IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 内山工業株式会社の特許一覧

特開2023-88143成形型、複合成形品の製造方法及びスペーサ
<>
  • 特開-成形型、複合成形品の製造方法及びスペーサ 図1
  • 特開-成形型、複合成形品の製造方法及びスペーサ 図2
  • 特開-成形型、複合成形品の製造方法及びスペーサ 図3
  • 特開-成形型、複合成形品の製造方法及びスペーサ 図4
  • 特開-成形型、複合成形品の製造方法及びスペーサ 図5
  • 特開-成形型、複合成形品の製造方法及びスペーサ 図6
  • 特開-成形型、複合成形品の製造方法及びスペーサ 図7
  • 特開-成形型、複合成形品の製造方法及びスペーサ 図8
  • 特開-成形型、複合成形品の製造方法及びスペーサ 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088143
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】成形型、複合成形品の製造方法及びスペーサ
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/27 20060101AFI20230619BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20230619BHJP
   F02F 1/10 20060101ALI20230619BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
B29C45/27
B29C45/14
F02F1/10 D
F01P3/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202825
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
(72)【発明者】
【氏名】綱澤 啓太
【テーマコード(参考)】
3G024
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
3G024AA21
3G024AA28
3G024CA01
3G024CA05
3G024CA11
3G024CA26
3G024HA13
4F202AD08
4F202AD35
4F202AH81
4F202CA11
4F202CB01
4F202CB12
4F202CK06
4F202CK12
4F202CQ01
4F206AD08
4F206AD35
4F206AH81
4F206JA07
4F206JB12
4F206JN11
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】複数のシート体を備える複合成形品を製造する際に溶融樹脂の流れをコントロールできる成形型、これを用いた複合成形品の製造方法及び複合成形品を提供する。
【解決手段】樹脂からなる成形体2と、前記成形体の一方面2a側に一部が重ねて配された複数のシート体とを備える複合成形品1をインサート成形する際に用いられる成形型10であって、第1型11及び第2型12を備え、前記第1型は、第1シート体3を介して第2シート体4が載置される第1キャビティ面110と、前記第1シート体の非重なり部分31の端部31a,31b側から前記第1シート体側へ溶融樹脂rを誘導する位置に設けられる誘導突部111とを備えており、樹脂供給口121は、当該樹脂供給口と前記第1シート体の非重なり部分との間に重なり部分6が配置される位置に設けられる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる成形体と、前記成形体の一方面側に一部が重ねて配された複数のシート体とを備える複合成形品をインサート成形する際に用いられる成形型であって、
溶融樹脂を射出する樹脂供給口を有し、該樹脂供給口から射出される前記溶融樹脂が充填され、複数のシート体のうち、第1シート体の一部と第2シート体の一部との重なり部分で前記溶融樹脂の流路が非重なり部分の流路と均等でないキャビティが形成される第1型及び第2型を備え、
前記第1型は、前記複数のシート体のうち、第1シート体の一部と第2シート体の一部との重なり部分では前記第1シート体を介して第2シート体が載置される第1キャビティ面と、前記第2シート体の一部と重なっていない前記第1シート体の非重なり部分の端部に沿って設けられるとともに前記第1シート体の前記非重なり部分の前記端部側から前記第1シート体側へ前記溶融樹脂を誘導する位置に設けられる誘導突部とを備えており、
前記樹脂供給口は、当該樹脂供給口と前記第1シート体の非重なり部分との間に前記重なり部分が配置される位置に設けられることを特徴とする成形型。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2型は、前記第1型の第1キャビティ面に対向して配置される第2キャビティ面を備え、
前記樹脂供給口は、前記第2キャビティ面における前記第1シート体の一部と重なっていない前記第2シート体の前記非重なり部分に対向する位置に設けられていることを特徴とする成形型。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記誘導突部は、前記第1シート体における対向する端部に接するように対向して設けられていることを特徴とする成形型。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記誘導突部は、前記第1シート体の端部に接しない側に傾斜面が形成されていることを特徴とする成形型。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、
前記誘導突部は、前記第1シート体及び前記第2シート体が前記第1キャビティ面に載置された状態において、前記第2シート体の非重なり部分の端部に接する位置まで延出して設けられていることを特徴とする成形型。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、
前記誘導突部には、前記第1シート体の端部を固定するための係止部が設けられていることを特徴とする成形型。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項において、
前記誘導突部は、前記第1キャビティ面からの突出寸法が、前記第1シート体の厚み寸法以上であることを特徴とする成形型。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項において、
前記第1キャビティ面には、前記第1シート体が載置される凹曲面部が設けられていることを特徴とする成形型。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項において、
前記複合成形品は、内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路内に配置されて冷却水の流れを規制するスペーサであることを特徴とする成形型。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の成形型を用いて、複数の前記シート体と前記成形体とを備える複合成形品の製造方法であって、
前記第1キャビティ面に設けられた前記誘導突部に当接させて前記第1シート体を配置する第1配置工程と、
前記第1シート体の一部に前記第2シート体の一部を重ねた状態で配置する第2配置工程と、
前記第1型及び前記第2型の前記キャビティ内に前記樹脂供給口から前記溶融樹脂を射出し、前記成形体を成形する成形工程とを備えていることを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、
矩形状の前記第1シートの両側部の一方に第3シート体の一部を重ねた状態で配置する第3配置工程をさらに備え、
前記第2配置工程では、前記第1シート体の両側部の他方に前記第2シート体の一部を重ねた状態で配置し、
前記成形型には、前記第3シート体の非重なり部分に向けて溶融樹脂を射出する第2樹脂供給口が設けられていることを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項12】
請求項10または請求項11において、
前記複数のシート体は、所定の外的要因によって、圧縮状態から厚さ方向に復元し膨大化する特性を有する薄状シートであり、復元前の圧縮状態のものが用いられることを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項13】
