(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087818
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】タイヤ用粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/21 20180101AFI20230619BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230619BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20230619BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20230619BHJP
G09F 3/00 20060101ALI20230619BHJP
G09F 3/10 20060101ALI20230619BHJP
G09F 3/02 20060101ALI20230619BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20230619BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
C09J7/21
B32B27/00 M
B32B27/10
B60C19/00 J
G09F3/00 E
G09F3/10 A
G09F3/02 A
C09J7/38
B60C19/00 K
C09J133/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202303
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 晋輔
【テーマコード(参考)】
3D131
4F100
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
3D131GA01
3D131LA24
4F100AK25B
4F100AK26A
4F100BA02
4F100CB05B
4F100DG10A
4F100GB31
4F100JB07A
4F100JK02
4F100JK03
4F100JK08
4F100JK15
4F100YY00A
4J004AA10
4J004AB01
4J004CB02
4J004CC03
4J004DB03
4J004FA01
4J040DF001
4J040DF021
4J040JB09
4J040LA07
4J040MA12
4J040NA16
(57)【要約】
【課題】ブリードアウトの問題が生じる可能性の低い紙を基材とするタイヤ用粘着シートを提供する。
【解決手段】基材2及び粘着剤層3が積層されており、基材2はパルプ原料を主原料とし、かつ耐油剤を含有し、基材2のJIS P 8118に準拠した測定紙厚が10~130μmであることを特徴とするタイヤ用粘着シートである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び粘着剤層が積層されており、
前記基材は、パルプ原料を主原料とし、かつ耐油剤を含有し、
前記基材のJIS P 8118に準拠して測定した紙厚が10~130μmである、
ことを特徴とするタイヤ用粘着シート。
【請求項2】
前記耐油剤が前記基材に塗工されることで前記基材が前記耐油剤を含有するものとされており、
前記耐油剤の含有量/前記基材の紙厚×1000が2.0~6.0g/m2/μmである、
請求項1に記載のタイヤ用粘着シート。
【請求項3】
前記耐油剤が前記基材に塗工されることで前記基材が前記耐油剤を含有するものとされており、
前記耐油剤の含有量/前記基材の密度が0.15~0.60g/m2/g/cm3である、
請求項1又は請求項2に記載のタイヤ用粘着シート。
【請求項4】
前記耐油剤が前記基材に塗工されることで前記基材が前記耐油剤を含有するものとされており、
前記基材のJ.TAPPI No.18-2:2000に準拠して測定した、縦方向の層間強度が1.00~2.00kgf・cmで、かつ横方向の層間強度が0.80~1.80kgf・cmである、
請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ用粘着シート。
【請求項5】
前記基材のJAPAN TAPPI No.40に準拠して測定した縦方向のガーレー剛軟度が0.5~2.5mNで、かつ横方向のガーレ―剛軟度が0.3~1.5mNである、
