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特開2023-88154水系撥水性塗料組成物および硬化塗膜付き無機質建材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088154
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】水系撥水性塗料組成物および硬化塗膜付き無機質建材
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20230619BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230619BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230619BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20230619BHJP
   E04F 13/14 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/61
C09D7/65
C09K3/18 104
E04F13/14 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202844
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】今吉 幸希
(72)【発明者】
【氏名】牧 和夫
(72)【発明者】
【氏名】下野 大悟
【テーマコード(参考)】
2E110
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
2E110AA14
2E110AA28
2E110AB04
2E110AB22
2E110BA12
2E110BB04
2E110EA09
2E110GA02W
2E110GA33W
2E110GA33X
2E110GB16X
2E110GB17X
2E110GB23X
2E110GB24X
2E110GB26W
2E110GB26X
2E110GB53W
4H020AA01
4H020BA32
4J038CG141
4J038DL031
4J038HA216
4J038HA446
4J038HA546
4J038HA556
4J038MA14
4J038NA07
4J038PB05
4J038PC01
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】撥水性、耐水性、および耐候性に優れる硬化塗膜が得られる水系撥水性塗料組成物の提供。
【解決手段】本発明による水系撥水性塗料組成物は、(A)酸化チタン、(B)非晶質シリカ、(C)シリコーン樹脂を含む水系撥水性塗料組成物であって、前記(A)酸化チタンのメディアン径が0.1μm以上5μm以下であり、前記水系撥水性塗料組成物の固形分換算100質量%を基準として、前記(A)酸化チタンの含有量が30質量%以上65質量%以下であり、前記(B)非晶質シリカの含有量が10質量%以上55質量%以下であり、顔料質量濃度(PWC)が50質量%以上80質量%以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸化チタン、(B)非晶質シリカ、および(C)シリコーン樹脂を含む、水系撥水性塗料組成物であって、
前記(A)酸化チタンのメディアン径が0.1μm以上5μm以下であり、
前記水系撥水性塗料組成物の固形分換算100質量%を基準として、前記(A)酸化チタンの含有量が30質量%以上65質量%以下であり、前記(B)非晶質シリカの含有量が10質量%以上55質量%以下であり、顔料質量濃度(PWC)が50質量%以上80質量%以下である、水系撥水性塗料組成物。
【請求項2】
前記(B)非晶質シリカが、(b1)メディアン径5μm以上のシリカ粒子を含む、請求項1に記載の水系撥水性塗料組成物。
【請求項3】
前記(B)非晶質シリカが、(b2)メディアン径1μm以上の珪藻土を含む、請求項1または2に記載の水系撥水性塗料組成物。
【請求項4】
(D)塗膜形成樹脂をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の水系撥水性塗料組成物。
【請求項5】
無機質建材の塗装に用いられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の水系撥水性塗料組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水系撥水性塗料組成物から形成される硬化塗膜。
【請求項7】
無機質建材の少なくとも片面に請求項1~5のいずれか一項に記載の水系撥水性塗料組成物から形成された硬化塗膜を備える、硬化塗膜付き無機質建材。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水系撥水性塗料組成物を無機質建材上の少なくとも一部に塗装する工程と、
前記塗装工程で形成された塗膜を乾燥して、硬化させる工程と
