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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087476
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】把持具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/16 20060101AFI20230616BHJP
【FI】
B23B31/16 F
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201880
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西宮 民和
【テーマコード(参考)】
3C032
【Fターム(参考)】
3C032GG28
(57)【要約】
【課題】トップジョーの互換性を確保することができる把持具の製造方法を提供する。
【解決手段】把持具本体10に装着された複数のマスタージョー20が、中心軸に向かってスライドすることにより、各マスタージョーに装着されたトップジョー30で、ワークを把持する把持具の製造方法であって、マスタージョーの表面には、トップジョーをマスタージョーに装着したとき、トップジョーの中心軸からの距離を決める第1の位置決め部21、24が、スライド方向に対して垂直方向に形成されており、把持具本体に、複数のマスタージョーを装着する工程と、複数のマスタージョーを中心軸に向かってスライドさせて、成形プラグ70を把持する工程と、複数のマスタージョーの表面に、スライド方向に対して垂直方向に延びる第1の位置決め部を仕上げ加工する工程とを有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持具本体の前面に装着された複数のマスタージョーが、それぞれ中心軸に向かってスライドすることにより、ワークの中心が前記中心軸と一致するように、前記複数のマスタージョーにそれぞれ装着された複数のトップジョーで、前記ワークを把持する把持具の製造方法であって、
前記マスタージョーの表面には、前記トップジョーを前記マスタージョーに装着したとき、前記トップジョーの前記中心軸からの距離を決める第1の位置決め部が、前記スライド方向に対して垂直方向に形成されており、
前記把持具本体に、前記複数のマスタージョーを、それぞれ中心軸に向かってスライド可能に装着する工程と、
前記複数のマスタージョーを、それぞれ、中心軸に向かってスライドさせて、前記複数のマスタージョーで成形プラグを把持する工程と、
前記成形プラグを把持した状態で、前記複数のマスタージョーの表面に、それぞれ、前記マスタージョーのスライド方向に対して垂直方向に延びる前記第1の位置決め部を仕上げ加工する工程と
を有する、把持具の製造方法。
【請求項2】
前記第1の位置決め部は、前記スライド方向に対して垂直方向に形成されたセレーション、または、溝部からなる、請求項1に記載の把持具の製造方法。
【請求項3】
前記マスタージョーには、前記トップジョーを前記マスタージョーに装着したとき、前記トップジョーの前記スライド方向に対して垂直方向の位置を決める第2の位置決め部が、前記スライド方向に形成されており、
前記成形プラグを把持した状態で、前記複数のマスタージョーに、それぞれ、前記スライド方向に延びる前記第2の位置決め部を仕上げ加工する工程をさらに有する、請求項1または2に記載の把持具の製造方法。
【請求項4】
前記第2の位置決め部は、前記スライド方向に沿って形成された溝部または突起部からなる、請求項3に記載の把持具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のマスタージョーを中心軸に向かってスライドさせることにより、各マスタージョーに装着したトップジョーで、ワークを把持する把持具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤等でワークを回転させながら機械加工を行う際に、ワークを把持する装置(把持具)として、例えば、チャック等がある。
【0003】
チャックは、チャック本体の前面に設けられ、径方向にスライドするマスタージョーと、各マスタージョーに装着されて、ワークを把持するトップジョーとで構成されている。
【0004】
