(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087372
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】印刷方法、印刷システム、及び印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20230616BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 134
B41M5/00 120
B41J2/01 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201719
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142653
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】碓氷 宜康
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 友彦
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
【Fターム(参考)】
2C056EE17
2C056HA42
2C056HA44
2H186AA04
2H186AA05
2H186AA06
2H186AB08
2H186AB10
2H186AB13
2H186AB17
2H186AB23
2H186AB33
2H186AB44
2H186AB54
2H186FA08
2H186FA09
2H186FA16
(57)【要約】
【課題】ホットメルト樹脂粉末を用いて行う画像の転写をより適切に行う。
【解決手段】転写媒体50に印刷した画像を被転写媒体へ転写することで被転写媒体に画像を描く印刷方法であって、印刷装置である印刷部14によって転写媒体50へ画像を印刷する印刷段階と、ホットメルト樹脂粉末を転写媒体50に付着させるホットメルト樹脂付着段階と、転写媒体50から被転写媒体へ前記画像を転写する転写段階とを備え、印刷部14は、有色インクを吐出する有色インク用ヘッドと、クリアインクを吐出するクリアインク用ヘッドとを備え、転写媒体50において有色インク用ヘッドから有色インクが吐出される領域の少なくとも一部に対し、印刷段階において、クリアインク用ヘッドからクリアインクを更に吐出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写媒体に印刷した画像を被転写媒体へ転写することで前記被転写媒体に前記画像を描く印刷方法であって、
インクジェット方式で印刷を行う印刷装置によって前記転写媒体へ前記画像を印刷する印刷段階と、
加熱によって軟化する樹脂を含む粉末であるホットメルト樹脂粉末を前記画像が印刷されている前記転写媒体に付着させるホットメルト樹脂付着段階と、
前記ホットメルト樹脂粉末が付着している前記転写媒体を加熱し、前記ホットメルト樹脂粉末が加熱によって軟化することで形成される樹脂部であるホットメルト樹脂部を前記被転写媒体に付着させることで、前記転写媒体から前記被転写媒体へ前記画像を転写する転写段階と
を備え、
前記印刷装置は、
有色の色を示す色材を含むインクである有色インクを吐出するインクジェットヘッドである有色インク用ヘッドと、
無色で透光性のインクであるクリアインクを吐出するインクジェットヘッドであるクリアインク用ヘッドと
を備え、
前記転写媒体において前記有色インク用ヘッドから前記有色インクが吐出される領域の少なくとも一部に対し、前記印刷段階において、前記クリアインク用ヘッドから前記クリアインクを更に吐出することを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記転写段階において、前記転写媒体に付着している前記色材の少なくとも一部を前記ホットメルト樹脂部の少なくとも一部と共に前記被転写媒体へ移動させることで、前記転写媒体から前記被転写媒体へ前記画像を転写し、
前記転写媒体において前記有色インク用ヘッドから前記有色インクが吐出される領域を画像表現領域と定義し、
単位面積あたりに吐出される前記有色インクの量が予め設定された基準量よりも少ない領域を少量インク領域と定義し、
前記転写段階において前記転写媒体から前記被転写媒体へ移動する前記色材の割合を転写率と定義した場合、
前記印刷段階において、前記印刷装置により、前記画像表現領域のうちの前記少量インク領域の少なくとも一部に対して、前記クリアインクを吐出することで、
前記少量インク領域の少なくとも一部における前記転写率について、前記クリアインクを吐出しない場合よりも高めることを特徴とする請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記印刷段階で前記少量インク領域の少なくとも一部に対して前記クリアインクを吐出することで、前記クリアインクを吐出した位置に対し、前記ホットメルト樹脂付着段階で付着する前記ホットメルト樹脂粉末の量について、前記クリアインクを吐出しない場合よりも多くすることを特徴とする請求項2に記載の印刷方法。
【請求項4】
前記画像表現領域のうち、単位面積あたりに吐出される前記有色インクの量が前記基準量よりも大きな所定の量よりも多くなる領域を非少量インク領域と定義し、
前記転写媒体の各位置に対して吐出する前記クリアインクの単位面積あたりの量をクリア吐出量と定義した場合、
前記印刷段階において、前記少量インク領域での前記クリア吐出量が前記非少量インク領域での前記クリア吐出量よりも大きくなるように、前記クリア吐出量について、単位面積あたりに吐出される前記有色インクの量に応じて異ならせることを特徴とする請求項2又は3に記載の印刷方法。
【請求項5】
前記印刷段階において、単位面積あたりに吐出される前記有色インクの量が予め設定された上限量よりも多くなる位置に対しては、前記クリアインクを吐出しないことを特徴とする請求項4に記載の印刷方法。
【請求項6】
前記印刷装置は、印刷の解像度に応じて設定される吐出位置に対し、前記有色インク用ヘッド及び前記クリアインク用ヘッドから、前記有色インク及び前記クリアインクを吐出し、
前記有色インク用ヘッドから前記有色インクが吐出される前記吐出位置を有色吐出位置と定義し、隣接する前記吐出位置が前記有色吐出位置にならない前記有色吐出位置を孤立吐出位置と定義した場合、
前記少量インク領域は、前記孤立吐出位置を含む領域であり、
前記印刷段階において、前記少量インク領域にある少なくとも一部の前記孤立吐出位置、又は、当該孤立吐出位置の周辺の前記吐出位置へ前記クリアインク用ヘッドから前記クリアインクを吐出することで、少なくとも当該孤立吐出位置の近辺において、前記孤立吐出位置を含む複数の前記吐出位置を含む範囲が前記有色インク及び前記クリアインクによってつながるように、前記転写媒体に対して印刷を行うことを特徴とする請求項2から5のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項7】
前記印刷段階において前記転写媒体上に形成される前記クリアインクのドットの広がり方を調整する調整段階を更に備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の印刷方法。
【請求項8】
前記調整段階において、予め設定された第1の印刷条件で前記印刷装置によって前記転写媒体へ前記画像を印刷した結果に基づき、前記クリアインクのドットの広がり方が不足しているか否かを判定し、前記ドットの広がり方が不足していると判定した場合に、前記印刷段階で前記印刷装置に印刷を行わせる印刷条件として、前記第1の印刷条件と異なる条件であり、前記クリアインクのドットの広がり方がより大きくなる第2の印刷条件を選択することを特徴とする請求項7に記載の印刷方法。
【請求項9】
転写媒体に印刷した画像を被転写媒体へ転写することで前記被転写媒体に前記画像を描く印刷システムであって、
インクジェット方式で前記転写媒体へ印刷を行う印刷装置と、
前記転写媒体から前記被転写媒体へ、画像を転写する転写部と
を備え、
前記転写部は、加熱によって軟化する樹脂を含む粉末であるホットメルト樹脂粉末を前記画像が印刷されている前記転写媒体に付着させた状態で、前記ホットメルト樹脂粉末が付着している前記転写媒体を加熱し、前記ホットメルト樹脂粉末が加熱によって軟化することで形成される樹脂部であるホットメルト樹脂部を前記被転写媒体に付着させることで、前記転写媒体から前記被転写媒体へ前記画像を転写し、
前記印刷装置は、
有色の色を示す色材を含むインクである有色インクを吐出するインクジェットヘッドである有色インク用ヘッドと、
無色で透光性のインクであるクリアインクを吐出するインクジェットヘッドであるクリアインク用ヘッドと
を有し、
前記転写媒体において前記有色インク用ヘッドから前記有色インクが吐出される領域の少なくとも一部に対し、前記クリアインク用ヘッドから前記クリアインクを更に吐出することを特徴とする印刷システム。
【請求項10】
転写媒体に印刷した画像を被転写媒体へ転写することで前記被転写媒体に前記画像を描く印刷システムにおいてインクジェット方式で前記転写媒体へ印刷を行う印刷装置であって、
有色の色を示す色材を含むインクである有色インクを吐出するインクジェットヘッドである有色インク用ヘッドと、
無色で透光性のインクであるクリアインクを吐出するインクジェットヘッドであるクリアインク用ヘッドと
を備え、
前記転写媒体から前記被転写媒体への前記画像の転写は、加熱によって軟化する樹脂を含む粉末であるホットメルト樹脂粉末を前記画像が印刷されている前記転写媒体に付着させた状態で、前記ホットメルト樹脂粉末が付着している前記転写媒体を加熱し、前記ホットメルト樹脂粉末が加熱によって軟化することで形成される樹脂部であるホットメルト樹脂部を前記被転写媒体に付着させることで、前記転写媒体から前記被転写媒体へ前記画像を転写するものであり、
前記転写媒体において前記有色インク用ヘッドから前記有色インクが吐出される領域の少なくとも一部に対し、前記クリアインク用ヘッドから前記クリアインクを更に吐出し、
かつ、前記転写媒体の各位置に対して吐出する前記クリアインクの単位面積あたりの量であるクリア吐出量について、単位面積あたりに吐出される前記有色インクの量に応じて異ならせることを特徴とする印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷方法、印刷システム、及び印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の粉体で形成したホットメルト層を用いて転写印刷を行う方法が知られている。この方法では、例えば、表面に剥離層が形成された転写媒体(転写シート等)に画像を印刷し、更に転写媒体の全面にホットメルト層を形成した状態で、転写媒体と被転写媒体とを重ねて加熱及び加圧を行うことで、転写媒体から被転写媒体へ画像の転写を行う。この場合、例えば、受理層が形成されたフィルム等を転写媒体として用い、転写媒体に対してカラーインクを用いて画像を印刷し、その画像の上に、白色のインク(白インク)を用いて白インクの層を形成する。そして、転写媒体における白インクの層の上にホットメルト樹脂の粉末(粉体)を付着させ、ヒートプレス機で圧着を行うことで、画像の転写を実行する。また、従来、転写媒体の全面にホットメルト層を形成することなく、画像に一致させてホットメルト層を形成する方法等も知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カラーインクで印刷した画像の上に白インクの層を形成する場合、被転写媒体の地の色が濃い色であったとしても、被転写媒体で適切に画像を表現することができる。しかし、この場合、画像よりも大きな範囲に形成される白インクの層も被転写媒体に転写されることで、余白部分等の本来の画像には不要な箇所まで転写され、意匠性や風合いを損ねる場合がある。これに対し、例えば特許文献1に開示されている方法のように、画像に一致させてホットメルト層を形成すれば、画像の表現に必要な部分のみを転写媒体から被転写媒体へ転写することができる。また、この場合、地の色が白色又はベージュ色等の薄い色(淡い色)の生地等を被転写媒体として用いることで、被転写媒体の地の色や素材を活かし、意匠性や風合いを向上させること等も可能になる。
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている方法では、転写媒体として、非撥水性でありながら、画像を形成して粉体を振り掛けるまでの間は粉体の付着性を保持するだけのインクの非浸透性を維持する転写シートを用いる。また、粉体としても、粒径の小さな所定のグレードの樹脂粉末を用いている。しかし、この場合、使用可能な転写媒体や粉末の条件が限られることで、印刷のコストが大きく上昇することや、印刷条件の自由度が大きく低下することが考えられる。
【0006】
また、本願の発明者が実際に様々な実験等を行ったところ、白インクの層を用いずに画像の転写を行うと、被転写媒体に転写された画像の品質が低下する場合があることを見出した。そのため、従来、より適切な方法で画像の転写を行うことが望まれている。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる印刷方法、印刷システム、及び印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者は、より適切な方法で画像の転写を行うに関し、例えば転写用に用いる一般的なカラーインクや転写媒体を用いる場合でも白インクの層を形成せずにより適切に画像を転写できる方法等について、鋭意研究を行った。また、この鋭意研究において、白インクの層を形成しない場合には、画像において薄い色を表現する低階調域において、より濃い色を表現する高階調域と比較して転写性が低下し、意図しない転写ムラが発生することを見出した。また、その原因について、低階調域ではカラーインクの量が少なくなることで、その部分に対して付着するホットメルト樹脂の量が少なくなり、画像が転写しきれなくなるためであることを見出した。この場合、その部分において画像の転写性が低下することで、例えば、被転写媒体において、本来であれば色がつくべき箇所の中に、色がつかない部分が点在することになる。また、その結果、例えば、転写ムラが生じることになる。
【0008】
