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特開2023-87374印刷物の製造方法及び油性インクジェットインクセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087374
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法及び油性インクジェットインクセット
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20230616BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20230616BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
B41M5/00 100
C09D11/40
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201721
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】志村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】大澤 信介
(72)【発明者】
【氏名】浜田 司
(72)【発明者】
【氏名】白石 哲也
(72)【発明者】
【氏名】北ノ原 光子
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FC01
2H186BA08
2H186DA14
2H186FB15
2H186FB24
2H186FB28
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB54
2H186FB57
4J039BA20
4J039BC20
4J039BE12
4J039EA46
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】印刷物による樹脂製品の変質又は変形を防止し、印刷物がトナー印刷物に接触する際のトナー転写を防止し、サテライトによる印刷面汚れを防止することである。
【解決手段】非水系溶剤Aを含みインクの明度L*が50以上である第1のインクを基材にインクジェット方式で付与する工程、及び非水系溶剤B及び色材を含む第2のインクを基材にインクジェット方式で付与する工程を含み、非水系溶剤Aは、変性シリコーンオイルであり、非水系溶剤Bは、エーテルエステル、ジエステル、及びトリエステルからなる群から選択され、かつハンセン溶解度パラメータにおける分散項δが15.0~17.0MPa1/2であり、極性項δが5.0MPA1/2以下である非水系溶剤又はこれらの組み合わせであり、第1のインクは、非水系溶剤Aに対し非水系溶剤Bの質量比が0以上1未満であり、第2のインクは、非水系溶剤Bに対し非水系溶剤Aの質量比が0以上1未満であり、基材へ付与される非水系溶剤の合計付与質量をXとし、基材へ付与される非水系溶剤Aの付与質量をAとし、基材へ付与される非水系溶剤Bの付与質量をBとする場合、0.15≦(A+B)/X、及び0.20≦A/Bを満たす、印刷物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系溶剤Aを含みインクの明度L*が50以上である第1のインクを基材にインクジェット方式で付与する工程、及び非水系溶剤B及び色材を含む第2のインクを基材にインクジェット方式で付与する工程を含み、
前記非水系溶剤Aは、変性シリコーンオイルであり、
前記非水系溶剤Bは、エーテルエステル、ジエステル、及びトリエステルからなる群から選択され、かつハンセン溶解度パラメータにおける分散項δが15.0~17.0MPa1/2であり、極性項δが5.0MPA1/2以下である非水系溶剤又はこれらの組み合わせであり、
前記第1のインクは、非水系溶剤Aに対し非水系溶剤Bの質量比が0以上1未満であり、前記第2のインクは、非水系溶剤Bに対し非水系溶剤Aの質量比が0以上1未満であり、
基材へ付与される非水系溶剤の合計付与質量をXとし、基材へ付与される非水系溶剤Aの付与質量をAとし、基材へ付与される非水系溶剤Bの付与質量をBとする場合、
0.15≦(A+B)/X、及び0.20≦A/Bを満たす、印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記第1のインクは色材をさらに含む、請求項1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
0.5≦(A+B)/Xを満たす、請求項1又は2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
0.5≦A/Bを満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記第1のインク及び前記第2のインクをこの順で基材に付与する、請求項1から4のいずれか1項に記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
非水系溶剤Aを含む第1のインクと、非水系溶剤B及び色材を含む第2のインクとを備え、
前記第1のインクは、非水系溶剤Aに対し非水系溶剤Bの質量比が0以上1未満であり、前記第2のインクは、非水系溶剤Bに対し非水系溶剤Aの質量比が0以上1未満であり、
前記非水系溶剤Aは、変性シリコーンオイルであり、
前記非水系溶剤Bは、エーテルエステル、ジエステル、及びトリエステルからなる群から選択され、かつハンセン溶解度パラメータにおける分散項δが15.0~17.0MPa1/2であり、極性項δが5.0MPa1/2以下である非水系溶剤又はこれらの組み合わせである、油性インクジェットインクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の製造方法及び油性インクジェットインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なノズルから液滴として噴射し、ノズルに対向して置かれた記録媒体に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、水を主溶媒として含有する水性インク、重合性モノマーを主成分として高い含有量で含有する紫外線硬化型インク(UVインク)、ワックスを主成分として高い含有量で含有するホットメルトインク(固体インク)とともに、非水系溶剤を主溶媒として含有する、いわゆる非水系インクが知られている。非水系インクは、主溶媒が揮発性有機溶剤であるソルベントインク(溶剤系インク)と、主溶媒が低揮発性あるいは不揮発性の有機溶剤である油性インク(オイル系インク)に分類できる。ソルベントインクは主に有機溶剤の蒸発によって記録媒体上で乾燥するのに対して、油性インクは記録媒体への浸透が主となっている。
【0003】
特許文献1(特開2014-15491号公報)には、顔料と、非水系溶剤と、非水溶性樹脂と、水溶性樹脂とを含む非水系顔料インクであって、非水溶性樹脂がアクリル系ポリマーであり、水溶性樹脂がポリエチレンイミンである非水系顔料インクが提案されている。このインクは低いインク粘度を実現し貯蔵安定性にも優れながら、裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度を実現することが可能という利点を有している。このインクはさらにサテライトの発生を抑制するという利点も有している。
【0004】
一方、油性インクジェットインクによって画像形成された印刷物を、ポリプロピレン(PP)製等のクリアファイルに挟み込み保管すると、クリアファイルが反り返って変形する問題がある。この一因としては、クリアファイルが印刷面と接すると、インク成分によってクリアファイルの片面が膨潤するためと考えられる。このように、印刷面が樹脂製品に接触すると樹脂製品が変質することがあり、フィルム状の樹脂製品では変形が引き起こされることもある。このような印刷物による樹脂製品への影響はインク成分の中でも溶剤の影響を大きく受けることがわかってきている。
また、高極性溶剤が多く含まれるインクで印刷された印刷物と、トナーを使用した電子写真方式で印刷した印刷物とを重ねて置いておくと、高極性溶剤がトナーを溶解してしまい、互いの印刷物が貼りついてしまうことがある。
【0005】
特許文献2(特開2013-166813号公報)には、クリアファイルの変形抑制とトナーの溶解性低減を実現し、吐出性能も改善する非水系インクジェットインクとして、有機溶剤として炭素数25以上のピバリン酸エステルとエチレングリコールモノアルキルエーテルとを含むインクが提案されている。
特許文献3(特開2018-141123号公報)には、クリアファイルの変形防止、ノズルプレートに対するインクの濡れ性を改善し、吐出性能も改善する油性インクジェットインクとして、非水系溶剤として特定の変性シリコーンオイルを含むインクが提案されている。
【0006】
特許文献4(特開2020-19873号公報)には、顔料分散剤の溶解性と用紙への浸透性の観点からシリコーンオイルと特定の脂肪酸エステルを組み合わせて印刷面表面に顔料が留まるようにし印刷物の表面濃度を高めることと、比較的に低表面張力を示すシリコーンオイルに起因するインクミストの発生が特定の脂肪酸エステルとの併用によって防止されることが提案されている。さらに、特許文献4では、シリコーンオイルと脂肪酸エステルを併用する際にインクの泡立ちを防止するために、脂肪酸エステルの分子構造が特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-15491号公報
【特許文献2】特開2013-166813号公報
【特許文献3】特開2018-141123号公報
【特許文献4】特開2020-19873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2には、炭素数25以上のピバリン酸エステルを用いることでトナー溶解性が減少し、特定のエチレングリコールモノアルキルエーテルを用いることでクリアファイル変形を抑制すると開示される。エチレングリコールモノアルキルエーテルは、高極性を示すことから、クリアファイル変形を十分に抑制するためにより多く油性インクに含まれると、油性インクによってトナー画像が溶解しやすくなり、トナー転写の発生を引き起こすことがある。
特許文献3に開示のインクは、クリアファイル変形の抑制に効果を発揮するものの、変性シリコーンオイルが低表面張力を示すことから、インクジェットノズルから吐出されるインク滴が基材に着弾するまでの間にインクの主滴からサテライトが発生しやすくなり、印刷面汚れが発生することがある。
特許文献4に開示のインクでは、印刷物の表面濃度、インクミストの発生、インクの泡立ちの観点から脂肪酸エステルの分子構造を特定しているが、クリアファイル変形についは十分に検討されていない。さらに、クリアファイル変形を防止するために、より高極性を示す非水系溶剤を用いると、印刷物によるトナー転写が発生する問題がある。
【0009】
