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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008798
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】積層板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20230112BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20230112BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230112BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20230112BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230112BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
B32B15/08 Q
B32B15/20
B32B27/00 103
B32B7/025
B32B27/20 Z
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040573
(22)【出願日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021111582
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一義
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 努
(72)【発明者】
【氏名】片桐 航
(72)【発明者】
【氏名】小泉 昭紘
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA14B
4F100AA20B
4F100AB17A
4F100AB33B
4F100AC03B
4F100AC05B
4F100AK18B
4F100AK49B
4F100AK50B
4F100AK54B
4F100AK55B
4F100AK56B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA23B
4F100DD07A
4F100GB43
4F100JA02B
4F100JA11B
4F100JG05B
4F100JK06
4F100JN21A
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】例え伝送信号の周波数が10GHz以上の場合にも導体損失を抑制して伝送損失を低減でき、銅箔と樹脂フィルムの良好な密着性を得られる積層板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】銅箔1とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3を直接積層して貼り付けた銅張積層板5等の積層板であり、銅箔1のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3との積層貼付面2における光沢度を、JIS Z 8741‐1997の定めに準拠して測定した場合に30以上90以下とし、積層貼付面2における算術平均高さSaを0.2μm以上0.4μm以下とするとともに、積層貼付面2における最大高さSzを4μm以上6μm以下とする。積層貼付面2を平滑化して信号伝送路を短縮するので、積層貼付面2の大きな凹凸に伴い伝送信号が散乱することが少なく、例え伝送信号の周波数が10GHz以上になっても、表皮効果の発現を低減して導体損失を抑制できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとを直接積層して貼り付けた積層板であって、
銅箔のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの積層貼付面における光沢度を、JIS Z 8741‐1997の定めに準拠して測定した場合に30以上90以下とし、
銅箔のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの積層貼付面における算術平均高さSaを0.2μm以上0.4μm以下とするとともに、銅箔のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの積層貼付面における最大高さSzを4μm以上6μm以下としたことを特徴とする積層板。
【請求項2】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの28GHzにおける比誘電率を3.7以下とし、誘電正接を0.006以下とした請求項1記載の積層板。
【請求項3】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの線膨張係数を、40ppm/℃以下とした請求項1又は2記載の積層板。
【請求項4】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの結晶化度を、5%以上30%以下とした請求項1、2、又は3記載の積層板。
【請求項5】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを、他樹脂とのアロイフィルムとした請求項1ないし4のいずれかに記載の積層板。
【請求項6】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとアロイ化される他樹脂を、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、及びパーフルオロアルコキシ樹脂の少なくともいずれかとした請求項5に記載の積層板。
【請求項7】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムに、フィラーを配合した請求項1ないし6のいずれかに記載の積層板。
【請求項8】
フィラーを、マイカ、タルク、窒化ホウ素、及びシリカの少なくともいずれかとした請求項7記載の積層板。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載した積層板の製造方法であって、銅箔の積層貼付面にポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを積層し、これら銅箔とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとを、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの融点-20℃以上+10℃以下の温度で熱圧着して貼り付けることを特徴とする積層板の製造方法。