これに対し、本願の発明者は、カラーインクに加えて、画像の色への影響が生じにくいクリアインクを更に用いることを考えた。このように構成した場合、例えば、カラーインクの使用量が少なくなる画像の低階調域に対し、クリアインクを更に転写媒体へ吐出することで、ホットメルト樹脂の付着量が不足することを適切に防止することができる。また、これにより、例えば、転写ムラの発生等によって転写後の画像の品質が低下すること等を適切に防止することができる。
【0009】
また、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、このような効果を得るために必要な特徴を見出し、本発明に至った。上記の課題を解決するために、本発明は、転写媒体に印刷した画像を被転写媒体へ転写することで前記被転写媒体に前記画像を描く印刷方法であって、インクジェット方式で印刷を行う印刷装置によって前記転写媒体へ前記画像を印刷する印刷段階と、加熱によって軟化する樹脂を含む粉末であるホットメルト樹脂粉末を前記画像が印刷されている前記転写媒体に付着させるホットメルト樹脂付着段階と、前記ホットメルト樹脂粉末が付着している前記転写媒体を加熱し、前記ホットメルト樹脂粉末が加熱によって軟化することで形成される樹脂部であるホットメルト樹脂部を前記被転写媒体に付着させることで、前記転写媒体から前記被転写媒体へ前記画像を転写する転写段階ととを備え、前記印刷装置は、有色の色を示す色材を含むインクである有色インクを吐出するインクジェットヘッドである有色インク用ヘッドと、無色で透光性のインクであるクリアインクを吐出するインクジェットヘッドであるクリアインク用ヘッドとを備え、前記転写媒体において前記有色インク用ヘッドから前記有色インクが吐出される領域の少なくとも一部に対し、前記印刷段階において、前記クリアインク用ヘッドから前記クリアインクを更に吐出する。
【0010】
このように構成した場合、印刷装置による転写媒体への印刷時に有色インクに加えてクリアインクを用いることで、例えば、転写媒体に印刷される画像の色の影響が生じることを適切に抑えつつ、有色インク以外のインクを転写媒体へ適切に吐出することができる。また、これにより、例えば、有色インクの吐出量が少なくなる位置に対し、クリアインクを吐出して、有色インクのみを用いる場合と比べて、転写媒体へ吐出されるインクの合計量を増加させることができる。また、この場合、インクの合計量を増加させることで、例えば、ホットメルト樹脂粉末について、転写媒体により適切に付着させることができる。また、これにより、例えば、転写媒体から被転写媒体への画像の転写時において、ホットメルト樹脂粉末の不足によって転写ムラ等が生じること等を適切に防止することができる。そのため、このように構成すれば、例えば、ホットメルト樹脂粉末を用いて行う画像の転写をより適切に行うことができる。
【0011】
この構成において、印刷段階では、例えば、白色のインクを用いずに、有色インク及びクリアインクを用いて、転写媒体への印刷を行う。また、この構成において、転写媒体としては、例えば、公知の転写フィルムを好適に用いることができる。公知の転写フィルムとしては、例えば、DTF法(Direct to Film法)での転写用の転写フィルム等を好適に用いることができる。また、転写媒体としては、フィルム以外の媒体(例えば、紙の媒体等)を用いてもよい。被転写媒体としては、例えば、布の媒体を好適に用いることができる。有色インクとしては、例えば、公知のカラーインク(例えば、公知の捺染用のインク等)を好適に用いることできる。公知のカラーインクとしては、例えば、色材として顔料を含むインク(例えば、水性顔料インク等)を好適に用いることができる。
【0012】
転写段階では、例えば、転写媒体に付着している色材の少なくとも一部をホットメルト樹脂部の少なくとも一部と共に被転写媒体へ移動させることで、転写媒体から被転写媒体へ画像を転写する。この場合、クリアインクを用いることで、例えば、色材の転写率を高めることが考えられる。より具体的に、例えば、転写媒体において有色インク用ヘッドから有色インクが吐出される領域を画像表現領域と定義し、単位面積あたりに吐出される有色インクの量が予め設定された基準量よりも少ない領域を少量インク領域と定義し、転写段階において転写媒体から被転写媒体へ移動する色材の割合を転写率と定義した場合、印刷段階において、印刷装置により、画像表現領域のうちの少量インク領域の少なくとも一部に対してクリアインクを吐出することで、少量インク領域の少なくとも一部における転写率について、クリアインクを吐出しない場合よりも高めることが考えられる。このように構成すれば、例えば、転写ムラの発生等を適切に防止して、画像の転写を適切に行うことができる。また、この場合、例えば、画像において低階調域の色を表現する領域について、少量インク領域になることが考えられる。また、この場合、少量インク領域に着目すると、例えば、印刷段階で少量インク領域の少なくとも一部に対してクリアインクを吐出することで、クリアインクを吐出した位置に対し、ホットメルト樹脂付着段階で付着するホットメルト樹脂粉末の量について、クリアインクを吐出しない場合よりも多くすると考えることができる。このように構成すれば、例えば、少量インク領域での転写率を適切に高めることができる。また、これにより、例えば、転写ムラ等の発生を適切に防止することができる。
【0013】
また、この構成において、有色インクを吐出する量が十分に多い箇所については、クリアインクを用いなくても、十分な量のホットメルト樹脂粉末を付着することが可能である。そのため、転写媒体への各位置へのクリアインクの吐出量については、例えば、各位置への有色インクの吐出量に応じて、異ならせてもよい。より具体的に、例えば、画像表現領域のうち、単位面積あたりに吐出される有色インクの量が上記の基準量よりも大きな所定の量よりも多くなる領域を非少量インク領域と定義し、転写媒体の各位置に対して吐出するクリアインクの単位面積あたりの量をクリア吐出量と定義した場合、印刷段階において、少量インク領域でのクリア吐出量が非少量インク領域でのクリア吐出量よりも大きくなるように、クリア吐出量について、単位面積あたりに吐出される有色インクの量に応じて異ならせることが考えられる。このように構成すれば、例えば、クリアインクの使用量を抑えつつ、必要な箇所に対して適切にクリアインクを吐出することができる。また、この場合、非少量インク領域でのクリア吐出量を少なくすることで、例えば、同じ位置へ吐出されるインクの合計量が過度に多くなることを防止することもできる。
【0014】
また、同じ位置へ吐出されるインクの合計量が多くなった場合、例えば、有色インクの滲み等の問題が発生しやすくなること等も考えられる。そのため、有色インクを吐出する量が多い箇所に対しては、クリア吐出量をゼロにすること等も考えられる。より具体的に、この場合、例えば、印刷段階において、単位面積あたりに吐出される有色インクの量が予め設定された上限量よりも多くなる位置に対しては、クリアインクを吐出しない。このように構成すれば、例えば、同じ位置へ吐出されるインクの合計量が過度に多くなることをより適切に防止できる。
【0015】
また、この構成において、印刷装置は、例えば、印刷の解像度に応じて設定される吐出位置に対し、有色インク用ヘッド及びクリアインク用ヘッドから、有色インク及びクリアインクを吐出する。そして、この場合、例えば、有色インク及びクリアインクで複数の吐出位置を含む領域が連続的に覆われるように、クリアインクの吐出を行うことが考えられる。より具体的に、有色インク用ヘッドから有色インクが吐出される吐出位置を有色吐出位置と定義し、隣接する吐出位置が有色吐出位置にならない有色吐出位置を孤立吐出位置と定義した場合、少量インク領域については、例えば、孤立吐出位置を含む領域等と考えることができる。そして、印刷段階では、例えば、少量インク領域にある少なくとも一部の孤立吐出位置、又は、当該孤立吐出位置の周辺の吐出位置へクリアインク用ヘッドからクリアインクを吐出することで、少なくとも当該孤立吐出位置の近辺において、孤立吐出位置を含む複数の吐出位置を含む範囲が有色インク及びクリアインクによってつながるように、転写媒体に対して印刷を行う。このように構成すれば、例えば、少量インク領域における孤立吐出位置の付近へ吐出するインクの合計量について、クリアインクを用いない場合と比べて、適切に増加させることができる。また、これにより、例えば、孤立吐出位置の付近に対し、ホットメルト樹脂粉末をより適切に付着させることができる。
【0016】
また、この構成において、転写媒体としては、例えば、インクを吸収するインク受理層が形成された媒体を用いることが考えられる。このように構成すれば、例えば、有色インクの滲みが発生することを適切に防止することができる。また、この場合、印刷段階では、例えば、転写媒体の各位置に対し、クリアインクよりも先に有色インクが着弾するように、印刷装置に印刷を行わせることが好ましい。このように構成すれば、例えば、滲みの発生をより適切に防止することができる。また、この構成においては、クリアインクを用いることで、例えば、粒状感を軽減すること等も考えられる。より具体的に、有色インク及びクリアインクのそれぞれとしては、例えば、溶媒を含み、溶媒が蒸発することで転写媒体へ定着するインクを用いることが考えられる。そして、着弾後の有色インクが転写媒体上で広がることで形成されるインクのドットのサイズに関し、同じ吐出位置に有色インク及びクリアインクの両方を吐出した場合に形成されるドットのサイズをクリア使用時サイズと定義し、吐出位置に対して有色インクのみを吐出した場合に形成されるドットのサイズをクリア非使用時サイズと定義した場合、印刷段階において、例えば、少量インク領域において有色インクを吐出する吐出位置の少なくとも一部に対し、クリア非使用時サイズと比べたクリア使用時サイズがより大きくなるように、クリアインクを吐出することが考えられる。このように構成すれば、例えば、有色インクで形成されるインクのドットのサイズを適切に広げることができる。また、これにより、例えば、粒状感を適切に軽減することができる。
【0017】
また、この構成において、有色インクとしては、例えば、色材と共に転写媒体に定着する樹脂であるバインダ樹脂を含むインクを好適に用いることができる。また、この場合、クリアインクとして、例えば、バインダ樹脂と同じ樹脂を含むインクを用いることが考えられる。このように構成すれば、例えば、有色インクと特性の近いクリアインクを適切に用いることができる。また、この場合、バインダ樹脂と同じ樹脂を含むインクについては、例えば、樹脂を含まないインクと比べて、ホットメルト樹脂粉末が付着しやすい状態が長時間継続すると考えることができる。そのため、樹脂を含むクリアインクを用いることで、例えば、クリアインクを吐出した位置に対し、ホットメルト樹脂粉末をより確実に付着させることができる。また、クリアインクとしては、例えば、有色インクにおけるバインダ樹脂と同じ樹脂を含まないインクを用いること等も考えられる。このように構成した場合も、クリアインクを用いることで、例えば、クリアインクを吐出した位置について、ホットメルト樹脂粉末が付着しにくい状態にまでインクが乾燥するまでの時間を長くすることができる。また、これにより、例えば、樹脂を含まないクリアインクを用いる場合でも、例えば、クリアインクを吐出した位置に対し、ホットメルト樹脂粉末を適切に付着させることができる。
【0018】
また、転写媒体へクリアインクを吐出することで転写媒体上に形成するクリアインクのドットについて、ホットメルト樹脂粉末がより付着しやすい状態にするためには、例えば、インクのドットが平坦化して広がっている方が好ましいと考えることもできる。そして、この場合、例えば、印刷段階において転写媒体上に形成されるクリアインクのドットの広がり方を調整する調整段階の動作を更に行うことも考えられる。このように構成すれば、例えば、クリアインクのドットのサイズを適切に調整することができる。また、この場合、調整段階では、例えば、予め設定された第1の印刷条件で印刷装置によって転写媒体へ画像を印刷した結果に基づき、クリアインクのドットの広がり方が不足しているか否かを判定する。そして、例えば、ドットの広がり方が不足していると判定した場合に、印刷段階で印刷装置に印刷を行わせる印刷条件として、第1の印刷条件と異なる条件であり、クリアインクのドットの広がり方がより大きくなる第2の印刷条件を選択する。このように構成すれば、例えば、クリアインクを吐出した位置に対し、ホットメルト樹脂粉末をより適切に付着させることができる。
【0019】
また、本発明の構成として、上記と同様の特徴を有する印刷システムや印刷装置等を用いることも考えられる。これらの場合も、例えば、上記と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、例えば、ホットメルト樹脂粉末を用いて行う画像の転写をより適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る印刷システム10について説明をする図である。
図1(a)は、印刷システム10の構成の一例を示す。
図1(b)は、印刷システム10における印刷部14の構成の一例を示す。
【
図2】ヘッド部102が有する複数のインクジェットヘッド202について更に詳しく説明をする図である。
図2(a)~(c)は、ヘッド部102の構成の例を示す。
【
図3】本例において印刷システム10で実行する動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本例においてクリアインクを用いる理由等について説明をする図である。
図4(a)は、従来の方法での転写媒体50に対する印刷の仕方の例を示す。
図4(b)は、
図4(a)に示す方法と異なる方法での転写媒体50に対する印刷の仕方の例を示す。
図4(c)は、本例での転写媒体50に対する印刷の仕方の一例を示す。
【
図5】転写媒体50に対して印刷する画像について説明をする図である。
図5(a)は、転写媒体50に対して印刷する画像の一例を示す。
図5(b)は、画像を構成するカラーインクのドットの状態の例を示す。
【
図6】カラーインク及びクリアインクを吐出する吐出位置の例を示す図である。
図6(a)~(c)は、クリアインクを吐出する吐出位置の選択の仕方の例を示す。
【
図7】印刷データ準備部12において印刷データを生成する動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本願の発明者が行った実験について説明をする図である。
図8(a)は、実験で用いたクリアインクの組成を示す。
