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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023087901
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】加熱調理器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20230619BHJP
   H05B 6/12 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
A47J27/00 109Z
A47J27/00 103A
A47J27/00 104B
H05B6/12 304
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202445
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】390010168
【氏名又は名称】東芝ホームテクノ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503376518
【氏名又は名称】東芝ライフスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 智志
(72)【発明者】
【氏名】三條 累
(72)【発明者】
【氏名】小林 博明
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一也
【テーマコード(参考)】
3K151
4B055
【Fターム(参考)】
3K151AA05
3K151BA14
3K151CA56
4B055AA09
4B055AA12
4B055BA26
4B055BA62
4B055CA71
4B055CB02
4B055CB27
4B055DB14
4B055GB46
4B055GC14
4B055GC40
(57)【要約】
【課題】攪拌部材を必要とせずに被調理物の焦げ付きや加熱ムラを防止可能な加熱調理器を提供する。
【解決手段】本発明の加熱調理器は、有底筒状の鍋4と、鍋4を加熱する底面ヒータ6と、底面ヒータ6を制御する制御手段21と、を備え、鍋4は、略筒状の側面上部4aと、略円盤状の底部4bと、底部4bの外周から延びて側面上部4aに連結する側面下部4cと、を有し、側面下部4cは、側面上部4aから底部4bの最下部4e方向に曲面状に傾斜した形状であり、底面ヒータ6は、底部4bに対向するように設けられた第1のIHヒータ6aと、第1のIHヒータ6aの上方で、鍋4に対向するように設けられた第2のIHヒータ6bと、第2のIHヒータ6bの上方で、鍋4に対向するように設けられた第3のIHヒータ6cと、を少なくとも有し、制御手段21は、加熱時に、第1のIHヒータ6a、第2のIHヒータ6b、第3のIHヒータ6cの順に切替えて駆動するように底面ヒータ6を制御する構成としている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の鍋と、
前記鍋を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段を制御する制御手段と、を備え、
前記鍋は、略筒状の側面上部と、略円盤状の底部と、当該底部の外周から延びて前記側面上部に連結する側面下部と、を有し、
前記側面下部は、前記側面上部から前記底部方向に曲面状に傾斜した形状であり、
前記加熱手段は、前記底部に対向するように設けられた第1のヒータと、前記第1のヒータの上方で、前記鍋に対向するように設けられた第2のヒータと、前記第2のヒータの上方で、前記鍋に対向するように設けられた第3のヒータと、を少なくとも有し、
前記制御手段は、前記加熱時に、前記第1のヒータ、前記第2のヒータ、前記第3のヒータの順に切替えて駆動するように前記加熱手段を制御することを特徴とする加熱調理器。
【請求項2】
有底筒状の鍋と、
前記鍋を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段を制御する制御手段と、を備え、
前記鍋は、略筒状の側面上部と、略円盤状の底部と、当該底部の外周から延びて側面上部に連結する側面下部と、を有し、
前記底部は、前記鍋を平面に載置するときに当該平面に当接する最下部を外周部分に設け、前記底部の中心部に行くに従い高くなるように形成され、
前記加熱手段は、前記底部に対向するように設けられた第1のヒータと、前記第1のヒータの上方で、前記鍋に対向するように設けられた第2のヒータと、前記第2のヒータの上方で、前記鍋に対向するように設けられた第3のヒータと、を少なくとも有し、
前記制御手段は、前記加熱時に、前記第3のヒータ、前記第2のヒータ、前記第1のヒータの順に切替えて駆動するように前記加熱手段を制御することを特徴とする加熱調理器。
【請求項3】
前記制御手段は、前記加熱時に、前記第1のヒータ、前記第2のヒータ、前記第3のヒータ、前記第2のヒータ、前記第1のヒータの順に切替えて駆動するように前記加熱手段を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の加熱調理器。
【請求項4】
前記鍋は、前記鍋の内面に沿って形成され、前記鍋内に収容された被調理物の液体の上下方向の移動を促進させる対流促進部を有し、
前記対流促進部は、前記底部から前記側面上部の上端まで延びるように、複数形成されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項5】