請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ用粘着シート。
【請求項6】
前記基材のJIS P 8122に準拠して測定したステキヒトサイズ度が2~65秒である、
請求項1~5のいずれか1項に記載のタイヤ用粘着シート。
【請求項7】
前記耐油剤がフッ素系樹脂である、
請求項1~6のいずれか1項に記載のタイヤ用粘着シート。
【請求項8】
前記粘着剤がアクリル系樹脂であり、
当該アクリル系樹脂の含有量/前記耐油剤の含有量が、50~500である、
請求項1~7のいずれか1項に記載のタイヤ用粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ表示ラベル等と呼ばれるタイヤ用粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ表示ラベル等と呼ばれるタイヤ用粘着シートは、タイヤのメーカー名やブランド名、サイズ(幅、偏平率、リム率等)、使用上の注意等のタイヤ情報を伝えたり、意匠性を向上させて購買欲を掻き立てたりするために、タイヤに貼り付けて使用される。このようなタイヤ用粘着シートとしては、例えば、基材及び粘着剤層が積層されてなり、基材がプラスチックフィルムからなるものが存在する(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、プラスチックフィルムの使用は現在の脱プラスチックの流れ、減プラスチックの流れに反するものであり、基材に紙を使用したタイヤ用粘着シートの開発が望まれている。
【0004】
もっとも、基材に紙を使用すると、タイヤを構成するゴム材料の構成成分であるアミン系老化防止剤や芳香族系オイル等の可塑剤が基材に移行し(ブリードアウト)、基材が黒色化することがある。また、基材に紙を使用する場合は、基材にプラスチックフィルムを使用する場合とは別にラベルの貼付適性の問題を考える必要がある。
【0005】
すなわち、タイヤのトレッド面等には大きな凹凸が存在し、また、タイヤ成型時に使用する金型の空気抜き孔が原因で形成される「スピュー」と呼ばれるヒゲ状突起物が存在しているため、従来、タイヤ用粘着シートは手貼りされるのが主流であった。しかしながら、近年では、効率化のためにタイヤに自動でタイヤ用粘着シートを貼付するラベラーと呼ばれるラベル自動貼付機が導入され始めており、ラベラーでも貼付可能であることが求められている。しかるに、紙はプラスチックフィルムとは物性が大きく異なるため、ラベル自動貼付機を使用可能か否かが異なり、この点で貼付適性を別途考える必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ブリードアウトの問題が生じる可能性の低い紙を基材とするタイヤ用粘着シートを提供することにある。より好ましくは、ラベル自動貼付機の使用が可能なタイヤ用粘着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(請求項1に記載の手段)
基材及び粘着剤層が積層されており、
前記基材は、パルプ原料を主原料とし、かつ耐油剤を含有し、
前記基材のJIS P 8118に準拠して測定した紙厚が10~130μmである、
ことを特徴とするタイヤ用粘着シート。
【0009】
(請求項2に記載の手段)
前記耐油剤が前記基材に塗工されることで前記基材が前記耐油剤を含有するものとされており、
前記耐油剤の含有量/前記基材の紙厚×1000が2.0~6.0g/m2/μmである、
請求項1に記載のタイヤ用粘着シート。
【0010】
(請求項3に記載の手段)
前記耐油剤が前記基材に塗工されることで前記基材が前記耐油剤を含有するものとされており、
前記耐油剤の含有量/前記基材の密度が0.15~0.60g/m2/g/cm3である、
請求項1又は請求項2に記載のタイヤ用粘着シート。
【0011】
(請求項4に記載の手段)
前記耐油剤が前記基材に塗工されることで前記基材が前記耐油剤を含有するものとされており、
前記基材のJ.TAPPI No.18-2:2000に準拠して測定した、縦方向の層間強度が1.00~2.00kgf・cmで、かつ横方向の層間強度が0.80~1.80kgf・cmである、
請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ用粘着シート。
【0012】
(請求項5に記載の手段)
前記基材のJAPAN TAPPI No.40に準拠して測定した縦方向のガーレー剛軟度が0.5~2.5mNで、かつ横方向のガーレ―剛軟度が0.3~1.5mNである、
