(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087674
(43)【公開日】2023-06-23
(54)【発明の名称】重ねレーザ溶接継手、重ねレーザ溶接継手の製造方法、及び自動車車体用構造部材
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20230616BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230616BHJP
B23K 26/32 20140101ALI20230616BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230616BHJP
C22C 38/04 20060101ALI20230616BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/21 N
B23K31/00 F
B23K26/32
C22C38/00 301A
C22C38/00 302A
C22C38/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】32
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197941
(22)【出願日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2021201939
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】芦田 肇
(72)【発明者】
【氏名】松井 翔
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】内藤 恭章
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA03
4E168BA21
4E168BA65
4E168BA85
(57)【要約】
【課題】ビード終端部における溶接割れを抑制可能な重ねレーザ溶接継手、重ねレーザ溶接継手の製造方法、及び自動車車体用構造部材を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る重ねレーザ溶接継手は、複数の金属板と、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビードとを備え、複数の金属板の隙間の大きさの合計値Gと、複数の金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~18%であり、第1のビードの長さL1が10~100mmであり、重ねレーザ溶接継手がさらに第2のビードを有し、第2のビードの長さL2がL1より小さく、終端周辺領域において、第2のビードにおける、第1のビードの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さが、第1のビードの中心軸に沿って2mm以上であり、第2のビードは第1のビードの中心軸から離隔され、始端周辺領域に第2のビードが含まれない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせられた複数の金属板と、
複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビードと、
を備える重ねレーザ溶接継手であって、
複数の前記金属板の隙間の大きさの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~18%であり、
前記第1のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第1のビードの長さL1が10~100mmであり、
前記重ねレーザ溶接継手がさらに、第2のビードを有し、
前記第2のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第2のビードの長さL2が、前記L1より小さく、
前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向から見た平面視において、前記第1のビードの終端を通り且つ前記終端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第1の仮想線と、前記第1のビードの前記終端から前記第1のビードの始端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って5mm離れた第1の点を通り且つ前記第1の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第2の仮想線との間の領域である終端周辺領域において、前記第2のビードにおける、前記第1のビードの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さが、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm以上であり、
前記第2のビードは、前記第1のビードの前記中心軸から離隔され、
前記第1のビードの始端を通り且つ前記始端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第3の仮想線と、前記第1のビードの前記始端から前記第1のビードの前記終端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って(1/3)×L1離れた第2の点を通り且つ前記第2の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第4の仮想線との間の領域である始端周辺領域に前記第2のビードが含まれない
重ねレーザ溶接継手。
【請求項2】
前記重ねレーザ溶接継手の前記厚さ方向から見た平面視において、前記第2のビードが、前記第1のビードの前記中心軸を基準として、前記第1のビードの両側に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項3】
前記第1のビードの前記終端から、前記第1のビードの前記始端と反対の方向に向けて、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm離れた第3の点を通り、且つ前記第3の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第5の仮想線から、前記第2のビードが離隔されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項4】
前記第1のビードが、前記重ねレーザ溶接継手の片方の表面にのみ形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項5】
前記第2のビードが、前記重ねレーザ溶接継手の最表層に配された前記金属板のうち一方にのみ形成され、
前記第2のビードの溶け込み深さが、前記第2のビードが形成されている前記金属板の厚さの1/2以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項6】
前記複数の金属板が、複数の鋼板であり、
前記複数の鋼板のうち1枚以上の鋼板の成分組成が、
C:0.05~0.5mass%、
Si:0.1~3.5mass%、
Mn:0.1~5.5mass%、及び
P及びS:合計0.03mass%以下
を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項7】
前記複数の金属板が、複数の鋼板であり、
前記複数の鋼板のうち1枚以上の引張強さが980MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項8】
前記複数の鋼板のうち前記第2のビードが形成される鋼板の引張強さが980MPa以上であることを特徴とする請求項7に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項9】
複数の金属板を重ね合わせる工程と、
複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビードを形成するように、第1のレーザ照射をする工程と、
を備える重ねレーザ溶接継手の製造方法であって、
前記重ね合わせにおいて、前記金属板の隙間の大きさの合計値Gと、前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~18%とし、
前記第1のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第1のビードの長さL1を10~100mmとし、
前記重ねレーザ溶接継手の製造方法が、第2のビードを形成するように、第2のレーザ照射をする工程をさらに備え、
前記第2のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第2のビードの長さL2を、前記L1より小さくし、
前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向から見た平面視において、前記第1のビードの終端を通り且つ前記終端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第1の仮想線と、前記第1のビードの前記終端から前記第1のビードの始端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って5mm離れた第1の点を通り且つ前記第1の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第2の仮想線との間の領域である終端周辺領域において、前記第2のビードにおける、前記第1のビードの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さを、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm以上とし、
前記第2のビードを、前記第1のビードの前記中心軸から離隔させ、
前記第1のビードの始端を通り且つ前記始端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第3の仮想線と、前記第1のビードの前記始端から前記第1のビードの前記終端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って(1/3)×L1離れた第2の点を通り且つ前記第2の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第4の仮想線との間の領域である始端周辺領域に、前記第2のビードを含めず、
前記第1のレーザ照射の終了から10秒経過した時点より前に、前記第2のビードを形成する
重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項10】
前記第1のレーザ照射の後で、前記第2のレーザ照射をすることを特徴とする請求項9に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項11】
前記第2のレーザ照射の後で、前記第1のレーザ照射をすることを特徴とする請求項9に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項12】
前記重ねレーザ溶接継手の前記厚さ方向から見た平面視において、前記第2のビードを、前記第1のビードの前記中心軸を基準として、前記第1のビードの両側に形成することを特徴とする請求項9~11のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項13】
前記第1のビードの前記終端から、前記第1のビードの前記始端と反対の方向に向けて、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm離れた第3の点を通り、且つ前記第3の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第5の仮想線から、前記第2のビードを離隔させることを特徴とする請求項9~11のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項14】
前記第1のビードを、前記重ねレーザ溶接継手の片面にのみ形成することを特徴とする請求項9~11のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項15】
前記第2のビードの溶け込み深さを、前記第2のビードが形成された前記金属板の厚さの1/2以上にすることを特徴とする請求項9~11のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の重ねレーザ溶接継手を備える自動車車体用構造部材。
【請求項17】
重ね合わせられた複数の金属板と、
複数の前記金属板のうちの、最表層に配された金属板である第1の金属板の端面と、前記第1の金属板と重ね合わされた第2の金属板の表面と、を接合し、かつ、複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビードと、
を備える重ねレーザ溶接継手であって、
複数の前記金属板の隙間の大きさの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~18%であり、
