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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087533
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】防振除振機構付きAFMホルダー
(51)【国際特許分類】
   G01Q 70/02 20100101AFI20230616BHJP
【FI】
G01Q70/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201974
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】596066574
【氏名又は名称】株式会社ユニソク
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【弁理士】
【氏名又は名称】水内 龍介
(72)【発明者】
【氏名】三浦 健
(57)【要約】
【課題】AFMホルダー全体を励振させずにセンサ機構のみを励振させるものであって、高い防振除振効果を得てQ値を上げると同時に、周波数安定性を増し、さらに摩耗等の懸念がない防振除振機構付きAFMホルダーを提供すること。
【解決手段】センサ機構2a,2b,2cと、防振除振機構3a,3b,3cと、を有し、センサ機構2a,2b,2cは、試料表面Sに近接させる探針5と、探針5を励振させる振動機構4と、を具備し、防振除振機構3a,3b,3cは、センサ機構2a,2b,2cに隣接するように前面側において固定される板材9と、板材9の背面側において垂直断面視で円周上の一点で固定される円柱形状の中空パイプ10と、を具備したこと。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ機構と、防振除振機構と、を有し、
前記センサ機構は、試料表面に近接させる探針と、
前記探針を励振させる振動機構と、を具備し、
前記防振除振機構は、前記センサ機構に隣接するように前面側において固定される板材と、
前記板材の背面側において垂直断面視で円周上の一点で固定される円柱形状の中空パイプと、を具備することを特徴とする防振除振機構付きAFMホルダー。
【請求項2】
前記センサ機構は、自由端部に前記探針が設けられた振動片を具備し、
前記中空パイプは、前記中空パイプの軸方向を前記振動片の長手方向と略直角となる方向にして、前記板材に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の防振除振機構付きAFMホルダー。
【請求項3】
前記振動機構は、水晶振動子であって、
前記中空パイプは、前記中空パイプの軸方向を、前記水晶振動子の上面視長手方向と略直角となる方向にして前記板材に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の防振除振機構付きAFMホルダー。
【請求項4】
前記振動片の長手方向における前記板材の曲げ振動の固有振動数または前記水晶振動子の上面視長手方向における前記板材の曲げ振動の固有振動数と、前記中空パイプの円周方向の曲げ振動の固有振動数と、がそれぞれ異なることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の防振除振機構付きAFMホルダー。
【請求項5】
前記板材は、ダイヤモンドを含むことを特徴とする請求項1または請求項4のいずれか一項に記載の防振除振機構付きAFMホルダー。
【請求項6】
前記センサ機構は、前記振動機構に隣接してダイヤモンドが含まれたセンサベースを具備することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の防振除振機構付きAFMホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AFM(Atomic Force Microscope)原子間力顕微鏡で用いられる防振除振機構付きAFMホルダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
SPM(Scanning Probe Microscope)走査型プローブ顕微鏡は、ナノメータオーダー以下の分解能で試料表面を観察できる装置であり、具体的には、STM(Scanning Tunneling Microscope)走査型トンネル顕微鏡、AFM(Atomic Force Microscope)原子間力顕微鏡、KFM(Kelvin Force Microscope)表面電位顕微鏡、UHV(Ultra High Vacuum)-STM超高真空走査型トンネル顕微鏡、UHV(Ultra High Vacuum)-AFM超高真空原子間力顕微鏡、SNOM(Scanning Near-field Optical Microscope)走査型近接場光学顕微鏡等が挙げられる。