図8(b)、(c)は、実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る印刷システム10について説明をする図である。
図1(a)は、印刷システム10の構成の一例を示す。
図1(b)は、印刷システム10における印刷部14の構成の一例を示す。以下に説明をする点を除き、印刷システム10は、公知の印刷システム10と同一又は同様の特徴を有してよい。
【0023】
印刷システム10は、転写媒体50に印刷した画像を被転写媒体(被転写対象)へ転写することで被転写媒体に画像を描くシステムであり、加熱によって軟化する樹脂を含む粉末であるホットメルト樹脂粉末(ホットメルトパウダー)を用いて、転写媒体50から被転写媒体へ画像を転写する。本例において、被転写媒体としては、布帛等の布の媒体(例えば、様々な生地等)を用いる。被転写媒体としては、例えばTシャツ等のような、所定の製品に加工された布の媒体等を用いてもよい。また、転写媒体50としては、例えば、布の被転写媒体への転写に用いる公知の転写媒体を好適に用いることができる。より具体的に、転写媒体50としては、例えば、DTF法(Direct to Film法)での転写用の転写フィルムを好適に用いることができる。また、このような転写フィルムとしては、例えば、PETフィルム等を用いることが考えられる。また、転写媒体50としては、フィルム以外の媒体(例えば、紙の媒体等)を用いてもよい。
【0024】
また、ホットメルト樹脂粉末としては、転写用の公知の樹脂粉末を好適に用いることができる。より具体的に、ホットメルト樹脂粉末としては、例えば、布の被転写媒体への転写に用いる公知のホットメルト樹脂粉末を好適に用いることができる。また、このようなホットメルト樹脂粉末としては、例えば、ウレタン、アクリル、ポリエステル、ポリアミド、又はこれらの混合物を含む粉末等を好適に用いることができる。ホットメルト樹脂粉末については、例えば、熱可塑性の樹脂粉末等と考えることもできる。また、ホットメルト樹脂粉末について、例えば、転写印刷用のホットメルト接着剤粉末等と考えることもできる。ホットメルト接着剤粉末については、例えば、熱可塑性ポリマーを主成分とする、常温で固体の接着剤の粉末等と考えることができる。また、ホットメルト接着剤粉末については、例えば、水や有機溶剤を含まない固体の接着剤の粉末等と考えることもできる。このようなホットメルト接着剤粉末としては、例えば、多成分系接着剤の粉末等を用いることができる。
【0025】
また、上記のような被転写媒体、転写媒体50、及びホットメルト樹脂粉末を用いて転写を行うために、本例において、印刷システム10は、印刷データ準備部12、印刷部14、粉末付与部16、及び熱転写部18を備える。印刷データ準備部12は、印刷部14の動作を制御するための印刷データを準備する構成であり、印刷部14において転写媒体50へ印刷する画像を示す画像データに基づき、印刷部14へ供給する印刷データを生成する。印刷データ準備部12としては、例えば、所定のプログラムに従って印刷部14の動作を制御するコンピュータを用いることが考えられる。また、本例において、印刷データ準備部12は、印刷部14の構成に合わせて画像データに対するハーフトーン処理等を行うことで、印刷データを生成する。そして、印刷データ準備部12は、印刷部14へ印刷データを供給することで、印刷部14の動作を制御して、印刷部14に印刷の動作を実行させる。印刷データ準備部12において印刷データを生成する動作については、後に更に詳しく説明をする。
【0026】
印刷部14は、印刷システム10における印刷装置に対応する構成であり、印刷データ準備部12から供給される印刷データに基づき、転写媒体50に対して、インクジェット方式での印刷の動作を実行する。また、本例において、印刷部14は、シリアル型のインクジェットプリンタであり、予め設定された主走査方向(図中のY方向)へ印刷の対象物に対して相対的に移動しつつインクを吐出する主走査動作をインクジェットヘッドに行わせることで印刷の動作を実行する。また、印刷部14は、例えば
図1(b)に示すように、ヘッド部102、プラテン104、Yバー部106、主走査駆動部108、副走査駆動部110、及び制御部120を有する。
【0027】
ヘッド部102は、複数のインクジェットヘッドを有する部分であり、複数のインクジェットヘッドから、転写媒体50へ向けてインクを吐出する。また、本例において、ヘッド部102は、互いに異なる色のカラーインクを吐出するカラーインク用の複数のインクジェットヘッドと、クリアインクを吐出するクリアインク用のインクジェットヘッドとを有する。この場合、各色のカラーインクは、有色の色を示す色材を含むインクである有色インクの一例である。カラーインク用の複数のインクジェットヘッドのそれぞれは、有色インク用ヘッドの一例である。クリアインク用のインクジェットヘッドは、クリアインク用ヘッドの一例である。また、本例において、クリアインクについては、例えば、無色で透光性のインク等と考えることができる。この場合、クリアインクが無色であることについては、例えば、意図的に所定の色をつけていないこと等と考えることができる。意図的に所定の色をつけていないことについては、例えば、意図的に色材を添加していないこと等と考えることができる。また、クリアインクについて、無色で透光性であることについては、例えば、可視光領域で特定の色の光を実質的に吸収しない透明な状態であること等と考えることができる。特定の色の光を実質的に吸収しないことについては、例えば、印刷に求められる品質に応じた許容範囲内で実質的に可視光領域の特定の色の光を吸収しないこと等と考えることができる。より具体的に、クリアインクとしては、例えば、カラーインクから色材を除いたインクを用いることが考えられる。この場合、色材に加えて、色材に関連して使用されている物質を更にカラーインクから除くことが考えられる。例えば、カラーインクにおいて、顔料等の色材をインクの溶媒中に分散させるための分散剤(顔料分散剤)を用いている場合、クリアインクとして、カラーインクから色材及び分散剤を除いた組成のインク等を好適に用いることができる。また、クリアインクについては、例えば、インクジェット印刷の技術分野で従来から用いられているクリアインクと同一又は同様の透明なインク等と考えることができる。但し、本例のように、布への印刷を行うテキスタイル印刷の分野においては、通常、クリアインクを用いる理由がない。そのため、本例で用いるクリアインクについては、例えば、テキスタイル印刷以外のインクジェット印刷で用いているクリアインクの用い方を拡張してテキスタイル印刷の分野で用いていると考えることもできる。ヘッド部102の構成については、後に更に詳しく説明をする。
【0028】
プラテン104は、ヘッド部102と対向させて転写媒体50を支持する台状部材である。Yバー部106は、転写媒体50を挟んでプラテン104と対向する位置において主走査方向へ延伸する部材であり、主走査方向へ移動可能な状態で転写媒体50と対向する面にヘッド部102を保持することで、主走査動作時における主走査方向へのヘッド部102の移動をガイドする。主走査駆動部108は、ヘッド部102における複数のインクジェットヘッドに主走査動作を行わせる駆動部である。本例において、主走査駆動部108は、制御部120の制御に応じて、Yバー部106に沿ってヘッド部102を移動させつつ、ヘッド部102におけるそれぞれのインクジェットヘッドにインクを吐出させる。副走査駆動部110は、ヘッド部102における複数のインクジェットヘッドに副走査動作を行わせる駆動部である。副走査動作については、例えば、主走査方向と直交する副走査方向(図中のX方向)へ転写媒体50に対して相対的に移動する動作等と考えることができる。本例において、副走査駆動部110は、主走査動作の合間に転写媒体50に対して相対的に副走査方向へヘッド部102を移動させることで、ヘッド部102における複数のインクジェットヘッドに副走査動作を行わせる。制御部120は、例えば印刷部14のCPU等を含む部分であり、印刷データ準備部12から供給される印刷データに基づいて印刷部14の各部の動作を制御することで、転写媒体50に対する印刷の動作を制御する。また、これにより、印刷部14は、転写媒体50に対して、画像データが示す画像を印刷する。
【0029】
また、本例の印刷システム10では、印刷部14において画像が印刷された転写媒体50に対し、粉末付与部16において、ホットメルト樹脂粉末を付与する。粉末付与部16については、例えば、画像が印刷されている転写媒体50にホットメルト樹脂粉末を付着させるための構成等と考えることができる。また、本例において、粉末付与部16は、ホットメルト樹脂粉末が付着した転写媒体50に対し、転写前に所定の温度への加熱を行うプレヒートを実行する。また、転写媒体50にホットメルト粉末樹脂を付着させた後には、熱転写部18において、転写媒体50から被転写媒体へ、画像を転写する。本例において、熱転写部18は、転写部の一例である。熱転写部18については、例えば、転写媒体50と被転写媒体とを重ねた状態で加熱及び加圧を行うことで転写媒体50から被転写媒体へ画像を転写する装置等と考えることができる。転写媒体50と被転写媒体とを重ねた状態で加熱及び加圧を行う動作については、例えば、被転写媒体に転写媒体50を載せて圧着する動作等と考えることもできる。また、熱転写部18としては、例えば、公知のヒートプレス機等を好適に用いることができる。本例によれば、例えば、転写媒体50に印刷した画像を被転写媒体へ適切に転写することができる。印刷システム10において実行する画像の転写の動作については、後に更に詳しく説明をする。
【0030】
尚、印刷システム10において、印刷データ準備部12、印刷部14、粉末付与部16、及び熱転写部18のそれぞれは、印刷システム10における機能的な構成等と考えることができる。この場合、例えば、印刷部14の機能を実現する構成を含む装置について、印刷装置の一例と考えることができる。また、装置としての印刷システム10の構成を考えた場合、複数の機能的な構成について、一つの装置で実現してもよい。例えば、印刷データ準備部12及び印刷部14について、一つの装置によって実現してもよい。このように構成した場合、例えば、画像データから印刷データを生成する動作と、印刷を実行する動作とを、一つの装置で実行することができる。また、印刷部14及び粉末付与部16について、一つの装置によって実現してもよい。このように構成した場合、例えば、印刷の動作からプレヒートの動作までを、一つの装置で実行することができる。また、印刷システム10の全体について、一つの装置で構成すること等も考えられる。更に、印刷システム10の構成によっては、例えば、
図1(a)に示す機能的な構成のいずれかについて、複数の装置で構成すること等も考えられる。例えば、粉末付与部16について、転写媒体50にホットメルト樹脂粉末を付着させるための装置と、プレヒートを行う装置とで構成すること等も考えられる。また、いずれの構成においても、印刷部14において転写媒体50に対して印刷を行う動作、粉末付与部16において転写媒体50にホットメルト樹脂粉末を付着させる動作、及び粉末付与部16において行うプレヒートの動作について、一連の装置で実行することが好ましい。この場合、一連の装置で複数の動作を実行することについては、例えば、ユーザによって転写媒体50を持ち運ぶ動作を行うことなく、複数の動作を連続して実行すること等と考えることができる。
【0031】
続いて、印刷部14におけるヘッド部102の構成について、更に詳しく説明をする。
図2は、ヘッド部102が有する複数のインクジェットヘッド202について更に詳しく説明をする図である。
図2(a)~(c)は、ヘッド部102の構成の例を示す図であり、ヘッド部102が有する複数のインクジェットヘッド202の並び方の例を示す。図中に符号202y、m、c、k、tを付して区別して示すように、本例において、ヘッド部102は、互いに異なる色のインクをそれぞれが吐出する複数のインクジェットヘッド202y、m、c、k、tを有する。また、図示は省略しているが、ヘッド部102は、例えば、これらのインクジェットヘッド202を保持するキャリッジ等を更に有する。
【0032】
また、これらのインクジェットヘッド202のうち、複数のインクジェットヘッド202y、m、c、k(以下、インクジェットヘッド202y~kという)のそれぞれは、カラーインクを吐出するインクジェットヘッドであり、互いに異なる色の有色のインクを吐出する。より具体的に、インクジェットヘッド202yは、イエロー色(Y色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド202mは、マゼンタ色(M色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド202cは、シアン色(C色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド202kは、ブラック色(K色)のインクを吐出する。この場合、YMCKの各色の各色のインクは、減法混色法での色表現に用いる基本色であるプロセスカラーの各色のインクの一例である。
【0033】
インクジェットヘッド202y~kのそれぞれから吐出するYMCKの各色のインクとしては、例えば、公知のカラーインクを用いることが考えられる。公知のカラーインクとしては、例えば、転写によって布への印刷を行う場合に用いられる捺染用のインクを好適に用いることができる。このような捺染用のインクとしては、例えば、色材として顔料を含むインクを好適に用いることができる。また、より具体的に、本例において、YMCKの各色のインクは、溶媒が蒸発することで転写媒体50へ定着するインクであり、顔料、分散剤、バインダ樹脂、及び溶媒等を含む。この場合、顔料は、色材の一例である。分散剤は、溶媒中に顔料を分散させるための物質である。バインダ樹脂は、顔料を転写媒体50に定着させるための樹脂である。バインダ樹脂については、例えば、有色インクにおける色材と共に転写媒体50に定着する樹脂等と考えることもできる。溶媒は、インク中の他の成分を溶解又は分散させる液体である。溶媒としては、水等の水性溶媒を好適に用いることができる。また、インクの溶媒としては、例えば、水性溶媒以外の溶剤(有機溶剤)を用いてもよい。また、より具体的に、本例において、インクジェットヘッド202y~kで用いるYMCKの各色のインクとしては、布の被転写媒体への転写に用いる捺染用の水性顔料インクを用いる。この場合、公知の水性顔料インクを好適に用いることができる。