前記鍋における当該鍋内に収容された被調理物の上方の空間を加熱する、鍋内空間加熱手段をさらに備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被調理物の焦げ付きや加熱ムラを防止可能な加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鍋で被調理物の煮込み調理を行なうときは、被調理物が均一に、しかも焦げ付かないように煮込まれるように、鍋内の被調理物のかき混ぜを行なう必要があった。その一方で料理は同時進行の作業が多いため、煮込み調理を行っているときに、例えば他のことを行なっていて被調理物のかき混ぜを忘れる虞があり、その場合、完成した被調理物である煮物が焦げ付く虞や、被調理物の食材の加熱ムラが発生する虞があった。この問題に対して、本願出願人は、内部を撹拌するための着脱式の撹拌羽根を有する調理鍋を備え、煮物調理時に、煮物を一定間隔で自動的にかき混ぜを行なう電磁調理器を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-115660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の従来の技術は、鍋内の被調理物のかき混ぜを行なうために撹拌羽根などの撹拌部材を必要とし、これらの撹拌部材は煮物や食材などの被調理物と接触するため、常にこれらの撹拌部材を清潔に保たないと、例えば撹拌部材の洗浄し難い部分に付着した腐敗菌などが繁殖する虞があった。そのため加熱調理後にこれらの撹拌部材を速やかに洗浄などのお手入れする必要があるが、この作業が手間であった。例えば前述の従来の技術では、撹拌部材の洗浄において、加熱調理の終了後にこれらの電磁調理器が冷却されるまで待機し、それから調理鍋の蓋から撹拌羽根を取外して分解し、全ての部品を洗浄する必要があり、手間であった。
【0005】
そこで本発明は、攪拌部材を必要とせずに被調理物の焦げ付きや加熱ムラを防止可能な加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の加熱調理器は、有底筒状の鍋と、前記鍋を加熱する加熱手段と、前記加熱手段を制御する制御手段と、を備え、前記鍋は、略筒状の側面上部と、略円盤状の底部と、当該底部の外周から延びて前記側面上部に連結する側面下部と、を有し、前記側面下部は、前記側面上部から前記最下部方向に曲面状に傾斜した形状であり、前記加熱手段は、前記底部に対向するように設けられた第1のヒータと、前記第1のヒータの上方で、前記鍋に対向するように設けられた第2のヒータと、前記第2のヒータの上方で、前記鍋に対向するように設けられた第3のヒータと、を少なくとも有し、前記制御手段は、前記加熱時に、前記第1のヒータ、前記第2のヒータ、前記第3のヒータの順に切替えて駆動するように加熱手段を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の加熱調理器によれば、鍋内の被調理物の下層部の液体や熱を被調理物の上層部や表面部分へ吹き上げる作用や、鍋内の被調理物の液体のかき混ぜ作用を行なう対流の発生を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態を示す加熱調理器の縦断面概略図である。
図2】同上、(A)鍋の上面図、(B)鍋の縦断面図である。
図3】同上、図2におけるA-A断面図である。
図4】同上、加熱調理器の電気的構成を示すブロック図である。
図5】同上、底ヒータの第1~第3のIHヒータの加熱パターンの推移と、加熱時における鍋内の熱の移動および被調理物Sの液体の移動を示す図である。
図6】本発明の第1の実施形態の変形例を示す加熱調理器の鍋の縦断面概略図である。
図7】本発明の第2の実施形態を示す加熱調理器の底ヒータの第1~第3のIHヒータの加熱パターンの推移と、加熱時における鍋内の熱の移動および被調理物Sの液体の移動を示す図である。
図8】本発明の第3の実施形態を示す加熱調理器の底ヒータの第1~第3のIHヒータの加熱パターンの推移と、加熱時における鍋内の熱の移動および被調理物Sの液体の移動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明における好ましい加熱調理器の実施形態について、添付図面を参照して説明する。なお、これらの全図面にわたり、共通する部分には共通する符号を付すものとする。
【実施例0010】
図1図5は、本発明を加熱調理器に適用した第1の実施形態を示している。先ず、図1に基づいて、本実施形態における加熱調理器の全体構成を説明すると、1は上面を開口した本体、2は本体1の開口上面を覆う開閉可能な蓋体であり、これらの本体1と蓋2とにより加熱調理器の外観が構成される。本体1は上面を開口した鍋収容部としての内枠3を有し、蓋2を開けたときに、被調理物Sを収容する有底筒状の鍋4が着脱自在に収容される構成となっている。そして本体1に鍋4を入れて蓋2を閉じると、蓋2の下面部に着脱可能に装着された内蓋5が鍋4の開口上面を塞ぐように構成される。
【0011】