を有する、硬化塗膜付き無機質建材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系撥水性塗料組成物、特に無機質建材用の水系撥水性塗料組成物に関する。また、本発明は、無機基材の少なくとも片面に該水系撥水性塗料組成物から形成された硬化塗膜を備える硬化塗膜付き無機質建材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石綿セメント板や珪酸カルシウム板等の無機質系基材は不燃性でかつ耐久性に優れているため、無機質系基材に塗装を施して、無機質建材として使用されてきた。無機質建材は、例えば、住宅等の外壁(基材:サイディングボード)として利用されてきた。住宅等の外壁は、耐汚染性の観点から、雨水などによって汚れを流すことが可能な親水性塗膜を備える場合が多い。このような問題点に対して、(a)アミンシリケートをSiO換算で3~15重量部、(b)合成樹脂0.5~8重量部、(c)銀、銅および微粒子状酸化チタンの群から選ばれた少なくとも1種を、銀もしくは銅原子換算で0.002~2重量部または酸化チタン換算で3~25重量部、(d)平均粒径または平均長さが0.01~50μmである非水溶性の無機充填材(以下「(d)無機充填材」ともいう)15~75重量部、ならびに(e)水および/または親水性有機溶剤15~75重量部〔ただし、(a)+(b)+(c)+(d)+(e)=100重量部〕を主成分とする浄化性コーティング用組成物が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載のコーティング用組成物のように親水性塗膜を形成する場合、日当たりが悪い場所では親水性塗膜に藻類が発生する等の問題点があった。
【0003】
また、透水性は高いが耐透湿性が低い塗膜では、小口部などからサイディングボードの基材内部へと侵入した水分が放出されることなく基材内部に留まり、それが原因でサイディングボードの劣化が促進される。ここで、水分としては、外側からは、雨水、内部からは室内の湿気の両方が挙げられる。そこで、近年では、耐透水性が高くかつ耐透湿性の高い塗膜が要求されている。例えば、シリコーン樹脂エマルションと、シリコーン樹脂エマルション以外の合成樹脂エマルションとを含有することを特徴とする透湿防水型塗料組成物が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-298451号公報
【特許文献2】特開2003-55600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の特許文献1および特許文献2に記載の塗料組成物からなる塗膜は、2~5年程度の短~中期の耐候性について評価されているが、長期(例:10年以上)にわたる耐候性について十分な性能を有していないと考えられる。しかし、近年では、住宅等の外壁の保証期間も伸びており、長期にわたる性能の維持が必要になっている。そのため、外壁の長期撥水性や長期耐候性の向上が望まれている。
【0006】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、長期撥水性、耐水性、および長期耐候性に優れる硬化塗膜が得られる水系撥水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、水系撥水性塗料組成物において、特定の酸化チタン、非晶質シリカ、およびシリコーン樹脂を含有させ、特定の酸化チタンの含有量、非晶質シリカの含有量、および顔料質量濃度(PWC)を調節することにより、上記課題を解決できることを知見した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] (A)酸化チタン、(B)非晶質シリカ、(C)シリコーン樹脂、および水を含む、水系撥水性塗料組成物であって、
前記(A)酸化チタンのメディアン径が0.1μm以上5μm以下であり、
前記水系撥水性塗料組成物の固形分換算100質量%を基準として、前記(A)酸化チタンの含有量が30質量%以上65質量%以下であり、前記(B)非晶質シリカの含有量が10質量%以上55質量%以下であり、顔料質量濃度(PWC)が50質量%以上80質量%以下である、水系撥水性塗料組成物。
[2] 前記(B)非晶質シリカが、(b1)メディアン径5μm以上のシリカ粒子を含む、[1]に記載の水系撥水性塗料組成物。
[3] 前記(B)非晶質シリカが、(b2)メディアン径1μm以上の珪藻土を含む、[1]または[2]に記載の水系撥水性塗料組成物。
[4] (D)塗膜形成樹脂をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載の水系撥水性塗料組成物。
[5] 無機質建材の塗装に用いられる、[1]~[4]のいずれかに記載の水系撥水性塗料組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の水系撥水性塗料組成物から形成される硬化塗膜。
[7] 無機質建材の少なくとも片面に[1]~[5]のいずれかに記載の水系撥水性塗料組成物から形成された硬化塗膜を備える、硬化塗膜付き無機質建材。
[8] [1]~[5]のいずれかに記載の水系撥水性塗料組成物を無機質建材上の少なくとも一部に塗装する工程と、
前記塗装工程で形成された塗膜を乾燥して、硬化させる工程と
を有する、硬化塗膜付き無機質建材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期撥水性、耐水性、および長期耐候性に優れる硬化塗膜が得られる水系撥水性塗料組成物を提供することができる。また、本発明によれば、長期撥水性、耐水性、および長期耐候性に優れる硬化塗膜を備える無機質建材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
なお、本明細書において、「固形分」とは、水系撥水性塗料組成物から水等の揮発成分を除いたものであり、硬化させたときに硬化塗膜を構成する成分を示す。
「顔料質量濃度(PWC)」とは、水系撥水性塗料組成物の固形分の質量に対する、顔料成分の合計の質量の百分率であり、次の式で表される。
「顔料成分」とは、下記の(A)酸化チタン、(B)非晶質シリカ、任意の他の顔料、および添加剤中の固体粒子である。
PWC=[顔料成分の質量合計]/[水系撥水性塗料組成物中の固形分の質量]×100(%)
【0011】
<水系撥水性塗料組成物>