【0034】
インクジェットヘッド202tは、クリアインクを吐出するインクジェットヘッドである。本例において、クリアインクは、顔料等の色材を含まないことで、無色で透光性のあるインクになっている。また、より具体的に、クリアインクとしては、例えば、YMCKの各色のインクから顔料及び分散剤を除いた組成のインクを好適に用いることができる。この場合、クリアインクについても、例えば、溶媒が蒸発することで転写媒体50へ定着するインク等と考えることができる。また、クリアインクについて、例えば、YMCKの各色のインクにおけるバインダ樹脂と同じ樹脂を含んでいると考えることができる。このように構成すれば、例えば、YMCKの各色のインクと特性の近いクリアインクを適切に用いることができる。また、クリアインクとしては、例えば、YMCKの各色のインクにおけるバインダ樹脂と同じ樹脂を含まないインクを用いてもよい。
【0035】
ヘッド部102において、インクジェットヘッド202y~kは、例えば、副走査方向における位置を揃えて、主走査方向へ並ぶ。この場合、インクジェットヘッド202tについては、例えば
図2(a)に示すように、副走査方向における位置をインクジェットヘッド202y~kと異ならせてもよく、
図2(b)、(c)に示すように、副走査方向における位置をインクジェットヘッド202y~kと同じにしてもよい。より具体的に、
図2(a)に示す例において、インクジェットヘッド202tは、インクジェットヘッド202y~kの並びに対し、副走査方向における一方の側に配設されている。
図2(b)に示す例において、インクジェットヘッド202tは、インクジェットヘッド202y~kの並びに対し、主走査方向における一方の側に配設されている。また、ヘッド部102におけるインクジェットヘッド202tの個数は、例えば
図2(c)に示すように、複数にしてもよい。
図2(c)に示す例において、複数のインクジェットヘッド202tのそれぞれは、インクジェットヘッド202y~kの並びに対し、主走査方向における一方の側及び他方の側のそれぞれに配設されている。また、ヘッド部102におけるインクジェットヘッド202y~k、tの配置については、
図2(a)~(c)と異なっていてもよい。例えば、インクジェットヘッド202y~kのうち、一部のインクジェットヘッド202について、他のインクジェットヘッド202と副走査方向における位置を異ならせてもよい。
【0036】
ここで、本例において、転写媒体としては、例えば、インクを吸収するインク受理層(受容層)が形成されている転写フィルムを用いることが考えられる。インク受理層については、例えば、転写媒体上で過度にインクが広がる前にインクを吸収することでインクの滲みを防止するための層と考えることができる。このような転写媒体を用いることで、例えば、カラーインクの滲みが発生することを適切に防止することができる。また、この場合、カラーインクの滲みをより適切に防止するためには、例えば、印刷部14(
図1参照)において、転写媒体の各位置に対し、クリアインクよりも先にカラーインクが着弾するように、印刷を行うことが好ましい。クリアインクよりも先にカラーインクが着弾することについては、例えば、いずれかの色のカラーインクとクリアインクとを同じ位置へ吐出する場合に、その色のカラーインクがクリアインクよりも先に着弾すること等と考えることができる。また、上記においても説明をしたように、転写媒体としては、例えば紙の媒体等のフィルム以外の媒体を用いてもよい。この場合も、受理層が形成されている転写媒体を用いることで、例えば、インクの滲みが発生することを適切に防止して、転写媒体への印刷を適切に行うことができる。
【0037】
また、この場合、
図2(a)に示す構成のヘッド部102では、例えば、転写媒体の搬送方向においてインクジェットヘッド202y~kよりも下流側になる側にインクジェットヘッド202tを配設することが考えられる。転写媒体の搬送方向については、例えば、ヘッド部102に対して相対的に転写媒体が移動する方向等と考えることができる。また、
図2(b)に示す構成のヘッド部102を用いる場合、例えば、主走査動作時での転写媒体に対するヘッド部102の相対移動の向きについて、インクジェットヘッド202y~kに対してインクジェットヘッド202tが後方側になる向きにすることが考えられる。また、
図2(b)に示す構成のヘッド部102を用いる場合において、例えば、主走査動作時での転写媒体に対する相対移動の向きを一方の向き及び他方の向きの双方向として、片方の向きでの主走査動作時のみにインクジェットヘッド202tからクリアインクを吐出すること等も考えられる。また、
図2(c)に示す構成のヘッド部102を用いる場合、例えば、主走査動作時での転写媒体に対する相対移動の向きを双方向として、それぞれの移動の向きでの主走査動作において、インクジェットヘッド202y~kに対して後方側になるインクジェットヘッド202tからクリアインクを吐出することが考えられる。また、印刷に求められる品質等によっては、例えば、転写媒体の各位置に対し、カラーインクよりも先にクリアインクを着弾させてもよい。また、この場合、例えば、
図2(b)に示す構成のヘッド部102を用い、主走査動作時での転写媒体に対する相対移動の向きを双方向として、両方の向きでの移動時にインクジェットヘッド202tからクリアインクを吐出すること等が考えられる。
【0038】
続いて、印刷システム10において実行する画像の転写の動作等について、更に詳しく説明をする。
図3は、本例において印刷システム10で実行する動作の一例を示すフローチャートである。上記においても説明をしたように、本例の印刷システム10では、印刷部14において転写媒体に対して印刷した画像を被転写媒体へ転写する。また、この場合、まず、印刷データ準備部12において、転写媒体へ印刷する画像を示す画像データに基づき、印刷部14へ供給する印刷データを生成する(S102)。印刷データ準備部12において印刷データを生成する動作については、後に更に詳しく説明をする。また、この場合、印刷部14では、印刷データ準備部12から供給される印刷データに基づき、転写媒体へ画像を印刷する(S104)。本例において、ステップS104の動作は、印刷段階の動作の一例である。ステップS104において、印刷部14は、ヘッド部102におけるインクジェットヘッド202y~kから、転写媒体の少なくとも一部へカラーインクを吐出する。そして、転写媒体においてインクジェットヘッド202y~kのいずれかからカラーインクが吐出される領域の少なくとも一部に対し、インクジェットヘッド202tからクリアインクを更に吐出する。本例においてクリアインクを用いる理由や、クリアインクの吐出の仕方等については、後に更に詳しく説明をする。
【0039】
また、印刷部14によって転写媒体への印刷を行った後には、粉末付与部16において、画像が印刷されている転写媒体に対し、ホットメルト樹脂粉末を付着させる(S106)。本例において、ステップS106の動作は、ホットメルト樹脂付着段階の動作の一例である。ステップS106において、粉末付与部16での転写媒体へのホットメルト樹脂粉末の付与については、例えば、ホットメルト樹脂粉末を用いて行う公知の転写の動作でのホットメルト樹脂粉末の付与と同一又は同様に行うことができる。より具体的に、転写媒体へのホットメルト樹脂粉末の付与については、例えば、装置によって自動的に行うことが考えられる。この場合、粉末付与部16は、例えば、転写媒体へ向けてホットメルト樹脂粉末を噴出する粉末噴出部を有する。また、転写媒体へのホットメルト樹脂粉末の付与については、ユーザ(オペレータ)の手作業で行ってもよい。この場合、粉末付与部16は、例えば、画像が印刷された転写媒体を所定の状態で保持することで、転写媒体へホットメルト樹脂粉末を付与する作業をユーザに行わせる。
【0040】
尚、本例において、転写媒体へ付与されたホットメルト樹脂粉末は、転写媒体上のインクに付着することで、転写媒体に付着する。そのため、転写媒体においては、ステップS104で印刷部14によってインクが吐出されている位置に対してのみ、ホットメルト樹脂粉末が付着することになる。また、この場合、転写媒体においてインクが吐出されていない位置にあるホットメルト樹脂粉末については、例えば次の工程でプレヒートを実行する前に、公知の方法と同一又は同様にして、転写媒体上から除去する。ホットメルト樹脂粉末の除去についても、装置によって自動的に行ってもよく、ユーザによる手作業で行ってもよい。
【0041】
また、粉末付与部16において、転写媒体にホットメルト樹脂粉末を付着させ、不要なホットメルト樹脂粉末を除去した後には、転写媒体に対し、プレヒートを実行する(S108)。この場合、ホットメルト樹脂粉末が溶融する温度になるまで、転写媒体を加熱することが考えられる。このように構成すれば、例えば、転写媒体に対してホットメルト樹脂粉末を適切に定着させることができる。転写媒体に対してホットメルト樹脂粉末が定着することについては、例えば、後に被転写媒体への転写が可能な状態で転写媒体に対してホットメルト樹脂粉末が定着すること等と考えることができる。また、プレヒートについては、例えば、転写媒体を所定の温度で加熱して、ホットメルト樹脂粉末を粘着状態にする動作等と考えることもできる。ステップS108において実行するプレヒートについても、例えば、公知の方法と同一又は同様に行うことができる。より具体的に、ステップS108では、例えば、ホットメルト樹脂粉末の温度が130℃程度(例えば、120~150℃程度)になるように転写媒体を加熱し、その状態について、5分間程度(例えば、1~10分間程度)維持することが考えられる。
【0042】
また、プレヒートを実行した後には、熱転写部18において、転写媒体から被転写媒体への転写(熱転写)を実行する(S110)。本例において、ステップS110の動作は、転写段階の動作の一例である。ステップS110において、熱転写部18は、転写媒体と被転写媒体とを重ねた状態で加熱及び加圧を行うことで、ホットメルト樹脂粉末が加熱によって軟化することで形成される樹脂部であるホットメルト樹脂部を被転写媒体に付着させる。ホットメルト樹脂部については、例えば、加熱によって粘着性になったホットメルト樹脂粉末で構成される樹脂部分等と考えることができる。ホットメルト樹脂部は、例えば、軟化したホットメルト樹脂粉末が一体化することで形成される樹脂等であってもよい。また、本例において、ステップS110では、転写媒体に印刷された画像において色を表現している色材について、ホットメルト樹脂部の少なくとも一部と共に被転写媒体に付着させて、転写媒体から被転写媒体へ画像を転写する。このような動作については、例えば、転写媒体に付着している色材の少なくとも一部をホットメルト樹脂部の少なくとも一部と共に被転写媒体へ移動させることで、転写媒体から被転写媒体へ画像を転写する動作等と考えることができる。ステップS110において実行する転写についても、例えば、公知の方法と同一又は同様に行うことができる。より具体的に、ステップS110では、例えば、ステップS108でのプレヒートの温度よりも高い温度での加熱を行いつつ、加圧を行うことで、ホットメルト樹脂部を被転写媒体に付着させる。この場合、例えば、ホットメルト樹脂部の温度が140℃程度(例えば、100~180℃程度)になるように転写媒体及び被転写媒体を加熱することが考えられる。また、ステップS110での加熱及び加圧の時間は、ステップS108でのプレヒートにおける加熱の時間よりも短くすることが考えられる。例えば、ステップS110での加熱及び加圧の時間について、5秒程度(例えば、1~30秒程度)にすることが考えられる。
【0043】
ステップS110で転写媒体から被転写媒体へ画像を転写した後には、例えば、被転写媒体から転写媒体を剥離する(S112)。この場合、例えば、画像が転写された被転写媒体について、印刷システム10での印刷の成果物(印刷物)と考えることができる。ステップS112での転写媒体の剥離についても、例えば、公知の方法と同一又は同様に行うことができる。また、本例においては、例えば、表面に剥離層が形成されている転写媒体を好適に用いることができる。このように構成すれば、例えば、ステップS112での転写媒体の剥離を容易かつ適切に行うことができる。
【0044】
以上の動作により、印刷システム10において、印刷の成果物を適切に作成することができる。また、この場合において、転写媒体への印刷時にカラーインクに加えてクリアインクを用いることで、例えば、転写性を向上させて転写ムラを減少させることや、粒状感を軽減すること等が可能になる。そこで、以下、本例においてクリアインクを用いる理由や、クリアインクの吐出の仕方等について、更に詳しく説明をする。
【0045】
図4は、本例においてクリアインクを用いる理由等について説明をする図であり、従来の方法での転写媒体50に対する印刷の仕方等と比較して、本例での転写媒体50に対する印刷の仕方の例を示す。
図4(a)は、従来の方法での転写媒体50に対する印刷の仕方の例を示す。
図4(b)は、
図4(a)に示す方法と異なる方法での転写媒体50に対する印刷の仕方の例を示す。
図4(c)は、本例での転写媒体50に対する印刷の仕方の一例を示す。
【0046】
上記においても説明をしたように、本例においては、インク受理層54が形成されている転写媒体50を用いることが考えられる。また、従来の方法でも、このような転写媒体50を好適に用いることができる。そして、この場合、転写媒体50は、
図4(a)~(c)のそれぞれに示すように、ベース部52及びインク受理層54を有する。ベース部52は、転写媒体50の基体となる部分である。インク受理層54は、インクを吸収するための層であり、ベース部52の表面に形成される。インク受理層54については、例えば、ベース部52の一部を構成していると考えることもできる。この場合、ベース部52について、転写媒体50の全体を構成していると考えることもできる。また、本例において、印刷システム10における印刷部14(
図1参照)は、転写媒体50におけるインク受理層54の上にインクを吐出して、転写媒体50上にインクの層を形成することで、転写媒体50に対する印刷を行う。また、従来の構成でも、同様に、印刷部14に対応する印刷装置により、転写媒体50上にインクの層を形成することで、転写媒体50に対する印刷を行う。
【0047】
また、例えば
