末部材はセンサである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電線アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電線アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1電線と多芯電線とを一括して外皮によって被覆した複合ケーブルが開示されている。多芯電線は、複数の第2電線を内部シースによって被覆した構成を備える。第2電線は導体と絶縁層とを備える。内部シースは、多芯電線の最外周に配置される樹脂被覆である。多芯電線の端部には、端末部材と樹脂モールド部材とが設けられている。端末部材は、第2電線の導体に電気的に接続されるセンサなどである。樹脂モールド部材は、端末部材から内部シースの外周にわたる領域を覆っている。樹脂モールド部材によって、導体と端末部材との接続箇所が止水される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接続箇所の止水のためには、樹脂モールド部材と、樹脂被覆である内部シースとが隙間なく接着している必要がある。しかし、樹脂モールド部材を構成する樹脂と、樹脂被覆を構成する樹脂との相性によっては、十分な止水性能が得られない恐れがある。この相性は、樹脂のグレード、樹脂の分子量、あるいは樹脂に含まれる添加材の割合などによって変化する可能性がある。例えば、樹脂Aによって構成される樹脂モールド部材と、添加材を含む樹脂Aによって構成される樹脂モールド部材とでは、樹脂被覆に対する接着能力に差が生じる。
【0005】
上記事情に鑑み、本開示は、樹脂モールド部材と樹脂被覆との間の止水性能が良好な電線アセンブリを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の電線アセンブリは、
導体と樹脂被覆とを有する電線と、
前記電線の端部において前記導体に接続された端末部材と、
前記端末部材から前記樹脂被覆にわたる領域を覆う樹脂モールド部材と、を備え、
以下の式(A)で求められるY1の値が30以上である。
Y1=1.26×X1-5.02×103×X2+1.55×103×X4-2.36×10-1×X5+93…式(A)
ここで、
X1は前記樹脂モールド部材と前記樹脂被覆の接着仕事であり、単位はmJ/m2、
X2は前記樹脂モールド部材の歪と前記樹脂被覆の歪との差であり、単位は無単位、
X4は前記樹脂モールド部材の線膨張係数と前記樹脂被覆の線膨張係数との差であり、単位は1/℃、
X5は前記樹脂被覆の弾性率であり、単位はMPaである。
【0007】
本開示の別の電線アセンブリは、
導体と樹脂被覆とを有する電線と、
前記電線の端部において前記導体に接続された端末部材と、
前記端末部材から前記樹脂被覆にわたる領域を覆う樹脂モールド部材と、を備え、
以下の式(B)で求められるY2の値が30以上である。
Y2=-3.59×103×X2+4.99×10×X3-1.20×105×X4-2.65×10-1×X5+139…式(B)
ここで、
X2は前記樹脂モールド部材の歪と前記樹脂被覆の歪との差であり、単位は無単位、
X3は前記樹脂モールド部材と前記樹脂被覆とのせん断接着強さであり、単位はMPa、
X4は前記樹脂モールド部材の線膨張係数と前記樹脂被覆の線膨張係数との差であり、単位は1/℃、
X5は前記樹脂被覆の弾性率であり、単位はMPaである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の電線アセンブリは、電線アセンブリにおける樹脂モールド部材と樹脂被覆との間の止水性能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態1に記載される電線アセンブリの概略図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に記載される電線の断面図である。
【
図3】
図3は、試験例1の試験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、樹脂モールド部材と樹脂被覆との接着性に関わる物理量を特定し、その物理量が所定値以上であるかによって樹脂モールド部材と樹脂被覆との止水性を評価することを検討した。その結果、式(A)又は式(B)を満たす電線アセンブリにおいて、樹脂モールド部材と樹脂被覆との間の止水性が十分に確保されるとの知見を得た。式(A)及び式(B)の詳細については後述する。本開示の電線アセンブリは上記知見に基づいて得られたものである。
