(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088149
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】同期運転装置
(51)【国際特許分類】
H02P 5/52 20160101AFI20230619BHJP
【FI】
H02P5/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202837
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】大森 洋一
(72)【発明者】
【氏名】田中 康司
【テーマコード(参考)】
5H572
【Fターム(参考)】
5H572DD01
5H572EE01
5H572GG01
5H572GG02
5H572HC01
5H572HC07
5H572JJ03
5H572LL01
5H572LL07
5H572LL32
5H572LL33
(57)【要約】
【課題】高精度な位置センサを必要とせず、且つ絶対同期運転を実現する。
【解決手段】同期運転装置1は、電源投入直後から位置指令クリア指令が一旦オンしてからオフ直前まで0でその後1となるフラグFrを出力する指令完了フラグ演算器240と、位置センサ211、モータ原点センサ222、及び機械原点センサ223から、機械207の回転位置Cnの初期値Cn0と、Cn0の出力時点に0から1に変化するフラグFoとを出力する初期位置検出器224と、位置指令クリア指令オン時に回転位置指令Pnをクリアし、位置指令クリア指令オフ時に位置指令変化分ΔPnだけPnを更新する回転位置指令演算器229と、Foが1の状態にCn0を初期値として位置センサ211の出力パルスを累積してCn求める機械回転位置演算器225とを備え、モータ206をFrとFoとの積が0の時は所定速度指令で制御し積が1の時はPnにCnが追従するように制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスレーブを備える同期運転装置であって、
前記スレーブはそれぞれ、機械と、該機械を駆動するモータと、前記モータの回転位置に応じて回転方向の極性付きのパルスを出力する位置センサと、前記モータの1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを出力するモータ原点センサと、前記機械の1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを出力する機械原点センサと、前記モータを制御する制御装置とを備え、マスターからの、位置指令クリア指令と、該位置指令クリア指令がオン時は0とし該位置指令クリア指令がオフ時は基準機械の基準速度指令を積分させた基準位置指令とを、所定周期毎に受信し、
前記制御装置は、
電源投入直後から前記位置指令クリア指令が一旦オンしてからオフ直前まで0でその後1となる指令完了フラグを出力する指令完了フラグ演算器と、
前記位置センサ、前記モータ原点センサ、及び前記機械原点センサから、前記機械の回転位置Cnの初期値Cn0と、該初期値Cn0を出力する時点に0から1に変化する原点完了フラグとを出力する初期位置検出器と、
前記位置指令クリア指令がオン時には回転位置指令Pnをクリアし、前記位置指令クリア指令がオフ時には前記基準位置指令の変化分ΔP0を用いて求められた位置指令変化分ΔPnだけ前記回転位置指令Pnを更新する回転位置指令演算器と、
前記原点完了フラグが1の状態に前記Cn0を初期値として前記位置センサの出力パルスを累積することで前記機械の回転位置Cn求めて出力する機械回転位置演算器とを備え、
前記指令完了フラグと前記原点完了フラグとの積が0の時は所定速度指令で前記モータの回転速度を制御し、前記積が1の時は前記回転位置指令Pnに前記機械の回転位置Cnが追従するように前記モータを制御する、同期運転装置。
【請求項2】
複数のスレーブを備える同期運転装置であって、
前記スレーブはそれぞれ、機械と、該機械を駆動するモータと、前記モータの回転位置に応じて回転方向の極性付きのパルスを出力する位置センサと、前記モータの1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを出力するモータ原点センサと、前記機械の1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを出力する機械原点センサと、前記モータを制御する制御装置とを備え、マスターからの、位置指令クリア指令と、該位置指令クリア指令がオン時は0とし該位置指令クリア指令がオフ時は基準機械の基準速度指令を積分させた基準位置指令とを、所定周期毎に受信し、
前記制御装置は、
電源投入直後から前記位置指令クリア指令が一旦オンしてからオフ直前まで0でその後1となる指令完了フラグを出力する指令完了フラグ演算器と、
前記位置センサ、前記モータ原点センサ、及び前記機械原点センサから、前記機械の回転位置Cnの初期値Cn0と、該初期値Cn0を出力する時点に0から1に変化する原点完了フラグとを出力する初期位置検出器と、
前記指令完了フラグを前記所定周期毎にサンプリングし、前記指令完了フラグが0の時は0とし、前記指令完了フラグが1の時は前記基準位置指令の前記所定周期間の変化分ΔP0を用いて求められた位置指令変化分ΔPnとした値ΔPnxを出力する同期位置指令変化分演算器と、
前記原点完了フラグを前記所定周期毎にサンプリングし、前記原点完了フラグが0の時は0とし、前記原点完了フラグが1へ変化した時は前記回転位置Cnとし、前記原点完了フラグが1の時は前記位置センサの前記所定周期間の出力パルス数ΔCnとした値ΔCnxを出力する絶対機械回転位置変化分演算器と、
電源投入直後の位置偏差Piを0とし、前記基準位置指令を受信する毎に、前記位置偏差Piを、前記値ΔPnxと前記値ΔCnxの差ΔPiだけ更新し、
前記指令完了フラグと前記原点完了フラグとの積が0の時は所定速度指令で前記モータの回転速度を制御し、前記積が1の時は前記位置偏差Piが0となるように前記モータを制御する、同期運転装置。
