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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087494
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】抗感染処置に用いるための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/47 20060101AFI20230616BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230616BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230616BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230616BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230616BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
A61K31/47 ZNA
A61P31/00
A61P31/04
A61P29/00
A61P43/00 111
A61P31/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201903
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】501048930
【氏名又は名称】株式会社 バイオミメティクスシンパシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】漆畑 直樹
(72)【発明者】
【氏名】隠岐 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】吉原 誠一
(72)【発明者】
【氏名】大西 啓介
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB32
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新たな抗感染性の作用を有する組成物を提供すること。
【解決手段】上記目的を達成するため、一側面において、本発明は以下を提供する。抗感染処置に用いるための組成物であって、前記組成物は、以下の式で表される化合物又はその塩を含む、組成物。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗感染処置に用いるための組成物であって、
前記組成物は、以下の式で表される化合物又はその塩を含む、組成物。
【化1】
{ただし、
1は、NH又はCH2であり、
2は、N-R8又はCH-R8(R8:H、又はC1~C4までのアルキル基)であり、
3は、F、Cl、Br、又はIであり、
4は、それぞれ独立して、H又はC1~C2までのアルキル基であり、
5は、S又はOであり、
6は、カルボキシル基であり、
7は、NH2、又はC1~C2までのアルキル基であり、
nは、1-11である。}
【請求項2】
請求項1の組成物であって、前記化合物が、以下の式で表される、組成物。
【化2】
{ただし、
1は、NHであり、
2は、N-R8(R8:C1~C3までのアルキル基)であり、
3は、F、Cl、Br、又はIであり、
4は、それぞれ独立して、H又はCH3であり、
5は、Oであり、
6は、カルボキシル基であり、
7は、NH2であり、
nは、1-11である。}
【請求項3】
請求項1又は2の組成物であって、前記抗感染処置が、細菌に感染したときの抗炎症性作用を引き起こすための処置である、組成物。
【請求項4】
請求項3の組成物であって、前記細菌がグラム陽性細菌である、組成物。
【請求項5】
請求項3の組成物であって、前記細菌がグラム陰性細菌である、組成物。
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項に記載の組成物であって、前記抗感染処置が、炎症性サイトカイン遺伝子の発現を抑制するための処置である、組成物。
【請求項7】
請求項6の組成物であって、前記炎症性サイトカイン遺伝子がIL-1β及び/又はTNFαである、組成物。
【請求項8】
請求項1~5いずれか1項に記載の組成物であって、前記抗感染処置が、抗炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強するための処置である、組成物。