マスタージョー及びトップジョーの互いの当接面には、それぞれ、セレーション(断面が鋸歯状の連続した凹凸)が、マスタージョーのスライド方向に対して垂直方向に形成されている。トップジョーをマスタージョーに装着した際、これらセレーションが互いに噛み合って密接することにより、トップジョーは、マスタージョーに対して径方向に高精度に位置決めされた状態で固定される。
【0005】
トップジョーをマスタージョーに装着した際のワークの把持精度を高めるために、トップジョーをマスタージョーに装着した状態で、トップジョーの把持面を成形する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-110884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トップジョーをマスタージョーに装着した状態で、トップジョーの把持面を成形(機上成形)した場合、トップジョーを一旦取り外して、再度、マスタージョーに装着しても、ワークの把持精度は若干低下するものの許容範囲であるケースが多い。
【0008】
しかしながら、チャック本体、各マスタージョー、及びマスタージョーを径方向にスライドさせる部品(例えば、プランジャー)は、部品単体で製作されるため、同じ部品であっても部品寸法にはバラツキがある。従って、これらの部品を組立てた状態では、各部品寸法の累積誤差により、セレーションの位置や、セレーションが延びる方向の位置決め部の位置が各マスタージョーで違ってくる。
【0009】
トップジョーの把持面を機上成形すると、成形された把持面と、チャックの中心軸との距離は揃うものの、1つ1つ異なるマスタージョーの寸法ズレを補正するように、それぞれのトップジョーは異なった寸法で成形される。そのため、トップジョーを、機上成形したのと別のチャックのマスタージョーに装着すると、把持精度は殆どのケースで許容範囲を超えて大きく悪化する。また、機上成形したのと同じチャックのマスタージョーに装着する場合でも、別の位置のマスタージョーに装着すると、把持精度は大きく悪化する。
【0010】
従って、把持面を機上成形したトップジョーには、互換性がなく、同じワークを加工するにしても、チャックごとにトップジョーのセットが必要になるとともに、複数のトップジョーが、どの位置のマスタージョー用なのかを管理する必要がある。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、その主な目的は、トップジョーの互換性を確保することができる把持具の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る把持具の製造方法は、把持具本体の前面に装着された複数のマスタージョーが、それぞれ中心軸に向かってスライドすることにより、ワークの中心が中心軸と一致するように、複数のマスタージョーにそれぞれ装着された複数のトップジョーで、ワークを把持する把持具の製造方法であって、マスタージョーの表面には、トップジョーをマスタージョーに装着したとき、トップジョーの中心軸からの距離を決める第1の位置決め部が、スライド方向に対して垂直方向に形成されており、把持具本体に、複数のマスタージョーを、それぞれ中心軸に向かってスライド可能に装着する工程と、複数のマスタージョーを、それぞれ、中心軸に向かってスライドさせて、複数のマスタージョーで成形プラグを把持する工程と、成形プラグを把持した状態で、複数のマスタージョーの表面に、それぞれ、スライド方向に対して垂直方向に延びる第1の位置決め部を仕上げ加工する工程とを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、トップジョーの互換性を確保することができる把持具の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態におけるチャックの構成を模式的に示した断面図である。
図2】チャックの一部を示した斜視図である。
図3】Tナットの構成を示した斜視図である。
図4】トップジョーの構成を示した斜視図である。
図5】チャックの製造方法を説明した断面図である。
図6】チャックの製造方法を説明した斜視図である。
図7】セレーションの加工工程を説明した斜視図である。
図8】チャックの製造方法を説明した斜視図である。
図9】キー溝の加工工程を説明した斜視図である。
図10】本発明の第2の実施形態におけるセンタリングバイスの構成を模式的に示した断面図である。
図11】センタリングバイスの構成を模式的に示した斜視図である。
図12】センタリングバイスの一部を示した断面図である。
図13】センタリングバイスの製造方法を説明した斜視図である。
