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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087467
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】橋桁の変位制御構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/04 20060101AFI20230616BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
E01D19/04 101
E01D19/04 A
F16F15/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201865
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕介
(72)【発明者】
【氏名】二宮 僚
(72)【発明者】
【氏名】田中 活行
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 雅充
【テーマコード(参考)】
2D059
3J048
【Fターム(参考)】
2D059GG05
2D059GG35
2D059GG59
3J048AC01
3J048BE12
3J048CB21
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】橋軸直交方向の橋桁の変位を制御できるうえに、支承部の周辺に狭隘な空間しか確保できないような橋梁にも適用が可能となる橋桁の変位制御構造を提供する。
【解決手段】地震時に橋桁の変位を制御する橋桁の変位制御構造である。
橋桁1の橋軸直交方向R1の側面に端部33を接触させる側面支持部材3と、橋桁の支承部2の橋軸直交方向に隣接して配置されて橋脚Mに固定される台座部4と、台座部の上に側面支持部材の下部をボルト接合させるボルト接合部5とを備えている。
そして、ボルト接合部では、橋桁から側面支持部材に作用する力が所定値を超えると滑りが生じて側面支持部材が移動することになる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震時に橋桁の変位を制御する橋桁の変位制御構造であって、
前記橋桁の橋軸直交方向の側面に端部を接触させる側面支持部材と、
前記橋桁の支承部の前記橋軸直交方向に隣接して配置されて橋脚又は橋台に固定される台座部と、
前記台座部の上に前記側面支持部材の下部をボルト接合させるボルト接合部とを備え、
前記ボルト接合部では、前記橋桁から前記側面支持部材に作用する力が所定値を超えると滑りが生じて前記側面支持部材が移動することを特徴とする橋桁の変位制御構造。
【請求項2】
前記台座部は、前記側面支持部材の移動後に露出する面が、前記橋桁を載せる前記支承部の支持面と略同じ高さとなるように形成されることを特徴とする請求項1に記載の橋桁の変位制御構造。
【請求項3】
前記台座部の上に形成される前記側面支持部材の移動後に露出する面は、前記支承部に向けて張り出されていることを特徴とする請求項2に記載の橋桁の変位制御構造。
【請求項4】
前記ボルト接合部は、前記台座部と前記側面支持部材との間に介在させる摩擦調整板を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の橋桁の変位制御構造。
【請求項5】
前記摩擦調整板には、ボルトを挿通させるとともに一端が開放された長溝が形成されることを特徴とする請求項4に記載の橋桁の変位制御構造。
【請求項6】
前記摩擦調整板には、ボルトを挿通させる前記ボルトの軸部より直径が大きな挿通孔が形成されることを特徴とする請求項4に記載の橋桁の変位制御構造。
【請求項7】
前記側面支持部材の端部は、前記橋桁の橋軸方向の変位に伴って前記側面支持部材が移動可能な形状に形成されるとともに、
前記ボルト接合部では、前記橋桁から前記側面支持部材に作用する力の作用方向に応じて、前記橋軸方向又は前記橋軸直交方向の滑りが生じることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の橋桁の変位制御構造。
【請求項8】
