(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087697
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】正極材料、その製造方法及び全固体型フッ化物イオンシャトル電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20230619BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230619BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230619BHJP
H01M 4/583 20100101ALI20230619BHJP
H01M 10/05 20100101ALI20230619BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/583
H01M10/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202113
(22)【出願日】2021-12-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】稲本 純一
(72)【発明者】
【氏名】稲本(稲生) 朱音
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK06
5H029AL02
5H029AL04
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM11
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029DJ17
5H029EJ07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA15
5H050CA14
5H050CB02
5H050CB04
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA02
5H050DA13
5H050EA15
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】より高電圧、高容量及び高サイクル特性を示し得るとともに、容易且つ低コストで製造可能な全固体型フッ化物イオンシャトル電池用正極材料、その製造方法、及び、当該正極材料を用いた全固体型フッ化物イオンシャトル電池を提供する。
【解決手段】正極活物質を含み、全固体型フッ化物イオンシャトル電池に用いられる正極材料である。正極材料に含まれる正極活物質は、ステージ1型のフッ素-グラファイト層間化合物よりもフッ素の含有量が低い炭素材料と、金属フッ化物及びHFの少なくとも一方であるフッ化物触媒と、よりなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体型フッ化物イオンシャトル電池に用いられる正極材料であって、
前記正極材料に含まれる正極活物質は、ステージ1型のフッ素-グラファイト層間化合物よりもフッ素の含有量が低い炭素材料と、金属フッ化物及びHFの少なくとも一方であるフッ化物触媒と、よりなる
ことを特徴とする、正極材料。
【請求項2】
前記正極材料は、前記正極活物質と、固体電解質と、よりなる合剤である
ことを特徴とする、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記合剤に含まれる前記炭素材料の含有量は、10質量%以上50質量%以下であり、
前記合剤に含まれる前記フッ化物触媒の含有量は、1質量%以上5質量%以下である
ことを特徴とする、請求項2に記載の正極材料。
【請求項4】
前記金属フッ化物は、LiF、AgF、AlF3、CuF2、KF、KHF2及びCaF2からなる群から選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項5】
前記炭素材料は、炭素原子と、該炭素原子と共有結合により結合した酸素原子と、を構成元素とする層状化合物を含む
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項6】
前記層状化合物の層間距離は、グラファイトの層間距離よりも大きい
ことを特徴とする、請求項5に記載の正極材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載された正極材料の製造方法であって、
前記炭素材料を準備する準備工程と、
前記炭素材料と、前記フッ化物触媒とを混合して、前記正極活物質を得る混合工程と、を備えた
ことを特徴とする、正極材料の製造方法。
【請求項8】
前記炭素材料は、炭素原子と、該炭素原子と共有結合により結合した酸素原子と、を構成元素とする層状化合物であり、
前記準備工程において、グラファイト粉末を酸化後に熱処理を施して前記層状化合物を得る
ことを特徴とする、請求項7に記載の正極材料の製造方法。
【請求項9】
正極と、負極と、該正極及び該負極の間に配置された固体電解質と、を備え、
前記正極は、請求項1~6のいずれか1つに記載された正極材料を含む