複数のシート体の一部を重ねた状態で成形体の一方面に一体成形され、内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路内に配置されて冷却水の流れを規制するスペーサであって、
前記成形体は、前記複数のシート体が重なっていない非重なり部分に隣接し、一方面側に窪んだ形状の凹状部を有することを特徴とするスペーサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形品を製造する際に用いられる成形型、成形型を用いた複合成形品の製造方法及びスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート体と樹脂からなる成形体とが一体成形された複合成形品が知られている。このような複合成形品は、成形型のキャビティを形成するキャビティ面にシート体を載置し、成形体の原料となる溶融樹脂をキャビティ内に射出されることによって製造される。しかし、このようにして複合成形品を製造する際には、キャビティ内に射出された溶融樹脂の樹脂流れによってシート体の位置ずれやめくれ等が発生して成形不良が発生するおそれがある。そこで上記課題を解決するものとして、下記特許文献1,2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭58-48162号公報
【特許文献2】特開2020-112156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数のシート体同士を重ねて成形型のキャビティ面に載置すると、複数のシート体が重なり合っている重なり部分と重なり合っていない非重なり部分が構成される。その状態で溶融樹脂が充填されるキャビティ内に溶融樹脂を射出すると、重なり部分は他の部分よりも厚みが増しているため、キャビティ内の流路が狭くなる。そのため、溶融樹脂はシート体の形状や射出速度によっては、溶融樹脂が流れやすい非重なり部分からシート体の表面側(意匠側)へ流れ込む場合がある。また、溶融樹脂が流れやすい非重なり部分において、シート体の端部を押すように溶融樹脂が流れ込むと、シート体の位置ずれ、浮き上がり、めくれ等が生じ、成形不良の発生につながるおそれがある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、複数のシート体を備える複合成形品を製造する際に溶融樹脂の流れをコントロールできる成形型、これを用いた複合成形品の製造方法及びスペーサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の成形型は、樹脂からなる成形体と、前記成形体の一方面側に一部が重ねて配された複数のシート体とを備える複合成形品をインサート成形する際に用いられる成形型であって、溶融樹脂を射出する樹脂供給口を有し、該樹脂供給口から射出される前記溶融樹脂が充填され、複数のシート体のうち、第1シート体の一部と第2シート体の一部との重なり部分で前記溶融樹脂の流路が非重なり部分の流路と均等でないキャビティが形成される第1型及び第2型を備え、前記第1型は、前記複数のシート体のうち、第1シート体の一部と第2シート体の一部との重なり部分では前記第1シート体を介して第2シート体が載置される第1キャビティ面と、前記第2シート体の一部と重なっていない前記第1シート体の非重なり部分の端部に沿って設けられるとともに前記第1シート体の前記非重なり部分の前記端部側から前記第1シート体側へ前記溶融樹脂を誘導する位置に設けられる誘導突部とを備えており、前記樹脂供給口は、当該樹脂供給口と前記第1シート体の非重なり部分との間に前記重なり部分が配置される位置に設けられることを特徴とする。
【0007】
また、上記目的を達成するために、本発明の複合成形品の製造方法は、前記成形型を用いて、複数の前記シート体と前記成形体とを備える複合成形品の製造方法であって、前記第1キャビティ面に設けられた前記誘導突部に当接させて前記第1シート体を配置する第1配置工程と、前記第1シート体の一部に前記第2シート体の一部を重ねた状態で配置する第2配置工程と、前記第1型及び前記第2型の前記キャビティ内に前記樹脂供給口から前記溶融樹脂を射出し、前記成形体を成形する成形工程とを備えていることを特徴とする。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本発明のスペーサは、複数のシート体の一部を重ねた状態で成形体の一方面に一体成形され、内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路内に配置されて冷却水の流れを規制するスペーサであって、前記成形体は、前記複数のシート体が重なっていない非重なり部分に隣接し、一方面側に窪んだ形状の凹状部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る成形型によれば、複数のシート体を備える複合成形品を製造する際に溶融樹脂の流れをコントロールできる。
【0010】
また、本発明に係る複合成形品の製造方法によれば、溶融樹脂の流れをコントロールして複数のシート体を備える複合成形品を製造することができる。
【0011】
また、本発明のスペーサによれば、非重なり部分に隣接した凹状部によってシート体の端部が成形体によって固定されないため、シート体の端部の復元量が減少せず、整流制御効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る成形型とシート体の配置について説明するための模式的概略平面図であり、(b)は(a)のX-X’線矢視断面図、(c)は(a)のY-Y’線矢視断面図、(d)は同成形型で製造された複合成形品の一例を示す模式的断面図である。
図2】同実施形態の成形型を用いた複合成形品の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図3】同実施形態に係る成形型の変形例を説明するための図であり、(a)~(c)はそれぞれ第1シート体と第2シート体と誘導突部との位置関係を模式的に示している。
図4】同実施形態に係る成形型の変形例を説明するための図であり、(a)~(c)はそれぞれ第1シート体と第2シート体と誘導突部との位置関係を模式的に示している。
図5】(a)~(c)は同実施形態の変形例に係る成形型を用いた複合成形品の製造方法の一例を説明するために模式的に示した断面図である。(a)は第1シート体を成形型に配置する第1配置工程を示した図、(b)は第2シート体を成形型に配置する第2配置工程を示した図、(c)は型閉しキャビティ内に溶融樹脂を射出する射出工程を示した図である。
図6図5に示す成形型によって製造された複合成形品をスペーサとして冷却水流路内に組付けた状態を示す部分横断面図であり、(a)はシート体が膨大化する前の状態を示し、(b)はシート体が膨大化した後の状態を示している。
図7】本発明の第2実施形態に係る成形型とシート体の配置について説明するための概略平面図である。
図8】同実施形態に係る成形型の変形例を説明するための図であり、(a)~(c)はそれぞれ第1シート体と第2シート体と誘導突部との位置関係を模式的に示している。
図9】本発明の第3実施形態に係る成形型とシート体の配置について説明するための概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本実施形態に係る成形型、複合成形品の製造方法及び複合成形品について、図面を参照しながら説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。図中、二点鎖線で示す矢印は、樹脂供給口121から射出された溶融樹脂rの流れを模式的に図示している。また、図1(a)、図3図4図7図8図9において、紙面上の右側を一方側、その反対側となる左側を他方側、上側を上方側、その反対側となる下側を下方側とする。
【0014】
本実施形態に係る成形型10は、樹脂からなる成形体2と、成形体2の一方面2a側に一部が重ねて配された複数のシート体とを備える複合成形品1をインサート成形する際に用いられる。成形型10は、溶融樹脂rを射出する樹脂供給口121を有する。また、成形型10は、樹脂供給口121から射出される溶融樹脂rが充填され、複数のシート体のうち、第1シート体3の一部と第2シート体4の一部との重なり部分6で溶融樹脂rの流路が非重なり部分の流路と均等でないキャビティ100が形成される第1型11及び第2型12を備える。第1型11は、複数のシート体のうち、第1シート体3の一部と第2シート体4の一部との重なり部分6では第1シート体3を介して第2シート体4が載置される第1キャビティ面110を備える。また、第1型11は、第2シート体4の一部と重なっていない第1シート体3の非重なり部分31の端部に沿って設けられるとともに第1シート体3の非重なり部分31の端部側から第1シート体3側へ溶融樹脂rを誘導する位置に設けられる誘導突部111を備える。樹脂供給口121は、樹脂供給口121と第1シート体3の非重なり部分31との間に重なり部分6が配置される位置に設けられる。