【請求項3】
前記機械が前記モータによってギア比Da/Dbの物理ギアで駆動される場合であって、
前記機械が前記基準機械とギア比Ea/Ebの仮想のギアで連結されているとして、前記位置センサの1回転当たりの出力パルス数をPmnとし、前記基準位置指令が前記基準機械の1回転で0からPm0-1の範囲の整数で変化するとして、(Db*Ea*Pmn)/(Da*Eb*Pm0)の既約分数を総合ギア比An/Bnと定義して、前記位置指令変化分ΔPnは、前記変化分ΔP0を用いて
ΔPn=(An*ΔP0+F)/Bn
で求められ、
前記Fは前回のΔPnを得る際の除算での余りである、請求項1又は2に記載の同期運転装置。
【請求項4】
前記機械が前記モータによってギア比Da/Dbの物理ギアで駆動される場合であって、
前記初期位置検出器は、
前記ギア比Da/Dbが1未満の場合は前記機械原点センサのパルス出力時から前記モータ原点センサのパルス出力までの間の前記位置センサの出力パルス数を計測することで前記回転位置Cnの初期値を設定し、
前記ギア比Da/Dbが1超過の場合は前記モータ原点センサのパルス出力時から前記機械原点センサのパルス出力までの間の前記位置センサの出力パルス数を計測することで前記回転位置Cnの初期値を設定し、
前記ギア比Da/Dbが1の場合は、前記モータ原点センサのパルス出力時点によって前記回転位置Cnの初期値を設定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の同期運転装置。
【請求項5】
前記基準位置指令を受信するタイミングを入力して、PLL処理により前記タイミングの平均的時点と前記タイミングとの差であるばらつき時間を求め、該ばらつき時間に応じて位置指令補正値を求め、該位置指令補正値で前記回転位置指令Pnを補正する請求項1に記載の同期運転装置。
【請求項6】
前記基準位置指令を受信するタイミングを入力して、PLL処理により前記タイミングの平均的時点と前記タイミングとの差であるばらつき時間を求め、該ばらつき時間に応じて位置指令補正値を求め、該位置指令補正値で前記位置偏差Piを補正する請求項2に記載の同期運転装置。
【請求項7】
前記スレーブは、前記位置指令クリア指令がオンの時は位置指令クリア中信号をセットして前記マスターに送信し、前記位置指令クリア指令がオフから所定時間経過後に前記位置指令クリア中信号をクリアして前記マスターに送信し、
前記マスターは、全てのスレーブからのセットされた前記位置指令クリア中信号を受信するまで前記位置指令クリア指令のオンを継続するようにし、
前記マスターは、前記位置指令クリア指令のオン時間が所定値を超えた場合、又は前記位置指令クリア指令のオンを送信していないにも係わらずセットされた前記位置指令クリア中信号を受信した場合に異常と判断する、請求項1又は2に記載の同期運転装置。
【請求項8】
前記初期位置検出器は、前記モータ原点センサ又は前記機械原点センサの出力パルスが矩形波の場合に、該矩形波の立上り又は立下りエッジからその逆のエッジまでの間の前記位置センサの出力パルス数を計測し、計測値が所定範囲内の場合に前記モータ原点センサ又は前記機械原点センサの出力パルスが有効と判断する、請求項2又は4に記載の同期運転装置。
【請求項9】
前記各スレーブは、前記マスターから受信した基準速度指令に基づいて前記モータを駆動した状態とし、
前記マスターは、前記位置指令クリア指令がオン状態で、前記スレーブの中の所定の1つのスレーブから、前記回転位置指令Pnと前記回転位置Cnとの差を位置偏差として受信し、該位置偏差の絶対値が最小になるタイミングで前記位置指令クリア指令をオフする、請求項1に記載の同期運転装置。
【請求項10】
前記各スレーブは、前記マスターから受信した基準速度指令に基づいて前記モータを駆動した状態とし、
前記マスターは、前記位置指令クリア指令がオン状態で、前記スレーブの中の所定の1つのスレーブから、前記位置偏差Piを受信し、該位置偏差Piの絶対値が最小になるタイミングで前記位置指令クリア指令をオフする、請求項2に記載の同期運転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理的には繋がっていない複数の機械を同期させて運転する同期運転装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のモータにより駆動されるそれぞれの機械の回転速度や回転位置を、相互に精度良く同期させて運転する同期運転装置が知られている。
【0003】
図4に、特許文献1に示される従来の同期運転装置を示す。スレーブ2は、モータ206によってギア208を介して駆動される機械207と、マスター1からの基準速度指令をギア208のギア比の逆数倍して出力する速度指令変換器201と、マスター1からの基準位置指令と位置センサ210出力の回転位置との偏差を増幅して出力する位置制御器202と、速度指令変換器201の出力と位置制御器202の出力を加算する加算器203と、加算器203の出力を速度指令に速度センサ209出力の回転速度が追従するようなトルク指令を出力する速度制御器204と、速度制御器204の出力トルクにモータ206の出力トルクが追従するようにモータ206を制御するトルク制御器205と、を備える。モータ206にはモータ206の回転速度を検出する速度センサ209が付属し、機械207には機械207の回転位置を検出する位置センサ210が付属している。以上の構成により、マスター1からの基準位置指令どおりに機械207の回転位置を制御することができる。
【0004】
スレーブ3は、図示されていないがスレーブ2と同じ構成であり、モータ306、ギア308、機械307、速度センサ309、位置センサ310、速度指令変換器301、位置制御器302、加算器303、速度制御器304、トルク制御器305で構成されている。スレーブ3のギア308はスレーブ2のギア208と異なるギア比としても、速度指令変換器301においてマスター1からの基準速度指令をギア308のギア比の逆数倍して出力することで、スレーブ2の機械207の回転位置とスレーブ3の機械307の回転位置を同じにすることができる。
