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特開2023-88164放射性物質の拡散状況予測装置および方法並びにプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088164
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】放射性物質の拡散状況予測装置および方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/00 20060101AFI20230619BHJP
【FI】
G21C17/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202858
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦男
(72)【発明者】
【氏名】米田 次郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 岳
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075BA12
2G075DA08
2G075EA07
2G075FB18
2G075GA14
(57)【要約】
【課題】放射性物質の拡散状況予測装置および方法並びにプログラムにおいて、放射性物質の拡散状況を予測するための計算負荷を低下させることで処理時間の短縮化を図る。
【解決手段】気象データに基づいて放出源からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表すデータベースを生成するデータベース生成部と、データベース生成部により生成された拡散分布を放射性物質の放出シナリオに応じて補正する拡散分布補正部と、拡散分布補正部により補正された補正拡散分布に基づいて評価位置における線量を算出する線量算出部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象データに基づいて放出源からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表すデータベースを生成するデータベース生成部と、
前記データベース生成部により生成された拡散分布を放射性物質の放出シナリオに応じて補正する拡散分布補正部と、
前記拡散分布補正部により補正された補正拡散分布に基づいて評価位置における線量を算出する線量算出部と、
を備える放射性物質の拡散状況予測装置。
【請求項2】
前記放出シナリオは、放射性物質の取扱設備での異常時に放出される放射性物質の推定放出量を有する、
請求項1に記載の放射性物質の拡散状況予測装置。
【請求項3】
前記拡散分布補正部は、前記データベース生成部により生成された拡散分布に前記推定放出量を乗算して補正拡散分布を算出する、
請求項2に記載の放射性物質の拡散状況予測装置。
【請求項4】
前記データベース生成部は、前記放出源から規定放出時間にわたって放射性物質が放出されたとき、前記放出源からの放射性物質の放出時から予め設定された所定の経過時間ごとの放射性物質の拡散分布の変化を表す拡散分布変動マップを生成する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の放射性物質の拡散状況予測装置。
【請求項5】
前記データベース生成部は、前記放出源からの放射性物質の放出時期を予め設定された所定の放出遅延時間だけずらした複数の放出時期変動マップを生成する、
請求項4に記載の放射性物質の拡散状況予測装置。
【請求項6】
前記拡散分布補正部は、前記拡散分布変動マップと前記放出時期変動マップを用いて、放射性物質の放出時期から所定の経過時間を経過した評価時刻における前記評価位置での放射性物質の濃度を算出する、
請求項5に記載の放射性物質の拡散状況予測装置。
【請求項7】
前記拡散分布補正部は、放射性物質の異なる放出時期における前記評価時刻の放射性物質の濃度を加算して前記評価位置での放射性物質の濃度を算出する、
請求項6に記載の放射性物質の拡散状況予測装置。
【請求項8】
気象データに基づいて放出源からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表すデータベースを生成するステップと、
生成された拡散分布を放射性物質の放出シナリオに応じて補正するステップと、
補正された補正拡散分布に基づいて評価位置における線量を算出するステップと、
を有する放射性物質の拡散状況予測方法。
【請求項9】