図14】セレーションの加工工程を説明した斜視図である。
図15】第1の実施形態の変形例におけるチャックの構成の一部を示した斜視図である。
図16】トップジョーの構成を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態におけるチャック(把持具)の構成を模式的に示した断面図である。
【0017】
チャック本体(把持具本体の一例)10には、複数(本実施形態では3つ)のマスタージョー20が放射状に等間隔で配置されている。マスタージョー20には、図3に示すTナット(連結部材)40を介して、トップジョー30が、ボルト60により、着脱可能に取り付けられている。
【0018】
チャック本体10には、中心軸J方向にスライドするプランジャー50が内蔵されている。プランジャー50のスライドに連動して、各マスタージョー20は、スライド方向(図中のA方向)に、中心軸Jに向かってスライドする。これにより、マスタージョー20に取り付けられたトップジョー30の把持面33で、ワークが把持される。
【0019】
マスタージョー20の表面には、図2に示すように、セレーション21が、スライド方向に対して垂直方向(図中のB方向)に延びるように形成されている。セレーション21は、断面形状が連続した略三角形の凹凸からなる一群の線状凸部及び線状凹部で構成されている。また、マスタージョー20には、断面形状が略T字型で、スライド方向(図中のA方向)に延びる溝部22が形成されている。
【0020】
本実施形態において、マスタージョー20の表面に形成されたセレーション21は、トップジョー30をマスタージョー20に装着したとき、トップジョー30の中心軸Jからの距離を決める「第1の位置決め部」に相当する。また、マスタージョー20に形成された溝部22は、トップジョー30をマスタージョー20に装着したとき、トップジョー30のスライド方向に対して垂直方向の位置を決める「第2の位置決め部」に相当する。
【0021】
Tナット40は、図3に示すように、横断面が略T形状をした角柱状部材からなり、幅広部41と幅狭部42とを有する。Tナット40は、幅狭部42が、マスタージョー20の溝部22に沿って挿入される。
【0022】
トップジョー30は、図4に示すように、マスタージョー20と当接する面に、セレーション31が、スライド方向(図中のA方向)に対して垂直方向(図中のB方向)に延びるように形成されている。このセレーション31は、マスタージョー20に形成されたセレーション21に合わせて形成されており、互いに噛み合って密接することにより、トップジョー30のスライド方向、及び、中心軸J方向の位置決めがされる。これにより、把持面33における中心軸Jからの距離が決まる。
【0023】
また、トップジョー30には、スライド方向に延びるキー溝32が形成されており、トップジョー30は、キー溝32に、Tナット40の幅狭部42を嵌め込むことにより、トップジョー30のスライド方向に対して垂直方向の位置決めがされる。これにより、把持面33におけるスライド方向に対して垂直方向の位置が決まる。
【0024】
次に、図5図9を参照しながら、本実施形態におけるチャック(把持具)の製造方法について説明する。本実施形態におけるチャック(把持具)の製造方法は、マスタージョー20に対して、上述した第1の位置決め部(セレーション21)、及び第2の位置決め部(溝部22)の仕上げ加工を行うことを特徴とする。
【0025】
まず、チャック本体10に、複数のマスタージョー20を、それぞれ中心軸Jに向かってスライド可能に装着する。具体的には、チャック本体10に、マスタージョー20に連結され、中心軸J方向にスライドするプランジャー50を内蔵させ、プランジャー50のスライドに連動して、各マスタージョー20を、中心軸Jに向かってスライドさせることができる。
【0026】
次に、複数のマスタージョー20を装着したチャック本体10を、ボルト62を用いて、成形用治具72に取り付ける。
【0027】
次に、プランジャー50に取り付けた成形プラグ把持用ボルト63を、レンチで回して、プランジャー50を中心軸J方向に移動させることにより、複数のマスタージョー20を、中心軸Jに向かってスライドさせて、複数のマスタージョー20で成形プラグ70を把持する。このとき、レンチによる操作は、成形プラグ70の中心に設けられたレンチ挿入用孔70aを介して行う。その後、レンチ挿入用孔70aに防塵用カバー71を取り付ける。
【0028】
