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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087359
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】電池及び電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20230616BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230616BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230616BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/04 A
H01M4/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201695
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】落合 佑紀
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA00
5H050AA19
5H050BA05
5H050BA11
5H050BA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA05
5H050CA08
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB13
5H050CB16
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA23
5H050FA16
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】電池の極板の柔軟性を向上させる。
【解決手段】電池(図1の例では円筒型リチウム一次電池1)は、導電性を有する芯体とその芯体を覆う合剤層とを含む極板(図1の例では正極5)を有する。ここで合剤層は、活物質と導電材と結着剤とを含むスラリーを硬化したものであり、活物質と導電材と結着剤とを含むとともに、その結着剤は、ポリビニルアルコール樹脂を主体とした繊維状樹脂を含む。これにより、極板に繊維の網が張り巡らされ極板の柔軟性が向上する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する芯体と前記芯体を覆う合剤層とを含む極板を有し、
前記合剤層は、活物質と導電材と結着剤とを含み、
前記結着剤は、ポリビニルアルコール樹脂を主体とした繊維状樹脂を含む、
電池。
【請求項2】
前記合剤層は、前記活物質と前記導電材と前記結着剤とを含むスラリーを硬化したものである、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記繊維状樹脂は、アセタール化させた前記ポリビニルアルコール樹脂を含む、請求項1または2に記載の電池。
【請求項4】
前記合剤層における前記繊維状樹脂の濃度は、0.5wt%以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電池。
【請求項5】
極板を含む電池の製造方法において、
ポリビニルアルコール樹脂を主体とした繊維状樹脂を含む結着剤と、活物質と導電材とを含むスラリーを作製し、
導電性を有する芯体に前記スラリーを塗工し、
前記スラリーを硬化させることで前記極板を作製する、
電池の製造方法。
【請求項6】
前記スラリーを作製する工程において、前記スラリーに含まれる材料のうち、前記繊維状樹脂は最後に添加される、請求項5に記載の電池の製造方法。
【請求項7】
前記スラリーを作製する工程において用いられる希釈剤は純水を含む、請求項5または6に記載の電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池及び電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高容量かつ高出力の電池が求められている。電池の設計において、極板の厚みを厚くすると高容量化が可能である。また、負極と正極との対向面積を増やすと高出力化が可能となる。たとえば、それぞれシート状の正極と負極とをシート状のセパレータを介して巻回した電極体を有する円筒型の電池は、正極と負極との対向面積を大きくしやすいため高出力化が可能である。
【0003】
一方、極板には柔軟性が求められる場合もある。たとえば、上記のような円筒型の電池や、フレキシブル電池などにおいては、極板の柔軟性が求められる。