気象データに基づいて放出源からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表すデータベースを生成するステップと、
生成された拡散分布を放射性物質の放出シナリオに応じて放射性物質の拡散分布を補正するステップと、
補正された補正拡散分布に基づいて評価位置における線量を算出するステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射性物質の拡散状況予測装置、放射性物質の拡散状況予測方法、プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所などの原子力施設で事故が発生したとき、放射性物質が放出されて周囲に拡散するおそれがある。この場合、周辺環境への原子力物質の拡散状況を速やかに把握する必要がある。そのため、事前に、原子力施設の地域データや過去の気象データなどに基づいて原子力施設からの放射性物質の拡散状況を予測するシステムが提案されている。従来の放射性物質の拡散状況予測装置は、過去の気流データに基づいて放射性物質の拡散計算や沈着計算を行い、特定の地域での放射性物質の濃度を求め、濃度から線量を算出している。このような技術としては、例えば、下記特許文献に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4334374号公報
【特許文献2】特開2009-162502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の放射性物質の拡散状況予測装置では、原子力施設からの放射性物質の放出シナリオを複数構築し、シナリオごとに特定の地域での線量評価を行っている。線量評価は、原子力施設の周辺の気流データに基づいて放射性物質の気流解析、拡散計算、沈着計算、濃度計算、線量計算を行う。評価地域の平面的な2次元処理では、これらの計算負荷が小さいものの、線量の精緻化のために地形などを考慮した3次元処理では、計算負荷が大きくなる。そのため、複数のシナリオに応じた3次元処理を行う場合、計算負荷が格段に大きくなってしまい、処理に長時間を要してしまうという課題がある。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、放射性物質の拡散状況を予測するための計算負荷を低下させることで処理時間の短縮化を図る放射性物質の拡散状況予測装置および方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の放射性物質の拡散状況予測装置は、気象データに基づいて放出源からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表すデータベースを生成するデータベース生成部と、前記データベース生成部により生成された拡散分布を放射性物質の放出シナリオに応じて補正する拡散分布補正部と、前記拡散分布補正部により補正された補正拡散分布に基づいて評価位置における線量を算出する線量算出部と、を備える。
【0007】
また、本開示の放射性物質の拡散状況予測方法は、気象データに基づいて放出源からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表すデータベースを生成するステップと、生成された拡散分布を放射性物質の放出シナリオに応じて補正するステップと、補正された補正拡散分布に基づいて評価位置における線量を算出するステップと、を有する。
【0008】
また、本開示のプログラムは、気象データに基づいて放出源からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表すデータベースを生成するステップと、生成された拡散分布を放射性物質の放出シナリオに応じて補正するステップと、補正された補正拡散分布に基づいて評価位置における線量を算出するステップと、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の放射性物質の拡散状況予測装置および方法並びにプログラムによれば、放射性物質の拡散状況を予測するための計算負荷を低下させることで、処理時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、放射性物質の拡散状況予測装置を表す概略構成図である。
図2図2は、放射性物質の拡散分布マップを表す概略図である。
図3図3は、時間の経過に伴う線量率を表すグラフである。
図4図4は、拡散分布マップの生成処理を表すフローチャートである。
図5図5は、拡散分布マップの補正処理および線量算出処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0012】