【請求項10】
銅箔の積層貼付面とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの被積層貼付面の少なくともいずれかに、コロナ処理、プラズマ処理、又は紫外線処理を施す請求項9記載の積層板の製造方法。
【請求項11】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの熱圧着時における貯蔵弾性率を、5×10Pa以上5×10Pa以下とする請求項9又は10記載の積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あらゆる回路やプリント基板の元になる銅張積層板(CCL)、フレキシブルプリント配線板(FPC)等として利用される積層板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ機器、携帯通信端末、その他の電子機器等において、データ処理速度・通信速度を向上させてストレスの無い大容量データ処理を可能とするため、データ処理速度・通信速度の大幅な高速化が要求されている。この要求に応えるため、プリント基板の分野においては、高周波信号の伝送損失を可能な限り低くする研究が行われている(特許文献1、2、3、4参照)。
【0003】
研究対象である高周波信号の伝送損失には、様々な要因があるが、その一因として、導体損失があげられる。この導体損失について説明すると、伝送信号の周波数が高くなると、伝送信号がプリント回路板の回路表面を流れるという表皮効果(Skin effect)が発現し、伝送信号の流れる物理的な有効断面積が減少して抵抗が高くなり、伝送信号の信号遅延が生じる。その結果、設計通りの演算速度を得ることが困難になったり、伝送信号のノックオン現象による誤動作を引き起こすこととなる。このように伝送したい信号が高速になればなる程、回路の導体損失が大きくなり、信号の伝送が困難になるという問題が生じる。
【0004】
係る問題を解消するため、特許文献1には、高周波回路用導体として使用した場合に伝送損失を抑制できる高周波回路用銅箔が開示されている。この高周波回路用銅箔は、電解銅箔の少なくとも片面を粗化処理した高周波回路用の銅箔であり、電解銅箔の粗化処理面と絶縁性の樹脂基材が接触するよう積層成形して銅張積層板とし、ハーフエッチングにより電解銅箔を重量換算厚さで3μm厚の銅層としたときの銅層の抵抗率が2.2×10-8Ωm以下、好ましくは2.0×10-8Ωm以下であることを特徴としている。電解銅箔の粗化処理法としては、特に限定されるものではないが、例えば電解銅箔の表面に銅等の粗化層を形成する方法等があげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011‐138980号公報
【特許文献2】特許第6881664号公報
【特許文献3】特開2020‐105493号公報
【特許文献4】特開2021‐11535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例え特許文献1の高周波回路用銅箔を用いて銅層の抵抗率を抑制するようにしても、伝送信号の周波数が10GHz以上、特に15GHz以上になると、表皮効果の発現が顕著になるので、電解銅箔の粗化処理面の存在に伴い、伝送損失が増大するという問題がある。
【0007】
この問題の解消には、電解銅箔の粗化処理面を省略して伝送損失を抑制するという方法が考えられる。しかしながら、電解銅箔の粗化処理面を省略すると、電解銅箔と樹脂基材との密着性が低下し、これら電解銅箔や樹脂基材が剥離したり、分離してしまうという大きな問題が新たに生じることとなる。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、例え伝送信号の周波数が10GHz以上の場合にも導体損失を抑制して伝送損失を低減することができ、しかも、銅箔と樹脂フィルムとの良好な密着性を得ることのできる積層板及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、銅箔とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとを直接積層して貼り付けたものであって、
銅箔のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの積層貼付面における光沢度を、JIS Z 8741‐1997の定めに準拠して測定した場合に30以上90以下とし、
銅箔のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの積層貼付面における算術平均高さSaを0.2μm以上0.4μm以下とするとともに、銅箔のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの積層貼付面における最大高さSzを4μm以上6μm以下としたことを特徴としている。
【0010】
なお、JIS Z 0237:2009に準拠して銅箔を剥離する際の密着力を測定した場合に、密着力が6N/cm以上であるのが好ましい。
また、銅箔をエッチングして長さ10cm、インピーダンス50Ωのマイクロストリップラインを作製し、温度25℃・湿度50%の条件で30GHzでの伝送特性を測定した場合に、伝送特性が-3.9dB以下であるのが好ましい。
【0011】
また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの28GHzにおける比誘電率を3.7以下とし、誘電正接を0.006以下とすることが好ましい。
また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの線膨張係数を、40ppm/℃以下とすると良い。
また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの結晶化度を、5%以上30%以下とすると良い。
【0012】
また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを、他樹脂とのアロイフィルムとすることができる。
また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとアロイ化される他樹脂を、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、及びパーフルオロアルコキシ樹脂の少なくともいずれかとすることができる。
【0013】
また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムに、フィラーを配合することができる。