なお、従来、アルカリ蓄電池用の負極の活物質層の表面にPVP(PolyVinylPyrrolidone)とPVA(Polyvinyl Alcohol)との混合物によりなる層を形成する技術があった(たとえば、特許文献1参照)。この技術では、負極活物質層表面に充放電時の活物質の溶解析出反応によりカドミウムがセパレータに移動する現象(マイグレーション)の抑制のためのバリヤ層がPVPにより形成される。また、PVPは活物質の粗大化抑制効果が高いため、負極の不活性化抑制のために用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05-283067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電池の高容量化のために極板を厚くするほど屈曲性が損なわれる。このため極板の柔軟性が低いと、屈曲される際に、極板に含まれる導電材などが剥がれ、内部短絡が生じる可能性がある。
【0006】
なお、極板の製造に用いる結着剤(バインダとも呼ばれる)として、SBR(Styrene-Butadiene Rubber)、PVdF(PolyVinylidene diFluoride)、または、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)が主流である。SBRはエマルション粒子が活物質間を結着させており、PVdFは活物質を覆うように吸着する。SBRとPVdFは、どちらも活物質同士を強固に固定するため、柔軟性を得ることが難しい。
【0007】
一方、PTFEは、極板の柔軟性を得るために用いられているが、極板の製造工程の一工程である機械的せん断(混練)時に、フェブリル化し、スラリー状態を維持することができないため、極板全体に対する均一な分散が妨げられる場合がある。
【0008】
1つの側面では、本発明は、電池の極板の柔軟性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの実施態様では、導電性を有する芯体と前記芯体を覆う合剤層とを含む極板を有し、前記合剤層は、活物質と導電材と結着剤とを含み、前記結着剤は、ポリビニルアルコール樹脂を主体とした繊維状樹脂を含む、電池が提供される。
【0010】
また、1つの実施態様では、極板を含む電池の製造方法において、ポリビニルアルコール樹脂を主体とした繊維状樹脂を含む結着剤と、活物質と導電材とを含むスラリーを作製し、導電性を有する芯体に前記スラリーを塗工し、前記スラリーを硬化させることで前記極板を作製する、電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
1つの側面では、本発明は、電池の極板の柔軟性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】円筒型リチウム一次電池の断面図である。
図2】合剤層の各構成要素の材料例を示す図である。
図3】円筒型リチウム一次電池の製造方法の一例の流れを示すフローチャートである。
図4】繊維状樹脂のSEM(Scanning Electron Microscope)画像の例を示す図である。
図5】屈曲試験後の極板の状態を示す図である。
図6】極板の打ち抜き後の状態を示す図である。
図7】合剤層の断面部分のSEM画像の例を示す図である。
図8】繊維状樹脂の濃度と極板の抵抗値との関係を示す図である。
図9】PVA樹脂のアセタール化の有無の影響についての評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ説明する。
本実施の形態の電池(一次電池または二次電池)は、たとえば、リチウム(Li)電池、ニッケル(Ni)水素電池、ニッケル亜鉛(Zn)電池などである。以下では、本実施の形態の電池の一例として、円筒型リチウム一次電池を挙げて説明する。
【0014】
図1は、円筒型リチウム一次電池の断面図である。
円筒型リチウム一次電池1は、渦巻き状に巻回された状態で有底の円筒形の電池缶(負極缶)2に非水電解液3と共に収納された電極体10を備えている。電極体10は、電池缶2の円筒軸2aを巻き軸として巻回されている。
【0015】
電極体10は、それぞれシート状の負極4及び正極5と、負極4と正極5の間に挟まれたシート状のセパレータ6を有する。
非水電解液3は、非水系溶媒に添加剤を加えたものである。非水系溶媒として、たとえば、PC(Propylene Carbonate)と、EC(Ethylene Carbonate)と、DC(1,2-Dimethoxyethane)を、重量比率で、PC:EC:DME=10:10:80で混合したものを用いることができる。添加剤として、たとえば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)などの支持塩を用いることができる。
