(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088169
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法、推定プログラム、及び学習モデル生成装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20230619BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
G01N27/00 L
G01N27/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202865
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 創
(72)【発明者】
【氏名】若尾 泰通
(72)【発明者】
【氏名】篠原 寿充
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 良彦
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 祐輔
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA08
2G060AA11
2G060AE29
2G060AF07
2G060EA08
2G060KA14
(57)【要約】
【課題】特殊な検出装置を用いることなく、導電性を有する柔軟材料を備えた対象物の電気特性を利用して、対象物の劣化状態を推定する。
【解決手段】推定装置(1)は、導電性を有し、かつ変形に応じて電気特性が変化する柔軟材料(22)を備えた対象物(2)の柔軟材料(22)に予め定められた複数の検出点(75)の間の電気特性を検出する検出部と、柔軟材料の変形に応じて変化する時系列の電気特性と、柔軟材料の変形に関する劣化状態を示す劣化状態情報とを学習用データとして用いて、時系列の電気特性を入力とし、劣化状態情報を出力するように学習された学習モデル(51)に対して、推定対象物の時系列の電気特性(4)を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する劣化状態を推定する推定部(5)と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有し、かつ変形に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた対象物の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出する検出部と、
前記柔軟材料の変形に応じて変化する時系列の電気特性と、前記柔軟材料の変形に関する劣化状態を示す劣化状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記劣化状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、推定対象物の前記検出部で検出された時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する劣化状態を示す劣化状態情報を推定する推定部と、
を含む推定装置。
【請求項2】
前記電気特性は、体積抵抗であり、
前記対象物は、柔軟性を有する部材を含み、
前記劣化状態は、前記対象物の初期状態からの変形回数、変形頻度及び経過時間の少なくとも1つの物理量が大きくなるに従って劣化の度合いが大きくなる劣化度を示す状態である
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記劣化状態は、時系列の電気特性において前記対象物の変形前形状からの変形時の電気特性、及び前記変形前形状への復元時の電気特性の少なくとも一方に対する劣化度を示す状態である
請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記劣化状態は、時系列の電気特性を周波数分析し、分析結果の周波数のパワーが、所定時期の周波数のパワーより大きくなるに従って劣化の度合いが大きくなる劣化度を示す状態である
請求項2に記載の推定装置。
【請求項5】
前記対象物は、繊維状及び網目状の少なくとも一方の骨格を有する構造、又は内部に微小な空気泡が複数散在する構造のウレタン材の少なくとも一部に導電性が付与された材料を含む
請求項2から請求項4の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項6】
前記学習モデルは、前記柔軟材料をリザーバとして当該リザーバを用いたリザーバコンピューティングによるネットワークを用いて学習させることで生成されたモデルを含む
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項7】
コンピュータが
導電性を有し、かつ変形に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた対象物の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出し、
前記柔軟材料の変形に応じて変化する時系列の電気特性と、前記柔軟材料の変形に関する劣化状態を示す劣化状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記劣化状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、検出された推定対象物の時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する劣化状態を示す劣化状態情報を推定する
推定方法。
【請求項8】
コンピュータに
導電性を有し、かつ変形に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた対象物の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出し、
前記柔軟材料の変形に応じて変化する時系列の電気特性と、前記柔軟材料の変形に関する劣化状態を示す劣化状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記劣化状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、検出された推定対象物の時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する劣化状態を示す劣化状態情報を推定する
処理を実行させるための推定プログラム。
【請求項9】
導電性を有し、かつ変形に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた対象物の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出する検出部からの前記電気特性と、前記柔軟材料の劣化状態を示す劣化状態情報と、を取得する取得部と、
前記柔軟材料の変形に応じて変化する時系列の電気特性と、前記柔軟材料の変形に関する劣化状態を示す劣化状態情報とを学習用データとして、前記柔軟材料を変形させた際の時系列の電気特性を入力とし、前記柔軟材料の変形に関する劣化状態を示す劣化状態情報を出力する学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を含む学習モデル生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、推定装置、推定方法、推定プログラム、及び学習モデル生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、物体に生じる形状変化を検出し、当該検出結果を用いて物体に変形を与える人や物の状態を推定することが行われている。物体に生じる形状変化を検出する側面では、物体の変形を阻害せずに変形を検出することは困難である。また、金属変形等の剛体の検出に用いられる歪センサは物品に利用困難なため、物体の変形を検出するためには、特殊な検出装置が要求される。例えば、カメラによる物体の変位と振動を測定して、変形画像を取得し、変形量を抽出する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、光の透過量から変形量を推定する柔軟触覚センサに関する技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/029905号
