(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087728
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】不織布マスク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20230619BHJP
D04H 1/4374 20120101ALI20230619BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 B
D04H1/4374
A62B18/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202172
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000201881
【氏名又は名称】倉敷繊維加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】谷野 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】国府 克次
(72)【発明者】
【氏名】田中 康生
(72)【発明者】
【氏名】原田 知子
【テーマコード(参考)】
2E185
4L047
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185CC32
4L047AB02
4L047BA08
4L047CA02
4L047CA05
4L047CC03
4L047CC12
4L047DA00
(57)【要約】
【課題】
着用時のマスク本体が外側に膨らんだ状態で保たれるようにして、着用者が息苦しさを感じにくくしながらも、製造が容易な不織布マスクを提供する。
【解決手段】
マスク本体10が、マスク本体10の外面を形成する外側不織布11と、マスク本体10の内面を形成する内側不織布12と、外側不織布11と内側不織布12との隙間空間に配されたフィルターシート13とを重ねて構成された不織布マスクにおいて、上下方向及び左右方向に広がりを有する保形シート14を、マスク本体10の中段部を左右方向に略横断する面状領域α
1に重なる状態で前記隙間空間に配した。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク本体が、
マスク本体の外面を形成する外側不織布と、
マスク本体の内面を形成する内側不織布と、
外側不織布と内側不織布との隙間空間に配されたフィルターシートと
を重ねて構成された不織布マスクであって、
上下方向及び左右方向に広がりを有する保形シートが、マスク本体の中段部を左右方向に略横断する面状領域に重なる状態で前記隙間空間に配された
ことを特徴とする不織布マスク。
【請求項2】
保形シートが、織布又は不織布である請求項1記載の不織布マスク。
【請求項3】
保形シートが、熱可塑性樹脂からなる多数本の短繊維を互いに融着させた樹脂繊維融着型の不織布である請求項2記載の不織布マスク。
【請求項4】
マスク本体が、左右方向に沿って伸びる複数本のプリーツを有し、
前記複数本のプリーツのうち少なくとも1本のプリーツに重なる状態で保形シートが配された
請求項1~3いずれか記載の不織布マスク。
【請求項5】
保形シートの左縁及び右縁が、外側不織布及び内側不織布の左縁及び右縁に溶着された請求項1~4いずれか記載の不織布マスク。
【請求項6】
保形シートが、外側不織布とフィルターシートとの間に配された請求項1~5いずれか記載の不織布マスク。
【請求項7】
請求項1~6いずれか記載の不織布マスクを製造する不織布マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布マスクと、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延に伴って、マスクを日常的に着用する人が増えてきている。マスクとしては、不織布製のもの(不織布マスク)や、布製のもの(布マスク)や、ウレタンフォーム製のもの(ウレタンマスク)等、各種のものが販売されているところ、布マスクやウレタンマスクよりも不織布マスクの方が飛沫を防御できるという近年の研究結果から、不織布マスクの着用が推奨されている。ところが、不織布マスクは、その通気性の低さから着用者が息苦しさを感じやすいという欠点がある。
【0003】