【0016】
負極4は、リチウム金属またはリチウム合金をシート状に成形したものである。リチウム合金として、たとえば、リチウム-アルミニウム(Al)合金、リチウム-マグネシウム(Mg)合金、リチウム-スズ(Sn)合金、リチウム-亜鉛合金、リチウム-アンチモン(Sb)合金、リチウム-ケイ素(Si)合金などを用いることができる。
【0017】
なお、負極4の表面にリチウムと合金化する金属を配置して、合金化層が形成されるようにしてもよい。たとえば、負極4の表面にアルミニウム箔を配置してリチウムと合金化されるようにしてもよい。また、負極4の表面に配置する金属は、合金化する元素であれば特に限定されるものではなく、たとえば、マグネシウム・スズ・亜鉛・ケイ素などを用いることができる。また、負極4の表面に配置するものは金属箔に限らず、板、粉末やそれを加工したものであってもよい。
【0018】
正極5は、導電性を有する芯体とその芯体を覆う合剤層とを含む極板である。ここで、合剤層は、活物質と導電材とを含むとともに、PVA樹脂を主体とした繊維状樹脂を含む。なお、合剤層は、構成要素としてその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0019】
図2は、合剤層の各構成要素の材料例を示す図である。
活物質として、たとえば、EMD(Electrolytic Manganese Dioxide)などの正極活物質を用いることができる。活物質にはカーボン材料が含まれていてもよい。導電材として、たとえば、ケッチェンブラック(KB: Ketjen Black)、グラファイト(Gr)などを用いることができる。結着剤として、上記繊維状樹脂のほか、たとえば、アクリルバインダなどを含んでいてもよい。
【0020】
なお、繊維状樹脂は、後述の理由からアセタール化させたPVA樹脂を含むことが望ましい。また、後述の理由から合剤層における繊維状樹脂の濃度は、0.5wt%以下であることが望ましい。
【0021】
その他、添加剤として、たとえば、HEC(HydroxyEthyl Cellulose)や水酸化リチウム(LiOH)を用いることができる。HECや水酸化リチウムは、増粘剤などとして機能する。
【0022】
合剤層は、活物質、導電材、結着剤などを含むスラリーを、芯体に塗工して硬化させることで作製される。正極5の具体的な製造方法については後述する。
芯体として、たとえば、ラス板、平織り金網、エキスパンドメタル、金属箔などを用いることができる。芯体の材質として、正極電位に対する耐食性があるものであることが望ましい。そのような材質として、SUS(Steel Use Stainless)316、SUS444などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
セパレータ6は、たとえば、ポリオレフィン製の微多孔性フィルムである。セパレータ6は、ポリオレフィン製の微多孔性フィルムと、不織布(たとえば、シート状の樹脂製不織布(ポリプロピレン製不織布など))とが積層されたものであってもよい。
【0024】
図1に示されている円筒型リチウム一次電池1は、さらに、封口板11、正極端子12、金属製のワッシャ13、樹脂製のガスケット14、負極タブ15、正極タブ16を有する。
【0025】
封口板11は、中央に開口を有する円盤状部を有し、当該円盤状部の縁は上方に向かって屈曲している。正極端子12とワッシャ13とは、ガスケット14を介してかしめられている。封口板11の縁端と電池缶2の上部縁端とはレーザ溶接などにより溶接されている。これにより電池缶2の缶口が封口され電池缶2内が封止されている。
【0026】
負極4と電池缶2の内面とは、負極タブ15を介して電気的に接続されている。また、正極5と正極端子12の下面とは、正極タブ16を介して電気的に接続されている。
図3は、円筒型リチウム一次電池の製造方法の一例の流れを示すフローチャートである。
【0027】
たとえば、まず以下のような極板(正極5)の作製工程が行われる。
極板の作製工程では、PVA樹脂を主体とした繊維状樹脂を含む結着剤と、活物質と導電材とを含むスラリーが作製される(ステップS1)。
【0028】
ステップS1の工程は、たとえば、以下の(1)~(4)の工程を含む。
(1)希釈剤に図2に示したような、HEC、水酸化リチウム、KBが添加され、ミキサーを用いて混合される。なお、希釈剤として、純水を用いることができる。純水を用いることで、環境に影響を与えるガスの発生を防げる。
【0029】