【0005】
図5に、特許文献2に示される従来の同期運転装置を示す。スレーブ4は、モータ206、位置センサ211と、ギア208と、機械207と、速度変換器219と、位置変化分検出器214,220と、総合ドロー比設定器218と、乗算器212,213と、加減算器215と、累積器216と、増幅器217と、加算器203と、速度制御器204と、トルク制御器205と、を備える。
【0006】
乗算器212は、マスター1からの基準速度指令と総合ドロー比設定器218出力との積を求めてモータ206の回転速度相当の指令として出力する。位置変化分検出器214は、マスター1からの基準位置指令の所定周期Ts間の変化分ΔP0を出力する。ΔP0は、乗算器213で総合ドロー比設定器218出力倍されてモータ206のTs間の回転位置変化分相当となる。一方、位置変化分検出器220は、モータ206の回転位置を検出する位置センサ211の出力を入力してモータ206のTs間の回転位置変化分ΔCnを出力する。加減算器215は、乗算器213出力の位置変化分の指令相当から位置変化分検出器220出力のモータ位置変化分を減算することで位置変化分の偏差を求める。それは、累積器216に入力されて累積されることで位置偏差相当となり増幅器217を介して位置偏差を抑制するための速度指令となって、加算器203で乗算器212出力と加算することで、モータ206の速度指令となる。速度変換器219は、位置センサ211の出力を入力して微分演算処理を行ってモータ206の回転速度を出力する。速度制御器204は、加算器203出力の速度指令と速度変換器219出力との偏差を増幅してトルク指令として出力する。トルク制御器205はモータ206の出力トルクが速度制御器204出力のトルク指令どおりとなるようにモータ206を制御する。以上の構成で、モータ206の回転速度をマスター1からの基準速度指令に総合ドロー比設定器218出力の総合ドロー比を乗じた値にすることができ、機械207の回転速度をギア208のギア比倍したものとすることができる。
【0007】
スレーブ5は、図示されていないがスレーブ4と同じ構成であり、モータ506と、位置センサ511と、ギア508と、機械507と、速度変換器519と、位置変化分検出器520,514と、総合ドロー比設定器518と、乗算器512,513と、加減算器515と、累積器516と、増幅器517と、加算器503と、速度制御器504と、トルク制御器505と、を備える。例えば、スレーブ4の総合ドロー比設定器218出力をギア208にギア比の逆数とし、スレーブ5の総合ドロー比設定器518出力をギア508にギア比の逆数とすれば、ギア208とギア508のギア比が異なっても機械207と機械507の回転速度を同じにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-254525号公報
【特許文献2】特開2019-165527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に開示された同期運転装置によれば、モータと機械との物理ギアのギア比として任意の値を選択することができるが、機械に高精度な位置センサが必要となる。また、特許文献2において累積器216の初期値について示されていない。累積器216や累積器516の初期値が正しく設定されていないと、機械207と機械507の回転位置関係を所定値に固定できる絶対同期運転が実現できないことになる。
【0010】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、高精度な位置センサを必要とせず、且つ絶対同期運転を実現可能な同期運転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、一実施形態に係る同期運転装置は、複数のスレーブを備える同期運転装置であって、前記スレーブはそれぞれ、機械と、該機械を駆動するモータと、前記モータの回転位置に応じて回転方向の極性付きのパルスを出力する位置センサと、前記モータの1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを出力するモータ原点センサと、前記機械の1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを出力する機械原点センサと、前記モータを制御する制御装置とを備え、マスターからの、位置指令クリア指令と、該位置指令クリア指令がオン時は0とし該位置指令クリア指令がオフ時は基準機械の基準速度指令を積分させた基準位置指令とを、所定周期毎に受信し、前記制御装置は、電源投入直後から前記位置指令クリア指令が一旦オンしてからオフ直前まで0でその後1となる指令完了フラグを出力する指令完了フラグ演算器と、前記位置センサ、前記モータ原点センサ、及び前記機械原点センサから、前記機械の回転位置Cnの初期値Cn0と、該初期値Cn0を出力する時点に0から1に変化する原点完了フラグとを出力する初期位置検出器と、前記位置指令クリア指令がオン時には回転位置指令Pnをクリアし、前記位置指令クリア指令がオフ時には前記基準位置指令の変化分ΔP0を用いて求められた位置指令変化分ΔPnだけ前記回転位置指令Pnを更新する回転位置指令演算器と、前記原点完了フラグが1の状態に前記Cn0を初期値として前記位置センサの出力パルスを累積することで前記機械の回転位置Cn求めて出力する機械回転位置演算器とを備え、前記指令完了フラグと前記原点完了フラグとの積が0の時は所定速度指令で前記モータの回転速度を制御し、前記積が1の時は前記回転位置指令Pnに前記機械の回転位置Cnが追従するように前記モータを制御する。
【0012】