本発明による水系撥水性塗料組成物は、少なくとも、(A)酸化チタン、(B)非晶質シリカ、(C)シリコーン樹脂、および水を含むものである。本発明による水系撥水性塗料組成物は、(D)塗膜形成樹脂および他の成分をさらに含んでもよい。本発明による水系撥水性塗料組成物から形成された硬化塗膜は、長期撥水性、耐水性、および長期耐候性に優れるものである。このような硬化塗膜は、これらの性能が求められる建材、特に無機質建材の塗装(トップコート、バックシーラー)に好適に使用できる。
【0012】
本発明による水系撥水性塗料組成物の水分含有量は、特に限定されず、塗装に好適な粘度になるように適宜調節することができる。水系撥水性塗料組成物の水分含有量は、好ましくは20質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上70質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以上60質量%以下である。
【0013】
本発明による水系撥水性塗料組成物の顔料質量濃度(PWC)は、50質量%以上80質量%以下であり、好ましくは55質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上80質量%以下である。顔料質量濃度の含有量が上記範囲内であれば、長期撥水性、耐水性、および長期耐候性に優れる硬化塗膜が得られる。
【0014】
以下、本発明による水系撥水性塗料組成物の各成分について詳細に説明する。
【0015】
((A)酸化チタン)
(A)酸化チタンとしては、メディアン径が0.1μm以上5μm以下であれば、形状等は特に限定されず、従来公知の酸化チタンを用いることができる。(A)酸化チタンのメディアン径は、好ましくは0.15μm以上4.5μm以下であり、より好ましくは0.2μm以上4μm以下であり、さらに好ましくは0.25μm以上3.5μm以下である。酸化チタンのメディアン径が上記数値範囲内であれば、硬化塗膜は基材(下地)に対する隠蔽力を発揮することができる。
なお、(A)酸化チタンのメディアン径は、硬化被膜を走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて観測した際の酸化チタン(微粒子)の直径の中央値として算出することが出来る。
【0016】
(A)酸化チタンとしては、ルチル型、アナターゼ型、およびブルッカイト型のいずれのものを用いても良く、その安定性からルチル型が好ましい。(A)酸化チタンは、着色色顔料としての通常、二酸化チタンを用いることができる。その二酸化チタンは光触媒反応性を有しており、塗膜劣化の原因となる。塗料用に市販されている二酸化チタンは、その光触媒反応を抑える目的や分散安定性を付与するために、各種表面処理が行われる。その表面処理の材料として、二酸化珪素、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、リン酸エステル、セレン、有機成分(ポリオール等)などが挙げられる。
【0017】
(A)酸化チタンの市販品としては、例えば、TITONE R-5N(堺化学工業株式会社製)、タイペークR-930、タイペークPFC105、タイペーク ブラック SG-103、タイペーク オレンジ TY-200、タイペーク イエロー TY-70(以上、石原産業株式会社製)等を用いることができる。
【0018】
(A)酸化チタンの含有量は、水系撥水性塗料組成物の固形分換算100質量%を基準として、25質量%以上65質量%以下であり、好ましくは30質量%以上63質量%以下であり、より好ましくは32質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以上55質量%以下である。酸化チタンの含有量が上記範囲内であれば、長期撥水性、耐水性、および長期耐候性に優れる硬化塗膜が得られる。
【0019】
((B)非晶質シリカ)
(B)非晶質シリカとしては、(b1)シリカ粒子および(b2)珪藻土の少なくとも1種を用いることができ、(b2)珪藻土を用いることが好ましい
【0020】
((b1)シリカ粒子)
シリカ粒子としては、メディアン径が5μm以上であれば、形状等は特に限定されず、従来公知の非晶質シリカを用いることができる。シリカ粒子のメディアン径は、好ましくは10μm以上100μm以下であり、より好ましくは15μm以上70μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上50μm以下である。シリカ粒子のメディアン径が上記数値範囲内であれば、硬化塗膜の長期撥水性、撥水滑落性をより向上させることができる。
なお、シリカ粒子のメディアン径は、硬化被膜を走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて観測した際の非晶質シリカ(微粒子)の直径の中央値として算出することが出来る。
【0021】
非晶質シリカ粒子の市販品としては、例えば、サイリシア370、サイリシア470(以上、富士シリシア化学株式会社製)、ミズカシルP-78F(水澤化学工業株式会社製)、OSC-BL6030(Oriental Silicas Co.,Ltd.製)等を用いることができる。
【0022】
((b2)珪藻土)
珪藻土は、藻類の一種であり、二酸化珪素を主要成分とする珪藻の殻の化石から形成される堆積物である。このような珪藻土は多孔質である。珪藻土としては、メディアン径が1μm以上であれば、形状等は特に限定されず、従来公知の珪藻土を用いることができる。珪藻土のメディアン径は、好ましくは2μm以上100μm以下であり、より好ましくは3μm以上70μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上50μm以下である。珪藻土のメディアン径が上記数値範囲内であれば、硬化塗膜の長期撥水性、耐水性、および長期耐候性をより向上させることができる。
