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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087747
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】キャパシタ型蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/12 20060101AFI20230619BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20230619BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
H01G4/12 180
H01G4/30 515
H01G4/30 516
H01G4/30 201L
H01G4/30 201D
H01G4/30 201G
H01G4/30 201F
H01G4/30 513
C01G33/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202202
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】長田 実
(72)【発明者】
【氏名】海老名 保男
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 高義
【テーマコード(参考)】
4G048
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB01
4G048AC02
4G048AC06
4G048AC08
4G048AD02
4G048AE05
5E001AB01
5E001AC09
5E001AD04
5E001AE03
5E001AJ02
5E082AB01
5E082EE22
5E082EE27
5E082FF05
5E082FG02
5E082FG03
5E082FG22
5E082GG10
5E082GG12
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】 高エネルギー密度、短い充電時間および優れたサイクル安定性を有する、キャパシタ型蓄電デバイスを提供すること。
【解決手段】 本発明のキャパシタ型蓄電デバイスは、第1の電極と、第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に位置する誘電体層とを備え、誘電体層は、一般式An-1Tin-33n+1-d(ただし、n≧4、0≦d≦1、A元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)からなる群から少なくとも1種選択される元素であり、M元素は、ニオブ(Nb)および/またはタンタル(Ta)である)で表されるナノシート単層膜の積層体からなる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に位置する誘電体層とを備え、
前記誘電体層は、一般式An-1Tin-33n+1-d(ただし、n≧4、0≦d≦1、A元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)からなる群から少なくとも1種選択される元素であり、M元素は、ニオブ(Nb)および/またはタンタル(Ta)である)で表されるナノシート単層膜の積層体からなる、キャパシタ型蓄電デバイス。
【請求項2】
前記ナノシート単層膜は、一般式K[An-1Tin-33n+1-d]で表される無機層状物質から単層剥離された膜である、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記A元素は、Srおよび/またはCaである、請求項1または2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記M元素は、Nbである、請求項1~3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記ナノシート単層膜の厚さは、0.5nm以上10nm以下の範囲である、請求項1~4のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記誘電体層の厚さは、1nm以上100nm以下の範囲である、請求項1~5のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記誘電体層中の欠陥密度は、1%以上7%以下の範囲である、請求項1~6のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
前記誘電体層の比誘電率は、700以上2000以下の範囲を満たし、
前記誘電体層のバンドギャップは、3eV以上5eV以下の範囲を満たす、請求項1~7のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項9】