前記側面支持部材の端部が摩擦面材によって形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の橋桁の変位制御構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に橋桁の変位を制御する橋桁の変位制御構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁の支承に関しては、地震時に損傷させないように設計するのが一般的である。しかし、既設橋梁の耐震対策においては、支承部を補強や交換などして耐力を向上させた場合、橋脚に働く慣性力が大きくなり、橋脚の損傷につながる場合がある。
【0003】
一方、支承部の損傷を許容した場合には、支承損傷後の橋桁の変位が大きくなり、支承部から橋桁が逸脱すると、鉄道橋では軌道面に段差が生じて、走行安全性が著しく低下するとともに、地震後の復旧に手間と時間を要することになる。
【0004】
一方、橋梁の橋桁の橋軸方向に発生する変位に対しては、摩擦ダンパーを介在させることで、地震時の相対移動時に摩擦力による減衰力を生じさせて、制振制御を行う構造が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、特許文献2に開示されているように、橋軸直交方向に間隔を置いて支承される橋桁間に、橋脚に固定される鉛ダンパを介在させることで、大地震時の橋軸直交方向の変位を阻止する橋梁の免震構造が知られている。
【0006】
さらに、大地震が発生して支承部により支持された橋桁が支承部から外れたときに、橋桁を同じ高さで支持させ続けるために、支承部に隣接して設けられる段差防止装置が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-180432号公報
【特許文献2】特開2002-180418号公報
【特許文献3】特開2019-124003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、段差防止装置では、橋桁の変位を抑えることはできず、さらに支承破壊後の橋桁の挙動を制御することもできない。また、特許文献2に開示されているような橋桁間に配置する鉛ダンパやオイルダンパは、大型になることが多く、狭隘な支承部周辺には配置できないこともある。
【0009】
そこで、本発明は、橋軸直交方向の橋桁の変位を制御できるうえに、支承部の周辺に狭隘な空間しか確保できないような橋梁にも適用が可能となる橋桁の変位制御構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の橋桁の変位制御構造は、地震時に橋桁の変位を制御する橋桁の変位制御構造であって、前記橋桁の橋軸直交方向の側面に端部を接触させる側面支持部材と、前記橋桁の支承部の前記橋軸直交方向に隣接して配置されて橋脚又は橋台に固定される台座部と、前記台座部の上に前記側面支持部材の下部をボルト接合させるボルト接合部とを備え、前記ボルト接合部では、前記橋桁から前記側面支持部材に作用する力が所定値を超えると滑りが生じて前記側面支持部材が移動することを特徴とする。
【0011】
ここで、前記台座部は、前記側面支持部材の移動後に露出する面が、前記橋桁を載せる前記支承部の支持面と略同じ高さとなるように形成されることが好ましい。また、前記台座部の上に形成される前記側面支持部材の移動後に露出する面は、前記支承部に向けて張り出されていることが好ましい。
【0012】
さらに、前記ボルト接合部は、前記台座部と前記側面支持部材との間に介在させる摩擦調整板を備えている構成とすることができる。前記摩擦調整板には、ボルトを挿通させるとともに一端が開放された長溝が形成される構成とすることができる。また、前記摩擦調整板には、ボルトを挿通させる前記ボルトの軸部より直径が大きな挿通孔が形成される構成とすることもできる。
【0013】
さらに、前記側面支持部材の端部は、前記橋桁の橋軸方向の変位に伴って前記側面支持部材が移動可能な形状に形成されるとともに、前記ボルト接合部では、前記橋桁から前記側面支持部材に作用する力の作用方向に応じて、前記橋軸方向又は前記橋軸直交方向の滑りが生じる構成とすることができる。また、前記側面支持部材の端部が摩擦面材によって形成されている構成であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明の橋桁の変位制御構造は、橋桁の橋軸直交方向の側面に端部を接触させるとともに、橋脚などに固定される台座部の上にボルト接合される側面支持部材を備えている。この側面支持部材は、橋桁から作用する力が所定値を超えると滑りが生じて移動することになる。
【0015】
このため、地震の規模に応じて、橋桁の変位を阻止したり、摩擦抵抗のある滑りで変位を抑制したりと、橋軸直交方向の橋桁の変位を制御することができる。さらに、支承部の周辺に狭隘な空間しか確保できない場合でも、台座部を設置するスペースがあれば、変位制御構造を設けることができる。
