(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087872
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】パネル反転装置およびパネルの反転方法
(51)【国際特許分類】
B61D 17/00 20060101AFI20230619BHJP
B66C 1/12 20060101ALI20230619BHJP
B66C 13/08 20060101ALI20230619BHJP
B23K 37/047 20060101ALN20230619BHJP
【FI】
B61D17/00 C
B66C1/12 J
B66C13/08 S
B23K37/047 501C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202399
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 剛
(72)【発明者】
【氏名】茂山 正明
(72)【発明者】
【氏名】川崎 亮
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004EA03
3F004LB04
3F004LC08
(57)【要約】
【課題】鉄道車両の構体を構成する比較的大きい寸法のパネルを安全に、省スペースで、反転することができる装置とその方法を提供する。
【解決手段】パネル支持部42に支持されたパネル5を反転するパネル反転装置であって、パネル5の下方に配置されるスライド装置31と、スライド装置31を下位置と上位置との間で昇降可能に支持する昇降装置と、反転前のパネル5のパネル幅方向の他端部を昇降可能にパネルを懸垂する懸垂装置21と、を備え、スライド装置31は、装置幅方向に移動可能なスライド支持部36を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル幅方向が装置幅方向に沿うように倒伏した姿勢でパネル支持部に支持されたパネルを反転するパネル反転装置であって、
前記パネルの下方に配置されるスライド装置と、
前記スライド装置を下位置と上位置との間で昇降可能に支持する昇降装置と、
前記パネルを懸垂可能な懸垂装置と、を備え、
前記スライド装置は、前記装置幅方向に移動可能なスライド支持部を有し、
前記下位置に下降した前記スライド装置の前記スライド支持部が、反転前の前記パネルの前記パネル幅方向の一端部の鉛直下方を含む前記装置幅方向の一側の開始位置に停止した状態で、前記スライド装置が前記上位置へ上昇すると、前記スライド支持部が前記パネルの前記一端部を下方から支持するパネルスライド支持状態となり、
前記懸垂装置は、前記反転前の前記パネルの前記パネル幅方向の他端部を昇降可能に前記パネルを懸垂し、
前記懸垂装置が前記パネルの前記他端部を上昇させて下降させることに応じて、前記スライド支持部が前記開始位置から前記装置幅方向の他側へ移動することにより、前記パネルが前記パネルスライド支持状態を維持したまま前記一端部を中心に反転する
ことを特徴とするパネル反転装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパネル反転装置であって、
前記懸垂装置は、
前記パネルの上方に、前記装置幅方向に移動可能に配置される第1ホイストと、
前記パネルの上方で前記第1ホイストに対し前記装置幅方向の前記一側に配置される第2ホイストと、
前記第1ホイストに一方の端部を連結され前記第2ホイストに他方の端部を連結され、前記開始位置の前記スライド支持部に支持された前記反転前の前記パネルの下方を通って掛け渡される吊支部材と、を有し、
前記第1ホイストと、前記スライド支持部と、前記第2ホイストとの連動により前記パネルを反転させる
ことを特徴とするパネル反転装置。
【請求項3】
請求項2に記載のパネル反転装置であって、
前記装置幅方向に交差する方向に移動可能な門型フレームを備え、
前記門型フレームは、
前記パネルの前記装置幅方向の両側で起立する一対の柱と、
前記装置幅方向に延びて前記一対の柱の上端部を接続する梁と、を有し、
前記第1ホイストと前記第2ホイストとは、前記装置幅方向に移動可能に前記梁に設けられる
ことを特徴とするパネル反転装置。
【請求項4】
請求項1に記載のパネル反転装置であって、
前記昇降装置は、空気圧によって前記スライド装置を上昇させる
ことを特徴とするパネル反転装置。
【請求項5】
請求項1に記載のパネル反転装置であって、
前記スライド装置は、
前記昇降装置に支持されて前記装置幅方向に延びるサポートレールと、