本発明の一目的としては、印刷物による樹脂製品の変質又は変形を防止し、印刷物がトナー印刷物に接触する際のトナー転写を防止し、サテライトによる印刷面汚れを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態としては、非水系溶剤Aを含みインクの明度L*が50以上である第1のインクを基材にインクジェット方式で付与する工程、及び非水系溶剤B及び色材を含む第2のインクを基材にインクジェット方式で付与する工程を含み、前記非水系溶剤Aは、変性シリコーンオイルであり、前記非水系溶剤Bは、エーテルエステル、ジエステル、及びトリエステルからなる群から選択され、かつハンセン溶解度パラメータにおける分散項δが15.0~17.0MPa1/2であり、極性項δが5.0MPA1/2以下である非水系溶剤又はこれらの組み合わせであり、前記第1のインクは、非水系溶剤Aに対し非水系溶剤Bの質量比が0以上1未満であり、前記第2のインクは、非水系溶剤Bに対し非水系溶剤Aの質量比が0以上1未満であり、基材へ付与される非水系溶剤の合計付与質量をXとし、基材へ付与される非水系溶剤Aの付与質量をAとし、基材へ付与される非水系溶剤Bの付与質量をBとする場合、0.15≦(A+B)/X、及び0.20≦A/Bを満たす、印刷物の製造方法である。
【0011】
本発明の他の実施形態としては、非水系溶剤Aを含む第1のインクと、非水系溶剤B及び色材を含む第2のインクとを備え、前記第1のインクは、非水系溶剤Aに対し非水系溶剤Bの質量比が0以上1未満であり、前記第2のインクは、非水系溶剤Bに対し非水系溶剤Aの質量比が0以上1未満であり、前記非水系溶剤Aは、変性シリコーンオイルであり、前記非水系溶剤Bは、エーテルエステル、ジエステル、及びトリエステルからなる群から選択され、かつハンセン溶解度パラメータにおける分散項δが15.0~17.0MPa1/2であり、極性項δが5.0MPa1/2以下である非水系溶剤又はこれらの組み合わせである、油性インクジェットインクセットである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、印刷物による樹脂製品の変質又は変形を防止し、印刷物がトナー印刷物に接触する際のトナー転写を防止し、サテライトによる印刷面汚れを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0014】
一実施形態による印刷物の製造方法は、非水系溶剤Aを含みインクの明度Lが50以上である第1のインクを基材にインクジェット方式で付与する工程、及び非水系溶剤B及び色材を含む第2のインクを基材にインクジェット方式で付与する工程を含み、非水系溶剤Aは、変性シリコーンオイルであり、非水系溶剤Bは、エーテルエステル、ジエステル、及びトリエステルからなる群から選択され、かつハンセン溶解度パラメータにおける分散項δが15.0~17.0MPa1/2であり、極性項δが5.0MPa1/2以下である非水系溶剤又はこれらの組み合わせであり、第1のインクは、非水系溶剤Aに対し非水系溶剤Bの質量比が0以上1未満であり、第2のインクは、非水系溶剤Bに対し非水系溶剤Aの質量比が0以上1未満であり、基材へ付与される非水系溶剤の合計付与質量をXとし、基材へ付与される非水系溶剤Aの付与質量をAとし、基材へ付与される非水系溶剤Bの付与質量をBとする場合、0.15≦(A+B)/X、及び0.20≦A/Bを満たすことを特徴とする。
これによれば、印刷物による樹脂製品の変質又は変形を防止し、印刷物がトナー印刷物に接触する際のトナー転写を防止し、サテライトによる印刷面汚れを防止することができる。
【0015】
ポリプロピレン(PP)製等のクリアファイルに印刷物を挟み込んで保管する場合に、クリアファイルの内面に印刷物表面のインク成分が作用し、クリアファイルの内面がインク成分の影響を受けて膨潤すると、クリアファイルが外側に反り返るように変形する現象がある。印刷物によるクリアファイルの変形はインク中の溶剤成分に影響を受けることがわかってきている。クリアファイルのように薄膜の樹脂製品に対しても同様に変形が発生することがある。また、強度のある樹脂製品に対しては表面が変質する可能性があり、例えば耐候性、耐久性等が低下することがある。クリアファイルは、クリアフォルダ、プラスチックフォルダ等とも称され、柔軟性のある一対の樹脂フィルム間に書類等を挿入して保管して用いられ、樹脂フィルムは透明、半透明又は着色されていてもよい。
【0016】
また、トナー転写は、油性インクによって形成した油性インク印刷物と、トナーによって形成したトナー印刷物とが接触すると、油性インク印刷物に残留している溶剤成分によってトナー印刷物のトナーが溶解されて、溶解したトナーが油性インク印刷物に転写する現象である。
【0017】
物質間の相互作用を予測する上でハンセン溶解度パラメータという考え方がある。物質が持つ凝集エネルギー密度をδ(分散項)、δ(極性項)、及びδ(水素結合項)の3成分に分割し、物質間のパラメータの距離から相互作用を予測することができる。ポリマーであるクリアファイルやトナーもこのパラメータを持つため、非水系溶剤との相互作用(溶解性)を数値として表すことができる。δは分子の大きさや重さ、δは分子内の電荷の偏り、δは水素結合の有無が影響している。
【0018】
溶解性をδ、δ、及びδの3成分に分割し3次元的に表わす場合に、ポリマーの3成分によって表される3次元空間の範囲外にパラメータを持つ非水系溶剤は、ポリマーとの相互作用が弱い非水系溶剤である。ポリマーは比較的δが大きいため、非水系溶剤がポリマーとの相互作用を抑えるには、非水系溶剤のδを低く抑えることが重要である。さらに、ポリマーの3次元空間の範囲外にδを持つように非水系溶剤を選択することが重要である。
【0019】
クリアファイルのポリマー成分の3次元空間の範囲外にパラメータを持つ構造として、変性シリコーンオイルが適する。しかし、変性シリコーンオイルである非水系溶剤Aは、シリコーン構造に起因して表面張力が低い傾向がある。低表面張力を示す非水系溶剤Aを含むインクを用いると、ノズルから吐出されるインク滴の表面張力が低下し、インク滴の主滴から微小液滴としてサテライトが発生することがある。
インクジェット記録方式では、ノズルから吐出されたインクの液滴は尾を引く形で飛翔し、この飛翔する液滴の先頭部分と後尾部分との間に時間差や速度差が生じる。このため、先行する主たる液滴に付随して、不要な微小液滴(サテライト)が発生することがある。ノズルからインク滴が吐出され基材に着弾する際に、インクの主滴からずれてサテライトが基材に着弾すると印刷面汚れの原因になる。
【0020】
このように、変性シリコーンオイルを含むインクは、印刷物によるクリアファイル変形を防止することができるが、サテライトの発生に起因して印刷面汚れを引き起こすことがある。第1のインクは、変性シリコーンオイルを含むことでサテライトが発生してインク微粒子が印刷面に付着したとしても、インク明度L*が50以上であることからインク微粒子の付着が目立ちにくく、印刷面汚れを防止することができる。
【0021】
一方、非水系溶剤Bは、エーテルエステル構造、ジエステル構造、又はトリエステル構造に起因して高極性を示し、さらにδが15.0~17.0MPa1/2であり、δが5.0MPa1/2以下であることで、クリアファイルのポリマー成分の3次元空間の範囲外にパラメータを持ち、クリアファイル変形を抑制することができる。
また、上記によって特定される非水系溶剤Bは、高表面張力を示すことから、非水系溶剤Bを含むインクは、ノズルから吐出され基材に着弾するまでの間にインク主滴からサテライトが発生することを抑制し、サテライトによる印刷面汚れを防止することができる。
【0022】
第2のインクは非水系溶剤Bを含むが、非水系溶剤Bの分散項δ及び極性項δをクリアファイルのポリマー成分のものから離すように設計すると、非水系溶剤Bがより高極性を示し、トナーを溶解するまでに至るとトナー転写が発生することがある。
一実施形態では、トナー溶解性が低い第1のインクと、第2のインクとを組み合わせて基材上に付与して画像を形成し、基材上でハンセン溶解度パラメータを第1のインクの非水系溶剤と第2のインクの非水系溶剤との組み合わせとして調整することで、印刷物としてのトナー転写を防止することができる。
【0023】
本発明では、クリアファイル変形を抑制するためには、第1のインク及び第2のインクが基材に付与された後に、基材上での非水系溶剤の合計付与質量に対する非水系溶剤A及び非水系溶剤Bの合計質量の割合が重要であるという知見が得られた。第1のインク及び第2のインクを基材に付与する印刷物の製造方法において、基材上へ付与される非水系溶剤Aの付与質量及び非水系溶剤Bの付与質量をそれぞれA及びBとし、基材上へ付与される非水系溶剤の合計付与質量をXとする場合に、(A+B)/Xが0.15以上であることが好ましい。
クリアファイル変形防止の観点から、(A+B)/Xは、より好ましくは0.30以上であり、さらに好ましくは0.50以上であり、一層好ましくは0.70以上である。
第1のインク及び第2のインクの溶剤が全て非水系溶剤A及び非水系溶剤Bからなってもよいため、(A+B)/Xは1であってもよい。なお、後述する通り、第1のインク及び第2のインクは、粘度調整等の観点からその他の溶剤を含んでもよく、その場合は、(A+B)/Xは0.90以下、又は0.80以下であってよい。
【0024】
さらに、本発明では、基材上でのハンセン溶解度パラメータを考慮して基材上において非水系溶剤Aと非水系溶剤Bとを組み合わせることで、印刷物によるトナー転写を防止しようとするものであるが、基材上において非水系溶剤Bに対して非水系溶剤Aがある程度の質量割合を占めることが重要であるという知見が得られた。
トナー転写防止の観点から、A/Bは0.20以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、さらに好ましくは0.40以上である。
A/Bは、2.0以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.90以下がさらに好ましい。これによって、サテライトによる印面汚れの視認を抑え、表面張力の低いシリコーンの溶剤浸透による裏抜けの悪化も抑制することができる。
【0025】
本開示において、基材上へ付与される非水系溶剤Aの付与質量(A)は、1枚の基材に付与される非水系溶剤Aの付与質量である。第1のインク及び第2のインクにそれぞれ非水系溶剤Aが含まれる場合はその合計質量とする。基材上へ付与される非水系溶剤Bの付与質量(B)もまた、1枚の基材に付与される非水系溶剤Bの付与質量である。第1のインク及び第2のインクにそれぞれ非水系溶剤Bが含まれる場合はその合計質量とする。基材へ付与される非水系溶剤の合計付与質量(X)は、1枚の基材に付与される非水系溶剤の合計付与質量である。第1のインク及び第2のインクのうち一方又は両方が基材の両面に付与される場合においては、基材の一面当たりの非水系溶剤Aの付与質量(A)、非水系溶剤Bの付与質量(B)、及び非水系溶剤の合計付与質量(X)が(A+B)/XとA/Bを満たすように調節するとよい。
【0026】
本開示において、各物性値の測定方法は以下の通りである。
ハンセン溶解度パラメーター(HSP値)の算出方法を以下に説明する。本開示では、1967年にHansenが提唱した3次元ハンセン溶解度パラメータを用いる。
ハンセン溶解度パラメータは、Hildebrandによって導入されたハンセン溶解度パラメータを分散項δ、極性項δ、水素結合項δの3成分に分割し、3次元空間で表したものである。分散項は、分散力による効果、極性項は、双極子間力による効果、水素結合項は、水素結合力の効果を示す。より詳細には、POLYMER HANDBOOK.FOURTH EDITION.(Editors.J.BRANDRUP,E.H.IMMERGUT,andE.A.GRULKE.)等に説明されている。
