IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ車体株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両用空調装置 図1
  • 特開-車両用空調装置 図2
  • 特開-車両用空調装置 図3
  • 特開-車両用空調装置 図4
  • 特開-車両用空調装置 図5
  • 特開-車両用空調装置 図6
  • 特開-車両用空調装置 図7
  • 特開-車両用空調装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087318
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/00 20060101AFI20230616BHJP
   B60H 1/34 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
B60H1/00 102U
B60H1/34 651Z
B60H1/34 611Z
B60H1/00 102W
B60H1/00 102Q
B60H1/00 102V
B60H1/34 631
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201632
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 仁史
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 茜
(72)【発明者】
【氏名】尾原 光俊
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211AA02
3L211BA02
3L211DA16
3L211DA52
(57)【要約】
【課題】 車室内に空調風を効率良く供給することができる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】 空調風供給装置101は、車両1に搭載されるものであり、車室1aに面する位置に互いに隣接して設けられた2つの吹出口8,9を有するトリム部5を備え、トリム部5は、2つの吹出口8,9のうち吹き出し風速が速い方の第1吹出口8から車室1aに吹き出した空調風が吹き出し風速が遅い方の第2吹出口9から車室1aに吹き出した空調風をコアンダ効果により引き込んで風量を高めるように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される空調風供給装置であって、
車室に面する位置に互いに隣接して設けられた2つの吹出口を有するトリム部を備え、
上記トリム部は、上記2つの吹出口のうち吹き出し風速が速い方の第1吹出口から上記車室に吹き出した空調風が吹き出し風速が遅い方の第2吹出口から上記車室に吹き出した空調風をコアンダ効果により引き込んで風量を高めるように構成されている、空調風供給装置。
【請求項2】
上記第1吹出口は、上記車室に吹き出した空調風が対象とする障害物に隣接した第1供給領域に供給されるように開口しており、上記第2吹出口は、上記車室に吹き出した空調風が上記障害物と上記第1供給領域との境界に位置する第2供給領域に供給されるように開口している、請求項1に記載の空調風供給装置。
【請求項3】
上記トリム部は、上記2つの吹出口に連通する空調風流路と、上記空調風流路において上記第1吹出口と上記第2吹出口との間に設けられた流れ規制部と、を有し、
上記空調風流路を空調風が流れる方向について上記第1吹出口の上流側に上記第2吹出口が配置されており、
上記流れ規制部は、上記第2吹出口に向かう空調風の流れを規制することにより上記第2吹出口に比べて上記第1吹出口に向けて流れる空調風の分流比率を増やすように構成されている、請求項1または2に記載の空調風供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、この種の空調装置を構成する車両用ヒーターダクト構造が開示されている。このヒーターダクト構造は、後部座席の乗員の足元を温風によって温めるためのものであり、車室後部の側面のクォータートリムの下端部に形成された吹出口から温風を吹き出すように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-264440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のヒーターダクト構造のような空調装置の設計は、車両の構造や他部品との配置関係などを考慮しながら行われるのが好ましい。この場合、ダクトの位置に制約があると、車室に空量風を吹き出す吹出口の位置や面積を工夫したとしても、車室内の必要な領域に空調風を十分な風量で供給するのが難しいことが想定される。