また、上記課題を解決するため、一実施形態に係る同期運転装置は、複数のスレーブを備える同期運転装置であって、前記スレーブはそれぞれ、機械と、該機械を駆動するモータと、前記モータの回転位置に応じて回転方向の極性付きのパルスを出力する位置センサと、前記モータの1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを出力するモータ原点センサと、前記機械の1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを出力する機械原点センサと、前記モータを制御する制御装置とを備え、マスターからの、位置指令クリア指令と、該位置指令クリア指令がオン時は0とし該位置指令クリア指令がオフ時は基準機械の基準速度指令を積分させた基準位置指令とを、所定周期毎に受信し、前記制御装置は、電源投入直後から前記位置指令クリア指令が一旦オンしてからオフ直前まで0でその後1となる指令完了フラグを出力する指令完了フラグ演算器と、前記位置センサ、前記モータ原点センサ、及び前記機械原点センサから、前記機械の回転位置Cnの初期値Cn0と、該初期値Cn0を出力する時点に0から1に変化する原点完了フラグとを出力する初期位置検出器と、前記指令完了フラグを前記所定周期毎にサンプリングし、前記指令完了フラグが0の時は0とし、前記指令完了フラグが1の時は前記基準位置指令の前記所定周期間の変化分ΔP0を用いて求められた位置指令変化分ΔPnとした値ΔPnxを出力する同期位置指令変化分演算器と、前記原点完了フラグを前記所定周期毎にサンプリングし、前記原点完了フラグが0の時は0とし、前記原点完了フラグが1へ変化した時は前記回転位置Cnとし、前記原点完了フラグが1の時は前記位置センサの前記所定周期間の出力パルス数ΔCnとした値ΔCnxを出力する絶対機械回転位置変化分演算器と、電源投入直後の位置偏差Piを0とし、前記基準位置指令を受信する毎に、前記位置偏差Piを、前記値ΔPnxと前記値ΔCnxの差ΔPiだけ更新し、前記指令完了フラグと前記原点完了フラグとの積が0の時は所定速度指令で前記モータの回転速度を制御し、前記積が1の時は前記位置偏差Piが0となるように前記モータを制御する。
【0013】
さらに、一実施形態において、前記機械が前記モータによってギア比Da/Dbの物理ギアで駆動される場合であって、前記機械が前記基準機械とギア比Ea/Ebの仮想のギアで連結されているとして、前記位置センサの1回転当たりの出力パルス数をPmnとし、前記基準位置指令が前記基準機械の1回転で0からPm0-1の範囲の整数で変化するとして、(Db*Ea*Pmn)/(Da*Eb*Pm0)の既約分数を総合ギア比An/Bnと定義して、前記位置指令変化分ΔPnは、前記変化分ΔP0を用いて
ΔPn=(An*ΔP0+F)/Bn
で求められ、前記Fは前回のΔPnを得る際の除算での余りとしてもよい。
【0014】
さらに、一実施形態において、前記機械が前記モータによってギア比Da/Dbの物理ギアで駆動される場合であって、前記初期位置検出器は、前記ギア比Da/Dbが1未満の場合は前記機械原点センサのパルス出力時から前記モータ原点センサのパルス出力までの間の前記位置センサの出力パルス数を計測することで前記回転位置Cnの初期値を設定し、前記ギア比Da/Dbが1超過の場合は前記モータ原点センサのパルス出力時から前記機械原点センサのパルス出力までの間の前記位置センサの出力パルス数を計測することで前記回転位置Cnの初期値を設定し、前記ギア比Da/Dbが1の場合は、前記モータ原点センサのパルス出力時点によって前記回転位置Cnの初期値を設定してもよい。
【0015】
さらに、一実施形態において、前記基準位置指令を受信するタイミングを入力して、PLL(Phase Locked Loop)処理により前記タイミングの平均的時点と前記タイミングとの差であるばらつき時間を求め、該ばらつき時間に応じて位置指令補正値を求め、該位置指令補正値で前記回転位置指令Pnを補正してもよい。
【0016】
さらに、一実施形態において、前記基準位置指令を受信するタイミングを入力して、PLL処理により前記タイミングの平均的時点と前記タイミングとの差であるばらつき時間を求め、該ばらつき時間に応じて位置指令補正値を求め、該位置指令補正値で前記位置偏差Piを補正してもよい。
【0017】
さらに、一実施形態において、前記スレーブは、前記位置指令クリア指令がオンの時は位置指令クリア中信号をセットして前記マスターに送信し、前記位置指令クリア指令がオフから所定時間経過後に前記位置指令クリア中信号をクリアして前記マスターに送信し、前記マスターは、全てのスレーブからのセットされた前記位置指令クリア中信号を受信するまで前記位置指令クリア指令のオンを継続するようにし、前記マスターは、前記位置指令クリア指令のオン時間が所定値を超えた場合、又は前記位置指令クリア指令のオンを送信していないにも係わらずセットされた前記位置指令クリア中信号を受信した場合に異常と判断してもよい。
【0018】
さらに、一実施形態において、前記初期位置検出器は、前記モータ原点センサ又は前記機械原点センサの出力パルスが矩形波の場合に、該矩形波の立上り又は立下りエッジからその逆のエッジまでの間の前記位置センサの出力パルス数を計測し、計測値が所定範囲内の場合に前記モータ原点センサ又は前記機械原点センサの出力パルスが有効と判断してもよい。
【0019】
さらに、一実施形態において、前記各スレーブは、前記マスターから受信した基準速度指令に基づいて前記モータを駆動した状態とし、前記マスターは、前記位置指令クリア指令がオン状態で、前記スレーブの中の所定の1つのスレーブから、前記回転位置指令Pnと前記回転位置Cnとの差を位置偏差として受信し、該位置偏差の絶対値が最小になるタイミングで前記位置指令クリア指令をオフしてもよい。
【0020】
さらに、一実施形態において、前記各スレーブは、前記マスターから受信した基準速度指令に基づいて前記モータを駆動した状態とし、前記マスターは、前記位置指令クリア指令がオン状態で、前記スレーブの中の所定の1つのスレーブから、前記位置偏差Piを受信し、該位置偏差Piの絶対値が最小になるタイミングで前記位置指令クリア指令をオフしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高精度な位置センサを必要とせず、且つ絶対同期運転を実現可能な同期運転装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る同期運転装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】インクリメンタルエンコーダの出力信号の波形例を示す図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る同期運転装置の構成例を示すブロック図である。