以下、詳しく説明する。
【0015】
<第1実施形態>
まずは、図1図6を参照しながら、第1実施形態に係る成形型、製造方法及び複合成形品について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
<成形型>
成形型10は、図1(b)及び図1(c)に示すように固定型である第1型11と、第1型11に相対して接離自在に移動する可動型である第2型12とにより構成される。第1型11の第1キャビティ面110には、第1シート体3が載置され、第1シート体3の一部の上に重ねて第2シート体4が載置され、その状態で溶融樹脂rが射出されインサート成形される。また第1型11の第1キャビティ面110には、溶融樹脂rの流れをコントロールする誘導突部111が設けられている。
【0017】
誘導突部111は、第2シート体4の一部と重なっていない第1シート体3の非重なり部分31の端部31a,31bに沿って設けられるとともに第1シート体3の非重なり部分31の端部31a,31b側から第1シート体3の中央部位へ向けて溶融樹脂rを誘導する位置に設けられる。具体的には、誘導突部111は、図1(a)及び図1(b)に示すように、成形型10が型閉された状態で第1キャビティ面110から第2キャビティ面120側に向けて突出している。誘導突部111は、第1シート体3の短手方向すなわち上下方向のそれぞれの端部31a,31bに接するように対向して一対に設けられており、一対の誘導突部111,111との間には、第1シート体3が配置される。誘導突部111の突出寸法は、第1シート体3の厚みと略同一に設けられる。誘導突部111は、第1シート体3の端部31a,31bに接しない側のそれぞれの角部に傾斜面111aが形成されている。傾斜面111aの角度は特に限定されないが、射出される溶融樹脂rが射出圧で他方面30b上に向けて流動できる角度とされ、第1キャビティ面110から第1シート体3の他方面30b上に向けて上がり傾斜になるように形成されている。
【0018】
第2型12は、第1型11の第1キャビティ面110に対向して配置される第2キャビティ面120と、外部から供給される溶融樹脂rをキャビティ100に射出する樹脂供給口121とを有する。図1(b)及び図1(c)に示す第2キャビティ面120は、第1キャビティ面110と略平行となるように形成されている。樹脂供給口121は、第2キャビティ面120における第1シート体3の一部と重なっていない第2シート体4の非重なり部分41に対向する位置に設けられている。言い換えると、樹脂供給口121を、第1シート体3や重なり部分6と対向する位置に設けるのではなく、図1(c)に示すように、樹脂供給口121は、第1シート体3及び第2シート体4が第1型11の第1キャビティ面110に載置された状態において、樹脂供給口121と第1シート体3の非重なり部分31との間に重なり部分6が配置される位置に設けられる。
【0019】
次に第1キャビティ面110に載置される複数のシート体について説明する。まず、第1シート体3は、長方形状(矩形状)のシート体であり、長手方向の寸法は誘導突部111の長手方向の寸法よりも大きく、短手方向の寸法は、誘導突部111,111間の寸法と略同一に構成されている。第1シート体3は、短手方向の両端部3a,3bのうち、非重なり部分31の両端部31a,31bが誘導突部111,111に接触し、一方面30a(図1(b)及び図1(c)参照)が第1キャビティ面110に当接して配置される。
【0020】
第2シート体4は、長方形状(矩形状)のシート体であり、第1シート体3よりも大きく形成され、その厚みは第1シート体3の厚みと略同一に構成されている。そして、第2シート体4は、第1型11の第1キャビティ面110に載置される際、誘導突部111,111には接触しないように、その一部が第1シート体3の一部と重なった状態に配置される。よって、第2シート体4の一部が、第1シート体3の一方側の端部3cに直接被さり重なった状態となる。そして、第2シート体4は、第1型11の一方側且つ第2シート体4の第1シート体3と重なっていない部分である非重なり部分41が後述する第2型12の樹脂供給口121と厚さ方向に重なった位置に配置される。また、第2シート体4は、一方面40aが第1シート体3及び第1キャビティ面110に当接して配置される。
【0021】
第2シート体4は、配置された際に、上方側の端部4aが上方側の誘導突部111よりも上方側に位置し、下方側の端部4bが、下方側の誘導突部111よりも下方側に位置する形状となっている。これにより、後述する複合成形品1の製造方法において、第2シート体4の非重なり部分41に向けて射出された溶融樹脂rが、非重なり部分41から第1キャビティ面110に流れ込んだ後、誘導突部111の傾斜面111aを経由し、第1シート体3の他方面30b側へ流れ込みやすくなる。
【0022】
第1シート体3及び第2シート体4は、シート体であればその材質は特に限定されることはなく金属製のシートや樹脂製のシートであってもよいが、少なくとも第2シート体4は、第1シート体3に重ねて用いられるため、可撓性のシート体が好ましい。第1シート体3の一方面30a及び第2シート体4の一方面40aが複合成形品1の意匠面として露出して用いられるものであれば、模様や色彩等が設けられた樹脂製の化粧シートやレザーシート、木目シート、コルクシート等の化粧材を用いてもよい。また、第1シート体3及び第2シート体4は複合成形品1の機能性を高めるものであってもよい。例えば機能性を有するシート材としては、スキミング等を防止するための電波を遮断する電磁波干渉防止シート、熱源からの熱伝導を低下させる断熱シート、衛生面や清掃性を考慮した抗菌性・抗ウィルス性シートや防汚性シート等が挙げられる。また、複合成形品1がスペーサである場合には、所定の外的要因によって、圧縮状態から厚さ方向に復元し膨大化する特性を有する薄状シートであってもよく、例えば、後述するセルロース系スポンジを圧縮してシート状にしたものでもよい。
【0023】
以上の成形型10の第1型11の第1キャビティ面110に、第1シート体3及び第2シート体4を配置し、第1型11及び第2型12を型閉すると、第1型11の第1キャビティ面110と第2型12の第2キャビティ面120とによってキャビティ100が形成される。図1(b)に示すように、第1シート体3と第2シート体4との重なり部分6と第2キャビティ面120との間の寸法a1が、第2シート体4の非重なり部分41(または第1シート体3の非重なり部分31)と第2キャビティ面120との間の寸法a2よりも小さくなる。また、当該寸法a2は、第1キャビティ面110と第2キャビティ面120との間の寸法a3よりも小さくなる。このように、第1シート体3の一部と第2シート体4の一部とが第1キャビティ面110で重なりあって載置されることで、キャビティ100内にそれぞれシート体の厚さ方向における間隔が均等ではない溶融樹脂rの流路が形成される。また、第1キャビティ面110から第2シート体4が浮き上がって流路が狭くなったり、狭くならない場合でも、各キャビティ面が屈曲して形成されたりして、流路が均等でない場合になることがある。
【0024】
上記構成の成形型10によれば、溶融樹脂rの流路が均等でなくなることで、溶融樹脂rの流動抵抗が増し、樹脂供給口121から射出された溶融樹脂rが重なり部分6を経由せず、第1シート体3の非重なり部分31の短手方向の端部31a,31bから第1シート体3側へ流れても、第1シート体3の端部31a,31bに沿って第1シート体3側へ誘導する誘導突部111,111が設けられているので、溶融樹脂rが意図しない方向や部位に流れてしまうこと(第1シート体3の一方面30aへの回り込み)を抑制する。すなわち、溶融樹脂rの樹脂流れを誘導突部111によってコントロールすることができる。また誘導突部111は、第1シート体3の非重なり部分31の端部31a,31bに接する位置に設けられており、溶融樹脂rが非重なり部分31の端部31a,31bに直接接触しないので、溶融樹脂rによって第1シート体3の非重なり部分31の端部31a,31bが押されることがない。したがって、成形型10を用いることによって、第1シート体3の位置ずれを抑制し、複合成形品1の成形不良が低減できる。
【0025】
また成形型10によれば、第2シート体4の非重なり部分41に対向する位置に樹脂供給口121が設けられているので、溶融樹脂rが第2シート体4に射出され、樹脂流れが第2シート体4の端部4a,4bを押すことによる位置ずれや、第2シート体4の一方面40a(意匠面側)と第1キャビティ面110との間への溶融樹脂rの回り込みを抑制できる。
【0026】
