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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087504
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】電子線照射装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/065 20060101AFI20230616BHJP
   H01J 37/063 20060101ALI20230616BHJP
   H01J 37/18 20060101ALI20230616BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20230616BHJP
   G21K 1/00 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
H01J37/065
H01J37/063
H01J37/18
G21K5/04 E
G21K1/00 E
G21K5/04 F
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201918
(22)【出願日】2021-12-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】永井 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】木村 寿男
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA39
5C101BB08
5C101CC12
5C101DD08
5C101DD25
5C101DD26
5C101DD38
(57)【要約】
【課題】シールドリングの周囲の電界の影響を抑えることを可能とした電子線照射装置を提供する。
【解決手段】電子線照射装置は、電子線を加速させる電界を生じさせるための複数の加速電極を軸L1方向に並設してなる加速管13と、加速管13の径方向外側において加速電極と対をなすように軸L1方向に複数並設され、対をなす加速電極とそれぞれ電気的に接続されてなるシールドリング40と、を備える。また、電子線照射装置は、複数のシールドリング40からなるリング群40Gの径方向外側を囲う導電性のシールド部材50を備える。シールド部材50は、リング群40Gにおける軸L1方向の少なくとも一部分を囲っている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を加速させる電界を生じさせるための複数の加速電極を軸方向に並設してなる加速管と、
前記加速管の径方向外側において前記加速電極と対をなすように前記軸方向に複数並設され、対をなす前記加速電極とそれぞれ電気的に接続されてなるシールドリングと、
を備える電子線照射装置であって、
前記複数のシールドリングからなるリング群の径方向外側を囲う導電性のシールド部材を備え、
前記シールド部材は、前記リング群における前記軸方向の少なくとも一部分を囲っている、
電子線照射装置。
【請求項2】
前記加速管に電力を供給する電源装置と、
前記加速管、前記リング群、前記シールド部材及び前記電源装置を収容する圧力タンクと、を備える、
請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記シールド部材は、前記圧力タンクに電気的に接続されて該圧力タンクと同電位とされている、
請求項2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記加速管は、前記加速管の軸方向の一端部に熱電子を放出する熱電子放出部を備え、
前記加速管の軸方向において、前記熱電子放出部が設けられる端部側を上段側とし、その反対側を下段側として、
前記加速管は、加速した電子線を前記下段側の端部から放出し、
前記圧力タンクは、前記加速管の前記下段側の端部から放出される電子線を前記圧力タンクの外部に出射するための出射口を有している、
請求項3に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記シールド部材は、前記リング群の前記軸方向の一部分を囲っており、
前記シールド部材は、前記リング群における少なくとも最下段の前記シールドリングの径方向外側を囲っている、
請求項4に記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記シールド部材は、前記リング群における前記軸方向の全体を囲っている、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項7】
