(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087557
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】負極活物質、負極材料及び該負極材料を備えるアルカリイオン電池、並びに、負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20230616BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
H01M4/58
C01G51/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202012
(22)【出願日】2021-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521493765
【氏名又は名称】株式会社関兵
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】何 楊
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】王 佳佳
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AA08
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
4G048AE07
4G048AE08
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA15
5H050BA17
5H050CA01
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5H050FA13
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA27
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】アルカリイオン電池に優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができる負極活物質、負極材料及び該負極材料を備えるアルカリイオン電池、並びに、負極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、アルカリイオン電池用負極活物質であって、炭素及び窒素がドープされた金属硫化物を含有し、前記金属硫化物における金属がCo、Cr、Ni及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリイオン電池用負極活物質であって、
炭素及び窒素がドープされた金属硫化物を含有し、
前記金属硫化物における金属がCo、Cr、Ni及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、負極活物質。
【請求項2】
前記金属硫化物は多孔質粒子である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記金属硫化物のBET比表面積が15m2/g以上である、請求項1又は2に記載の負極活物質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の負極活物質を含む、負極材料。
【請求項5】
請求項4に記載の負極材料を備える、アルカリイオン電池。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の負極活物質の製造方法であって、
Co、Cr、Ni、及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属源と、有機酸塩との反応により、前駆体を得る工程1、及び、
前記前駆体を硫黄源の存在下で加熱処理する工程2、
を備える、負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質、負極材料及び該負極材料を備えるアルカリイオン電池、並びに、負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属硫化物は、優れた酸化還元反応特性と、熱安定性及び機械的性能を有するため、高性能ナトリウムイオン電池(SIB)等に代表されるアルカリイオン電池の負極材料を形成するための負極活物質として有望な化合物である。
【0003】
例えば、非特許文献1には、コバルト硫化物(Co3S4)とグラフェンとの複合体を、ナトリウムイオン電池の負極材料として適用することが提案されている。斯かる負極材料によれば、ナトリウムイオン電池の貯蔵性能を大幅に向上させることができるものとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Materials Chemistry A 2015,3(13),6787