図4(a)に示す従来の方法では、本例の印刷部14とは異なる構成で、カラーインク用のインクジェットヘッドと白色のインク用のインクジェットヘッドとを有する印刷装置を用いて、転写媒体50の表面における印刷領域300に対し、カラーインク層302及び白インク層304を形成する。この場合、カラーインク層302は、カラーインクで形成されるインクの層である。白インク層304は、白色のインクで形成されるインクの層である。白インク層304については、例えば、転写後に被転写媒体の地の色を隠蔽し、減法混色法での背景として機能する層と考えることができる。印刷領域300については、例えば、インクジェットヘッドからカラーインクが吐出される領域等と考えることができる。また、この場合、例えば図中に示すように、転写媒体50上にカラーインク層302を形成し、その上に、カラーインク層302の全体を覆うように、白インク層304を形成する。また、白インク層304については、例えば、所定の濃度で印刷領域300をベタ塗り状に塗りつぶすように形成する。
【0048】
この場合、転写媒体50上にカラーインク層302及び白インク層304を形成した後、
図4(a)の下側部分に示すように、白インク層304の上に、図中で樹脂粉末352として示すホットメルト樹脂粉末を付着させる。また、樹脂粉末352を付着させた後には、転写媒体50と被転写媒体とを重ねて、加熱及び加圧を行うことで、転写媒体50から被転写媒体への画像の転写を行う。このようにして印刷及び転写を行う場合、ベタ塗り状の白インク層304が形成されていることで、印刷領域300の各位置でのインクの量が十分に多くなる。そのため、転写媒体50における印刷領域300に対し、適切に樹脂粉末352を付着させることができる。また、これにより、例えばカラーインク層302においてインクの量が少なくなっている低階調域を含む画像を転写する場合等にも、適切に樹脂粉末352を付着させて、画像の転写を高い品質で適切に行うことができる。また、この場合、画像の転写後、被転写媒体上では、白インク層304が、カラーインク層302よりも下側の層になり、カラーインク層302の背景として機能する。そのため、例えば被転写媒体として濃い色の生地等を用いる場合でも、被転写媒体上において、画像を適切に表現することができる。
【0049】
しかし、この場合、本来の画像とは別に白インク層304に対応する部分までもが被転写媒体へ転写されることで、意匠性や風合いを損ねる場合がある。例えば、被転写媒体として白色やベージュ色等の薄い色(淡い色)の生地を用いる場合や、被転写媒体として用いる生地の色や風合いを活かした意匠を表現する場合(例えば、生成り生地を用いる場合等)等には、白インク層304を形成することが好ましくない場合がある。また、白色等の薄い色の生地等を被転写媒体として用いる場合には、転写後の被転写媒体の地の色が光反射性の色になるため、白インク層304を形成しなくても、減法混色法での色の表現を適切に行うことができる。そして、このような場合、例えば
図4(b)に示すように、白インク層304を形成しないで、画像の転写を行うことも考えられる。この場合、カラーインク用のインクジェットヘッドを有する印刷装置を用いて、転写媒体50における印刷領域300に対し、カラーインク層302を形成する。そして、カラーインク層302の上に直接、樹脂粉末352を付着させる。また、樹脂粉末352を付着させた後には、転写媒体50と被転写媒体とを重ねて、加熱及び加圧を行うことで、転写媒体50から被転写媒体への画像の転写を行う。このようにした場合にも、転写媒体50から被転写媒体への画像の転写を行うことができる。しかし、転写媒体50に描く画像の状態によっては、画像の一部において転写率が低下して、意図しない転写ムラが発生する場合がある。
【0050】
より具体的に、カラーインク層302は、転写媒体50上に描く画像に合わせて各色のカラーインクを吐出することで形成される。そして、この場合、印刷領域300における位置によって、吐出されるインクの量に差が生じることになる。例えば、画像において薄い色を表現する低階調域で、より濃い色を表現する高階調域と比較して、インクの量が少なくなる。また、その結果、樹脂粉末352の付着の仕方について、印刷領域300における位置によって、差が生じやすくなる。そして、この場合、例えば、インクの量が少なくなる低階調域において、樹脂粉末352の付着量が少なくなることで、転写性が低下することが考えられる。また、その結果、転写ムラが生じることが考えられる。更には、転写性が低下することで、低階調の表現が乏しくなること等も考えられる。この点に関し、例えば
図4(a)に示す方法の場合、カラーインク層302の上にベタ塗り状の白インク層304を形成しているため、各位置に対して吐出するカラーインクの量に差が生じていても、転写性に差が生じることを適切に防止できる。しかし、
図4(b)に示す方法の場合、白インク層304を形成しないことで、上記のように、転写ムラが生じやすくなる。
【0051】
これに対し、本例においては、カラーインクに加えてクリアインクを用いることで、白インク層304を形成することなく、転写ムラの発生を防止している。この場合、印刷部14では、例えば
図4(c)に示すように、転写媒体50の印刷領域300に対し、カラーインク及びクリアインクを用いて、カラーインク及びクリアインクで形成されるインクの層である画像層306を形成する。そして、白インク層304等を形成することなく、画像層306の上に直接、樹脂粉末352を付着させる。また、樹脂粉末352を付着させた後には、転写媒体50と被転写媒体とを重ねて、加熱及び加圧を行うことで、転写媒体50から被転写媒体への画像の転写を行う。
【0052】
このように、本例においては、印刷部14による転写媒体50への印刷時にカラーインクに加えてクリアインクを用いることで、例えば、転写媒体50に印刷される画像の色の影響が生じることを適切に抑えつつ、カラーインク以外のインクを転写媒体50へ適切に吐出することができる。このようにすれば、例えば、印刷領域300において、低階調域のようなカラーインクの量が少なくなる位置に対しても、クリアインクを吐出して、カラーインクのみを用いる場合と比べて、転写媒体50へ吐出されるインクの合計量を増加させることができる。また、インクの合計量を増加させることで、例えば、樹脂粉末352を転写媒体50により適切に付着させることができる。また、これにより、例えば、転写媒体50から被転写媒体への画像の転写時において、樹脂粉末352の不足によって転写性が低下することや、転写ムラ等が生じること等を適切に防止することができる。そのため、本例によれば、例えば、白インク層304を形成することなく、樹脂粉末352を用いて行う画像の転写をより適切に行うことができる。また、この場合、白色の顔料等を含む白色のインクと異なり、クリアインクについては、意匠性への影響等を抑えつつ、使用することができる。また、クリアインクについては、転写後に被転写媒体上で目立ちにくくなることから、例えば必要な箇所のみを選んで使用すること等も可能になる。そのため、本例によれば、例えば、意匠性や風合いを損ねることを適切に防止しつつ、より高い品質での転写を行うことが可能になる。
【0053】
また、本例においては、カラーインクに加えてクリアインクを用いることで、例えば転写後の粒状感を軽減すること等も可能になる。より具体的に、本例のように、インク受理層54を有する転写媒体50に対してインクジェット方式での印刷を行う場合、着弾後のインクについて、転写媒体50上で濡れ広がりにくくなると考えることができる。また、その結果、例えば、特に低階調域において、粒状感が発生しやすくなることが考えられる。更に、樹脂粉末352を付着させて転写を行う場合、付着する樹脂粉末352の量について、その位置に吐出されているインクの量(印字量)に依存すると考えることができる。そのため、例えば
図4(b)に示すような方法で画像の転写を行う場合、印字量の少ない低階調域では樹脂粉末352の付着量が少なくなり、転写性が低下することで、転写後の被転写媒体において、粒状感がより目立ちやすくなる。
【0054】
これに対し、本例においては、カラーインクに加えてクリアインクを用いることで、例えば、転写媒体50上でのカラーインクについて、カラーインクのみを用いる場合と比べて、濡れ広がりやすくすることができる。また、これにより、例えば、カラーインクによって転写媒体50上に形成されるインクのドットのサイズを大きくして、粒状感を生じにくくすることができる。また、この場合、上記のように、クリアインクの利用によって、低階調域で転写性が低下することを適切に防止することもできる。そのため、例えば、転写後の被転写媒体において粒状感が目立ちやすくなることをより適切に防止することができる。また、この場合、印刷部14では、例えば、転写媒体50においてカラーインクを吐出する各位置に対し、カラーインクが完全に乾燥する前にクリアインクが着弾するように、カラーインク及びクリアインクを吐出することが好ましい。このように構成すれば、例えば、転写媒体50上でカラーインクが濡れ広がりやすくなる状態をより適切に実現できる。
【0055】
また、上記の説明等から理解できるように、本例においては、特に、画像において低階調域になる位置に対し、クリアインクを吐出することが好ましい。そこで、以下、クリアインクの吐出の仕方の例について、更に詳しく説明をする。
図5及び
図6は、本例におけるクリアインクの吐出の仕方の例について説明をする図である。
図5は、転写媒体50に対して印刷する画像について説明をする図である。
図5(a)は、転写媒体50に対して印刷する画像の一例を示す。
図5(b)は、画像を構成するカラーインクのドットの状態の例を示す。
【0056】
本例のように、印刷部14(
図1参照)によって複数色のカラーインクを用いて印刷(カラー印刷)を行う場合、転写媒体50の各位置において表現する色に応じて、その位置へ吐出される各色のインクの量が変化することになる。また、この場合、例えば、画像の位置によって、階調が変化すると考えることができる。そして、印刷部14は、例えば、高階調部312、中階調部314、及び低階調部316を有する画像を転写媒体50に対して印刷する。より具体的に、
図5(a)では、印刷部14において複数の印刷領域300a~cへの印刷を行う場合について、印刷される画像の例を示している。この場合、印刷領域300aは、高階調部312、中階調部314、及び低階調部316を含む印刷領域になっている。印刷領域300bは、低階調部316のみで構成される印刷領域になっている。印刷領域300cは、高階調部312のみで構成される印刷領域になっている。また、本例において、印刷領域300a~cのそれぞれは、転写媒体50においてインクジェットヘッド202y~k(
図2参照)のいずれかからカラーインクが吐出される画像表現領域の一例である。
【0057】
また、この場合、高階調部312については、例えば、画像において所定の第1の基準よりも高い階調での色を表現する部分等と考えることができる。この場合、画像の階調が第1の基準よりも高いことについては、例えば、いずれかのカラーインクに対応する色(YMCKのうちのいずれかの色)での階調が第1の基準よりも高いこと等と考えることができる。また、中階調部314については、例えば、画像における高階調部312及び低階調部316以外の部分等と考えることができる。低階調部316については、例えば、画像において第1の基準よりも低い所定の第2の基準よりも低い階調での色を表現する部分等と考えることができる。この場合、画像の階調が第2の基準よりも高いことについては、例えば、カラーインクにおける全ての色(YMCKの全ての色)での階調が第2の基準よりも低いこと等と考えることができる。また、高階調部312については、例えば、所定の高階調域の色を表現する部分等と考えることもできる。高階調部312について、例えば、画像において濃い色や暗い色を表現する領域等と考えることもできる。また、低階調部316については、例えば、所定の低階調域の色を表現する領域等と考えることもできる。低階調部316について、例えば、画像において薄い色や明るい色を表現する部分等と考えることもできる。
【0058】
また、本例の印刷部14のように、インクジェット方式での印刷を行う場合、単位面積あたりに形成するインクのドットの密度を変化させることで、階調を表現する。そして、この場合、高階調部312においては、例えば
図5(b)の左側に示すように、多くのドット402が密集して形成されることになる。また、低階調部316のおいては、例えば
図5(b)の右側に示すように、高階調部312と比べて少数のドット402が疎らに形成されることになる。
図5(b)において、縦横の破線の交点は、印刷の解像度に応じて設定されるインクの吐出位置を示している。そして、この場合、画像における高階調部312、中階調部314、及び低階調部316のそれぞれについて、単位面積あたりに吐出されるカラーインクの量と関連付けて考えることもできる。より具体的に、この場合、高階調部312について、例えば、単位面積あたりに吐出するカラーインクの量を多くする領域等と考えることができる。また、低階調部316について、例えば、単位面積あたりに吐出するカラーインクの量を少なくする領域等と考えることができる。
【0059】
また、本例において、低階調部316は、単位面積あたりに吐出されるカラーインクの量が予め設定された基準量よりも少ない領域である少量インク領域の一例である。高階調部312は、少量インク領域に該当しない領域の少なくとも一部である非少量インク領域の一例である。非少量インク領域については、例えば、印刷領域300a~cのそれぞれにおいて、単位面積あたりに吐出されるカラーインクの量が所定の量よりも多くなる領域等と考えることができる。また、本例において、この所定の量については、少量インク領域に関する上記の基準量よりも大きな量になっていると考えることができる。印刷部14の構成等によっては、例えば、高階調部312及び中階調部314を合わせた部分について、非少量インク領域の一例と考えることもできる。この場合、非少量インク領域に関する上記の所定の量について、例えば、少量インク領域に関する上記の基準量と同じ量と考えることもできる。
【0060】
また、上記においても説明をしたように、本例において、印刷部14は、カラーインクに加えてクリアインクを更に用いて、転写媒体50に対する印刷を行う。そして、この場合において、画像における低階調部316の少なくとも一部に対し、クリアインクを吐出する。また、この場合、印刷の解像度に応じて転写媒体50上に設定される吐出位置に対し、例えば
図6に示すように、カラーインク及びクリアインクを吐出することが考えられる。
【0061】
図6は、カラーインク及びクリアインクを吐出する吐出位置の例を示す図であり、低階調部316(