【0003】
AFM原子間力顕微鏡(以下、AFMという。)のFM―AFMモードによる測定する際は、先端に探針の付いた振動片を共振周波数により振動させながら試料表面に近づけ、探針と試料表面に働く相互作用の力を、振動する探針の周波数シフトとして検出し、周波数シフトが一定になるように探針と試料表面の距離をフィードバック制御したまま水平方向に走査して試料表面の形状を測定したり、探針試料間を固定して水平走査して周波数シフト像を測定する。
【0004】
従来、探針を振動子や圧電素子等によって振動させるときは振動片を支持するAFMホルダーの下部脱着面より更に下の、AFMヘッド側に圧電素子等が設けられており、AFMホルダー全体ごと励振させていた。しかし、AFMホルダー全体ごと励振させると、その場合は励振する部品が多くなるので、複数の振動モードが立ちやすくなり、また励振する重量が大きいのでその反動でヘッド側も励振することで、さらに励振する部品が多くなり、その分の振動モードが増える。これらの振動モードの影響を抑制しようとして防振除振でQ値を上げたとしても振動が伝わらず励振ができなくなる。以上のようなトレードオフの関係があるので、ホルダーごと励振する場合には振動特性が不安定な状況を許容せざるを得なかった。また、従来、AFMホルダー上に圧電素子等を設けてセンサ機構のみを励振させる場合にも、効果的な防振除振機構が無いために、ホルダーの脱着面やAFMヘッド側の状況が変わると振動特性が揺らいだり変調される不具合があった。
【0005】
そこで、特許文献1では、AFMホルダー自体の振動特性等のノイズを排除するために、AFMホルダー全体を励振させることなく振動片を励振させる原子間力顕微鏡が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006―153574
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の原子間力顕微鏡は、振動を伝達するガラス板に、振動絶縁材としてガラス板と音響インピーダンスが異なるゴム製Оリングを設けることで、AFMホルダーを振動させない構造としているが、ゴム製Оリングは、円周沿いの大きい接触面積を伴いながら、内部摩擦により振動エネルギーを熱エネルギーに変換するため、系内から振動エネルギーを逃がしてしまい振動エネルギーを系内に閉じ込めることができず、結果的に十分な防振効果が得られず、Q値を上げることができない。さらに、ゴムや樹脂は使用により摩耗や劣化するため、振動ノイズが生まれる原因となっていた。
【0008】
そこで、本発明は上記事情を鑑みたものであって、AFMホルダー全体を励振させずにセンサ機構のみを励振させるものであって、高い除振防振効果を得てQ値を上げると同時に、周波数安定性を増し、さらに摩耗等の懸念がない防振除振機構付きAFMホルダーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る防振除振機構付きAFMホルダーは、センサ機構と、防振除振機構と、を有し、センサ機構は、試料表面に近接させる探針と、探針を励振させる振動機構と、を具備し、防振除振機構は、センサ機構に隣接するように前面側において固定される板材と、板材の背面側において垂直断面視で円周上の一点で固定される円柱形状の中空パイプと、を具備することを特徴とする。
【0010】
さらに、センサ機構は、自由端部に探針が設けられた振動片を具備し、中空パイプは、中空パイプの軸方向を振動片の長手方向と略直角となる方向にして、板材に固定されていることを特徴とする。
【0011】
さらに、振動機構は、水晶振動子であって、中空パイプは、中空パイプの軸方向を、水晶振動子の上面視長手方向と略直角となる方向にして板材に固定されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、振動片の長手方向における前記板材の曲げ振動の固有振動数または水晶振動子の上面視長手方向における前記板材の曲げ振動の固有振動数と、中空パイプの円周方向の曲げ振動の固有振動数と、がそれぞれ異なることを特徴とする。
【0013】
さらに、板材は、ダイヤモンドを含むことを特徴とする。
【0014】
さらに、センサ機構は、振動機構に隣接してダイヤモンドが含まれたセンサベースを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、センサ機構と、防振除振機構と、を有し、センサ機構は、試料表面に近接させる探針と、探針を励振させる振動機構と、を具備し、防振除振機構は、センサ機構に隣接するように前面側において固定される板材と、板材の背面側において垂直断面視で円周上の一点で固定される円柱形状の中空パイプと、を具備するので、曲げ振動や縦振動を防振及び除振でき、Q値を上げ、周波数安定性を保持しながらAFM観察することができる。