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年の電池分野においては、従来よりも容量特性及びサイクル特性をさらに向上させることが強く求められており、これに伴い、優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことが可能な電池材料の開発が要求されている。この観点から、アルカリイオン電池の負極材料に適用したときに優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができる負極活物質を開発することは、電池分野において極めて重要な位置づけであるといえる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、アルカリイオン電池に優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができる負極活物質、負極材料及び該負極材料を備えるアルカリイオン電池、並びに、負極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素及び窒素がドープされた特定の金属硫化物を構成成分とすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
アルカリイオン電池用負極活物質であって、
炭素及び窒素がドープされた金属硫化物を含有し、
前記金属硫化物における金属がCo、Cr、Ni及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、負極活物質。
項2
前記金属硫化物は多孔質粒子である、項1に記載の負極活物質。
項3
前記金属硫化物のBET比表面積が15m2/g以上である、項1又は2に記載の負極活物質。
項4
項1~3のいずれか1項に記載の負極活物質を含む、負極材料。
項5
項4に記載の負極材料を備える、アルカリイオン電池。
項6
項1~3のいずれか1項に記載の負極活物質の製造方法であって、
Co、Cr、Ni、及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属源と、有機酸塩との反応により、前駆体を得る工程1、及び、
前記前駆体を硫黄源の存在下で加熱処理する工程2、
を備える、負極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の負極活物質は、アルカリイオン電池に優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】各実施例及び比較例で得られた負極活物質のX線回折測定(XRD)結果を示す。
【
図2】(a)~(b)は比較例1で得られた負極活物質のSEM画像、(c)~(d)は実施例1で得られた負極活物質のSEM画像、(e)~(f)は実施例2で得られた負極活物質のSEM画像を示す。
【
図3】各作製例で組み立てた電池の定電流充放電試験の結果を示す。
【
図4】(a)は各作製例で組み立てた電池の定電流充放電試験の結果、(b)はナイキストプロットの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.負極活物質
本発明の負極活物質は、アルカリイオン電池に用いられる負極活物質であって、炭素及び窒素がドープされた金属硫化物を含有し、前記金属硫化物における金属がCo、Cr、Ni、及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0013】
本発明の負極活物質は、アルカリイオン電池(例えば、ナトリウムイオン電池)を構成するための負極材料として使用することができ、アルカリイオン電池に優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができる。具体的に本発明の負極活物質は、高い初期放電容量及び充電容量を有し、また、高い初期クーロン効率を示し得る。さらに、繰り返し充放電を行った後でも容量維持率を高くすることができる。
【0014】
炭素及び窒素がドープされた金属硫化物(以下、単に「金属硫化物」と表記する)は、炭素原子及び窒素原子を含む。当該金属硫化物において、炭素原子及び窒素原子は、金属硫化物の金属又は硫黄原子と化学結合していてもよく、例えば、硫化物のフレームワーク中に炭素原子及び窒素原子が存在することができる。また、金属硫化物において、炭素原子及び窒素原子が化学結合(-C-N-結合)して金属硫化物中に存在していてもよい。
【0015】
金属硫化物において、金属は前述のように、Co、Cr、Ni及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。アルカリイオン電池に優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができ、かつ、簡便な方法で製造できるという点で、金属硫化物中の金属はCoであることが好ましい。
【0016】
アルカリイオン電池に特に優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができるという点で、金属硫化物は炭素及び窒素がドープされたCo3S4であることが特に好ましい。
【0017】
金属硫化物において、各元素の含有割合は特に限定されない。例えば、金属硫化物の全質量に対する硫黄原子の含有割合は、10~40質量%とすることができ、好ましくは15~35質量%、より好ましくは20~30質量%である。
【0018】
金属硫化物の全質量に対する炭素原子の含有割合は、0.01~5質量%とすることができ、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.3~1質量%である。