さらに誘導突部111は、第1シート体3の非重なり部分31の上下方向の両端部31a,31bに接するように対向して設けられており、第1シート体3を挟持するように誘導突部111が設けられているので、第1シート体3の短手方向について第1キャビティ面110に固定(または位置決め)することができ、第1シート体3の位置ずれや浮き上がりをより抑制することができる。また誘導突部111は、第1シート体3の端部31a,31bに接しない側に傾斜面111aが形成されているので、傾斜面111aによって、溶融樹脂rがスムーズに第1キャビティ面110から第1シート体3側に誘導できる。
【0027】
<製造方法>
次に、図1(d)に示す複合成形品1の製造方法の一例について、図1図2を参照しながら説明する。以下、図2においてS101~S106で示されるフローチャートに沿って詳しく説明する。なお、以下の説明では、図2の製造ステップについて「ステップS×××」と記述するところを、符号のみの「S×××」と略記する。
第1実施形態における複合成形品1の製造方法は、上述の成形型10を用い、第1型11の第1キャビティ面110に設けられた誘導突部111に当接させて第1シート体3を配置する第1配置工程(S101)と、第1シート体3の一部に第2シート体4の一部を重ねた状態で配置する第2配置工程(S102)とを備えている。さらに、本実施形態の複合成形品1の製造方法は、第1型11及び第2型12のキャビティ100内に樹脂供給口121から溶融樹脂rを射出し、成形体2を成形する成形工程(S104,S105)を備えている。
【0028】
複合成形品1の製造に用いられる溶融樹脂rは、複合成形品1における成形体2の形状や用途、機能等に応じて種々のものが用いられる。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ABS、アクリル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂でもよい。また、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂でもよい。また、溶融樹脂rとしては、例えば、銀系の抗菌剤等の添加剤が添加されたもの、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含むもの等、種々の樹脂複合材が用いられてもよい。
【0029】
まず、型開された第1型11の第1キャビティ面110に第1シート体3を配置する第1配置工程(S101)を行う。第1シート体3は、第1キャビティ面110に設けられた誘導突部111,111の間に挟まれる形で短手方向の端部3a,3bを当接させて配置される。このとき、第1シート体3は、誘導突部111,111間におさまるように形成されるが、寸法精度により、若干小さく形成され、端部31a,31bと誘導突部111,111との間に隙間が生じても、誘導突部111によって溶融樹脂rが第1シート体3の一方面30aへ回り込むことを防ぐことができる。また第1シート体3が寸法精度により、若干大きく形成されても、例えば第1シート体3が可撓性シートであれば、縁部を容易に潰して誘導突部111,111間に押し込んで配置することができる。
【0030】
次に、第1シート体3の一部に第2シート体4の一部が重なるように第2シート体4を第1キャビティ面110に配置する第2配置工程を行う(S102)。このとき、第2シート体4の長手方向の他方側の端部4dは、第1シート体3の一部を介して第1キャビティ面110に載置されるので、第2シート体4の一部は第1キャビティ面110に直接接触しない。また、この例では、第2シート体4が誘導突部111,111に当接しないように配置される。こうして第1シート体3及び第2シート体4が第1キャビティ面110に配置されたら、第1型11及び第2型12の型閉を行う(S103)。この型閉により、第1キャビティ面110及び第2キャビティ面120により構成され、溶融樹脂rが充填される空間であるキャビティ100が形成される。
【0031】
続いて成形工程を行う(S104,S105)。型閉により形成されたキャビティ100内に、樹脂供給口121を介して外部から供給された溶融樹脂rを射出する溶融樹脂射出工程(S104)を行う。
樹脂供給口121から射出される溶融樹脂rは、図1(c)に示すようにまず樹脂供給口121の直下に配置された第2シート体4の他方面40bに向けて射出され、放射状に拡がる。そして、溶融樹脂rは、第2シート体4の一方の端部4c側へ流動するとともに、図1(a)に示すように第2シート体4の他方の端部4d側へも流動する。このとき、第2シート体4の他方の端部4d側へ流れる溶融樹脂rは、第1シート体3の一部との重なり部分6の流路が狭いため(図1(b)・寸法a1参照)、図1(a)の2点鎖線で示すように狭い流路にも流れようとはするが、ほとんどが第1シート体3の短手方向の端部31a,31b側へ流れる。このとき、第1シート体3の端部31a,31b側へ流動する溶融樹脂rは、誘導突部111,111によって誘導され、傾斜面111a,111aを乗り越えて第1シート体3の他方面30bに流れるので、第1シート体3の位置ずれや端部31a,31bがめくれて溶融樹脂rが第1シート体3と第1キャビティ面110との間に流れ込むことが抑制される。
このとき、第2シート体4は誘導突部111に接触しないように配置されているが、第2シート体4の一方面40aのうち誘導突部111及び第1シート体3の近傍となる部分は、第1キャビティ面110からやや浮き上がった状態となっており、キャビティ100が狭く樹脂が流動しにくいため、第2シート体4と当該誘導突部111との隙間から第1シート体の非重なり部分の端部31a,31bに流れ込むことが抑制される。
【0032】
また樹脂供給口121は、上述のとおり、第2キャビティ面120における第1シート体3の一部と重なっていない第2シート体4の非重なり部分41に対向する位置に設けられているので、溶融樹脂rが第2シート体4に射出され、樹脂流れが第2シート体4の端部4a,4bを押すことによる位置ずれや、第2シート体4の一方面40aと第1キャビティ面110との間への溶融樹脂rの回り込みを抑制できる。
【0033】
こうして、キャビティ100全体に溶融樹脂rが行き渡るように溶融樹脂rを充填した後、キャビティ100内に充填された溶融樹脂rを保圧状態で冷却して固化し、複合成形品1の成形体2が成形される(S105)。そして、溶融樹脂rが固化され成形体2が成形された後、第2型12を型開方向に移動させ型開を行う(S106)。そして、成形体2を第1型11から取り外し、樹脂供給口121内で固化した部分をカットすることで、図1(d)に示すような複合成形品1が製造される。図1(d)では図示を省略しているが、製造時に誘導突部111,111があった部分が、図6(a)及び図6(b)に示すような成形体2の凹状部20となる。
【0034】
以上の複合成形品1の製造方法によれば、第1シート体3及び第2シート体4をインサート成形して製造する複合成形品1を誘導突部111によって溶融樹脂rの樹脂流れをコントロールして製造することができ、意匠面に樹脂の回り込みがなく、成形不良が生じにくい精度の高い複合成形品1が製造できる。
【0035】
<第1実施形態の成形型の変形例>
次に、第1実施形態の成形型10の変形例について、図3図4を参照しながら説明する。なお、上述の実施形態と共通する部分の構成及び効果の記述については省略する。また、図3図4はいずれも、図1(a)と同様図で、第1型11の第1キャビティ面110と第1シート体3及び第2シート体4との配置関係を平面視した状態を図示している。
【0036】
図3(a)に示す成形型10に設けられた誘導突部111は、第1シート体3の短手方向すなわち上下方向の端部3a,3b(縁部)を固定するための係止部112,112を備える点が上記第1実施形態と異なる。係止部112は、第1シート体3の端部3a,3b側に向けて半円状に突出した形状となっており、1つの誘導突部111に対して長手方向に離隔して並んで複数設けられている。第1キャビティ面110に第1シート体3が載置される際、係止部112が第1シート体3の誘導突部111に対向する端部に食込むことにより、第1シート体3をより確実に第1キャビティ面110に固定して配置することができる。
【0037】
また、第1シート体3の短手寸法が、誘導突部111,111間の寸法よりも公差内で小さいサイズであった場合、第1シート体3と誘導突部111との間にわずかな隙間が形成されてしまうおそれがある。このような場合、誘導突部111が係止部112を備えていれば、係止部112が第1シート体3の端部に食込むことで、第1シート体3を固定することができる。また、第1シート体3と誘導突部111との間にわずかな隙間ができていても、溶融樹脂rが隙間を飛び越えるように流れるため、溶融樹脂rが第1シート体3の端面を押すことによる第1シート体3の位置ずれや、一方面30aと第1キャビティ面110との間に回り込むことが抑制される。