請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ用粘着シート。
【0013】
(請求項6に記載の手段)
前記基材のJIS P 8122に準拠して測定したステキヒトサイズ度が2~65秒である、
請求項1~5のいずれか1項に記載のタイヤ用粘着シート。
【0014】
(請求項7に記載の手段)
前記耐油剤がフッ素系樹脂である、
請求項1~6のいずれか1項に記載のタイヤ用粘着シート。
【0015】
(請求項8に記載の手段)
前記粘着剤がアクリル系樹脂であり、
当該アクリル系樹脂の含有量/前記耐油剤の含有量が、50~500である、
請求項1~7のいずれか1項に記載のタイヤ用粘着シート。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、ブリードアウトの問題が生じる可能性の低い紙を基材とするタイヤ用粘着シートとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本形態のタイヤ用粘着シートの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。なお、以下で説明する基材に配合する各材料の配合量は、これに反する記載が特にない限り基材のパルプ繊維の絶乾質量に対する質量割合を意味する。また、粘着剤に配合する各材料の含有率は、これに反する記載が特にない限り粘着剤層全体の質量に対する各材料の絶乾質量割合を意味する。
【0019】
図1に示すように、本形態のタイヤ用粘着シート1は、基材2及び粘着剤層3が積層されてなる。また、基材2は、パルプ原料を主原料(好ましくは、50質量%以上、より好ましくは80質量%以上。)とし、かつ耐油剤を含有する。さらに、基材2のJIS P 8118に準拠して測定した紙厚は10~130μmである。基材2が所定の紙厚を有し耐油剤が含まれていると、タイヤ用粘着シートのブリードアウトが効果的に抑制される。以下、順に説明する。
【0020】
(基材)
本形態の基材2は、パルプ原料を含有するスラリー(分散液)を抄紙することで得ることができる。つまり、本形態の基材2は、紙基材である。紙基材は、単層及び多層のいずれであってもよい。
【0021】
原料パルプとしては、例えば、バージンパルプ、古紙パルプ、これらのパルプを組み合わせたもの等を使用することができる。
【0022】
バージンパルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプや、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ(MP)などを、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0023】
古紙パルプとしては、例えば、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等の離解古紙パルプや、離解・脱墨古紙パルプ(DIP)、離解・脱墨・漂白古紙パルプなどを、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0024】
基材2に含有させる耐油剤としては、例えば、フッ素系樹脂、澱粉、セルロース誘導体、ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白、ポリビニルアルコール、ポリイソプレン、クロロプレンの重合体又は共重合体、ポリジエン、ポリアルケン、ビニル系単量体の重合体又は共重合体、合成ゴムラテックス、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、オレフィン-無水マレイン酸系樹脂、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックス、合成炭化水素ワックス、12-ヒドロキシステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、無水フタル酸イミド、塩素化炭化水素の高級脂肪酸アミド又はエステル又はケトン又はエーテル等の化合物を1種又は2種以上を併用して使用することができる。
【0025】
ただし、ブリードアウト抑制という観点からは、耐油剤として、アクリル系樹脂、合成ゴムラテックス、フッ素系樹脂を主成分とする耐油剤を使用するのが好ましく、フッ素系樹脂を使用するのが特に好ましい。
【0026】