【特許文献2】特開2013-101096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、物体等の対象物に生じる形状変化を検出する側面では、カメラ及び画像解析手法を用いて対象物の変位等の変形量を検出する場合、カメラ及び画像解析等を含むシステムは、大規模なものとなり、装置の大型化を招くので好ましくはない。また、一方では、物体として、変形及び変形後の復元を可能とする柔軟性を有する柔軟材料で形成された対象物は、経時変化などによって柔軟性・反発力・復元力が低下する。しかし、柔軟性の評価は対象物を変形させたときにおける柔らかさ及び硬さなどの感覚による検査者の主観に依存しており、対象物の柔軟性を特定するには充分ではない。よって、例えば、経時変化などにより対象物の柔らかさが当初の柔らかさより硬い状態になって柔軟性が低下した劣化状態を特定する時期が曖昧になる。従って、対象物の劣化状態を特定するのには改善の余地がある。
【0005】
本開示は、特殊な検出装置を用いることなく、導電性を有する柔軟材料を備えた対象物の電気特性を利用して、対象物の劣化状態を推定可能な推定装置、推定方法、推定プログラム、及び学習モデル生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、第1態様は、
導電性を有し、かつ変形に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた対象物の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出する検出部と、
前記柔軟材料の変形に応じて変化する時系列の電気特性と、前記柔軟材料の変形に関する劣化状態を示す劣化状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記劣化状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、推定対象物の前記検出部で検出された時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する劣化状態を示す劣化状態情報を推定する推定部と、
を含む推定装置である。
【0007】
第2態様は、第1態様の推定装置において、
前記電気特性は、体積抵抗であり、
前記対象物は、柔軟性を有する部材を含み、
前記劣化状態は、前記対象物の初期状態からの変形回数、変形頻度及び経過時間の少なくとも1つの物理量が大きくなるに従って劣化の度合いが大きくなる劣化度を示す状態である。
【0008】
第3態様は、第2態様の推定装置において、
前記劣化状態は、時系列の電気特性において前記対象物の変形前形状からの変形時の電気特性、及び前記変形前形状への復元時の電気特性の少なくとも一方に対する劣化度を示す状態である。
【0009】
第4態様は、第3態様の推定装置において、
前記劣化状態は、時系列の電気特性を周波数分析し、分析結果の周波数のパワーが、所定時期の周波数のパワーより大きくなるに従って劣化の度合いが大きくなる劣化度を示す状態である。
【0010】
第5態様は、第2態様から第4態様の何れか1態様の推定装置において、
前記対象物は、繊維状及び網目状の少なくとも一方の骨格を有する構造、又は内部に微小な空気泡が複数散在する構造のウレタン材の少なくとも一部に導電性が付与された材料を含む。
【0011】
第6態様は、第1態様から第5態様の何れか1態様の推定装置において、
前記学習モデルは、前記柔軟材料をリザーバとして当該リザーバを用いたリザーバコンピューティングによるネットワークを用いて学習させることで生成されたモデルを含む。
【0012】
第7態様は、
コンピュータが
導電性を有し、かつ変形に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた対象物の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出し、
前記柔軟材料の変形に応じて変化する時系列の電気特性と、前記柔軟材料の変形に関する劣化状態を示す劣化状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記劣化状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、検出された推定対象物の時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する劣化状態を示す劣化状態情報を推定する
推定方法である。
【0013】
第8態様は、
コンピュータに
導電性を有し、かつ変形に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた対象物の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出し、
前記柔軟材料の変形に応じて変化する時系列の電気特性と、前記柔軟材料の変形に関する劣化状態を示す劣化状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記劣化状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、検出された推定対象物の時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する劣化状態を示す劣化状態情報を推定する
処理を実行させるための推定プログラムである。
【0014】
第9態様は、
導電性を有し、かつ変形に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた対象物の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出する検出部からの前記電気特性と、前記柔軟材料の劣化状態を示す劣化状態情報と、を取得する取得部と、
前記柔軟材料の変形に応じて変化する時系列の電気特性と、前記柔軟材料の変形に関する劣化状態を示す劣化状態情報とを学習用データとして、前記柔軟材料を変形させた際の時系列の電気特性を入力とし、前記柔軟材料の変形に関する劣化状態を示す劣化状態情報を出力する学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を含む学習モデル生成装置である。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、特殊な検出装置を用いることなく、導電性を有する柔軟材料を備えた対象物の電気特性を利用して、対象物の劣化状態を推定することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る推定装置の構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係る導電性ウレタンの配置を示す図である。
【
図3】実施形態に係る学習モデル生成装置の概念構成を示す図である。
【
図4】実施形態に係る学習処理部の機能構成を示す図である。
【
図5】実施形態に係る学習処理部の他の機能構成を示す図である。
【
図6】実施形態に係る推定装置の電気的な構成を示す図である。
【
図7】実施形態に係る推定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】実施形態に係る劣化状態推定装置の構成の一例を示す図である。
【
図9】実施形態に係る対象物の物理量を測定する測定装置を示す図である。
【
図10】実施形態に係る対象物の耐久試験を行った結果の一例を示す概念図である。
【
図11】実施形態に係る対象物の電気特性の一例を示す図である。
【
図12】実施形態に係る対象物の電気特性を電気抵抗値の変化の観点から捉えた概念図である。
【
図13】実施形態に係る対象物の電気特性における周波数特性(パワースペクトル)を示す概念図である。
【
図14】実施形態に係る学習処理の流れの一例を示す図である。
【