内枠3は、例えばアルミメッキ鋼板製で耐熱剛性を有し、耐食性に優れた鋼板をプレス加工により有底筒状に成形し、収容された鍋4の外側面との間に空間を持たせるように形成される。鍋4の後述する側面下部4cから底面4bに対向する内枠3の外面には、被調理物Sを調理するために鍋4を加熱する加熱手段としてIH(induction heating:誘導加熱)ヒータによる底面ヒータ6が配設される。また鍋4の側面上部4aに対向する内枠3の外面には、加熱手段としてコードヒータによる側面ヒータ7が配設される。鍋4への補助加熱手段となる側面ヒータ7が通電状態となると、この側面ヒータ7からの輻射熱で鍋4の主に側面上部を加熱する。なお本実施形態では、底面ヒータ6にIHヒータ、側面ヒータ7にコードヒータを採用しているが、本発明はこれに限定されることなく、底面ヒータ6や側面ヒータ7にIHヒータ、熱板式電熱ヒータ、シーズヒータ、赤外線ランプヒータなどを採用してもよく、加熱手段の方式に特に制約はない。なお鍋4および底面ヒータ6については、後程詳しく説明する。
【0012】
内枠3の中央には挿通穴3aが設けられており、本体1には、この挿通穴3aを通り抜けて、鍋4の底部4b(図2参照)の外面である外底面の内側中心部に当接するサーミスタ式の鍋温度センサ8が配設される、鍋温度検知手段となる鍋温度センサ8は鍋4の底部温度を検知しており、後述する制御手段21(図4参照)は、主に鍋温度センサ8の検知温度に基づき底面ヒータ6を制御するように構成される。
【0013】
蓋2の上面には、鍋4内の被調理物Sから発生する蒸気を加熱調理器の外部に排出する蒸気口11が設けられている。また蓋2の前方上面には、蓋開手段としての蓋体操作体12が露出状態で配設される。この蓋体操作体12を押動操作すると、本体1と蓋体2との係合が解除され、本体1の上部後方に設けたヒンジバネ(図示せず)により、蓋2の後方下部に設けられたヒンジ軸13を回転中心として蓋体2が開く構成となっている。
【0014】
本体1の上方開口部を開閉する蓋2には、内蓋5の温度を検知するサーミスタ式の蓋温度センサ14と、コードヒータなどの蓋ヒータ15とがそれぞれ設けられている。本実施形態の蓋ヒータ15は内蓋5を加熱して、内蓋5や鍋4内部の温度を上昇させるものであり、蓋加熱手段として機能している。ここで蓋2に内蓋5を装着すると、内蓋5の上面に蓋温度センサ14が接触し、内蓋5の上面に蓋ヒータ15が対向して配置される構成となっている。そして制御手段21は、主に蓋温度センサ14の検知温度に基づき蓋ヒータ15の出力を制御するように構成される。本実施形態では、蓋ヒータ15による内蓋5への加熱は、内蓋5が被調理物Sに含まれる水の沸騰温度を超えた温度、例えば105~115℃など、に達するような出力で行なわれ、例えば蓋ヒータ15の出力を100~200Wにして内蓋5を加熱するが、本発明はこれに限定されることなく、加熱調理器の特性や目的に応じて、蓋ヒータ15の出力が調整されてもよい。
【0015】
本実施形態の蓋体2の下面部を構成する内蓋5は鍋4の上方開口部と略同径の円盤状を有する金属材料から形成され、図1に示されるように、中央部を高くした曲面形状である略お椀状に成形されて、曲面(3)を有する構成となっている。その結果、平板状に成形されるよりも内蓋5の表面積が拡大し、この内蓋5の下面全体からの輻射熱で被調理物Sと内蓋5との間の空間および被調理物Sの上層部を均一に加熱することができ、当該空間を加熱する面積である内蓋5の空間加熱面積を拡大することができる。また加熱調理の初期など、被調理物Sの沸騰前から沸騰時で内蓋5の温度が100℃以上になる前には、鍋4内の被調理物の水分が蒸発して湯気が発生し、内蓋5の下面に水が結露するが、内蓋5が略お椀状であり当該結露した水を内蓋5の周囲に流すことができるため、結露した水が被調理物Sの中央部に滴下することを抑制して、被調理物Sの煮汁の味が水で局部的に薄まって変化することを抑制することができ、また蓋ヒータ15や側面ヒータ7と兼用することで、内蓋5の周囲に流した水を蒸発させて、結露した水が被調理物Sに再度戻ってくることを抑制して、被調理物Sの煮汁の味が水で薄まって局部的に変化することを抑制することができる。したがって内蓋5および蓋ヒータ15は、鍋4における鍋4内に収容された被調理物Sの上方の空間を加熱する鍋内空間加熱手段としての機能を有している。
【0016】
内蓋5の略中央には蒸気孔5aが設けられ、この蒸気孔5aの上に弁16が配設される。そのため弁16は、鍋4内と蓋体2の外部、すなわち加熱調理器の外部(機外)との間を連通する蒸気通路空間の途中に配設されて、弁16が蒸気孔5aを開放し、蒸気孔5aと蒸気口11が連通して蒸気通路空間が開放されると、鍋4への加熱に関係なく鍋4内部を大気圧に維持できる構成となっている。なお弁16が蒸気孔5aを閉塞して蒸気通路空間を塞ぐと、鍋4への加熱に伴い鍋4内部の圧力が上昇して鍋4内部を大気圧以上に加圧できるように構成してもよい。
【0017】
図2は、(A)鍋4の上面図および(B)縦断面図を示している。鍋4は、プレス加工法、ダイカスト加工法、溶湯鍛造法などにより成形され、略筒状の側面上部4aと、略円盤状の底部4bと、当該底部4bの外周から延びて側面上部4aに連結する側面下部4cと、側面上部4aの上端部から外側に延びるフランジ部4dと、鍋4の内面に設けられた複数の溝17とを主に有して構成される。また鍋4の母材は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄などの金属素材であり、母材の外面の側面下部4cから底部4bにかけて、IH加熱による発熱に優れた磁性金属のステンレス素材からなる発熱体を接合して形成される。なお底面ヒータ6にIHヒータを採用していない場合は、鍋4に発熱体を接合せずに形成されてもよい。また鍋4の内面にはフッ素樹脂塗装などの図示しない表面コーティングが施され、鍋4の外面にはシリコーン塗装などの図示しない表面コーティングが施されている。
【0018】