図5参照)における一部の複数の吐出位置に着目して、カラーインク及びクリアインクを吐出する吐出位置の例を示す。
図6(a)~(c)は、クリアインクを吐出する吐出位置の選択の仕方の例を示す図であり、低階調部316においてカラーインクのドット402が離散的に形成されている位置に対するクリアインクの吐出の仕方の様々な例を示す。カラーインクのドット402が離散的に形成されている位置については、例えば
図6(a)~(c)のそれぞれにおける左上側に示すように、カラーインクの複数のドット402が間を空けて形成されている位置等と考えることができる。また、この場合、複数のドット402について、互いに接触しないサイズに広がっていると考えることができる。そして、この場合、例えばクリアインクを用いないとすると、単位面積あたりのインクの量が少なくなり、転写性が低下すること等が考えられる。
【0062】
これに対し、本例においては、上記においても説明をしたように、クリアインクを更に用いることで、単位面積あたりのインクの量を増加させる。そして、クリアインクの吐出の仕方について、それぞれの吐出位置の付近に吐出されるインクの合計量を多くすることを考えた場合、最も単純には、例えば
図6(a)の左下側に示すように、全ての吐出位置に対し、所定の量のクリアインクを吐出することが考えられる。この場合、左下側の図は、左上側に示す複数の吐出位置と同じ位置に対してクリアインクによって形成されるインクのドット404の並びを示している。また、
図6(a)に示す場合において、クリアインクのドット404は、印刷の解像度に応じた間隔で並ぶ全ての吐出位置に形成されている。そして、この場合、カラーインクのドット402と、クリアインクのドット404とを合わせると、図中の右側に示すように、カラーインクのドット402がある位置、及びカラーインクのドット402がない位置の両方に、クリアインクのドット404が形成されることになる。このように構成した場合、例えば、カラーインクの量が少なくなる低階調域に対し、クリアインクを足して、インクの量を補填したような状態になる。そのため、このように構成すれば、例えば、それぞれの吐出位置の付近へ吐出されるインクの合計量を適切に増加させることができる。
【0063】
しかし、印刷に求められる品質等によっては、全ての吐出位置へクリアインクを吐出するより、一部の吐出位置のみへクリアインクを吐出する方が好ましい場合もある。より具体的に、例えば、全ての吐出位置へクリアインクを吐出すると単位面積あたりのインクの量が過剰になる場合等には、好ましいインクの上限量に合わせて、クリアインクを吐出する位置を減らすこと等も考えられる。そして、この場合、例えば
図6(b)、(c)に示すように、一部の吐出位置のみにクリアインクのドット404を形成してもよい。
【0064】
より具体的に、
図6(b)に示す例の場合、図中の左下側に示すように、カラーインクのドット402が形成されない吐出位置のみを選択して、クリアインクのドット404を形成している。そして、この場合、カラーインクのドット402と、クリアインクのドット404とを合わせると、図中の右側に示すように、それぞれの吐出位置において、カラーインクのドット402、又はクリアインクのドット404のいずれかが形成されることになる。このように構成した場合も、例えば、カラーインクの量が少なくなる低階調域に対し、クリアインクを足して、インクの量を補填したような状態になる。そのため、このように構成した場合も、例えば、それぞれの吐出位置の付近へ吐出されるインクの合計量を適切に増加させることができる。
【0065】
また、クリアインクを吐出する吐出位置については、必ずしも、カラーインクを吐出する吐出位置に厳密に合わせなくてもよい。より具体的に、インクジェット方式で印刷を行う場合、カラーインクを吐出する吐出位置については、例えば、ハーフトーン処理によって決まることになる。そして、この場合、通常、表現する階調が同じであっても、カラーインクを吐出する位置が同じになるとは限らない。また、本例において、一部の吐出位置のみにクリアインクを吐出する場合、クリアインクを吐出する位置についても、例えば、ハーフトーン処理等の所定の処理で決定することが考えられる。そして、この場合、クリアインクを吐出する吐出位置についても、処理の結果によって決まることになる。そして、このような場合には、カラーインクを吐出する吐出位置とクリアインクを吐出する吐出位置との関係について、厳密に所定の関係に決めるのではなく、例えばハーフトーン処理等を行う前の画像の階調の関係や、単位面積あたりに吐出するインクの量の関係として決定することが考えられる。そして、この場合、例えば
図6(c)に示すように、カラーインクのドット402が形成される吐出位置のうち、一部の吐出位置にはカラーインクのドット402及びクリアインクのドット404が形成され、他の吐出位置にはクリアインクのドット404が形成されずに、カラーインクのドット402のみが形成されることになる。また、カラーインクのドット402が形成されない吐出位置のうち、一部の吐出位置のみに、クリアインクのドット404が形成されることになる。このように構成した場合も、例えば、カラーインクの量が少なくなる低階調域に対し、クリアインクを足して、インクの量を補填したような状態になると考えることができる。そのため、このように構成した場合も、例えば、それぞれの吐出位置の付近へ吐出されるインクの合計量を適切に増加させることができる。
【0066】
また、クリアインクを吐出する吐出位置の選択の仕方については、上記において説明をした方法に限らず、他の方法で行ってもよい。例えば、ハーフトーン処理の結果に基づき、カラーインクのドット402が形成される吐出位置を確認して、その吐出位置に合わせて、ドット404を形成する吐出位置を決定してもよい。この場合、例えばカラーインクのドット402が形成される吐出位置と隣接する吐出位置等の、カラーインクのドット402が形成される吐出位置にクリアインクのドット404を形成することが考えられる。また、この場合、カラーインクのドット402が形成される吐出位置に、クリアインクのドット404を更に形成してもよい。
【0067】
また、上記の説明等から理解できるように、本例においては、転写媒体50における印刷領域のうち、カラーインクの吐出量が少なくなる箇所に対してクリアインクを吐出することで、ホットメルト樹脂粉末の付着性を高めている。そして、この場合、カラーインクを吐出する量が十分に多い箇所については、クリアインクを用いなくても、十分な量のホットメルト樹脂粉末を付着させることが可能である。また、例えば単位面積あたりに吐出するインクの量について、カラーインクとクリアインクとを合わせたインクの合計量が多くなり過ぎた場合、カラーインクの滲み等の問題が発生しやすくなること等も考えられる。そのため、転写媒体50への各位置へのクリアインクの吐出量については、例えば、各位置へのカラーインクの吐出量に応じて、異ならせてもよい。
【0068】
より具体的に、転写媒体50の各位置に対して吐出するクリアインクの単位面積あたりの量をクリア吐出量と定義した場合、印刷領域において、単位面積あたりに吐出されるカラーインクの量がより多い高階調部312(
図5参照)と、単位面積あたりに吐出されるカラーインクの量がより少ない低階調部316とで、クリア吐出量を異ならせることが考えられる。この場合、例えば、低階調部316でのクリア吐出量が高階調部312でのクリア吐出量よりも大きくなるように、クリア吐出量について、単位面積あたりに吐出されるカラーインクの量に応じて異ならせることが考えられる。このように構成すれば、例えば、クリアインクの使用量を抑えつつ、必要な箇所に対して適切にクリアインクを吐出することができる。また、高階調部312でのクリア吐出量を少なくすることで、例えば、同じ位置へ吐出されるインクの合計量が過度に多くなることを防止することもできる。
【0069】
クリア吐出量については、例えば、中階調部314と低階調部316とで異ならせてもよい。この場合、例えば、低階調部316でのクリア吐出量が中階調部314でのクリア吐出量よりも大きくなるように、クリア吐出量について、単位面積あたりに吐出されるカラーインクの量に応じて異ならせることが考えられる。また、クリア吐出量について、例えば、高階調部312と中階調部314とで異ならせてもよい。この場合、例えば、中階調部314でのクリア吐出量が高階調部312でのクリア吐出量よりも大きくなるように、クリア吐出量について、単位面積あたりに吐出されるカラーインクの量に応じて異ならせることが考えられる。また、例えば高階調部312のように、カラーインクを吐出する量が多い箇所に対しては、クリア吐出量をゼロにすること等も考えられる。この場合、例えば、単位面積あたりに吐出されるカラーインクの量が予め設定された上限量よりも多くなる位置に対しては、クリアインクを吐出しない。このように構成すれば、例えば、同じ位置へ吐出されるインクの合計量が過度に多くなることをより適切に防止できる。
【0070】
また、上記においても説明をしたように、本例においては、クリアインクを用いることで、例えば、低階調部316において、ホットメルト樹脂粉末の付着性を高めている。そして、この場合、クリアインクを用いることで、例えば、色材である顔料の転写率を高めていると考えることができる。この場合、転写時に転写媒体50から被転写媒体へ移動する色材の割合を転写率と定義すると、印刷部14での印刷時に低階調部316の少なくとも一部に対してクリアインクを吐出することで、例えば、低階調部316の少なくとも一部における転写率について、クリアインクを吐出しない場合よりも高めていると考えることができる。また、この場合、低階調部316に着目すると、例えば、印刷部14によって低階調部316の少なくとも一部に対してクリアインクを吐出することで、クリアインクを吐出した位置に対し、粉末付与部16(
図1参照)において付着するホットメルト樹脂粉末の量について、クリアインクを吐出しない場合よりも多くすると考えることもできる。
【0071】
また、上記においても説明をしたように、インクジェット方式で印刷を行う場合、カラーインクを吐出する吐出位置については、例えば、ハーフトーン処理によって決まることになる。また、本例の印刷システム10では、印刷データ準備部12(
図1参照)において、画像データに対するハーフトーン処理等を行って、印刷データを生成する。そして、この場合、印刷データを生成するために印刷データ準備部12において実行する一連の動作の中で、クリアインクを吐出する位置についても決定することが考えられる。また、この場合、印刷データ準備部12では、例えば
図7に示す動作により、印刷データを生成する。
【0072】
図7は、印刷データ準備部12において印刷データを生成する動作の一例を示すフローチャートである。上記においても説明をしたように、本例において、印刷データ準備部12は、印刷部14において転写媒体50へ印刷する画像を示す画像データに基づき、印刷部14へ供給する印刷データを生成する。そして、この動作においては、先ず、印刷データ準備部12に対して、画像データを入力する(S202)。画像データとしては、例えば、カラー画像を示す一般的な公知のカラー画像データを用いることが考えられる。また、このような画像データとしては、例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)を原色としてカラー画像を示すRGB画像等を好適に用いることができる。画像データの入力については、例えば、ネットワークや記憶メディア等を介して、印刷データ準備部12の外部から印刷データ準備部12へ入力することが考えられる。また、画像データが示すカラー画像としては、色表現の基本色(原色)のそれぞれの階調を3以上の階調で示す画像を用いることが考えられる。より具体的に、画像データが示すカラー画像としては、例えば、基本色であるRGBの各色について8ビット以上の階調で表現する画像等を好適に用いることができる。
【0073】
また、画像データが入力された後、印刷データ準備部12は、画像データに対し、その後に行うハーフトーン処理に合わせた前処理を行う(S204)。この前処理としては、例えば、解像度変換処理、色変換処理、及び分版処理等を行うことが考えられる。この場合、解像度処理とは、例えば、印刷部14において実行する印刷の解像度に合わせて画像の解像度を変更する処理である。色変換処理とは、例えば、印刷部14で用いるインクの色に合わせて画像の色を変換する処理である。色変換処理では、例えば、印刷データが示す画像について、印刷に使用するYMCKの各色のインクに合わせて、YMCK表色系で色を表現する画像への変換を行うことが考えられる。また、分版処理については、例えば、処理対象の画像を印刷部14で用いるインクの色毎の画像へ分ける処理等と考えることができる。印刷データ準備部12は、例えば、解像度変化処理及び色変換処理が行われた後の画像に対して分版処理を行って、YMCKの各色にそれぞれが対応する複数のグレースケール画像を生成する。この場合、YMCKの各色に対応するグレースケール画像について、例えば、画像の各位置に対してその色のインクを吐出する吐出量を示していると考えることができる。YMCKの各色に対応するグレースケール画像としては、例えば、8ビット以上の階調のグレースケール画像を生成することが考えられる。
【0074】
また、本例において、上記の前処理を行った後、印刷データ準備部12は、クリアインクを吐出する吐出位置の決定に用いる画像であるクリア用画像を生成する(S206)。この場合、クリア用画像について、例えば、その後にハーフトーン処理を行うことでクリアインクの吐出位置が決まる画像等と考えることができる。クリア用画像としては、例えば、グレースケール画像を生成することが考えられる。この場合、クリア用画像について、例えば、画像の各位置に対してクリアインクを吐出する吐出量を示していると考えることができる。クリア用画像としては、例えば、分版処理で生成されるYMCKの各色に対応するグレースケール画像と同じ階調数の画像を生成することが考えられる。また、より具体的に、本例において、印刷データ準備部12は、分版処理で生成されるYMCKの各色に対応するグレースケール画像に基づくことで、画像の各位置に対して吐出されるカラーインクの合計量を算出する。そして、この合計量に基づき、クリア用画像の各画素の値(階調)を決定する。このように構成すれば、例えば、印刷部14での印刷時に画像の各位置に対して吐出されるカラーインクの量に応じて、クリアインクの吐出量を適切に変化させることができる。