【0016】
また、自由端部に探針が設けられた探針を具備し、中空パイプは、中空パイプの軸方向を振動片の長手方向と略直角となる方向にして、板材に固定されているので、振動片の振動方向に対して点接触となるように中空パイプを固定することができ、防振及び除振の効果を高めることができる。
【0017】
また、バネ定数が十分大きい水晶振動子に探針が設けれているため、探針が原子間力に負けて試料表面に接触することがなくなり、中空パイプは、水晶振動子の上面視長手方向と略直角となる方向にして、板材に固定されているので、水晶振動子の振動方向に対して点接触となるように中空パイプを固定することができ、防振及び除振の効果を高めることができる。
【0018】
また、振動片の長手方向における前記板材の曲げ振動の固有振動数または水晶振動子の上面視長手方向における前記板材の曲げ振動の固有振動数と、中空パイプの円周方向の曲げ振動の固有振動数と、がそれぞれ異なるので、曲げ振動の伝搬を抑制することができる。
【0019】
また、板材にダイヤモンドを含めることで、効果的に曲げ振動の防振除振をすることができる。
【0020】
また、センサ機構は、振動機構に隣接してダイヤモンドが含まれたセンサベースを具備するので、効果的に曲げ振動の防振除振をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】振動機構が励振ピエゾであって、振動片がTF型水晶振動子の本発明に係る第1実施形態の防振除振機構付きAFMホルダーの概略側面図である。
図2】(a)振動機構が励振ピエゾであって、振動片が片割れ音叉型水晶振動子の本発明に係る第1実施形態の防振除振機構付きAFMホルダーの概略側面図である。(b)振動機構が励振ピエゾであって、振動片が半電極型水晶振動子の本発明に係る第1実施形態の防振除振機構付きAFMホルダーの概略側面図である。
図3】(a)中空パイプの変形例である櫛形中空パイプを示す概略斜視図である。(b)(a)の概略側面図である。
図4】振動機構が励振ピエゾであって、振動片が片持ち梁の光てこ方式の本発明に係る第2実施形態の防振除振機構付きAFMホルダーを示す概略斜視図である。
図5】振動機構がLER型水晶振動子の本発明の第3実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダーを示す概略側面図である。
図6】(a)LER型水晶振動子の上面と振動方向を示す概略斜視図である。(b)上面の長手方向、中空パイプの軸方向、及び振動方向を示す概略図である。
図7】(a)TF型水晶振動子の上面と振動方向を示す概略斜視図である。(b)上面の長手方向と中空パイプの軸方向、及び振動方向を示す概略図である。
図8】(a)振動機構がTF型水晶振動子の本発明の第3実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダーを示す概略垂直側面図である。(b)振動機構が片割れ音叉型水晶振動子の本発明の第3実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダーを示す概略側面図である。
図9】(a)振動機構がシアフォース型水晶振動子の本発明の第3実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダーを示す概略側面図である。(b)振動機構が半電極型水晶振動子の本発明の第3実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダーを示す概略側面図である。
図10】(a)センサベースを立てて用いた場合の本発明の第1実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダーを示す概略斜視図である。(b)センサベースを立てて用いた場合の本発明の第3実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダーを示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して防振除振機構付きAFMホルダー100,200,300について詳細に説明する。
【0023】
本明細書において、防振とは、系内で生じる振動を系内に閉じ込めるようにすることをいい、除振とは、系外からの振動などの外力を系内に伝えないようにすることをいう。
【0024】
各実施形態において、センサ機構2a,2b,2cと、防振除振機構3a,3b,3cと、で一つの系が形成されている。