底部4bは、その外面である外底面の外周部分に、鍋4を台の上などの平面に載置するときに当該平面に当接する部分である最下部4eを設けている。また底部4bの高さが中心部に行くに従い高くなるように形成されており、最下部4eから底部4bの内側中心部4fに行くに従い底部4bの内面および外面が高くなるように盛り上がらせて形成され、そのため底部4bの内面および外面が曲面(2)を有して構成される。また底部4bの直径は側面上部4aの直径よりも小さく形成されており、そのため側面下部4cの外面および内面は、側面上部4aから底部4bの外周である最下部4e方向に傾斜した曲面で形成され、そのため側面下部4cの内面および外面が曲面(1)を有して構成される。
【0019】
溝17は、鍋4の内面に沿って底部4bの外周から側面上部4aの上端まで延びるように形成されている。本実施形態の溝17は8本形成されているが、加熱調理器の目的に応じて溝17の本数を変更してもよく、例えば4本や12本でもよい。煮汁など被調理物の液体の後述する対流時には、これらの溝17に被調理物の液体が入って溝17に沿って液体が上下方向に移動し、これらの液体の移動により、溝17に挟まれている被調理物の他の液体も上下方向の移動が促進されるので、これらの溝17は、鍋4内に収容された被調理物Sの液体の上下方向の移動を促進させる対流促進部としての機能を有している。なお、この対流促進部として、溝17の代わりに凸部を鍋4の内面に沿って形成してもよい。また溝17は、鍋4の曲面(1)の内面のみに形成されてもよい。
【0020】
図3図2のA-A断面図である。溝17の断面形状に制約はなく、例えば被調理物Sの液体の移動性や鍋4の清掃性を考慮して、図3(A)に示されるように断面を略U字状にしてもよく、また図3(B)に示されるように断面を略V字状にしてもよい。溝17の大きさは、溝幅が1mmより大きく、溝の深さが0.5mmよりも大きければ、加熱調理時に被調理物Sで溝17が塞がれてしまうことを抑制できる。その一方で、溝17が細すぎると被調理物Sの液体の移動量が少なく、また清掃時に鍋4が洗いにくくなるため、図3(C)に示されるように、溝幅が3mmで溝の深さが1mm程度の溝を複数、例えば3本併用して溝17としてもよい。
【0021】
図1を参照して底面ヒータ6の説明をすると、本実施形態の底面ヒータ6は、第1の底面加熱手段としての第1のIHヒータ6aと、第2の底面加熱手段としての第2のIHヒータ6bと、第3の底面加熱手段としての第3のIHヒータ6cと、で構成されている。第1のIHヒータ6a、第2のIHヒータ6bおよび第3のIHヒータ6cは、それぞれ内枠3の外面に、鍋4に対向するように設けられている。具体的には鍋4を内枠3に収容したときに、第1のIHヒータ6aは、底内ヒータとして底部4bの外側面に対向させて配設され、第2のIHヒータ6bは、底外ヒータとして、第1のIHヒータ6aの上方で、側面下部4cの外側面下部に対向させて配設され、第3のIHヒータ6cは、側下ヒータとして、第2のIHヒータ6bの上方で、側面下部4cの外側面上部に対向させて配設される。本実施形態の底面ヒータ6の最高出力は、第1のIHヒータ6aが300~500W、第2のIHヒータ6bが500~700W、第3のIHヒータ6cが400~600Wで構成されているが、これらの数値は一例であり、加熱調理器の加熱特性に応じて第1~第3のIHヒータ6a~6cの出力バランスを任意に設定してよい。なお本実施形態では、底面ヒータ6は3つのIHヒータで構成されているが、本発明はこれに限定されることなく、さらに多くの数のIHヒータで構成されてもよく、その場合も、それぞれのIHヒータが底部4bから側面下部4cに対向させて配設され、また複数のIHヒータが上下方向に並べられて配設される。また第1~第3のIHヒータ6a~6cは、それぞれが個別にらせん状に形成されてもよく、同心円状に形成されてもよく、それぞれのIHヒータにおける形状に特に制約はない。
【0022】
図4は、本実施形態における加熱調理器の電気的な構成を示している。同図において、21は本体1または蓋2の内部に組み込まれた制御手段である。制御手段21の入力ポートには、前述した鍋温度センサ8と、蓋温度センサ14に加えて、操作手段22がそれぞれ電気的に接続される。また制御手段21の出力ポートには、前述した弁16に加えて、第1のIHヒータ6aに接続する第1のIH加熱駆動手段24と、第2のIHヒータ6bに接続する第2のIH加熱駆動手段25と、第3のIHヒータ6cに接続する第3のIH加熱駆動手段26と、側面ヒータ6に接続する側面ヒータ駆動手段27と、蓋ヒータ15に接続する蓋ヒータ駆動手段28と、表示手段23とがそれぞれ電気的に接続される。
【0023】
制御手段21は、操作手段22からの操作信号と、鍋温度センサ8や蓋温度センサ14からの各検知信号を受けて、内蔵する計時手段からの計時に基づく所定のタイミングで、表示手段23に表示制御信号を出力し、また第1のIH加熱駆動手段24と、第2のIH加熱駆動手段25と、第3のIH加熱駆動手段26と、側面ヒータ駆動手段27と、蓋ヒータ駆動手段28とに、それぞれ加熱制御信号を出力し、そして弁16に駆動制御信号を出力する機能を有する。また制御手段21は各種の情報やデータを記憶する読み出しおよび書き込みが可能な記憶媒体としての記憶手段31を有しており、制御手段21の前述の機能は、記憶手段31に予め記録したプログラムを、制御手段21が読み取ることで実現し、制御手段21により調理時や保温時に鍋4内の被調理物Sを加熱調理する調理工程の制御や鍋4内の被調理物を所定の保温温度に維持する保温工程の制御が行なわれる。
【0024】
操作手段22は、時間や、調理コ-スなどの調理メニューや、各種設定を選択、設定するためのものであり、表示手段23は、調理に関わる様々な情報を表示するものである。ユーザは、表示手段23に表示された情報を確認しながら操作手段22を操作することにより、これらの時間や、調理メニューや、各種設定を選択、設定することができる。