なお、珪藻土のメディアン径は、硬化被膜を走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて観測した際の珪藻土(微粒子)の直径の中央値として算出することが出来る。
【0023】
珪藻土の市販品としては、例えば、セライトスノーフロス(東京珪藻土工業株式会社製)、ラヂオライトF、ラヂオライト#100、ラヂオライト#300、ラヂオライト#700、ラヂオライト#900(以上、昭和化学工業株式会社製)等を用いることができる。
【0024】
非晶質シリカの含有量((b1)シリカ粒子および(b2)珪藻土の合計含有量)は、水系撥水性塗料組成物の固形分換算100質量%を基準として、10質量%以上55質量%以下であり、好ましくは11質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは15質量%以上45質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上40質量%以下である。非晶質シリカの含有量が上記範囲内であれば、長期撥水性、耐水性、および長期耐候性に優れる硬化塗膜が得られる。
【0025】
((C)シリコーン樹脂)
シリコーン樹脂としては、特に制限なく従来公知のシリコーン樹脂が使用できる。シリコーン樹脂としては、塗装作業性の観点から、例えば、アルコキシシラン化合物又はその縮合物を重縮合してなるポリオルガノシロキサン類を水性媒体に乳化、分散、又は溶解したシリコーン樹脂エマルションやシリコーン樹脂ディスパージョンを用いることが好ましい。
【0026】
ポリオルガノシロキサンの構成成分となるアルコキシシラン化合物としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、およびヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基を有するシラン化合物を挙げることができる。なお、アルコキシ基は、塩素原子やフッ素原子などのハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0027】
また、アルコキシシラン化合物は、さらにアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルカノール基またはアラルキル基を有していてもよい。ここでアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2,2,4-トリメチルペンチル基、n-ノニル基、n-デシル基、およびn-ドデシル基等の炭素数1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基を挙げることができる。当該アルキル基は、その一部が塩素原子やフッ素原子などのハロゲン原子、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、メルカプト基、またはエポキシシクロヘキシル基等で置換されていてもよい。
【0028】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基やシクロヘキシル基等を挙げることができる。シクロアルキル基は、一部が炭素数が1~6の低級アルキル基で置換されていてもよく、シクロアルキル基として4-エチルシクロヘキシル基を挙げることができる。アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、n-5-ヘキセニル基、4-ビニルシクロヘキセニル基等;アリール基としては、例えばフェニル基、ビフェニルイル基、ナプチル基、アントリル基、およびフェナントリル基等;アルカノール基としては、o-、m-、p-トリル基、キシリル基およびエチルフェニル基等;アラルキル基としては、ベンジル基、α-およびβ-フェニルエチル基等を挙げることができる。
【0029】
置換基を有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、i-プロピルトリメトキシシラン、i-プロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ-n-プロピルジメトキシシラン、ジ-n-プロピルジエトキシシラン、ジ-i-プロピルジメトキシシラン、ジ-i-プロピルジエトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし、又は2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。
【0030】
本発明で用いるポリオルガノシロキサン類には、相異なる複数のアルコキシシラン化合物から構成されるものも含まれる。また相異なるポリオルガノシロキサンを2種以上任意に組み合わせて用いることもできる。
【0031】
本発明の水系撥水性塗料組成物には、ポリオルガノシロキサン類として、具体的にはポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン又はポリメチルフェニルシロキサンを含むエマルションが特に適している。具体的な市販品としては、制限はされないが、例えば、「WACKER BS 45」、「WACKER BS 1306」、「WACKER BSR50」、「WACKER 290」、「WACKER SMK 1311」、および「WACKER SMK 2101」(いずれも旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)、「TEGO Phobe 1000S」、「TEGO Phobe 1400」、「TEGO Phobe 1500N 10」、「TEGO Phobe 1600」、および「TEGO Phobe 1650」(いずれもエボニックデグサ社製)などが挙げられる。