図15】実施形態に係る対象物における劣化状態の推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図16】実施形態に係る劣化状態推定部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本開示の技術を実現する実施形態を詳細に説明する。なお、作用、機能が同じ働きを担う構成要素及び処理には、全図面を通して同じ符合を付与し、重複する説明を適宜省略する場合がある。また、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
なお、本開示において人物とは、対象物に対して物理量により刺激を与えることが可能な人体及び物体の少なくとも一方を含む概念である。以下の説明では、人体及び物体の少なくとも一方を区別することなく、ヒトとモノとを含む概念として人物と総称して説明する。すなわち、人体及び物体のそれぞれの単体、及び人体と物体の組み合わせた組合せ体を総称して人物と称する。
【0019】
まず、
図1から
図7を参照して、本開示の技術を適用する導電性が付与された柔軟材料、及び当該柔軟材料を用いて、柔軟材料に対する付与側の状態を推定する状態推定処理を説明する。
【0020】
<柔軟材料>
本開示において「柔軟材料」とは、少なくとも一部が撓み等のように変形可能な材料を含む概念であり、ゴム材料等の柔らかい弾性体、繊維状及び網目状の少なくとも一方の骨格を有する構造体、及び内部に微小な空気泡が複数散在する構造体を含む。これらの構造体の一例には、ウレタン材などの高分子材料が挙げられる。また、本開示では、導電性が付与された柔軟材料を用いる。「導電性が付与された柔軟材料」とは、導電性を有する材料を含む概念であり、導電性を付与するために導電材を柔軟材料に付与した材料、及び柔軟材料が導電性を有する材料を含む。導電性を付与する柔軟材料はウレタン材などの高分子材料が好適である。以下の説明では、導電性が付与された柔軟材料の一例として、ウレタン材の全部または一部に導電材料を配合及び浸潤(含浸ともいう)等により形成させた部材を、「導電性ウレタン」と称して説明する。導電性ウレタンは、導電材料を配合と浸潤(含浸)との何れかの方法で形成可能であり、導電材料の配合又は浸潤(含浸)で形成可能で、また導電材料の配合と浸潤(含浸)とを組み合わせて形成可能である。例えば、浸潤(含浸)による導電性ウレタンが、配合による導電性ウレタン22より導電性が高い場合には、浸潤(含浸)により導電性ウレタンを形成することが好ましい。
【0021】
導電性ウレタンは、与えられた物理量に応じて電気特性が変化する機能を有する。電気特性が変化する機能を生じさせる物理量の一例には、撓み等のように構造を変形させる圧力による刺激(以下、圧力刺激という。)を示す圧力値による刺激値が挙げられる。なお、圧力刺激は、所定部位への圧力及び所定範囲の圧力の分布による圧力付与を含む。また、当該物理量の他例には、含水率及び水分付与等によって素材の性質を変化(変質)させる刺激(以下、素材刺激という。)を示す水分量等の刺激値が挙げられる。導電性ウレタンは、与えられた物理量に応じて電気特性が変化する。この電気特性を表す物理量の一例には、電気抵抗値が挙げられる。また、他例には、電圧値、又は電流値が挙げられる。
【0022】
導電性ウレタンは、所定の体積を有する柔軟材料に導電性を与えることで、与えられた物理量に応じた電気特性(すなわち電気抵抗値の変化)が現れ、その電気抵抗値は、導電性ウレタンの体積抵抗値と捉えることが可能である。導電性ウレタンは、電気経路が複雑に連携し、例えば、変形に応じて電気経路が伸縮したり膨縮したりする。また、電気経路が一時的に切断される挙動、及び以前と異なる接続が生じる挙動を示す場合もある。従って、導電性ウレタンは、所定距離を隔てた位置(例えば電極が配置された検出点の位置)の間では、与えられた物理量による刺激(圧力刺激及び素材刺激)の大きさや分布に応じた変形や変質で異なる電気特性を有する挙動を示す。このため、導電性ウレタンに与えられた物理量による刺激の大きさや分布に応じて電気特性が変化する。
【0023】
なお、導電性ウレタンを用いることで、変形及び変質についての対象箇所に電極等の検出点を設ける必要はない。導電性ウレタンに物理量による刺激が与えられる箇所を挟む任意の少なくとも2箇所に電極等の検出点を設ければよい(例えば
図1)。
【0024】
また、導電性ウレタンの電気特性の検出精度を向上するため、2個の検出点より多くの検出点を用いてもよい。また、本開示の導電性ウレタンは、
図1に示す導電性ウレタン22を1導電性ウレタン片とし、複数の導電性ウレタン片を配列してなる導電性ウレタン群で形成してもよい。この場合、複数の導電性ウレタン片毎に電気特性を検出してもよいし、複数の導電性ウレタン片の電気特性を合成して検出してもよい。複数の導電性ウレタン片毎に電気特性を検出する場合、配置部位毎(例えば検出セット#1~#n)に電気抵抗値等の電気特性を検出できる。また、他例としては、導電性ウレタン22上における検出範囲を分割して分割した検出範囲毎に検出点を設けて検出範囲毎に電気特性を検出してもよい。
【0025】
<推定装置>
次に、導電性ウレタンを用いて、当該導電性ウレタンに対する付与側の状態を推定する推定装置の一例を説明する。
【0026】
図1に、付与側の状態を推定する推定処理を実行可能な推定装置1の構成の一例を示す。推定装置1は、推定部5を備え、導電性ウレタン22における電気特性が入力されるように対象物2に接続されている。推定装置1では、対象物2に含まれる導電性ウレタン22に対する付与側の状態が推定される。推定装置1は、後述する処理を実行する実行装置としてのCPUを備えたコンピュータによって実現可能である。
【0027】
上述した導電性ウレタンの変形及び変質は、導電性ウレタンに対して時系列に与えられた物理量で生じる。この時系列に与えられる物理量は、付与側の状態に依存する。従って、時系列に変化する導電性ウレタンの電気特性は、導電性ウレタンに与えられた物理量の付与側の状態に対応する。例えば、導電性ウレタンを変形させる圧力刺激または導電性ウレタンを変質させる素材刺激が与えられる場合、時系列に変化する導電性ウレタンの電気特性は、圧力刺激の位置及び分布、並びに大きさを示す付与側の状態に対応する。よって、時系列に変化する導電性ウレタンの電気特性から導電性ウレタンに対する付与側の状態を推定することが可能である。
【0028】
推定装置1では、後述する推定処理によって、学習済みの学習モデル51を用いて、未知の付与側の状態を推定し、出力する。これにより、特殊な装置や大型の装置を用いたり対象物に含まれる導電性ウレタン22の変形及び変質を直接計測することなく、対象物2に対する付与側の状態を同定することが可能となる。学習モデル51は、対象物2に対する付与側の状態と、対象物2の電気特性(すなわち、対象物2に配置された導電性ウレタン22の電気抵抗値等の電気特性)とを入力として学習される。学習モデル51の学習については後述する。
【0029】
なお、導電性ウレタン22は、柔軟性を有する部材21に配置して対象物2を構成することが可能である(
図2)。導電性ウレタン22が配置された部材21により構成される対象物2は、電気特性検出部76を含む。導電性ウレタン22は、部材21の少なくとも一部に配置すればよく、内部に配置してもよいし外部に配置してもよい。また、導電性ウレタンは、導電性ウレタンへの付与側の状態を推定可能に配置すればよく、例えば、人物に直接的又は間接的、或いはその両方で接触可能に配置すればよい。
【0030】
図2に、対象物2における導電性ウレタン22の配置例を示す。対象物2のA-A断面を対象物断面2-1として示すように、導電性ウレタン22は、部材21の内部を全て満たすように形成しても良い。また、対象物断面2-2に示すように、導電性ウレタン22は、部材21の内部における一方側(表面側)に形成しても良く、対象物断面2-3に示すように、部材21の内部における他方側(裏面側)に導電性ウレタン22を形成しても良い。さらに、対象物断面2-4に示すように、部材21の内部の一部に導電性ウレタン22を形成しても良い。また、対象物断面2-5に示すように、導電性ウレタン22は、部材21の表面側の外側に分離して配置しても良く、対象物断面2-6に示すように、他方側(裏面側)の外部に配置しても良い。導電性ウレタン22を部材21の外部に配置する場合、導電性ウレタン22と部材21とを積層するのみでもよく、導電性ウレタン22と部材21とを接着等により一体化してもよい。なお、導電性ウレタン22を部材21の外部に配置する場合であっても、導電性ウレタン22が導電性を有するウレタン部材であるため、部材21の柔軟性は阻害されない。
【0031】