基材2に耐油剤を含有させる方法としては、例えば、パルプスラリーを抄紙して基材2を得るに際してパルプスラリーに内添する方法や、パルプスラリーを抄紙して基材2を得た後に公知の塗工機や印刷機によって基材2に耐油剤を含む塗工液を塗工し、乾燥させる方法等が存在する。
【0027】
耐油剤を内添させると、基材2の側面等からの可塑剤の侵入を抑制することができ、ブリードアウトの抑制という観点からは好ましいものとなる。ただし、耐油剤を外添させると、基材2の表面に耐油層が形成され、基材2のZ軸方向(基材2を貫く方向)内部に向かうにしたがって徐々に耐油剤の含有量が減っていくといった状態になるため、経時のブリードアウトの抑制という観点からはより好ましいものとなる。特に、耐油剤がフッ素系樹脂であるとフッ素系樹脂の高い表面張力によって耐油層が確実に形成され、塗工量が少なくてもブリードアウトを十分に抑制することができる。
【0028】
ただし、耐油剤を含有すれば常に良好というわけではなく、紙厚も重要であり、特に耐油剤を外添する場合においては、紙厚との関係での耐油剤の含有量が所定の範囲内である必要がある。
すなわち、「耐油剤の含有量/基材の紙厚×1000」が、好ましくは2.0~6.0g/m2/μm、より好ましくは2.8~5.0g/m2/μm、特に好ましくは3.0~4.8g/m2/μmである。「耐油剤の含有量/基材の紙厚×1000」が2.0g/m2/μm未満であると、ブリードアウト抑制効果が不十分になる可能性がある。他方、「耐油剤の含有量/基材の紙厚×1000」が6.0g/m2/μmを超えると、基材2及び粘着剤層3の層間強度が落ちてしまい、特に粘着剤としてアクリル系樹脂を使用し、当該樹脂にもブリードアウト抑制効果を期待しようとする場合においては、耐油剤の含有によるブリードアウト抑制効果が頭打ちになるばかりでなく、層間剥離を原因としてかえってブリードアウト抑制効果が低下する可能性がある。
【0029】
この点、耐油剤自体を外添する場合の含有量(塗工層の耐油剤の含有量)は、例えば0.10~0.60g/m2、好ましくは0.20~0.50g/m2、より好ましくは0.30~0.45g/m2である。以上の範囲内にあることで、ブリードアウト抑制効果が得られ、また、紙基材2及び粘着剤層3の密着性が優れたものとなる。
【0030】
なお、耐油剤の含有に変えて基材に顔料塗工層を積層する形態も考えられるが、この形態の場合は顔料塗工層をタイヤからの可塑剤が透過すると浸透速度が速まりブリードアウトする可能性が高まる。
【0031】
一方、耐油剤を内添する場合の含有量(紙基材の原料パルプ(絶乾質量)に対する耐油剤の含有量)は、例えば0.10~1.0質量%、好ましくは0.20~0.80質量%、より好ましくは0.30~0.70質量%である。以上の範囲内にあることで、ブリードアウト抑制効果が得られ、また、基材2及び粘着剤層3の密着性が優れたものとなる。なお、上記含有量は、紙基材の坪量(g/m2)及び原料パルプ量から、g/m2に換算することができる。
【0032】
本形態においてフッ素系樹脂としては、例えば、アニオン性フッ素系樹脂、カチオン性フッ素系樹脂等を使用することができる。アニオン性フッ素系耐油剤の市販品としては、例えば、旭硝子社製のアサヒガード(登録商標)AG-E080、AG-E090、ダイキン工業社製のユニダイン(登録商標)TG-8111、TG8731、Solvay社製のソルベラ(登録商標)PT5060、PT5045等を例示することができる。
【0033】
カチオン性フッ素系耐油剤の市販品としては、例えば、旭硝子社製のアサヒガード(登録商標)AG-E060、AG-E070、DuPont社製のCAPSTONE(登録商標)P620、P623等を例示することができる。ただし、これらの中でも低い添加量で効果を発揮することから、アニオン性フッソ系樹脂が好ましい。
【0034】
基材2には、必要によりその他の添加剤を内添することができる。添加剤としては、例えば、填料、顔料、サイズ剤、凝結剤、凝集剤、蛍光増白剤、硫酸バンド、歩留り向上剤、濾水性向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、着色染料、着色顔料、耐水化剤等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0035】
ただし、添加剤としては、カチオン性又は両性乾燥紙力増強(ポリアクリルアミド)剤を使用するのが好ましい。カチオン性又は両性乾燥紙力増強剤を内添すると、紙基材2及び粘着剤層3の層間強度が高まり、また、印刷適性が向上する。
【0036】