次に、図6に示すように、チャック本体10が取り付けられた成形用治具72を、5軸加工機(回転軸、傾斜軸、X軸、Y軸、Z軸)73に、ボルト61で取り付ける。このとき、チャック本体10の中心軸Jと、5軸加工機73の回転軸Jとを正確に合わせる(一致させる)。5軸加工機の代わりに、例えば、3軸のマシニングセンタ(X軸、Y軸、Z軸)と二軸のNC円テーブル(回転軸、傾斜軸)等の組み合わせを用いてもよい。本実施形態では、成形用工具の回転軸は、Z軸と平行である。
【0029】
次に、マスタージョー20の仕上げ加工を行うために、チャック本体10の中心軸JがY軸と平行になるように、5軸加工機73を動作させ、傾斜軸Jを割り出す。これによって、チャック本体10の中心軸Jと成形用工具の回転軸は垂直となる。
【0030】
次に、マスタージョー20のスライド方向がZ軸と平行になるように、回転軸Jを割り出す。ここで、回転軸Jの割り出しと傾斜軸Jの割り出しとは、同時に行ってもよいし、回転軸Jを先に割り出してもよい。
【0031】
図7に示すように、成形プラグ70を把持した状態で、マスタージョー20の表面に、成形用工具80を回転させながら、X軸方向と平行な方向(マスタージョー20のスライド方向に対して垂直方向)に動作させてセレーション21を仕上げ加工(機上成形)する。
【0032】
マスタージョー20が3つの場合、5軸加工機73の回転軸Jを120°ずつ割り出しながら、各マスタージョー20に対して、セレーション21を仕上げ加工すればよい。
【0033】
次に、図8に示すように、チャック本体10の中心軸JがZ軸と平行になるように、傾斜軸Jを割り出す。そして、図9に示すように、成形プラグ70を把持した状態で、マスタージョー20に、成形用工具81を回転させながら、スライド方向に動作させて溝部22を仕上げ加工(機上成形)する。このとき、溝部22の中心が中心軸Jに向かうように仕上げ加工する。
【0034】
マスタージョー20が3つの場合、5軸加工機73の回転軸Jを120°ずつ割り出しながら、各マスタージョー20に対して、溝部22を仕上げ加工すればよい。
【0035】
なお、5軸加工機等の工作機械は、ロストモーション(動作方向の違いよる位置決め誤差)による微小な加工位置のズレが発生する。この加工寸法の誤差を最小化するためには、全てのマスタージョーの溝部22を、同じ方向から仕上げ加工するのが望ましい。そのため、回転軸Jを割り出すことによって、同じ方向からの仕上げ加工が可能になる。
【0036】
また、別の方法として、回転軸Jを割り出すことなく必要な仕上げ加工の精度が得られる場合は、X軸とY軸との制御によって、各溝部22を仕上げ加工してもよい。
【0037】
本実施形態によれば、成形プラグ70を把持した状態で、複数のマスタージョー20の表面に、それぞれ、マスタージョーのスライド方向に対して垂直方向に延びるセレーション(第1の位置決め部)21を仕上げ加工することによって、全てのマスタージョー20におけるセレーション21の、中心軸Jに対する相対位置、すなわち、中心軸Jからの距離(半径位置)、及び中心軸J方向の位置を揃えることができる。
【0038】
また、成形プラグ70を把持した状態で、複数のマスタージョー20に、それぞれ、スライド方向に延びる溝部(第2の位置決め部)22を仕上げ加工することによって、全てのマスタージョー20における溝部22の、スライド方向に対して垂直方向の中心軸Jに対する相対位置を揃えることができる。
【0039】
これにより、他のチャック(把持具)で把持面33を機上成形したトップジョー30を別のチャックのマスタージョー20に取付けても、ワークの把持精度を良好に維持でき、トップジョー30の互換性を確保することができる。加えて、トップジョー30に互換性があるので、1台のチャックにおいて、複数あるマスタージョー20間で機上成形したトップジョー30を入替えることができる。
【0040】
本実施形態においては、チャック本体10に、複数のマスタージョー20を装着した状態で、複数のマスタージョー20を、それぞれ、中心軸Jに向かってスライドさせて成形プラグ70を把持した後、その状態で、複数のマスタージョー20に、セレーション(第1の位置決め部)21及び溝部(第2の位置決め部)22を仕上げ加工することが重要である。
【0041】
セレーション21及び溝部22の加工自体は、5軸加工機に限定されるものではなく、公知の割出装置(ロータリーテーブル、NC円テーブル、インデックステーブル等)と平面研削盤、マシニングセンタ、又はフライス盤等を組み合わせて、セレーション21及び溝部22の加工位置を割出しながら行えばよい。また、セレーション21及び溝部22の仕上げ加工をそれぞれ別の工作機械で行ってもよい。ただし、セレーション21及び溝部22は直線状であるので、これらを旋盤で仕上げ加工することはできないため、セレーション21及び溝部22を仕上げ加工する工作機械としては、直線状に加工可能な工作機械であることが必要である。