【0019】
金属硫化物の全質量に対する窒素原子の含有割合は、0.01~5質量%とすることができ、好ましくは0.03~3質量%、より好ましくは0.05~1質量%である。
【0020】
金属硫化物において、硫黄、炭素、窒素以外の残部は前記金属であるが、その他、例えば、酸素等の不可避的に含まれ得る元素を含有することもできる。不可避的に含まれ得る元素とは、例えば、金属硫化物を製造時に使用する原料由来の元素が挙げられる。
【0021】
金属硫化物の形態は特に限定されず、粉末状、塊状、顆粒状、繊維状等の種々の形態をとり得る。金属硫化物が粉末状である場合、例えば、金属硫化物は、多孔質状粒子、中空粒子、不定形粒子、球状粒子等、種々の形状をとることができ、アルカリイオン電池に優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができる点で、金属硫化物は、多孔質状粒子であることが好ましい。多孔質粒子の一実施形態として、千鳥状に相互接続されたナノシートを備えたトレメラ状多孔質粒子が挙げられる。
【0022】
金属硫化物が粒子状である場合、その平均粒子径は特に限定されず、例えば、500nm~100μmとすることができる。この場合、負極活物質は、アルカリイオン電池に優れたサイクル特性をもたらしやすい。金属硫化物が粒子状である場合、その平均粒子径は、1~50μmであることが好ましく、2~80μmであることがより好ましく、3~60μmであることがさらに好ましく、5~30μmであることが特に好ましい。ここでいう平均粒子径とは、金属硫化物の走査型電子顕微鏡による直接観察によって無作為に50個の粒子を選択し、これらの円相当径を計測して算術平均した値をいう。
【0023】
金属硫化物のBET比表面積は特に限定されず、例えば、15m2/g以上であることが好ましい。この場合、アルカリイオン電池により優れた容量特性及びサイクル特性をもたらしやすい。金属硫化物のBET比表面積は20m2/g以上であることがより好ましく、25m2/g以上であることがさらに好ましく30m2/g以上であることが特に好ましい。
【0024】
負極活物質は、前記金属硫化物の他、本発明の効果が阻害されない程度である限り、他の成分を含むことができ、あるいは、負極活物質は前記金属硫化物のみとすることもできる。負極活物質に含まれる前記金属硫化物の含有割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。負極活物質に前記金属硫化物が存在するかどうかは、負極活物質のXRDスペクトルから判断することができる。
【0025】
負極活物質を製造する方法は特に限定されない。例えば、後記する工程1及び工程2を備える製造方法によって、本発明の負極活物質を製造することができる。
【0026】
2.負極活物質の製造方法
本発明の負極活物質の製造方法は、例えば、下記の工程1及び工程2を備えることができる。
工程1:Co、Cr、Ni、及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属源と、有機酸塩との反応により、前駆体を得る工程。
工程2:前記前駆体を硫黄源の存在下で加熱処理する工程。
【0027】
上記工程1及び工程2を備える製造方法により、負極活物質を製造することができ、例えば、前述の本発明の負極活物質を製造することができる。
【0028】
(工程1)
工程1では、Co、Cr、Ni、及びFeからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属源と、有機酸塩とを反応させて、前駆体を得る。
【0029】
金属源は、アルカリイオン電池に優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができる負極活物質が製造されやすく、かつ、簡便な方法で製造できるという点で、Coを含む金属源であることが好ましい。
【0030】
金属源は、金属単体であってもよいし、金属の化合物であってもよいし、これらの混合物であってもよく、好ましくは、金属の化合物である。工程1で金属源以外の炭素源や窒素源を使用しなくても良い点で、金属源は、金属、炭素及び窒素を含む化合物であることが特に好ましい。
【0031】
金属の化合物の種類は特に限定されず、例えば、各種金属の無機化合物、各種金属の塩化物、各種金属の有機化合物を挙げることができる。金属の無機化合物としては、例えば、金属のシアン化合物、金属のシアン化合物塩、金属の酸化物、金属のオキソアニオンを含む化合物(金属酸塩)、金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩素酸塩、過塩素酸塩、クロリド錯体、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができる。金属の有機化合物としては、酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。
【0032】
金属源は、金属のシアン化合物又はシアン化合物塩であることが好ましい。すなわち、金属源は、CN部位を有する化合物又はその塩であることが好ましい。この場合、金属源は、炭素源及び窒素源を含むので、所望の前記金属硫化物を製造することが容易になる。