【0016】
また、側面支持部材の移動後に露出する面が、橋桁を載せる支承部の支持面と略同じ高さとなるように台座部が形成されていれば、段差防止装置と同様に、橋桁の移動後に軌道面などに段差が発生することを防ぐことができる。
【0017】
さらに、台座部の上に形成される側面支持部材の移動後に露出する面が、支承部に向けて張り出されていれば、橋桁の移動初期など早い段階で台座部に橋桁の自重が作用することになり、台座部に生じる引き抜き力の反力に利用することができる。
【0018】
また、台座部の上に側面支持部材の下部をボルト接合させるボルト接合部が、摩擦調整板を備える構成であれば、滑りが始まる作用力の所定値や橋桁の移動中の摩擦力の大きさを調整することが、容易にできるようになる。
【0019】
さらに、摩擦調整板のボルトを挿通させる長溝の一端が開放されていれば、側面支持部材の移動が大きくなっても、台座部を固定する橋脚などが損傷するような事態の発生を防ぐことができるようになる。
【0020】
また、摩擦調整板のボルトを挿通させる挿通孔が、ボルトの軸部より大きく形成されていれば、側面支持部材を橋軸直交方向だけでなく、あらゆる方向に移動させることができるようになる。
【0021】
さらに、側面支持部材及びボルト接合部を、橋軸方向及び橋軸直交方向の変位が可能な構成としておくことで、橋軸直交方向の変位を制御するだけでなく、橋軸方向の変位も制御できるようになる。
【0022】
また、側面支持部材の端部を摩擦面材によって形成することで、橋桁に橋軸方向の変位が生じた際に、橋桁と摩擦面材との間で発生する摩擦を伴った滑りによっても、減衰力を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施の形態の橋桁の変位制御構造の概要を示した説明図である。
図2】橋桁が台座部の上に移動した状態を示した説明図である。
図3】橋桁が台座部から落ちた状態を示した説明図である。
図4】大規模地震後に復旧された橋桁の変位制御構造を例示した説明図である。
図5】実施例1の橋桁の変位制御構造の構成を示した説明図である。
図6】実施例1の側面支持部材及び摩擦調整板の構成を説明する斜視図である。
図7】実施例2の橋桁の変位制御構造の構成を示した説明図である。
図8】実施例3の橋桁の変位制御構造の構成を示した説明図である。
図9】実施例4の橋桁の変位制御構造の構成を示した説明図である。
図10】実施例5の橋桁の変位制御構造の構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の橋桁の変位制御構造の概要を示した説明図である。
【0025】
本実施の形態の橋桁の変位制御構造は、橋梁の支承部2の支持面21に支持される橋軸方向に延びる橋桁1に対して設けられる。支承部2は、鉄筋コンクリートなどによって構築される橋梁の橋脚Mや橋台の上面に設けられる。以下では、橋脚Mの上面に設けられる支承部2を例に説明する。
【0026】
支承部2の橋軸直交方向R1の両側縁には、支持面21より上方に突出するブロック状のサイドブロック22が設けられている。通常は、支持面21に載置される橋桁1の橋軸直交方向R1の移動は、サイドブロック22によって制限される。
【0027】
本実施の形態では、下面を形成する下フランジ11と、下フランジ11に対して直交するウェブ12と、ウェブ12の両側に橋軸方向に間隔を置いて設けられる端補剛材13とを備えた、鋼製の橋桁1を例に説明する。なお、本実施の形態の橋桁の変位制御構造が適用できる橋桁の構成は、この鋼製の橋桁1に限定されるものではない。
【0028】
そして、このような橋桁1に対して、地震時に橋桁1の変位を制御するための橋桁の変位制御構造を設ける。本実施の形態の橋桁の変位制御構造は、橋桁1の橋軸直交方向R1の側面に端部33を接触させる側面支持部材3と、支承部2の橋軸直交方向R1に隣接して配置される台座部4と、台座部4の上面41に側面支持部材3の下部をボルト接合させるボルト接合部5とを備えている。
【0029】
台座部4は、鋼材や鋳物などによって製作されて、橋脚Mの上面に載置され、固定アンカー42によって橋脚Mに固定される。台座部4は、橋脚Mの上面の空きが少なければ底部を小さく形成して、上部を拡幅させることができる。すなわち、台座部4の上部を、支承部2に向けて張り出させるようにし、支承部2の支持面21と台座部4の上面41との離隔が、できるだけ少なくなるようにするのが好ましい。
【0030】