前記第1のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第1のビードの長さL1が10~100mmであり、
前記重ねレーザ溶接継手がさらに、少なくとも前記第2の金属板の表面に第2のビードを有し、
前記第2のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第2のビードの長さL2が、前記L1より小さく、
前記第2の金属板における前記第1の金属板と重ね合わされた合わせ面において、前記第1のビードの終端を通り且つ前記終端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第1の仮想線と、前記第1のビードの前記終端から前記第1のビードの始端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って5mm離れた第1の点を通り且つ前記第1の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第2の仮想線との間の領域である終端周辺領域において、前記第2のビードにおける、前記第1のビードの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さが、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm以上であり、
前記第2のビードは、前記第1のビードの前記中心軸から離隔され、
前記第1のビードの始端を通り且つ前記始端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第3の仮想線と、前記第1のビードの前記始端から前記第1のビードの前記終端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って(1/3)×L1離れた第2の点を通り且つ前記第2の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第4の仮想線との間の領域である始端周辺領域に前記第2のビードが含まれない
重ねレーザ溶接継手。
【請求項18】
前記第2の金属板における前記第1の金属板と重ね合わされた合わせ面において、前記第2のビードが、前記第1のビードの前記中心軸を基準として、前記第1のビードの両側に形成されていることを特徴とする請求項17に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項19】
前記第1のビードの前記終端から、前記第1のビードの前記始端と反対の方向に向けて、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm離れた第3の点を通り、且つ前記第3の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第5の仮想線から、前記第2のビードが離隔されていることを特徴とする請求項17又は18に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項20】
前記第1のビードが、前記重ねレーザ溶接継手の片方の表面にのみ形成されていることを特徴とする請求項17又は18に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項21】
前記第2の金属板における前記第2のビードの溶け込み深さが、前記第2の金属板の厚さの1/2以上であることを特徴とする請求項17又は18に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項22】
前記複数の金属板が、複数の鋼板であり、
前記複数の鋼板のうち1枚以上の鋼板の成分組成が、
C:0.05~0.5mass%、
Si:0.1~3.5mass%、
Mn:0.1~5.5mass%、及び
P及びS:合計0.03mass%以下
を含む
ことを特徴とする請求項17又は18に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項23】
前記複数の金属板が、複数の鋼板であり、
前記複数の鋼板のうち1枚以上の引張強さが980MPa以上であることを特徴とする請求項17又は18に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項24】
前記複数の鋼板のうち前記第2のビードが形成される鋼板の引張強さが980MPa以上であることを特徴とする請求項23に記載の重ねレーザ溶接継手。
【請求項25】
複数の金属板を重ね合わせる工程と、
複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビードを形成するように、第1のレーザ照射をする工程と、
を備える重ねレーザ溶接継手の製造方法であって、
前記第1のレーザ照射をする工程では、少なくとも、前記複数の金属板のうちの最表面に配された第1の金属板の端面と、前記第1の金属板と重ね合わされた第2の金属板の表面と、を少なくとも接合し、
前記重ね合わせにおいて、前記金属板の隙間の大きさの合計値Gと、前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~18%とし、
前記第1のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第1のビードの長さL1を10~100mmとし、
前記重ねレーザ溶接継手の製造方法が、少なくとも前記第2の金属板に第2のビードを形成するように、第2のレーザ照射をする工程をさらに備え、
前記第2のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第2のビードの長さL2を、前記L1より小さくし、
前記第2の金属板における前記第1の金属板と重ね合わされた合わせ面において、前記第1のビードの終端を通り且つ前記終端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第1の仮想線と、前記第1のビードの前記終端から前記第1のビードの始端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って5mm離れた第1の点を通り且つ前記第1の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第2の仮想線との間の領域である終端周辺領域において、前記第2のビードにおける、前記第1のビードの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さを、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm以上とし、
前記第2のビードを、前記第1のビードの前記中心軸から離隔させ、
前記第1のビードの始端を通り且つ前記始端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第3の仮想線と、前記第1のビードの前記始端から前記第1のビードの前記終端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って(1/3)×L1離れた第2の点を通り且つ前記第2の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第4の仮想線との間の領域である始端周辺領域に、前記第2のビードを含めず、
前記第1のレーザ照射の終了から10秒経過した時点より前に、前記第2のビードを形成する
重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項26】
前記第1のレーザ照射の後で、前記第2のレーザ照射をすることを特徴とする請求項25に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項27】
前記第2のレーザ照射の後で、前記第1のレーザ照射をすることを特徴とする請求項25に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項28】
前記第2の金属板における前記第1の金属板と重ね合わされた合わせ面において、前記第2のビードを、前記第1のビードの前記中心軸を基準として、前記第1のビードの両側に形成することを特徴とする請求項25~27のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項29】
前記第1のビードの前記終端から、前記第1のビードの前記始端と反対の方向に向けて、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm離れた第3の点を通り、且つ前記第3の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第5の仮想線から、前記第2のビードを離隔させることを特徴とする請求項25~27のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項30】
前記第1のビードを、前記重ねレーザ溶接継手の片面にのみ形成することを特徴とする請求項25~27のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項31】
前記第2の金属板における前記第2のビードの溶け込み深さを、前記第2の金属板の厚さの1/2以上にすることを特徴とする請求項25~27のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項32】
請求項17又は18に記載の重ねレーザ溶接継手を備える自動車車体用構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ねレーザ溶接継手、重ねレーザ溶接継手の製造方法、及び自動車車体用構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
重ね継手は、重ね合わせられた複数の金属板を溶接して得られる溶接継手である。重ね継手を製造するための溶接手段の一つにレーザ溶接がある。重ねレーザ溶接とは、重ね合わせた複数枚の金属板の片側表面にレーザビームを照射して、金属板を溶融凝固させることにより、これら金属板を接合する溶接のことである。
【0003】
重ねレーザ溶接は、ハット形部材のフランジ部などの狭い領域を、高速に接合することが可能である。しかしながら、重ねレーザ溶接には、溶接ビードの終端にある最終凝固部で割れが生じやすいという問題がある。
【0004】
レーザ溶接においては、レーザの進行方向と反対の方向に、溶融金属の流れが生じる。そのため、レーザ溶接によって形成されたビードの終端部には、クレータと呼ばれる凹みが生じる。さらに、レーザ溶接の終了後には、ビードの終端部に引張応力が加えられる。レーザ溶接の終了後は、溶接部からその周辺への抜熱によって溶接部が急冷され、収縮するからである。クレータが形成されたビード終端部に引張応力が加えられることによって、ビード終端部は、ビードの延在方向に垂直に引き裂かれるように破断することがある。この場合、終端部の破断がビードに沿って進展し、ビード全体にわたって亀裂が形成されるおそれがある。
【0005】
近年、機械構造部品の材料を高強度化する例が増えている。例えば自動車車体用部材、特に自動車の骨格部材となる構造部材では、車体の強度及び剛性の向上を目的として、引張強さ980MPa以上の高強度鋼板が適用される例が増えている。しかしながら、金属板の引張強さが大きくなるほど、レーザ溶接の終了後にビード終端部に加わる引張応力が大きくなり、ビード終端部の割れが生じるおそれが高まる。ビードに、その全長にわたる亀裂が発生すると、接合部のせん断強度及び剥離強度等の静的強度が低下し、さらに、疲労強度も著しく低下する。以上の事情により、高強度金属板においてビード終端部の割れを防止する技術が待望されている。
【0006】
特許文献1には、複数の鋼板を重ね合わせた鋼板の片側表面にレーザビームを断続的に照射して、線状の第1接合部とその第1接合部に続いて直線状の後続接合部とが列状に配列した溶接部を形成する際、少なくとも、上記溶接部を構成する鋼板間の合計間隙Gを、溶接部を構成する鋼板の合計厚Tの0~15%の範囲内とし、上記レーザビームを照射する溶接ヘッドの移動方向とレーザビームの走査方向を逆向きとすることにより、第1接合部の溶接始端部と該第1接合部に隣接した後続接合部の溶接終端部とが対向し、かつ、上記後続接合部同士の溶接始端部と溶接終端部とが対向するよう溶接部を形成するとともに、上記した接合部の各種寸法を適正範囲に制御することによって、接合部の溶接終端部の割れ発生がなく、剥離強度にも優れる重ねレーザ溶接継手とその製造方法及びその溶接継手を有する自動車車体用構造部材が開示されている。
【0007】
特許文献2には、引張強度が780MPa級以上である少なくとも1枚の高張力鋼板を含む、板厚が0.5~3.0mmであり、表面に油が塗布された複数の鋼板が重ね合わされてレーザ溶接されるレーザ溶接継手であって、前記複数の鋼板が重ね合わされた重ね合せ部は、最上段の前記鋼板の表面から最下段の前記鋼板の裏面まで貫通した溶接ビードを有し、前記溶接ビードの最低ビッカース硬さが350Hv以上であるとともに、前記溶接ビードにおける溶接金属の成分組成が、質量%で、C:0.05~0.35%、Si:0.01~2.5%、Mn:0.5~5.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるとともに、C+Si/5≦0.4を満足し、かつ、前記溶接ビードにおける表ビード幅WS及び裏ビード幅WBが、WS+WB≦3.5を満足することを特徴とするレーザ溶接継手が開示されている。