【0025】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダー100を示す概略側面図である。図1に示すように、防振除振機構付きAFMホルダー100は、センサ機構2aと、防振除振機構3aと、を有しており、センサ機構2aは、振動機構4である励振ピエゾ4aと、探針5と、振動片6であるTF型水晶振動子6aと、検出用電極7と、センサベース8と、を具備しており、除振防振機構3aは、板材9と、中空パイプ10と、を具備している。また、中空パイプ10の下部には、系外のホルダーベース部Hが設けれている。図1の概略側面図に示すように、それぞれが順に層状となるようにエポキシ樹脂や接着剤等で固定されている。説明の都合上、図中の各構成は実際の縮尺比よりも大きく描かれてある。
【0026】
第1実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダー100は、振動機構4である励振ピエゾ4aを用いて、振動片6であるTF型水晶振動子6aを介して、探針5を機械的(間接的)に励振させるものである。
【0027】
(センサ機構2aについて)
センサ機構2aは、探針5の振動の変化を感知して、試料表面の状態を認知するための機構である。図1中において探針5の下部に設けられた振動機構4である励振ピエゾ4aが、振動片6であるTF型水晶振動子6aを介して、探針5を機械的に励振させており、TF型水晶振動子6aの自由端側の端部に探針5が試料表面Sに近接させるように設けられている。また、振動機構4の隣には、TF型水晶振動子6aを支持するセンサベース8が設けられている。
【0028】
(探針5について)
探針5は、多角錐状または円錐状に形成されており、先端が試料表面Sに近接するように、TF型水晶振動子6aの足11の自由端部Fに設けられている。探針5を試料表面Sに近接させると、探針5と試料表面Sとの間で、ファンデルワールス力や共有結合力等に起因して、引力または斥力が生じる。そして、探針5の振動周波数や振幅に変化が生じ、その振動情報からAFM像が作られる。
【0029】
(振動片6について)
本実施形態において、振動片6は、2つの足11を有するTF(Tuning Fork)型水晶振動子6aであって、センサベース8に横に倒れるようにして固定されており、足11の一方の自由端部Fに探針5が設けられている。励振ピエゾ4aから伝搬される振動を探針5に伝える役割と、探針5と試料表面Sに働く相互作用の力を、振動する振動片6の周波数シフトとして検出する役割と、を有する。
【0030】
振動片6は、他にも、図2(a)に示すように、1つの足11を有する片割れ音叉型水晶振動子6bでもよい。片割れ音叉型水晶振動子6bは、一方の足11に探針5が取り付けれており、他方の足11が切断されている。振動片6を、TF型水晶振動子6aの代わりに片割れ音叉型水晶振動子6bとすることで、他方の足11からの検出したくない振動による検出信号の影響を受けることを防止することができる。また、余分な電極がないため、励振電圧からのクロストークの影響も減らすことができる。
【0031】
他にも、振動片6は、図2(b)に示すように、足11の母体は2つ有するが、一方の足11にのみ電極回路Cを有した半電極型水晶振動子6cでもよい。
【0032】
(振動機構4について)
本実施形態において、振動機構4は、励振ピエゾ4aであって、センサベース8に、エポキシ樹脂、瞬間接着材などの有機溶剤で剥がせるもの、またはネジやバネ抑えにより交換可能な方法等により固定されている。励振ピエゾ4aが振動することによりセンサベース8及び振動片6を介して探針5を共振周波数で機械的に励振させている。
【0033】
励振ピエゾ4aを用いて機械的に探針5を励振させることで、検出用電極7と励振用電極とが近くにないため、検出用電極7と励振用電極とを近づけすぎることで生じるクロストーク(容量電流)が流れるのを防止することができる。また、励振ピエゾ4aを図示していないGND電極で挟んで静電シールドしていることでさらにクロストーク(容量電流)が流れるのを防止できる。クロストーク(容量電流)が流れるのを防止することで、信号ノイズが生まれなくなり、AFM観察の精度を高めることができる。
【0034】
本実施形態においては、励振ピエゾ4aは、2層に重ねられている。2層にすることで、2倍の励振をすることができるので、励振電圧に対する検出信号が2倍になる。したがって、2層の構成は、クロストークを実質的に半減させることができる。しかし、必要であれば、積層数は、1段でも3段以上あっても構わず、積層数は限定されない。
【0035】
励振ピエゾ4aは、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で形成されている。他にも、励振ピエゾ4aは、チタン酸鉛、メタニオブ酸鉛、チタン酸ビスマス、または水晶で形成されていてもよく、圧電素子であれば限定されない。
【0036】
(検出用電極7について)