前記シールド部材は、前記シールド部材の内周側から外周側にかけて貫通する熱放出孔を有している、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子線照射装置は、生成した電子線を被照射物に照射する装置である。電子線照射装置は、被照射物の例えば素材の性質改善や機能付加、殺菌・滅菌を図る目的等で用いられている。電子線照射装置の中でも走査型の電子線照射装置は、真空中でフィラメントから生じた熱電子を収束及び加速させて電子線とする加速管を備えている(例えば特許文献1参照)。加速管の軸方向の一端部には、フィラメントが設けられている。また、加速管には、複数の加速電極が軸方向等間隔に並設されている。複数の加速電極には、フィラメントから離間する加速電極ほど次第に高い電圧が印加される。これにより、加速管内において、電子線を加速させるための電界が生じる。
【0003】
また、特許文献1の電子線照射装置は、加速管の周囲に電界緩和用のシールドリングを有している。シールドリングは、複数の加速電極にそれぞれ対応して複数設けられている。各シールドリングは、対応する加速電極に対し同電位となるように電気的に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2-119399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような電子線照射装置において、加速管ならびにシールドリングの周囲には、例えば前記フィラメント及び加速電極に電圧を供給する昇圧回路が発する不安定な電界が生じるおそれがある。すると、その不安定な電界が、加速管内における電子線を加速させるための電界に影響を及ぼし、その結果、所望する電子線の特性が得られなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、シールドリングの周囲の電界の影響を抑えることを可能とした電子線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する電子線照射装置は、電子線を加速させる電界を生じさせるための複数の加速電極を軸方向に並設してなる加速管と、前記加速管の径方向外側において前記加速電極と対をなすように前記軸方向に複数並設され、対をなす前記加速電極とそれぞれ電気的に接続されてなるシールドリングと、を備える電子線照射装置であって、前記複数のシールドリングからなるリング群の径方向外側を囲う導電性のシールド部材を備え、前記シールド部材は、前記リング群における前記軸方向の少なくとも一部分を囲っている。
【0008】
この構成によれば、シールドリングの周囲の不安定な電界が加速管に与える影響を、シールド部材によって抑制することが可能となる。これにより、加速管にて加速される電子線の所望する特性を得やすくなり、その結果、例えば、電子線照射装置の性能の安定化に寄与できる。
【0009】
上記電子線照射装置は、前記加速管に電力を供給する電源装置と、前記加速管、前記リング群、前記シールド部材及び前記電源装置を収容する圧力タンクと、を備える。
この構成によれば、圧力タンク内において、電源装置から不安定な電界が発せられ、その不安定な電界が加速管の周囲に影響を及ぼす場合がある。その点、上記構成によれば、電源装置で生じる不安定な電界が加速管に与える影響を、シールド部材によって好適に抑制することが可能となる。
【0010】
上記電子線照射装置において、前記シールド部材は、前記圧力タンクに電気的に接続されて該圧力タンクと同電位とされている。
この構成によれば、シールド部材を圧力タンクと同電位とすることで、シールド部材の内側における加速管の周囲の電界を好適に安定させることが可能となる。
【0011】
上記電子線照射装置において、前記加速管は、前記加速管の軸方向の一端部に熱電子を放出する熱電子放出部を備え、前記加速管の軸方向において、前記熱電子放出部が設けられる端部側を上段側とし、その反対側を下段側として、前記加速管は、加速した電子線を前記下段側の端部から放出し、前記圧力タンクは、前記加速管の前記下段側の端部から放出される電子線を前記圧力タンクの外部に出射するための出射口を有している。この構成によれば、加速管から放出される電子線を、出射口を通じて圧力タンクの外部に出射させることが可能となる。
【0012】
上記電子線照射装置において、前記シールド部材は、前記リング群の前記軸方向の一部分を囲っており、前記シールド部材は、前記リング群における少なくとも最下段の前記シールドリングの径方向外側を囲っている。
【0013】
この構成によれば、シールド部材とシールドリングとの電位差は上段側ほど大きい。したがって、シールド部材がリング群における下段側の一部分を囲う構成とすることで、シールドリングとシールド部材との間における、放電によるショートの発生を抑制することが可能となる。
【0014】
上記電子線照射装置において、前記シールド部材は、前記リング群における前記軸方向の全体を囲っている。
この構成によれば、シールドリングの周囲の不安定な電界が加速管に与える影響を、シールド部材によってより効果的に抑制することが可能となる。