エネルギー密度は、5×10J/cm以上1×10J/cm以下の範囲である、請求項1~8のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項10】
NbO八面体の歪みは、3°以上10°以下の範囲である、請求項1~9のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項11】
前記第1の電極は、伝導性ペロブスカイト酸化物、透明酸化物導電膜、および、金属からなる群から選択される、請求項1~10のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項12】
前記伝導性ペロブスカイト酸化物は、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)、ルテニウム酸カルシウム(CaRuO)、バナジウム酸ストロンチウム(SrVO)、クロム酸ストロンチウム(SrCrO)、コバルト酸ストロンチウム(SrCoO)、ニオブ酸ランタン(LaNiO)、ニオブドープチタン酸ストロンチウム(SrTiO:Nb)、および、ランタンドープチタン酸ストロンチウム(SrTiO:La)からなる群から選択される、請求項11に記載の蓄電デバイス。
【請求項13】
前記透明酸化物導電膜は、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、ホウ素ドープ酸化亜鉛(BZO)、および、ニオブドープ酸化チタン(TNO)からなる群から選択される、請求項11に記載の蓄電デバイス。
【請求項14】
前記金属は、金(Au)、白金(Pt)、銅(Cu)、および、ニッケル(Ni)からなる群から選択される、請求項11に記載の蓄電デバイス。
【請求項15】
前記第2の電極は、金(Au)、白金(Pt)、銅(Cu)、および、ニッケル(Ni)からなる群から選択される、請求項1~14のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項16】
前記第1の電極の厚さは、10nm以上10μm以下の範囲である、請求項1~15のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項17】
前記第2の電極の厚さは、5nm以上1μm以下の範囲である、請求項1~16のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタ型蓄デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
高性能蓄電デバイスは、温室効果ガス排出削減、SDGs達成など、環境・エネルギー分野の長中期的課題の実現のためのキーテクノロジーであり、世界中で研究開発が盛んに行われている。高性能蓄電デバイスとしては、リチウム二次電池、電気二重層キャパシタなどの開発、実用化が進んでいる。これらの蓄電デバイスは、リチウム、コバルトなどの希少金属が利用されており、元素戦略上の課題となっている。また、蓄電デバイスに電解質を用いる場合、長い充電時間、電解質の劣化・寿命、安全性といった問題を抱えている。
【0003】
これに対し、誘電体を用いた誘電体キャパシタが知られている(例えば、非特許文献1および2を参照)。非特許文献1では、CaNb10であるナノシートの積層体を用いた、Au/(CaNb10)n/SrRuOキャパシタ(n=3)において、350MVm-1の絶縁破壊強度を有し、蓄電デバイスへの適用が示唆される。
【0004】
非特許文献2では、(CaNam-3Nb3m+1)(m=3~6)であるナノシート積層体を用いた、Au/(CaNam-3Nb3m+1)n/SrRuOキャパシタ(n=5、8)の蓄電デバイスへの適用が示唆される。しかしながら、これらのナノシートを蓄電デバイスとして実用化するには、エネルギー密度の向上、短い充電時間、サイクル安定性が求められる。
【0005】
一方、一般式An-1Tin-33n+1 (n≧4、Aは、Mg、Ca、SrおよびBaからなる群から選択される元素である)で表されるペロブスカイトナノシートが、誘電体材料として機能することが報告されている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、特許文献1のペロブスカイトナノシートの誘電特性については十分に知られておらず、好ましい用途の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-152052号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Minoru Osadaら,ACS Nano 2010,4,9,5225-5232
【非特許文献2】Bao-Wen Li,J.Am.Chem.Soc.,2017,139,31,10868-10874