具体的には、Charles.M.Hansenらによるハンセン溶解度パラメータ計算ソフト「HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice」ver.5.3を用いて計算する。
【0027】
インクの明度L*は、国際照明委員会によるCIE(1976)L*a*b*色空間の規定に従う。インクの明度L*は、例えば、日本電色工業株式会社製「Spectro Color Meter SE2000」を用いて、測定することができる。
【0028】
インク及び溶剤の粘度(mPa・s)は、回転式粘度計を用いて23℃において測定した数値である。粘度測定装置には、例えば、株式会社アントンパール・ジャパン製「レオメーターMCR302」を用いることができる。
【0029】
溶剤の表面張力(mN/m)は、23℃、0.05Hzの測定条件で最大泡圧法によって測定した数値を示す。測定装置には、例えば、表面張力測定装置計(SITA Process Solutions製の「SITA Messtechnik GmbH science line t60」(商品名))を用いることができる。
【0030】
「第1のインク」
第1のインクは、変性シリコーンオイルである非水系溶剤Aを含むことができる。第1のインクは、色材を含んでもよく、又は含まなくてもよい。第1のインクが色材を含む場合は、色材は顔料及び染料のいずれであってもよい。
第1のインクは、基材にインクジェット方式で付与して使用するものであってよく、油性インクジェットインクであってよい。
【0031】
第1のインクは、インク明度L*が50以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましい。
第1のインクの明度L*が50以上であることで、インク吐出の際にサテライトが発生し、インク微粒子が飛散して印刷物に付着したとしても、インク明度L*が高いことから、印刷面上でインク微粒子の付着痕が目立たず印刷面汚れとして観察されにくくすることができる。
この観点から、第1のインクは色材を含まないクリアインクであってよい。クリアインクである第1のインクを基材に付与することで、サテライトによる印刷面汚れを防止しながら、基材上で非水系溶剤Bの割合を低減し、トナー転写をより防止することができる。第1のインクがクリアインクである場合は、インク明度L*は、80以上であることがより好ましく、90以上であることがさらに好ましい。
【0032】
第1のインクが色材を含む場合は、クリアインクに比べてインク明度L*が低下する傾向があるが、インク明度L*が50以上であることが好ましく、60以上であることが好ましく、70以上であることがさらに好ましい。
【0033】
非水系溶剤Aとしての変性シリコーンオイルは、23℃で液体状のポリシロキサン化合物を好ましく用いることができる。
変性シリコーンオイルとしては、鎖状又は環状のジメチルシリコーンオイルの一部のケイ素原子に各種有機基を導入したシリコーンオイルを用いることができる。変性シリコーンオイルとしては、全てのケイ素原子が炭素原子またはシロキサン結合の酸素原子のいずれかとのみ結合していることが好ましい。変性シリコーンオイルとしては、非反応性シリコーンオイルであることが好ましい。変性シリコーンオイルとしては、その構成原子がケイ素原子、炭素原子、酸素原子、水素原子のみからなることが好ましい。
変性シリコーンオイルとしては、例えば、アルキル変性シリコーンオイル、フェニル変性シリコーンオイルやアラルキル変性シリコーンオイル等のアリール変性シリコーンオイル、カルボン酸エステル変性シリコーンオイル、アルキレン変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等が挙げられる。好ましくは、アルキル変性シリコーンオイル、カルボン酸エステル変性シリコーンオイルであり、より好ましくはアルキル変性シリコーンオイルである。
変性シリコーンオイルとしては、ケイ素数が2~20であることが好ましく、2~10がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~5が一層好ましい。
【0034】
変性シリコーンオイルの一例には、1分子中のケイ素数が2~6であり、ケイ素原子に炭素原子が直接結合し、炭素数及び酸素数の合計が4以上である有機基を有するシリコーンオイルが含まれる。以下、このシリコーンオイルを変性シリコーンオイルSとも記す。
変性シリコーンオイルSは、炭素数及び酸素数の合計が4以上である有機基として、下記の(A)~(D)からなる群から選択される少なくとも1種を有することができる。
(A)炭素数4以上のアルキル基。
(B)炭素数及び酸素数の合計が4以上であるカルボン酸エステル結合含有基。
(C)炭素数6以上の芳香環含有基。
(D)炭素数4以上のアルキレン基。
【0035】
変性シリコーンオイルSは、1分子中の炭素数及び酸素数の合計が4以上である有機基に含まれる炭素数及び酸素数の合計が4~20が好ましく、6~18がより好ましく、8~16がさらに好ましい。
変性シリコーンオイルSの1分子中に炭素数及び酸素数の合計が4以上である有機基が2個以上含まれる場合は、1分子中の炭素数及び酸素数の合計が4以上である有機基の炭素数及び酸素数の合計は、2個以上の炭素数及び酸素数の合計が4以上である有機基の炭素数及び酸素数の合計である。
【0036】
変性シリコーンオイルSの一例には、下記一般式(X)で表される化合物であるシリコーンオイルが含まれる。
【化1】
【0037】
一般式(X)において、Rは、酸素原子、又はケイ素原子に炭素原子が直接結合する2価の有機基であり、Rは、それぞれ独立的に、ケイ素原子に炭素原子が直接結合する1価の有機基であり、m及びnは、それぞれ独立的に、0~4の整数であり、pは、それぞれ独立的に、0~2の整数であり、1分子中のケイ素数が2~6であり、R及びRのうち少なくとも1個は、炭素数及び酸素数の合計が4以上である有機基であり、1分子中の炭素数及び酸素数の合計が4以上である有機基に含まれる酸素数及び炭素数の合計が4~20である。
【0038】
一般式(X)において、Rは、酸素原子、又は炭素数及び酸素数の合計が4以上である2価の有機基であり、Rは、それぞれ独立的に、メチル基、又は炭素数及び酸素数の合計が4以上である1価の有機基であることが好ましい。
好ましくは、一般式(X)において、Rは、酸素原子、又は炭素数4以上のアルキレン基であり、Rは、それぞれ独立的に、メチル基、炭素数4以上のアルキル基、炭素数及び酸素数の合計が4以上であるカルボン酸エステル結合含有基、又は炭素数6以上の芳香環含有基であり、R及びRのうち少なくとも1個は、炭素数4以上のアルキレン基、炭素数4以上のアルキル基、炭素数及び酸素数の合計が4以上であるカルボン酸エステル結合含有基、及び炭素数6以上の芳香環含有基からなる群から選択され、1分子中の炭素数4以上のアルキレン基、炭素数4以上のアルキル基、炭素数及び酸素数の合計が4以上であるカルボン酸エステル結合含有基、及び炭素数6以上の芳香環含有基に含まれる酸素数及び炭素数の合計が4~20である。
【0039】
変性シリコーンオイルSにおいて、炭素数4以上のアルキル基は、直鎖または分岐鎖を有してもよく、鎖状または脂環式であってもよい。
このアルキル基の炭素数は、4以上が好ましく、6以上、又は8以上であってもよい。このアルキル基の炭素数は、20以下が好ましく、より好ましくは18以下、さらに好ましくは16以下である。
炭素数4以上のアルキル基は、例えば、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、エイコシル基等を挙げることができる。
【0040】
変性シリコーンオイルSにおいて、カルボン酸エステル結合含有基は、主鎖のシロキサン結合のケイ素原子にアルキレン基を介してカルボン酸エステル結合が結合する-RBb-O-(CO)-RBaで表される基、または、-RBb-(CO)-O-RBaで表される基を好ましく用いることができる。
ここで、RBaは、炭素数1以上の直鎖または分岐鎖を有してもよく、鎖状または脂環式のアルキル基であることが好ましい。また、RBbは、炭素数1以上の直鎖又は分岐鎖を有してもよく、鎖状または脂環式のアルキレン基であることが好ましい。主鎖のシロキサン結合のケイ素原子とカルボン酸エステル結合を結ぶアルキレン基は、炭素数2以上であることがより好ましい。
カルボン酸エステル結合含有基の炭素数及び酸素数の合計は、エステル結合(-O-(CO)-)の1個の炭素原子と2個の酸素原子と、アルキル基(RBa)の炭素数と、アルキレン基(RBb)の炭素数との合計になる。
カルボン酸エステル結合含有基において、アルキル基(RBa)は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基等を挙げることができる。
好ましくは、プロピル基、ペンチル基、ヘプチル基、ノニル基、トリデシル基であり、より好ましくはヘプチル基、ノニル基である。
カルボン酸エステル結合含有基において、アルキレン基(RBb)は、炭素数1~8の直鎖アルキレン基であることが好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、n-ブチレン、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、イソオクチレン基等を挙げることができる。好ましくは、エチレン基である。
【0041】
変性シリコーンオイルSにおいて、芳香環含有基は、主鎖のシロキサン結合のケイ素原子に芳香環が直接結合する-RCaで表される基、または、主鎖のシロキサン結合のケイ素原子にアルキレン基を介して芳香環が結合する-RCb-RCaで表される基を好ましく用いることができる。
ここで、RCaは、炭素数6以上の芳香環であることが好ましい。また、RCbは、炭素数1以上の直鎖又は分岐鎖を有してもよく、鎖状または脂環式のアルキレン基であることが好ましい。
芳香環含有基が、主鎖のシロキサン結合のケイ素原子に芳香環が直接結合する-RCaで表される基である場合、主鎖のシロキサン結合からトリメチルシリルオキシ基等の分岐鎖が側鎖として分岐していていることが好ましい。芳香環含有基は、主鎖のシロキサン結合のケイ素原子にアルキレン基を介して芳香環が結合する-RCb-RCaで表される基であることがより好ましい。
芳香環含有基の炭素数は、芳香環(RCa)の炭素数と、任意のアルキレン基(RCb)の炭素数との合計になる。
芳香環含有基において、芳香環部分(RCa)は、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、トリメチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等、又はこれらの少なくとも1個の水素原子がアルキル基に置換された官能基を挙げることができる。
【0042】
芳香環含有基において、任意のアルキレン基(RCb)は、炭素数1~8の直鎖または分岐鎖を有してもよいアルキレン基であることが好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、イソオクチレン基等を挙げることができる。
好ましくは、プロピレン基、メチルエチレン基、エチレン基である。