【0015】
上記電子線照射装置において、前記シールド部材は、前記シールド部材の内周側から外周側にかけて貫通する熱放出孔を有している。
この構成によれば、例えば加速電極で生じる熱を効率的にシールド部材の外側に排出することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電子線照射装置は、シールドリングの周囲の電界の影響を抑える効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態における電子線照射装置の概略構成図である。
図2】同形態における電子線照射装置の概略構成を示す模式平面図である。
図3】同形態における加速管ユニットを示す模式側面図である。
図4】同形態における加速管ユニットを示す模式平面図である。
図5】変更例における加速管ユニットを示す模式平面図である。
図6】変更例における加速管ユニットを示す模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、電子線照射装置の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0019】
[電子線照射装置の全体構成]
図1に示す本実施形態の電子線照射装置10は、走査型の電子線照射装置である。電子線照射装置10は、熱電子の放出を行う例えばタングステン製のフィラメント11を備えている。フィラメント11は、電源装置30に含まれるフィラメント用電源12からの電源供給に基づく自身の加熱により電子を放出する。フィラメント11は、加速管13の一端部に設けられている。加速管13は、例えば、自身の軸L1方向が水平となる姿勢で配置される。なお、以下では、加速管13の軸L1方向において、フィラメント11が設けられる端部側を上段側とし、その反対側を下段側として説明する。
【0020】
加速管13は、フィラメント11が配置される上端部が閉塞された筒状をなしている。加速管13は、自身の軸L1方向に並設される複数の加速電極14を有している。加速電極14は、電源装置30に含まれる加速電極用電源15からの電源供給に基づき、フィラメント11から放出された電子を収束させつつ、軸L1方向の他端部側である下方に向けて加速させるような電界を生じさせる。つまり、加速管13では、加速電極14にて生じる電界にて、下方に向く電子流、すなわち電子線eが生じるようになっている。各加速電極14は、例えば、上段側の加速電極14ほど高電位とされ、下段側の加速電極14ほど低電位とされる。
【0021】
加速管13は、下端部に走査管16が接続されている。加速管13と走査管16とは互いに内部空間17が連通し、その内部空間17において電子線eが加速管13から走査管16側に進む。走査管16は、上端部が幅狭で、下方に向かうほど拡開する形状をなしている。走査管16は、その幅狭の上端部に走査コイル18が設けられている。走査コイル18は、自身への通電に基づき、加速管13にて生成された電子線eの向きを偏向、すなわち電子線eの走査を行う。
【0022】
走査管16の下端部には、例えば略長方形状の開口窓部19が設けられている。開口窓部19には、略長方形状の窓箔20が取り付けられている。窓箔20は、非常に薄い金属箔であり、例えばチタン系の金属材料から作製されている。窓箔20は、電子線eを透過させつつ開口窓部19を密閉させる機能を有している。つまり、加速管13と走査管16とに跨がる内部空間17は、密閉空間として構成されている。内部空間17は、例えば走査管16に接続された真空ポンプ21の駆動にて、少なくとも電子線eを生じさせる期間は真空状態とされる。
【0023】
上記したフィラメント用電源12、加速電極用電源15、走査コイル18及び真空ポンプ21は、制御装置22にて制御される。制御装置22は、フィラメント用電源12及び加速電極用電源15を通じた電子線eの出力調整、走査コイル18を通じた電子線eの走査制御、及び真空ポンプ21を通じた加速管13及び走査管16の内部空間17の真空調整等を行う。
【0024】
そして、開口窓部19に装着の窓箔20を介して出射される電子線eは、例えば搬送装置23により搬送方向xに搬送される被照射物24に対して照射される。なおこの場合、電子線照射装置10は、略長方形状の開口窓部19の長手方向が搬送装置23の搬送直交方向yに向く配置である。搬送方向x及び搬送直交方向yを含めた電子線eの所定走査が行われて、開口窓部19に対応した略長方形状の照射エリアAの照射が行われる。電子線eの被照射物24への照射効果としては、例えば素材の性質改善や機能付加、殺菌・滅菌等が期待できる。
【0025】
[圧力タンク32の構成]