【0008】
特許文献3には、複数の鋼板を重ね合わせ、あるいは突合せて、重ね部あるいは突合せ部の最上段の鋼板表面にレーザを照射し、最下段の鋼板裏面まで溶融させつつ溶接部を形成させる場合において、溶接部を形成させたのち、10分以内に絶対湿度が2g/m3以下のシールドガスを最上段の鋼板表面の溶接部に供給しつつ、大気に接している最下段の鋼板裏面まで貫通しないよう溶接金属にレーザを1回以上再照射し、溶接金属を照射回数分だけ再溶融させることを特徴とする鋼構造物が開示されている。
【0009】
特許文献4には、複数枚重ねのワークのエッジに沿ってレーザビームを走査して溶接を行う重ねレーザ溶接方法において、ビーム走査方向に対して45~90度傾く方向から、ワーク板面に対し斜めにレーザビームを照射して溶接を行い、ビーム走査方向に直交する断面内でビードを傾斜させることを特徴とする重ねレーザ溶接方法が開示されている。
【0010】
特許文献5には、複数の金属部材を重ね合わせた部位にレーザー光を照射して複数の前記金属部材同士を溶接するレーザー溶接方法であって、複数の前記金属部材のうち少なくとも1つの前記金属部材は母材よりも融点の低い被覆材によって前記母材が被覆されたメッキ鋼板から形成され、一の前記金属部材の面内方向の位置を決めた状態で、一の前記金属部材の一の側面から加工を施して反対側の他の側面に当該他の側面から盛り上がる突起部を生成させる前処理工程と、前記突起部を生成した一の前記金属部材を、前記突起部を介在させて、面内方向の位置を維持したまま他の前記金属部材と重ね合わせた状態にし、複数の前記金属部材を重ね合わせた部位にレーザー光を照射して複数の前記金属部材同士を溶接する溶接工程と、を有するレーザー溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2020/194669号
【特許文献2】特開2019-188407号公報
【特許文献3】特開2012-240083号公報
【特許文献4】特開2008-296236号公報
【特許文献5】国際公開第2014/126172号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の技術では、ビード終端部をJ字形状とすることにより溶接割れを抑制している。しかしながら、特許文献1の技術は、ビード終端部をJ字形状とする必要があり、溶接箇所の幅、例えば、フランジの幅が小さい部材には適用することができない。また、ビードの長さを所定値以上とする必要があり、短いビードに適用することができない。特許文献2~5の技術では、ビード終端部における引張応力の緩和について何ら検討されていない。また、特許文献3の技術には、溶接時間が長くなるという課題がある。
【0013】
以上の事情に鑑みて、本発明は、ビード終端部における溶接割れを抑制可能な重ねレーザ溶接継手、重ねレーザ溶接継手の製造方法、及び自動車車体用構造部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0015】
(1)本発明の一態様に係る重ねレーザ溶接継手は、重ね合わせられた複数の金属板と、複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビードと、を備える重ねレーザ溶接継手であって、複数の前記金属板の隙間の大きさの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~18%であり、前記第1のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第1のビードの長さL1が10~100mmであり、前記重ねレーザ溶接継手がさらに、第2のビードを有し、前記第2のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第2のビードの長さL2が、前記L1より小さく、前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向から見た平面視において、前記第1のビードの終端を通り且つ前記終端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第1の仮想線と、前記第1のビードの前記終端から前記第1のビードの始端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って5mm離れた第1の点を通り且つ前記第1の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第2の仮想線との間の領域である終端周辺領域において、前記第2のビードにおける、前記第1のビードの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さが、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm以上であり、前記第2のビードは、前記第1のビードの前記中心軸から離隔され、前記第1のビードの始端を通り且つ前記始端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第3の仮想線と、前記第1のビードの前記始端から前記第1のビードの前記終端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って(1/3)×L1離れた第2の点を通り且つ前記第2の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第4の仮想線との間の領域である始端周辺領域に前記第2のビードが含まれない。
(2)上記(1)に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記重ねレーザ溶接継手の前記厚さ方向から見た平面視において、前記第2のビードが、前記第1のビードの前記中心軸を基準として、前記第1のビードの両側に形成されていてもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第1のビードの前記終端から、前記第1のビードの前記始端と反対の方向に向けて、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm離れた第3の点を通り、且つ前記第3の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第5の仮想線から、前記第2のビードが離隔されていてもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第1のビードが、前記重ねレーザ溶接継手の片方の表面にのみ形成されていてもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第2のビードが、前記重ねレーザ溶接継手の最表層に配された前記金属板のうち一方にのみ形成され、前記第2のビードの溶け込み深さが、前記第2のビードが形成されている前記金属板の厚さの1/2以上であってもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記複数の金属板が、複数の鋼板であり、前記複数の鋼板のうち1枚以上の鋼板の成分組成が、C:0.05~0.5mass%、Si:0.1~3.5mass%、Mn:0.1~5.5mass%、及びP及びS:合計0.03mass%以下を含んでもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記複数の金属板が、複数の鋼板であり、前記複数の鋼板のうち1枚以上の引張強さが980MPa以上であってもよい。
(8)上記(7)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記複数の鋼板のうち前記第2のビードが形成される鋼板の引張強さが980MPa以上であってもよい。
【0016】
(9)本発明の別の態様に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法は、複数の金属板を重ね合わせる工程と、複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビードを形成するように、第1のレーザ照射をする工程と、を備える重ねレーザ溶接継手の製造方法であって、前記重ね合わせにおいて、前記金属板の隙間の大きさの合計値Gと、前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~18%とし、前記第1のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第1のビードの長さL1を10~100mmとし、前記重ねレーザ溶接継手の製造方法が、第2のビードを形成するように、第2のレーザ照射をする工程をさらに備え、前記第2のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第2のビードの長さL2を、前記L1より小さくし、前記重ねレーザ溶接継手の厚さ方向から見た平面視において、前記第1のビードの終端を通り且つ前記終端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第1の仮想線と、前記第1のビードの前記終端から前記第1のビードの始端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って5mm離れた第1の点を通り且つ前記第1の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第2の仮想線との間の領域である終端周辺領域において、前記第2のビードにおける、前記第1のビードの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さを、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm以上とし、前記第2のビードを、前記第1のビードの前記中心軸から離隔させ、前記第1のビードの始端を通り且つ前記始端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第3の仮想線と、前記第1のビードの前記始端から前記第1のビードの前記終端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って(1/3)×L1離れた第2の点を通り且つ前記第2の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第4の仮想線との間の領域である始端周辺領域に、前記第2のビードを含めず、前記第1のレーザ照射の終了から10秒経過した時点より前に、前記第2のビードを形成する。
(10)上記(9)に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第1のレーザ照射の後で、前記第2のレーザ照射をしてもよい。
(11)上記(9)に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第2のレーザ照射の後で、前記第1のレーザ照射をしてもよい。
(12)上記(9)~(11)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記重ねレーザ溶接継手の前記厚さ方向から見た平面視において、前記第2のビードを、前記第1のビードの前記中心軸を基準として、前記第1のビードの両側に形成してもよい。
(13)上記(9)~(12)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第1のビードの前記終端から、前記第1のビードの前記始端と反対の方向に向けて、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm離れた第3の点を通り、且つ前記第3の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第5の仮想線から、前記第2のビードを離隔させてもよい。
(14)上記(9)~(13)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第1のビードを、前記重ねレーザ溶接継手の片面にのみ形成してもよい。
(15)上記(9)~(14)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第2のビードの溶け込み深さを、前記第2のビードが形成された前記金属板の厚さの1/2以上にしてもよい。
【0017】
(16)本発明の別の態様に係る自動車車体用構造部材は、上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手を備える。
【0018】