そして、その台座部4にボルト接合部5を介して取り付けられる側面支持部材3は、台座部4の上に配置される本体部31と、本体部31から橋桁1の側面に向けて張り出されるアーム部32と、アーム部32の先端に形成される端部33とを備えている。
【0031】
一方、ボルト接合部5は、台座部4と側面支持部材3とをボルト51の締結力によって接合させる。このボルト接合部5では、橋桁1から側面支持部材3に作用する力が所定値を超えると滑りが生じて、側面支持部材3が橋軸直交方向R1に移動することになる。
【0032】
本実施の形態の橋桁の変位制御構造は、地震の大きさ(規模)によって、目標とする機能が変化する。
(I)中規模までの地震の場合
中規模までの地震に対しては、ボルト接合部5で滑りを生じさせず、端補剛材13などの橋桁1の側面に接触させた側面支持部材3の端部33による制限で、橋桁1の桁ずれや支承部2のサイドブロック22などの損傷を防止する。
【0033】
すなわち、中規模より小さい地震の場合は、図1の左側に示した状態のように、橋桁1は橋軸直交方向R1に変位せず、側面支持部材3の端部33によって移動が制限された状態が維持される。要するに、中規模より小さい地震であれば、本実施の形態の橋桁の変位制御構造を設けたことによって、橋桁1の橋軸直交方向R1の変位は阻止されることになる。
【0034】
(II)中規模から大規模の地震の場合
中規模から大規模地震に対しては、ボルト接合部5の滑りを利用して、ボルト接合部5の摩擦力によって耐えうる水平力を頭打ちにしつつ桁ずれを抑制する。また、橋桁1の滑りによる橋軸直交方向R1の移動が、一定以上となったときには、台座部4の上方に露出する面を段差防止工として機能させ、橋桁1と段差防止工間の摩擦抵抗により、桁ずれを制御する。
【0035】
すなわち、中規模より大きな地震が起きると、図1の右側に示した状態のように、支承部2のサイドブロック22が破損して、橋桁1が橋軸直交方向R1に大きく移動する。地震力によって橋桁1に滑りが生じると、支承部2では、橋桁1の下フランジ11の下面と支持面21との間が滑り面111となり、橋桁1の自重が作用した状態での摩擦抵抗によって、地震力によるエネルギーを吸収させることができる。一方、台座部4と側面支持部材3との間のボルト接合部5においても、ボルトの締結力が作用した状態のままの滑りが発生し、地震力のエネルギーが吸収される。
【0036】
要するに、中規模以上の地震が起きた際に、本実施の形態の橋桁の変位制御構造が設けられていれば、地震力によるエネルギーが効果的に吸収されて、橋桁1の橋軸直交方向R1の変位を制御することができる。この滑りによって吸収させるエネルギーの大きさは、ボルト接合部5の滑り面の摩擦係数の大きさや、ボルトの締結力の大きさを調整することで調整することができる。
【0037】
ボルト接合部5の滑り面の摩擦係数の調整は、直接、台座部4の上面41や側面支持部材3の下面に対して行うこともできるが、後述するように摩擦調整板を介在させることで調整することもできる。滑り面は、フッ素樹脂(PTFE)板、ステンレス板、粗面、無機ジンクリッチペイント、赤錆状態などの仕上げ面の状態によって、摩擦係数を0.1~0.6程度の範囲で調整することができる。また、滑り面を凹凸面にすることで、さらに大きな摩擦抵抗を生じさせることもできる。
【0038】
一方、ボルトの締結力の大きさについては、ボルト軸力や、設置するボルト51の本数によって調整することができる。
【0039】
(III)大規模以上の地震の場合
大規模以上の地震に対しては、橋桁1と橋脚Mとの間の摩擦抵抗などを考慮して、橋桁1が橋脚Mの上面から落ちる落橋に至らないようにする。
【0040】
図2は、側面支持部材3が台座部4上から外れて、橋桁1の大半が台座部4の上に設けられた摩擦調整板52上に移動した状態を示している。側面支持部材3が外れてしまうと、ボルト接合部5の滑りによるエネルギー吸収は見込めなくなるが、摩擦調整板52と橋桁1の下面との間で生じる摩擦力によって、地震力のエネルギーを吸収させることができる。そして、大規模以上の地震が起きても、図3に示すように、台座部4から落ちた橋桁1が橋脚Mの上面に留まって、落橋に至らない状態にするのが望ましい。
【0041】
図4は、大規模地震後に復旧された橋桁の変位制御構造を例示した説明図である。大規模な地震が起きて支承部2のサイドブロック22が破損したとしても、支承部2の支持面21に橋桁1を戻したのちに、新たに梁状の側面支持部材3Aを設置することで、早急に復旧を行うことができる。
【0042】