ことを特徴とする、全固体型フッ化物イオンシャトル電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体型フッ化物イオンシャトル電池用正極材料、その製造方法、及び、当該正極材料を用いた全固体型フッ化物イオンシャトル電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム以外のイオンを正負極間でシャトルさせることによって作動する高エネルギー密度の二次電池が種々検討されている。このうち、フッ化物イオンをシャトルさせることで作動するフッ化物イオンシャトル電池(FIB)では、CuF2、BiF3等の金属フッ化物を正極活物質、Ceを負極活物質として用いる全固体型電池が高容量を示すと報告され注目されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、FIBの高容量な正極材料として、電子伝導性及びフッ化物イオン伝導性を有するグラファイト等の炭素材料や、フッ素-グラファイト層間化合物(CxF)等も提案されている(例えば、特許文献1及び非特許文献2参照)。これらの材料は、飽和組成までフッ化物イオンを導入できれば、2232mAh/gという高容量を示すことが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Anji Reddy, et al, J. Mater. Chem., 2011, 21, 17059
【非特許文献2】Y. Matsuo, et al, Electrochem. Commun., 2020, 110 106626
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載されたCuF2、BiF3等の金属フッ化物を正極活物質とする場合、容量は最大でも843mAh/g(Cuの場合)である。また、充電により生成するフッ化物は、電子電導性やフッ化物イオン伝導性を有していない場合が多く、正極には活物質ととともにこれらの性質を補う材料を加える必要がある。さらに、充放電に伴う構造変化が大きいため、出力密度やサイクル特性にも問題があった。
【0007】
また、特許文献1では、炭素材料は正極材料としての可能性が指摘されているのみであり、実際に充放電が行われた例は未だ報告されていない。
【0008】
そして、非特許文献2に記載されたCxFは、ステージ1型のCxFであり、CuF2を添加することにより充放電可能になるが、比較的多量のCuF2を必要とする問題や、理論上の放電電圧よりも大幅に低い放電電圧しか得られないという問題があり、改善の余地があった。また、ステージ1型のCxFは、原料となるグラファイトに触媒存在下低温でフッ素ガスを用いてフッ素を挿入することにより得られるが、反応に長時間を要するとともに、コスト面においても問題があった。
【0009】
そこで本開示では、より高電圧、高容量及び高サイクル特性を示し得るとともに、容易且つ低コストで製造可能な全固体型フッ化物イオンシャトル電池用正極材料、その製造方法、及び、当該正極材料を用いた全固体型フッ化物イオンシャトル電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、ここに開示する正極材料の一態様は、全固体型フッ化物イオンシャトル電池に用いられる正極材料であって、前記正極材料に含まれる正極活物質は、ステージ1型のフッ素-グラファイト層間化合物よりもフッ素の含有量が低い炭素材料と、金属フッ化物及びHFの少なくとも一方であるフッ化物触媒と、よりなることを特徴とする。
【0011】
炭素材料は、酸化されにくいためにフッ化物イオンの挿入には高い電圧が必要である。また、強固なC-F結合を生成するため、炭素材料表面にフッ化物絶縁層が形成され、不動態化されやすい。
【0012】
ここに、非特許文献2には、CuF2を添加することにより、ステージ1型のCxFの放電反応が進行することが記載されている。このメカニズムは、以下の通りと考えられる。すなわち、CxFの表面には上述のフッ化物絶縁層が形成されているものの、CuF2の放電により生成したCuが、CxF表面のフッ化物絶縁層を還元分解することにより、当該フッ化物絶縁層が除去され、CxFの放電反応が進行すると考えられる。
【0013】
本願発明者らは、上記CxFの放電反応に関するメカニズムに基づき、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量(モル比)が低い例えばグラファイト等の炭素材料においても、フッ化物絶縁層の形成により充電反応が進行しない可能性があるという考えに至った。そして、このような炭素材料においても、金属フッ化物及びHFの少なくとも一方であるフッ化物触媒を添加することにより、充電反応が進行することを見出した。
【0014】
すなわち、本構成によれば、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料と上記フッ化物触媒とを正極活物質とする正極材料を用いることにより、従来の金属フッ化物を正極活物質とするFIBよりも高電圧、高容量及び高サイクル特性を示し得るFIBをもたらすことができる。また、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料は、ステージ1型のCxFのようにフッ化物イオンを導入する処理が施されていない、もしくは強力に施されていないから、ステージ1型のCxFと比べて、表面に形成されたフッ化物絶縁層の量がもともと少ない。そうすると、表面のフッ化物絶縁層を除去する必要がないから、ステージ1型のCxFを正極活物質として使用する場合と比べて、フッ化物触媒の添加量を抑制できるとともに、放電電圧を向上できる可能性がある。さらに、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料は、ステージ1型のCxFと比較して、容易且つ低コストで準備可能であるから、FIBの製造も容易となり且つコスト面でも有利となる。
【0015】