【請求項9】
請求項8の組成物であって、前記抗炎症性サイトカイン遺伝子がIL-10である、組成物。
【請求項10】
請求項1又は2の組成物であって、前記抗感染処置が、ウイルスに感染したときのインターフェロンの発現を増強させるための処置である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗感染処置に用いるための組成物に関する。より具体的には、本開示は、特定の有効成分を含む、抗感染処置に用いるための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類等は免疫システムを獲得しており、細菌、及び、ウイルスに感染すると、様々な免疫応答を示す。最も典型的な免疫応答の1つとして炎症反応がある。炎症反応には、生体内で分泌される炎症性サイトカインが関与する。一方で、生体には、炎症を鎮める作用として、抗炎症性サイトカインを分泌する機能がある。両者のバランスが崩れると、過剰な炎症反応が起こり、生体に様々な悪影響を及ぼす。
【0003】
特許文献1では、抗炎症活性を有するペプチドが開示されている。具体的には、特許文献1では、炎症性サイトカインの発現を抑制するペプチドが開示されており、その抑制対象として、TNF-α(tumor necrosis factor-α)、IL-2及びINF-γが例示されている。
【0004】
また、感染後に放出される炎症性サイトカインの一種であるIL-6によって、血管内皮細胞から血栓を溶かす因子を阻害する因子(線溶阻害因子という)であるPAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)が放出され、血管に血栓が出来やすくなってしまうことが明らかになっている(非特許文献1)。あるいは敗血症においても、播種性血管内凝固症候群という血栓が全身で多発する症状が見受けられる。これらの例からも解るように、感染症と血栓形成には密接な関係があり、実際にCOVID-19に伴う肺障害・呼吸不全に対して、PAI-1阻害剤が第2相臨床試験が終了次第、早期承認を目指す、という段階まで進んでいる(非特許文献2)。しかし、この薬はPAI-1を阻害するための薬剤であり、薬剤投与以前に引き起こされた肺障害・呼吸不全に対しては、患者本人の自然治癒力に任されてしまうという問題も抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2019-510077号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】https://www.pnas.org/content/117/36/22351
【非特許文献2】https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/21/09/13/08625/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
感染が起こった際に、望まれるのは、生体内において抗感染性の反応を誘導することである。こうした目的で、これまで、様々な組成物が開発されてきたが、いまだに改良の余地が残されている。そこで、本開示は、新たな抗感染性の作用を有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が検討したところ、特定の化合物が、ある特定の抗感染性を誘発するのに有効であることを見出した。本発明はこうした知見に基づいて完成され、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
抗感染処置に用いるための組成物であって、
前記組成物は、以下の式で表される化合物又はその塩を含む、組成物。
【化1】
{ただし、
1は、NH又はCH2であり、
2は、N-R8又はCH-R8(R8:H、又はC1~C4までのアルキル基)であり、
3は、F、Cl、Br、又はIであり、
4は、それぞれ独立して、H又はC1~C2までのアルキル基であり、
5は、S又はOであり、
6は、カルボキシル基であり、
7は、NH2、又はC1~C2までのアルキル基であり、
nは、1-11である。}
(発明2)
発明1の組成物であって、前記化合物が、以下の式で表される、組成物。
【化2】
{ただし、
1は、NHであり、
2は、N-R8(R8:C1~C3までのアルキル基)であり、
3は、F、Cl、Br、又はIであり、
4は、それぞれ独立して、H又はCH3であり、
5は、Oであり、
6は、カルボキシル基であり、
7は、NH2であり、
nは、1-11である。}
(発明3)