前記サポートレールに案内されて前記装置幅方向に沿って摺動するスライダーと、
前記スライダーの上面に設けられる前記スライド支持部と、を有する
ことを特徴とするパネル反転装置。
【請求項6】
請求項2に記載のパネル反転装置であって、
前記反転前の前記パネルが反転するまでの反転動作中の前記第1ホイストと前記第2ホイストとの最大離間距離は、前記反転動作中の前記スライド支持部の移動範囲の前記装置幅方向の長さとほぼ同じである
ことを特徴とするパネル反転装置。
【請求項7】
請求項1に記載のパネル反転装置であって、
前記パネルの前記一端部が当接する前記スライド支持部の上面は、前記パネルとの間の摩擦力または支持力を平坦面よりも増大させる凹凸形状を有する
ことを特徴とするパネル反転装置。
【請求項8】
請求項2に記載のパネル反転装置を用いたパネルの反転方法であって、
前記反転前の前記パネルの前記一端部を前記スライド支持部によって下方から支持するステップと、
前記第1ホイストおよび前記第2ホイストの一方から前記パネルの下方を通して前記第1ホイストおよび前記第2ホイストの他方まで前記吊支部材を掛け渡すとともに、前記第1ホイストおよび前記第2ホイストに前記吊支部材の端部を連結するステップと、
前記第1ホイストを前記装置幅方向の前記一側へ移動しながら前記吊支部材の連結端部を前記第1ホイストによって上昇させて、前記パネルの前記他端部を引き上げるステップと、
前記スライド支持部を前記開始位置から前記装置幅方向の他側へ移動させるステップと、
前記第1ホイストを前記装置幅方向の前記他側へ移動させながら前記吊支部材の連結端部を前記第2ホイストによって下降させて、前記パネルの前記他端部を下降させるステップと、含む
ことを特徴とするパネルの反転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル反転装置およびパネルの反転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、六面体の鉄道車両構体(以下、構体と記す。)と、この構体を支持する台車と、構体の内部に備えられる座席や断熱材や内装材や照明装置等の内装部品などから構成される。
【0003】
構体は、床面を構成する台枠と、この台枠の幅方向の両端部に立設される側構体と、この台枠の長手方向の両端部に立設される妻構体と、側構体と妻構体との上端部に載置される屋根構体と、から構成される六面体である。
【0004】
特許文献1に、長尺の押出し中空形材を接合した構体ブロックを効率よく製造する方法および装置が開示されている。
【0005】
特許文献2に、寸法や重量が個々に異なる鋼構造物を、反転機構部の回転中心に対して重心線を合わせて支持させることができる鋼構造物反転治具、反転装置、および反転方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-319493号公報
【特許文献2】特開2013-86141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
構体を構成する屋根構体や側構体は、幅方向寸法3m前後、長手方向寸法20mから25m前後のパネル(特許文献1では、このパネルを構体ブロックと記述している。)である。パネルは、対向する面板と、これら面板を接続する複数の接続リブからなる長手方向に押し出し成形された中空押し出し形材を、7枚程度準備して、定盤に載置する。その後、隣接する中空押し出し形材の幅方向の端部(突き合わせ端部、接合線)の両面を仮付けして、パネルを仮組みする。
【0008】
仮組されたパネルの一方の面の接合線を本接合した後、パネルを反転して他方の面の接合線を本接合してパネルは完成する。幅方向寸法3m前後、長手方向寸法20mから25mの大きさを安全に、省スペースで、反転する点において解決すべき課題がある。
【0009】
本発明の目的は、鉄道車両の構体を構成する比較的大きい寸法のパネルを安全に、省スペースで、反転することができるパネル反転装置およびパネルの反転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、代表的な本発明のパネル反転装置の一つは、
パネル幅方向が装置幅方向に沿うように倒伏した姿勢でパネル支持部に支持されたパネルを反転するパネル反転装置であって、
前記パネルの下方に配置されるスライド装置と、
前記スライド装置を下位置と上位置との間で昇降可能に支持する昇降装置と、
前記パネルを懸垂可能な懸垂装置と、を備え、
前記スライド装置は、前記装置幅方向に移動可能なスライド支持部を有し、