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上から、本発明の課題は、高エネルギー密度、短い充電時間および優れたサイクル安定性を有する、キャパシタ型蓄電デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるキャパシタ型蓄電デバイスは、第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に位置する誘電体層とを備え、前記誘電体層は、一般式An-1Tin-33n+1-d(ただし、n≧4、0≦d≦1、A元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)からなる群から少なくとも1種選択される元素であり、M元素は、ニオブ(Nb)および/またはタンタル(Ta)である)で表されるナノシート単層膜の積層体からなり、これにより上記課題を解決する。
前記ナノシート単層膜は、一般式K[An-1Tin-33n+1-d]で表される無機層状物質から単層剥離された膜であってもよい。
前記A元素は、Srおよび/またはCaであってもよい。
前記M元素は、Nbであってもよい。
前記ナノシート単層膜の厚さは、0.5nm以上10nm以下の範囲であってもよい。
前記誘電体層の厚さは、1nm以上100nm以下の範囲であってもよい。
前記誘電体層中の欠陥密度は、1%以上7%以下の範囲であってもよい。
前記誘電体層の比誘電率は、700以上2000以下の範囲を満たし、前記誘電体層のバンドギャップは、3eV以上5eV以下の範囲を満たしてもよい。
エネルギー密度は、5×10J/cm以上1×10J/cm以下の範囲であってもよい。
NbO八面体の歪みは、3°以上10°以下の範囲であってもよい。
前記第1の電極は、伝導性ペロブスカイト酸化物、透明酸化物導電膜、および、金属からなる群から選択されてもよい。
前記伝導性ペロブスカイト酸化物は、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)、ルテニウム酸カルシウム(CaRuO)、バナジウム酸ストロンチウム(SrVO)、クロム酸ストロンチウム(SrCrO)、コバルト酸ストロンチウム(SrCoO)、ニオブ酸ランタン(LaNiO)、ニオブドープチタン酸ストロンチウム(SrTiO:Nb)、および、ランタンドープチタン酸ストロンチウム(SrTiO:La)からなる群から選択されてもよい。
前記透明酸化物導電膜は、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、ホウ素ドープ酸化亜鉛(BZO)、および、ニオブドープ酸化チタン(TNO)からなる群から選択されてもよい。
前記金属は、金(Au)、白金(Pt)、銅(Cu)、および、ニッケル(Ni)からなる群から選択されてもよい。
前記第2の電極は、金(Au)、白金(Pt)、銅(Cu)、および、ニッケル(Ni)からなる群から選択されてもよい。
前記第1の電極の厚さは、10nm以上10μm以下の範囲であってもよい。
前記第2の電極の厚さは、5nm以上1μm以下の範囲であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のキャパシタ型蓄電デバイスは、第1の電極と、第2の電極と、これらの間に位置する誘電体層とを備え、誘電体層は、一般式An-1Tin-33n+1-d(ただし、n≧4、0≦d≦1、A元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)からなる群から少なくとも1種選択される元素であり、M元素は、ニオブ(Nb)および/またはタンタル(Ta)である)で表されるナノシート単層膜の積層体からなる。このように、ナノシート単層膜の中でも、可動性イオンである1価のアルカリ金属イオンを有さないため、高電界印加下においても、サイクル安定性を向上させ、短い充電時間を達成できる。さらに、Nbに代えてTiとすることにより、比誘電率およびエネルギー密度を向上できる。このようなキャパシタ型蓄電デバイスは、リチウム二次電池を超えるエネルギー密度、ならびに、誘電体キャパシタを超える出力密度の両方を満たしつつ、さらにサイクル安定性および短い充電時間を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の蓄電デバイスを示す模式図
図2】本発明の蓄電デバイスを製造する例示的なフローチャート
図3】例1の蓄電デバイスの模式図および断面TEM像を示す図
図4】例1および例2の蓄電デバイスのリーク電流特性および耐電圧を示す図
図5】例1および例2の蓄電デバイスの比誘電率および誘電損失の周波数依存性を示す図
図6】例1の蓄電デバイスの充放電特性を示す図
図7】例1および例2の蓄電デバイスのエネルギー密度変化を示す図
図8】例1の蓄電デバイスのエネルギー密度の充放電サイクル安定性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
本発明は、キャパシタ型蓄電デバイスに関するが、本明細書において、蓄電デバイスとは、高耐電圧特性を有する高誘電体に、高い電圧を印加して、高い分極状態、高いエネルギー密度の利用しており、低電圧利用、省消費電力が求められる、電子機器で使用するコンデンサ素子やキャパシタとは異なる。
【0013】
詳細には、本発明のキャパシタ型蓄電デバイスは、印加電界100MVm-1以上1000MVm-1以下の高電界を印加し、5×10Jcm-3以上1×10Jcm-3以下の範囲のエネルギー密度が得られるものである。
【0014】