【0042】
また、本実施形態において、セレーション21及び溝部22の加工順序は、特に限定されず、溝部22を仕上げ加工した後、セレーション21を仕上げ加工してもよい。また、マスタージョー20毎に、セレーション21及び溝部22の仕上げ加工を繰り返し行ってもよい。
【0043】
また、一般的に、成形用工具80及び成形用工具81は、加工やドレッシング(砥石の場合)によって摩耗するため、複数あるマスタージョー20の寸法を揃えるには、仕上げ加工を回転軸による1回の割り出しで完成させずに、複数回に分けて仕上げ加工するのが好ましい。このとき、複数あるマスタージョー20のセレーション21を順番に少しずつ仕上げ加工し、それを繰り返すのが好ましい。
【0044】
また、セレーション21の仕上げ加工のみで必要なワークの把握精度が得られる場合は、溝部22の仕上げ加工を機上成形しなくてもよく、部品単体で仕上げ加工すればよい。
【0045】
また、本実施形態では、複数のマスタージョー20を装着したチャック本体10を、成形用治具72に取り付けた後、5軸加工機73に取り付けたが、成形用治具72を5軸加工機73に取り付けた後、複数のマスタージョー20を装着したチャック本体10を、成形用治具72に取り付けてもよい。
【0046】
また、成形プラグ70を、複数のマスタージョー20で把持するために行うプランジャー50の移動を、成形プラグ把持用ボルト63を用いて行う代わりに、シリンダやアクチュエータを用いて行ってもよい。これにより、成形プラグ70を自動で把持することが可能となる。
【0047】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、第1の実施形態の把持具がチャックであるのに対して、センタリングバイスである。
【0048】
図10は、本発明の第2の実施形態におけるセンタリングバイス(把持具)の構成を模式的に示した断面図で、図11は、センタリングバイスの斜視図である。
【0049】
図10及び図11に示すように、バイス本体10(把持具本体の一例)の案内溝に、一対のマスタージョー20が嵌合して配置されている。一対のマスタージョー20には、それぞれ、図12に示すように、連結部材45を介して、トップジョー30が着脱可能に取り付けられる。
【0050】
一対のマスタージョー20の内部には、それぞれ、右ねじ91及び左ねじ92のねじ面が形成されている。バイス本体10の案内溝内には、一対のマスタージョー20に形成された右ねじ91及び左ねじ92と螺合するねじ面が形成されたスピンドル90が配置されている。
【0051】
スピンドル90を回転させることによって、一対のマスタージョー20は、それぞれ、中心軸Jに向かってスライドする。これにより、一対のマスタージョーに取り付けられた一対のトップジョー30が、中心軸Jに向かって移動し、トップジョー30の把持面33でワークを把持することができる。
【0052】
マスタージョー20の表面には、セレーション21が、スライド方向(図中のA方向)に対して垂直方向(図中のB方向)に延びるように形成されている。また、図12に示すように、マスタージョー20には、スライド方向に延びる溝部22が形成されている。
【0053】
本実施形態において、マスタージョー20の表面に形成されたセレーション21は、トップジョー30をマスタージョー20に装着したとき、トップジョー30の中心軸Jからの距離を決める「第1の位置決め部」に相当する。また、マスタージョーに形成された溝部22は、トップジョー30をマスタージョー20に装着したとき、トップジョー30のスライド方向に対して垂直方向の位置を決める「第2の位置決め部」に相当する。
【0054】
トップジョー30は、マスタージョー20と当接する面に、セレーション31が、スライド方向に対して垂直方向に延びるように形成されている。このセレーション31は、マスタージョー20に形成されたセレーション21に合わせて形成されており、互いに噛み合って密接することにより、トップジョー30のスライド方向、及び、中心軸J方向の位置決めがされる。これにより、把持面33における中心軸Jからの距離が決まる。
【0055】
また、トップジョー30には、スライド方向に延びるキー溝32が形成されており、トップジョー30は、キー溝32に、連結部材45を嵌め込むことにより、トップジョー30のスライド方向に対して垂直方向が位置決めされる。
【0056】