前記下位置に下降した前記スライド装置の前記スライド支持部が、反転前の前記パネルの前記パネル幅方向の一端部の鉛直下方を含む前記装置幅方向の一側の開始位置に停止した状態で、前記スライド装置が前記上位置へ上昇すると、前記スライド支持部が前記パネルの前記一端部を下方から支持するパネルスライド支持状態となり、
前記懸垂装置は、前記反転前の前記パネルの前記パネル幅方向の他端部を昇降可能に前記パネルを懸垂し、
前記懸垂装置が前記パネルの前記他端部を上昇させて下降させることに応じて、前記スライド支持部が前記開始位置から前記装置幅方向の他側へ移動することにより、前記パネルが前記パネルスライド支持状態を維持したまま前記一端部を中心に反転することにより達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄道車両の構体を構成する比較的大きい寸法のパネルを安全に、省スペースで、反転することができるパネル反転装置およびパネルの方法を提供することができる。
上述した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図2は、パネル反転装置の長手方向に交差する断面図(
図1のH断面図)である。
【
図3】
図3は、パネル反転装置を構成するスライド機構の正面図である。
【
図4】
図4は、パネルを反転する過程の第1段階を示す図である。
【
図5】
図5は、パネルを反転する過程の第2段階を示す図である。
【
図6】
図6は、パネルを反転する過程の第3段階を示す図である。
【
図7】
図7は、パネルを反転する過程の第4段階を示す図である。
【
図8】
図8は、パネルを反転する過程の第5段階を示す図である。
【
図9】
図9は、パネル反転装置を用いてパネルを反転する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明によるパネル反転装置に係わる一実施形態を説明する。まず、パネル反転装置の構成を説明するために、各方向を定義する。パネル反転装置の長手方向(装置長手方向)をx方向、パネル反転装置の幅方向(装置幅方向)をy方向、パネル反転装置の高さ方向をz方向とする。以下、単に、x方向、y方向、z方向と記すことがある。
【0014】
<パネル反転装置>
図1はパネル反転装置の斜視図であり、
図2はパネル反転装置の長手方向に交差する断面図(
図1のH断面図)である。
図3は、パネル反転装置を構成するスライド機構の正面図である。パネル反転装置1は、y方向に離間してx方向に沿う一対の台座10と、台座10の上面にx方向に沿って載置される定盤40と、定盤40に載置されるとともにx方向に沿って隔置される複数のパネル支持部42と、隣接するパネル支持部42の間にy方向に沿って備えられる複数のスライド装置31と、複数のスライド装置31をそれぞれz方向に昇降可能な複数の昇降装置35と、台座10に敷設されるレール12に沿ってx方向に移動可能な複数の門型フレーム20と、から構成される。
隣接する2つのパネル支持部42の組合せは、パネル支持部42の総数から1を減じた数だけ存在するため、上記組合せの数がスライド装置31の上限数となり、この上限数以下の範囲で、必要数(複数)のスライド装置31を必要な位置(例えば、反転対象であるパネル5のx方向の両端部に対応する2箇所など)に配置すればよい。
【0015】
例えば、パネル5(
図2参照)は、対向する2枚の面板と、これら2枚の面板を接続する複数の接続リブとからなる複数の中空押し出し形材を接合して構成される。個々の中空押し出し形材は、x方向に押し出し成形されており、その寸法はy方向430mm、x方向寸法20000mm程度である。
【0016】
これら中空押し出し形材を7枚準備して、パネル支持部42の上面に並べた後、これら中空押し出し形材をy方向に突き合わせた接合端部の両面をx方向に沿って仮接合した後本接合すると、パネル5の一方の面および他方の面(両面)が6本の接合線で接続されたy方向寸法3000mm、x方向寸法20000mm程度のパネルが完成する。
【0017】
両面の接続線が仮接合されたパネル5の一方の面の6本の接合線に沿って連続的に本接合された状態のパネル5(他方の面の接合線は仮接合されている)は、パネル反転装置1で反転された後、パネル5の他の面の6本の接合線に沿って連続的に本接合される。ここでは、上面(上方を向く面)の接合線が本接合され、下面(下方を向く面)の接合線が未だ仮接合であるパネル5がパネル反転装置1の反転対象となる。以下では、反転対象がパネル5の場合について説明するが、反転対象はこれに限定されるものではない。