不織布マスクの息苦しさを解消するために、
図1に示すように、マスク本体10の上下方向中間部に、保形線材16を左右方向に延在する状態で埋め込んだ不織布マスクも登場している(例えば、特許文献1の
図1及び
図2における「線状保形材9」を参照。)。この保形線材16によって、不織布マスクを着用したときに、マスク本体10が外側に膨らんだ状態で保たれ、マスク本体10と口元との間に空間を確保することができる。したがって、着用者の感じる息苦しさを軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、
図1に示すように、マスク本体10の上下方向中間部に保形線材16が左右方向に配された不織布マスクは、製造に手間を要するという欠点があった。というのも、この種の不織布マスクにおいて、保形線材16は、マスク本体10の外面を形成する不織布(外側不織布)と、マスク本体10の内面を形成する不織布(内側不織布)との隙間空間に収容される。このため、外側不織布と内側不織布とにおける、保形線材16の上側及び下側における保形線材16に沿った箇所を互いに固着することで、保形線材16が上下方向に動かないようにする必要があるからである。
図1に示す不織布マスクでも、マスク本体10を形成する外側不織布と内側不織布とを、上下一対の溶着線L
6,L
7に沿って溶着しており、外側不織布と内側不織布との隙間における、溶着線L
6,L
7の間となる部分に保形線材16を挿入している。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、着用時のマスク本体が外側に膨らんだ状態で保たれるようにして、着用者が息苦しさを感じにくくしながらも、製造が容易な不織布マスクを提供するものである。また、この不織布マスクの製造方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、
マスク本体が、
マスク本体の外面を形成する外側不織布と、
マスク本体の内面を形成する内側不織布と、
外側不織布と内側不織布との隙間空間に配されたフィルターシートと
を重ねて構成された不織布マスクであって、
上下方向及び左右方向に広がりを有する保形シートが、マスク本体の中段部を左右方向に略横断する面状領域に重なる状態で前記隙間空間に配された
ことを特徴とする不織布マスク
を提供することによって解決される。
【0008】
ここで、「保形シート」とは、保形性を有する薄手の面状素材のことをいう。保形シートとしては、外側不織布や内側不織布等、マスク本体を構成する他の面状素材よりも保形性を有する素材(剛軟度の高い素材)が選択される。この保形シートは、マスク本体を構成するものであるため、通常、通気性を有する素材(織布や不織布等)で形成される。特に、熱可塑性樹脂製の短繊維を融着させた樹脂融着型の不織布は、通気性を有しながらも、同程度の厚さを有する他の不織布よりも高い剛軟度を有するため、上記の保形シートとして好適に採用することができる。
【0009】
保形シートは、フィルターシートと共通の部材で構成してもよい(フィルターシートが保形シートとして機能する、又は、保形シートがフィルターシートとして機能するようにしてもよい)。この場合には、マスク本体を、[1]外側不織布、[2]内側不織布、[3]フィルターシート兼保形シートの3層で構成することができる。しかし、フィルターシートには、保形シートとは異なる性能(ウイルスや細菌等の異物の遮蔽性能)が要求される。このため、保形シートは、通常、フィルターシートとは別体とされる。この場合、マスク本体は、[1]外側不織布、[2]内側不織布、[3]フィルターシート、[4]保形シートの4層以上で構成される。
【0010】
本発明の不織布マスクでは、着用時のマスク本体が外側に膨らんだ状態で保たれるようにするための部材を、上下方向及び左右方向に広がりを有する保形シートとしたため、その部材(保形シート)と、外側不織布や内側不織布やフィルターシートとの間に、大きな摩擦が生ずるようになる。このため、保形シートの上縁や下縁に沿った箇所で外側不織布と内側不織布とを固着(溶着等)しなくても、その部材(保形シート)が上下方向に位置ずれしにくい。したがって、外側不織布と内側不織布とを固着する工程を減らすことができる。加えて、外側不織布と内側不織布とフィルターシートとを重ね合わせる際に、保形シートもそれらと一緒に重ね合わせることができる。このため、外側不織布と内側不織布との隙間空間に、保形シートを挿入する工程を省略することができる。よって、着用時のマスク本体が外側に膨らんだ状態で保たれる機能を有する不織布マスクを容易に製造することが可能になる。