次に、図13及び図14を参照しながら、本実施形態におけるセンタリングバイス(把持具)の製造方法について説明する。本実施形態におけるセンタリングバイス(把持具)の製造方法は、マスタージョー20に対して、上述した第1の位置決め部(セレーション21)、及び第2の位置決め部(溝部22)の仕上げ加工を行うことを特徴とする。
【0057】
まず、バイス本体10に、複数のマスタージョー20を、それぞれ中心軸Jに向かってスライド可能に装着する。具体的には、バイス本体10の案内溝内に、マスタージョー20に形成された右ねじ91及び左ねじ92と螺合するねじ面が形成されたスピンドル90を内蔵させ、スピンドル90を回転させることによって、各マスタージョー20を、中心軸Jに向かってスライドさせることができる。
【0058】
次に、成形用治具72を5軸加工機(不図示)に取り付ける。
【0059】
次に、図13に示すように、一対のマスタージョー20を装着したバイス本体10を、成形用治具72に取り付ける。このとき、バイス本体10の中心軸Jと、5軸加工機の回転軸とを正確に合わせる(一致させる)。
【0060】
次に、スピンドル90を回転させて、一対のマスタージョー20を、中心軸Jに向かってスライドさせて、一対のマスタージョー20で成形プラグ70を把持する。
【0061】
次に、マスタージョー20の仕上げ加工を行うために、セレーション21が加工可能な姿勢になるように、5軸加工機の傾斜軸を割り出しておく。
【0062】
図14に示すように、成形プラグ70を把持した状態で、5軸加工機の回転軸を180°割り出しながら、各マスタージョー20の表面に、成形用工具80を用いて、スライド方向に対して垂直方向に延びるセレーション21を仕上げ加工する。
【0063】
次に、溝部22が加工可能な姿勢になるように、5軸加工機の傾斜軸を割り出し後、成形プラグ70を把持した状態で、マスタージョー20に、成形用工具(不図示)を用いて、スライド方向に延びる溝部22を仕上げ加工する。このとき、溝部22の中心が中心軸Jに向かうように仕上げ加工する。
【0064】
本実施形態によれば、成形プラグ70を把持した状態で、一対のマスタージョー20の表面に、それぞれ、スライド方向に対して垂直方向に延びるセレーション(第1の位置決め部)21を仕上げ加工することによって、一対のマスタージョー20におけるセレーション21の、中心軸Jに対する相対位置、すなわち、中心軸Jからの距離(半径位置)、及び中心軸J方向の位置を揃えることができる。
【0065】
また、成形プラグ70を把持した状態で、一対のマスタージョー20に、それぞれ、スライド方向に延びる溝部(第2の位置決め部)22を仕上げ加工することによって、一対のマスタージョー20における溝部22の、中心軸Jに対する相対位置(スライド方向に対して垂直方向の位置)を揃えることができる。
【0066】
これにより、他のセンタリングバイス(把持具)で機上成形したトップジョー30を別のセンタリングバイスのマスタージョー20に取付けても、ワークの把持精度を良好に維持でき、トップジョー30の互換性を確保することができる。加えて、トップジョー30に互換性があるので、1台のセンタリングバイスにおいて、一対のマスタージョー20間で機上成形したトップジョー30を入替えることができる。
【0067】
本実施形態においては、第1の実施形態と同様に、バイス本体10に、一対のマスタージョー20を装着した状態で、一対のマスタージョー20を、それぞれ、中心軸Jに向かってスライドさせて成形プラグ70を把持した後、その状態で、一対のマスタージョー20に、セレーション(第1の位置決め部)21及び溝部(第2の位置決め部)22を仕上げ加工することが重要である。
【0068】
セレーション21及び溝部22の加工自体は、5軸加工機に限定されるものではなく、様々な工作機械に適宜、公知の割出装置(ロータリーテーブル、NC円テーブル、インデックステーブル等)を搭載して、セレーション21及び溝部22の加工位置を割出しながら行えばよい。
【0069】
また、加工精度を確保できる場合は、2つの溝部22は一直線上となるため、途中で割り出しをせずに、2つを連続して仕上げ加工を行ってもよい。
【0070】
(第1の実施形態の変形例)
第1の実施形態におけるチャック(把持具)では、トップジョー30の中心軸Jからの距離を決める第1の位置決め部として、各マスタージョー20に、スライド方向に対して垂直方向に延びるセレーション21を形成した。また、トップジョー30のスライド方向に対して垂直方向の位置を決める第2の位置決め部として、各マスタージョー20に、スライド方向に延びる溝部22を形成した。