【0005】
例えば、後席の右側に配置されたダクトの吹出口から吹き出した空調風を、ダクトから近い右側の車両のシートの乗員に十分な風量で供給ができる一方で、ダクトから遠い左側の車両シートの乗員に届けることが供給できない。空調風を吹き出す吹出口の位置や数が限られているときには、乗員の乗車位置によって足元に寒暖差が発生するという問題が生じ得る。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、車室内に空調風を効率良く供給することができる車両用空調装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
車両に搭載される空調風供給装置であって、
車室に面する位置に互いに隣接して設けられた2つの吹出口を有するトリム部を備え、
上記トリム部は、上記2つの吹出口のうち吹き出し風速が速い方の第1吹出口から上記車室に吹き出した空調風が吹き出し風速が遅い方の第2吹出口から上記車室に吹き出した空調風をコアンダ効果により引き込んで風量を高めるように構成されている、空調風供給装置、
にある。
【発明の効果】
【0008】
上述の態様の空調風供給装置において、トリム部には、車室に面する位置に互いに隣接して2つの吹出口が設けられている。このとき、吹き出し風速が速い方の第1吹出口と、吹き出し風速が遅い方の第2吹出口と、を互いに隣接して配置することによって、第2吹出口から車室に吹き出した空調風をコアンダ効果により引き込んで風量を高めることが可能になる。
【0009】
これにより、本来、空調風の風量不足が要因で、車室内の所望の領域に空調風を届けることができないようなときでも、吹き出し風速が遅い方の空調風の風量をコアンダ効果で増やすことによって、この領域に空調風を効率良く届けることが可能になる、その結果、吹出口の位置や数が限られている場合であっても、乗員の乗車位置によって足元に寒暖差が発生するのを防ぐことができる。
【0010】
以上のごとく、上述の態様によれば、車室内に空調風を効率良く供給することができる車両用空調装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1にかかる車両の車室を側方からみた側面図。
図2図1のII-II線断面矢視図。
図3図1中の2列目の車両シートのシートクッション部を前側からみた図。
図4図3中の空調風誘導部を後側からみた図。
図5図4のV-V線断面矢視図。
図6】2列目の車両シートが前側位置にあるときにトリム部の吹出口から車室に空調風が供給される様子を示す平面図。
図7】2列目の車両シートが後側位置にあるときにトリム部の吹出口から車室に空調風が供給される様子を示す平面図。
図8】トリム部の吹出口から吹き出した空調風のコアンダ効果を説明するための平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述の空調風供給装置において、上記第1吹出口は、上記車室に吹き出した空調風が対象とする障害物に隣接した第1供給領域に供給されるように開口しており、上記第2吹出口は、上記車室に吹き出した空調風が上記障害物と上記第1供給領域との境界に位置する第2供給領域に供給されるように開口しているのが好ましい。
【0013】
この空調風供給装置によれば、第1吹出口から吹き出す空調風は吹き出し風速が速く風量が十分に確保できるため、第1供給領域にある空調対象を直接狙うことができる。このため、第1吹出口から吹き出した空調風を、障害物に邪魔されることなく第1供給領域にある空調対象に届けることができる。一方で、第2吹出口から吹き出す空調風は吹き出し風速が遅く本来は所望の空調対象まで届けるのに風量が不足しているが、コアンダ効果を利用して風量を増やすことによって、第2供給領域から障害物を越えた位置にある所望の空調対象まで届けることができる。その結果、吹出口の位置や数が限られている場合であっても、第1吹出口と第2吹出口のそれぞれから吹き出す空調風の協働によって、車室内の広範囲に空調風をバランス良く届けることが可能になる。