【0011】
本発明の不織布マスクにおいては、マスク本体を、左右方向に沿って伸びる複数本のプリーツを有するものとし、前記複数本のプリーツのうち少なくとも1本のプリーツに重なる状態で保形シートを配することが好ましい。これにより、着用時のマスク本体が外側に膨らみやすくすることができる。加えて、プリーツは、マスク本体に折り目を付ける(山折り部や谷折り部を形成する)ことで加工されるところ、この折り目の部分において、外側不織布や内側不織布等だけでなく、保形シートも折られるため、保形シートが上下方向にさらに位置ずれしにくくなる。
【0012】
ところで、一般的な不織布マスクでは、外側不織布及び内側不織布を、少なくともその左縁及び右縁に沿った箇所で互いに溶着等(固着)することで、マスク本体がバラけないようにされる。この点、本発明の不織布マスクにおいては、保形シートの左縁及び右縁を、外側不織布及び内側不織布の左縁及び右縁とともに溶着することが好ましい。これにより、外側不織布及び内側不織布に対して保形シートを固定し、保形シートが上下方向により位置ずれしにくくすることが可能になる。
【0013】
本発明の不織布マスクにおいて、保形シートは、フィルターシートよりも内側(フィルターシートと内側不織布との隙間)に配置してもよい。しかし、保形シートは、コシがあるため、これを内側不織布の近くに配すると、その硬めの質感が内側不織布を通じて着用者の口元に伝わりやすくなり、不織布マスクの着け心地が悪くなるおそれがある。このため、保形シートは、外側不織布と内側不織布との隙間空間のうち、できるだけ外側不織布に近い箇所(外側不織布とフィルターシートとの間)に配することが好ましい。これにより、不織布マスクの着け心地を良好にすることが可能になる
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によって、着用時のマスク本体が外側に膨らんだ状態で保たれるようにして、着用者が息苦しさを感じにくくしながらも、製造が容易な不織布マスクを提供することが可能になる。また、この不織布マスクの製造方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明に係る不織布マスクを示した斜視図である。
【
図3】本発明に係る不織布マスクを示した正面図である。
【
図4】本発明に係る不織布マスクを、マスク本体の左右方向中間部で破断した状態を示した破断斜視図である。
【
図5】本発明に係る不織布マスクにおけるマスク本体を左右方向に垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。
【
図6】本発明に係る不織布マスクの製造装置を示した側面図である。
【
図7】本発明に係る不織布マスクの製造装置におけるガイド部材周辺を拡大して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の不織布マスクの好適な実施形態について、図面を用いてより具体的に説明する。以下で述べる構成は、飽くまで一例に過ぎず、本発明の技術的範囲は、以下で述べる構成に限定されない。本発明の不織布マスク等には、発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことができる。
【0017】
1.本発明に係る不織布マスクの概要
図2は、本発明に係る不織布マスクを示した斜視図である。
図3は、本発明に係る不織布マスクを示した正面図である。本実施形態の不織布マスクは、
図2及び
図3に示すように、マスク本体10と、耳掛け部20とで構成されている。
【0018】
マスク本体10は、不織布マスクの着用者の口元周辺を覆うための部材となっている。このマスク本体10によって、空気中の異物(ウイルスや細菌や花粉や埃等)が着用者の口や鼻に入らないようにすることや、着用者の口から出た飛沫が周囲に飛散しないようにすることができる。マスク本体10の左右幅W
1(
図3)は、不織布マスクが大人用のものである場合には、概ね150~180mmの範囲で設定とされ、不織布マスクが子供用のものである場合には、概ね100~150mmの範囲で設定される。また、マスク本体10の上下幅W
2(
図3)は、不織布マスクが大人用と子供用のいずれである場合も、概ね80~120mm(本実施形態の不織布マスクのように、マスク本体10がプリーツPを有している場合には、プリーツPが形成された状態の値。以下同じ。)の範囲で設定される。