【
図4】従来の同期運転装置の第1の構成例を示すブロック図である。
【
図5】従来の同期運転装置の第2の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
(第1の実施形態)
図1に基づいて、本発明の第1の実施形態に係る同期運転装置10について説明する。同期運転装置10は、複数のスレーブを備える。スレーブは3台以上であってもよいが、ここではスレーブ60とスレーブ61の2台のスレーブ構成について示しており、図示していないがスレーブ61の内部構成はスレーブ60と同じとする。スレーブ60は、モータ206によってギア208を介して駆動される機械207を備える。機械207には、機械207の1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを出力する機械原点センサ223が付いている。
【0025】
モータ206には、モータ206の回転位置に応じて回転方向の極性付きのパルスを出力する位置センサ211と、モータ206の1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを出力するモータ原点センサ222が付いている。位置センサ211とモータ原点センサ222は、回転位置に応じて矩形波状で位相が90度ずれたA信号及びB信号と、1回転に1回の矩形波状のZ信号とを出力するインクリメンタルエンコーダであってもよい。
【0026】
図2は、上述したインクリメンタルエンコーダの出力波形例を示す図である。位置センサ211のパルスが出力は、
図2のA信号およびB信号の立上りや立下りのエッジと等価となる。
【0027】
マスター1とスレーブ60,61とは、通信ケーブル234により、例えばEtherCAT(登録商標)のような高速で同期性のあるフィールドネットワークによる通信で、情報のやりとりを行う。
【0028】
マスター1は、所定周期毎に、基準機械の基準速度指令と、位置指令クリア指令と、基準位置指令とを複数のスレーブ60,61に同時に送信する。基準位置指令は、位置指令クリア指令がオン時は0とし、該位置指令クリア指令がオフ時はマスター1から送信される基準速度指令を積分させたものとする。
【0029】
モータ206を制御する制御装置30は、速度制御器204と、トルク制御器205と、速度変換器219と、位置変化分検出器220,232と、初期位置検出器224と、機械回転位置演算器225と、加算器226,250と、位置制御器227と、加減算器228と、回転位置指令演算器229と、位置指令変化分演算器230と、送受信処理器233と、乗算器236,237,251と、指令完了フラグ演算器240と、PLL252と、速度指令変換器261と、を備える。
【0030】
送受信処理器233は、マスター1から所定周期毎に、基準機械の基準速度指令と、位置指令クリア指令と、基準位置指令とを受信し、位置偏差Piをマスター1へ送信する。ここで、「基準機械」とは、基準となる仮想の機械であるが、複数のスレーブのうちの基準とする機械であってもよい。スレーブ61に装備されている送受信処理器においても、送受信処理器233と同じタイミングでマスター1から、基準速度指令と、位置指令クリア指令と、基準位置指令とを受信する。
【0031】
位置変化分検出器232は、送受信処理器233出力の基準位置指令の変化分ΔP0を位置指令変化分演算器230に出力する。
【0032】
位置指令変化分演算器230は、位置指令変化分ΔPnを求め、回転位置指令演算器229に出力する。具体的には、ギア208のモータ206側の歯数をDaとし機械207側の歯数をDbとし、基準機械と機械207が仮想ギアで連結されていると仮定した際の該仮想ギアの基準機械側の歯数をEaとし機械207側の歯数をEbとし、基準位置指令が基準機械の1回転で0からPm0-1の範囲の整数で変化するとして、位置センサ211の1回転当たりの出力パルス数をPmnとして、(Db*Ea*Pmn)/(Da*Eb*Pm0)の既約分数を総合ギア比An/Bnと定義すると、位置指令変化分ΔPnを
ΔPn=(An*ΔP0+F)/Bn (1)
で求める。ここで(1)式の変数は全て整数値であり、Fは前回のΔPnを得る際のBnによる除算での余りである。よって次回の演算用に
An*ΔP0+F-ΔPn*Bn (2)
で余りFを更新する必要がある。これにより、位置指令変化分ΔPnを累積誤差無しで求めることが可能となる。
【0033】
回転位置指令演算器229は、回転位置指令Pnを求め、加減算器228に出力する。回転位置指令Pnは、送受信処理器233出力の位置指令クリア指令がオン時には0とし(クリアし)、位置指令クリア指令がオフ時には位置指令変化分演算器230出力の位置指令変化分ΔPnを累積(ΔPnだけPnを更新)したものとする。回転位置指令Pnは、機械207が1回転すると0~Pmn*Db/Da-1の間で変化することになるが、Pmn*Db/Daが整数になるとは限らないので、回転位置指令Pnは機械207が歯数Da回転で0~Pmn*Db-1の範囲で変化するとする。この処理は全てのスレーブにおいて同時に実行されるので、各スレーブの回転位置指令は絶対同期して変化することになる。
【0034】
速度指令変換器261は、基準速度指令に(Db*Ea)/(Da*Eb)を乗じることで、基準機械に仮想ギアで仮想に連結された機械207をギア208で駆動するモータ206の速度指令であるモータ基準速度指令を求めて、乗算器251と加算器226へ出力する。
【0035】
機械原点センサ223は、機械207の1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを初期位置検出器224に出力する。
【0036】