発明1又は2の組成物であって、前記抗感染処置が、細菌に感染したときの抗炎症性作用を引き起こすための処置である、組成物。
(発明4)
発明3の組成物であって、前記細菌がグラム陽性細菌である、組成物。
(発明5)
発明3の組成物であって、前記細菌がグラム陰性細菌である、組成物。
(発明6)
発明1~5いずれか1つに記載の組成物であって、前記抗感染処置が、炎症性サイトカイン遺伝子の発現を抑制するための処置である、組成物。
(発明7)
発明6の組成物であって、前記炎症性サイトカイン遺伝子がIL-1β及び/又はTNFαである、組成物。
(発明8)
発明1~5いずれか1つに記載の組成物であって、前記抗感染処置が、抗炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強するための処置である、組成物。
(発明9)
発明8の組成物であって、前記抗炎症性サイトカイン遺伝子がIL-10である、組成物。
(発明10)
発明1又は2の組成物であって、前記抗感染処置が、ウイルスに感染したときのインターフェロンの発現を増強させるための処置である、組成物。
(発明11)
発明1又は2の組成物であって、前記抗感染処置が、血管内皮細胞が炎症性サイトカインに曝露された際に発現上昇されるPAI-1遺伝子の発現を抑制するための、組成物。
【発明の効果】
【0009】
一実施形態において、本開示の組成物は、上記式で表される化合物を含む。これにより、抗感染性の作用を誘発することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態において、本開示の組成物が、グラム陰性細菌に感染したときの炎症性サイトカイン及び抗炎症性サイトカインの遺伝子の発現に影響を及ぼすことを示す。
図2】一実施形態において、本開示の組成物が、網羅的遺伝子発現解析から特定の遺伝子発現を制御することを示す。
図3】一実施形態において、本開示の組成物が、インスリンシグナル経路とは異なる経路にて遺伝子発現を抑制することを示す。
図4】一実施形態において、本開示の組成物が、HGFシグナル経路とは異なる経路にて遺伝子発現を抑制することを示す。
図5】一実施形態において、本開示の組成物が、グラム陽性細菌に感染したときの炎症性サイトカイン及び抗炎症性サイトカインの遺伝子の発現に影響を及ぼすことを示す。
図6】一実施形態において、本開示の組成物が、ウイルスに感染したときのインターフェロンの遺伝子の発現に影響を及ぼすことを示す。
図7】一実施形態において、本開示の組成物が、インスリンシグナル経路とは異なる経路にて遺伝子発現を抑制することを示す。
図8】一実施形態において、本開示の組成物が、炎症性サイトカインTNFα刺激による血管内皮細胞でのPAI-1の発現亢進を抑制することを示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0012】
1.有効成分
一実施形態において、本開示は、ある有効成分を含む組成物に関する。前記有効成分は、以下の構造式で表される化合物又はその塩である。
【0013】
【化3】
{ただし、
1は、NH又はCH2であり、
2は、N-R8又はCH-R8(R8:H、又はC1~C4までのアルキル基)であり、
3は、F、Cl、Br、又はIであり、
4は、それぞれ独立して、H又はC1~C2までのアルキル基であり、
5は、S又はOであり、
6は、カルボキシル基であり、
7は、NH2、又はC1~C2までのアルキル基であり、
nは、1-11である。}
【0014】
塩の形態は特に限定されず、ナトリウム塩、カリウム塩等であってもよい。
【0015】
好ましい実施形態において、上記化合物は、以下の式で表される化合物又はその塩であってもよい。
【0016】
【化4】
{ただし、
1は、NHであり、
2は、N-R8(R8:C1~C3までのアルキル基)であり、
3は、F、Cl、Br、又はIであり、
4は、それぞれ独立して、H又はCH3であり、
5は、Oであり、
6は、カルボキシル基であり、
7は、NH2であり、
nは、1-11である。}
【0017】
最も好ましい実施形態において、上記化合物は、以下の式で表される化合物(CAS番号 836620-48-5)又はその塩であってもよい。
【0018】
【化5】
2.組成物としての他の成分
上述した一実施形態において、組成物は、上述した化合物のほかに、適宜他の成分を含んでもよい。応用形態にもよるが、例えば、組成物は、以下の成分のうち1種以上を含んでもよい。
pH調整剤(例えば、リン酸バッファ、トリスバッファ等)
無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等)