【0019】
一方、耳掛け部20は、不織布マスクの耳に掛けるための部材となっている。耳掛け部20は、マスク本体10の左側と右側に対で設けられている。これら一対の耳掛け部20をそれぞれ左耳と右耳に掛けると、マスク本体10が着用者の口元周辺に配される。本実施形態の不織布マスクにおいては、マスク本体10とは別部材からなる紐材をマスク本体10の左縁及び右縁に固着(溶着等)することによって耳掛け部20を設けているが、この耳掛け部20は、マスク本体10と連続する態様(マスク本体10を左右方向に延長してその延長した部分に耳を掛ける穴を形成する態様)で設けることもできる。
【0020】
本発明の不織布マスクは、その用途を特に限定されない。本発明の不織布マスクは、ウイルス対策や花粉症対策やPM2.5対策を目的として着用される家庭用マスク乃至衛生マスクのほか、作業現場で飛散する粉塵を防ぐための防塵マスクや、医療現場で着用される医療用マスク等として、好適に採用することができる。本実施形態の不織布マスクは、家庭用マスク又は衛生マスクとして使用することを想定したものとなっている。
【0021】
2.マスク本体の構成
図4は、本発明に係る不織布マスクを、マスク本体10の左右方向中間部で破断した状態を示した破断斜視図である。
図5は、本発明に係る不織布マスクにおけるマスク本体10を左右方向に垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。本実施形態の不織布マスクにおいては、
図4及び
図5に示すように、マスク本体10が、外側不織布11と、内側不織布12と、フィルターシート13と、保形シート14とを重ね合わせることで構成されている。マスク本体10の上縁に沿った箇所には、長手状(線状又は帯状)の折り曲げ部材15が取り付けられている。
【0022】
2.1 外側不織布及び内側不織布
マスク本体10を構成する各部材のうち、外側不織布11は、マスク本体10の外面を形成する面状素材となっており、内側不織布12は、マスク本体10の内面を形成する面状素材となっている。不織布マスクの着用者が感じる息苦しさを軽減するため、外側不織布11及び内側不織布12には、通気性をある程度有する不織布が用いられる。具体的には、通気度が100~500cm3/cm2・s程度の不織布を、外側不織布11及び内側不織布12として好適に用いることができる。ここで、「通気度」とは、「JIS L 1096」の「織物及び編物の記事試験方法」における「A法(フラジール形法)」に準拠して測定される通気度のことをいう。本実施形態の不織布マスクにおいては、外側不織布11の通気度が313cm3/cm2・s程度、内側不織布12の通気度が319cm3/cm2・s程度となっている。外側不織布11と内側不織布12のうち、外側不織布11には、抗菌処理を施している。同様に、内側不織布12にも抗菌処理を施すこともできる。
【0023】
2.2 フィルターシート
フィルターシート13は、異物(ウイルスや細菌や花粉や粉塵等)を遮蔽するための面状素材である。このため、フィルターシート13には、外側不織布11や内側不織布12よりも目が細かく通気度の低い面状素材が選択される。フィルターシート13の通気度は、概ね1~200cm3/cm2・sの範囲で設定される。本実施形態の不織布マスクにおいては、通気度が45cm3/cm2・sのメルトブローン不織布をフィルターシート13として採用している。フィルターシート13は、外側不織布11と内側不織布12との隙間空間に収容される。
【0024】
2.3 保形シート
保形シート14は、不織布マスクを着用した際に、着用者の口元周辺とマスク本体10の内面との間に空間ができるように、マスク本体10を外側に膨らんだ状態(マスク本体10の左側部分から右側部分にかけて外側に凸なアーチが形成される状態)で保つための薄手の面状素材である。このため、保形シート14は、マスク本体10を構成する他の面状素材(外側不織布11、内側不織布12及びフィルターシート13)よりも剛軟度の高い面状素材が選択される。
【0025】