図2に示すように、電源装置30及び加速管ユニット31は、圧力タンク32の内部に収容されている。加速管ユニット31は、フィラメント11、各加速電極14を含む加速管13、後述するシールドリング40、及び後述するシールド部材50を含む。圧力タンク32の内部には、例えばSF6ガスなどの絶縁ガスが充填される。圧力タンク32の内部の気圧は例えば0.5MPa程度の高気圧に設定される。圧力タンク32は、例えば、金属などの導体からなる。なお、圧力タンク32は、例えば、電気的に接地されている。圧力タンク32は、加速管13から放出される電子線eを圧力タンク32の外部に出射するための出射口33を有している。
【0026】
[加速管ユニット31の構成]
図3及び図4に示すように、加速管13は、例えば、軸L1方向に長い円筒状をなしている。加速管13は、例えば、ガラス等の絶縁体にて形成されている。加速管13には、複数の加速電極14が一体的に組み込まれている。
【0027】
加速管ユニット31は、加速管13の周囲にシールドリング40を有している。シールドリング40は、例えば、加速管13の軸L1を中心とする環状をなしている。シールドリング40は、複数の加速電極14にそれぞれ対応して複数設けられている。複数のシールドリング40は、軸L1方向に並設されている。各シールドリング40は、対応する加速電極14に対し同電位となるように電気的に接続されている。なお、シールドリング40は、例えば金属などの導電材料から作製されており、加速電極14と一体又は別体の接続導体41を通じて互いに電気的に接続されている。シールドリング40は、加速管13周りの電界緩和のために設けられている。なお、各シールドリング40は、支持部42によって加速管13側に対して支持されている。以下の説明では、複数のシールドリング40をまとめた総称として、リング群40Gと言う場合がある。
【0028】
加速管ユニット31は、導電性のシールド部材50を備える。シールド部材50は、例えば、加速管13の軸L1を中心とする略円筒状をなす。シールド部材50は、例えば、金属板を円筒に成形したものである。シールド部材50は、リング群40Gの径方向外側を囲う。
【0029】
図4に示すように、シールド部材50における下段側の端部51は、圧力タンク32に接続されている。これにより、シールド部材50は、圧力タンク32に支持されている。また、シールド部材50は、圧力タンク32に電気的に接続されて該圧力タンク32と同電位とされている。また、シールド部材50は、圧力タンク32に対して着脱可能に構成されている。これにより、加速管13などのメンテナンス時にシールド部材50を取り外すことができ、作業性が良い。
【0030】
シールド部材50は、例えば、リング群40Gにおける軸L1方向の一部分を囲っている。軸L1方向において、シールド部材50がリング群40Gを囲う範囲は、下段側のおよそ半分の範囲である。これにより、シールド部材50は、リング群40Gにおける最下段のシールドリング40xの径方向外側を囲っている。
【0031】
シールド部材50は、シールド部材50の内周側から外周側にかけて貫通する熱放出孔52を有している。熱放出孔52は、例えば複数設けられている。加速電極14にて生じる熱は、各熱放出孔52から効率的にシールド部材50の外部に放出される。
【0032】
また、シールド部材50は、上段側の端部から径方向外側に延びるフランジ部53を有している。フランジ部53は、例えば、シールド部材50の上段側の端部の全周に亘って設けられている。フランジ部53が設けられることで、シールド部材50の上段側の端部が切断されたエッジのある端部とならない。
【0033】
本実施形態の作用について説明する。
圧力タンク32内において、例えば電源装置30から不安定な電界が発せられ、その不安定な電界が加速管ユニット31の周囲に影響を及ぼす場合がある。本実施形態では、シールド部材50が圧力タンク32を通じて接地電位とされている。このため、シールド部材50の内側において、加速管13の周囲の電界が略同一円筒状な電位で安定する。したがって、各加速電極14の電圧が安定し、その結果、加速管13にて加速される電子線eの所望する特性を得やすくなる。
【0034】
また、シールド部材50は接地電位とされるため、加速電極14及びシールドリング40との電位差が上段側ほど大きくなる。この点、本実施形態のシールド部材50は、リング群40Gにおける下段側の一部分の範囲を囲っており、リング群40Gの上段側の範囲は囲っていない。このため、シールドリング40とシールド部材50との間における、放電によるショートの発生が抑制されている。
【0035】
また、シールド部材50の上段側の端部にフランジ部53が設けられることで、当該上段側の端部が切断されたエッジのある端部とならない。これにより、シールド部材50の上段側の端部とシールドリング40との間における、放電によるショートの発生が抑制されている。
【0036】
本実施形態の効果について説明する。
(1)シールドリング40は、加速管13の径方向外側において加速電極14と対をなすように軸L1方向に複数並設され、対をなす加速電極14とそれぞれ電気的に接続されている。導電性のシールド部材50は、複数のシールドリング40からなるリング群40Gの径方向外側を囲う。また、シールド部材50は、リング群40Gにおける軸L1方向の少なくとも一部分を囲っている。