【0011】
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0012】
<1>実施形態に係る電線アセンブリは、
導体と樹脂被覆とを有する電線と、
前記電線の端部において前記導体に接続された端末部材と、
前記端末部材から前記樹脂被覆にわたる領域を覆う樹脂モールド部材と、を備え、
以下の式(A)で求められるY1の値が30以上である。
Y1=1.26×X1-5.02×103×X2+1.55×103×X4-2.36×10-1×X5+93…式(A)
ここで、
X1は前記樹脂モールド部材と前記樹脂被覆の接着仕事であり、単位はmJ/m2、
X2は前記樹脂モールド部材の歪と前記樹脂被覆の歪との差であり、単位は無単位、
X4は前記樹脂モールド部材の線膨張係数と前記樹脂被覆の線膨張係数との差であり、単位は1/℃、
X5は前記樹脂被覆の弾性率であり、単位はMPaである。
【0013】
式(A)は、樹脂モールド部材と樹脂被覆との接着性に関連する物理量X1,X2,X4,X5に基づいて、電線アセンブリのリーク圧を推定する式である。つまり、Y1は、物理量X1,X2,X4,X5から求められるリーク圧の推定値である。物理量X1,X2,X4,X5の詳細については実施形態で詳しく述べる。リーク圧は、電線アセンブリを所定のリーク試験に供したときに得られる。リーク試験は、後述する試験例1に示されるように、エアーポンプによって電線における樹脂被覆の内部に圧力をかけて空気を送り込んだときに、樹脂被覆と樹脂モールド部材との界面から空気が漏れるか否かを調べる試験である。リーク圧は、上記界面から空気が漏れたときのエアーポンプの圧力メーターの値である。リーク圧の単位はkPaである。つまり、式(A)から得られたY1が30であれば、電線アセンブリのリーク圧は30kPaと推定される。
【0014】
リーク圧が30kPa以上であれば、樹脂モールド部材と樹脂被覆との間の止水性が十分に高いと判断できる。従って、電線アセンブリを調べることで得られる物理量X1,X2,X4,X5を式(A)に代入し、得られたY1の値が30以上であれば、その電線アセンブリは十分な止水性能を有するといえる。
【0015】
<2>実施形態に係る別の電線アセンブリは、
導体と樹脂被覆とを有する電線と、
前記電線の端部において前記導体に接続された端末部材と、
前記端末部材から前記樹脂被覆にわたる領域を覆う樹脂モールド部材と、を備え、
以下の式(B)で求められるY2の値が30以上である。
Y2=-3.59×103×X2+4.99×10×X3-1.20×105×X4-2.65×10-1×X5+139…式(B)
ここで、
X2は前記樹脂モールド部材の歪と前記樹脂被覆の歪との差であり、単位は無単位、
X3は前記樹脂モールド部材と前記樹脂被覆とのせん断接着強さであり、単位はMPa、
X4は前記樹脂モールド部材の線膨張係数と前記樹脂被覆の線膨張係数との差であり、単位は1/℃、
X5は前記樹脂被覆の弾性率であり、単位はMPaである。
【0016】
式(B)は、樹脂モールド部材と樹脂被覆との接着性に関連する物理量X2,X3,X4,X5に基づいて、電線アセンブリのリーク圧を推定する式である。つまり、Y2は、物理量X2,X3,X4,X5から求められるリーク圧の推定値である。物理量X2,X3,X4,X5の詳細については実施形態で詳しく述べる。物理量X2,X4,X5は、上記形態<1>における物理量X2,X4,X5と同じである。リーク圧の定義は、上記形態<1>と同じである。式(B)から得られたY2が30であれば、電線アセンブリのリーク圧は30kPaと推定される。
【0017】
リーク圧が30kPa以上であれば、樹脂モールド部材と樹脂被覆との間の止水性が十分に高いと判断できる。従って、電線アセンブリを調べることで得られる物理量X2,X3,X4,X5を式(B)に代入し、得られたY2の値が30以上であれば、その電線アセンブリは十分な止水性能を有するといえる。
【0018】
<3>実施形態に係る電線アセンブリの一例では、
前記樹脂モールド部材は、前記端末部材全体を覆っている。
【0019】
樹脂モールド部材が端末部材全体を覆っている電線アセンブリでは、樹脂モールド部材と樹脂被覆との界面のみが、電線の導体と端末部材との接続箇所への水分の浸入ルートである。実施形態の電線アセンブリでは、樹脂モールド部材と樹脂被覆との間の止水性が高いため、上記接続箇所に水分が付着し難い。従って、導体の腐食、又は端末部材の損傷などが抑制される。