保形シート14の剛軟度は、通常、0.1mN以上とされる。ここで、「剛軟度」とは、「JIS L 1096」の「織物及び編物の生地試験方法」における「A法(ガーレ法)」に準拠して測定される剛軟度のことをいう。保形シート14の剛軟度に異方性がある場合には、保形シート14の左右方向における剛軟度をいう。保形シート14の剛軟度は、0.15mNとすることが好ましく、0.2mN以上とすることがより好ましい。ただし、保形シート14の剛軟度を高くしすぎると、マスク本体10が着用者の口元周辺に沿いにくくなって、不織布マスクの着用感が悪くなるおそれがある。また、マスク本体10の周辺が着用者の顔面から浮き上がり、その隙間を通じて異物が侵入したり、飛沫が飛散したりするおそれもある。このため、保形シート14の剛軟度は、通常、5.0mN以下とされる。保形シート14の剛軟度は、2.0mN以下とすることが好ましく、1.0mN以下とすることがより好ましい。保形シート14の剛軟度は、0.5mN以下、0.3mN以下とさらに低くすることもできる。本実施形態の不織布マスクにおいて、保形シート14の剛軟度は、0.22mN程度となっている。
【0026】
この保形シート14には、フィルターシート13のような異物の遮蔽性能は特に要求されない。このため、不織布マスクの着用者が呼吸をしやすくするために、保形シート14の通気度は、保形シート14の保形性を確保できる範囲でできるだけ高くすることが好ましい。保形シート14の通気度は、300cm3/cm2・s以上とすることが好ましく、500cm3/cm2・s以上とすることがより好ましく、600cm3/cm2・s以上とすることがさらに好ましい。保形シート14の通気度に特に上限はないが、保形シート14の通気度を高くしすぎると、保形シート14の剛軟度を確保しにくくなる。このため、保形シート14の通気度は、通常、1000cm3/cm2・s以下とされる。保形シート14の通気度は、800cm3/cm2・s以下とすることが好ましく、700cm3/cm2・s以下とすることがより好ましい。本実施形態の不織布マスクにおいて、保形シート14の通気度は、637cm3/cm2・s程度となっている。
【0027】
保形シート14としては、各種のシート材を用いることができるが、通常、織布又は不織布が用いられる。より好ましくは、不織布が用いられる。保形シート14に用いる織布又は不織布を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、アラミド、ビニロン、ビニリデン、アクリル、アセテート又はレーヨン等の化学繊維や、綿、麻、毛又は絹等の天然繊維等が例示される。
【0028】
ただし、不織布に上記のような剛軟度を付与しようとすると、不織布が厚くなり、不織布マスクの重量が増大する。このため、保形シート14として用いる不織布の厚さは、1.0mm以下に抑えたい。保形シート14の厚さは、0.4mm以下とすることが好ましく、0.2mm以下とすることがより好ましい。ただし、保形シート14として用いる不織布を薄くしすぎると、保形シート14が破れやすくなる。このため、保形シート14の厚さは、通常、0.05mm以上とされる。本実施形態の不織布マスクにおいて、保形シート14の厚さは、約0.16mmとなっている。
【0029】
この点、熱可塑性樹脂製の短繊維を融着させた樹脂融着型の不織布であれば、上記のように薄い不織布であっても、必要な剛軟度を付与することができる。本実施形態の不織布マスクにおいては、ポリエチレンテレフタレートからなる短繊維を融着させた樹脂融着型の不織布を、保形シート14として用いている。
【0030】
この保形シート14は、
図2及び
図3に示す面状領域α
1(同図において網掛けハッチングで示した部分)に重なる状態で配される。面状領域α
1は、マスク本体10の中段部(上下方向における中段部)を左右方向に略横断する領域であり、保形シート14の左右幅W
4(
図3)は、通常、マスク本体10の左右幅W
1と同程度とされる。この保形シート14は、左右方向だけでなく、上下方向にも広がりを有している。このため、保形シート14を配置する面状領域α
1も、左右方向だけでなく、上下方向にも、所定の幅(
図3における上下幅W
3)を有している。
【0031】
このように、上下方向及び左右方向に広がりを有する保形シート14を使用したため、保形シート14と外側不織布11との接触面積、及び、保形シート14とフィルターシート12との接触面積を広く確保できる。このため、保形シート14と外側不織布11との間、及び、保形シート14とフィルターシート12との間に、大きな摩擦を生じさせることができる。したがって、保形シート14(面状領域α1)の上縁や下縁に沿った箇所で外側不織布11と内側不織布12とを溶着等しなくても、保形シート14が上下方向に位置ずれしにくくなっている。よって、外側不織布11と内側不織布12とを固着する工程数を減らすことができる。