また、芳香環含有基を有する変性シリコーンオイルSとしては、例えば、ジフェニルジメチコン、トリメチルシロキシフェニルジメチコン、フェニルトリメチコン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、トリメチルペンタフェニルトリシロキサン、1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-フェニル-3-(トリメチルシリルオキシ)トリシロキサン等のメチルフェニルシリコーン等を用いることができる。
【0043】
変性シリコーンオイルSの一実施形態としては、2~6個のケイ素原子と、炭素数4以上のアルキレン基とを有する化合物であり、好ましくは、炭素数が4以上であるアルキレン基の両端の炭素原子にそれぞれシリル基又は少なくとも1個のシロキサン結合が結合する化合物である。
炭素数4以上のアルキレン基は、例えば、n-ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、イソオクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、ヘキサデシレン基、エイコシレン基等を挙げることができる。
好ましくは、オクチレン基、デシレン基、ドデシレン基であり、より好ましくは、オクチレン基、デシレン基である。
【0044】
上記した変性シリコーンオイルSは、これに限定されないが、以下の方法によって製造することができる。
例えば、シロキサン原料と、炭素数及び酸素数の合計が4以上である有機基とともに反応性基を有する反応性化合物とを、有機溶媒中で反応させることで、変性シリコーンオイルSを得ることができる。シロキサン原料と反応性化合物とは、シロキサン原料の反応性基と反応性化合物の反応性基とがモル比で1:1~1:1.5で反応させることが好ましい。また、反応に際し、0価白金のオレフィン錯体、0価白金のビニルシロキサン錯体、2価白金のオレフィン錯体ハロゲン化物、塩化白金酸等の白金触媒等の触媒を好ましく用いることができる。
【0045】
シロキサン原料としては、例えば、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン、1,1,1,3,3,5,7,7,7-ノナメチルテトラシロキサン、1,1,1,3,3,5,7,7,9,9,9-ウンデカメチルペンタシロキサン、ペンタメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7,9,9-デカメチルペンタシロキサン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン、1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-(トリメチルシリルオキシ)トリシロキサン、1,1,1,5,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,1,3,5,7,7,7-オクタメチルテトラシロキサン、1,1,3,5,5-ペンタメチル-3-(ジメチルシリルオキシ)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7,9,9,11,11-ドデカメチルヘキサシロキサン、1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-(トリメチルシリルオキシ)トリシロキサン等を用いることができる。
【0046】
反応性化合物は反応性基として炭素二重結合を有することが好ましい。
変性シリコーンオイルSにアルキル基を導入するためには、反応性化合物として、1-ブテン、2-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、2-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-エイコセン等の炭素数が4以上であるアルケン等を用いることができる。
また、アルケンの他にも、ビニルシクロヘキサン等のエチレン性不飽和二重結合を有する脂環式炭化水素基を用いることができる。
変性シリコーンオイルSにエステル結合含有基を導入するためには、反応性化合物として、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソブタン酸ビニル、ペンタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、ヘプタン酸ビニル、2-エチルヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、イソオクタン酸ビニル、ノナン酸ビニル、デカン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、エイコ酸ビニル、ヘキサン酸アリル等の炭素数及び酸素数の合計が6以上である脂肪酸ビニル又は脂肪酸アリル化合物等を用いることができる。
変性シリコーンオイルSに芳香環含有基を導入するためには、反応性化合物として、スチレン、4-メチルスチレン、2-メチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、アリルベンゼン、1-アリルナフタレン、4-フェニル-1-ブテン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-ビニルナフタレン、α-メチルスチレン、2-メチル-1-フェニルプロペン、1,1-ジフェニルエチレン、トリフェニルエチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、シス-β-メチルスチレン、トランス-β-メチルスチレン、3-フェニル-1-プロペン等のビニル結合と炭素数6以上の芳香環とを有するアリール化合物等を用いることができる。
変性シリコーンオイルSにアルキレン基を導入するためには、反応性化合物として、1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエン、1,8-ノナジエン、1,9-デカジエン、1,11-ドデカジエン、1,10-ウンデカジエン、1,13-テトラデカジエン、ヘキサデカジエン、エイコサジエン等の炭素数が4以上であるジエン化合物等を用いることができる。
【0047】
変性シリコーンオイルとしては、アルキル変性シリコーンオイルを用いることが好ましい。アルキル変性シリコーンオイルは、1分子中のケイ素数が2~6であり、ケイ素原子に炭素原子が直接結合し、炭素数及び酸素数の合計が4以上である有機基を有するシリコーンオイルであることが好ましい。
アルキル変性シリコーンオイルの具体例としては、炭素数4~20のアルキル基を有するペンタメチルジシロキサン、2個の炭素数4~20のアルキル基を有するテトラメチルジシロキサン、炭素数4~20のアルキル基を有するヘプタメチルトリシロキサン、2個の炭素数4~20のアルキル基を有するヘキサメチルトリシロキサン、炭素数4~20のアルキル基を有するノナメチルテトラシロキサン、2個の炭素数4~20のアルキル基を有するオクタメチルテトラシロキサン、炭素数4~20のアルキル基を有するウンデカメチルテトラシロキサン、2個の炭素数4~20のアルキル基を有するデカメチルテトラシロキサン等が挙げられる。
なかでも、炭素数4~20、特に炭素数10~18のアルキル基を有するヘプタメチルトリシロキサン、2個の炭素数4~20、特に炭素数4~10のアルキル基を有するヘキサメチルトリシロキサン、又はこれらの組み合わせが好ましい。
上記した変性シリコーンオイルは、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
非水系溶剤Aは変性シリコーンオイルであることから低粘度を示す傾向がある。そのためインク粘度を低く抑えることができ、吐出性能をより改善することができる。この観点から、非水系溶剤Aは、23℃の粘度が1.0~15.0mPa・sが好ましく、1.5~10.0mPa・sがより好ましく、2.0~6.0mPa・sがさらに好ましい。
非水系溶剤Aは変性シリコーンオイルであることから分子構造によってクリアファイルの樹脂の膨潤を抑制することができるが、低表面張力を示す傾向があり、サテライトが発生しやすい問題がある。この観点から、非水系溶剤Aは、23℃の表面張力が15.0~30.0mN/mが好ましく、18.0~25.0mN/mがより好ましく、20.0~23.0mN/mがさらに好ましい。さらにこの範囲の非水系溶剤Aを含むインクは、ノズルプレート面への付着が抑制され、ノズル目詰まりを防止し、吐出性能をより改善することができる。
【0049】
第1のインクは、非水系溶剤Aをインク全量に対し10質量%以上で含むことが好ましく、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。これによって、第1のインクの適正な付与質量の範囲で、基材上において非水系溶剤Aの付与質量をより多くし、印刷物によるクリアファイル変形をより防止することができる。
第1のインクに含まれる溶剤は、非水系溶剤Aのみからなってもよいが、サテライトの発生を抑制する観点から、非水系溶剤Aとその他の非水系溶剤を組み合わせて用いてもよい。特に、第1のインクが色材を含む場合は、サテライトの発生自体を抑制することで、印刷面汚れをより防止することができる。この観点から、第1のインクは、非水系溶剤Aをインク全量に対し90質量%以下で含むことが好ましく、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以下である。
例えば、非水系溶剤Aは、第1のインク全量に対し10~100質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましい。さらに、第1のインクが色材を含む場合は、非水系溶剤Aは、第1のインク全量に対し80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
第1のインクに含まれる非水系溶剤全量に対し、非水系溶剤Aは10~100質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましく、第1のインクが色材を含む場合は、さらに90質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【0050】
第1のインクは、非水系溶剤Bを含んでもよいが、非水系溶剤Bを含まなくてもよい。第1のインク及び第2のインクが基材に付与された状態で、基材上で(A+B)/X及びA/Bが所望の範囲を満たす範囲で、第1のインクは非水系溶剤Bを含むことができる。第1のインクが非水系溶剤Bを含む場合、非水系溶剤Bは非水系溶剤Aに対し質量比で1未満であることが好ましく、0.5以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。さらに、第1のインクが非水系溶剤Bを含む場合は、非水系溶剤Bはインク全量に対し1質量%未満が好ましく、0.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。
【0051】
第1のインクは、非水系溶剤Aに加えて、その他の非水系溶剤を含んでもよい。
第1のインクは、変性シリコーンオイルによってインクに低極性及び低表面張力を付与しようとするものであることから、その他の非水系溶剤としては、低極性及び低表面張力を備えるものが好ましいが、これに限定されない。その他の非水系溶剤としては、下記の第2のインクで説明するものを用いることができる。なかでも、第1のインクは、非極性溶剤を含むことが好ましい。