検出用電極7は、試料表面に探針5を近づけた際、探針5と試料表面間に力が作用すると共振周波数が変化することを利用して力を検出する。検出信号の電流は、図示しないFM復調器に送られ、周波数を検波し、測定された周波数のシフトから力を見積もる。AFM像は周波数シフトが一定となるように探針5と試料表面間の距離をフィードバック制御しながら試料表面を二次元操作することで得られる。また、検出用電極7はアンプ13に接続されている。アンプ13は、チャージアンプまたは電流アンプのいずれかである。
【0037】
(センサベース8について)
センサベース8は、振動機構4である励振ピエゾ4aに隣接しており、センサとして機能するTF型水晶振動子6aを支持するための台である。センサベース8は、比剛性が高いダイヤモンドが好適に用いられる。他にも例えば、ダイヤモンド焼結体、アルミナ、セラミック及び炭素繊維プラスチック(CFRP)、エポキシガラス、石英板等、比剛性が高いものであれば素材は限定されず、実施用途に応じて適宜変更可能である。
【0038】
(防振除振機構3a,3b,3cについて)
防振除振機構3a,3b,3cは、板材9と、中空パイプ10と、を具備している。板材9と、中空パイプ10と、はエポキシ樹脂や接着剤により固定されており、センサベース8とホルダーベース部Hと間に設けられている。防振除振機構3a,3b,3cは、図中において上部のセンサ機構2a,2b,2c及びホルダーベース部Hの機構間を物理的に分離された状態に近づけ、振動の伝搬定数を限りなく小さくする役割を有する。具体的には、主に、板材9が曲げ振動を防振除振して、中空パイプ10が平行な上下の縦振動を防振除振している。
【0039】
そして、防振除振機構3a,3b,3cは、センサ機構2a,2b,2cから伝搬される振動を系内に閉じ込める防振の効果と、系外であるホルダーベース部Hより下の図示しないヘッド部などから生じる機械的な振動モードの変化や歪による変化を系内に伝搬するのを抑制する除振の効果を有している。防振除振機構3a,3b,3cは、防振及び除振の効果を有するため、系内のQ値を上げることができる。Q値を上げることで、AFM観察の総合的な安定性が得られる。例えば、振動モードの突変による探針5のクラッシュを抑制したり、試料表面Sの汚染層や浮動粒子によって不安定化する挙動を抑制したり、AFM観察のS/N比を向上させたり、ホルダー毎の個体差や歩留まりを減らす、といった安定性が得られる。また、ゴム等といった摩耗・劣化する懸念のある材料を用いていないため、部品の交換をする手間が減り、UHVや極低温の環境でも長年使用することができる。
【0040】
また、加えて重要な効果は、防振除振機構3a,3b,3c下部のホルダーベース部Hより下にある図示しないホルダー脱着面の影響を受けないという事である。一般的にホルダー脱着面は剛性が弱い構造にならざるを得ず、AFMヘッド側の振動モードの変化や歪の影響を受けやすい。その影響を受けた脱着面の接触面積や機械定数の極僅かな変化がセンサ機構2a,2b,2cに伝搬すると、周波数シフトが揺らいだり変調される事になる。そうすると、周波数シフトでAFM観察を行っているため、原子間力だけではなくヘッド側の機械的な変化の影響を受ける事になる。防振除振機構3a,3b,3cを用いることで、ホルダー脱着面という剛性の弱い構造があっても物理的に分離 されたような状態を実現し、その影響をセンサ機構2a,2b,2cで誤検知する事がなくなる。
【0041】
なお、センサ機構2a,2b,2cの交換位置やホルダー脱着面に関しては、実用上は、センサベース8下部であっても良いし、励振ピエゾ4aの下部であっても良く、必ずしも位置を限定するものではない。防振除振機構3a,3b,3cがある事で、AFMヘッド側の影響を分離しているという事が重要である。
【0042】
(板材9について)
板材9は、曲げやねじりの力に対する寸法変化、変形が小さく剛性が高い板であり、励振ピエゾ4aに固定されている。本実施形態では、板材9は、センサベース8と同じように、比剛性が高いダイヤモンドが好適に用いられる。他にも例えば、ダイヤモンド焼結体、アルミナ、エポキシガラス、セラミック及び炭素繊維プラスチック(CFRP)等、比剛性が高いものであれば素材は限定されない。
【0043】
振動片6の長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数は、振動する振動片6との振動数とで格差を設けている。具体的には、TF型水晶振動子6aの長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数は振動するTF型水晶振動子6aとの振動数の10倍から100倍程度異なる。TF型水晶振動子6aの曲げ振動の固有振動数と、TF型水晶振動子6aの長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数と、で格差をつけることで、板材9は、系内または系外から伝搬される曲げ振動を防振及び除振している。