<放射性物質の拡散状況予測装置>
図1は、放射性物質の拡散状況予測装置を表す概略構成図である。
【0013】
図1に示すように、拡散状況予測装置10は、原子力発電所などの原子力施設で事故が発生したことを想定し、原子力施設から放出された放射性物質の周辺への拡散状況を推定するものである。拡散状況予測装置10は、拡散状況予測部11と、操作部12と、表示部13とを備える。
【0014】
拡散状況予測部11は、気象データに基づいて放出源からの放射性物質の拡散分布を推定し、推定した拡散分布に基づいて評価地域(評価位置)における線量を算出して評価するものである。
【0015】
拡散状況予測部11は、データベース生成部21と、拡散分布補正部22と、線量算出部23とを有する。
【0016】
データベース生成部21は、気象データベース31に接続される。データベース生成部21は、気象データベース31に格納された気象データの中から気流データを取得する。データベース生成部21が取得した気流データは、原子力施設の周辺の気流データであり、例えば、風向きや風速などである。なお、気象データは、日本全国の1年間の気象データである。気象データベース31は、原子力施設で取得した気象データ、気象庁が公開した気象データ、民間施設が公開した気象データなどである。
【0017】
データベース生成部21は、気象データベース31から取得した気流データ(気象データ)に基づいて放出源である原子力施設の周辺地域の気流解析を行うと共に、原子力施設からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表す拡散分布データベース32を生成する。すなわち、データベース生成部21は、原子力施設から単位放出量の放射性物質が放出されたとき、原子力施設の周辺の気流データ(気流解析データ)に応じた放射性物質の拡散分布を表す複数の拡散分布マップを生成し、複数の拡散分布マップから構成される拡散分布データベース32を生成する。拡散分布マップは、2次元マップまたは3次元マップである。
【0018】
ここで、単位放出量とは、例えば、1ベクレル(Bq)当たりの放射性物質の放出量である。1ベクレルとは、放射性物質が1秒間に崩壊する原子の個数(放射能)を表す。また、原子力施設は、原子炉だけでなく各種機器や配管などの複数の取扱設備を有しており、放出源は、複数の取扱設備である。
【0019】
データベース生成部21は、原子力施設からの放射性物質の単位放出量と原子力施設の周辺の気流データに基づいて、気流解析処理と拡散計算処理と沈着計算処理と濃度計算処理を行い、原子力施設の周辺における放射性物質の濃度を求める。気流解析処理、拡散計算処理、沈着計算処理、濃度計算処理は、既存の処理であり、例えば、WRF/WRF-ChemモデルやCALPUFFモデルなどの3次元モデル、または、ガウスプルームのような簡易モデルを用いればよい。
【0020】
例えば、気流解析処理は、気象庁のGPVデータをインプットとし、計算メッシュ内の気流を内挿で設定する。または、気流解析処理は、気象モデルなどを用いて計算メッシュ内の気流を作成する。拡散計算処理は、所定の気流に則った、地形影響を考慮した粒子またはパフの移流・拡散を模擬し、単位放出率で計算する。沈着計算処理は、放射性物質の降雨などによる地表面沈着を模擬する。濃度計算処理は、拡散計算処理および沈着計算処理の処理結果に基づいて放射性物質の濃度を求める。
【0021】
データベース生成部21は、複数の拡散分布マップを生成し、複数の拡散分布マップが格納された拡散分布データベース32を生成する。
【0022】
拡散分布補正部22は、拡散分布データベース32とシナリオデータベース33に接続される。拡散分布補正部22は、シナリオデータベース33に格納されている複数の放出シナリオから、評価したい事象のシナリオを取得する。また、拡散分布補正部22は、拡散分布データベース32に格納されている複数の拡散分布マップから、放出シナリオに応じた所定の拡散分布マップを取得する。
【0023】
拡散分布補正部22は、拡散分布データベース32から取得した拡散分布マップを放射性物質の放出シナリオに応じて補正し、補正拡散分布マップ(補正拡散分布データベース)を生成する。放射性物質の取扱設備である原子力施設で事故が発生したとき、特定の時刻に、原子力施設における特定の取扱設備から、特定の量の放射性物質が放出される。ここで、放射性物質の放出シナリオとは、放射性物質の放出時期(放出時刻)、放射性物質の放出位置(取扱設備)、放射性物質の推定放出量などを含む。
【0024】