(17)本発明の一態様に係る重ねレーザ溶接継手は、重ね合わせられた複数の金属板と、複数の前記金属板のうちの、最表層に配された金属板である第1の金属板の端面と、前記第1の金属板と重ね合わされた第2の金属板の表面と、を接合し、かつ、複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビードと、を備える重ねレーザ溶接継手であって、複数の前記金属板の隙間の大きさの合計値Gと、複数の前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~18%であり、前記第1のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第1のビードの長さL1が10~100mmであり、前記重ねレーザ溶接継手がさらに、少なくとも前記第2の金属板の表面に 第2のビードを有し、前記第2のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第2のビードの長さL2が、前記L1より小さく、前記第2の金属板における前記第1の金属板と重ね合わされた合わせ面において、前記第1のビードの終端を通り且つ前記終端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第1の仮想線と、前記第1のビードの前記終端から前記第1のビードの始端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って5mm離れた第1の点を通り且つ前記第1の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第2の仮想線との間の領域である終端周辺領域において、前記第2のビードにおける、前記第1のビードの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さが、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm以上であり、前記第2のビードは、前記第1のビードの前記中心軸から離隔され、前記第1のビードの始端を通り且つ前記始端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第3の仮想線と、前記第1のビードの前記始端から前記第1のビードの前記終端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って(1/3)×L1離れた第2の点を通り且つ前記第2の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第4の仮想線との間の領域である始端周辺領域に前記第2のビードが含まれない。
(18)上記(17)に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第2の金属板における前記第1の金属板と重ね合わされた合わせ面において、前記第2のビードが、前記第1のビードの前記中心軸を基準として、前記第1のビードの両側に形成されていてもよい。
(19)上記(17)又は(18)に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第1のビードの前記終端から、前記第1のビードの前記始端と反対の方向に向けて、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm離れた第3の点を通り、且つ前記第3の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第5の仮想線から、前記第2のビードが離隔されていてもよい。
(20)上記(17)~(19)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第1のビードが、前記重ねレーザ溶接継手の片方の表面にのみ形成されていてもよい。
(21)上記(17)~(20)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記第2の金属板における前記第2のビードの溶け込み深さが、前記第2の金属板の厚さの1/2以上であってもよい。
(22)上記(17)~(21)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記複数の金属板が、複数の鋼板であり、前記複数の鋼板のうち1枚以上の鋼板の成分組成が、C:0.05~0.5mass%、Si:0.1~3.5mass%、Mn:0.1~5.5mass%、及びP及びS:合計0.03mass%以下を含んでいてもよい。
(23)上記(17)~(22)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記複数の金属板が、複数の鋼板であり、前記複数の鋼板のうち1枚以上の引張強さが980MPa以上であってもよい。
(24)上記(23)に記載の重ねレーザ溶接継手では、前記複数の鋼板のうち前記第2のビードが形成される鋼板の引張強さが980MPa以上であってもよい。
【0019】
(25)本発明の別の態様に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法は、複数の金属板を重ね合わせる工程と、複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビードを形成するように、第1のレーザ照射をする工程と、を備える重ねレーザ溶接継手の製造方法であって、前記第1のレーザ照射をする工程では、少なくとも、前記複数の金属板のうちの最表面に配された第1の金属板の端面と、前記第1の金属板と重ね合わされた第2の金属板の表面と、を少なくとも接合し、前記重ね合わせにおいて、前記金属板の隙間の大きさの合計値Gと、前記金属板の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~18%とし、前記第1のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第1のビードの長さL1を10~100mmとし、前記重ねレーザ溶接継手の製造方法が、少なくとも前記第2の金属板に第2のビードを形成するように、第2のレーザ照射をする工程をさらに備え、前記第2のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、前記第2のビードの長さL2を、前記L1より小さくし、前記第2の金属板における前記第1の金属板と重ね合わされた合わせ面において、前記第1のビードの終端を通り且つ前記終端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第1の仮想線と、前記第1のビードの前記終端から前記第1のビードの始端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って5mm離れた第1の点を通り且つ前記第1の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第2の仮想線との間の領域である終端周辺領域において、前記第2のビードにおける、前記第1のビードの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さを、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm以上とし、前記第2のビードを、前記第1のビードの前記中心軸から離隔させ、前記第1のビードの始端を通り且つ前記始端における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第3の仮想線と、前記第1のビードの前記始端から前記第1のビードの前記終端に向けて前記第1のビードの前記中心軸に沿って(1/3)×L1離れた第2の点を通り且つ前記第2の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第4の仮想線との間の領域である始端周辺領域に、前記第2のビードを含めず、前記第1のレーザ照射の終了から10秒経過した時点より前に、前記第2のビードを形成する。
(26)上記(25)に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第1のレーザ照射の後で、前記第2のレーザ照射をしてもよい。
(27)上記(25)に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第2のレーザ照射の後で、前記第1のレーザ照射をしてもよい。
(28)上記(25)~(27)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第2の金属板における前記第1の金属板と重ね合わされた合わせ面において、前記第2のビードを、前記第1のビードの前記中心軸を基準として、前記第1のビードの両側に形成してもよい。
(29)上記(25)~(28)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第1のビードの前記終端から、前記第1のビードの前記始端と反対の方向に向けて、前記第1のビードの前記中心軸に沿って2mm離れた第3の点を通り、且つ前記第3の点における前記第1のビードの前記中心軸に垂直な第5の仮想線から、前記第2のビードを離隔させてもよい。
(30)上記(25)~(29)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第1のビードを、前記重ねレーザ溶接継手の片面にのみ形成してもよい。
(31)上記(25)~(30)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手の製造方法では、前記第2の金属板における前記第2のビードの溶け込み深さを、前記第2の金属板の厚さの1/2以上にしてもよい。
【0020】
(32)本発明の別の態様に係る自動車車体用構造部材は、上記(17)~(24)のいずれか一項に記載の重ねレーザ溶接継手を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ビード終端部における溶接割れを抑制可能な重ねレーザ溶接継手、重ねレーザ溶接継手の製造方法、及び自動車車体用構造部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】重ねレーザ溶接継手の厚さ方向から平面視したときの重ねレーザ溶接継手の模式図である。
【
図2】第2のビードの応力緩和領域の拡大図である。
【
図3A】第1の実施形態における第1のビード及び第2のビードを含む重ねレーザ溶接継手の拡大断面図である。
【
図3B】同実施形態における第1のビード及び第2のビードを含む重ねレーザ溶接継手の拡大断面図である。
【
図4】同実施形態における第1のビードを含む重ねレーザ溶接継手の拡大断面図である。
【
図5A】第2のビードがない通常の重ねレーザ溶接継手における引張応力の模式図である。
【
図5B】第2のビードを有する重ねレーザ溶接継手における引張応力の模式図である。
【
図6】重ねレーザ溶接継手の厚さ方向から平面視したときの重ねレーザ溶接継手の模式図である。
【
図7A】第2の実施形態における第1のビード及び第2のビードを含む重ねレーザ溶接継手の拡大断面図である。
【
図7B】同実施形態における第1のビード及び第2のビードを含む重ねレーザ溶接継手の拡大断面図である。
【
図8】同実施形態における第1のビードを含む重ねレーザ溶接継手の拡大断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の変形例を示す拡大断面図である。
【
図10】条件No.5の重ねレーザ溶接継手の写真である。
【
図11】条件No.8の重ねレーザ溶接継手の写真である。
【
図12】条件No.12の重ねレーザ溶接継手の写真である。
【
図13】条件No.20の重ねレーザ溶接継手の写真である。
【
図14】条件No.29の重ねレーザ溶接継手の写真である。
【
図15】条件No.33の重ねレーザ溶接継手の写真である。
【
図16】条件No.36の重ねレーザ溶接継手の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施形態]
<重ねレーザ溶接継手1>
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る重ねレーザ溶接継手について説明する。本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1は、重ね合わせられた複数の金属板10と、複数の金属板10を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビード11と、を有する。
これら複数の金属板10の間の隙間の大きさの合計値Gと、複数の金属板10の厚さの合計値Tとの比率G/Tは、0~18%である。第1のビード11の延在方向に沿った中心軸11Xに沿って測定される、第1のビード11の長さL1は、10~100mmである。
そして、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1は、さらに、第2のビード12を有する。第2のビード12は、第1のビード11の中心軸11Xから離隔され、且つ、その少なくとも一部が、第1のビード11の終端を基準として規定される終端周辺領域EAに配される。具体的には、第1のビード11の終端周辺領域EAにおいて、第2のビード12における、第1のビード11の幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さが、第1のビード11の中心軸11Xに沿って2mm以上である。加えて、第1のビード11の始端周辺領域SAには、第2のビード12が含まれない。なお、第1のビード11の幅方向の端部とは、第1のビード11の延在方向に関して両側の縁を意味する。
なお、第1のビード11の終端とは、第1のビード11の外周と中心軸11Xとの2つの交点のうち、クレータ111が存在する方の交点にあたる。終端周辺領域EA及び始端周辺領域SAについては後述する。
【0024】
(金属板10)