なお、樹脂供給口121から射出される溶融樹脂rの流動方向は、図1(a)に示す例と同様である。
【0038】
次に図3(b)に示す成形型10について説明する。図3(b)の成形型10では、誘導突部111及び第2シート体4の構成と誘導突部111の数が上記第1実施形態と異なる。第1型11は、一対の第1誘導突部111A,111Aと、第2誘導突部111Bと、第3誘導突部111Cとを備える。第1誘導突部111A,111Aは、第1シート体3の短手方向すなわち上下方向の端部3a,3bに沿い、上下方向に対向するように一対設けられている。第2誘導突部111Bは、平面視して略C字形状に形成されており、第1シート体3の非重なり部分31の一方側の端部3c及び第2シート体4の後述する突出部42B,42Bにおける非重なり部分41の端部及び本体部42Aの他方側の端部に当接する。第3誘導突部111Cは、第2誘導突部111Bと第1キャビティ面110の長手方向に対向するように設けられて第1シート体3の他方側の端部3dに沿うように設けられている。そのため、第1誘導突部111A,111A、第2誘導突部111B及び第3誘導突部111Cで四方が囲まれた領域内に第1シート体3を載置することで、第1シート体3を容易に位置決めして第1キャビティ面110に固定することができる。
【0039】
第2シート体4は、矩形状の本体部42Aと、本体部42Aの上下方向における上方側の端部42Aa及び下方側の端部42Abから他方側に突出する突出部42B,42Bとを備える。この突出部42B,42B間には、空隙42Cが構成される。第2シート体4は、第1キャビティ面110に載置された際に、突出部42B,42Bの他方側の端部4d,4dが第1誘導突部111A,111Aの長手方向の側面111Aaに当接するとともに、突出部42B,42Bの他方側の一部が第1シート体3と重なって重なり部分6,6が構成される。また、突出部42B,42Bの第1シート体3と重なる重なり部分6,6は、他方側へ先細る形状となっている。そして、突出部42B,42B間の空隙42Cは、その上下方向の寸法が第2誘導突部111Bの上下方向の寸法と略同一に構成されている。そのため、第2シート体4は、突出部42B,42Bの端部4d,4dが第1誘導突部111A,111Aの長手方向の一方側の側面111Aa,111Aaに接触し、第2誘導突部111Bが空隙42C内に位置して突出部42B,42B及び本体部42Aに当接するように配置することで、容易に位置決めすることができる。つまり、本変形例における第1誘導突部111A及び第2誘導突部111Bは、第1シート体3だけではなく、第2シート体4の位置決め部材として機能する。
【0040】
本変形例によれば、樹脂供給口121から射出された溶融樹脂rは、第2シート体4の本体部42Aの非重なり部分41から放射状に拡がる。そして、樹脂供給口121の近傍に位置する第2誘導突部111B及び重なり部分6,6によって流れを阻害された溶融樹脂rは、第2シート体4の上下方向の端部4a,4b及び第1誘導突部111A,111A側へ流動する。そして、第1誘導突部111A側へ流動した溶融樹脂rは、第1誘導突部111Aによって第1シート体3の他方面30bに誘導されて流れ込む。また、第2誘導突部111Bは、第1シート体3の非重なり部分31の端部3c及び第2シート体4の突出部42B,42Bにおける非重なり部分41の端部及び本体部42Aの他方側の端部に当接している。そのため、この第2誘導突部111B側に流れてきた溶融樹脂rは、第2誘導突部111Bによって第1シート体3の他方面30bや第2シート体4の突出部42A,42Aの他方面40bに誘導されて流れ込む。よって、本変形例では、第1シート体3が固定される態様となっているので、より一層樹脂流れによる位置ずれを抑制し、成形不良が低減できる。
【0041】
次に図3(c)に示す成形型10について説明する。図3(c)に示す成形型10では、誘導突部111及び第2シート体4の構成が上記第1実施形態とは異なる。誘導突部111は、第1シート体3の長手方向の一方側の端部3cの一部を除いた第1シート体3の周縁部囲むように形成されている。具体的には、誘導突部111は、第1シート体3の短手方向すなわち上下方向の両端部3a,3bにそれぞれ当接する長手方向に延びた形状の第1フレーム部111b,111bと、第1フレーム部111b,111bの長手方向の他方側の端部同士を接続し、第1シート体3の長手方向の他方側の端部3dに当接する第2フレーム部111cと、第1フレーム部111b,111bの長手方向の一方側の端部から短手方向に延び、第1シート体3の長手方向の一方側の端部3cに当接する第3フレーム部111d,111dとを有する。
【0042】
第1シート体3は、誘導突部111の第1フレーム部111b、第2フレーム部111c、第3フレーム部111dによって四方が囲まれ、位置ずれしにくい状態で第1キャビティ面110に固定される。第2シート体4は、誘導突部111によって第1シート体3を囲んでいない第3フレーム部111d,111d間に配置される。よって、第2シート体4は、その短手方向の寸法が誘導突部111の第3フレーム部111d,111d間に収まる寸法に形成され、第3フレーム部111d,111dは、第2シート体4の短手方向の位置決め部材及び固定部材として機能する。
【0043】
本変形例においても、樹脂供給口121から射出された溶融樹脂rは、第2シート体4の非重なり部分41から放射状に拡がる。そして、重なり部分6によって流路が狭まり流れを阻害された溶融樹脂rは、第2シート体4の短手方向すなわち上下方向の端部4a,4b及び第3フレーム部111d,111d、第1フレーム部111b,111b側へ流動する。そして、第3フレーム部111d,111d側へ流動した溶融樹脂rは、第3フレーム部111d,111dによって第1シート体3の他方面30bに誘導される。同様に、第1フレーム部111b,111b側へ流動した溶融樹脂rは、第1フレーム部111b,111bによって第1シート体3の他方面30bに誘導される。よって、本変形例においても第1シート体3が固定される態様となっているので、より一層樹脂流れによる位置ずれを抑制し、成形不良が低減できる。
【0044】
次に図4(a)~図4(c)を参照しながら、第1シート体3、第2シート体4に加えて第3シート体5を有する複合成形品を製造するための成形型10の変形例について説明する。
図4(a)の成形型10では、横長矩形状の第3シート体5が長手方向の他方側に配置される。複数のシート体のうち、第3シート体5の短手方向すなわち上下方向の寸法より、第1シート体3の上下方向の寸法の方が大きく形成され、第2シート体4は、その第1シート体3よりも上下方向の寸法が大きく形成されている。そして、第1キャビティ面110上に載置された第3シート体5の長手方向の一方側の端部5cに重ねて第1シート体3の他方側の端部3dが配置され、第1シート体3の一方側の端部3cに重ねて、第2シート体4の他方側の端部4dが配置される。よって、この場合、シート体同士は、第3シート体5と第1シート体3との重なり部分である第1重なり部分6Aと、第1シート体3と第2シート体4との重なり部分である第2重なり部分6Bとを有する。
【0045】
第1型11には、第1シート体3が配置された際に第1シート体3の非重なり部分31の両端部31a,31bに沿うように一対の第1誘導突部111A,111Aが設けられている。また、第1型11には、第3シート体5が配置された際に第3シート体5の非重なり部分51の両端部51a,51bに沿うように一対の第2誘導突部111B,111Bが設けられている。第1シート体3は、第1キャビティ面110に配置された際に、上方側の端部3aが、上方側の第2誘導突部111Bと第1キャビティ面110の長手方向に重なる位置かそれよりも若干上方側に位置し、下方側の端部3bも、下方側の第2誘導突部111Bと上記長手方向に重なる位置かそれよりも若干下方側に位置するように形成されている。また、第2シート体4は、配置された際に、上方側の端部4aが上方側の第1誘導突部111Aと長手方向に重なる位置かそれよりも若干上方側に位置し、下方側の端部4bが、下方側の第1誘導突部111Aと長手方向に重なる位置かそれよりも下方側に位置するように形成されている。第2型12の樹脂供給口121は、第2シート体4の非重なり部分41の略中央位置と対向する位置に樹脂供給口121が設けられている。
【0046】