すなわち、拡散分布補正部22は、拡散分布マップに対して、放射性物質の放出時期と放出位置と推定放出量などを加味して補正拡散分布マップを生成する。例えば、拡散分布補正部22は、放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布量に推定放出量を乗算して補正拡散分布マップを生成する。
【0025】
線量算出部23は、拡散分布補正部22により補正された補正拡散分布マップに基づいて評価地域における線量を算出する。補正拡散分布マップは、原子力施設の周辺の放射性物質の濃度分布を2次元または3次元で表すものである。3次元で表した放射性物質の濃度分布は、空気中に拡散している濃度分布と、地表面に沈着している濃度分布を含む。線量算出部23は、原子力施設の周辺の放射性物質の濃度分布に基づいて、線量の評価を行う評価地域の線量を算出する。
【0026】
拡散および沈着された放射性物質の影響は、人体に対する放射線影響の程度で評価され、シーベルト(Sv)単位の実効線量あるいは等価線量で表される。そのため、評価地域に対する放射性物質の影響を評価する上で、放射性物質の濃度を求めるだけではなく、線量を求める必要がある。線量を求める場合、大気中の放射性物質または地表面に沈着した放射性物質からのガンマ線による外部被ばく(クラウドシャイン、グラウンドシャイン)と、吸入による内部被ばくの評価が必要になる。線量算出部23は、既存の方法に基づいて、放射性物質の濃度から外部被ばく量と内部被ばく量を求め、外部被ばく量と内部被ばく量から線量や線量率などを求める。
【0027】
操作部12は、拡散状況予測部11に接続される。操作部12は、例えば、キーボードやタッチパネルなどであって、作業者が操作可能である。作業者は、操作部12を用いて拡散状況予測部11にアクセス可能である。例えば、作業者は、操作部12を操作してデータベース生成部21にアクセスし、気象データベース31から所望の気象データを取得する。また、作業者は、操作部12を操作して拡散分布補正部22にアクセスし、拡散分布データベース32から所望の拡散分布マップを取得する。作業者は、操作部12を操作して拡散分布補正部22にアクセスし、シナリオデータベース33から所望の拡散分布マップを取得する。なお、操作部12からの指令に基づいて、データベース生成部21が気象データベース31から所望の気象データを自動的に取得したり、拡散分布補正部22が拡散分布データベース32から所望の拡散分布マップを自動的に取得したりするように構成してもよい。
【0028】
表示部13は、拡散状況予測部11に接続される。表示部13は、例えば、ディスプレイやプリンタなどである。表示部13は、拡散状況予測部11の処理内容や処理経過などを表示すると共に、線量算出部23の算出結果を表示する。
【0029】
<放射性物質の拡散分布マップ>
図2は、放射性物質の拡散分布マップを表す概略図、図3は、時間の経過に伴う線量率を表すグラフである。
【0030】
図2に示すように、放射性物質の拡散分布マップは、拡散分布変動マップと放出時期変動マップから構成される。
【0031】
拡散分布変動マップは、図2の横軸に沿って配置されたものである。拡散分布変動マップは、放出源である原子力施設から規定放出時間にわたって放射性物質が放出されたとき、原子力施設からの放射性物質の放出時から予め設定された所定の経過時間ごとの放射性物質の拡散分布の変化を表すものである。
【0032】
ここで、規定放出時間は、1時間(h)であり、所定の経過時間は、1時間(h)であるが、規定放出時間と経過時間は、1時間に限らず、例えば、30分でもよいし、2時間でもよい。図2の計算NO,1は、放出時刻が1月1日の0時であり、0時から1時までの規定放出時間(1時間)に原子力施設の放出位置Sから放射性物質が放出されたときの放出シナリオである。計算NO,1は、放出時刻(1月1日0時)に放出位置Sから放射性物質が放出されたとき、経過時間(1時間)ごとの放射性物質の拡散状況を表している。なお、本実施形態にて、拡散分布変動マップは、放出時刻から24時間の放射性物質の拡散状況を表すものであるが、例えば、12時間でもよいし、25時間以上であってもよい。
【0033】
放出時期変動マップは、図2の縦軸に沿って配置されたものである。放出時期変動マップは、放射性物質の放出時期を予め設定された所定の放出遅延時間だけずらしたときの、原子力施設からの放射性物質の放出時から所定の経過時間ごとの放射性物質の拡散分布の変化を表すものである。
【0034】