糖類(例えば、ラクトース、スクロース等)
賦形剤(例えば、水、精製水、アルコール、グリセリン、乳糖、デンプン、デキストリン、白糖、沈降シリカ等)
【0019】
また、組成物は、固体の形態でもよく、或いは、液体の形態であってもよい。液体の場合には、溶媒は特に限定されず、水であってもよく、有機溶媒であってもよい。
【0020】
3.抗感染性作用
一実施形態において、本開示の組成物は、抗感染処置に用いる。抗感染処置は、特に限定されないが、例えば、抗炎症処置、抗ウイルス感染処置などが挙げられる。抗炎症処置の具体的な例としては、炎症性サイトカイン遺伝子(例えば、IL-1β及び/又はTNFα)の発現を抑制するための処置、及び/又は、抗炎症性サイトカイン遺伝子(例えば、IL-10)の発現を増強するための処置などが挙げられる。また、抗ウイルス感染処置の具体的な例としては、ウイルスに感染したときのインターフェロンの発現を増強させるための処置が挙げられる。
【0021】
また、感染を引き起こす感染源については、特に限定されないが、典型的には、細菌、及び/又は、ウイルスが挙げられる。
【0022】
細菌についても、特に限定されず、グラム陽性菌であってもよく、グラム陰性菌であってもよい。グラム陰性菌についても、特に限定されず、例えば、LPS(lipopolysaccharide)を有する細菌が挙げられる。一方、グラム陽性菌についても、特に限定されず、例えば、LTA(Lipoteichoic acid)を有する細菌が挙げられる。
【0023】
ウイルスについても、特に限定されず、DNAウイルスでもよく、或いは、RNAウイルスであってもよい。また、1本鎖ウイルスであってもよく、或いは、2本鎖ウイルスであってもよい。さらには、逆転写型のウイルスであってもよい。また、1本鎖RNAウイルスの場合には、(+)型であってもよく、(-)型であってもよい。
【0024】
4.対象となる遺伝子
一実施形態において、本開示の組成物は、その有効成分の作用により、特定の遺伝子の発現を増強することができる。例えば、本開示の組成物は、以下から選択される1種以上の遺伝子の発現を増強することができる。
・抗ウイルス活性を有する遺伝子(例えば、インターフェロン、好ましくは、I型インターフェロン、更に好ましくは、インターフェロンβ)
【0025】
別の一実施形態において、本開示の組成物は、以下から選択される1種以上の遺伝子の発現を抑制することができる。
・炎症性サイトカイン遺伝子(例えば、TNFα、IL-1β等)
【0026】
更に別の一実施形態において、本開示の組成物は、以下から選択される1種以上の遺伝子の発現を促進することができる。
・抗炎症性サイトカイン遺伝子(例えば、IL-10等)
【0027】
また、上述した遺伝子は、ヒト型でも他の動物種であってもよいが、好ましくは、ヒト型である。
【0028】
4-1.抗ウイルス活性を有する遺伝子
細胞がウイルスに感染したとき、細胞は、他の細胞等においてウイルスの感染を抑制する因子を分泌する機能を有する。こうしたウイルスの感染を抑制する因子として、インターフェロンが挙げられる。インターフェロンは、I型、II型、III型に分類される。
【0029】
一実施形態において、本開示の組成物は、インターフェロンの遺伝子の発現を促進する。好ましくは、本開示の組成物は、I型インターフェロンの遺伝子の発現を促進し、更に好ましくは、インターフェロンβの遺伝子の発現を促進する。これにより、抗ウイルス活性が誘発される。
【0030】
4-2.炎症性サイトカイン
炎症性サイトカインは、生体内における様々な炎症症状を引き起こす原因因子として関与する。一実施形態において、本開示の組成物は、炎症性サイトカインの遺伝子の発現を抑制する。炎症性サイトカインの遺伝子の例としては、TNFα、IL-1β等が挙げられる。
【0031】
4-3.抗炎症性サイトカイン
上記の炎症性サイトカインとは逆となるが、抗炎症性サイトカインは、炎症症状を抑制する働きをもつサイトカインである。一実施形態において、本開示の組成物は、抗炎症性サイトカインの遺伝子の発現を促進する。抗炎症性サイトカインの遺伝子の例としては、IL-10等が挙げられる。
【0032】
従って、一実施形態において、本開示の組成物は、炎症を抑制する方向に作用することができる。
【0033】
5.対象となる組織又は細胞
一実施形態において、本開示の組成物は、特定の細胞に作用させることを目的として使用されてもよい。例えば、本開示の組成物は、免疫細胞に作用させることができる。免疫細胞の例として、白血球細胞(例えば、マクロファージやT細胞)などが挙げられる。
【実施例0034】