【0020】
<4>実施形態に係る電線アセンブリの一例では、
前記樹脂モールド部材の主成分は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、又はポリブチレンテレフタレート樹脂である。
【0021】
これらの樹脂は耐熱性に優れ、樹脂モールド部材の材料として好適である。
【0022】
<5>実施形態に係る電線アセンブリの一例では、
前記樹脂被覆の主成分は、ポリエステル、又はポリウレタンである。
【0023】
これらの樹脂は柔軟性に優れ、曲げ易いことが求められる電線の樹脂被覆として好適である。
【0024】
<6>実施形態に係る電線アセンブリの一例では、
前記端末部材はセンサである。
【0025】
端末部材がセンサであれば、電線アセンブリを搭載する機器における物理量を測定できる。例えば、電線アセンブリが車両に搭載される場合、センサは車両の動作に係る物理量をモニターできる。センサの種類は特に限定されない。
【0026】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を適宜参照して、本開示の実施の形態を詳細に説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。本発明は、実施形態の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0027】
<実施形態1>
図1に示される本例の電線アセンブリ1は、電線2と樹脂モールド部材3と端末部材4とを備える。本例の電線アセンブリ1の特徴の一つとして、電線2の最外周に配置される樹脂被覆23と、樹脂モールド部材3とが強固に接着していることが挙げられる。以下、電線アセンブリ1の各構成を説明する。次いで樹脂被覆23と樹脂モールド部材3とが強固に接着していることで樹脂被覆23と樹脂モールド部材3との間の止水性が十分であることを示す指標の説明を行う。
【0028】
≪電線≫
図2の断面図に示されるように、本例の電線2は、多芯電線、いわゆるツイストペアケーブルである。本例の電線2は、二つの芯線2A,2Bを備える。本例の芯線2Aと芯線2Bとは同一の構成を備える。芯線の数は特に限定されない。複数の芯線のそれぞれの構成は異なっていても良い。本例とは異なり、電線2は単芯線であっても良い。
【0029】
芯線2A,2Bは、導体20と絶縁層21とを備える。導体20は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、銅、又は銅合金などの導電材料によって構成されている。導体20は端末部材4(
図1)に電気的に接続されている。絶縁層21は、例えばポリ塩化ビニル又はポリエチレンなどの絶縁性樹脂によって構成されている。
【0030】
二つの芯線2A,2Bは、チューブ状の樹脂被覆23の内部に配置されている。本例の樹脂被覆23はいわゆるシースである。本例では芯線2A,2Bと樹脂被覆23の間は空隙である。本例とは異なり、芯線2A,2Bと樹脂被覆23の間に樹脂などの介在物が充填されていても良い。介在物としては例えばウレタン樹脂などが挙げられる。樹脂被覆23の内周側には遮蔽層などが設けられていても良い。
【0031】
図1に示されるように、樹脂被覆23の外周には樹脂モールド部材3の一部が配置されている。樹脂被覆23の外周面には、樹脂モールド部材3の内周面が接着している。樹脂被覆23の主成分は樹脂材料である。主成分とは、樹脂被覆23における含有量が50質量%以上である成分を意味する。樹脂材料は、例えばポリウレタン(Polyurethane;PU)樹脂、又はポリエステル(Polyester;PE)樹脂などである。樹脂被覆23には、難燃剤又はフィラーなどの添加物などが含まれていても良い。
【0032】
ここで、樹脂被覆23を構成する樹脂材料が同じでも、樹脂材料の分岐鎖の数、分子量、樹脂被覆23に含まれる添加物の種類、及び添加物の含有量などによって、樹脂被覆23と樹脂モールド部材3との接着性が変化する。従って、樹脂被覆23が例えばPU樹脂で構成されていても、後述する式(A)又は式(B)の値を満たすことができない場合がある。
【0033】
≪端末部材≫
図1に示される端末部材4は、電線2の導体20(
図2)に電気的に接続されている。本例の端末部材4は車輪速センサである。センサは車輪速センサに限定されない。例えば、センサは温度センサ、又は加速度センサなどであっても良い。本例とは異なり、端末部材4は端子などであっても良い。