一般的には、サイドブロック22が破損した場合、支承部2の交換が必要になるが、本実施の形態の橋桁の変位制御構造であれば、既設の支承部2と残った台座部4を利用して、台座部4の上に側面支持部材3Aを設置し、ボルト51で台座部4に接合してボルト接合部5Aとすることで、容易に復旧を行うことができる。
【0043】
要するに、支承部2のサイドブロック22が破損して消滅していても、側面支持部材3Aの端部33を橋桁1の側面に接触させることで、サイドブロック22と同様な水平力に対する抵抗部材とすることができる。
【0044】
次に、本実施の形態の橋桁の変位制御構造の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の橋桁の変位制御構造は、橋桁1の橋軸直交方向R1の側面に端部33を接触させるとともに、橋脚Mなどに固定される台座部4の上面41にボルト接合される側面支持部材3を備えている。この側面支持部材3は、橋桁1から作用する力が所定値を超えると滑りが生じて移動することになる。
【0045】
このため、地震の規模に応じて、橋桁1の変位を阻止したり、摩擦抵抗のある滑りで変位を抑制したりと、橋軸直交方向R1の橋桁1の変位を制御することができる。すなわち、滑りを利用して、地震により発生する水平力を低減させることができる。
【0046】
さらに、支承部2の周辺に狭隘な空間しか確保できない場合でも、台座部4を設置するスペースがあれば、変位制御構造を設けることができる。すなわち、台座部4は、設置するスペースの広さに合わせて設計することができるので、コンパクト化を図ることができる。
【0047】
また、側面支持部材3の移動後に露出する面が、橋桁1を載せる支承部2の支持面21と略同じ高さとなるように台座部4の上部が形成されていれば、段差防止装置と同様に、橋桁1の移動後に橋梁に敷設された軌道面などに段差が発生するのを防ぐことができる。ここで、側面支持部材3の移動後に露出する面は、台座部4の上面41にすることもできるし、摩擦調整板52の上面にすることもできる。
【0048】
さらに、台座部4の上に形成される側面支持部材3の移動後に露出する面が、支承部2に向けて張り出されていれば、橋桁1の移動初期など早い段階で台座部4に橋桁1の自重が作用することになり、台座部4に生じる引き抜き力の反力に利用することができる。
【0049】
すなわち、図1の右側に示した状態では、橋桁1に押された側面支持部材3の滑りにより、台座部4を固定する固定アンカー42が上方に引き抜かれるような力が作用することになる。この力が大きくなりすぎると、固定アンカー42が引き抜かれて、橋脚Mを損傷させることになる。これに対して、橋桁1が台座部4上に移動すると、台座部4を押し下げる力が橋桁1の自重によって作用して引き抜き力と相殺されることで、固定アンカー42の負荷が低減されて破損を防ぐことができる(図5参照)。
【0050】
また、台座部4の上面41と側面支持部材3の下部をボルト接合させるボルト接合部5が、摩擦調整板52を備える構成であれば、滑りが始まる作用力の所定値や橋桁1の移動中の摩擦力の大きさを調整することが、容易にできるようになる。
【実施例0051】
以下、前記した実施の形態の橋桁の変位制御構造の具体的な構成を示した実施例1について、図5,6を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0052】
図5は、実施例1の橋桁の変位制御構造の構成を示した説明図であり、図6は、実施例1の側面支持部材3B及び摩擦調整板52Bの構成を説明する斜視図である。台座部4の具体的な構成としては、長方形の鋼板によって形成される底面に固定アンカー42の頭部が定着され、台座部4の上面41に、長方形の板状の摩擦調整板52Bが、溶接などによって接合される。
【0053】
摩擦調整板52Bの滑り面となる上面は、設定したい摩擦係数に応じて、上述したような仕上げ面に形成される。また、摩擦調整板52Bには、ボルト51の軸部を挿通させるとともに一端が開放された長溝521が形成される。
【0054】
実施例1の摩擦調整板52Bに形成される長溝521は、橋軸直交方向R1に延伸されて、橋桁1と反対側の端部が開放されている。そして、この摩擦調整板52Bの上面に、側面支持部材3Bの本体部31の底板を重ねる。
【0055】
要するに実施例1のボルト接合部5Bは、台座部4の上に摩擦調整板52Bを介して側面支持部材3Bの底板(31)をボルト51によって接合させる。ボルト51の軸部は長溝521を通り、ボルト51の下端は摩擦調整板52Bの下面に定着され、ボルト51の上端は側面支持部材3の底板(31)の上面に定着される。
【0056】