【0032】
シリコーン樹脂の含有量は、水系撥水性塗料組成物の固形分換算100質量%を基準として、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以上12質量%以下である。シリコーン樹脂の含有量が上記範囲内であれば、硬化塗膜の長期撥水性、耐水性、および長期耐候性をより向上させることができる。
【0033】
(D)塗膜形成樹脂
(D)塗膜形成樹脂としては、上記(C)シリコーン樹脂以外にも、特に制限されず、従来公知の樹脂を使用することができる。このような塗膜形成樹脂(シリコーン樹脂を除く)としては、例えば、エポキシ系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂等の合成樹脂;セラック樹脂、ロジン樹脂、セルロース樹脂、ゴム系樹脂、カシュー樹脂等の天然樹脂が挙げられる。これらの塗膜形成樹脂は、水系(水中への乳化・分散系)に合わせて適宜選択すればよい。これらの塗膜形成樹脂は、従来公知の方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。これらの塗膜形成樹脂の中でも、(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
【0034】
前記エポキシ系樹脂としては特に制限されないが、分子内に2個以上のエポキシ基を含む樹脂、およびこれらのエポキシ基の開環反応によって生成する樹脂等が挙げられる。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪酸変性エポキシ樹脂、エポキシ化油系エポキシ樹脂が挙げられる。
【0035】
前記(メタ)アクリル系樹脂としては下記フッ素系樹脂以外の樹脂であれば特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の脂環・芳香環・複素環含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸アリル等のビニル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル等のアルコキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等のアルキルアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレグリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,6-ヘキサンジオール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン等のジまたはトリ(メタ)アクリル酸エステル;フタル酸2-(メタ)アクリロイルオキシエチル等のカルボキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;等のモノマー群から選択される1種または2種以上を(共)重合させてなる樹脂が挙げられる。ここで、例えば、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味し、その他の類似の記載も同様の意味である。
【0036】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、前記モノマー群に加えて、さらに、スチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロトン酸エステル、イタコン酸エステル等から選択される1種または2種以上を共重合させてなる樹脂であってもよい。また、前記(メタ)アクリル系樹脂は必要に応じて、アルキッド変性、シリコーン変性、ウレタン変性、ポリエステル変性等をした変性(メタ)アクリル系樹脂であってもよい。
【0037】
前記ポリウレタン系樹脂としては、前記(メタ)アクリル系樹脂以外の樹脂であり、かつ、分子中にウレタン結合を2個以上有する樹脂であれば特に制限されない。
【0038】
前記ポリウレタン系樹脂は、例えば、両末端に活性水素を有する化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させることで合成できる。前記活性水素を有する化合物としては、例えば、ポリアルキレングリコール類、ポリブタジエングリコール類、ポリアルキレンアジペート類、ポリブタジエングリコール類、ポリアルキレンカーボネート類、シリコーンポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等のポリオール化合物が挙げられる。
【0039】
前記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族系ポリイソシアネート、芳香族系ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、β-ジケトン/オキシム/フェノール/カプロラクタム等でブロックされたブロック型ポリイソシアネートが挙げられる。
【0040】
前記フッ素系樹脂としては特に制限されないが、例えば、含フッ素エチレン系モノマーに由来する繰り返し単位を有する樹脂が挙げられ、具体的には、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテル等のフッ素原子を有するオレフィン化合物;フッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物などの化合物を単独重合または他のモノマーと共重合することによって得られる樹脂等が挙げられる。前記他のモノマーとしては、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸、α,β-不飽和ニトリル、カルボニル基含有化合物、共役ジエン、芳香族ビニル、ビニルエーテル、アリルエーテル、アルコキシシラン等が挙げられる。