【0071】
本変形例では、図15に示すように、トップジョー30の中心軸Jからの距離を決める第1の位置決め部として、各マスタージョー20のスライド方向(図中のA方向)中央部に、スライド方向に対して垂直方向(図中のB方向)に延びる溝部24が形成されている。また、トップジョー30のスライド方向に対して垂直方向の位置を決める第2の位置決め部として、各マスタージョー20の中央部に、スライド方向に延びる突起部25が形成されている。
【0072】
一方、トップジョー30には、図16に示すように、各トップジョー30のスライド方向(図中のA方向)中央部に、スライド方向に対して垂直方向(図中のB方向)に延びる突起部のキー部34が形成されている。また、各トップジョー30の中央部に、スライド方向に延びるキー溝35が形成されている。
【0073】
マスタージョー20の取付面26に、トップジョー30の取付面36を密着させて、マスタージョー20の溝部24の側面24aに、トップジョー30のキー部34の側面34aを密着させて、マスタージョー20の溝部24に、トップジョー30のキー部34を嵌め込むことにより、トップジョー30のスライド方向、及び、中心軸J方向の位置決めがされる。これにより、把持面33における中心軸Jからの距離が決まる。
【0074】
また、突起部25の側面25aに、キー溝35の側面35aを密着させて、マスタージョー20の突起部25に、トップジョー30のキー溝35を嵌め込むことにより、トップジョー30のスライド方向に対して垂直方向の位置決めがされる。これにより、把持面33におけるスライド方向に対して垂直方向の中心軸Jに対する位置が決まる。
【0075】
本変形例における各マスタージョー20の仕上げ加工は、溝部24の側面24a、取付面26、及び突起部25の側面25aに対して行われる。これらの仕上げ加工は、第1の実施形態と同様に、工作機械に公知の割出装置(ロータリーテーブル、NC円テーブル、インデックステーブル等)を搭載して、溝部24及び突起部25の加工位置を割出しながら行えばよい。
【0076】
なお、本変形例では、割出装置として、第1の実施形態で用いたような高価な5軸加工機を使用する必要はなく、3軸のマシニングセンタと1軸のNC円テーブルとを組み合わせたものでもよい。また、精度の良いマシニングセンタだけを使用してもよい。
【0077】
すなわち、チャック本体10に、複数のマスタージョー20を、それぞれ中心軸Jに向かってスライド可能に装着した後、複数のマスタージョー20を、それぞれ、中心軸Jに向かってスライドさせて、複数のマスタージョーで成形プラグ70を把持する。そして、成形プラグ70を把持した状態で、複数のマスタージョー20の表面に、それぞれ、スライド方向に対して垂直方向に延びる溝部24、及び、スライド方向に延びる突起部25を仕上げ加工すればよい。
【0078】
本変形例によれば、成形プラグ70を把持した状態で、複数のマスタージョー20の表面に、それぞれ、スライド方向に対して垂直方向に延びる溝部(第1の位置決め部)24を仕上げ加工することによって、全てのマスタージョー20における溝部24の、中心軸Jからの距離(半径位置)を揃えることができる。
【0079】
また、成形プラグ70を把持した状態で、複数のマスタージョー20に、それぞれ、スライド方向に延びる突起部(第2の位置決め部)25の中心が中心軸Jに向かうように側面25aと取付面26を仕上げ加工することによって、全てのマスタージョー20における突起部25の、スライド方向に対して垂直方向の位置、及び中心軸J方向の位置を揃えることができる。
【0080】
これにより、他のチャック(把持具)で機上成形したトップジョー30を別のチャックのマスタージョー20に取付けても、ワークの把持精度を良好に維持でき、トップジョー30の互換性を確保することができる。加えて、トップジョー30の互換性があるので、1台のチャックにおいて、複数あるマスタージョー20間で機上成形したトップジョー30を入替えることができる。
【0081】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態及び変形例では、マスタージョー20に、それぞれ、第1の位置決め部(セレーション21、溝部24)、及び、第2の位置決め部(溝部22、突起部25)を形成したが、例えば、角形ワークのように、スライド方向に対して垂直方向の位置決め精度がさほど重要でない場合には、第2の位置決め部を機上成形しなくてもよい。この場合、第2の位置決め部は、マスタージョー単体に仕上げ加工すればよい。
【0082】