【0014】
上述の空調風供給装置において、上記トリム部は、上記2つの吹出口に連通する空調風流路と、上記空調風流路において上記第1吹出口と上記第2吹出口との間に設けられた流れ規制部と、を有し、
上記空調風流路を空調風が流れる方向について上記第1吹出口の上流側に上記第2吹出口が配置されており、
上記流れ規制部は、上記第2吹出口に向かう空調風の流れを規制することにより上記第2吹出口に比べて上記第1吹出口に向けて流れる空調風の分流比率を増やすように構成されているのが好ましい。
【0015】
この空調風供給装置によれば、流れ規制部を利用することによって、第1吹出口から吹き出す空調風の吹き出し風速が速くなり、第2吹出口から吹き出す空調風の吹き出し風速が第1吹出口よりも遅くなるように制御することが可能になる。
【0016】
以下、車両に搭載される空調風供給装置の実施形態の具体例について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
なお、以下の説明で参照する図面において、車両前方を矢印FRで示し、車両上方を矢印UPで示し、車両内方を矢印INで示す。また、特にことわらない限り、車両に搭載された状態の空調風供給装置について、その前後方向(車長方向)を矢印Xで示し、その左右方向(車幅方向)を矢印Yで示し、その上下方向(車高方向)を矢印Zで示すものとする。
【0018】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1にかかる車両1は、前席用の車両シート10Aと、後席用の2列の車両シート10B,10Cと、を備えるワンボックスカーである。車両シート10Aは、車室1aの第1領域2に配置されている。車両シート10Bは、車室1aのうち第1領域2よりも後方の第2領域3に配置された2列目の車両シートである。この車両シート10Bは、所謂「キャプテンシート」と称されるものであり、2つの車両シート10Bが左右方向Yに互いに隣接して配置されている。車両シート10Cは、車室1aのうち第2領域3よりも後方の第3領域4に配置された3列目の車両シートである。この車両シート10Cは、3人掛け用のシートであり、所謂「ベンチシート」と称されるものである。
【0019】
なお、この車両1における車両シートの配列構造はあくまで例示的なものであって、図1のものに限定されるものではない。例えば、後席は2列以外であってもよい。また、各車両シートの構造及び形状は、図1に示されるものから適宜に変更が可能である。
【0020】
車両シート10Bは、左右方向Yの両側にシートレッグ部13(図3を参照)を有し、このシートレッグ部13が車体フロア部1bに前後方向Xに延びるように設けられたスライドレール14を介して前後方向Xにスライド可能となるように支持されている。すなわち、この車両シート10Bは、前側位置P1から後側位置P2までの間で前後方向Xにスライド可能なスライドシートとして構成されている。このため、乗員Cの脚部Lの位置は車両シート10Bが前後方向Xにスライドすることに応じて前後に変化する。
【0021】
図1に示されるように、実施形態1の空調風供給装置101は、車両1に搭載されるものであり、トリム部5と、空調風誘導部20と、を備えている。
【0022】
(トリム部の構造)
トリム部5は、車室1aの第3領域4に突出状に設けられた右側の内装部品によって構成されている。このトリム部5は、車両シート10Bよりも後方に配置されており、2つの吹出口8,9を有する。これら2つの吹出口8,9はいずれも、車両シート10Bのシートクッション部11よりも下方位置であって車室1aの第3領域4に面する位置に互いに隣接して設けられている。また、これら2つの吹出口8,9は、ダクト6の内部に形成された空調風流路7に連通するように設けられている。このため、ヒータユニット(図示省略)で生成された空調風を、ダクト6の空調風流路7を介して2つの吹出口8,9から車室1aに供給することができる。このとき、2つの吹出口8,9から吹き出す空調風は乗員の足元を温めるための温風とされる。
【0023】