また、フィラーを、マイカ、タルク、窒化ホウ素、及びシリカの少なくともいずれかとすると良い。
【0014】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1ないし8のいずれかに記載した積層板の製造方法であって、
銅箔の積層貼付面にポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを積層し、これら銅箔とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとを、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの融点-20℃以上+10℃以下の温度で熱圧着して貼り付けることを特徴としている。
【0015】
なお、銅箔の積層貼付面とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの被積層貼付面の少なくともいずれかに、コロナ処理、プラズマ処理、又は紫外線処理を施すことができる。
また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの熱圧着時における貯蔵弾性率を、5×10Pa以上5×10Pa以下とすることができる。
【0016】
ここで、特許請求の範囲における銅箔は、電解銅箔又は圧延銅箔のいずれでも良く、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの片面あるいは両面に直接積層して貼り付けることができる。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムは、少なくともポリエーテルエーテルケトン樹脂を含有する成形材料により成形することができる。成形材料には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の他、各種のフィラーを添加することができる。さらに、本発明に係る積層板は、銅張積層板や10GHz以上の周波数を用いる高周波プリント回路等に用いることが可能である。
【0017】
本発明によれば、銅箔の積層貼付面における光沢度を30以上90以下とし、銅箔の積層貼付面における算術平均高さSaを0.2μm以上0.4μm以下とするとともに、積層貼付面における最大高さSzを4μm以上6μm以下とするので、銅箔積層貼付面の大きな凹凸に伴い伝送信号が散乱することが少ない。また、金属密着性に優れるポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを使用するので、銅箔やポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが剥離したり、分離することが少ない。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、例え伝送信号の周波数が10GHz以上の場合にも、導体損失を抑制して伝送損失を低減することができるという効果がある。また、銅箔とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの良好な密着性を得ることができるという効果がある。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの28GHzにおける比誘電率を3.7以下とし、誘電正接を0.006以下とするので、高周波数帯を活用した高速通信の実現に資することができる。
請求項3記載の発明によれば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの線膨張係数を40ppm/℃以下とするので、銅箔やポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが反って剥離してしまうおそれを排除することができる。
【0020】
請求項4記載の発明によれば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの結晶化度を、5%以上30%以下とするので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムのはんだ耐熱性に問題が生じることが少ない。また、回路板として使用可能な機械的強度の確保が期待できる。
請求項5又は6記載の発明によれば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムをアロイフィルムとするので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムに新規の性能や機能を付与することが可能になる。
【0021】
請求項7又は8記載の発明によれば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムに、マイカ、タルク、窒化ホウ素、及びシリカの少なくともいずれかをフィラーとして配合するので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの特性向上が期待できる。具体的には、マイカやシリカを配合した場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの強度や寸法安定性、耐熱性、絶縁性、耐薬品性、耐水性等の向上が期待できる。また、窒化ホウ素を配合した場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの放熱性や絶縁性の向上が期待できる。シリカを配合した場合には、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性、耐水性等を向上させることが可能になる。
【0022】
請求項9記載の発明によれば、銅箔とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとを熱圧着して貼り付けるので、銅箔とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムを接着剤で接着する必要がなく、製造に必要な材料の削減が期待できる。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム上にシード層を形成するとともに、このシード層上に銅箔を積層形成し、これらシード層と銅箔を金属層にする必要もないので、製造に必要な材料の削減が期待できる他、製造時間の短縮を図ることが可能となる。
【0023】
請求項10記載の発明によれば、コロナ処理を施せば、銅箔とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとの接着性の向上を図ることが可能となる。また、プラズマ処理を施せば、接着性や清浄化の向上を図ることが可能となる。また、紫外線処理を施せば、清浄化の向上が可能になる。