樹脂供給口121からキャビティ100内に射出された溶融樹脂rは、第2シート体4の非重なり部分41から放射状に拡がる。そして、流路が狭まる第2重なり部分6Bによって流れを阻害された溶融樹脂rは、第1誘導突部111A,111A及び第2誘導突部111B,111Bによって、第1シート体3及び第3シート体5側へと誘導され流れ込む。第1誘導突部111A,111A側へ流れ込んだ溶融樹脂rは、第1,2重なり部分6A,6Bに流れるとともに、非重なり部分31にも流れ、第1シート体3の他方面30b全体に流れ込む。また第2誘導突部111B,111B側へ流れ込んだ溶融樹脂rは、第2誘導突部111B,111Bに誘導され、第3シート体5の非重なり部分51に流れ込み全域に流動する。この変形例においても、第1シート体3及び第3シート体5の位置ずれや浮き上がりを抑制し、複合成形品の成形不良を低減できる。
【0047】
次に図4(b)に示す成形型10について説明する。図4(b)の成形型10では、第1キャビティ面110の長手方向の略中央に配置された第1シート体3の両側に第2シート体4、第3シート体5を配し、第2シート体4及び第3シート体5の略中央部位の非重なり部分41,51に対向して複数の樹脂供給口121A,121Bを備えている点で上記実施形態とは異なる。よって、第1シート体3の長手方向の一方側の端部3c側には、第2シート体4の他方側の端部4dが重なり、第1重なり部分6Aが構成されるように配置される。また、第1シート体3の長手方向の他方側の端部3d側には、第3シート体5の一方側の端部5cが重なって第2重なり部分6Bが構成されるように配置される。第2シート体4及び第3シート体5は、略同形同大であり、第1シート体3の短手方向の両端部3a,3bよりも大きく形成され、第1シート体3の非重なり部分31の両端部31a,31bは、長手方向に沿って延びた一対の誘導突部111,111に沿って配置される。
【0048】
第1樹脂供給口121Aから第2シート体4の非重なり部分41に射出された溶融樹脂rは、第2シート体4の非重なり部分41から放射状に拡がる。そして、流路が狭まる第1シート体3と第2シート体4とが重なった第1重なり部分6Aに流れ込むとともに、誘導突部111,111側へと流れ込む。また、第2樹脂供給口121Bから第3シート体5の非重なり部分51に射出された溶融樹脂rは、第3シート体5の非重なり部分51から放射状に拡がる。そして、流路が狭まる第3シート体5と第1シート体3とが重なった第2重なり部分6Bに流れ込むとともに、誘導突部111,111側へと流れ込む。そして第1シート体3の非重なり部分31における他方面30bを含む全域に満遍なく溶融樹脂rを行き渡らせることができる。この変形例においても、第1シート体3の位置ずれや浮き上がりを抑制し、複合成形品の成形不良が低減できる。
【0049】
次に図4(c)に示す成形型10について説明する。図4(c)の成形型10では、第2シート体4及び第3シート体5を位置決め及び固定するための第1位置決め突部113A及び第2位置決め突部113Bを備えている点が上記実施形態と異なる。よって、第2シート体4及び第3シート体5の略中央には、第1位置決め突部113A及び第2位置決め突部113Bが挿通される貫通孔43,53が設けられている。また第1型11の第1キャビティ面110には、構成を異にする第1誘導突部111Aと、第2誘導突部111Bが設けられている点も上記実施形態とは異なる。
【0050】
第1位置決め突部113A,113Aは、第2シート体4に複数形成された丸孔の貫通孔43,43が挿通される一対の略円柱状からなり、第1キャビティ面110から第2キャビティ面120に向けて突出して形成されている。また第2位置決め突部113B,113Bは、第3シート体5に複数形成された丸孔の貫通孔53,53が挿通される一対の略円柱状からなり、第1キャビティ面110から第2キャビティ面120に向けて突出して形成されている。第1誘導突部111Aは、第1シート体3の非重なり部分31の上方側の端部31aに沿って形成されている。第2誘導突部111Bは、第1シート体3の非重なり部分31の下方側の端部31b及び端部31bに連なった両端部31c,31dに沿った略C字形状に形成され、第1シート体3の下方側の3方を囲むように設けられている。第2型12には、第2シート体4の非重なり部分41と対向する位置で且つ第1位置決め突部113A,113Aの形成位置を避けて、第1樹脂供給口121Aが設けられている。また第2型12には、第3シート体5の非重なり部分51と対向する位置で且つ第2位置決め突部113B,113Bの形成位置を避けて、第2樹脂供給口121Bが設けられている。
【0051】
第1樹脂供給口121Aから第2シート体4の非重なり部分41に射出された溶融樹脂rは、第2シート体4の非重なり部分41から放射状に拡がる。そして第1位置決め突部113A,113Aによって流れる方向が変わりながらも非重なり部分41上を流動するとともに、流路が狭まる第1重なり部分6A付近にまで至ると、第1重なり部分6Aの縁部に沿って第1キャビティ面110及び第1,2誘導突部111A,111B側へ流れ込む。また、第2樹脂供給口121Bから第3シート体5の非重なり部分51に射出された溶融樹脂rは、第3シート体5の非重なり部分51から放射状に拡がる。そして第2位置決め突部113B,113Bによって流れる方向が変わりながらも非重なり部分51上を流動するとともに、流路が狭まる第2重なり部分6B付近にまで至ると、第2重なり部分6Bの縁部に沿って第1キャビティ面110及び第1,2誘導突部111A,111B側へ流れ込む。そして、第1シート体3の非重なり部分31における他方面30bを含む全域に満遍なく溶融樹脂rを行き渡らせることができる。この変形例においても、第1シート体3の位置ずれや浮き上がりを抑制し、複合成形品の成形不良が低減できる。
【0052】
<第1実施形態の製造方法の変形例>
次に、図5及び図6を参照しながら、複合成形品1の一例としてスペーサ1Aの製造方法及び成形型10について説明する。図5に示す成形型10は、図6に示す内燃機関Aのシリンダブロック7に設けられた冷却水流路8内に配置され冷却水の流れを規制するスペーサ1Aを製造するためのものであり、固定型である第1型11及び可動型である第2型12によって構成される。なお、図1、2に示しながら説明した製造方法と共通する部分の構成及び効果の説明は省略する。また、第1キャビティ面110には、第1シート体3の上下方向の両端部3a,3bに沿うように2つの誘導突部111,111が設けられているが、図面では第1シート体3の上方側の端部3aに沿う誘導突部111のみを図示している。またここでは説明のため、第1シート体3、第2シート体4、第3シート体5の3つのシート体が構成されるスペーサ1Aの一部分を示して簡略的に説明するが、実際には冷却水流路8の構成に応じて形成されるものであることは言うまでもない。
【0053】
図5に示す第1型11の第1キャビティ面110及び第2型12の第2キャビティ面120は、冷却水流路8の形状に応じて湾曲した形状となっており、第1キャビティ面110には、第1シート体3が載置される凹曲面部110eが設けられている点で上記の実施形態と異なる。また、誘導突部111は、第1キャビティ面110の凹曲面部110e上に設けられており、第1キャビティ面110からの突出寸法が、第1シート体3の厚み寸法以上に構成されている点が上記の実施形態とは異なる。また、第2型12には、第1樹脂供給口121Aに加え、第2樹脂供給口121Bが設けられている点でも図1(c)に示す例とは異なる。
【0054】
第1シート体3、第2シート体4、第3シート体5は、所定の外的要因によって、圧縮状態から厚さ方向に復元し膨大化する特性を有する薄状シートが用いられ、製造時には、復元前の圧縮状態のものを成形型10に配置する。よって、インサート成形時には第1キャビティ面110の所定の位置に配置しやすい。薄状シートとしては、特に限定されないが、例えば所定の外的要因が水分である圧縮状態のセルロース系スポンジとしてもよい。セルロース系スポンジは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として加えられた天然繊維(例えば、綿等)とからなる天然素材からなり、連続気泡型で優れた吸水性を有する。ここでセルロースは、親水基(OH)を有しており、化学的に水分になじみ易い性質であることが知られている。よって、セルロース系スポンジは、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から水分に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有する。そのため、圧縮状態のセルロース系スポンジは、第1シート体3、第2シート体4、第3シート体5として好適である。
【0055】
本変形例におけるスペーサ1Aの製造方法では、まず、第1配置工程を示す図5(a)に示すとおり、第1シート体3を第1キャビティ面110の凹曲面部110eに沿って配置する。このとき、第1シート体3の非重なり部分31となる部分の両端部31a,31bが誘導突部111,111に当接するように配置する。そのようにすれば、成形工程において、溶融樹脂rが非重なり部分31の端部31a,31bに含浸しにくくなる。また、本変形例では、誘導突部111の第1キャビティ面110からの突出寸法が第1シート体3の厚み寸法以上に構成されている。そのため、流れ込んできた溶融樹脂rが第1シート体3の端面に含浸することがより抑制され、さらに溶融樹脂rが第1シート体3の端面を押して位置ずれしてしまうことが抑制される。