【0037】
この構成によれば、シールドリング40の周囲の不安定な電界が加速管13に与える影響を、シールド部材50によって抑制することが可能となる。これにより、加速管13にて加速される電子線eの所望する特性を得やすくなり、その結果、例えば、電子線照射装置10の性能の安定化に寄与できる。また、シールドリング40の周囲の不安定な電界の影響が軽減されることにより、加速管13内の電界に依存する電子線eのビーム軌道が安定する。これにより、加速管13や走査管16や窓箔20などの部品の長寿命化も期待できる。
【0038】
(2)電子線照射装置10は、加速管13に電力を供給する電源装置30と、加速管13、リング群40G、シールド部材50及び電源装置30を収容する圧力タンク32と、を備える。この構成によれば、圧力タンク32内において、電源装置30から不安定な電界が発せられ、その不安定な電界が加速管13の周囲に影響を及ぼす場合がある。圧力タンク32の内部は、絶縁ガスが充填される密閉空間であり、その内部に収容された電源装置30が発する電界が加速管ユニット31に与える影響がより顕著となる。その点、電子線照射装置10がシールド部材50を備えることで、電源装置30で生じる不安定な電界が加速管13に与える影響を、シールド部材50によって好適に抑制することが可能となる。
【0039】
(3)シールド部材50は、圧力タンク32に電気的に接続されて該圧力タンク32と同電位とされている。この構成によれば、シールド部材50を圧力タンク32と同電位とすることで、シールド部材50の内側における加速管13の周囲の電界を好適に安定させることが可能となる。
【0040】
(4)加速管13は、加速管13の軸L1方向の一端部に熱電子を放出する熱電子放出部としてのフィラメント11を備える。加速管13の軸L1方向において、フィラメント11が設けられる端部側を上段側とし、その反対側を下段側として、加速管13は、加速した電子線eを下段側の端部から放出する。そして、圧力タンク32は、加速管13の下段側の端部から放出される電子線eを圧力タンク32の外部に出射するための出射口33を有している。この構成によれば、加速管13から放出される電子線eを、出射口33を通じて圧力タンク32の外部に出射させることが可能となる。
【0041】
(5)シールド部材50は、リング群40Gの軸L1方向の一部分を囲っている。そして、シールド部材50は、リング群40Gにおける最下段のシールドリング40xの径方向外側を囲っている。この構成によれば、シールド部材50とシールドリング40との電位差は上段側ほど大きい。したがって、シールド部材50がリング群40Gにおける下段側の一部分を囲う構成とすることで、シールドリング40とシールド部材50との間における、放電によるショートの発生を抑制することが可能となる。また、シールドリング40とシールド部材50との間における、放電によるショートの発生が抑制されることで、径方向におけるシールド部材50とシールドリング40との間隔をより短く構成することが可能となる。その結果、シールド部材50を径方向に小型化することが可能となる。
【0042】
(6)シールド部材50は、シールド部材50の内周側から外周側にかけて貫通する熱放出孔52を有している。
この構成によれば、例えば、加速電極14で生じる熱を効率的にシールド部材50の外側に排出することが可能となる。本実施形態の電子線照射装置10は、加速管13の軸L1方向が水平方向を向く水平照射型である。水平照射型の電子線照射装置10において、例えば、加速電極14が加速管13に接着される場合、シールド部材50の内側が高温になって加速電極14を接着する接着剤が溶融した場合、加速電極14が自重で加速管13から外れるおそれがある。その点、シールド部材50に熱放出孔52を設けることにより、シールド部材50の内側の温度上昇を抑えることで、加速電極14が加速管13から外れることを抑制できる。
【0043】
(7)シールド部材50は、上段側の端部から径方向外側に延びるフランジ部53を有している。これにより、シールド部材50の上段側の端部が切断されたエッジのある端部とならない。その結果、シールド部材50の上段側の端部とシールドリング40との間における、放電によるショートの発生を抑制することが可能となる。
【0044】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
図5に示すように、シールド部材50がリング群40Gにおける上段側の一部分を囲う構成としてもよい。この場合、シールド部材50は、圧力タンク32と同電位ではなく、上段側(電源装置30側)の高電位と同電位とされることが好ましい。なお、図5に示す構成では、シールド部材50は、リング群40Gにおける最上段のシールドリング40yの径方向外側を囲っている。また、同構成では、フランジ部53は、シールド部材50の下段側の端部に設けられている。
【0045】