【0025】
第1のIH加熱駆動手段24は、制御手段21からの加熱制御信号を受けて第1のIHヒータ6aに高周波電流を供給して駆動するものである。同様に第2のIH加熱駆動手段25は、制御手段21からの加熱制御信号を受けて第2のIHヒータ6bに高周波電流を供給して駆動するものであり、第3のIH加熱駆動手段26は、制御手段21からの加熱制御信号を受けて第3のIHヒータ6cに高周波電流を供給して駆動するものである。これらの第1~第3のIH加熱駆動手段24~26は、例えば電源回路や、インバータや、IH駆動回路や、スイッチ素子などを有して構成され、第1~第3のIHヒータ6a~6cに供給される高周波電流の周期や、一周期に対するオン時間の比率(オン時比率)を変化させることで、第1~第3のIHヒータ6a~6cからの鍋4への出力を増減させることができる。
【0026】
側面ヒータ駆動手段27は、制御手段21からの加熱制御信号を受けて、側面ヒータ7となるコードヒータに電力を供給するものである。同様に蓋ヒータ駆動手段28は、制御手段21からの加熱制御信号を受けて、蓋ヒータ15となるコードヒータに電力を供給するものである。
【0027】
図5は、本実施形態における底ヒータ6の第1~第3のIHヒータ6a~6cの加熱パターンの推移および鍋4内の熱の移動および被調理物Sの液体の移動を示している。本実施形態の被調理物Sの液体は、魚や肉、野菜などの食材を煮る際に出来た汁や、食材を煮る際に用いる、醤油、酒、砂糖、みりんなどの調味料を加えて作った汁である煮汁を想定しており、この煮汁は、加熱された鍋4の熱を食材へ伝播させて食材を加熱するための熱媒体であり、また砂糖、塩、酢、醤油、味噌、味の素、出汁などで食材を調味する調味料でもある。
【0028】
加熱調理や保温などで鍋4を加熱するときに底ヒータ6を駆動する場合、先ず制御手段21は第1のIH加熱駆動手段24に加熱制御信号を送出して第1のIHヒータ6aを所定時間、例えば1~30秒駆動する。そのため第1のIHヒータ6aに対向している鍋4の底部4bが加熱されて底部4bの温度が上昇する。熱は高温部から低温部へと移動するため、図5の矢印A1に示されるように底部4bの熱が母材経由で鍋4の側面下部4c側に移動する。また、これらの鍋4の熱は、鍋4の底部4b内に接している被調理物Sの下層部分に移動する。そして被調理物Sの底部4b近傍の液体の温度が上昇して、この時点で低温である被炊飯物Sの中層部分に移動し、この被調理物Sの下層部分に、被炊飯物Sの中央部の中層部分の液体が移動してくる。ここで、鍋4の側面下部4cの内面は曲面(1)を有しているため、図5の外対流Cの破線矢印に示されるように、この液体が鍋4内面の曲面(1)に沿って上方向に移動することを促進させており、さらに溝17が形成されているため、この液体が溝17に沿って鍋4内面を上方向に移動することを促進させている。
【0029】
次に制御手段21は、第1のIH加熱駆動手段24への加熱制御信号の送出を停止して第1のIHヒータ6aの駆動を停止させると共に、第2のIH加熱駆動手段25に加熱制御信号を送出して第2のIHヒータ6bを所定時間、例えば1~30秒駆動する。そのため第2のIHヒータ6bに対向している鍋4の側面下部4cの下部が加熱されて側面下部4cの下部の温度が上昇する。ここで底部4bはすでに温度が上昇しているため、図5の矢印A2に示されるように、側面下部4cの下部の熱が母材経由で鍋4の側面上部4a側に移動する。また側面下部4cの下部の熱は、側面下部4cの下部内面に接している被調理物Sに移動する。そして被調理物Sの側面下部4cの下部近傍の液体の温度が上昇して、この時点で低温である被炊飯物Sの上層部分に移動する。ここで前述のように鍋4の側面下部4cの内面は曲面(1)を有しているため、この液体が鍋4内面の曲面(1)に沿って上方向に移動することを促進させ、また溝17が形成されているため、この液体が溝17に沿って鍋4内面を上方向に移動することを促進させている。
【0030】
その後、制御手段21は、第2のIH加熱駆動手段25への加熱制御信号の送出を停止して第2のIHヒータ6bの駆動を停止させると共に、第3のIH加熱駆動手段26に加熱制御信号を送出して第3のIHヒータ6cを所定時間、例えば1~30秒駆動する。そのため第3のIHヒータ6cに対向している鍋4の側面下部4cの上部が加熱されて側面下部4cの上部の温度が上昇する。ここで底部4bや側面下部4cの下部はすでに温度が上昇しているため、図5の矢印A3に示されるように、側面下部4cの上部の熱が母材経由で鍋4の側面上部4a側にさらに移動する。また側面下部4cの上部の熱は、側面下部4cの上部内面に接している被調理物Sに移動する。そして被調理物Sの側面下部4cの上部近傍の液体の温度が上昇して、この時点で低温である被炊飯物Sの表面部分の鍋4近傍側や被炊飯物Sの上層部分の中央部側に移動する。その後、被炊飯物Sの鍋4内面近傍の表面部分の液体や被炊飯物Sの上層部分の中央部の液体の温度が上昇して、被炊飯物Sの下層部分の中央部に移動していく。この現象がいわゆる熱対流であり、本実施形態では外対流Cとして説明する。
【0031】