複数の金属板10は、重ねレーザ溶接継手1の母材である。金属板の種類、厚さ、及び表面処理の有無は、レーザ溶接に適したものである限り、特に限定されない。金属板10の枚数も特に限定されず、2枚以上の任意の枚数とすることができる。
【0025】
複数の金属板10の好適な一例は、複数の鋼板、及び複数のAl板等である。金属板10を鋼板とする場合、この鋼板の成分組成は特に限定されず、重ねレーザ溶接継手の用途に応じた好適な成分組成を適用することができる。例えば、複数の鋼板のうち1枚以上の成分組成が、C:0.05~0.5mass%、Si:0.1~3.5mass%、Mn:0.1~5.5mass%、及びP及びS:合計0.03mass%以下を含有し、残部がFe及び不純物を含んでもよい。このような成分組成を有する鋼板は、高い強度を有するので、重ねレーザ溶接継手1に優れた強度を付与することができる。なお、このような成分組成を有する鋼板に、通常の重ねレーザ溶接を実施すると、ビードの終端部において溶接割れが生じやすい。しかし本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、後述する第2のビード12によって、溶接割れが抑制されている。
【0026】
また、重ねレーザ溶接継手1の強度を高める観点からは、金属板10の強度は高いほど好ましい。例えば、複数の金属板10が複数の鋼板である場合、これら鋼板のうち1枚以上の引張強さが980MPa以上、1000MPa以上、又は1100MPa以上であってもよい。鋼板の引張強さが高いほど、溶接後にビードの終端部にかかる引張応力が大きくなるが、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、後述する第2のビード12によって、引張応力が低減されている。また、引張強さが980MPa以上の鋼板、即ち高強度鋼板は、重ねレーザ溶接継手の最表に配置されても良く、内側に配置されても良い。一般に、高強度鋼板はC含有量が大きく、溶接される鋼板を重ね合わせた板組のどこかに高強度鋼板が含まれていれば、溶接部のC含有量は高くなるので、溶接部の溶接割れは起こりやすくなる。しかしながら、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、後述する第2のビード12等を利用することにより、高強度鋼板が含まれる板組においても溶接割れ防止効果を効果的に発現させることができる。なお、複数の金属板10が複数の鋼板であり、且つ、これらのうち1枚以上が高強度鋼板である場合、後述する第2のビード12が高強度鋼板に溶け込んでいることが好ましい。また、高強度鋼板において、後述する第1のビード11と第2のビード12との位置関係が満たされることが一層好ましい。一方、高強度鋼板と組み合わせられる引張強さ980MPa未満の鋼板のみに、第2のビード12が形成されていたとしても、後述する第1のビード11及び第2のビード12の位置関係が満たされている限り、ビード終端部における引張応力を緩和して、高強度鋼板における溶接割れを抑制する効果は十分に得られる。
【0027】
(ビード)
本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、複数の金属板10に、第1のビード11と、第1のビード11より短い第2のビード12とが形成されている。なお「ビード」とは一般的に、溶接によって盛り上がった部分を意味するが、本実施形態にでは、ビードの盛り上がり部を研磨などにより除去することによって形成されたビード痕についても「ビード」とみなす。ビードが平坦化されていても、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の効果は損なわれない。複数の金属板10同士の間隔、並びにビードの形状及び位置関係を最適化することによって、ビードの終端部における溶接割れを防止することができる。以下、
図1等を参照しながら、ビードの形状及び位置関係について説明する。なお、ビードの形状は、重ねレーザ溶接継手1の表面と裏面とで必ずしも一致しない。以下に説明されるビードの形状及び位置関係が、重ねレーザ溶接継手1の少なくとも片方の面において満たされていれば、溶接割れを抑制する効果が得られる。従って、以下に説明されるビードの形状及び位置関係が、少なくとも片方の面において後述の範囲内とされる継手は、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1とみなされる。好ましくは、以下に説明されるビードの形状及び位置関係は、重ねレーザ溶接継手1の両面において満たされる。また、特に断りが無い限り、以下に説明するビードの形状及び位置関係は、重ねレーザ溶接継手1の厚さ方向から重ねレーザ溶接継手1を平面視したときのものである。
【0028】
(第1のビード11)
第1のビード11は、複数の金属板10を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である。第1のビード11の形状については、線状であれば、特に限定されず、直線や曲線でもよく、また、折れ曲がっていてもよい。例えば、第1のビード11は、C字状やL字状でもよい。第1のビード11は、複数の金属板10を接合するため、第1のビード11を断面視すると、
図3A及び
図3Bに例示されるように、第1のビード11は、全ての金属板10に跨るように板厚方向に延在している。ただし、第1のビード11が全ての金属板10を貫通している必要はない。
図3Bに例示されるように、第1のビード11が重ねレーザ溶接継手の片面にのみ形成されていてもよい。あるいは、複数の第1のビード11が、それぞれいくつかの金属板10を接合することによって、全ての金属板10を接合していてもよい。第1のビード11が重ねレーザ溶接継手の片面にのみ形成される場合、第1のビード11のクレータ111が小さくなり、溶接割れを一層抑制することができる。
【0029】
(複数の金属板10の隙間G)
レーザ溶接においては、レーザの進行方向と反対の方向に、溶接金属の流れが生じる。そのため、第1のビード11の終端部には、クレータ111と称される凹みが形成される。クレータ111は溶接割れの原因となるので、小さいほど好ましい。ここで、複数の金属板10の間の隙間を小さくすることによって、クレータ111を小さくすることができる。以上の理由により、複数の金属板10の間の隙間の大きさの合計値Gと、複数の金属板10の厚さの合計値Tとの比率G/Tは、0~18%の範囲内とされる。Gは、金属板10の枚数が2枚である場合は、2枚の金属板の隙間の大きさであり、金属板10の枚数が3枚以上である場合は、金属板同士の隙間の大きさの合計値である。例えば
図3Aに例示される重ねレーザ溶接継手1においては、Gは、隙間g1と隙間g2とを足した値であり、Tは、板厚t1、t2、及びt3の合計値である。G/Tは小さい程好ましく、15%以下、12%以下、又は10%以下であってもよい。
【0030】
金属板10の間の隙間の大きさは、第1のビード11の終端部の断面において測定する。断面は、第1のビード11の終端11Eから、第1のビード11の中心軸11Xに沿って、始端11S側に2.5mmだけ離れた位置を通るものとする。また、断面は、前記位置における第1のビードの中心軸11Xに対して垂直にする。この断面において、複数の金属板10の間の隙間の大きさの合計値Gと、複数の金属板10の厚さの合計値Tとを測定する。また、
図4に示されるように、隙間の大きさは、断面における第1のビード11の両端において測定する。第1のビード11の左側における隙間の大きさglと、右側における隙間の大きさgrとの平均値を、金属板10同士の隙間の大きさとみなす。
【0031】
(第1のビード11の長さL1)
第1のビード11の延在方向に沿った中心軸11Xに沿って測定される、第1のビード11の長さL1は10~100mmとされる。第1のビード11の長さL1が10mm未満である場合、溶接割れの抑制が難しくなる。溶接割れを一層抑制する観点から、第1のビード11の長さL1を12mm以上、15mm以上、又は20mm以上としてもよい。一方、第1のビード11の長さL1が100mm超である場合、レーザ溶接に要する時間が増大し、生産性が損なわれる場合がある。第1のビード11の長さL1を90mm以下、80mm以下、又は70mm以下としてもよい。
【0032】
なお、被溶接材が大きい場合は、重ねレーザ溶接継手1に複数の第1のビード11を設けてもよい。この場合、複数の第1のビード11の終端部それぞれの近傍に、後述する第2のビード12を配置すればよい。ただし、重ねレーザ溶接継手1に含まれる全ての第1のビード11の終端部に、第2のビード12を配置する必要はない。溶接割れが特に懸念される箇所においてのみ、第2のビード12を形成してもよい。
【0033】
(第2のビード12)
重ねレーザ溶接継手1は、第1のビード11に加えて、第2のビード12を有する。第2のビード12は、第1のビード11の終端11Eの近傍に配される。また、第2のビード12の長さL2は、第1のビード11の長さL1よりも短い。なお、第2のビード12の長さL2は、第2のビード12の延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、第2のビード12の大きさのことである。第2のビード12が短く、第2のビードの延在方向が特定できない場合は、第2のビード12の長径を第2のビード12の長さL2とみなす。
【0034】
レーザ溶接によって形成されるビードの終端部における溶接割れの原因の一つは、レーザ溶接後にビードの終端部にかかる引張応力である。従って、ビードの終端部に加わる引張応力を低減することで、当該領域における溶接割れの発生を抑制できる。この引張応力は、レーザ溶接の終了後に溶接部の温度が低下する過程において、溶接部及びその周囲が収縮することによって生じる。この引張応力を低減する手段を本発明者らは鋭意検討した。そして本発明者らは、ビードの終端部の温度が低下する前に、終端部の近傍に別のビードを形成することにより、終端部にかかる引張応力を分散させ、溶接割れを抑制できることを知見した。
【0035】
図5Aは、第2のビード12が無い場合に、第1のビード11に加わる引張応力の概念図である。第1のビード11の終端部には、クレータ111が形成される。また、レーザ溶接によって加熱された母材部が収縮することにより、第1のビード11の終端部に引張応力が加わる。
図5Aに記載された矢印は、終端部に加わる引張応力を図示したものである。この引張応力によって、ビードの終端部が引き裂かれると、溶接割れCが生じる。
【0036】
一方、
図5Bは、第1のビード11の終端部の近傍に第2のビード12を形成した場合の、引張応力の概念図である。母材部の収縮によって生じる引張応力の大半は、第2のビード12に加わる。また、第1のビード11と第2のビード12との間では、引張応力が相殺される。従って、第1のビード11の終端部の近傍に形成された第2のビード12は、第1のビード11終端部に加わる引張応力を、大幅に抑制することができる。
【0037】
以上の理由により、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1においては、第1のビード11の終端部に加わる引張応力を低減するために、第2のビード12を副ビードとして用いる。ただし、第2のビード12の大きさ、及び第1のビード11と第2のビード12との位置関係が不適切である場合は、たとえ第2のビード12が設けられていたとしても、溶接割れを十分に抑制することができない。以下、第2のビード12の大きさ等について詳細に説明する。
【0038】
以下、第2のビード12の大きさ及び位置を規定するために、第1のビード11の終端周辺領域EA、及び第1のビード11の始端周辺領域SAという用語を用いる。
第1のビード11の終端周辺領域EAとは、
図1に示されるように、第1の仮想線VL1と、第2の仮想線VL2との間の領域である。第1の仮想線VL1とは、第1のビード11の終端11Eを通り且つ当該終端11Eにおける第1のビード11の中心軸11Xに垂直な仮想線である。第2の仮想線VL2とは、第1のビード11の終端11Eから第1のビード11の始端11Sに向けて第1のビード11の中心軸11Xに沿って5mm離れた第1の点P1を通り、且つ当該第1の点P1における第1のビード11の中心軸11Xに垂直な仮想線のことである。
第1のビード11の始端周辺領域SAとは、
図1に示されるように、第3の仮想線VL3と、第4の仮想線VL4との間の領域である。第3の仮想線VL3とは、第1のビード11の始端11Sを通り且つ当該始端11Sにおける第1のビード11の中心軸11Xに垂直な仮想線である。第4の仮想線VL4とは、第1のビード11の始端11Sから第1のビード11の終端11Eに向けて第1のビード11の中心軸11Xに沿って(1/3)×L1離れた第2の点P2を通り且つ当該第2の点P2における第1のビード11の中心軸11Xに垂直な仮想線である。
【0039】
(第2のビード12と、終端周辺領域EAとの位置関係)
まず、第2のビード12は、少なくともその一部が終端周辺領域EAに含まれている必要がある。終端周辺領域EAの外部に形成されたビードは、第1のビード11の終端部における引張応力を緩和する効果を発揮しないと考えられる。
【0040】
(第2のビード12の応力緩和領域121の長さ)