前記正極材料は、前記正極活物質と、固体電解質と、よりなる合剤であることが好ましい。
【0016】
固体電解質を含む合剤とすることにより、正極材料におけるフッ化物イオン伝導性が向上する。
【0017】
前記合剤に含まれる前記炭素材料の含有量は、10質量%以上50質量%以下であり、前記合剤に含まれる前記フッ化物触媒の含有量は、1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0018】
合剤に含まれる炭素材料及びフッ化物触媒の含有量を上記範囲とすることにより、より高容量且つより高サイクル特性のFIBを得ることができる。
【0019】
前記金属フッ化物は、LiF、AgF、AlF3、CuF2、KF、KHF2及びCaF2からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
本構成によれば、炭素材料の充電反応が速やかに進行し得る。
【0021】
前記炭素材料は、炭素原子と、該炭素原子と共有結合により結合した酸素原子と、を構成元素とする層状化合物を含むことが好ましい。
【0022】
本構成によれば、一部酸化された炭素材料であるために、例えば炭素原子のみからなるグラファイト等に比べて、アニオンの挿入電位が低下する。そうして、フッ化物イオンの挿入が容易になるから、炭素材料の充電反応が進行しやすくなる。
【0023】
前記層状化合物の層間距離は、グラファイトの層間距離よりも大きいことが好ましい。
【0024】
グラファイトの層間距離は、一般的に、0.335nmであることが知られている(J. Inamoto, et al, J. Electrochem. Soc., 2021, 168, 010528)。上述の層状化合物は、共有結合性の酸素原子を含むため、層間距離がグラファイトと比較して大きくなる。層間距離が大きいことにより、フッ化物イオンの挿入及び脱離が容易となり、FIBのサイクル特性が向上し得る。
【0025】
ここに開示する正極材料の製造方法の一態様は、上記の正極材料の製造方法であって、前記炭素材料を準備する準備工程と、前記炭素材料と、前記フッ化物触媒とを混合して、前記正極活物質を得る混合工程と、を備えたことを特徴とする。
【0026】
本構成によれば、炭素材料及びフッ化物触媒を混合することにより、両者の接触面積が増加し、電子伝導性及びフッ化物イオン伝導性に有利になる。
【0027】
前記炭素材料は、炭素原子と、該炭素原子と共有結合により結合した酸素原子と、を構成元素とする層状化合物であり、前記準備工程において、グラファイト粉末を酸化後に熱処理を施して前記層状化合物を得ることが好ましい。
【0028】
グラファイト粉末を酸化すると酸化グラファイトが得られる。酸化グラファイトに熱処理を施すと、酸化グラファイト中の一部の酸素原子が除去され、層にナノメートルオーダーの孔が形成される。このようにして得られた層状化合物は、その炭素原子の一部は酸化されているとともに、層が孔を有していることにより、グラファイトに比べてアニオンの挿入電位が低下し、フッ化物イオンの挿入が容易となる。そうして、炭素材料の充電反応が進行しやすくなる。
【0029】
ここに開示する全固体型フッ化物イオンシャトル電池の一態様は、正極と、負極と、該正極及び該負極の間に配置された固体電解質と、を備え、前記正極は、上記の正極材料を含むことを特徴とする。
【0030】
本構成によれば、従来の金属フッ化物を正極活物質とするFIBよりも高電圧、高容量及び高サイクル特性を示し得るFIBをもたらすことができる。また、FIBの製造も容易となり且つコスト面でも有利となる。
【発明の効果】
【0031】
以上述べたように、本開示によると、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料と上記フッ化物触媒とを正極活物質とする正極材料を用いることにより、従来の金属フッ化物を正極活物質とするFIBよりも高電圧、高容量及び高サイクル特性を示し得るFIBをもたらすことができる。また、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料は、ステージ1型のCxFのようにフッ化物イオンを導入する処理が施されていないから、ステージ1型のCxFと比べて、表面に形成されたフッ化物絶縁層の量がもともと少ない。そうすると、表面のフッ化物絶縁層を除去する必要がないから、ステージ1型のCxFを正極活物質として使用する場合と比べて、フッ化物触媒の添加量を抑えることができるとともに、放電電圧を向上できる可能性がある。さらに、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料は、ステージ1型のCxFと比較して、容易且つ低コストで製造可能であるから、FIBの製造も容易となり且つコスト面でも有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】一実施形態に係る全固体型フッ化物イオンシャトル電池の構成を示す図。
【
図2】グラフェンライクグラファイトの分子構造の一例を示す図。
【
図3】実施例1の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
【
図4】実施例2の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
【
図5】実施例3の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
【
図6】実施例4の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