請求項11記載の発明によれば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムの熱圧着時における貯蔵弾性率が5×10Pa以上5×10Pa以下の範囲なので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムが軟化して融着しなくなる事態を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る積層板及びその製造方法の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
図2】本発明に係る積層板及びその製造方法の第2の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における積層板は、図1に示すように、銅箔1とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3とが積層して貼り付けられる二層構造の銅張積層板5であり、銅箔1のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3との積層貼付面2における光沢度、算術平均高さSa、及び最大高さSzをそれぞれ数値限定し、国連サミットで採択されたSDGs(国連の持続可能な開発のための国際目標であり、17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる持続可能な開発目標)の目標9の達成に貢献する。
【0026】
銅箔1は、例えば電解めっきの原理により2μm以上100μm以下の厚さに製造される薄膜の電解銅箔等からなり、積層貼付面2にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム3の被積層貼付面4が接着材等を介することなく直接積層して熱圧着された後、フレキシブルプリント配線板等の製造時に導電回路の配線パターンに形成される。銅箔1の厚さ範囲は2μm以上100μm以下、好ましくは10μm以上50μm以下の範囲に特定されるが、これは、厚さが2μm未満の場合には、製造時や使用時のハンドリングに支障を来し、100μmを越える場合には、製造に時間を要するからである。
【0027】
銅箔1の積層貼付面2は、銅箔1の表面と裏面のいずれの面でも良い。銅箔1が電解製造装置により製造された電解銅箔の場合、電解銅箔には、ドラム状陰極面側の平滑かつ光沢を有するシャイニー(S)面と、このシャイニー面の反対側のマット(M)面とがそれぞれ形成されるが、これらシャイニー面とマット面のいずれでも積層貼付面2とすることができる。
【0028】
銅箔1のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3との積層貼付面2における光沢度は、具体的には光沢度[GS(60°)]であり、高周波信号の伝送損失を抑制する観点から、JIS Z 8741‐1997の定めに準拠して測定した場合に30以上90以下、好ましくは38以上80以下が良い。ここで、[GS(60°)]の光沢度とは、銅箔1の積層貼付面2に入射角60°で測定光線を照射し、反射角60°で跳ね返ってきた測定光線の強度を測定した輝きの尺度である。この光沢度の測定は、各種の測定機器(例えば、キーエンス株式会社製のデジタルカラー判別センサCZ‐V20シリーズや東京硝子器械株式会社製:製品名IG‐410等)を使用して測定することが可能である。
【0029】
銅箔1のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3との積層貼付面2における算術平均高さSaは、ISO 25178の国際規格に規定されており、積層貼付面2における信号伝送路を短縮し、かつ銅箔1の品質評価を容易にする観点等から、測定した場合に0.2μm以上0.4μm以下、好ましくは0.31μm以上0.38μm以下が良い。この算術平均高さSaは、各種の測定機器(例えば、キーエンス株式会社製の粗さ計/形状測定機VRシリーズやVR‐6000シリーズ、オリンパス株式会社製の3D測定レーザー顕微鏡LEXT OLS4100等)を使用して測定することが可能である。
【0030】
銅箔1のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3との積層貼付面2における最大高さSzは、ISO 25178の国際規格に規定されており、Saと共に信号伝送路を短縮する観点等から、測定した場合に4μm以上6μm以下、好ましくは4.3μm以上4.8μm以下が良い。この最大高さSzも、各種の測定機器(例えば、キーエンス株式会社製の粗さ計/形状測定機VRシリーズやVR‐6000シリーズ、オリンパス株式会社製の3D測定レーザー顕微鏡LEXT OLS4100等)を使用して測定することが可能である。
【0031】
このような銅箔1の製品例としては、TQ‐M7‐VSP〔三井金属鉱業株式会社製:製品名〕、3EC‐III〔三井金属鉱業株式会社製:製品名〕、CF‐T49A‐DS‐HD2‐12〔福田金属箔粉工業株式会社製:製品名〕等があげられる。
【0032】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3は、少なくとも電気絶縁性質、機械的性質、密着性、耐熱性、耐薬品性、耐放射線性、耐加水分解性、低吸水性、リサイクル性等に優れるポリエーテルエーテルケトン樹脂含有の成形材料を用いた溶融押出成形法により2μm以上1000μm以下、好ましくは25μm以上125μm以下の厚さの樹脂フィルムに成形される。
【0033】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、結晶性の樹脂で、示差走査熱量計で測定したガラス転移点が通常130℃以上160℃以下、好ましくは135℃以上155℃以下であるとともに、示差走査熱量計で測定した融点が通常320℃以上360℃以下、好ましくは330℃以上350℃以下であり、一般的には粉状、粒状、顆粒状、ペレット状の成形加工に適した形で使用される。
【0034】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3は、溶融押出成形法、カレンダー成形法、あるいはキャスティング法等の公知の製造法により製造可能であるが、ハンドリング性や設備の簡略化の観点からすると、溶融押出成形法により連続的に押出成形されるのが最適である。ここで、溶融押出成形法とは、溶融押出成形機を使用して成形材料を溶融混練し、溶融押出成形機の先端部のTダイスからポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3を連続的に押し出して製造する成形方法である。