【0033】
ただし、金属のシアン化合物又はシアン化合物塩を金属源として使用した場合であっても、後記する有機酸塩を使用しない場合は、最終的に得られる金属硫化物には、窒素がドープされない。
【0034】
金属のシアン化合物塩の具体例としては、K3[Co(CN)6]、K3Cr(CN)6、K2Ni(CN)4、K3[Fe(CN)6]を挙げることができ、アルカリイオン電池に優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができる負極活物質が製造されやすい点で、K3[Co(CN)6]であることが好ましい。
【0035】
なお、金属源が炭素源及び窒素源を含まない場合は、工程1では別途、炭素源及び窒素源を使用する。この場合、炭素源及び窒素源は、例えば、公知の炭素源及び窒素源を広く使用することができる。
【0036】
金属源は、溶媒に溶解又は分散させることができる。斯かる溶媒は、例えば、水、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒等が挙げられ、その他、N,N-ジメチルホルムアミド、グリセロール、エチレングリコール、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。溶媒は水と有機溶媒との溶媒であってもよい。金属源を溶媒に溶解又は分散させることで金属を含有する金属源は溶液又は分散液である。
【0037】
金属源の溶液又は分散液の濃度は特に限定されず、例えば、金属源の濃度は0.1~50mMであることが好ましく、0.5~10mMであることがより好ましく、1~5mMであることがさらに好ましく、1.5~3mMであることが特に好ましい。
【0038】
工程1で使用する有機酸塩は特に限定されず、例えば、公知の有機酸塩を広く使用することができる。有機酸塩としては、クエン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等を挙げることができる。また、有機酸塩は、例えば、各種有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩等を挙げることができ、アルカリ金属塩が好ましい。
【0039】
金属源との反応性に優れ、アルカリイオン電池に優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができる負極活物質が製造されやすい点で、有機酸塩は、クエン酸塩であることが好ましく、クエン酸のナトリウム塩であることがより好ましい。例として、クエン酸三ナトリウム二水和物(Na3C6H5O7・2H2O)を挙げることができる。
【0040】
工程1で使用する有機酸塩も、溶媒に溶解又は分散させることができる。斯かる溶媒は、金属源を溶解又は分散させるための溶媒と同種の溶媒を例示することができ、中でも水であることが好ましい。金属源を溶解又は分散させる溶媒と、有機酸塩を溶解又は分散させる溶媒とは同一であっても、異なっていてもよい。
【0041】
有機酸塩の溶液又は分散液の濃度は特に限定されず、例えば、有機酸塩の濃度は0.1~50mMであることが好ましく、0.5~10mMであることがより好ましく、1~5mMであることがさらに好ましく、1.5~3mMであることが特に好ましい。
【0042】
工程1において、金属源と有機酸塩との反応は特に限定されず、例えば、金属源と有機酸塩とを適宜の方法で混合することで当該反応を行うことができる。具体的には、金属源の溶液と有機酸塩の水溶液とを混合して、水熱処理する方法(水熱合成法)を挙げることができる。
【0043】
水熱処理する際の温度は、例えば、公知の水熱合成法と同様とすることができる、例えは、80~400℃、好ましくは100~300℃、より好ましくは120~200℃とすることができ、また、温度に応じて反応時間は適宜選択され、例えば、1~10時間である。工程1の反応では、例えば、公知の反応器を使用することができる。
【0044】
工程1の反応で得られた生成物は、例えば、固形分であるので、適宜の方法で分離し、生成物を取得することができる。斯かる生成物は、さらに適宜の方法で精製処理及び乾燥処理等を行うこともできる。
【0045】
工程1で有機酸塩を使用することによって、最終的に得られる金属硫化物に炭素及び窒素がドープされるものであり、有機酸塩を使用しない場合は、炭素及び窒素がドープされた金属硫化物を得ることができず、特に窒素がドープされた金属硫化物を得ることができない。
【0046】
工程1の反応で得られた生成物が、金属硫化物の前駆体である。この前駆体は、次工程の工程2に供される。
【0047】
(工程2)
工程2では、前記工程1で得られた前駆体を硫黄源の存在下で加熱処理する。この加熱処理により得られる生成物は、前記金属硫化物である。
【0048】
工程2で使用する硫黄源は硫黄単体(硫黄粉末や昇華硫黄)であってもよいし、硫黄を含む化合物であってもよいが、硫黄を含む化合物であることが好ましい。
【0049】
硫黄を含む化合物としては、例えば、公知の硫黄化合物を広く挙げることができ、例えば、チオアセトアミド(CH3CSNH2)、チオ尿素(SC(NH2)2)、システイン(C3H7NO2S)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、硫化アンモニウム((NH4)2S)、硫化ナトリウム(Na2S)等を挙げることができる。なお、硫黄を含む化合物としては、硫黄元素の一部が、Se及び/又はTe元素に置き換えられてもよい。硫黄源は1種単独で使用することができ、あるいは、2種以上を併用することもできる。