例えば、橋軸方向に間隔を置いて配置される一対の鋼板によって形成されるアーム部32は、一端が本体部31に接合され、本体部31から張り出された先端に鋼板などによって端部33が形成される。この端部33の垂直面は、橋桁1の端補剛材13の側面に接触させる。
【0057】
中規模以上の地震が発生して、側面支持部材3Bの端部33が橋桁1によって所定値を超える力で押されると、ボルト51が側面支持部材3Bとともに長溝521に沿って移動する。そして、長溝521の開放された端部にまで到達したボルト51は、順に長溝521から抜け出すことになる。
【0058】
すなわち、側面支持部材3Bの橋軸直交方向R1の移動が大きくなっても、摩擦調整板52Bによってボルト51の移動が阻止されることはないので、摩擦調整板52Bが接合された台座部4にも、過大な力が作用するのを防ぐことができる。
【0059】
このように構成された実施例1の橋桁の変位制御構造では、摩擦調整板52Bのボルト51を挿通させる長溝521の一端が開放されているので、側面支持部材3Bの移動量が大きくなっても、台座部4を固定する固定アンカー42が引き抜けて橋脚Mなどが損傷するような事態の発生を防ぐことができる。
【0060】
また、台座部4の上面41に固定された摩擦調整板52Bは、橋桁1の下面との間においても、設計した摩擦力を発生させて、地震力によるエネルギーを吸収させることができる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例0061】
以下、前記した実施例1とは別の橋桁の変位制御構造の実施形態について、図7を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0062】
前記実施例1では、台座部4側に摩擦調整板52Bを設ける場合について説明したが、本実施例2では、側面支持部材3C側に摩擦調整板52Cを設ける場合について説明する。長方形の板状の摩擦調整板52Cは、溶接などによって側面支持部材3Cのアーム部32の下面に接合される。
【0063】
摩擦調整板52Cには、ボルト51の軸部を挿通させるとともに一端が開放された長溝522が形成される。実施例2の摩擦調整板52Cに形成される長溝522は、橋軸直交方向R1に延伸されて、橋桁1側の端部が開放されている。そして、この摩擦調整板52Cの下面に、台座部4Cの上面を形成する上面板411を重ねる。
【0064】
要するに実施例2のボルト接合部5Cは、台座部4Cの上面板411に摩擦調整板52Cを介して側面支持部材3Cをボルト51によって接合させる。ボルト51の軸部は長溝522を通り、ボルト51の上端は摩擦調整板52Cの上面に定着され、ボルト51の下端は台座部4Cの上面板411の下面に定着される。
【0065】
中規模以上の地震が発生して、側面支持部材3Cの端部33が橋桁1によって所定値を超える力で押されると、台座部4側に留まるボルト51に対して、側面支持部材3Cが長溝522をガイドにして移動する。そして、長溝522の開放された端部にまで到達したボルト51は、橋桁1側のボルト51から順に長溝522から抜け出すことになる。
【0066】
このように構成された実施例2の橋桁の変位制御構造においても、摩擦調整板52Cのボルト51を挿通させる長溝522の一端が開放されているので、側面支持部材3Cの移動量が大きくなっても、台座部4Cを固定する固定アンカー42が引き抜けて橋脚Mなどが損傷するような事態の発生を防ぐことができる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例0067】
以下、前記した実施例1,2とは別の橋桁の変位制御構造の実施形態について、図8を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0068】
実施例3の橋桁の変位制御構造では、側面支持部材3Dの端部33Dを橋桁1の側面に接触させるだけでなく、端部33Dを、橋桁1の橋軸方向R2の変位に伴って側面支持部材3Dが移動可能となる形状に形成する。
【0069】
詳細には、側面支持部材3Dの端部33Dに、橋桁1の端補剛材13を挟持可能な凹部331を設け、端補剛材13の側縁を凹部331に収容する。こうすることで、橋桁1が橋軸直交方向R1に移動したときだけでなく、橋軸方向R2に移動する場合にも、変位制御を行うことができるようになる。
【0070】
実施例3の側面支持部材3Dと台座部4との間に設けられるボルト接合部5Dは、橋軸直交方向R1にも、橋軸方向R2にも、滑りが生じるように形成される。詳細には、ボルト接合部5Dは、側面支持部材3D側に配置される摩擦調整板54と、台座部4側に設けられる摩擦調整板55と、上下の摩擦調整板54,55間に設けられる中間部53とを備えている。