【0056】
このとき、第1シート体3は、誘導突部111,111間におさまるように形成されるが、寸法精度により、若干小さく形成され、端部31a,31bと誘導突部111,111との間に隙間が生じても、誘導突部111によって溶融樹脂rが第1シート体3の一方面30aへの回り込むことを防ぐことができる。また第1シート体3が寸法精度により、若干大きく形成されても、圧縮状態のセルロース系スポンジの縁部を容易に潰して誘導突部111,111間に押し込んで配置することができる。
【0057】
図5(b)は、第2配置工程、第3配置工程及び型閉を示している。第2配置工程では、第1シート体3の一方側の端部3cを含む一部に、第2シート体4の他方側の一部を重ねた状態で配置する。このとき、第2シート体4は、非重なり部分41が第2型12の第1樹脂供給口121Aに対向するように配置される。第2配置工程が行われた後には第3配置工程が行われる。第3配置工程では、第1シート体3の他方側の端部3dを含む一部に、第3シート体5の一方側の一部を重ねた状態で配置する。このとき、第3シート体5は、非重なり部分51が第2型12の第2樹脂供給口121Bに対向するように配置される。第3配置工程が行われた後、第1型11に接近するように第2型12を型閉する。
【0058】
図5(c)は、成形工程のうち、第1樹脂供給口121A及び第2樹脂供給口121Bを介して外部から供給された溶融樹脂rをキャビティ100内に射出する工程を示している。第1樹脂供給口121Aは、第2シート体4の非重なり部分41に向けて溶融樹脂rを射出し、第2樹脂供給口121Bは、第3シート体5の非重なり部分51に向けて溶融樹脂rを射出する。そして、図示は省略しているが、キャビティ100内に溶融樹脂rが充填されたら、溶融樹脂rを保圧状態で冷却して固化させる工程を行う。そして、溶融樹脂rが固化して成形体2が成形された後、第1型11と第2型12とを離して型開を行い、成形体2を第1型11から取り外し、樹脂供給口121内で固化した部分をカットする。これにより、凹曲面及び凸曲面を有するとともに複数のシート体(3~5)を備えたスペーサ1Aを精度よく製造することができる。
【0059】
<スペーサ>
上述の工程によって製造されたスペーサ1Aは、シート体、具体的には第1シート体3、第2シート体4及び第3シート体5を備え、シート体同士の一部を重ねた状態で樹脂からなる成形体2の一方面2aに一体成形されている。スペーサ1Aが配設される冷却水流路(ウォータージャケット)8は、シリンダブロック7に形成され、シリンダブロック7の上面にはシリンダヘッド70が、シリンダブロック7の下面にはオイルパン(不図示)がそれぞれ配される。シリンダヘッド70は、図6(b)に示すように、冷却水流路8の開口部8cが閉塞されるようにシリンダブロック7に一体に締結される。シリンダブロック7は、複数の気筒を有する内燃機関Aを構成するものであり、複数のシリンダボア(気筒)9は隣接した状態で直列に連なるように設けられ(図では、1つのシリンダボア9のみを図示している)、複数のシリンダボア9の周囲に形成されるのが、溝状の冷却水流路8である。シリンダブロック7の適所には、冷却水流路8に通じる冷却水導入口(不図示)と冷却水排出口(不図示)とが設けられ、冷却水流路8とラジエータ(不図示)との間で冷却水(不凍液も含む)が循環するように構成される。シリンダボア9と冷却水流路8との間には、シリンダボア壁90が形成され、冷却水流路8を挟んで向かい合う両壁面は、シリンダボア9側の内側壁面8aと、シリンダボア9とは反対側の外側壁面8bとにより構成される。冷却水流路8は、シリンダボア壁90を効率よく冷却できるように、シリンダボア9を取り囲むように形成されている。
【0060】
スペーサ1Aは、図6(a)に示すように所定の外的要因が付加されていないときには、複数のシート体が圧縮状態を維持しており、複数のシート体は成形体2の一方面2aと略面一であるため、冷却水流路8内の所定の位置に組み付けやすい。また、図6(b)に示すように、冷却水流路8内に冷却水が導入されれば、複数のシート体は冷却水に接触して水を含んで膨らみ、厚さ方向の厚みが増して膨大化し、シリンダボア9側の内側壁面8aに接触して、冷却水の流れを規制することができる。このとき、スペーサ1Aの第1シート体3は、上述したとおり、製造時に誘導突部111,111によって非重なり部分31の両端部31a,31bがガードされ、溶融樹脂rの回り込みが抑制されて凹状部20,20が形成される。よって、溶融樹脂rが第1シート体3の端部31a,31bに含浸せず、第1シート体3の側面が樹脂で固定されないため、第1シート体3が圧縮状態から復元する際に復元量が減少しない。したがって、水流制御効果が大きいスペーサ1Aを実現することができる。
【0061】
<第2実施形態>
次に、図7を参照しながら第2実施形態に係る成形型10及び複合成形品の製造方法について説明する。なお、第1実施形態と共通する部分の構成及び効果の説明は一部省略する。第2実施形態の成形型10は、誘導突部111が単体である点で、第1実施形態と異なる。
【0062】
成形型10は、第1型11及び第2型12によって構成され、第1型11には、第1シート体3及び第2シート体4が載置される第1キャビティ面110と、誘導突部111と、第1シート体3の貫通孔33,33に挿通される円柱状の位置決め突部113,113とが設けられている。また、第2型12には、第2シート体4の非重なり部分41の略中央位置と対向する位置に樹脂供給口121が設けられている。
【0063】
第1シート体3は矩形状からなり、長手方向に並んで設けられた2つの丸孔の貫通孔33,33が形成されており、貫通孔33,33に位置決め突部113,113に挿通させることで、第1シート体3の位置決め及び固定が容易になるとともに第1シート体3の位置ずれも防ぐことができる。第2シート体4は矩形状からなり、第1シート体3よりも大きく形成され、第2シート体4は、誘導突部111に当接しない位置で且つ、第2シート体4の下方側の端部4bが、誘導突部111と第1キャビティ面110の長手方向に略重なる位置になるように配置される。第1シート体3及び第2シート体4は、第1キャビティ面110の短手方向の中央よりも下側に片寄った位置に配置され、第1シート体3の非重なり部分31の下方側の端部31bが誘導突部111に当接するように配置される。このように第1シート体3が第1キャビティ面110の下方側に片寄って配置されているため、第1シート体3の上方側の端部3aと第1キャビティ面110の上方側の縁部110aとの間の寸法b1は、誘導突部111と第1キャビティ面110の下方側の縁部110bとの間の寸法b2よりも大きくなっている。
【0064】
樹脂供給口121から射出された溶融樹脂rは、第2シート体4の非重なり部分41に放射状に拡がる。そして、溶融樹脂rは、流路が狭まった重なり部分6に流動するとともに、第2シート体4の両端部4a,4bから第1キャビティ面110に流れ込む。第1シート体3の上方側の端部3a側に流動した溶融樹脂rは、第1キャビティ面110の上方側の縁部110aと第1シート体3の端部3aとの間に広く行き渡る。一方、第1シート体3の下方側の端部3b側に流動した溶融樹脂rは、第1キャビティ面110の下方側の縁部110bと誘導突部111との間が狭いため、後から流れ込んでくる溶融樹脂rによって押されることにより、誘導突部111に向かって流動し、誘導突部111を乗り越えて、第1シート体3の他方面30b上に流れ込む。つまり、第2実施形態では、誘導突部111と第1キャビティ面110の縁部110bとにより形成される狭い空間を利用し、溶融樹脂rを第1シート体3の他方面30b上に誘導しやすい構成としている。また誘導突部111が単体であっても、位置決め突部113を構成することで、第1シート体3の位置ずれを抑制し、成形不良が低減される。その他、上記構成の成形型10によれば、溶融樹脂rが重なり部分6を経由せず、第1シート体3の非重なり部分31の端部31bから第1シート体3側へ流れても、第1シート体3の端部31bに沿って第1シート体3側へ誘導する誘導突部111が設けられているので、溶融樹脂rが意図しない方向や部位に流れてしまうこと(第1シート体3の一方面30aへの回り込み)を抑制し、溶融樹脂rの樹脂流れを誘導突部111によってコントロールすることができる。
【0065】
<変形例>
次に、第2実施形態の変形例について図8(a)~(c)を参照しながら、説明する。なお、上述の実施形態や変形例と共通する部分の構成及び効果の説明は、一部省略するが、下記変形例はいずれも、第1シート体3が、第1キャビティ面110において、下方側寄りに配置され、寸法b1は、寸法b2よりも大きくなっている点は図7の例と同様である。