【0052】
色材としては、顔料及び染料のいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。色材としては、下記の第2のインクで説明するものを用いることができる。
色材のカラーは、ブラック(B)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ホワイト等であってよい。ブラック等の濃色の色材を用いる場合は、インク明度L*が低下する傾向があるが、色材の含有量を少なくすることで明度L*の低下を防止し、サテライトによる印刷面汚れを目立たなくすることができる。イエロー等の淡色の色材を用いる場合は、インク明度L*が高くなる傾向があり、サテライトによる印刷面汚れを目立たなくすることができるが、さらに色材の含有量を少なくして明度L*を低下させてもよい。
この観点から、第1のインクの色材は、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、グレー(Gr)等の淡色のカラーが好ましい。
【0053】
第1のインクが色材を含む場合、色材の含有量は、インク明度L*が50以上になるように調節するとよく、例えば、インク全量に対し0.01~20質量%であってよい。
インク中で顔料を安定して分散させるために、顔料とともに顔料分散剤を用いてもよい。顔料分散剤としては、下記の第2のインクで説明するものを用いることができる。第1のインクが顔料分散剤を含む場合は、顔料分散剤の含有量は、下記の第2のインクで説明する通りに顔料の含有量に応じて調節するとよい。
【0054】
上記各成分に加えて、第1のインクには、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、ノズルの目詰まり防止剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤等を適宜添加することができる。これらの種類は、特に限定されることはなく、当該分野で使用されているものを用いることができる。
【0055】
第1のインクの製造方法は特に限定されないが、一方法としては、各成分を一括ないし分割して混合及び撹拌してインクを作製することができる。具体的には、ビーズミル等の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより作製することができる。
【0056】
第1のインクの粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5~30mPa・sであることが好ましく、5~15mPa・sであることがより好ましく、5~13mPa・sであることがさらに好ましい。
【0057】
「第2のインク」
第2のインクは、非水系溶剤B及び色材を含むことができる。
第2のインクは、基材にインクジェット方式で付与して使用するものであってよく、油性インクジェットインクであってよい。
【0058】
非水系溶剤Bは、エーテルエステル、ジエステル、及びトリエステルからなる群から選択され、かつハンセン溶解度パラメータにおける分散項δが15.0~17.0MPa1/2であり、極性項δが5.0MPa1/2以下である非水系溶剤又はこれらの組み合わせである。非水系溶剤Bは、23℃で液体状であることが好ましい。
非水系溶剤Bの分散項δは15.0MPa1/2以上が好ましく、15.5MPa1/2以上がより好ましく、15.8MPa1/2以上がさらに好ましい。これによって、インクがノズルから基材に飛翔する間にインクの主滴からインク微粒子が飛散することを防止し、サテライトによる印刷面汚れを防止することができる。すなわち、第2のインクはサテライトの発生自体を防止することができるため、濃色の色材を用いても、印刷面汚れを防止することができる。また、ノズルプレートへのインクの付着が防止され、ノズル目詰まりを防ぎ、インクの吐出性能をより改善することができる。
非水系溶剤Bの分散項δは17.0Pa1/2以下が好ましく、16.8MPa1/2以下がより好ましく、16.5MPa1/2以下がさらに好ましい。この範囲の分散項δを示す非水系溶剤Bは、トナー画像に対する溶解性が低減され、第1のインク及び第2のインクが付与された印刷面にトナー印刷物が接触する場合に、印刷物へのトナー転写をより防止することができる。
例えば、非水系溶剤Bの分散項δは、15.0~17.0MPa1/2が好ましく、15.5~16.8MPa1/2がより好ましく、15.8~16.5MPa1/2がさらに好ましい。
【0059】
非水系溶剤Bの極性項δは5.0MPa1/2以下が好ましく、4.5MPa1/2以下がより好ましく、4.0MPa1/2以下がさらに好ましい。この範囲の極性項δを示す非水系溶剤Bは、トナー画像に対する溶解性が低減され、第1のインク及び第2のインクが付与された印刷面にトナー印刷物が接触する場合に、印刷物へのトナー転写をより防止することができる。
非水系溶剤Bの極性項δは、特に限定されないが、その構造がエーテルエステル、ジエステル、又はトリエステルのように極性成分を含むことから、1.0MPa1/2以上、2.0MPa1/2以上、又は3.0MPa1/2以上が好ましい。
例えば、非水系溶剤Bの極性項δは、1.0~5.0MPa1/2が好ましく、2.0~4.5MPa1/2がより好ましく、3.0~4.0MPa1/2がさらに好ましい。
【0060】
非水系溶剤Bの水素結合項δは、水素結合の有無に影響される成分であり、エーテル結合、エステル結合等の構造に影響されて、一般的に以下の範囲内に含まれる。これらの範囲内は、クリアファイル及びトナーのポリマー成分と相互作用しにくくなり、クリアファイル変形及びトナー転写を防止することができる。特に、この範囲では、クリアファイルのポリマー成分との相互作用を抑制することができる。
非水系溶剤Bの水素結合項δは、1.0~10.0MPa1/2が好ましく、2.0~7.0MPa1/2がより好ましく、3.0~7.0MPa1/2がさらに好ましい。
【0061】
エーテルエステル、ジエステル、及びトリエステルは、それぞれ、エステル結合、エーテル結合、又はこれらの組み合わせに起因して、高い極性を示す。高極性の非水系溶剤Bを含むインクを用いることで、印刷物によるクリアファイル変形を抑制することができる。非水系溶剤Bは、クリアファイル変形を防止する程度に高極性を示す一方で、非水系溶剤Bの極性項δが5.0MPa1/2以下に制限されることで、トナー溶解性が抑制されて、印刷物へのトナー転写を防止することができる。
【0062】
非水系溶剤Bは、上記した分散項δ及び極性項δの範囲を満たすものであって、エーテルエステル、ジエステル、又はトリエステルであればよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
非水系溶剤Bは、1分子中の炭素数が6~30が好ましく、8~22がより好ましく、8~20がさらに好ましい。この範囲で、非水系溶剤Bは、分散項δ及び極性項δが好ましい範囲を満たしながら、沸点及び粘度がインクジェット印刷により適する範囲を満たすことができる。
【0063】
非水系溶剤Bとして用いることができる化合物について以下詳述する。
エーテルエステルには、例えば、モノカルボン酸と一価アルコールとのエステル化物であって、モノカルボン酸及び一価アルコールのうち少なくとも一方がエーテル結合を有する化合物を用いることができる。エーテルエステルに導入されるエーテル結合は、1個又は2個以上であってよく、1~5個が好ましく、1~3個がより好ましい。
エーテル結合を有するモノカルボン酸としては、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテル鎖を有するモノカルボン酸等が挙げられる。
エーテル結合を有する一価アルコールとしては、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。
エーテルエステルにおいて、酸成分に由来する単位及びアルコール成分に由来する単位に含まれる炭化水素基は、それぞれ独立的に飽和又は不飽和炭化水素基であってもよく、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基であってもよく、鎖状炭化水素基である場合は直鎖又は分岐鎖であってもよい。
好ましくは、エーテルエステルにおいて、酸成分に由来する単位及びアルコール成分に由来する単位は、それぞれ独立的に飽和の鎖状炭化水素基を有し、直鎖又は分岐鎖であってよい。
エーテルエステルは、例えば、エチレングリコール鎖、プロピレングリコール鎖、メトキシ基等、又はこれらの組み合わせと、エステル結合とを有することが好ましく、エステル結合を介して一方にエチレングリコール鎖、プロピレングリコール鎖、メトキシ基等、又はこれらの組み合わせを有し、他方に炭素数4~8、中でも炭素数6~8の飽和アルキル基を有することがより好ましい。
【0064】
ジエステルには、2個のカルボキシ基を有するジカルボン酸と一価アルコールとのエステル化物、モノカルボン酸と2個の水酸基を有するジオールとのエステル化物、炭酸ジエステル等を用いることができる。なかでもジカルボン酸ジエステル、ジオールジエステル、又はこれらの組み合わせが好ましい。
ジエステルにおいて、酸成分に由来する単位及びアルコール成分に由来する単位に含まれる炭化水素基は、それぞれ独立的に飽和又は不飽和炭化水素基であってもよく、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基であってもよく、鎖状炭化水素基である場合は直鎖又は分岐鎖であってもよい。
好ましくは、ジエステルにおいて、酸成分に由来する単位及びアルコール成分に由来する単位は、それぞれ独立的に飽和の鎖状炭化水素基を有し、直鎖又は分岐鎖であってよい。
ジエステルは、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等と、炭素数1~10の飽和一価アルコールとのジエステル;炭素数1~10の飽和脂肪酸と、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオールとのジエステル等であってよく、アジピン酸と炭素数4~8の飽和の一価アルコールとのジエステルが好ましい。
【0065】
トリエステルには、3個のカルボキシ基を有するトリカルボン酸と一価アルコールとのエステル化物、モノカルボン酸と3個の水酸基を有する三価アルコールとのエステル化物等を用いることができる。
トリエステルにおいて、酸成分に由来する単位及びアルコール成分に由来する単位に含まれる炭化水素基は、それぞれ独立的に飽和又は不飽和炭化水素基であってもよく、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基であってもよく、鎖状炭化水素基である場合は直鎖又は分岐鎖であってもよい。
好ましくは、トリエステルにおいて、酸成分に由来する単位及びアルコール成分に由来する単位は、それぞれ独立的に飽和の鎖状炭化水素基を有し、直鎖又は分岐鎖であってよい。
トリエステルは、例えば、炭素数3~10のトリオールと、炭素数1~10、中でも炭素数1~4の飽和脂肪酸とのトリエステル等であってよく、グリセロールと、炭素数1~4の飽和脂肪酸とのトリエステルが好ましい。
【0066】