【
図7】実施例5の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
【
図8】実施例6の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
【
図9】実施例7の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
【
図10】実施例8の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
【
図11】実施例9の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
【
図12】比較例1の電池セルの充放電曲線を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0034】
(実施形態1)
<全固体型フッ化物イオンシャトル電池>
図1に示すように、本開示に係る全固体型フッ化物イオンシャトル電池10は、負極活物質層12(負極)、固体電解質層13(固体電解質)及び正極活物質層14(正極材料、正極)を有する。また、FIB10は、負極活物質層12の集電を行う負極集電体11(負極)、及び、正極活物質層14の集電を行う正極集電体15(正極)を有する。
【0035】
集電体の構成材料は、導電性材料であれば特に限定されない。集電体としては、具体的には例えば、アルミニウム(Al)や、公知の二次電池において用いられるその他の金属集電体、導電性樹脂層を有する樹脂集電体等を使用できる。集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状が挙げられる。
【0036】
また、FIB10は、負極集電体11、負極活物質層12,固体電解質層13、正極活物質層14及び正極集電体15を収納する電池ケース(図示せず)等を有してもよい。電池ケースの材料は、従来公知の材料とすることができる。
【0037】
本開示におけるFIBは、繰り返し充放電可能な二次電池であり、例えば車載用電池、定置用電池、医療用電池、民生用電池等として有用である。本開示におけるFIB10の形状としては、特に限定されるものではなく、例えばコイン型、ラミネート型、円筒型及び角型等の公知の形状を採用できる。
【0038】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、負極活物質を含む負極材料からなる。
【0039】
負極活物質としては、特に限定されるものではなく、FIBにおいて一般的に採用される公知の材料を採用できる。負極活物質の具体例は、後述する正極活物質よりも低い電位を有する金属単体、合金、金属酸化物、及び、これらのフッ化物であり、例えばLa、LaFx、Mg、MgFx、Pb、PbFx、Al、AlFx、Ce、CeFx、Ca、CaFx(但し、xは0よりも大きい実数)であることが好ましい。負極活物質は、上記材料の一種であってもよく、二種以上であってもよい。
【0040】
負極活物質層12は、必要に応じて、導電助剤、固体電解質及びバインダの少なくとも一つをさらに含有してもよい。導電助剤は、電子伝導性を有する材料であれば特に限定されず、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、グラフェン等のFIBにおいて一般的に公知の材料とすることができる。固体電解質は、後述する固体電解質層13に含まれる固体電解質と同様の材料とすることができる。バインダは、特に限定されず、FIBにおいて一般的に公知の材料とすることができ、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系バインダとすることができる。
【0041】
負極活物質層12における、負極活物質及び導電助剤の含有量は、特に限定されるものではなく、FIBにおいて一般的に公知の量とすることができる。具体的には例えば、負極活物質の含有量は10質量%以上90質量%以下、導電助剤の含有量は20質量%以下とすることができる。
【0042】
[固体電解質層]
固体電解質層13は、負極活物質層12と正極活物質層14との間に配置されている。固体電解質層13は、フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質を含む。
【0043】
固体電解質としては、特に限定されるものではなく、FIBに一般的に使用される公知の材料を採用できる。固体電解質は、具体的には例えば、La、Ce等のランタノイド元素のフッ化物、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属元素のフッ化物、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類元素のフッ化物が挙げられる。また、固体電解質は、La、Ba、Pb、Sn、Ca及びCeの少なくとも一種の金属元素を含有するフッ化物であってもよい。固体電解質の具体例としては、Ba0.03La0.97F2.97、PbSnF4等が挙げられる。固体電解質の形状は、特に限定されないが、例えば粒子状を挙げることができる。
【0044】
固体電解質層13は、固体電解質以外のバインダ等を含んでもよい。この場合、固体電解質層13における固体電解質の含有量は、二次電池、特にFIBにおいて一般的に採用される含有量とすることができる。
【0045】
[正極活物質層]
正極活物質層14は、正極活物質を含む正極材料からなる。
【0046】