図1は、本発明の蓄電デバイスを示す模式図である。
【0015】
本発明の蓄電デバイス100は、第1の電極110と、第2の電極120と、これら第1の電極110と第2の電極120との間に位置する誘電体層130とを備える。さらに、本発明の蓄電デバイス100において、誘電体層130は、ナノシート単層膜140の積層体からなる。
【0016】
ここで、誘電体層130を構成するナノシート単層膜140は、無機層状物質が単層剥離されたナノシートが重なることなく稠密に配列して形成する膜を意図する。誘電体層130は、同一の種類のナノシート単層膜を積層した多層膜であってもよいし、異なる種類のナノシート単層膜を2種以上組み合わせて積層した多層膜であってもよい。
【0017】
本願発明者らは、種々報告されている誘電特性を示すナノシートの中でも、一般式An-1Tin-33n+1-d(ただし、n≧4、0≦d≦1、A元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)からなる群から少なくとも1種選択される元素であり、M元素は、ニオブ(Nb)および/またはタンタル(Ta)である)で表されるナノシートを選択し、この積層体(すなわち、ナノシート単層膜の積層体)からなる誘電体層を採用すれば、高エネルギー密度、短い充電時間および安定化したサイクル特性が可能となることを発見し、蓄電デバイスを提供できることが分かった。パラメータdは、酸素による電荷補償を考慮した範囲である。
【0018】
非特許文献1~2に記載のCaNam-3Nb3m+1ナノシートにおいては、1価のNaイオンが含まれている。本願発明者らは、1価のアルカリ金属イオンは可動性イオンと呼ばれ、高電界印加下では可動であるため、充電放電速度の律速、サイクル安定性劣化など、蓄電デバイスに負の影響を及ぼすことを特定した。このような知見から、高電界を印加する蓄電デバイスにおいては、Naイオンなどの可動性イオンを有しないナノシートが好ましく、上述のAn-1Tin-33n+1で表されるナノシートを採用するに至った。
【0019】
さらに、驚くべきことに、非特許文献1~2に記載のCaNam-3Nb3m+1ナノシートにおいて、Nbの一部をTiとすることにより、比誘電率およびエネルギー密度が顕著に向上することが分かり、数あるナノシートの中でも上述のAn-1Tin-33n+1-dで表されるナノシートは、蓄電デバイスに有効であることが確認された。
【0020】
一般式An-1Tin-33n+1-dで表されるナノシートは、MO八面体ブロックとTiO八面体ブロックの組み合わせを内包し、これらの比率を人為的に設計できる。
【0021】
A元素は、好ましくは、Srおよび/またはCaである。これらの元素であれば、NbO八面体ブロックが歪むため、比誘電率およびエネルギー密度を向上させることができる。A元素は、より好ましくは、Srである。これにより、NbO八面体ブロックの歪みがさらに増強され、高い分極が実現され、比誘電率およびエネルギー密度をさらに向上させることができる。
【0022】
なお、NbO八面体ブロックの歪みは、ラマン分光測定によって評価でき、好ましくは、3°以上の八面体ブロックの回転歪みを満たす。これにより、さらに高い分極が実現され、比誘電率およびエネルギー密度がさらに向上し得る。上限は特に設定しないが、好ましくは、10°以下であればよい。
【0023】
このような無機層状物質は、一般式K[An-1Tin-33n+1-d]で表される無機層状物質である。Kはカリウムであり、A元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)およびビスマス(Bi)からなる群から少なくとも1種選択される元素であり、M元素は、ニオブ(Nb)および/またはタンタル(Ta)である。
【0024】
なお、無機層状物質の単層剥離処理は、ソフト化学処理と呼ばれ、酸処理とコロイド化処理を組み合わせた処理であり、例えば、特許文献1を参照できる。
【0025】
ナノシート単層膜140の厚さは、好ましくは、0.5nm以上10nm以下の範囲である。この範囲であれば、サイズ効果により、大きな比誘電率および大きなバンドギャップが得られる。
【0026】
誘電体層130の厚さは、ナノシート単層膜140が積層されていてればよい、好ましくは、1nm以上100nm以下の範囲を満たす。この範囲であれば、上述の比誘電率および大きな絶縁破壊強度を達成する。さらに好ましくは、誘電体層130の厚さは、5nm以上50nm以下の範囲である。
【0027】
蓄電デバイス100に使用する誘電体層130は、好ましくは、700以上2000以下の範囲の比誘電率を満たす。これにより、エネルギー密度を向上させることができる。さらに、誘電体層130は、好ましくは、3eV以上5eV以下の範囲のバンドギャップを満たす。これにより、絶縁破壊強度が増大するため、エネルギー密度を向上させることができる。既存の誘電体では、非誘電率と絶縁破壊強度との間に逆相関関係を有したが、本発明の誘電体層130では、このような逆相関関係とは異なり、比誘電率および絶縁破壊強度とがともに増大する相関関係を有する。
【0028】
誘電体層130は、さらに好ましくは、750以上1200以下の範囲の比誘電率を満たす。誘電体層130は、さらに好ましくは、3.5eV以上3.9eV以下の範囲のバンドギャップを満たす。これにより、エネルギー密度をさらに向上させる。