【0075】
また、クリア用画像を生成した後、印刷データ準備部12は、YMCKの各色に対応するグレースケール画像、及びクリア用画像に対し、ハーフトーン処理を行う(S208)。ハーフトーン処理については、例えば、印刷部14の構成に合わせて画像の階調数を小さくする処理等と考えることができる。また、ハーフトーン処理について、例えば、グレースケール画像が対応する色のインクを吐出する吐出位置を指定するラスタ画像を生成する処理(RIP処理)等と考えることもできる。本例において、印刷データ準備部12は、YMCKの各色に対応するグレースケール画像に対するハーフトーン処理を行うことで、その色のインクを吐出する吐出位置を指定するラスタ画像を生成する。また、印刷データ準備部12は、クリア用画像に対するハーフトーン処理を行うことで、クリアインクを吐出する吐出位置を指定するラスタ画像を生成する。印刷データ準備部12は、これらのラスタ画像を含むデータについて、印刷データとして、印刷部14へ供給する。このように構成すれば、例えば、各色のカラーインク及びクリアインクを吐出する位置を指定する印刷データを印刷部14へ適切に供給することができる。
【0076】
ここで、印刷データ準備部12の動作に関し、上記において説明をした点以外は、印刷データを生成する公知の動作と同一又は同様に行うことができる。また、上記において説明をした印刷データ準備部12の動作のうち、クリア用画像に関連する動作以外については、例えば、印刷データを生成する公知の動作と同一又は同様に行うことができる。また、上記のように、本例において、印刷データ準備部12は、印刷データ準備部12へ入力される画像データに基づき、分版処理を行って、YMCKの各色に対応するグレースケール画像を生成する。そして、分版処理で生成されるYMCKの各色に対応するグレースケール画像に基づき、クリア用画像を生成する。この場合、クリア用画像についても、例えば、印刷データ準備部12へ入力される画像データに基づいて生成されると考えることができる。また、この場合、印刷データ準備部12の動作について、例えば、クリアインクの吐出位置を直接には指定していない画像データに基づき、クリアインクの吐出位置を自動的に決定していると考えることができる。また、印刷データ準備部12の動作について、例えば、画像データが示す画像の階調に応じて画像の各位置へ吐出するクリアインクの量を決定していると考えることもできる。また、印刷データ準備部12の動作の変形例においては、印刷データ準備部12においてクリア用画像を生成するのではなく、画像データと共に、クリア用画像を示すデータを印刷データ準備部12へ供給してもよい。また、この場合、クリア用画像ではなく、クリアインクの吐出位置を直接示すデータを印刷データ準備部12へ供給すること等も考えられる。
【0077】
続いて、上記において説明をした構成に関連して本願の発明者が行った実験について、説明をする。上記においても説明をしたように、転写媒体に対してカラーインクのみを用いて印刷を行った場合、低階調域(低階調部)において、転写媒体から被転写媒体への転写性が低下することが考えられる。そして、この場合、被転写媒体への転写後の画像において、低階調域において粒状感が目立ちやすくなること等が考えられる。これに対し、本例においては、クリアインクを用いてインクの合計量(液量)の補填を行うことで、画像の転写性を高めて、粒状感の軽減(改善)をしている。また、本願の発明者は、クリアインクの使用によって粒状感が軽減することについて、実際に実験を行って、確認をした。
【0078】
図8は、本願の発明者が行った実験について説明をする図である。
図8(a)は、実験で用いたクリアインクの組成を示す。
図8(b)、(c)は、実験の結果を示す。この実験では、カラーインクとして、公知の水性顔料インクを用いた。また、実験の便宜上、カラーインクとして、粒状感が最も目立ちやすい黒色のインクのみを用いた。そして、クリアインクとしては、図中にインクA及びインクBとして示す2種類のインクを用いた。この場合、インクAについては、例えば、色材である顔料をカラーインクから除いたインクと考えることができる。インクBについては、例えば、色材である顔料と、バインダ樹脂に対応する樹脂(樹脂エマルジョン)とをカラーインクから除いたインクと考えることができる。この場合、インクA及びインクBについて、実質的に、透明なインクであると考えることができる。また、インクAについて、例えば、透明であり、かつ、樹脂を含むインクであると考えることができる。
【0079】
この実験では、
図8(b)に示すように、単位面積あたりに吐出するカラーインク及びクリアインクの量を様々に変化させて、転写後の被転写媒体での粒状感を確認した。また、確認した粒状感について、限度見本を参照して、数値化した。
図8(b)に示す表のうち、上側の表は、インクAを用いた場合の実験の結果である。下側の表は、インクBを用いた場合の実験の結果である。表において、インクA又はインクBに対応付けて示している数値0~200は、単位面積あたりに吐出するクリアインク(インクA又はインクB)の吐出量(印字量)を示している。カラーインク(Black)に対応付けて示している数値0~200は、単位面積あたりに吐出するカラーインクの吐出量を示している。また、この数値において、0は、対応するインクを吐出しない状態を示す。そして、数値に比例して、単位面積あたりのインクの吐出量が多くなる。また、粒状感については、1~5の5段階での数値化で評価を行った。この場合、最も粒状感が目立つ状態が数値1に対応し、最も粒状感が目立たない状態が数値5に対応している。
【0080】
図中に示す表から理解できるように、クリアインクの吐出を行わない場合、カラーインクの吐出量が少ないと、粒状感が目立ちやすくなる。そして、カラーインクの吐出量が少ない場合、クリアインクの吐出量を多くすることで、粒状感を軽減できる。また、クリアインクとしては、インクA及びインクBのいずれを用いる場合でも、粒状感を軽減できる。更に、インクAとインクBとを比べた場合、インクBの方が、より少ない吐出量で粒状感を軽減できている。これは、インクAにおいて、樹脂を含まないことで、インクBと比べてインクが乾燥しやすくなっていることが原因の一つであると考えることができる。より具体的に、ホットメルト樹脂粉末については、例えば、完全に乾燥する前の状態で液体成分を含んでいるインクに対して付着しやすいと考えることができる。そのため、乾燥しやすいインクBを用いる場合、インクAと比べてより多くの量の吐出を行うことが必要になりやすい。また、インクBにおいては、樹脂について、ある程度乾燥した状態でも粘着性を維持すると考えることができる。そのため、この点でも、インクBについて、より少ない量で粒状感の軽減効果が得られると考えることができる。
【0081】
また、
図8(b)に示す結果から、インクA及びインクBのいずれを用いる場合でも、カラーインクの量とクリアインクの量とを合わせた合計のインクの吐出量が一定の量を超えると、粒状感を十分に軽減できることがわかる。また、このことから、例えば、カラーインクの吐出量が十分に多い箇所に対しては、クリアインクを吐出しなくても、粒状感が発生しないことがわかる。そのため、この実験の結果からも、クリアインクの吐出量について、カラーインクの吐出量に応じて変化させることが好ましいことが理解できる。
【0082】
また、上記においても説明をしたように、本例においては、クリアインクを用いることで、転写ムラを防止することも可能になる。そして、転写ムラについても、粒状感に関して上記において説明をした場合と同様に、クリアインクとしてインクA及びインクBのいずれを用いる場合にも、適切に防止することが可能であった。また、より具体的に、インクAを用いる場合において、転写ムラに関する評価の結果は、
図8(c)に示す表のようになった。
図8(c)に示す表では、カラーインク及びクリアインクのそれぞれの量について、単位面積あたりの吐出量(印字量)で示している。そして、表中のそれぞれのマス目では、カラーインクの量とクリアインクの量とを合わせた合計のインクの吐出量について、単位面積あたりの合計印字量で示している。また、この表において、太い実線で囲まれている範囲は、問題となる転写ムラが生じなかった範囲を示している。この範囲については、例えば、クリアインクの吐出によって転写ムラが解消している範囲等と考えることもできる。また、太い実線で囲んだ範囲の左上側において、上側及び左側の破線と下側及び右側の太い実線とで囲まれている範囲は、軽微な転写ムラのみが生じていた範囲である。この範囲については、例えば、クリアインクの吐出によって転写ムラが大きく軽減される範囲等と考えることもできる。
図8(c)に示す結果から、インクAを用いる場合について、カラーインクに加えてクリアインクを用いることで転写性が向上していることが確認できる。また、この場合において、特に、クリアインクを用いないと転写ムラが発生する低階調域において、クリアインクの使用によって転写ムラを防止できることが確認できる。
【0083】
尚、上記の実験において、カラーインク及びクリアインク(インクA又はインクB)の吐出については、転写媒体の各位置へカラーインクを吐出した後、その位置のカラーインクが完全に乾燥する前にクリアインクを同じ位置へ吐出するようにして、行った。この場合、カラーインク及びクリアインクについて、転写媒体上に同時に吐出する条件になっていると考えることができる。また、図示は省略したが、インクBについても、
図8(c)の表に対応する実験を行った。また、この実験により、インクBについても、カラーインクに加えてクリアインクを用いることで転写性が向上することや、クリアインクを用いないと転写ムラが発生する低階調域において、クリアインクの使用によって転写ムラを防止できること等を、確認した。
【0084】
続いて、上記において説明をした構成に関する補足説明等を行う。上記においても説明をしたように、本例において、カラーインクとしては、色材として顔料を含む捺染用のインク(捺染顔料インク)を好適に用いることができる。そして、この場合、クリアインクとしては、例えば、カラーインクから色材(顔料)及び分散剤を除いた組成のインク等を好適に用いることができる。この点に関し、印刷部14で同時に使用するカラーインク及びクリアインクについて、インクの特性(液性)が大きく異なると、転写媒体上でのインクの凝集や分離の仕方に差が生じ、印刷の画質の低下(画質不良)の原因になることが考えられる。これに対し、上記のようなクリアインクを用いる場合、カラーインクとクリアインクとの間での特性の差が大きくなることを適切に防止することができる。また、これにより、例えば、高品質の印刷をより適切に行うことが可能になる。
【0085】
また、この場合、上記においても説明をしたように、バインダ樹脂を含むカラーインクを用い、クリアインクとして、カラーインクにおけるバインダ樹脂と同じ樹脂を含むインクを用いることが考えられる。そして、この場合、バインダ樹脂と同じ樹脂を含むことで、クリアインクについて、例えば樹脂を含まない場合と比べて、ホットメルト樹脂粉末が付着しやすい状態が長時間継続すると考えることができる。そのため、樹脂を含むクリアインクを用いることで、クリアインクを吐出した位置に対し、例えば、ホットメルト樹脂粉末をより確実に付着させることができる。また、
図8を用いて上記において説明をした実験の結果等からも理解できるように、クリアインクとしては、例えば、樹脂を含まないインクを用いることも可能である。この場合も、クリアインクを用いることで、クリアインクを吐出した位置について、ホットメルト樹脂粉末が付着しにくい状態にまでインクが乾燥するまでの時間を長くすることができる。また、これにより、例えば、樹脂を含まないクリアインクを用いる場合でも、クリアインクを吐出した位置に対し、ホットメルト樹脂粉末を適切に付着させることができる。また、カラーインクとクリアインクとの組成の違いに関し、クリアインクにおいて一部の成分(色材等)をカラーインクから除くことで生じる分量の減少に対しては、溶媒の量を適宜変更することで、調整することが考えられる。また、クリアインクが含む樹脂として、カラーインクにおけるバインダ樹脂と異なる樹脂を用いること等も考えられる。
【0086】
また、上記においても説明をしたように、本例においては、カラーインクに加えてクリアインクを用いることで、例えば、カラーインクのインクのドットが濡れ広がりやすい状態とし、ドットのサイズを大きくすることができる。この点に関し、クリアインクの吐出によってカラーインクが濡れ広がることについては、例えば、クリアインクとカラーインクとの間での滲みが生じること等と考えることもできる。また、この滲みについては、例えば、異なる色のカラーインクの間で生じる色間滲みとは異なり、印刷の品質を低下させない滲み等と考えることができる。また、クリアインクとカラーインクとの間の滲みについては、例えば、カラーインクを単体で用いる場合と比べて色の濃度を低下させ、ドットの径を広げることで、低階調域での粒状感を低下させると考えることもできる。
【0087】
ここで、粒状感を軽減するためには、例えば、いわゆるライト色のインクを用いればよいようにも思われる。この場合、例えば、通常の色の濃さのYMCKの各色のインクに加えて、顔料の濃度を減らしたライト色のインクを用いることが考えられる。しかし、本例と同様の目的で印刷を行う場合において、ライト色のインクを用いて粒状感を軽減しようとする場合、少なくとも、MCKの3色について、ライト色のインクを用いることが必要になる。また、その結果、印刷部14におけるヘッド部102(
図1参照)において、少なくとも3個のインクジェットヘッドを増加させることが必要になり、インクスロットが圧迫されることや、ヘッド部102のサイズの大型化等の問題が生じることになる。また、ライト色のインクを用いたとしても、画像において階調が特に低くなる極低階調域では、ホットメルト樹脂粉末が付着しにくくなり、転写ムラが発生することが考えられる。これに対し、本例においては、特定の色のインクに対応するライト色のインクではなく、着色がされていない無色のクリアインクを用いることで、インクジェットヘッドの数の増加等を抑えつつ、粒状感の軽減を可能にしている。また、この場合、極低階調域に対しても必要な量のインクを吐出することが可能になることで、転写ムラの発生等を適切に防止すること等も可能になる。
【0088】