【0050】
工程2において、前記工程1で得られた前駆体及び硫黄源を含む原料を加熱処理する方法は特に限定されない。例えば、固体状の前駆体と硫黄源とを反応器に収容し、所定温度で加熱処理する方法を挙げることができる。この加熱処理は、空気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下等で行うことができる。加熱処理は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0051】
工程2において、加熱処理の温度も特に限定されず、例えば、200~2000℃とすることができ、好ましくは250~1000℃、より好ましくは300~800℃である。加熱処理の時間は温度に応じて適宜選択され、例えば、1~10時間である。
【0052】
工程2で使用する原料中の前駆体及び硫黄源の割合は特に限定されない。例えば、金属硫化物が形成されやすく、所望の負極活物質が得られやすいという点で、前駆体100質量部あたりの硫黄源の使用量を、10~1000質量部とすることが好ましく、30~800質量部とすることがより好ましく、50~600質量部とすることがさらに好ましい。
【0053】
工程2で得られる生成物は、炭素及び窒素がドープされた金属硫化物である。工程2で得られた生成物を適宜の方法で処理することで、精製された金属硫化物を得ることもできる。
【0054】
工程2で得られた金属硫化物(炭素及び窒素がドープされた金属硫化物)を本発明の負極活物質として得ることができ、あるいは必要に応じてその他の成分を配合することで、本発明の負極活物質として得ることもできる。
【0055】
上記工程1及び工程2を備える製造方法によれば、簡便な工程によって、容易に本発明の負極活物質を得ることができ、低エネルギーである製造方法となる。また、製造時に使用する原料も安価で、かつ、豊富な資源から入手することができる。
【0056】
3.負極材料
本発明の負極材料は、上記負極活物質を含む限り、他の成分を含むこともでき、例えば、アルカリイオン電池(例えば、ナトリウムイオン電池)の負極材料に使用されている公知の成分を挙げることができる。例えば、本発明の負極材料は、上記負極活物質の他、導電助剤及びバインダーを含むことができる。
【0057】
導電助剤は、例えば、各種電池の電極材料を形成するために使用されている公知の導電助剤を広く挙げることができる。導電助剤としては、例えば、各種の炭素材料が例示され、硬質炭素、軟質炭素、グラフェン、還元型酸化グラフェン、天然黒鉛、人造黒鉛、導電性カーボンブラック、炭素繊維等を挙げることができる。炭素繊維としては、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等が挙げられる。導電助剤は、その他、銅、ニッケル等の金属粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等を使用することもできる。
【0058】
バインダー例えば、各種電池の電極材料を形成するために使用されている公知のバインダーを広く挙げることができる。バインダーとしては、例えば、各種樹脂材料を挙げることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0059】
負極材料において、負極活物質の含有割合は特に限定されない。例えば、負極材料に含まれる負極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、負極活物質が50~95質量%含まれることが好ましく、60~90質量%含まれることがより好ましい。
【0060】
負極材料において、導電助剤の含有割合は特に限定されない。例えば、負極材料に含まれる負極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、導電助剤が3~30質量%含まれることが好ましく、5~20質量%含まれることがより好ましい。
【0061】
負極材料において、バインダーの含有割合は特に限定されない。例えば、負極材料に含まれる負極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、バインダー3~30質量%含まれることが好ましく、5~20質量%含まれることがより好ましい。
【0062】
負極材料は、負極活物質、導電助剤及びバインダーのみで構成されていてもよいし、その他の成分が含まれていてもよい。
【0063】
負極材料の調製方法は特に限定されず、例えば、公知の負極材料の調製方法を広く採用することができる。例えば、負極活物質、導電助剤及びバインダーを所定の割合にて、適宜の方法で混合することで、負極材料を調製することができる。負極材料を調製するにあたっては、負極活物質、導電助剤及びバインダーを分散させるべく、溶媒を使用することもできる。溶媒としては、水の他、各種の有機溶媒、例えば、炭素数1~3の低級アルコール化合物、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)等を挙げることができる。負極材料が溶媒を含む場合は、例えば、スラリー状やペースト状となる。