【0041】
前記ポリエステル系樹脂としては、前記(メタ)アクリル系樹脂以外の樹脂であり、かつ、分子中にエステル結合を2個以上有する樹脂であれば特に制限されないが、例えば、多塩基酸またはその無水物と多価アルコールとを用いて合成される樹脂が挙げられる。
前記多塩基酸としては、例えば、フタル酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、セバシン酸、イソセバシン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ピメリン酸、アゼライン酸が挙げられる。
前記多価アルコールとしては、例えば、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが挙げられる。
【0042】
塗膜形成樹脂としては、塗装作業性の観点から、樹脂エマルション、樹脂ディスパージョンまたは常温(25℃)で液状の樹脂を用いることが好ましい。これらエマルションやディスパージョンなどには、乳化剤や界面活性剤などの従来公知の添加剤が含まれていてもよく、これらは、前記各樹脂の欄に記載のモノマーを乳化重合等の公知の方法に従い重合することで得ることができる。
【0043】
塗膜形成樹脂の含有量は、水系撥水性塗料組成物の固形分換算100質量%を基準として、好ましくは1質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上25質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以上20質量%以下である。塗膜形成樹脂の含有量が上記範囲内であれば、硬化塗膜の長期撥水性、耐水性、および長期耐候性をより向上させることができる。
【0044】
(その他の成分)
本発明による水系撥水性塗料組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、上記成分の他にもその他の成分を含んでもよい。その他の成分として、希釈剤(水)、体質顔料・着色顔料((A)酸化チタン、(B)非晶質シリカを除く)、pH調整剤、増粘剤、分散剤、造膜助剤、消泡剤、防汚剤、非反応性希釈剤、つや消し剤、沈降防止剤、レベリング剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、密着性向上剤、防腐剤、抗菌剤、防カビ剤、抗ウイルス剤、シランカップリング剤、可塑剤等を必要に応じて配合することができる。
【0045】
(希釈剤(水))
希釈剤(水)としては、特に制限されず、水道水、イオン交換水等を用いてもよい。希釈剤(水)は、例えば、(C)シリコーン樹脂および(D)塗膜形成樹脂に由来する水であってもよいが、水系撥水性塗料組成物の調製をより容易にし、本組成物の粘度を調整し、塗装作業性および無機質建材への浸透性を向上させる等の観点から、本組成物にはさらに希釈剤(水)を配合することが好ましい。
【0046】
水系撥水性塗料組成物中の希釈剤(水)の含有割合は、特に制限されないが、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~85質量%、さらに好ましくは30~80質量%である。
【0047】
(造膜助剤)
造膜助剤としては、従来公知のアルコール類、グリコールエーテル類およびエステル類等が挙げられ、例えば、イソプロピルアルコール等の炭素数1~3のアルコール、2,2,4-トリメチルペンタンジオール、2,2,4-トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート等のアルコール類;エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;2,2,4-トリメチルペンタンジオールジイソブチレート等のエステル類が挙げられる。造膜助剤は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0048】
なお、水系撥水性塗料組成物は、水を含有することに起因し、冬季に水系撥水性塗料組成物が凍結することがあること、また、水系撥水性塗料組成物としての適正な塗装作業性を得ることを考慮し、水系撥水性塗料組成物中の造膜助剤の含有量を決定してもよい。水系撥水性塗料組成物中の造膜助剤の含有割合は、特に制限されないが、好ましくは0.1~10質量%である。
【0049】
<水系撥水性塗料組成物の調製方法>
本発明による水系撥水性塗料組成物は、上記の各成分を、従来公知の混合機、分散機、撹拌機等の装置を用いて、混合・撹拌することにより得られる。このような装置としては、たとえば混合・分散ミル、ホモディスパー、モルタルミキサー、ロール、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等が挙げられる。本発明による水系撥水性塗料組成物は、(D)塗膜形成樹脂以外の成分を十分に混合攪拌した後、最後に(D)塗膜形成樹脂を混合させ、水系撥水性塗料組成物を調製することが好ましい。
【0050】
<硬化塗膜付き無機質建材>
本発明による硬化塗膜付き無機質建材は、無機質建材の少なくとも一部に上記の水系撥水性塗料組成物から形成された硬化塗膜を備えるものである。本発明においては、硬化塗膜付き無機質建材は、例えば、建築物の表面(外壁側のトップコート等)または裏面(住宅側のバックシーラー等)として用いることができる。特に、建築物の壁材(表面)に硬化塗膜を備えることで、長期撥水性、耐水性、および長期耐候性等の性能を長期的に維持し、藻類の付着等を防止することができる。
【0051】