ここで、所定の放出遅延時間は、1時間(h)であるが、1時間に限らず、例えば、30分でもよいし、2時間でもよい。図2の計算NO,1は、上述したように、放出時刻が1月1日の0時であり、0時から1時までの規定放出時間(1時間)に原子力施設の放出位置Sから放射性物質が放出されたときの放出シナリオである。図2の計算NO,2は、放出時刻が放出遅延時間(1時間)だけずれた1月1日の1時であり、1時から2時までの規定放出時間(1時間)に原子力施設の放出位置Sから放射性物質が放出されたときの放出シナリオである。計算NO,2は、放出時刻(1月1日1時)に放出位置Sから放射性物質が放出されたとき、経過時間(1時間)ごとの放射性物質の拡散状況を表している。本実施形態にて、放出時期変動マップは、計算NO,1の放出時刻である1月1日1時から計算NO,8760の放出時刻である12月31日23時までのデータを有する。
【0035】
放射性物質の拡散分布マップは、放射性物質の放出時刻が放出遅延時間(1時間)ずれた計算NO,1から計算NO,8760の放出時期変動マップにて、規定放出時間(1時間)にわたって放射性物質が放出されたとき、拡散分布変動マップとして、所定の経過時間(1時間)ごとの放射性物質の拡散分布の変化を表している。
【0036】
図1および図2に示すように、拡散分布補正部22は、拡散分布変動マップと放出時期変動マップを用いて、放射性物質の放出時期から所定の経過時間を経過した評価時刻における評価地域Tでの放射性物質の濃度を算出する。図2にて、例えば、計算NO,1の経過時間1h(放出中)は、放出時刻(1月1日0時)から経過時刻(1月1日1時)の間の放射性物質の放出中の拡散分布を表す。すなわち、放出位置Sから気流データ(風向きおよび風速)に応じて放射性物質が拡散する分布を表している。計算NO,1の経過時間2h(放出停止)は、経過時刻(1月1日1時)から経過時刻(1月1日2時)の間の放射性物質の放出停止中の拡散分布を表す。すなわち、放出位置Sから気流データ(風向きおよび風速)に応じて放射性物質が拡散する分布を表している。また、計算NO,2の経過時間1h(放出中)は、放出時刻(1月1日1時)から経過時刻(1月1日2時)の間の放射性物質の放出中の拡散分布を表す。すなわち、放出位置Sから気流データ(風向きおよび風速)に応じて放射性物質が拡散する分布を表している。
【0037】
拡散分布補正部22は、具体的に、放射性物質の異なる放出時期における評価時刻の放射性物質の濃度を加算して評価地域Tでの放射性物質の濃度を算出する。すなわち、放射性物質の拡散分布マップは、例えば、計算NO,3の経過時間1h(放出中)と、計算NO,2の経過時間2h(放出停止)と、計算NO,1の経過時間3h(放出停止)とは、同じ時刻の放射性物質の拡散分布である。そこで、評価地域Tでの放射性物質の濃度を算出するとき、拡散分布補正部22は、計算NO,3の経過時間1h(放出中)の拡散分布と、計算NO,2の経過時間2h(放出停止)の拡散分布と、計算NO,1の経過時間3h(放出停止)のの拡散分布を重ねて放射性物質の拡散分布を求める。そして、同じ時間帯の3つの放射性物質の拡散分布が重ねなれた補正拡散分布に基づいて評価地域Tでの放射性物質の濃度を算出する。
【0038】
そして、拡散分布補正部22は、同じ時間帯の3つの放射性物質の拡散分布を重ねるとき、各拡散分布の濃度に推定放出量を乗算することで、評価地域Tでの放射性物質の濃度を算出する。
【0039】
すなわち、図2および図3に示すように、計算NO,1にて、放出時間1h(放出中)にて、経過時間A1の間に、評価地域Tにおける放射性物質の濃度(線量率)は、徐々に上昇する。そして、経過時間2h(放出停止)にて、経過時間A2の間に、評価地域Tにおける放射性物質の濃度(線量率)は、急激に上昇する。その後、計算NO,1の放出時間3h(放出停止)にて、経過時間A3の間に、評価地域Tにおける放射性物質の濃度(線量率)は、徐々に低下する。計算NO,2から計算NO,8760でも同様に、時間の経過と共に濃度(線量率)が変動する。そこで、計算NO,1から計算NO,8760の間で、同じ時間の放射性物質の拡散分布を合わせることで、評価地域Tにおける濃度(線量率)を高精度に求めることができる。
【0040】
<放射性物質の拡散状況予測方法>
図4は、拡散分布マップの生成処理を表すフローチャート、図5は、拡散分布マップの補正処理および線量算出処理を表すフローチャートである。
【0041】
本実施形態の放射性物質の拡散状況予測方法は、気象データに基づいて放出源としての原子力施設からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表す拡散分布データベース32を生成するステップと、生成された拡散分布データベースを放射性物質の放出シナリオに応じて補正して補正拡散分布データベースを生成するステップと、補正拡散分布データベースに基づいて評価地域における線量を算出するステップとを有する。
【0042】