本開示において、正極活物質は、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料と、金属フッ化物及びHFの少なくとも一方であるフッ化物触媒と、よりなる。
【0047】
-炭素材料-
炭素材料は、フッ化物イオンのホスト材料であり、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料であれば、特に限定されない。
【0048】
CxFは、触媒存在下低温でF2と反応させることにより、グラファイトの層間にフッ化物イオンが挿入された化合物である。
【0049】
なお、グラファイト層間化合物のステージ構造は、Carbon用語辞典によれば、「挿入化学種(インターカレート)がその濃度に応じてc軸方向に規則的に分布する構造でありステージ数nで表現され」、「nはインターカレート層によって挟まれる炭素層の数を表したもの」と定義されている。
【0050】
すなわち、「ステージ1型のCxF」とは、グラファイトのすべての層間にフッ素層が含まれるCxFを意味する。また、ステージ2型のCxFでは1層おき、ステージ3型のCxFでは2層おきに、フッ素層が含まれる。ステージ1型のCxFではxの値はおよそ4以下である。
【0051】
従って、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料とは、例えば、上記のようなF2との反応等により積極的にフッ化物イオンが導入されていない炭素材料(充放電が行われる前の初期状態の炭素材料を含む)及びxの値が4を超えるCxFの少なくとも一方をいう。
【0052】
上記のようなF2との反応等により積極的にフッ化物イオンが導入されていない炭素材料は、具体的には例えば、後述するグラフェンライクグラファイト(本明細書において、「GLG」ともいう。)、GLGを含む炭素材料、グラファイト、アセチレンブラック、ハードカーボン、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ等であり、好ましくはGLG、GLGを含む炭素材料、グラファイト、アセチレンブラック及びハードカーボンからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0053】
また、xの値が4を超えるCxFは、例えばステージ2型、ステージ3型等の上記nの値が2以上のステージ構造のCxFである。このようなフッ素の含有量が低いCxFは、ステージ1型のCxFと比較して、低圧もしくは短時間でのF2との反応やHF水溶液中での電気分解によって、より容易に合成可能である。
【0054】
正極材料中のフッ素含有量(CxFのXの値)は、以下の方法で決定できる。正極材料を固体電解質から分離し、Niメッシュに圧着して乾燥する。これを、例えば、1MのLiPF6溶液(溶媒は、体積比でエチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:1)を電解液、Li金属を対極とした2極式セル中に設置して、定電流放電を行い、1.5Vまでの放電容量を求める。これにより正極材料中のフッ素含有量(CxFのXの値)を決定することが可能となる。
【0055】
図2にGLGの分子構造の一例を示す。
図2に示すように、符号20で示すGLGは、炭素原子21と、該炭素原子21と共有結合により結合した酸素原子22と、を構成元素とするとともに、層に形成されたナノメートルオーダーの孔23を有する層状化合物である。GLGは、酸化グラファイトに熱処理を施すことにより調製できる。グラファイトの酸化によりグラファイトの一部の炭素原子が酸素原子に置換され、熱処理により、一部の酸素原子が除去されて孔23が形成されると考えられる。
【0056】
炭素材料は、GLG又はGLGを含む炭素材料であることがより好ましい。GLGを含む炭素材料とは、具体的には例えば、GLGと他の炭素材料との混合物や、外側の層はGLGからなり且つ内側の層はグラファイトからなる層状化合物等が挙げられる。
【0057】
GLGは、一部酸化された炭素材料であるために、例えば炭素原子のみからなるグラファイト等の炭素材料に比べて、アニオンの挿入電位が低下する。そうして、フッ化物イオンの挿入が容易になるから、炭素材料の充電反応が進行しやすくなる。
【0058】
炭素材料として、GLG又はGLGを含む炭素材料を用いる場合、GLGの層間距離は、グラファイトの層間距離よりも大きいことが好ましい。上述のごとく、グラファイトの層間距離は、一般的に、0.335nmであることが知られている。GLGは、共有結合性の酸素原子を含むため、層間距離がグラファイトと比較して大きくなる傾向がある。層間距離が大きいことにより、フッ化物イオンの挿入及び脱離が容易となり、FIBのサイクル特性が向上し得る。
【0059】
なお、層状化合物の層間距離は、好ましくは0.335nm超、より好ましくは0.340nm以上、特に好ましくは0.360nm以上である。
【0060】
-フッ化物触媒-
フッ化物触媒は、FIBの充放電時に、炭素材料の表面におけるフッ化物絶縁層の形成を抑制する機能を有し、金属フッ化物及びHFの少なくとも一方である。
【0061】
金属フッ化物は、フッ化物イオン受容性を有していれば、特に限定されないが、例えばLiF、AgF、AlF3、CuF2、KF、KHF2及びCaF2からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。本構成によれば、炭素材料の充電反応が速やかに進行し得る。
【0062】
フッ化物触媒としてHFを用いる場合は、空気中に含まれる水に由来するHFを利用してもよいし、HFを積極的に添加してもよい。空気中に含まれる水に由来するHFを利用する場合は、例えば、電極の乾燥を抑制して、水を残留させること等により、水がセル中で酸化されて生じるHFを利用すればよい。