【0034】
≪樹脂モールド部材≫
樹脂モールド部材3は、端末部材4から樹脂被覆23にわたる領域を覆う。本例では、樹脂モールド部材3は端末部材4全体を覆っている。
【0035】
樹脂モールド部材3は、電線2の樹脂被覆23の外周に重複している。つまり、樹脂モールド部材3の内周面は、樹脂被覆23の外周面に接着している。樹脂モールド部材3によって、電線2の導体20(
図2)と端末部材4との接続箇所への水分の付着が抑制される。電線2の長手方向に沿った樹脂モールド部材3と樹脂被覆23とが重複する長さL0が長いほど、樹脂モールド部材3による止水性が向上する。長さL0が長すぎると、樹脂モールド部材3が大型化し、電線アセンブリ1を機器に配置し難くなる。止水性の向上と大型化の抑制の観点から、長さL0は例えば1mm以上100mm以下であることが好ましい。長さL0は更に5mm以上50mm以下であっても良い。
【0036】
本例とは異なり、電線2が単芯線の場合、樹脂モールド部材3は、導体20の外周に配置される絶縁層21の外周を覆う。つまり、単芯線を備える電線アセンブリにおいては、絶縁層21が電線2の樹脂被覆に相当する。
【0037】
樹脂モールド部材3の外形は特に限定されない。本例の樹脂モールド部材3の外形は、端末部材4の外形に沿った形状である。本例と異なり、樹脂モールド部材3は、電線アセンブリ1を取付け対象に固定するためのフランジなどを備えていても良い。
【0038】
樹脂モールド部材3の主成分は樹脂材料である。主成分とは、樹脂モールド部材3における含有量が50質量%以上である成分を意味する。樹脂材料は、例えばポリアミド(Polyamide;PA)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(Polyphenylenesulfide;PPS)樹脂、又はポリブチレンテレフタレート(Polybutyleneterephtalate;PBT)樹脂などである。樹脂モールド部材3には難燃剤又はフィラーなどの添加物などが含まれていても良い。
【0039】
ここで、樹脂モールド部材3を構成する樹脂材料が同じでも、樹脂材料の分岐鎖の数、分子量、樹脂モールド部材3に含まれる添加物の種類、及び添加物の含有量などによって、樹脂被覆23と樹脂モールド部材3との接着性が変化する。従って、樹脂モールド部材3が例えばPA樹脂で構成されていても、後述する式(A)又は式(B)の値を満たすことができない場合がある。
【0040】
≪止水性の指標≫
電線アセンブリ1における樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との間の止水性は、リーク圧によって評価できる。リーク圧は、後述する試験例1のリーク試験を行うことで得られる。リーク試験は、エアーポンプによって電線2における樹脂被覆23の内部に圧力をかけて空気を送り込んだときに、樹脂被覆23と樹脂モールド部材3との界面から空気が漏れるか否かを調べる試験である。リーク圧は、上記界面から空気が漏れたときのエアーポンプの圧力メーターの値である。リーク圧が30kPa以上であれば、電線アセンブリ1の止水性が十分であると判断できる。リーク圧が50kPa以上であれば、電線アセンブリ1の止水性が申し分ないと判断できる。
【0041】
本例の電線アセンブリ1は、下記式(A)によって求められるY1の値、又は下記式(B)によって求められるY2の値が30以上であることを満たす。式(A)及び式(B)は、電線アセンブリ1を調べることによって得られる物理量に基づいて電線アセンブリ1のリーク圧を推定する式である。Y1及びY2の単位はkPaである。従って、Y1又はY2が30であれば、リーク圧は30kPaと推定される。Y1又はY2を求めることで、リーク試験を行うことなく、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との間の止水性を評価できる。
【0042】
・式(A)
Y1=1.26×X1-5.02×103×X2+1.55×103×X4-2.36×10-1×X5+93
X1…樹脂モールド部材3と樹脂被覆23の接着仕事
X2…樹脂モールド部材3の歪と樹脂被覆23の歪との差
X4…樹脂モールド部材3の線膨張係数と樹脂被覆23の線膨張係数との差
X5…樹脂被覆23の弾性率
【0043】
・式(B)
Y2=-3.59×103×X2+4.99×10×X3-1.20×105×X4-2.65×10-1×X5+139
X2…式(A)におけるX2と同じ
X3…樹脂モールド部材3と樹脂被覆23とのせん断接着強さ