【0029】
誘電体層130は、好ましくは、1%以上7%以下の範囲の欠陥密度を有する。これにより、高い絶縁破壊強度を達成する。誘電体層130は、より好ましくは、2%以上5%以下の範囲の欠陥密度を有する。なお、欠陥密度は、原子間力顕微鏡の画像解析ソフト(SII Nano Technology社製Nano Navi、バーション5.02)を用い、ナノシートの非被覆部分の面積より算出される。
【0030】
第1の電極110は、好ましくは、伝導性ペロブスカイト酸化物、透明酸化物導電膜、および、金属からなる群から選択される。これらであれば、ナノシート単層膜との接触抵抗が少ない。
【0031】
伝導性ペロブスカイト酸化物は、例示的には、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)、ルテニウム酸カルシウム(CaRuO)、バナジウム酸ストロンチウム(SrVO)、クロム酸ストロンチウム(SrCrO)、コバルト酸ストロンチウム(SrCoO)、ニオブ酸ランタン(LaNiO)、ニオブドープチタン酸ストロンチウム(SrTiO:Nb)、および、ランタンドープチタン酸ストロンチウム(SrTiO:La)からなる群から選択される。
【0032】
透明酸化物導電膜は、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、ホウ素ドープ酸化亜鉛(BZO)、および、ニオブドープ酸化チタン(TNO)からなる群から選択される。
【0033】
金属は、金(Au)、白金(Pt)、銅(Cu)、および、ニッケル(Ni)からなる群から選択される。これ以外にも、銀(Ag)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、クロム(Cr)等を採用してもよい。
【0034】
第1の電極110の厚さに特に制限はないが、好ましくは、10nm以上10μm以下の範囲であってよい。この範囲であれば、単結晶基板からなる第1の電極110を採用できる。あるいは、第1の電極110が単結晶基板でない場合には、第1の電極110が、基板上に付与されていることが好ましい。これにより、後述する製造プロセスの実施を容易にする。
【0035】
第2の電極120は、好ましくは、第1の電極110と同様の金属からなり、例示的には、金(Au)、白金(Pt)、銅(Cu)、および、ニッケル(Ni)からなる群から選択される。第2の電極120の厚さに特に制限はないが、上述の金属であれば、5nm以上1μm以下の範囲であってよい。この範囲であれば、物理的気相成長法などによって第2の電極120を付与できる。
【0036】
本発明の蓄電デバイス100は、好ましくは、5×10J/cm以上1×10J/cm以下の範囲のエネルギー密度を達成する。さらに、本発明の蓄電デバイス100は、好ましくは、1×10MW/cm以上5×10MW/cm以下の範囲の出力密度を達成する。このように、上述のナノシートを採用することにより、高いエネルギー密度および高い出力密度の両方を達成する蓄電デバイスを提供できる。
【0037】
図2は、本発明の蓄電デバイスを製造する例示的なフローチャートである。
【0038】
ステップS210:無機層状物質が単層剥離されたナノシートが分散媒に分散されたコロイド分散液を調製する。
ステップS220:コロイド分散液を用いて、第1の電極上にナノシート単層膜の積層体を形成する。
ステップS230:ナノシート単層膜の積層体上に第2の電極を形成する。
以上の方法により、上述した本発明の蓄電デバイス100が得られる。無機層状物質、第1の電極および第2の電極は、上述したとおりであるため、説明を省略する。
【0039】
各ステップについて詳述する。
ステップS210において、上述の無機層状物質の粉末に塩酸などの酸水溶液を接触させ、生成物をろ過、洗浄後、乾燥させると、処理前に層間に存在していたアルカリ金属イオンがすべて水素イオンまたはオキソニウムイオンに置き換わり、水素イオン交換体が得られる。次に、得られた水素イオン交換体をテトラブチルアンモニウムイオン(TBA)、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、n-プロピルアミン、n-エチルアミンおよびエタノールアミンなどの塩基性物質を含有する水溶液中に入れ撹拌すると、コロイド化する。このようにして、層状構造を構成していた層が1枚1枚にまで剥離され、ナノシートが得られる。このような処理は、例えば、特許文献1を参照されたい。
【0040】
ステップS220において、第1の電極は、上述の材料からなる薄膜を備えた基板であってもよいし、上述の材料からなる単結晶または多結晶基板、あるいは、金属基板であってもよい。基板であれば、取り扱いに優れるため、ナノシート単層膜の積層体の形成が容易である。
【0041】
なお、第1の電極が、基板上の薄膜である場合には、スパッタリング、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法、イオンプレーティング等の物理的気相成長法、あるいは、熱CVD、光CVD、プラズマCVD、原子層堆積、有機金属気相成長法等の化学的気相成長法によって薄膜を形成してよい。