図6に示すように、シールド部材50がリング群40Gにおける軸L1方向の全体を囲う構成としてもよい。この構成によれば、シールドリング40の周囲の不安定な電界が加速管13に与える影響を、シールド部材50によってより効果的に抑制することが可能となる。
【0046】
・シールド部材50が必ずしも最下段のシールドリング40x、または、最上段のシールドリング40yの径方向外側を囲う必要はない。すなわち、シールド部材50が、リング群40Gにおける軸L1方向の中間部にあたるシールドリング40のみを囲う構成としてもよい。
【0047】
・上記実施形態では、加速管13の軸L1方向が水平方向を向く水平照射型としているが、これに限らず、例えば、加速管13の軸L1方向が鉛直方向を向く垂直照射型としてもよい。また、加速管13の軸L1方向が水平方向及び鉛直方向のいずれでもない方向を向くように構成してもよい。
【0048】
・シールド部材50において、熱放出孔52を省略してもよい。電子線照射装置10が前記垂直照射型の場合には、加速管13の向きにより加速電極14が外れるおそれが軽減されるため、シールド部材50の内側の温度上昇の問題が水平照射型に比べて発生しにくい。
【0049】
・上記実施形態のシールド部材50は、金属板などの板状の素材から形成されるが、これに特に限定されるものではない。例えば、シールド部材50を、例えば金属素線が編み込まれてなるメッシュ部材としてもよい。シールド部材50をメッシュ部材とすることで、放熱性が高いシールド部材50を構成でき、その結果、シールド部材50の内側の温度上昇を抑制することが可能となる。
【0050】
・上記実施形態では、圧力タンク32が接地電位とされるが、これに特に限定されるものではなく、圧力タンク32の電位は構成に応じて適宜変更可能である。
・今回開示された実施形態及び変更例はすべての点で例示であって、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。すなわち、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
10…電子線照射装置
11…フィラメント(熱電子放出部)
13…加速管
14…加速電極
30…電源装置
32…圧力タンク
33…出射口
40…シールドリング
40G…リング群
40x…最下段のシールドリング
50…シールド部材
52…熱放出孔
e…電子線
L1…軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-12-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を加速させる電界を生じさせるための複数の加速電極を軸方向に並設してなる加速管と、
前記加速管の径方向外側において前記加速電極と対をなすように前記軸方向に複数並設され、対をなす前記加速電極とそれぞれ電気的に接続されてなるシールドリングと、
前記複数のシールドリングからなるリング群の径方向外側を囲う導電性のシールド部材と、
前記加速管に電力を供給する電源装置と、
前記加速管、前記リング群、前記シールド部材及び前記電源装置を収容する圧力タンクと、を備える電子線照射装置であって、
前記シールド部材は、前記リング群と前記電源装置との間に設けられているとともに、前記リング群における前記軸方向の少なくとも一部分を囲っていて、
前記シールド部材は、前記圧力タンクに着脱可能に構成されている
電子線照射装置。
【請求項2】
前記シールド部材は、前記圧力タンクに電気的に接続されて該圧力タンクと同電位とされている、
請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記加速管は、前記加速管の軸方向の一端部に熱電子を放出する熱電子放出部を備え、
前記加速管の軸方向において、前記熱電子放出部が設けられる端部側を上段側とし、その反対側を下段側として、
前記加速管は、加速した電子線を前記下段側の端部から放出し、
前記圧力タンクは、前記加速管の前記下段側の端部から放出される電子線を前記圧力タンクの外部に出射するための出射口を有している、
請求項2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
前記シールド部材は、前記リング群の前記軸方向の一部分を囲っており、
前記シールド部材は、前記リング群における少なくとも最下段の前記シールドリングの径方向外側を囲っている、
請求項3に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記シールド部材は、前記リング群における前記軸方向の全体を囲っている、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記シールド部材は、前記シールド部材の内周側から外周側にかけて貫通する熱放出孔を有している、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電子線照射装置。