【0066】
図8(a)に示す例は、第1型11に位置決め突部113が設けられていない点、第1シート体3に貫通孔33が設けられていない点で、上記第2実施形態と異なる。誘導突部111は、第1シート体3の下方側の端部3bに当接するように設けられている。誘導突部111は、第1シート体3及び第2シート体4が第1キャビティ面110に配置された状態において、第2シート体4の非重なり部分41の長手方向の他方側の端部41dに接する位置まで延出して設けられている。これにより、誘導突部111は、第1シート体3及び第2シート体4を第1キャビティ面110に配置する際の位置決め部材として機能する。
【0067】
樹脂供給口121から射出された溶融樹脂rの樹脂流れは、上記第2実施形態と同様であるが、本変形例によれば、誘導突部111が、第2シート体4の非重なり部分41の他方側の端部41dに接する位置まで延出し端部41dに当接して第2シート体4の位置ずれを抑制することができる。このように図7の例のような位置決め突部113がない場合は、誘導突部111と吸着固定等の方法とを併せて、第1シート体3及び第2シート体4の位置ずれを抑制し、成形不良を低減することができる。
【0068】
次に、図8(b)に示す例は、図8(a)に示す例とは、誘導突部111の構成と第2シート体4の大きさが異なる。本変形例では、第1シート体3と第2シート体4とは、ほぼ同形同大に形成され、一部が重なるようにずらして配置されている。誘導突部111は、平面視において略L字状に形成され、第1フレーム部111bと第3フレーム部111dとで構成される。第1フレーム部111bは、第1キャビティ面110の長手方向に延出して形成され第1シート体3の下方側の端部3bに当接する。第3フレーム部111dは、第1フレーム部111bの長手方向の一方側の端部から第2シート体4側に延出して形成され、第1シート体3の長手方向の一方側の端部3cに当接する。誘導突部111の第1フレーム部111bと第3フレーム部111dとで形成される角部に第1シート体3の角部を配置すれば、第1シート体3を容易に位置決めすることができる。第1シート体3は、第1キャビティ面110において、下方側寄りに配置され、本変形例においても、寸法b1は、寸法b2よりも大きくなっている。
【0069】
樹脂供給口121から射出された溶融樹脂rの樹脂流れは、上記第2実施形態と同様であるが、本変形例によれば、誘導突部111は、第1シート体3の非重なり部分31の下方側の端部31b及び一方側の端部3cに沿うように構成されているので、溶融樹脂rによる第1シート体3を押すことによる位置ずれを抑制し、成形不良が低減できる。
【0070】
次に図8(c)に示す例は、第1シート体3の形状が矩形状ではなく、円形であり、これに応じて誘導突部111が、第1シート体3の下方側のおよそ4分の1の円弧に沿って円弧形状となっている。また、誘導突部111の上方側の端部は、矩形状の第2シート体4の下方側の端部4bに接する位置まで延出して形成されている。これにより、誘導突部111は、第1シート体3及び第2シート体4の位置決め部材として機能する。
【0071】
樹脂供給口121から射出された溶融樹脂rの樹脂流れは、上記第2実施形態と同様であるが、本変形例によれば、誘導突部111が円弧形状であるので、誘導突部111によって第1シート体の他方面30bへ誘導されなかった溶融樹脂rはスムーズに第1キャビティ面110の長手方向の他方側へと誘導され、溶融樹脂rが意図しない方向・部位に流れてしまうことを防止できる。また本変形例においては、誘導突部111が第2シート体4の非重なり部分41の下方側の端部4bに接する位置まで延出し端部4bに当接して第2シート体4の位置ずれを抑制することができる。このように図7の例のような位置決め突部113がない場合は、誘導突部111と吸着固定等の方法とを併せて、第1シート体3及び第2シート体4の位置ずれを抑制し、成形不良を低減することができる。
【0072】
<第3実施形態>
次に、図9を参照しながら第3実施形態に係る成形型10及び複合成形品1の製造方法について説明する。なお、第1実施形態と共通する部分の構成及び効果の説明は適宜省略する。第3実施形態の成形型10は、第2型の樹脂供給口121が、第2シート体4の非重なり部分41と対向する位置に設けられていない点で、第1実施形態と異なる。
【0073】
第1型11は、一対の第1誘導突部111A,111Aと、第2誘導突部111Bが設けられている。一対の第1誘導突部111A,111Aは、第1シート体3の非重なり部分31の端部31a,31bに沿って上下方向に対向して設けられている。第2誘導突部111Bは、第2シート体4の上下方向の両端部4a,4bに沿う第1フレーム部111Bb,111Bb及び第1フレーム部111Bb,111Bbの一方側の端部同士を接続して第2シート体4の一方側の端部4cに沿う第2フレーム部111Bcを備えている。第1誘導突部111A,111Aは、第1キャビティ面110の長手方向の他方側に配置されて第1シート体3の固定部材及び位置決め部材として機能する。第2誘導突部111Bは、第1キャビティ面110の長手方向の一方側に配置されて第2シート体4の三方を囲み、第2シート体4の固定部材及び位置決め部材として機能する。また、第2型12には、第1型11の第2誘導突部111Bよりも一方側の部分の第1キャビティ面110に対向した樹脂供給口121が設けられている。第1シート体3は、横長矩形状であり、第2シート体4は、縦長矩形状である。第2シート体4の上下方向の寸法は、第1シート体3の上下方向の寸法よりも大きく構成されている。
【0074】
樹脂供給口121から射出された溶融樹脂rは、樹脂供給口121の直下の第2誘導突部111Bよりも一方側の部分の第1キャビティ面110に射出され、放射状に拡がる。第2誘導突部111Bの第2フレーム部111Bc側に流動した溶融樹脂rは、第2誘導突部111Bによって第2シート体4の他方面40b上に流れ込む。そして、重なり部分6側に流動した溶融樹脂rは、重なり部分6によって流れを阻害され、第2シート体4の上方側の端部4a、下方側の端部4b及び第1誘導突部111A,111A側へ流動する。第1誘導突部111A側に流動した溶融樹脂rは、第1誘導突部111Aによって第1シート体3の他方面30bに誘導されて流れ込む。つまり、本実施形態では、第2型の樹脂供給口121が第2シート体4の非重なり部分41と対向しない位置に設けられていても、第2誘導突部111Bが第2シート体4の上方側の端部4a,一方側の端部4c,下方側の端部4bに沿って設けられている。そのため、本実施形態では、第1キャビティ面110上に射出された溶融樹脂rの樹脂流れが第1シート体3及び第2シート体4の端部を押すことによる位置ずれや、第1シート体3の一方面30a及び第2シート体4の一方面40aと第1キャビティ面110との間への溶融樹脂rの回り込みを抑制し、成形不良を低減できる。
【0075】
以上、成形型10の構成、インサート成形されるシート体の構成等は上述した各実施形態、変形例、図示したものに限定されることはない。例えば、第1実施形態の変形例や第2実施形態及びその変形例、第3実施形態において、誘導突部111の傾斜面111aの説明や図示は省略しているが、誘導突部111の第1シート体3、第2シート体4及び第3シート体5と接しない側に誘導突部111の傾斜面111aが設けられてもよい。また、キャビティ100は図示した形状に限定されることはなく、製造する複合成形品1の成形体2の形状に合わせて種々の形状のものが用いられる。また、上述した各実施形態では、図3(a)のように誘導突部111に係止部112が設けられるものとしてもよい。この場合の係止部112の形状は、図3(a)に限定されることはなく、例えば楔形状や矩形状のものであってもよい。
【0076】
各シート体の形状は、上述した各実施形態に示した形状に限定されず、正方形状であったり、角部が円弧形状であってもよい。また、複合成形品1の具体例としてスペーサ1Aを説明しているが、複数のシート体と成形体2を備えるものであれば、複合成形品1の形態は特に限定されることはなく、複数のシート体が異なる素材でもよく、あらゆる複合成形品の製造方法、成形型に適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 複合成形品
1A スペーサ
2 成形体
3 第1シート体
31 非重なり部分
4 第2シート体
41 非重なり部分
5 第3シート体
51 非重なり部分
6 重なり部分
10 成形型
100 キャビティ
11 第1型
110 第1キャビティ面
111 誘導突部
12 第2型
r 溶融樹脂

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9