【0018】
本実施形態では、スライド装置31と昇降装置35とがユニット化されている。昇降装置35は、スライド装置31と定盤40との間に介在し、スライド装置31は、パネル支持部42に載置されたパネル5の下方に位置する高さに配置される。スライド装置31は、昇降装置35に支持されてy方向に延びるサポートレール32と、サポートレールに32に案内されてy方向に移動(摺動)するスライダー34と、スライダー34の上面に備えられるスライド支持部36と、を有する。昇降装置35によって直接昇降されるサポートレール32を設けているので、パネル5をサポートレール32によって持ち上げるようにスライド装置31を構成することができる。なお、スライド装置31と昇降装置35とをユニット化せず、個別の装置として構成して組合わせてもよい。
【0019】
スライド装置31は、モータ等の駆動源を備える。スライダー34の移動制御は、作業者(人)からの入力指示によって行ってもよいが、本実施形態では、後述する第1ホイスト22aおよび第2ホイスト22bのy方向への移動並びに昇降に連動させる所定のプログラムに従って、スライダー34の移動を自動制御する。なお、必要に応じてセンサ等を設けてもよい。
【0020】
昇降装置35は、主に、一方の面が本接合されたパネル5を反転する際に、サポートレール32をパネル支持部42の上面からz方向(上方)に突出させる態様で、パネル5をサポートレール32で支持するために供される。昇降装置35は、上位置と下位置との間でスライド装置31を昇降するとともに、少なくとも上位置においてサポートレール32を略水平に保持可能に構成される。スライド装置31の下位置は、パネル支持部42に載置されたパネル5にスライド装置31が干渉しない位置であり、本実施形態の下位置は、スライド支持部36(スライダー34)の上端部がパネル支持部42の上面より低くなる位置である。
また、スライド支持部36は、後述するように、パネル5のy方向の一方の端部(一端部)を支持するために設けられており、スライド装置31の上位置は、パネル5のy方向の一端部をスライド支持部36が下方から支持可能な位置である。本実施形態の上位置は、スライド装置31が下位置から上位置へ上昇することにより、スライド支持部36とサポートレール32とによってパネル5がパネル支持部42から持ち上げられる位置である。すなわち、上位置に上昇したサポートレール32は、上述したようにパネル支持部42の上面から上方へ突出する。なお、スライダー34(スライド支持部36)のy方向の長さは、パネル5の一端部を安定して支持できる長さが確保されていればよいが、サポートレール32のy方向の長さを短く抑えるためには、できる限り短縮することが好ましい。
【0021】
昇降装置35は空気圧で上昇および下降する機構を備える装置であっても良いし、油圧ジャッキ等からなる上昇および下降する機構を内蔵する装置であっても良い。空気圧で昇降する機構を用いることにより、作業者の負担を軽減することができる。
【0022】
また、スライド支持部36はパネル5のy方向の一端部を支持するため、パネル5の一端部が当接するスライド支持部36の上面は、パネル5との間の摩擦力または支持力を平坦面よりも増大させる(高い摩擦力または支持力を発生させる)凹凸形状を有することが好ましい。高い摩擦力または支持力を生じさせる凹凸形状としては、例えば硬質ブラシや、細かい凹凸を備える部材などが好適である。パネル5の一端部との間の摩擦力または支持力が増大し、パネル5の反転中にパネル5の一端部がスライド支持部36に対して移動し難くなるので、反転中のパネル5の挙動を安定させることができる。
【0023】
パネル支持部42に載置されたパネル5が接合される時(両面が仮接合のパネルの一面を本接合する時)は、スライド装置31は下位置を保持され、スライド支持部36(スライダー34)の上端部は、パネル支持部42の上面よりも低い位置に維持される。一面が本接合された反転前のパネル5は、パネル5の長手方向(パネル長手方向)とパネル5の幅方向(パネル幅方向)とがx方向(装置長手方向)とy方向(装置幅方向)とに沿うように倒伏した姿勢でパネル支持部に支持される。
【0024】
パネル5を反転する時は、スライド支持部36をパネル5のy方向の一端部の鉛直下方を含むy方向の一側の開始位置b0(
図4参照)に停止し(開始位置b0以外で停止している場合は開始位置b0へ移動し)、昇降装置35によってスライド装置31をz方向に上昇させる。スライド装置31が上昇すると、パネル5のy方向の一端部がスライド支持部36によって下方から支持される態様で、サポートレール32がz方向に上昇してパネル5を持ち上げて支持する(