X4…式(A)におけるX4と同じ
X5…式(A)におけるX5と同じ
【0044】
式(A)及び式(B)は、後述する試験例1のデータを重回帰分析することによって求められる。重回帰分析とは、複数の説明変数によって目的変数を表す回帰式を算出することである。本例の場合、X1,X2,X3,X4,X5が説明変数に相当し、Y1,Y2が目的変数に相当する。式(A)又は式(B)に代入するX1からX5の詳細を以下に説明する。
【0045】
≪接着仕事≫
式(A)のX1は接着仕事である。X1の単位はmJ/m2である。
接着仕事は、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との接着性の大きさを示す指標である。即ち、接着仕事は、樹脂被覆23から樹脂モールド部材3がはがれ難いことを示す指標であり、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との間の止水性を評価する指標でもある。
【0046】
接着仕事は、樹脂モールド部材3の表面自由エネルギーと、樹脂被覆23の表面自由エネルギーとから求められる。表面自由エネルギーは、固体における表面張力に相当するものである。接着仕事を求めるためには、まず樹脂モールド部材3の表面自由エネルギーと、樹脂被覆23の表面自由エネルギーを求める。表面自由エネルギーは、以下に示されるYoungの式と拡張Fowkesの式とを用いることによって求められる。
【0047】
・Youngの式
γS=γLcosθ+γSL
θ…固体の表面に静止する液滴の接触角;単位は(π/180)rad
γS…固体の表面張力、即ち表面自由エネルギー;単位はmJ/m2
γL…液滴を構成する液体の表面張力;単位はmJ/m2
γSL…固体と液体との界面張力;単位はmJ/m2
【0048】
・拡張Fowkesの式
γSL=γS+γL-2(γS
dγL
d)1/2-2(γS
pγL
p)1/2-2(γS
HγL
H)1/2
γL
d…液体の表面張力における分散成分(dispersion)
γL
P…液体の表面張力における極性成分(polar)
γL
H…液体の表面張力における水素結合成分(hydrogen)
γS
d…固体の表面自由エネルギーにおける分散成分
γS
P…固体の表面自由エネルギーにおける極性成分
γS
H…固体の表面自由エネルギーにおける水素結合成分
表面張力の各成分の単位はmJ/m2、表面自由エネルギーの各成分の単位はmJ/m2である。なお、表面張力には誘起成分(induction)も存在するが、誘起成分は非常に小さいため、無視して構わない。
【0049】
拡張Fowkesの式のγSLにYoungの式を代入すると、以下の式(1)が得られる。
【0050】
・式(1)
γL(1+cosθ)=2(γS
dγL
d)1/2+2(γS
pγL
p)1/2+2(γS
HγL
H)1/2
【0051】
固体の表面自由エネルギーは、γL,γL
d,γL
p,γL
Hが既知の3種類の液体を固体に付着させ、接触角θを実測することで求められる。例えば、樹脂モールド部材3の表面自由エネルギーに係るγS
d,γS
P,γS
Hを求めるには、表面張力の数値が既知の第一の液体と第二の液体と第三の液体とをそれぞれ樹脂モールド部材3に付着させ、三つの3元1次方程式を得る。三つの3元1次方程式を解くことで、γS
d,γS
P,γS
Hが求められる。表面張力の各成分が既知の液体として、例えば純水などが挙げられる。樹脂被覆23の表面自由エネルギーの求め方も、樹脂モールド部材3の表面自由エネルギーの求め方と同じである。
【0052】
接着仕事は、以下に示すDupreの式によって求められる。
【0053】
・Dupreの式
γ12+W=γ1+γ2
W…接着仕事;単位はmJ/m2
γ12…界面自由エネルギー;単位はmJ/m2
γ1…樹脂モールド部材3の表面自由エネルギー
γ2…樹脂被覆23の表面自由エネルギー
【0054】
ここで、γ12は、以下に示される拡張Fowkesの式によって求められる。
【0055】
・拡張Fowkesの式
γ12=γ1+γ2-2(γ1
dγ2
d)1/2-2(γ1
pγ2
p)1/2-2(γ1
Hγ2
H)1/2
γ1
d…樹脂モールド部材3の表面自由エネルギーにおける分散成分
γ1
P…樹脂モールド部材3の表面自由エネルギーにおける極性成分
γ1
H…樹脂モールド部材3の表面自由エネルギーにおける水素結合成分
γ2
d…樹脂被覆23の表面自由エネルギーにおける分散成分
γ2