図1に示すように、導電性ウレタン22は、距離を隔てて配置された少なくとも2個の検出点75からの信号によって、導電性ウレタン22の電気特性(すなわち、電気抵抗値である体積抵抗値)を検出する。
図1の例では、導電性ウレタン22上で対角位置に配置された2個の検出点75からの信号により電気特性(時系列の電気抵抗値)を検出する検出セット#1が示されている。なお、検出点75の個数及び配置は、
図1に示す位置に限定されるものではなく、導電性ウレタン22の電気特性を検出可能な位置であれば3個以上の個数でもよく何れの位置でもよい。なお、導電性ウレタン22の電気特性は、電気特性(例えば、電気抵抗値である体積抵抗値)を検出する電気特性検出部76を検出点75に接続し、その出力を用いればよい。
【0032】
本実施形態では、センサとして導電性ウレタン22を用いるため、例えば、人物が介在する場合に従来のセンサに比べて人物に与える違和感が極めて少ない。このため、計測中に人物に関する付与側の状態を害することが無く、計測と付与側の状態推定を同時に行うことが可能となる。これは計測と付与側の状態推定を別個に行っていた従来のセンサに比べて利点となり、とりわけ時系列変化を追う長時間の計測評価による推定においては、そのメリットは大きい。
【0033】
推定部5は、対象物2に接続され、導電性ウレタン22の変形及び変質の少なくとも一方に応じて変化する電気特性に基づき、学習モデル51を用いて、付与側の状態を推定する機能部である。具体的には、推定部5には、導電性ウレタン22における電気抵抗の大きさ(電気抵抗値等)を表す時系列の入力データ4が入力される。入力データ4は、対象物2に対する付与側の状態、例えば対象物2に接触した人物の姿勢や動き等の人物の挙動に関する状態を示す状態データ3に対応する。例えば、人物が対象物2に接触する際、姿勢等の所定の状態で接触し、当該状態に対応して、対象物2を構成する導電性ウレタン22には刺激(圧力刺激及び素材刺激の少なくとも一方)が物理量として与えられ、導電性ウレタン22の電気特性が変化する。従って、入力データ4により示される時系列に変化する導電性ウレタン22の電気特性は、対象物2、すなわち、導電性ウレタン22に対する付与側の状態に対応するものとなる。また、推定部5は、学習済みの学習モデル51を用いた推定結果として、時系列に変化する導電性ウレタン22の電気特性に対応する付与側の状態を表す出力データ6を出力する。
【0034】
学習モデル51は、物理量として与えられる刺激(圧力刺激及び素材刺激)により変化する導電性ウレタン22の電気抵抗(入力データ4)から、付与側の状態を表す出力データ6を導出する学習を済ませたモデルである。学習モデル51は、例えば、学習済みのニューラルネットワークを規定するモデルであり、ニューラルネットワークを構成するノード(ニューロン)同士の間の結合の重み(強度)の情報の集合として表現される。
【0035】
<学習処理>
次に、学習モデル51を生成する学習処理について説明する。
図3に、学習モデル51を生成する学習モデル生成装置の概念構成を示す。学習モデル生成装置は、学習処理部52を備えている。学習モデル生成装置は、図示しないCPUを備えたコンピュータを含んで構成可能であり、CPUにより実行される学習データ収集処理及び学習モデル生成処理によって学習処理部52として実行されて学習モデル51を生成する。
【0036】
<学習データ収集処理>
学習処理部52は、学習データ収集処理において、付与側の状態を表す状態データ3をラベルとして導電性ウレタン22における電気特性(例えば電気抵抗値)を時系列に測定した大量の入力データ4を学習データとして収集する。従って、学習データは、電気特性を示す入力データ4と、その入力データ4に対応する付与側の状態を示す状態データ3と、のセットを大量に含む。
【0037】
具体的には、学習データ収集処理では、対象物2における状態(すなわち、導電性ウレタン22に対する付与側の状態)が形成された際の付与側の状態に応じた刺激(圧力刺激及び素材刺激)により変化する電気特性(例えば電気抵抗値)を時系列に取得する。次に、取得した時系列の電気特性(入力データ4)に状態データ3をラベルとして付与し、状態データ3と入力データ4とのセットが予め定めた所定数、又は予め定めた所定時間に達するまで処理を繰り返す。これらの付与側の状態を示す状態データ3と、付与側の状態毎に取得した時系列の導電性ウレタン22の電気特性(入力データ4)とのセットが学習データとなる。なお、学習データにおける状態データ3は、後述する学習処理において推定結果が正解である付与側の状態を示す出力データ6として扱われるように図示しないメモリに記憶される。
【0038】
なお、学習データは、導電性ウレタン22の電気抵抗値(入力データ4)の各々に測定時刻を示す情報を付与することで時系列情報を対応付けてもよい。この場合、付与側の状態として定まる期間について、導電性ウレタン22における時系列な電気抵抗値のセットに測定時刻を示す情報を付与して時系列情報を対応付けてもよい。
【0039】
上述した学習データの一例を次に表で示す。表1は、導電性ウレタン22に対する付与側の状態に関する学習データとして、時系列の電気抵抗値データ(r)と付与側の状態を示す状態データ(R)とを対応付けたデータセットの一例である。
【0040】
【0041】
なお、導電性ウレタン22で検出される電気特性(時系列の電気抵抗値データによる時間特性)は、導電性ウレタン22に対する付与側の状態に関する特徴パターンとして捉えることが可能である。すなわち、導電性ウレタン22に対する付与側の状態によって、導電性ウレタン22に対して異なる刺激が時系列に与えられる。従って、所定の時間内における時系列の電気特性は、付与側の状態に対して特徴的な電気特性として表れると考えられる。よって、導電性ウレタン22で検出される電気特性(時系列の電気抵抗値データによる時間特性)に示されるパターン(例えば電気特性における時系列の電気抵抗値の分布形状)は、付与側の状態に対応し、後述する学習処理において有効に機能する。
【0042】
<学習モデル生成処理>
次に、学習モデル生成処理について説明する。
図3に示す学習モデル生成装置は、学習処理部52における学習モデル生成処理によって、上述した学習データを用いて学習モデル51を生成する。
【0043】
図4は、学習処理部52の機能構成、すなわち学習処理部52で実行される学習モデル生成処理に関して、図示しないCPUの機能構成を示す図である。学習処理部52の図示しないCPUは、生成器54及び演算器56の機能部として動作する。生成器54は、入力である時系列に取得された電気抵抗値の前後関係を考慮して出力を生成する機能を有する。
【0044】
学習処理部52は、学習用データとして、上述した入力データ4(例えば、電気抵抗値)と、導電性ウレタン22に刺激を与えた付与側の状態を示す状態データ3である出力データ6とのセットを図示しないメモリに多数保持している。
【0045】
生成器54は、入力層540、中間層542、および出力層544を含んで、公知のニューラルネットワーク(NN:Neural Network)を構成する。ニューラルネットワーク自体は公知の技術であるため詳細な説明は省略するが、中間層542は、ノード間結合およびフィードバック結合を有するノード群(ニューロン群)を多数含む。その中間層542には、入力層540からのデータが入力され、中間層542の演算結果のデータは、出力層544へ出力される。
【0046】
生成器54は、入力された入力データ4(例えば、電気抵抗値)から付与側の状態を表すデータ又は付与側の状態に近いデータとしての生成出力データ6Aを生成するニューラルネットワークである。生成出力データ6Aは、入力データ4から導電性ウレタン22に刺激が与えられた付与側の状態を推定したデータである。生成器54は、時系列に入力された入力データ4から、付与側の状態に近い状態を示す生成出力データを生成する。生成器54は、多数の入力データ4を用いて学習することで、対象物2すなわち導電性ウレタン22に刺激が与えられた人物等の付与側の状態に近い生成出力データ6Aを生成できるようになる。他の側面では、時系列に入力された入力データ4である電気特性をパターンとして捉え、当該パターンを学習することで、対象物2すなわち導電性ウレタン22に刺激が与えられた人物等の付与側の状態に近い生成出力データ6Aを生成できるようになる。
【0047】