拡散分布マップの生成処理において、図1および図4に示すように、ステップS11にて、データベース生成部21は、気象データベース31から気流データ(気象データ)を取得し、気流データに基づいて原子力施設の周辺地域の気流解析を行う。続いて、データベース生成部21は、ステップS12にて、気流解析データに基づいて拡散計算処理を行い、ステップS13にて、気流解析データに基づいて沈着計算処理を行う。そして、ステップS14にて、データベース生成部21は、拡散計算結果と沈着計算結果に基づいて濃度計算処理を行い、原子力施設の周辺における放射性物質の濃度を求める。
【0043】
ステップS15にて、データベース生成部21は、原子力施設から単位放出量の放射性物質が放出されたと仮定し、原子力施設の周辺の気流データに応じた放射性物質の拡散分布を表す複数の拡散分布マップを生成し、複数の拡散分布マップから構成される拡散分布データベース32を生成する。
【0044】
拡散分布マップの補正処理および線量算出処理において、図1および図5に示すように、ステップS21にて、拡散分布補正部22は、シナリオデータベース33に格納されている複数の放出シナリオから、評価したい事象のシナリオを取得する。ステップS22にて、拡散分布補正部22は、拡散分布データベース32に格納されている複数の拡散分布マップから、放出シナリオに応じた所定の拡散分布マップを取得する。
【0045】
ステップS23にて、原子力施設から離れた放射性物質の拡散状況を評価したい評価地域を設定する。ステップS24にて、拡散分布補正部22は、拡散分布データベース32から取得した拡散分布マップを放射性物質の放出シナリオに応じて補正し、補正拡散分布マップを生成する。
【0046】
すなわち、図2に示すように、拡散分布補正部22は、放射性物質の異なる放出時期における評価時刻の放射性物質の濃度を加算して評価地域Tでの放射性物質の濃度を算出する。例えば、計算NO,3の経過時間1h(放出中)と、計算NO,2の経過時間2h(放出停止)と、計算NO,1の経過時間3h(放出停止)とは、同じ時間帯の放射性物質の拡散分布である。拡散分布補正部22は、計算NO,3の経過時間1h(放出中)の拡散分布に推定放出量を乗算したデータと、計算NO,2の経過時間2h(放出停止)の拡散分布に推定放出量を乗算したデータと、計算NO,1の経過時間3h(放出停止)の拡散分布に推定放出量を乗算したデータを重ねて放射性物質の拡散分布を求める。そして、同じ時間帯の3つの放射性物質の拡散分布が重ねなれた補正拡散分布に基づいて評価地域Tでの放射性物質の濃度を算出する。
【0047】
そして、ステップS25にて、線量算出部23は、拡散分布補正部22により補正された補正拡散分布マップに基づいて評価地域における線量を算出する。
【0048】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係る放射性物質の拡散状況予測装置は、気象データに基づいて放出源からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表す拡散分布データベース32を生成するデータベース生成部21と、データベース生成部21により生成された拡散分布データベース32を放射性物質の放出シナリオに応じて補正する拡散分布補正部22と、拡散分布補正部22により補正された補正拡散分布に基づいて評価位置における線量を算出する線量算出部23と、を備える。
【0049】
第1の態様に係る放射性物質の拡散状況予測装置によれば、データベース生成部21は、気象データに基づいて放出源である原子力施設からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表す拡散分布データベース32を生成する。そして、原子力施設からの放射性物質の拡散状況を推定するとき、拡散分布補正部22は、拡散分布データベース32を放射性物質の放出シナリオに応じて補正し、線量算出部23は、補正拡散分布に基づいて評価位置における線量を算出する。
【0050】
そのため、放射性物質の放出シナリオとして、原子炉施設からの放射性物質の放出量、放出位置、放出時期などが変更されたとき、既に生成されている拡散分布データベース32のデータを利用して線量を推定すればよい。すなわち、再度、気象データに基づいて原子力施設からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表す新たな拡散分布データベース32を作成する必要がない。その結果、放射性物質の拡散状況を予測するための計算負荷を低下させることで、処理時間の短縮化を図ることができる。
【0051】