エーテルエステルとしては、例えば、2-エチルヘキサン酸2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチル、2-エチルブタン酸2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチル等が挙げられる。
ジエステルとしては、例えば、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸(ビスー2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
トリエステルとしては、例えば、グリセロールトリブチレート、グリセロールトリプロピオネート、グリセロールトリ(2-メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0067】
上記した非水系溶剤Bは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
第2のインクに2種以上の非水系溶剤Bが含まれる場合は、非水系溶剤Bのそれぞれが上記したδ及びδの範囲、さらにはその他の上記した物性値の範囲を満たすことが好ましい。より好ましくは、2種以上の非水系溶剤Bの混合溶剤が、上記したδ及びδの範囲を満たすとよく、さらにはその他の上記した物性値の範囲を満たすとよい。
【0068】
非水系溶剤Bは、23℃の粘度が1.0~15.0mPa・sが好ましく、3.0~10.0mPa・sがより好ましく、5.0~9.0mPa・sがさらに好ましい。この粘度範囲の溶剤を用いることで、インク粘度を低く抑えられ、吐出性能をより改善することができる。
非水系溶剤Bは、23℃の表面張力が20.0~40.0mN/mが好ましく、25.0~35.0mN/mがより好ましく、26.0~31.0mN/mがさらに好ましい。これによって、インクがノズルから基材に飛翔する間にインク主滴からインク微粒子が飛散してサテライトが発生することを抑制し、印刷面汚れをより防止することができる。
【0069】
第2のインクは、非水系溶剤Bをインク全量に対し10質量%以上で含むことが好ましく、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。これによって、第2のインクの適正な付与質量の範囲で、基材上において非水系溶剤Bの付与質量をより多くし、印刷物によるクリアファイルの変形をより防止することができる。また、第2のインクに非水系溶剤Bがより多く含まれることで、サテライトの発生を防止し、印刷面汚れをより防止することができる。
第2のインクに含まれる溶剤は、非水系溶剤Bのみからなってもよいが、非水系溶剤Bとその他の非水系溶剤を組み合わせて用いてもよい。第2のインクは、非水系溶剤Bをインク全量に対し90質量%以下で含むことが好ましく、より好ましくは80質量%以下である。
例えば、非水系溶剤Bは、第2のインク全量に対し10~100質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましい。また、第2のインクに含まれる非水系溶剤全量に対し、非水系溶剤Bは10~100質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましい。
【0070】
第2のインクは、非水系溶剤Aを含んでもよいが、非水系溶剤Aを含まなくてもよい。第1のインク及び第2のインクが基材に付与された状態で、基材上で(A+B)/X及びA/Bが所望の範囲を満たす範囲で、第2のインクは非水系溶剤Aを含むことができる。第2のインクが非水系溶剤Aを含む場合、非水系溶剤Aは非水系溶剤Bに対し質量比で1未満であることが好ましく、0.5以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
第2のインクは色材を含み、インク明度が低くなる場合はサテライトの発生によって印刷面汚れが目立つことから、第2のインクは非水系溶剤Aの含有量が少ないことが好ましく、非水系溶剤Aを含まなくてもよい。この観点から、第2のインクが非水系溶剤Aを含む場合は、非水系溶剤Aはインク全量に対し1質量%未満が好ましく、0.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。
【0071】
第2のインクは、非水系溶剤Bに加えて、その他の非水系溶剤を含んでもよい。
第2のインクは、非水系溶剤Bによってサテライトの発生を抑制しトナー溶解性を低減しようとするものであることから、この作用を損なわない範囲でその他の非水系溶剤が含まれることが好ましい。第1のインク及び第2のインクが付与された状態で基材上での非水系溶剤A及び非水系溶剤Bの付与割合を制御することによって、クリアファイル変形を抑制することが可能であるため、第2のインクは非極性溶剤を含むことができる。第1のインク及び第2のインクの両方にその他の非水系溶剤が含まれる場合は、第1のインク及び第2のインクが基材上において重ねて付与されるか、又は互いに近接して付与される際に、基材上で第1のインク及び第2のインクのそれぞれの非水系溶剤がより混合しやすいように、第1のインク及び第2のインクに極性の範囲が近い非水系溶剤が含まれることが好ましく、例えば非極性溶剤が含まれることが好ましい。
【0072】
その他の非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の何れも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、組み合わせて使用することもできる。なお、本開示において、非水系溶剤としては、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合しない非水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0073】
非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の非水系溶剤を挙げることができ、市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、カクタスノルマルパラフィンN-10、カクタスノルマルパラフィンN-11、カクタスノルマルパラフィンN-12、カクタスノルマルパラフィンN-13、カクタスノルマルパラフィンN-14、カクタスノルマルパラフィンN-15H、カクタスノルマルパラフィンYHNP、カクタスノルマルパラフィンSHNP、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN-16、テクリーンN-20、テクリーンN-22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもJXTGエネルギー株式会社製の商品名);アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(いずれもエクソンモービル社製の商品名);モレスコホワイトP-40、モレスコホワイトP-60、モレスコホワイトP-70、モレスコホワイトP-80、モレスコホワイトP-100、モレスコホワイトP-120、モレスコホワイトP-150、モレスコホワイトP-200、モレスコホワイトP-260、モレスコホワイトP-350P(いずれも株式会社MORESCO製の商品名)等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、グレードアルケンL、グレードアルケン200P(いずれもJXTGエネルギー株式会社製の商品名);ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれもエクソンモービル社製の商品名)等を好ましく挙げることができる。石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがいっそう好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。
【0074】
極性有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。例えば、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2-オクチルデシル、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸イソブチルエステル、トール油脂肪酸メチルエステル、トール油脂肪酸イソブチルエステル等の1分子中の炭素数が13以上、好ましくは16~30の脂肪酸エステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソエイコシルアルコール、デシルテトラデカノール等の1分子中の炭素数が6以上、好ましくは12~20の高級アルコール系溶剤;ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、α-リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の1分子中の炭素数が12以上、好ましくは14~20の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等の極性有機溶剤の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。なお、沸点が250℃以上の非水系溶剤には、沸点を示さない非水系溶剤も含まれる。
【0075】
これらの非水系溶剤は、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、使用する非水系溶剤と単一相を形成できる範囲で他の有機溶剤を含ませてもよい。
【0076】
第2のインクは、サテライトの発生自体が抑制されるため、インク明度は特に制限されず、色材のカラーは、ブラック(B)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ホワイト等であってよい。例えば、第1のインクをイエロー等の淡色インクとし、第2のインクをブラック等の濃色インクとすることで、カラーインクセットを提供することが可能である。
【0077】
色材は、顔料及び染料のいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料;及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、銅フタロシアニン顔料等の金属フタロシアニン顔料、及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
顔料の平均粒子径としては、吐出安定性と保存安定性の観点から、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の平均値として、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下であり、さらに好ましくは150nm以下であり、一層好ましくは100nm以下である。
顔料は、インク全量に対し、通常0.01~20質量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点から、1~15質量%であることが好ましく、4~10質量%であることがより好ましい。
【0079】