【0044】
板材9の厚さは、厚くして曲げ振動を抑制することが好ましいが、AFM観察時に、中空パイプ10から上の重心が高くなって左右に揺れない厚さにするのが好ましい。
【0045】
(中空パイプ10について)
中空パイプ10は、ステンレス等で形成された中空状で円柱形状のチューブであり、板材9の層の下部であってホルダーベース部Hの層の上部に設けられている。中空パイプ10は、垂直断面視で中空パイプ10の円周上の一点で板材9及びホルダーベース部Hにエポキシ樹脂や接着剤で固定されている。
【0046】
図1に示すように、中空パイプ10の断面形状は中空円形である。板材9等から伝わる振動がまず縦波として伝わった後、横波に変換されて中空パイプ10の円周に沿って伝搬し、そしてホルダーベースHとの接点で一部が縦波に変換されて伝わり、残りが横波のまま循環する。このように、横波と縦波との変換が中空パイプ10の円周上で何回転もされる。これにより板材9またはホルダーベース部Hから伝わる平行な上下の縦振動を防振及び除振することができる。ゴムなどの内部が充填された弾性部材を用いた場合のように、振動エネルギーが内部摩擦により熱エネルギーとなって吸収され振動が減衰するのではなく、振動エネルギーが中空パイプ10に蓄えられることで熱エネルギー等に変換されずに、振動エネルギーを機械的に系内に閉じ込めることができ、結果的にQ値を上げることができる。
【0047】
また、中空パイプ10の軸方向は、TF型水晶振動子6aの長手方向と略直角となるように、中空パイプ10が板材9に固定されている。板材9と接する中空パイプ10の母線L上において、センサ機構2aの振動に対して実質的に点接触となるように、中空パイプ10の軸方向は方向決めされている。中空パイプ10の軸方向がTF型水晶振動子6aの長手方向と略直角となるように固定することで、中空パイプ10の軸方向がTF型水晶振動子6aの長手方向と平行である場合、すなわち足11の振動に対して中空パイプ10の軸方向と同じである線接触の場合と比較して、Q値をより高めることができる。
【0048】
また、中空パイプ10の円周方向の曲げ振動の固有振動数は、振動片6の長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数とで格差を設けている。具体的には、中空パイプ10の円周方向の曲げ振動の固有振動数は、TF型水晶振動子6aの長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数の10倍から100倍程度異なる。TF型水晶振動子6aの長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数と、板材9と隣接する中空パイプ10の円周方向の曲げ振動の固有振動数と、で格差をつけることで、板材9から伝搬される曲げ振動をさらに中空パイプ10が防振及び除振している。曲げ振動の固有振動数に格差をつけるほど、Q値が向上することが定性的に示される。
【0049】
また、中空パイプ10は、図3(a)(b)に示すように、櫛形状にくりぬかれた櫛形中空パイプ10aでも構わない。複数の櫛部10bが同一方向を向くように、軸部10cによって上下で固定されている。櫛部10bと板材9との接点において、TF型水晶振動子6aの長手方向に対して櫛部10bが直角方向となるように配置されているものが、防振除振の効果を高めるのに好ましい。
【0050】
また、中空パイプ10の数は、構造上の制約が許す限り、用途によって一つでも複数あっても構わない。円周上の一接点で固定されているため、中空パイプ10は、複数個ある方が板材9を安定的に支持することができる。また必要であれば、中空パイプ10の断面形状は円形ものでなくとも楕円形のものでもよい。
【0051】
[第2実施形態]
図4は、第2実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダー200を示す概略斜視図である。防振除振機構付きAFMホルダー200は、振動片6である片持ち梁6dの周波数シフトをレーザー光により検出する光てこ方式を用いてAFM像を作成している。
【0052】
光てこ方式は、探針5が設けられた片持ち梁6dの先端にレーザー光を照射し、その反射光の変位を測定する方式である。探針5を試料表面Sに近接させると、探針5と試料表面Sとの間に作用する原子間力等の物理的な力により片持ち梁6dの共振周波数が変化するので、この変化を反射光で測定することにより、探針5と試料表面Sの距離が一定になるように制御してAFM観察を行う。
【0053】
防振除振機構付きAFMホルダー200は、第1実施形態と同様に、センサ機構2bと、防振除振機構3bと、を有しており、センサ機構2bは、試料表面に近接させる探針5と、探針5を励振させる振動機構4である励振ピエゾ4aと、自由端部Fに探針5設けられた振動片6である片持ち梁6dと、片持ち梁6dを支持するセンサベース8と、を具備している。