また、第2のビード12と第1のビード11との距離が大きすぎると、第2のビード12は引張応力緩和効果を発揮することができない。そのため、終端周辺領域EAにおいて、第2のビード12における、第1のビード11の幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さが、第1のビード11の中心軸11Xに沿って2mm以上とされる。ここで、第2のビード12における、第1のビード11の幅方向の端部からの距離とは、重ねレーザ溶接継手の厚さ方向から平面視したときの重ねレーザ溶接継手の表面における第1のビードの中心軸に垂直な仮想線において、第1のビードの幅方向の端部と第2のビードの幅方向の端部との距離である。ただし、第1のビードの中心軸に垂直な仮想線において、第1のビードの幅方向の端部と第2ビードの幅方向の端部が接している、あるいは、重なっている場合は、第2のビード12における、第1のビード11の幅方向の端部の幅方向の端部からの距離はゼロとする。以下、説明の便宜のために、「終端周辺領域EAにおいて、第2のビード12における、第1のビード11の幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域」を、応力緩和領域121と称する。上述の要件を換言すると、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1では、応力緩和領域121の長さが、第1のビード11の中心軸11Xに沿って2mm以上とされる必要がある。参考のために、
図1に示される第2のビード12の拡大図を、
図2に示す。
図2において、第2のビード12中の、斜線領域が、応力緩和領域121である。ここで、応力緩和領域121の長さの測定方法は、終端周辺領域EAのうち、第1のビード11の中心軸11Xに垂直な仮想線における第1のビード11の幅方向の端部から2mmとなる仮想線に挟まれた領域において、存在する第2のビード12の第1のビード11の中心軸11Xに沿った最大の長さを測定する。ただし、応力緩和領域121は、応力緩和領域121の長さが、第1のビード11の中心軸11Xに沿って2mm以上であれば、連続でもよく、不連続でもよい。
【0041】
第1のビード11から遠い位置に配されたビードは、引張応力を緩和する効果を発揮しないと考えられる。そのため、第2のビード12のうち、第1のビード11から2mm以内の範囲にある領域のみを、応力緩和効果を発揮する領域、即ち応力緩和領域121とみなす。また、応力緩和領域121が小さすぎても、引張応力を緩和する効果は得られないと考えられる。そのため、応力緩和領域121の長さを2mm以上とする。なお、応力緩和領域121の長さとは、応力緩和領域121の長さを、第1のビード11の中心軸11Xに沿って測定して得られる値のことである。応力緩和領域121の長さを2.5mm以上、3mm以上、又は4mm以上としてもよい。終端周辺領域EAの幅が5mmであるので、応力緩和領域121の長さは最大で5mmである。
【0042】
(第2のビード12と、第1のビード11の中心軸11Xとの位置関係)
第2のビード12は、第1のビード11に接していてもよい。第2のビード12と第1のビード11とが接している場合でも、第1のビード11の終端部に加わる引張応力は緩和されるからである。ただし、第2のビード12と第1のビード11とが重なりあう領域が大きすぎると、引張応力が十分に緩和されないおそれがある。従って、第2のビード12は、第1のビード11の中心軸11Xから離隔される。即ち、第2のビード12は第1のビード11の中心軸11Xと重ならない。
【0043】
(第2のビード12と、始端周辺領域SAとの位置関係)
第2のビード12は、第1のビード11の終端部に加わる引張応力を緩和する目的で設けられる。また、第1のビード11の終端部から大きく離れた箇所にまで第2のビード12を延在させたとしても、引張応力を緩和する効果は得られない。例えば、第1のビード11の始端11Sに向けて第2のビード12を延在させて、第2のビード12を始端周辺領域SAと重なるようにした場合、製造効率が損なわれる一方で、引張応力を緩和する効果は向上しない。従って、製造効率を考慮して、第2のビード12は始端周辺領域SAから除かれるように形成される。なお、第1のビード11がU字型などの著しい屈曲形状を有する場合、始端周辺領域SAが、第1のビード11の終端11Eの周辺に及びうる。上述の通り、終端11Eの周辺は、第2のビード12が配されるべき領域である、この場合は、始端周辺領域SAを、上述の要件を満たし且つ第1のビード11の幅方向の端部から7mm離れた箇所までの領域とみなしてもよい。
【0044】
また、第1のビード11の始端11Sの反対側に向けて第2のビード12を延在させることも、製造効率を考慮すると好ましくない。従って、例えば、第1のビード11の終端11Eから、第1のビード11の始端11Sと反対の方向に向けて、第1のビード11の中心軸11Xに沿って2mm離れた第3の点P3を通り、且つ当該第3の点P3における第1のビード11の中心軸11Xに垂直な仮想線を第5の仮想線VL5と定義したときに、第5の仮想線VLから第2のビード12が離隔されていることが好ましい。これにより、重ねレーザ溶接継手1の製造効率を一層向上させることができる。
【0045】
また、上述した第2のビード12の長さL2を7mm以下、6mm以下、又は5mm以下としてもよい。応力緩和領域121の長さが2mm以上とされている限り、第2のビード12の長さL2を短くすることによって、重ねレーザ溶接継手1の製造効率を改善することができるので好ましい。
【0046】
以上、平面視での第2のビード12の形状について説明したが、第2のビード12の断面形状については特に限定されない。第1のビード11は、複数の金属板10を接合するために、金属板10を貫通する必要があるが、第2のビード12は金属板10を貫通する必要はない。
図3Aに示されるように、第2のビード12が、重ねレーザ溶接継手1の一方の面から他方の面まで、金属板10を貫通してもよい。一方、
図3Bに示されるように、第2のビード12が重ねレーザ溶接継手1の最表面にある金属板10のみに形成され、その他の金属板10に及んでいなくともよい。この場合であっても、第2のビード12は、引張応力を緩和する効果を発揮することができる。第1のビード11の溶接割れは、第1のビード11の表面付近から生じることが通常である。従って、第1のビード11の表面において引張応力が緩和されていれば、溶接割れを抑制可能である。
【0047】
一方、第2のビード12による引張応力抑制効果を一層向上させるために、第2のビード12の溶け込み深さの下限値を定めてもよい。例えば、第2のビード12の溶け込み深さが浅く、
図3Bに示されるように、重ねレーザ溶接継手1の最表層に配された金属板10のうち一方の金属板10aにのみ第2のビード12が設けられている場合、第2のビード12の溶け込み深さが、重ねレーザ溶接継手1の最表層に配され且つ第2のビード12が形成されている金属板10aの厚さtの1/2以上であってもよい。この場合、第2のビード12の製造を短縮しながら、引張応力を十分に抑制することができる。
【0048】
図1に示される構成においては、1つの第1のビード11の終端部に対して、1つの第2のビード12が形成されている。一方、
図6に示されるように、1つの第1のビード11の終端部に対して、2つの第2のビード12が形成されていてもよい。具体的には、第2のビード12が、第1のビード11の中心軸11Xを基準として、第1のビード11の両側に設けられていてもよい。これにより、第1のビード11の終端部における引張応力が一層緩和され、溶接割れをより抑制することができる。また、中心軸11Xの片側に2つ以上の第2のビード12を設けてもよいし、1つの第1のビード11の終端部に対して、3つ以上の第2のビード12が形成されていてもよい。また、1つ以上の第2のビード12が設けられている限り、第1のビード11の終端部付近に、上述の第2のビード12の要件を満たさないビードがさらに形成されていてもよい。
【0049】
<重ねレーザ溶接継手の製造方法>
次に、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法を説明する。この製造方法によれば、上述した本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1を好適に製造することができる。ただし、以下に説明する製造方法以外の方法で得られた重ねレーザ溶接継手であっても、上述の要件を満たすのであれば、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1とみなされる。
【0050】
(重ね合わせ、及び第1のレーザ照射)
本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法は、複数の金属板10を重ね合わせる工程と、複数の金属板10を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビード11を形成するように、第1のレーザ照射をする工程と、を有する。ここで、金属板10を重ね合わせにおいて、金属板10の隙間の大きさの合計値Gと、金属板10の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~18%とする。これにより、第1のビード11の終端部に形成されるクレータ111の深さを低減することができる。また、第1のビード11の延在方向に沿った中心軸11Xに沿って測定される、第1のビード11の長さL1を10~100mmとする。L1の上限を100mmとすることにより、重ねレーザ溶接継手1の製造効率を改善し、L1の下限を10mmとすることにより、溶接割れを抑制することができる。なお、上述した本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1において例示された好ましい数値範囲を、本実施形態に係る製造方法におけるG/T、及びL1に適宜適用することができる。他の構成に関しても同様に、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手における好ましい態様を、本実施形態に係る製造方法に適用することができる。
【0051】
(第2のレーザ照射)
本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法は、第1のビード11の終端の近傍において、第1のビード11より短い第2のビード12を形成するように、第2のレーザ照射をする工程をさらに有する。
【0052】
第2のレーザ照射においては、第1のビード11の終端11Eを通り且つ当該終端11Eにおける第1のビード11の中心軸11Xに垂直な第1の仮想線VL1と、第1のビード11の終端11Eから第1のビード11の始端11Sに向けて第1のビード11の中心軸11Xに沿って5mm離れた第1の点P1を通り且つ当該第1の点P1における第1のビード11の中心軸11Xに垂直な第2の仮想線VL2との間の領域である終端周辺領域EAにおいて、第2のビード12における、第1のビード11の幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さを、第1のビード11の中心軸11Xに沿って2mm以上とする必要がある。これにより、第2のビード12による引張応力緩和効果を確保することができる。
【0053】
また、第2のレーザ照射においては、第1のビード11の始端11Sを通り且つ当該始端11Sにおける第1のビード11の中心軸11Xに垂直な第3の仮想線VL3と、第1のビード11の始端11Sから第1のビード11の終端11Eに向けて第1のビード11の中心軸11Xに沿って(1/3)×L1離れた第2の点P2を通り且つ当該第2の点P2における第1のビード11の中心軸11Xに垂直な第4の仮想線VL4との間の領域である始端周辺領域SAには、第2のビード12が含まれない必要がある。これにより、重ねレーザ溶接継手の製造効率を向上させることができる。
【0054】
さらに、第2のビード12は、第1のビード11の中心軸11Xから離隔させる必要がある。これにより、第2のビード12による引張応力緩和効果を確保することができる。
【0055】
加えて、第1のレーザ照射の終了から10秒経過した時点より前に、少なくとも1つ以上の第2のビード12を形成する必要がある。第1のビード11の終端部における溶接割れは、第1のレーザ照射の終了から数十秒後に生じる。当然のことながら、溶接割れが生じた後で第2のビード12を形成したとしても、第2のビード12による溶接割れ抑制効果は発揮されない。本発明者らの実験結果によれば、第1のビード11の終端部が形成されてから、少なくとも10秒の間は、溶接割れが生じることはない。この知見に基づき、第2のレーザ照射のタイミングを上述の如く規定した。
【0056】
なお、「第2のビード12を形成する」とは、上述した要件を備える第2のビード12を形成することを意味する。例えば、第1のレーザ照射の終了から10秒が経過する前に第2のレーザ照射が開始されたとしても、レーザ照射を開始する位置が第1のビード11の終端部から離れており、第1のレーザ照射の終了から10秒経過した時点において上述した要件を備える第2のビード12の形成が完成していない場合は、本実施形態に係る第2のレーザ照射の要件が満たされているとはいえない。
【0057】
一方、第1のレーザ照射の終了から10秒経過した時点より前に第2のビード12を形成することができるのであれば、第2のレーザ照射の開始のタイミングは特に限定されない。
第1のレーザ照射よりも前に第2のレーザ照射を行い、第1のビード11を形成する前に予め第2のビード12を形成しておいてもよい。この場合、予め形成された第2のビード12の付近で第1のレーザ照射を終了することにより、第2のビード12を、上述の要件を満たすものとすることができる。特に、めっき処理などの表面処理が施された金属板を用いる場合、ブローホールを抑制する観点から、第1のレーザ照射をする工程の前に予め第2のビード12を形成することが好ましい。第1のレーザ照射をする工程の前に予め第2のビード12を形成することで、第1のレーザ照射をする工程の前の複数の金属板10を重ね合わせる工程において、適度な金属板10の隙間を形成することができ、その隙間から、レーザ照射によって蒸発した表面処理剤成分を排出することができる。