P…樹脂被覆23の表面自由エネルギーにおける極性成分
γ2
H…樹脂被覆23の表面自由エネルギーにおける水素結合成分
【0056】
Dupreの式に拡張Fowkesの式を代入すると、以下の式(2)が得られる。
【0057】
・式(2)
W=2(γ1
dγ2
d)1/2+2(γ1
pγ2
p)1/2+2(γ1
Hγ2
H)1/2
【0058】
式(2)に代入する樹脂モールド部材3の表面自由エネルギーの各成分は式(1)によって求められる。同様に、式(2)に代入する樹脂被覆23の表面自由エネルギーの各線分も式(1)によって求められる。式(2)によって求められたWが例えば45mJ/m2であれば、式(A)のX1には45を代入する。
【0059】
接着仕事Wが大きいと、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23とが強固に接着しているといえる。本例の電線アセンブリ1における接着仕事Wは45mJ/m2以上であることが好ましい。接着仕事Wの値が45mJ/m2以上であれば、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との間の止水性が良好に保たれ易い。接着仕事Wは65mJ/m2以上であることが好ましく、80mJ/m2以上であることがより好ましい。
【0060】
≪歪の差≫
式(A)及び式(B)のX2は歪の差である。歪の差は、温度が90℃から20℃に変化した際の樹脂モールド部材3の歪と樹脂被覆23の歪との差である。X2の単位は無単位である。
電線2と端末部材4との外周に樹脂モールド部材3を形成する手順は次の通りである。端末部材4が接続された電線2のうち、端末部材4を含む電線2の端部が金型内に配置される。そして、溶融した状態の樹脂モールド部材3の材料が金型内に注入される。金型の温度は70℃程度である。金型に溶融した材料が流れ込んできたとき、金型内に配置される樹脂被覆23は90℃程度まで加熱される。電線アセンブリ1が金型から外されると、電線アセンブリ1は室温まで冷却される。室温を20℃とすると、電線アセンブリ1の製造時において樹脂モールド部材3の温度と樹脂被覆23の温度が90℃から20℃に変化する。温度変化に起因して樹脂モールド部材3に歪が発生する。同様に、樹脂被覆23にも歪が発生する。樹脂モールド部材3の歪と樹脂被覆23の歪とに差があると、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との界面に応力が作用する。この応力は、樹脂被覆23から樹脂モールド部材3を引きはがす力である。従って、樹脂モールド部材3の歪と、樹脂被覆23の歪との差は、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との間の止水性を評価する指標といえる。
【0061】
各部材の歪は、線膨張係数に基づいて求められる。樹脂モールド部材3の線膨張係数と、樹脂被覆23の線膨張係数はJIS K 7197:2012に準拠する方法によって測定される。具体的には、これらの線膨張係数はTMAによって測定される。TMAでは、10℃ごとの線膨張係数(1/℃)が得られる。具体的には、20℃から30℃の線膨張係数X1、30℃から40℃の線膨張係数X2、40℃から50℃の線膨張係数X3、50℃から60℃の線膨張係数X4、60℃から70℃の線膨張係数X5、70℃から80℃の線膨張係数X6、及び80℃から90℃の線膨張係数X7が得られる。下記式(3)に示されるように、90℃から20℃までの線膨張係数の和に温度差をかけることで、各部材の歪を求めることができる。
【0062】
・式(3)
歪=(X1+X2+X3+X4+X5+X6+X7)×70
【0063】
歪の差は、式(3)によって求めた樹脂モールド部材3の歪と、式(3)によって求めた樹脂被覆23の歪との差の絶対値である。歪の差が小さいということは、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との界面に強い応力が作用し難いといえる。従って、歪の差は0.02以下であることが好ましい。より好ましい歪の差は0.0129以下、更に好ましい歪の差は0.0011以下である。
【0064】
≪せん断接着強さ≫
式(B)のX3はせん断接着強さである。X3の単位はMPaである。
せん断接着強さは、電線2と樹脂モールド部材3とを互いに離れる方向に引っ張る引張試験を実施したときに、接着の破壊にいたる荷重を接触面積で割ったものである。従って、せん断接着強さは、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との間の止水性を評価する指標といえる。