【0054】
(振動機構4について)
本実施形態においても、振動機構4として励振ピエゾ4aを用いて、センサベース8及び片持ち梁6dを介して探針5を共振周波数で機械的に励振させている。
【0055】
(振動片6について)
本実施形態において、振動片6は、片持ち梁6dである。片持ち梁6dを用いることで、用途に応じて水晶振動子6a,6b,6cの足11よりもバネ定数を小さくしたり、共振周波数を大きくすることができ、検出に水晶振動子6a,6b,6c、や水晶振動子6a,6b,6cに用いる配線を通す必要がなくなる。
【0056】
(センサベース8について)
本実施形態において、センサベース8は、シリカ、または半導体基板等が好適に用いられる。
【0057】
[第3実施形態]
図5図8図9は、本発明の第3実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダー300を示す概略側面図である。図5に示すように、第3実施形態に係る防振除振機構付きAFMホルダー300は、センサ機構2cと、防振除振機構3cと、を有しており、センサ機構2cは、足11aを有した振動機構4であるLER(Length Extension)型水晶振動子4bと、探針5と、励振用電極12と、検出用電極7と、センサベース8と、を具備しており、防振除振機構3cは、板材9と、中空パイプ10と、を具備している。防振除振機構付きAFMホルダー300の下部には、系外であるホルダーベース部Hが設けれている。
【0058】
第1実施形態及び第2実施形態においては、励振ピエゾ4aを用いて探針5を機械的に励振させていたものであるが、第3実施形態においては、探針5を電気的(直接的)に励振させるものである。
【0059】
(振動機構4について)
図5に示すように、振動機構4は、LER型水晶振動子4bである。振動機構4は、LER型水晶振動子4bでなくとも、図8(a)(b)に示すように、TF型水晶振動子4c、片割れ音叉型水晶振動子4dでもよい。また、他にも、図9(a)に示すように縦置きのTF型水晶振動子に基部14を有し、基部14に探針5を有したシアフォース型水晶振動子4eを用いてもよく、図9(b)に示すように、振動機構4は、半電極型水晶振動子4fを用いたり、図示しないDouble―Ended Tuning Fork(DETF)型水晶振動子等の水晶振動子が好適に用いられる。LER型水晶振動子4b、またはDETF型水晶振動子を用いる場合は、センサベース8に対して縦置きして固定されており、探針5が上方向を向いている。
【0060】
振動機構4がシアフォース型水晶振動子4eの場合も同様に、センサ機構8に対して縦置きして固定されており、探針5は上方向を向いているが、必要であれば、基部14は、TF型水晶振動子に対して奥行あおり角方向に斜め付けされていてもよい。
【0061】
また、LER型水晶振動子4bは、検出用電極7と、励振用電極12と、が設けられている。励振用電極12に一定の電圧をかけることで、LER型水晶振動子4bの自由端部Fに固定された微小な探針5を共振周波数で電気的に励振させている。
【0062】
本実施形態において、AFMの測定方法は、周波数変調法によるFM(Frequency modulation)-AFM測定システムによりAFM像を作成している。検出用電極7は、試料表面Sに探針5を近づけた際、探針5と試料表面S間に力が作用すると共振周波数が変化することを利用して力を検出する。検出信号の電流を図示しないFM復調器に送って周波数を検波し、測定された周波数のシフトから力を見積もる。AFM像は周波数シフトが一定となるように探針5と試料表面S間の距離をフィードバック制御しながら試料表面を二次元操作することで得られる。
【0063】
また、振動機構4は、水晶振動子4b,4c,4d,4e,4f以外にも、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛、メタニオブ酸鉛、またはチタン酸ビスマス等で形成された振動子でもよく、圧電素子であれば限定されない。
【0064】
また、中空パイプ10の軸方向は、板材9と接する中空パイプ10の母線L上において、足11の振動に対して実質的に点接触となるように、方向決めされている。即ち、中空パイプ10の軸方向をTF型水晶振動子4cの上面視長手方向と略直角となるように、中空パイプ10が板材9に固定されている。
【0065】
例えば、図6(a)及び図7(a)の太矢印に示すように、LER型水晶振動子4b,TF型水晶振動子4c、の振動パターンは、試料表面Sに探針5が垂直方向または水平方向に動くように振動している。この方向の振動に対して中空パイプ10が板材9と接触する母線L上において、実質的に点接触するように、中空パイプ10が板材9に固定する。仮に、中空パイプ10の方向が90度異なった場合だと、振動方向に対して実質的に母線Lで線接触することになってしまい、Q値が上がらない。