インク中で顔料を安定して分散させるために、顔料とともに顔料分散剤を用いることができる。
顔料分散剤としては、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、ビニルピロリドンと長鎖アルケンとの共重合体、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリエステルポリアミン等が好ましく用いられる。
【0080】
顔料分散剤の市販品としては、例えば、アイ・エス・ピー・ジャパン株式会社製「アンタロンV216(ビニルピロリドン・ヘキサデセン共重合体)、V220(ビニルピロリドン・エイコセン共重合体)」(いずれも商品名);日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース13940(ポリエステルアミン系)、16000、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、24000、28000」(いずれも商品名);BASFジャパン株式会社製「エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46、47、48、49、4010、4055(変性ポリウレタン)」(いずれも商品名);楠本化成株式会社製「ディスパロンKS-860、KS-873N4(ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名);第一工業製薬株式会社製「ディスコール202、206、OA-202、OA-600(多鎖型高分子非イオン系)」(いずれも商品名);ビックケミー・ジャパン株式会社製「DISPERBYK2155、9077」(いずれも商品名);クローダジャパン株式会社製「HypermerKD2、KD3、KD11、KD12」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0081】
顔料分散剤は、上記顔料を十分にインク中に分散可能な量であれば足り、適宜設定できる。例えば、質量比で、顔料1に対し顔料分散剤を0.1~5で配合することができ、好ましくは0.3~1である。また、顔料分散剤は、インク全量に対し、0.01~10質量%で配合することができ、好ましくは0.1~8質量%であり、より好ましくは1~5質量%である。
【0082】
染料としては、当該技術分野で一般に用いられているものを任意に使用することができる。油性インクでは、染料は、インクの非水系溶剤に親和性を示すことで、貯蔵安定性がより良好となるため、油溶性染料を用いることが好ましい。
油溶性染料としては、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料等を挙げることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用してもよい。
染料は、インク全量に対し、通常0.01~20質量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点から、1~15質量%であることが好ましく、4~10質量%であることが一層好ましい。
【0083】
上記各成分に加えて、第2のインクには、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、ノズルの目詰まり防止剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤等を適宜添加することができる。これらの種類は、特に限定されることはなく、当該分野で使用されているものを用いることができる。
【0084】
第2のインクの製造方法は特に限定されないが、一方法としては、各成分を一括ないし分割して混合及び撹拌してインクを作製することができる。具体的には、ビーズミル等の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより作製することができる。
【0085】
第2のインクの粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5~30mPa・sであることが好ましく、5~15mPa・sであることがより好ましく、6~13mPa・sであることがさらに好ましい。非水系溶剤Bは高極性でありながら比較的低粘性であり、吐出性能の観点から第1のインクの粘度を10mPa・s以下にすることが可能である。
【0086】
「インクセット」
一実施形態によれば、非水系溶剤Aを含む第1のインクと、非水系溶剤B及び色材を含む第2のインクとを備え、第1のインクは、非水系溶剤Aに対し非水系溶剤Bの質量比が0以上1未満であり、第2のインクは、非水系溶剤Bに対し非水系溶剤Aの質量比が0以上1未満であり、非水系溶剤Aは、変性シリコーンオイルであり、非水系溶剤Bは、エーテルエステル、ジエステル、及びトリエステルからなる群から選択され、かつハンセン溶解度パラメータにおける分散項δDが15.0~17.0MPa1/2であり、極性項δPが5.0MPa1/2以下である非水系溶剤又はこれらの組み合わせである、油性インクジェットインクセットを提供することができる。
第1のインク及び第2のインクの詳細については上記した通りである。
この第1のインク及び第2のインクの少なくとも一方はインクジェット方式で基材に付与することが好ましく、両方ともインクジェット方式で基材に付与することが好ましい。
【0087】
「印刷物の製造方法」
以下、第1のインク及び第2のインクを用いて印刷物を製造する方法について説明する。
第1のインク及び第2のインクはそれぞれインクジェット方式を用いて基材に付与することができる。
インクジェット方式は、基材に非接触で、オンデマンドで簡便かつ自在に画像形成をすることができる印刷方式である。インクジェット方式は、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式等のいずれの方式であってもよい。インクジェット印刷装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから第1のインク又は第2のインクを吐出させ、吐出された第1のインク又は第2のインクの液滴を基材に付着させるようにすることが好ましい。また、インクジェット方式は、ラインヘッド方式及びシリアルヘッド方式のいずれであってもよい。一実施形態によれば、高速印刷においてもサテライトによる印刷面汚れを防止することができるため、ラインヘッド方式のインクジェット印刷装置を用いて高速印刷することができる。
【0088】
第1のインク及び第2のインクの付与順序は特に限定されない。付与順序によらず、第1のインク及び第2のインクの付与後に基材上で非水系溶剤A及び非水系溶剤Bの組み合わせによってハンセン溶解度パラメータが調整可能であることで、トナー溶解性が低下しトナー転写を防止することができる。第1のインクはインク明度が低いことから、第1のインクを先に基材に付与してもよい。第1のインクは非水系溶剤Aとして変性シリコーンオイルを含み低表面張力を示す傾向があることから、第1のインクを先に基材に付与することでインクの浸透性をより高めることもできる。
【0089】
第1のインク及び第2のインクのいずれか一方のインクを基材に付与し、次いで他方のインクを基材に付与する際に、一方のインクの印刷領域に部分的に重ねて付与してもよく、一方のインクの印刷領域にほぼ一致するように重ねて付与してもよく、一方のインクの印刷領域を含むより広い領域に重ねて付与してもよく、一方のインクの印刷領域以外の領域に付与してもよい。
第1のインクが色材を含まずクリアインクである場合は、クリアインクを基材に付与する領域は、第1のインクの付与領域と第2のインクの付与領域が少なくとも部分的に重なることが好ましく、第1のインクの付与領域内に第2のインクが付与されることが好ましい。例えば、クリアインクを基材に付与する領域は、第2のインクによる画像と同一の形状の領域であってもよいし、第2のインクによる画像の形状を含む広めの領域であってもよいし、基材の全面であってもよい。
淡色インクと濃色インクのドットを重ねて、又は互いに近接して印刷して色相を再現するコンポジット印刷方法では、淡色インクとして第1のインクを用い、濃色インクとして第2のインクを用いて、第1のインク及び第2のインクを重ねて、又は互いに近接して基材に付与して用いることができる。
第1のインクが色材を含む淡色インクであり、第2のインクが濃色インクである場合は、カラーインクセットとして提供可能であり、印刷装置の設定にしたがって付与順序を決定すればよい。カラーインクセットの場合は、例えば、イエローインク、シアンインク、マゼンタインク、グレーインク等を第1のインクとし、ブラックインク等を第2のインクとすることができる。
上記した印刷方法の中でも、クリアインクとして第1のインクを用いる方法及びコンポジット印刷方法において、第1のインクと第2のインクとを重ねて、又は互いに近接して印刷する場合では、基材上において非水系溶剤Aと非水系溶剤Bとが混合される領域がより広範囲となりやすく、トナー転写をより防止することができる。
いずれの印刷方法においても、第1のインク及び第2のインクの基材への付与質量は、(A+B)/X及びA/Bが所望の範囲を満たす範囲で、画像濃度等を考慮して適宜設定すればよい。
なお、第1のインク及び第2のインクがそれぞれ2種以上である場合は、基材上において非水系溶剤A及び非水系溶剤Bの付与質量はそれぞれのインクの非水系溶剤成分の合計質量で表される。
【0090】
一実施形態において、基材は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)シート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。これらの中でも、インクの浸透性の観点から、浸透性基材が好ましく、なかでも普通紙、コート紙等の印刷用紙を好ましく用いることができる。
【0091】
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。普通紙は、数μm~数十μmの太さの紙繊維が数十から数百μmの空隙を形成しているため、インクが浸透しやすい紙となっている。
【0092】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【実施例0093】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0094】
「インクの作製」
第1のインク及び第2のインクの処方をそれぞれ表1及び表2に示す。表中に示す配合量にしたがって、顔料、分散剤、及び溶剤を混合し、ビーズミル「ダイノーミルKDL-A」(株式会社シンマルエンタープライゼス製)により滞留時間15分間の条件で、十分に顔料を分散した。続いて、メンブレンフィルターで粗大粒子を除去し、インクを得た。なお、顔料および分散剤を含まないクリアインクは「スリーワンモータ BL1200」(新東科学株式会社製)により、5分間攪拌して得た。得られたインクの密度はいずれも0.9g/cmであった。
【0095】
用いた成分は、以下の通りである。
イエロー顔料:DIC株式会社製「Symuler Fast Yellow 4419」(商品名)。
カーボンブラック:三菱ケミカル株式会社製「MA77」(商品名)。
銅フタロシアニン:DIC株式会社製「FASTGEN Blue LA5380」(商品名)。
ソルスパース18000(商品名):日本ルーブリゾール株式会社製、有効成分100質量%。