【0042】
ステップS220において、ナノシート単層膜の積層体の形成には、好ましくは、ラングミュアブロジェット法(LB;Langmuir-Blodgett)法、レイヤバイレイヤ法(LBL;layer-by-layer)法、スピンコート法、滴下法、スリットコーティング、バーコーティングおよびディップコーティングからなる群から選択される手法が採用される。
【0043】
LB法は、表面圧力を用いてナノシート単層膜を形成する手法である。第1の電極を浸漬させたトラフ(水槽)にコロイド分散液を展開し、気液界面にナノシートを浮遊させる。コロイド分散液の表面を一定の表面圧まで圧縮し、来液界面を形成した後、第1の電極を垂直方向に引き上げればよい。これにより、第1の電極上にナノシート単層膜が転写される。このプロセスを繰り返すことにより、第1の電極上にナノシート単層膜の積層体が形成される。
【0044】
LB法であれば、展開液表面にナノシートが互いに重なることなく、面方向に集積した単層膜が気液界面に形成されるので、極めて均質かつ良質なナノシート単層膜を第1の電極上に形成することができる。
【0045】
LBL法は、交互吸着法とも呼ばれ、静電相互作用を利用してナノシート単層膜を形成する手法である。第1の電極上にカウンターイオン(例えば、カチオン性ポリマー)を付与し、次いで、コロイド分散液を付与する。これにより、カウンターイオンと静電相互作用し、ナノシートが強固に結合し、ナノシート単層膜となる。これらを所望の厚さになるまで繰り返し、紫外線等の光を照射してカウンターイオンを除去する。これにより、第1の電極上にナノシート単層膜の積層体が形成される。
【0046】
スピンコート法は、スピンコート材としてコロイド分散液を用いる。高速で回転する第1の基板上にコロイド分散液を滴下し、遠心力によって均一なナノシート単層膜からなる積層体を得る。スピンコート法を用いれば、比較的簡便に、均一なナノシート単層膜からなる積層体が得られる。
【0047】
滴下法は、第1の電極上にコロイド分散液をピペット等により滴下し、乾燥させればよい。これにより、ナノシート単層膜からなる積層体が得られる。
【0048】
ディップコート法は、第1の電極をコロイド分散液に浸漬させ、引き上げ、乾燥させればよい。この場合も、ドロップ法同様、ナノシート単層膜からなる積層体が得られる。
【0049】
バーコーティング法、スリットコーティング法においても、既存の方法にコロイド分散液を用いて採用できる。
【0050】
ステップS230では、ステップS220で得られた積層体に、上述の第2の電極となる薄膜を、スパッタリング、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法、イオンプレーティング等の物理的気相成長法、あるいは、熱CVD、光CVD、プラズマCVD、原子層堆積、有機金属気相成長法等の化学的気相成長法によって形成すればよい。このようにして、本発明の蓄電デバイス100(図1)が製造される。
【0051】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0052】
[例1]
例1では、一般式An-1Tin-33n+1-dにおいて、n=4、d=0、A元素はSrであり、M元素はNbであるナノシート単層膜を10層積層した積層体を有する蓄電デバイスを製造した。
【0053】
無機層状物質KSrNbTiO13は、KSrNb10およびSrTiOをモル比1:1の割合で混合し、1273Kで24時間焼成して得た。得られた粉体5gを室温にて5規定の硝酸溶液200cm中で酸処理を行ない、水素イオン交換体を得た。この水素イオン交換体0.4gにテトラブチルアンモニウム水酸化物(以下、TBAOHと記載する)水溶液100cmを加えて室温にて7日間撹拌、反応させて、組成式がSrNbTiO13で表される厚さが約2nm、横サイズ約10μmの長方形状のナノシートが分散した乳白色状のゾル溶液(コロイド分散液)を作製した。
【0054】
コロイド分散液を用いて、第1の電極としてSrRuO単結晶基板上にLB法によりナノシート単層膜からなる積層体を形成した。SrRuO単結晶基板は、オゾン雰囲気で紫外線照射し、表面洗浄された。
【0055】
1dmのメスフラスコにコロイド分散液8cmを超純水中に分散させた。この分散溶液を半日~1日程度放置し、次いで、アセトンによりよく洗浄したLBトラフに分散溶液を展開後、水面の安定および下層液の温度が一定となるように30分間待った。その後、SrRuO単結晶基板をLB製膜装置にセットし、次に示す一連の操作を1サイクルとし、10サイクル繰り返し、ナノシート単層膜からなる積層体を形成した。
(1)圧縮速度0.5mm/分でバリヤを移動させて表面を圧縮することにより、気-液界面上に分散したナノシートを寄せ集め、一定圧力になった後30分間静置する。
(2)引き上げ速度0.8mm/分でSrRuO単結晶基板を垂直に引き上げて気-液界面上に集まったナノシートを基板に付着させることで、ナノシートが重なることなく稠密に配列した、ナノシート単層膜を形成する。
【0056】