【0065】
本例のせん断接着強さは以下のようにして求めることができる。例えば
図1の二点鎖線で示す位置で電線アセンブリ1を切断する。電線2の外周と、樹脂モールド部材3とをそれぞれチャックし、電線2の延伸方向に沿って電線2を樹脂モールド部材3から離れる方向に引っ張る。引張速度は10mm/分である。樹脂モールド部材3又は樹脂被覆23のいずれかが破壊されたときの荷重を計測する。その荷重を、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との接触面積で割る。荷重の単位はN、接触面積の単位はmm
2である。接触面積は、電線2の周長、即ち樹脂被覆23の周長に、長さL1をかけることで求められる。周長は、電線2の直径にπをかけることで求められる。長さL1は、電線アセンブリ1の切断面から樹脂モールド部材3の電線2側の端部までの距離である。
【0066】
樹脂モールド部材3と樹脂被覆23とのせん断接着強さが大きいと、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23とが強固に接着しているといえる。従って、せん断接着強さは0.2MPa以上であることが好ましい。より好ましいせん断接着強さは0.8MPa以上、更に好ましいせん断接着強さは1.5MPa以上である。測定によって求められたせん断接着強さが例えば0.2MPaあれば、式(B)のX3には0.2を代入する。
【0067】
≪線膨張係数の差≫
式(A)及び式(B)のX4は線膨張係数の差である。X4の単位は1/℃である。
線膨張係数は、温度変化に伴う部材の伸縮量に関する。従って、樹脂モールド部材3の線膨張係数と樹脂被覆23の線膨張係数とに差があると、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との界面に応力が作用する。従って、樹脂モールド部材3の線膨張係数と、樹脂被覆23の線膨張係数との差は、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との間の止水性を評価する指標といえる。樹脂モールド部材3の線膨張係数と樹脂被覆23の線膨張係数はそれぞれTMAによって求められる。
【0068】
樹脂モールド部材3の線膨張係数と、樹脂被覆23の線膨張係数との差が大きいと、電線アセンブリ1の製造時に樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との界面に剥離が生じる恐れがある。20℃における線膨張係数の差が2.2×10-4/℃以下であれば、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との間の止水性が良好に保たれ易い。上記線膨張係数の差は2.0×10-4/℃以下であることがより好ましく、1.5×10-4/℃以下であることが更に好ましい。
【0069】
≪弾性率≫
式(A)及び式(B)のX5は樹脂被覆23の弾性率である。X5の単位はMPaである。
上述したように、電線アセンブリ1の製造時、電線2の樹脂被覆23は金型内で加熱される。樹脂被覆23の弾性率が大きいと、金型から電線アセンブリ1が外され、樹脂被覆23が室温に冷却される過程で樹脂被覆23に大きな歪が発生する。この歪に起因して樹脂被覆23に発生する応力は、樹脂被覆23から樹脂モールド部材3を剥離させる恐れがある。応力は、樹脂被覆23に発生する歪に樹脂被覆23の弾性率を掛けたものである。従って、弾性率の低い樹脂被覆23を選定することで、樹脂被覆23から樹脂モールド部材3が剥がれ難くなる。電線アセンブリ1の製造過程における樹脂被覆23の温度範囲のうち、20℃において樹脂被覆23の弾性率が最大となるため、止水性能を評価するには20℃における樹脂被覆23の弾性率を測定する必要がある。弾性率はJIS K 7244に準拠する測定方法によって求められる。
【0070】
樹脂被覆23の弾性率は100MPa以下であれば、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との間の止水性が良好に保たれ易い。上記弾性率は60MPa以下であることが好ましく、20MPa以下であることがより好ましい。測定によって求められた弾性率が例えば100MPaであれば、式(A)又は式(B)のX5には100を代入する。
【0071】
<試験例1>