図2に示されるように、2つの吹出口8,9のうち前側に位置する第1吹出口8は、車室1aに対して前斜め前方に向けて開口している。これに対して、2つの吹出口8,9のうち後側に位置する第2吹出口9は、車室1aに対して前斜め前方に向けて開口しているが、第1吹出口8よりも若干前方側に傾いて開口している。すなわち、トリム部5を車室1aの上方側から見たとき、前後方向Xに延びる仮想直線Kと第1吹出口8の開口方向とのなす角度θ1は、この仮想直線Kと第2吹出口9の開口方向とのなす角度θ2を若干上回るようになっている。このような構成によれば、2つの吹出口8,9のそれぞれから吹き出した空調風を互いの境界部分において干渉させることができる。
【0024】
トリム部5は、空調風流路7において第1吹出口8と第2吹出口9との間に凸状に設けられた流れ規制部6aを有する。このとき、空調風流路7を空調風が流れる方向について第1吹出口8の上流側に第2吹出口9が配置されている。流れ規制部6aは、第2吹出口9に向かう空調風の流れの一部を遮って規制することにより第2吹出口9に比べて第1吹出口8に向けて流れる空調風の分流比率を増やすように構成されている。
【0025】
本構成によれば、第1吹出口8から吹き出す空調風は、第2吹出口9から吹き出す空調風よりも風量が多く且つ吹き出し風速が速い主流となる。このため、第1吹出口8を「主流吹出口」或いは「主流開口」ということもできる。これに対して、第2吹出口9から吹き出す空調風は、第1吹出口8から吹き出す空調風よりも風量が少なく且つ吹き出し風速が遅い副流となる。このため、第2吹出口9を「副流吹出口」或いは「副流開口」ということもできる。
【0026】
(空調風誘導部の構造)
空調風誘導部20は、左右の車両シート10Bのそれぞれのシートクッション部11と車体フロア部1bとの間の対向空間12に設けられている。シートクッション部11の上面は乗員Cの着座面となる。空調風誘導部20は、車両シート10Bのシートクッション部11の下面に一体状に固定されている。このため、空調風誘導部20は、車両シート10Bが前後方向Xにスライドすることに応じて前後に移動する。
【0027】
空調風誘導部20は、誘導路21と、導入開口24と、導出開口27と、を有する。誘導路21は、空調風を車両1の前後方向Xに誘導するための誘導空間である。導入開口24は、トリム部5の吹出口8,9から車室1aに吹き出した空調風の一部を誘導路21に導入するための開口部分である。導出開口27は、誘導路21から車室1aに空調風を導出するための開口部分である。
【0028】
図3に示されるように、空調風誘導部20は、誘導路21の前側を区画する前壁25と、誘導路21の右側を区画する右壁28と、誘導路21の左側を区画する左壁29と、を有する。前壁25には、導出開口27を構成する格子状のスリット開口を有するスリット部26が設けられている。
【0029】
図4に示されるように、空調風誘導部20は、さらに、誘導路21の後側を区画する後壁22を有する。後壁22には、導入開口24を構成する格子状のスリット開口を有するスリット部23が設けられている。スリット部23は、空間を隔てて、トリム部5の吹出口8,9と向かい合うように配置されている。
【0030】
なお、誘導路21の上側は、車両シート10Bのシートクッション部11の下面によって区画され、誘導路21の下側は、車体フロア部1bの表面によって区画されている。これにより、誘導路21は、導入開口24及び導出開口27のそれぞれの開口部分と、車体フロア部1bの表面との間に形成される僅かな隙間と、を除いて、前後方向Xと左右方向Yと上下方向Zの三方向について密閉状に区画された密閉空間となる。このとき、誘導路21は、概ね四角柱形状をなすように形成される。
【0031】
図4及び図5に示されるように、空調風誘導部20は、導入開口24のまわりに立設して設けられた立設壁22aを有する。この立設壁22aによって囲まれる空間22bは、空調風を導入開口24に誘い込むのに有効な開口空間となっている。このため、図5に示されるように、第1吹出口8から吹き出した空調風が立設壁22aの表面に沿って導入開口24に誘い込まれるような空調風流れ(図5中の矢印を参照)が形成される。
【0032】
次に、図6及び図7を参照しながら、トリム部5の2つの吹出口8,9から車室1aに空調風が吹き出すときの様子について説明する。
【0033】