(2)ミキサーにより、EMD、カーボン材料、Grが乾式混合される。
(3)(2)により得られた混合紛へ、(1)で得られたスラリーが添加され、混錬される。
【0030】
(4)混錬後のスラリーにアクリルバインダが添加され、撹拌後、最後に図2に示した繊維状樹脂が添加され、混合後、スラリーが完成する。
その後、ステップS1の工程で作製されたスラリーが芯体に塗工され(ステップS2)、乾燥により硬化される(ステップS3)。その後、プレス加工(圧延)と切り出しが行われ(ステップS4)、極板(正極5)が完成する。なお、正極タブ16は、正極5と一体的に切り出され、作製可能である。
【0031】
次に、負極タブ15が電気的に接続された負極4と、セパレータ6が用意され(ステップS5)、負極4と正極5との間にセパレータ6を挟んで構成されている電極体10が巻回されて電池缶2に収納される(ステップS6)。
【0032】
その後、負極タブ15が電池缶2の内面に溶接され、正極タブ16が正極端子12の下面に溶接され(ステップS7)、非水電解液3が電池缶2内に注入される(ステップS8)。そして、封口板11の縁端と電池缶2の上部縁端とがレーザ溶接などにより溶接されることで、電池缶2の缶口が封口される(ステップS9)。これにより、図1に示したような円筒型リチウム一次電池1が得られる。
【0033】
上記のように、本実施の形態の円筒型リチウム一次電池1によれば、正極5の合剤層が、PVA樹脂を主体とした繊維状樹脂を含む結着剤を有することで、正極5に繊維の網が張り巡らされ正極5の柔軟性を向上させることができる。これにより、円筒型リチウム一次電池1の高容量化のために正極5を比較的厚くしても、正極5の屈曲性が保たれる。このため、正極5を図1のように渦巻き状に巻回された状態としても、導電材などの剥がれによる内部短絡や、剥がれた導電材などがセパレータ6を突き破ることなどの発生を抑制できる。
【0034】
(極板の評価結果)
以下、繊維状樹脂を含む結着剤を用いた極板(正極5)についての柔軟性やカケの発生についての評価結果を示す。
【0035】
評価に用いた正極5の作製時には、図2に示した各材料を用いた。合剤層における繊維状樹脂の濃度は、0.1wt%とした。
また、スラリーの作製工程では、希釈液として純水を用いた。そのため、水に不溶な繊維状樹脂を用いることが望ましい。そこで、水に不溶な繊維状樹脂としてビニロンを用いた。
【0036】
ビニロンはPVA樹脂をアセタール化して得られる合成繊維の総称である。ビニロンは、ホルマール化により耐水性が付与されており水に不溶なものである。また、ビニロンは、繊維強度が高く、耐薬品性、対候性に優れている。なお、ビニロンは、セパレータ用の柔軟剤として使用される材料でもある。使用したビニロンは、繊維径が7μm、繊維長が2~3mmのものである。
【0037】
図4は、繊維状樹脂のSEM画像の例を示す図である。
図4には、加速電圧が15kV、倍率が500倍の条件における繊維状樹脂(ビニロン)のSEM画像が示されている。
【0038】
極板の製造は、図3に示した前述のステップS1~S4の工程により行われた。なお、芯体としてSUS製のエキスパンドメタルが用いられ、ステップS2の工程では、スラリーがエキスバンドメタルに800μmの厚みで塗工された。ステップS4のプレス加工の際には、密度が3.0g/cmになるまで、ロールプレス機で圧延された。これにより、塗工厚みは400μmとなった。
【0039】
上記のように作製された極板(以下実施例の極板という)と、結着剤として上記の繊維状樹脂を含まない条件で作製した極板(以下比較例の極板という)について、マンドレル屈曲試験機を用いて屈曲試験を行った。
【0040】
なお、比較例の極板の作製時には、上記の繊維状樹脂を添加しない代わりに、EMDの濃度を0.1wt%増加させている。極板は、100×30mmの大きさにカットされたものが用いられ、直径3mmのマンドレルを用いて180°の屈曲角度で折り曲げられた。
【0041】
図5は、屈曲試験後の極板の状態を示す図である。
実施例の極板(正極5)では、上記の条件で屈曲試験を行った結果、極板表面に亀裂は発生しているものの、合剤層がエキスパンドメタルから剥離することや、カケが発生することはなかった。
【0042】
一方、比較例の極板(正極5a)では、上記の条件で屈曲試験を行った結果、合剤層の一部が剥離しエキスパンドメタル5bが露出し、カケも発生している。
この結果より、上記のような繊維状樹脂を添加することで、500μm以上の比較的厚い厚み(上記の例では800μm)でスラリーを芯体に塗工して製造した極板であっても、柔軟性が向上することが確認された。このため、電池の高容量化のために極板を厚くしても、屈曲性が損なわれることが抑制される。
【0043】