層間強度及び印刷適性という観点からのカチオン性又は両性乾燥紙力増強剤の内添量(紙基材の原料パルプ(絶乾質量)に対するカチオン性乾燥紙力増強剤の含有量)は、好ましくは0.5~2.0質量%、より好ましくは0.6~1.5質量%、特に好ましくは0.7~1.3質量%である。
【0037】
紙基材2には、湿潤紙力増強剤(ポリアミドエピクロロヒドリン)を含有させるのも好ましい。湿潤紙力増強剤を内添しても、紙基材2及び粘着剤層3の層間強度が高まり、また、印刷適性が向上する。
【0038】
層間強度及び印刷適性という観点からの湿潤紙力増強剤の内添量(紙基材の原料パルプ(絶乾質量)に対する湿潤紙力増強剤の含有量)は、好ましくは1.0~3.0質量%、より好ましくは1.2~2.5質量%、特に好ましくは1.3~2.0質量%である。
【0039】
紙基材2のJIS P 8118(2014)に記載された「紙及び板紙-厚さ,密度及び比容積の試験方法」に準拠して測定した紙厚は、好ましくは10~130μm、より好ましくは30~100μm、特に好ましくは40~90μmである。本形態においては、紙基材2が耐油剤を含有するため、紙厚が10μm未満であると、ラベラー使用時の貼付適性に劣る可能性がある。他方、紙厚が130μmを超えると、タイヤに対する追従性が低下し、貼付適性も劣る可能性がある。なお、これらの問題点は耐油剤の含有量を減らせば変わってくるが、耐油剤の含有量を減らすとブリードアウトの問題が生じる。
【0040】
前述した耐油剤を外添する場合において基材2の表面に耐油層が形成され、基材2のZ軸方向内部に向かうにしたがって徐々に耐油剤の含有量が減っていくといった状態を好適なものとするためには、耐油剤の含有量を密度との関係で特定するのが好ましい。具体的には、「耐油剤の含有量/紙基材2の密度」が、好ましくは0.15~0.60g/m2/g/cm3、より好ましくは0.20~0.60g/m2/g/cm3、特に好ましくは0.40~0.60g/m2/g/cm3である。
【0041】
なお、基材2は抄紙工程やカレンダー工程等において脱水・乾燥・加圧等を経ることで密度が表層から中層にかけて徐々に変化している。したがって、耐油剤の一部は表層に留まるものの、中層にかけても耐油剤が適度に浸透することになる。そこで、耐油剤の含有量を密度との関係で前記のように特定することで、ブリードアウトの抑制がより効果的になるものと推測される。
【0042】
一方、紙基材2のJIS P 8124(2011)に記載された「紙及び板紙-坪量の測定方法」に準拠して測定した坪量は、好ましくは10~100g/m2、より好ましくは30~80g/m2、特に好ましくは50~70g/m2である。坪量が10g/m2未満であると、ラベラー使用時の貼付適性に劣る可能性があり、また、ブリードアウトも十分に防止することができない可能性がある。他方、坪量が100g/m2を超えると、紙基材断面からの可塑剤の浸透を原因としてかえってブリードアウト抑制効果が劣る可能性がある。
【0043】
前述した耐油剤を外添する場合において基材2の表面に耐油層が形成され、基材2のZ軸方向内部に向かうにしたがって徐々に耐油剤の含有量が減っていくといった状態を好適なものとするためには、紙基材2の層間強度を特定するのも好適である。具体的には、紙基材2のJ.TAPPI No.18-2:2000に準拠して測定した、紙基材2の縦方向(MD)の層間強度が、好ましくは1.00~2.00kgf・cm、より好ましくは1.10~1.80kgf・cm、特に好ましくは1.20~1.50kgf・cmである。また、基材の横方向(CD)の層間強度が、好ましくは0.80~1.80kgf・cm、より好ましくは1.10~1.80kgf・cm、特に好ましくは1.20~1.50kgf・cmである。層間強度が以上の範囲の下限未満であると、耐油層が確実に形成されない可能性がある。他方、層間強度が以上の範囲の上限を超えると、耐油剤の基材2への浸透が不十分になる可能性がある。
【0044】
なお、基材2の層間強度が以上の範囲内であると層内部は、パルプ繊維間の水素結合が増し、層(基材2)のZ軸方向に関してもフィブリル化された繊維が積層された状態になる。結果、耐油剤の浸透が表層に留まり中層にかけては適度に浸透した状態となるのが助長されるものと推測される。したがって、基材2の通過によるブリードアウトが更に生じ難くなるものと推測される。
【0045】