そして制御手段21は、第3のIH加熱駆動手段26への加熱制御信号の送出を停止して第3のIHヒータ6cの駆動を停止させると共に、第1のIH加熱駆動手段24に加熱制御信号を再度送出して第1のIHヒータ6aを所定時間駆動する。そして前述したように、制御手段21が第1のIHヒータ6a、第2のIHヒータ6b、第3のIHヒータ6cの順に繰り返し切替えて駆動するように底面ヒータ6を制御して、鍋4の底部4bから側面下部4cへと順次加熱し、調理工程や保温工程の加熱時に鍋4の底部4bから側面下部4cへの熱移動に沿って、鍋4内の被調理物Sの下層部の液体や熱を被調理物Sの上層部や表面部分へ吹き上げる作用や、鍋4内の被調理物Sの液体のかき混ぜ作用を行なう外対流Cの発生を促している。そのため、例えば調理メニューが煮込みの場合の加熱調理時にかき混ぜ作用を発生させて、熱媒体であり調味料となる煮汁がムラなく食材へ接触するように供給が継続されることで、被調理物Sである煮物の焦げ付きを防止でき、また煮物の加熱ムラを防止できる。
【0032】
すなわち、被調理物Sの液体である煮汁の外対流Cを促進させるように制御手段21が底面ヒータ6を制御することにより煮汁の外対流Cを促進させ、鍋4内の被調理物Sの下層の煮汁を上層へ吹き上げ、あたかもフレンチの「アロゼ」のように、鍋4の底部4b近傍の煮汁を上層の食材へ供給する加熱を継続することで、食材を強制的にかき混ぜずとも、加熱ムラを防止することができる。そのため攪拌部材を必要とせずに加熱ムラを少なくでき、攪拌部材が不要となるので、攪拌部材に腐敗菌が付着することがなく、また例えば調理メニューがカレーなどのときに、攪拌部材に香辛料の臭いが吸着することがなく、そして攪拌部材を洗浄する手間をなくすることができる。さらに、撹拌のしすぎで被調理物Sの食材としての野菜が被調理物Sの煮汁に溶解してしまう虞や麺が茹ですぎになる虞、撹拌時に鍋4の底部4bが焦げる虞を抑制することができる。
【0033】
以上のように、本実施形態の加熱調理器では、有底筒状の鍋4と、鍋4を加熱する加熱手段としての底面ヒータ6と、底面ヒータ6を制御する制御手段21と、を備え、鍋4は、略筒状の側面上部4aと、略円盤状の底部4bと、底部4bの外周から延びて側面上部4aに連結する側面下部4cと、を有し、側面下部4cは、側面上部4aから底部4bの最下部4e方向に曲面状に傾斜した形状である曲面(1)を有し、底面ヒータ6は、底部4bに対向するように設けられた第1のヒータとしての第1のIHヒータ6aと、第1のIHヒータ6aの上方で、鍋4に対向するように設けられた第2のヒータとしての第2のIHヒータ6bと、第2のIHヒータ6bの上方で、鍋4に対向するように設けられた第3のヒータとしての第3のIHヒータ6cと、を少なくとも有し、制御手段21は、加熱時に、第1のIHヒータ6a、第2のIHヒータ6b、第3のIHヒータ6cの順に切替えて駆動するように底面ヒータ6を制御する構成としている。
【0034】
このように構成することにより、加熱時に鍋4の底部4bから側面下部4cへの熱移動に沿って、鍋4内の被調理物Sの下層部の液体や熱を被調理物Sの上層部や表面部分へ吹き上げる作用や、鍋4内の被調理物Sの液体のかき混ぜ作用を行なう外対流Cの発生を促すことができ、熱媒体であり調味料となる煮汁がムラなく食材へ接触するように供給が継続されることで、被調理物Sである煮物の焦げ付きを防止でき、また煮物の加熱ムラを防止できる。したがって攪拌部材を必要とせずに加熱ムラを少なくでき、攪拌部材を不要とすることができる。
【0035】
また本実施形態の鍋4は、鍋4の内面に沿って形成され、鍋4内に収容された被調理物Sの液体の上下方向の移動を促進させる対流促進部としての溝17を有し、溝17は、底部4bから側面上部4aの上端まで延びるように、複数形成される構成としている。そのため被調理物Sの液体が溝17に沿って鍋4内面を上下方向に移動することを促進させて、外対流Cの発生を促すことができる。
【0036】
また本実施形態の加熱調理器では、鍋4における鍋4内に収容された被調理物Sの上方の空間を加熱する鍋内空間加熱手段としての内蓋5および蓋ヒータ15をさらに備える構成としており、内蓋5の下面全体からの輻射熱で被調理物Sと内蓋5との間の空間および被調理物Sの上層部を均一に加熱することができる。
【0037】
図6は、本実施形態の変形例を示している。本変形例では、溝17’の溝幅が、鍋4の上方に行くに従い広くなるように形成される。
【0038】
図6を参照して説明すると、溝17’は、第1の実施形態の溝17と同様に、鍋4の内面に沿って底部4bの外周から側面上部4aの上端まで延びるように形成される一方で、溝17’の溝幅が鍋4の上方の開口部方向に行くに従い広がるような形状に成形されている。そのため鍋4がプレス加工法、ダイカスト加工法、溶湯鍛造法などにより成形されるときに溝17’がアンダーカットにならないため、溝17’を後加工で形成しなくてもよく、鍋4成形時に溝17’を形成することができる。また側面上部4aから底部4bにかけて球面状に形成した本変形例の鍋4に沿った溝17’を形成することができる。
【実施例0039】
図7は、本発明を加熱調理器に適用した第2の実施形態を示している。本実施形態では、被調理物Sの液体が、鍋4の中央付近において、鍋4の底部4b近傍から被調理物Sの表面部まで上昇し、被調理物Sの表面部に沿って鍋4の中央付近から鍋4の内面付近に移動し、鍋4の内面付近に沿って被調理物Sの表面部から鍋4の底部4b近傍まで下降する内対流Cを促進させるように制御手段21が底面ヒータ6を制御する構成としている。
【0040】
熱は高温である熱い部分から低温である冷たい部分へ移動するため、鍋4内の被調理物Sの液体は、鍋4の加熱手段である底面ヒータ6や側面ヒータ7から最も離れた鍋4の中央部の表面のものが最も昇温し難い。また金属の方が、煮汁、水溶液など被調理物Sの液体と比較して熱伝導性が良く、加熱された鍋4の熱は、鍋4内面から被調理物Sの液体に移動するより、鍋4の母材を伝導して当該母材の低温部に移動する方が早いため、鍋4の側面下部4cや底部4bの周囲を加熱すると、第1の実施形態で説明したとおり外対流Cが発生する。しかしながら、鍋4内の被調理物Sの液体が少ない場合、鍋4内におけるこの液体の液面が通常のものより低くなるため、この外対流Cによる鍋4内の被調理物Sの液体のかき混ぜ作用の効果があまり発揮されない。したがって鍋4内の被調理物Sの液体である煮汁が一定量存在するほどに多くない場合は、外対流Cが発生し難くなってしまう。そこで本実施形態では、特に鍋4内の被調理物Sの液体が少なく、この液体の液面が低い場合に、被調理物Sの液体が内対流Cを発生させ、この内対流Cを促進させるように制御手段21が底面ヒータ6を制御している。