次に、実施例と比較例の極板の打ち抜きによりカケが発生するか否かを確認する試験を行った。
図6は、極板の打ち抜き後の状態を示す図である。
【0044】
実施例の極板(正極5)は、打ち抜き時にカケが発生していないが、比較例の極板(正極5a)では、極板の端部のカケ発生箇所20a,20bにおいて、カケが発生しエキスパンドメタル5bが露出していることが確認された。この結果からみても、上記のような繊維状樹脂を添加することで、カケの発生が抑制されることがわかる。
【0045】
上記の方法で作製されたスラリーをPET(PolyEthylene Terephthalate)フィルム上に塗工し、乾燥によりスラリーが硬化されることで作製される合剤層を、手で引きちぎり、断面部分をSEM観察した。
【0046】
図7は、合剤層の断面部分のSEM画像の例を示す図である。
図7には、加速電圧が15kV、倍率が50倍の条件における合剤層の断面部分のSEM画像が示されている。図7のように合剤層がカケないように繊維状樹脂の繊維(たとえば、図7の繊維5c1,5c2,5c3など)が合剤層を繋ぎとめていることが確認できた。
【0047】
次に、繊維状樹脂の濃度(添加量)と極板の抵抗値との関係について評価を行った。
図8は、繊維状樹脂の濃度と極板の抵抗値との関係を示す図である。
図8において、横軸は繊維状樹脂の濃度[wt%]を表し、縦軸は極板の抵抗値[Ω・cm]を表す。極板の抵抗を測定するための方法として、圧延後の極板に対し、4探針法を用いて極板表面の抵抗を測定する方法を用いた。
【0048】
図8に示すように、繊維状樹脂の濃度(添加量)が増えると、極板の抵抗値が上昇することが確認された。繊維状樹脂の濃度が1.0Ω・cmとなると濃度が0.5Ω・cm以下の場合よりも抵抗値が1桁上昇するため、添加量は、0.5Ω・cm以下であることが望ましい。
【0049】
次に、PVA樹脂のアセタール化の有無の影響についての評価を行った。
図9は、PVA樹脂のアセタール化の有無の影響についての評価結果を示す図である。
図9には、アセタール化されているPVA樹脂を主体とした繊維状樹脂(ビニロン)を含む結着剤を用いた極板(正極5)と、アセタール化されていないPVA樹脂を主体とした繊維状樹脂を含む結着剤を用いた極板(正極5d)の状態が示されている。
【0050】
なお、各極板は、それぞれ80℃で乾燥し硬化させ、圧延を施したものであり、アセタール化されている繊維状樹脂を含む結着剤を用いた極板の密度は、3.0g/cmの密度で、厚みは0.7mmであった。
【0051】
アセタール化されているPVA樹脂を主体とした繊維状樹脂を含む結着剤を用いた極板では、図9のように芯体であるエキスパンドメタル5bからの剥離が認められなかった。これは、スラリーの硬化及び圧延後も、上記の繊維状樹脂が、繊維状態を維持したまま極板に分散されているからであると考えられる。
【0052】
一方、アセタール化されていないPVA樹脂を主体とした繊維状樹脂を含む結着剤を用いた極板では、合剤層が剥離し、芯体であるエキスパンドメタル5bの露出が確認された。アセタール化されているPVA樹脂を主体とした繊維状樹脂は、スラリーの作製段階で水に溶解し、繊維状態を維持できなかったためであると考えられる。
【0053】
したがって、硬化後も遷移状態を維持できるアセタール化されているPVA樹脂を主体とした繊維状樹脂を用いることが、極板の柔軟性維持の観点から望ましいといえる。
以上、実施の形態に基づき、本発明の電池及びその製造方法の一観点について説明してきたが、これらは一例にすぎず、上記の記載に限定されるものではない。
【0054】
たとえば、上記では円筒型リチウム一次電池1を例に挙げて、正極5に含まれる結着剤がPVA樹脂を主体とした繊維状樹脂を含むものとしたが、これに限定されない。たとえば、黒鉛やケイ素などを負極活物質とし、コバルト酸リチウム(LiCoO)などを正極活物質とする円筒型リチウム二次電池において、負極に含まれる結着剤に上記のような繊維状樹脂を含ませても同様の効果が得られる。また、リチウム電池に限らず、ニッケル水素電池、ニッケル亜鉛電池などにも適用可能である。
【0055】
また、上記のような極板は、円筒型電池に限らず、極板の柔軟性が要求される他の電池(たとえば、フレキシブル電池など)にも好適である。
【符号の説明】
【0056】
1 円筒型リチウム一次電池
2 電池缶
2a 円筒軸
3 非水電解液
4 負極
5,5a,5d 正極
5b エキスパンドメタル
5c1~5c3 繊維
6 セパレータ
10 電極体
11 封口板
12 正極端子
13 ワッシャ
14 ガスケット
15 負極タブ
16 正極タブ
20a,20b カケ発生箇所
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9