【0032】
保形シート14は、薄手の面状素材であるため、その上下幅W
3(
図3)を狭くしすぎると、要求される保形性を発揮できなくなるおそれがある。また、保形シート14と外側不織布11との接触面積、及び、保形シート14とフィルターシート12との接触面積を確保しにくくなり、上記の摩擦が小さくなるおそれもある。このため、保形シート14の上下幅W
3(本実施形態の不織布マスクのように、マスク本体10がプリーツPを有しており、そのプリーツPの部分で保形シート14も折り曲げられている場合には、折り曲げ後の幅。以下同じ。)は、通常、10mm以上とされる。保形シート14の上下幅W
3は、20mm以上とすることが好ましく、30mm以上とすることがより好ましく、40mm以上とすることがさらに好ましい。
【0033】
ただし、保形シート14の上下幅W3を広くしすぎる(マスク本体10の上下幅W2に近づけすぎる)と、マスク本体10の全体が硬くなり、不織布マスクの着用感が悪くなるおそれがある。このため、保形シート14の上下幅W3は、通常、マスク本体10の上下幅W2の0.9倍以下とされる。保形シート14の上下幅W3は、マスク本体10の上下幅W2の0.8倍以下とすることが好ましく、0.7倍以下とすることがより好ましく、0.6倍以下とすることがさらに好ましい。より具体的には、保形シート14の上下幅W3は、通常、90mm以下とされ、好ましくは、80mm以下、より好ましくは、70mm以下、さらに好ましくは、60mm以下とされる。本実施形態の不織布マスクにおいては、マスク本体10の上下幅W2が約95mmであるのに対して、保形シート14の上下幅W3が約50mmとなっており、上下幅W2に対する上下幅W3の比W3/W2が、0.5強となっている。
【0034】
既に述べたように、保形シート14は、フィルターシート13と共通の1枚の部材で構成してもよい(フィルターシート13が保形シート14として機能するようにしてもよい)。しかし、フィルターシート13には、異物の遮蔽性能が要求されるのに対して、保形シート14には、保形性が要求される。このため、フィルターシート13と保形シート14とを共通の部材で構成することは、必ずしも容易ではない。したがって、本実施形態の不織布マスクにおいては、フィルターシート13と保形シート14とを別部材で構成している。
【0035】
保形シート14は、フィルターシート14とともに、外側不織布11と内側不織布12との隙間空間に収容される。フィルターシート13及び保形シート14のうち、いずれを外側(外側不織布11の側)に配置して、いずれを内側(内側不織布12の側)に配置するかは、特に限定されない。しかし、保形シート14は、フィルターシート13よりもコシのある硬めの素材であるため、着用者の口元から離れた箇所に配することが好ましい。本実施形態の不織布マスクにおいては、保形シート14を、フィルターシート13よりも外側に配置している。これにより、保形シート14の硬めの質感が、着用者の口元に伝わりにくくして、不織布マスクの着用感を良くすることができる。
【0036】
2.4 折り曲げ部材
折り曲げ部材15は、所望の形状に折り曲げることができる長手状の部材となっている。この折り曲げ部材15を指等でつまんで折り曲げることにより、マスク本体10の上縁を着用者の鼻周辺にフィットさせることができる。この折り曲げ部材15は、「ノーズフィット」とも呼ばれる。折り曲げ部材15としては、折り曲げた際に破断することなく塑性変形する各種の素材を用いることができる。折り曲げ部材15には、針金等の金属素材を用いることもできるが、安全性を考慮すると、樹脂素材を用いることが好ましい。本実施形態の不織布マスクにおいては、形状保持ポリエチレンからなる細幅帯片を折り曲げ部材15として用いている。
【0037】
折り曲げ部材15は、マスク本体10の外面に取り付けてもよいが、通常、マスク本体10の中に埋め込んだ状態(外側不織布11や内側不織布12で覆った状態)とされる。本実施形態の不織布マスクにおいては、
図5に示すように、内側不織布12の上縁部をマスク本体10の外面側に折り返すことによって、マスク本体10の上縁に沿った箇所に鞘状部10aを形成しており、内側不織布12に設けたスリット10b(
図4)から鞘状部10aの内側に折り曲げ部材15を挿入している。鞘状部10aには、外側不織布11と内側不織布12とを互いに溶着する溶着線L
1,L
2を設けており、この溶着線L
1,L