以下では、上記実施形態に関連する更なる具体的な例を示す。上記の実施形態と同様、以下の例は、本発明の理解を促進する目的で記載されるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0035】
THP-1(ヒト単球系白血病細胞株)を用いた。THP-1を、12 well plate(Corning,3336)の各ウェルに300,000cells/mLで1mL/ウェルの分量で播種し、当該細胞はRPMI-1640(Gibco,11875-093)+10%FBS(SIGMA,F7524)の血清培地で24時間培養した(37℃、5%CO2)。その際、マクロファージ分化を促すため、PMA(ホルボール12-ミリスタート13-アセタート)(100nM)を添加した。24時間後、PMAを除くためにRPMI-1640+10%FBS培地に培地交換し、さらに、DMSOに溶解したAS1842856を最終濃度1μMになるように投与した。また、同時にLPSを最終濃度1.0μg/mLになるように投与した。LPSは、グラム陰性菌の感染状態を模するため投与した。また、よりヒトでの感染を模すため、1.0μg/mLのLPSを先に投与し、感染状態にした後に、AS1842856を添加した。具体的にはLPSを投与してから8時間後にAS1842856を投与した。
【0036】
AS1842856の投与に対するコントロールとして、同じ量のDMSO(Vehicle)を投与した。また、LPSの投与に対するコントロールとして、同じ量のPBS(-)を投与した。
【0037】
同時投与の場合、投与後、24時間培養を継続後、細胞からRNAを回収した。LPSの先投与の場合、LPS添加時より24時間培養を継続後、細胞からRNAを回収した。より具合的には、培養後、ReliaPrep RNA Miniprep system(Promega,Z6012)を用いて細胞からTotal RNAを抽出した。抽出後、500ngのRNAを用いてcDNA合成(PrimeScript RT Master Mix;Takara,RR036A)を行い、更に、定量的PCR(Thunderbird Sybr qPCR Mix;TOYOBO,QPS-201X5)を行った。
【0038】
cDNA合成のためのミクスチャは以下の組成に従って調製した。
5xPrimeScript RT Master Mix 2μl(最終濃度 1 x)
Total RNA 500ng
RNase free H2O 合計10μlに調整
【0039】
上記ミクスチャを、Applied Biosystems社のVeriti 96 well Thermal Cyclerを用いて、以下の条件で処理した。
37℃ 15分

85℃ 5秒

4℃ ∞
【0040】
合成したcDNA(10μl)は90μlのTE(10mM Tris-HCl pH8.0+1mM EDTA pH8.0)を用いて10倍に希釈した。当該希釈物を、定量PCRに供した。
【0041】
定量PCRの具体的手順として、当該希釈物を、以下の条件で混合した。
2×THUNDERBIRD Probe qPCR Mix 10μl
5mM Forward Primer 0.4μl
5mM Reverse Primer 0.4μl
2O 8.2μl
cDNA(10倍希釈) 1μl
【0042】
上記混合物を、Bio-Rad社のCFX-Connectを用いて、cDNAを増幅させた。PCRサイクルの条件は以下の通りであった。
1.95℃ 1分 (初期変性)
2.95℃ 15秒 (変性)
3.60℃ 30秒 (伸長)
(2-3のステップを40回繰り返し、ステップ3が終わるたびに蛍光シグナルを検出)
4.65℃~95℃まで0.5℃刻みで温度を上昇させ、5秒ずつ温度を保持してから蛍光シグナルを検出
【0043】
上記サイクルにて、PCR産物の検出を行い、併せて、Melting curveによるPCR産物の単一性の確認を行った。
【0044】
内部標準(すべての細胞・条件において同じ発現をしているハウスキーピング遺伝子)として、GAPDH(lycerldehyde 3-hosphate ydrogenase)を用いた。
各遺伝子を検出するためのプライマー配列は以下の通りであった。
GAPDH Forward primer: 5’ - agccacatcgctcagacac - 3’
GAPDH Reverse primer: 5’ - gcctaatacgaccaaatcc - 3’
TNFα Forward primer: 5’ - cagcctcttctccttcctgat - 3’
TNFα Reverse primer: 5’ - gccagagggctgattagaga - 3’