一方、紙基材2の縦方向のガーレー剛軟度は、好ましくは0.5~2.5mN、より好ましくは0.5~2.0mN、特に好ましくは0.6~1.5mNである。また、横方向のガーレー剛軟度は、好ましくは0.2~2.0mN、より好ましくは0.3~1.5mN、特に好ましくは0.3~1.0mNである。ガーレー剛軟度が以上の範囲を下回ると、タイヤ用粘着シート1が柔らかくなり、ラベラーの使用が困難になる可能性がある。他方、ガーレー剛軟度が以上の範囲を上回ると、タイヤに対する追従性が不十分になる可能性がある。
【0046】
ガーレー剛軟度は、JAPAN TAPPI No.40:2000年に準拠して測定した値である。
【0047】
また、紙基材2の縦方向の伸び率は、好ましくは1.5~3.0%、より好ましくは1.6~2.0%である。また、横方向の伸び率は、好ましくは2.0~7.0%、より好ましくは3.5~5.0%である。伸び率が以上の範囲を下回ると、タイヤに対する追従性が悪く、ラベラー使用時の貼付適性が不十分になる可能性がある。他方、伸び率が以上の範囲を上回ると、ブリードアウト抑制効果に劣る可能性がある。
【0048】
伸び率は、JIS-P8113(2006)「紙及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法」に準拠して縦目方向の引張破断伸びを測定した値である。
【0049】
紙基材2のTAPPI T-559cm-02(耐油紙キット法)に準拠して測定した耐油度は、好ましくはキットナンバー4~10、より好ましくはキットナンバー5~10である。耐油度が以上の範囲を下回ると、タイヤからの可塑剤ブリードアウト効果が不十分になる可能性がある。他方、耐油度が以上の範囲を上回ると、印刷適性が不十分になる可能性がある。
【0050】
紙基材2のJIS P 8122(2004)に記載の「紙及び板紙-サイズ度試験方法-ステキヒト法」に準拠して測定したステキヒトサイズ度は、好ましくは2~65秒、より好ましくは10~65秒、特に好ましくは20~40秒である。ステキヒトサイズ度が以上の範囲を下回る又は上回ると、印刷適性に劣る可能性がある。
【0051】
本形態のタイヤ用粘着シート1の製造方法においては、例えば、紙基材2の原料となるパルプスラリーを抄紙する工程と、粘着剤層3の形成用組成物を生成する工程と、紙基材2の一方の面に粘着剤層3の形成用組成物を塗工する工程とを有する。抄紙工程では、上述した原料パルプ、必要により耐油剤及びその他の添加剤を含む原料スラリーを抄紙機で抄紙する。また、耐油剤を外添する場合は、抄紙工程で抄紙された紙基材2の上面にロールコータ等の公知の塗工機を用いて耐油剤を含有する塗工液を塗工し、乾燥させるとよい。
【0052】
(粘着剤層)
粘着剤層3を形成する粘着剤としては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、2-エチルヘキシルアクリレート等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、以上の中でもアクリル系樹脂を使用するのが好ましく、2-エチルヘキシルアクリレートを使用するのがより好ましい。アクリル系樹脂は、耐油剤の成分ともなり得る樹脂であり、また、ホットメルトよりも粘着力が高いとの特性を有する。したがって、粘着剤としてアクリル系樹脂を使用すると、本形態における紙基材3のブリードアウト抑制効果を補うことができ、しかも粘着剤としての機能が損なわれることはない。加えて、ラベラーの使用時に粘着剤がタイヤ用粘着シート1の端縁からはみ出すとラベラーの頭出しがし難くなるが、この点においてもホットメル卜粘着剤よりもアクリル系粘着剤の方が好ましい。また、アクリル系樹脂は耐油性がある樹脂であり、粘着層にも一定の耐油性を付与することができる。
【0053】
以上の観点から、「アクリル系樹脂の含有量/耐油剤の含有量」が、好ましく50~500、より好ましく80~250、特に好ましく85~150である。「アクリル系樹脂の含有量/耐油剤の含有量」が以上の範囲未満であると、ブリードアウト抑制効果及び粘着効果の両立を図ることができない可能性がある。他方、「アクリル系樹脂の含有量/耐油剤の含有量」が以上の範囲を超えても、効果が頭打ちになる。ここで、アクリル系樹脂の含有量は、アクリル系樹脂の厚さに密度を加味して計算することができる。
【0054】
なお、1つ付言すると、以上の形態によると、タイヤ用粘着シート1がタイヤに付着(接合)された状態が維持され、紙基材2の折れや曲りが生じ難く、紙基材2の破損が生じ難いため、この点でもブリードアウトの抑制につながると考えられる。
【0055】
粘着剤層3は、紙基材に塗工することで形成することができる。粘着剤の塗工は、例えば、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター等の公知の塗工機を使用して行うことができる。