また、上記実施形態では、ワークを把持する把持具として、チャック及びセンタリングバイスを例示したが、これに限定されず、複数のマスタージョー20に、それぞれ、中心軸Jからの距離が位置決めされた状態で装着されたトップジョー30でワークを把持する、センタリング機能を有する把持具であればよい。
【0083】
また、上記第1の実施形態、及びその変形例、並びに第2の実施形態における仕上げ加工によって、切削液や加工粉塵が把持具内部に侵入することがあるので、必要に応じて、仕上げ加工工程の後に、把持具を構成する部品を分解及び洗浄する工程を入れて、その後に、最終的に把持具を組み立てる工程を行ってもよい。
【符号の説明】
【0084】
10 チャック本体、バイス本体 (把持具本体)
20 マスタージョー
21 セレーション(第1の位置決め部)
22 溝部(第2の位置決め部)
24 溝部(第1の位置決め部)
24a 溝部の側面
25 突起部 (第2の位置決め部)
25a 突起部の側面
26 取付面
30 トップジョー
31 セレーション
32 キー溝
33 把持面
34 キー部
34a キー部の側面
35 キー溝
35a キー溝の側面
36 取付面
40 Tナット(連結部材)
41 幅広部
42 幅狭部
45 連結部材
50 プランジャー
60~62 ボルト
63 成形プラグ把持用ボルト
70 成形プラグ
71 防塵用カバー
72 成形用治具
73 5軸加工機
80、81 成形用工具
90 スピンドル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2023-05-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持具本体に形成される溝内を径方向に移動し、軸方向端面にトップジョーが装着される複数のマスタージョーを備えた把持具であって、前記複数のマスタージョーが、それぞれ中心軸に向かってスライドすることにより、ワークの中心が前記中心軸と一致するように、前記複数のマスタージョーにそれぞれ装着され複数の前記トップジョーで、前記ワークを把持する把持具の製造方法であって、
前記マスタージョーの表面には、前記トップジョーを前記マスタージョーに装着したとき、前記トップジョーの前記中心軸からの距離を決める第1の位置決め部が、前記スライド方向に対して垂直方向に形成されており、
前記把持具本体の前記溝内に、前記複数のマスタージョーを、それぞれ中心軸に向かってスライド可能に装着する工程と、
前記複数のマスタージョーを、それぞれ、中心軸に向かってスライドさせて、前記複数のマスタージョーで成形プラグを把持する工程と、
前記成形プラグを把持した状態で、前記複数のマスタージョーの表面に、それぞれ、前記マスタージョーのスライド方向に対して垂直方向に延びる前記第1の位置決め部を仕上げ加工する工程と
を有する、把持具の製造方法。
【請求項2】
前記第1の位置決め部は、前記スライド方向に対して垂直方向に形成されたセレーション、または、溝部からなる、請求項1に記載の把持具の製造方法。
【請求項3】
把持具本体の前面に装着された複数のマスタージョーが、それぞれ中心軸に向かってスライドすることにより、ワークの中心が前記中心軸と一致するように、前記複数のマスタージョーにそれぞれ装着された複数のトップジョーで、前記ワークを把持する把持具の製造方法であって、
前記マスタージョーの表面には、前記トップジョーを前記マスタージョーに装着したとき、前記トップジョーの前記中心軸からの距離を決める第1の位置決め部が、前記スライド方向に対して垂直方向に直線状に形成されており、
前記マスタージョーには、前記トップジョーを前記マスタージョーに装着したとき、前記トップジョーの前記スライド方向に対して垂直方向の位置を決める第2の位置決め部が、前記スライド方向に形成されており、
前記把持具本体に、前記複数のマスタージョーを、それぞれ中心軸に向かってスライド可能に装着する工程と、
前記複数のマスタージョーを、それぞれ、中心軸に向かってスライドさせて、前記複数のマスタージョーで成形プラグを把持する工程と、
前記成形プラグを把持した状態で、前記複数のマスタージョーの表面に、それぞれ、前記マスタージョーのスライド方向に対して垂直方向に延びる前記第1の位置決め部を仕上げ加工する工程と、
前記成形プラグを把持した状態で、前記複数のマスタージョーに、それぞれ、前記スライド方向に延びる前記第2の位置決め部を仕上げ加工する工程と、
を有し、
前記第2の位置決め部は、前記スライド方向に沿って形成された溝部または突起部からなる、把持具の製造方法。