IL-1β Forward primer: 5’ - tacctgtcctgcgtgttgaa - 3’
IL-1β Reverse primer: 5’ - tctttgggtaatttttgggatct - 3’
IL-10 Forward primer: 5’ - gatgccttcagcagagtgaa - 3’
IL-10 Reverse primer: 5’ - gcaacccaggtaacccttaaa - 3’
【0045】
全てのプライマーは株式会社ファスマックから購入した(逆相カラム精製グレード)。
各遺伝子の発現量は、定量PCRで得られた各遺伝子の発現量を、さらにGAPDHの発現量で割って標準化したものを示している。さらに、AS1842856で処理をしておらず、且つLPSで処理していないコントロール条件(DMSO処理)での発現量を「1」になるように標準化している。以上のプライマーを用いて増幅したPCR産物は全て単一のものであること(つまり、同一のプライマーで、複数種類の配列が増幅されていないこと)をMelting curveによって確認した。
【0046】
結果を図1に示す。まず、THP-1細胞において、LPSを投与すると、炎症性サイトカイン遺伝子(TNFα、IL-1β)の発現が上昇することが示された(黒色のバーにおけるCtrlとLPSを比較しながら図1を参照)。また、LPSを投与すると、抗炎症性サイトカイン遺伝子(IL-10)の発現も上昇することが示された。ただし、上昇の度合いは、炎症性サイトカインほど顕著ではなかった。一方で、AS1842856の投与により、炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β)の発現が抑制されることが示された(灰色のバーにおけるVehicleとAS1842856の値を比較しながら図1を参照)。同時に、AS1842856の投与により、抗炎症性サイトカイン(IL-10)の発現が増強されることが示された。さらに、8時間後にAS1842856を添加した場合でも、同時添加とほとんど同様に炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β)の発現が抑制され、さらに興味深いことに抗炎症性サイトカイン(IL-10)はむしろ発現がさらに亢進することが示された。
【実施例0047】
次に、本開示の組成物AS1842856によって炎症・抗炎症サイトカイン以外のどのような遺伝子(群)が発現制御されるのか、網羅的遺伝子発現解析を行った(図2)。網羅的遺伝子発現解析にはThermoFisher社のIon ProtonTMを用い、AmpliSeqという手法を使用し、約2万遺伝子の発現解析を行った。発現解析に用いたサンプルは、上記実験(図1の同時処理)で回収したRNAであり、実験操作は全てマニュアル通りに行った。各遺伝子の発現量は、RPM(eads er illion reads)で補正している。まずLPS刺激によって発現量が2倍以上に上昇する遺伝子をピックアップし、次にそれら遺伝子のうち、LPS刺激による発現量と比べて、AS1842856によって発現量がさらに2倍以上、あるいは1/2以下に減少するものを「AS1842856によって制御される遺伝子」と定義し、それら遺伝子がどのような機能を担っているか、GO解析(Gene Ontology解析)にて検討した。GO解析には“https://go.princeton.edu/cgi-bin/GOTermFinder”というパブリックWebサイトを使用した。結果を図2に示す。非常に興味深いことに、LPS刺激で発現上昇する遺伝子の中で、AS1842856の処理によってさらに2倍以上発現が上昇する遺伝子群の中で、生体防御機構やウイルス防御機構などの「体の防衛システム」に関する遺伝子群が特にエンリッチされていることが明らかになった。この結果は、LPS刺激の下流で発現上昇する多くの「体の防衛システム」に関する遺伝子の発現を、AS1842856がさらに促進するということを意味しており、この結果からもAS1842856が抗感染症に良い影響を与えることは明らかである。
【0048】
一方、LPS刺激で発現上昇する遺伝子の中で、AS1842856の処理によって発現が1/2以下に抑制される遺伝子群の中では、特に銅・亜鉛イオンシグナル伝達経路に関与する遺伝子群の発現が抑制されていることが明らかになった(図2)。詳しく調べてみると、銅・亜鉛シグナルは炎症反応と密接な関係が知られており(例;https://www.mdpi.com/1422-0067/18/10/2197/htm)、AS1842856はこの金属イオンシグナル伝達経路を特に制御することで炎症を抑制している可能性がある。
【0049】