本試験例では、式(A)又は式(B)を求めるためのデータを取得した。具体的には、樹脂モールド部材3の材質と樹脂被覆23の材質とが異なる試料No.1から試料No.6の電線アセンブリ1を作製した。樹脂モールド部材3は、表1に示される樹脂モールド部材A、又は樹脂モールド部材Bのいずれかである。樹脂モールド部材Aは、耐熱性のPA樹脂であるPA6Tによって構成されている。樹脂モールド部材Aの融点は300℃である。樹脂モールド部材Bは、PA樹脂の一種であるPA612によって構成されている。樹脂モールド部材Bの融点は220℃である。
【0072】
【0073】
樹脂被覆23は表2に示される樹脂被覆C、樹脂被覆D、樹脂被覆E、樹脂被覆F、樹脂被覆G、又は樹脂被覆Hのいずれかである。表2において架橋の項目が『あり』となっている樹脂被覆では樹脂が架橋されている。フィラーの項目が『あり』となっている樹脂被覆にはフィラーが含まれている。難燃剤の項目が『あり』となっている樹脂被覆には難燃剤が含まれている。難燃剤は金属水酸化物であった。樹脂被覆Cにおけるフィラーの含有量は、樹脂被覆Cを100質量%としたとき、50質量%であった。樹脂被覆Fにおけるフィラーの含有量は、樹脂被覆Fを100質量%としたとき、40質量%であった。
【0074】
【0075】
試料No.1から試料No.6の電線アセンブリ1をリーク試験に供した。リーク試験の概要を
図3に示す。
図3に示されるように、水槽7に水をため、電線アセンブリ1の樹脂モールド部材3を水中に配置した。次いで、図示しないエアーポンプによって樹脂モールド部材3と反対側の端部から電線2の内部に空気を送り込んだ。空気の圧力を徐々に上げ、樹脂モールド部材3と樹脂被覆23との隙間から空気が漏れたときのエアーポンプの圧力メーターの値を記録した。空気の漏れが生じたときの圧力メーターの値をリーク圧(kPa)と呼ぶ。リーク圧が30kPa以上であれば、止水性が良好であると判断でき、50kPa以上であれば止水性が申し分ないと判断できる。リーク圧の結果を表3に示す。表3には、各試料の材質、接着仕事(mJ/m
2)、歪の差、せん断接着強さ(MPa)、線膨張係数の差、及び樹脂被覆の弾性率(MPa)も併せて示す。各物理量の測定方法は、実施形態に示される方法に準拠して求めた。
【0076】
【0077】
表3に示されるように、接着仕事が45mJ/m2以上である試料No.1から試料No.4の電線アセンブリ1のリーク圧は30kPaを大きく超えていた。試料No.1から試料No.4の電線アセンブリ1の止水性は良好であると判断できる。試料No.1から試料No.4を比較することで、接着仕事が高くなるほど、リーク圧が高くなることがわかった。特に、接着仕事が65mJ/m2以上である試料No.1及び試料No.2のリーク圧は50kPaを大きく超えていた。
【0078】
表3に示される結果から、歪の差が0.02以下、せん断接着強さが0.2MPa以上、線膨張係数の差が2.2×10-4以下、樹脂被覆の弾性率が100MPa以下であることで、電線アセンブリ1のリーク圧が30kPa以上となることが分かった。
【0079】
表3に示される試料No.1から試料No.6の接着仕事の数値、歪の差の数値、線膨張係数の差の数値、樹脂被覆の弾性率の数値、及びリーク圧の数値を用いて重回帰分析を行う。重回帰分析では、目的変数yと複数の説明変数x1,x2,x3…のデータから以下の回帰式における係数a1,a2,a3…、及び切片bが算出される。
・回帰式;y=a1×x1+a2×x2+a3×x3…+b
本例では、リーク圧が目的変数である。接着仕事、歪の差、線膨張係数の差、及び樹脂被覆の弾性率がそれぞれ説明変数である。重回帰分析によって、式(A)を得ることができる。同様に、表3に示される試料No.1から試料No.6の歪の差の数値、せん断接着強さの数値、線膨張係数の差の数値、樹脂被覆の弾性率の数値、及びリーク圧の数値を用いて重回帰分析を行う。この場合、リーク圧が目的変数である。歪の差、せん断接着強さ、線膨張係数の差、及び樹脂被覆の弾性率がそれぞれ説明変数である。重回帰分析によって、式(B)を得ることができる。式(A)又は式(B)を用いることで、樹脂モールド部材3の材質などを変更した場合でも、リーク試験を行うことなく、リーク圧を求めることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 電線アセンブリ
2 電線
2A 芯線
2B 芯線
20 導体
21 絶縁層
23 樹脂被覆
3 樹脂モールド部材
4 端末部材
7 水槽
L0 長さ
L1 長さ