【0056】
粘着剤の塗工量は、好ましくは25~70g/m2、より好ましくは30~60g/m2、特に好ましくは35~55g/m2である。粘着剤の塗工量が以上の範囲未満であると、タイヤ用粘着シート1がタイヤから浮き剥がれる可能性がある。他方、粘着剤の塗工量が以上の範囲を超えると、ラベラー使用時にタイヤ用粘着シート1から粘着剤がはみ出してガイドロールに付着し、ラベラー不良となる可能性がある。
【0057】
粘着剤の塗工厚は、好ましくは20~65μm、より好ましくは25~55μm、特に好ましくは30~50μmである。粘着剤の塗工厚が以上の範囲未満であると、タイヤ用粘着シート1がタイヤから浮き剥がれる可能性がある。他方、粘着剤の塗工厚が以上の範囲を超えると、ラベラー使用時にタイヤ用粘着シート1から粘着剤がはみ出してガイドロールに付着し、ラベラー不良となる可能性がある。
【0058】
粘着剤の塗工は、タイヤ用粘着シート1を貼付圧力0.5MPaのラベル自動貼付機で貼付けたスタッドレスタイヤ(ダンロップ社製EC201)に対するJIS Z 0237(2000)に準拠して測定した粘着力(剥離速度300mm/minで、タイヤ用ラベルシートの180度剥離強度)が、好ましくは2.0N/25mm以上、より好ましくは3.0N/25mm以上、特に好ましくは3.5N/25mm以上となるように行うと好適である。粘着力が以上の範囲未満であると、タイヤ用粘着シート1が保管時や輸送時等にタイヤから剥がれる可能性があり、また、前述したようにブリードアウト抑制効果に劣る可能性がある。
【0059】
塗工した粘着剤の乾燥には、例えば、赤外線乾燥装置、熱風乾燥装置、接触型ドライヤー乾燥装置等を使用することができる。
【0060】
以上のようにして得られたタイヤ用粘着シート1は、例えば、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー、マットカレンダー等を使用して適宜仕上げを施すこともできる。
【0061】
(その他)
本形態のタイヤ用粘着シート1においては、粘着剤層3の保護等を目的として当該粘着剤層3を剥離シーで覆うことができる。剥離シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンなどの樹脂からなる樹脂フィルムや、これらをシリコーン樹脂系、フッ素樹脂系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤で剥離処理したもの、グラシン紙、クレーコート紙、ラミネート紙等の紙を上記剥離剤で剥離処理した剥離紙などを使用することができる。
【0062】
基材2は、金属層(例えば、アルミニウム蒸着層。)を備えていてもよい。ただし、金属層の採用は、通常ブリードアウトの抑制にあるため、紙基材の効果、あるいは粘着剤層3との相乗効果によりブリードアウト抑制効果が発揮される本形態においては、金属層を採用しなくてもよく、リサイクルの観点からは採用しない方が好ましい。なお、このリサイクルという観点からは、紙基材自体が樹脂(プラスチック)を含まない方が好ましい。
【0063】
本形態のタイヤ用粘着シート1には、着色層や熱転写記録やインクジェット記録等による記録を容易とする記録層を設けることができる。
【実施例0064】
次に、本発明の実施例について、説明する。
(基材1~3、9)
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)25質量%、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)75質量%を調製して、パルプスラリーを得た。このパルプスラリーには、添加剤として、硫酸バンド、歩留剤、サイズ剤、湿潤紙力増強剤1.5質量%、カチオン性乾燥紙力増強剤1.0質量%をそれぞれ内添した。得られたパルプスラリーは、オントップ型長網抄紙機にて抄紙して、原紙を得た。さらに、得られた原紙の両面に耐油剤を含有するサイズプレスコート液をサイズプレスにて耐油剤の固形分付着量が両面で0.36g/m2、ポリアクリルアミドが1.5g/m2となるように塗工して基材を得た。表2にこの基材の物性を示した。
【0065】
(基材4~7)
広葉樹晒クラフトパルプLBKP100質量%を調製して、パルプスラリーを得た。このパルプスラリーには、耐油剤(フッ素系樹脂)を絶乾パルプに対して0.4質量%を添加した。また、その他の添加剤として、硫酸バンド、歩留剤、サイズ剤をそれぞれ内添した。得られたパルプスラリーは、オントップ型長網抄紙機にて抄紙して、紙基材を得た。表2にこの基材の物性を示した。