【0071】
上方の摩擦調整板54には、ボルト51の軸部を挿通させるとともに、橋軸方向R2に延伸されて一端が開放された長溝541が形成される。そして、この摩擦調整板54の上面に、側面支持部材3Dの本体部31の底板を重ねて、ボルト51によって接合する。
【0072】
一方、下方の摩擦調整板55には、ボルト51の軸部を挿通させるとともに、橋軸直交方向R1に延伸されて一端が開放された長溝551が形成される。そして、この摩擦調整板55の上面に、中間部53の底板を重ねて、ボルト51によって接合する。
【0073】
そして、中規模以上の地震が発生して、橋桁1が橋軸直交方向R1に移動したときには、摩擦調整板55の長溝551に沿った滑りが生じることになる。また、橋桁1が橋軸方向R2に移動したときには、摩擦調整板54の長溝541に沿った滑りが生じることになる。
【0074】
このように構成された実施例3の橋桁の変位制御構造は、側面支持部材3D及びボルト接合部5Dが、橋軸方向R2及び橋軸直交方向R1の変位が可能な構成となっているので、橋軸直交方向R1の変位を制御するだけでなく、橋軸方向R2の変位も制御することができる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例0075】
以下、前記した実施例1-3とは別の橋桁の変位制御構造の実施形態について、図9を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0076】
実施例4の橋桁の変位制御構造では、上述した実施例3のボルト接合部5Dとは異なるボルト接合部5Eにすることによって、あらゆる方向の変位を制御できるようにする。詳細には、ボルト接合部5Eの摩擦調整板56に、挿通させるボルト51の軸部より直径が大きな挿通孔561を穿孔する。
【0077】
この摩擦調整板56は、台座部4Cの上面板411と側面支持部材3Dの本体部31との間に介在され、挿通孔561に軸部が通されたボルト51の上端は本体部31の上面に定着され、ボルト51の下端は上面板411の下面に定着される。
【0078】
中規模以上の地震が発生して、側面支持部材3Dの端部33Dが、凹部331に収容された橋桁1の端補剛材13によって所定値を超える力で押されると、挿通孔561内のボルト51の軸部が自由に移動できる範囲内で、側面支持部材3Dが移動する摩擦を伴った滑りが生じることになる。
【0079】
このように構成された実施例4の橋桁の変位制御構造は、摩擦調整板56のボルト51を挿通させる挿通孔561が、ボルト51の軸部より大きく形成されているので、側面支持部材3Dを橋軸直交方向R1だけでなく、あらゆる方向に移動させることができる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例0080】
以下、前記した実施例1-4とは別の橋桁の変位制御構造の実施形態について、図10を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0081】
実施例5の橋桁の変位制御構造では、側面支持部材3Eの端部33Eが摩擦面材となっている。すなわち、橋桁1の側面に接触させる端部33Eが、摩擦係数が調整された長方形の板状に形成されていて、橋桁1が橋軸方向R2に移動する際には、摩擦力によるエネルギー吸収が行われる。
【0082】
このように構成された実施例5の橋桁の変位制御構造は、側面支持部材3Eの端部33Eを、橋桁1の橋軸方向R2の変位を制限しない摩擦面材によって形成している。このため、橋桁1に橋軸方向R2の変位が生じた際に、橋桁1の側面と端部33Eの摩擦面材との間で発生する摩擦を伴った滑りによって、橋桁1の移動に対して減衰力を生じさせることができる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0083】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1 :橋桁
13 :端補剛材(側面)
2 :支承部
21 :支持面
3,3A-3E:側面支持部材
33,33D,33E:端部
4,4C:台座部
41 :上面
5,5A-5E:ボルト接合部
51 :ボルト
52,52B,52C:摩擦調整板
521,522:長溝
54,55:摩擦調整板
541,551:長溝
56 :摩擦調整板
561 :挿通孔
M :橋脚
R1 :橋軸直交方向
R2 :橋軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10