2によって、折り曲げ部材15の上下方向の位置ずれを防止している。
【0038】
2.5 プリーツ
本実施形態の不織布マスクにおいては、
図4及び
図5に示すように、マスク本体10に、左右方向に沿って伸びる計4本のプリーツP(プリーツP
1,P
2,P
3,P
4を形成している。プリーツP
1,P
2,P
3,P
4は、それぞれ、2本の折り目(1対の山折り部β
1及び谷折り部β
2)で構成されている。これにより、着用時のマスク本体10が外側に膨らみやすくなる。加えて、マスク本体10の左右方向の保形性を高めることができる。したがって、着用者の口元周辺に空間が形成された状態で保たれやすくなり、不織布マスクの着用者が息苦しさをより感じにくくすることができる。プリーツPの本数は、4本に限らない。プリーツPの本数は、3本以下としてもよいし、5本以上としてもよい。
【0039】
マスク本体10の内部(外側不織布11と内側不織布12との隙間空間)には、保形シート14とフィルターシート13が収容されているところ、フィルターシート13にも、プリーツP1,P2,P3,P4に重なる箇所で折り目が付けられている。一方、保形シート14は、マスク本体10の中段部を左右方向に略横断する面状領域α1のみに配されているため、保形シート14には、2段目のプリーツP2と3段目のプリーツP3に重なる箇所でのみ折り目が付けられている(1段目のプリーツP1と4段目のプリーツP4とに重なる箇所では折り目が付けられていない。)。
【0040】
このように、保形シート14をプリーツP2,P3に重なる状態で配し、そのプリーツP2,P3に重なる箇所で、保形シート14に折り目を付けたことによって、保形シート14がその折り目の部分で引っ掛かるようになっている。このため、保形シート14が上下方向により位置ずれしにくくなっている。プリーツP1~P4は、折り目が同一方向を向くいわゆる「クルマ襞」の態様で形成してもよいが、本実施形態の不織布マスクにおいては、下側2段のプリーツP1,P2の折り目と上側2段のプリーツP3,P4の折り目とが逆を向くいわゆる「ハコ襞」の態様で形成している。これにより、保形シート14と他の面状素材(外側不織布11、内側不織布12及びフィルターシート13)との一体性を高めて、保形シート14の上下方向に位置ずれをさらに位置ずれしにくくすることができる。
【0041】
2.6 その他
本実施形態の不織布マスクにおいては、上述したように、マスク本体10を、4枚の面状素材(外側不織布11、内側不織布12、フィルターシート13及び保形シート14)を重ねた構造としている。このため、これら4枚の面状素材は、互いにバラけないように固着する必要がある。この点、本実施形態の不織布マスクにおいては、
図3に示すように、マスク本体10の上縁に沿った溶着線L
1,L
2と、マスク本体10の下縁に沿った溶着線L
3と、マスク本体10の左縁に沿った溶着線L
4と、マスク本体10の右縁に沿った溶着線L
5とで、外側不織布11と内側不織布12とフィルターシート13とを互いに溶着(固着)している。溶着線L
4に沿った箇所と、溶着線L
5に沿った箇所においては、保形シート14も一緒に溶着している。これにより、保形シート14をさらに位置ずれしにくくすることができる。
【0042】
3.不織布マスクの製造方法
最後に、本実施形態の不織布マスクの製造方法について説明する。
図6は、不織布マスクの製造装置を示した側面図である。本実施形態の不織布マスクは、
図4及び
図5に示すように、マスク本体10が4枚の面状素材(外側不織布11、内側不織布12、フィルターシート13及び保形シート14)を重ねた構造を有するところ、
図6に示すように、4本の巻装ロール51,52,53,54から繰り出された面状素材11,14,13,12を、上下一対の重合ローラ70の隙間に通すことで、これら4枚の面状素材が重なり合うようになっている。
【0043】
第一の巻装ロール51からは、外側不織布11となる面状素材が繰り出され、第二の巻装ロール52からは、保形シート14となる面状素材が繰り出され、第三の巻装ロール53からは、フィルターシート13となる面状素材が繰り出され、第四の巻装ロール54からは、内側不織布12となる面状素材が繰り出される。それぞれの巻装ローラ51,52,53,54から繰り出された面状素材11,14,13,12が重合ローラ70に正しく導入されるように、重合ローラ70の上流側には、ガイド部材60が設けられている。
【0044】