図6に示されるように、2列目の車両シート10Bが前側位置P1にあるとき、車室1aの第3領域4の前後方向Xの距離が最大になる。このとき、車両シート10Bは、前後方向Xの各スライド位置の中でトリム部5の2つの吹出口8,9から最も離れた位置に配置される。このとき、2つの吹出口8,9から吹き出した空調風は、主に、車室1aの第3領域4に供給される。
【0034】
図7に示されるように、2列目の車両シート10Bが後側位置P2にあるとき、車室1aの第3領域4の前後方向Xの距離が最小になる。このとき、車両シート10Bは、前後方向Xの各スライド位置の中でトリム部5の2つの吹出口8,9に最も近い位置に配置される。このため、2つの吹出口8,9から吹き出した空調風は、右側の車両シート10Bのシートクッション部11の下方に設けられた空調風誘導部20によって誘導される。
【0035】
空調風は、空調風誘導部20の誘導路21を通じて車室1aの第3領域4から第2領域3に抜けるように前方へ流れる。誘導路21は、前述のように、その上下及び左右がともに仕切られており、空調風の前後方向Xのみの流れを許容する。したがって、この誘導路21は、単なる開口空間に空調風を流すのとは異なり、第3領域4から第2領域3へと指向性を持たせて空調風を誘導するのに有効である。このとき、2つの吹出口8,9から吹き出した空調風は、車室1aの第2領域3と第3領域4の両方に供給される。
【0036】
図6及び図7を参照した場合、空調風誘導部20をスライドシートである車両シート10Bと一体化することによって、この車両シート10Bのスライド位置に応じて、トリム部5の吹出口8,9から吹き出した空調風の供給先を切り替えることができる。
【0037】
空調風誘導部20を使用することによって、トリム部5の位置に制約がある場合であっても、このトリム部5に設けられている吹出口8,9から吹き出した空調風を吹出口8,9から離れた第2領域3まで確実に誘導することができる。
【0038】
図8に示されるように、トリム部5が、例えば車両シート10Cの真横に配置されている場合、第1吹出口8は、車室1aに吹き出した空調風が対象とする障害物Wに隣接した第1供給領域A1に供給されるように開口している。ここで、車両シート10Cの右側のシートレッグ部13を障害物Wとしている。これに対して、第2吹出口9は、車室1aに吹き出した空調風が障害物Wと第1供給領域A1との境界に位置する第2供給領域A2に供給されるように開口している。
【0039】
第1吹出口8から吹き出す空調風は吹き出し風速が速く風量が十分に確保できるため、第1供給領域A1においてこの第1吹出口8から離れた位置にある空調対象である車両シート10Cの右側及び中央の乗員の足元を直接狙うことができる。このため、第1吹出口8から吹き出した空調風を、障害物Wに邪魔されることなく、第1供給領域A1にある乗員の足元に届けることができる。
【0040】
これに対して、第2吹出口9から吹き出す空調風の吹き出し風速が遅く風量が不足している場合には、この第2吹出口9から離れた位置にある空調対象である車両シート10Cの左側の乗員の足元を直接狙うのが難しい。このため、第2吹出口9から吹き出した空調風を、車両シート10Cの左側の乗員の足元に十分に届けるのが難しい。
【0041】
そこで、本実施形態のトリム部5は、2つの吹出口8,9のうち第1吹出口8から車室1aに吹き出した空調風が第2吹出口9から車室1aに吹き出した空調風をコアンダ効果により引き込んで風量を高めるように構成されている。このコアンダ効果を得るために、2つの吹出口8,9の配置及び向き、2つの吹出口8,9の相対的な吹き出し風速の関係を適宜に設定するのが好ましい。
【0042】
ここでいう「コアンダ効果」とは、流体に関する既知の現象を利用したものであり、その詳細な説明を省略するが、概して、流体がその粘性の効果により周りの流体を巻き込むように或いは引っ張るように引き込んで流れるような現象をいう。
【0043】
本実施形態の場合、流速が速い主流である空調風(第1吹出口8から吹き出した空調風)がその粘性の効果により周りの流速が遅い副流(第2吹出口9から吹き出した空調風)を引き込んで流れるような現象がコアンダ効果に該当する。このコアンダ効果を得るために、前記の流れ規制部6a(図2を参照)を利用して、第1吹出口8から吹き出す空調風の吹き出し風速が速くなり、第2吹出口9から吹き出す空調風の吹き出し風速が第1吹出口8よりも遅くなるように制御するのが好ましい。
【0044】