第2の態様に係る放射性物質の拡散状況予測装置は、放出シナリオとして、放射性物質の取扱設備での異常時に放出される放射性物質の推定放出量を有する。これにより、拡散分布補正部22は、拡散分布データベース32のデータを推定放出量に応じて補正することで、原子力施設からの放射性物質の拡散状況を高精度に推定することができる。
【0052】
第3の態様に係る放射性物質の拡散状況予測装置は、拡散分布補正部22がデータベース生成部21により生成された拡散分布データベース32に推定放出量を乗算して補正拡散分布データベースを算出する。これにより、拡散分布データベース32は、放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表すことから、推定放出量を乗算することで、適切な放射性物質の拡散分布を算出することができる。
【0053】
第4の態様に係る放射性物質の拡散状況予測装置は、原子力施設から規定放出時間にわたって放射性物質が放出されたとき、データベース生成部21が原子力施設からの放射性物質の放出時から予め設定された所定の経過時間ごとの放射性物質の拡散分布の変化を表す拡散分布変動マップを生成する。これにより、放射性物質の放出時から所定の経過時間ごとの拡散分布の変化を予測することができる。
【0054】
第5の態様に係る放射性物質の拡散状況予測装置は、データベース生成部21が原子力施設からの放射性物質の放出時期を予め設定された所定の放出遅延時間だけずらした複数の放出時期変動マップを生成する。これにより、原子力施設からの放射性物質の放出時期が所定の放出遅延時間だけずれた拡散分布の変化を予測することができる。
【0055】
第6の態様に係る放射性物質の拡散状況予測装置は、拡散分布補正部22が拡散分布変動マップと放出時期変動マップを用いて、放射性物質の放出時期から所定の経過時間を経過した評価時刻における評価地域での放射性物質の濃度を算出する。これにより、原子力施設からの放射性物質の拡散状況を高精度に推定することができる。
【0056】
第7の態様に係る放射性物質の拡散状況予測装置は、拡散分布補正部22が放射性物質の異なる放出時期における評価時刻の放射性物質の濃度を加算して評価地域での放射性物質の濃度を算出する。これにより、原子力施設からの放射性物質の拡散状況を高精度に推定することができる。
【0057】
第8の態様に係る放射性物質の拡散状況予測方法は、気象データに基づいて放出源からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表す拡散分布データベース32を生成するステップと、生成された拡散分布データベース32を放射性物質の放出シナリオに応じて補正するステップと、補正された補正拡散分布データベースに基づいて評価位置における線量を算出するステップとを有する。これにより、放射性物質の放出シナリオとして、原子炉施設からの放射性物質の放出量、放出位置、放出時期などが変更されたとき、既に生成されている拡散分布データベース32のデータを利用して線量を推定すればよく、再度、新たな拡散分布データベースを作成する必要がない。その結果、放射性物質の拡散状況を予測するための計算負荷を低下させることで、処理時間の短縮化を図ることができる。
【0058】
第9の態様に係るプログラムは、気象データに基づいて放出源からの放射性物質の単位放出量当たりの拡散分布を表す拡散分布データベース32を生成するステップと、生成された拡散分布データベース32を放射性物質の放出シナリオに応じて補正するステップと、補正された補正拡散分布データベースに基づいて評価位置における線量を算出するステップをコンピュータに実行させる。これにより、放射性物質の放出シナリオとして、原子炉施設からの放射性物質の放出量、放出位置、放出時期などが変更されたとき、既に生成されている拡散分布データベース32のデータを利用して線量を推定すればよく、再度、新たな拡散分布データベースを作成する必要がない。その結果、放射性物質の拡散状況を予測するための計算負荷を低下させることで、処理時間の短縮化を図ることができる。
【0059】
なお、上述した実施形態では、拡散状況予測装置10は、原子力発電所などの原子力施設で事故が発生したとき、原子力施設から放出された放射性物質の周辺への拡散状況を推定するものとしたが、実際に事故が発生したとき、検出器が検出した放射性物質の放出量に基づいて放射性物質の周辺への拡散状況を推定してもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 拡散状況予測装置
11 拡散状況予測部
12 操作部
13 表示部
21 データベース生成部
22 拡散分布補正部
23 線量算出部
31 気象データベース
32 拡散分布データベース
33 シナリオデータベース
S 放出位置
T 評価地域(評価位置)
図1
図2
図3
図4
図5