【0063】
なお、本開示のフッ化物触媒は、CxFを含まない。CxFの表面には、フッ化物絶縁層が形成されているから、CxFを添加しても、触媒として機能する可能性は低いと考えられる。
【0064】
-合剤-
正極材料は、正極活物質と、固体電解質と、を含む合剤とすることが好ましく、正極活物質と、固体電解質と、よりなる合剤とすることがより好ましい。
【0065】
固体電解質を含む合剤とすることにより、正極材料におけるフッ化物イオン伝導性が向上する。合剤に含まれる固体電解質は、固体電解質層13に含有される固体電解質と同種であってもよいし、異種であってもよいが、同種であることが好ましい。
【0066】
なお、合剤に含まれる炭素材料の含有量は、質量比で、合剤に含まれるフッ化物触媒の含有量よりも多いことが好ましい。
【0067】
具体的には、合剤に含まれる炭素材料の含有量は、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、12質量%以上48質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上45質量%以下であることが特に好ましい。
【0068】
合剤に含まれる炭素材料の含有量が下限値未満では、十分な容量を得ることが困難となる。一方、当該含有量が上限値を超えると、固体電解質の量が不足することにより、十分なフッ化物イオン伝導性を確保することが困難となる。
【0069】
また、合剤に含まれるフッ化物触媒の含有量は、1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上4.5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上4質量%以下であることが特に好ましい。
【0070】
合剤に含まれるフッ化物触媒の含有量が下限値未満では、充電反応が進行せず、FIBの充放電ができないおそれがある。一方、当該含有量が上限値を超えると、固体電解質の量が不足することにより、十分なフッ化物イオン伝導性を確保することが困難となる。
【0071】
合剤に含まれる炭素材料及びフッ化物触媒の含有量を上記範囲とすることにより、より高容量且つより高サイクル特性のFIBを得ることができる。
【0072】
合剤は、このまま成形して正極活物質層14としてもよいし、導電助剤、バインダ等と混合されて正極活物質層14を形成してもよい。導電助剤、バインダ等としては、負極活物質層12と同様の材料を採用できる。正極活物質層14に導電助剤、バインダ等が配合される場合、これらの含有量は、負極活物質層12と同様とすることができる。
【0073】
-作用効果-
炭素材料は、酸化されにくいためにフッ化物イオンの挿入には高い電圧が必要である。しかしながら、高い電圧を印加してフッ化物イオンを挿入しようとすると、炭素材料の表面の炭素原子とフッ化物イオンとの間で、強固なC-F結合が形成される。そして、炭素材料の表面にフッ化物絶縁層が形成され、不動態化される。そうして、炭素材料内部へのフッ化物イオンの挿入が抑制され、充電反応が進行しなくなるため、充放電ができない状態となる。
【0074】
一方、炭素材料にフッ化物触媒を添加すると、炭素材料の炭素原子とフッ化物触媒のカチオンとの間でフッ化物イオンを取り合うような形となり、炭素材料の表面の炭素原子とフッ化物イオンとの間での強固なC-F結合の形成が抑制される。そして、炭素材料表面におけるフッ化物絶縁層の形成が抑制されるから、炭素材料内部にフッ化物イオンが挿入され、充電反応が進行すると考えられる。また、フッ化物触媒の存在が、炭素材料表面におけるフッ化物絶縁層の形成を抑制するから、炭素材料内部からのフッ化物イオンの脱離反応も可能となり、全体として充放電が可能となると考えられる。
【0075】
すなわち、本開示の構成によれば、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料とフッ化物触媒とを正極活物質とする正極材料を用いることにより、従来の金属フッ化物を正極活物質とするFIBよりも高電圧、高容量及び高サイクル特性を示し得るFIBをもたらすことができる。また、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料は、ステージ1型のCxFのようにフッ化物イオンを導入する処理が施されていないから、ステージ1型のCxFと比べて、表面に形成されたフッ化物絶縁層の量がもともと少ない。そうすると、表面のフッ化物絶縁層を除去する必要がないから、ステージ1型のCxFを正極活物質として使用する場合と比べて、フッ化物触媒の添加量を抑えることができるとともに、放電電圧を向上できる可能性がある。さらに、ステージ1型のCxFよりもフッ素の含有量が低い炭素材料は、ステージ1型のCxFと比較して、容易且つ低コストで製造可能であるから、FIBの製造も容易となり且つコスト面でも有利となる。
【0076】
<正極材料の製造方法>
正極材料は、限定する意図ではないが、例えば以下の手順で製造できる。
【0077】
すなわち、正極材料の製造方法の一例は、炭素材料を準備する準備工程と、炭素材料と、フッ化物触媒とを混合して、正極活物質を得る混合工程と、を備える。
【0078】
準備工程では、市販の炭素材料、又は、必要な場合には合成により炭素材料を準備する。
【0079】
例えば、炭素材料がGLGの場合には、準備工程において、グラファイト粉末を酸化後に熱処理を施してGLGを得る。
【0080】