初期位置検出器224は、ギア208のギア比Da/Dbが1未満の場合に機械原点センサ223のパルス出力時からモータ原点センサ222のパルス出力までの間の位置センサ211の出力パルス数を計測することで機械207の回転位置Cnの初期値Cn0を設定し、機械回転位置演算器225に出力する。例えば歯数Da=3、歯数Db=5の場合、機械原点センサ223のパルス出力時からモータ原点センサ222のパルス出力までの間の位置センサ211の出力パルス数には、3つの異なった値が存在する。予めそれら3つの値が分かっているならば、機械原点センサ223の低い応答性や機械振動などで機械原点センサ223の精度の再現性が低い場合でも、機械原点センサ223のパルス出力時からモータ原点センサ222のパルス出力までの間の位置センサ211の出力パルス数を計測した結果と予め分かっている3つの値とを比較して最も近いものを選択して使用することで、正確な機械原点センサ223の出力位置を求めることができる。その結果、機械207の正しい回転位置Cnを初期値Cn0として得ることができる。
【0037】
同様な考え方で、ギア比Da/Dbが1超過の場合は、モータ原点センサ222のパルス出力時から機械原点センサ223のパルス出力までの間の位置センサ211の出力パルス数を計測することで、回転位置Cnの初期値Cn0を設定できる。また、ギア比Da/Dbが1の場合は、モータ原点センサ222のパルス出力時点によって回転位置Cnの初期値Cn0を設定する。
【0038】
また、初期位置検出器224は、電源投入後初めて初期値Cn0を得るまで0でその後1となる原点完了フラグFoを乗算器236に出力する。
【0039】
位置変化分検出器220は、モータ206の回転位置を検出する位置センサ211の出力パルスを入力して、モータ206の回転位置変化分ΔCnを機械回転位置演算器225に出力する。
【0040】
機械回転位置演算器225は、Cn0を初期値として、位置変化分検出器220による位置センサ211出力の変化量ΔCnを累積することで、機械207の回転位置Cnを求め、加減算器228に出力する。ここで回転位置Cnは、回転位置指令Pnと同様に、機械207がDa回転で0~Pmn*Db-1の範囲で変化する。加減算器228は、回転位置指令Pnと回転位置Cnとの差を位置偏差Piとして求め、送受信処理器233及び加算器250に出力する。
【0041】
PLL252は、送受信処理器233がマスター1より基準位置指令を受信したタイミングを入力して、PLL処理により該タイミングと該タイミングの平均的時点との差である処理ばらつき時間Δtを求め、乗算器251に出力する。
【0042】
乗算器251は、処理ばらつき時間Δtと、速度指令変換器261が出力する基準速度指令とを乗算し、処理ばらつき時間Δt相当の位置指令補正値Phnを得る。
【0043】
加算器250は、加減算器228で得られた位置偏差Piを位置指令補正値Phnだけ補正することで、機械回転位置演算器225出力の回転位置Cnを得たタイミングと同じタイミングでの位置偏差を得ることができる。
【0044】
指令完了フラグ演算器240は、位置指令クリア指令を入力し、電源投入直後から位置指令クリア指令が一旦オンしてからオフ直前まで0でその後1となる指令完了フラグFrを出力する。
【0045】
位置制御器227は、位置偏差を増幅して速度指令補正値として乗算器237に出力する。
【0046】
乗算器236,237及び加算器226は、指令完了フラグFrと原点完了フラグFoとが共に1であるときだけ位置制御器227の出力を速度指令変換器261出力のモータ基準速度指令に加算して速度制御器204に入力する。
【0047】
速度変換器219は、位置センサ211の出力を入力して微分演算処理を行ってモータ206の回転速度を出力する。
【0048】
速度制御器204は、加算器226出力の速度指令と速度変換器219出力との偏差を増幅してトルク指令として出力する。
【0049】
トルク制御器205は、モータ206の出力トルクが速度制御器204の出力トルク指令どおりとなるようにモータ206を制御する。
【0050】
上述した指令完了フラグ演算器240と、位置制御器227と、乗算器236,237と、加算器226と、速度変換器219と、速度制御器204と、トルク制御器205とにより、指令完了フラグFrと原点完了フラグFoが共に1になるまでは、速度指令変換器261出力のモータ基準速度指令による速度制御のみとなるが、指令完了フラグFrと原点完了フラグFoが共に1となった後は、位置偏差Piが0となるように動作する。すなわち、指令完了フラグFrと原点完了フラグFoとの積が0の時は速度指令変換器261出力のモータ基準速度指令でモータ206の回転速度を制御し、積が1の時は回転位置指令Pnに機械207の回転位置Cnが追従するようにモータ206を制御する。
【0051】
上述した式(1)の導出について、以下に説明する。基準位置指令がΔP0だけ変化することは、基準機械がΔP0/Pm0回転したことになる。基準機械と機械207との間にはギア比Ea/Ebの仮想ギアで連結されていると仮定しているので、基準位置指令がΔP0だけ変化することは機械207が(Ea/Eb)*(ΔP0/Pm0)だけ回転することになる。モータ206はギア比Da/Dbのギア208で機械207と連結されているので、基準位置指令がΔP0だけ変化することはモータ206がDb/Da*Ea/Eb*ΔP0/Pm0だけ回転することになる。1回転当たりPmnのパルスを出力する位置センサ211の位置指令変化分ΔPnとの関係は、
ΔPn/Pmn=(Db/Da)*(Ea/Eb)*(ΔP0/Pm0) (3)
となることから、
ΔPn=An*ΔP0/Bn (4)
となる。式(4)のBnによる除算が割り切れない場合は、誤差が累積されてしまうので、式(1)のように除算の余りを次回の計算に繰り越すようにしている。
【0052】
初期位置検出器224は、モータ原点センサ222又は機械原点センサ223の出力波形が
図2のZ信号のように矩形波の場合、該波形の立上りエッジ又は立下りエッジから逆のエッジまでの期間の位置センサ211の出力パルス数を計測し、所定範囲内か否かでモータ原点センサ222又は機械原点センサ223が有効か否かを判別する(所定範囲内の場合に出力パルスが有効と判断する)。例えば