一方、第1のレーザ照射の後で第2のレーザ照射を行ってもよい。特に、ビード終端部における溶接割れをより抑制する観点からは、第1のレーザ照射の後で第2のレーザ照射を行うことが好ましい。第1のレーザ照射の後で第2のレーザ照射を行うことで第1のビード11の終端部に加えられた引張応力を、第2のビード12が上書きすることができるため、割れを一層抑制できる。
2つ以上の第2のビード12を形成するために、第2のレーザ照射を2回以上行う場合は、第1のレーザ照射の前後両方において第2のレーザ照射を行うこともできる。第2のレーザ照射を2回行う場合、少なくとも1回の第2のレーザ照射が、第1のレーザ照射の終了から10秒経過した時点より前に、第2のビード12を形成するように実施される必要がある。全ての第2のレーザ照射が、この要件を満たすように行われることが最も好ましい。
【0058】
その他、本実施形態に係る製造方法においては、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1の好適な構成を適宜採用することができる。例えば、第2のビード12を、第1のビード11の中心軸11Xを基準として、第1のビード11の両側に設けてもよい。第1のビード11の終端11Eから、第1のビード11の始端11Sと反対の方向に向けて、第1のビード11の中心軸11Xに沿って2mm離れた第3の点P3を通り、且つ当該第3の点P3における第1のビード11の中心軸11Xに垂直な第5の仮想線VL5から、第2のビード12を離隔させてもよい。第1のビード11を、重ねレーザ溶接継手1の片面にのみ形成してもよい。第2のビード12の溶け込み深さを、第2のビード12が形成された金属板10の厚さの1/2以上にしてもよい。
【0059】
[第2の実施形態]
<重ねレーザ溶接継手1A>
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る重ねレーザ溶接継手について説明する。第1の実施形態に係るレーザ溶接継手1では、第1のビード11により、複数の金属板10が各金属板の表面同士で接合されていたが、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1Aでは、例えば
図7Aに示すように、複数の金属板10のうちの、最表層に配された金属板10である第1の金属板10bの端面と、第1の金属板10bと重ね合わされた第2の金属板10cの表面と、が第1のビード11Aにより接合されている。即ち、本実施形態に係るレーザ溶接継手1Aは、重ね隅肉継手である点で、第1の実施形態に係るレーザ溶接継手1とは異なる。本実施形態では、第2の金属板10cにおける第1の金属板10bと重ね合わされた合わせ面の構成は
図1と同様である。そのため、
図1は、第2の金属板10cにおける第1の金属板10bと重ね合わされた合わせ面を重ねレーザ溶接継手1Aの厚さ方向から平面視したときの重ねレーザ溶接継手1Aの模式図であるとも言える。
よって、本実施形態に係るレーザ溶接継手1Aは、重ね合わせられた複数の金属板10と、複数の金属板10のうちの、第1の金属板10bの端面と、第2の金属板10cの表面と、を接合し、かつ、複数の前記金属板を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビード11Aと、を備える。
レーザ溶接継手1Aにおいて、複数の金属板10の隙間の大きさの合計値Gと、複数の金属板10の厚さの合計値Tとの比率G/Tが0~18%である。第1のビード11の延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、第1のビード11Aの長さL1は10~100mmである。
また、重ねレーザ溶接継手1Aは、さらに、少なくとも第2の金属板10cの表面に第2のビード12を有し、第2のビード12の延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、第2のビード12の長さL2が、L1より小さい。第2の金属板10cにおける第1の金属板10bと重ね合わされた合わせ面において、第1のビード11Aの終端11Eを通り且つ終端11Eにおける第1のビード11Aの中心軸11Xに垂直な第1の仮想線VL1と、第1のビード11Aの終端11Eから第1のビード11の始端11Sに向けて第1のビード11Aの中心軸11Xに沿って5mm離れた第1の点P1を通り且つ第1の点P1における第1のビード11Aの中心軸11Xに垂直な第2の仮想線VL2との間の領域である終端周辺領域EAにおいて、第2のビード12における、第1のビード11Aの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域121の長さが、第1のビード11Aの中心軸11Xに沿って2mm以上である。
第2のビード12は、第1のビード11Aの中心軸11Xから離隔される。
また、第1のビード11Aの始端11Sを通り且つ始端11Sにおける第1のビード11Aの中心軸11Xに垂直な第3の仮想線VL3と、第1のビード11Aの始端11Sから第1のビード11Aの終端11Eに向けて第1のビード11Aの中心軸11Xに沿って(1/3)×L1離れた第2の点P2を通り且つ第2の点P2における第1のビード11Aの中心軸11Xに垂直な第4の仮想線VL4との間の領域である始端周辺領域SAに第2のビード12が含まれない。以下に、本実施形態に係るレーザ溶接継手1Aの各構成をより詳細に説明する。なお、第2のビード12と終端周辺領域EAとの位置関係、第2のビード12の応力緩和領域121の長さ、及び、第2のビード12と第1のビード11Aの中心軸11Xとの位置関係は、第1の実施形態と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0060】
(第1のビード11A)
第1のビード11Aは、複数の金属板10のうちの、第1の金属板10bの端面と、第2の金属板10cの表面と、を接合し、かつ、複数の前記金属板を接合する、線状に延在する隅肉レーザ溶接部である。第1のビード11Aの形状については、線状であれば、特に限定されない。第1のビード11Aは、例えば、第1の金属板10bの端面に沿った形状である。第1のビード11Aは、複数の金属板10のうちの、第1の金属板10bの端面と、第2の金属板10cの表面とを少なくとも接合しているが、複数の金属板10を接合するために、第1のビード11を断面視すると、
図7Aに例示されるように、第1のビード11Aは、全ての金属板10に跨るように板厚方向に延在していてもよい。第1のビード11Aが全ての金属板10を貫通している必要はなく、
図7Bに例示されるように、第1のビード11Aが重ねレーザ溶接継手の片面にのみ形成されていてもよい。
【0061】
(第2のビード12)
上述した通り、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1Aにおける第2のビード12は、第1の実施形態に係るレーザ溶接継手1における第2のビード12と同様である。本実施形態における第2のビード12は、第1の金属板10bにレーザを照射して、第1の金属板10bを貫通して第2の金属板10cに達する第2のビード12が形成されてよい。このとき、第2のビード12における第2の金属板10cに形成した溶接部が上記要件を満たすことで、第1のビード11Aの終端部における引張応力を緩和することができる。また、第2の金属板10cにレーザが直接に照射されて第2のビード12が形成されてもよい。
【0062】
また、第2の金属板10cにおける第1の金属板10bと重ね合わされた合わせ面において、第2のビード12が、第1のビード11Aの中心軸11Xを基準として、第1のビード11Aの両側に設けられていてもよい。これにより、第1のビード11Aの終端部における引張応力が一層緩和され、溶接割れをより抑制することができる。
【0063】
また、第2の金属板10cにおける第2のビード12の溶け込み深さが、第2の金属板10cの厚さtの1/2以上であってもよい。この場合、第2のビード12の製造を短縮しながら、引張応力を十分に抑制することができる。
【0064】
(複数の金属板10の隙間G)
金属板10の間の隙間の大きさは、基本的には第1の実施形態と同様に測定する。ただし、第1の金属板10bと第2の金属板10cとの隙間の大きさは、
図8に示されるように、断面における第1の金属板10bと第2の金属板10cとが重なった側の第1のビード11Aの端部において測定する。
【0065】
<重ねレーザ溶接継手の製造方法>
次に、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法を説明する。この製造方法によれば、上述した本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1Aを好適に製造することができる。ただし、以下に説明する製造方法以外の方法で得られた重ねレーザ溶接継手であっても、上述の要件を満たすのであれば、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手1とみなされる。
【0066】
本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法は、第1のレーザ照射をする工程において、少なくとも、前記複数の金属板のうちの最表面に配された第1の金属板の端面と、前記第1の金属板と重ね合わされた第2の金属板の表面と、を少なくとも接合する点で、第1の実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法とは異なる。
したがって、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法は、複数の金属板10を重ね合わせる工程と、複数の金属板10を接合する、線状に延在するレーザ溶接部である第1のビード11Aを形成するように、第1のレーザ照射をする工程と、を備える重ねレーザ溶接継手の製造方法である。
第1のレーザ照射をする工程では、少なくとも、複数の金属板10のうちの最表面に配された第1の金属板10bの端面と、第1の金属板10bと重ね合わされた第2の金属板10cの表面と、を接合する。
この重ね合わせにおいて、金属板10の隙間の大きさの合計値Gと、金属板10の厚さの合計値Tとの比率G/Tを0~18%とし、第1のビード11Aの延在方向に沿った中心軸11Xに沿って測定される、第1のビードの長さL1を10~100mmとする。
本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法は、少なくとも第2の金属板10cに第2のビード12を形成するように、第2のレーザ照射をする工程をさらに備える。第2のビード12の延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、第2のビード12の長さL2を、L1より小さくし、第2の金属板10cにおける第1の金属板10bと重ね合わされた合わせ面において、第1のビード11Aの終端11Eを通り且つ終端11Eにおける第1のビード11Aの中心軸11Xに垂直な第1の仮想線VL1と、第1のビード11Aの終端11Eから第1のビード11Aの始端11Sに向けて第1のビード11Aの中心軸11Xに沿って5mm離れた第1の点P1を通り且つ第1の点P1における第1のビード11Aの中心軸11Xに垂直な第2の仮想線VL2との間の領域である終端周辺領域EAにおいて、第2のビード12における、第1のビード11Aの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域121の長さを、第1のビード11Aの中心軸11Xに沿って2mm以上とする。
また、第2のビード12を、第1のビード11Aの中心軸11Xから離隔させ、第1のビード11Aの始端11Sを通り且つ始端11Sにおける第1のビード11Aの中心軸11Xに垂直な第3の仮想線VL3と、第1のビード11Aの始端11Sから第1のビード11Aの終端11Eに向けて第1のビード11Aの中心軸11Xに沿って(1/3)×L1離れた第2の点P2を通り且つ第2の点P2における第1のビード11Aの中心軸11Xに垂直な第4の仮想線VL4との間の領域である始端周辺領域SAに、第2のビード12を含めない。
また、第1のレーザ照射の終了から10秒経過した時点より前に、第2のビード12を形成する。
【0067】
その他、本実施形態に係る製造方法においては、第1の実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の製造方法の好適な条件を適宜採用することができる。
【0068】
<自動車車体用構造部材>
本発明の別の態様に係る自動車車体用構造部材は、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手を含む。自動車車体用構造部材とは、例えば、Aピラー、Bピラー、ルーフレール、サイドシル、フロアクロスメンバー、バンパー、クラッシュボックス、インパネリンフォース、シートフレーム、バッテリーケースである。これら部材のフランジ部などに、本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手を適用することにより、生産性に優れ、且つ、溶接割れの発生が抑制された自動車車体用構造部材を得ることができる。
【0069】