グラファイトの酸化方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。公知の方法としては、例えば、発煙硝酸とKClO3を用いるBrodie法、H2SO4、NaNO3、KMnO4を用いるHummers法、H2SO4、HNO3、KClO3を用いるStaudenmeier法等が挙げられる。なお、グラファイトの酸化方法は、GLGの酸素含有量及び層間距離に影響がある。
【0081】
酸化グラファイトの熱処理温度も、GLGの酸素含有量及び層間距離に影響がある。熱処理温度は、例えば100℃以上1000℃以下、好ましくは200℃以上900℃以下、より好ましくは300℃以上500℃以下である。
【0082】
酸化グラファイトの熱処理時間は、限定する意図ではないが、例えば2時間以上、好ましくは3時間以上10時間以下、より好ましくは4時間以上8時間以下とすることができる。
【0083】
酸化グラファイトの熱処理は、さらなる酸化を抑制する観点から、真空下もしくは不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0084】
混合工程では、炭素材料及びフッ化物触媒を混合する。また、混合工程では、炭素材料と、フッ化物触媒と、固体電解質と、を混合して、合剤を得ることが好ましい。本構成により、炭素材料、フッ化物触媒、及び添加する場合は固体電解質における互いの接触面積が増加し、電子伝導性及びフッ化物イオン伝導性に有利になる。混合方法は、特に限定されるものではなく、例えば乳鉢等を用いた手動による混合、ミキサ等の公知の方法を採用できる。
【0085】
<FIBの製造方法>
FIBの製造方法は、上記の正極材料、固体電解質及び負極材料を使用する限り、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
【実施例0086】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0087】
表1に、実施例1~9及び比較例1の正極活物質の構成を示している。
【0088】
【0089】
<実施例1>
正極活物質について、炭素材料としてGLG、フッ化物触媒としてフッ化リチウム(LiF)を用いた。また、正極材料の固体電解質としてフッ化バリウムランタン(Ba0.03La0.97F2.97、以下「BLF」ともいう。)を用いた。
【0090】
負極としては、Pb及びPbSnF4、固体電解質層の固体電解質としては、BLFを用いた。
【0091】
[材料の調製]
-GLG-
グラファイト粉末(伊藤黒鉛工業株式会社製Z-5F、平均粒径5μm)10gを500mLビーカーに入れ、200mLの発煙硝酸を加えて60℃に加熱した。その後、撹拌しながら80gの塩素酸カリウムをゆっくりと加え、3時間保持した。その後、反応溶液を2Lの水に移し、吸引ろ過し、純水でpHが5以上になるまで洗浄して酸化グラファイトを得た(Brodie法)。
【0092】
得られた酸化グラファイトを60℃で一晩乾燥した。この酸化グラファイト粉末をアルミナ容器に入れ、真空下、1℃/分で熱処理温度300℃まで昇温した後、5時間保持することにより、GLGを得た。
【0093】
なお、GLGの同定及び層間距離の測定は、X線回折法(Bruker製 D2 Phaser、CuKα)を用いて行った。
【0094】
また、GLG中に含まれる酸素の含有量は、元素分析(ThermoFischer Scientific製 Flash Smart)により決定した。
【0095】
-LiF-
市販のLiF(Nacalai Tesque株式会社製)を使用した。
【0096】
-BLF-
BaF2(Apollo Science)とLaF3(関東化学)を7:93の割合で混合し、Φ1mmのジルコニアボール60gとともに、ジルコニアのカップ(45mL)に入れ、フリッチュ製premiumline P7によって500rpmで5分間ボールミルを行った後、5分休止のサイクルを72回繰り返すことでBLFを得た。
【0097】
-PbSnF4-
PbF2及びSnF2をアルゴン下200℃で熱処理することにより、PbSnF4を調製した。
【0098】
[電池の製造]
大気下において、GLG、LiF及びBLFを質量比8:1:30で乳鉢に入れ、混合した。金型(直径20mm)に1.5gのPbSnF4、0.3gのBLFをこの順に入れた後、GLG、LiF及びBLFの混合物を入れ、圧力240MPaで10分間プレスすることにより3層ペレットを得た。この3層ペレットを、負極集電体としてのPb板を含むセル(有限会社日本トムセル製)に、Pb板がPbSnF4側に配置されるように装着した。
【0099】
[充放電測定]
上記セルについて、ポテンショスタット/ガルバノスタット(北斗電工株式会社製)を用いて、75℃、3mV/分で、開回路電圧から2.6Vまで電圧走査した後、2.6Vで10時間保持して充電を行った。その後、放電時50μA、充電時100μAの定電流で充放電操作を行った。カットオフ電圧は下限0.0V、上限2.4Vとした。充放電曲線を
図3に示す。
【0100】
<実施例2>
GLGの調製時における熱処理温度を400℃とし、充放電測定時のカットオフ電圧の上限を2.0Vとした以外は、実施例1と同様の条件及び手順で電池を作製し、充放電測定を行った。充放電曲線を
図4に示す。
【0101】
<実施例3>
GLGの調製時における熱処理温度を500℃とし、充放電測定時のカットオフ電圧の上限を2.0Vとした以外は、実施例1と同様の条件及び手順で電池を作製し、充放電測定を行った。充放電曲線を
図5に示す。
【0102】
<実施例4>