【0066】
図6(b)及び図7(b)に示すように、LER型水晶振動子4bまたはTF型水晶振動子4cは、水晶振動子4b,4cの上面Aにおいて垂直方向または長手方向に振動する。したがって、中空パイプ10の軸方向は、上面Aの長手方向と略直角となる方向、すなわち水晶振動子の上面視長手方向と略直角となる方向にして、中空パイプ10が板材9に固定されている。板材9を水晶振動子4b,4cの上面視長手方向と略直角となる方向に固定することで、防振及び除振の効果を高め、Q値を高めることができる。
【0067】
また、水晶振動子4b,4c,4d,4e,4fの上面視長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数は、振動する水晶振動子4b,4c,4d,4e,4fとの振動数とで格差を設けている。具体的には、LER型水晶振動子4bの上面視長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数は、振動するLER型水晶振動子4bとの振動数の数倍から100倍程度異なる。LER型水晶振動子4bの上面視長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数と、振動するLER型水晶振動子4bの固有振動数と、で格差をつけることで、板材9は、系内または系外から伝搬される曲げ振動を防振及び除振している。
【0068】
また、中空パイプ10の円周方向の曲げ振動の固有振動数は、水晶振動子4b,4c,4d,4e,4fの上面視長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数とで格差を設けている。具体的には、中空パイプ10の円周方向の曲げ振動の固有振動数は、LER型水晶振動子4bの上面視長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数の数倍から100倍程度異なる。LER型水晶振動子4bの上面視長手方向における板材9の曲げ振動の固有振動数と、板材9と隣接する中空パイプ10の円周方向の曲げ振動の固有振動数と、で格差をつけることで、板材9から伝搬される曲げ振動をさらに中空パイプ10が防振及び除振している。曲げ振動の固有振動数に格差をつけるほど、Q値が向上することが定性的に示される。
【0069】
[その他実施形態]
また、図10(a)(b)に示すように、センサベース8は、励振ピエゾ4aや板材9に対して立てて用いてもよい。
【0070】
また、第1~第3実施形態では、FM-AFM測定システムによりAFM像を作成しているが、全ての実施形態において、液中AFM等でAM-AFM測定システムによりAFM像を作成してもよい。
【0071】
また、第1~第3実施形態では、探針5は、試料表面Sに対して垂直となっているが、光学的に探針5が見えるように、試料表面Sに対して斜め方向から探針5を近接させてもよく、防振除振機構3a,3b,3cが用いられていれば、測定環境や測定方法等は限定されない。
【0072】
また、図面には示していないが、第1~3実施形態において、防振除振機構3a,3b,3cは、板材9と、中空パイプ10と、で2段の構成としていたが、必要であれば、中空パイプ10の下部に再度、板材9と、中空パイプ10と、を固定して4段の構成にしてもよい。4段の構成にすることで、2段のときと比較して曲げ振動及び平行な上下の振動の防振及び除振の効果をさらに高められる場合がある。設計の都合上可能であれば、さらに、積み上げて6段、8段の構成としてもよいことはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、防振及び除振の効果があり、系内のQ値を上げるとともに周波数安定性を高めることができ、AFMホルダー全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
100,200,300 防振除振機構付きAFMホルダー
2a,2b,2c センサ機構
3a,3b,3c 防振除振機構
4 振動機構
4a 励振ピエゾ
4b LER型水晶振動子
4c TF型水晶振動子
4d 片割れ音叉型水晶振動子
4e シアフォース型水晶振動子
4f 半電極型水晶振動子
5 探針
6 振動片
6a TF型水晶振動子
6b 片割れ音叉型水晶振動子
6c 半電極型水晶振動子
6d 片持ち梁
7 検出用電極
8 センサベース
9 板材
10 中空パイプ
10a 櫛型中空パイプ
10b 櫛部
10c 軸部
11 足
11a 足
12 励振用電極
13 アンプ
14 基部
S 試料表面
F 自由端部
C 電極回路
H ホルダーベース部
L 母線
A 上面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10