建材としては、建築物の構造や仕上げに使用される部材をいう。例えば、窓、壁、天井、床、屋根、建具、壁紙等が挙げられる。特に、壁材(トップコート、バックシート)や床材等が好ましい。
【0052】
無機質建材は、通常用いられる無機質系の基材であれば特に限定されない。例えば、無機質系の基材としては、石綿セメント板、石綿パーライト板、珪酸カルシウム板、石綿セメント珪酸カルシウム板、石膏ボード、モルタルボード、パルプセメント板、木片セメント板、GRC(ガラス繊維強化セメント)ボード、CFRC(カーボン繊維強化セメント)ボード、SFRC(スチール繊維強化セメント)ボード、ロックウール無機質成形体等が挙げられる。
【0053】
建材の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~30mmが好ましく、1~20mmがより好ましい。
【0054】
<硬化塗膜付き無機質建材の製造方法>
本発明による硬化塗膜付き無機質建材は、上記の水系撥水性塗料組成物を無機質建材の少なくとも一部に塗装する工程(塗装工程)と、塗装工程で形成された塗膜を乾燥して、硬化させる工程(硬化工程)とを含むものである。
【0055】
(塗装工程)
塗装工程は、無機質建材の少なくとも片面に、従来公知の方法により、上記の水系撥水性塗料組成物を塗装する工程である。塗装には、例えば、スポンジロールコーター、ナチュラルロールコーター、リバースロールコーター、カーテンフローコーター、ナイフコーター、ダイコーター、エアースプレー、エアレススプレー、ローラー、刷毛塗り、浸漬などが挙げられ、適宜選択することができる。中でも、スプレーやフローコーター、スポンジロールコーターを用いると、基材への塗布量を多くすることができ、耐水性などの塗膜性能が向上するため好ましい。
【0056】
上記の水系撥水性塗料組成物の塗布量は、好ましくは1~300g/m2であり、より好ましくは、10~200g/mである。塗布量が上記下限値以上であれば、上記硬化塗膜と基材(建材)との密着性が向上し、上記上限値以下であれば、上記硬化塗膜の乾燥性に優れ、作業性が向上する。また、水系撥水性塗料組成物を複数回塗り重ねてもよい。
【0057】
塗装膜厚は、硬化乾燥後の膜厚として、0.5~150μmであることが好ましい。乾燥性、硬化性の観点からより好ましい上限は100μmであり、長期撥水性、耐水性、および長期耐候性の観点からより好ましい下限は5μmである。
【0058】
(硬化工程)
硬化工程は、建材の塗装面を乾燥して、塗装された水系撥水性塗料組成物を硬化させて、硬化塗膜を形成する工程である。乾燥方法としては、例えば熱風乾燥(ドライヤー等)が挙げられる。乾燥温度は、好ましくは10~200℃、塗膜の平滑性および外観の観点から更に好ましい上限は150℃、乾燥速度の観点からより好ましい下限は30℃である。
【実施例0059】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1~18、比較例1~15]
<水系撥水性塗料組成物の調製>
まず、水系撥水性塗料組成物の調製のために、以下の原材料を準備した。
・酸化チタン1:白色、メディアン径0.5μm、堺化学工業株式会社製、商品名:TITONE R-5N
・酸化チタン2:白色、メディアン径0.28μm、石原産業株式会社製、商品名:タイペーク PFC105(超高耐候)
・酸化チタン3:黒色、メディアン径1.2μm、石原産業株式会社製、商品名:タイペーク ブラック SG-103(黒色遮熱)
・酸化チタン4:オレンジ色、メディアン径0.7μm、石原産業株式会社製、商品名:タイペーク オレンジ TY-200(高耐候性)
・酸化チタン5:黄色、メディアン径0.7μm、石原産業株式会社製、商品名:タイペーク イエロー TY-70(高耐候性)
・シリカ粒子1:メディアン径6.4μm、富士シリシア化学株式会社、商品名:サイリシア370
・シリカ粒子2:メディアン径14μm、富士シリシア化学株式会社、商品名:サイリシア470(14μ)
・シリカ粒子3:メディアン径18μm、水澤化学工業株式会社、商品名:ミズカシルP-78F
・シリカ粒子4:メディアン径20~50μm、Oriental Silicas Co.,Ltd.社製、商品名:OSC-BL6030
・珪藻土1:メディアン径1~2μm、東京珪藻土工業株式会社製、商品名:セライトスノーフロス
・珪藻土2:メディアン径4.3μm、昭和化学工業株式会社製、商品名:ラヂオライトF
・珪藻土3:メディアン径13μm、昭和化学工業株式会社製、商品名:ラヂオライト#100
・珪藻土4:メディアン径15μm、昭和化学工業株式会社製、商品名:ラヂオライト#300
・珪藻土5:メディアン径30μm、昭和化学工業株式会社製、商品名:ラヂオライト#700
・珪藻土6:メディアン径40μm、昭和化学工業株式会社製、商品名:ラヂオライト#900
・シリコーン樹脂1:Wacker Chemicals Co.,Ltd.社製、商品名:BS45
・シリコーン樹脂2:水希釈型、Wacker Chemicals Co.,Ltd.社製、商品名:BS1306
・カーボンブラック:Orion Engineered Carbons GmbH社製、カーボンブラック FW200
・酸化鉄1:黄色酸化鉄、戸田工業株式会社製、商品名:黄色酸化鉄TSY-1
・酸化鉄2:弁柄、戸田ピグメント株式会社製、商品名:月光BB
・炭酸カルシウム1:メディアン径5μm、丸尾カルシウム株式会社製、商品名:タンカルスーパーSS
・炭酸カルシウム2:メディアン径12μm、丸尾カルシウム株式会社製、商品名:重質炭酸カルシウム
・炭酸カルシウム3:メディアン径20μm、丸尾カルシウム株式会社製、商品名:R重炭
・マイカ1:メディアン径42μm、株式会社ヤマグチマイカ製、商品名:SYA-41R
・マイカ2:メディアン径16μm、Lingshou Huajing Mica社製、商品名:マイカパウダー325メッシュ