グラファイト5g、硝酸ナトリウム2.5g及び硫酸115mLの溶液に過マンガン酸カリウム30gを添加してグラファイトを酸化するHummers法により酸化グラファイトを得たとともに、充放電測定時のカットオフ電圧の上限を2.0Vとした以外は、実施例1と同様の条件及び手順で電池を作製し、充放電測定を行った。充放電曲線を
図6に示す。
【0103】
<実施例5>
フッ化物触媒として、LiFに代えて、AgFを使用した以外は、実施例1と同様の条件及び手順で電池を作製し、充放電測定を行った。充放電曲線を
図7に示す。
【0104】
<実施例6>
フッ化物触媒として、LiFに代えて、KHF
2を使用した以外は、実施例1と同様の条件及び手順で電池を作製し、充放電測定を行った。充放電曲線を
図8に示す。
【0105】
<実施例7>
炭素材料として、GLGに代えて、市販のアセチレンブラック(株式会社デンカ製)を使用した以外は、実施例1と同様の条件及び手順で電池を作製し、充放電測定を行った。充放電曲線を
図9に示す。
【0106】
<実施例8>
炭素材料として、GLGに代えて、GLGの原料であるグラファイト粉末を使用した以外は、実施例1と同様の条件及び手順で電池を作製し、充放電測定を行った。充放電曲線を
図10に示す。
【0107】
<実施例9>
炭素材料として、GLGに代えて、市販のハードカーボン(株式会社クレハ製)を使用した以外は、実施例1と同様の条件及び手順で電池を作製し、充放電測定を行った。充放電曲線を
図11に示す。
【0108】
<比較例1>
フッ化物触媒であるLiFを添加しなかった以外は、実施例1と同様の条件及び手順で電池を作製し、充放電測定を行った。充放電曲線を
図12に示す。
【0109】
<充放電特性>
図12に示すように、フッ化物触媒であるLiFを添加していない比較例1のセルでは、充放電操作を行っても、容量はほとんどゼロであった。
【0110】
一方、
図3に示すように、フッ化物触媒であるLiFを添加した実施例1のセルでは、1サイクル目の放電時の電圧は0.9V付近から緩やかに低下し始め、0.6V付近からやや急速に低下して、放電容量は93.3mAh/gに達した。一方、充電時には、0.8V付近から電圧がなだらかに上昇し、1.7V以上で急激に上昇した。このときの充電容量は170mAh/gであった。2サイクル目以降では、放電曲線は1サイクル目とほぼ同様で、10サイクル目においても放電容量は90.7mAh/gであり、初期容量の97.2%を維持していた。また、充電初期の電圧は少し低下し、1.5V以上の容量がサイクル毎に徐々に減少した。
【0111】
比較例1及び実施例1の結果を比較すると、正極活物質としてGLGを単独で用いた場合ではGLGへのフッ化物イオンの挿入は困難であるが、GLGにフッ化物触媒(LiF)を添加することにより、フッ化物イオンのGLGへの挿入が可能となることが判った。これは、以下のメカニズムによると考えられる。すなわち、比較例1のGLG単独の場合、充電操作を行うと、GLG表面の炭素原子とフッ化物イオンとの間で強固なC-F結合が形成される。そして、GLG表面にフッ化物絶縁層が形成され、フッ化物イオンのGLGの層間への挿入が抑制されると考えられる。一方、実施例1のGLGにLiFを添加した場合には、GLGの炭素原子とLiFのリチウムイオンとの間でフッ化物イオンを取り合うような形となり、GLG表面の炭素原子とフッ化物イオンとの間で強固なC-F結合が形成されることが抑制される。そして、GLG表面におけるフッ化物絶縁層の形成が抑制され、GLG内部の層間にフッ化物イオンが挿入されると考えられる。
【0112】
また、実施例2~4では、表1に示すように、GLGの酸素含有量が実施例1と異なっている。実施例2~4では、
図4~
図6に示すように、実施例1の
図3と同様の充放電曲線が得られた。なお、GLGの酸素含有量は、実施例3、実施例2、実施例1及び実施例4の順に多くなるが、
図3~
図6に示すように、GLGの酸素含有量が大きくなるに従って、容量も大きくなる傾向があることが判った。
【0113】
実施例5、6は、実施例1とはフッ化物触媒が異なるが、
図7及び
図8に示すように、フッ化物触媒として、LiFに代えて、AgF(実施例5)又はKHF
2(実施例6)を使用した場合にも、実施例1の
図3と同様の充放電曲線が得られた。なお、実施例5、6のいずれも1サイクル目の放電容量は小さいが、2サイクル目以降は、放電容量が増加し、比較的サイクル特性も良好であることが判った。
【0114】
実施例7は、炭素材料としてアセチレンブラックを用いた場合である。
図9に示すように、1サイクル目の放電容量は30mAh/gであり小さかったが、充電時には0.5V及び1.6Vに長いプラトーが見られ、その後電圧が急上昇した。そして、2サイクル目の放電はできなかった。実施例7の結果から、アセチレンブラックを炭素材料とした場合にも、フッ化物触媒を添加することにより、充放電可能であることが示された。なお、実施例7の実験条件では、サイクル特性は不十分であったが、実験条件を調整することにより、サイクル特性についても改善の余地があると考えられる。
【0115】
実施例8、9は、炭素材料としてそれぞれグラファイト及びハードカーボンを使用した場合である。
図10及び
図11に示すように、グラファイト(実施例8)又はハードカーボン(実施例9)を使用した場合も、フッ化物触媒を添加することにより、充放電可能であることが示された。サイクル特性についても、実施例7と同様に、実験条件を調整することにより、改善の余地があると考えられる。
本開示は、より高電圧、高容量及び高サイクル特性を示し得るとともに、容易且つ低コストで製造可能な全固体型フッ化物イオンシャトル電池用正極材料、その製造方法、及び、当該正極材料を用いた全固体型フッ化物イオンシャトル電池を提供することができるので、極めて有用である。