このコアンダ効果を得るための構造(以下、「コアンダ構造」という。)によれば、第2吹出口9から吹き出した空調風の吹き出し風速が遅い場合であっても、この空調風が車室1aを流れる過程で第1吹出口8から吹き出した空調風によって巻き込まれるようにして引き込まれることによってその風量が増える。このとき、第1供給領域A1と第2供給領域A2との境界部分に、第1吹出口8から吹き出した空調風が第2吹出口9から吹き出した空調風を巻き込んでなるコアンダ流Fが形成される(図8を参照)。
【0045】
これにより、第2吹出口9から吹き出した空調風を、障害物Wを越えた左斜め前方の第3供給領域A3まで引っ張ることができ、車両シート10Cの左側の乗員の足元に十分な風量で届けることが可能になる。すなわち、第2吹出口9による第2供給領域A2を、コアンダ効果を得られない場合に比べて、第3供給領域A3までのばすことができる。その結果、吹出口8,9の位置や数が限られている場合であっても、第1吹出口8と第2吹出口9のそれぞれから吹き出す空調風の協働によって、車室1a内の広範囲に空調風をバランス良く届けることが可能になる。
【0046】
なお、本発明者は、コンピュータシステムを用いて実際に実施した流体解析(CFD解析)において本効果を確認している。
【0047】
次に、上述の実施形態1の作用効果について説明する。
【0048】
実施形態1の空調風供給装置101において、トリム部5には、車室1aに面する位置に互いに隣接して2つの吹出口8,9が設けられている。このとき、吹き出し風速が速い方の第1吹出口8と、吹き出し風速が遅い方の第2吹出口9と、を互いに隣接して配置することによって、第2吹出口9から車室1aに吹き出した空調風をコアンダ効果により引き込んで風量を高めることが可能になる。
【0049】
これにより、本来、空調風の風量不足が要因で、車室1a内の第3供給領域A3(図8を参照)に空調風を届けることができないようなときでも、吹き出し風速が遅い方の空調風(第2吹出口9から吹き出した空調風)の風量をコアンダ効果で増やすことによって、この第3供給領域A3に空調風を効率良く届けることが可能になる。その結果、吹出口8,9の位置や数が限られている場合であっても、乗員の乗車位置によって足元に寒暖差が発生するのを防ぐことができる。
【0050】
以上のごとく、実施形態1によれば、車室1a内に空調風を効率良く供給することができる空調風供給装置101を提供することが可能になる。
【0051】
また、空調風供給装置101は、コアンダ構造と空調風誘導部20を兼ね備えることによって、空調風を車室1a内の遠い領域まで届ける機能と、空調風を所望の領域まで指向性を持たせて誘導する機能と、を両立するのに有効である。
【0052】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。
【0053】
上述の実施形態では、トリム部5の空調風流路7の流れ規制部6aを設ける場合について例示したが、第1吹出口8よりも第2吹出口9の方の吹き出し風速を遅くすることができる別構造を備える場合には、流れ規制部6aを省略することもできる。
【0054】
上述の実施形態では、トリム部5の2つの吹出口8,9のそれぞれから吹き出す空調風の間で生じるコアンダ効果を利用する場合について例示したが、コアンダ効果を利用することができれば吹出口の数は限定されるものではない。例えば、トリム部5に3つ以上の複数の吹出口を隣接させて設け、複数の吹出口のうち隣接する少なくとも2つの吹出口から吹き出す空調風の間で生じるコアンダ効果を利用するようにしてもよい。
【0055】
上述の実施形態では、空調風誘導部20とコアンダ構造の両方を兼ね備える空調風供給装置101について例示したが、この空調風供給装置101において空調風誘導部20のみを省略することもできる。
【0056】
上述の実施形態では、ヒータユニットで生成した温風を空調風として車室1aに供給する構造について例示したが、本構造を、冷風を空調風として車室1aに供給する構造に適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1 車両
1a 車室
5 トリム部
6a 流れ規制部
7 空調風流路
8 第1吹出口(吹出口)
9 第2吹出口(吹出口)
13 シートレッグ部(障害物)
101 空調風供給装置
A1 第1供給領域
A2 第2供給領域
W 障害物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8