【0035】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の製品例としては、特に限定されるものではないが、Victrex Powderシリーズ、Victrex Granulesシリーズ〔ビクトレック社製:製品名〕、ベスタキープシリーズ〔ダイセル・エボニック社製:製品名〕、キータスパイア PEEKシリーズ〔ソルベイスペシャルティポリマーズ社製:製品名〕等があげられる。
【0036】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の比誘電率は、高周波数帯を活用した高速通信実現の観点から、28GHzで3.7以下、好ましくは2.0以上3.7以下、より好ましくは2.0以上3.6以下が良い。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の誘電正接(tanδ)は、高周波数帯を活用した高速通信を実現するため、0.006以下、好ましくは0.002以上0.0055以下、より好ましくは0.002以上0.0052以下が好適である。これら比誘電率と誘電正接の測定方法としては、特に限定されるものではないが、高分解性に優れるファブリペロー法や空洞共振器摂動法の選択が最適である。
【0037】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の線膨張係数(CTE)は、銅箔1とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3とが剥離してしまうおそれを排除するため、40ppm/℃以下、好ましくは10ppm/℃以上40ppm/℃以下、より好ましくは15ppm/℃以上30ppm/℃以下が好適である。このポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の線膨張係数は、JIS K 7197:1991に準拠した熱機械分析装置(TMA)で測定することができるが、100μm以下の厚み方向の測定には,高精度な線膨張計(DIL)を用いることができる。本願においては、熱機械分析装置を用い、昇温速度5℃/分、25℃から125℃の温度域における線膨張係数を用いている。
【0038】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の結晶化度は、5%以上30%以下、好ましくは15%以上22%以下が好適である。これは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の結晶化度が5%未満の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3のはんだ耐熱性に問題が生じるからである。逆に、結晶化度が30%を越える場合には、高周波回路基板として使用可能な機械的強度の確保が困難になるからである。
【0039】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂により成形された薄膜のフィルムでも良いが、新しい性能・機能を確保するため、他樹脂とのアロイフィルムでも良い。具体的には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、及びパーフルオロアルコキシ(PFE)樹脂の少なくともいずれかの樹脂とのアロイフィルムでも良い。
【0040】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の成形材料には、本発明の特性を損なわない範囲で上記樹脂の他、各種のフィラーを添加することができる。例えば、マイカ、タルク、シリカ、窒化ホウ素(BN)、炭酸カルシウム、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱向上剤、無機化合物、有機化合物等を選択的に添加することができる。マイカとしては、不純物が少なく、寸法安定性等に変化が生じにくい非膨潤性の合成マイカが好ましい。また、シリカとしては、非晶質シリカが好適である。
【0041】
このような銅箔1とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3とを具備する銅張積層板5は、プリント基板を製造するための材料となり、銅箔1がエッチング処理されて配線パターン化されることにより、10GHz以上、好ましくは15GHz以上の周波数を用いるフレキシブルプリント配線板等として利用される。この銅張積層板5におけるポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の密着力、換言すれば、剥離強度は、実用性や信頼性を確保するため、JIS Z 0237:2009(粘着テープ・粘着シート試験方法)に準拠して測定した場合に6N/cm以上、好ましくは6.7N/cm以上が最適である。
【0042】
銅張積層板5の伝送特性は、銅箔1をエッチングして長さ10cm、インピーダンス50Ωのマイクロストリップラインを作製し、温度25℃・湿度50%の条件で30GHzでの伝送特性を測定した場合に、-3.9dB以下、好ましくは-3.2dB以下が良い。これは、伝送特性が-3.9dB以下の範囲であれば、低伝送損失が期待できるからである。
【0043】
上記構成において、銅張積層板5を製造する場合には、上記特性を有する銅箔1とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3とをそれぞれ用意し、銅箔1の積層貼付面2を露出させてポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3を直接重ねて積層する。この際、相対向する銅箔1の積層貼付面2とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の被積層貼付面4の少なくともいずれかの面には、必要に応じ、強度や接着性の向上に資するコロナ処理、強度や接着性、清浄化の向上に資するプラズマ処理、又は強度や清浄化を向上させる紫外線処理を予め施すことができる。
【0044】
銅箔1とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3とを積層したら、これらを熱プレス機あるいはロール間に挟み、加熱・加圧して熱圧着すれば、銅箔1とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3が一体の銅張積層板5を製造することができる。この際の熱圧着の温度は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の融点-20℃以上+10℃以下の温度範囲が好ましい。ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の融点は、成形材料のフィラーの有無等により変化するが、例えば340℃の場合には、熱圧着の温度範囲が320℃以上350℃以下の範囲とされる。