図2の場合は、Z信号の立下りエッジから立上りエッジまでの期間に位置センサ211の出力パルス相当のA信号やB信号のエッジの回数が4となっている。つまり、Z信号の立下りエッジから立上りエッジまでの期間の位置センサ211の出力パルス相当総数が4以外の場合は無効のZ信号と判断して無視することとし、4の場合は有効と判断して例えばZ信号の立下りエッジポイントをモータ原点センサ222や機械原点センサ223の出力パルスポイントとする。このようにすることで、モータ原点センサ222や機械原点センサ223の出力の誤検知を抑制することができ、モータ原点センサ222や機械原点センサ223の出力にノイズが混入して正常な同期運転ができなくなるという問題の発生を抑制することが可能となる。
【0053】
同期運転される各スレーブの機械の回転位置は回転位置指令Pnとの位置偏差が0になるように制御されるので、位置制御開始時点において該位置偏差が非常に大きい機械は回転速度を大きく変化させて位置偏差を最小化するように動作する。よって、回転速度を大きく変化させることで不具合が発生する機械の同期運転は困難となる。そのため、さらに以下の処理を行ってもよい。
【0054】
マスター1が、位置指令クリア指令オンと基準速度指令を送信し、各スレーブからの位置偏差を受信している状態において、各スレーブはPn=0で位置制御を止めて基準速度指令に基づいて各スレーブのモータ206を駆動した状態となっている。この状態で、例えばスレーブ60から受信した位置偏差の絶対値が最小になるタイミングで位置指令クリア指令をオフする。そうすると、スレーブ60は位置偏差が最小になった時点で位置制御を開始することになるので、位置制御による速度補正が小さくて済み、位置制御に移行する際の過渡状態を最小に抑制することが可能となる。
【0055】
マスター1からの位置指令クリア指令を全てのスレーブ60,61が正常に受信できない場合は、正常な同期運転ができなくなる。そのため、さらに以下の処理を行ってもよい。スレーブ60,61は、位置指令クリア指令がオンの時は位置指令クリア中信号をセットしてマスター1に送信し、位置指令クリア指令がオフから所定時間経過後に位置指令クリア中信号をクリアしてマスター1に送信する。マスター1は、全てのスレーブからのセットされた位置指令クリア中信号を受信するまで位置指令クリア指令のオンを継続して送信する。マスター1は、位置指令クリア指令のオン時間が所定値を超えた場合、又は位置指令クリア指令のオンを送信していないにも係わらずセットされた位置指令クリア中信号を受信した場合に異常と判断する。
【0056】
(第2の実施形態)
次に、
図3に基づいて、本発明の第2の実施形態に係る同期運転装置11について説明する。同期運転装置11は、複数のスレーブを備える。スレーブは3台以上であってもよいが、ここではスレーブ70とスレーブ71の2台のスレーブ構成について示しており、図示していないがスレーブ71の内部構成はスレーブ70と同じとする。
【0057】
モータ206を制御する制御装置33は、速度制御器204と、トルク制御器205と、速度変換器219と、位置変化分検出器220,232と、初期位置検出器224と、絶対機械回転位置変化分演算器235と、加算器226,250と、位置制御器227と、位置指令変化分演算器230と、送受信処理器233と、乗算器236,237,251と、累積器238と、加減算器239と、指令完了フラグ演算器240と、同期位置指令変化分演算器241と、PLL252と、速度指令変換器261と、を備える。スレーブ70の構成において、
図1のスレーブ60の構成と同じものについては説明を省略する。
【0058】
同期位置指令変化分演算器241は、指令完了フラグ演算器240から指令完了フラグFrを入力し、位置指令変化分演算器230から位置指令変化分ΔPnを入力する。そして、同期位置指令変化分演算器241は、指令完了フラグFrを所定周期毎にサンプリングし、指令完了フラグFrが0の時は0とし、指令完了フラグFrが1の時は基準位置指令の所定周期間の変化分ΔP0を用いて求められた位置指令変化分ΔPnとした値ΔPnxを加減算器239に出力する。
【0059】
絶対機械回転位置変化分演算器235は、初期位置検出器224から原点完了フラグFoと回転位置Cnの初期値Cn0を入力し、位置変化分検出器220からモータ206の回転位置変化分ΔCnを入力する。そして、原点完了フラグFoを所定周期毎にサンプリングし、原点完了フラグFoが0の時は0とし、原点完了フラグFoが1へ変化した時は回転位置Cnとし、原点完了フラグFoが1の時は位置センサ211の所定周期間の出力パルス数ΔCnとした値ΔCnxを加減算器239に出力する。
【0060】
加減算器239は、ΔPnxとΔCnxとの差ΔPiを累積器238に出力する。
【0061】
累積器238は、ΔPiを累積して位置偏差Piとする。位置偏差Piは、電源投入直後は0であり、基準位置指令を受信する毎に、値ΔPnxと値ΔCnxの差ΔPiだけ更新される。この位置偏差Piは、
図1に示した第1の実施形態の位置偏差Piと全く同じものとなる。
【0062】
(効果)
次に、本発明による効果について説明する。請求項1又は請求項2に係る発明によれば、スレーブ2の機械60,61に高精度な位置センサを取り付ける必要がなくなる。また、請求項1に係る発明により機械位置の初期値を正しく設定でき、請求項2に係る発明により位置偏差の初期値を正しく設定でき、請求項1又は請求項2に係る発明により全てのスレーブの位置指令を同時にクリアできることで、特許文献2に記載された累積器216の初期値設定と等価となるので、絶対同期運転を実現することが可能となる。
【0063】
また、特許文献1に記載の同期運転装置においては、スレーブ2の機械207とスレーブ3の機械307とを仮想のギアで連結されているのと等価となるように両者の機械間の仮想ギア比による速度比を設定することができないという問題がある。この点、請求項3に係る発明によれば、仮想ギア比を考慮した位置指令変化分を得ることができるため、この問題を解決することが可能となる。
【0064】