図3)。これにより、スライド支持部36がパネル5のy方向の一端部を下方から支持するパネルスライド支持状態となる。
【0025】
門型フレーム20は、x方向に沿って備えらえる一対の台座10の上面に敷設されたレール12上をx方向に転動可能に立設される一対の柱20aと、一対の柱20aの上端部を接続する梁20bと、を有する。梁20bには、梁20bに沿ってy方向に移動可能な2台のホイスト(第1ホイスト22aと第2ホイスト22b)が設けられている。第2ホイスト22bは、第1ホイスト22aのy方向(装置幅方向)の一側に配置される。パネル反転装置1は、門型フレーム20をx方向に移動させるモータ等の駆動源と、第1ホイスト22aおよび第2ホイスト22bを個別にx方向に移動させるモータ等の駆動源とを備える。
【0026】
パネル5を反転させる際、第1ホイスト22aと第2ホイスト22bは、パネル5の上方に配置される。第1ホイスト22aおよび第2ホイスト22bは、個別に設けられたモータ等の駆動源によって、第1フック23a及び第2フック23bをそれぞれ昇降させる。第1フック23aと第2フック23bには、紐状または帯状の吊支部材が掛け渡される。本実施形態では、吊支部材としてナイロンスリング50を用いるが、他の素材の吊支部材を用いてもよい。ナイロンスリング50は、開始位置b0のスライド支持部36に支持された反転前のパネル5の下方(下面)をy方向に沿って通るように、第1フック23aおよび第2フック23bの一方から他方に掛け渡され、その端部がそれぞれ連結される。第1ホイスト22aと第2ホイスト22bとは、ナイロンスリング50のy方向の他側の上端部(第1フック23a)と一側の上端部(第2フック23b)とをそれぞれ昇降する。
【0027】
第1ホイスト22aと第2ホイスト22bとナイロンスリング50とは、反転前のパネル5のパネル幅方向の他端部(スライド支持部36が支持しない側の端部)を昇降可能にし、パネル5を懸垂する懸垂装置21を構成する。第1ホイスト22aをy方向の一側(第2ホイスト22bに近づく方向)へ移動しながら第1フック23a(ナイロンスリング50の他側の上端部)を第1ホイスト22aによって上昇させた後、第1ホイスト22aをy方向の他側(第2ホイスト22bから離れる方向)へ移動させながら第2フック23b(ナイロンスリング50の一側の上端部)を第2ホイスト22bによって下降させることにより、パネル5の他端部が上昇して下降する。懸垂装置21がパネル5の他端部を上昇させて下降させる間に、スライド支持部36が開始位置b0からy方向の他側(
図6中の矢印B1方向)へ移動することにより、パネル5がパネルスライド支持状態を維持したままy方向の一端部(スライド支持部36に支持されている端部)を中心に反転する。
【0028】
門型レール20は、パネル5を反転することに加えて、第1ホイスト22aおよび第2ホイスト22bとで懸垂したパネル5を、パネル支持部42(定盤40)に対してx方向に移動する機能も有する。パネル反転装置1のために専用のホイストを設ける必要がないので、設備負担を軽減することができる。なお、第2ホイスト22bがy方向に移動可能であることは、パネル5を反転させるために必須の要件ではなく、y方向に移動しない第2ホイストを用いることも可能である。
【0029】
図4はパネルを反転する過程の第1段階を示す図であり、
図5はその第2段階を、
図6はその第3段階を、
図7はその第4段階を、
図8はその第5段階をそれぞれ示す図である。
【0030】
パネル5の一方の面の仮接合された接合線を本接合した後、パネル5を反転して、パネル5の他方の面の仮接合された接合線を本接合する。
図4は、パネル5の一方の面の本接合を終えた後、パネル反転装置1に備えられる複数のスライド装置31の昇降装置35を起動して、スライダー34(スライド支持部36)が開始位置で停止した状態のサポートレール32をz方向に上昇させて、サポートレール32及びスライド支持部36でパネル5をパネル支持部42の上方で支持した状態(パネルスライド支持状態)である。
【0031】
パネルスライド支持状態で、第1ホイスト22aの第1フック23aからパネル5の下面を通して第2ホイスト22bの第2フック23bまで、ナイロンスリング50を掛け終えた状態からパネル5を反転する過程を説明する。
【0032】
なお、パネル5を反転する時、複数の門型フレーム20にそれぞれ備えられる第1ホイスト22aと第2ホイスト22bとは、各々同期して動作する。同様に、複数のスライド装置31にそれぞれ備えられるスライダー34(スライド支持部36)も各々同期して動作する。
【0033】