【0045】
これは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の融点-20℃未満の場合には、被積層貼付面4におけるポリエーテルエーテルケトン樹脂が溶融しないという理由に基づく。これに対し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の融点+10℃を越える場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂が激しく分解するおそれがあるという理由に基づく。また、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3の熱圧着時における貯蔵弾性率E’は、5×10Pa以上5×10Pa以下、好ましくは1×10Pa以上1×10Pa以下が良い。これは、貯蔵弾性率E’が5×10Pa以上5×10Pa以下の範囲から外れる場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3が軟化せずに融着しなくなったり、又は軟化し過ぎて流れ過ぎてしまうという理由に基づく。
【0046】
上記によれば、銅箔1の積層貼付面2における光沢度を30以上90以下とし、銅箔1の積層貼付面2における算術平均高さSaを0.2μm以上0.4μm以下とするとともに、積層貼付面2における最大高さSzを4μm以上6μm以下として平滑化するので、信号伝送路の短縮を図ることができる。したがって、銅箔1の積層貼付面2の大きな凹凸に伴い伝送信号が散乱することが少なく、例え伝送信号の周波数が10GHz以上になっても、表皮効果の発現を低減して導体損失を抑制することができる。この導体損失の抑制により、銅箔1の粗化処理面の存在に伴う伝送損失の増大という問題を有効に解消することができ、設計通りの演算速度を得ることが可能となり、伝送信号のノックオン現象による誤動作を引き起こすこともない。
【0047】
また、銅箔1が高周波数帯を扱う5G向けの場合、これまで以上に表面粗さの微細化が求められるので、最大高さSzの値だけでは平滑化が困難なときがあるが、積層貼付面2における光沢度と算術平均高さSaをもそれぞれ数値限定するので、積層貼付面2の平滑化を確実に実現することができる。さらに、単なる熱可塑性樹脂フィルムではなく、金属密着性に優れるポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3を選択するので、銅箔1の積層貼付面2を凹凸処理してアンカー効果を期待せずとも、銅箔1とポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3とが剥離したり、分離することがない。
【0048】
次に、図2は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、銅箔1の枚数を増やし、銅箔1、ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム3、及び銅箔1を順次積層して熱圧着することにより、三層構造の銅張積層板5を形成するようにしている。
銅箔1が電解銅箔の場合、電解銅箔の積層貼付面2は、光沢のシャイニー面でも良いし、無光沢のマット面でも良い。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0049】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、銅張積層板5を片面張りではなく、両面張りとするので、銅張積層板5の汎用性を著しく向上させることができるのは明らかである。
【0050】
なお、上記実施形態では銅張積層板5をフレキシブルプリント配線板の材料としたが、何らこれに限定されるものではない。例えば、自動車の衝突防止ミリ波レーダ装置、先進運転支援システム(ADAS)、人工知能(AI)等の材料としても良い。
【実施例0051】
以下、本発明に係る積層板及びその製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
実施例と比較例の両面張り銅張積層板を製造するため、表1に示す4種類の銅箔である電解銅箔、表2に示す2種類のポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム(以下、PEEK樹脂フィルムという)、及び表2に示す1種類の液晶ポリマーフィルム(以下、LCPフィルムという)をそれぞれ用意した。
【0052】
4種類の電解銅箔は、電解銅箔1を厚さ10μmのTQ‐M7‐VSP〔三井金属鉱業株式会社製:製品名〕、電解銅箔2を厚さ12μmのCF‐T49A‐DS‐HD2‐12〔福田金属箔粉工業株式会社製:製品名〕、電解銅箔3を厚さ18μmの3EC‐III〔三井金属鉱業株式会社製:製品名〕、電解銅箔4を厚さ10μmのTQ‐VLP〔三井金属鉱業株式会社製:製品名〕とした。
【0053】
・電解銅箔の光沢度
電解銅箔の光沢度を測定したが、この光沢度は、ハンディ光沢計〔堀場製作所製:製品名 グロスチェッカIG‐320〕を用い、JIS Z 8741:1997(対応国際規格ISO 2813:1994,7668:1986)に準拠し、入射角/受光角が60°/60°の条件で測定した。
【0054】
・電解銅箔の算術平均高さSa及び最大高さSz
電解銅箔の算術平均高さSa及び最大高さSzを測定したが、これらは、レーザー顕微鏡〔オリンパス株式会社製:製品名 LEXT OLS4100〕を用い、対物レンズを20倍、評価領域を646μm×648μmに設定して測定した。
【0055】
これら電解銅箔1~4のシャイニー(S)面とマット(M)面における光沢度、算術平均高さSa、及び最大高さSzを測定したところ、電解銅箔1のシャイニー面、電解銅箔2のマット面、電解銅箔3のシャイニー面が本発明の数値範囲を満たした。これに対し、電解銅箔1のマット面、電解銅箔2のシャイニー面、電解銅箔3のマット面、及び電解銅箔4が本発明の数値範囲から外れた。
【0056】
【表1】
【0057】
2種類のPEEK樹脂フィルムは、PEEK樹脂フィルム1、2共にShin‐Etsu SeplaFilm(登録商標) ポリエーテルエーテルケトン〔信越ポリマー株式会社製:製品名〕とした。PEEK樹脂フィルム1は、PEEK樹脂とタルクとを含有(重量配合比 PEEK樹脂:タルク=7:3)する成形材料を用いた溶融押出成形法により薄膜に成形され、厚さが100μmである。このPEEK樹脂フィルム1の特性を測定したところ、融点が339℃、比誘電率が3.4、誘電正接が0.0048、線膨張係数が27ppm/℃、結晶化度が21%、340℃における貯蔵弾性率E’が3×10Paであった。