また、本例において、クリアインクの使用によって粒状感を軽減することについては、例えば、上記のように、クリアインクを使用しない場合のカラーインクのドットのサイズと比べて、クリアインクを使用した場合のカラーインクのドットのサイズを大きくできることに関連していると考えることができる。また、この点に関し、本例においては、少なくとも一部の吐出位置に対し、カラーインク及びクリアインクを吐出すると考えることができる。そして、この場合、着弾後のカラーインクが転写媒体上で広がることで形成されるカラーインクのドットのサイズに関し、同じ吐出位置にカラーインク及びクリアインクの両方を吐出した場合に形成されるドットのサイズをクリア使用時サイズと定義し、吐出位置に対してカラーインクのみを吐出した場合に形成されるドットのサイズをクリア非使用時サイズと定義した場合、印刷部14において、例えば、画像の低階調部においてカラーインクを吐出する吐出位置の少なくとも一部に対し、クリア非使用時サイズと比べたクリア使用時サイズがより大きくなるように、クリアインクを吐出すると考えることができる。このように構成すれば、例えば、カラーインクで形成されるインクのドットのサイズを適切に大きくすることができる。また、これにより、例えば、粒状感を適切に軽減することができる。
【0089】
また、上記のように、本例においては、画像の低階調部等に対し、クリアインクを用いることで、ホットメルト樹脂粉末をより適切に付着させている。この点に関し、例えばクリアインクを用いずに、カラーインクを用いた場合、周囲に他のインクのドットが形成されない孤立したインクのドットの位置において、ホットメルト樹脂粉末が特に付着しにくくなると考えることができる。そのため、本例において、クリアインクについては、例えば、孤立したカラーインクのドットの吐出位置又はその周辺の吐出位置へ吐出して、孤立したカラーインクのドットの吐出位置近辺でのインクの合計量を増加させることが好ましい。また、より具体的に、本例において、印刷部14は、印刷の解像度に応じて設定される吐出位置に対し、カラーインク用及びクリアインク用のインクジェットヘッドから、カラーインク及びクリアインクと吐出する。そして、この場合、印刷部14において、カラーインク及びクリアインクで複数の吐出位置を含む領域が連続的に覆われるように、クリアインクの吐出を行うことが考えられる。カラーインク及びクリアインクで複数の吐出位置を含む範囲が連続的に覆われることについては、例えば、転写媒体上で互いに接触する複数のインクのドットの並びが複数の吐出位置を含む範囲に形成されること等と考えることができる。
【0090】
また、この場合、カラーインク用のインクジェットヘッドからカラーインクが吐出される吐出位置を有色吐出位置と定義し、隣接する吐出位置が有色吐出位置にならない有色吐出位置を孤立吐出位置と定義した場合、画像における低階調部について、例えば、孤立吐出位置を含む領域等と考えることができる。そして、この場合、印刷部14の動作について、例えば、低階調部にある少なくとも一部の孤立吐出位置、又は、その孤立吐出位置の周辺の吐出位置へクリアインク用のインクジェットヘッドからクリアインクを吐出すると考えることができる。また、この場合、印刷部14は、このようにしてクリアインクを吐出することで、例えば、少なくともその孤立吐出位置の近辺において、孤立吐出位置を含む複数の吐出位置を含む範囲がカラーインク及びクリアインクによってつながるように、転写媒体に対して印刷を行う。このように構成すれば、例えば、低階調部における孤立吐出位置の付近へ吐出するインクの合計量について、クリアインクを用いない場合と比べて、適切に増加させることができる。また、これにより、例えば、孤立吐出位置の付近に対し、ホットメルト樹脂粉末をより適切に付着させることができる。また、この場合、印刷部14において孤立吐出位置の周辺の吐出位置へクリアインク用のインクジェットヘッドからクリアインクを吐出する動作について、例えば、カラーインクが吐出されない吐出位置の少なくとも一部に対してもクリアインク用のインクジェットヘッドからクリアインクを吐出する動作等と考えることができる。また、この場合、例えば、異なる孤立吐出位置の間の吐出位置へクリアインクを吐出することで、異なる孤立吐出位置にある複数のカラーインクのドットの間をクリアインクのドットによってつなぐことが考えられる。このように構成すれば、例えば、孤立吐出位置の付近に対し、ホットメルト樹脂粉末をより適切に付着させることができる。
【0091】
また、上記においても説明をしたように、ホットメルト樹脂粉末を用いて転写を行う場合において、カラーインクの他に白色のインクを用いることは、従来から行われている。しかし、本例におけるクリアインクの用途や用い方は、従来の構成での白インクの用途や用い方と、様々な点で、異なっている。より具体的に、インクジェット方式でカラー印刷を行う場合において、カラーインクの層と重ねて白色のインクの層を形成する場合、白色のインクの層は、減法混色法での色表現(色再現)において、光を反射する背景として機能する。また、ホットメルト樹脂粉末を用いて転写を行う場合、白色のインクの層は、画像が転写される被転写媒体の地の色(下地の色)を隠蔽する隠蔽層としての役割も大きくなる。また、これらのような白色のインクの層の特徴から、白色のインクの層については、通常、カラーインクで描かれる画像の全体を含む領域に形成される。
【0092】
これに対し、本例において用いるクリアインクの場合、透光性のインクであるため、クリアインクの層を形成しても、通常、光を反射する背景となる層や、被転写媒体の地の色を隠蔽する層としては、機能しない。また、上記の説明等から理解できるように、本例において、クリアインクについては、カラーインクで描かれる画像の一部のみに吐出しても、クリアインクを使用する目的を達成することができる。また、隠蔽層として機能する白色のインクの層を形成する場合と異なり、本例のようにクリアインクを用いる場合には、カラーインク以外に用いているインクが被転写媒体において過度に目立つこともない。そのため、本例によれば、上記においても説明をしたように、例えば白や薄い色(淡い色)の生地等を被転写媒体として用いる場合において、被転写媒体の風合い等を活かした高品質の印刷を適切に行うことができる。また、この場合、少なくともこれらの点で、本例におけるクリアインクの用途や用い方について、従来の構成での白インクの用途や用い方等と異なっているといえる。
【0093】
また、上記においても説明をしたように、本例において、転写媒体への各位置へのクリアインクの吐出量については、例えば、各位置へのカラーインクの吐出量に応じて、異ならせてもよい。この場合、転写媒体において各画素を含む領域へのカラーインクの吐出量(印字量)が所定の量(X%)以下である場合にはその領域へクリアインクを吐出して、不足するインクの量(液量)を補填(補充)することが考えられる。また、この場合において、単位面積あたりに着弾するインクの量が所定の印字量(液量)を超えると、滲みが発生しやすくなることや、ホットメルト樹脂粉末が過剰に付着して、被転写媒体にホットメルト樹脂粉末の跡が残ることが考えられる。そのため、転写媒体において各画素を含む領域へのカラーインク及びクリアインクの合計の吐出量(印字量)については、他の所定の量(Y%、Y>X)を越えないようにすることが考えられる。これに対し、白色のインクを用いる場合において、例えば転写媒体への各位置への白色のインクの吐出量を上記のように異ならせたとすると、カラーインクの間に点々と白色のインクが着弾すること等が考えられる。また、その結果、印刷される画像において、一部の領域の色がぼやけて視認されること等が考えられる。特に、画像における低階調部に対して白色のインクを更に吐出した場合、カラーインクのドットの一部が白色のインクで覆われることで、色の薄い低階調部での色が更に薄くなり、意図した色での印刷を行えなくなること等も考えられる。そのため、この点でも、本例におけるクリアインクの用途や用い方について、従来の構成での白インクの用途や用い方と異なっているといえる。
【0094】
また、印刷部14で転写媒体へクリアインクを吐出することで転写媒体上に形成するクリアインクのドットについて、ホットメルト樹脂粉末がより付着しやすい状態にするためには、例えば、インクのドットが平坦化して広がっている方が好ましいと考えることもできる。そして、この場合、印刷システム10において実行する動作の中で、クリアインクのドットの広がり方を調整することも考えられる。このように構成すれば、例えば、クリアインクのドットのサイズを適切に調整することができる。また、この場合、クリアインクのドットの広がり方を調整する動作について、例えば、印刷部14によって転写媒体上に形成されるクリアインクのドットの広がり方を調整する調整段階の動作等と考えることができる。調整段階については、例えば、インクのドットの平坦化の調整(レベリング調整)を行う段階等と考えることもできる。また、調整段階の動作について、例えば、インクのドットを平坦化させるためのレベリング段階の動作等と考えることもできる。調整段階での調整については、例えば、印刷部14において転写媒体への印刷を行う段階(印刷段階)の前に行うことが考えられる。また、例えば、印刷部14において転写媒体への印刷を行った後に、必要に応じて、調整段階の動作を実行してもよい。
【0095】
また、調整段階の動作を実行してインクのドットの広がり方の調整を行う場合、例えば、予め設定された第1の印刷条件で、印刷部14によって、転写媒体へ画像を印刷する。そして、その印刷の結果に基づき、例えば、クリアインクのドットの広がり方(ドットゲイン)が不足しているか否かを判定する。そして、例えば、ドットの広がり方が不足していると判定した場合に、印刷段階で印刷部14に印刷を行わせる印刷条件として、第1の印刷条件と異なる第2の条件を選択する。また、この場合、第2の条件として、例えば、クリアインクのドットの広がり方がより大きくなる条件を選択する。このように構成すれば、例えば、インクのドットをより平坦化させるための印刷条件の変更が必要であるか否かを適切に判定し、必要に応じて印刷条件を適切に変更することができる。また、これにより、例えば、その後に印刷部14で行う転写媒体への印刷の動作において、クリアインクのドットをより適切に平坦化することができる。また、例えば、その後に行う動作において、クリアインクを吐出した位置に対し、ホットメルト樹脂粉末をより適切に付着させることができる。
【0096】
また、この場合、調整段階において、第2の印刷条件としては、例えば、第1の印刷条件よりも印刷速度を遅くする印刷条件を用いることが考えられる。また、印刷速度を遅くする印刷条件としては、例えば、印刷のパス数を多くする条件を用いることが考えられる。この場合、パス数については、例えば、印刷対象の同じ位置に対して行う主走査動作の回数等と考えることができる。また、パス数を多くする場合、例えば、1回の副走査動作でのインクジェットヘッドの相対移動量が小さくなることで、媒体の搬送速度が遅くなると考えることもできる。また、この場合、第1の印刷条件での印刷速度については、例えば、印刷部14での通常の印刷速度(標準の印刷速度)とすることが考えられる。そして、この場合、第2の印刷条件での印刷速度について、例えば、通常の印刷速度よりも遅い印刷速度等と考えることもできる。また、調整段階において、第2の印刷条件を選択することについては、例えば、第1の印刷条件での印刷速度に対応する特定の印刷速度よりも遅い印刷速度を選択すること等と考えることもできる。
【0097】
また、クリアインクのドットの広がり方を大きくするためには、例えば、インクジェットヘッドから吐出する液滴(インク滴)の大きさを大きくすることで、比表面積の観点で、調整を行うこと等も考えられる。また、例えば、インクジェットヘッドでの液滴の吐出を駆動する駆動信号の波形(駆動波形)を変化させることで、ドットの広がり方を調整すること等も考えられる。そのため、第2の印刷条件について、例えば、これらの観点で、第1の印刷条件と異ならせてもよい。
【0098】
また、例えば印刷時にヒータを用いて加熱を行う構成の印刷部14を用いる場合、ヒータの加熱温度を変更することで、印刷条件を変化させてもよい。例えば、クリアインクとして、溶媒が蒸発することで転写媒体へ定着するインクを用いる場合、転写媒体を加熱するヒータを用いることが考えられる。そして、この場合、例えば、第2の印刷条件でのヒータの加熱温度を第1の印刷条件での加熱温度よりも低くすることで、インクの乾燥速度を遅くして、クリアインクのドットの広がり方をより大きくすることができる。また、この場合、例えば、媒体を搬送しつつ印刷を行う構成の印刷部14を用い、搬送方向においてインクジェットヘッドよりも下流側に配設されるヒータであるアフタヒータでの加熱温度について、上記のような調整を行うことが考えられる。また、印刷部14において、アフタヒータを用いる場合、例えば、アフタヒータを複数の領域(例えば2~3の領域)に分けて、温度を調整してもよい。この場合、複数の領域として、例えば、搬送方向においてインクジェットヘッドにより近い側の領域と、インクジェットヘッドからより離れた領域とに分けることが考えられる。また、この場合、アフタヒータでの加熱温度について、領域毎に個別に変更することが考えられる。このように構成すれば、例えば、インクのドットの広がり方をより詳細に調整することができる。また、印刷部14におけるヒータとしては、例えば、インクジェットヘッドを加熱するヒータを用いること等も考えられる。この場合、このヒータでの加熱温度を変化させることで、例えば、吐出前のインクの粘度を変化させることができる。また、これにより、例えば、第1の印刷条件での加熱温度よりも第2の印刷条件での加熱温度を高くすることで、吐出されるインクの粘度を低下させて、転写媒体上でインクがより広がりやすい状態にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、例えば印刷方法に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0100】
10・・・印刷システム、102・・・ヘッド部、104・・・プラテン、106・・・Yバー部、108・・・主走査駆動部、110・・・副走査駆動部、12・・・印刷データ準備部、120・・・制御部、14・・・印刷部、16・・・粉末付与部、18・・・熱転写部、202・・・インクジェットヘッド、300・・・印刷領域、302・・・カラーインク層、304・・・白インク層、306・・・画像層、312・・・高階調部、314・・・中階調部、316・・・低階調部、352・・・樹脂粉末、402・・・ドット、404・・・ドット、50・・・転写媒体、52・・・ベース部、54・・・インク受理層