演算器56は、生成出力データ6Aと、学習データの出力データ6とを比較し、その比較結果の誤差を演算する演算器である。学習処理部52は、生成出力データ6A、および学習データの出力データ6を演算器56に入力する。これに応じて、演算器56は、生成出力データ6Aと、学習データの出力データ6との誤差を演算し、その演算結果を示す信号を出力する。
【0048】
学習処理部52は、演算器56で演算された誤差に基づいて、ノード間の結合の重みパラメータをチューニングする、生成器54の学習を行う。具体的には、生成器54における入力層540と中間層542とのノード間の結合の重みパラメータ、中間層542内のノード間の結合の重みパラメータ、および中間層542と出力層544とのノード間の結合の重みパラメータの各々を例えば勾配降下法や誤差逆伝搬法等の手法を用いて、生成器54にフィードバックする。すなわち、学習データの出力データ6を目標として、生成出力データ6Aと学習データの出力データ6との誤差を最小化するように全てのノード間の結合を最適化する。
【0049】
なお、生成器54は、時系列入力の前後関係を考慮して出力を生成する機能を有する再帰型ニューラルネットワークを用いてもよく、他の手法を用いてもよい。
【0050】
学習処理部52は、学習モデル生成処理によって、上述した学習データを用いて学習モデル51を生成する。学習モデル51は、学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合として表現され、図示しないメモリに記憶される。
【0051】
具体的には、学習処理部52は、次の手順により学習モデル生成処理を実行する。第1学習処理では、時系列に測定した結果の学習データである、付与側の状態を示す情報をラベルとした入力データ4(電気特性)を取得する。第2学習処理では、時系列に測定した結果の学習データを用いて学習モデル51を生成する。すなわち、上記のようにして多数の学習データを用いて学習した学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合を得る。そして、第3学習処理では、学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合として表現されるデータを学習モデル51として記憶する。
【0052】
そして、上記推定装置1では、学習済みの生成器54(すなわち、学習結果のノード間の結合の重みパラメータの情報の集合として表現されるデータ)を学習モデル51として用いる。十分に学習した学習モデル51を用いれば、対象物2、すなわち導電性ウレタン22の時系列の電気特性(例えば、時系列に変化する電気抵抗値の特性)から付与側の状態を同定することも不可能ではない。
【0053】
<PRC>
ところで、導電性ウレタン22は、上述したように電気経路が複雑に連携し、電気経路の伸縮、膨縮、一時的な切断、及び新たな接続等の変化(変形)、並びに素材の性質の変化(変質)に応じた挙動を示す。結果的に、導電性ウレタン22は、与えられた刺激(例えば圧力刺激)に応じて異なる電気特性を有する挙動を示す。このことは、導電性ウレタン22を、導電性ウレタン22の変形に関するデータを貯留するリザーバとして扱うことが可能である。すなわち、推定装置1は、物理的なリザーバコンピューティング(PRC:Physical Reservoir Computing)と呼ばれるネットワークモデル(以下、PRCNという。)に、導電性ウレタン22を適用することが可能である。PRCおよびPRCN自体は公知の技術であるため、詳細な説明を省略するが、PRC、及びPRCNは、導電性ウレタン22の変形や変質に関する情報の推定に好適である。
【0054】
図5に、PRCNを適用した学習処理部52の機能構成の一例を示す。PRCNを適用した学習処理部52は、入力リザバ層541と、推定層545とを含む。入力リザバ層541は、対象物2に含まれる導電性ウレタン22が対応する。すなわち、PRCNを適用した学習処理部52では、導電性ウレタン22を含む対象物2を、導電性ウレタン22を含む対象物2の変形及び変質に関するデータを貯留するリザーバとして扱って学習する。導電性ウレタン22は、多様な刺激の各々に応じた電気特性(電気抵抗値)となり、電気抵抗値を入力する入力層として機能し、また、導電性ウレタン22の変形及び変質に関するデータを貯留するリザーバ層として機能する。導電性ウレタン22は、人物等の付与側の状態により与えられた刺激に応じて異なる電気特性(入力データ4)を出力するので、推定層545で、与えられた導電性ウレタン22の電気抵抗値から未知の付与側の状態を推定することが可能である。従って、PRCNを適用した学習処理部52における学習処理では、推定層545を学習すればよい。
【0055】
<推定装置の構成>
次に、上述した推定装置1の具体的な構成の一例についてさらに説明する。
図6に、推定装置1の電気的な構成の一例を示す。
図6に示す推定装置1は、上述した各種機能を実現する処理を実行する実行装置としてのコンピュータを含んで構成したものである。上述の推定装置1は、コンピュータに上述の各機能を表すプログラムを実行させることにより実現可能である。
【0056】
推定装置1として機能するコンピュータは、コンピュータ本体100を備えている。コンピュータ本体100は、CPU102、揮発性メモリ等のRAM104、ROM106、ハードディスク装置(HDD)等の補助記憶装置108、及び入出力インターフェース(I/O)110を備えている。これらのCPU102、RAM104、ROM106、補助記憶装置108、及び入出力I/O110は、相互にデータ及びコマンドを授受可能にバス112を介して接続された構成である。また、入出力I/O110には、外部装置と通信するための通信部114、ディスプレイやキーボード等の操作表示部116、及び検出部118が接続されている。検出部118は、導電性ウレタン22を含む対象物2から、入力データ4(時系列の電気抵抗値等の電気特性)を取得する機能する。すなわち、検出部118は、導電性ウレタン22が配置された対象物2を含み、かつ導電性ウレタン22における検出点75に接続された電気特性検出部76から入力データ4を取得することが可能である。なお検出部118は通信部114を介して接続してもよい。
【0057】
補助記憶装置108には、コンピュータ本体100を本開示の推定装置の一例として推定装置1として機能させるための制御プログラム108Pが記憶される。CPU102は、制御プログラム108Pを補助記憶装置108から読み出してRAM104に展開して処理を実行する。これにより、制御プログラム108Pを実行したコンピュータ本体100は、推定装置1として動作する。
【0058】
なお、補助記憶装置108には、学習モデル51を含む学習モデル108M、及び各種データを含むデータ108Dが記憶される。制御プログラム108Pは、CD-ROM等の記録媒体により提供するようにしても良い。
【0059】
<推定処理>
次に、コンピュータにより実現された推定装置1における推定処理についてさらに説明する。
図7に、コンピュータ本体100で実行される制御プログラム108Pによる推定処理の流れの一例を示す。
図7に示す推定処理は、コンピュータ本体100に電源投入されると、CPU102により実行される。CPU102は、制御プログラム108Pを補助記憶装置108から読み出し、RAM104に展開して処理を実行する。
【0060】
まず、CPU102は、補助記憶装置108の学習モデル108Mから学習モデル51を読み出し、RAM104に展開することで、学習モデル51を取得する(ステップS200)。具体的には、学習モデル51として表現された重みパラメータによるノード間の結合となるネットワークモデル(
図4、
図5参照)を、RAM104に展開することによって、重みパラメータによるノード間の結合が実現された学習モデル51が構築される。
【0061】
次に、CPU102は、導電性ウレタン22に与えられた刺激による付与側の状態を推定する対象となる未知の入力データ4(電気特性)を、検出部118を介して時系列に取得する(ステップS202)。次に、CPU102は、学習モデル51を用いて、取得済みの入力データ4に対応する出力データ6(未知の付与側の状態)を推定する(ステップS204)。そして、CPU102は、推定結果の出力データ6(付与側の状態)を、通信部114を介して出力し(ステップS206)、本処理ルーチンを終了する。
【0062】