【0064】
4.アルカリイオン電池
本発明のアルカリイオン電池は、前記負極材料を備える限り、その他の構成は特に限定されず、例えば、公知のアルカリイオン電池と同様の構成とすることができる。アルカリイオン電池の種類は特に制限されず、例えば、ナトリウム二次電池、リチウムイオン電池、カリウム二次電池等を挙げることができる。本発明のアルカリイオン電池は、ナトリウム電池であることが好ましく、ナトリウムイオン二次電池であることがさらに好ましい。
【0065】
アルカリイオン電池は、例えば、正極、負極、電解質及びセパレータを備えることができる。電池の大きさ及び形状は、その用途に応じて適宜決定することができる。
【0066】
正極は、例えば、金属箔と正極材料で構成された構造を有することができる。金属箔を形成するための金属としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。正極材料は公知の正極材料を広く適用することができ、例えば、正極材料を構成する材料としては、ナトリウム金属、リチウム金属、NaFePO4、Na3V2(PO4)3、NaxMO4(M=Co、Mn、V、Fe)、LiTiS2、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2、LiNi0.8Mn0.15Al0.05O2、LiMn2O4、LiFePO4等が挙げられる。正極は公知の方法で作製することができ、例えば、金属箔上に正極材料を塗布する方法が挙げられる。
【0067】
負極は、例えば、金属箔に本発明の負極活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。負極は公知の方法で作製することができる。
【0068】
アルカリイオン電池において、電解質の種類も特に限定されず、例えば、公知の電解質を使用することができる。電解質は固体電解質及び液体電解質のいずれでもよい。
【0069】
液体電解質としては、電解質が溶媒に溶解した溶液を挙げることができる。電解質としては電池の種類に応じて各種アルカリ塩を挙げることができ、例えば、NaPF6、NaClO4、NaCF3SO3、NaFSI、NaTFSI、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiBOB、LiAsF6、LiCF3SO3、LiTFSI、LiFSI、KPF6、KFSI、KTFSI、KBF4等が挙げられ、その他、公知のマグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等も挙げられる。溶媒は水、ジグライム、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸プロピル、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が例示される。
【0070】
固体電解質としては、硫化物系や酸化物系等の無機物材料や、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料が挙げられる。
【0071】
セパレータとしては、二次電池に適用されている公知のセパレータを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド;ポリビニルアルコール;末端アミノ化ポリエチレンオキシドポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等で形成された材料を挙げることができる。セパレータは、多孔質膜、不織布、織布等の形態とすることができる。その他、セパレータとしては、各種の高分子膜、および無機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、例えば、LiLaTiO3、Li7La3Zr2O12(LLZO)、Na3Zr2Si2PO12、Na11Sn2PS12、Na3PSe4等が挙げられる。
【実施例0072】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
有機酸塩として1.8mmolのクエン酸三ナトリウム二水和物(TSC、Na3C6H5O7・2H2O)を30mLの脱イオン水に溶解し、30分間にわたって撹拌して溶液Aを調製した。一方、金属源として、2mmolのK3[Co(CN)6]を30mLの脱イオン水に溶解し、30分間にわたって撹拌して溶液Bを調製した。次いで、溶液Bを溶液Aに注ぎ、1時間撹拌すること透明溶液を得た。この透明溶液を10分間超音波処理した後、100mLのテフロン(登録商標)で裏打ちされたステンレス鋼オートクレーブに透明溶液を加えて密封し、オートクレーブ内を200℃に保持して16時間にわたり、水熱合成することで反応を行った。反応後、生成物を遠心分離により回収し、エタノールと蒸留水を用いて数回連続して洗浄し、最後に24時間凍結乾燥することで前駆体を得た(工程1)。
【0074】
工程1で得られた前駆体と、硫黄源としてチオアセトアミド(TAA)とを、質量比1:5(MOF:硫黄源)で含む原料を、アルゴン雰囲気中、500℃で3時間加熱処理した(工程2)。これにより、炭素及び窒素がドープされた金属硫化物を得た。得られた金属硫化物を「Co3S4@N-C1.8」と命名し、これを負極活物質とした。