・マイカ3:メディアン径2.4μm、株式会社ヤマグチマイカ株式会社製、商品名:マイカ粉A-11
・アクリルエマルション:大竹明新化学株式会社製、商品名:WSR325
・pH調整剤:Wacker Chemicals Co.,Ltd.社製、商品名:BS198
・増粘剤:住友精化株式会社製、商品名:FUJI CHEMI HEC SW-25F
・防腐剤:大阪ガスケミカル株式会社製、商品名:デルトップ
・分散剤:Rohm & Haas Company社製、商品名:25%オロタン731水溶液
・造膜助剤:JNC株式会社製、商品名:テキサノール(A)CS-12
・消泡剤:BASFジャパン株式会社製、商品名:Foamaster MO 2111 NC
【0061】
次に、表1~4に記載の配合に従って、(A)成分~(C)成分および(D)成分以外の他の成分を、ホモディスパーを用いて十分に混合・攪拌した後、(D)成分を加えホモディスパーを用いて混合・攪拌し水系撥水性塗料組成物を得た。
【0062】
<硬化塗膜付き無機質建材の製造>
無機質建材板(珪酸カルシウム板)に、実施例1~18、比較例1~15で得られた水系撥水性塗料組成物を組成物100質量部に対して40質量部の水で希釈した後、エアスプレーを用い、140g/mの塗装量で塗装した。次に、無機質建材板の塗装面に100℃の熱風乾燥機にて20分間乾燥させ、塗膜を硬化させて硬化塗膜付き無機質建材を得た。硬化塗膜の膜厚は40~50μmであった。
【0063】
<硬化塗膜付き無機質建材の評価>
実施例1~18および比較例1~15で製造した各硬化塗膜付き無機質建材について、以下に示す評価試験を行った。
【0064】
[撥水性評価]
(接触角測定試験)
硬化塗膜付き無機質建材の撥水性を評価するために、水の接触角を測定した。具体的には、自動接触角計(「Drop Master DM500」、協和界面科学(株)製)を用いて、硬化塗膜付き無機質建材の試験板(10cm×10cm)の硬化塗膜面上に純水1μlを滴下し、着滴してから10秒後の水に対する接触角を測定し、下記の基準で評価した。評価結果を表1~4に示した。
[評価基準]
・5点:接触角が130度以上であった。
・4点:接触角が120度以上130度未満であった。
・3点:接触角が110度以上120度未満であった。
・2点:接触角が100度以上110度未満であった。
・1点:接触角が100度未満であった。
【0065】
(滑落性試験)
硬化塗膜付き無機質建材の撥水性を評価するために、水の滑落性を測定した。具体的には、硬化塗膜付き無機質建材の試験板(10cm×10cm)を水平な台に対して30度に傾けて、硬化塗膜面が上方側となるように設置した。続いて、その試験板の上端側に、上方5cmの高さからスポイトで水を1滴(約0.05mL)滴下した際の滑落性を下記の基準で評価した。評価結果を表1~4に示した。
[評価基準]
・5点:水滴が試験板外に転がり落ちた。
・4点:水滴が転がったが、試験板の途中で止まった。
・3点:水滴が転がった直後に止まった。
・2点:水滴ができたが、転がらなかった。
・1点:水滴ができずに、濡れ広がった。
【0066】
[耐水性評価]
(耐水性試験)
硬化塗膜の耐水性を評価するため、耐温水試験を行った。具体的には、各硬化塗膜付き試験片(10mm×10mm)を60℃の温水に240時間浸漬した。その後、該温水から取り出し、塗膜面を軽く拭いた試験体を用い、硬化塗膜の無機質建材への密着性を評価するため、JIS K5400に基づき、碁盤目試験を行った。
[評価基準(耐水試験240時間後の密着性/碁盤目試験)]
・5点:残存マス数が25であった。
・4点:残存マス数が23以上25未満であった。
・3点:残存マス数が21以上23未満であった。
・2点:残存マス数が19以上21未満であった。
・1点:残存マス数が17以上19未満であった。
・0点:残存マス数が17未満であった。
【0067】
続いて、耐水性試験後の試験板を用いた以外は、上記の撥水性評価と同様にして、接触角測定試験および滑落性試験を行った。評価結果を表1~4に示した。
【0068】
[耐候性評価]
(耐候性試験)
硬化塗膜付き無機質建材の耐候性を評価するため、耐候性試験を行った。具体的には、各硬化塗膜付き無機質建材の試験板(5cm×5cm)の硬化塗膜面に対して、塗膜の耐候性を評価するため、アイスーパーUVテスターによる促進耐候性試験を行った。具体的には、以下の条件で耐候性試験を行った。
試験機:アイスーパーUVテスター(岩崎電気(株)製、フィルター;WJ100-SUV、試験体面への放射照度;75mW/cm、波長域;295~450nm)
試験時間:1000時間
試験サイクル;照射4時間→結露4時間(結露前後のシャワー30秒間)
平均湿度;照射時50%、結露時98%、
ブラックパネル温度;照射時63℃、結露時30℃
【0069】
続いて、耐候性試験後の試験板の硬化塗膜面の光沢度を、光沢計(「GLOSSMETER」、(株)村上色彩技術研究所製)で測定した。なお、耐候性試験前の試験板の硬化塗膜面の光沢度を同様の方法で予め測定しておき、下記式で光沢度保持率を算出した。評価結果を表1~4に示した。
光沢度保持率(%)=耐候性試験後の試験板の硬化塗膜面の光沢度/耐候性試験前の試験板の硬化塗膜面の光沢度×100
[評価基準]
・5点:光沢度保持率が90%以上であった。
・4点:光沢度保持率が80%以上90%未満であった。
・3点:光沢度保持率が70%以上80%未満であった。
・2点:光沢度保持率が60%以上70%未満であった。
・1点:光沢度保持率が60%未満であった。
【0070】
また、耐候性試験後の試験板を用いた以外は、上記の撥水性評価と同様にして、接触角測定試験および滑落性試験を行った。評価結果を表1~4に示した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】