図4は、第1フック23aがパネル5のy方向の他側の端部(他端部)の上方に位置する位置22a0に第1ホイスト22aが位置決めされた後、第1フック23aをパネル5の他端部の近傍の高さH1まで降下させた第1段階の状態を示している。
【0034】
第2フック23bがパネル5のy方向の一方の端部(一端部)の位置する位置22b0に第2ホイスト22bが位置決めされた後、第2フック23bを最高位の高さH2まで上昇させる。位置22a0と位置22b0との間のy方向の間隔(寸法、反転前のパネル5が反転するまでの反転動作中の第1ホイスト22aと第2ホイスト22bとの最大離間距離)は、パネル5のy方向寸法とほぼ同じである。
【0035】
図5は、第1ホイスト22aを位置22a0から位置22a1へ矢印A1の示す方向(+y方向)へ移動させながら、第1ホイスト22aの第1フック23aの高さH1を高さH3まで引き上げた第2段階の状態を示している。この時、スライド装置31のスライダー34は、-y方向に移動しておらず位置b0を維持しており、パネル5とサポートレール32とのなす角度は、ほぼ45°前後のα1の状態となる。
【0036】
図6は、第1ホイスト22aを位置22a1からさらに矢印A2の示す方向(+y方向)へ位置22a2まで移動させながら第1ホイスト22aの第1フック23aを高さH3から高さH4まで引き上げた第3段階の状態を示している。合わせて、パネル5の一端部を支持するスライダー34が、位置b0から矢印B1の方向(-y方向)に位置b1まで移動した状態を示している。
【0037】
この時、パネル5とサポートレール32とのなす角度は、ほぼ90°近いα2となり、パネル5はスライダー34の上面への当接を維持して直立する状態(パネル5の重心がパネル5の一端部の鉛直上方にほぼ位置する状態)となる。
【0038】
この過程で、パネル5は、第1ホイスト22aの側に接続するナイロンスリング50に支持される状態から、スライダー34が矢印B1の方向(-y方向)へ移動してパネル5の重心の鉛直下方を越えることによりパネル5の重心移動が生じて、矢印Fの方向に傾動して、第2ホイスト22bの側に接続するナイロンスリング50に支持される状態になる。
【0039】
図7は、第1ホイスト22aの第1フック23aを高さH4に維持したままで、第1ホイスト22aを位置22a2から矢印A3の方向(-y方向)に位置22a1まで移動させながら、位置22b0に固定された(位置22b0で停止している)第2ホイスト22bの第2フック23bの高さをH1から高さH5まで降下させた第4段階の状態を示している。
【0040】
合わせて、パネル5の他方の端部を支持するスライダー34が、位置b1から矢印B2の方向(-y方向)に位置b2までへ移動した状態を示している。この時、パネル5とサポートレール32とのなす角度は、ほぼ130°近いα3となり、反転がより進捗した状態となる。
【0041】
図8は、第1ホイスト22aの第1フック23aを高さH4に維持したままで、第1ホイスト22aを位置22a1から矢印A4の方向(-y方向)に位置22a0まで移動させながら、位置22b0に固定された第2ホイスト22bの第2フック23bを高さをH5から高さH6まで降下させた第5段階の状態を示している。
【0042】
合わせて、パネル5の一端部を支持するスライダー34が、位置b2から矢印B3の方向(-y方向)に位置b3までへ移動した状態を示している。この時、パネル5とサポートレール32とのなす角度は、ほぼ180°のα4となり、反転が完了した状態となる。
【0043】
<効果>
以上の構成によって、鉄道車両の構体を構成する比較的大きい寸法のパネルの一方の端部を吊り上げることなくスライダーに当接した状態でパネルを反転できるので、パネルは落下することなく、パネルの損傷を阻止しつつ安全にパネルを反転できる装置を提供することができる。
【0044】
さらに、2台のホイストの位置および高さとスライダーの位置とを連携して制御するので、第1ホイストが移動する外側の位置22a0から第2ホイストの位置22b1までの可動範囲(移動寸法、2台のホイストの最大離間距離)と、反転中のパネルの一端部を支持するスライダーが移動する位置b0から位置b3までの可動範囲(移動寸法)を、ほぼパネルの幅方向寸法(y方向寸法)と同等に納めることができ、省スペースの反転装置を提供することができる。
【0045】
<パネルの反転方法>
図9は、パネル反転装置1を用いてパネルを反転する方法を示すフローチャートである。なお、一部のステップ(ステップS50~ステップS80)は、パネル反転装置が実行する制御方法である。
【0046】
ステップS10で、パネル5の反転作業を開始する。