【0066】
(基材8)
基材として大王製紙株式会社製の合成紙(NS-CR50)を使用した。表2にこの基材の物性を示した。なお、この合成紙は、耐油剤を含有していない。
【0067】
(基材10~12)
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)100質量%を調製して、パルプスラリーを得た。このパルプスラリーには、内添サイズ剤、カチオン化澱粉、軽質炭酸カルシウム、硫酸バンド、凝結剤、歩留剤を内添した。得られたパルプスラリーをオントップ型長網抄紙機にて抄紙して原紙を得た。次に原紙の片面に第一塗工層をロッドコーターで形成し、塗工量5.0g/m2(絶乾重量)の基材を得た。塗工層組成は、アスペクト比が10のカオリン76.8質量%、SBラテックス23.1質量%、消泡剤0.1質量%であった。表2にこの基材の物性を示した。
【0068】
(試験例1~12)
以上の各基材1~12について、粘着剤層を形成し、タイヤ用粘着シート1~12を得た。粘着層の組成、強度等は表1に示す通りとした。
【0069】
(試験例13,14)
比較のために蒸着PETフィルムからなる基材(基材13,14)を用意した。粘着層の組成、強度等は表1に示す通りとした。基材13は厚さ25μm、基材14は厚さ12μmである。
【0070】
(試験)
各タイヤ用粘着シートについて、ブリードアウトの有無、浮き剥がれの有無、印刷適性、ラベラー適性を調べ、結果を表1に示した。なお、各種物性及び各種試験の方法は、以下に示すとおりである。
【0071】
(ベック平滑度)
JIS P8119(1998)に記載の「紙及び板紙-ベック平滑度試験機による平滑度試験方法」に準拠して基材の表面及び裏面のベック平滑度を測定した。
【0072】
(伸び)
JIS P8113(2006)に記載の「紙及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法」に準拠して測定した。
【0073】
(引裂強度)
JIS P 8116(2000)に記載の「紙-引裂強さ試験方法-エレメンドルフ形引裂試験機法」に準拠して測定した。
【0074】
(保持力)
23℃の環境温度下で、タイヤ用粘着シート(幅10mm×長さ150mm)の粘着剤層外面全面を、SUS304板(、幅25mm×長さ125mm×厚さ2mm)の中央部分に、2kg圧着自動ローラー(1往復)を用いて貼着した。このようにして得られた評価用試料に、温度60℃・湿度85%の環境温度下で30分間放置してエージングした後、テープクリープ試験機(テスター産業社製、形式/型番「BE-501高温高湿槽付き保持力試験機)を用いて、1Kgの荷重を加え、この状態を維持して17時間放置した。 SUS304板上における加圧前の位置を基準に、加圧によるタイヤ用粘着シートの移動距離(ズレ)を測定した。該移動距離が短いほど保持力が高いことを示す。
NC:タイヤ用粘着シートがSUS304板から移動距離(ズレ)が生じない。
落下:タイヤ用粘着シートがSUS304板から移動して、落下した。
【0075】
(ブリードアウト)
10cm×10cmにカットしたラベルサンプルをタイヤ(ダンロップ製EC201)の側面に貼り、23℃50%環境下に保管した。100日経過後にラベル表面がタイヤに接触している箇所に沿って黒く変色するかどうかの外観を以下の基準で確認した。
〇:まったく変色していない。
△:部分的に変色している。
×:変色している。
【0076】
(浮き剥がれ)
10cm×10cmにカットしたラベルサンプルをタイヤ(ダンロップ製EC201)の接地面に貼り、23℃50%環境下に保管した。100日経過後にラベルがタイヤから浮き剥がれていないかどうかの外観を以下の基準で確認した。
〇:浮き剥がれていない。
×:浮き剥がれている。
【0077】
(印刷適性)
フィルムラベルと同機同版で印刷し、印刷上がりの濃淡、鮮明さの外観を以下の基準で比較した。
◎:フィルムラベルと同等。
〇:フィルムラベルより濃淡又は鮮明さが劣る。
△:フィルムラベルより濃淡及び鮮明さが劣る。
【0078】
(ラベラー適性)
10cm×10cmのラベルに印刷加工したロールをラベル剥離機(ダイオーポスタルケミカル製セパレーター205)にかけ、50枚中に剥離できた枚数を基に比較評価を以下の基準で行った。
◎:40枚以上。
〇:30~40枚未満。
△:20~30枚未満。
×:20枚未満。
【0079】
【0080】