ソルスパース13940(商品名):日本ルーブリゾール株式会社製、有効成分40質量%。
石油系炭化水素溶剤:エクソンモービル社製「エクソールD110」(商品名)。
変性シリコーンオイル(1)及び(2)、並びに2-エチルヘキサン酸2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルは下記合成処方によって合成した。それ以外の溶剤は、東京化成工業株式会社等から入手可能である。
【0096】
表中に溶剤のハンセン溶解度パラメータ(MPa1/2)、粘度(mPa・s)及び表面張力(mN/m)を示す。
ハンセン溶解度パラメータは、Charles.M.Hansenらによるハンセン溶解度パラメータ計算ソフト「HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice」ver.5.3を用いて計算した。
粘度は、23℃において、株式会社アントンパール・ジャパン製「レオメーターMCR302」を用いて、コーン角度1°、直径50mmで測定した数値である。
表面張力は、最大泡圧法による表面張力測定装置計(SITA Process Solutions製の「SITA Messtechnik GmbH science line t60」(商品名))を用いて、23℃、0.05Hzの測定条件で測定した数値である。
【0097】
「変性シリコーンオイルの合成」
四つ口フラスコに、ヘキサンを50質量部、10.0質量部の1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサンと11.0質量部の1-ヘキサデセンを仕込んだ。これに、白金触媒(シグマアルドリッチ社製「1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン白金錯体」)を0.02質量部滴下し、室温にて2~3時間撹拌した。その後、減圧蒸留により反応溶媒(ヘキサン)、未反応原料を留去し、下記式(1)においてRがヘキシルデシル基である変性シリコーンオイル(1)を得た。11.0質量部の1-ヘキサデセンの代わりに2.8質量部の1-ブテンを用いた他は同様にして、下記式(1)においてRがn-ブチル基である変性シリコーンオイル(2)を得た。
各変性シリコーンオイルの合成では、シロキサン化合物とアルケンとのモル比が1:1.1となるように配合している。
シロキサン化合物はGelest社より入手可能であり、アルケンは東京化成株式会社より入手可能である。
【0098】
【化2】
【0099】
「2-エチルヘキサン酸2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルの合成」
原料となる2-エチルヘキサン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテル、溶剤としてシクロヘキサン、触媒としてp-トルエンスルホン酸一水和物を四つ口フラスコに入れて混合撹拌し均一な溶液を得た。四つ口フラスコにディーンスターク装置を装着し、仕込んだ原材料が反応して水が発生したら取り除けるようにした。均一な溶液が入っている四つ口フラスコを加熱し合成を始めた。加熱温度は溶媒が還流する110℃に設定した。加熱反応時間は1~48時間に設定した。反応後、未反応の原材料や不純物を取り除くため、得られた溶液を減圧蒸留又はカラム精製し、下記式で表される化合物を得た。
用いた成分はいずれも東京化成工業株式会社等から入手可能である。
【0100】
【化3】
【0101】
「評価」
上記実施例及び比較例のインクについて、表3及び表4に示す組み合わせで第1のインク及び第2のインクを用いて印刷物を作製し、以下の方法により評価を行った。評価結果を表中に示す。
【0102】
(印刷物の用意)
ライン式インクジェットプリンタ「オルフィスGD9630」(理想科学工業株式会社製)に第1のインク及び第2のインクをそれぞれ装填し、普通紙「理想用紙マルチ」(理想科学工業株式会社製)に、主走査方向約51mm×副走査方向260mmの印刷面積が132.6cmのベタ画像を片面印刷することにより、印刷物を作製した。
第1のインク及び第2のインクの吐出量は表中に示す通りとした。第1のインク及び第2のインクは、それぞれプリンタのイエローカートリッジ及びブラックカートリッジに装填し、プリンタのカラー印刷の設定でこの順で印刷物に着弾させ、画像領域が重なるように印刷した。
得られる印刷物では第1のインク及び第2のインクのそれぞれの非水系溶剤A、非水系溶剤B、及び非水系溶剤の付与質量は、印刷面積である132.6cmとインクの吐出量と各非水系溶剤の割合とから求めることができる。この数値から、(A+B)/XとA/Bを計算して求めた。これらを表中に示す。
【0103】
(インクの物性値の測定)
第1のインクの粘度は、23℃において、株式会社アントンパール・ジャパン製「レオメーターMCR302」を用いて、コーン角度1°、直径50mmで測定した数値である。
第2のインクの明度L*は、日本電色工業株式会社製「Spectro Color Meter SE2000」を用い、液体のまま指定容器に入れ測定した。
得られた数値を表中に示す。
【0104】
(クリアファイルの波打ち防止)
クリアファイルの波打ち防止の評価は、上記した手順で用意した1枚の印刷物をPP(ポリプロピレン)製クリアファイルに挟み、室温で放置し、2週間放置後に、クリアファイルの変形量を確認して評価した。クリアファイルの1枚のシートの厚さは0.2mmであった。
クリアファイルの変形量は、平らな面にクリアファイルを置き、この平面から、クリアファイルが変形し持ち上がった最大の高さを測定して求めた。評価基準を以下に示す。
AA:クリアファイルの変形量が1cm未満である。
A:クリアファイルの変形量が1cm以上3cm未満である。
B:クリアファイルの変形量が3cm以上5cm未満である。
C:クリアファイルの変形量が5cm以上である。
【0105】
(トナー転写防止)
キヤノン株式会社製レーザビームプリンタ「SateraLBP9100C」(商品名)を使用し、普通紙「理想用紙マルチ」に対しベタ画像を印刷したトナー印刷物を作製した。
表3及び表4に示す単位面積当たりの吐出量で第1のインク及び第2のインクを吐出し、200mm×80mmのベタ画像を普通紙「理想用紙マルチ」に印刷した以外は、上記した印刷物の用意と同様の方法で油性インク印刷物を用意した。油性インク印刷物のベタ画像部分とトナー印刷物のベタ画像部分とが対向するように重ねた。その上から2kgの重しをのせ、この状態で、23℃環境で3日間放置し、放置後にトナー印刷物から油性インク印刷物をはがし、油性インク印刷物へのトナーの貼り付き度合いを以下の基準で評価した。
AA:はがす際に貼り付いてる感触がなく、油性インク印刷物へのトナーの貼り付きが目視で観察されない。
A:はがす際に貼り付いてる感触はあるが、油性インク印刷物へのトナーの貼り付きが目視で観察されない。
B:はがした後に、油性インク印刷物へのトナーの貼り付きがかすかに目視で確認される。
C:はがした後に、油性インク印刷物へのトナーの貼り付きが目視で多く観察される。
【0106】
(吐出性能)
吐出性能の評価では、ライン式インクジェットプリンタ「オルフィスGD9630」(理想科学工業株式会社製)を用いて、普通紙「理想用紙マルチ」(理想科学工業株式会社製)に、第1のインクと第2のインクを表3及び表4に示す単位面積あたりの吐出量になるように、100枚連続してベタ画像を片面印刷した。その他の印刷条件は上記した印刷物の用意と同様にした。得られた印刷物を目視で観察して以下の基準で評価した。
インクジェットノズルからのインクの不吐出は、印刷物に白いスジとなって非印字部分が発生することで確認することができる。100枚の印刷物の中に、この白いスジが発生するか、または発生した本数を観察した。100枚の印刷物に観察された白いスジの合計数から吐出性能を評価した。評価基準を以下に示す。
AA:白いスジが0本である。
A:白いスジが1~2本である。
C:白いスジが3本以上である。
【0107】
(印刷面汚れ防止)
ライン式インクジェットプリンタ「オルフィスGD9630」(理想科学工業株式会社製)に第1のインク及び第2のインクを装填し、普通紙「理想用紙マルチ」及びマット紙「理想用紙マットIJ(W)」(理想科学工業株式会社製)に印刷を行い、以下の基準で評価した。その他の条件は、上記印刷物の用意で説明した通りとした。インクの吐出においてサテライトが発生すると、印刷領域の周辺にドット状の印刷面汚れが観察される。
AA:マット紙に印刷した場合でも、印刷面汚れはほとんど確認されず、画質が良好である。普通紙でも印刷面汚れは観察されない。
A:普通紙では印刷面汚れはほとんど確認されず、画質が良好である。マット紙では若干の印刷面汚れが観察される。
B:普通紙及びマット紙の両方で印刷面汚れは確認されるが、画質は実使用に耐えられるレベルである。
C:普通紙及びマット紙の両方で印刷面汚れが顕著であり、画質は実使用に耐えられないレベルである。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
表中に示す通り、各実施例のインクでは、クリアファイルの波打ち防止、トナー転写防止、吐出性能及び印刷面汚れ防止がいずれも良好であった。また、各実施例のインクはインクジェット印刷に適する粘度であり、印刷物の画像濃度も良好であった。
【0113】
実施例1~4、9は第1のインクの明度L*がより高くサテライトによる印刷面汚れがより防止された。実施例1~4、特に実施例3及び4では、(A+B)/Xがより大きくクリアファイルの波打ちがより防止された。実施例1~3、9、特に実施例2及び3では、A/Bがより大きくトナー転写がより防止された。実施例5及び6はイエロー顔料を含み第1のインクの明度L*が低下し印刷面汚れが許容範囲内で発生するものの、全体的な評価は良好であった。実施例7及び8は第2のインクの顔料、分散剤、及び溶剤Bを変更したものであり、良好な結果が得られた。
【0114】
比較例1では、(A+B)/Xが0.15に満たないことから、クリアファイル変形が発生した。より詳しくは、インク1Eが石油系炭化水素溶剤をより多く含み、相対的に印刷物上で溶剤A及びBの付与質量が減少して所望の作用が得られず、クリアファイル変形を引き起こしたと考えられる。
比較例2では、印刷物上で、A/Bが0.20に満たないことから、トナー転写が発生した。より詳しくは、インク1Aの吐出量が少なく、相対的に印刷物上でBの付与質量が増加して極性が高まり、トナー溶解性が高まったと考えられる。
【0115】
比較例3では、インク1Fの明度L*が低く、サテライトによる印刷面汚れが観察された。比較例4では、インク2Gに含まれるオクタフルオロアジピン酸ジメチルのδDが15.0に満たないことから、印刷面にサテライトによる汚れが観察された。比較例5では、インク2Hに含まれるフタルジブチルのδDが17.0を超え、δPが5.0を超えることから、トナー転写が発生した。比較例6は、インク2Aのみの印刷であり、トナー転写が発生した。インク2Aのみであると、印刷物上で溶剤Bの付与質量が多くなり、極性成分によってトナー溶解性が高まり、トナー転写が発生したと考えられる。比較例7は、インク1Gのみの印刷であり、サテライトによる印刷面汚れが観察された。インク1Gのみであると、低表面張力の変性シリコーンオイル成分によってインクの吐出の際にサテライトが発生しやすく、印刷面汚れとして観察されたと考えられる。