【0075】
(実施例2)
クエン酸三ナトリウム二水和物の使用量を3.6mmolに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で金属硫化物を得た。得られた金属硫化物を「Co3S4@N-C3.6」と命名し、これを負極活物質とした。
【0076】
(比較例1)
クエン酸三ナトリウム二水和物を使用しなかったこと以外は実施例1同様の方法で金属硫化物を得た。得られた金属硫化物を「Co3S4@N-C0」と命名し、これを負極活物質とした。
【0077】
(作製例1)
負極活物質として実施例1で得られた「Co3S4@N-C1.8」と、導電性添加剤としてsuperP(導電性カーボンブラック)と、バインダーとしてメチルピロリジノン中に溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)とからなる負極材料用スラリーを準備した。このスラリーにおいて、Co3S4@N-C1.8:superP:PVDF=7.5:1.5:1(質量比)とした。スラリーを銅箔にコーティングし、真空中120℃で12時間乾燥させることで、負極を製作した。この負極と、正極(アルミニウム箔付きナトリウム金属)と、液体電解質と、この液体電解質をしみ込ませたセパレータ(Cytiva提供の「Whatman GF/Cガラス繊維ろ紙」)とを用い、公知の方法により、電池を組み立てた。電解質は、1Mトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム溶液とし、斯かる溶液の溶媒は、ジグライムとした。
【0078】
(作製例2)
負極活物質として実施例1で得られた「Co3S4@N-C1.8」の代わりに実施例2で得られた「Co3S4@N-C3.6」に変更したこと以外は作製例1と同様の方法で電池を組み立てた。
【0079】
(作製例3)
負極活物質として実施例1で得られた「Co3S4@N-C1.8」の代わりに比較例1で得られた「Co3S4@N-C0」に変更したこと以外は作製例1と同様の方法で電池を組み立てた。
【0080】
(評価結果)
図1は、各実施例及び比較例で得られた負極活物質(炭素及び窒素がドープされた金属硫化物)のX線回折測定(XRD)結果である。X線回折測定には、Rigaku社製の「SmartLab」を使用し、2θ=10~100°の範囲でCu-Kα(λ=1.540Å)放射線源を使用して測定を行った。
【0081】
図1から、負極活物質もCo
3S
4相を有していることがわかった。また、実施例1及び2から、クエン酸三ナトリウム二水和物(TSC)の量を増やすと、XRDピーク強度が弱くなることがわかった。これは、金属硫化物中のアモルファスカーボン含有量の増加が原因である可能性がある。
【0082】
表1には、負極活物質の各元素の含有割合及び窒素ガス吸着によるBET比表面積の測定結果を示している。
【0083】
【0084】
図2(a)~(b)は比較例1で得られた負極活物質のSEM画像、(c)~(d)は実施例1で得られた負極活物質のSEM画像、(e)~(f)は実施例2で得られた負極活物質のSEM画像を示している。
【0085】
図2から、比較例1の負極活物質は、ナノリボンによって組み立てられたウニのような構造であることがわかった(
図2(a)、(b))。これに対し、実施例1の負極活物質は、一方向のサイズが約1~2μmの千鳥状に相互接続されたナノシートを備えるトレメラ状多孔質粒子であった(
図2(c)、(d))。この構造は、電極と解質界面との接触面積をより大きくすることが可能であり、迅速な界面電荷移動および反応を促進するのに有益であるといえる。実施例2のようにTSCの量をさらに3.6mMに増やすと、ナノシートは不規則で厚くなり、粒子間の凝集が見られた(
図2(e)、(f))。
【0086】
図3は、各作製例で組み立てた電池の定電流充放電試験の結果を示す。この測定には、LANDバッテリー試験システム「CT2001A」(Wuhan LAND electronics Co., Ltd. China)を使用して測定した。ここで、測定温度は30℃、印加電圧は1.5~3.5V(1Ag
-1)とした。なお、
図3において、Y軸の第1軸は容量(mAhg
-1)を、Y軸の第2軸はクーロン効率(%)である。
【0087】
表2は、
図3の定電流充放電試験の結果をまとめたものである。
【0088】
【0089】
図3から、実施例1及び実施例2で得た負極活物質を含む負極材料を備えた電池は、比較例1の負極活物質を備える電池よりも優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができることがわかった。
【0090】
図4(a)は、各作製例で組み立てた電池の定電流充放電試験(
図3と同じ試験条件)の結果、(b)はナイキストプロットを示す。
【0091】
実施例2で得た負極活物質は、0.1、0.2、0.5、1、2、および3Ag-1の電流密度でそれぞれ651.4、635.6、611.8、599.2、および574.4mAhg-1の可逆容量を提供できることがわかった。また、電流密度が0.13Ag-1に戻ると、可逆容量も606.4mAhg-1に回復した。この結果からも実施例で得られた負極活物質はアルカリイオン電池に優れた容量特性及びサイクル特性をもたらすことができることが示された。