以上の網羅的遺伝子発現解析の結果は、AS1842856が単にTNFα、IL-1βやIL-10の発現だけを制御しているというわけではなく、生体防御機構全般、及び銅・亜鉛イオンシグナルを介した炎症反応の制御を通じて、炎症を抑制し抗炎症を促進している可能性を強く支持するものである。
【実施例0050】
実施例1と同様の試験を行った。ただし、AS1842856を投与したパターン、コントロールとしてのDMSOのみを投与したパターンに加えて、インスリン(10μg/mL)を投与したパターンのサンプルを加えた。結果を図3に示す。AS1842856を投与したパターン、コントロールとしてのDMSOのみを投与したパターンでは、実施例1と同様の結果を示した。一方で、インスリンを投与したパターンでは、DMSOのみを投与したパターンに近い傾向を示した。
【実施例0051】
実施例1と同様の試験を行った。ただし、AS1842856を投与したパターン、コントロールとしてのDMSOのみを投与したパターンに加えて、PBSを投与したパターンと、HGF(10ng/mL)を投与したパターンのサンプルを加えた。結果を図4に示す。AS1842856を投与したパターン、及び、コントロールとしてのDMSOのみを投与したパターンでは、実施例1と同様の結果を示した。一方で、PBSを投与したパターン、及び、HGFを投与したパターンでは、DMSOのみを投与したパターンに近い傾向を示した。
【0052】
AS1842856は、転写因子FoxO1阻害作用があることが知られている。また、インスリンシグナル及びHGFシグナルの下流には、転写因子FoxO1が関与しており、これらのリガンドからのシグナルにより転写因子が不活性化されることが知られている。
【0053】
こうした知見を踏まえて、図3及び図4を参照すると、インスリン及びHGFの投与は、炎症性サイトカイン遺伝子及び抗炎症性サイトカインの発現に影響を及ぼしていないか、或いは、その影響は著しく小さい。このことは、転写因子FoxO1の転写活性の調整自体は、これらの遺伝子の発現に大きく影響しないことを示唆している。そして、実施例3~4の結果は、AS1842856が、転写因子FoxO1の阻害作用とは異なる、新規のメカニズムにより、炎症性サイトカインの遺伝子及び抗炎症性サイトカインの遺伝子の発現に影響を与えていることを示唆している。
【0054】
さらに言えば、DMSO投与したサンプルと、PBS投与したサンプルとで、遺伝子の発現パターンに違いがないことから、DMSOの投与そのものが影響する可能性は低い。
【実施例0055】
実施例1と同様の試験を行った。ただし、LPSの投与に代えて、最終濃度が1.0μg/mL、又は、10μg/mLになるようにLTA(ipoeichoic cid;リポタイコ酸)を投与した。LTAはグラム陽性菌の細胞壁表面に局在し、LTA刺激によってグラム陽性菌感染を模することが可能である。また、投与後からRNA回収を開始するまでの時間を8時間とした。結果を図5に示す。LTA投与でも、LPS投与と同様の結果が得られた。即ち、LTA投与により、炎症性サイトカインの発現量が増加した。ただし、LPS投与とは違って、LTA投与による、抗炎症性サイトカインの発現量の増加は見られなかった。また、AS1842856の投与によって、炎症性サイトカインの発現量が抑制され、同時に、抗炎症性サイトカインの発現量が増加した。この結果は、AS1842856の影響が、グラム陰性菌による感染を原因とする発現だけでなく、グラム陽性菌による感染を原因とする発現にも影響を及ぼすことを示す。
【実施例0056】
実施例1と同様の試験を行った。ただし、LPSの投与に代えて、最終濃度が10μg/mL、又は、50μg/mLになるようにPoly I:C(Polyinosinic-polycytidylic acid sodium salt)を投与した。これは、二本鎖RNAであり、細胞がウイルスに感染したときに生じる二本鎖RNAと同様の機能を果たす。また、投与してからRNAを回収するまでの時間を8時間にした。さらには、発現量を解析する対象としての遺伝子を、抗ウイルス活性に関連するIFNβに変更した。IFNβの発現量を解析するために、以下の配列のプライマーを用いた。
IFNβ Forward primer: 5’ - ctgccaggacccatatgtaa - 3’
IFNβ Reverse primer: 5’ - gctacatctgaatgacctgc - 3’
【0057】
結果を図6に示す。Poly I:C刺激により、抗ウイルス活性に寄与するIFNβの遺伝子の発現量が増加した。しかし、AS1842856の投与により、IFNβの遺伝子の発現量が更に増強された。