また、特許文献2において、任意の小数点以下の値をもつギア比の場合に、乗算器213で倍精度浮動小数点演算を行ったとしても必ず演算誤差が存在することになり、それが累積器216によって累積されることで、スレーブ4の機械207とスレーブ5の機械507の回転位置の同期性が保てなくなる。それを回避するために、特許文献2では整数化定数を導入しているが、それはギア比の有効桁数が有限である場合にしか適用できない。例えばギア比=3/7の場合は、その逆数が無限小数なので整数化定数を使っても徐々に同期がずれてしまうという問題がある。この点、請求項3に係る発明によれば、累積誤差無しで位置指令変化分を得ることができるため、スレーブの機械間の回転位置の同期性を保つことができ、この問題を解決することが可能となる。
【0065】
また、機械の絶対回転位置を得るために機械の1回転中1箇所の所定位置を判断するパルスを出力する機械原点センサが使用されるが、一般的に機械原点センサは応答が遅く機械の回転速度に応じて所定位置検出ずれが発生する可能性がある。また機械の振動によっても所定位置検出ずれが発生する可能性がある。それを回避するために、機械原点センサの代わりに高速応答で精度の高いモータ軸のモータ原点センサを使用することが提案されている。しかし、モータと機械が物理ギアで連結されていると、モータ原点センサ出力から機械の位置を一義的に決定できなくなるのでモータ原点センサで代用することができなくなるという問題がある。この点、請求項4に係る発明によれば、この問題を解決することが可能となる。
【0066】
また、特許文献2の各スレーブにおいて、位置変化分検出器220による検出タイミングのばらつきで基準位置指令変化分と回転位置変化分との間に時間的誤差が発生してしまうという問題がある。例えば各スレーブがマスターからシリアル通信で基準位置指令を受信して使用する場合、基準位置指令が所定周期Ts毎にマスターから送信されたとしても受信処理や割込み処理などによりスレーブ側の処理タイミングにはばらつきが発生する。つまり、マスターは時刻t1時点の基準位置指令を送信したつもりでも、スレーブ側ではt1+ΔT1時点に位置変化分検出器220による検出をしたり、t1+ΔT2時点に検出をしたりすることになり、実際の位置偏差とスレーブが持つ位置偏差が一致しないことになり、それによって速度制御を補正することから処理ポイントのばらつきによって速度リプルなどを発生してしまう。この点、請求項5又は請求項6に係る発明によれば、位置変化分検出器による検出時点のずれ時間を検知し、回転位置指令や位置偏差をそのずれ時間に応じて補正することできるため、この問題を解決することが可能となる。
【0067】
また、マスター1からの位置指令クリア指令を全てのスレーブ60,61が正常に受信できない場合は、正常な同期運転ができなくなるという問題がある。この点、請求項7に係る発明によれば、上述した理由により、この問題の発生を抑制することが可能となる。
【0068】
また、モータ原点センサや機械原点センサの出力にノイズが混入すると、正常な同期運転ができなくなるという問題がある。この点、請求項8に係る発明によれば、上述した理由により、この問題の発生を抑制することが可能となる。
【0069】
また、同期運転される各スレーブの機械の回転位置は回転位置指令との位置偏差が0になるように制御されるので、位置制御開始時点において該位置偏差が非常に大きい機械は回転速度を大きく変化させて位置偏差を最小化するように動作する。よって、回転速度を大きく変化させることで不具合が発生する機械の同期運転は困難となるという問題がある。この点、請求項9、10に係る発明によれば、位置制御による速度補正が小さくて済み、位置制御に移行する際の過渡状態を最小に抑制することができるため、この問題を解決することが可能となる。なお、特開2008-125183号公報では、機械の機械原点センサの出力でマスターから出力される基準位置指令をクリアすることを提案している。しかし、該機械の機械原点センサの出力をマスターに接続しなければならないという問題がある。この点、請求項9又は請求項10に係る発明によれば、マスター1と各スレーブ間の情報の交換を双方向通信で実現している場合は、機械原点センサ223の出力をマスター1に接続する必要がなく、この問題を解決することが可能となる。
【0070】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを統合したり、1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により、各スレーブのモータと機械間の物理ギアのギア比を任意の値にすることができ、また基準機械と各スレーブの機械間の任意のギア比での仮想ギアを設定可能であることから、各スレーブ間の機械を仮想ギアで連結したのと等価な絶対同期運転が可能となり、さまざまなシステムへの適用が可能となる。また、同期精度を劣化させることなく精度の低い機械原点センサが使用可能となり、また簡単な処理でモータ原点センサや機械原点センサのノイズ対策を講ずることができることからシステムの低コスト化となる。そして、位置制御開始時点において回転速度を大きく変化させることができない機械にも適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 マスター
10,11 同期運転装置
30,33 制御装置
60,61,70,71 スレーブ
227 位置制御器
226,250 加算器
204 速度制御器
205 トルク制御器
206 モータ
207 機械
208 ギア
211 位置センサ
219 速度変換器
220,232 位置変化分検出器
222 モータ原点センサ
223 機械原点センサ
224 初期位置検出器
225 機械回転位置演算器
228,239 加減算器
229 回転位置指令演算器
230 位置指令変化分演算器
233 送受信処理器
234 通信ケーブル
235 絶対機械回転位置変化分演算器
236,237,251 乗算器
238 累積器
240 指令完了フラグ演算器
241 同期位置指令変化分演算器
252 PLL(Phase Locked Loop)
261 速度指令変換器