【0058】
PEEK樹脂フィルム2は、PEEK樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、及びマイカを含有(重量配合比 PEEK樹脂:PEI樹脂:マイカ=8:2:3)する成形材料を用いた溶融押出成形法によりアロイフィルムに成形され、厚さが100μmである。このPEEK樹脂フィルム2の特性を測定したところ、融点が338℃、比誘電率が3.5、誘電正接が0.0051、線膨張係数が28ppm/℃、結晶化度が21%、340℃における貯蔵弾性率E’が2×10Paであった。
【0059】
LCPフィルムは、厚さ100μmのCTF‐100〔株式会社クラレ製:製品名ベクスター(登録商標)〕とした。このLCPフィルムの特性は、融点が280℃、比誘電率が3.3、誘電正接が0.002、線膨張係数が18ppm/℃である。
【0060】
・フィルムの誘電特性
フィルムの特性として誘電特性(比誘電率、誘電正接)を測定する場合には、電子計測器〔Anritsu社製:製品名 コンパクトUSBベクトルネットワークアナライザMS46122B〕を用い、開放型共振器法の一種であるファブリペロー法により、周波数28GHz付近の誘電特性を測定した。測定環境は、温度23±2℃、湿度50±10%RHであった。また、開放型共振器は、ファブリペロー共振器Model No.DPS03〔キーコム社製:製品名〕を使用した。
【0061】
・フィルムの線膨張係数(ppm/℃)
フィルムの特性として線膨張係数を測定する場合には、熱機械分析装置〔日立ハイテクサイエンス株式会社製:製品名 SII/SS7100〕を用いた引張モードにより、荷重50mN、昇温速度5℃/minの条件で10℃から200℃の範囲で測定し、20℃から140℃までの範囲の傾きから線膨張係数(ppm/℃)を求めた。具体的には、フィルムの押出方向(MD)と幅方向(TD)をそれぞれ測定してそれらの平均値とした。
【0062】
・フィルムの融点
フィルムの特性として融点を測定する場合には、JIS K 7121に準拠して測定した。具体的には、溶融押出成形したフィルムから測定用試料を約5mg秤量し、示差走査熱量計〔エスアイアイ・テクノロジーズ社製:製品名 高感度型示差走査熱量計X‐DSC7000〕を使用し、昇温速度10℃/minの条件で測定範囲20℃から380℃まで加熱して測定した。
【0063】
・PEEK樹脂フィルムの結晶化度
PEEK樹脂フィルムの特性として結晶化度を測定する場合には、PEEK樹脂フィルムから測定用試料を約5mg秤量し、示差走査熱量計〔エスアイアイ・テクノロジー社製:製品名 高感度型示差走査熱量計X‐DSC7000〕を使用して10℃/minの昇温速度で加熱し、このとき得られる結晶融解ピークの熱量(J/g)、再結晶ピークの熱量(J/g)から以下の式を用いて算出した。
【0064】
結晶化度(%)={(ΔHm-ΔHc)/ΔHx}×100
ここで、ΔHmはPEEK樹脂フィルムの10℃/minの昇温条件下での結晶融解ピークの熱量(J/g)、ΔHcはPEEK樹脂フィルムの10℃/minの昇温条件下での再結晶融解ピークの熱量(J/g)、ΔHcは100%結晶化したPEEK樹脂フィルムの融解エネルギーの理論値であり、130J/gである。
【0065】
・フィルムの貯蔵弾性率E’
フィルムの特性として貯蔵弾性率E’を測定する場合には、フィルムの押出方向の貯蔵弾性率E’を測定した。具体的には、成形したPEEK樹脂フィルムの押出方向60mm×幅方向(押出方向の直角方向)6mmの大きさに切り出し、動的粘弾性測定装置〔ティー・エス・インスルメント・ジャパン社製:製品名 RSA‐G2〕を用いた引張モードにより、周波数1Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/min、チャック間21mmの条件下で測定した。測定温度範囲は-60℃~360℃に設定した。
【0066】
【表2】
【0067】
〔実施例1〕
電解銅箔1、PEEK樹脂フィルム1、及び電解銅箔1を順次積層(表3参照)し、これらを340℃に温度調整した熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔1のシャイニー面を積層貼付面としてその間にPEEK樹脂フィルム1を直接介在させた。また、熱圧着の条件は、面圧を4MPa、圧着時間を5分間に設定した。
【0068】
両面張りの銅張積層板を作製したら、この銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4にまとめ、銅張積層板の性能を○×評価した。銅張積層板の密着力は、JIS Z 0237:2009に準拠して測定した。具体的には、銅張積層板をカットして幅25mmの試験体を作製し、この試験体を支持体上に固定した後、JIS Z 0237:2009に基づき、剥離速度0.3m/分、分離角180°の条件下で試験体から表面の電解銅箔1を剥離しながら剥離強度を測定することにより、密着力を測定した。
【0069】
銅張積層板の伝送特性については、電解銅箔をエッチングして長さ10cm、インピーダンス50Ωのマイクロストリップラインを作製し、温度25℃・湿度50%の条件で30GHzでの伝送特性を測定することとした。また、銅張積層板の性能の○×評価は、実用性に優れる場合には○、実用性に耐えない場合には×とした。
【0070】
〔実施例2〕
電解銅箔2、PEEK樹脂フィルム1、及び電解銅箔2を順次積層(表3参照)し、これらを340℃に温度調整した熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔2のマット面を積層貼付面としてその間にPEEK樹脂フィルム1を直接介在させた。また、熱圧着の条件は、面圧を4MPa、圧着時間を5分間に設定した。
両面張りの銅張積層板を作製したら、実施例1同様、銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4にまとめ、銅張積層板の性能を○×評価した。
【0071】
〔実施例3〕
電解銅箔3、PEEK樹脂フィルム1、及び電解銅箔3を順次積層(表3参照)し、これらを340℃に温度調整した熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔3のシャイニー面を積層貼付面としてその間にPEEK樹脂フィルム1を直接介在させた。また、熱圧着の条件は、面圧を4MPa、圧着時間を5分間に設定した。
両面張りの銅張積層板を作製したら、実施例1同様、銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4にまとめ、銅張積層板の性能を○×評価した。
【0072】
〔実施例4〕