このように、推定装置1によれば、導電性ウレタン22の電気抵抗値から未知の付与側の状態を推定可能である。具体的には、推定装置1では、付与側の状態により導電性ウレタン22に与えられた刺激に応じて変化する入力データ4(電気特性)から、人物等の付与側の状態を推定することが可能となる。すなわち、特殊な装置や大型の装置を用いたり柔軟部材の変形を直接計測することなく、人物等の付与側の状態を推定することが可能となる。
【0063】
ところで、少なくとも一部が撓み等のように変形可能な柔軟材料は、変形回数及び経時変化等によって柔らかさや硬度(柔軟性・反発力・復元力)が劣化する。なお、変形回数は、変形頻度でもよく、変形回数と変形頻度とを組み合わせてもよい。変形頻度は、変形回数と等価に適用してもよく、単位時間当たりの変形回数を適用してもよい。以降では、変形回数、及び単位時間当たりの変形回数を総称して変形頻度と称して説明する。上述した導電性ウレタン22は、時系列の電気特性に付与側の状態に関する特徴が電気特性として表れる。よって、導電性ウレタン22で検出される電気特性(時系列の電気抵抗値データによる時間特性)に示されるパターン(例えば電気特性における時系列の電気抵抗値の分布形状)に、変形頻度及び経時変化等によって生じる柔軟性の劣化状態を示す特徴が表れる。そこで、本実施形態では、上述した導電性ウレタン22を含む推定装置1によって、変形可能な柔軟材料の劣化を推定する。
【0064】
なお、以降では、説明を簡単にするため、対象物2に非導電性でかつ変形可能な柔軟材料を部材21として含み、部材21の裏面側に導電性ウレタン22を配置する一例を説明する(
図2の対象物断面2-5)。また、以降の説明では、柔らかさ(柔軟性)が徐々に硬くなる劣化の場合を説明する。しかし、柔らかさが徐々に柔らかくなる劣化の場合にも同様に本開示の技術が適用可能であることは勿論である。すなわち、柔らかさ(柔軟性)が徐々に硬くなる劣化は、変形可能な柔軟材料、例えばウレタンにおける発泡体の中の気泡が潰れて元の形状に復帰しないことによって硬くなる現象が一例として挙げられる。一方、ウレタンなどの変形可能な柔軟材料で、例えば、硬度が下がっていく状態(柔軟材料を構成する骨格が徐々に柔らかくなって反発力が低下する状態)にも適用可能である。
【0065】
本実施形態では「劣化」及び「劣化状態」とは、圧力刺激が与えられた際における柔軟材料の変形及び変形からの復元に関して、所定時期、例えば柔軟材料の形成当初から、柔らかさが変化した状態を含む概念である。具体的には、例えば、柔軟材料の構造及び形状の側面で、変形後の構造及び形状が変形前の構造及び形状に復元する復元力が柔軟材料の製造当初より変化(増加又は減少)する状態、変形時に付与可能な圧力が柔軟材料の製造当初の圧力から変化(増加または減少)する状態を含む。
【0066】
<劣化状態推定装置>
次に、導電性ウレタン22を含む対象物2の劣化状態を推定する劣化状態推定装置の一例を説明する。
【0067】
図8に、本実施形態に係る劣化状態推定装置としての推定装置1Aの構成の一例を示す。
図8に示す推定装置1Aは、
図1に示す推定部5に代えて、劣化状態推定部10を備えている。
【0068】
劣化状態推定装置1Aにおける推定処理は、学習済みの学習モデル51を用いて、未知の物品(推定対象物)の劣化状態を推定し、出力する。学習モデル51は、導電性ウレタン22の電気特性及び導電性ウレタン22を含む対象物2の劣化状態を含む学習データによって学習される。
【0069】
次に、本実施形態に係る学習モデル51を生成する学習処理について説明する。対象物2の劣化状態を示す劣化状態情報(状態データ3)をラベルとする導電性ウレタン22の電気特性(入力データ4)を学習データとして学習を行う。
【0070】
まず、学習処理に用いる学習データについて説明する。
図9に、対象物2における物理量を測定する測定装置8の一例を示す。測定装置8は圧力刺激を繰り返し与えることで、対象物2の耐久試験装置としても機能する(詳細は後述)。
【0071】
測定装置8は、基台81に固定された固定部82に、対象物2に圧力刺激を与えるための圧力付与部83が取り付けられる。圧力付与部83は、圧力付与本体83A、当該圧力付与本体83Aから伸縮可能なアーム83B、及びアーム83Bの先端に取り付けられた先端部83Cを備えている。圧力付与本体83Aは固定部82に固定され、入力信号に応じてアーム83Bが伸縮されて、先端部83Cが所定方向(矢印Z方向及び逆方向)に移動される。これによって、押圧部材84は基台81に設置される対象物2に接触したり、接触後に押圧したり、対象物2から離間したりすることが可能となる。
【0072】
対象物2は、基台81上に導電性ウレタン22が配置され、導電性ウレタン22上にウレタンなどの柔軟性を有する部材21が配置される。圧力付与部83の先端部83Cには、所定形状の押圧部材84が取り付けられる。対象物2は、圧力付与部83の先端部83Cに取り付けられた押圧部材84が、少なくとも接触可能に配置される。なお、本実施形態では、所定形状の押圧部材84の一例として、先端が曲面形状(例えば球体の一部)の押圧部材84を用いる。押圧部材84は、対象物2に対して所定の圧力により圧力刺激を与える部材である。なお、押圧部材84の形状は断面形状として四角形、台形、円形、楕円形、又は多角形の何れの形状でもよく、その他の形状でもよい。
【0073】
圧力付与部83は、アーム83Bが伸長することによって、先端部83Cが押圧部材84を対象物2に押圧するように作動する。
【0074】
圧力付与本体83Aは、例えば6軸方向の力を検出する機能を有するフォースセンサ85を備える。フォースセンサ85は、検出した力から、対象物2に対する押圧部材84の押圧状態を検出する機能、及び対象物2に付与される圧力を検出する機能を有する。このフォースセンサ85によって、押圧部材84の対象物2への押圧状態における物理量を時系列に検出可能であり、対象物2に付与される圧力を時系列に検出可能である。なお、劣化状態のみを試験する場合はフォースセンサ85は省略可能である。
【0075】
測定装置8は、圧力付与部83、及びフォースセンサ85に接続されたコントローラ80を備えている。コントローラ80は、図示しないCPUを備え、図示しないCPUにより圧力付与部83の制御を行い、対象物2に対して圧力刺激を与え、対象物2への圧力刺激による時系列の電気特性を取得し、記憶する。
【0076】
本実施形態では、コントローラ80は、アーム83Bを伸縮する往復運動を行って、対象物2に対して圧力刺激の付与及び解除を行うように圧力付与部83の制御を行う。また、コントローラ80は、対象物2に対する圧力刺激の付与及び解除に同期して、導電性ウレタン22における電気特性を取得する。従って、測定装置8は、学習データの1つとして、断続的(例えば周期的)に変形を与えた対象物2の変形に関する電気特性を時系列に取得可能となる。
【0077】
次に、対象物2の劣化状態について説明する。
対象物2では、変形の頻度及び経時変化の少なくとも一方によって、柔らかさが劣化する。例えば、変形の頻度が増加するに従って柔らかさが劣化したり、対象物2の放置時間等の経過時間が増加するに従って柔らかさが劣化したりする。また、変形の頻度及び経過時間のそれぞれが増加するに従って柔らかさが劣化する場合もある。対象物の劣化を示す劣化状態は、対象物2の構造及び形状等の幾何学的な側面では、圧力刺激が与えられて変形してから圧力刺激が与えられる前の構造等に復元するまでの時間、及び元の構造等と復元後の構造等との構造相違の度合いが想定される。また、対象物2に生じる力学的な側面では、圧力刺激が与えられて変形する際の対象物2の反発力、及び圧力刺激が解除されて変形が復元する際の対象物2の復元力が相違する度合いが想定される。しかし、柔軟性を有する対象物2では、幾何学的な側面及び力学的な側面の両者は密接に関係するため、本実施形態では、両者を区別することなく、対象物2の劣化状態として扱う。
【0078】
なお、変形の頻度については、同じ大きさの試料(対象物2)を複数用意し、同じ環境下で、予め定めた時間内に、各々の試料に各々異なる回数の変形を与えて、変形状態を測定したところ、変形回数が多い程、すなわち予め定めた時間内の変形頻度が多い程、劣化の度合いが大きいことを確認した。また、経過時間については、試料(対象物2)を用意し、同じ環境下で、予め定めた時間毎に変形状態を測定したところ、時間の経過が長くなる程、すなわち経過時間が長くなる程、劣化の度合いが大きいことを確認した。
【0079】
図10に、上述した測定装置8を用いて対象物2の耐久試験を行った結果の一例を概念図として示す。
図10は、対象物2に対する圧力刺激の付与及び解除を連続して繰り返した場合に時系列に変化する電気特性(電気抵抗値の変化特性)の概念を一例として示す。