【0041】
図7を参照して、本実施形態における底ヒータ6の第1~第3のIHヒータ6a~6cの加熱パターンの推移と、鍋4内の熱の移動および被調理物Sの液体の移動とを説明すると、加熱調理や保温などで鍋4を加熱するときに底ヒータ6を駆動する場合、先ず制御手段21は第3のIH加熱駆動手段26に加熱制御信号を送出して第3のIHヒータ6cを所定時間、例えば1~30秒駆動する。そのため第3のIHヒータ6cに対向している鍋4の側面下部4cの上部が加熱されて側面下部4cの上部の温度が上昇する。熱は高温部から低温部へと移動するため、底部4bの熱が母材経由で鍋4の側面上部4a側に移動すると共に、図7の矢印A4に示されるように鍋4の側面下部4c側に移動する。また、これらの鍋4の熱は、鍋4の被調理物Sの側面下部4cの上部内面に接している被調理物Sに移動する。そして被調理物Sの側面下部4cの上部近傍の液体の温度が上昇して、この時点で低温である被炊飯物Sの中層部分に移動し、この被調理物Sの側面下部4cの上部近傍に、被調理物Sの中央部の上層部分の液体が移動してくる。ここで、鍋4の側面下部4cの内面は曲面(1)を有しているため、図7の内対流Cの破線矢印に示されるように、この液体が鍋4内面の曲面(1)に沿って下方向に移動することを促進させており、さらに溝17が形成されているため、この液体が溝17に沿って鍋4内面を下方向に移動することを促進させている。
【0042】
次に制御手段21は、第3のIH加熱駆動手段26への加熱制御信号の送出を停止して第3のIHヒータ6cの駆動を停止させると共に、第2のIH加熱駆動手段25に加熱制御信号を送出して第2のIHヒータ6bを所定時間、例えば1~30秒駆動する。そのため第2のIHヒータ6bに対向している鍋4の側面下部4cの下部が加熱されて側面下部4cの下部の温度が上昇する。ここで側面下部4cの上部はすでに温度が上昇しているため、図7の矢印A5に示されるように、側面下部4cの下部の熱が母材経由で鍋4の底部4b側に移動する。また側面下部4cの下部の熱は、側面下部4cの下部内面に接している被調理物Sに移動する。そして被調理物Sの側面下部4cの下部近傍の液体の温度が上昇して、この時点で低温である被炊飯物Sの下層部分に移動する。ここで前述のように鍋4の側面下部4cの内面は曲面(1)を有しているため、この液体が鍋4内面の曲面(1)に沿って下方向に移動することを促進させ、また溝17が形成されているため、この液体が溝17に沿って鍋4内面を下方向に移動することを促進させている。
【0043】
その後、制御手段21は、第2のIH加熱駆動手段25への加熱制御信号の送出を停止して第2のIHヒータ6bの駆動を停止させると共に、第1のIH加熱駆動手段24に加熱制御信号を送出して第1のIHヒータ6aを所定時間、例えば1~30秒駆動する。そのため第1のIHヒータ6aに対向している鍋4の底部4bが加熱されて底部4bの温度が上昇する。ここで側面下部4cの上部や下部はすでに温度が上昇しているため、図7の矢印A6に示されるように、底部4bの熱が母材経由で鍋4の底部4bの内側中心部4f側にさらに移動する。また底部4bの熱は、底部4b内面に接している被調理物Sに移動する。そして被調理物Sの底部4b近傍の液体の温度が上昇して、この時点で低温である被炊飯物Sの下層部分の中央部側に移動する。ここで、鍋4の底部4bの内面は曲面(2)を有しているため、図7の内対流Cの破線矢印に示されるように、この液体が鍋4内面の曲面(2)に沿って上方向に吹上げるように移動することを促進させている。
【0044】
その後、被炊飯物Sの中央部で、被炊飯物Sの下層部分の液体の温度が上昇して、この時点で低温である被炊飯物Sの中層部分や上層部分、表面部分に移動していく。この現象がいわゆる熱対流であり、本実施形態では内対流Cとして説明する。
【0045】
そして制御手段21は、第1のIH加熱駆動手段24への加熱制御信号の送出を停止して第1のIHヒータ6aの駆動を停止させると共に、第3のIH加熱駆動手段26に加熱制御信号を再度送出して第3のIHヒータ6cを所定時間駆動する。そして前述したように、制御手段21が第3のIHヒータ6c、第2のIHヒータ6b、第1のIHヒータ6aの順に繰り返し切替えて駆動するように底面ヒータ6を制御して、鍋4の側面下部4cから底部4bへと順次加熱し、調理工程や保温工程の加熱時に鍋4の側面下部4cから底部4bへの熱移動に沿って、鍋4内の被調理物Sの上層部分の液体や熱を被調理物Sの下層部分へ下降させ、被調理物Sの中央部における下層部分の液体や熱を被調理物Sの上層部分や表面部分へ吹き上げる作用や、鍋4内の被調理物Sの液体のかき混ぜ作用を行なう内対流Cの発生を促している。また鍋4内の底部4b近傍の被調理物Sの液体としての煮汁は、被調理物Sの液体の中層部分や上層部分にある上部の煮汁や食材が抵抗となるため、底部4b近傍の煮汁が沸騰すると、この沸騰した煮汁の圧力が上昇して上方へ吹き上げ、煮汁の内対流Cの発生を促すことができる。この内対流Cの作用により、鍋4内で煮汁が少ない場合や、調理する被調理物Sの量が少なかった場合でも、あたかもコーヒーサイフォンが吹き上げたお湯がコーヒー粉に注がれるように、被調理物Sの食材を強制的にかき混ぜることなく加熱ムラを防止することができる。