電解銅箔1、PEEK樹脂フィルム2、及び電解銅箔1を順次積層(表3参照)し、これらを340℃に温度調整した熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔1のシャイニー面を積層貼付面としてその間にPEEK樹脂フィルム2を直接介在させた。また、熱圧着の条件は、実施例1と同様とした。
両面張りの銅張積層板を作製したら、実施例1同様、銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4にまとめ、銅張積層板の性能を○×評価した。
【0073】
〔比較例1〕
電解銅箔1、PEEK樹脂フィルム1、及び電解銅箔1を順次積層(表3参照)し、これらを340℃に温度調整した熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔1のマット面を積層貼付面としてその間にPEEK樹脂フィルム1を直接介在させた。また、熱圧着の条件は、面圧を4MPa、圧着時間を5分間に設定した。
両面張りの銅張積層板を作製したら、実施例1同様、銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4に記載し、銅張積層板の性能を○×評価した。
【0074】
〔比較例2〕
電解銅箔2、PEEK樹脂フィルム1、及び電解銅箔2を順次積層(表3参照)し、これらを340℃に温度調整した熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔2のシャイニー面を積層貼付面としてその間にPEEK樹脂フィルム1を直接介在させた。また、熱圧着の条件は、面圧を4MPa、圧着時間を5分間に設定した。
両面張りの銅張積層板を作製したら、実施例1同様、銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4に記載し、銅張積層板の性能を○×評価した。
【0075】
〔比較例3〕
電解銅箔3、PEEK樹脂フィルム1、及び電解銅箔3を順次積層(表3参照)し、これらを340℃に温度調整した熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔3のマット面を積層貼付面としてその間にPEEK樹脂フィルム1を直接介在させた。また、熱圧着の条件は、面圧を4MPa、圧着時間を5分間に設定した。
両面張りの銅張積層板を作製したら、実施例1同様、銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4に記載し、銅張積層板の性能を○×評価した。
【0076】
〔比較例4〕
電解銅箔4、PEEK樹脂フィルム1、及び電解銅箔4を順次積層(表3参照)し、これらを340℃に温度調整した熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔4のシャイニー面を積層貼付面としてその間にPEEK樹脂フィルム1を直接介在させた。また、熱圧着の条件は、面圧を4MPa、圧着時間を5分間に設定した。
両面張りの銅張積層板を作製したら、実施例1同様、銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4に記載し、銅張積層板の性能を○×評価した。
【0077】
〔比較例5〕
電解銅箔4、PEEK樹脂フィルム1、及び電解銅箔4を順次積層(表3参照)し、これらを340℃に温度調整した熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔4のマット面を積層貼付面としてその間にPEEK樹脂フィルム1を直接介在させた。また、熱圧着の条件は、実施例1と同様とした。
両面張りの銅張積層板を作製した後、実施例1同様、銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4にまとめ、銅張積層板の性能を○×評価した。
【0078】
〔比較例6〕
電解銅箔1、PEEK樹脂フィルム2、及び電解銅箔1を順次積層(表3参照)し、これらを340℃に温度調整した熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔1のマット面を積層貼付面としてその間にPEEK樹脂フィルム1を直接介在させた。また、熱圧着の条件は、実施例1と同様とした。
両面張りの銅張積層板を作製した後、実施例1同様、銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4にまとめ、銅張積層板の性能を○×評価した。
【0079】
〔比較例7〕
電解銅箔1、LCPフィルム、及び電解銅箔1を順次積層(表3参照)し、これらを熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔1のシャイニー面を積層貼付面としてその間にLCPフィルムを直接介在させた。また、熱圧着の温度は、LCPフィルムの融点-20℃以上+10℃以下の温度範囲とし、具体的には270℃とした。熱圧着の条件は、面圧を4MPa、圧着時間を5分間に設定した。
両面張りの銅張積層板を作製した後、実施例1同様、銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4にまとめ、銅張積層板の性能を○×評価した。
【0080】
〔比較例8〕
電解銅箔1、LCPフィルム、及び電解銅箔1を順次積層(表3参照)し、これらを270℃に温度調整した熱プレス機にセットして熱圧着することにより、三層構造の両面張りの銅張積層板を作製した。この際、一対の電解銅箔1のマット面を積層貼付面としてその間にLCPフィルムを直接介在させた。また、熱圧着の条件は、実施例1と同様とした。
両面張りの銅張積層板を作製した後、実施例1同様、銅張積層板の密着力と伝送特性を測定して表4にまとめ、銅張積層板の性能を○×評価した。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
〔評 価〕
各実施例の銅張積層板の場合、良好な密着力と伝送特性をバランス良く共に得ることができ、実用的に優れた効果を得られるのが判明した。これに対し、比較例1~6、比較例8の銅張積層板の場合、密着力には優れるものの、満足する伝送特性を得ることができなかった。また、比較例7の銅張積層板の場合、伝送特性には優れるものの、密着力に大きな問題が生じ、実用性に疑義が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る積層板及びその製造方法は、銅張積層板、フレキシブルプリント配線板、高周波プリント回路等の分野で使用される。
【符号の説明】
【0085】
1 銅箔
2 積層貼付面
3 ポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルム
4 被積層貼付面
5 銅張積層板
図1
図2