【0047】
ステップS20で、昇降装置35を起動して、スライド装置31を上昇させて、パネル5をスライド装置31が有するサポートレール32と、サポートレール32に摺動可能に保持されるスライダー34(スライド支持部36)で支持する。
【0048】
ステップS30で、スライド装置31のスライダー34のスライド支持部36で、パネル5のy方向の一端部を支持する。なお、上昇前のスライダー34をパネル5の一端部の鉛直下方を含む位置(開始位置)に設定して上昇させることにより、ステップS20の完了によってステップS30も完了する。
【0049】
ステップS40で、第1ホイスト22aのフックからパネル5の下面を通して第2ホイスト22bのフックまで、ナイロンスリング50を掛け渡す(
図4参照)。
第1ホイスト22aは、第1フック23aがパネル5の他端部の上方に位置する位置22a0に位置決めされた後、第1フック23aをパネル5の他端部の近傍の高さH1まで降下させる。
第2ホイスト22bは、第2フック23bがパネル5の一端部の位置する位置22b0に位置決めされた後、第2フック23bを最高位の高さH2に維持する。
【0050】
ステップS50で、第1ホイスト22aを矢印A1の示す方向(+y方向)へ移動させながら、第1ホイスト22aの第1フック23aの高さH1を高さH3まで引き上げる。
この時、スライド装置31のスライダー34は-y方向に移動しておらず位置b1を維持しており(スライダー34を移動させる制御は行われず)、パネル5とサポートレール32とのなす角度は、ほぼ45°前後のα1の状態となる(
図5参照)。
【0051】
ステップS60で、第1ホイスト22aを矢印A2の示す方向(+y方向)へ移動させながら第1ホイスト22aの第1フック23aを高さH3から高さH4まで引き上げる。合わせて、パネル5の一端部を支持するスライダー34を矢印B1の方向(-y方向、パネル5の一端部から他端部へ向かう方向)に移動させる(
図6参照)。
この時、パネル5とサポートレール32とのなす角度は、ほぼ90°近いα2となり、パネル5はスライダー34の上面に直立する状態となる。
この過程で、パネル5は第1ホイスト22aの側に接続するナイロンスリング50に支持される状態から、さらに矢印Fの方向に傾動して、第2ホイスト22bの側に接続するナイロンスリング50に支持される状態となる。
【0052】
ステップS70で、第1ホイスト22aの第1フック23aを高さH4に維持したままで、第1ホイスト22aを位置22a2から-y方向に移動させながら、位置22b0に固定された第2ホイスト22bの第2フック23bを高さをH1から高さH5まで降下させる(
図7参照)。
合わせて、パネル5の一端部を支持するスライダー34を-y方向に移動する。この時、パネル5とサポートレール32とのなす角度は、ほぼ130°近いα3となり、反転がより進捗する。
【0053】
ステップS80で、第1ホイスト22aの第1フック23aを高さH4に維持したままで、第1ホイスト22aを-y方向に移動させながら、位置22b0に固定された第2ホイスト22bの第2フック23bを高さをH5から高さH6まで降下する(
図8参照)。
合わせて、パネル5の一端部を支持するスライダー34を-y方向に移動する。この時、パネル5とサポートレール32とのなす角度は、ほぼ180°のα4となり、反転が完了する。
【0054】
ステップS90で、パネル5の反転を完了した後、ナイロンスリング50を取り除く。
【0055】
ステップS100で、パネル5の反転作業を終了する。
【0056】
<効果>
以上の方法によって、鉄道車両の構体を構成する比較的大きい寸法のパネルの一方の端部を吊り上げることなくスライダーに当接した状態でパネルを反転できるので、安全に且つ省スペースで、パネルを反転できる方法を提供することができる。
【0057】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…パネル反転装置 5…パネル(側構体、屋根構体など) 10…台座 12…レール
20…門型フレーム 20a…柱 20b…梁 21…懸垂装置 22a…第1ホイスト
22b…第2ホイスト 31…スライド装置 32…サポートレール(フレーム)
34…スライダー 35…昇降装置 36…スライド支持部(ブラシ、高摩擦部)
40…定盤 42…パネル支持部 50…ナイロンスリング(吊支部材)
A…ホイスト22aの動く方向を示す矢印 B…スライダー34の動く方向を示す矢印
F…パネルが傾動する方向 x…長手方向(レール方向、装置長手方向)
y…幅方向(枕木方向、装置幅方向) z…高さ方向