【0080】
図10に示すように、対象物2の電気特性は、測定初期は、圧力刺激の付与時の電気抵抗値Ed及び解除し復元時の電気抵抗値Euの間で変動する。そして、対象物2の電気特性は、繰り返し回数が増加する(測定の時間tが長くなる)に従って測定初期から徐々に電気抵抗値が低下する傾向となって現れる。そこで、本実施形態では、電気抵抗値が低下する傾向を定量化して劣化度とする。すなわち、劣化度は、電気抵抗値が低下する傾向の度合いを示す。劣化度は、電気特性に含まれる特徴に応じて定めることが可能である。
【0081】
第1の特徴は、対象物2の劣化状態が対象物2の電気特性(
図10)において徐々に低下する抵抗値に表れることである。例えば、圧力刺激の付与時の電気抵抗値に関する特性は、曲線Edxとなる。曲線Edxにおける電気抵抗値をベース抵抗値として、このベース抵抗値を劣化度とする。なお、第1の特徴を適用する劣化度は、ベース抵抗値をそのまま用いてもよく、対象物2の測定初期または対象物2の形成当初の電気抵抗値からの差及び比率を劣化度として適用してもよい。また、対象物2の劣化度はユーザに直感的なメッセージに対応付けてもよい。例えば、劣化状態の判定のための電気抵抗値の閾値Ethを予め定めておき、閾値Eth未満の場合は未劣化の状態、閾値Eth以上の場合は劣化した状態と設定してもよい。閾値Ethは、対象物2の測定初期の形状及び測定初期の柔らかさ等のように対象物2に個別の幾何学的な種類または力学的な種類による規定に応じて予め実験等によって定めることが可能である。なお、上記では、閾値Ethを境界として状態を定めたが、閾値は1つに限定されるものではなく、複数定めて、段階的に劣化状態を定めてもよい。なお、劣化度は、初期のベース抵抗値や電気抵抗値に対する現在の値により示される変化量を、劣化判定のための劣化指標として用いてもよい。
【0082】
第2の特徴は、対象物2の劣化状態が、圧力刺激の付与及び解除の1サイクルの電気特性又は所定サイクルの電気特性に表れることである。具体的には、対象物2の劣化状態が圧力刺激の付与及び解除の電気特性において電気抵抗値の変化に表れることである。
【0083】
図11に、上述した試験結果による対象物2の電気特性の一例を示す。
図11では、測定初期に圧力刺激の付与及び解除を所定数繰り返した際における対象物2の電気特性の一例を電気特性41として示している。また、電気特性42には、測定初期から連続して圧力刺激の付与及び解除を繰り返すことを継続して行い、予め定めた圧力刺激の付与及び解除(変形の頻度の増加)を行った後の経過時期における対象物2の電気特性を示す。
図11では、同一周期で、測定初期及び経過時期に2回の圧力刺激を付与した時期をP1とP2で示している。
図11に示すように、対象物2の電気特性は、測定初期と経過時期とでは異なる特性になっている。なお、
図11では所定の変形の頻度を増加させた場合の経過時期としたが、経過時期は圧力刺激の付与及び解除を実行せずに、放置した時間であってもよい。また、経過時期は、圧力刺激の付与及び解除を継続的に繰り返しもよく、断続的に繰り返すことを含み、継続的又は断続的に変形の頻度を増加させ、かつ当該増加後の所定時間経過後でもよい。
【0084】
図12に、
図11に示す対象物2の電気特性について、電気抵抗値の変化の観点から対象物2の電気特性を捉えた概念図を示す。
図12では、測定した電気抵抗値と電気抵抗値の平均値との比率に関する電気特性の概念を時間特性として示す。なお、
図12は、押圧部材84として接触部分が略平面の平板型の押圧部材84を用いて計測した電気特性を示す。測定初期の時間特性は、特性43として実線で示し、経過時期の時間特性は、特性44として点線で示す。また、
図12では、対象物に与えた圧力刺激の圧力特性を特性45として示している。なお、
図12では、対象物2に対して圧力刺激を最大値で与えた時期(圧力刺激を解除する直前)をP1a,P2aで示している。
【0085】
図12に示すように、電気抵抗値の変化の観点では、対象物2の電気特性は、圧力刺激を付与した時期と解除した時期とでは異なる特性になっている。具体的には、圧力刺激を付与した時期における電気抵抗値の変化傾向(例えば変化率)は、測定初期の傾向Waと経過時期の傾向Wbとの差は微小である。それに対して、解除した時期における電気抵抗値の変化傾向(例えば変化率)は、測定初期の傾向Wcと経過時期の傾向Wdとの差が大きくなる傾向である。また、経過時期では、測定初期に圧力刺激を付与した時期における差に比べて、大きくなる傾向になっている(
図12で実線と点線との間隔が離れている)。
【0086】
従って、第2の特徴では、対象物2の劣化状態として、圧力刺激の付与及び解除の電気特性における電気抵抗値の変化を適用する。具体的には、例えば、電気抵抗値の変化傾向(例えば変化率)、または電気抵抗値の変化の最小値の差を劣化傾向を示す劣化度とする。なお、上述したように、第2の特徴を適用する劣化度は、第1の特徴を適用する劣化度と同様に、ユーザに直感的なメッセージに対応付けてもよいし、劣化状態の判定のための閾値を予め定め、閾値に対して未劣化の状態または劣化した状態と設定してもよい。また、劣化度は、初期の値に対する現在の値により示される変化量を、劣化判定のための劣化指標として用いてもよい。
【0087】
第2の特徴を適用する劣化度は、第1の特徴を適用する劣化度と比べて、電気特性の絶対値の変動に影響されることを抑制でき、対象物2の劣化状態を特定可能となる。
【0088】
第3の特徴は、対象物2の劣化状態が、対象物2の電気特性の周波数の変化、すなわち、対象物2で検出される時系列の電気抵抗値の時間特性の周波数の変化に表れることである。
【0089】
図13に、対象物2の電気特性における周波数特性(パワースペクトル)の一例を概念図として示す。
図13では、測定初期に圧力刺激の付与及び解除を所定数繰り返した際における対象物2の電気特性41(例えば
図12)のパワースペクトルの概念の一例を特性46として示す。また、測定初期から連続して圧力刺激の付与及び解除を繰り返すことを継続して行い、予め定めた圧力刺激の付与及び解除(変形の頻度の増加)を行った後の経過時期における対象物2の電気特性42(例えば
図12)のパワースペクトルを特性42として示す。
【0090】
図13に示すように、対象物2の柔軟性は、変形頻度及び時間経過の少なくとも一方の物理量が大きくなるに従って(例えば、変形回数が増加又は時間経過が長くなるに従って)、劣化し、以前の柔軟性から変化する現象が高周波数成分に現れる。すなわち、変形の頻度が増加するに従って高周波数成分が変化したり、対象物2の放置時間等の経過時間が増加するに従って高周波数成分が変化したりする。また、変形の頻度及び経過時間のそれぞれが増加するに従って高周波数成分が変化する場合もある。
図13に示す例では、変形頻度の増加に伴う時間経過の長期化で高周波成分が徐々に減少し、柔軟性が徐々に柔らかくなる劣化が進むことが示されている。なお、
図13では所定の変形の頻度の増加に伴う経過時期としたが、経過時期は放置時間であってもよく、変形を継続的に繰り返してもよく、断続的に繰り返すことを含み、継続的又は断続的に変形の頻度を増加させ、かつ当該増加後の所定時間経過後でもよい。
【0091】
具体的には、電気特性の周波数特性(パワースペクトル)において、第1の周波数f1と、第1の周波数f1より高周波側の第2の周波数f2とのパワーの差Psを考える。測定初期(特性46)におけるパワーの差Ps1より、経過時期(特性47)におけるパワーの差Ps2が大きくなる傾向である。
【0092】
従って、第3の特徴では、対象物2の劣化状態として、対象物2の電気特性における周波数の変化を適用する。具体的には、例えば、電気抵抗値における周波数の変化傾向(例えば、変化量又は変化率)を劣化傾向を示す劣化度とする。なお、上述したように、第3の特徴を適用する劣化度は、ユーザに直感的なメッセージに対応付けてもよいし、劣化状態の判定のための閾値を予め定め、閾値に対して未劣化の状態または劣化した状態と設定してもよい。また、劣化度は、初期の値に対する現在の値により示される変化量を、劣化判定のための劣化指標として用いてもよい。
【0093】
第3の特徴を適用する劣化度は、第1の特徴又は第2の特徴を適用する劣化度と比べて、電気特性の絶対値の変動、及び電気特性の相対的な変動に影響されることを抑制でき、より高精度に対象物2の劣化状態を特定可能となる。
【0094】