得られた積層体にキセノン光源を用いて紫外線(波長;200~300nm、強度;1mW/cm)を72時間照射し、剥離剤として用いたTBAOH等の有機物を分解、除去した。次に、積層体上に第2の電極として金ドット電極(100μmφ)を、真空蒸着装置(サンユー電子社製、SVC-700)を用いて蒸着し、例1の蓄電デバイスを製造した。なお、金ドット電極を蒸着する前に、積層体におけるNbO八面体の歪みを、ラマン分光装置(堀場Jo bin-Yvon社製、型番T64000)を用いて評価したところ、7°であった。
【0057】
例1の蓄電デバイスの断面を、透過型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、H-9000)を用いて観察した。断面の観察結果を図3に示す。また、表面を原子間力顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、E-Sweep)により観察し、ナノシートの被覆率を求め、欠陥密度を算出した。参照用試料として、SrRuO単結晶基板と同一条件で、石英ガラス基板上に積層体を作製し、吸収スペクトルよりバンドギャップを算出した。直線外挿法によりバンドギャップを算出したところ、3.81eVであり、従来のバルク材料BaTiOの値(3.2eV)に対して大きく、絶縁破壊強度の向上が期待される。
【0058】
例1の蓄電デバイスの漏れ電流密度、絶縁破壊強度および比誘電率を測定した。漏れ電流密度は、ケースレー社製半導体パラメーターアナライザー(4200-SCS)により印加電圧100MVm-1印加時における電流密度を測定した。また、印加電圧を上げ、絶縁破壊強度(耐電圧)を調べた。比誘電率はアジレントテクノロジー社製高精度LCRメーター(4284A)により周波数10kHzでの静電容量を計測し、比誘電率を算出した。
【0059】
例1の蓄電デバイスの充放電特性およびサイクル特性を測定した。蓄電デバイスに異なるパルス幅の電気パルスを印加し、電荷量変化を高抵抗メータ(ケースレー社製、6517A)により測定した。パルス幅は、任意波形発生器(TEGAM社製、2414B)により10μs~1msで変化させた。これらの結果を図4図8および表2に示し、詳述する。
【0060】
[例2]
例2では、一般式An-1Tin-33n+1-dにおいて、n=4、d=0、A元素はCaであり、M元素はNbであるナノシート単層膜を10層積層した積層体を有する蓄電デバイスを製造した。KSrNb10およびSrTiOに代えて、KCaNb10およびCaTiOを用いた以外は、例1と同様であるため、説明を省略する。このようにして得られた例2の蓄電デバイスについて、例1と同様に評価した。結果を図4図5図7および表2に示し、詳述する。
【0061】
[例3]
例3では、一般式An-1Tin-33n+1-dにおいて、n=5、d=0、A元素はSrであり、M元素はNbであるナノシート単層膜を10層積層した積層体を有する蓄電デバイスを製造した。KSrNb10およびSrTiOのモル比を1:2とした以外は、例1と同様であるため、説明を省略する。このようにして得られた例3の蓄電デバイスについて、例1と同様に評価した。結果を表2に示し、詳述する。
【0062】
[例4]
例4では、一般式An-1Tin-33n+1-dにおいて、n=5、d=0、A元素はCaであり、M元素はNbであるナノシート単層膜を10層積層した積層体を有する蓄電デバイスを製造した。KSrNb10およびSrTiOに代えて、KCaNb10およびCaTiOを用い、モル比1:2とした以外は、例1と同様であるため、説明を省略する。このようにして得られた例4の蓄電デバイスについて、例1と同様に評価した。結果を表2に示し、詳述する。
【0063】
[例5]
例5では、CaNb10のナノシート単層膜を10層積層した積層体を有する蓄電デバイスを製造した。無機層状物質としてKCaNb10を用いた以外は、例1と同様にLB法により蓄電デバイスを製造した。このようにして得られた例5の蓄電デバイスについて、例1と同様に評価した。結果を表2に示し、詳述する。
【0064】
[例6]
例6では、CaNaNb13のナノシート単層膜を10層積層した積層体を有する蓄電デバイスを製造した。無機層状物質としてKCaNaNb13を用いた以外は、例1と同様にLB法により蓄電デバイスを製造した。このようにして得られた例6の蓄電デバイスについて、例1と同様に評価した。結果を表2に示し、詳述する。
【0065】
[例7]
例7では、CaNaNb16のナノシート単層膜を10層積層した積層体を有する蓄電デバイスを製造した。無機層状物質としてKCaNaNb16を用いた以外は、例1と同様にLB法により蓄電デバイスを製造した。このようにして得られた例7の蓄電デバイスについて、例1と同様に評価した。結果を表2に示し、詳述する。
【0066】
[例8]
例8では、CaNaNb19のナノシート単層膜を10層積層した積層体を有する蓄電デバイスを製造した。無機層状物質としてKCaNaNb19を用いた以外は、例1と同様にLB法により蓄電デバイスを製造した。このようにして得られた例8の蓄電デバイスについて、例1と同様に評価した。結果を表2に示し、詳述する。
【0067】