ここまで、実施形態を挙げて本発明の重ねレーザ溶接継手、重ねレーザ溶接継手の製造方法、及び自動車車体用構造部材を説明した。ただし、本発明の技術的範囲は上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0070】
例えば、第2の実施形態では、重ねレーザ溶接継手1Aの厚さ方向の両面のいずれにおいてもレーザ隅肉溶接が施されていてもよい。即ち、重ねレーザ溶接継手1Aの厚さ方向の両面において、最表層の金属板の端部と、当該金属板と厚さ方向に隣り合う金属板の表面と、がレーザにより隅肉溶接されていてもよい。
【0071】
また、第1の実施形態に係る第1のビード11、及び、第2の実施形態に係る第1のビード11Aは、組み合わされてもよい。例えば、
図9に示すように、レーザ重ね溶接継手1Bが3枚の金属板10を備えており、隅肉溶接部である第1のビード11Aが第1の金属板10b及び第2の金属板10cに形成している場合は、第1のビード11が、第2の金属板10cと、第2の金属板10cを基準に第1の金属板10bと反対側に配された金属板10と、を接合してもよい。この場合、第1のビード11の終端部における引張応力を緩和するための第2のビード12、及び、第1のビード11Aの終端部における引張応力を緩和するための第2のビード12が配される。
【実施例0072】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0073】
[実施例1]
表1に記載の引張強さ、板厚、及び化学成分を有する鋼板を2枚重ね合わせて、種々の条件でレーザ溶接して、第1のビードを形成した。表1に示す成分以外の化学成分は、Fe及び不純物である。また、一部の例においては、第2のレーザ照射、及び第3のレーザ照射を行って、第1のビードの終端部付近に第2のビード、及び第3のビードを形成した。より詳しくは、終端周辺領域EA内に位置するように第2のビード、及び第3のビードを形成した。ただし、条件No.25は、第1のビードの終端から始端側に2.6mmの位置から第1のビードの終端側に延在するように第2のビードを形成し、条件No.26は、第1のビードの終端から始端側に7.0mmの位置から第1のビードの終端側に延在するように第2のビードを形成した。これにより得られた種々の重ねレーザ溶接継手における溶接割れの有無を確認した。溶接工程の順序を表2に示し、その他の溶接条件、及び重ねレーザ溶接継手の評価結果を、表3及び表4に示す。また、代表的なレーザ溶接継手の写真を
図10~
図13に示す。
【0074】
なお、第2のビード及び第3のビードは、いずれも上述した本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の第2のビードに該当する。しかし便宜上、2つ設けられた第2のビードのうち、後で形成された方を第3のビードと称する。同様に、第2のレーザ照射が2回行われた場合は、後で実施された方を第3のレーザ照射と称する。
【0075】
表に記載の符号の意味は以下の通りである。
・「L1」「L2」「L3」:第1、第2、又は第3のビードの延在方向に沿った中心軸に沿って測定される、第1、第2、又は第3のビードの長さ。ビードが短く、第2又は第3のビードの延在方向が特定できない場合は、ビードの長径。
・「W1」「W2」「W3」:第1、第2、又は第3のビードの延在方向に垂直な方向に沿って測定される、第1、第2、又は第3のビードの幅。ビードが短く、第2、又は第3のビードの延在方向が特定できない場合は、ビードの短径。
・「H12S」「H13S」:第2、又は第3のビードの始端と、第1のビードの中心軸との距離。
・「H12E」「H13E」:第2、又は第3のビードの終端と、第1のビードの中心軸との距離。
・「出力」:第1~第3のレーザ照射におけるレーザ出力。
・「速度」とは、第1~第3のレーザ照射における、レーザ照射位置の移動速度。
【0076】
第2のビードと、第1のビードの中心軸とが重なっているか否かは、H12S、H12E、及びW2から判断することができる。例えば条件No.5においては、第2のビードの始端及び終端と、第1のビードの中心軸との距離が、第2のビードの幅の1/2よりも十分に大きいので、第2のビードと、第1のビードの中心軸とが重なっていないことがわかる。一方、条件No.23においては、第2のビードの始端と第1のビードの中心軸との距離が、第2のビードの幅の1/2よりも小さいので、始端付近において第2のビードと第1のビードの中心軸とが重なっていることがわかる。
【0077】
「応力緩和領域の長さ」とは、終端周辺領域EAにおいて、第2のビード又は第3のビードにおける、第1のビードの幅方向の端部からの距離が2mm以下である領域の長さのことである。第2及び第3のビードが設けられていない場合は、この列に「0」と記載した。第2のビードのみが設けられている場合は、この列に、第2のビードの応力緩和領域の長さを記載した。第2及び第3のビードの両方が設けられている場合は、それぞれのビードの応力緩和領域の長さのうち大きい方の値を「応力緩和領域の長さ」列に記載した。なお、応力緩和領域の長さは、レーザ照射側の継手表面で測定した。
【0078】
鋼板同士の隙間の大きさは、鋼板の間にスペーサーを挟むことによって制御した。表に記載の「板隙G」は、第1のビード11の終端部の断面において測定された値である。測定方法は、上述の方法とした。条件No.12~14のレーザ照射では、板隙Gの制御は、板隙Gに相当するスペーサーを使用した。一方、条件No.24のレーザ照射では、スペーサーを用いずレーザ照射をした。参考のため、表には、2枚の鋼板の隙間の大きさと、2枚の鋼板の厚さの合計値との比率も記載した。
【0079】
「貫通程度」とは、レーザ照射側と反対側における、第1のビードの状態を意味する。鋼板が第1のビードによって接合されているが、レーザ照射側と反対側の継手表面に第1のビードが形成されていない場合、この列に「部分」と記載し、鋼板が第1のビードによって接合されており、さらにレーザ照射側と反対側の継手表面に第1のビードが形成されている場合、この列に「完全」と記載した。
【0080】
耐溶接割れ性は、同一条件で3つの試験片を作成し、これら試験片に生じた溶接割れの数を求めることによって評価した。全ての試験片で割れが生じた例に関しては、耐溶接割れ性を「×」と評価し、全ての試験片で割れが生じなかった例に関しては、耐溶接割れ性を「〇」と評価し、一部の試験片で割れが生じた例に関しては、耐溶接割れ性を「△」と評価した。「〇」又は「△」と評価された例を、耐溶接割れ性に優れた例と評価した。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
条件No.1~4では、第2のビードが第1のビードの終端部付近に形成されなかった。これら条件No.1~4では、全ての試験片に溶接割れが生じた。
条件No.7では、第2のビードが第1のビードの終端部付近に形成されたが、第1のビードと第2のビードとの間隔が3mm以上であった。即ち、第2のビードが応力緩和領域を含んでいなかった。条件No.7においても、全ての試験片に溶接割れが生じた。
条件No.11では、第2のビード及び第3のビードが第1のビードの終端部付近に形成されたが、第1のビードと、第2のビード及び第3のビードとの間隔がそれぞれ3mm以上であった。即ち、第2のビード及び第3のビードのいずれも応力緩和領域を含んでいなかった。条件No.11においても、全ての試験片に溶接割れが生じた。
条件No.14では、G/Tが18%超であった。条件No.14においても、全ての試験片に溶接割れが生じた。
条件No.19及び条件No.20においては、第2のビード及び第3のビードが第1のビードの終端部付近に形成され、しかもその一部は第1のビードに十分近接していたが、これらビードの応力緩和領域は2mmに満たなかった。条件No.19及び条件No.20においても、全ての試験片に溶接割れが生じた。
条件No.22では、レーザ照射の順番を第2のレーザ照射、第3のレーザ照射、第1のレーザ照射の順にした。この条件No.22では、第1のビードと、第2のビード及び第3のビードとの間隔がそれぞれ3mm以上であった。即ち、第2のビード及び第3のビードのいずれも応力緩和領域を含んでいなかった。条件No.22においても、全ての試験片に溶接割れが生じた。
条件No.23では、第2のビード及び第3のビードが、第1のビードの中心軸から離隔されておらず、応力緩和効果を発揮しなかった。そのため、条件No.23においても、全ての試験片に溶接割れが生じた。
なお、条件No.7、11、14、19、20、22、及び23においては、レーザ照射側と反対側の継手表面においても評価を行ったが、レーザ照射側の表面と同様に、本発明の要件が満たされていなかった。
【0086】
一方、条件No.5、6、8~10、12、13、15~18、21、及び24~26においては、少なくともレーザ照射側の継手表面において本発明の要件が満たされていた。これら条件で得られた重ねレーザ溶接継手においては、ビード終端部における溶接割れが抑制されていた。また、条件No.24では、レーザ照射の順番を第2のレーザ照射、第3のレーザ照射、第1のレーザ照射の順にした。加えて、条件No.24では、鋼板を重ね合わせる前に第2及び第3のビードを形成した。これにより、条件No.24では、スペーサーを用いずとも適度な板隙が生じた。
【0087】
[実施例2]
表5に記載の引張強さ、板厚、及び化学成分を有する鋼板を2枚重ね合わせて、種々の条件でレーザを照射して重ね隅肉溶接をし、第1のビードを形成した。詳細には、2枚の鋼板のうちの1枚の鋼板(第1の金属板)の端面と、他の金属板(第2の金属板)の表面とをレーザ溶接にて接合した。表5に示す成分以外の各鋼板の化学成分は、Fe及び不純物である。また、一部の例においては、第2のレーザ照射、及び第3のレーザ照射を行って、第1のビードの終端部付近に第2のビード及び第3のビードを形成した。より詳しくは、終端周辺領域EA内に位置するように、第2の金属板に、第2のビード、第3のビードを形成した。これにより得られた種々の重ねレーザ溶接継手における溶接割れの有無を確認した。溶接工程の順序を表6に示し、その他の溶接条件、及び重ねレーザ溶接継手の評価結果を、表7及び表8に示す。また、代表的なレーザ溶接継手の写真を
図14~
図16に示す。
【0088】
なお、実施例1と同様に、第2のビード及び第3のビードは、いずれも上述した本実施形態に係る重ねレーザ溶接継手の第2のビードに該当する。便宜上、2つ設けられた第2のビードのうち、後で形成された方を第3のビードと称する。同様に、第2のレーザ照射が2回行われた場合は、後で実施された方を第3のレーザ照射と称する。
【0089】
応力緩和領域の長さは、レーザ照射側の第2の金属板の表面で測定した。第2のレーザ照射が第1の金属板にされた場合、第2のレーザ照射により形成した第2の金属板における第1の金属板との合わせ面において、第2のビードの応力緩和領域の長さを測定した。具体的には、第1の金属板を第2の金属板から剥がして第2の金属板における第1の金属板との合わせ面において、第2のビードの応力緩和領域の長さを測定した。
【0090】
鋼板同士の隙間の大きさは、鋼板の間にスペーサーを挟むことによって制御した。表8に記載の「板隙G」は、第1のビード11の終端部の断面において測定された値である。測定方法は、上述の方法とした。条件No.39、40のレーザ照射では、板隙Gの制御は、板隙Gに相当するスペーサーを使用した。また、参考のため、表8には、2枚の鋼板の隙間の大きさと、2枚の鋼板の厚さの合計値との比率も記載した。
【0091】
表8中の「貫通程度」は、実施例1と同様の基準に従って記載した。耐溶接割れ性の評価は、実施例1と同様の基準で評価した。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
条件No.27、28では、第2のビードが第2の金属板における第1のビードの終端部付近に形成されなかった。これら条件No.27、28では、全ての試験片に溶接割れが生じた。
条件No.31、44、46、48では、第2のビード及び第3のビードが第2の金属板における第1のビードの終端部付近に形成されたが、第1のビードと第2のビードとの間隔、及び、第1のビードと第3のビードとの間隔がいずれも3mm以上であった。即ち、第2のビード及び第3ビードのいずれも応力緩和領域を含んでいなかった。条件No.31、44、46、48においても、全ての試験片に溶接割れが生じた。
条件No.34では、第2のビードが第2の金属板における第1のビードの終端部付近に形成されたが、第1のビードと第2のビードとの間隔が3mm以上であった。即ち、第2のビードが応力緩和領域を含んでいなかった。条件No.34においても、全ての試験片に溶接割れが生じた。
条件No.35では、第1の金属板に第2のレーザ照射が実施されたが、レーザの出力が小さく、第2の金属板において第2のビードが形成されなかった。条件No.35においても、全ての試験片に溶接割れが生じた。
条件No.38では、第2の金属板に第2のレーザ照射が実施され、第2のビードが第2の金属板における第1のビードの終端部付近に形成されたが、第1のビードと第2のビードとの間隔が3mm以上であった。即ち、第2のビードが応力緩和領域を含んでいなかった。条件No.38においても、全ての試験片に溶接割れが生じた。
条件No.40では、G/Tが18%超であった。条件No.40においても、全ての試験片に溶接割れが生じた。
【0097】
一方、条件No.29、30、32、33、36、37、39、41、42、43、45、47及び49においては、少なくともレーザ照射側の継手表面において本発明の要件が満たされていた。これら条件で得られた重ねレーザ溶接継手においては、ビード終端部における溶接割れが抑制されていた。