上述した劣化度によって、対象物2の劣化状態を示す劣化状態情報(状態データ3)を設定することが可能となる。従って、対象物2の電気特性に示される上述した特徴を導出することで、もう1つの学習データとして、対象物2の変形に関する時系列の電気特性に対する対象物2の劣化状態を対応付けることが可能となる。
【0095】
従って、対象物2(すなわち、導電性ウレタン22)における時系列の電気特性と、電気特性に対する対象物2の劣化状態との各々を示す情報によるセットが学習データとなる。当該学習データの一例を次に表で示す。表2は、導電性ウレタン22を含む対象物2の劣化状態に関する学習データとして、時系列の電気抵抗値データ(r)と劣化状態を示す状態データ(R)とを対応付けたデータセットの一例である。
【0096】
【0097】
表2は、上述した表1における状態データ(R)を、劣化状態に対応させて詳細にしたものである。状態データ(R)は、上述した電気特性に表れる特徴の何れかを対応させればよい。例えば、第1の特徴を適用する劣化度(E)を適用すればよい。第1の特徴を適用する劣化度には、ベース抵抗値、初期電気抵抗値からの差又は比率、劣化度を示すメッセージ、及びこれらの劣化度から導出される劣化指標が挙げられる。第2の特徴では、電気特性における電気抵抗値の変化、例えば、電気抵抗値の変化率等の変化傾向(W)を、劣化傾向を示す劣化度として適用すればよい。第3の特徴を適用する劣化度では、電気特性における周波数の変化、例えば、電気抵抗値における変化量又は変化率等の周波数の変化傾向(F)を劣化傾向を示す劣化度とすればよい。従って、対象物2(導電性ウレタン22)の時系列の電気特性には、対象物2の劣化状態が特徴的に表れるので、学習処理において有効に機能する。
【0098】
次に、本実施形態にかかる対象物2の劣化状態に関する学習モデル51を生成する学習処理を説明する。
【0099】
図14に、学習処理部52において実行される学習処理の流れの一例を示す。学習処理は、上述した学習処理部52における図示しないCPUの処理によって行われる。
【0100】
ステップS110では、対象物2の電気特性(入力データ4)を取得する。次のステップS111では、まず、対象物2の電気特性(入力データ4)を解析し、上述した特徴を表す劣化度を導出することで、対象物2の劣化状態を示す状態データ3を取得する。このステップS111では、対象物2の電気特性である入力データ4と、解析結果の対象物2の劣化状態を示す状態データ3とを対応付け、状態データ3(劣化度)をラベルとした入力データ4(電気抵抗)のセットを学習データとして取得する。次に、ステップS112では、取得した学習データを用いて学習モデル51を生成する。すなわち、上記のようにして多数の学習データを用いて学習した学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合を得る。そして、ステップS114で、学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合として表現されるデータを学習モデル51として記憶する。
【0101】
次に、本実施形態にかかる学習モデル51を用いた対象物2における劣化状態の推定処理について説明する。
【0102】
上述したように、劣化状態推定装置1Aでは、以上に例示した手法により生成した学習済みの学習モデル51を用いることで、十分に学習した学習モデル51を用いれば、対象物2における電気特性から、対象物2の劣化を同定することも不可能ではない。
なお、対象物の劣化状態推定装置1は、本開示の推定部および推定装置の一例である。
【0103】
図15に、コンピュータ本体100で実行される制御プログラム108Pによる対象物2における劣化状態の推定処理の流れの一例を示す。
図15に示す推定処理は、コンピュータ本体100に電源投入されると、CPU102により実行される。
【0104】
まず、ステップS201では、補助記憶装置108の学習モデル108Mから上述した劣化状態推定用に学習済みの学習モデル51を読み出し、RAM104に展開することで、学習モデル51を取得して学習モデル51を構築する。
【0105】
次に、ステップS203で、未知の対象物2(推定対象物)における時系列の入力データ4(電気特性)を、検出部118を介して取得する。
【0106】
次に、ステップS205では、ステップS201で取得した学習モデル51を用いて、ステップS203において取得した入力データ4(電気特性)に対応する出力データ6(推定対象物の劣化状態)を推定する。そして、次のステップS207では、推定結果の出力データ6(推定対象物の劣化状態)を、通信部114を介して出力して、本処理ルーチンを終了する。
【0107】
なお、ステップS207では、交換時期を報知する等の支援情報を出力することも可能である。例えば、上述したユーザに直感的なメッセージを劣化度として通信部114又は操作表示部116へ出力してもよい。具体的には、劣化状態の判定のための閾値未満の場合は未劣化の状態、閾値以上の場合は交換が好ましい劣化した状態の何れかを示すメッセージを情報として出力してもよい。このように支援情報を出力することで、ユーザは、対象物2について、予め定められた劣化状態となる適切な時期に交換を行うことが可能となる。
【0108】
上述した
図15に示す推定処理は、本開示の推定方法で実行される処理の一例である。
【0109】
以上説明したように、本開示によれば、劣化状態が未知の推定対象物における電気特性から、推定対象物の劣化状態を推定することが可能となる。すなわち、特殊な検出装置を用いることなく、対象物2の変形時における電気特性を利用して、推定対象物の劣化状態を推定することが可能となる。
【0110】
また、推定対象物における劣化状態の推定結果を出力することによって、対象物2に含まれるセンサとして機能する導電性ウレタン22における柔軟性を含めて劣化状態が推定される。これによって、対象物2の形成初期におけるセンサとしての機能が劣化した場合であっても予め定められた劣化状態となる適切な時期に交換を行うことが可能となる。
【0111】
<変形例>
上述した劣化状態推定部10は、上記電気特性に含まれる特徴に対応して機能別に構成することが可能である。
【0112】
図16に、劣化状態推定部10の構成の変形例を示す。劣化状態推定部10は、劣化状態分析部、比較判定部、及び閾値記憶部とを含む。
【0113】
劣化状態分析部は、導電性ウレタン22の変形に応じて変化する時系列の電気特性(入力データ4)を用いて、導電性ウレタン22を含む対象物2の劣化状態を分析する機能部である。劣化状態分析部は、上述した第1の特徴から第3の特徴の何れかとして、電気特性に含まれる特徴により示される劣化度を導出する。比較判定部は、劣化状態の判定用の閾値を記憶した閾値記憶部に接続され、分析結果の劣化状態と劣化状態の判定用閾値とを比較し、比較結果を劣化度として出力する機能部である。閾値記憶部は、例えば、ユーザに直感的なメッセージに対応付ける等のように劣化状態の判定のための閾値を、ROM106又は補助記憶装置108に記憶すればよい。また、比較判定部は、例えば、劣化状態の判定のための閾値を用いて、導出された劣化度が閾値未満の場合は未劣化の状態、閾値以上の場合は劣化した状態と判定すればよい。このように、劣化状態推定部10を電気特性に含まれる特徴に対応して機能別に構成することで、独立した装置構成及び電気回路構成等のハードウェア構成に容易に適用することができる。
【0114】
本開示では、柔軟部材の一例として導電性ウレタンを適用した場合を説明したが、柔軟部材は柔軟性を有すればよく、上述した導電性ウレタンに限定されないことは勿論である。
【0115】
また、本開示の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれる。
【0116】
また、上記実施形態では、推定処理及び学習処理を、フローチャートを用いた処理によるソフトウエア構成によって実現した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば各処理をハードウェア構成により実現する形態としてもよい。
【0117】
また、推定装置の一部、例えば学習モデル等のニューラルネットワークを、ハードウェア回路として構成してもよい。
【符号の説明】
【0118】
1 推定装置
2 対象物
3 状態データ
4 入力データ
5 推定部
6 出力データ
6A 生成出力データ
21 部材
22 導電性ウレタン
51 学習モデル
52 学習処理部
54 生成器
56 演算器
75 検出点
76 電気特性検出部