簡単のため、例1~例8に示す蓄電デバイスの構成を表1に示し、結果を表2に示し、まとめて説明する。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
図3は、例1の蓄電デバイスの模式図および断面TEM像を示す図である。
【0071】
図3によれば、SrRuO単結晶基板上に積層体が形成されており、積層体は、明確なラメラ構造を有し、10層のナノシート単層膜が確認された。積層体すなわち誘電体層の厚さ20nmであった。基板と積層体との界面、ならびに、積層体と金電極との界面は、相互拡散がなく、原子レベルで平坦かつ明瞭であった。また、AFMから算出した欠陥密度は、3%であった。図示しないが、例2~例8の蓄電デバイスも同様のTEM像を示し、欠陥密度は5%以下であった。
【0072】
図4は、例1および例2の蓄電デバイスのリーク電流特性および耐電圧を示す図である。
【0073】
例1および例2の蓄電デバイスのリーク電流密度は、いずれも、100MVm-1で1×10-8Acm-2以下であった。また、例1および例2の蓄電デバイスの耐電圧は、それぞれ、390MVm-1および410MVm-1であり、高い絶縁破壊強度を有した。例3および例4の蓄電デバイスにおいてもリーク電流は小さく、耐電圧は380MVm-1を超えていた。
【0074】
図5は、例1および例2の蓄電デバイスの比誘電率および誘電損失の周波数依存性を示す図である。
【0075】
Tiを含有する例1および例2の蓄電デバイスの比誘電率は、それぞれ、940および780であり、誘電損失も小さかった。また、例1および例2の蓄電デバイスの誘電特性は、1~2MHzの広い範囲にわたって安定していた。同様に、表2に示すように、例3および例4の蓄電デバイスの比誘電率も800を超えており、安定していた。一方、Tiを含有しない例5~例8の蓄電デバイスの比誘電率は500にも満たなかった。このことから、Tiを含有することにより、比誘電率が劇的に向上することが分かった。
【0076】
例1の蓄電デバイスに用いたSrNbTiO13ナノシートにおけるNbO八面体の歪みは、7°であり、例2の蓄電デバイスに用いたCaNbTiO13ナノシートにおけるNbO八面体のそれ(5°)に比べて大きいことが分かった。このことから、NbO八面体の歪みが大きくなると、誘電特性が向上することが示唆される。
【0077】
図6は、例1の蓄電デバイスの充放電特性を示す図である。
【0078】
図6に示すように、Naイオンを含有しない例1の蓄電デバイスは、充電および放電ともに、約0.5μsの超短時間で完了することが分かった。表2に示すように、例2~例4の蓄電デバイスの充電時間は、いずれも、0.5μs以下であった。一方、Naイオンを含有する例5~例8の蓄電デバイスの充電時間は、5μsを超えていた。このことは、可動性イオンであるNaイオンを含有しないことにより、充電放電特性が向上することを示唆する。
【0079】
図7は、例1および例2の蓄電デバイスのエネルギー密度変化を示す図である。
【0080】
図7によれば、Tiを含有する例1および例2の蓄電デバイスのエネルギー密度は、400MVm-1の高電界において、それぞれ、640Jcm-3および516Jcm-3に達した。表2に示すように、例3および例4の蓄電デバイスのエネルギー密度は、780Jcm-3および620Jcm-3であった。一方、Tiを含有しない例4~例8の蓄電デバイスのエネルギー密度は、最大でも272Jcm-3であり、小さかった。このことから、Tiを含有することにより、エネルギー密度が顕著に向上することが分かった。
【0081】
エネルギー密度を充放電時間で除することにより、例1~例8の蓄電デバイスの出力密度を算出したところ、表2に示すように、500MWcm-3を超えていた。しかしながら、500MWcm-3を超える出力密度、ならびに、500Jcm-3を超えるエネルギー密度の両方を達成しているのは、例1~例4の蓄電デバイスのみであり、リチウム二次電池を超える優れた蓄電デバイスであることが示された。
【0082】
図8は、例1の蓄電デバイスのエネルギー密度の充放電サイクル安定性を示す図である。
【0083】
サイクル安定性は、200MVm-1で10kHz三角波を印加した後、電気変位と電界の挙動(D-Eループ)を最大10回まで行い評価した。図8に示すように、Naイオンを含有しない例1の蓄電デバイスのエネルギー密度は、10回まで変化せず、優れたサイクル安定性を有した。図示しないが、例2~例4の蓄電デバイスも同様の挙動を示した。一方、Naイオンを含有する例5~例8の蓄電デバイスのエネルギー密度は、10回を超えると低下した。このことから、可動性イオンであるNaイオンを含有しないことにより、サイクル安定性が向上することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の蓄電デバイスは、高エネルギー密度、短い充電時間、サイクル安定性に優れるため、携帯端末の電池代替、電気自動車/ハイブリッド自動車のエネルギー回生システム、電力貯蔵等に適用され得る。
【符号の説明】
【0085】
100 蓄電デバイス
110 第1の電極
120 第2の電極
130 誘電体層
140 ナノシート単層膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8