【0046】
以上のように、本実施形態の加熱調理器では、有底筒状の鍋4と、鍋4を加熱する加熱手段としての底面ヒータ6と、底面ヒータ6を制御する制御手段21と、を備え、鍋4は、略筒状の側面上部4aと、略円盤状の底部4bと、底部4bの外周から延びて側面上部4aに連結する側面下部4cと、を有し、底部4bは、鍋4を平面に載置するときに当該平面に当接する最下部4eを外周部分に設け、底部4bの中心部としての内側中心部4fに行くに従い高くなる形状である曲面(2)を有し、底面ヒータ6は、底部4bに対向するように設けられた第1のヒータとしての第1のIHヒータ6aと、第1のIHヒータ6aの上方で、鍋4に対向するように設けられた第2のヒータとしての第2のIHヒータ6bと、第2のIHヒータ6bの上方で、鍋4に対向するように設けられた第3のヒータとしての第3のIHヒータ6cと、を少なくとも有し、制御手段21は、加熱時に、第3のIHヒータ6c、第2のIHヒータ6b、第1のIHヒータ6aの順に切替えて駆動するように底面ヒータ6を制御する構成としている。
【0047】
このように構成することにより、加熱時に鍋4の側面下部4cから底部4bへの熱移動に沿って、鍋4内の被調理物Sの上層部分の液体や熱を被調理物Sの下層部分へ下降させ、被調理物Sの中央部における下層部分の液体や熱を被調理物Sの上層部分や表面部分へ吹き上げる作用や、鍋4内の被調理物Sの液体のかき混ぜ作用を行なう内対流Cの発生を促すことができ、この内対流Cの作用により、鍋4内で煮汁が少ない場合や、調理する被調理物Sの量が少なかった場合でも、被調理物Sの食材を強制的にかき混ぜることなく加熱ムラを防止することができる。
【実施例0048】
図8は、本発明を加熱調理器に適用した第3の実施形態を示している。本実施形態では、第1の実施形態で説明した外対流Cと、第2の実施形態で説明した内対流Cとを、併用させるように制御手段21が底面ヒータ6を制御する構成としている。
【0049】
図8を参照して、本実施形態における底ヒータ6の第1~第3のIHヒータ6a~6cの加熱パターンの推移と、鍋4内の熱の移動および被調理物Sの液体の移動とを説明すると、加熱調理や保温などで鍋4を加熱するときに底ヒータ6を駆動する場合、制御手段21が第1のIHヒータ6a、第2のIHヒータ6b、第3のIHヒータ6c、第2のIHヒータ6b、第1のIHヒータ6aの順に繰り返し切替えて駆動するように底面ヒータ6を制御して、鍋4の底部4bから側面下部4cへと順次加熱し、また鍋4の側面下部4cから底部4bへと順次加熱する。そのため、外対流Cと内対流Cとが変わりながら発生して外対流Cおよび内対流Cの両方の対流があり、鍋4内の被調理物Sの液体の流速が変更するため、鍋4内の被調理物Sの下層部分および上層部分における液体のかき混ぜ作用をさらに促進させることができる。なお選択された調理メニューに応じて、外対流Cが発生する底ヒータ6の加熱パターンと、内対流Cが発生する底ヒータ6の加熱パターンと、外対流Cと内対流Cとが変わりながら発生する底ヒータ6の加熱パターンと、を選択できるように制御手段21が構成されてもよい。
【0050】
以上のように、本実施形態の加熱調理器では、加熱時に、第1のIHヒータ6a、前記第2のヒータ、第3のIHヒータ6c、第2のIHヒータ6b、第1のIHヒータ6aの順に切替えて駆動するように底面ヒータ6を制御する構成としている。そのため外対流Cと内対流Cとが変わりながら発生して外対流Cおよび内対流Cの両方の対流があり、鍋4内の被調理物Sの液体の流速が変更するため、鍋4内の被調理物Sの下層部分および上層部分における液体のかき混ぜ作用を促進させることができる。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。例えば、第1~第3の実施形態で特徴となる構成を組み合わせてもよい。また本実施形態では、鍋4に溝17や曲面(1),(2)を形成しているが、鍋4に溝17や曲面(1),(2)を形成せず、制御手段21が第1のIHヒータ6a、第2のIHヒータ6bおよび第3のIHヒータ6cを切替えて駆動するように底面ヒータ6を制御することのみで外対流Cや内対流Cを発生させるように構成してもよい。そして鍋4内の被調理物Sの液体が少ない場合、最も上方にある第3のIHヒータ6cを使用せず、制御手段21が第1のIHヒータ6a、第2のIHヒータ6bの順に繰り返し切替えて駆動するように底面ヒータ6を制御してもよい。
【0052】
また選択された調理メニューに応じて、外対流Cが発生する底ヒータ6の加熱パターンと、内対流Cが発生する底ヒータ6の加熱パターンと、外対流Cと内対流Cとが変わりながら発生する底ヒータ6の加熱パターンに加えて、第1~第3のIHヒータ6a~6cが切替わらずに同時に駆動、駆動停止して外対流Cや内対流Cを発生させない底ヒータ6の加熱パターンを選択できるように制御手段21が構成されてもよい。そして実施形態中で例示した数値などはあくまでも一例にすぎず、加熱調理器の仕様などに応じて適宜変更してかまわない。
【符号の説明】
【0053】
4 鍋
4a 側面上部
4b 底部
4c 側面下部
4e 最下部
4f 内側中心部(中心部)
5 内蓋(鍋内空間加熱手段)
6 底ヒータ(加熱手段)
6a 第1のIHヒータ(第1のヒータ)
6b 第2のIHヒータ(第2のヒータ)
6c 第3のIHヒータ(第3のヒータ)
15 蓋ヒータ(鍋内空間加熱手段)
17 溝(対流促進部)
21 制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8