【0058】
実施例6の結果は、ウイルス感染によって引き起こされる抗ウイルス活性が、AS1842856の投与により強化されることを示す。
【実施例0059】
実施例1と同様の試験を行った。ただし、AS1842856を投与したパターン、コントロールとしてのDMSOのみを投与したパターンに加えて、インスリン(10μg/mL)を投与したパターンのサンプルを加えた。さらに、投与時間を48時間に延長した。また、LPSなどの感染を模する刺激はしなかった。結果を、図7に示す。AS1842856を投与したパターンと、コントロールとしてのDMSOのみを投与したパターンとを比べると、AS1842856投与により、IFBβの発現量が増加した。一方で、インスリンを投与したパターンと、コントロールとしてのDMSOのみを投与したパターンとを比べると、インスリン投与により、IFNβの発現量が減少した。
【0060】
実施例7の結果は、AS1842856投与による作用が、転写因子FoxO1の阻害作用とは異なる、新規のメカニズムにより、抗ウイルス活性に影響を与えていることを示唆している。
【実施例0061】
細菌感染やウイルス感染時には免疫細胞などから炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β)の発現が上昇することは明らかである。これらの炎症性サイトカインは、血管内皮細胞に作用すると、炎症性サイトカインのIL-6や、線溶阻害因子であるPAI-1の発現を上昇させ、さらに炎症を広げつつ、血栓形成を誘導することが知られている(https://www.nature.com/articles/srep39501)。そこで、炎症性サイトカインによる血管内皮細胞への影響について、AS1842856がどのように作用するかについても検討を行った。
【0062】
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC;Takara,C-12208)を準備した。当該細胞は、内皮細胞増殖培地(Endothelial Cell Growth Medium 2 Kit,Takara,C-22111)を用いて継代及び維持した。
【0063】
HUVECを12 well plate(Corning,3336)の各ウェルに6,000cells/cm2で播種し、一晩培養した。翌日(播種後16~24時間)、AS1842856を複数の濃度(10nM、100nM、1μM)で添加し、又はその溶媒として用いたDMSOをコントロールとして加えた。その直後、10ng/mlのTNFα(PeproTech,AF-300-01A)、又はコントロールとしてPBS(-)を添加し、1日(約24時間)培養した。培養後、ReliaPrep RNA Miniprep system(Promega,Z6012)を用いてHUVECからTotal RNAを抽出した。抽出後、500ngのRNAを用いてcDNA合成(PrimeScript RT Master Mix;Takara,RR036A)を行い、更に、定量的PCR(Thunderbird Sybr qPCR Mix;TOYOBO,QPS-201X5)を行った。
【0064】
各遺伝子を検出するためのプライマー配列は以下の通りであった。
GAPDH Forward primer: 5’ - agccacatcgctcagacac - 3’
GAPDH Reverse primer: 5’ - gcctaatacgaccaaatcc - 3’
PAI-1 Forward primer: 5’ - ccagctgacaacaggaggag - 3’
PAI-1 Reverse primer: 5’ - cccatgagctccttgtacagat - 3’
【0065】
線溶阻害因子PAI-1の遺伝子発現に関する結果を図8に示す。まずDMSO存在下において、コントロールであるPBS(-)と比較して、TNFα(10ng/ml)処理をすると、PAI-1のmRNAの発現が顕著に亢進した。一方、AS1842856を添加した場合には、TNFα(10ng/ml)処理によるPAI-1のmRNAの発現上昇が、AS1842856の濃度依存的に抑制されることが観察された。この結果は、血管内皮細胞が炎症性サイトカインを受け取ることで、線溶阻害因子を発現させることで血栓の溶解を阻害してしまうことを、AS1842856が抑制できる可能性を示唆している。
【0066】
以上、発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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