ガイド部材60は、巻装ロール51,52,53,54から繰り出される4枚の面状素材のそれぞれに1つずつ設けられている。
図7に、
図6の不織布マスクの製造装置におけるガイド部材60の周辺を拡大して示す。それぞれのガイド部材60は、
図7に示すように、一対の案内溝60aを有する部材となっている。この案内溝60aで面状素材11,14,13,12の両側の縁部を規制することで、それぞれの面状素材11,14,13,12が矢印Aの方向(マスク本体10の上下幅W
2(
図3)に対応する方向)で互いに位置決めされた状態で重合ローラ70(
図6)に導入される。
【0045】
既に述べたように、本実施形態の不織布マスクにおいては、保形マスク14の上下幅W
3(
図3)がマスク本体10の上下幅W
2(
図3)よりも狭くなっている。このため、第二の巻装ロール52に巻装された面状素材(保形シート14)の幅も、他の巻装ロール51,53,54に巻装された面状素材(外側不織布11、内側不織布12及びフィルターシート13)の幅よりも狭くなっている。このように、他の面状素材11,12,13よりも幅の狭い面状素材14を正確に位置決めしながら重合ローラ70に導入することは、必ずしも容易ではないところ、保形シート14用のガイド部材62(
図6)を、他のガイド部材61,63,64(
図6)よりも幅の狭いものとすることで、その問題を解決している。
【0046】
図6に示すように、重合ローラ70の下流側には、略平行に配された4本の折り返しガイド81,82,83,84(同図では1本のみが見えている。)が設けられている。これら4本の折り返しガイド81,82,83,84によって、4枚の面状素材(外側不織布11、内側不織布12、フィルターシート13及び保形シート14)における所定箇所が折り返される。折り返しガイド81,82,83,84の下流側には、上下一対の癖付けローラ90が設けられており、折り返しガイド81,82,83,84によって所定箇所を折り返された4枚の面状素材11,12,13,14をこの癖付けローラ90の隙間に通すことで、その折り返された部分に折り目が付けられる。それぞれの折り目は、上述したプリーツP
1,P
2,P
3,P
4(
図4及び
図5)となる。
【0047】
癖付けローラ90を通過した4枚の面状素材は、図示省略の溶着ローラによって、所定箇所(
図3における溶着線L
1,L
2,L
3,L
4,L
5に対応する箇所)を互いに溶着される。溶着ローラの下流側には、図示省略の裁断ローラが設けられており、この裁断ローラによって、4枚の面状素材が所定の長さ(
図2におけるマスク本体10の左右幅W
1に対応する長さ)ごとに裁断される。このとき裁断されたそれぞれの生地が、マスク本体10になる。裁断された後のマスク本体10に、折り曲げ部材15(
図4)を挿入し、耳掛け部20(
図3)を溶着すると、不織布マスクが完成する。
【0048】
このような方法で不織布マスクを製造することによって、外側不織布11と内側不織布12とフィルターシート13とを重ね合わせる際に、保形シート14もそれらと一緒に重ね合わせることができる。このため、外側不織布11と内側不織布12との隙間空間に保形シート14を挿入する工程を別途設ける必要がない。したがって、着用時のマスク本体10が外側に膨らんだ状態で保たれる機能を有する不織布マスクを容易に製造することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 マスク本体
10a 鞘状部
10b スリット
11 外側不織布
12 内側不織布
13 フィルターシート
14 保形シート
15 折り曲げ部材
16 保形線材
20 耳掛け部
51 第一の巻装ロール
52 第二の巻装ロール
53 第三の巻装ロール
54 第四の巻装ロール
60 ガイド部材
60a 案内溝
61 第一のガイド部材
62 第二のガイド部材
63 第三のガイド部材
64 第四のガイド部材
70 重合ローラ
81 第一の折り返しガイド
82 第二の折り返しガイド
83 第三の折り返しガイド
84 第四の折り返しガイド
90 癖付けローラ
L1 溶着線
L2 溶着線
L3 溶着線
L4 溶着線
L5 溶着線
L6 溶着線
L7 溶着線
P プリーツ
P1 プリーツ(1段目)
P2 プリーツ(2段目)
P3 プリーツ(3段目)
P4 プリーツ(4段目)
W1 マスク本体の左右幅
W2 マスク本体の上下幅
W3 保形シートの上下幅
W4 保形シートの左右幅
α1 マスク本体の中段部を左右方向に略横断する面状領域
β1 山折り部
β2 谷折り部